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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】電気治療器
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
A61N1/36
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020067568
(22)【出願日】2020-04-03
(65)【公開番号】P2021159698
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兪 文偉
(72)【発明者】
【氏名】何 思▲ユ▼
(72)【発明者】
【氏名】高松 昇三
【審査官】神ノ田 奈央
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0326220(US,A1)
【文献】特表2009-505689(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0158550(US,A1)
【文献】特開2017-192545(JP,A)
【文献】特表2004-510562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの身体の部位に接触される複数の電極と、
複数のパルスの連続波からなるバースト波を前記複数の電極へ印加することにより、前記部位の治療を行なう制御機器とを備え、
前記制御機器は、
第1振幅を有する複数のパルスを含む第1バースト波を出力し、
前記第1バースト波を出力した後、第2振幅を有する複数の正パルスの連続波からなる第2バースト波と、第3振幅を有する複数の負パルスの連続波からなる第3バースト波とを繰り返し出力し、
前記第1振幅は、前記第2振幅および前記第3振幅よりも大きく、
前記第1バースト波に含まれるパルスの繰り返し周波数は、100kHz以下であり、
前記第1バースト波の長さは、20ms以上である、電気治療器。
【請求項2】
前記第1振幅は、29mA/cm2以上の電流密度に対応する振幅である、請求項1に記載の電気治療器。
【請求項3】
前記第2バースト波に含まれる各正パルスの総面積と、前記第3バースト波に含まれる各負パルスの総面積とが同一となるように、前記第2振幅、前記第2バースト波の長さ、前記第3振幅、および前記第3バースト波の長さが設定される、請求項1または2に記載の電気治療器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気治療器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コリや痛みを緩和する電気治療器が知られている。このような電気治療器は、患部に電極を接触させ、当該電極を介して筋肉等に対して電気信号を出力することにより刺激を与える。
【0003】
例えば、特表2014-514043号公報(特許文献1)は、刺激装置を開示している。この刺激装置は、複雑な刺激パターンを選択された電極に送信し、センサインターフェースから受信される信号に基づいて複雑な刺激パターンを修正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2014-514043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、神経線維には軸索に髄鞘をもった有髄神経と、髄鞘をもたない無髄神経と呼ばれるものがある。針に電気を流して、この無髄神経を刺激することにより鎮痛効果を呼び起こす治療法が知られている。しかし、従来の電極を介した通常の電気刺激では、太い有髄神経を刺激して興奮させてしまい、細い無髄神経を効果的に興奮させることが困難であった。
【0006】
本開示のある局面における目的は、有髄神経の興奮を抑制し、より効果的に無髄神経を興奮させることが可能な電気治療器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一例では、ユーザの身体の部位に接触される複数の電極と、複数のパルスの連続波からなるバースト波を複数の電極へ印加することにより、部位の治療を行なう制御機器とを備える電気治療器が提供される。制御機器は、第1振幅を有する複数のパルスを含む第1バースト波を出力し、第1バースト波を出力した後、第2振幅を有する複数の正パルスを含む第2バースト波と、第3振幅を有する複数の負パルスを含む第3バースト波とを繰り返し出力する。第1振幅は、第2振幅および第3振幅よりも大きい。
