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特許7462109イオントラップ型量子コンピュータのための振幅、周波数、および位相変調されたもつれゲート
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】イオントラップ型量子コンピュータのための振幅、周波数、および位相変調されたもつれゲート
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/40 20220101AFI20240328BHJP
【FI】
G06N10/40
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023511864
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-13
(86)【国際出願番号】 US2021047924
(87)【国際公開番号】W WO2022047142
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】63/071,924
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/458,109
(32)【優先日】2021-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520132894
【氏名又は名称】イオンキュー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ブルーメル レインホールド
(72)【発明者】
【氏名】グルゼシアク ニコデム
(72)【発明者】
【氏名】ナム ユンソン
【審査官】円子 英紀
(56)【参考文献】
【文献】Reinhold Blumel,外2名,"Power-optimal, stabilized entangling gate between trapped-ion qubits",arXiv [online],2019年05月22日,インターネット<URL: https://arxiv.org/abs/1905.09292 >,[令和6年2月26日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 10/00-10/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子コンピュータを使用して計算を実行する方法であって、
レーザパルスの離調周波数関数および振幅関数を計算して、複数のトラップイオンのうちの1ペアのトラップイオン間でもつれ相互作用を引き起こすステップであって、前記複数のトラップイオンの各々が、キュービットを定義する2つの周波数分離状態を有する、ステップと、
前記レーザパルスの計算された前記離調周波数関数をスプラインするステップと、
スプラインされた前記離調周波数関数に基づいて、前記レーザパルスの計算された前記振幅関数を修正するステップと、
スプラインされた前記離調周波数関数および修正された前記振幅関数を有する修正されたレーザパルスを、前記1ペアのトラップイオンの各トラップイオンに適用するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記レーザパルスの前記離調周波数関数および前記振幅関数の計算が、トラップイオンをそれらの元の位置および運動量値に戻すための条件、ならびにゼロ以外のもつれ相互作用の条件に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レーザパルスの前記離調周波数関数および前記振幅関数の計算が、安定化の条件にさらに基づく、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記レーザパルスの前記離調周波数関数および前記振幅関数の計算が、出力最小化の条件にさらに基づく、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
スプラインされた前記離調周波数関数および修正された前記振幅関数を有する修正された前記レーザパルスが、トラップイオンをそれらの元の位置および運動量値に戻すための条件、ならびにゼロ以外のもつれ相互作用の条件を満たすように、前記レーザパルスの計算された前記振幅関数が修正される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
修正された前記レーザパルスが、安定化の条件をさらに満たすように、計算された前記振幅関数が修正される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
修正された前記レーザパルスが、出力最小化の条件をさらに満たすように、計算された前記振幅関数が修正される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
プロセッサによって実行されると、前記プロセッサに、
レーザパルスの離調周波数関数および振幅関数を計算して、複数のトラップイオンのうちの1ペアのトラップイオン間でもつれ相互作用を引き起こすステップであって、前記複数のトラップイオンの各々が、キュービットを定義する2つの周波数分離状態を有する、ステップと、
前記レーザパルスの計算された前記離調周波数関数をスプラインするステップと、
スプラインされた前記離調周波数関数に基づいて、前記レーザパルスの計算された前記振幅関数を修正するステップと、
スプラインされた前記離調周波数関数および修正された前記振幅関数を有する修正されたレーザパルスを、前記1ペアのトラップイオンの各イオンに適用するステップと
を実行させるコンピュータプログラム命令を含む、非一時的なコンピュータ可読媒体。
【請求項9】
前記レーザパルスの前記離調周波数関数および前記振幅関数の計算が、トラップイオンをそれらの元の位置および運動量値に戻すための条件、ならびにゼロ以外のもつれ相互作用の条件に基づく、請求項8に記載の非一時的なコンピュータ可読媒体。
【請求項10】
前記レーザパルスの前記離調周波数関数および前記振幅関数の計算が、安定化の条件にさらに基づく、請求項9に記載の非一時的なコンピュータ可読媒体。
【請求項11】
前記レーザパルスの前記離調周波数関数および前記振幅関数の計算が、出力最小化の条件にさらに基づく、請求項9に記載の非一時的なコンピュータ可読媒体。
【請求項12】
スプラインされた前記離調周波数関数および修正された前記振幅関数を有する修正された前記レーザパルスが、トラップイオンをそれらの元の位置および運動量値に戻すための条件、ならびにゼロ以外のもつれ相互作用の条件を満たすように、前記レーザパルスの計算された前記振幅関数が修正される、請求項9に記載の非一時的なコンピュータ可読媒体。
【請求項13】
修正された前記レーザパルスが、安定化の条件をさらに満たすように、計算された前記振幅関数が修正される、請求項12に記載の非一時的なコンピュータ可読媒体。
【請求項14】
修正された前記レーザパルスが、出力最小化の条件をさらに満たすように、計算された前記振幅関数が修正される、請求項12に記載の非一時的なコンピュータ可読媒体。
【請求項15】
複数のトラップイオンであって、前記複数のトラップイオンの各々が、キュービットを定義する2つの超微細状態を有する、複数のトラップイオンと、
内部に記憶された、いくつかの命令を有する不揮発性メモリを備えるコントローラと
を備える、量子コンピューティングシステムであって、前記命令が、プロセッサによって実行されると、前記量子コンピューティングシステムに、
レーザパルスの離調周波数関数および振幅関数を計算して、複数のトラップイオンのうちの1ペアのトラップイオン間でもつれ相互作用を引き起こすステップと、
前記レーザパルスの計算された前記離調周波数関数をスプラインするステップと、
スプラインされた前記離調周波数関数に基づいて、前記レーザパルスの計算された前記振幅関数を修正するステップと、
スプラインされた前記離調周波数関数および修正された前記振幅関数を有する修正されたレーザパルスを、前記1ペアのトラップイオンの各イオンに適用するステップと
を含む操作を実行させる、量子コンピューティングシステム。
【請求項16】
前記トラップイオンの各々は、核スピンおよび電子スピンを有するイオンであり、前記核スピンと前記電子スピンとの差がゼロであるようになっている、請求項15に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項17】
