IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-二次電池 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/36 20100101AFI20240329BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20240329BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240329BHJP
【FI】
H01M10/36 A
H01M4/02 A
H01M4/587
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021508109
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2020000982
(87)【国際公開番号】W WO2020195025
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2019058635
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 健二
(72)【発明者】
【氏名】北條 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正信
(72)【発明者】
【氏名】福井 厚史
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-109549(JP,A)
【文献】特開2019-169355(JP,A)
【文献】特開平09-050809(JP,A)
【文献】国際公開第2012/081348(WO,A1)
【文献】特許第7357235(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/36 - 10/38
H01M 4/02
H01M 4/587
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、電解液とを備える二次電池であって、
前記電解液は、水とリチウム塩を含み、
前記負極は、負極活物質を含み、前記負極活物質の表面には、水の還元分解電位より貴な電位で還元分解するシランカップリング剤が付着しており、前記シランカップリング剤は構成元素としてフッ素を含むことを特徴とする二次電池。
【請求項2】
前記負極活物質は、主成分としての炭素材料を含む、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記シランカップリング剤の還元分解電位は、Li基準で2.1V以上である、請求項1又は2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記シランカップリング剤は、フルオロアルキルシランである、請求項1~3のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記フルオロアルキルシランは、
【化1】
(式中、Y1は、炭素数5~10、フッ素数11~21のフルオロアルキル基であり、直鎖でも分岐状でもよく、また、エーテル結合、エステル結合、ペプチド結合、ビニル結合、スルホンアミド結合、水素原子のうちの少なくとも1種を含んでいてもよく、Y2は、(CHで表され、nは0~5の整数であり、直鎖でも分岐状でもよく、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して、アルコキシ基、アルキル基、アミノ基、ハロゲン原子、又は水素原子である)で表される、請求項4に記載の二次電池。
【請求項6】
前記Y1は、C2n+1(5≦n≦10)で表される、請求項5に記載の二次電池。
【請求項7】
前記R1、前記R2及び前記R3はそれぞれ独立して、OC2n+1(1≦n≦5)又はC2n+1(1≦n≦5)で表される、請求項5又は6に記載の二次電池。
【請求項8】
前記フルオロアルキルシランは、フッ素化率0.49以上である、請求項4~7のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項9】
前記フルオロアルキルシランは、C11CHCH-Si(OCH、C13CHCH-Si(OCH、C17CHCH-Si(OCHのうちの少なくともいずれか1つを含む、請求項4~8のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項10】
前記シランカップリング剤の含有量は、前記負極活物質の質量に対して0.01質量%~10質量%の範囲である、請求項1~9のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項11】
正極と、負極と、電解液とを備える二次電池であって、
前記電解液は、水とリチウム塩を含み、
前記負極は、負極活物質を含み、前記負極活物質の表面には、水の還元分解電位より貴な電位で還元分解する、フッ素を構成元素として含むシランカップリング剤の還元分解による被膜が形成されている、二次電池。
【請求項12】
前記被膜は、LiF及びSiOx(0<x<2)を含む、請求項11に記載の二次電池。
【請求項13】
前記SiOxは、前記被膜の表面側から最深側に向かって、Siの価数が低価数となっている、請求項12に記載の二次電池。
【請求項14】
前記LiFは、前記被膜の最深側に偏在している、請求項12又は13に記載二次電池。
【請求項15】