【0008】
上記構成によれば、有髄神経の興奮を抑制し、より効果的に無髄神経を興奮させることができる。
【0009】
本開示の他の例では、第1振幅は、29mA/cm2以上の電流密度に対応する振幅である。
【0010】
上記構成によれば、有髄神経の興奮の抑制効果をより一層高めることができる。
本開示の他の例では、第1バースト波に含まれるパルスの繰り返し周波数は、100kHz以下である。
【0011】
上記構成によれば、有髄神経の興奮の抑制効果をより一層高めることができる。
本開示の他の例では、第1バースト波の長さは、20ms以上である。
【0012】
上記構成によれば、有髄神経の興奮の抑制効果をより一層高めることができる。
本開示の他の例では、第2バースト波に含まれる各正パルスの総面積と、第3バースト波に含まれる各負パルスの総面積とが同一となるように、第2振幅、第2バースト波の長さ、第3振幅、および第3バースト波の長さが設定される。
【0013】
上記構成によれば、ユーザに印加される総正味電荷をゼロにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態に従う電気治療器を示す図である。
図2】電気治療器の外観の一例を示す図である。
図3】電気治療器のハードウェア構成の一例を表わすブロック図である。
図4】治療に用いられるバースト波を説明するための図である。
図5】プレバースト波の振幅に対応する電流密度と興奮閾値との関係を示す図である。
図6】プレバースト波のキャリア周波数と興奮閾値との関係を示す図である。
図7】プレバースト波のバースト長と興奮閾値との関係を示す図である。
図8】電気治療器の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0016】
[適用例]
図1を参照して、本発明の適用例について説明する。図1は、本実施の形態に従う電気治療器200を示す図である。
【0017】
図1を参照して、電気治療器200は、本体部である制御機器205と、治療部位(例えば、膝部)に貼り付けるための一対のパッド270とを含む。制御機器205とパッド270とは、コードにより電気的に接続される。サポータ40は、ユーザの膝部全体を覆う膝用のサポータである。
【0018】
電気治療器200は、例えば、低周波パルス電流を供給することで、ユーザの膝の痛みの緩和、および肩凝りをほぐす等の治療を行なう低周波治療器である。低周波パルス電流の周波数は、例えば、1Hz~1200Hzである。
【0019】
パッド270は、シート状の形状を有し、ユーザの身体に取り付けられる。パッド270の一方の面(身体と接触しない面)には、他方の面(身体と接触する面)に形成されている電極(図示しない)に対応したプラグが設けられている。電極は、例えば、導電性のゲル状材料等により形成される。
【0020】
制御機器205は、ユーザの身体の部位(例えば、膝)に接触する一対のパッド270の電極へ印加されるパルス電圧を制御する。制御機器205は、複数のパルスの連続波からなるバースト波をパッド270の電極へ印加することにより当該部位の治療を行なう。
【0021】
具体的には、制御機器205は、振幅が大きい複数のパルスを含むプレバースト波310を出力し、その後、振幅が小さい複数のパルスを含むメインバースト波を出力する。メインバースト波は、部位の治療のためのパルスを含むバースト波であり、複数の正極性のパルス(正パルス)を含む正バースト波320と、複数の負極性のパルス(負パルス)を含む負バースト波330とから構成される。正バースト波320および負バースト波330は繰り返し出力される。このように、振幅の大きいプレバースト波を出力した後、振幅の小さいメインバースト波を出力することにより、有髄神経の興奮を抑制し、無髄神経を効果的に刺激できる。この理由の詳細については後述する。
【0022】
上記制御により、治療部位に一対のパッドを貼り付けて治療を行なう電気治療器において、有髄神経の興奮を抑制することで無髄神経を効果的に刺激することができる。
【0023】
[構成例]
(外観)
図2は、電気治療器200の外観の一例を示す図である。図2を参照して、電気治療器200は、制御機器205と、一対のパッド270と、制御機器205とパッド270とを電気的に接続するためのコード280とを含む。
【0024】
コード280のプラグ282とパッド270側のプラグとを接続し、コード280を制御機器205のジャックに差し込むことにより、制御機器205とパッド270とが接続される。なお、一方のパッド270に形成されている電極の極性がプラスの場合、他方のパッド270に形成されている電極の極性はマイナスとなる。
【0025】
