(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】打ち抜き装置
(51)【国際特許分類】
B21D 37/00 20060101AFI20240329BHJP
B21D 28/02 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B21D37/00 B
B21D28/02 A
(21)【出願番号】P 2020074944
(22)【出願日】2020-04-20
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正行
(72)【発明者】
【氏名】藤井 慶太郎
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-126823(JP,A)
【文献】特開2008-068302(JP,A)
【文献】特開2020-059038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 37/00
B21D 28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の形状の穴のあいた金型で構成されたダイと、前記所定の形状の金型で構成されたパンチとを用いて被加工物を前記所定の形状に打ち抜く打ち抜き加工のための打ち抜き装置であって、
前記打ち抜き装置のうち前記ダイにかかる力が伝達される位置にそれぞれ配置され、前記ダイのうち互いに異なる少なくとも3つの所定の点の各々における打ち抜き方向の荷重を計測する荷重センサと、
前記
打ち抜き方向と垂直な平面上の第1及び第2の軸に関して、前記計測された荷重の前記第1の軸まわりのモーメントの総和である第1のモーメントと、前記計測された荷重の第2の軸まわりのモーメントの総和である第2のモーメントとを計算し、前記第1及び第2のモーメントのうち少なくとも一方の大きさが所定の値の範囲から外れた場合に、異物が発生したと判定する制御装置と、
をさらに備える、打ち抜き装置。
【請求項2】
前記第1及び第2の軸は、前記ダイの前記穴の中心で直交する、請求項1に記載の打ち抜き装置。
【請求項3】
前記所定の値の範囲は、異物が発生していない時に予め計測した前記第1及び第2のモーメントである第1及び第2の初期モーメントの大きさの値に基づいて、正負に所定の値の幅を持った値の範囲である、
請求項1又は2に記載の打ち抜き装置。
【請求項4】
種々の情報をユーザに提供するように構成された出力装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記異物が発生したと判定すると、前記第1のモーメントの大きさと前記第1の初期モーメントの大きさとの間の大小関係、並びに前記第2のモーメントの大きさと前記第2の初期モーメントの大きさとの間の大小関係に基づいて、前記第1及び第2の軸により区画される4つの象限のいずれに前記異物が発生しているかを推定し、前記出力装置を介してユーザに提供する、
請求項3に記載の打ち抜き装置。
【請求項5】
前記打ち抜き加工の前に前記被加工物を押さえて保持するストリッパをさらに備える、請求項1から4のうちいずれか1つに記載の打ち抜き装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記異物が発生したと判定すると、前記打ち抜き装置の前記打ち抜き加工を停止させる、
請求項1から5のうちいずれか1つに記載の打ち抜き装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型を使って金属等の被加工物をせん断加工する打ち抜き装置に関し、より詳細には、異物の発生を検出することのできる打ち抜き装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ダイとパンチとを用いて被加工物をせん断加工する打ち抜き加工において、ダイとパンチとの間、又はパンチと被加工物との間に混入する異物は、加工異常の要因となるため問題となっている。特に「カス上がり」と呼ばれる現象は、打ち抜きの際に生じた被加工物のカスがパンチの上昇に伴ってダイとパンチとの間、又はパンチと被加工物との間に異物として混入するものであり、製品不良及び金型損傷等の原因となることが良く知られている。
【0003】
