(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】青果物包装用の材料、青果物包装用の材料の製造方法、青果物包装体、及び青果物の鮮度保持方法
(51)【国際特許分類】
B65D 85/50 20060101AFI20240329BHJP
A23B 7/00 20060101ALI20240329BHJP
A23B 7/144 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B65D85/50 120
A23B7/00 101
A23B7/144
(21)【出願番号】P 2019086106
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】千波 誠
(72)【発明者】
【氏名】吉井 英文
【審査官】米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-513719(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0016944(US,A1)
【文献】特開平09-235490(JP,A)
【文献】特開2019-170368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 85/50
A23B 7/00ー7/144
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
青果物包装用の材料であって、
前記材料が、基材上に、シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物からなる被膜を備え、
前記シクロデキストリン包接体(A)において、前記青果物が有するエチレン受容体へのエチレンの結合を阻害する阻害剤が、シクロデキストリンに包接されており、
前記マトリックス成分(B)がシェラックである、材料。
【請求項2】
青果物包装用の材料であって、
前記材料が、繊維材料、又は多孔質材料にシクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物が含浸された材料であり、
前記シクロデキストリン包接体(A)において、前記青果物が有するエチレン受容体へのエチレンの結合を阻害する阻害剤が、シクロデキストリンに包接されており、
前記マトリックス成分(B)がシェラックである、材料。
【請求項3】
青果物包装用の材料であって、
前記材料が、青果物の包装容器内に封入されて使用される、青果物の鮮度保持用シートであって、
前記鮮度保持用シートが、基材シート上に、シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物からなる鮮度保持層を備え、
前記シクロデキストリン包接体(A)において、前記青果物が有するエチレン受容体へのエチレンの結合を阻害する阻害剤が、シクロデキストリンに包接されており、
前記マトリックス成分(B)がシェラックである、材料。
【請求項4】
前記阻害剤が、1以上の不飽和二重結合を有する化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の青果物包装用の材料。
【請求項5】
前記阻害剤が、1-メチルシクロプロペンである、請求項4に記載の青果物包装用の材料。
【請求項6】
包装容器内に青果物が封入された青果物包装体であって、
前記包装容器の内面の少なくとも一部、及び/又は前記包装容器内に請求項1~5のいずれか1項に記載の青果物包装用の材料を含む、青果物包装体。
【請求項7】
包装容器内に青果物が封入された青果物包装体において、
前記包装容器内で、請求項1~5のいずれか1項に記載の青果物包装用の材料から前記阻害剤を徐放させる、青果物の鮮度保持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青果物の鮮度保持に好適に用いられる青果物包装用の材料、前述の青果物包装用の材料の製造方法、前述の青果物包装用の材料を含む包装容器内に青果物が包装された青果物包装体、及び前述の青果物包装用の材料を含む包装容器を用いる青果物の鮮度保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜や果物に代表される青果物は、段ボール紙や発泡スチロール等からなる包装容器に収容された状態で、生産地、流通基地、小売店等で保管されたり、生産地-流通基地間や流通基地-小売店間で流通したりする。このような保管、流通の過程において、通常、ある程度長い期間を要するため、包装容器内での青果物の鮮度保持に関する強い要求がある。包装容器内での青果物の鮮度を保持する方法としては、青果物が発生するエチレンを除去して、青果物の成熟・老化を抑制する方法が知られている。
【0003】
具体的には、青果物を収容するケース内のエチレンを除去してケース内の青果物の鮮度を保持する方法として、例えば、ゼオライト等の多孔質の微粉末であるエチレン吸着剤と、ヒノキチオール又はヒノキチオールのシクロデキストリン包接体とが配合された印刷インキを、青果物用のケースの内面に印刷する方法が知られている(特許文献1を参照)。特許文献1に記載の方法では、エチレン吸着剤は、ケース内のエチレンの除去の目的で使用され、ヒノキチオールは、ケース内での微生物の繁殖の抑制の目的で使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されるようにエチレン吸着剤を用いてエチレンを吸着することにより青果物の鮮度を保持する方法では、エチレン吸着剤のエチレンの吸着量が飽和することによって、青果物包装用のケースの鮮度保持能が短期間で大きく損なわれる場合がある問題がある。
