IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電解コンデンサ 図1
  • 特許-電解コンデンサ 図2
  • 特許-電解コンデンサ 図3
  • 特許-電解コンデンサ 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/035 20060101AFI20240329BHJP
   H01G 9/145 20060101ALI20240329BHJP
   H01G 9/15 20060101ALI20240329BHJP
   H01G 9/10 20060101ALN20240329BHJP
【FI】
H01G9/035
H01G9/145
H01G9/15
H01G9/10 E
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022101104
(22)【出願日】2022-06-23
(62)【分割の表示】P 2021081745の分割
【原出願日】2016-10-31
(65)【公開番号】P2022123125
(43)【公開日】2022-08-23
【審査請求日】2022-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】椿 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】青山 達治
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 佳津代
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-181956(JP,A)
【文献】特開2016-143750(JP,A)
【文献】国際公開第2011/064939(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/099261(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/021333(WO,A1)
【文献】特開2016-072284(JP,A)
【文献】特開2001-307959(JP,A)
【文献】特開2012-089660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/035
H01G 9/15
H01G 9/10
H01G 9/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層を有する陽極体と、陰極体と、陽極体と陰極体との間に設けられたセパレータと、を含むコンデンサ素子と、
前記陽極体の前記誘電体層に接触した固体電解質層と、
前記コンデンサ素子に含浸された電解液(ただし、テトラフルオロアルミン酸イオンを含み、かつ、25℃における電気伝導率が4mS・cm -1 以上の電解液を除く)と、
前記コンデンサ素子を収納するためのケースと、
前記ケースを封止するための封止部材と、を備え、
前記固体電解質層は、π共役系導電性高分子を含み、
前記電解液は、溶媒および溶質を含み、
前記溶媒は、グリコール化合物と、スルホン化合物と、ポリアルキレングリコールと、を含み、
前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の割合が、10質量%以上であり、
前記溶媒に含まれる前記スルホン化合物の割合が、30質量%以上であり、
前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物および前記スルホン化合物を合計した割合が、70質量%以上であり、
前記溶媒に含まれる前記ポリアルキレングリコールの割合は、5質量%以上、30質量%以下である、電解コンデンサ。
【請求項2】
誘電体層を有する陽極体と、陰極体と、陽極体と陰極体との間に設けられたセパレータと、を含むコンデンサ素子と、
前記陽極体の前記誘電体層に接触した固体電解質層と、
前記コンデンサ素子に含浸された電解液(ただし、テトラフルオロアルミン酸イオンを含み、かつ、25℃における電気伝導率が4mS・cm -1 以上の電解液を除く)と、
前記コンデンサ素子を収納するためのケースと、
前記ケースを封止するための封止部材と、を備え、
前記固体電解質層は、π共役系導電性高分子を含み、
前記電解液は、溶媒および溶質を含み、
前記溶媒は、グリコール化合物と、スルホン化合物と、ポリアルキレングリコールと、を含み、
前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の割合が、10質量%以上であり、
前記溶媒に含まれる前記スルホン化合物の割合が、30質量%以上であり、
前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物および前記スルホン化合物を合計した割合が、70質量%以上であり、
前記溶媒に含まれる前記ポリアルキレングリコールの割合は、5質量%以上、30質量%以下であり、
前記溶媒はラクトン化合物を含まない、電解コンデンサ。
【請求項3】
前記ポリアルキレングリコールの重量平均分子量は、600以下である、請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の割合が、10~70質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記溶媒に含まれる前記スルホン化合物の割合が、30~90質量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
前記グリコール化合物は、エチレングリコールを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項7】
前記スルホン化合物は、スルホランを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項8】
前記溶質は、酸成分として有機カルボン酸化合物と、塩基成分としてアミン化合物、第4級アミジニウム化合物、または第4級アンモニウム化合物とを含み、
