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特許7462164単結晶X線構造解析装置用試料ホルダ、試料ホルダユニットおよび吸蔵方法
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  • 特許-単結晶X線構造解析装置用試料ホルダ、試料ホルダユニットおよび吸蔵方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】単結晶X線構造解析装置用試料ホルダ、試料ホルダユニットおよび吸蔵方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20025 20180101AFI20240329BHJP
   G01N 23/205 20180101ALI20240329BHJP
   G01N 23/207 20180101ALI20240329BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
G01N23/20025
G01N23/205
G01N23/207
G01N1/28 W
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2020557652
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 JP2019045700
(87)【国際公開番号】W WO2020105726
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2018219780
(32)【優先日】2018-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-156218(JP,A)
【文献】特開2017-138302(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0152194(US,A1)
【文献】国際公開第2014/038220(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/001602(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N23/00-23/2276
G01N 1/00- 1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDream3)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶X線構造解析装置において使用する試料ホルダであって、
前記単結晶X線構造解析装置のゴニオメータに取り付けられる基台部と、
前記基台部に形成され、内部に形成された複数の微細孔に試料を吸蔵可能な細孔性錯体結晶を保持する試料保持部と、
前記基台部に形成され、前記細孔性錯体結晶に吸蔵させるための前記試料を導入する試料導入構造と、を備えていることを特徴とする試料ホルダ。
【請求項2】
請求項1に記載の試料ホルダであって、
前記試料保持部は、前記基台部から延びる突起状に形成され、その先端に前記細孔性錯体結晶を保持し、
前記細孔性錯体結晶は、前記試料保持部に保持された状態で前記試料を吸蔵することを特徴とする試料ホルダ。
【請求項3】
請求項2に記載の試料ホルダであって、
前記試料保持部は、前記基台部から前記突起状の先端部に抜ける貫通孔が形成され、
前記細孔性錯体結晶は、前記貫通孔内に保持された状態で前記試料を吸蔵することを特徴とする試料ホルダ。
【請求項4】
請求項1に記載の試料ホルダであって、
前記試料保持部は、前記基台部から延びる突起状の貫通孔として形成され、前記貫通孔の内部に試料保持領域を有し、
前記試料が吸蔵された細孔性錯体結晶は、前記試料保持領域外から前記試料保持領域内に移動し、前記試料保持領域に保持されることを特徴とする試料ホルダ。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の試料ホルダであって、
前記貫通孔の先端部は、逆テーパー形状に形成され、
前記細孔性錯体結晶は、前記逆テーパー形状の境の狭窄部に保持されることを特徴とする試料ホルダ。
【請求項6】
請求項3または請求項4に記載の試料ホルダであって、
前記貫通孔の先端部は、テーパー形状に形成され、
前記細孔性錯体結晶は、前記テーパー形状の境の狭窄部に保持されることを特徴とする試料ホルダ。
【請求項7】
請求項3から請求項6の何れか一項に記載の試料ホルダであって、
前記試料導入構造は、前記貫通孔を含み、
前記貫通孔は、前記試料の導入または排出に利用されることを特徴とする試料ホルダ。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れか一項に記載の試料ホルダであって、
前記試料保持部は、X線透過性の材料で構成されることを特徴とする試料ホルダ。
【請求項9】
単結晶X線構造解析装置において使用する試料ホルダと、前記試料ホルダを収納するアプリケータからなる試料ホルダユニットであって、
前記試料ホルダは、
前記単結晶X線構造解析装置のゴニオメータに取り付けられる基台部と、
前記基台部に形成され、内部に形成された複数の微細孔に試料を吸蔵可能な細孔性錯体結晶を保持する試料保持部と、
前記基台部に形成され、前記細孔性錯体結晶に前記試料を吸蔵させるための前記試料を導入する試料導入構造と、を備え、
前記アプリケータは、
前記試料ホルダを収納する収納空間および開口部と、
前記収納空間に収納された前記試料ホルダとの接触面に設けられたシール部と、を備え、
前記細孔性錯体結晶は、前記アプリケータに前記試料ホルダが収納された状態で、前記試料導入構造を通じて導入された試料を吸蔵することを特徴とする試料ホルダユニット。
【請求項10】
請求項9に記載の試料ホルダユニットであって、
前記試料保持部は、前記基台部から延びる突起状に形成され、その先端に前記細孔性錯体結晶を保持し、
前記細孔性錯体結晶は、前記試料保持部に保持された状態で前記試料を吸蔵することを特徴とする試料ホルダユニット。
【請求項11】
請求項9に記載の試料ホルダユニットであって、
前記試料保持部は、前記基台部から延びる突起状に形成され、
前記試料導入構造は、前記基台部から前記試料保持部に抜ける貫通孔であり、
前記細孔性錯体結晶は、前記貫通孔内に保持された状態で、前記試料を吸蔵することを特徴とする試料ホルダユニット。
【請求項12】
請求項11に記載の試料ホルダユニットであって、
前記試料ホルダの前記貫通孔の先端部は、逆テーパー形状に形成され、
前記細孔性錯体結晶は、前記逆テーパー形状の境の狭窄部に保持されることを特徴とする試料ホルダユニット。
【請求項13】
請求項11に記載の試料ホルダユニットであって、
前記試料ホルダの前記貫通孔の先端部は、テーパー形状に形成され、
前記細孔性錯体結晶は、前記テーパー形状の境の狭窄部に保持されることを特徴とする試料ホルダユニット。
【請求項14】
請求項11から請求項13の何れか一項に記載の試料ホルダユニットであって、
前記試料ホルダの前記試料導入構造は、前記貫通孔を含み、
前記貫通孔は、前記試料の導入または排出に利用されることを特徴とする試料ホルダユニット。
【請求項15】
請求項9から請求項14の何れか一項に記載の試料ホルダユニットであって、
前記試料保持部は、X線透過性の材料で構成されることを特徴とする試料ホルダユニット。
【請求項16】
単結晶X線構造解析装置において使用する試料ホルダと、前記試料ホルダを内部に収納するアプリケータからなる試料ホルダユニットであって、
前記試料ホルダは、
前記単結晶X線構造解析装置のゴニオメータに取り付けられる基台部と、
前記基台部に形成され、内部に試料保持領域を有する試料保持部と、
前記基台部に形成され、試料を導入して細孔性錯体結晶に吸蔵するための試料導入構造と、を備え、
前記アプリケータは、
前記試料ホルダを収納する収納空間および開口部と、
前記収納空間に収納された前記試料ホルダとの接触面に設けられたシール部と、
前記収納空間に配置され、内部に形成された複数の微細孔に前記試料を吸蔵可能な前記細孔性錯体結晶と、を備え、
前記細孔性錯体結晶は、前記アプリケータに前記試料ホルダが収納された状態で、前記試料導入構造を通じて導入された試料を吸蔵し、
前記試料保持部は、前記基台部から延びる突起状の貫通孔として形成され、前記貫通孔の内部に試料保持領域を有し、
前記試料が吸蔵された細孔性錯体結晶は、前記試料保持領域外から前記試料保持領域内に移動し前記試料保持領域に保持されることを特徴とする試料ホルダユニット。
