(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-27
(45)【発行日】2024-04-04
(54)【発明の名称】オイルコントロールリング
(51)【国際特許分類】
F16J 9/06 20060101AFI20240328BHJP
F16J 9/12 20060101ALI20240328BHJP
F02F 5/00 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
F16J9/06 B
F16J9/12
F02F5/00 301B
(21)【出願番号】P 2023562309
(86)(22)【出願日】2023-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2023035691
【審査請求日】2023-10-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100192511
【氏名又は名称】柴田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】平出 佳之
(72)【発明者】
【氏名】難波 幸彦
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-049334(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133714(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 9/06
F16J 9/12
F02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のサイドレールと、前記一対のサイドレールの間に配置されるスペーサエキスパンダと、を備える3ピースのオイルコントロールリングであって、
前記スペーサエキスパンダは、前記サイドレールの内周面と当接する当接面を含む複数の耳部を有し、
前記サイドレールの前記内周面では、所定の初期馴染み状態におけるRzが2.5μm以下であり、
前記耳部の前記当接面では、前記所定の初期馴染み状態におけるRzが2.0μm以下であり、
前記サイドレールは合金鋼からなり、前記サイドレールのNi含有量は、0.05wt%以上且つ0.60wt%以下であり、
前記スペーサエキスパンダは合金鋼からなり、前記スペーサエキスパンダのNi含有量は、2.9wt%以上且つ16.1wt%以下である、オイルコントロールリング。
【請求項2】
前記サイドレールの前記内周面では、前記所定の初期馴染み状態におけるRpkが前記所定の初期馴染み状態におけるRvkよりも小さい、請求項1に記載のオイルコントロールリング。
【請求項3】
前記耳部の前記当接面では、前記所定の初期馴染み状態におけるRpkが前記所定の初期馴染み状態におけるRvkよりも大きい、請求項1又は2に記載のオイルコントロールリング。
【請求項4】
前記サイドレールの前記内周面は、前記所定の初期馴染み状態におけるRpkが0.51μm以下であり、且つ前記所定の初期馴染み状態におけるRvkが0.76μm以下であり、
前記耳部の前記当接面は、前記所定の初期馴染み状態におけるRpkが0.75μm以下であり、且つ前記所定の初期馴染み状態におけるRvkが0.50μm以下である、請求項3に記載のオイルコントロールリング。
【請求項5】
前記サイドレールのNi含有量は、0.26wt%以上且つ0.49wt%以下であり、
前記スペーサエキスパンダのNi含有量は、6.5wt%以上且つ11.1wt%以下である、請求項1又は2に記載のオイルコントロールリング。
【請求項6】
前記サイドレールの母材硬さは、HV250以上且つ620以下である、請求項1又は2に記載のオイルコントロールリング。
【請求項7】
前記サイドレールの母材硬さは、HV450以上且つ620以下である、請求項6に記載のオイルコントロールリング。
【請求項8】
前記耳部の前記当接面の傾斜角度は、15°以上且つ25°以下である、請求項1又は2に記載のオイルコントロールリング。
【請求項9】
前記耳部の前記当接面の幅は、0.5mm以上且つ1.2mm以下である、請求項1又は2に記載のオイルコントロールリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、オイルコントロールリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対のサイドレールと、一対のサイドレールの間に配置されるスペーサエキスパンダと、を備える3ピースのオイルコントロールリングでは、スペーサエキスパンダに対してサイドレールが単独で回転することがオイル消費量の増加の一因となり得る。例えば特許文献1に記載の組合せオイルリングでは、2本のサイドレールの内周面に表面粗さが3~20μmRzとなるようにブラスト処理が施され、スペーサエキスパンダに対するサイドレールの単独回転の防止が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、ブラスト処理によってサイドレールの内周面の表面粗さが大きくなるため、サイドレールの内周面と当接するスペーサエキスパンダの耳部の摩耗が増大しやすい。その結果、例えばオイルコントロールリングの張力の低下を招く可能性がある。