このため、エチレン吸着剤の使用とは別の方法によって、エチレンの作用による青果物の成熟・老化の進行を抑制しうる青果物包装用の材料が求められている。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、エチレン吸着剤を用いなくても、長期間にわたりエチレンの作用による青果物の成熟・老化の進行を抑制できる青果物包装用の材料と、前述の青果物包装用の材料の製造方法と、前述の青果物包装用の材料を含む包装容器内に青果物が包装された青果物包装体と、青果物包装用の材料を含む包装容器を用いる青果物の鮮度保持方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、青果物が有するエチレン受容体へのエチレンの結合を阻害する阻害剤がシクロデキストリンに包接されたシクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物からなる被膜を備えるか、前述の組成物が含浸された材料を、青果物包装用の材料として用いることにより上記の課題を解決できることが見出され、本発明が完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(i)青果物包装用の材料であって、
材料が、基材上に、シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物からなる被膜を備え、
シクロデキストリン包接体(A)において、青果物が有するエチレン受容体へのエチレンの結合を阻害する阻害剤が、シクロデキストリンに包接されている、材料、
(ii)青果物包装用の材料であって、
材料が、繊維材料、又は多孔質材料にシクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物が含浸された材料であり、
シクロデキストリン包接体(A)において、青果物が有するエチレン受容体へのエチレンの結合を阻害する阻害剤が、シクロデキストリンに包接されている、材料、
(iii)青果物包装用の材料であって、
材料が、青果物の包装容器内に封入されて使用される、青果物の鮮度保持用シートであって、
鮮度保持用シートが、基材シート上に、シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物からなる鮮度保持層を備え、
シクロデキストリン包接体(A)において、青果物が有するエチレン受容体へのエチレンの結合を阻害する阻害剤が、シクロデキストリンに包接されている、材料、
(iv)阻害剤が、1以上の不飽和二重結合を有する化合物である、(i)~(iii)のいずれか1つに記載の青果物包装用の材料、
(v)阻害剤が、1-メチルシクロプロペンである、(iv)に記載の青果物包装用の材料、
(vi)マトリックス成分(B)がシェラックである、(i)~(v)のいずれか1つに記載の青果物包装用の材料、
(vii)シクロデキストリン包接体(A)の含有量が、マトリックス成分(B)100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下である、(i)~(vi)のいずれか1つに記載の青果物包装用の材料、
(viii)(i)~(vii)のいずれか1つに記載の青果物包装用の材料の製造方法であって、
シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む液状組成物を用いて、基材上、又は基材シート上に被膜を製膜する工程、又は
前述の液状組成物を、繊維材料、又は多孔質材料に含浸させた後に、含浸された液状組成物を固化させる工程を含む、方法、
(ix)包装容器内に青果物が封入された青果物包装体であって、
包装容器の内面の少なくとも一部、及び/又は包装容器内に(i)~(vii)のいずれか1つに記載の青果物包装用の材料を含む、青果物包装体、及び
(x)包装容器内に青果物が封入された青果物包装体において、
包装容器内で、(i)~(vii)のいずれか1つに記載の青果物包装用の材料から前記阻害剤を徐放させる、青果物の鮮度保持方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エチレン吸着剤を用いなくても、長期間にわたりエチレンの作用による青果物の成熟・老化の進行を抑制できる青果物包装用の材料と、前述の青果物包装用の材料の製造方法と、前述の青果物包装用の材料を含む包装容器内に青果物が包装された青果物包装体と、青果物包装用の材料を含む包装容器を用いる青果物の鮮度保持方法とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例で得た青果物包装用の材料についての、恒湿条件での1-MCP徐放試験の結果に関するグラフを示す図である。
【
図2】実施例で得た青果物包装用の材料についての、恒温条件で湿度を変更させた1-MCP徐放試験の結果に関するグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪第1の青果物包装用の材料≫
