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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】レーザ発振器
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/068 20060101AFI20240329BHJP
   H01S 5/0683 20060101ALI20240329BHJP
   H01S 5/14 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
H01S5/068
H01S5/0683
H01S5/14
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020082641
(22)【出願日】2020-05-08
(65)【公開番号】P2021177530
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 出
(72)【発明者】
【氏名】葛西 孝昭
(72)【発明者】
【氏名】吉田 隆幸
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-042010(JP,A)
【文献】特開2009-147149(JP,A)
【文献】特開2017-163036(JP,A)
【文献】特開2005-158790(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0092994(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00- 3/30
H01S 5/00ー 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CW発振とパルス発振とを切り替え可能に構成されたレーザ発振器であって、
レーザ光を出射するレーザダイオードと、
前記レーザダイオードから出射された前記レーザ光の光路中に配置された外部共振ミラーと、
前記レーザダイオードから出射された前記レーザ光の光路中の前記レーザダイオードと前記外部共振ミラーとの間に配置される光シャッタと、
前記レーザダイオードを駆動するLD電源と、
前記光シャッタを駆動する光シャッタドライバと、
前記LD電源及び前記光シャッタドライバを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記パルス発振のモードで、前記光シャッタ閉状態として当該レーザ発振器からのレーザ発振を無出力とするとき、前記LD電源から前記レーザダイオードに供給する駆動電流が小さくなるように、前記光シャッタの開閉タイミングに合わせて前記LD電源から出力される前記駆動電流の電流レベルを制御する、
レーザ発振器。
【請求項2】
レーザ光を出射する複数のレーザダイオードと、
前記複数のレーザダイオードそれぞれから出射された前記レーザ光の光路中に配置された外部共振ミラーと、
前記複数のレーザダイオードそれぞれから出射された前記レーザ光の光路中の前記複数のレーザダイオードと前記外部共振ミラーとの間に配置され、前記複数のレーザダイオードそれぞれから出射された前記レーザ光を同軸上に重ね合わせる回折格子と、
前記回折格子と前記外部共振ミラーとの間に配置される光シャッタと、
前記複数のレーザダイオードを駆動するLD電源と、
前記光シャッタを駆動する光シャッタドライバと、
前記LD電源及び前記光シャッタドライバを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記光シャッタが閉状態のときに前記LD電源から前記複数のレーザダイオードそれぞれに供給する駆動電流が小さくなるように、前記光シャッタの開閉タイミングに合わせて前記LD電源から出力される前記駆動電流の電流レベルを制御する、
レーザ発振器。
【請求項3】
前記光シャッタは、音響光学素子である、
請求項1又は2に記載のレーザ発振器。
【請求項4】
前記光シャッタは、ポッケルスセルである、
請求項1又は2に記載のレーザ発振器。
【請求項5】
前記光シャッタを開いたときの前記レーザダイオードの発熱量と、前記光シャッタを閉じたときの前記レーザダイオードの発熱量とが、等しくなるように、前記駆動電流を制御する、
請求項1から4のいずれか一項に記載のレーザ発振器。
【請求項6】
前記レーザダイオードに取り付けられ、前記レーザダイオードの温度を測定する温度計測素子をさらに備える、
請求項1から5のいずれか一項に記載のレーザ発振器。
【請求項7】
前記レーザ光の出力を測定する出力モニタユニットをさらに備える、
請求項6に記載のレーザ発振器。
【請求項8】
前記制御装置は、前記レーザダイオードの温度測定データ及び前記レーザ光の出力測定データに基づいて、前記LD電源に対して前記駆動電流に係る電流指令を行うと共に、前記光シャッタへの開閉指令を行う、
請求項7に記載のレーザ発振器。
【請求項9】
前記制御装置が前記駆動電流の電流レベルを決定するための演算モデルは、機械学習によって自律的にフィードバックをかけて更新される、