前記電解液に含まれる前記溶質の割合が、5~40質量%である、請求項1~7のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項9】
前記アミン化合物は、第1級アミン化合物、第2級アミン化合物、および第3級アミン化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項8に記載の電解コンデンサ。
【請求項10】
前記第4級アミジニウム化合物は、第4級イミダゾリニウム化合物および第4級イミダゾリウム化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項8または9に記載の電解コンデンサ。
【請求項11】
前記電解液は、更に、ホウ酸エステル化合物を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質層と電解液を有する電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
小型かつ大容量で低ESR(等価直列抵抗)のコンデンサとして、誘電体層を形成した陽極体と、誘電体層の少なくとも一部を覆うように形成された固体電解質層と、電解液とを具備する、電解コンデンサが有望視されている。固体電解質層は、π共役系導電性高分子を含む。
【0003】
特許文献1では、電解コンデンサのESRを低減する観点から、電解液の溶媒に、エチレングリコールとγ-ブチロラクトンとを用いることが提案されている。例えば、同文献において、溶媒に含まれるエチレングリコール、γ-ブチロラクトン、およびスルホランの割合が、それぞれ20質量%、40質量%、および40質量%である電解液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/021333号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電解液の溶媒が封止部材を透過して電解コンデンサ外部へ蒸散することで、電解液コンデンサ内部の電解液が減少することがある。電解コンデンサ内部の電解液が減少すると、固体電解質層が電解液で覆われる割合が減少し、固体電解質層(π共役系導電性高分子)が酸化劣化し、ESRが増大する。特に、電解コンデンサが高温環境下に曝されると、電解コンデンサ内の電解液が更に減少し易くなり、固体電解質層の酸化劣化が進行する。
しかしながら、電解液の溶媒の組成と、電解液の溶媒の電解コンデンサ外部への蒸散の度合いとの関係については、依然として十分に検討されていない。
【0006】
また、電解コンデンサの漏れ電流を低減するためには、電解液が、誘電体層(酸化皮膜)の欠陥部を修復する機能を有することが重要である。
【0007】
上記に鑑み、本発明は、漏れ電流が小さく、耐熱性に優れ、低ESRを維持できる電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面は、誘電体層を有する陽極体と、前記陽極体の前記誘電体層に接触した固体電解質層と、電解液と、を備え、前記固体電解質層は、π共役系導電性高分子を含み、前記電解液は、溶媒および溶質を含み、前記溶媒は、グリコール化合物と、スルホン化合物とを含み、前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の割合が、10質量%以上であり、前記溶媒に含まれる前記スルホン化合物の割合が、30質量%以上であり、前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物および前記スルホン化合物を合計した割合が、70質量%以上である、電解コンデンサに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、漏れ電流が小さく、耐熱性に優れ、低ESRを維持できる電解コンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る電解コンデンサの断面模式図である。
図2】同実施形態に係るコンデンサ素子の構成を説明するための概略図である。
図3】105℃の環境下における封止部材に対する各種溶媒の透過性を示すグラフである。
図4】125℃の環境下における封止部材に対する各種溶媒の透過性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る電解コンデンサは、誘電体層を有する陽極体と、誘電体層に接触した固体電解質層と、電解液とを備える。固体電解質層は、π共役系導電性高分子を含み、電解液は、溶媒および溶質を含む。溶媒は、グリコール化合物と、スルホン化合物とを含む。溶媒に含まれるグリコール化合物の割合が、10質量%以上であり、溶媒に含まれるスルホン化合物の割合が、30質量%以上であり、溶媒に含まれるグリコール化合物およびスルホン化合物を合計した割合が、70質量%以上である。
【0012】
電解液が上記組成の溶媒を含むことで、溶媒が封止部材を透過して電解コンデンサの外部へ蒸散することによる電解液の減少、およびそれに伴う固体電解質層(π共役系導電性高分子)の酸化劣化を抑制することができる。その結果、低ESRを維持することができる。電解コンデンサが長期間にわたり高温環境下に曝された場合でも、固体電解質層の酸化劣化を抑制し、電解コンデンサの耐熱性を高めることができる。
【0013】
π共役系導電性高分子は、グリコール化合物により膨潤すると考えられる。膨潤状態のπ共役系導電性高分子は、再配列を起こしやすいため、配向性もしくは結晶性が向上するものと考えられる。溶媒がグリコール化合物を10質量%以上含むことで、固体電解質層に含まれるπ共役系導電性高分子の配向性もしくは結晶性が高められる。これにより、固体電解質層の導電性が向上し、電解コンデンサのESRが低くなる。
【0014】
溶媒がスルホン化合物を30質量%以上含むことで、電解液に含まれる溶質(塩)の解離性を高めることができる。解離した溶質(特に酸成分)は誘電体層の欠陥部における酸化皮膜形成に寄与するため、電解液が誘電体層を修復する機能を高めることができる。その結果、電解コンデンサの漏れ電流を低減することができる。
【0015】
以下、本発明を実施形態に基づいて、より具体的に説明する。ただし、以下の実施形態は本発明を限定するものではない。
【0016】