特許文献1に係る打ち抜き装置は、パンチを含む上型とダイを含む下型との間の距離を検知する複数の距離センサを金型の周囲に設け、この検知された値の関係が所定の基準を満たさない場合に、パンチと被加工物との間に異物が混入していると判断し、異常を出力して作業者に検知し、及び/又は打ち抜き装置の動作を自動的に停止させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る打ち抜き装置は、上述の打ち抜きカスに代表される異物が被加工物に重ならず被加工物の横に発生した場合、上型と下型との間の距離が変化しないため、異物を検出することができない。また、特許文献1に係る打ち抜き装置において、上型が打ち抜きの前に被加工物を押さえるストリッパをさらに備える構成の場合、打ち抜き加工のサイクルを短く(高速に)すると、ストリッパの跳ね返り等により、異物が存在しないにも関わらず距離の変化を検出してしまうことがある。このような誤検出は、連続した打ち抜き加工を阻害し、作業効率を低下させてしまうため、好ましくない。
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決し、従来技術に比較して高い精度で異物を検出可能な打ち抜き装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る打ち抜き装置は、所定の形状の穴のあいた金型で構成されたダイと、所定の形状の金型で構成されたパンチとを用いて被加工物を所定の形状に打ち抜く打ち抜き加工のための打ち抜き装置であって、
打ち抜き装置のうちダイにかかる力が伝達される位置にそれぞれ配置され、ダイのうち互いに異なる少なくとも3つの所定の点の各々における打ち抜き方向の荷重を計測する荷重センサと、
打ち抜き方向と垂直な平面上の第1及び第2の軸に関して、計測された荷重の第1の軸まわりのモーメントの総和である第1のモーメントと、計測された荷重の第2の軸まわりのモーメントの総和である第2のモーメントとを計算し、第1及び第2のモーメントのうち少なくとも一方の大きさが所定の値の範囲から外れた場合に、異物が発生したと判定する制御装置と、
をさらに備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る打ち抜き装置によれば、従来技術に比較して高い精度で異物を検出可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係る打ち抜き装置の構成例を示すブロック図
【
図2a】
図1の打ち抜き装置の金型の詳細構成例を示す側面図
【
図2b】
図1の打ち抜き装置の金型の詳細構成例を示す斜視図
【
図3】
図1の打ち抜き装置の荷重センサの配置例を示す上面図
【
図4a】
図1の打ち抜き装置において、被加工物の上に異物が生じた場合の動作例を示す側面図
【
図4b】
図1の打ち抜き装置において、被加工物の横に異物が生じた場合の動作例を示す側面図
【
図5a】
図1の打ち抜き装置において、異物検出動作における力及びモーメントの例を示す斜視図
【
図5b】
図1の打ち抜き装置において、異物検出動作における表示装置の表示例を示す正面図
【
図6】
図1の打ち抜き装置において、異物検出しきい値の設定画面の表示例を示す図
【
図7】
図1の打ち抜き装置において、異物検出動作結果テーブルの例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の第1の態様に係る打ち抜き装置は、
所定の形状の穴のあいた金型で構成されたダイと、所定の形状の金型で構成されたパンチとを用いて被加工物を所定の形状に打ち抜く打ち抜き加工のための打ち抜き装置であって、
打ち抜き装置のうちダイにかかる力が伝達される位置にそれぞれ配置され、ダイのうち互いに異なる少なくとも3つの所定の点の各々における打ち抜き方向の荷重を計測する荷重センサと、
打ち抜き方向と垂直な平面上の第1及び第2の軸に関して、計測された荷重の第1の軸まわりのモーメントの総和である第1のモーメントと、計測された荷重の第2の軸まわりのモーメントの総和である第2のモーメントとを計算し、第1及び第2のモーメントのうち少なくとも一方の大きさが所定の値の範囲から外れた場合に、異物が発生したと判定する制御装置と、
をさらに備える。
【0011】
本開示の第2の態様に係る打ち抜き装置は、上記第1の態様において、第1及び第2の軸がダイの穴の中心で直交してもよい。
【0012】
本開示の第3の態様に係る打ち抜き装置は、上記第1又は第2の態様において、
所定の値の範囲は、異物が発生していない時に予め計測した第1及び第2のモーメントである第1及び第2の初期モーメントの値に基づいて、正負に所定の値の幅を持った値の範囲であってもよい。
【0013】
本開示の第4の態様に係る打ち抜き装置は、上記第1から第3の態様のうちいずれかにおいて、
制御装置は、異物が発生したと判定すると、第1のモーメントの大きさと第1の初期モーメントの大きさとの間の大小関係、並びに第2のモーメントの大きさと第2の初期モーメントの大きさとの間の大小関係に基づいて、第1及び第2の軸により区画される4つの象限のいずれに異物が発生しているかを推定し、出力装置を介してユーザに提供してもよい。