【0005】
本開示は、スペーサエキスパンダに対するサイドレールの単独回転の抑制と、サイドレールの内周面とスペーサエキスパンダの耳部との摩耗抑制と、の両立を図ることができるオイルコントロールリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、一対のサイドレールと、一対のサイドレールの間に配置されるスペーサエキスパンダと、を備える3ピースのオイルコントロールリングであって、スペーサエキスパンダは、サイドレールの内周面と当接する当接面を含む複数の耳部を有し、サイドレールの内周面では、所定の初期馴染み状態におけるRzが2.5μm以下であり、耳部の当接面では、所定の初期馴染み状態におけるRzが2.0μm以下であり、サイドレールは合金鋼からなり、サイドレールのNi含有量は、0.05wt%以上且つ0.60wt%以下であり、スペーサエキスパンダは合金鋼からなり、スペーサエキスパンダのNi含有量は、2.9wt%以上且つ16.1wt%以下である。
【0007】
本開示の一態様に係るオイルコントロールリングによれば、サイドレールのNi含有量が0.05wt%以上且つ0.60wt%以下であること、スペーサエキスパンダのNi含有量が2.9wt%以上且つ16.1wt%以下であること、サイドレールの内周面での所定の初期馴染み状態におけるRzが2.5μm以下であること、及び、耳部の当接面での所定の初期馴染み状態におけるRzが2.0μm以下であること、の4つの条件を全て満たすオイルコントロールリングは、上記4つの条件の少なくとも一つを満たさないオイルコントロールリングと比較して、スペーサエキスパンダに対するサイドレールの単独回転が生じにくくなる。また、上記4つの条件を全て満たすオイルコントロールリングによれば、例えばブラスト処理等によってサイドレールの内周面の粗さを大きくする場合と比べて、サイドレールの内周面と当接するスペーサエキスパンダの耳部の摩耗の増大を抑制しやすい。よって、本開示の一態様に係るオイルコントロールリングによれば、スペーサエキスパンダに対するサイドレールの単独回転の抑制と、サイドレールの内周面とスペーサエキスパンダの耳部との摩耗抑制と、の両立を図ることができる。
【0008】
一実施形態において、サイドレールの内周面では、所定の初期馴染み状態におけるRpkが所定の初期馴染み状態におけるRvkよりも小さくてもよい。耳部の当接面では、所定の初期馴染み状態におけるRpkが所定の初期馴染み状態におけるRvkよりも大きくてもよい。サイドレールの内周面では、所定の初期馴染み状態におけるRpkが0.51μm以下であり、且つ所定の初期馴染み状態におけるRvkが0.76μm以下であり、耳部の当接面では、所定の初期馴染み状態におけるRpkが0.75μm以下であり、且つ所定の初期馴染み状態におけるRvkが0.50μm以下であってもよい。この場合、サイドレールの内周面のRpkに対応する(相関のある)凸部の高さと耳部のRvkに対応する(相関のある)凹部の深さとの相互作用、及び、サイドレールの内周面のRvkに対応する(相関のある)凹部の深さと耳部のRpkに対応する(相関のある)凸部の高さとの相互作用により、互いに噛み合う作用が生じて摩擦力が向上する。これにより、スペーサエキスパンダに対するサイドレールの単独回転の抑制しつつ、サイドレールの内周面のRzを低減しやすくなる。
【0009】
一実施形態において、サイドレールのNi含有量は、0.26wt%以上且つ0.49wt%以下であり、スペーサエキスパンダのNi含有量は、6.5wt%以上且つ11.1wt%以下であってもよい。
【0010】
一実施形態において、サイドレールの母材硬さは、HV250以上且つ620以下であってもよい。更に、サイドレールの母材硬さは、HV450以上且つ620以下であってもよい。
【0011】
一実施形態において、耳部の当接面の傾斜角度は、15°以上且つ25°以下であってもよい。また、耳部の当接面の幅は、0.5mm以上且つ1.2mm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一態様に係るオイルコントロールリングによれば、スペーサエキスパンダに対するサイドレールの単独回転の抑制と、サイドレールの内周面とスペーサエキスパンダの耳部との摩耗抑制と、の両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態に係るオイルコントロールリングに用いられるスペーサエキスパンダを示す平面図である。
【
図2】
図2は、
図1の一点鎖線で囲った領域の拡大斜視図である。
【
図3】
図3は、ピストン溝に装着された状態のオイルコントロールリングの断面図である。
【
図4】