【請求項17】
請求項16に記載の試料ホルダユニットであって、
前記貫通孔の先端部は、逆テーパー形状に形成され、
前記試料が吸蔵された細孔性錯体結晶は、前記逆テーパー形状の境の狭窄部に保持されることを特徴とする試料ホルダユニット。
【請求項18】
請求項16に記載の試料ホルダユニットであって、
前記貫通孔の先端部は、テーパー形状に形成され、
前記試料が吸蔵された細孔性錯体結晶は、前記テーパー形状の境の狭窄部に保持されることを特徴とする試料ホルダユニット。
【請求項19】
請求項16から請求項18の何れか一項に記載の試料ホルダユニットであって、
前記試料ホルダの前記試料導入構造は、前記貫通孔を含み、
前記貫通孔は、前記試料の導入または排出に利用されることを特徴とする試料ホルダユニット。
【請求項20】
請求項16から請求項19の何れか一項に記載の試料ホルダユニットであって、
前記試料保持領域は、X線透過性の材料で構成されることを特徴とする試料ホルダユニット。
【請求項21】
試料を細孔性錯体結晶に吸蔵させる吸蔵方法であって、
前記試料を導入する試料導入構造および突起状の貫通孔として形成され前記貫通孔の内部の所定の領域に前記細孔性錯体結晶を保持する試料保持領域を有する試料保持部を備え、単結晶X線構造解析装置のゴニオメータに取り付け可能な試料ホルダと、前記試料ホルダを収納する収納空間および開口部を備えたアプリケータとを吸蔵装置にセットするセット工程と、
前記吸蔵装置の試料導入パイプを前記試料導入構造に挿入する挿入工程と、
前記試料導入パイプを通して前記試料を導入する導入工程と、
前記導入された試料を前記細孔性錯体結晶に吸蔵させる吸蔵工程と、を含むことを特徴とする吸蔵方法。
【請求項22】
請求項21に記載の吸蔵方法であって、
前記吸蔵工程の後に、前記試料保持部の試料保持領域外から前記試料保持部の試料保持領域内に移動させた前記細孔性錯体結晶を前記試料保持領域に保持させる保持工程をさらに含み、
前記細孔性錯体結晶は、前記収納空間に配置され、
前記吸蔵工程において、前記細孔性錯体結晶は、前記収納空間で前記導入された試料が吸蔵されることを特徴とする吸蔵方法。
【請求項23】
請求項21に記載の吸蔵方法であって、
前記吸蔵工程の前に、前記試料保持部の試料保持領域外から前記試料保持部の試料保持領域内に移動させた前記細孔性錯体結晶を前記試料保持領域に保持させる保持工程をさらに含み、
前記吸蔵工程において、前記細孔性錯体結晶は、前記試料保持領域で前記導入された試料が吸蔵されることを特徴とする吸蔵方法。
【請求項24】
請求項22または請求項23に記載の吸蔵方法であって、
前記保持工程において、前記細孔性錯体結晶は、前記貫通孔の内部の狭窄部に保持されることを特徴とする吸蔵方法。
【請求項25】
請求項24に記載の吸蔵方法であって、
前記貫通孔の先端部は、逆テーパー形状に形成され、
前記保持工程において、前記細孔性錯体結晶は、前記貫通孔の前記逆テーパー形状側の開口部から前記逆テーパー形状の境の前記狭窄部に向かって移動され、前記狭窄部に保持されることを特徴とする吸蔵方法。
【請求項26】
請求項24に記載の吸蔵方法であって、
前記貫通孔の先端部は、テーパー形状に形成され、
前記保持工程において、前記細孔性錯体結晶は、前記貫通孔の前記テーパー形状側と対向する側の開口部から前記テーパー形状部分の前記狭窄部に向かって移動され、前記狭窄部に保持されることを特徴とする吸蔵方法。
【請求項27】
請求項25または26に記載の吸蔵方法であって、
前記導入工程は、前記細孔性錯体結晶が移動された方向に向かって前記試料を導入することを特徴とする吸蔵方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の構造をその原子や分子の配列などのミクロな集合構造によって解析することを可能にする次世代の単結晶X線構造解析装置に関し、特に、解析する対象となる単結晶試料の作成を含んだ処理を行うための冶具である単結晶X線構造解析装置用試料ホルダ、試料ホルダユニットおよび吸蔵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新たなデバイスや材料の研究開発では、日常的に材料の合成、材料の評価、それに基づいた次の研究方針の決定が行なわれている。短期間に材料開発を行うためのX線回折を用いた物質の構造解析では、目的の材料の機能・物性を実現する物質構造を効率良く探索するために、構造解析を効率的に行うことを可能とする物質の構造解析を中心とした物質構造の探索方法とそれに用いるX線構造解析は必要不可欠である。
【0003】
しかし、当該手法で得られた結果に基づいて構造解析を行うことは、X線の専門家でなければ難しかった。そのため、X線の専門家でなくても構造解析を行うことができるX線構造解析システムが求められていた。その中でも、特に、以下の特許文献1にも知られるように、単結晶X線構造解析は、正確で精度の高い分子の立体構造を得ることができる手法として注目されている。
【0004】
他方、この単結晶X線構造解析には、試料を結晶化して単結晶を用意しなければならないという大きな制約があった。しかしながら、以下の非特許文献1や2、更には、特許文献2にも知られるように、「結晶スポンジ」と呼ばれる材料(例えば、直径0.5nmから1nmの細孔が無数に開いた細孔性錯体結晶)の開発によって、結晶化しない液体状化合物や結晶化を行うに足る量を確保できない試料なども含め、単結晶X線構造解析を広く適用することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-3394号公報
【文献】再公表特許WO2016/017770号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Makoto Fujita; X-ray analysis on the nanogram to microgram scale using porous complexes; Nature 495,461-466; 28 March 2013
【文献】Hoshino et al. (2016), The updated crystalline sponge method IUCrJ, 3, 139-151
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した結晶スポンジを利用した従来技術になる単結晶X線構造解析では、各種の装置によって分離された数ng~数μg程度の極微量の試料を寸法100μm程度の極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジの骨格内に吸蔵する工程と共に、更に、この試料を吸蔵した極微小な結晶スポンジを取り出し、冶具に取り付け、単結晶X線構造解析装置内のX線照射位置に搭載するという微細で緻密な作業を伴う工程を、迅速かつ正確に行うことを必要とする。なお、これらの短時間で行う微細かつ緻密な作業は、結晶スポンジに吸蔵した後の試料の測定結果に多大な影響を及ぼすこととなり、非常に重要な作業となる。
【0008】
このことから、本発明は、上述した従来技術における問題点に鑑みて達成されたものであり、その目的は、特に、X線構造解析の専門知識がなくても、極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジに吸蔵した試料の取り出しや装置への搭載作業を含め、結晶スポンジによる単結晶X線構造解析を、迅速さも求められる従来の微細で緻密な作業を伴うことなく、迅速に、かつ、確実かつ容易に行うことを可能とする試料ホルダ及び試料ホルダユニットであって、換言すれば、歩留まり良くかつ効率的で、汎用性に優れ、かつ、ユーザフレンドリな単結晶X線構造解析装置を実現するため、単結晶X線構造解析装置において使用される試料ホルダおよび試料ホルダユニットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の試料ホルダは、単結晶X線構造解析装置において使用する試料ホルダであって、前記単結晶X線構造解析装置のゴニオメータに取り付けられる基台部と、前記基台部に形成され、内部に形成された複数の微細孔に前記試料を吸蔵可能な細孔性錯体結晶を保持する試料保持部と、前記基台部に形成され、前記細孔性錯体結晶に吸蔵させるための前記試料を導入する試料導入構造と、を備えていることを特徴としている。
【0010】
(2)また、本発明の試料ホルダにおいて、前記試料保持部は、前記基台部から延びる突起状に形成され、その先端に前記細孔性錯体結晶を保持し、前記細孔性錯体結晶は、前記試料保持部に保持された状態で前記試料を吸蔵することを特徴としている。