【0014】
本開示の第5の態様に係る打ち抜き装置は、上記第1から第4の態様のうちいずれかにおいて、
打ち抜き加工の前に被加工物を押さえて保持するストリッパをさらに備えてもよい。
【0015】
本開示の第6の態様に係る打ち抜き装置は、上記第1から第5の態様のうちいずれかにおいて、
制御装置は、異物が発生したと判定すると、打ち抜き装置の打ち抜き加工を停止させてもよい。
【0016】
以下、実施の形態1に係る打ち抜き装置について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、図面において、実質的に同一の部材については同一の符号を付している。また、実施の形態の説明に不要な構成要素については、断りなく省略することがある。
【0017】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る打ち抜き装置51の構成例を示すブロック図である。
図1において、打ち抜き装置51は、サーボモータ52と、トッププレート53と、スライダプレート54と、ベースプレート55と、スライドバー56と、ボールスクリュー57と、制御装置58と、金型31と、複数の荷重センサ35と、荷重用アンプ36と、コンピュータ37と、表示装置38と、を備える。
【0018】
図1において、サーボモータ52はトッププレート53上に配置され、制御装置58により駆動制御されて回転する。ボールスクリュー57はサーボモータ52の回転を直線移動に変換し、スライダプレート54をスライドバー56に沿って上下に移動させる。
【0019】
金型31は上型32と下型33とを含む。下型33はベースプレート55に固定されている。上型32はスライダプレート54に固定されており、上述のスライダプレート54の移動に伴って上下に移動する。下型33と、下方向に移動する上型32との間に被加工物21を挟みつけることで打ち抜き加工が行われる。金型31の詳細な構成については後述する。
【0020】
荷重センサ35は下型33に4つ配置され、下型33にかかる荷重を計測し、計測された荷重を示す荷重信号を荷重用アンプ36に出力する。荷重用アンプ36は入力された荷重信号を増幅して増幅荷重信号とし、コンピュータ37に出力する。コンピュータ37は、入力された増幅荷重信号に基づいて、金型31の内部に異物22が存在するか否かを判定し、異物22が存在すると判定された場合、制御装置58を制御して打ち抜き加工を停止させ、及び/又は、表示装置38を介して異物22の発生を作業者に通知する。
【0021】
図2aは、
図1の金型31の詳細構成例を示す側面図である。また、
図2bは、
図1の金型31の詳細構成例を示す斜視図である。
【0022】
図2aにおいて、金型31は、上ボルスター11と、下ボルスター12と、リニアガイド13と、上型32と、下型33と、ストリッパ部34とを備える。上型32は、パンチ1と、パンチ1を固定するパンチベース2及びパンチホルダ3とを備える。下型33は、ダイ7と、ダイ7を固定するダイベース8及びダイホルダ9とを備える。ストリッパ部34は、ストリッパバネ4と、ストリッパ5と、ストリッパガイド6とから構成される。
【0023】
上型32は、リニアガイド13に沿って上下に移動する上ボルスターに固定されることで上下に移動する。ダイ7には例えば円形、多角形等の任意の所定の形状の穴が開いている。また、パンチ1は同じ形状の柱状の形状を有する。ダイ7とパンチ1との間に被加工物21(図示なし)を挟み、ダイ7の穴にパンチ1を導入するように上型32を下に移動させることで、被加工物21にパンチ1の形状の穴が打ち抜かれる。
【0024】
ストリッパ部34のストリッパ5は下面がパンチ1の先端よりも下に位置するように配置される。ストリッパ5はストリッパガイド6に沿って上下方向に移動できる。ストリッパ5は上型32の下方向の移動に伴い、パンチ1よりも先に被加工物21に接触し、ストリッパバネ4の弾性力により、打ち抜き加工の間、被加工物21を押さえて保持する。
【0025】
ダイベース8の下面と下ボルスター12の上面との間には、4つの荷重センサ35が配置されている。荷重センサ35の詳細な配置については後述する。荷重センサ35は、打ち抜き加工に際してダイ7にかかる荷重を計測し、計測された荷重を示す荷重信号を荷重用アンプ36に出力する。
【0026】
図3は、
図1の打ち抜き装置51の荷重センサ35の配置例を示す上面図である。
図3において、紙面は下ボルスター12の上面を示す。下ボルスター12及び荷重センサ35を除く説明に不要な要素は省略している。
【0027】