前記リチウム塩は、リチウムイオンとイミドアニオンとを有する塩を含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項16】
前記リチウム塩が、LiTFSIを含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項17】
前記電解液は、前記水を6質量%~50質量%含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項18】
前記電解液は、前記リチウム塩1molに対して前記水が4mol以下である、請求項1~17のいずれか1項に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高出力、高エネルギー密度の二次電池として、正極、負極、及び電解液を備え、正極と負極との間でリチウムイオンを移動させて充放電を行うリチウムイオン二次電池が広く利用されている。従来の二次電池では、高エネルギー密度を達成するために、有機溶媒系の電解液が使用されている。
【0003】
しかし、有機溶媒は一般に可燃性であり、安全性の確保が重要な課題となっている。また、有機溶媒のイオン伝導度は水溶液と比べて低く、急速な充放電特性が十分でない点も問題となっている。
【0004】
このような問題に鑑みて、水を含有する電解液を用いた二次電池の研究が行われているが、水を含有する電解液を用いた二次電池は、電位窓が狭く、高電圧で安定して作動することが困難となる。
【0005】
このような電位窓が狭いという課題を解決する方法の一つとして、例えば、特許文献1及び2には、二次電池の水系電解液として、高濃度のアルカリ塩を含む水溶液を用いることが開示され、また、特許文献3には、高濃度のアルカリ塩を含む水溶液に有機カーボネートを添加した電解液を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6423453号公報
【文献】国際公開第2017/122597号
【文献】特開2018-73819号公報
【発明の概要】
【0007】
しかし、水系電解液を用いた二次電池の更なる高電圧化、安定動作のためには、還元側の電位窓を拡大し、自己放電を抑制する必要がある。
【0008】
そこで、本開示は、水系電解液を用いた二次電池において、還元側の電位窓を拡大し、電池の自己放電を抑制することを目的とする。
【0009】
本開示の第1態様である二次電池は、正極と、負極と、電解液とを備え、前記電解液は、水とリチウム塩を含み、前記負極は、負極活物質を含み、前記負極活物質の表面には、水の還元分解電位より貴な電位で還元分解する、フッ素を構成元素として含むシランカップリング剤が付着している。
【0010】
また、本開示の第2態様である二次電池は、正極と、負極と、電解液とを備え、前記電解液は水とリチウム塩を含み、前記負極は負極活物質を含み、前記負極活物質の表面には、水の還元分解電位より貴な電位で還元分解する、フッ素を構成元素として含むシランカップリング剤の還元分解による被膜が形成されている。
【0011】
本開示に係る二次電池によれば、還元側の電位窓を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の二次電池の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一般的に、水系電解液の還元分解(実質的には水の還元分解)は、Li基準でおよそ2V付近から当該電位より卑な電位の間で起こり、また、炭素材料等の負極活物質の充放電反応は、水の還元分解電位より更に卑な電位で起こる。したがって、充電過程では、負極活物質の充電反応の前に、水の還元分解が起こり、その反応に充電電流が消費されるため、負極活物質の充電反応の進行が阻害される。本発明者らの知見によれば、水系電解液の還元分解を抑制し、還元側の電位窓を拡大させるには、負極活物質の表面の電気化学活性を抑えることが重要である。そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、シランカップリング剤が、負極活物質の表面における電気化学活性を抑制し、水系電解液の還元分解を抑えることが可能であることを見出し、以下に示す態様の二次電池を想到するに至った。
【0014】
本開示の第1態様である二次電池は、正極と、負極と、電解液とを備え、前記電解液は、水とリチウム塩を含み、前記負極は、負極活物質を含み、前記負極活物質の表面には、水の還元分解電位より貴な電位で還元分解する、フッ素を構成元素として含むシランカップリング剤が付着している。本開示の第1態様である二次電池では、充電過程において、電解液中の水の還元分解前に、当該シランカップリング剤が還元分解され、負極活物質の表面にシランカップリング剤由来の被膜が形成される。当該被膜は電気化学的に安定な被膜であり、フッ素を含むことにより溶解度の低い成分比率の高い耐水性被膜を形成できるため、その後の水の還元分解が抑制され、二次電池の還元側の電位窓が拡大される。これにより、例えば、二次電池の高電圧化が可能となる。なお、当該シランカップリング剤由来の被膜は、初期の充電過程で形成されるものであり、それ以後の充放電サイクルではほとんど形成されない。
【0015】
また、当該シランカップリング剤由来の被膜は、リチウムイオン導電性を有しているため、リチウムイオンは当該被膜を介して負極活物質に吸蔵・放出される。すなわち、本開示の一態様である二次電池は、負極活物質へのリチウムイオンの吸蔵・放出による充放電反応(酸化還元反応)を示す。また、水の還元分解電位より貴な電位で還元分解し、被膜が形成されているため、水の還元分解と競争的に被膜形成が行われることがなく、緻密な被膜を形成することが可能となる。また、フッ素を含むことにより溶解度の低い成分比率の高い耐水性被膜を形成することが可能となる。そのため、当該シランカップリング剤を用いた本開示の二次電池によれば、電池の自己放電も抑制される。
