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特許7462202成形材料の製造方法、成形体の製造方法及び車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】成形材料の製造方法、成形体の製造方法及び車両
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20240329BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20240329BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20240329BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20240329BHJP
【FI】
C08J3/20 Z
B29C45/00
B29C70/06
B29K101:12
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019168855
(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公開番号】P2021046473
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桝井 幹生
(72)【発明者】
【氏名】剱持 慎也
(72)【発明者】
【氏名】中田 充生
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-003691(JP,A)
【文献】特開2018-144462(JP,A)
【文献】国際公開第2019/146633(WO,A1)
【文献】特開2016-188290(JP,A)
【文献】特開平07-330917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/20
B29C 45/00
B29C 70/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の熱可塑性樹脂を含む第一粉粒物と、
第二の熱可塑性樹脂及び炭素繊維を含み、前記第二の熱可塑性樹脂が前記炭素繊維の間に含浸している第二粉粒物と、を混合する、
成形材料の製造方法であって、
前記第一の熱可塑性樹脂がオレフィン系樹脂を含み、
前記第二の熱可塑性樹脂が非オレフィン系樹脂を含み、
前記第一粉粒物と前記第二粉粒物との配合割合が、重量比で、第一粉粒物/第二粉粒物=99/1~75/25の範囲である、
成形材料の製造方法。
【請求項2】
第一の熱可塑性樹脂を含む第一粉粒物と、
第二の熱可塑性樹脂及び炭素繊維を含み、前記第二の熱可塑性樹脂が前記炭素繊維の間に含浸している第二粉粒物と、を混合する、
成形材料の製造方法であって、
前記第一の熱可塑性樹脂がオレフィン系樹脂を含み、
前記第二の熱可塑性樹脂が非オレフィン系樹脂を含み、
前記非オレフィン系樹脂が熱可塑性エポキシ樹脂を含む、
成形材料の製造方法。
【請求項3】
第一の熱可塑性樹脂を含む第一粉粒物と、
第二の熱可塑性樹脂及び炭素繊維を含み、前記第二の熱可塑性樹脂が前記炭素繊維の間に含浸している第二粉粒物と、を混合する、
成形材料の製造方法であって、
前記第一の熱可塑性樹脂がオレフィン系樹脂を含み、
前記第二の熱可塑性樹脂が非オレフィン系樹脂を含み、
酸変性オレフィン系樹脂を含む第三粉粒物を更に備える、
成形材料の製造方法。
【請求項4】
前記第二の熱可塑性樹脂が隣り合う前記炭素繊維の間に浸入している、
請求項1~3のいずれか一項に記載の成形材料の製造方法。
【請求項5】
前記第二の熱可塑性樹脂が、前記炭素繊維の外面の少なくとも一部に10μm以上の厚みで付着している、
請求項1~4のいずれか1項に記載の成形材料の製造方法。
【請求項6】
前記オレフィン系樹脂がポリプロピレンを含む、
請求項1~5のいずれか1項に記載の成形材料の製造方法。
【請求項7】
前記酸変性オレフィン系樹脂が多価カルボン酸無水物変性ポリプロピレン樹脂を含む、
請求項3に記載の成形材料の製造方法。
【請求項8】
前記多価カルボン酸無水物変性ポリプロピレン樹脂が無水マレイン酸変性ポリプロピレンを含む、
請求項7に記載の成形材料の製造方法。
【請求項9】
前記炭素繊維は、繊維軸方向の長さが1mm以上500mm以下である、
請求項1~8のいずれか1項に記載の成形材料の製造方法。
【請求項10】
前記炭素繊維が、1000本以上の単繊維を束ねて形成されている、
請求項1~9のいずれか1項に記載の成形材料の製造方法。
【請求項11】
前記第二粉粒物において、前記第二の熱可塑性樹脂と前記炭素繊維との含有比率が、体積比で、炭素繊維/(第二の熱可塑性樹脂+炭素繊維)=20/100~80/100の範囲である、
請求項1~10のいずれか1項に記載の成形材料の製造方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の成形材料の製造方法で得られた成形材料を加熱することにより前記第一の熱可塑性樹脂と前記第二の熱可塑性樹脂とを溶融し、混練した後、成形する、
成形体の製造方法。
【請求項13】
前記成形材料を加熱することにより前記第一の熱可塑性樹脂と前記第二の熱可塑性樹脂とを溶融し、混練した後、射出成形する、
請求項12に記載の成形体の製造方法。
【請求項14】
請求項2に記載の成形材料の製造方法で得られた成形材料を加熱することにより前記第一の熱可塑性樹脂と前記第二の熱可塑性樹脂とを溶融し、混練して成形した成形体と、
車両本体と、を備える、