制御機器205には、各種ボタンで構成される操作インターフェイス230と、ディスプレイ260とが設けられている。操作インターフェイス230は、電源のオン/オフを切り替えるための電源ボタン232、治療モードの選択を行うためのモード選択ボタン234と、治療開始ボタン236と、電気刺激強度の調整を行うための調整ボタン238とを含む。なお、操作インターフェイス230は、上記構成に限られず、例えば、その他のボタン、ダイヤルやスイッチ等をさらに含む構成であってもよい。
【0026】
ディスプレイ260には、電気刺激強度、治療の残り時間、治療モード、パッド270の装着状態等が表示されたり、各種メッセージが表示されたりする。
【0027】
(ハードウェア構成)
図3は、電気治療器200のハードウェア構成の一例を表わすブロック図である。図3を参照して、電気治療器200の制御機器205は、プロセッサ210と、メモリ220と、操作インターフェイス(I/F)230と、電源部240と、波形生成出力装置250と、ディスプレイ260とを含む。制御機器205は、一対のパッド270に接続される。
【0028】
プロセッサ210は、典型的には、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Multi Processing Unit)といった演算処理部である。プロセッサ210は、メモリ220に記憶されたプログラムを読み出して実行することで、電気治療器200の各部の動作を制御する制御部として機能する。プロセッサ210は、当該プログラムを実行することによって、後述する電気治療器200の処理(ステップ)の各々を実現する。
【0029】
メモリ220は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read-Only Memory)、フラッシュメモリなどによって実現される。メモリ220は、プロセッサ210によって実行されるプログラム、またはプロセッサ210によって用いられるデータなどを記憶する。
【0030】
操作インターフェイス230は、電気治療器200に対する操作入力を受け付け、上述したような各種ボタンより構成される。ユーザによって、各種ボタンが操作されると、当該操作による信号がプロセッサ210に入力される。
【0031】
電源部240は、電気治療器200の各構成要素に電力を供給する。電源としては、例えば、アルカリ乾電池、または、リチウムイオン電池やニッケル水素電池などの二次電池が用いられ、電池電圧を安定化して各構成要素に供給する駆動電圧を生成する。
【0032】
プロセッサ210は、波形生成出力装置250を介してパッド270に印加される電圧を制御して、治療部位の治療を行なう。具体的には、波形生成出力装置250は、プロセッサ210の指示に従って、パッド270を介してユーザの身体の治療部位に流れる電流を出力する。波形生成出力装置250は、昇圧回路、電圧調整回路、出力回路、電流検出回路等を含む。
【0033】
昇圧回路は、電源電圧を所定の電圧に昇圧する。電圧調整回路は、昇圧回路により昇圧された電圧を、電気刺激強度に対応する電圧に調整する。具体的には、電気治療器200では、調整ボタン238により所定数のレベル(例えば、20レベル)で、電気刺激強度の調整が設定可能である。プロセッサ210は、調整ボタン238を介して電気刺激強度の設定入力を受け付け、当該受け付けた電気刺激強度に対応する電圧に調整するように波形生成出力装置250(電圧調整回路)に指示する。
【0034】
出力回路は、電圧調整回路により調整された電圧に基づいて、治療モードに応じた治療波形(パルス波形)を生成し、当該治療波形をコード280を介してパッド270(の電極)に出力する。具体的には、操作インターフェイス230を介して、ユーザにより、治療モードの切替、電気刺激強度の変更等の操作が行われると、その操作内容に応じた制御信号がプロセッサ210から出力回路に入力される。出力回路は、当該制御信号に従う治療波形を出力する。
【0035】
電気治療器200には、複数の治療モードが予め用意されている。治療モードとしては、通常の「もみ」、「たたき」、「押し」モード等の他、有髄神経の興奮を抑制し、無髄神経をより効果的に刺激して鎮痛効果を呼び起こす治療モード(以下、「治療モードM」とも称する。)が用意されている。
【0036】
出力回路は、パルスの波形(パルス幅、パルス間隔、周波数、出力極性を含む)等を変化させることにより、各モードに対応する電気刺激を生成できる。出力回路は、パルス電圧の振幅を変化させることにより、電気刺激強度を調整する。
【0037】