【0016】
なお、以下の実施例1及び2で示すように、フルオロアルキル鎖長の増加に伴い、自己放電が更に抑制される。これは、よりフッ素化率の高いシランカップリング剤を選択することで、被膜中におけるフッ素原子比率を高めることができ、電気化学的により安定で、溶解度の低い成分比率を高めることができ、より高い耐水性を有する被膜を形成することができ、水系電解液中における被膜のロバスト性を向上させることができるためである。フッ素化率としては、0.49以上が好ましく、0.56以上がより好ましい。
フッ素化率(-)=(シランカップリング剤構成元素中におけるフッ素量(g/mol)/(シランカップリング剤分子量 (g/mol))
本開示の第2態様である二次電池は、正極と、負極と、電解液とを備え、前記電解液は水とリチウム塩を含み、前記負極は負極活物質を含み、前記負極活物質の表面には、水の還元分解電位より貴な電位で還元分解する、フッ素を構成元素として含むシランカップリング剤の還元分解による被膜が形成されている。本開示の第2態様である二次電池は、本開示の第1態様である二次電池の充電後或いは充放電後における態様の二次電池である。すなわち、負極活物質の表面に形成されている被膜は、電気化学的に安定な被膜であり、また、フッ素を含むことにより溶解度の低い成分比率の高い耐水性被膜を形成できるため、充電過程における水の還元分解が抑制され、二次電池の還元側の電位窓が拡大される。
【0017】
以下、本開示に係る二次電池の実施形態について詳説する。
【0018】
本実施形態の二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。図1は、本実施形態の二次電池の一例を示す模式断面図である。図1に示す二次電池20は、カップ形状の電池ケース21と、電池ケース21の上部に設けられた正極22と、正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。図1に示す二次電池20は、正極22と負極23との空間に電解液27が満たされている。以下、電解液27、正極22、負極23、セパレータ24、について詳述する。
【0019】
電解液27は、水とリチウム塩を含む(以下、水系電解液と称する場合がある)。水系電解液は可燃性を有さない水を主溶媒として含むため、水系電解液を用いた二次電池の安全性を高めることができる。この観点から、電解液27中の水の含有量は、電解液27の全量に対して6質量%以上であることが好ましく、8質量%~50質量%の範囲であることがより好ましく、8.5質量%~21質量%の範囲であることがより好ましい。
【0020】
電解液27は、水以外の溶媒を含んでいてもよい。水以外の溶媒としては、例えば、エーテル類、カーボネート類、ニトリル類、アルコール類、ケトン類、アミン類、アミド類、硫黄化合物類及び炭化水素類等が挙げられる。水以外の溶媒の含有量は、電解液27の全量に対して50質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。
【0021】
リチウム塩は、水を含有する溶媒に溶解して解離し、リチウムイオンを水系電解液中に存在させることができる化合物であれば、いずれも使用できる。リチウム塩は、正極及び負極を構成する材料との反応により電池特性の劣化を引き起こさないことが好ましい。このようなリチウム塩としては、例えば、過塩素酸、硫酸、硝酸等の無機酸との塩、塩化物イオン及び臭化物イオン等のハロゲン化物イオンとの塩、炭素原子を構造内に含む有機アニオンとの塩等が挙げられる。
【0022】
リチウム塩を構成する有機アニオンとしては、例えば、下記一般式(i)~(iii)で表されるアニオンが挙げられる。
(RSO)(RSO)N (i)
(R、Rは、それぞれ独立に、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。R及びRは互いに結合して環を形成してもよい。)
SO (ii)
(Rは、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
CO (iii)
(Rは、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基から選択される。)
上記一般式(i)~(iii)において、アルキル基又はハロゲン置換アルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2がさらに好ましい。ハロゲン置換アルキル基のハロゲンとしてはフッ素が好ましい。ハロゲン置換アルキル基におけるハロゲン置換数は、もとのアルキル基の水素の数以下である。
【0023】
~Rのそれぞれは、例えば、以下の一般式(iv)で表される基である。
【0024】
ClBr (iv)
(nは1以上の整数であり、a、b、c、d、eは0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満足する。)
上記一般式(i)で表される有機アニオンの具体例としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI;[N(CFSO)、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド(BETI;[N(CSO)、(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([N(CSO)(CFSO)])等が挙げられる。上記一般式(ii)で表される有機アニオンの具体例としては、例えばCFSO 、CSO 等が挙げられる。上記一般式(iii)で表される有機アニオンの具体例としては、例えばCFCO 、CCO 等が挙げられる。