車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に成形材料の製造方法、成形体の製造方法及び車両に関し、より詳細には、第一粉粒物と、第二粉粒物と、を混合する成形材料の製造方法、成形体の製造方法及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、炭素繊維及びポリプロピレンを含む成形材料が開示されている。この成形材料では、ポリプロピレンに炭素繊維を配合することで、成形体の高強度化が期待されている。一般的に、炭素繊維で強化された樹脂製の成形体は、炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP:Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics)と呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-075290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、炭素繊維を溶融した熱可塑性樹脂に分散させることは難しい、という問題があった。
【0005】
本開示は、熱可塑性樹脂に炭素繊維を分散させやすい成形材料の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
また本開示は、成形材料の製造方法で得られる成形材料を使用した成形体の製造方法及び車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る成形材料の製造方法は、第一粉粒物と、第二粉粒物と、を混合する。第一粉粒物は第一の熱可塑性樹脂を含む。第二粉粒物は、第二の熱可塑性樹脂及び炭素繊維を含む。第二の熱可塑性樹脂が炭素繊維に含浸している。
【0008】
本開示の一態様に係る成形体の製造方法は、本開示に係る成形材料の製造方法で得られる成形材料を加熱することにより第一の熱可塑性樹脂と第二の熱可塑性樹脂とを溶融し、混練した後、成形する。
【0009】
本開示の一態様に係る車両は、本開示に係る成形体の製造方法で得られる成形体と、車両本体と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、熱可塑性樹脂に炭素繊維を分散させやすい、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1Aは、本実施形態に係る成形材料の製造方法を示す概略図である。図1Bは、第二粉粒物を構成する粒子を模式的に示す図である。
図2図2は、本実施形態に係る成形材料の製造方法で得られた成形材料の溶融状態を模式的に示す図である。
図3図3は、本実施形態に係る車両を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1)
(1)概要
本実施形態に係る成形材料3の製造方法は、図1に示すように、第一粉粒物1と、第二粉粒物2と、を混合する。第一粉粒物1は第一の熱可塑性樹脂13を含む。第二粉粒物2は、第二の熱可塑性樹脂23及び炭素繊維22を含む。第二の熱可塑性樹脂23が炭素繊維22に含浸している。
【0013】
本実施形態に係る成形材料3の製造方法では、炭素繊維22が第一の熱可塑性樹脂13と混合される前に予め第二粉粒物2に含まれている。そして、炭素繊維22を含む第二粉粒物2が第一粉粒物1と混合される。したがって、溶融した熱可塑性樹脂に、直接、炭素繊維を混合する場合に比べて、第一の熱可塑性樹脂13に対する炭素繊維22の分散性を向上させることができる。したがって、成形材料3を成形して得られる成形体100の物性及び外観などの性状の均質化を図りやすくなる。
【0014】
また成形材料3を成形して得られる成形体100では、第二の熱可塑性樹脂23が、第一の熱可塑性樹脂13と炭素繊維22との間の全部又は一部に存在した場合には、第一の熱可塑性樹脂13と炭素繊維22との密着性を第二の熱可塑性樹脂23により向上させることができ、第一の熱可塑性樹脂と炭素繊維とからなる成形体に比べて、強度及び剛性等の物性が向上する。
【0015】
第一の熱可塑性樹脂及び炭素繊維のみを含む成形材料を成形した場合、第一の熱可塑性樹脂に対する炭素繊維の分散性が不十分なため、第一の熱可塑性樹脂と炭素繊維との密着性が不十分になることがあり、その場合、成形体の強度及び剛性等の物性を十分に向上させることができないことがあった。一方、成形体の物性剛性を高めるために炭素繊維の配合量を増やすと、成形体の重量が増加してしまうことがある。これに対して本実施形態で得られる成形材料3は、第二の熱可塑性樹脂23が、第一の熱可塑性樹脂13と炭素繊維22との間の少なくとも一部に存在している。それにより、第一の熱可塑性樹脂と炭素繊維とからなる成形体に比べて、強度及び剛性等の物性が向上する。
【0016】
(2)詳細
(2-1)成形材料の製造方法
本実施形態に係る成形材料3の製造方法は、図1Aに示すように、第一粉粒物1と、第二粉粒物2と、を混合する。本開示において、粉粒物は粉体及び粒体の一方又は両方を含んでいる。本開示において、粉体及び粒体は複数の粒子を含んでいる。すなわち、本実施形態における第一粉粒物1は複数の粒子11の集合体である。また本実施形態における第二粉粒物2は複数の粒子21の集合体である。本開示において、粒子の粒径が10-4m以上10-1m以下を粒体といい、粒子の粒径が10-9m以上10-4m未満を粉体という。本開示において、粒子の粒径は、例えば、動的光散乱法、レーザー回折法、遠心沈降法、FFF法、電気的検知体法などで測定される。
【0017】
本開示において、第一粉粒物1と、第二粉粒物2と、を混合するにあたっては、ドライブレンドすることが好ましい。ドライブレンドとは乾燥状態で混合することをいう。ここで、乾燥状態とは水及び溶剤を全く含まない状態をいうが、不可避的に混入される水及び溶剤が僅かに含まれる状態も乾燥状態という。また第一粉粒物1と第二粉粒物2との混合状態の均一性を向上させるため等の理由で、僅かな水及び溶剤を添加する場合も乾燥状態という。