第1の青果物包装用の材料は、基材上に、シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物からなる被膜を備える。
シクロデキストリン包接体(A)において、青果物が有するエチレン受容体へのエチレンの結合を阻害する阻害剤が、シクロデキストリンに包接されている。
【0012】
第1の青果物包装用の材料は被膜中にシクロデキストリン包接体(A)を保持するため、第1の青果物包装用の材料は、シクロデキストリン包接体(A)から阻害剤を徐々に放出させる。
第1の青果物包装用の材料から放出される阻害剤は、青果物が有するエチレン受容体に結合することによって、青果物が有するエチレン受容体へのエチレンの結合を阻害する。
その結果、青果物を包装する包装容器の少なくとも一部を、第1の青果物包装用の材料により構成することにより、包装容器内の青果物のエチレンの作用による熟成を遅延させることができる。その結果、包装容器内の青果物の鮮度がある程度の長期にわたって保持される。
【0013】
青果物包装用の材料は、青果物の包装容器の全体又は一部を構成する材料であってよい。また、青果物包装用の材料は、包装容器内に、青果物とともに封入される材料であってもよい。
例えば、包装容器が袋である場合、当該袋の内面の少なくとも一部に、シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物からなる被膜を形成することにより、袋状の第1の青果物包装用の材料が提供される。この場合、袋状の包装容器が基材に該当する。
上記の袋状の第1の青果物包装用の材料について、袋を、段ボール紙、木材、発泡スチロール等の樹脂材料等からなる箱に変更することが可能である。
また、フィルム又はシートの小片を基材として用い、フィルム又はシート上にシクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物からなる被膜を形成して、第1の青果物包装用の材料とすることもできる。
フィルム又はシートの小片を基材として備える包装用の材料は、例えば、袋や箱等の包装容器の内部に貼り付けて使用され得る。
【0014】
以下、第1の青果物包装用の材料に関して、必須又は任意の構成について説明する。
【0015】
<基材>
基材は、シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物からなる被膜を支持可能であれば特に限定されない。
基材はガラスや金属板のような無機材料であってもよく、樹脂フィルムや樹脂シート、木材、紙等のような有機材料であってもよい。
また、基材は、無機材料及び/又は有機材料が積層された材料であってもよい。
【0016】
基材を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートやポリ乳酸等のポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、FR-AS樹脂、FR-ABS樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、並びにポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂等が挙げられる。
【0017】
基材サイズ及び形状は、青果物包装用の材料を備える包装容器内に所望する種類の青果物を収容可能である限り特に限定されない。基材のサイズは、包装される青果物のサイズ及び重量、並びに鮮度保持効果を勘案して決定される被膜のサイズ等を考慮して、適宜決定される。
基材の形状の好ましい例としては、フィルム状、シート状、袋状、及び箱状等が挙げられる。また、典型的には箱状の青果物包装用の容器内で用いられる、青果物の形状に応じた形状の1以上の凹部を有し、当該凹部内に青果物を凹載置可能であるように成形された、箱内で青果物を安定に支持するための支持部材を基材とすることもできる。
【0018】
基材の表面は、平滑であっても、規則的又は不規則的に凹凸が付与されていてもよい。
例えば、基材が平滑な表面を有するフィルム又はシートである場合、被膜を形成して得られる青果物包装用の材料をロール状にコンパクトに丸めることが可能であるため、青果物包装用の材料の流通又は保管上のメリットがある。
また、基材の表面に凹凸が付与されている場合、基材の表面積が大きいために、基材上に支持される被膜の面積を大きくしやすい。
【0019】
<被膜>
基材上に支持される被膜は、シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物からなる。
被膜を形成するための組成物において、シクロデキストリン包接体(A)の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。被膜を形成するための組成物におけるシクロデキストリン包接体(A)の含有量は、被膜の形成の容易さや、青果物包装用の材料の製造コストの抑制の点から、マトリックス成分(B)100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下が好ましく、0.5質量部以上8質量部以下がより好ましい。
また、被膜を形成するための組成物におけるシクロデキストリン包接体(A)の含有量が上記の範囲内であると、良好な成果物の鮮度保持効果と、青果物が包装された包装容器内での被膜の割れや欠けや、被膜の基材からの剥離の発生を抑制しやすい。
【0020】