前記レーザパルスの前記離調周波数関数および前記振幅関数の計算が、トラップイオンをそれらの元の位置および運動量値に戻すための条件、ならびにゼロ以外のもつれ相互作用の条件に基づく、請求項15に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項18】
前記レーザパルスの前記離調周波数関数および前記振幅関数の計算が、安定化の条件にさらに基づく、請求項17に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項19】
前記レーザパルスの前記離調周波数関数および前記振幅関数の計算が、出力最小化の条件にさらに基づく、請求項17に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項20】
スプラインされた前記離調周波数関数および修正された前記振幅関数を有する修正された前記レーザパルスが、トラップイオンをそれらの元の位置および運動量値に戻すための条件、ならびにゼロ以外のもつれ相互作用の条件、安定化の条件、ならびに出力最小化の条件を満たすように、前記レーザパルスの計算された前記振幅関数が修正される、請求項17に記載の量子コンピューティングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、イオントラップ型量子コンピュータにおけるもつれゲートを生成する方法に関し、より具体的には、もつれゲートを生成するためのレーザパルスを構築し、パルスが実際に実装され得るように、構築されたレーザパルスを修正する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子コンピューティングでは、古典的デジタルコンピュータにおける「0」と「1」を表すビットに類似した量子ビットまたはキュービットは、計算プロセス中にほぼ完全に制御した状態で、準備し、操作し、測定(読み出し)する必要がある。キュービットの制御が不完全であると、計算プロセスにおいて誤差が蓄積することがあり、信頼性の高い計算を実行できる量子コンピュータのサイズが制限される。
【0003】
大規模な量子コンピュータを構築するために提案されている物理システムの中に、電磁界によってトラップされて真空中に浮遊するイオンの鎖(すなわち、電荷を帯びた原子)がある。イオンは、数GHz範囲内の周波数によって分離され、キュービットの計算状態(「キュービット状態」と呼ばれる)として使用することができる内部超微細状態を有する。これらの超微細状態は、レーザから提供される放射線を使用して制御することができるか、または場合によっては本明細書ではレーザビームとの相互作用と呼ばれることもある。イオンは、このようなレーザ相互作用を使用して、運動基底状態の近くまで冷却することができる。イオンはまた、2つの超微細状態のいずれかに高精度で光学的に励起し(キュービットの準備)、レーザビームにより2つの超微細状態間で操作することができ(単一キュービットのゲート操作)、共鳴レーザビームの適用時に蛍光によってそれらの内部超微細状態が検出される(キュービットの読み出し)。1ペアのイオンは、イオン間のクーロン力の相互作用により発生する、トラップイオンの鎖の集合運動モードにイオンを結合するレーザパルスを使用して、キュービット状態に依存する力によって制御可能にもつれることができる(2キュービットのゲート操作)。
【0004】
しかしながら、物理システムに実装できるキュービットの制御には実際的な制限がある。例えば、時間変化が速すぎるパルスは、実際のレーザでは実装されない場合がある。したがって、キュービットを正確に制御して、物理システムの実用的な機能内で所望の計算プロセスを実行するための手順が必要である。
【発明の概要】
【0005】
本開示の実施形態は、概して、量子コンピュータを使用して計算を実行する方法に関する。この方法は、レーザパルスの離調周波数関数および振幅関数を計算して、複数のトラップイオンのうちの1ペアのトラップイオン間でもつれ相互作用を引き起こすステップであって、複数のトラップイオンの各々が、キュービットを定義する2つの周波数分離状態を有する、ステップと、レーザパルスの計算された離調周波数関数をスプラインするステップと、スプラインされた離調周波数関数に基づいて、レーザパルスの計算された振幅関数を修正するステップと、スプラインされた離調周波数関数および修正された振幅関数を有する修正されたレーザパルスを、当該1ペアのトラップイオンの各イオンに適用するステップとを含む。
【0006】
本開示の実施形態はまた、コンピュータプログラム命令を含む、非一時的なコンピュータ可読媒体に関する。このコンピュータプログラム命令は、プロセッサによって実行されると、プロセッサに、レーザパルスの離調周波数関数および振幅関数を計算して、複数のトラップイオンのうちの1ペアのトラップイオン間でもつれ相互作用を引き起こすステップであって、複数のトラップイオンの各々が、キュービットを定義する2つの周波数分離状態を有する、ステップと、レーザパルスの計算された離調周波数関数をスプラインするステップと、スプラインされた離調周波数関数に基づいてレーザパルスの計算された振幅関数を修正するステップと、スプラインされた離調周波数関数および修正された振幅関数を有する修正されたレーザパルスを、当該1ペアのトラップイオンの各イオンに適用するステップとを実行させる。
【0007】
本開示の実施形態は、概して、量子コンピューティングシステムに関する。この量子コンピューティングシステムは、複数のトラップイオンであって、トラップイオンの各々が、キュービットを定義する2つの超微細状態を有する、複数のトラップイオンと、内部に記憶された、いくつかの命令を有する不揮発性メモリを備えるコントローラとを備え、命令が、プロセッサによって実行されると、量子コンピューティングシステムに、操作を実行させる。この操作は、レーザパルスの離調周波数関数および振幅関数を計算して、複数のトラップイオンのうちの1ペアのトラップイオン間でもつれ相互作用を引き起こすステップと、レーザパルスの計算された離調周波数関数をスプラインするステップと、スプラインされた離調周波数関数および修正された振幅関数を有する修正されたレーザパルスを、当該1ペアのトラップイオンの各イオンに適用するステップとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本開示の上記特徴を詳細に理解することができるように、上で簡単に要約された本開示のより具体的な記載は、いくつかが添付の図面に示されている実施形態を参照することによって説明することができる。しかしながら、添付の図面は、本開示の典型的な実施形態のみを説明しており、その範囲を限定すると見なされるべきではないことに留意されたい。なぜなら、本開示は、他の同等に有効な実施形態を認めることができるからである。
【0009】
図1】一実施形態に従うイオントラップ型量子コンピュータの部分図である。
図2】一実施形態に従って、イオンを鎖に閉じ込めるためのイオントラップの概略図を示す。
図3A】5つのトラップイオンの鎖の概略的な集合横運動モード構造を示す。
図3B】5つのトラップイオンの鎖の概略的な集合横運動モード構造を示す。
図3C】5つのトラップイオンの鎖の概略的な集合横運動モード構造を示す。
図4】一実施形態に従って、トラップイオンの鎖内の各イオンの概略エネルギー図を示す。
図5】ブロッホ球の表面上の点として表されるイオンのキュービット状態を示す。
図6A】一実施形態に従って、各イオンの運動側波帯スペクトルおよび運動モードの概略図を示す。
図6B】一実施形態に従って、各イオンの運動側波帯スペクトルおよび運動モードの概略図を示す。
図7A】一実施形態に従うパルスの決定された離調周波数関数およびスプラインされた離調周波数関数を示す。
図7B】一実施形態に従うパルスの決定された離調周波数関数およびスプラインされた離調周波数関数を示す。
図7C】一実施形態に従うパルスの決定された離調周波数関数およびスプラインされた離調周波数関数を示す。
図7D】一実施形態に従うパルスの決定された振幅関数およびスプライン振幅関数を示す。
図8A】一実施形態に従うパルスの修正された振幅関数およびスプラインされ修正された振幅関数を示す。
図8B】一実施形態に従うパルスの修正された振幅関数およびスプラインされ修正された振幅関数を示す。
図8C】一実施形態に従うパルスの修正された振幅関数およびスプラインされ修正された振幅関数を示す。
【0010】