【0025】
上記一般式(i)以外の有機アニオンとしては、例えば、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ホウ酸等のアニオンが挙げられる。
【0026】
リチウム塩を構成するアニオンとしては、還元側の電位窓を拡大させる等の点で、イミドアニオンを有する塩を含むことが好ましい。イミドアニオンの好適な具体例としては、例えば、上記一般式(i)で表される有機アニオンとして例示したイミドアニオンのほか、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI;[N(FSO)、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(FTI;[N(FSO)(CFSO)])等が挙げられる。
【0027】
リチウムイオンとイミドアニオンとを有するリチウム塩は、還元側の電位窓を拡大させる等の点で、例えば、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウム(パーフルオロエタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiFTI)等が挙げられる。これらは1種単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
他のリチウム塩の具体例としては、CFSOLi、CSOLi、CFCOLi、CCOLi、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム(LiClO)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、水酸化リチウム(LiOH)、硝酸リチウム(LiNO)、硫酸リチウム(LiSO)、硫化リチウム(LiS)、水酸化リチウム(LiOH)等が挙げられる。これらは1種単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
電解液27中におけるリチウム塩と水との混合比は、還元側の電位窓を拡大させる等の点で、リチウム塩1molに対して水4mol以下であることが好ましく、水3.5mol以下であることがより好ましい。下限値は、リチウム塩の析出等が起こらず、電池の充放電反応が進行する限りにおいて特に限定されないが、水系二次電池の安全性の観点から、例えば、リチウム塩1molに対して水1mol以上であることが好ましい。
【0030】
正極22は、例えば、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極合材層とを備える。正極集電体としては、正極の電位範囲で電気化学的、化学的に安定な金属の箔、及び、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極集電体の形態は特に限定されるものではなく、例えば、当該金属のメッシュ体、パンチングシート、エキスパンドメタル等の多孔体を使用してもよい。正極集電体の材料としては、水系電解液を用いた二次電池に使用可能な公知の金属等を使用することができる。そのような金属としては、例えば、ステンレス鋼、Al、アルミニウム合金、Ti、等が挙げられる。正極集電体の厚さは、集電性、機械的強度等の観点から、例えば3μm以上50μm以下が好ましい。
【0031】
正極合材層は、正極活物質を含む。また、正極合材層は、結着材、導電材等を含んでいてもよい。
【0032】
正極活物質としては、例えば、リチウム(Li)、並びに、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びニッケル(Ni)等の遷移金属元素を含有するリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。正極活物質としては、そのほか、遷移金属硫化物、金属酸化物、リン酸鉄リチウム(LiFePO)やピロリン酸鉄リチウム(LiFeP)などの1種類以上の遷移金属を含むリチウム含有ポリアニオン系化合物、硫黄系化合物(LiS)、酸素や酸化リチウムなどの酸素含有金属塩等が挙げられる。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物が好ましく、遷移金属元素としてCo、Mn及びNiの少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0033】
リチウム遷移金属酸化物は、Co、Mn及びNi以外の他の添加元素を含んでいてもよく、例えば、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、鉛(Pb)、錫(Sn)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)及びケイ素(Si)等を含んでいてもよい。
【0034】