電流検出回路は、一対のパッド270間に流れる電流の値を検出し、当該検出された値を示す信号をプロセッサ210に入力する。プロセッサ210は、電流検出回路から入力される電流値を利用して、パッド270がユーザに装着されている状態なのか、パッド270がユーザに装着されていない状態なのかを検出できる。例えば、プロセッサ210は、当該電流値が所定値以上である場合には複数の電極が接触されている(すなわち、一対のパッド270がユーザに装着されている)と判定し、当該電流値が所定値未満である場合には複数の電極のうちの少なくとも一方が接触していない(すなわち、一対のパッド270のうちの少なくとも一方がユーザに装着されていない)と判定する。
【0038】
ディスプレイ260は、例えば、LCD(liquid crystal display)で構成されており、プロセッサ210からの指示に従って各種情報を表示する。
【0039】
(バースト波について)
治療モードMで用いられるバースト波についてより具体的に説明する。
【0040】
図4は、治療に用いられるバースト波を説明するための図である。図4を参照して、プレバースト波310は、パルス繰り返し周期Taで連続的に発生する複数のパルス波によって形成されている。プレバースト波310に含まれるパルスの繰り返し周波数をFa(=1/Ta)とし、当該パルスの振幅(プレバースト波310の振幅)をAm1とする。また、プレバースト波310のバースト長(すなわち、バースト波の長さ)をL1とする。以下では、バースト波に含まれるパルスの繰り返し周波数を「キャリア周波数」とも称する。
【0041】
プレバースト波310の出力後に、正バースト波320および負バースト波330を含むメインバースト波が出力される。図4の例では、プレバースト波310が出力されて一定期間経過後にメインバースト波が出力されているが、プレバースト波310の出力後すぐにメインバースト波が出力されてもよい。
【0042】
正バースト波320は、パルス繰り返し周期Tbで連続的に発生する複数の正パルス波によって形成されている。正バースト波320に含まれる正パルスのキャリア周波数をFb(=1/Tb)とし、正パルスの振幅(正バースト波320の振幅)をAm2とする。また、正バースト波320のバースト長をL2とする。負バースト波330は、パルス繰り返し周期Tbで連続的に発生する複数の負パルスによって形成されている。すなわち、負バースト波330に含まれる負パルスのキャリア周波数はFbであり、正バースト波320におけるキャリア周波数と同一である。また、負パルスの振幅(負バースト波330の振幅)をAm3とし、負バースト波330のバースト長をL3とする。
【0043】
各正パルスの面積は“振幅Am2×正パルス幅”であり、各負パルスの面積は“振幅Am3×負パルス幅”である。正パルス幅および負パルス幅は同一である。また、正バースト波320に含まれる各正パルスの総面積(すなわち、各正パルスの面積の合計値)と、負バースト波330に含まれる各負パルスの総面積(すなわち、各負パルスの面積の合計値)とは同一となるように設定される。これにより、ユーザに印加される総正味電荷を実効的にゼロにする(すなわち、正電荷量と負電荷量とを平衡させる)ことができる。
【0044】
本実施の形態では、正パルスおよび負パルスのキャリア周波数はFb(例えば、10kHz)で同一に設定されている。そのため、各正パルスの総面積と、各負パルスの総面積とが同一となるように、振幅Am2,Am3およびバースト長L2,L3が設定される。具体例として、振幅Am2およびAm3は同一(例えば、電流密度“1mA/cm”に相当する振幅)に設定され、バースト長L2およびL3も同一(例えば、5ms)に設定される。メインバースト波の繰り返し周期(すなわち、L2+L3に相当)は、例えば、10msであり、繰り返し周波数は100Hzである。なお、電気治療器200は、低周波治療器であるため、繰り返し周波数は1Hz~1200Hzの範囲に含まれる。
【0045】
ここで、図5図7を参照して、プレバースト波310に含まれるパルスの振幅Am1、キャリア周波数Fa、およびバースト長L1の設定方式について説明する。
【0046】
図5は、プレバースト波の振幅に対応する電流密度と興奮閾値との関係を示す図である。図5では、プレバースト波のキャリア周波数を100kHz、バースト長を20ms(ミリ秒)に設定し、電流密度に対応する振幅を変化させる。
【0047】
図5を参照して、興奮閾値は、有髄神経の興奮の抑制度を示す指標である。興奮閾値が高いほど有髄神経が興奮しにくい(すなわち、有髄神経の興奮が抑制されている)ことを示している。
【0048】