図3において、本実施の形態において、打ち抜き装置51には、荷重センサ351~354の4個の荷重センサ35が配置されている。荷重センサ351~354は、ダイ7の穴121の中心である打ち抜き軸122を原点とするX-Y平面について、X軸、Y軸の両方に関して対称となるように配置されている。具体的には、長さa,bに対して、X-Y平面上の座標が(a,-b),(-a,-b),(-a,b),(a,b)となる4点に、荷重センサ351~354がそれぞれ順に配置されている。
【0028】
荷重センサ351~354にかかる打ち抜き方向の荷重をそれぞれFz1~Fz4で表す。このとき、総打ち抜き荷重Fz、X軸まわりのモーメントMx、Y軸まわりのモーメントMyはそれぞれ、次式のように表される。
【0029】
Fz=Fz1+Fz2+Fz3+Fz4
【0030】
Mx=b(-Fz1-Fz2+Fz3+Fz4) …(1)
【0031】
My=a(-Fz1+Fz2+Fz3-Fz4) …(2)
【0032】
ただし、X軸まわりのモーメントMxは、X軸正方向に対して時計回りの向きを正とし、Y軸まわりのモーメントMyは、Y軸正方向に対して時計回りの向きを正として扱っている。
【0033】
なお、荷重センサ351~354がX軸・Y軸に対して対称に配置されない場合、このモーメントの数式がより複雑なものとなってしまう。また、ダイベース8を安定して支持するためにも、荷重センサ351~354は対称に配置されるのが好ましい。
【0034】
以上のように構成された打ち抜き装置51について、その異物検出動作を、
図4a~
図7を用いて以下説明する。
【0035】
本実施の形態では異物22として、「カス上がり」という現象により発生した抜きカスを想定している。カス上がりは、打ち抜き加工の際に発生した抜きカスが、例えば静電気力、表面張力等によりパンチ1に付着し、打ち抜き加工の完了後にパンチ1から外れることで、被加工物21又はダイ7の上に異物22として発生する現象である。カス上がりは被加工物21が例えば厚さ0.1mm以下の薄板であったり、打ち抜きの形状が小さい小穴抜きを行ったりする場合に特に多く発生する。これは、発生する抜きカスの質量が小さく、潤滑油の表面張力、磁力、静電気力等により、抜きカスがパンチ1に付着しやすいことに起因すると考えられる。
【0036】
図4aは、異物22が被加工物21の上面に発生した場合の外観例を示す側面図である。被加工物21のX軸負方向の側において上面に異物22が発生することで、被加工物21を押さえるストリッパ5は、被加工物21ではなくその上の異物22に接する。ストリッパ5に接続されたストリッパバネ4のうちX軸負方向のものは、異物22の厚みの分だけ正方向のものよりも大きく縮む。従って、ストリッパ5がダイ7にかける打ち抜き方向の荷重は、X軸負方向の側ほど大きくなる。また、異物22の発生により、
図4aの矢印に示すように、ダイ7に乗っている物体の重心がX軸負方向に偏るため、被加工物21及び異物22がダイ7にかける打ち抜き方向の荷重も、X軸負方向の側(Fz2,Fz3)が正方向の側(Fz1,Fz4)よりも大きくなる。
【0037】
図4bは、異物22が被加工物21の横、即ちダイ7の上に直接発生した場合の外観例を示す側面図である。
図4aの場合とは異なり、ストリッパ5は被加工物21に水平に接触するため、ストリッパバネ4による荷重の偏りは生じない。一方で、被加工物21のX軸負方向の側において異物22が発生しているため、
図4aと同様、
図4bの矢印に示すように、ダイ7に乗っている物体の重心がX軸負方向に偏り、X軸負方向の側の荷重(Fz2,Fz3)が正方向の側(Fz1,Fz4)よりも大きくなる。
【0038】
荷重センサ351~354の計測荷重Fz1~Fz4の値は、それぞれ計測荷重Fz1~Fz4を示す荷重信号として荷重用アンプ36に出力される。荷重用アンプ36は荷重信号を増幅して増幅荷重信号とし、コンピュータ37に出力する。
【0039】
図5aは、被加工物21に重ならずに異物22が発生している場合の、荷重Fz1~Fz4と、X軸・Y軸まわりのモーメントMx,Myとの関係を示す図である。
図5aにおいて、荷重のX軸・Y軸まわりのモーメントMx,Myは、それぞれ図の矢印で示す、各軸に対する時計回り方向を正とするモーメントである。仮に異物22が発生していない場合、X軸・Y軸に対して対称に配置された荷重センサ351~354の計測荷重Fz1~Fz4はすべて同じ値となる。従って、式(1)及び式(2)に従ってモーメントMx,Myを計算すると、実質的にMx=0、My=0が成立する。このような、異物22の発生していない場合のモーメントMx,Myを初期モーメントMx0,My0と呼ぶ。
【0040】
ここで、
図5aにおいて、ダイ7のうち、X・Y座標とも正の領域(第1象限)に、被加工物21に重ならずに異物22が発生している場合を考える。