リチウム遷移金属酸化物の具体例としては、例えばLiCoO、LiNiO、LiMnO、LiCoNi1-y、LiCo1-y、LiNi1-y、LiMn、LiMn2-y、LiMPO、LiMPOF(各化学式において、Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb及びBのうち少なくとも1種であり、0<x≦1.2、0<y≦0.9、2.0≦z≦2.3である)が挙げられる。リチウム遷移金属酸化物は、1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。高容量化の観点からは、リチウム遷移金属酸化物がリチウム以外の遷移金属の総量に対して80モル%以上のNiを含有することが好ましい。また、結晶構造の安定性の観点からは、リチウム遷移金属酸化物が、LiNiCoAl(0<a≦1.2、0.8≦b<1、0<c<0.2、0<d≦0.1、b+c+d=1)であることがより好ましい。
【0035】
導電材としては、正極合材層の電気伝導性を高める公知の導電材が使用でき、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン等の炭素材料が挙げられるこれらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。結着材としては、正極活物質や導電材の良好な接触状態を維持し、また、正極集電体表面に対する正極活物質等の結着性を高める公知の結着材が使用でき、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン、カルボキシメチルセルロース(CMC)またはその塩、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)等が挙げられる。
【0036】
正極22は、例えば正極活物質、結着材、導電材等を含む正極合材スラリーを正極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥、圧延して、正極合材層を正極集電体上に形成することにより製造できる。
【0037】
負極23は、例えば、負極集電体と、負極集電体上に形成された負極合材層とを備える。負極集電体としては、負極の電位範囲で電気化学的、化学的に安定な金属の箔、及び、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極集電体の形態は特に限定されるものではなく、例えば、当該金属のメッシュ体、パンチングシート、エキスパンドメタル等の多孔体を使用してもよい。負極集電体の材料としては、水系電解液を用いた二次電池に使用可能な公知の金属等を使用することができる。そのような金属としては、例えば、Al、Ti、Mg、Zn、Pb、Sn、Zr、In等が挙げられる。これらは1種単独でも、2種以上の合金等でもよく、少なくとも1つを主成分とする材料から構成されていればよい。また、2つ以上の元素を含む場合において、必ずしも合金化されている必要性はない。負極集電体の厚さは、集電性、機械的強度等の観点から、例えば3μm以上50μm以下が好ましい。
【0038】
負極合材層は、負極活物質を含む。負極活物質の表面には、後述するシランカップリング剤が付着している。また、負極合材層は、結着材、導電材等を含んでいてもよい。導電材や結着材は、正極側と同様のものを使用できる。
【0039】
負極活物質は、従来の非水系電解液を用いた二次電池に使用可能な公知の負極活物質を使用することができる。そのような負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ソフトカーボンやハードカーボン等の非晶質炭素等の炭素質材料が挙げられる。さらに他の例として、リチウム元素を含む合金や金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物のような金属化合物、シリコン等が挙げられる。例えば、リチウム元素を有する合金としては、例えばリチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等を挙げることができる。また、リチウム元素を有する金属酸化物としては、例えばチタン酸リチウム(LiTi12等)等を挙げることができる。また、リチウム元素を含有する金属窒化物としては、例えばリチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等を挙げることができる。さらに、硫黄系化合物を例示することもできる。これら負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本実施形態の二次電池20によれば、水の還元反応が抑制され、還元側の電位窓が拡大されるため、従来では困難であった炭素材料、リチウムスズ合金材料、リチウムケイ素合金材料等を水系電解液を用いた電池の負極活物質として適用することが可能となる。
【0040】
負極23は、例えば負極活物質、結着材等を含む負極合材スラリーを負極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥、圧延して、負極合材層を負極集電体上に形成することにより製造できる。
【0041】
負極活物質の表面に付着するシランカップリング剤は、フッ素を構成元素として含み、水の還元分解電位より貴な電位で還元分解するものであればよい。シランカップリング剤の還元分解電位は、水の還元分解を抑制し易い等の点で、Li基準(vs.Li/Li)で2.1V以上であることが好ましく、2.2V以上であることがより好ましく、2.4V以上であることがより好ましい。これは、競争的に進行する水の還元分解を避け、水の還元分解電位に到達する前に緻密な被膜で完全に覆っておくという観点で好ましいためである。上限値は特に限定されないが、例えば、Li基準で3.0V以下であることが好ましい。これは、負極集電体が酸化溶解しないような電位が望ましいためである。
【0042】