プレバースト波を印加せずに、有髄神経の活動電位が検出された(有髄神経が興奮した)ときのメインバースト波の振幅(以下、「基準振幅As」とも称する。)を確認する。このときの振幅に対応する興奮閾値を“100%”と定義する。例えば、電流密度“10mA/cm”に対応する振幅を有するプレバースト波を印加した後に、有髄神経が興奮したメインバースト波の振幅Ax1を確認する。電流密度“10mA/cm”のときの興奮閾値は、“(Ax1/As)×100%”で表される。グラフ500によると、電流密度が10mA/cmの場合には、興奮閾値は100%であるため、振幅Ax1と基準振幅Asとは同一であることを示している。したがって、この場合には有髄神経の興奮は抑制されていないことがわかる。
【0049】
一方、例えば、29mA/cmの電流密度に対応する振幅を有するプレバーストを印加した後に、有髄神経が興奮したときのメインバースト波の振幅Ax2を確認する。グラフ500によると、電流密度が29mA/cmの場合には、興奮閾値は120%であるため、振幅Ax2は基準振幅Asの1.2倍である。具体的には、プレバースト波の振幅に対応する電流密度が29mA/cmの場合には、プレバースト波を印加しない場合と比較してメインバースト波の振幅をより大きく(具体的には、20%大きく)しなければ、有髄神経は興奮しないことになる。したがって、この場合には有髄神経の興奮が抑制されていることがわかる。
【0050】
グラフ500によると、10mA/cm以下では、有髄神経の興奮の抑制効果は確認できないが、10mA/cmよりも大きくなると当該抑制効果が確認され始める。33mA/cmよりも大きくなると興奮閾値が300%を超えて、有髄神経の興奮の抑制効果は急激に増大して、その後飽和する。
【0051】
ここで、プレバースト波の振幅を変化させても無髄神経の活動電位が検出される(すなわち、無髄神経が興奮する)メインバースト波の振幅は概ね同一である。したがって、プレバースト波の振幅を適切に設定して有髄神経の興奮を抑制すれば、結果的に、有髄神経を興奮させることなく無髄神経を興奮させることができる。なお、設計誤差等を考慮すると、実用的には興奮閾値が120%以上であれば、有髄神経の興奮を抑制しつつ無髄神経を効果的に興奮させることができると考えられる。したがって、プレバースト波310の振幅Am1は、29mA/cm以上の電流密度に対応する振幅に設定することが好ましい。
【0052】
図6は、プレバースト波のキャリア周波数と興奮閾値との関係を示す図である。図6では、プレバースト波の振幅に対応する電流密度を29mA/cm、バースト長を20msに設定し、キャリア周波数を変化させる。
【0053】
図6を参照して、例えば、キャリア周波数“300kHz”を有するプレバースト波を印加した後に、有髄神経が興奮したときのメインバースト波の振幅Ay1を確認する。このときの興奮閾値は、“(Ay1/As)×100%”で表される。グラフ600によると、キャリア周波数が“300kHz”の場合には、興奮閾値は100%であるため、振幅Ay1と基準振幅Asとは同一となる。したがって、この場合には有髄神経の興奮は抑制されていない。
【0054】
一方、例えば、キャリア周波数“100kHz”を有するプレバースト波を印加した後に、有髄神経が興奮したときのメインバースト波の振幅Ay2を確認する。グラフ600によると、キャリア周波数が“100kHz”の場合には興奮閾値は120%であるため、振幅Ay2は基準振幅Asの1.2倍である。具体的には、プレバースト波のキャリア周波数が“100kHz”の場合には、プレバースト波を印加しない場合と比較してメインバースト波の振幅をより大きく(具体的には、20%大きく)しなければ、有髄神経は興奮しない。したがって、この場合には有髄神経の興奮が抑制されていることがわかる。
【0055】
グラフ600によると、キャリア周波数が200kHz以上では、有髄神経の興奮の抑制効果は確認できないが、200kHz未満になると当該抑制効果が確認され始める。90kHz未満になると興奮閾値が300%を超えて、有髄神経の興奮の抑制効果は急激に増大し、その後飽和する。
【0056】
ここで、プレバースト波のキャリア周波数を変化させても無髄神経が興奮するメインバースト波の振幅は概ね同一である。したがって、プレバースト波のキャリア周波数を適切に設定して有髄神経の興奮を抑制すれば、結果的に、有髄神経を興奮させることなく無髄神経を興奮させることができる。なお、プレバースト波310のキャリア周波数Faは、興奮閾値“120%”に対応する100kHz以下に設定することが好ましい。
【0057】
図7は、プレバースト波のバースト長と興奮閾値との関係を示す図である。図7では、プレバースト波の振幅に対応する電流密度を29mA/cm2、キャリア周波数を100kHzに設定し、バースト長を変化させる。
【0058】