理解を容易にするために、可能な場合には、図に共通する同一の要素を示すために同一の参照番号を使用する。図および以下の説明では、X軸、Y軸、およびZ軸を含む直交座標系を使用する。図面の矢印で表される方向は、便宜上、正の方向であると想定される。いくつかの実施形態で開示された要素は、具体的な明記なく、他の実装で有益に利用されてよいと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書に記載の実施形態は、概して、量子計算中に2つのトラップイオンの間でもつれゲート操作を実行するためのパルスを構築および送達するための方法およびシステムに関し、より具体的には、もつれゲート操作の忠実度、または2つのイオン間でもつれゲート操作を実行した後、少なくとも2つのイオンが意図したキュービット状態にある確率を向上させながらシステムに実際に実装することができるパルスをスプラインする方法に関する。
【0012】
トラップイオンを使用して量子計算を実行できるシステム全体には、古典的コンピュータ、システムコントローラ、および量子レジスタが含まれる。古典的コンピュータは、グラフィックス処理ユニット(GPU)などのユーザインターフェイスを使用して実行する量子アルゴリズムの選択、選択した量子アルゴリズムの一連のユニバーサル論理ゲートへのコンパイル、量子レジスタに印加するためのレーザパルスへの一連のユニバーサル量子論理ゲートの変換、および中央処理ユニット(CPU)を使用してレーザパルスを最適化するパラメータの事前の計算を含むサポートおよびシステム制御タスクを実行する。量子アルゴリズムを分解して実行するタスクを実行するためのソフトウェアプログラムは、古典的コンピュータ内の不揮発性メモリに記憶されている。量子レジスタには、様々なハードウェアと結合されたトラップイオンが含まれ、これらのハードウェアには、トラップイオンの内部超微細状態(キュービット状態)を操作するレーザ、およびレーザビームを変調し、トラップイオンの内部超微細状態(キュービット状態)を読み取る音響光学変調器が含まれる。システムコントローラは、古典的コンピュータから、量子レジスタで選択されたアルゴリズムの実行の開始時にパルスの事前計算されたパラメータを受け取り、量子レジスタで選択されたアルゴリズムを実行するために使用されるいずれかおよび全ての態様の制御に関連する様々なハードウェアを制御し、量子レジスタの読み取り値を戻し、こうして、アルゴリズムの実行の最後に、量子計算の結果を古典的コンピュータに出力する。
【0013】
本明細書に記載の方法およびシステムは、量子論理ゲートを量子レジスタに印加されるレーザパルスに変換するためのプロセス、およびまた、量子レジスタに印加され、量子コンピュータの性能を向上させるために使用されるレーザパルスを最適化するパラメータを事前計算するためのプロセスを含む。
【0014】
任意の量子アルゴリズムを分解することができるユニバーサル論理ゲートのいくつかの既知のセットのうち、一般的に{R,XX}と表記されるユニバーサル論理ゲートのセットは、本明細書に記載されているトラップイオンの量子コンピューティングシステムに固有のものである。ここで、Rゲートは、トラップイオンの個々のキュービット状態の操作に対応し、XXゲート(「もつれゲート」とも呼ぶ)は、2つのトラップイオンのもつれ操作に対応する。当業者にとって明らかであるように、Rゲートは、ほぼ完全な忠実度で実装できるが、XXゲートの形成は、複雑なので、XXゲートの忠実度を向上させ、量子コンピュータ内の計算の誤差を回避または削減するためには、いくつかの要因を挙げれば、トラップイオンの所定のタイプと、トラップイオンの鎖内のイオンの数と、トラップイオンがトラップされるハードウェアおよび環境との最適化が必要である。以下の論述では、向上した忠実度を有するXXゲートの形成に基づいて計算を実行するために使用されるパルスを生成し、最適化する方法を説明する。
【0015】
量子コンピュータのサイズが大きくなるにつれて、量子計算を実行するために使用されるもつれゲート操作がますます複雑になり、これらのもつれゲート操作を実行するために使用されるパルスもますます複雑になる。複雑さが増えるとパルスを実装する際に実際に制限される場合がある。本開示で説明される方法およびシステムは、キュービットの正確な制御を犠牲にせずに実際に実装することができるようにこのようなパルスを修正する。
【0016】
一般的なハードウェア構成
図1は、一実施形態に係るイオントラップ型量子コンピュータまたはシステム100の部分図である。システム100は、古典的(デジタル)コンピュータ101と、システムコントローラ118と、Z軸に沿って延びる、トラップイオン(例えば、5つを示す)の鎖102である量子レジスタとを含む。トラップイオンの鎖102内の各イオンは、核スピンIおよび電子スピンsを有するイオンであり、核スピンIと電子スピンsとの差がゼロであるようになっており、例えば、正のイッテルビウムイオン171Yb、正のバリウムイオン133Ba、正のカドミウムイオン111Cdまたは113Cdであり、これらの全ては、核スピン
【数1】
および1/2超微細状態を有する。いくつかの実施形態では、トラップイオンの鎖102内の全てのイオンは、同じ種および同位体(例えば、171Yb)である。いくつかの他の実施形態では、トラップイオンの鎖102は、1つ以上の種または同位体を含む(例えば、いくつかのイオンは171Ybであり、いくつかの他のイオンは133Baである)。なおさらなる実施形態では、トラップイオンの鎖102は、同じ種の様々な同位体(例えば、Ybの異なる同位体、Baの異なる同位体)を含み得る。トラップイオンの鎖102内のイオンは、別々のレーザビームで個別に処理される。
【0017】
古典的コンピュータ101は、中央処理ユニット(CPU)、メモリ、およびサポート回路(またはI/O)を含む。メモリは、CPUに接続されており、読み取り専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、フロッピーディスク、ハードディスク、または任意の他の形式のデジタルストレージなどで、ローカルまたはリモートで、すぐに利用できるメモリの1つ以上であり得る。ソフトウェア命令、アルゴリズム、およびデータは、CPUに命令するためにコード化され、メモリ内に記憶され得る。サポート回路(図示せず)も、従来の方法でプロセッサをサポートするためにCPUに接続されている。サポート回路は、従来のキャッシュ、電源、クロック回路、入力/出力回路、サブシステムなどを含み得る。
【0018】
例えば、開口数(NA)が0.37の対物レンズなどのイメージング対物レンズ104は、イオンからY軸に沿って蛍光を収集し、個々のイオンを測定するために、各イオンをマルチチャネル光電子増倍管(PMT)106にマッピングする。X軸に沿って提供される、レーザ108からの非共伝搬ラマンレーザビームは、イオンに対して操作を実行する。回折ビームスプリッタ110は、マルチチャネル音響光学変調器(AOM)114を使用して個別に切り替えられる静的ラマンビーム112のアレイを作成し、かつ個々のイオンに選択的に作用するように構成される。グローバルラマンレーザビーム116は、イオンを一度に照射する。いくつかの実施形態では、個々のラマンレーザビーム(図示せず)の各々は、個々のイオンを照射する。システムコントローラ(「RFコントローラ」とも呼ばれる)118は、AOM114を制御する。システムコントローラ118は、中央処理ユニット(CPU)120、読み取り専用メモリ(ROM)122、ランダムアクセスメモリ(RAM)124、記憶ユニット126などを含む。CPU120は、RFコントローラ118のプロセッサである。ROM122は、様々なプログラムを記憶し、RAM124は、様々なプログラムおよびデータの作業メモリである。記憶ユニット126は、ハードディスクドライブ(HDD)またはフラッシュメモリなどの不揮発性メモリを含み、電源が切られても様々なプログラムを記憶する。CPU120、ROM122、RAM124、および記憶ユニット126は、バス128を介して相互接続されている。RFコントローラ118は、ROM122または記憶ユニット126に記憶され、RAM124を作業領域として使用する制御プログラムを実行する。制御プログラムは、プロセッサによって実行することができるプログラムコード(例えば、命令)を含む1つ以上のソフトウェアアプリケーションを含むが、それは、データの受信、分析、および本明細書で説明されたイオントラップ型量子コンピュータシステム100を作成するために使用される方法およびハードウェアの任意および全ての態様の制御に関連する様々な機能を実行するためである。
【0019】
図2は、一実施形態に係る、鎖102内にイオンを閉じ込めるイオントラップ200(ポールトラップとも呼ばれる)の概略図を示す。閉じ込め電位は、静的(DC)電圧と無線周波数(RF)電圧の両方によって印加される。静的(DC)電圧Vがエンドキャップ電極210および212に印加されて、Z軸(「軸方向」、「長手方向」または「第1の方向」とも呼ばれる)に沿ってイオンを閉じ込める。鎖102内のイオンは、イオン間のクーロン相互作用のために、軸方向にほぼ均等に分布している。いくつかの実施形態では、イオントラップ200は、Z軸に沿って延びる4つの双曲線形状の電極202、204、206、および208を含む。