被膜の形状や、厚さや面積等の被膜のサイズは、所望する鮮度保持効果が得られる限り特に限定されない。
被膜は、連続した単一の領域として基材上に形成されてもよく、不連続な複数の領域として基材上に形成されもよい。
また、包装容器の意匠性を考慮し、文字、数字、記号、及び種々の動植物やキャラクター等の形状の被膜を基材上に形成したり、被膜により格子状、ドット状等の模様が基材上に描かれてもよい。
【0021】
被膜の厚さは、例えば、1μm以上5mm以下が好ましく、5μm以上3mmが以下がより好ましく、10μm以上1mm以下がさらに好ましく、50μm以上0.5mm以下がさらにより好ましく、100μm以上0.3mm以下が特に好ましい。
被膜が薄すぎると、所望する鮮度保持効果を得にくい場合があり、被膜が厚すぎると、被膜の柔軟性の乏しさに起因して、マトリックス成分(B)の種類によっては被膜に割れや欠けが生じやすかったりする場合がある。
【0022】
〔シクロデキストリン包接体(A)〕
シクロデキストリン包接体(A)は、青果物が有するエチレン受容体へのエチレンの結合を阻害する阻害剤が、シクロデキストリンに包接された包接体である。
以下、青果物が有するエチレン受容体へのエチレンの結合を阻害する阻害剤について、単に「阻害剤」とも記す。
【0023】
シクロデキストリン包接体(A)の製造方法は特に限定されない。シクロデキストリン包接体(A)は、公知の方法により製造し得る。シクロデキストリン包接体(A)の公知の製造方法としては、例えば、特表2002-523337号公報に記載の方法が挙げられる。
【0024】
[シクロデキストリン]
シクロデキストリンは、阻害剤を包接ことができる限りにおいて特に限定されない。シクロデキストリンのサイズは、阻害剤のサイズに合わせて適宜選択される。シクロデキストリンとしては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン等を用いることができる。
また、シクロデキストリンは、マトリックス成分(B)中のシクロデキストリン包接体(A)の分散性の調整の目的等で、化学的に修飾されたシクロデキストリン誘導体であってもよい。
シクロデキストリン誘導体としては、例えば、シクロデキストリンが有する水酸基中の水素原子の一部が、メチル基、エチル基、n-プロピル基等のアルキル基や、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等のヒドロキシアルキル基で置換された置換シクロデキストリンが挙げられる。
例えば、阻害剤が1-メチルシクロプロペンである場合、シクロデキストリンとしてはα-シクロデキストリンが好適に用いられる。
【0025】
[阻害剤]
前述の通り、阻害剤は、青果物が有するエチレン受容体へ結合することによって、青果物が有するエチレン受容体へのエチレンの結合を阻害する。
【0026】
阻害剤としては、例えば、1以上の不飽和二重結合を有する化合物が好ましい。
【0027】
1以上の不飽和二重結合を有する化合物としては、例えば、下記式(1)で表される化合物が好ましい。
【化1】
【0028】
上記式(1)中、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、及び下記式(1a):
-(L)n-Z・・・(1a)
で表される基からなる群より選択される基である。
式(1a)中、nは0以上12以下の整数である。Lは、2価の基である。Lとして好適な2価の基としては、例えば、H、B、C、N、O、P、S、及びSiからなる群より選択される1種以上の原子からなる基が挙げられる。
Lとしての2価の基内の原子は、単結合、二重結合、及び三重結合からなる群より選択される1種以上の結合により互いに結合する。
Lとしての2価の基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であっても、環状であっても、これらの構造を組み合わせた構造であってもよい。
【0029】
R1、R2、R3、及びR4のそれぞれにおけるC及びH以外のヘテロ原子の数は0以上6以下が好ましい。
R1、R2、R3、及びR4のそれぞれにおけるH以外の原子の総数は、50以下が好ましい。
【0030】
式(1a)中のZは、1価の基である。Zとしては、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基、アジド基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、イソシアナト基、イソシアニド基、イソチオシアナト基、ペンタフルオロチオ基、及び3員~14員環である環式基が挙げられる。
【0031】
R1、R2、R3、及びR4は、互いに同一であっても異なっていてもよい。R1、R2、R3、及びR4は、それぞれシクロプロペン環に直接結合してもよく、ヘテロ原子含有基等の連結基を介してシクロプロペン環に結合してもよい。
【0032】
Zとしての環式基は、置換基を有していてもよい。環式基が有してもよい置換基の例としては、アルキル基、アルケニル基、アセチルアミノ基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシイミノ基、カルボキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルコキシ基、ヒドロキシ基、アルキルスルホニル基、アルキルチオ基、トリアルキルシリル基、及びジアルキルアミノ基が挙げられる。