【0011】
(3)また、本発明の試料ホルダにおいて、前記試料保持部は、前記基台部から前記突起状の先端部に抜ける貫通孔が形成され、前記細孔性錯体結晶は、前記貫通孔内に保持された状態で前記試料を吸蔵することを特徴としている。
【0012】
(4)また、本発明の試料ホルダにおいて、前記試料保持部は、前記基台部から延びる突起状の貫通孔として形成され、前記貫通孔の内部に試料保持領域を有し、前記試料が吸蔵された細孔性錯体結晶は、前記試料保持領域外から前記試料保持領域内に移動し、前記試料保持領域に保持されることを特徴としている。
【0013】
(5)また、本発明の試料ホルダにおいて、前記貫通孔の先端部は、逆テーパー形状に形成され、前記細孔性錯体結晶は、前記逆テーパー形状の境の狭窄部に保持されることを特徴としている。
【0014】
(6)また、本発明の試料ホルダにおいて、前記貫通孔の先端部は、テーパー形状に形成され、前記細孔性錯体結晶は、前記テーパー形状の境の狭窄部に保持されることを特徴としている。
【0015】
(7)また、本発明の試料ホルダにおいて、前記試料導入構造は、前記貫通孔を含み、前記貫通孔は、前記試料の導入または排出に利用されることを特徴としている。
【0016】
(8)また、本発明の試料ホルダにおいて、前記試料保持部は、X線透過性の材料で構成されることを特徴としている。
【0017】
(9)また、本発明の試料ホルダユニットは、単結晶X線構造解析装置において使用する試料ホルダと、前記試料ホルダを収納するアプリケータからなる試料ホルダユニットであって、前記試料ホルダは、前記単結晶X線構造解析装置のゴニオメータに取り付けられる基台部と、前記基台部に形成され、内部に形成された複数の微細孔に前記試料を吸蔵可能な細孔性錯体結晶を保持する試料保持部と、前記基台部に形成され、前記細孔性錯体結晶に前記試料を吸蔵させるための前記試料を導入する試料導入構造と、を備え、前記アプリケータは、前記試料ホルダを収納する収納空間および開口部と、前記収納空間に収納された前記試料ホルダとの接触面に設けられたシール部と、を備え、前記細孔性錯体結晶は、前記アプリケータに前記試料ホルダが収納された状態で、前記試料導入構造を通じて導入された試料を吸蔵することを特徴としている。
【0018】
(10)また、本発明の試料ホルダユニットにおいて、前記試料保持部は、前記基台部から延びる突起状に形成され、その先端に前記細孔性錯体結晶を保持し、前記細孔性錯体結晶は、前記試料保持部に保持された状態で前記試料を吸蔵することを特徴としている。
【0019】
(11)また、本発明の試料ホルダユニットにおいて、前記試料保持部は、前記基台部から延びる突起状に形成され、前記試料導入構造は、前記基台部から前記試料保持部に抜ける貫通孔であり、前記細孔性錯体結晶は、前記貫通孔内に保持された状態で、貫通孔に導入される前記試料を吸蔵することを特徴としている。
【0020】
(12)また、本発明の試料ホルダユニットにおいて、前記試料ホルダの前記貫通孔の先端部は、逆テーパー形状に形成され、前記細孔性錯体結晶は、前記逆テーパー形状の境の狭窄部に保持されることを特徴としている。
【0021】
(13)また、本発明の試料ホルダユニットにおいて、前記試料ホルダの前記貫通孔の先端部は、テーパー形状に形成され、前記細孔性錯体結晶は、前記テーパー形状の境の狭窄部に保持されることを特徴としている。
【0022】
(14)また、本発明の試料ホルダユニットにおいて、前記試料ホルダの前記試料導入構造は、前記貫通孔を含み、前記貫通孔は、前記試料の導入または排出に利用されることを特徴としている。
【0023】
(15)また、本発明の試料ホルダユニットにおいて、前記試料保持部は、X線透過性の材料で構成されることを特徴としている。
【0024】
(16)また、本発明の試料ホルダユニットは、単結晶X線構造解析装置において使用する試料ホルダと、前記試料ホルダを内部に収納するアプリケータからなる試料ホルダユニットであって、前記試料ホルダは、前記単結晶X線構造解析装置のゴニオメータに取り付けられる基台部と、前記基台部に形成され、内部に試料保持領域を有する試料保持部と、前記基台部に形成され、前記試料を導入して前記細孔性錯体結晶に吸蔵するための試料導入構造と、を備え、前記アプリケータは、前記試料ホルダを収納する収納空間および開口部と、前記収納空間に収納された前記試料ホルダとの接触面に設けられたシール部と、前記収納空間に配置され、内部に形成された複数の微細孔に前記試料を吸蔵可能な細孔性錯体結晶と、を備え、前記細孔性錯体結晶は、前記アプリケータに前記試料ホルダが収納された状態で、前記試料導入構造を通じて導入された試料を吸蔵し、前記試料保持部は、前記基台部から延びる突起状の貫通孔として形成され、前記貫通孔の内部に試料保持領域を有し、前記試料が吸蔵された細孔性錯体結晶は、前記試料保持領域外から前記試料保持領域内に移動し前記試料保持領域に保持されることを特徴としている。
【0025】
(17)また、本発明の試料ホルダユニットにおいて、前記貫通孔の先端部は、逆テーパー形状に形成され、前記試料が吸蔵された細孔性錯体結晶は、前記逆テーパー形状の境の狭窄部に保持されることを特徴としている。
【0026】
(18)また、本発明の試料ホルダユニットにおいて、前記貫通孔の先端部は、テーパー形状に形成され、前記試料が吸蔵された細孔性錯体結晶は、前記テーパー形状の境の狭窄部に保持されることを特徴としている。
【0027】
(19)また、本発明の試料ホルダユニットにおいて、前記試料ホルダの前記試料導入構造は、前記貫通孔を含み、前記貫通孔は、前記試料の導入または排出に利用されることを特徴としている。
【0028】
(20)また、本発明の試料ホルダユニットにおいて、前記試料保持領域は、X線透過性の材料で構成されることを特徴としている。
【0029】
(21)また、本発明の吸蔵方法は、試料を細孔性錯体結晶に吸蔵させる吸蔵方法であって、前記試料を導入する試料導入構造および突起状の貫通孔として形成され前記貫通孔の内部の所定の領域に前記細孔性錯体結晶を保持する試料保持領域を有する試料保持部を備えた試料ホルダと、前記試料ホルダを収納する収納空間および開口部を備えたアプリケータとを吸蔵装置にセットするセット工程と、前記吸蔵装置の試料導入パイプを前記試料導入構造に挿入する挿入工程と、前記試料導入パイプを通して前記試料を導入する導入工程と、前記導入された試料を前記細孔性錯体結晶に吸蔵させる吸蔵工程と、を含むことを特徴としている。
【0030】
(22)また、本発明の吸蔵方法は、前記吸蔵工程の後に、前記試料保持部の試料保持領域外から前記試料保持部の試料保持領域内に移動させた前記細孔性錯体結晶を前記試料保持領域に保持させる保持工程をさらに含み、前記細孔性錯体結晶は、前記収納空間に配置され、前記吸蔵工程において、前記細孔性錯体結晶は、前記収納空間で前記導入された試料が吸蔵されることを特徴としている。
【0031】
(23)また、本発明の吸蔵方法は、前記吸蔵工程の前に、前記試料保持部の試料保持領域外から前記試料保持部の試料保持領域内に移動させた前記細孔性錯体結晶を前記試料保持領域に保持させる保持工程をさらに含み、前記吸蔵工程において、前記細孔性錯体結晶は、前記試料保持領域で前記導入された試料が吸蔵されることを特徴としている。
【0032】
(24)また、本発明の吸蔵方法は、前記保持工程において、前記細孔性錯体結晶は、前記貫通孔の内部の狭窄部に保持されることを特徴としている。
【0033】
(25)また、本発明の吸蔵方法は、前記貫通孔の先端部は、逆テーパー形状に形成され、前記保持工程において、前記細孔性錯体結晶は、前記貫通孔の前記逆テーパー形状側の開口部から前記逆テーパー形状の境の前記狭窄部に向かって移動され、前記狭窄部に保持されることを特徴としている。
【0034】
(26)また、本発明の吸蔵方法は、前記貫通孔の先端部は、テーパー形状に形成され、前記保持工程において、前記細孔性錯体結晶は、前記貫通孔の前記テーパー形状側と対向する側の開口部から前記テーパー形状部分の前記狭窄部に向かって移動され、前記狭窄部に保持されることを特徴としている。
【0035】
(27)また、本発明の吸蔵方法は、前記導入工程は、前記細孔性錯体結晶が移動された方向に向かって前記試料を導入することを特徴としている。
【発明の効果】
【0036】
上述した本発明の単結晶X線構造解析装置用試料ホルダ及び試料ホルダユニットによれば、単結晶X線構造解析装置における脆弱(fragile)な結晶スポンジへの試料の吸蔵とその後のゴニオメータ先端部への取り付け作業を、従来の緻密で微細な工程を伴うことなく、迅速かつ正確かつ容易に行うことができ、結晶スポンジによる単結晶X線構造解析を、迅速かつ正確かつ容易に行うことができる。そのことから、結晶スポンジによる単結晶X線構造解析を容易に利用可能にして、広く普及することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の一実施の形態になる単結晶X線回折装置を備えた単結晶X線構造解析装置の全体構成を示す図である。