【0020】
操作中、(振幅VRF/2を有する)正弦波電圧Vは、対向する一対の電極202、204に印加され、正弦波電圧Vから180°の位相シフト(および振幅VRF/2)を有する正弦波電圧Vは、駆動周波数ωRFで対向する他対の電極206、208に印加されて、四重極電位を生成する。いくつかの実施形態では、正弦波電圧は、対向する一対の電極(例えば、202、204)のみに印加され、対向する他対の電極(206、208)は、接地される。四重極電位は、トラップされた各イオンに対してZ軸に垂直なX-Y平面(「半径方向」、「横方向」または「第2の方向」とも呼ばれる)に有効な閉じ込め力を生成し、その閉じ込め力は、RF電界が消失する鞍点(すなわち、軸方向(Z方向)の位置)からの距離に比例する。各イオンの半径方向(すなわち、X-Y平面の方向)の運動は、半径方向の鞍点に向かう復元力を伴う調和振動(経年運動と呼ばれる)として近似され、それぞれ以下でより詳細に説明されるようなばね定数kとkによってモデル化できる。いくつかの実施形態では、半径方向のばね定数は、四重極電位が半径方向に対称である場合に等しいものとしてモデル化される。しかしながら、望ましくない場合には、半径方向のイオンの運動は、物理的なトラップ構成のある程度の非対称性、電極の表面の不均一性による小さなDCパッチ電位などのために歪む場合があり、これらおよび他の外部の歪みの原因により、イオンは、鞍点から中心を外れる場合がある。
【0021】
トラップイオン構成および量子ビット情報
図3A図3B、および図3Cは、例えば、5つのトラップイオンの鎖102のいくつかの概略的な集合横運動モード構造(単に「運動モード構造」とも呼ばれる)を示す。ここで、エンドキャップ電極210および212に印加された静的電圧Vによる閉じ込め電位は、半径方向の閉じ込め電位と比較して弱い。トラップイオンの鎖102の横方向の集合運動モードは、イオントラップ200によって生成された閉じ込め電位とトラップイオン間のクーロン相互作用との組み合わせによって決定される。トラップイオンは、集合横方向運動(「集合横運動モード」、「集合運動モード」、または単に「運動モード」と呼ばれる)を起こし、各モードには、それに関連する個別のエネルギー(または同等に、周波数)を有る。以下では、エネルギーがp番目に低い運動モードを│nphと呼び、ここで、nphは、運動モードの運動量子の数(エネルギー励起の単位で、フォノンと呼ばれる)を表し、所定の横方向の運動モードの数Pは、鎖102内のトラップイオンの数Nに等しい。図3A図3Cは、鎖102内に配置された5つのトラップイオンによって経験され得る異なるタイプの集合横運動モードの例を概略的に説明する。図3Aは、最も高いエネルギーを有する一般的な運動モード│nphの概略図であり、ここで、Pは、運動モードの数である。一般的な運動モード│nphでは、全てのイオンは、横方向に同位相で振動する。図3Bは、2番目に高いエネルギーを有する傾斜運動モード│nphP-1の概略図である。傾斜運動モードでは、両端のイオンは、横方向に位相がずれて(すなわち、反対方向に)移動する。図3Cは、傾斜運動モード│nphP-1よりもエネルギーが低く、イオンがより複雑なモードパターンで移動する高次運動モード│nphP-3の概略図である。
【0022】
なお、上記特定の構成は、本開示によるイオンを閉じ込めるトラップのいくつかの可能な例のうちの1つに過ぎず、本開示によるトラップの可能な構成、仕様などを限定するものではない。例えば、電極の形状は、上記双曲線電極に限定されない。他の例では、調和振動として半径方向にイオンの運動を引き起こす実効電界を生成するトラップは、複数の電極層が積層され、対角線上にある2つの電極にRF電圧が印加される多層トラップであってもよく、または全ての電極がチップ上の単一平面に配置されている表面トラップであってもよい。さらに、トラップは、複数のセグメントに分割することができ、その隣接するペアが1つ以上のイオンを往復させてリンクすることもでき、または光子相互接続によって結合することもできる。トラップは、また、微細加工されたイオントラップチップ上に互いに近接して配置された個々のトラップ領域のアレイであってもよい。いくつかの実施形態では、四重極電位は、上記RF成分に加えて、空間的に変化するDC成分を有する。
【0023】
図4は、一実施形態に係る、トラップイオンの鎖102内の各イオンの概略エネルギー図400を示す。トラップイオンの鎖102内の各イオンは、核スピンIおよび電子スピンsを有するイオンであり、核スピンIと電子スピンsとの差がゼロになるようになっている。一例では、各イオンは、核スピン
【数2】
および1/2超微細状態(すなわち、2つの電子状態)を有する正のイッテルビウムイオン171Ybであってもよく、ω01/2π=12.642821GHzの周波数差(「キャリア周波数」と呼ばれる)に対応するエネルギー分割を有する。他の例では、各イオンは、全てが、核スピン
【数3】
および1/2超微細状態を有する正のバリウムイオン133Ba、正のカドミウムイオン111Cdまたは113Cdであってもよい。キュービットは、│0>と│1>で表される2つの超微細状態で形成され、超微細基底状態(すなわち、1/2超微細状態のうちの低エネルギー状態)が│0>を表すために選択される。以下、「超微細状態」、「内部超微細状態」および「キュービット」という用語は、│0>と│1>を表すために交換可能に使用されることがある。各イオンは、ドップラー冷却または分解サイドバンド冷却などの既知のレーザ冷却方法で、フォノン励起なし(すなわち、nph=0)で任意の運動モードpの運動基底状態│0>の近くまで冷却し(すなわち、イオンの運動エネルギーが低下することができる)、次にキュービット状態が光ポンピングによって超微細基底状態│0>で準備することができる。ここで、│0>は、トラップイオンの個々のキュービット状態を表し、下付き文字pが付いた│0>は、トラップイオンの鎖102の運動モードpの運動基底状態を表す。
【0024】
各トラップイオンの個々のキュービット状態は、例えば、励起された1/2レベル(|e>で表される)を介して355ナノメートル(nm)のモードロックレーザ(mode-locked laser)によって操作することができる。図4に示すように、レーザからのレーザビームは、ラマン構成で一対の非共伝搬レーザビーム(周波数ωを有する第1のレーザビームおよび周波数ωを有する第2のレーザビーム)に分割され、図4で説明するように、|0>と|e>の間の遷移周波数ω0eに関して、一光子遷移離調周波数Δ=ω-ω0eによって離調され得る。二光子遷移離調周波数δは、トラップイオンに第1および第2のレーザビームによって提供されるエネルギー量の調整を含み、それらを組み合わせて使用すると、トラップイオンが超微細状態|0>と|1>との間で移動する。一光子遷移離調周波数Δが二光子遷移離調周波数(単に「離調周波数」とも呼ばれる)δ=ω-ω-ω01(以下、±μで表され、μは正の値である)よりもはるかに大きい場合、それぞれ状態|0>と|e>の間、および状態|1>と|e>の間でラビフロップが発生する単一光子ラビ周波数Ω0e(t)とΩ1e(t)(時間に依存し、第1と第2のレーザビームの振幅と位相によって決定される)、ならびに励起状態|e>からの自然放出率、2つの超微細状態│0>と│1>の間のラビフロップ(「キャリア遷移」と呼ばれる)は、二光子ラビ周波数Ω(t)で誘導される。二光子ラビ周波数Ω(t)は、Ω0eΩ1e/2Δに比例する強度(すなわち、振幅の絶対値)を有し、ここで、Ω0eとΩ1eは、それぞれ第1と第2のレーザビームによる単一光子ラビ周波数である。以下、キュービットの内部超微細状態(キュービット状態)を操作するためのラマン構成におけるこの非共伝搬レーザビームのセットは、「複合パルス」または単に「パルス」と呼ばれてもよく、結果として生じる二光子ラビ周波数Ω(t)の時間依存パターンは、パルスの「振幅」または単に「パルス」と呼ばれてもよく、それらは、以下で図示され、さらに説明される。離調周波数δ=ω-ω-ω01は、複合パルスの離調周波数またはパルスの離調周波数と呼ばれることがある。第1および第2のレーザビームの振幅によって決定される二光子ラビ周波数Ω(t)の振幅は、複合パルスの「振幅」と呼ばれることがある。
【0025】
なお、本明細書に提供される説明で使用される特定の原子種は、イオン化されたときに安定し、かつ明確に定義された2レベルエネルギー構造と、光学的にアクセス可能な励起状態とを有する原子種の一例にすぎないため、本開示によるイオントラップ型量子コンピュータの可能な構成、仕様などを限定することを意図するものではない。例えば、他のイオン種は、アルカリ土類金属イオン(Be、Ca、Sr、Mg、およびBa)または遷移金属イオン(Zn、Hg、Cd)を含む。