請求項8に記載のレーザ発振器。
【請求項10】
前記レーザダイオードは、シングルエミッタ及びマルチエミッタのうちの少なくとも一方である、
請求項1から9のいずれか一項に記載のレーザ発振器。
【請求項11】
前記レーザダイオードの発振波長は、300nm以上で且つ2000nm以下の範囲内である、
請求項1から10のいずれか一項に記載のレーザ発振器。
【請求項12】
前記レーザ発振器は、波長ビーム結合型レーザ発振器であり、
前記複数のレーザダイオードそれぞれが出射する前記レーザ光の波長は、互いに異なる、
請求項2に記載のレーザ発振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ発振器の一例として、外部共振を利用したダイレクトダイオードレーザ(DDL)発振器が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
図6に、特許文献1に記載された従来のDDL発振器を示す。
【0004】
図6において、キャビティ200aは、波長の異なるレーザ入力モジュール252から出射される複数のレーザ光が回折格子214を通して同軸となるように配置された波長ビーム結合方式のダイレクトダイオードレーザ発振器である。レーザ入力モジュール252は、レーザエレメント250とFAC光学系206と変換光学系208とを有する。出力カプラ216は、回折格子214を通って入射するレーザ光の一部を反射光として各レーザ入力モジュール252に戻し、この光をレーザエレメント250のエミッタにて所定の波長のみが発振するウェーブロッキングと呼ばれる状態にすることで、レーザ光を発振している。
【0005】
また、特許文献2には、従来のレーザ発振器として、LDの電流値を制御しているものが開示されている。図7に、特許文献2に記載された従来のレーザ発振器を示す。
【0006】
図7において、レーザ発振装置は、Nd:YAGロッド312、全反射鏡315、内部AOQ-SW素子314、励起用LD313、及び出力鏡316を有し、発振器出力357を出力するレーザ発振器ヘッド311、出射パルス信号351を受信しQスイッチパルス幅設定信号352を出力するQスイッチパルス幅設定回路317、LD電流制御信号353を出力するLD電流制御回路318、LD駆動電流356を制御するLDドライバ319、RF電力の変調制御信号354を出力するRF振幅制御回路320、並びにRF電力355を制御するRFドライバ321を有する。レーザ発振器ヘッド311内の光共振器が1又は複数回のQスイッチパルス発振をするタイミングに同期させて、LD電流制御回路318及びLDドライバ319が励起用LD313に印加する電流をレーザ発振の閾値以下となるように制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5981855号公報
【文献】特許第5082798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、レーザダイオードの波長に対する利得カーブは、レーザダイオードの温度に応じて変化する、という特徴を有する。
【0009】
この点、特許文献1に示すDDL発振器では、パルス発振を行おうとした際にはレーザダイオードの電流値を変化させる必要があるため、CW発振の場合とはレーザダイオードの発熱量が異なり、波長に対する利得カーブが変化してしまう。
【0010】
そして、特許文献1に示すDDL発振器では、レーザダイオードは回折を利用した外部共振を行なっており、発振する波長は、ウェーブロッキングのため固定である。そのため、利得カーブが変化すると、レーザ光出力も変動してしまう。それ故、典型的には、CW発振用にアライメント調整を行った発振器では、パルス発振する際は発振効率が悪化する。さらに、標準的なパルス幅や発振周波数でパルス発振用にアライメント調整を行った場合でも、パルス幅や発振周波数などのパラメータが変化すると、レーザダイオードの発熱量が変化し、利得カーブがシフトするため、同様に、発振効率が悪化したり、発振状態が不安定になったりする。
【0011】
また、特許文献2に示すレーザ発振器では、内部AOQ-SW素子とLD電流制御回路のタイミングを同期させているが、励起用LDに対する温度制御については考慮されていない。この特許文献2に示す構成を外部共振型のDDL発振器に適用した場合は、発振周波数などのパラメータが変更された際には、LDの温度変動が発生し、利得カーブのシフトが起こるために、発振効率が低下し、DDL発振器の発振が不安定になるといった課題がある。
【0012】
本開示は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、レーザ光の発振条件を変化させた場合にも、良好な発振特性を実現し得るレーザ発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した課題を解決する主たる本開示は、
レーザ光を出射するレーザダイオードと、
前記レーザダイオードから出射された前記レーザ光の光路中に配置された外部共振ミラーと、
前記レーザダイオードから出射された前記レーザ光の光路中の前記レーザダイオードと前記外部共振ミラーとの間に配置される光シャッタと、