【0018】
本開示において、ドライブレンドとは第一粉粒物1及び第二粉粒物2が溶融していない状態で混合することをいう。ただし、ドライブレンドは、第一粉粒物1及び第二粉粒物2が、不可避的に熱せられて、第一粉粒物1及び第二粉粒物2の少なくとも一方が僅かに溶融された状態で行ってもよい。またドライブレンドは、第一粉粒物1と第二粉粒物2との混合状態の均一性を向上させるため等の理由で、第一粉粒物1及び第二粉粒物2の少なくとも一方が僅かに溶融するように加熱して行ってもよい。
【0019】
<第一粉粒物>
図1Aに示すように、第一粉粒物1は第一の熱可塑性樹脂13を含む。すなわち、第一粉粒物1は第一の熱可塑性樹脂13を含む複数の粒子11の集合体である。第一粉粒物1に含まれる粒子11は第一の熱可塑性樹脂13のみで構成されていてもよいし、その他の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含んでいてもよい。また第一粉粒物1に含まれる粒子11は不可避的に含まれる不純物、酸化防止剤、着色剤、無機フィラー、紫外線吸収剤及びリサイクル材などのその他の成分を含んでいてもよい。また第一粉粒物1は、第一の熱可塑性樹脂13以外の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含む粒子を含有していてもよい。また第一粉粒物1は不可避的に含まれる不純物、酸化防止剤、着色剤、無機フィラー、紫外線吸収剤及びリサイクル材などのその他の成分を含んでいてもよい。
【0020】
第一の熱可塑性樹脂13は、射出成形、圧縮成形、押出成形、ブロー成形等の成形方法で成形可能な樹脂である。本実施形態では、第一の熱可塑性樹脂13がオレフィン系樹脂を含む。オレフィン系樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリブチレンからなる群から選択される一種以上の材料を含むことができる。
【0021】
ポリエチレンの例には、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレンの単独重合体、エチレンとα-オレフィンとの共重合体等が含まれる。ポリエチレンは、これらの材料のうち一種以上を含むことができる。ポリプロピレンの例には、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレンを含むランダムコポリマー(ランダムポリプロピレン)、プロピレンを含むブロックコポリマー(ブロックプロピレン)、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン等が含まれる。ポリプロピレンは、これらの材料のうち一種以上を含むことができる。
【0022】
第一の熱可塑性樹脂13中に占めるオレフィン系樹脂の割合は、80重量%以上が好ましく、90重量%以上が好ましく、100重量%であることも好ましい。すなわち、第一の熱可塑性樹脂13の全部がオレフィン系樹脂であってもよい。オレフィン系樹脂は、ポリプロピレンを含むことが好ましい。この場合、成形材料3の成形性を向上させることができ、特に成形材料3を射出成形に適用しやすい。
【0023】
第一粉粒物1を構成する粒子の形態は、特に限定されず、例えば、球状、円柱状、円錐状、直方体状、立方体状、多面体状、ペレット状、鱗片状、破砕状、繊維状、フィルム状及びチップ状などである。
【0024】
<第二粉粒物>
図1A及び図1Bに示すように、第二粉粒物2は、第二の熱可塑性樹脂23及び炭素繊維22を含む。すなわち、第二粉粒物2は第二の熱可塑性樹脂23及び炭素繊維22を含む複数の粒子21の集合体である。第二粉粒物2に含まれる粒子21は第二の熱可塑性樹脂23及び炭素繊維22のみで構成されていてもよいし、その他の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含んでいてもよい。また第二粉粒物2に含まれる粒子21は不可避的に含まれる不純物、酸化防止剤、着色剤、無機フィラー、紫外線吸収剤及びリサイクル材などのその他の成分を含んでいてもよい。また第二粉粒物2は、第二の熱可塑性樹脂23以外の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含む粒子を含有していてもよい。また第二粉粒物2は不可避的に含まれる不純物、酸化防止剤、着色剤、無機フィラー、紫外線吸収剤及びリサイクル材などのその他の成分を含んでいてもよい。
【0025】
第二の熱可塑性樹脂23は、第一の熱可塑性樹脂13と同じ種類の熱可塑性樹脂であってもよいし、異なる種類の熱可塑性樹脂であってもよい。同じ種類の熱可塑性樹脂とは、分子構造及び粘度などの物性が同じ熱可塑性樹脂のことをいい、異なる種類の熱可塑性樹脂とは、分子構造又は粘度などの物性が異なる熱可塑性樹脂のことをいう。第一の熱可塑性樹脂13と第二の熱可塑性樹脂23とを同じ種類の熱可塑性樹脂で構成すると、炭素繊維22に対する第一の熱可塑性樹脂13と第二の熱可塑性樹脂23との含浸量をコントロールしやすくなる。また第一の熱可塑性樹脂13と第二の熱可塑性樹脂23とを同じ種類にすることは、成形材料の全体における炭素繊維22の配合割合を小さくする手段として有効である。
【0026】
本実施形態では、第二の熱可塑性樹脂23が非オレフィン系樹脂を含む。第一の熱可塑性樹脂13がオレフィン系樹脂を含む場合、第二の熱可塑性樹脂23は、非オレフィン系樹脂を含むことが好ましい。これにより、第一の熱可塑性樹脂13と異なる性状の第二の熱可塑性樹脂23が第一の熱可塑性樹脂13と炭素繊維22との間に存在することになり、第二の熱可塑性樹脂23により第一の熱可塑性樹脂13と炭素繊維22との密着性が向上しやすくなる。非オレフィン系樹脂は、オレフィン系樹脂以外の熱可塑性を有する樹脂を含むことが好ましい。非オレフィン系樹脂は、例えば、熱可塑性エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリカーボネート樹脂、ABS樹脂からなる群から選択される一種以上の材料を含むことができる。