図1は、本実施形態に係る電解コンデンサの断面模式図であり、図2は、同電解コンデンサに係るコンデンサ素子の一部を展開した概略図である。
【0017】
電解コンデンサは、例えば、コンデンサ素子10と、コンデンサ素子10を収容する有底ケース11と、有底ケース11の開口を塞ぐ封止部材12と、封止部材12を覆う座板13と、封止部材12から導出され、座板13を貫通するリード線14A、14Bと、リード線とコンデンサ素子10の電極とを接続するリードタブ15A、15Bと、電解液(図示せず)とを備える。有底ケース11の開口端近傍は、内側に絞り加工されており、開口端は封止部材12にかしめるようにカール加工されている。
【0018】
封止部材12は、ゴム成分を含む弾性材料で形成されている。ゴム成分としては、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)、ハイパロンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどを用いることができる。封止部材12は、カーボンブラック、シリカなどのフィラーを含んでもよい。
【0019】
コンデンサ素子10は、図2に示すような巻回体から作製される。巻回体とは、コンデンサ素子10の半製品であり、表面に誘電体層を有する陽極体21と陰極体22との間に、固体電解質層が形成されていないものをいう。巻回体は、リードタブ15Aと接続された陽極体21と、リードタブ15Bと接続された陰極体22と、セパレータ23とを備える。
【0020】
陽極体21および陰極体22は、セパレータ23を介して巻回されている。巻回体の最外周は、巻止めテープ24により固定される。なお、図2は、巻回体の最外周を止める前の、一部が展開された状態を示している。
【0021】
陽極体21は、表面が凹凸を有するように粗面化された金属箔を具備し、凹凸を有する金属箔上に誘電体層が形成されている。誘電体層の表面の少なくとも一部に、導電性高分子を付着させることにより、固体電解質層が形成される。固体電解質層は、陰極体22の表面および/またはセパレータ23の表面の少なくとも一部を被覆していてもよい。固体電解質層が形成されたコンデンサ素子10は、電解液(図示しない)とともに、有底ケース11に収容される。
【0022】
有底ケース11に収容されている電解液は、溶媒および溶質を含み、溶媒は、グリコール化合物と、スルホン化合物とを含む。溶媒に含まれるグリコール化合物の割合が、10質量%以上であり、溶媒に含まれるスルホン化合物の割合が、30質量%以上であり、溶媒に含まれるグリコール化合物およびスルホン化合物を合計した割合が、70質量%以上である。
【0023】
ここで、溶媒の封止部材に対する透過性について検討した結果を図3および4に示す。図3は、105℃の環境下における各種溶媒の透過性を示す。図4は、125℃の環境下における各種溶媒の透過性を示す。封止部材に含まれるゴム成分は、ブチルゴムとした。エチレングリコール(EG)、スルホラン(SL)、γ-ブチロラクトン(GBL)の3種類の溶媒について検討した。
【0024】
なお、溶媒の封止部材に対する透過性の評価試験は、以下の方法で行った。図1に示す電解コンデンサを作製する際に、電解液の代わりに、上記の溶媒を、有底ケース11に所定量収容した。その後、封止部材12を用いて有底ケース11を封止し、評価用の電解コンデンサを作製した。所定の温度環境下で、評価用の電解コンデンサを放置し、放置時間の経過に伴う電解コンデンサの重量変化を調べた。この時、放置に伴う電解コンデンサの重量の減少分を、溶媒が封止部材12を透過した量として求めた。
【0025】
EGおよびSLは、105℃の環境下および125℃の環境下のいずれにおいても、低い透過性を示し、特に、125℃の高温環境下でも、EGは低い透過性を示した。一方、GBLは、EGおよびSLと比べて、透過性が高く、125℃の高温環境下では、105℃の環境下と比べて、著しく高い透過性を示した。この理由は不明であるが、封止部材に含まれるゴム成分および溶媒のSP値(溶解度パラメータ)や、溶媒の蒸気圧などが影響していると考えられる。125℃以上の高温環境下では、γ-ブチロラクトンの透過性は更に高くなると考えられる。
【0026】
上記の結果より、125℃以上の高温環境下でも溶媒の透過性を低減するためには、溶媒にEGのようなグリコール化合物やSLのようなスルホン化合物を用いることが有利であり、グリコール化合物を用いることが特に有利である。
一方、電解液の誘電体層を修復する機能を高めるためには、溶媒にSLのようなスルホン化合物を用いることが有利である。また、ESRの低減には、溶媒にEGのようなグリコール化合物を用いることが有利である。
【0027】
本発明者らは、以上の考察に基づき鋭意検討を行った結果、上記組成の溶媒を含む電解液を用いる場合に、漏れ電流が小さく、耐熱性に優れ、低ESRを維持できる電解コンデンサが得られることを見出した。125℃以上の高温環境下でも、電解液(溶媒)の減少を十分に抑制することができ、漏れ電流を低減することができ、ESRを維持できることを見出した。上記組成の溶媒を用いることで、125℃以上の高温環境下でも、溶媒の封止部材12の透過を十分に抑制することができる。
【0028】
電解コンデンサのESR低減および耐熱性向上の観点から、溶媒に含まれるグリコール化合物の割合は、好ましくは10~70質量%であり、より好ましくは30~60質量%である。
【0029】
誘電体層の修復機能を高める観点から、溶媒に含まれるスルホン化合物の割合は、好ましくは30~90質量%であり、より好ましくは40~70質量%である。
【0030】
電解コンデンサのESR低減および耐熱性向上の観点から、溶媒に含まれるグリコール化合物およびスルホン化合物を合計した割合は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。
【0031】
グリコール化合物としては、例えば、アルキレングリコール、重量平均分子量が300未満のポリアルキレングリコールが挙げられる。なお、ここでいうグリコール化合物は、重量平均分子量が300以上のポリアルキレングリコールを含まない。より具体的には、グリコール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコールなどが挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