図4は、スペーサエキスパンダに対するサイドレールの単独回転の評価に用いられる装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本開示の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
図1は、実施形態に係るオイルコントロールリングに用いられるスペーサエキスパンダを示す平面図である。
図2は、
図1の一点鎖線で囲った領域の拡大斜視図である。
図3は、ピストン溝に装着された状態のオイルコントロールリングの断面図である。
図3は、
図2のスペーサエキスパンダのIII-III線に沿っての断面に対応している。
【0016】
図1~
図3に示されるように、オイルコントロールリング50は、ピストンPの溝Paに装着されて用いられるピストンリングである。オイルコントロールリング50は、一対のサイドレール1,2と、一対のサイドレール1,2の間に配置されるスペーサエキスパンダ10と、を備える3ピースのオイルコントロールリングである。サイドレール1,2は、環状であり、内周面1a,2aを有している。なお、ここでいう「環状」とは、必ずしも閉じた円を意味するものではなく、サイドレール1,2は合口部を有していてもよい。サイドレール1,2の断面形状は、例えば、内周面1a,2aが上下対称に湾曲する円弧面形状をなしている。サイドレールの外周面形状や内周面形状は、本実施形態に係るサイドレール1,2と異なるものであってもよく、例えば、必ずしも
図3に示すような対称性を有する断面形状でなくてもよい。サイドレール1,2の外周面は、シリンダボアBの内面Baに接している。
【0017】
スペーサエキスパンダ10は環状であり、例えば二つの端面10a,10bによって構成される合口部10cを有している。スペーサエキスパンダ10は、サイドレール1,2の内周面1a,2aと当接する当接面5aを含む複数の耳部5を有している。スペーサエキスパンダ10は、サイドレール1,2の側面1b,2bとそれぞれ対面する複数のレール対面部7を有している。レール対面部7は、耳部5よりも外周側であって耳部5と隣接した位置に形成されている。耳部5は、レール対面部7よりも高く形成されている。スペーサエキスパンダ10は、耳部5とレール対面部7とによって構成される開口5hを有している。スペーサエキスパンダ10にサイドレール1,2が組み合わされた状態において、耳部5の当接面5aにサイドレール1,2の内周面1a,2aが当接し、レール対面部7とサイドレール1,2の側面1b,2bが対面する。
【0018】
図2に示されるように、スペーサエキスパンダ10は、例えば、作業台に置かれたときに、山部10Mと谷部10Vが交互に連なる形状を有している。例えば、スペーサエキスパンダ10の山部10M(
図2における上側)に位置する耳部5と、谷部10V(
図2における下側)に位置する耳部5とは、実質的に同じ形状である。同様に、スペーサエキスパンダ10の山部10M(
図2における上側)に位置するレール対面部7と、谷部10V(
図2における下側)に位置するレール対面部7とは、実質的に同じ形状である。よって、作業台の上に置かれたスペーサエキスパンダ10の上下を逆さにすれば、
図2に示す山部10Mが谷部10Vとなり、谷部10Vが山部10Mとなる。
【0019】
サイドレール1,2及びスペーサエキスパンダ10の詳細について説明する。以下、スペーサエキスパンダ10の山部10Mに位置する耳部5及び当接面5aについて説明し、谷部10Vに位置する耳部5及び当接面5aの説明は省略する。
【0020】
サイドレール1,2は、合金鋼からなる。合金鋼は、例えばNiが添加されたスチール材である。サイドレール1,2のNi含有量の下限値は、スペーサエキスパンダ10に対するサイドレール1,2の単独回転を抑制できるような値に設定される。サイドレール1,2のNi含有量の上限値は、例えば、サイドレール1,2の加工性への影響を考慮した値に設定されてもよい。サイドレール1,2のNi含有量の上限値は、Ni起因のコストを考慮した値に設定されてもよい。
【0021】
具体的には、サイドレール1,2のNi含有量は、0.05wt%以上且つ0.60wt%以下である。サイドレール1,2のNi含有量は、0.26wt%以上且つ0.49wt%以下であってもよい。サイドレール1,2のNi含有量は、0.10wt%以上であってもよく、0.25wt%以上であってもよく、0.26wt%以上であってもよく、0.30wt%以上であってもよい。サイドレール1,2のNi含有量は、0.55wt%以下であってもよく、0.49wt%以下であってもよく、0.45wt%以下であってもよく、0.40wt%以下であってもよい。
【0022】
サイドレール1,2の母材硬さは、HV250以上且つ620以下であってもよい。サイドレール1,2の母材硬さは、HV450以上且つ620以下であってもよい。サイドレール1,2の母材硬さは、HV500以上且つ620以下であってもよい。このようなサイドレール1,2の母材硬さの範囲とすることで、サイドレール1,2の内周面1a,2aの摩耗の抑制を図りつつ、内周面1a,2aが当接する耳部5の摩耗の抑制を図ることができる。また、サイドレール1,2の折損のリスクを考慮すると、母材硬さの上限値は、HV620であってもよい。サイドレール1,2の内周面1a,2aの摩耗を抑制することで、オイルコントロールリング50の張力減退を抑制し、オイル消費の悪化を抑制しやすくなる。なお、サイドレール1,2には、窒化処理等の表面処理が施されてもよいし、防錆処理のためパーカ処理が施されてもよいし、未処理であってもよい。