【0027】
本実施形態では、非オレフィン系樹脂が熱可塑性エポキシ樹脂を含むことが好ましい。
この場合、第一の熱可塑性樹脂13と炭素繊維22との密着性を特に向上させることができ、成形材料3から作製される成形体100の強度又は剛性などの物性を特に向上させることができる。熱可塑性エポキシ樹脂は、硬化後も熱可塑性を有するエポキシ樹脂であり、直鎖状の高分子量のエポキシ重合体である。このため、熱可塑性エポキシ樹脂は、その硬化後において加熱、加圧等の処理によって形態を変化させられる樹脂であることが好ましい。また、熱可塑性エポキシ樹脂は、重合前は低分子で低粘度のため、炭素繊維22の間に含浸しやすく、他の一般的な熱可塑性樹脂よりも炭素繊維22の間に含浸しやすい。熱可塑性エポキシ樹脂は、例えば、二官能のエポキシ化合物と二官能のフェノール化合物とを、エポキシ環の開環を伴う付加重合反応によって鎖延長することによって得られる。
【0028】
第二の熱可塑性樹脂23は、滑剤を含んでいてもよい。特に、第二の熱可塑性樹脂23が滑剤を含む場合、第二の熱可塑性樹脂23の全量に対する滑剤の割合は、0.02重量%以下であることが好ましく、0.01重量%以下であることが好ましい。この場合、成形材料から作製される成形体100の表面に白化が生じることを抑制することができる。
【0029】
炭素繊維22は、アクリル繊維が原料のPAN系炭素繊維又は石油、石炭などを原料とするピッチ系炭素繊維の一方又は両方を使用することができる。このうち、強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系の炭素繊維が好ましい。炭素繊維22は、無撚糸、有撚糸及び解燃糸のいずれであってもよい。
【0030】
本実施形態では、炭素繊維22を一方向に配列させて束ねたものが用いられる。ここで、炭素繊維を一方向に配列させたものとは、複数の炭素繊維の繊維軸方向を合わせたものである。すなわち、炭素繊維22はストランドである。ストランドは複数の単繊維(フィラメント)を束ねて形成されている。本実施形態では、2本以上の炭素繊維の単繊維を束ねたものであればよく、好ましくは、炭素繊維22が、1000本以上の単繊維を束ねて形成されている。炭素繊維22は、束ねた単繊維の本数が、1万本以上であることがより好ましく、さらに好ましくは10万本以上がよい。炭素繊維の束の本数の上限は、特に限定されないが、炭素繊維の束が開繊されていないものの場合は、100万本程度である。なお、一方向に配列させた炭素繊維の束を開繊して用いる場合には、さらに本数が多くてもよい。
【0031】
本実施形態では、2本以上の炭素繊維の単繊維を束ねるにあたって、集束剤で収束させたものであってもよく、集束剤を用いずに束ねたものであってもよい。生産性の観点からは集束剤で収束させたものがよい。集束剤は、収束剤、バインダー及びサイジング剤等の名称で呼ばれており、単繊維を束ねるものである。集束剤を用いる場合には、第二の熱可塑性樹脂23と親和性の高いものを用いるとよい。この場合、炭素繊維22の束の中に第二の熱可塑性樹脂23が含浸しやすくなり、優れた強度を有し、かつ、強度が安定した成形体100が得やすくなる。なお、本開示において、第二の熱可塑性樹脂23は、集束剤、収束剤、バインダー及びサイジング剤とは異なるものである。集束剤は複数の単繊維を束ねるためだけの機能を有するが、第二の熱可塑性樹脂23は、成形体100の剛性等の物性の一部も負担する。すなわち、第二の熱可塑性樹脂23は、第一の熱可塑性樹脂13とともに、成形体100の主体を構成し、強度及ぶ剛性等の物性を担保(負担)する。一方、サイジング剤等の集束剤は、成形体100の物性等を担保するまでの作用はない。
【0032】
第二の熱可塑性樹脂23は炭素繊維22に含浸している。すなわち、第二粉粒物2を構成する粒子21は、第二の熱可塑性樹脂23と炭素繊維22とを含んでおり、かつ第二の熱可塑性樹脂23は炭素繊維22に含浸している状態である。本開示において、含浸とは、第二の熱可塑性樹脂23が炭素繊維22を構成するフィラメントの表面に付着した状態で、かつ、第二の熱可塑性樹脂23の一部が隣接するフィラメントの間に浸入している状態をいう。さらに、開示において、含浸とは、第二の熱可塑性樹脂23が隣り合う炭素繊維22の間に浸入している状態をいう。本実施形態では、複数の炭素繊維22を引き揃えて束を形成し、この束を熱溶融した第二の熱可塑性樹脂23又は第二の熱可塑性樹脂23を溶解する溶液に浸漬させる。これにより、炭素繊維22に第二の熱可塑性樹脂23が含浸する。
【0033】
第二粉粒物2において、第二の熱可塑性樹脂23と炭素繊維22との含有比率が、体積比で、炭素繊維/(第二の熱可塑性樹脂+炭素繊維)=20/100~80/100の範囲(0.2以上0.8以下)である。すなわち、第二粉粒物2に含まれている炭素繊維22の体積は、第二粉粒物2に含まれている第二の熱可塑性樹脂23と炭素繊維22との合計体積に対して、20%以上80%以下の範囲である。この場合、成形体100の剛性を向上させながら、成形材料の成形性を確保しやすい。また第二粉粒物2において、第二の熱可塑性樹脂23と炭素繊維22との含有比率が、体積比で、炭素繊維/(第二の熱可塑性樹脂+炭素繊維)=20/100~60/100の範囲(0.2以上0.6以下)であることがより好ましい。更に好ましくは、炭素繊維/(第二の熱可塑性樹脂+炭素繊維)=20/100~50/100の範囲(0.2以上0.5以下)である。また第二粉粒物2において、第二の熱可塑性樹脂23と炭素繊維22との含有比率が、体積比で、炭素繊維/(第二の熱可塑性樹脂+炭素繊維)=20/100~40/100の範囲(0.2以上0.4以下)であることが好ましい。さらに第二粉粒物2において、第二の熱可塑性樹脂23と炭素繊維22との含有比率が、体積比で、炭素繊維/(第二の熱可塑性樹脂+炭素繊維)=30/100~40/100の範囲(0.3以上0.4以下)であることが好ましい。