図4bに関して上述した通り、ダイ7に乗っている物体の重心の位置が異物22の側に偏るため、荷重センサ351~354にかかる荷重は、異物22が発生している側ほど大きくなる。従って、X軸に対して異物22側にある荷重センサ354の計測荷重Fz4は、逆側にある荷重センサ351の計測荷重Fz1よりも大きくなり、同様に荷重センサ353の計測荷重Fz3は荷重センサ352の計測荷重Fz2よりも大きくなる。また、Y軸に関しても同様に、計測荷重Fz4は計測荷重Fz3よりも大きくなり、計測荷重Fz1は計測荷重Fz2よりも大きくなる。
【0041】
これらの計測荷重Fz1~Fz4を用いて、式(1)及び式(2)に従ってモーメントMx,Myを計算すると、Mx>0、My<0となる。コンピュータ37は、このようにモーメントMx,Myの少なくとも一方が0でなくなった場合に、異物22が発生したと判断する。
【0042】
ここで、異物22がダイ7の他の象限に発生した場合を考える。異物22がダイ7の第2象限(X座標が負、Y座標が正の領域)に発生した場合、計測荷重Fz3が大きくなり、計測荷重Fz1が小さくなるため、式(1)及び式(2)に基づいてモーメントMx,Myを計算すると、Mx>0,My>0が成立する。同様に、異物22がダイ7の第3象限(X座標・Y座標とも負の領域)に発生した場合、Mx<0,My>0となり、異物22がダイ7の第4象限(X座標が正、Y座標が負)に発生した場合、Mx<0,My<0となる。従って、X軸・Y軸まわりのモーメントMx,Myの正負を確認することで、異物22がダイ7のどの象限に発生したかを推定することができる。
【0043】
異物22が発生したと判断したコンピュータ37は、上述のように異物22がどの象限に発生したかを推定し、表示装置38を制御して、
図5bに示すような画面380を表示し、作業者に警告を行うとともに、制御装置58を制御して、打ち抜き装置51の動作を停止させる。画面380には、ダイ7の第1~第4象限と対応する枠が表示され、異物22が発生したと推定された象限に対応する枠は、他と異なる警告色で表示される。作業者はこの画面380を見ることで、ダイ7のどの象限に異物22が発生したかを確認し、異物22を取り除くことができる。
【0044】
なお、本実施の形態においては、X軸及びY軸まわりのモーメントを用いて、X・Y軸により4つに分割された領域のどこに異物22が発生したかを推定した。しかしながら、荷重センサ35は、少なくとも3つあれば、異物22の位置を推定する目的が達成できる。ただし、より多数の荷重センサを用いれば、異物22の検出精度が向上する他、ダイ7の領域をより多くの領域に分割し、異物22のより詳細な位置を推定することもできる。
【0045】
また、
図5bでは、表示装置38は例えば液晶ディスプレイ等の表示装置とした。しかしながら、ダイ7の領域を分割した複数の領域のうちのどれに異物22が発生したかを作業者に知らせることができれば、この表示装置はどのようなものであってもよい。例えば、打ち抜き装置51上に配置された4つのLEDランプを用いて異物22の発生位置を作業者に通知できる。
【0046】
図6は、異物発生判定の設定画面の表示例を示す正面図である。上述の異物22が発生したと判定する手順において、モーメントMx,Myの値が0でない場合に異物22が発生したと判定すると、わずかな計測誤差や揺れが異物22の発生として誤検出されてしまうことが考えられる。そこで、本実施の形態における打ち抜き装置51は、モーメントMx,Myの値の絶対値の少なくとも一方が所定のしきい値よりも大きい場合に、異物22が発生したと判定する。このしきい値は、例えば
図6に示すような画面を作業者に提示し、モーメントMx,Myに対するしきい値の値を入力させることで設定できる。
【0047】
なお、本実施の形態において初期モーメントMx0,My0は0であったため、モーメントMx,Myの正負により異物22が発生したダイ7の象限を推定できた。しかしながら、荷重センサ35の配置数及び配置場所によっては、初期モーメントMx0,My0が0とならない場合がある。その場合、モーメントMx,Myと初期モーメントMx0,My0との大小関係に基づいて、同様の推定を行うことができる。その場合、モーメントMxに対するしきい値は、モーメントMxの絶対値|Mx|ではなく、モーメントMxと初期モーメントMx0の差の絶対値|Mx-Mx0|に対して設定すればよい。また、上限値と下限値を個別に設定し、モーメントMxの大きさがその値の範囲を超えた場合に、異物22が発生したと判断するようにしてもよい。これはモーメントMyについても同様である。
【0048】