【0023】
スペーサエキスパンダ10は、合金鋼からなる。合金鋼は、例えばNi含有量が8.0wt%以上且つ10.5wt%以下のステンレス鋼とすることができる。スペーサエキスパンダ10のNi含有量は、2.9wt%以上且つ16.1wt%以下であってもよい。スペーサエキスパンダ10のNi含有量は、6.5wt%以上且つ11.1wt%以下であってもよい。スペーサエキスパンダ10のNi含有量の上限値は、例えば、スペーサエキスパンダ10の加工性への影響を考慮した値に設定されてもよい。スペーサエキスパンダ10のNi含有量の上限値は、Ni起因のコストを考慮した値に設定されてもよい。スペーサエキスパンダ10は、例えば、合金鋼の板をプレス加工(切り曲げ加工及び打ち抜き加工)することによって製造することができる。スペーサエキスパンダ10では、例えば、表面処理が未処理とされている。スペーサエキスパンダ10の耳部5には、窒化処理等の表面処理が施されてもよい。窒化処理により耳部5の摩耗が抑制されると、オイルコントロールリング50の張力減退を抑制しやすくなる。
【0024】
スペーサエキスパンダ10において、耳部5の当接面5aは、スペーサエキスパンダ10の径方向に交差して延在する略矩形状の平面とされている。当接面5aには、例えば突起又は凹みが設けられていない。当接面5aは、スペーサエキスパンダ10の軸方向に対して所定の傾斜角度で傾斜する傾斜面となっている。当接面5aの傾斜角度は、例えば、15°以上且つ25°以下であってもよいし、18°以上且つ22°以下であってもよい。この傾斜角度で当接面5aが傾斜することにより、スペーサエキスパンダ10に対するサイドレール1,2の単独回転を抑制しやすくなる。当接面5aの傾斜角度が上記範囲にあることにより、例えばオイルコントロールリング50がピストンPの溝Paに装着されている状態において、サイドレール1,2における側面1b,2bとは反対側の側面が溝Paの上面又は下面に押し付けられやすくなる。よって、側面1b,2bとは反対側の側面と溝Paの上面又は下面との間で摩擦が発生し、サイドレール1,2の単独回転が抑制されやすくなる。当接面5aの傾斜角度が上記範囲の下限値よりも小さいと、上記摩擦が発生しにくくなる。当接面5aの傾斜角度の上記範囲の上限値は、オイルコントロールリング50の機能を適切に発揮させるために、サイドレール1,2が上側の耳部5の上面又は下側の耳部5の下面に乗り上げにくい値に設定されてもよい。当接面5aの幅は、例えば、0.5mm以上且つ1.2mm以下であってもよいし、0.55mm以上且つ1.0mm以下であってもよいし、0.6mm以上且つ0.8mm以下であってもよい。当接面5aの幅とは、スペーサエキスパンダ10の径方向に直交する方向(スペーサエキスパンダ10の周方向又は当該周方向に沿う接線方向)に沿う当接面5aの寸法を意味する。耳部5の当接面5aの幅が0.5mm以上であることで、サイドレール1,2の保持性が低下しにくくなる。耳部5の当接面5aの幅が1.2mm以下であることで、サイドレール1,2の内周面1a,2aにかかる面圧の低下を抑制し、単独回転を抑制しやすくなる。
【0025】
サイドレール1,2及びスペーサエキスパンダ10は、スペーサエキスパンダ10に対するサイドレール1,2の単独回転を抑制する観点で、内周面1a,2aの粗さ及び耳部5の当接面5aの粗さが所定の初期馴染み状態において一定範囲の値となるように構成されている。
【0026】
所定の初期馴染み状態とは、オイルコントロールリング50の使用初期においてサイドレール1,2の内周面1a,2aと耳部5の当接面5aとが一定程度の摺動を経て表面の粗さが安定した状態を意味する。所定の初期馴染み状態は、例えば、オイルコントロールリング50を組み込んだエンジンを実際に所定の馴染み運転を行った後の状態であってもよいし、エンジンの馴染み運転を模擬する装置を用いた試験等を行った後の状態であってもよい。所定の初期馴染み状態は、一般的にはオイルコントロールリング50の製造直後の未使用状態を意味しないが、例えば製造者において上述の一定程度の摺動を経て表面の粗さが安定した状態が「未使用状態」として定義される場合には、オイルコントロールリング50の未使用状態を含んでもよい。一定程度の摺動を経て表面の粗さが安定した状態としては、例えば防錆処理のためパーカ処理が施されている場合、パーカ処理が摩耗して表面の粗さが母材の粗さとなった状態を意味してもよい。一例として、後述の実施例における「単独回転及び張力減退の評価」に示すような評価試験後の状態であってもよい。
【0027】