前記レーザダイオードを駆動するLD電源と、
前記光シャッタを駆動する光シャッタドライバと、
前記LD電源及び前記光シャッタドライバを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記光シャッタが閉状態のときに前記LD電源から前記レーザダイオードに供給する駆動電流が小さくなるように、前記光シャッタの開閉タイミングに合わせて前記LD電源から出力される前記駆動電流の電流レベルを制御する、
レーザ発振器である。
【0014】
又、他の局面では、
レーザ光を出射する複数のレーザダイオードと、
前記複数のレーザダイオードそれぞれから出射された前記レーザ光の光路中に配置された外部共振ミラーと、
前記複数のレーザダイオードそれぞれから出射された前記レーザ光の光路中の前記複数のレーザダイオードと前記外部共振ミラーとの間に配置され、前記複数のレーザダイオードそれぞれから出射された前記レーザ光を同軸上に重ね合わせる回折格子と、
前記回折格子と前記外部共振ミラーとの間に配置される光シャッタと、
前記複数のレーザダイオードを駆動するLD電源と、
前記光シャッタを駆動する光シャッタドライバと、
前記LD電源及び前記光シャッタドライバを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記光シャッタが閉状態のときに前記LD電源から前記複数のレーザダイオードそれぞれに供給する駆動電流が小さくなるように、前記光シャッタの開閉タイミングに合わせて前記LD電源から出力される前記駆動電流の電流レベルを制御する、
レーザ発振器である。
【発明の効果】
【0015】
本開示のレーザ発振器によれば、レーザ光の発振条件を変化させた場合にも、良好な発振特性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の一実施形態に係るレーザ発振器の模式図
図2図2(a)は、本開示の一実施形態における利得カーブを示す概念図 図2(b)は、本開示の一実施形態における利得カーブの温度によるシフトを示す概念図
図3】従来のパルス発振時の各パラメータを示す図
図4】本開示の一実施形態における電流値制御時の各パラメータを示す図
図5】本開示の一実施形態に係るレーザ発振器の模式図
図6】従来のレーザ発振器を示す概略図
図7】従来のレーザ発振器を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
<実施形態1>
図1は、本開示の実施形態1におけるレーザ発振器の模式図である。
【0019】
レーザ発振器は、レーザ光5を出射するレーザダイオード2を有する。レーザダイオード(以下、LDともいう)2は、レーザ光5を生成し出射する。レーザダイオード2は、例えば、チップ形状のLDチップである。LDチップとしては、端面発光型(EEL:Edge Emitting Laser)のLDチップが好ましく用いられる。端面発光型のLDチップでは、例えば、長尺のバー形状の共振器が、チップ内において基板面と平行に形成されている。共振器の長手方向の一方の端面は光がほぼ全反射するように高反射率の膜で覆われている。一方、共振器の長手方向の他方の端面には光が透過しやすいように反射防止膜で覆われており、レーザダイオード2の外部に設けられた部分反射鏡である外部共振ミラー1から、光が部分的に反射されて戻ってくることによって、増幅され位相の揃ったレーザビームが外部共振ミラー1から出射される。
【0020】
レーザダイオード2の発振波長は、300nm以上で且つ2000nm以下の範囲内であることが好ましい。すなわち、レーザ光5の波長は、300nm以上で且つ2000nm以下の範囲内であることが好ましい。この範囲内のレーザ光5を用いることで、レーザ発振器を用いて高出力のレーザ加工装置を得ることができる。
【0021】
レーザダイオード2は、シングルエミッタ及びマルチエミッタのうちの少なくとも一方であることが好ましい。シングルエミッタは、一つのエミッタを有するLDチップであってよく、マルチエミッタは、複数のエミッタを有するLDバーであってよい。
【0022】
レーザダイオード2に、レーザダイオード2の温度を測定する温度計測素子3が取り付けられていることが好ましい。温度計測素子3は、レーザダイオード2に接しており、レーザダイオード2の温度を計測し、温度測定データ31を制御装置7に伝える。
【0023】
レーザ発振器は、レーザダイオード2を駆動するLD電源22を有する。LD電源22は、制御装置7から伝えられる電流指令信号23に従って、レーザダイオード2に駆動電流21を供給する。
【0024】
レーザ発振器は、レーザダイオード2から出射されたレーザ光の光路中に配置された外部共振ミラー1を有する。外部共振ミラー1は、レーザダイオード2から出射されるレーザ光5の一部を反射させて、レーザダイオード2へと戻し、外部共振させる。外部共振ミラー1とレーザダイオード2とで外部共振キャビティを構成している。
【0025】
レーザ発振器は、外部共振ミラー1とレーザダイオード2との間に配置される光シャッタ4を有する。光シャッタ4を開閉することによってレーザ光5の透過又は遮断することで、パルス状のレーザ光5やCW状のレーザ光5を得ることができる。