環式基は、2以上の置換基を有していてもよい。置換基が複数存在する場合、複数の置換基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0033】
R1、R2、R3、及びR4としては、例えば、脂肪族ヒドロカルビル基(脂肪族炭化水素基)、脂肪族ヒドロカルビルオキシ基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルホスホナト基、アルキルホスファト基、アルキルアミノ基、アルキルスルホニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルキルアミノスルホニル基、シクロアルキルスルホニル基、シクロアルキルアミノ基、ヘテロシクリル基、アリール基、アリールオキシ基、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基、イソシアナト基、イソシアニド基、イソチオシアナト基、ペンタフルオロチオ基、メルカプト基、アルキルチオ基、及びオルガノシリル基等が挙げられる。これらの基は、さらに置換基を有していてもよい。
また、R1、R2、R3、及びR4は、カルボキシ基、スルホン酸基、及びアミノ基等のイオン化し得る基を1以上有していてもよい。こらのイオン化し得る基は、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物等の塩の形で存在していてもよい。
【0034】
R3及びR4は、両者が合わさって1つの基を形成してもよい。かかる基としては、カルボニル基、チオカルボニル基、アルキリデン基、オルガノイミノ基等が挙げられる。
【0035】
式(1)において、R1、R2、R3、及びR4はうちの1つ又は複数が水素原子であるのが好ましい。また、式(1)において、R1、R2、R3、及びR4が、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であるのが好ましい。
さらに、式(1)において、R1が、炭素原子数1以上4以下のアルキル基であり、R2、R3、及びR4が水素原子であるのも好ましい。
式(1)で表される化合物としては、1-メチルシクロプロペンが最も好ましい。
【0036】
1以上の不飽和二重結合を有する化合物の他の好ましい例としては、例えば、プロピレン、1-ブテン、cis-2-ブテン、trans-2-ブテン、イソブテン、trans-シクロオクテン、cis-trans-1,3-シクロオクタジエン、2,5-ノルボルナジエン、及びジアゾシクロペンタジエン等が挙げられる。
【0037】
これらの阻害剤のなかでも、シクロデキストリン包接体(A)の調製及び入手の容易さ、青果物が有するエチレン受容体へのエチレンの結合の阻害能の高さ、包接体からの阻害剤の徐放性能が良好であること等から、1-メチルシクロプロペンが好ましい。
【0038】
〔マトリックス成分(B)〕
マトリックス成分(B)としては、包装用の材料において流動せず、マトリックス成分(B)中にシクロデキストリン包接体(A)を分散された状態で保持できる材料であれば特に限定されない。
マトリックス成分(B)の好適な例としては、種々の樹脂や、常温において固体であるワックス類等が挙げられる。また、光や熱等のエネルギーや、酸や塩基等の硬化剤の作用によって硬化し得る硬化性化合物の硬化物をマトリックス成分(B)として用いることができる。つまり、硬化によりマトリックス成分(B)を与える硬化性化合物は、マトリックス成分(B)の前駆体である。
【0039】
マトリックス成分(B)としての樹脂としては、基材を構成する樹脂として例示された種々の合成樹脂や、シェラック、ロジン、天然ゴム、ゼラチン、及びカゼイン等の合成樹脂が挙げられる。
マトリックス成分(B)として使用し得るワックス類としては、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、パラフィンワックス、モンタンワックス、及びフィッシャートロプシュワックス等が挙げられる。
硬化性化合物であるマトリックス成分(B)の前駆体としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂等のエポキシ化合物、メラミン樹脂の前駆体、アルキド樹脂の前駆体、ウレタン樹脂等の前駆体、及び種々の(メタ)アクリル系単量体等が挙げられる。
硬化性化合物は、必要に応じて、硬化性化合物の種類に応じた硬化剤、重合開始剤等とともに使用される。
【0040】
以上説明したマトリックス成分(B)の中では、天然物由来であって、マトリックス成分(B)が青果物に付着して誤食された場合の人への健康被害が起きにくいことや、被膜を形成するための加工が容易であることや、被膜からの阻害剤の徐放性が良好であること等からシェラックが好ましい。
【0041】
被膜、及び被膜を形成するために使用される組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で種々の添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤としては、可塑剤、界面活性剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、及び着色剤等が挙げられる。
また、被膜、及び被膜を形成するために使用される組成物は、鮮度保持効果をさらに高める目的で、シリカ、ゼオライト、活性炭等のエチレン吸着能を有する吸着剤を含んでいてもよい。