中でも、グリコール化合物は、エチレングリコールであることが好ましい。エチレングリコールは、グリコール化合物の中でも粘度が低いため、溶質を溶解しやすい。また、エチレングリコールは、熱伝導性が高く、リップル電流が発生したときの放熱性にも優れているため、耐熱性を向上させる効果も大きい。
【0033】
スルホン化合物は、分子内にスルホニル基(-SO-)を有する有機化合物である。スルホン化合物としては、例えば、鎖状スルホン、環状スルホンが挙げられる。鎖状スルホンとしては、例えば、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジプロピルスルホン、ジフェニルスルホンが挙げられる。環状スルホンとしては、例えば、スルホラン、3-メチルスルホラン、3,4-ジメチルスルホラン、3,4-ジフェニメチルスルホランが挙げられる。中でも、溶質の解離性および熱的安定性の観点から、スルホン化合物は、スルホランであることが好ましい。スルホランは、スルホン化合物の中でも粘度が低いため、溶質を溶解し易い。
【0034】
溶媒は、グリコール化合物およびスルホン化合物以外の他の成分を30質量%以下の割合で含んでもよい。他の成分としては、例えば、ラクトン化合物、カーボネート化合物が挙げられる。ラクトン化合物としては、例えば、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトンが挙げられる。カーボネート化合物としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、熱的安定性の観点から、他の成分は、ラクトン化合物であることが好ましく、GBLがより好ましい。蒸散し易いGBLを用いる場合でも、溶媒に含まれるGBLの割合が30質量%以下であるため、溶媒がGBLを30質量%超の割合で含む場合と比べて、固体電解質層の酸化劣化や、電解コンデンサの内圧上昇に伴う封口部材の変形による電解コンデンサの実装不良を抑制できる。また、溶媒に含まれるGBLの割合は10質量%以下が好ましく、溶媒はGBLを含まないことがより好ましい。
【0035】
また、溶媒は、他の成分として、重量平均分子量が300~1000程度のポリアルキレングリコールを含有してもよい。これにより、電解コンデンサのショート不良の発生を抑制できる。ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールが挙げられる。溶媒に含まれる、重量平均分子量が300~1000程度のポリアルキレングリコールの割合は、5~30質量%であることが好ましい。なお、本実施形態において、重量平均分子量が1000を超えるポリアルキレングリコールは溶質を溶かしにくいため、電解液中において溶媒に含めないものとする。また、電解コンデンサの低温環境下におけるESRの増加を抑制する観点から、ポリアルキレングリコールの重量平均分子量は600以下が好ましい。
【0036】
溶質は、酸成分として有機カルボン酸化合物と、塩基成分としてアミン化合物、第4級アミジニウム化合物、または第4級アンモニウム化合物とを含むことが好ましい。溶質は、有機カルボン酸の第1級~第3級アンモニウム塩、有機カルボン酸の第4級アミジニウム塩、または有機カルボン酸の第4級アンモニウム塩を含むことが好ましい。このような溶質を含む電解液は、陽極体の誘電体層(酸化皮膜)の欠陥部を修復する機能に優れているため、漏れ電流を低減することができる。また、熱的安定性に優れており、かつ、上記のように電解液の減少が抑制されるため、高温環境下でも長期にわたり、上記の機能が十分に発揮され、低い漏れ電流を維持することができる。なお、上記で列挙した塩基成分や溶質は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
電解液に含まれる、酸成分として有機カルボン酸化合物と、塩基成分としてアミン化合物、第4級アミジニウム化合物、または第4級アンモニウム化合物とを含む溶質の割合は、5~40質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましい。この場合、誘電体層の欠陥部を修復する機能が十分に発揮される。
【0038】
有機カルボン酸化合物としては、例えば、フタル酸(オルト体)、イソフタル酸(メタ体)、テレフタル酸(パラ体)、マレイン酸、安息香酸、サリチル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの芳香族カルボン酸、またはアジピン酸などの脂肪族カルボン酸が挙げられる。中でも、電解液の誘電体層の修復機能および熱的安定性の観点から、フタル酸が好ましい。
【0039】
アミン化合物は、第1級アミン化合物、第2級アミン化合物、および第3級アミン化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、電解液の耐熱性が高められ、電解コンデンサの熱的安定性を高めることができる。アミン化合物として、脂肪族アミン、芳香族アミン、複素環式アミンなどを用いることができるが、分子量72~102の脂肪族アミンが、解離度が高い点で好ましい。
【0040】
第1~3級アミン化合物としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、スペルミジン、スペルミン、アマンタジン、アニリン、フェネチルアミン、トルイジン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、イミダゾール、イミダゾリン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、4-ジメチルアミノピリジンが挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、トリエチルアミン、モノエチルジメチルアミンなどの第3級アミンが特に好ましい。
【0041】
第4級アミジニウム化合物は、環状のアミジン化合物の4級化物であることが好ましく、第4級イミダゾリニウム化合物および第4級イミダゾリウム化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。第4級アミジニウム化合物は、アミジニウムカチオンである。この場合、電解液の電気伝導性が高められ、ESRを更に低減することができる。