サイドレール1,2の内周面1a,2aでは、所定の初期馴染み状態におけるRzが2.5μm以下である。Rzは、JIS B0601:2001に規定される粗さ曲線の最大高さRzであり、触針式表面粗さ試験機を用いて測定される。サイドレール1,2の内周面1a,2aでは、所定の初期馴染み状態におけるRzが2.0μm以下であってもよいし、1.75μm以下であってもよいし、1.5μm以下であってもよい。このようなサイドレール1,2の内周面1a,2aのRzは、例えばブラスト処理等によってサイドレールの内周面の粗さを大きくする場合と比べて小さいRzということができる。よって、サイドレール1,2の内周面1a,2aと当接するスペーサエキスパンダ10の耳部5が摩耗することを抑制しやすくなる。
【0028】
サイドレール1,2の内周面1a,2aでは、所定の初期馴染み状態におけるRpkが所定の初期馴染み状態におけるRvkよりも小さい。Rpkは、JIS B0671-2:2002に規定される突出山部高さ(凸部の高さ)Rpkであり、触針式表面粗さ試験機を用いて測定される。Rvkは、JIS B0671-2:2002に規定される突出谷部高さ(凹部の深さ)Rvkであり、触針式表面粗さ試験機を用いて測定される。
【0029】
サイドレール1,2の内周面1a,2aでは、所定の初期馴染み状態におけるRpkが0.55μm以下であってもよいし、0.45μm以下であってもよいし、0.30μm以下であってもよい。サイドレール1,2の内周面1a,2aでは、摩耗防止の観点から、所定の初期馴染み状態におけるRvkが0.80μm以下であってもよいし、0.70μm以下であってもよいし、0.55μm以下であってもよい。サイドレール1,2の内周面1a,2aでは、スペーサエキスパンダ10に対するサイドレール1,2の単独回転を抑制する観点から、所定の初期馴染み状態におけるRvkが0.01μm以上であってもよい。スペーサエキスパンダ10に対するサイドレール1,2の単独回転を抑制する観点から、サイドレール1,2の内周面1a,2aにおけるRpkに対するRvkの比率Rvk/Rpkは、1.25以上であってもよいし、1.45以上であってもよいし、1.75以上であってもよい。一例として、サイドレール1,2の内周面1a,2aでは、所定の初期馴染み状態におけるRpkが0.51μm以下であり、且つ所定の初期馴染み状態におけるRvkが0.76μm以下である。
【0030】
スペーサエキスパンダ10の耳部5の当接面5aでは、所定の初期馴染み状態におけるRzが2.0μm以下である。耳部5の当接面5aでは、所定の初期馴染み状態におけるRzが1.75μm以下であってもよいし、1.5μm以下であってもよいし、1.25μm以下であってもよい。
【0031】
耳部5の当接面5aでは、所定の初期馴染み状態におけるRpkが所定の初期馴染み状態におけるRvkよりも大きい。耳部5の当接面5aでは、摩耗防止の観点から、所定の初期馴染み状態におけるRpkが0.75μm以下であってもよいし、0.60μm以下であってもよいし、0.55μm以下であってもよいし、0.50μm以下であってもよい。耳部5の当接面5aでは、スペーサエキスパンダ10に対するサイドレール1,2の単独回転を抑制する観点から、所定の初期馴染み状態におけるRpkが0.01μm以上であってもよい。耳部5の当接面5aでは、所定の初期馴染み状態におけるRvkが0.50μm以下であってもよいし、0.30μm以下であってもよいし、0.20μm以下であってもよい。スペーサエキスパンダ10に対するサイドレール1,2の単独回転を抑制する観点から、耳部5の当接面5aにおけるRvkに対するRpkの比率Rpk/Rvkは、1.3以上であってもよいし、1.6以上であってもよいし、1.8以上であってもよい。一例として、耳部5の当接面5aは、所定の初期馴染み状態におけるRpkが0.75μm以下であり、且つ所定の初期馴染み状態におけるRvkが0.50μm以下である。
【0032】
ところで、3ピースのオイルコントロールリングでは、一対のサイドレールでスペーサエキスパンダを挟み込むことで1組のオイルコントロールリングが構成される。通常、3ピースのオイルコントロールリングは、ピストンの溝に装着され、当該溝の内部で1組のオイルコントロールリング全体として周方向に回転し得る。ただし、サイドレールの材料、サイドレールの表面処理、及びスペーサエキスパンダの表面処理の組合せによっては、スペーサエキスパンダに対してサイドレールが単独で回転してしまう事象(単独回転)が発生することがある。スペーサエキスパンダに対するサイドレールの単独回転が発生すると、上下一対のサイドレールの合口部の周方向位置が揃う場合がある。この場合、エンジンオイルが燃焼室内に上がりやすくなり、オイル消費量が増加することがある。
【0033】