図7を参照して、例えば、バースト長“1ms”を有するプレバースト波を印加した後に、有髄神経が興奮したときのメインバースト波の振幅Az1を確認する。このときの興奮閾値は、“(Az1/As)×100%”で表される。グラフ700によると、バースト長が“1ms”の場合には、興奮閾値は100%であるため、振幅Az1と基準振幅Asとは同一となる。したがって、この場合には有髄神経の興奮は抑制されていない。
【0059】
一方、例えば、バースト長“20ms”を有するプレバーストを印加した後に、有髄神経が興奮したときのメインバースト波の振幅Az2を確認する。グラフ700によると、バースト長が“20ms”の場合には興奮閾値は120%であるため、振幅Ay2は基準振幅Asの1.2倍である。具体的には、プレバースト波のバースト長が“20ms”の場合には、プレバースト波を印加しない場合と比較してメインバースト波の振幅を20%大きくしなければ、有髄神経は興奮しない。したがって、この場合には有髄神経の興奮が抑制されていることがわかる。
【0060】
グラフ700によると、バースト長が1msよりも大きくなるにつれて、有髄神経の興奮の抑制効果が顕著になる。バースト長が40ms以上になると興奮閾値が125%まで増加し、その後飽和する。ここで、プレバースト波のバースト長を変化させても無髄神経が興奮するメインバースト波の振幅は概ね同一である。したがって、プレバースト波のバースト長を適切に設定して有髄神経の興奮を抑制すれば、結果的に、有髄神経を興奮させることなく無髄神経を興奮させることができる。なお、プレバースト波のバースト長L1は、興奮閾値“120%”に対応する20ms以上に設定することが好ましい。
【0061】
プレバースト波およびメインバースト波の振幅、キャリア周波数、およびバースト長について考察する。上記で例示したように、メインバースト波の振幅、キャリア周波数、およびバースト長は、それぞれ、1mA/cm、10kHz、10msであるとする。図5図7を参照すると、有髄神経の興奮の抑制効果を得るためには、プレバースト波において、振幅は10mA/cmよりも大きく、キャリア周波数は200kHzよりも小さく、バースト長は1msよりも大きいことが必要となる。
【0062】
そのため、有髄神経の興奮の抑制効果を得るためには、プレバースト波のキャリア周波数およびバースト長は、メインバースト波のそれらと同一であってもよいが、プレバースト波の振幅はメインバースト波の振幅よりも大きい必要がある。このことから、プレバースト波310の振幅Am1は、正バースト波320の振幅Am2および負バースト波330の振幅Am3よりも大きく設定される。
【0063】
(処理手順)
図8は、電気治療器200の処理手順の一例を示すフローチャートである。図8中の各ステップは、主に、電気治療器200のプロセッサ210により実行される。ここでは、治療モードMでの治療が行われるものとする。
【0064】
図8を参照して、電気治療器200は、操作インターフェイス230を介して、ユーザから治療モードMでの治療開始指示を受け付ける(ステップS10)。電気治療器200は、プレバースト波310を生成して出力する(ステップS12)。電気治療器200は、プレバースト波310を出力した後、メインバースト波を所定周波数(例えば、100Hz)で繰り返し出力する(ステップS14)。
【0065】
電気治療器200は、プレバースト波310を出力してから所定期間が経過したか否かを判断する(ステップS16)。所定期間は、プレバースト波310による有髄神経の興奮の抑制効果が維持できる期間に設定される。プレバースト波310の振幅、キャリア周波数およびバースト長に応じて当該抑制効果が維持できる期間は変動するため、プレバースト波310の設定に適した所定期間が予め設定される。
【0066】
所定期間が経過していない場合(ステップS16においてNO)、電気治療器200はステップS14の処理を実行する。すなわち、電気治療器200は、メインバースト波を繰り返し出力する。所定期間が経過した場合(ステップS16においてYES)、電気治療器200は、ステップS12の処理を実行する。具体的には、電気治療器200は、メインバースト波の出力を停止して、プレバースト波を出力する。
【0067】
<その他の実施の形態>
(1)上述した実施の形態では、一対のパッド270を用いる構成について説明したが、当該構成に限られず、1つのパッドにプラス極性用の電極と、マイナス極性用の電極とを形成するように構成されていてもよい。
【0068】
(2)上述した実施の形態では、電気治療器単体でユーザの治療を行なう構成について説明したが、当該構成に限られず、端末装置および電気治療器が無線接続されており、端末装置からの指示に従って電気治療器が治療を行なう構成であってもよい。この場合、端末装置は、主に、電気治療器200の操作インターフェイス230およびディスプレイ260としての役割を担う。