【0026】
光シャッタ4は、音響光学素子(以下、AOMともいう)であることが好ましい。音響光学素子は、回折格子としての役割を有しており、レーザダイオード2から出射されるレーザ光5の一部を回折する。
【0027】
光シャッタ4は、ポッケルスセルであることも好ましい。この場合、レーザ発振器は、ポラライザを有することが好ましい。ポッケルスセルは、レーザ光5の偏光方向を変えることが可能である。ポラライザは、レーザ光5の偏光を分離する。
【0028】
レーザ発振器は、光シャッタドライバ42を有する。光シャッタドライバ42は、制御装置7から伝えられる開閉指令信号43にしたがって、光シャッタ駆動信号41を光シャッタ4へと送信し、光シャッタ4を開閉させる。
【0029】
レーザ発振器は、出力モニタユニット8を有することが好ましい。出力モニタユニット8は、外部共振ミラー1から出射されるレーザ光5の一部をサンプリングして出力を測定することによって、レーザ光5の変動を測定することができ、制御装置7に出力測定データ81を伝えることができる。
【0030】
レーザ発振器は、LD電源22及び光シャッタドライバ42を制御する制御装置7を有する。制御装置7は、開閉指令信号43を光シャッタドライバ42へ送信することで、光シャッタ4の開閉を制御するとともに、光シャッタ4の開閉に合わせて電流指令信号23をLD電源22へと送信しレーザダイオード2へ供給される出力駆動電流21を制御する。
【0031】
レーザ発振器が温度計測素子3を有する場合、制御装置7は、温度計測素子3からレーザダイオード2の温度測定データ31を受信し、これに基づいてLD電源22及び光シャッタドライバ42を制御することが好ましい。また、レーザ発振器が出力モニタユニット8を有する場合、出力モニタユニット8から出力測定データ81を受信し、これに基づいてLD電源22及び光シャッタドライバ42を制御することが好ましい。制御装置7は、温度測定データ31及び出力測定データ81の両方を受信することがより好ましい。この場合、特に効率よくレーザ発振を行うことができる。
【0032】
図2を参照して、本実施形態における温度による利得カーブのシフトを説明する。図2(a)はレーザダイオード2がCW発振している際の利得カーブ25と光出力51との関係を概念的に示したグラフである。図2(b)は、レーザダイオード2を、CW発振モードからパルス発振モードに切り替えた場合の利得カーブの変化の態様を示したグラフである。
【0033】
レーザダイオード2は、ある特定の波長幅の利得カーブ25を持っており、本実施形態に示す外部共振を行うシステムにおいてCW発振している際には、外部共振のウェーブロッキング波長24が利得カーブ25の最大効率が得られる位置に調整され、光出力51を得ることができる。
【0034】
しかしながら、光シャッタ4を開閉することによってパルス発振を行うと、レーザダイオード2の発熱量が増大し、レーザダイオード2は、高温化する。その結果、レーザダイオード2の利得カーブは、図2(b)に示すように、CW発振時の利得カーブ25よりも長波長側にシフトした高温時の利得カーブ26となる。このとき、外部共振のためにウェーブロッキング波長24は、典型的には、固定状態であるため、レーザダイオード2は、当該ウェーブロッキング波長24に対応する波長で発振せざるを得ない。そのため、利得カーブシフト時の光出力52は、CW発振時の光出力51よりも低下することになる。
【0035】
図3に、従来の光シャッタ動作時の各パラメータを示す。図3において、図1と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0036】
図3において、光シャッタ4の開閉を行うための開閉指令信号43と、レーザダイオード2へ供給される駆動電流21とは、制御装置7によって制御可能なパラメータであり、LD発熱量32と、LD温度33と、光出力51とは、駆動電流21及び開閉指令信号43によって結果的に影響を及ぼされるパラメータである。
【0037】
CW発振をしているレーザ発振器のキャビティ内に設置された光シャッタ4を用いてパルス状の光を出射させようとする際に、開閉指令信号43が“開”の状態であるときは光シャッタ4が開いた状態であり、レーザダイオード2は発光状態となり、レーザ発振器から外部に光出力51が出射される。
【0038】
また、開閉指令信号43が“閉”の状態であるときは、光シャッタ4が閉じた状態であるため、外部共振状態のレーザダイオード2は発光せず、レーザ発振器から光出力51は出射されない。このとき、レーザダイオード2に供給される駆動電流21の電流レベルは一定のままであり、開閉指令信号43が“開”の状態であるときに光出力51として放散されるはずのエネルギが、開閉指令信号43が“閉”の状態であるときはレーザダイオード2にとどまるため、LD発熱量32が大きくなる。LD発熱量32が大きくなると、LD温度33が上昇し、外部共振型のレーザ発振器において利得カーブ25のシフトが起こるため、時間の経過に伴い光出力51が徐々に低下する。
【0039】