図2】上記単結晶X線回折装置の構成を示す図である。
図3】上記単結晶X線構造解析装置内部の電気的構成を示すブロック図である。
図4】上記単結晶X線構造解析装置により得られるXRDSパターン又はイメージを示す写真を含む図である。
図5】上記単結晶X線構造解析装置においてX線回折データ測定・処理ソフトウェアを実行した画面の一例を示す写真を含む図である。
図6】上記単結晶X線構造解析装置の構造解析プログラムを用いて作成した分子モデルを表示した画面を含む図である。
図7】上記単結晶X線回折装置のゴニオメータを中心にした構造の一例を示す写真を含む図である。
図8】本発明の実施例1の上記ゴニオメータに取り付ける試料ホルダの一例を示す断面図である。
図9】上記試料ホルダを収納するアプリケータの斜視図である。
図10】上記試料ホルダがアプリケータに収納された状態の試料ホルダユニットの説明図である。
図11】上記試料ホルダに試料導入パイプが挿入される過程を示す説明図である。
図12】同じく試料導入パイプから導入された試料が結晶スポンジに吸蔵される工程を示す説明図である。
図13】単結晶X線構造解析において用いられる前処理装置の一例を示す図である。
図14】本発明の実施例2の試料ホルダユニットの断面図である。
図15】同じく実施例2の試料ホルダのゴニオメータへの取付姿勢の断面図である。
図16】本発明の実施例3の試料ホルダユニットの断面図である。
図17】同じく実施例3の試料ホルダユニットの吸引工程における断面図である。
図18】同じく実施例3の試料ホルダのゴニオメータへの取付姿勢の断面図である。
図19】上記実施例3の変形例になる試料ホルダのゴニオメータへの取付姿勢の断面図である。
図20】上記実施例3の他の変形例になる試料ホルダのゴニオメータへの取付姿勢の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の一実施の形態になる、結晶スポンジを利用した単結晶X線構造解析装置に用いる試料ホルダおよび試料ホルダユニットについて、添付の図面を参照しながら、詳細に説明する。なお、本出願において「AまたはB」の表現は、「AおよびBの少なくとも一方」を意味し、AおよびBがありえないという特段の事情がない限り「AおよびB」を含む。
【0039】
添付の図1には、本発明の一実施の形態になる、単結晶X線回折装置を含む単結晶X線構造解析装置の全体外観構成が示されており、図からも明らかなように、単結晶X線構造解析装置1は、冷却装置やX線発生電源部を格納した基台4と、その基台4の上に載置された防X線カバー6とを有する。
【0040】
防X線カバー6は、単結晶X線回折装置9を包囲するケーシング7及びそのケーシング7の前面に設けられた扉8等を有する。ケーシング7の前面に設けられた扉8は開くことができ、この開いた状態で内部の単結晶X線回折装置9に対して種々の操作を行うことができる。なお、図に示す本実施形態は、後にも述べる結晶スポンジを利用して物質の構造解析を行う単結晶X線回折装置9を含んだ単結晶X線構造解析装置1である。
【0041】
単結晶X線回折装置9は、図2にも示すように、X線管11及びゴニオメータ12を有する。X線管11は、ここでは図示しないが、フィラメントと、フィラメントに対向して配置されたターゲット(「対陰極」とも言う)と、それらを気密に格納するケーシングとを有し、このフィラメントは、図1の基台4に格納されたX線発生電源部によって通電されて発熱して熱電子を放出する。また、フィラメントとターゲットとの間にはX線発生電源部によって高電圧が印加され、フィラメントから放出された熱電子が高電圧によって加速されてターゲットに衝突する。この衝突領域がX線焦点を形成し、このX線焦点からX線が発生して発散する。より詳細には、このX線管11は、ここでは図示しないが、マイクロフォーカス管と多層膜集光ミラー等の光学素子を含んで構成されており、より高い輝度のビームを照射することが可能であり、また、Cu、MoやAgなどの線源から選択可能となっている。上記に例示するように、フィラメントと、フィラメントに対向して配置されたターゲットと、それらを気密に格納するケーシングが、X線源として機能し、マイクロフォーカス管と多層膜集光ミラー等の光学素子を含むX線照射のための構成がX線照射部として機能する。
【0042】
また、ゴニオメータ12は、解析すべき試料Sを支持すると共に、試料SのX線入射点を通る試料軸線ωを中心として回転可能とするθ回転台16と、θ回転台16のまわりに配置されて試料軸線ωを中心として回転可能な2θ回転台17とを有する。なお、試料Sは、本実施形態の場合、後にも詳述する試料ホルダ214の一部に予め取り付けられた結晶スポンジの内部に吸蔵されている。ゴニオメータ12の基台18の内部には、上述したθ回転台16及び2θ回転台17を駆動するための駆動装置(図示せず)が格納されており、これらの駆動装置によって駆動されて、θ回転台16は所定の角速度で間欠的又は連続的に回転し、いわゆるθ回転する。また、これらの駆動装置によって駆動されて2θ回転台17は間欠的又は連続的に回転し、いわゆる2θ回転する。上記の駆動装置は任意の構造によって構成できるが、例えば、ウォームとウォームホイールとを含んで構成される動力伝達構造によって構成できる。
【0043】
ゴニオメータ12の外周の一部にはX線検出器22が載置されており、このX線検出器22は、例えば、CCD型やCMOS型の2次元ピクセル検出器、ハイブリッド型ピクセル検出器などによって構成される。なお、X線検出測定部は、試料により回折又は散乱されたX線を検出して測定する構成を指し、X線検出器22およびこれを制御する制御部を含む。
【0044】
単結晶X線回折装置9は、以上のように構成されているので、試料Sは、ゴニオメータ12のθ回転台16のθ回転によって試料軸線ωを中心としてθ回転する。この試料Sがθ回転する間、X線管11内のX線焦点から発生して試料Sへ向けられるX線は所定の角度で試料Sに入射して回折・発散する。即ち、試料Sへ入射するX線の入射角度は試料Sのθ回転に応じて変化する。
【0045】
試料Sに入射するX線の入射角度と結晶格子面との間でブラッグの回折条件が満足されると、その試料Sから回折X線が発生する。この回折X線はX線検出器22に受光されてそのX線強度が測定される。以上により、入射X線に対するX線検出器22の角度、すなわち回折角度に対応する回折X線の強度が測定され、この測定結果から試料Sに関する結晶構造等が解析される。
【0046】
続いて、図3(A)は、上記単結晶X線構造解析装置における制御部110を構成する電気的な内部構成の詳細の一例を示す。なお、本発明が以下に述べる実施形態に限定されるものでないことは、もちろんである。
【0047】
この単結晶X線構造解析装置1は、上述した内部構成を含んでおり、更に、適宜の物質を試料として測定を行う測定装置102と、キーボード、マウス等によって構成される入力装置103と、表示手段としての画像表示装置104と、解析結果を印刷して出力するための手段としてのプリンタ106と、CPU(Central Processing Unit)107と、RAM(Random Access Memory)108と、ROM(Read Only Memory)109と、外部記憶媒体としてのハードディスク111などを有する。これらの要素はバス112によって電気的に相互につながれている。
【0048】
画像表示装置104は、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ等といった画像表示機器によって構成されており、画像制御回路113によって生成される画像信号に従って画面上に画像を表示する。画像制御回路113はこれに入力される画像データに基づいて画像信号を生成する。画像制御回路113に入力される画像データは、CPU107、RAM108、ROM109及びハードディスク111を含んで構成されるコンピュータによって実現される各種の演算手段の働きによって形成される。プリンタ106は、インクプロッタ、ドットプリンタ、インクジェットプリンタ、静電転写プリンタ、その他任意の構造の印刷用機器を用いることができる。なお、ハードディスク111は、光磁気ディスク、半導体メモリ、その他、任意の構造の記憶媒体によって構成することもできる。
【0049】