前述したように、二次電池の初期の充電過程で、シランカップリング剤は、水の還元分解より前に還元分解して、負極活物質の表面に電気化学的に安定であり、フッ素を含むことにより溶解度の低い成分比率の高い耐水性被膜が形成される。これにより、その後の充電過程において、水の還元分解が抑制されるため、還元側の電位窓が拡大される。
【0043】
シランカップリング剤は、還元側の電位窓を大きく拡大できる等の点で、水の還元分解電位より貴な電位で還元分解するフルオロアルキルシランであることが好ましく、具体的には、以下の式で表されるフルオロアルキルシランであることがより好ましい。
【0044】
【化1】
【0045】
(式中、Y1は、炭素数5~10、フッ素数11~21のフルオロアルキル基であり、直鎖でも分岐状でもよく、また、エーテル結合、エステル結合、ペプチド結合、ビニル結合、スルホンアミド結合、水素原子のうちの少なくとも1種を含んでいてもよく、Y2は、(CHで表され、nは0~5の整数であり、直鎖でも分岐状でもよく、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して、アルコキシ基、アルキル基、アミノ基、ハロゲン原子、又は水素原子である)。
【0046】
Y1がペプチド結合を有するフルオロアルキル基であるフルオロアルキルシランとしては、例えば、N-(3-trimethoxysilylpropyl)perfluorohexanamideが挙げられる。
【0047】
【化2】
【0048】
Y1がビニル結合を有するフルオロアルキル基であるフルオロアルキルシランとしては、例えば、hexadecafluorododec-11-en-1-yltrimethoxysilaneが挙げられる。
【0049】
【化3】
【0050】
Y1がスルホンアミド結合を有するフルオロアルキル基であるフルオロアルキルシランとしては、例えば、3-perfluorooctylsulfonylaminopropyltriethoxysilaneが挙げられる。
【0051】
【化4】
【0052】
Y1が水素原子を有するフルオロアルキル基であるフルオロアルキルシランとしては、例えば、dedecylfluoro-heptyl-propyltrimethoxysilane、dedecylfluoro-heptyl-propylmethyldimethoxysilaneが挙げられる。
【0053】
【化5】
【0054】
【化6】
【0055】
Y1が分岐状のフルオロアルキル基であるフルオロアルキルシランとしては、例えば、Triethoxy[5,5,6,6,7,7,7-heptafluoro-4,4-bis(trifluoro-methyl)heptyl]silaneが挙げられる。
【0056】
【化7】
【0057】
Y2が分岐状であるフルオロアルキルシランとしては、例えば、4-methyl-(perfluorohexylethyl)propyltrimethoxysilaneが挙げられる。
【0058】
【化8】
【0059】
フルオロアルキルシランとしては、還元側の電位窓を大きく拡大できる等の点で、Y1はC2n+1(5≦n≦10)で表されることがより好ましく、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して、OC2n+1(1≦n≦5)又はC2n+1(1≦n≦5)で表されることがより好ましい。また、フッ素化率0.49以上であることがより好ましい。具体的には、フルオロアルキルシランは、C11CHCH-Si(OCH、C13CHCH-Si(OCH、C17CHCH-Si(OCHのうちの少なくともいずれか1つを含むことがより好ましい。
【0060】
シランカップリング剤の含有量は、負極活物質の質量に対して0.01質量%~10質量%の範囲であることが好ましい。シランカップリング剤の含有量を上記範囲とすることで、還元側の電位窓を大きく拡大できる。シランカップリング剤の量が、0.01質量%未満の場合には、負極活物質表面を、シランカップリング剤由来の被膜により完全に被覆することが難しく、その結果、シランカップリング剤由来の被膜により水系電解液の分解を遮断することができず、還元側の電位窓を拡大することができなくなる恐れがある。
【0061】
シランカップリング剤を負極活物質の表面に付着させる方法は、例えば、負極23の負極合材層に、シランカップリング剤の溶液を直接噴霧して乾燥する方法、シランカップリング剤の溶液を気化させて、気化したシランカップリング剤を負極23の負極合材層に接触させる方法等が挙げられる。シランカップリング剤を負極活物質の表面に付着させる前に、負極活物質を含む負極合材層をオゾン処理することが好ましい。これは、オゾン処理を行うことにより、負極活物質表面に付着した有機系の被膜除去を行えることや親水性官能基を付与できることにより、シランカップリング剤が負極活物質表面に緻密に均一に付着しやすくなり、還元分解により形成されるシランカップリング剤由来の被膜が緻密化され、電気化学安定性、耐水性を向上させることができるためである。オゾン処理の方法としては、例えば、UVオゾン処理、大気プラズマ処理等があげられる。中でもUVオゾン処理が好ましい。UVオゾン処理は、例えば、UV洗浄表面改質装置(ASM1101N)((株)あすみ技研)を用いて行うことができる。しかし、処理方法、装置は、上記に限定されるものではない。なお、負極23を作製する前の負極活物質の粉末に、シランカップリング剤を付着させてもよいし、スラリー中にシランカップリング剤を添加し、負極活物質の表面に付着させても良い。
【0062】