【0069】
具体的には、電気治療器は、コードレスタイプであり、使用時に一体とされるパッド、ホルダ、本体部を有し、これら各部を組み合わせて治療を行なう。端末装置は、例えば、タッチパネルを備えるスマートフォンである。端末装置と電気治療器とを接続するためのネットワークは、例えば、Bluetooth(登録商標)、無線LAN(local area network)等のその他の無線通信方式が採用される。
【0070】
端末装置は、インストールされているアプリケーションを利用して、無線接続された電気治療器に各種指示を行なう。また、端末装置は、各種情報をディスプレイに表示して、必要な情報をユーザに報知する。ユーザは、タッチパネルを介して端末装置に各種指示を与え、当該指示が端末装置から電気治療器に送信されることにより、間接的に電気治療器に当該各種指示を与える。より具体的には、電気治療器は、端末装置から送信される、ユーザからの指示入力を受信する。例えば、端末装置は、治療モードの選択操作や電気刺激強度を調整するための操作を受け付け、当該操作を示す信号を電気治療器に送信する。電気治療器は、受信した信号に対応する操作に応じて、選択された治療モードに従うパルス波を出力したり、電気刺激強度のレベルを調整したりする。
【0071】
(3)上述した実施の形態において、コンピュータを機能させて、上述のフローチャートで説明したような制御を実行させるプログラムを提供することもできる。このようなプログラムは、コンピュータに付属するフレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、二次記憶装置、主記憶装置およびメモリカードなどの一時的でないコンピュータ読取り可能な記録媒体にて記録させて、プログラム製品として提供することもできる。あるいは、コンピュータに内蔵するハードディスクなどの記録媒体にて記録させて、プログラムを提供することもできる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0072】
(4)上述の実施の形態として例示した構成は、本発明の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能である。また、上述した実施の形態において、その他の実施の形態で説明した処理や構成を適宜採用して実施する場合であってもよい。
【0073】
[付記]
以上のように、本実施形態は以下のような開示を含む。
【0074】
[構成1]
ユーザの身体の部位に接触される複数の電極と、複数のパルスの連続波からなるバースト波を前記複数の電極へ印加することにより、前記部位の治療を行なう制御機器(205)とを備え、前記制御機器(205)は、第1振幅を有する複数のパルスを含む第1バースト波を出力し、前記第1バースト波を出力した後、第2振幅を有する複数の正パルスを含む第2バースト波と、第3振幅を有する複数の負パルスを含む第3バースト波とを繰り返し出力し、前記第1振幅は、前記第2振幅および前記第3振幅よりも大きい、電気治療器(200)。
【0075】
[構成2]
前記第1振幅は、29mA/cm2以上の電流密度に対応する振幅である、構成1に記載の電気治療器(200)。
【0076】
[構成3]
前記第1バースト波に含まれるパルスの繰り返し周波数は、100kHz以下である、構成1または2に記載の電気治療器(200)。
【0077】
[構成4]
前記第1バースト波の長さは、20ms以上である、構成1~3のいずれか1つに記載の電気治療器(200)。
【0078】
[構成5]
前記第2バースト波に含まれる各正パルスの総面積と、前記第3バースト波に含まれる各負パルスの総面積とが同一となるように、前記第2振幅、前記第2バースト波の長さ、前記第3振幅、および前記第3バースト波の長さが設定される、構成1~4のいずれか1つに記載の電気治療器(200)。
【0079】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0080】
40 サポータ、200 電気治療器、205 制御機器、210 プロセッサ、220 メモリ、230 操作インターフェイス、232 電源ボタン、234 モード選択ボタン、236 治療開始ボタン、238 調整ボタン、240 電源部、250 波形生成出力装置、260 ディスプレイ、270 パッド、280 コード、282 プラグ、310 プレバースト波、320 正バースト波、330 負バースト波、500,600,700 グラフ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8