ハードディスク111の内部には、単結晶X線構造解析装置1の全般的な動作を司る分析用アプリケーションソフト116と、測定装置102を用いた測定処理の動作を司る測定用アプリケーションソフト117と、画像表示装置104を用いた表示処理の動作を司る表示用アプリケーションソフト118とが格納されている。これらのアプリケーションソフトは、必要に応じてハードディスク111から読み出されてRAM108へ転送された後に所定の機能を実現する。
【0050】
この単結晶X線構造解析装置1は、更に、上記測定装置102によって得られた測定データを含めた各種の測定結果を記憶するための、例えば、クラウド領域に置かれたデータベースも含んでいる。図の例では、後にも説明するが、上記の測定装置102によって得られたXRDSイメージデータを格納するXRDS情報データベース120、顕微鏡により得られた実測イメージを格納する顕微鏡イメージデータベース130、更には、例えば、XRFやラマン光線等、X線以外の分析により得られた測定結果や、物性情報を格納するその他分析データベース140が示されている。なお、これらのデータベースは、必ずしも、単結晶X線構造解析装置1の内部に搭載される必要はなく、例えば、外部に設けられてネットワーク150等を介して相互に通信可能に接続されてもよい。
【0051】
データファイル内に複数の測定データを記憶するためのファイル管理方法としては、個々の測定データを個別のファイル内に格納する方法も考えられるが、本実施形態では、図3(B)に示すように、複数の測定データを1つのデータファイル内に連続して格納することとしている。なお、図3(B)において「条件」と記載された記憶領域は、測定データが得られたときの装置情報および測定条件を含む各種の情報を記憶するための領域である。
【0052】
このような測定条件としては、(1)測定対象物質名、(2)測定装置の種類、(3)測定温度範囲、(4)測定開始時刻、(5)測定終了時刻、(6)測定角度範囲、(7)走査移動系の移動速度、(8)走査条件、(9)試料に入射するX線の種類、(10)試料高温装置等といったアタッチメントを使ったか否か、その他、各種の条件が考えられる。
【0053】
XRDS(X-ray Diffraction and Scattering)パターン又はイメージ(図4を参照)は、上記測定装置102を構成するX線検出器22の2次元空間である平面上で受け取られたX線を、当該検出器を構成する平面状に配列された画素毎に受光/蓄積して、その強度を測定することにより得られるものである。例えば、X線検出器22の各画素毎に、積分によって受光したX線の強度を検出することによれば、rとθの2次元空間上のパターン又はイメージが得られる。
【0054】
<測定用アプリケーションソフト>
照射されるX線に対する対象材料によるX線の回折や散乱によって得られる観測空間上のXRDSパターン又はイメージは、対象材料の実空間における電子密度分布の情報を反映している。しかしながら、XRDSパターンは、rとθの2次元空間であり、3次元空間である対象材料の実空間における対称性を直接的に表現するものではない。そのため、一般的に、現存のXRDSイメージだけでは、材料を構成する原子や分子の(空間)配列を特定することは困難であり、X線構造解析の専門知識を必要とする。そのため、本実施例では、上述した測定用アプリケーションソフトを採用して自動化を図っている。
【0055】
その一例として、図5(A)及び(B)にその実行画面を示すように、単結晶構造解析のためのプラットフォームである「CrysAlisPro」と呼ばれるX線回折データ測定・処理ソフトウェアを搭載し、予備測定、測定条件の設定、本測定、データ処理などを実行する。更には、「AutoChem」と呼ばれる自動構造解析プラグインを搭載することにより、X線回折データ収集と並行して、構造解析および構造の精密化を実行する。そして、図6にも示す「Olex2」と呼ばれる構造解析プログラムにより、空間群決定から位相決定、分子モデルの構築と修正、構造の精密化、最終レポート、CIFファイルの作成を行う。
【0056】
以上、単結晶X線構造解析装置1の全体構造やその機能について述べたが、以下には、特に、本発明に係る結晶スポンジと、それに関連する装置や冶具について、添付の図面を参照しながら詳細に述べる。
【0057】
<結晶スポンジ>
上述したように、内部に直径0.5nmから1nmの細孔が無数に開いた、寸法が数10μm~数100μm程度の極微小で脆弱(fragile)な細孔性錯体結晶である「結晶スポンジ」と呼ばれる材料の開発によって、単結晶X線構造解析は、結晶化しない液体状化合物や、或いは、結晶化を行うに足る量が確保できない数ng~数μgの極微量の試料なども含め、広く適用することが可能となっている。
【0058】
しかしながら、現状においては、上述した結晶スポンジの骨格内への試料の結晶化である吸蔵(post-crystallization)を行うためには、各種の前処理(分離)装置によって分離された数ng~数μg程度の極微量の試料を、既に述べたように、容器内において、シクロヘキサン等の保存溶媒に含浸して提供される外径100μm程度の極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジの骨格内に吸蔵させる工程が必要となる。更には、その後、この試料を吸蔵した極微小で脆弱(fragile)な取り扱い難い結晶スポンジを、迅速に(結晶スポンジが乾燥により破壊されない程度の短い時間で)、容器から取り出し、単結晶X線回折装置内のX線照射位置に、より具体的には、ゴニオメータ12の試料軸(所謂、ゴニオヘッドピン)の先端部に、センタリングを行いながら正確に搭載する工程を必要とする。これらの工程は、X線構造解析の専門知識の有無に関わらず、作業者に非常な緻密性を要求する微細で、かつ、迅速性をも要求する作業であり、結晶スポンジに吸蔵した後の試料の測定結果に多大な影響を及ぼすこととなる。即ち、これらの作業が極微小な結晶スポンジを利用した単結晶X線構造解析を歩留まりの悪いものとしており、このことが、結晶スポンジを利用した単結晶X線構造解析が広く利用されることから阻害される一因ともなっている。
【0059】
<試料ホルダ、試料ホルダユニット>
本発明は、上述したような発明者の知見に基づいて達成されたものであり、極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジによる単結晶X線構造解析を、以下に述べる結晶スポンジ用試料ホルダ(単に、試料ホルダともいう)を用いることにより、迅速に、確実かつ容易に行うことを可能とするものであり、換言すれば、歩留まり良くかつ効率的で、汎用性に優れ、かつ、ユーザフレンドリな単結晶X線構造解析装置を実現するものである。即ち、本発明に係る次世代の単結晶X線構造解析装置では、極微量な試料Sを吸蔵した極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジを用意すると共に、更には、当該試料S(結晶スポンジ)を吸蔵容器から取り出して、結晶スポンジが乾燥により破壊されない程度の短時間で、迅速に、ゴニオメータ12の先端部の所定位置に、正確かつ迅速に取り付けなければならないという、大きな制約があるが、特に、汎用性にも優れたユーザフレンドリな装置を実現するためには、かかる作業を、高度な専門知識や作業の緻密性を要求せずに、迅速かつ容易に実行可能なものとする必要がある。
【0060】
本発明は、かかる課題を解消し、即ち、極微小で脆弱(fragile)な取り扱い難い結晶スポンジを使用しながらも、試料の当該結晶スポンジへの吸蔵やその後の装置への搭載を含む作業を、誰でも、迅速かつ確実かつ容易に、歩留まり良く効率的で、ユーザフレンドリに行うことが可能で、かつ、汎用性にも優れた単結晶X線構造解析装置を実現可能にするための冶具である、単結晶X線構造解析装置用試料ホルダ及び試料ホルダユニットを提供するものであり、以下に詳述する。
【0061】
図7(A)は、ゴニオメータ12の先端部を拡大して示しており、この図では、本発明により提案される解析すべき試料を吸蔵する結晶スポンジ200をその先端部に予め取り付けた冶具である、図7(B)に拡大図を示した、所謂、試料ホルダ214が、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド15に取り付けられる(マウントされる)様子を示している。なお、この試料ホルダ214は、例えば、磁力などを利用した取付け/位置決め機構によって、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド15に対して着脱可能で、かつ、誰でも正確な位置に容易かつ高精度に取り付けることが可能となっている。
【実施例1】
【0062】