【0034】
第二粉粒物2に含まれている炭素繊維22は、繊維軸方向における長さが1mm以上500mm以下であることが好ましい。この場合、第二粉粒物2の破壊靱性、曲げ強度、耐衝撃性、圧縮強度などの強度の低下が低減される。また炭素繊維22は、繊維軸方向における長さが1mm未満であると、炭素繊維22による成形体100の補強効果が得にくくなることがある。また炭素繊維22は、繊維軸方向における長さが500mmを超えると、炭素繊維22同士の絡み合いが生じて第二粉粒物2中,溶融した成形材料3中及び成形体100中での炭素繊維22の分散性が低下しやすくなる。炭素繊維22は、繊維軸方向における長さが1mm以上100mm以下であることが好ましく、より好ましくは1mm以上50mm以下である。また炭素繊維22の繊維軸方向の長さが5mm以上であると好ましく、10mm以上であるとより好ましく、20mm以上であるとさらにより好ましい。また、さらに好ましくは30mm以上であるとよく、また、さらに好ましくは40mm以上、また、さらに好ましくは50mm超であってもよい。
【0035】
第二の熱可塑性樹脂23が、炭素繊維22の外面の少なくとも一部に10μm以上の厚みで付着している。図1Aに示すように、第二粉粒物2に含まれている粒子21の各々には、複数の炭素繊維22と第二の熱可塑性樹脂23が含まれているが、各炭素繊維22の表面の一部に又は全面に、第二の熱可塑性樹脂23が10μm以上の厚みで付着している。これにより、成形時に溶融した成形材料3において、炭素繊維22と第一の熱可塑性樹脂13との間に第二の熱可塑性樹脂23が介在しやすくなって、第一の熱可塑性樹脂13と炭素繊維22と第二の熱可塑性樹脂23との密着性が向上する。第二の熱可塑性樹脂23は、炭素繊維22の外面の少なくとも一部に20μm以上の厚みで付着していることが好ましく、30μm以上の厚みで付着していることがより好ましい。また第二の熱可塑性樹脂23は、炭素繊維22の外面の少なくとも一部に10mm以下の厚みで付着していることが好ましく、5mm以下の厚みで付着していることがより好ましい。
【0036】
<成形材料>
成形材料3は、第一粉粒物1と第二粉粒物2とをドライブレンドすることによって、製造することができる。成形材料3は、第一粉粒物1及び第二粉粒物2以外の成分を含んでいてもよい。例えば、成形材料3は、第一粉粒物1及び第二粉粒物2の他に、フィラー、離型剤、着色材、染料、紫外線吸収剤、発泡剤、溶剤、第一及び第二の熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂等が含まれていてもよい。
【0037】
第一粉粒物1と第二粉粒物2との配合割合が、重量比で、第一粉粒物/第二粉粒物=99/1~75/25の範囲である。この場合、成形材料3の成形性が損ないにくく、また炭素繊維22による成形体100の補強効果が得やすい。第一粉粒物1と第二粉粒物2との配合割合が、重量比で、第一粉粒物/第二粉粒物=93/7~85/15の範囲であることがより好ましい。
【0038】
成形材料3は、その全量に対する炭素繊維22の割合が、2重量%以上であることが好ましく、3重量%以上であることがより好ましい。すなわち、炭素繊維22と成形材料3との割合は、重量比で、炭素繊維/成形材料=2/100以上、好ましくは、炭素繊維/成形材料=3/100以上である。この場合、成形材料3から作製される成形体100の剛性を炭素繊維22により確保しやすくなる。成形材料全量に対する炭素繊維の割合は、75重量%以下であることが好ましく、50重量%以下であることがより好ましく、25重量%以下であることが更に好ましく、15重量%以下であることが特に好ましい。この場合、成形材料3の成形性を確保しながら、成形体100の剛性を確保しやすくなる。特に、成形材料3を射出成形する場合には、成形材料3の全量に対する炭素繊維22の割合が15重量%以下であることが好ましい。この場合、溶融した成形材料3同士が合流する部分の強度(ウェルド強度)を向上させることができる。
【0039】
第一粉粒物1及び第二粉粒物2とを混合(ドライブレンド)するにあたっては、第一粉粒物1及び第二粉粒物2とを所望の割合で混合されるように計量して混合(ドライブレンド)する。ドライブレンドは、バッチ式の撹拌機で混ぜてもよいし、自動計量混合装置を用いてもよい。また成形材料3への水分の影響を少なくするために、ドライブレンド後に成形材料3を80℃で3~4時間程度で乾燥してもよいが、水分の影響が少ない場合、乾燥しなくてもよい。
【0040】
(2-2)成形体の製造方法
本実施形態に係る成形体100の製造方法は、成形材料3を加熱することにより第一の熱可塑性樹脂13と第二の熱可塑性樹脂23とを溶融し、混練した後、成形する。成形材料3は、射出成形、圧縮成形、押出成形、ブロー成形等の方法で成形可能である。そのため、成形体100の製造方法では、成形材料3を射出成形、圧縮成形、押出成形、又はブロー成形により、成形材料3から成形体100を作製することができる。これら各種成形方法の中でも、本実施形態に係る成形体100の製造方法は、成形材料3を加熱することにより第一の熱可塑性樹脂13と第二の熱可塑性樹脂23とを溶融し、混練した後、射出成形することが好ましい。
【0041】