本実施形態の二次電池20の充電後において、負極活物質の表面に形成されるシランカップリング剤由来の被膜は、例えば、LiF、SiOx(0<x<2)、LiCO、LiO等の成分から構成される。被膜にLiFやSiOx(0<x<2)が含まれることで、電気化学的に安定である一方でリチウムイオン導電性を示す被膜になると考えられる。また、フッ素を含むことにより溶解度の低い成分比率を高めることができ、水系電解液中における被膜のロバスト性を向上させることが可能となる。なお、前述したフルオロアルキルシランをシランカップリング剤として用いることで、被膜中のLiF、SiOx(0<x<2)の割合が増加する傾向にある。
【0063】
上記SiOxは、被膜の表面側から最深側に向かって、Siの価数が低価数となっていることが好ましい。また、上記LiFは、被膜の最深側に偏在していることが好ましい。被膜の最深側とは、負極活物質の表面との接触面側である。これらの特徴は、例えば、前述したフルオロアルキルシランをシランカップリング剤として用いることで達成される。また、これらの特徴を備える被膜は、電解液側表層に、還元度の低いフルオロアルキルシランが残存することを示しており、この残存する還元度の低いフルオロアルキルシランの効果により、電解液側表層における撥水性を向上させることが可能となる。その結果、被膜中、負極活物質表面への水の浸透を抑制することができ、電気化学的、化学的により安定となり、また、水系電解液に対するロバスト性を向上させることができるようになる。
【0064】
セパレータ24は、リチウムイオンを透過し、且つ、正極と負極とを電気的に分離する機能を有するものであれば特に限定されず、例えば、樹脂や無機材料等で構成される多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド、ポリアミドイミド、セルロース等が挙げられる。セパレータを構成する無機材料としては、ホウ珪酸ガラス、シリカ、アルミナ、チタニア等のガラス及びセラミックスが挙げられる。セパレータは、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータの表面にアラミド系樹脂、セラミック等の材料が塗布されたものを用いてもよい。
【実施例
【0065】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
<実施例1>
[負極]
負極活物質としてのハードカーボンと、結着材としてのPVDFとを、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中で96:4の固形分質量比で混合して、負極合材スラリーを調製した。次に、当該負極合材スラリーを銅箔からなる負極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延することにより、電極を作製した。
【0067】
シランカップリング剤であるフルオロアルキルシラン溶液(組成:CF(CFCHCH-Si-(OCH)を入れたガラス瓶と当該電極を、蓋つき金属容器に入れ、当該金属容器を恒温槽に投入して、ドライルーム内(露点:-40℃以下)、120℃で12時間加熱した。当該処理により、フルオロアルキルシランを揮発させ、電極を構成する負極活物質表面にフルオロアルキルシランを付着させた。上記処理後の電極を所定のサイズに切断して、負極を得た。負極の塗布量、及び充填密度は、それぞれ32.3g/m、1.0gcm-3であった。
【0068】
[正極]
正極活物質としてのLiCoOと、導電材としてのカーボンブラックと、結着材としてのPVdFとを、NMP中で94:3:3の質量比で混合して、正極合材スラリーを調製した。次に、当該正極合材スラリーを、Ti箔からなる正極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延した。そして、所定の電極サイズに切断して、正極を得た。正極の塗布量、及び充填密度は、それぞれ65.0g/cm、2.8gcm-3であった。
【0069】
[電解液]
リチウム塩(LITFSI:LIBETI=0.7:0.3(モル比))と水とを、モル比で1:2となるように混合して、水にリチウム塩が溶解した電解液を調製した。
【0070】
[三電極式セル]
上記負極を作用極、上記正極を対極、Ag/AgCl(3M NaCl)を参照極として、上記電解液を入れた三電極式セルを構築した。
【0071】
<実施例2>
負極(作用極)の作製において、シランカップリング剤であるフルオロアルキルシラン溶液(組成:CF(CFCHCH-Si-(OCH)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、三電極式セルを構築した。
【0072】
<比較例1>
負極(作用極)の作製において、負極活物質表面にフルオロアルキルシランを付着させる処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、三電極式セルを構築した。
【0073】
<比較例2>
負極(作用極)の作製において、シランカップリング剤であるアルキルシラン溶液(組成:CH(CH-Si-(OCH)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、三電極式セルを構築した。
【0074】
<比較例3>
負極(作用極)の作製において、シランカップリング剤であるフルオロアルキルシラン溶液(組成:CF(CFCHCH-Si-(OCH)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、三電極式セルを構築した。
【0075】
実施例1~2及び比較例1~3の三電極式セルを用いてサイクリックボルタンメトリー測定を行い、その電位窓を評価した。