図8は、実施例1の試料ホルダ214の断面を示している。試料ホルダ214は、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド15(図7(A)参照)に取り付けられる金属等からなる円盤状の基台部201と、その一方の面(図では下面)から下方に延びる突起状に形成された突出部202で構成される。突出部202は、円錐部202aと突起状に形成された試料保持部(所謂、ゴニオヘッドピンに対応する)202bで構成される。試料保持部202bの先端の所定位置には、上述した解析すべき試料を吸蔵するための結晶スポンジ200が、予め試料ホルダ214と一体に取り付けられている。
【0063】
また、基台部201の他の面(図では上面)には、円錐台の凹状の取付部203が形成され、この取付部203には、前述のゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド15との接触面に、図示しないマグネットや、嵌合凸部(または凹部)203aが設けられている。この構成により、試料ホルダ214は、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド15に対し、着脱可能で、誰でも容易かつ高精度に搭載することが可能となる。
【0064】
試料ホルダ214の円錐部202aの基台部側の外径は、基台部201の外径より小さく設定されており、環状の段部208が形成される。また、基台部201から突出部202に貫通する試料導入構造としての貫通孔204、205が形成され、各貫通孔204、205には、孔内を気密に閉塞するシール部206、207が設けられる。
【0065】
図9には、試料ホルダ214を収納し、試料ホルダ214に予め取り付けられた結晶スポンジ200に試料を吸蔵するための冶具となる、アプリケータ300の斜視図が示されている。図10は、アプリケータ300と、その内部に収納された試料ホルダ214とで構成される試料ホルダユニット400の断面図である。
【0066】
アプリケータ300は、例えば、ガラスや樹脂や金属等の透明又は不透明な部材で形成されており、その内部には、試料ホルダ214を収納するための収納空間301が形成され、更に、その上部には、試料ホルダ214を嵌入し、かつ、取り出すための開口部302が形成されている。開口部302の環状の底面には、例えば、環状のシール部(Oリング)304が設けられており、試料ホルダ214の収納時に、試料ホルダ214の段部208が、シール部304に接触して、試料ホルダ214とアプリケータ300の間が気密に保たれる。
【0067】
図11は、試料ホルダの貫通孔204、205(図8参照)に試料導入構造としての試料導入パイプ(以下、単にパイプともいう)220、221が挿入される過程を示す説明図であり、図12は、上記パイプが挿入された状態の説明図である。各パイプ220、221は、前記シール部206、207(図8参照)によって、貫通孔204、205との間で気密に保持される。符号210は、試料導入パイプ220、221を支持する支持部であり、貫通孔204、205の間隔と同一間隔で、互いに略平行状態に両パイプを支持する。支持部210は、凹状に形成される取付部203とほぼ同一形状の円錐台形状であり、その高さHは試料ホルダ214の取付部203の高さhより高く設定される。
【0068】
試料導入パイプ220、221は、支持部210を手指またはマニュピレータ等で押し下げることにより、貫通孔204、205に同時に挿入される。支持部210は、その下端が取付部203の凹部に入り込んでその底面に当接して下降後停止し、パイプ220、221を安定的に支持する。
【0069】
図12に示すように、支持部210は、停止状態において取付部203から高さHとhの差分だけ上方に突出(符号211参照)する。この突出している部分211は、結晶スポンジ200への試料の吸蔵の後には、パイプ220、221を引き抜くときの冶具として有用である。すなわち、支持部210の突出している部分211を手指またはマニュピレータ等で挟持して引き上げることにより、パイプ220、221を同時に効率よく引き抜くことができる。
【0070】
図11図12において、符号230は、アプリケータ300の収納空間301の底部に注入された疎水性の溶媒(例えばシクロヘキサン)であり、試料保持部202bの先端部の結晶スポンジ200が浸るレベルに設定されて充填される。パイプ220は試料の注入用のパイプであり、パイプ221は排出用のパイプである。パイプ220の先端部は、溶媒230に没入して結晶スポンジ200の近傍まで伸び、パイプ221の先端部は、溶媒230に浸らない位置まで伸びている。
【0071】
図12において、注入用のパイプ220から測定すべき試料(例えば気体)が注入されると、試料は溶媒230に入り込み、溶媒中で結晶スポンジ200内に吸蔵される。過剰に供給された試料(溶媒、担体等)は、パイプ221を経由して外部に排出される。
【0072】
その後、本例では、支持部210の突出する部分211を手指またはマニュピレータ等で挟持して持上げることにより、パイプ220、221が同時に引き抜かれ、次いで、試料の吸蔵が行われた結晶スポンジ200を有する試料ホルダ214が、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド15に取り付けられる。なお、試料ホルダ214と、その取扱い冶具であるアプリケータ300とは、共に一体化した試料ホルダユニット400として、解析作業に必要な数だけ揃えて、箱状の容器に収納し、所謂、セットとして提供することも可能である。
【0073】
このような構成の試料ホルダユニット400によれば、当該試料ホルダ214の一部を構成するピン状の保持部202b(ゴニオヘッドピンに対応)の先端部に取り付けた結晶スポンジ200を、破損し、或いは、試料ホルダ214から逸脱することなく、安全かつ容易に取り扱うことができる。即ち、極微量な試料を吸蔵した当該結晶スポンジ200を、従来のように吸蔵容器から単体で取り出されて損傷することなく、安全で簡単かつ容易に、かつ、乾燥により破壊されない程度の短時間で、迅速に、ゴニオヘッド15上に準備することができる。本実施例では、この試料の吸蔵が完了した試料ホルダ214を、アプリケータ300から取り外し、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド15(図7(A)を参照)に取り付ける。これにより、結晶スポンジ200に吸蔵した当該試料Sは、高度な専門知識や緻密な作業を必要とすることなく、単結晶X線回折装置9内の所定の位置に容易に、正確かつ迅速に配置されることとなる。
【0074】
<吸蔵装置(ソーキングマシン)による試料の導入>
続いて、上記構成の試料ホルダユニット400(図10~12参照)の結晶スポンジ200への、吸蔵装置を用いて行われる試料の吸蔵について説明する。
【0075】
図13において、前処理装置600を構成するLC(液体クロマトグラフィ)601、GC(気体クロマトグラフィ)602、更には、SCF(超臨界液体クロマトグラフィ)603やCE(電気泳動)604等によって抽出された極微量な試料Sは、各種の切替弁や調圧装置を備えて必要な条件(流量や圧力)で流体を供給する吸蔵装置(ソーキングマシン)500を介して、試料ホルダ214の貫通孔204、205に挿入される一対の試料導入パイプ220、221に供給され、当該試料は、アプリケータ300内部の収納空間301に選択的に導入される。すなわち試料は、供給側配管から供給側の試料導入パイプ220に送られ、供給側の試料導入パイプ220の先端部分からアプリケータ300の内部の試料ホルダ214に供給される。試料のみ、または試料と保存溶媒とが混合された溶液が、供給側の試料導入パイプ220内を流れ供給される。このことにより、導入された当該極微量の試料Sは、アプリケータ300の収納空間301内において、試料ホルダ214のピン状の試料保持部202bの先端に取り付けた結晶スポンジ200に接触して試料の吸蔵が行われる。なお、ここでの電気泳動装置は、キャピラリー電気泳動や等電点電気泳動等、種々の電気泳動装置を含む。試料が注入された状態で所定の時間が経過した後、排出側の試料導入パイプ221から過剰な試料、または試料と保存溶媒とが混合された溶液が排出される。吸蔵装置500を用いない場合、不要な保存溶媒または溶液が排出側の試料導入パイプ220内を流れ排出される。したがって、排出側の試料導入パイプ220には、試料が流れない場合がありうる。
【0076】