【0042】
<被膜の形成方法>
被膜を形成する方法は特に限定されない。例えば、シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)又はマトリックス成分(B)の前駆体とを含む液状の組成物を基材上に塗布した後、塗布膜を乾燥、冷却、加熱、露光等の手段によって固化させることにより被膜を形成することができる。
より具体的には、液状の組成物が溶剤を含む場合には塗布膜を乾燥させて被膜を形成する。液状の組成物が、ワックスや低融点の樹脂等を含む融液である場合、塗布膜を冷却して固化させることにより被膜を形成する。液状の組成物が、マトリックス成分(B)の前駆体を含む場合、塗布膜を加熱又は露光することにより被膜を形成する。
【0043】
被膜を形成するために、液状の組成物を基材上に塗布する方法は特に限定されない。塗布方法としては、ロールコート、カーテンフローコート、ディップコート、スプレーコート、スリットダイコート等の方法が挙げられる。
また、文字や模様として被膜を形成する場合には、インクジェット印刷法やスクリーン印刷法等の印刷法を適用して被膜を形成してもよい。
【0044】
シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)又はマトリックス成分(B)の前駆体とを含む液状の組成物は、液状の組成物の粘度の調製の目的等で溶剤を含んでいてもよい。溶剤の種類は、シクロデキストリン包接体(A)から阻害剤を急速に放出させるような悪影響を及ぼさない限り特に限定されない。溶剤の種類は、マトリックス成分(B)やマトリックス成分(B)の前駆体の溶解性を考慮して適宜選択される。
例えば、マトリックス成分(B)がシェラックである場合、シェラックを容易に溶解させるメタノールやエタノール等のアルコール類を溶剤として用いるのが好ましい。
【0045】
シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物を、周知のフィルム形成方法によりフィルム化した後に、得られたフィルムを被膜として基材上に貼り合せてもよい。被膜を基材に貼り合せる際には、公知の粘着剤や接着剤を用いて、基材と被膜との間に、粘着層又は接着層が形成されてもよい。
【0046】
また、フィルムを延伸可能な場合、シクロデキストリン包接体(A)を含むフィルムを延伸してもよい。延伸を行うことにより、フィルムからなる被膜からの阻害剤の徐放性を調整できる場合がある。
【0047】
以上のようにして、基材上に、シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物からなる被膜が、基材上に支持された第1の青果物包装用の材料が得られる。
【0048】
上記の第1の青果物包装用の材料において、被膜からの阻害剤の徐放性の制御の目的等で、被膜の表面が通気性のフィルム等で被覆されていてもよい。当該通気性のフィルムの通気性を適宜変更することにより、被膜からの阻害剤の徐放性を制御することができる。
また、上記の第1の青果物包装用の材料は、被膜からの阻害剤の徐放性の制御の目的等で、上記の通気性のフィルムからなる袋内に封入されてもよい。
【0049】
≪第2の青果物包装用の材料≫
第2の青果物包装用の材料は、繊維材料、又は多孔質材料にシクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物が含浸された材料である。
シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物については、第1の青果物包装用の材料について説明した通りである。
【0050】
第2の青果物包装用の材料の形態は特に限定されない。第2の青果物包装用の材料の形態は、例えば、袋状、箱型、シート状、糸状、紐状等が挙げられる。
例えば、第2の青果物包装用の材料が繊維材料として紙を用いて製造された場合、青果物を、シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物が含浸された紙によって包むことによって、青果物が包装されてもよい。
【0051】
繊維材料は、シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物を含浸させることが可能であれば特に限定されない。
繊維材料の形態は特に限定されない。繊維材料としては、紙、布帛、編み物、糸、及び紐等が挙げられる。
布帛は、織布であっても、不織布であってもよい。織布について織り方は特に限定されない。
繊維材料を構成する繊維の例としては、木材パルプ、綿、麻、及びヤシ繊維等の植物性繊維、羊毛等の獣毛や絹糸等の動物性繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、及びアクリル繊維等の樹脂からなる合成繊維;ガラス繊維、炭素繊維、及び金属繊維等の無機繊維が挙げられる。
【0052】
多孔質材料は、シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物を含浸させることが可能であれば特に限定されない。
多孔質材料の形態は特に限定されない。多孔質材料の形態としては、例えば、シート状、板状、箱状等が挙げられる。シート状、又は箱状の多孔質材料を用いて製造される第2の青果物包装用の材料は、例えば、箱や袋等の包装容器中に、青果物とともに封入されて使用され得る。