【0042】
第4級イミダゾリウム化合物としては、例えば、1,3-ジメチルイミダゾリウム、1,2,3-トリメチルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1,3-ジエチルイミダゾリウム、1,2-ジエチル-3-メチルイミダゾリウム、1,3-ジエチル-2-メチルイミダゾリウムが挙げられる。中でも、電気化学的安定性の観点から、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムが好ましい。
【0043】
第4級イミダゾリニウム化合物としては、例えば、1,3-ジメチルイミダゾリニウム、1,2,3-トリメチルイミダゾリニウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリニウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリニウム、1,3-ジエチルイミダゾリニウム、1,2-ジエチル-3-メチルイミダゾリニウム、1,3-ジエチル-2-メチルイミダゾリニウム、1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウムが挙げられる。中でも、電気化学的安定性の観点から、1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリニウムが好ましい。
第4級アンモニウム化合物としては、例えば、ジエチルジメチルアンモニウム、モノエチルトリメチルアンモニウムなどが好ましい。
【0044】
固体電解質層の劣化を更に抑制するためには、塩基成分よりも酸成分を多く含むことが好ましい。酸成分は、初期から電解液のpHを低下させ、導電性高分子からのドーパントの脱ドープを抑制する。塩基成分よりも酸成分を多く含むことで、導電性高分子からのドーパントの脱ドープおよびそれに伴う固体電解質の劣化を抑制することができる。また、酸成分は、電解液の誘電体層の修復機能に寄与していることからも、塩基成分よりも酸成分を多く含むことが好ましい。
【0045】
固体電解質層の劣化抑制および電解液の誘電体層の修復機能向上の観点から、塩基成分に対する酸成分のモル比:(酸成分/塩基成分)は、1.1~10.0であることが好ましい。
【0046】
電解液は、更に、ホウ酸エステル化合物を含むことが好ましい。ホウ酸エステルの加水分解により電解コンデンサ内の水分量を低減することができる。このため、リフロー処理時の電解コンデンサ内の水分の蒸発による電解コンデンサの内圧上昇、およびそれに伴う封止部材の変形による電解コンデンサの実装不良を抑制することができる。なお、本実施形態において、ホウ酸エステル化合物は、溶質を殆ど溶かさないため、電解液中において溶媒に含めないものとする。
【0047】
ホウ酸エステル化合物は、ホウ酸とポリアルキレングリコールとの縮合物およびホウ酸とポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルとの縮合物の少なくとも一方を含むことが好ましい。ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ジエチレングリコールやトリエチレングリコールのようなポリエチレングリコールが挙げられる。ポリエチレングリコールの分子量は、例えば、100~2000程度である。ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、例えば、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテルのようなポリエチレンモノアルキルエーテルが挙げられる。ポリエチレンモノアルキルエーテルの分子量は、例えば、120~2000程度である。電解液全体(ホウ酸エステル化合物を含む)に対するホウ酸エステル化合物の含有量は、好ましくは5~40質量%であり、より好ましくは10~30質量%である。
【0048】
固体電解質層は、π共役系導電性高分子を含む。π共役系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェンおよびポリアニリンなどが好ましい。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、2種以上のモノマーの共重合体でもよい。
【0049】
なお、本明細書では、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどは、それぞれ、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどを基本骨格とする高分子を意味する。したがって、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどには、それぞれの誘導体も含まれ得る。例えば、ポリチオフェンには、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などが含まれる。
【0050】
π共役系導電性高分子の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1000~100000である。
【0051】
π共役系導電性高分子からのドーパントの脱ドープを抑制する観点から、固体電解質層は高分子ドーパントを含むことが望ましい。高分子ドーパントとしては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸などのアニオンが挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらは単独重合体であってもよく、2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。なかでも、ポリスチレンスルホン酸(PSS)が好ましい。
【0052】
高分子ドーパントの重量平均分子量は、特に限定されないが、均質な固体電解質層を形成しやすい点で、例えば1000~500000であることが好ましい。