そして、この吸蔵工程が完了した試料ホルダ214は、アプリケータ300から取り外されて、単結晶X線回折装置9内の所定の位置、即ち、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド15に、例えば、上述した磁力等の位置決め機構を利用して、正確に取り付けられる。このことによれば、試料ホルダ214のピン状の保持部202bの一部(先端)に取り付けられた結晶スポンジ200は、試料の吸蔵が完了した後、ゴニオメータ12の先端部、即ち、X線管11からのX線ビームが集光されて照射される位置に配置されることとなる。換言すれば、結晶スポンジ200に吸蔵された試料Sは、単結晶X線回折装置9内の所定の位置に正確に配置され、その後、X線検出器22により当該試料Sからの回折X線の強度が測定されてその結晶構造等が解析されることとなる。
【0077】
このように、本発明の試料ホルダ214、および試料ホルダユニット400によれば、誰でも容易かつ安全に、極微量の試料を、試料ホルダ214に予め一体に取り付けられた極微小な寸法の結晶スポンジ200に吸蔵させると共に、その後、当該試料Sをゴニオメータ12に、高精度で正確な位置に結晶スポンジが乾燥により破壊されない短時間で迅速に、かつ、安全に搭載することが可能となる。なお、その後、上述した単結晶X線回折装置9によって試料Sに所要の波長のX線を照射しながら対象材料によるX線の回折や散乱測定し、上述した単結晶X線構造解析装置を構成する測定用アプリケーションソフトにより構造解析を行って分子モデルの構築や最終レポートの作成等を行うことは現状と同様である。即ち、本実施例によれば、創薬や生命科学のみならず各種の材料研究の現場などにおいて、発見又は設計した新たな構造物の分子構造・集合構造(実空間)を、迅速、安全、かつ簡単に確認することが可能となる。
【実施例2】
【0078】
図14は、実施例2の試料ホルダユニット400の断面構造を示している。この試料ホルダユニット400内の試料ホルダ214は、その基台部201から試料保持部202bの先端に貫通する、試料導入構造としての貫通孔202cが設けられている。そして、結晶スポンジ200は、上記貫通孔202c内の先端、又は先端付近に取り付けられている。なお、試料保持部202bの長さは、その先端が溶媒230に没入するように設定され、結晶スポンジ200は、貫通孔202c内に入り込んだ溶媒230に浸っている。その後、貫通孔202cの基台部201側から試料(例えば気体)が導入されると、試料は、貫通孔202c内で、溶媒230を通じて結晶スポンジ200に吸蔵される。
【0079】
次いで、試料が吸蔵された結晶スポンジ200は、試料ホルダ214と共にアプリケータ300から取り外され、図15に示す姿勢で、試料ホルダ214と共に、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド15に取り付けられる。この状態で、単結晶X線回折装置9内では、X線管11から結晶スポンジ200に向けてX線が照射される。この際、結晶スポンジ200は、試料保持部202b内に保持されているため、X線は試料保持部202bの壁を透過して内部の結晶スポンジ200に入射される。本実施例では、照射されるX線が少ない減衰で、効率良く結晶スポンジ200まで届くように、試料保持部202bの材料としては、X線の透過をできるだけ妨げない、例えば、光透過性の石英ガラス、ホウケイ酸ガラス等が選択して用いられる。
【0080】
上記のように、本実施例2では、結晶スポンジ200への試料の吸蔵、ゴニオメータ12への取り付け、およびその後のX線の照射の各工程が、常に試料保持部202bの貫通孔202c内に結晶スポンジ200を保持した状態で行われる。したがって、結晶スポンジ200に損傷を与えることなく、一連の工程が極めて迅速に行われて、作業の効率、安全および確実性を高めることができる。
【実施例3】
【0081】
図16は、実施例3の試料ホルダユニット400の断面構造を示す。この試料ホルダユニット400の試料ホルダ214は、その基台部201から試料保持部202bの先端に抜ける貫通孔からなる試料保持領域202dが設けられている。試料保持部202bの先端は、溶媒230に没入し、また、試料保持領域部202dの先端は、溶媒230に浸るように配置される。この例では、結晶スポンジ200は、試料の吸蔵前は、アプリケータ300の収納空間301の底部付近に、溶媒230内に沈むように配置されており、試料保持部202bの先端は、溶媒230内の結晶スポンジ200に近接して配置される。
【0082】
次いで、試料導入パイプ220から試料(例えば気体)が注入されると、試料は溶媒230に導入されて、溶媒中の結晶スポンジ200に吸蔵される。続いて、図17に示すように、試料が吸蔵された結晶スポンジ200を、試料保持領域202dの上方(基台部201側)から溶媒と共に吸引する。この吸引は、試料保持領域202d内の気体をスポイト等で吸引することで行われ、その吸引量は、試料が吸蔵された結晶スポンジ200が試料保持領域202d内にわずかに吸引される程度の量である。この吸引により、結晶スポンジ200は、溶媒230と共に試料保持部202bの先端付近の試料保持領域202d内に入り込み、溶媒230が付着した状態で保持される。
【0083】
なお上記の方法では、試料Sを吸蔵した後の結晶スポンジ200を吸引しているが、結晶スポンジ200を先に試料ホルダ214に取り付け、その後に試料Sの吸蔵をさせる方が好ましい。これにより、試料Sの吸蔵後に結晶スポンジを見つけ、それを導入する必要がなくなる。また、吸引は、試料保持領域202d外から試料保持領域202d内に結晶スポンジ200を移動させる手段の一つに過ぎず、重力を利用して結晶スポンジ200を流す方法等の種々の手段を採りうる。
【0084】
次いで、試料が吸蔵された結晶スポンジ200は、試料ホルダ214と共にアプリケータ300から取り外され、図18に示す姿勢で、試料ホルダ214と共に、ゴニオメータ12の先端部のゴニオヘッド15に取付けられる。この状態で、単結晶X線回折装置9では、X線管11から結晶スポンジ200に向けてX線が照射される。この際、結晶スポンジ200は、試料保持部202b内に保持されているため、X線は試料保持部202bの壁を透過して、内部の結晶スポンジ200に入射される。したがって、本実施例3では、実施例2と同様に、試料保持部202bの材料としては、X線の透過をできるだけ妨げない、例えば、光透過性の石英ガラス、ホウケイ酸ガラス等が選択して用いられる。
【0085】
図19は、実施例3の変形例を示しており、試料保持領域202dの先端に広がり部202eが設けられている。この構成によれば、図17において、結晶スポンジ200の試料保持領域202d内への誘引が容易となり、かつ、吸い込み後に試料保持領域(貫通孔)202dの一部である、広がり部202eとの境の狭窄部分に結晶スポンジ200を停止させことができるので、結晶スポンジ200の保持位置を先端に保つことができる。
【0086】
結晶スポンジ200は、構造上、図19に示す試料保持部の先端側から挿入される。試料保持部側を上にし、試料保持部の先端側から結晶スポンジ200とこれを吸蔵可能にした溶媒とを一緒に管内に流すことで、確実に結晶スポンジ200を試料保持領域202dの細い部分に固定できる。結晶スポンジ200は、これを吸蔵可能にする溶媒(置換溶媒)と一緒に管に導入される。なお、吸蔵可能にする溶媒の代わりに、試料Sまたは試料Sおよびキャリア(例えば、溶媒や担体等)と一緒に結晶スポンジ200を挿入してもよい。
【0087】
試料Sは、取付部側と試料保持部側のいずれかから導入される。アプリケータ300内への試料S(または試料Sおよびキャリア(以下同じ))の導入は貫通孔に挿入される供給用のパイプ220でなされ、試料Sの排出はもう一方の貫通孔に挿入される排出用のパイプ221でなされる。一方、結晶スポンジ200への試料Sの吸蔵は試料Sを試料保持部側から試料保持領域202dのパイプへの導入(吸引)でなされる。導入速度を制御しつつ試料保持部の先端側から吸い上げることで、結晶スポンジ200が試料ホルダから外れるのを防止できる。また、試料保持領域202dのパイプで試料Sを吸い上げ、そのままそのパイプを排出管として用いることもできる。この場合は、試料保持領域202dの貫通孔に排出用のパイプ221が挿入される。また、試料保持領域202dの貫通孔を試料Sの供給に用いることもできる。この場合は、試料保持領域202dの貫通孔に供給用のパイプ220が挿入される。
【0088】
なお、これら変形例の場合は、他の貫通孔は不要である。したがって、試料保持領域202dの貫通孔は、吸蔵のために試料保持部側から試料Sを吸い上げる場合、試料Sの排出も兼ねて試料保持部側から試料Sを吸い上げる場合、そして、試料Sの導入も兼ねて取付部側から試料を供給(導入)する場合に用いられる。また、結晶スポンジ200保持後に試料Sを導入して吸蔵するか、導入された試料Sを吸蔵後に結晶スポンジ200を保持するかは限定されない。また、広がり部202eは逆テーパー形状であるため、試料Sを吸蔵した後に結晶スポンジSを吸引するのには用いやすい。