・測定条件
開始電位:OCV
第一折り返し電位:-3.238V vs.Ag/AgCl(3M NaCl)
(Li基準で0V)
第二折り返し電位:-0.238V vs.Ag/AgCl(3M NaCl)
(Li基準で3V)
サイクル数:2サイクル
掃引速度:0.1mV/sec
測定温度:25℃
還元側の電位窓は、2サイクル目において-0.1mA/cmを閾値として読み取った。
【0076】
上記サイクリックボルタンメトリー測定後の各実施例及び比較例の三電極式セルを用いて、リニアスイープボルタンメトリー測定を行い、負極のOCPを測定した。
・測定条件
開始電位:OCV
電位走査範囲:-3.238V~OCV vs.Ag/AgCl(3M NaCl)
OCP測定時間:-3.238Vvs.Ag/AgCl(3M NaCl)へ電位掃引後から30分
掃引速度:0.1mV/sec
測定温度:25℃
各実施例及び比較例における還元側電位窓、及び0分後の負極のOCP(-3.238Vへ電位掃引後のOCP、1分後の負極のOCP(-3.238Vへ電位掃引後から1分後のOCP)、10分後の負極のOCP(-3.238Vへ電位掃引後から10分後のOCP)の結果を表1に示す。表1に示す還元側電位窓、負極のOCPはいずれもリチウム基準(vs.Li/Li)に換算した値である。
【0077】
【表1】
【0078】
表1から分かるように、比較例1~3では、還元側の電位窓が2.03V~2.12V(Li基準:vs.Li/Li)と還元側の電位窓が拡張されていないが、実施例1では、1.72V(Li基準:vs.Li/Li)まで、還元側の電位窓が拡大し、実施例2では、さらに、0.64V(Li基準:vs.Li/Li)まで、還元側の電位窓が拡大した。ところで、実施例1~2では、サイクリックボルタンメトリー測定の1サイクル目において、およそ2.5V付近に還元ピークが観察された。水の還元分解がおよそ2V付近から開始されることを鑑みると、2.5V付近に観察された還元ピークは、負極活物質の表面に付着したシランカップリング剤が還元分解して被膜を形成したことを示すものであって、水の還元による水素の発生、即ち電位窓の卑電位側の境界を示すのではない。したがって、実施例1及び2のように、水の還元分解電位より貴な電位で還元分解する、フッ素を構成元素として含むシランカップリング剤を負極活物質の表面に付着させることで、水系電解液の二次電池において、還元側の電位窓を拡大させることができる。
【0079】
比較例1は、負極活物質の表面に、シランカップリング剤が付着しておらず、シランカップリング剤由来の被膜を形成することが不可能であるため、電位窓が拡大せず、自己放電が抑制されない。比較例2は、負極活物質の表面に、シランカップリング剤が付着しているが、シランカップリング剤の構成元素としてフッ素を含んでおらず、フッ素を含む溶解度の低い成分比率の高い耐水性被膜を形成することができないため、電位窓が拡大せず、自己放電が抑制されない。比較例3は、負極活物質の表面に、フッ素を構成元素として含むフルオロアルキルシランが付着しているが、炭素数が4であり、フルオロアルキルシランの一般式[化1]を満たしておらず、フルオロアルキルシランが、水の還元分解電位より貴な電位で還元分解されないため、電位窓が拡大せず、自己放電が抑制されない。フッ素化率は、0.46と0.49未満である。
【0080】
一方、実施例1及び実施例2は、フッ素を構成元素として含むフルオロアルキルシランが付着しており、炭素数がそれぞれ、5および8であり、フルオロアルキルシランの一般式[化1]を満たしているため、電位窓が拡大し、自己放電が抑制される。フッ素化率は、それぞれ、0.50および0.57であり、0.49以上である。実施例1及び2の結果から、フルオロアルキル鎖長の増加に伴い、電位窓が拡大する傾向にあることを確認することができる。また、施例1及び2の結果から、フルオロアルキル鎖長の増加に伴い、0分後~10分後までの負極のOCPの変化が、より緩やかになっていることが確認される。これらは、よりフッ素化率の高いシランカップリング剤を選択することで、被膜中におけるフッ素原子比率を高めることができ、電気化学的により安定で、溶解度の低い成分比率の高い耐水性被膜を形成することができ、水系電解液中における被膜のロバスト性を向上させることができるためである。
【0081】
実施例1及び2においては、試験後の負極活物質の表面に被膜が形成されており、当該被膜をXPSで分析したところ、LiF、SiOx等の成分から構成される被膜であることが分かった。なお、比較例2や3もシランカップリング剤を使用しているが、シランカップリング剤の還元分解に由来する明確なピークは観察されなかった。これは、水の還元分解とシランカップリング剤の還元分解とが競争的に起こり、水の還元分解前にシランカップリング剤が還元されていないためと推察される。
【0082】
また、表1から分かるように、実施例1~2の0分後~10分後までの負極のOCPの変化は、緩やかであった。これは、負極活物質へのリチウムイオンの吸蔵が起こり、さらに吸蔵したリチウムイオンが負極活物質内に蓄えられていることを示している。一方、比較例1~3の0分後から10分後までの負極のOCPの変化は急激であった。これは、リチウムイオンの吸蔵はほとんど起こっていない、或いは起こっているとしても、吸蔵したリチウムイオンが負極活物質内に蓄えられず、瞬時に放出されていることを示している。すなわち、実施例1~2は、比較例1~3に比べて、自己放電が抑制されていると言える。
【符号の説明】
【0083】
20 二次電池
21 電池ケース
22 正極
23 負極
24 セパレータ
25 ガスケット
26 封口板
27 電解液
30 負極集電体
図1