この点、本実施形態に係るオイルコントロールリング50は、サイドレール1,2のNi含有量が0.05wt%以上且つ0.60wt%以下であること、スペーサエキスパンダ10のNi含有量が2.9wt%以上且つ16.1wt%以下であること、サイドレール1,2の内周面1a,2aでの所定の初期馴染み状態におけるRzが2.5μm以下であること、及び、耳部5の当接面5aでの所定の初期馴染み状態におけるRzが2.0μm以下であること、の4つの条件を全て満たしている。オイルコントロールリング50は、上記4つの条件の少なくとも一つを満たさないオイルコントロールリングと比較して、スペーサエキスパンダ10に対するサイドレール1,2の単独回転が生じにくくなる。また、オイルコントロールリング50によれば、例えばブラスト処理等によってサイドレールの内周面の粗さを大きくする場合と比べて、サイドレール1,2の内周面1a,2aと当接するスペーサエキスパンダ10の耳部5の摩耗の増大を抑制しやすい。よって、オイルコントロールリング50によれば、スペーサエキスパンダ10に対するサイドレール1,2の単独回転の抑制と、サイドレール1,2の内周面1a,2aとスペーサエキスパンダ10の耳部5との摩耗抑制と、の両立を図ることができる。
【0034】
サイドレール1,2の内周面1a,2aでは、所定の初期馴染み状態におけるRpkが所定の初期馴染み状態におけるRvkよりも小さい。耳部5の当接面5aでは、所定の初期馴染み状態におけるRpkが所定の初期馴染み状態におけるRvkよりも大きい。サイドレール1,2の内周面1a,2aでは、所定の初期馴染み状態におけるRpkが0.51μm以下であり、且つ所定の初期馴染み状態におけるRvkが0.76μm以下である。耳部5の当接面5aでは、所定の初期馴染み状態におけるRpkが0.75μm以下であり、且つ所定の初期馴染み状態におけるRvkが0.50μm以下である。この構成によれば、サイドレール1,2の内周面1a,2aのRpkに対応する(相関のある)凸部の高さと耳部5の当接面5aのRvkに対応する(相関のある)凹部の深さとの相互作用、及び、サイドレール1,2の内周面1a,2aのRvkに対応する(相関のある)凹部の深さと耳部5の当接面5aのRpkに対応する(相関のある)凸部の高さとの相互作用により、互いに噛み合う作用が生じて摩擦力が向上する。これにより、スペーサエキスパンダ10に対するサイドレール1,2の単独回転の抑制しつつ、サイドレール1,2の内周面1a,2aのRzを低減しやすくなる。また、サイドレール1,2の内周面1a,2aにおけるRpkに対するRvkの比率Rvk/Rpkは、1.25以上であってもよいし、1.45以上であってもよいし、1.75以上であってもよい。このようにサイドレール1,2の内周面1a,2aにおけるRvk/Rpkを高めることで、上述の互いに噛み合う作用が生じやすくなる。また、耳部5の当接面5aにおけるRvkに対するRpkの比率Rpk/Rvkは、1.3以上であってもよいし、1.6以上であってもよいし、1.8以上であってもよい。このように耳部5の当接面5aにおけるRvkに対するRpkの比率Rpk/Rvkを高めることで、上述の互いに噛み合う作用が生じやすくなる。
【0035】
ちなみに、サイドレール1,2にNiを添加することで、サイドレール1,2の内周面1a,2aと耳部5の当接面5aとの親和性を高めることができる。親和性とは、サイドレール1,2とスペーサエキスパンダ10とでそれぞれ一定量のNiを含有することで、サイドレール1,2の内周面1a,2aと耳部5の当接面5aとが滑りにくくなる効果(いわゆる、ともがね効果)を意味する。このような親和性の向上により、オイルコントロールリング50の使用初期において、サイドレール1,2の内周面1a,2aと耳部5の当接面5aとが早期に馴染むことが期待される。上述の互いに噛み合う作用が生じて摩擦力が向上することに加えて、サイドレール1,2の内周面1a,2aと耳部5の当接面5aとが早期に馴染むことにより、スペーサエキスパンダ10に対するサイドレール1,2の単独回転の抑制しやすくなる。
【0036】
サイドレール1,2のNi含有量は、0.26wt%以上且つ0.49wt%以下であってもよい。スペーサエキスパンダ10のNi含有量は、6.5wt%以上且つ11.1wt%以下であってもよい。これらのようなNi含有量とすることにより、上述のような親和性の向上をより一層期待することができる。
【0037】
サイドレール1,2の母材硬さは、HV250以上且つ620以下であってもよい。更に、サイドレール1,2の母材硬さは、HV450以上且つ620以下であってもよい。このようなサイドレール1,2の母材硬さの範囲とすることで、サイドレール1,2の内周面1a,2aの摩耗の抑制を図りつつ、内周面1a,2aが当接する耳部5の摩耗の抑制を図ることができる。
【0038】
耳部5の当接面5aの傾斜角度は、15°以上且つ25°以下であってもよいし、18°以上且つ22°以下であってもよい。また、耳部5の当接面5aの幅は、0.5mm以上且つ1.2mm以下であってもよいし、0.55mm以上且つ1.0mm以下であってもよいし、0.6mm以上且つ0.8mm以下であってもよい。耳部5の当接面5aの幅が0.5mm以上であることで、サイドレール1,2の保持性が低下しにくくなる。耳部5の当接面5aの幅が1.2mm以下であることで、サイドレール1,2の内周面1a,2aにかかる面圧の低下を抑制し、単独回転を抑制しやすくなる。これらのような当接面5aの構成により、スペーサエキスパンダ10に対するサイドレール1,2の単独回転の抑制の確実化を図ることができる。
【0039】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではない。