【0026】
図5は、方位角φおよび極性角θを有するブロッホ球500の表面上の点として表されるイオンのキュービット状態を視覚化するのを助けるために提供される。上記のように、複合パルスを適用すると、キュービット状態│0>(ブロッホ球の北極として表される)と│1>(ブロッホ球の南極として表される)との間でラビフロップが発生する。複合パルスの持続時間と振幅を調整すると、キュービット状態を│0>から│1>に(すなわち、ブロッホ球の北極から南極へ)反転させるか、またはキュービット状態を│1>から│0>に(すなわち、ブロッホ球の南極から北極へ)反転させる。複合パルスのこの適用は、「πパルス」と呼ばれる。さらに、複合パルスの持続時間と振幅を調整することにより、キュービット状態│0>を、2つのキュービット状態│0>と│1>が加算され、同位相で均等に重み付けされた重ね合わせ状態│0>+│1>(重ね合わせ状態の正規化係数は、一般性を失うことなく、以下省略される)に変換することができ、そして、キュービット状態│1>を、2つのキュービット状態│0>と│1>が加算され、均等に重み付けされているが、位相がずれる重ね合わせ状態│0>-│1>に変換することができる。複合パルスのこの適用は、「π/2パルス」と呼ばれる。より一般的には、加算されて均等に重み付けされた2つのキュービット状態│0>と│1>の重ね合わせは、ブロッホ球の赤道上にある点によって表される。例えば、重ね合わせ状態│0>±│1>は、方位角φがそれぞれゼロとπである赤道上の点に対応する。方位角φの赤道上の点に対応する重ね合わせ状態は、│0>+eiφ│1>(例えば、φ=±π/2の場合は│0>±i│1>である)として表される。赤道上の2点間の変換(すなわち、ブロッホ球のZ軸の周りの回転)は、複合パルスの位相をシフトすることで実装できる。
【0027】
イオントラップ型量子コンピュータでは、運動モードは、2つのキュービット間のもつれを仲介するデータバスとして機能することができ、このもつれは、XXゲート操作を実行するために使用される。つまり、2つのキュービットのそれぞれが運動モードともつれて、そして、以下に説明するように、もつれは、運動側波帯励起を使用することによって、2つのキュービット間のもつれに転送される。図6Aおよび図6Bは、一実施形態に係る、周波数ωを有する運動モード│nphでの鎖102内のイオンの運動側波帯スペクトルの図を概略的に示す。図6Bに示すように、複合パルスの離調周波数がゼロの場合(すなわち、第1と第2のレーザビーム間の周波数差がキャリア周波数δ=ω-ω-ω01=0に調整される場合)、キュービット状態│0>と│1>の間で単純なラビフロップ(キャリア遷移)が発生する。複合パルスの離調周波数が正の場合(すなわち、第1と第2のレーザビーム間の周波数差が、キャリア周波数よりも高く調整されている場合、δ=ω-ω-ω01=μ>0、青側波帯と呼ばれる)、組み合わされたキュービット運動状態│0>│nphと│1>│nph+1>の間でラビフロップが発生する(すなわち、キュービット状態│0>が│1>に反転する場合、│nphで表されるnphフォノン励起を伴うp番目の運動モードから│nph+1>で表される(nph+1)フォノン励起を伴うp番目の運動モードへの遷移が発生する)。複合パルスの離調周波数が負の場合(すなわち、第1と第2のレーザビーム間の周波数差が、運動モード│nphの周波数ωによってキャリア周波数よりも低く調整されている場合、δ=ω-ω-ω01=-μ<0、赤側波帯と呼ばれる)、組み合わされたキュービット運動状態│0>│nphと│1>│nph-1>の間のラビフロップが発生する(すなわち、キュービット状態│0>から│1>に反転する場合、運動モード│nphから、フォノン励起が1つ少ない運動モード│nph-1>への遷移が発生する)。キュービットに適用された青側波帯のπ/2パルスは、組み合わされたキュービット運動状態│0>│nphを、│0>│nphと│1>│nph+1>の重ね合わせに変換する。キュービットに適用された赤側波帯のπ/2パルスは、組み合わされたキュービット運動状態│0>│nphを、│0>│nphと│1>│nph-1>の重ね合わせに変換する。二光子ラビ周波数Ω(t)が離調周波数δ=ω-ω-ω01=±μと比較して小さい場合、青側波帯遷移または赤側波帯遷移を選択的に駆動することができる。したがって、キュービットは、π/2パルスなどの適切なタイプのパルスを適用することにより、所望の運動モードでもつれることができ、その後、別のキュービットともつれることができ、2つのキュービット間のもつれをもたらす。イオントラップ型量子コンピュータでXXゲート操作を実行するには、キュービット間のもつれが必要である。
【0028】
上記のように、組み合わされたキュービット運動状態の変換を制御および/または指示することにより、2つのキュービット(i番目およびj番目のキュービット)に対してXXゲート操作を実行することができる。一般に、(最大もつれを有する)XXゲート操作は、2キュービット状態|0>|0>、|0>|1>、|1>|0>および|1>|1>をそれぞれ次のように変換する。
【数4】
例えば、2つのキュービット(i番目とj番目のキュービット)が両方とも最初に超微細基底状態|0>(|0>|0>で表される)にあり、その後、青側波帯のπ/2パルスがi番目のキュービットに適用される場合、i番目のキュービットと運動モード|0>|nphの組み合わせ状態は、|0>|nphと|1>|nph+1>の重ね合わせに変換されるため、2つのキュービットと運動モードの組み合わせ状態は、|0>|0>|nphと|1>|0>|nph+1>の重ね合わせに変換される。赤側波帯のπ/2パルスがj番目のキュービットに適用される場合、j番目のキュービットと運動モード|0>|nphの組み合わせ状態は、|0>|nphと|1>|nph-1>の重ね合わせに変換されるため、組み合わせ状態|0>|nph+1>は、|0>|nph+1>と|1>|nphの重ね合わせに変換される。
【0029】
したがって、i番目のキュービットに青側波帯のπ/2パルスを適用し、j番目のキュービットに赤側波帯のπ/2パルスを適用すると、2つのキュービットと運動モード|0>|0>|nphの組み合わせ状態を|0>|0>|nphと|1>|1>|nphの重ね合わせに変換することができ、2つのキュービットは、今やもつれ状態にある。当業者にとって明らかであるように、フォノン励起の初期数nphとは異なる数(すなわち、|1>|0>|nph+1>と|0>|1>|nph-1>)のフォノン励起を有する運動モードともつれる2つのキュービット状態は、十分に複雑なパルスシーケンスによって除去できるため、XXゲート操作後の2つのキュービットと運動モードの組み合わせ状態は、p番目の運動モードでのフォノン励起の初期数nphがXXゲート操作の終了時に変化しないので、もつれが解消された(disentangled)と考えてもよい。したがって、XXゲート操作の前後のキュービット状態は、一般に、運動モードを含まずに、以下で説明する。
【0030】
より一般的には、側波帯の複合パルスを持続時間τ(「ゲート持続時間」と呼ばれる)にわたって適用することによって変換され、振幅関数Ω(t)と離調周波数関数μ(t)を有するi番目とj番目のキュービットの組み合わせ状態は、もつれ相互作用χi,j(τ)の観点から次のように記述することができる。
【数5】
ここで、
【数6】
であり、ηi,pは、i番目のイオンと周波数ωを有するp番目の運動モードの間の結合強度を定量化するラムディッケパラメータであり、ψ(t)はパルスの累積位相関数(単に「位相関数」とも呼ばれる)
【数7】
であり、ψは、一般性を失うことなく、簡単にするために以下ゼロ(0)と見なすことができる初期位相であり、Pは運動モードの数(鎖102内のイオンの数Nに等しい)である。
【0031】
ゲートもつれ操作のためのパルスの構築