また、本実施の形態では、モーメントMx,Myの絶対値がしきい値を超えた場合に、異物22が発生したと判定し、表示装置38に警告を表示するとともに、制御装置58を制御して打ち抜き装置51を停止させた。しかしながら、警告の表示と打ち抜き装置51の停止に対して、それぞれ別のしきい値が設定されていてもよい。例えば、モーメントMxの絶対値が1.0m・Nを超えた場合に警告を表示し、2.0m・Nを超えた場合には打ち抜き装置51を停止させる、等が考えられる。
【0049】
図7は、打ち抜き装置51の動作例を示す表である。
図7において、異物22の発生を判定するためのしきい値として、
図6に示すしきい値が設定されている。「打抜回数」は、被加工物21に対して打ち抜き加工を行った回数を示す。「モーメント差」の列の値は、モーメントMx,Myと初期モーメントMx0,My0との差を示す。「判定」は、上記のX,Y軸に関するモーメント差のいずれかがしきい値を超えたか否か、即ち、異物22が発生したか否かの判定結果を示す。「NG」はモーメント差がしきい値を超えたことを示し、「OK」は超えなかったことを示す。「対応」は、上記の判定結果を受けて、打ち抜き装置51が自動的に行った対応を示す。
【0050】
図7において、1回目の打ち抜きに際し、モーメント差の値はいずれもしきい値を超えなかったため、異物22が発生していないと判定し、そのまま打ち抜き加工を続行した。2回目の打ち抜きに際し、Y軸に関するモーメント差の値がしきい値を超え、異物22が発生していると判定した。従って、X,Y軸それぞれに関するモーメント差の符号に基づいて作業者に警告を表示し、打ち抜き加工を停止させた。
【0051】
その後、作業者が警告を受けて異物22を取り除いた上で、再度打ち抜き装置51の動作を開始し、3回目の打ち抜きを行った。3回目の打ち抜きでは、モーメント差の値はいずれもしきい値を超えず、異物22は発生していないと判定され、打ち抜き加工を続行した。
【0052】
このように、本実施の形態に係る打ち抜き装置51は、荷重センサ351~354によりダイ7にかかる荷重を計測するし、計測された荷重Fz1~Fz4に基づいてモーメントMx,Myを計算する。その後、計算されたモーメントMx,Myと初期モーメントMx0,My0との大きさの差に基づいて異物22が発生したか否かを判定する。異物22が発生していた場合、異物22が発生したダイ7の象限を含む判定結果を作業者に表示し、及び/又は打ち抜き装置51の打ち抜き加工を停止させる。これにより、異物22が被加工物21に重ならない場所に発生した場合であっても、異物22の発生を検出して、打ち抜き加工を停止させることができる。また、作業者は異物22の発生場所を予め知ることで、円滑に異物22を取り除き、次の打ち抜き加工を再開させることができる。
【0053】
なお、本実施の形態では、異物22として「カス上がり」により発生する打ち抜きカスを想定したが、打ち抜き装置51は、カス上がりに限らず、例えば外部からの異物の混入等も検出できる。また、本実施の形態の荷重用アンプ36、コンピュータ37、表示装置38、制御装置58等は、その少なくとも2つが同一の要素として構成されていてもよい。
【0054】
さらに、本実施の形態では荷重センサ35をダイベース8の下に配置したが、これはダイのうち3つ以上の点にかかる荷重がそれぞれ伝達される位置であれば、どこに配置してもよい。例えば、ストリッパ部34に複数の荷重センサ35を配置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の打ち抜き装置は、異物が被加工物の横に置かれたようなストリッパと下型の距離が変化しないような場合や、打ち抜きの加工サイクルを速めた場合においても異物を検出することができ、検出感度が高いにもかかわらず誤検出が少ない。従って、打ち抜き作業の生産性を落とすことの無い高精度な異物検出を行うことのできる打ち抜き装置を提供することができる。本開示の打ち抜き装置は、フィルムや複合材料の打ち抜き加工等においても適用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 パンチ
2 パンチベース
3 パンチホルダ
4 ストリッパバネ
5 ストリッパ
6 ストリッパガイド
7 ダイ
8 ダイベース
9 ダイホルダ
11 上ボルスター
12 下ボルスター
121 (下ボルスターの)穴
122 打ち抜き軸
13 リニアガイド
21 被加工物
22 異物
31 金型
32 上型
33 下型
34 ストリッパ部
35,351~354 荷重センサ
36 荷重用アンプ
37 コンピュータ
38 表示装置
51 打ち抜き装置
52 サーボモータ
53 トッププレート
54 スライダプレート
55 ベースプレート
56 スライドバー
57 ボールスクリュー
58 制御装置