【0040】
上記実施形態では、サイドレール1,2の断面形状は、内周面1a,2aが上下対称に湾曲する円弧面形状をなしていたが、これに限定されない。内周面1a,2aは、上下非対称であってもよいし、テーパ断面等の円弧面以外の形状であってもよく、従来公知の形状とすることができる。
【0041】
上記実施形態は、全ての耳部5が実質的に同じ形状であったが、必ずしも実質的に同じ形状でなくてもよい。
【実施例】
【0042】
(実施例1~8)
Niを添加したスチール材のスペーサエキスパンダ、Niを添加したスチール材の一対のサイドレールを準備し、サイドレールのNi含有量が0.05wt%以上且つ0.60wt%以下であること、スペーサエキスパンダのNi含有量が2.9wt%以上且つ16.1wt%以下であること、サイドレールの内周面は所定の初期馴染み状態におけるRzが2.5μm以下であること、及び、耳部の当接面は所定の初期馴染み状態におけるRzが2.0μm以下であること、の4つの条件を全て満たすオイルコントロールリング(呼び径:80.5mm、組合せ幅寸法:2.0mm、組合せ厚さ:2.25mm)を作製した。触針式表面粗さ試験機を用いて、JIS B0601:2001に規定される粗さ曲線の最大高さRzと、JIS B0671-2:2002に規定される突出山部高さ(凸部の高さ)Rpkと、JIS B0671-2:2002に規定される突出谷部高さ(凹部の深さ)Rvkと、を測定した。ただし、測定可能部が短いため、規定される評価長さに代えて評価長さ0.4mmとして測定した。実施例1~8に係るオイルコントロールリングでは、サイドレールのNi含有量、サイドレールの母材硬さHV、内周面のRz、内周面のRpk、及び、内周面のRvkは、表1に示すとおりであった。実施例1~8に係るオイルコントロールリングでは、スペーサエキスパンダのNi含有量、スペーサエキスパンダの母材硬さHV、耳部の当接面のRz、耳部の当接面のRpk、及び、耳部の当接面のRvkは、表1に示すとおりであった。
【0043】
(比較例1~5)
Niを添加したスチール材のスペーサエキスパンダ、Niを添加したスチール材の一対のサイドレールを準備し、サイドレールのNi含有量が0.05wt%以上且つ0.60wt%以下であること、スペーサエキスパンダのNi含有量が2.9wt%以上且つ16.1wt%以下であること、サイドレールの内周面は所定の初期馴染み状態におけるRzが2.5μm以下であること、及び、耳部の当接面は所定の初期馴染み状態におけるRzが2.0μm以下であること、の4つの条件の少なくとも一つを満たさないオイルコントロールリング(呼び径:80.5mm、組合せ幅寸法:2.0mm、組合せ厚さ:2.25mm)を作製した。触針式表面粗さ試験機を用いて、Rzと、Rpkと、Rvkと、を測定した。ただし、測定可能部が短いため、規定される評価長さに代えて評価長さ0.4mmとして測定した。比較例1~5に係るオイルコントロールリングでは、サイドレールのNi含有量、サイドレールの母材硬さHV、内周面のRz、内周面のRpk、及び、内周面のRvkは、表1に示すとおりであった。比較例1~5に係るオイルコントロールリングでは、スペーサエキスパンダのNi含有量、スペーサエキスパンダの母材硬さHV、耳部の当接面のRz、耳部の当接面のRpk、及び、耳部の当接面のRvkは、表1に示すとおりであった。
【0044】
<単独回転及び張力減退の評価>
図4に示す装置を用いてスペーサエキスパンダに対するサイドレールの単独回転を評価した。
図4に示される装置100は、疑似オイルリング溝101を有するホルダー(擬似ピストン)102に、オイルコントロールリングを装着し、円筒(擬似シリンダ)103内で、支柱104に設けた支点105を中心に首振り運動させ、サイドレールの単独回転を評価するための装置である。なお、ホルダー102の中心軸と円筒103の中心軸をずらして配置した。これにより、両者の中心軸をずらさない場合と比較して厳しい条件で評価を行った。
【0045】
試験では、まず、スペーサエキスパンダの合口部の位置に対して、上下二枚のサイドレールを、スペーサエキスパンダの合口部の位置からそれぞれ反対方向に30°ずらして組み付けるようにオイルコントロールリングをホルダー102に装着した。首振り角度αを0.5°毎に、0.5°から7.5°まで、10往復/秒の速度で10分間ずつ首振り運動させることによって試験を行った。サイドレールの単独回転が起こった首振り角度の大きさによって、サイドレール単独回転の防止能力を評価した。サイドレール単独回転が起こった首振り角度が大きいほど、スペーサエキスパンダに対するサイドレールの単独回転を抑制しやすい構成であると評価できる。評価試験により、表1に示される結果を得た。
【0046】
【0047】