【0053】
固体電解質層は、モノマー、ドーパントおよび酸化剤などを含有する溶液を誘電体層に付与し、その場で、化学重合もしくは電解重合させる方法で形成してもよい。ただし、優れた耐電圧特性を期待できる点で、π共役系導電性高分子を誘電体層に付与する方法により、固体電解質層を形成することが好ましい。すなわち、固体電解質層は、液状成分と、液状成分に分散するπ共役系導電性高分子とを含む高分子分散体(特に、π共役系導電性高分子と高分子ドーパントとを含む高分子分散体)を、誘電体層に含浸させ、誘電体層の少なくとも一部を覆う膜を形成した後、その膜から液状成分を揮発させることにより形成されたものであることが好ましい。上記電解液は、高分子分散体に含まれるπ共役系導電性高分子の劣化の抑制に特に効果的であり、配向性の向上にも効果的である。
【0054】
高分子分散体に含まれるπ共役系導電性高分子の濃度は、0.5~10質量%であることが好ましい。また、π共役系導電性高分子の平均粒径D50は、例えば0.01~0.5μmであることが好ましい。ここで、平均粒径D50は、動的光散乱法による粒度分布測定装置により求められる体積粒度分布におけるメディアン径である。このような濃度の高分子分散体は、適度な厚みの固体電解質層を形成するのに適するとともに、誘電体層に含浸されやすい。
【0055】
≪電解コンデンサの製造方法≫
以下、本実施形態に係る電解コンデンサの製造方法の一例について、工程ごとに説明する。
(i)誘電体層を有する陽極体21を準備する工程
まず、陽極体21の原料である金属箔を準備する。金属の種類は特に限定されないが、誘電体層の形成が容易である点から、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁作用金属または弁作用金属を含む合金を用いることが好ましい。
【0056】
次に、金属箔の表面を粗面化する。粗面化により、金属箔の表面に、複数の凹凸が形成される。粗面化は、金属箔をエッチング処理することにより行うことが好ましい。エッチング処理は、例えば直流電解法や交流電解法により行えばよい。
【0057】
次に、粗面化された金属箔の表面に誘電体層を形成する。形成方法は特に限定されないが、金属箔を化成処理することにより形成することができる。化成処理では、例えば、金属箔をアジピン酸アンモニウム溶液などの化成液に浸漬し、熱処理する。また、金属箔を化成液に浸漬し、電圧を印加してもよい。
【0058】
通常、量産性の観点から、大判の弁作用金属などの箔(金属箔)に対して、粗面化処理および化成処理が行われる。その場合、処理後の箔を所望の大きさに裁断することによって、陽極体21が準備される。
【0059】
(ii)陰極体22を準備する工程
陰極体22には、陽極体と同様、金属箔を用いることができる。金属の種類は特に限定されないが、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁作用金属または弁作用金属を含む合金を用いることが好ましい。必要に応じて、陰極体22の表面を粗面化してもよい。
【0060】
(iii)巻回体(コンデンサ素子10)の作製
次に、陽極体21および陰極体22を用いて巻回体を作製する。
まず、陽極体21と陰極体22とを、セパレータ23を介して巻回する。このとき、リードタブ15A、15Bを巻き込みながら巻回することにより、図2に示すように、リードタブ15A、15Bを巻回体から植立させることができる。
【0061】
セパレータ23の材料は、例えば、天然セルロース、合成セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ビニロン、アラミド繊維などを主成分とする不織布を用いることができる。
【0062】
リードタブ15A、15Bの材料も特に限定されず、導電性材料であればよい。リードタブ15A、15Bの各々に接続されるリード線14A、14Bの材料についても、特に限定されず、導電性材料であればよい。
【0063】
次に、巻回された陽極体21、陰極体22およびセパレータ23のうち、最外層に位置する陰極体22の外側表面に、巻止めテープ24を配置し、陰極体22の端部を巻止めテープ24で固定する。なお、陽極体21を大判の金属箔を裁断することによって準備した場合には、陽極体21の裁断面に誘電体層を設けるために、巻回体に対し、さらに化成処理を行ってもよい。
【0064】
(iv)コンデンサ素子10を形成する工程
次に、高分子分散体を、誘電体層に含浸させ、誘電体層の少なくとも一部を覆う膜を形成する。高分子分散体は、液状成分と、液状成分に分散するπ共役系導電性高分子とを含む。高分子分散体は、液状成分にπ共役系導電性高分子が溶解した溶液でもよく、液状成分にπ共役系導電性高分子の粒子が分散した分散液でもよい。次に、乾燥により、形成された膜から液状成分を揮発させることにより、誘電体層の少なくとも一部を覆う緻密な固体電解質層が形成される。高分子分散体は、液状成分中に均一に分布しているため、均一な固体電解質層を形成しやすい。これにより、コンデンサ素子10が得られる。
【0065】
高分子分散体は、例えば、液状成分にπ共役系導電性高分子を分散させる方法、液状成分中で前駆体モノマーを重合させ、π共役系導電性高分子の粒子を生成させる方法などにより得ることができる。好ましい高分子分散体としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)がドープされたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、すなわちPEDOT/PSSが挙げられる。なお、π共役系導電性高分子の酸化防止剤を添加してもよいが、PEDOT/PSSは、ほとんど酸化しないため、酸化防止剤を用いる必要はない。
【0066】
液状成分は、水でもよく、水と非水溶媒との混合物でもよく、非水溶媒でもよい。非水溶媒は、特に限定されないが、例えば、プロトン性溶媒、非プロトン性溶媒を用いることができる。プロトン性溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類、ホルムアルデヒド、1,4-ジオキサンなどのエーテル類などが例示できる。非プロトン性溶媒としては、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類や、酢酸メチルなどのエステル類、メチルエチルケトンなどのケトン類などが例示できる。