【0089】
図20は、実施例3の他の変形例を示しており、試料保持領域202dの先端に先細り部202fが設けられている。この構成によれば、結晶スポンジ200が試料保持領域202dの一部である、先細り部202fに挟持されるので、試料保持領域202dの奥まで入り込まず、結晶スポンジ200の保持位置を先端に保つことができる。
【0090】
結晶スポンジ200は、構造上、図20に示す試料ホルダに取付部側から挿入される。例えば、試料保持部側を下にし、取付部側から結晶スポンジ200とこれを吸蔵可能にした溶媒(置換溶媒)とを一緒に管内に流すことで、結晶スポンジ200を試料保持領域202dの細い部分に固定できる。結晶スポンジ200は、結晶スポンジ200を取り付け可能にする溶媒と一緒に導入される。なお、試料Sや試料Sおよびキャリア(担体)と一緒に結晶スポンジ200を挿入してもよい。
【0091】
試料Sは、取付部側と試料保持部側のいずれかから導入される。アプリケータ300内への試料S(または試料Sおよびキャリア(以下同じ))の導入は貫通孔に挿入される供給用のパイプ220でなされ、試料Sの排出はもう一方の貫通孔に挿入される排出用のパイプ221でなされる。一方、結晶スポンジ200への試料Sの吸蔵は試料Sを試料保持部側から試料保持領域202dのパイプへの導入(吸引)でなされる。導入速度を制御しつつ試料保持部側から吸い上げることで、結晶スポンジ200が試料ホルダから外れるのを防止できる。また、試料保持領域202dのパイプで試料Sを吸い上げ、そのままそのパイプを排出管として用いることもできる。この場合は、試料保持領域202dの貫通孔に排出用のパイプ221が挿入される。また、試料保持領域202dの貫通孔を試料Sの供給に用いることもできる。この場合は、試料保持領域202dの貫通孔に供給用のパイプ220が挿入される。
【0092】
なお、これら変形例の場合は、他の貫通孔は不要である。したがって、試料保持領域202dの貫通孔は、吸蔵のために試料保持部側から試料Sを吸い上げる場合、試料Sの排出も兼ねて試料保持部側から試料Sを吸い上げる場合、そして、試料Sの導入も兼ねて取付部側から試料を供給(導入)する場合に用いられる。また、結晶スポンジ200保持後に試料Sを導入して吸蔵するか、導入された試料Sを吸蔵後に結晶スポンジ200を保持するかは限定されない。
【0093】
結晶スポンジ200は、重力により結晶を上から下に落として試料ホルダ214に取り付けることもできるし、吸引により取り付けることもできる。これらは、図19に示すような試料保持領域202dの先端に広がり部202eを持つ場合だけでなく、図20に示すような試料保持領域202dの先端に先細り部202fを持つ場合でも同様である。すなわち、結晶スポンジ200の位置に対し、試料保持領域202dの結晶スポンジ200が引っかかる細い部分を下側にすれば、上から重力を利用して取り付けることができる。結晶スポンジ200の位置に対し、逆に細い部分を上側にすれば、下から結晶スポンジ200を吸引して試料ホルダ214に取り付けることができる。
【0094】
なお、細い部分を下側にした場合でも、吸引で結晶スポンジ200を取り付けることも可能である。試料ホルダ214に結晶が取り付いたら、吸蔵工程を行う。吸蔵工程では、細い部分に結晶スポンジ200が引っかかる方向から試料又はキャリア(試料および保存溶媒を含む流体)を導入して結晶スポンジ200に吸蔵させる。この試料又はキャリアの導入方向も、上からまたは下からのいずれであってもよい。吸引は必ずしも吸い上げるだけではなく、圧力調整により押し出す場合も含む。
【0095】
結晶スポンジ200は、そのサイズが小さいため、試料ホルダ214に結晶スポンジ200を取り付けるのは難しい。そのため、ユーザーにとって、結晶スポンジ200が取り付けられた試料ホルダ214を使用するのが好ましいが、この場合は、結晶スポンジ200が吸蔵可能にされた状態、すなわち置換溶媒と一緒に運搬する必要がある。そこで、吸蔵可能にされる前の比較的安置した状態で結晶スポンジ200を運搬し、現場で、結晶スポンジ200を吸蔵可能な状態にして使用することが考えられる。
【0096】
この場合、結晶スポンジ200を試料ホルダに固定する作業が生じる。図16に示す構成では、微小サイズの結晶スポンジ200を溶液から見つけ、ピンポイントに吸い上げる必要がある。そこで図19または図20に示す試料ホルダでは、先に吸蔵可能にされた結晶スポンジ200を試料ホルダに固定したうえで、吸蔵を行うこともでき、比較的容易に一連の吸蔵動作を行える。
【0097】
なお、本実施例3、その変形例、およびその他の変形例では、実施例2と同様に、結晶スポンジ200が、試料の吸蔵、ゴニオメータ12への取り付け、およびその後のX線の照射の工程を、常に試料保持部202bの貫通孔や試料保持領域202d内に保持された状態で行われる。したがって、結晶スポンジ200に損傷を与えることなく、一連の工程が極めて迅速に行われるので、作業の効率、安全および確実性を高めることができる。
【0098】
なお、上記の実施例以外の構造の結晶スポンジの試料ホルダ、および試料ホルダユニットも、上記した実施例の構造と同様に、試料を含んだ流体(キャリア(担体))をアプリケータ300の内部に保持された結晶スポンジ200に、試料の吸蔵を行うと共に、結晶化を完了した試料ホルダ214をゴニオメータ12の先端部へ精密に取り付ける作業を、迅速かつ容易に行うことを可能としていることは明らかであろう。
【0099】
また、かかる構造によれば、結晶スポンジ200が試料ホルダ214の内部又は先端部に取り付けられた試料保持部202bに試料を導入することで、当該極微量の試料を、より確実に、極微小な寸法の結晶スポンジ200に吸蔵させることが可能となる。更には、試料保持領域202dに取り付けた結晶スポンジ200は、試料保持部202bの内部に位置することから、外部から破損され、或いは、外部へ逸失されることなく、より迅速、安全に、かつ容易に取り扱うことが可能となる。
【0100】
以上に詳述したように、本発明の単結晶X線構造解析装置用試料ホルダ及び試料ホルダユニットによれば、X線構造解析の専門知識がなくても、極微小で脆弱(fragile)な結晶スポンジを利用した単結晶X線構造解析を、従来必要とされた緻密で微細な作業を伴わずに、迅速、確実かつ容易に行うことが出来る、換言すれば、結晶スポンジを利用した単結晶X線構造解析を、歩留まり良くかつ効率的に行うことが可能な、汎用性に優れ、かつ、ユーザフレンドリな単結晶X線構造解析装置を実現する試料ホルダおよび試料ホルダユニットが提供される。
【0101】
なお、以上には本発明の種々の実施例を説明したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するためにシステム全体を詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、またある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能であり、また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能であろう。
【0102】
本発明は、物質構造の探索に用いるX線構造解析装置や方法などにおいて広く利用可能である。
【0103】
なお、本国際出願は、2018年11月22日に出願した日本国特許出願第2018-219780号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2018-219780号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0104】
1…単結晶X線構造解析装置(全体)、9…単結晶X線回折装置、11…X線管、12…ゴニオメータ、22…X線検出器、102…測定装置、103…入力装置、104…画像表示装置、107…CPU、108…RAM、109…ROM、111…ハードディスク、116…分析用アプリケーションソフト、117…測定用アプリケーションソフト、200…結晶スポンジ、201…基台部、202…突出部、202b…試料保持部、202c…貫通孔、202d…試料保持領域、204、205…貫通孔、214…試料ホルダ、220、221…試料導入パイプ(パイプ)、300…アプリケータ、301…収納空間、302…開口部、400…試料ホルダユニット。
図1
図2
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