【0053】
多孔質材料は、有機材料からなってもよく、無機材料からなってもよい。有機材料からなる多孔質材料としては、種々の樹脂からなる多孔質体や、コルクや海綿等の天然物由来の多孔質体が挙げられる。無機材料からなる多孔質体としては、軽石、多孔質ガラス、多孔質セラミック等が挙げられる。
【0054】
上記の繊維材料又は多孔質材料に、シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)又はマトリックス成分(B)の前駆体とを含む液状の組成物を含浸させた後、繊維材料又は多孔質材料内に浸透した液状の組成物を、乾燥、冷却、加熱、露光等の手段によって固化させることによって、第2の青果物包装用の材料が得られる。
液状の組成物を繊維材料又は多孔質材料に含浸させる方法は、特に限定されない。含浸方法としては、繊維材料又は多孔質材料の表面に液状の組成物を吹き付けたり塗り広げた後に液状の組成物を繊維材料又は多孔質材料に浸透させる方法や、繊維材料又は多孔質材料を液状の組成物に浸漬する方法が挙げられる。
作業の容易さから、含浸方法としては、繊維材料又は多孔質材料を液状の組成物に浸漬する方法が好ましい。
【0055】
上記の第2の青果物包装用の材料において、阻害剤の徐放性の制御の目的等で、青果物包装用の材料の表面が通気性のフィルム等で被覆されていてもよい。当該通気性のフィルムの通気性を適宜変更することにより、阻害剤の徐放性を制御することができる。
また、上記の第2の青果物包装用の材料は、阻害剤の徐放性の制御の目的等で、上記の通気性のフィルムからなる袋内に封入されてもよい。
【0056】
≪第3の青果物包装用の材料≫
第3の青果物包装用の材料は、青果物の包装容器内に封入されて使用される、青果物の鮮度保持用のシートである。
第3の青果物包装用の材料としての鮮度保持用シートは、基材シート上に、シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物からなる鮮度保持層を備える。
シクロデキストリン包接体(A)と、マトリックス成分(B)とを含む組成物については、第1の青果物包装用の材料について説明した通りである。
【0057】
基材シートの材質としては、第1の青果物包装用の材料について説明した基材の材料と同様の材料が挙げられる。
基材シートとしては、入手や加工が容易であることから、紙製のシートや、樹脂製のシートが好ましい。
【0058】
第3の青果物包装用の材料は、基材として基材シートを用いることの他は、第1の青果物包装用の材料と同様にして製造され得る。
【0059】
第3の青果物包装用の材料は、例えば、食品の鮮度保持や防腐目的で広く使用されている、小片状の脱酸素剤や、エタノール揮散剤等と同様に、青果物が包装された包装容器内に封入して使用され得る。
【0060】
≪青果物包装体≫
青果物包装体において、包装容器内に青果物が封入されている。
青果物が封入された包装容器は、その内面の少なくとも一部、及び/又は包装容器内に青果物包装用の材料を含む。
包装容器内には、単一の種類の青果物が封入されることが多いが、二種以上の青果物が同一の包装容器内に封入されてもよい。
【0061】
包装容器内に封入される青果物は、特に限定されない。本出願における青果物は、野菜、及び果物に加え、花卉を含む。
青果物が野菜である場合、野菜としては、葉菜、根菜、及び果菜のいずれでもよい。野菜の例としては、キャベツ、白菜、小松菜、水菜、からし菜、ケール、クレソン、チンゲンサイ、ブロッコリー、カリフラワー、カイワレダイコン、ルッコラ、ダイコン、カブ、ホースラディッシュ、セルリー(ホワイトセルリー)、ミツバ、コリアンダー(パクチー)、パセリ、イタリアンパセリ、セリ、チャービル、フェンネル、ディル、ニンジン、ホウレンソウ、スイスチャード、オカヒジキ、アマランサス、テーブルビート、レタス、春菊、エンダイブ、チコリー、ヨモギ、フキ、ツワブキ、エストラゴン、ゴボウ、キクイモ、ケツルアズキ(モヤシ)、大豆、緑豆、レンズマメ、ヒヨコマメ、しそ、エゴマ、バジル、ミント、オレガノ、ラベンダー、ローズマリー、レモンバーム、セージ、マジョラム、タイム、ネギ、アサツキ、ニラ、ノビル、大麦(大麦若葉)、小麦(小麦若葉)、トウモロコシ、モロヘイヤ、及びアスパラガス等が挙げられる。
【0062】
包装容器内に封入される青果物が果物である場合、青果物包装用の材料による鮮度保持効果が顕著であることから、熟成過程において自らエチレンを発生させるクリマテリックな果物が特に好ましい。
クリマテリックな果物の例としては、りんご、バナナ、トマト、メロン、洋ナシ、マンゴー、パパイア、柿、キウイフルーツ、チェリモヤ、アボカド、グアバ、プランテン、プラム、桃、パッションフルーツ、アンズ、ブレッドフルーツ(パンノキ)、パラミツ、ポーポー、ドリアン、フェイジョア、及びインドナツメ等が挙げられる。
【0063】
非クリマテリックな果物も、包装容器内に封入される青果物として好適に用いられる。
非クリマテリックな果物の例としては、ぶどう、かんきつ類(みかん、オレンジ、グレープフルーツ、レモン、ライム等)、パイナップル、チェリー、イチゴ、ライチ、ブラックベリー、ブルーベリー、クランベリー、ラズベリー、ザクロ、ビワ、ドラゴンフルーツ、スターフルーツ、ランブータン、及びナツメ等が挙げられる。
【0064】
包装容器の形状は特に限定されない。包装容器は、袋であっても箱であってもよい。
【0065】
≪青果物の鮮度保持方法≫