図2は、本実施形態の成形材料3が溶融した状態を模式的に示している。溶融した成形材料3aは第一粉粒物1と第二粉粒物2とが熱溶融して流動性を有する粘調物である。溶融した成形材料3aは樹脂領域31を含む。樹脂領域31は、成形材料3に含まれる第一の熱可塑性樹脂13と第二の熱可塑性樹脂23とが溶融した状態で混ざり合っている。また炭素繊維22は、樹脂領域31中に分散している。炭素繊維22としては、全表面が第二の熱可塑性樹脂23で覆われている炭素繊維22aと、表面の一部が第二の熱可塑性樹脂23で覆われている炭素繊維22bと、表面全面が第二の熱可塑性樹脂23で覆われていない炭素繊維22cとが存在する。
【0042】
ここで、表面の少なくとも一部が第二の熱可塑性樹脂23で覆われていない炭素繊維22b、22cは、成形材料3を加熱することにより第一の熱可塑性樹脂13と第二の熱可塑性樹脂23とを溶融し、混練したことにより生じる。すなわち、溶融した第二の熱可塑性樹脂23に混練によるせん断力が作用し、炭素繊維22の表面から溶融した第二の熱可塑性樹脂23が剥離する。剥離した第二の熱可塑性樹脂23は樹脂領域31で第一の熱可塑性樹脂13と混じり合う。したがって、混練の際のせん断力が大きくなると、第二の熱可塑性樹脂23で覆われていない炭素繊維22cの発生量が多くなる。逆に、混練の際のせん断力が小さくなると、第二の熱可塑性樹脂23で覆われている炭素繊維22aの発生量が多くなる。
【0043】
表面の少なくとも一部が第二の熱可塑性樹脂23で覆われている炭素繊維22a、22bでは、樹脂領域31と炭素繊維22a、22bとの間に第二の熱可塑性樹脂23が存在している。そのため、成形体100では、樹脂領域31の固化又は硬化部分と炭素繊維22a、22bとの間の少なくとも一部に、第二の熱可塑性樹脂23の固化又は硬化部分が存在している。第二の熱可塑性樹脂23の固化又は硬化部分によって、樹脂領域31の固化又は硬化部分と炭素繊維22a、22bと炭素繊維との密着性を向上させることができる。それにより、成形体100の剛性等の物性を向上させることができる。
【0044】
成形材料3を射出成形する場合、成形条件は、第一の熱可塑性樹脂13の種類、第二の熱可塑性樹脂23の種類及び炭素繊維22の配合量等により異なるが、例えば、シリンダーのノズル先端温度は、180~240℃程度に設定することができる。また、射出成形機のシリンダー内で成形材料3が溶融、混練され、繊維が分散された材料(溶融した成形材料3)が、金型内に射出、充填されるとき、金型温度は、例えば、20~50℃程度とすることができるが、限定されない。そして、金型に充填されて射出成形された成形材料3は、金型内で冷却された後、取りだされて製品となる。
【0045】
成形体100において、例えば、第二の熱可塑性樹脂23の硬化物(固化物を含む)と、第一の熱可塑性樹脂13の硬化物(固化物を含む)とで、弾性率を比較すると、以下の式(1)の関係を満たすことが好ましい。
【0046】
第一の熱可塑性樹脂の硬化物の弾性率≦第二の熱可塑性樹脂の硬化物の弾性率…(1)
すなわち、成形材料3から得られる成形体100は、上記式(1)を満たすことが好ましい。このように、第一の熱可塑性樹脂の硬化物よりも弾性率が高い第二の熱可塑性樹脂を第一の熱可塑性樹脂と炭素繊維との界面に介在させることによって、成形材料の成形中に炭素繊維が座屈することを抑制できる。したがって、成形材料の成形時に生じる応力を、炭素繊維の繊維方向に分散させることができる。
【0047】
成形体100の用途は、樹脂製の成形体が使用される分野であれば、特に限定されない。成形体100は、例えば、自転車用部品であることが好ましい。この場合、自転車用部品としては、例えば、カゴ、チェーンケース、泥除け、チャイルドシート等が挙げられる。これらの自転車部品を成形体100から作製することにより、優れた剛性を有する自転車用部品が得られると共に、自転車用部品を軽量化することができる。成形体100は、自転車用部品に限定されず、例えば、買い物カゴ、物流用のパレット、家電製品、自動車用部品等に適用してもよい。
【0048】
なお、成形体100では、その表面に炭素繊維22が露出していないが、これに限定されない。例えば、成形体100の表面において、炭素繊維22の一部が露出していてもよい。
【0049】
(2-3)車両
本実施形態に係る車両200は、成形体100と、車両本体210と、を備える。本開示では、車両200として自転車を例示するがこれに限られない。車両本体(自転車本体)210は走行に必要な基本的な部分であって、例えば、フレーム、ホイール、サドル、ハンドル、クランク、チェーン、ブレーキ等を含む。図4に示す車両本体210は、電動アシスト自転車であることから、さらにバッテリー、モーター等を含んでいてもよい。
【0050】
車両200は、車両本体210と、カゴ211、チェーンケース212、泥除け213、チャイルドシート214とを含む。カゴ211、チェーンケース212、泥除け213、及びチャイルドシート214は、それぞれ車両用部品であり、車両本体210に取り付けられている。
【0051】
本実施形態では、例えば、カゴ211が成形体100であることが好ましい。また例えば、チェーンケース212が成形体100であることが好ましい。また例えば、泥除け213が成形体100であることが好ましい。また例えば、チャイルドシート214が成形体100であることが好ましい。すなわち本実施形態の車両200は、成形体100と、成形体100が取り付けられた車両本体210とを含む。
【0052】
本実施形態の車両200は、カゴ211、チェーンケース212、泥除け213、チャイルドシート214等の車両用部品を、成形体100で構成することによって、車両200を軽量化しやすい。
【0053】
(実施形態2)
本実施形態に係る成形材料3の製造方法は、第三粉粒物を更に備える構成が実施形態1に係る成形材料の製造方法と相違する。
【0054】
以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
【0055】
実施形態2で説明した構成は、実施形態1で説明した構成(変形例を含む)と適宜組み合わせて適用可能である。