上記の2つのキュービット(トラップイオン)間のもつれを使用して、XXゲート操作を実行できる。XXゲート操作(XXゲート)は、単一キュービット操作(Rゲート)とともに、所望の計算プロセスを実行するように構成された量子コンピュータを構築するために使用できるユニバーサルゲート{R,XX}のセットを形成する。トラップイオンの鎖102に送達するためのパルスを、当該鎖102内の2つのトラップイオン(例えば、i番目およびj番目のトラップイオン)の間でXXゲート操作を実行することを目的として、構築する際に、パルスの振幅関数Ω(t)および離調周波数関数μ(t)は、次の条件を課すことによって、パルスが目的のXXゲート操作を確実に実行するように制御パラメータとして調整される。第1に、運動モードがパルスの送達によって励起されるにつれて初期位置から移動する鎖102内の全てのトラップイオンは、XXゲート操作の終わりに初期位置に戻らなければならない。この第1の条件は、トラップイオンがそれらの元の位置および運動量値に戻るための条件、または位相空間軌道の閉鎖の条件と呼ばれ、下記に詳述する。第2に、XXゲート操作は、運動モードの周波数の変動に対してロバストで安定していなければならない。この第2の条件は、安定化の条件と呼ばれる。第3に、パルスによってi番目とj番目のトラップイオンの間に生成されるもつれ相互作用χi,j(τ)は、所望の値θi,j(θi,j≠0)を有しなければならない。この第3の条件は、ゼロ以外のもつれ相互作用の条件と呼ばれる。第4に、パルスを実装するために必要なレーザ出力を最小限にすることができる。この第4の条件は、出力最小化の条件と呼ばれる。
【0032】
上記のように、第1の条件(トラップイオンがそれらの元の位置および運動量値に戻るための条件、または位相空間軌道の閉鎖の条件とも呼ばれる)は、運動モードがパルスの送達によって励起されるにつれてそれらの初期位置から移動するトラップイオンがそれらの初期位置に戻ることである。重ね合わせ状態|0>±|1>にあるl番目のトラップイオンは、ゲート持続時間τの間のp番目の運動モードの励起のために移動し、p番目の運動モードの位相空間(位置および運動量)内の軌道±αl,p(t’)に従う。位相空間軌道
【数8】
は、パルスの振幅関数Ω(t)および累積位相関数
【数9】
によって決定され、ここで、g(t)は、g(t)=Ω(t)sin(ψ(t))として定義されるパルス関数である。したがって、N個のトラップイオンの鎖102の場合、条件αl,p(τ)=0(すなわち、軌道αl,p(τ)は閉鎖している)は、P個全ての運動モード(p=1,2,…,P)に課さなければならない。
【0033】
第2の条件(安定化の条件とも呼ばれる)は、パルスによって生成されるXXゲート操作が、運動モードの周波数ωの変動およびレーザビームの強度などの外部エラーに対してロバストで安定であることである。イオントラップ型量子コンピュータ、またはシステム100では、漂遊電場、光イオン化または温度変動によって引き起こされるイオントラップ200内の蓄積電荷のために、運動モードの周波数ωに変動がある可能性がある。典型的には、数分間にわたって、運動モードの周波数ωは、
【数10】
の偏位でドリフトする。運動モードの周波数ωに基づく位相空間軌道の閉鎖の条件は、運動モードの周波数がω+Δωにドリフトするともはや満たされず、XXゲート操作の忠実度が低下する。運動モードフォノンのゼロ温度でのi番目とj番目のトラップイオンの間のXXゲート操作の平均不忠実度1-Fは、
【数11】
によって与えられることが知られている。これは、位相空間軌道αl,p(l=i,j)が、ωの変動Δωに対してK次まで静止していること、
【数12】
(K次安定化と呼ばれる)を要求することにより、運動モードの周波数ωのドリフトΔωに対してXXゲート操作を安定化できることを示唆しており、ここで、Kは、安定化の所望の最大程度である。安定化のためにこの条件を要求することによって計算されたパルスは、ノイズ(すなわち、運動モードの周波数ωのドリフト)に対して回復力のあるXXゲート操作を実行できる。
【0034】
第3の条件(ゼロ以外のもつれ相互作用の条件とも呼ばれる)は、パルスによってi番目とj番目のトラップイオンの間で生成されるもつれ相互作用χi,j(τ)が、所望のゼロ以外の値θi,j(θi,j≠0)を有することである。上記のi番目とj番目のトラップイオンの組み合わせた状態の変換は、|θi,j|=π/8の場合に最大もつれを伴うXXゲート操作に対応する。以下に説明する例では、同じパルスが、i番目とj番目のトラップイオンの両方に適用される。しかしながら、いくつかの実施形態では、異なるパルスが、i番目とj番目のトラップイオンに適用される。
【0035】
第4の条件(出力最小化の条件とも呼ばれる)は、パルスが出力最適であり、必要なレーザ出力が最小化されることである。必要なレーザ出力は、ゲート持続時間τに反比例するため、出力最適パルスは、ゲート持続時間τが固定されている場合は最小出力の要件で、またはレーザ出力バジェットが固定されている場合は最短ゲート持続時間τで、XXゲート操作を実装する。
【0036】
いくつかの実施形態では、振幅関数Ω(t)および離調周波数関数μ(t)は、ゲート持続時間の中間点t=τ/2に対して、時間的に対称または反対称になるように選択され、すなわち、
【数13】
となる。以下に説明する例では、振幅関数Ω(t)および離調周波数関数μ(t)は、簡単にするために、対称になるように選択されており(Ω(+)(t)とμ(+)(t))、上付き文字(+)なしでΩ(t)およびμ(t)と呼ぶこともできる。
【0037】
位相空間軌道の閉鎖の条件は、パルス関数g(t)の反対称成分g(-)(t)(以下で、「負のパリティパルス関数」または単に「パルス関数」とも呼ぶ)に関して、
【数14】
として書き直すことができ、ここで、Mpnは、
【数15】
として定義される。ここで、パルス関数g(-)(t)は完全に展開され、例えば、基底関数sin(2πnt/τ)とフーリエ係数A(n=1,2,…,N)を使用して、ゲート持続時間τにわたってフーリエ正弦基底で
【数16】
となる。同等に、位相空間軌道の閉鎖の条件は、行列形式で
【数17】
と書くことができ、ここで、Mは、MpnのP×N係数行列であり、
【数18】
は、AのN個のフーリエ係数ベクトルである。基底関数の数Nは、運動モードの数Pよりも大きく、パルス関数g(-)(t)の計算で収束を達成するのに十分な大きさになるように選択される。
【0038】
運動モードの周波数ωの変動に対するK次安定化の条件は、
【数19】
のような行列形式で書き直すことができ、ここで、
【数20】
は、
【数21】
と定義される。同等に、K次安定化の条件は、行列形式で、
【数22】
として書き直すことができ、ここで、Mは、
【数23】
のP×N係数行列であり、
【数24】
は、AのN個のフーリエ係数ベクトルである。
【0039】
K次安定化の方法は、モード周波数エラーに対する安定化に限定されない。これは、上記のモード周波数エラーに対する安定化と同様に、線形行列形式にできる全てのパラメータに対する安定化に適用される。例は、パルスタイミングエラーに対するK次安定化である。
【0040】
位相空間軌道の閉鎖の条件およびK次安定化の条件は、次の形式
【数25】
で簡潔に記述することができ、ここで、k=0は、位相空間軌道の閉鎖の条件に対応する。したがって、位相空間軌道の閉鎖の条件および安定化の条件
【数26】
を満たす、N(=N-P(K+1))個の自明ではない(すなわち、一般的に、フーリエ係数Aのうちの少なくとも1つはゼロではない)フーリエ係数ベクトル(ヌル空間ベクトルと呼ばれる)
【数27】
が存在する。これらのヌル空間ベクトル
【数28】
が計算されると、Aのフーリエ係数ベクトル
【数29】
を、フーリエ係数ベクトル
【数30】
の線形結合
【数31】
を計算することによって構築することができ、係数
【数32】
は、残りの条件、ゼロ以外のもつれ相互作用の条件、および出力最小化の条件が満たされるように決定される。
【0041】
ゼロ以外のもつれ相互作用の条件は、
【数33】
としてパルス関数g(-)(t)の観点から書き直すことができ、ここで、Dnmは、
【数34】
または同等に、行列形式で、
【数35】
として定義され、ここで、Dは、DnmのN×N係数行列であり、
【数36】
は、
【数37】
の転置ベクトルである。
【0042】
出力最小化の条件は、出力関数
【数38】
を最小化することに対応し、これは、ゲート持続時間τにわたって平均化されたパルス関数g(-)(t)の絶対二乗値である。
【0043】
したがって、パルスの振幅関数Ω(t)および離調周波数関数μ(t)は、フーリエ係数A(n=1,2,…,N)(すなわち、パルス関数g(-)(t)の周波数成分)または同等なフーリエ係数ベクトル
【数39】
を有するパルス関数g(-)(t)に基づいて計算でき、これは、位相空間軌道の閉鎖の条件、安定化の条件、ゼロ以外のもつれ相互作用の条件、および出力最小化の条件を満たす。これらの条件は、フーリエ係数ベクトル
【数40】
に関して線形代数形式であることに留意されたい。したがって、これらの条件を満たすフーリエ係数Aは、近似または反復なしで既知の線形代数計算方法によって計算できる。
【0044】