青果物の鮮度保持方法は、上記の青果物包装体において、前述の第1~第3の青果物包装用の材料から阻害剤を徐放させることによって、青果物の鮮度を保持する方法である。
当該鮮度保持方法において、青果物包装用の材料に含まれるシクロデキストリン包接体(A)の総量を調整したり、青果物包装体が置かれる環境を制御したりすることにより、青果物包装体内の阻害剤の濃度を制御することができる。
典型的には、環境の温度を高めることにより、青果物包装体内の阻害剤の濃度が高まる。また、環境の湿度を高めることにより青果物包装体内の阻害剤の濃度が高まる。
【0066】
青果物包装体内部の雰囲気の阻害剤の濃度は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。
青果物包装体内部の雰囲気の阻害剤の濃度は、例えば、包装容器内に青果物を封入してから3日後の濃度として、0.1質量ppm以上が好ましく、0.5質量ppm以上がより好ましく、1質量ppm以上が特に好ましい。
青果物包装体内部の雰囲気の阻害剤の濃度は、包装容器内に青果物を封入してから3日後の濃度として、20質量ppm以上でもよく、30質量ppm以上でもよいが、10質量ppm以上であればエチレンのエチレン受容体への結合を阻害する能力は十分発揮可能である。
【0067】
なお、処理後の青果物包装体内部に含まれる阻害剤の濃度が、国内においては消費するタイミングで検出できないレベルに下げておくことが必要でもあり、青果物包装体内部において素材剤の濃度が100質量ppm以上となる処理条件は、経済的な面からも不利となるため好ましくない。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0069】
〔実施例1〕
シェラック粉末(日本シェラック工業化物式会社製)6gを50mLのエタノールに溶解させてシェラック溶液を調製した。次いで、容量15mLの蓋付きバイアル瓶内で、0.5mLのシェラック溶液と、1-メチルシクロペンテン(1-MCP)のα-シクロデキストリン包接体30mgとを混合して、被膜形成用の液状組成物を得た。
得られた液状組成物を、10cm角の紙の上にローラーを用いて塗布した。塗布後、塗布膜を乾燥させてエタノールを除去し、シェラックと1-MCPのα-シクロデキストリン包接体とからなる被膜を紙上に備える青果物包装用の材料を得た。
【0070】
<恒湿条件での1-MCP徐放試験>
得られた青果物包装用の材料を、22cm×18cm×17cmのサイズのポリスチレンの箱に入れ、内部空間の1-MCP濃度をガスクロマトグラフにより定期的に測定する1-MCPの徐放試験を行った。1-MCPの濃度の測定は、青果物包装用の材料を箱内に封入してから、1日後から30日後まで、1日(24時間)毎に行った。1-MCPの徐放試験は、4℃15日間の保管の後、30℃15日の保管を行い実施された。
上記の除放試験の結果を、
図1のグラフに示す。
【0071】
<恒温条件で湿度を変更させた1-MCP徐放試験>
得られた青果物包装用の材料を、15cm×24cm×18cmのサイズのポリスチレンの箱に入れ、温度30℃、相対湿度85%、75%、55%、及び40%の条件で、内部空間の1-MCP濃度をガスクロマトグラフにより定期的に測定する1-MCPの徐放試験を行った。1-MCPの濃度の測定は、青果物包装用の材料を箱内に封入してから、1日後から25日後まで、1日(24時間)毎に行った。
上記の除放試験の結果を、
図2のグラフに示す。
【0072】
〔実施例2〕
バイアル瓶に仕込む1-メチルシクロペンテン(1-MCP)のα-シクロデキストリン包接体の量を50mgに変更することの他は、実施例1と同様に、青果物包装用の材料の作成と、恒湿条件での1-MCP徐放試験とを行った。
徐放試験の結果を
図1のグラフに示す。
【0073】
〔実施例3〕
バイアル瓶に、1-メチルシクロペンテン(1-MCP)のα-シクロデキストリン包接体とともに、シリカゲル粉末20mgを仕込むことの他は、実施例1と同様に、青果物包装用の材料の作成と、恒湿条件での1-MCP徐放試験とを行った。
徐放試験の結果を
図1のグラフに示す。
【0074】
〔実施例4〕
バイアル瓶に仕込む、シェラック溶液の量を0.3mLに変えることの他は、実施例1と同様に、青果物包装用の材料の作成と、恒湿条件での1-MCP徐放試験とを行った。
徐放試験の結果を
図1のグラフに示す。
【0075】
図1のグラフによれば、いずれの実施例の青果物包装用の材料からも、良好に1-MCPが徐放されたことが分かる。
また、
図1のグラフから、温度が高い程、青果物包装用の材料から放出される1-MCPの放出量が多いことが分かる。
【0076】
図2のグラフによれば、青果物包装用の材料の周囲の雰囲気の湿度が高いほど、青果物包装用の材料から1-MCPが放出されやすいことが分かる。
【0077】
1-MCPのような植物のエチレン受容体に結合する化合物による、エチレンの作用による青果物の鮮度低下の抑制は、Sitler,E.C.;Serek.M.,Inhibitors of ethylene responses in plants at the receptor level:recent developments.,Physiologia Plantarum.1997,100,577-582等の文献により公知である。
このため、上記の実施例によれば、以上説明した青果物包装用の材料が、青果物の鮮度保持の効果をもたらすことが分かる。