【0067】
高分子分散体を誘電体層の表面に付与する方法としては、例えば、容器に収容された高分子分散体に巻回体を浸漬させる方法が簡易で好ましい。浸漬時間は、巻回体のサイズにもよるが、例えば1秒間~5時間、好ましくは1分間~30分間である。また、含浸は、減圧下、例えば10~100kPa、好ましくは40~100kPaの雰囲気で行うことが好ましい。また、高分子分散体に浸漬させながら、巻回体または高分子分散体に超音波振動を付与してもよい。高分子分散体から巻回体を引上げた後の乾燥は、例えば50~300℃で行うことが好ましく、100~200℃で行うことがより好ましい。
【0068】
高分子分散体を誘電体層の表面に付与する工程と、巻回体を乾燥させる工程とは、2回以上繰り返してもよい。これらの工程を複数回行うことにより、誘電体層に対する固体電解質層の被覆率を高めることができる。このとき、誘電体層の表面だけでなく、陰極体22およびセパレータ23の表面にも固体電解質層が形成されてもよい。
【0069】
以上により、陽極体21と陰極体22との間に固体電解質層が形成され、コンデンサ素子10が作製される。なお、誘電体層の表面に形成された固体電解質層は、事実上の陰極材料として機能する。
【0070】
(v)電解液を調製し、コンデンサ素子10に電解液を含浸させる工程
次に、溶質(酸成分および塩基成分)を溶媒に溶解させて、電解液を調整した後、コンデンサ素子10に、電解液を含浸させる。コンデンサ素子10に電解液を含浸させる方法は特に限定されない。例えば、容器に収容された電解液にコンデンサ素子10を浸漬させる方法が簡易で好ましい。浸漬時間は、コンデンサ素子10のサイズにもよるが、例えば1秒間~5分間である。含浸は、減圧下、例えば10~100kPa、好ましくは40~100kPaの雰囲気で行うことが好ましい。
【0071】
(vi)コンデンサ素子を封止する工程
次に、コンデンサ素子10を封止する。具体的には、まず、リード線14A、14Bが有底ケース11の開口する上面に位置するように、コンデンサ素子10を有底ケース11に収納する。有底ケース11の材料としては、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄、真鍮などの金属あるいはこれらの合金を用いることができる。
【0072】
次に、リード線14A、14Bが貫通するように形成された封止部材12を、コンデンサ素子10の上方に配置し、コンデンサ素子10を有底ケース11内に封止する。次に、有底ケース11の開口端近傍に、横絞り加工を施し、開口端を封止部材12に加締めてカール加工する。そして、カール部分に座板13を配置することによって、図1に示すような電解コンデンサが完成する。その後、定格電圧を印加しながら、エージング処理を行ってもよい。
【0073】
上記の実施形態では、巻回型の電解コンデンサについて説明したが、本発明の適用範囲は上記に限定されず、他の電解コンデンサ、例えば、陽極体として金属の焼結体を用いるチップ型の電解コンデンサや、金属板を陽極体として用いる積層型の電解コンデンサにも適用することができる。
【実施例
【0074】
以下、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0075】
《実施例1~16、比較例1~6》
本実施例では、定格電圧25V、定格静電容量330μFの巻回型の電解コンデンサ(Φ10.0mm×L(長さ)10.0mm)を作製した。以下に、電解コンデンサの具体的な製造方法について説明する。
【0076】
(陽極体の準備)
厚さ105μmのアルミニウム箔にエッチング処理を行い、アルミニウム箔の表面を粗面化した。その後、アルミニウム箔の表面に、化成処理により、誘電体層を形成した。化成処理は、アジピン酸アンモニウム溶液にアルミニウム箔を浸漬し、これに45Vの電圧を印加することにより行った。その後、アルミニウム箔を、縦×横が5.3mm×180mmとなるように裁断して、陽極体を準備した。
【0077】
(陰極体の準備)
厚さ50μmのアルミニウム箔にエッチング処理を行い、アルミニウム箔の表面を粗面化した。その後、アルミニウム箔を、縦×横が5.3mm×180mmとなるように裁断して、陰極体を準備した。
【0078】
(巻回体の作製)
陽極体および陰極体に陽極リードタブおよび陰極リードタブを接続し、陽極体と陰極体とを、リードタブを巻き込みながら、セパレータを介して巻回した。巻回体から突出する各リードタブの端部には、陽極リード線および陰極リード線をそれぞれ接続した。そして、作製された巻回体に対して、再度化成処理を行い、陽極体の切断された端部に誘電体層を形成した。次に、巻回体の外側表面の端部を巻止めテープで固定して巻回体を作製した。
【0079】
(高分子分散体の調製)
3,4-エチレンジオキシチオフェンと、高分子ドーパントであるポリスチレンスルホン酸(PSS、重量平均分子量10万)とを、イオン交換水(液状成分)に溶かし、混合溶液を調製した。混合溶液を撹拌しながら、イオン交換水に溶かした硫酸鉄(III)(酸化剤)を添加し、重合反応を行った。反応後、得られた反応液を透析し、未反応モノマーおよび過剰な酸化剤を除去し、約5質量%のPSSがドープされたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)を含む高分子分散体を得た。
【0080】
(固体電解質層の形成)
減圧雰囲気(40kPa)中で、所定容器に収容された高分子分散体に巻回体を5分間浸漬し、その後、高分子分散体から巻回体を引き上げた。次に、高分子分散体を含浸した巻回体を、150℃の乾燥炉内で20分間乾燥させ、誘電体層の少なくとも一部を被覆する固体電解質層を形成した。
【0081】
(電解液の調製)
電解液の溶媒には、グリコール化合物としてエチレングリコール(EG)と、スルホン化合物としてスルホラン(SL)と、ラクトン化合物としてγ-ブチロラクトン(GBL)とを用いた。溶質の酸成分には、有機カルボン酸化合物としてフタル酸(オルト体)を用いた。溶質の塩基成分には、アミン化合物としてトリエチルアミン(第3級アミン化合物)を用いた。上記の溶媒および溶質を用いて、電解液を調製した。