フーリエ係数Aが計算されると、パルス関数g(-)(t)を計算できる。いくつかの実施形態では、任意波形発生器(AWG)を使用して、レーザビームを制御するためにパルス関数g(-)(t)を直接使用して、所望のXXゲートを引き起こす。他の実施形態では、計算されたパルス関数g(-)(t)に基づいて、パルスの振幅関数Ω(t)および離調周波数関数μ(t)が、計算されたパルス関数g(-)(t)=Ω(t)sin(ψ(t))から復調によって決定される必要があり(すなわち、振幅関数Ω(t)および離調周波数関数μ(t)が抽出され、パルス関数g(-)(t)が、単一のレーザビームの一連の時間依存パルスセグメントを有するパルスに変換される)、ここで、
【数41】
は、離調周波数関数μ(t)による累積位相である。この復調プロセスが、固定離調周波数で実行される場合、すなわち、μ(t)=μの場合、結果として生じるパルスは、振幅変調(AM)パルスであり、振幅関数Ω(t)は変調される。復調プロセスが固定振幅で、すなわち、Ω(t)=Ωで実行される場合、結果として生じるパルスは、位相変調(PM)パルスであり、位相関数ψ(t)は変調される。位相関数ψ(t)が、離調周波数関数μ(t)を変調することによって実装される場合、結果として生じるパルスは、周波数変調(FM)パルスになる。復調プロセスは、振幅関数Ω(t)、位相関数ψ(t)(これにより、離調周波数関数μ(t))、および信号処理の分野で知られている従来の復調方法によってパルスを構築するための周波数の任意の組み合わせ変調で実行できる。
【0045】
例示的な復調プロセスの最初のステップは、t=ζ(j=0,1,…,N-1)でパルス関数g(-)(t)=Ω(t)sin(ψ(t))の零点を見つけることである(すなわち、g(ζ)=0)。ここで、Nはパルス関数g(-)(t)の零点の総数である。振幅関数Ω(t)は、振幅関数Ω(t)が零点にならないように選択できる。したがって、sin(ψ(t))がゼロの場合(すなわち、sin(ψ(ζ))=0)、パルス関数g(-)(t)はゼロになる。正弦関数の性質により、ψ(ζ)=jπ(j=0,1,…,N-1)の場合、パルスのゲート持続時間τの開始時と終了時の零点(すなわち、t=ζ=0およびt=ζNz-1=τ)も含め、sin(ψ(ζ))=0となる。
【0046】
復調プロセスの第2のステップは、パルス関数g(-)(t)の零点に基づいて離調周波数関数μ(t)を計算することである。いくつかの実施形態では、離調周波数μ(t)は、パルス関数g(-)(t)の隣接する零点間の定数値として近似される(すなわち、ζj-1<t<ζに対してμ(t)≒μで、j=1,2,…,N-1)。
【数42】
のように離調周波数関数μ(t)により位相ψ(t)が蓄積されるため、t=ζとt=ζj-1の位相差は、
【数43】
となる。したがって、t=ζj-1とt=ζの間の離調周波数μは、μ=π/(ζ-ζj-1)として決定される。復調プロセスの第3のステップは、振幅関数Ω(t)を計算することである。t=ζでのパルス関数g(-)(t)=Ω(t)sin(ψ(t))の時間微分は、
【数44】
であり、ここで、ψ(ζ)=jπおよび
【数45】
を使用する。したがって、t=ζでの振幅関数Ω(t)は、計算されたパルス関数
【数46】
(すなわち、
【数47】
)の時間微分を使用して
【数48】
として計算される。
【0047】
上記の特定の例示的な実施形態は、本開示によるパルス関数の構築方法の単なるいくつかの可能な例であり、パルス関数の構築方法の可能な構成、仕様などを制限するものではないことに留意されたい。例えば、振幅関数Ω(t)および離調周波数関数μ(t)の対称性は、システム100の構成、仕様などに関連する利便性に基づいて、反対称である(負のパリティを有する)ように、または混合対称を有する(混合パリティを有する)ように選択することができる。しかしながら、振幅関数Ω(t)および離調周波数関数μ(t)に対称性を課すことは、振幅関数Ω(t)および離調周波数関数μ(t)の対称性ならびに/またはエコー技術を適切に選択することにより、ラムディッケパラメータηi,pまたはパルス関数g(-)(t)の相対オフセットなどの外部パラメータの誤差を排除することにつながる可能性がある。
【0048】
予測子修正子法
本明細書に記載される実施形態では、上記の第1、第2、第3、および第4の条件を満たすように決定される、XXゲート操作を実行するためのパルスの振幅関数Ω(t)および離調周波数関数μ(t)は、2段階の予測子修正子法によって修正される。
【0049】
予測子修正子法の第1のステップ(「予測子」ステップとも呼ばれる)では、決定された離調周波数関数μ(t)は、離調周波数関数
【数49】
にスプラインされる。例えば、時間内に急速に変化する離調周波数関数μ(t)は、システム100内のレーザ108などのレーザの変調能力内で実装されない場合があり、したがって、離調周波数関数μ(t)は、スプライン化によって時間内によりゆっくりと変化するように修正できる。予測子修正子法の第2のステップ(「修正子」ステップとも呼ばれる)では、修正された振幅関数
【数50】
およびスプラインされた離調周波数関数
【数51】
を有する修正パルスが、上記の第1、第2、第3、および第4の条件を依然として満たすように、決定された振幅関数Ω(t)が、振幅関数
【数52】
に修正される。以下に、XXゲート操作を実行するためのパルスを修正するこの2段階の方法を詳細に説明する。
【0050】
予測子ステップ
第1のステップ(予測子)ステップでは、決定された離調周波数関数μ(t)が、離調周波数関数
【数53】
にスプラインされ(すなわち、スプラインを使用して補間される)、続いて、
【数54】
として定義された修正累積位相関数
【数55】
が数値的に計算される。
【0051】
決定された離調周波数関数μ(t)をスプラインする際に、例えば、ゲート持続時間τの間、NDS時点tのセットを通過する区分的三次多項式から構成される三次スプラインが使用され、ここで、
【数56】
である。l番目の時間セグメント
【数57】
についてのスプラインされた離調周波数関数
【数58】
は、決定される係数a、b、c、およびdのセットを有し得る:
【数59】
係数のセットは、決定された離調周波数関数μ(t)を使用した補間によって決定される。いくつかの実施形態では、低次(例えば、二次)または高次(例えば、四次またはそれ以上の高次)の多項式が、スプライン補間のために使用される。
【0052】
続いて、スプラインされた離調周波数関数
【数60】
を使用して、修正累積位相関数
【数61】
が、ゲート持続時間τ(j=1,2,…,Npoint)の間にNpoint時点tで数値的に計算される。時点の数Npointは、高い数値的精度を達成するのに十分大きくなるように選択される(例えば、いくつかの実施形態では、10-6)。2つの連続する時点の間の時間距離Δtは、一例では等しくなるように選択され得る。他の例では、連続する時点の対の間の時間距離Δtは異なり得る。l番目の時間セグメント
【数62】
内の時点tでは、修正累積位相関数
【数63】
は、決定された係数a、b、c、およびdのセットを使用して計算することができる:
【数64】
【0053】
修正子ステップ
第2のステップ(修正子ステップ)では、スプラインされた離調周波数関数
【数65】
および修正された振幅関数
【数66】
を有するパルスが、上記の第1、第2、第3、および第4の条件を満たすように、振幅関数Ω(t)が、振幅関数
【数67】
に修正される。
【0054】
これらの条件は、修正された振幅関数
【数68】
およびスプラインされた離調周波数関数
【数69】
を有するパルスの修正されたパルス関数
【数70】
に関して記述することができる。
【0055】
いくつかの実施形態では、修正された振幅関数
【数71】
は、パルスの中間点
【数72】
に対して対称であるように選択することができ、NPC+1基底関数
【数73】
およびフーリエ係数B(n=0,1,2,…,NPC)を使用して、ゲート持続時間τにわたって、完全に、例えば、フーリエ余弦基底
【数74】
に展開される。したがって、修正パルス関数は、フーリエ係数Bに関して、
【数75】
として記述することができる。
修正された振幅関数
【数76】
およびスプラインされた離調周波数関数
【数77】
を有するパルスが、位相空間軌道の閉鎖の条件、安定化の条件、ゼロ以外のもつれ相互作用の条件、および出力最小化の条件を満たすようにフーリエ係数Bは決定される。
【0056】
位相空間軌道の閉鎖の条件:
【数78】
およびk次安定化の条件:
【数79】
は、
【数80】
の形式で一緒に記述することができ、ここで、
【数81】
は、
【数82】
として定義される係数である。
位相空間軌道の閉鎖の条件は、k=0に対応する。本明細書に記載される例では、上記の形式の最後の近似は、数値の便宜上、左リーマン和(すなわち、時間セグメント
【数83】
の積分が、t=tでの値として近似される)に基づいて作成される。しかしながら、いくつかの実施形態では、積分を実行するための任意の他の近似または正確な方法を使用することができる。修正された振幅関数