【0056】
第三粉粒物は酸変性オレフィン系樹脂を含んでいる。すなわち、第三粉粒物は、酸変性オレフィン系樹脂を含む粒子の集合体である。第三粉粒物は、第一粉粒物1と同様に、粉体又は粒体の形態を有する。酸変性オレフィン系樹脂を含む粒子の大きさは均一であってもよいし、不均一であってもよい。
【0057】
酸変性オレフィン系樹脂は、オレフィン系樹脂が樹脂改質剤で改質されたものである。したがって、酸変性オレフィン系樹脂は、樹脂改質剤によって導入された官能基を有する。この官能基と、第二の熱可塑性樹脂との相互作用により、第一の熱可塑性樹脂と炭素繊維との密着性を向上させることができ、成形体100の剛性等の物性を向上させることができる。また第一の熱可塑性樹脂と炭素繊維との密着性の向上により、成形体100の物性が向上するために、炭素繊維の使用量を低減することができる。
【0058】
酸変性オレフィン系樹脂は、第一の熱可塑性樹脂又は第二の熱可塑性樹脂と同様の熱可塑性樹脂が樹脂改質剤で変性(反応)することによって得られる。樹脂改質剤は、特に限定されないが、例えば、多価カルボン酸無水物を含むことが好ましい。上述の通り、オレフィン系樹脂は、ポリプロピレンを含むことが好ましいことから、酸変性オレフィン系樹脂は、多価カルボン酸無水物変性ポリプロピンを含むことが好ましい。この場合、第一の熱可塑性樹脂13と炭素繊維との密着性をより向上させることができると共に、第一の熱可塑性樹脂中での炭素繊維の分散性を向上させることができる。そのため成形体100の剛性を特に向上させることができる。
【0059】
多価カルボン酸無水物の例には、無水コハク酸、無水フタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水マレイン酸、無水ジクロロマレイン酸、無水イタコン酸、無水テトラブロモフタル酸、無水ピロメリット酸等が含まれる。樹脂改質剤は、これらの材料のうち一種以上を含むことができる。特に樹脂改質剤は、無水マレイン酸を含むことが好ましい。すなわち、多価カルボン酸無水物酸変性ポリプロピレンは、無水マレイン酸変性ポリプロピレンを含むことが好ましい。この場合、第一の熱可塑性樹脂と炭素繊維との密着性を特に向上させることができると共に、第一の熱可塑性樹脂中の炭素繊維の分散性を特に向上させることができる。それにより、成形体100の剛性を特に向上させることができる。第一の熱可塑性樹脂におけるオレフィン系樹脂に対する酸変性オレフィン系樹脂の割合は、0.3重量%以上であることが好ましく10重量%以下であることが好ましい。この場合、成形体100の剛性を向上させることができ、また炭素繊維の使用量を低減できる。
【0060】
このように第一の熱可塑性樹脂が、樹脂改質剤で変性された酸変性オレフィン系樹脂を含む場合、第二の熱可塑性樹脂と、酸変性オレフィン系樹脂が備える官能基によって、第一の熱可塑性樹脂と炭素繊維との密着性を特に向上させることができる。なお、成形体100中の第二の熱可塑性樹脂が存在することは、例えば、SEM、FT-IR等の装置によって確認することができる。特に、多価カルボン酸無水物変性ポリプロピレンを含む場合、成形体100においては、第一の熱可塑性樹脂と炭素繊維との間に、多価カルボン酸無水物によって導入された官能基と、熱可塑性エポキシ樹脂とが存在することになる。このため、多価カルボン酸無水物によって導入された官能基と熱可塑性エポキシ樹脂との相互作用により、第一の熱可塑性樹脂と炭素繊維との密着性を特に向上させることができ、それにより成形体100の物性を特に向上させることができる。また炭素繊維の配合量を低減することができる。
【実施例
【0061】
(実施例1~14、比較例1~2)
表1に示す成分を、表1に示す割合でドライブレンドして、実施例1~14、比較例1~2の成形材料を作製した。表1に示す成分の詳細は以下の通りである。
【0062】
第一粉粒物:ポリプロピレン、住友化学株式会社製、商品名Block-PP AW564
第二粉粒物:熱可塑性エポキシ樹脂+炭素繊維、熱可塑性エポキシ樹脂含浸炭素繊維(小松マテーレ株式会社製、商品名CABOKOMA KBチップ、炭素繊維の線軸方向の長さ5mm)
第三粉粒物:無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂
(評価)
実施例1~14、比較例1~2の成形材料を射出成形することにより、成形体を作製した。実施例1~14、比較例1~2の成形体について、下記の評価を行った。
【0063】
(1)引張弾性率
実施例1~14、比較例1~2の成形体から、長さ165mm(最細部80mm)、太さ10mm、厚み2.8mmの試験片を作製した。この試験片を用いて、引張試験機(島津製作所製オートグラフ ロードセル 2kN)を用いて、JIS K 7161-1に規定される引張弾性率を測定した。その結果を表1に示す。
【0064】
(2)ウェルド部の引張強度
実施例1~14、比較例1の成形体から、溶融した成形材料の合流部分(ウェルド部)が位置するようにして、長さ165mm(最細部80mm)、太さ10mm、厚み2.8mmの試験片を作製した。この試験片を用いて、引張試験機(島津製作所製オートグラフ ロードセル 2kN)を用いて、JIS K 7161-1に規定される引張強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0065】
(3)引張強度
実施例1~14、比較例1~2の成形体から、長さ165mm(最細部80mm)、太さ10mm、厚み2.8mmの試験片を作製した。この試験片を用いて、引張試験機(島津製作所製オートグラフ ロードセル 2kN)を用いて、JIS K 7161-1に規定される引張強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
(まとめ)