【0082】
溶媒に含まれるEG、SL、GBLの割合は、表1~3に示す値とした。電解液全体に対する溶質の含有量は、25質量%とした。塩基成分に対する酸成分のモル比:(酸成分/塩基成分)は、2.5とした。なお、酸成分(フタル酸)の少なくとも一部は、塩基成分(トリエチルアミン)との塩(フタル酸トリエチルアミン)として添加した。
【0083】
(電解液の含浸)
減圧雰囲気(40kPa)中で、電解液にコンデンサ素子を5分間浸漬し、コンデンサ素子に電解液を含浸させた。
【0084】
(コンデンサ素子の封止)
電解液を含浸させたコンデンサ素子を封止して、電解コンデンサを完成させた。具体的には、有底ケースの開口側にリード線が位置するようにコンデンサ素子を有底ケースに収納し、リード線が貫通するように形成された封止部材(ゴム成分としてブチルゴムを含む弾性材料)をコンデンサ素子の上方に配置して、コンデンサ素子を有底ケース内に封止した。そして、有底ケースの開口端近傍に絞り加工を施し、更に開口端をカール加工し、カール部分に座板を配置することによって、図1に示すような電解コンデンサを完成させた。その後、39Vの電圧を印加しながら、100℃で2時間エージング処理を行った。
【0085】
[評価]
(a)ESRの測定
まず、20℃の環境下で、4端子測定用のLCRメータを用いて、電解コンデンサの周波数100kHzにおけるESR値(初期ESR値:X)(mΩ)を測定した。
更に、長期安定性を評価するために、145℃の温度にて、電解コンデンサに定格電圧を500時間印加した後、上記と同様の方法でESR値(X)(mΩ)を測定した。
そして、ESRの増加率(ΔESR)を下記式より求めた。
ΔESR(%)=(X-X)/X×100
【0086】
(b)電解コンデンサの膨れ発生率の測定
各実施例および比較例の電解コンデンサを10個ずつ準備した。そして、各電解コンデンサについて、図1中のα1およびβ1の長さをマイクロゲージにより測定した。その後、電解コンデンサを、200℃に加熱した状態で5分間放置し、加熱後の図1中のα2およびβ2の長さを測定した。そして、下記式より封口部材の膨れ量を求めた。
膨れ量(mm)=(β2-β1)-(α2-α1)
10個の膨れ量の平均値を求めた。
【0087】
(c)漏れ電流の測定
20℃の環境下で、電解コンデンサに定格電圧を印加し、2分間経過した後の漏れ電流(初期)を測定した。
更に、長期安定性を評価するために、電解コンデンサを、145℃の温度にて、電解コンデンサに定格電圧を500時間印加した後、上記と同様の方法で漏れ電流(高温放置後)を測定した。
評価結果を表1~3に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
実施例1~16では、長期にわたり低いESRおよび低い漏れ電流が維持され、優れた耐熱性が得られた。また、実施例1~16では、平均膨れ量は小さかった。
【0092】
溶媒に、蒸散し易いGBLのみを用いた比較例1では、平均膨れ量が増大した。比較例1では、高温に曝されることで溶媒の減少量が多くなり、固体電解質層が酸化劣化したため、ΔESRが増大した。溶媒にEGを用いない比較例1および3では、初期のESRおよびΔESRが増大した。溶媒にSLを用いない比較例2では、誘電体層の欠陥部の修復機能が低下し、高温放置後の漏れ電流が増大した。
【0093】
溶媒に、蒸散し易いGBLを多く用いた比較例4では、高温に曝されることで溶媒の減少量が多くなり、固体電解質層が酸化劣化したため、ΔESRが増大した。比較例5では、EG量が少ないため、ΔESRが増大した。比較例6では、SL量が少ないため、誘電体層の欠陥部の修復機能が低下し、高温放置後の漏れ電流が増大した。
【0094】
《実施例17~22》
溶媒の成分を表4に示すように変更したこと以外、実施例1と同様に電解コンデンサを作製し、同様に評価した。表4中のPGはプロピレングリコール、DEGはジエチレングリコール、DMSはジメチルスルホンである。表4中のPEG300、PEG400、およびPEG600は、それぞれ重量平均分子量300、400、および600のポリエチレングリコールである。
評価結果を表4に示す。
【0095】
【表4】
【0096】
いずれの場合においても、長期にわたり低いESRおよび低い漏れ電流が維持され、優れた耐熱性が得られた。いずれの場合においても、平均膨れ量は小さかった。
【0097】
《実施例23~27》
溶質の塩基成分を表5に示すように変更したこと以外、実施例1と同様に電解コンデンサを作製し、同様に評価した。第1級アミン化合物には、エチルアミンを用いた。第2級アミン化合物には、ジエチルアミンを用いた。第4級イミダゾリウム化合物には、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムを用いた。第4級イミダゾリニウム化合物には、1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウムを用いた。第4級アンモニウム化合物には、ジエチルジメチルアンモニウムを用いた。
評価結果を表5に示す。
【0098】
【表5】
【0099】
いずれの場合においても、長期にわたり低いESRおよび低い漏れ電流が維持され、優れた耐熱性が得られた。いずれの場合においても、平均膨れ量は小さかった。
【0100】
《実施例28~33》
電解液に、更に、表6に示すホウ酸エステル化合物を加えた以外、実施例1と同様に電解コンデンサを作製し、同様に評価した。電解液全体に対するホウ酸エステル化合物の含有量は、10、20、または30質量%とした。
評価結果を表6に示す。
【0101】
【表6】
【0102】
電解液にホウ酸エステル化合物を添加した実施例28~33では、平均膨れ量が更に小さくなった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、誘電体層の少なくとも一部を被覆する固体電解質層と、電解液とを具備する、電解コンデンサに利用することができる。
【符号の説明】
【0104】
10:コンデンサ素子、11:有底ケース、12:封止部材、13:座板、14A,14B:リード線、15A,15B:リードタブ、21:陽極体、22:陰極体、23:セパレータ、24:巻止めテープ
図1
図2
図3
図4