【数84】
は、本明細書に記載される例では、ゲート持続時間τ(すなわち、パルスの中間点
【数85】
に対して正のパリティを有する)にわたって、パルス
【数86】
の中間点に対して対称であるように選択されるので、係数
【数87】
に関して正のパリティのみがゼロ以外である。したがって、係数
【数88】
はさらに簡略化することができる。
【0057】
同等に、位相空間軌道の閉鎖の条件、およびk次安定化の条件は、行列形式で
【数89】
と記述することができ、ここで、
【数90】
は、
【数91】
のP×(NPC+1)係数行列であり、Bは、BのNPC+1フーリエ係数ベクトルである。
【0058】
したがって、位相空間軌道の閉鎖の条件、および安定化の条件
【数92】
を満たす、
【数93】
(=NPC+1-P(K+1))個の自明ではない(すなわち、一般的に、フーリエ係数Bのうちの少なくとも1つはゼロ以外である)フーリエ係数ベクトル(ヌル空間ベクトルと呼ばれる)
【数94】
が存在する。これらのヌル空間ベクトル
【数95】
が計算されると、Bのフーリエ係数ベクトル
【数96】
を、フーリエ係数ベクトル
【数97】
の線形結合
【数98】
を計算することによって構築することができ、係数
【数99】
は、残りの条件、0以外のもつれ相互作用の条件、および出力最小化の条件が満たされるように決定される。
【0059】
ゼロ以外のもつれ相互作用の条件は、
【数100】
として修正されたパルス関数
【数101】
に関して書き直すことができ、ここで、
【数102】
は、
【数103】
または同等に、行列形式で、
【数104】
として定義され、ここで、
【数105】
は、
【数106】
の(NPC+1)×(NPC+1)係数行列であり、
【数107】
は、
【数108】
の転置ベクトルである。
【0060】
出力最小化の条件は、出力関数
【数109】
を最小化することに対応し、これは、ゲート持続時間τにわたって平均化されたパルス関数
【数110】
の絶対二乗値である。
【0061】
したがって、修正された振幅関数
【数111】
は、フーリエ係数B(n=0,1,2,…,NPC)(すなわち、修正された振幅関数
【数112】
の周波数成分)または同等なフーリエ係数ベクトル
【数113】
に基づいて計算でき、これは、位相空間軌道の閉鎖の条件、安定化の条件、ゼロ以外のもつれ相互作用の条件、および出力最小化の条件を満たす。これらの条件は、フーリエ係数ベクトル
【数114】
に関して線形代数形式であることに留意されたい。したがって、これらの条件を満たすフーリエ係数Bは、近似または反復なしで既知の線形代数計算方法によって計算できる。
【0062】
いくつかの実施形態では、修正された振幅関数
【数115】
は、結果として生じるパルスが、実際に実装できるように、例えば、ゲート持続時間τの間、NDS時点tのセットを通過する区分的三次多項式から構成される三次スプラインを使用してスプラインされ、ここで、
【数116】
である。
【実施例
【0063】
以下は、13個のトラップイオンの鎖102内の1ペアのトラップイオンを送達するためのパルスの実施例で、当該1ペアのトラップイオン間でXXゲート操作を実行することを目的とするものを示す。実施例1では、パルスが、システム100のレーザ108などのレーザによって実装できるように、パルスの決定された離調周波数関数μ(t)が、離調周波数関数
【数117】
にスプラインされ、パルスの決定された振幅関数Ω(t)が、区分的スプラインを使用して、予測子修正子法による修正なしでスプラインされる。実施例2では、実施例1でスプラインされた離調周波数関数
【数118】
を使用して、決定された振幅関数が、上記の予測子修正子法によって振幅関数
【数119】
に修正される。
【0064】
実施例1および2では、ゲート持続時間τは500μsである。安定化の条件は、運動モード(最大3kHz)の周波数ωのドリフトΔωに対してK次安定化を含む。i番目のイオンおよびp番目の運動モードηi,pについての鎖102およびラムディッケパラメータのp番目の運動モードの周波数ωは、それぞれ、表Iおよび表IIに記載されている。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
(実施例1)
図7A図7B、および図7Cは、パルスの決定された離調周波数関数μ(t)702およびスプラインされた離調周波数関数
【数120】
704を示す。パルス関数g(-)(t)を決定する際に、基底関数の数N=200を使用した。決定された離調周波数関数μ(t)702は、スプラインされた離調周波数関数
【数121】
704として示される区分的三次スプラインを使用してスプラインされる。
【0068】
図7Dは、決定された離調周波数関数μ(t)702と一緒に決定されるパルスの振幅関数Ω(t)706を示す。振幅関数Ω(t)706は、関数708として示される区分的三次スプラインを使用してスプラインされる。スプラインされた離調周波数関数
【数122】
704またはスプライン振幅関数708は、決定された離調周波数関数μ(t)702または決定された振幅関数Ω(t)706における高速振動を捕捉しないことに留意されたい。スプラインされたパルス(実装される)ならびに決定された離調周波数関数μ(t)702および決定された振幅関数Ω(t)706を有するパルスのこの偏差は、実際のXXゲート操作の忠実度の低下につながる可能性がある。
【0069】
(実施例2)
図8A図8B、および図8Cは、予測子修正子法によって実施例1におけるスプラインされた離調周波数関数
【数123】
704と一緒に修正されたパルスの振幅関数
【数124】
802を示す。修正された振幅関数
【数125】
802は、関数804として示される区分的三次多項式を使用してスプラインされる。実施例2では、スプラインされた離調周波数
【数126】
704は、NDS=500時点のセット(その一部は、図8Cに51個のドット806で示される)を通過し、各時間セグメントは1μsである。修正子ステップにおいて修正されたパルス関数
【数127】
を決定する際に、NPC=400を使用した。
【0070】
表IIIは、実施例1で構築されたスプラインパルス(スプラインされた離調周波数関数
【数128】
704およびスプライン振幅関数708を有する)を適用することによって実行したXXゲート操作、および実施例2で構築され修正されたパルス(スプラインされた離調周波数関数
【数129】
704およびスプラインされ修正された振幅関数804を有する)を適用することによって実行されたXXゲート操作の不忠実度を示す。決定された離調周波数関数μ(t)702を有する正確なパルスと、スプラインされた離調周波数
【数130】
704を有するパルスとの間の偏差によって引き起こされるXXゲート操作におけるエラーは、修正子ステップで(振幅関数Ω(t)を修正することによって)修正されるので、XXゲート操作が、スプラインされ修正された振幅関数804を有するパルスによって実行される場合、XXゲート操作の不忠実度は低下し、したがって、このようなゲート操作を使用して信頼できる計算を実行することができる。
【0071】
【表3】
【0072】
上記のように、2つのキュービット間でもつれゲート操作を実行するためのパルスを生成する際に、位相空間軌道の閉鎖の条件、安定化の条件、ゼロ以外の相互作用の条件、および出力最小化の条件が満たされるように制御パラメータ(パルスの離調周波数関数および振幅関数)が決定され、パルスを実際に実装できるように、結果として生じるパルスはスプラインされる。さらに、スプラインされたパルスは、もつれゲートが、高忠実度を有するスプラインされたパルスによって実行できるように修正される。
【0073】
さらに、制御パラメータを決定することは、一組の線形方程式を解くことを含む。したがって、制御パラメータを決定し、続いてパルスを構築することは、所望のXXゲート操作を実行するために効率的な方法で実行することができる。XXゲート操作は、異なるパルスを使用して他のペアのイオンに対して実行され、量子レジスタで所望の量子アルゴリズムを実行する。所望の量子アルゴリズムの実行の最後に、量子レジスタ内のキュービット状態(トラップイオン)の集団が測定(読み出し)されるため、所望の量子アルゴリズムを用いた量子計算の結果を決定し、古典的コンピュータに提供し、古典的コンピュータでは手に負えないこともある問題の解決策を得るために使用することができる。
【0074】
上記は特定の実施形態を対象としているが、他のさらなる実施形態は、その基本的な範囲から逸脱することなく考案することができ、その範囲は、以下の特許請求の範囲によって決定される。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C