以上説明したように、第1の態様に係る成形材料(3)の製造方法は、第一粉粒物(1)と、第二粉粒物(2)と、を混合する。第一粉粒物(1)は第一の熱可塑性樹脂(13)を含む。第二粉粒物(2)は、第二の熱可塑性樹脂(23)及び炭素繊維(22)を含む。第二の熱可塑性樹脂(23)が炭素繊維(22)に含浸している。
【0068】
この態様によれば、溶融した熱可塑性樹脂に、直接、炭素繊維を混合する場合に比べて、第一の熱可塑性樹脂(13)に対する炭素繊維(22)の分散性を向上させることができる。したがって、成形材料(3)を成形して得られる成形体(100)の物性及び外観などの性状の均質化を図りやすくなる、という利点がある。
【0069】
第2の態様に係る成形材料(3)の製造方法は、第1の態様において、第一粉粒物(1)と第二粉粒物(2)との配合割合が、重量比で、第一粉粒物/第二粉粒物=99/1~75/25の範囲である。
【0070】
この態様によれば、第一の熱可塑性樹脂(13)に対する炭素繊維(22)の分散性をより向上させることができる。したがって、成形材料(3)を成形して得られる成形体(100)の物性及び外観などの性状の均質化を図りやすくなる、という利点がある。
【0071】
第3の態様に係る成形材料(3)の製造方法は、第1又は2の態様において、第二の熱可塑性樹脂(23)が、炭素繊維(22)の外面の少なくとも一部に10μm以上の厚みで付着している。
【0072】
この態様によれば、炭素繊維(22)と第一の熱可塑性樹脂(13)との間に第二の熱可塑性樹脂(23)が介在しやすくなって、炭素繊維(22)は第一の熱可塑性樹脂(13)に対して分散しやすい、という利点がある。
【0073】
第4の態様に係る成形材料(3)の製造方法は、第1~3のいずれか1つの態様において、第一の熱可塑性樹脂(13)がオレフィン系樹脂を含む。第二の熱可塑性樹脂(23)が非オレフィン系樹脂を含む。
【0074】
この態様によれば、成形材料(3)を射出成形により成形しやすい、という利点がある。
【0075】
第5の態様に係る成形材料(3)の製造方法は、第4の態様において、オレフィン系樹脂がポリプロピレンを含む。
【0076】
この態様によれば、成形材料(3)を射出成形により成形しやすい、という利点がある。
【0077】
第6の態様に係る成形材料(3)の製造方法は、第4又は5の態様において、非オレフィン系樹脂が熱可塑性エポキシ樹脂を含む。
【0078】
この態様によれば、第二の熱可塑性樹脂(23)が炭素繊維(22)に含浸しやすい、という利点がある。
【0079】
第7の態様に係る成形材料(3)の製造方法は、第1~6のいずれか1つの態様において、酸変性オレフィン系樹脂を含む第三粉粒物を更に備える。
【0080】
この態様によれば、成形材料(3)を成形して得られる成形体(100)の引張強度を向上することができる、という利点がある。
【0081】
第8の態様に係る成形材料(3)の製造方法は、第7の態様において、酸変性オレフィン系樹脂が多価カルボン酸無水物変性ポリプロピレンを含む。
【0082】
この態様によれば、成形材料(3)を成形して得られる成形体(100)の引張強度をさらに向上することができる、という利点がある。
【0083】
第9の態様に係る成形材料(3)の製造方法は、第8の態様において、多価カルボン酸無水物変性ポリプロピレンが、無水マレイン酸変性ポリプロピレンを含む。
【0084】
この態様によれば、成形材料(3)を成形して得られる成形体(100)の引張強度をさらに向上することができる、という利点がある。
【0085】
第10の態様に係る成形材料(3)の製造方法は、第1~9のいずれか1つの態様において、炭素繊維(22)は、繊維軸方向における長さが1mm以上500mm以下である。
【0086】
この態様によれば、炭素繊維(22)の分散性が高まって、分散させやすくなる、という利点がある。
【0087】
第11の態様に係る成形材料(3)の製造方法は、第1~10のいずれか1つの態様において、炭素繊維(22)が、1000本以上の単繊維を束ねて形成されている。
【0088】
この態様によれば、炭素繊維(22)に第二の熱可塑性樹脂(23)が含浸しやすい、という利点がある。
【0089】
第12の態様に係る成形材料(3)の製造方法は、第1~11のいずれか1つの態様において、第二粉粒物(2)において、第二の熱可塑性樹脂(23)と炭素繊維(22)との含有比率が、体積比で、炭素繊維/(第二の熱可塑性樹脂+炭素繊維)=20/100~80/100の範囲である。
【0090】
この態様によれば、炭素繊維(22)に第二の熱可塑性樹脂(23)が含浸しやすい、という利点がある。
【0091】
第13の態様に係る成形体(100)の製造方法は、第1~12のいずれか1つの態様で得られた成形材料(3)を加熱することにより第一の熱可塑性樹脂(13)と第二の熱可塑性樹脂(23)とを溶融し、混練した後、成形する。
【0092】
この態様によれば、強度や剛性などの物性に優れる成形体が得やすい、という利点がある。
【0093】
第14の態様に係る成形体(100)の製造方法は、成形材料(3)を加熱することにより第一の熱可塑性樹脂(13)と第二の熱可塑性樹脂(23)とを溶融し、混練した後、射出成形する。
【0094】
この態様によれば、強度や剛性などの物性に優れる成形体が射出成形により得やすい、という利点がある。
【0095】
第15の態様に係る車両(200)は、第13又は14の態様で得られた成形体(100)と、車両本体(210)と、を備える。
【0096】
この態様によれば、強度や剛性などの物性に優れる成形体(100)を備える車両(200)が得やすい、という利点がある。
【符号の説明】
【0097】
1 第一粉粒物
13 第一の熱可塑性樹脂
2 第二粉粒物
22 炭素繊維
23 第二の熱可塑性樹脂
3 成形材料
100 成形体
200 車両
210 車両本体
図1
図2
図3