表1に示されるように、実施例2,4,6~8のオイルコントロールリングでは、サイドレール単独回転が起こった首振り角度αは7.0°以上であった(判定A)。実施例1,3,5のオイルコントロールリングでは、サイドレール単独回転が起こった首振り角度αは5.5°以上且つ7.0°未満であった(判定B)。実施例1~8では、オイルコントロールリングの張力の低下(張力減退率)は、6%以下であった。特に実施例6,8では、オイルコントロールリングの張力減退率は、3%であった。なお、張力減退率は、(試験前リング張力-試験後リング張力)/試験前リング張力×100(%) である。ここでの「試験前」及び「試験後」の用語の「試験」は、本実施例の「単独回転及び張力減退の評価」に示した評価試験のことである。
【0048】
一方、比較例1~4のオイルコントロールリングでは、サイドレール単独回転が起こった首振り角度αは5.5°未満であった(判定C)。比較例5のオイルコントロールリングでは、サイドレール単独回転が起こった首振り角度αは7.5°であったが、オイルコントロールリングの張力減退率は、11%であった。比較例5のオイルコントロールリングは、サイドレールのRzが5.53と大きいため、サイドレールの内周面とスペーサエキスパンダの耳部との摩耗抑制に不利であったと考えられる。よって、実施例1~8のオイルコントロールリングは、比較例1~5のオイルコントロールリングと比べて、スペーサエキスパンダに対するサイドレールの単独回転の抑制と、サイドレールの内周面とスペーサエキスパンダの耳部との摩耗抑制と、の両立が図られているということができる。
【0049】
なお、以下、本開示の種々の態様の構成要件を記載する。
[1]
一対のサイドレールと、前記一対のサイドレールの間に配置されるスペーサエキスパンダと、を備える3ピースのオイルコントロールリングであって、
前記スペーサエキスパンダは、前記サイドレールの内周面と当接する当接面を含む複数の耳部を有し、
前記サイドレールの前記内周面では、所定の初期馴染み状態におけるRzが2.5μm以下であり、
前記耳部の前記当接面では、前記所定の初期馴染み状態におけるRzが2.0μm以下であり、
前記サイドレールは合金鋼からなり、前記サイドレールのNi含有量は、0.05wt%以上且つ0.60wt%以下であり、
前記スペーサエキスパンダは合金鋼からなり、前記スペーサエキスパンダのNi含有量は、2.9wt%以上且つ16.1wt%以下である、オイルコントロールリング。
[2]
前記サイドレールの前記内周面では、前記所定の初期馴染み状態におけるRpkが前記所定の初期馴染み状態におけるRvkよりも小さい、[1]に記載のオイルコントロールリング。
[3]
前記耳部の前記当接面では、前記所定の初期馴染み状態におけるRpkが前記所定の初期馴染み状態におけるRvkよりも大きい、[1]又は[2]に記載のオイルコントロールリング。
[4]
前記サイドレールの前記内周面では、前記所定の初期馴染み状態におけるRpkが0.51μm以下であり、且つ前記所定の初期馴染み状態におけるRvkが0.76μm以下であり、
前記耳部の前記当接面では、前記所定の初期馴染み状態におけるRpkが0.75μm以下であり、且つ前記所定の初期馴染み状態におけるRvkが0.50μm以下である、[3]に記載のオイルコントロールリング。
[5]
前記サイドレールのNi含有量は、0.26wt%以上且つ0.49wt%以下であり、
前記スペーサエキスパンダのNi含有量は、6.5wt%以上且つ11.1wt%以下である、[1]~[4]の何れか一つに記載のオイルコントロールリング。
[6]
前記サイドレールの母材硬さは、HV250以上且つ620以下である、[1]~[5]の何れか一つに記載のオイルコントロールリング。
[7]
前記サイドレールの母材硬さは、HV450以上且つ620以下である、[6]に記載のオイルコントロールリング。
[8]
前記耳部の前記当接面の傾斜角度は、15°以上且つ25°以下である、[1]~[7]の何れか一つに記載のオイルコントロールリング。
[9]
前記耳部の前記当接面の幅は、0.5mm以上且つ1.2mm以下である、[1]~[8]の何れか一つに記載のオイルコントロールリング。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本開示によれば、スペーサエキスパンダに対するサイドレールの単独回転の抑制と、サイドレールの内周面とスペーサエキスパンダの耳部との摩耗抑制と、の両立を図ることができるオイルコントロールリングが提供される。
【符号の説明】
【0051】
1,2…サイドレール、1a,2a…内周面、5…耳部、5a…当接面、10…スペーサエキスパンダ、50…オイルコントロールリング。
【要約】
オイルコントロールリングは、一対のサイドレールと、一対のサイドレールの間に配置されるスペーサエキスパンダと、を備える3ピースのオイルコントロールリングである。スペーサエキスパンダは、サイドレールの内周面と当接する当接面を含む複数の耳部を有し、サイドレールの内周面では、所定の初期馴染み状態におけるRzが2.5μm以下であり、耳部の当接面では、所定の初期馴染み状態におけるRzが2.0μm以下であり、サイドレールは合金鋼からなり、サイドレールのNi含有量は、0.05wt%以上且つ0.60wt%以下であり、スペーサエキスパンダは合金鋼からなり、スペーサエキスパンダのNi含有量は、2.9wt%以上且つ16.1wt%以下である。