図4に、本実施形態における電流値制御時の各パラメータを示す。図4において、図1から図3と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0040】
図4に示すように、本実施形態における制御装置7は、光シャッタ4が“閉”の状態(即ち、LD無発光時)にあるときの駆動電流21の電流レベルが、光シャッタ4が“開”の状態(即ち、LD無発光時)にあるときの駆動電流21の電流レベルよりも小さくなるように、LD電源22を制御する。このとき、駆動電流21の電流レベルを適切に調整することで、光シャッタ4が“開”の状態にあるときのLD発熱量32と、光シャッタ4が“閉”の状態にあるときのLD発熱量32とを等しくすることができる。
【0041】
なお、LD発熱量32が等しいとは、完全に等しい場合だけではなく、LD発熱量32がほぼ等しい場合も含み、光出力51を著しく低下させない程度であればよい。このように、制御装置7にて、光シャッタ4の開閉動作と駆動電流21の電流レベルの変化とを同期的に制御することによって、光シャッタ4の開閉状態に関わらず、LD温度33をほぼ一定に保つことが可能となる。これにより、パルス状の光出力51が変動せずに安定的に動作させることができる。即ち、このため、効率よくレーザ発振を行うことができる。
【0042】
加えて、本実施形態の制御装置7は、所望のパルスのパラメータ(パルス幅、周波数、ピーク出力など)が入力されると、レーザダイオード2の温度測定データ31や出力測定データ81を取得して、適切な電流指令信号23を生成し、LD電源22に指令する。これによって、光シャッタ4が“閉”の状態にあるときの駆動電流21の電流レベルと、光シャッタ4が“開”の状態にあるときの駆動電流21の電流レベルとの比率を適切にコントロールし、レーザ発振器の出力51を早期に、且つ、適切に安定化させることができる。
【0043】
尚、制御装置7への入力パラメータ(パルスのパラメータ、温度測定データ31、出力測定データ81)から出力パラメータ(駆動電流21の電流レベルを示す電流指令信号23)を算出するための演算モデルは、例えば、事前の検証によって決定されたデータテーブルである。但し、より好ましくは、当該演算モデルは、機械学習によって自律的にフィードバックをかけて更新される構成とする。これによって、パルス状の光出力51が変動せずに安定的に動作するように、駆動電流21の電流レベルをより適切に決定することが可能となる。
【0044】
以上のように、本実施形態に係るレーザ発振器によれば、レーザ光の発振条件を変化させた場合にも、パルス状の光出力51が変動せずに安定的に動作することが可能である。これによって、例えば、安定的かつ精密なレーザ加工が可能となる。
【0045】
<実施形態2>
図5は、本開示の実施形態2におけるレーザ発振器の模式図である。図5において、実施形態1と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0046】
本実施形態では、レーザ発振器は、波長ビーム結合型外部共振DDLレーザ発振器であり、各別にレーザ光を出射する複数のレーザダイオード2を有する。複数のレーザダイオード2は、それぞれが異なる波長で外部共振によって発振していることが好ましい。複数のレーザダイオード2はそれぞれ、実施形態1で記載したのと同様のレーザダイオード2を用いればよい。
【0047】
本実施形態では、レーザ発振器は、複数のレーザダイオード2と光シャッタ4との間に配置される回折格子6を有する。複数のレーザダイオード2それぞれから出射されるレーザ光は、回折格子6によって同軸上に重ね合わされ、外部共振ミラー1から一本のレーザ光5として出射される。このように複数のレーザダイオードを使用することによって、実施形態1よりも高出力なレーザ発振器を得ることが可能となる。
【0048】
本実施形態に係る制御装置7は、実施形態1と同様に、複数のレーザダイオード2それぞれに供給される駆動電流21を制御する。即ち、本実施形態に係る制御装置7は、光シャッタ4が閉状態のときにLD電源22から複数のレーザダイオード2それぞれに供給する駆動電流21が小さくなるように、光シャッタ4の開閉に合わせてLD電源22」を制御する。
【0049】
尚、複数のレーザダイオード2が直列に接続されるなどして、駆動電流21が共通になる場合は、制御装置7は、各レーザダイオード2に取り付けられているそれぞれの温度計測素子3からのそれぞれの温度計測データ31を制御装置7に取り込み、演算をおこない一つの電流値として出力する構成としてもよい。この場合、制御装置7は、例えば、出力モニタユニット8から伝達される出力測定データ81をモニタリングし、パルス発光動作をおこなった際の各レーザダイオード2のLD温度33の変動が最小になるように、電流指令信号23を算出すればよい。
【0050】
<その他の実施形態>
尚、上記では、制御装置7は、光シャッタ4の開閉タイミングと駆動電流21の電流レベルを変化させるタイミング(即ち、立ち上がりタイミング及び立ち下がりタイミング)が一致するように、LD電源22及び光シャッタ4を制御する態様を示した。しかしながら、光シャッタ4の開閉タイミングと駆動電流21の電流レベルを変化させるタイミングとは、必ずしも完全に一致する必要はなく、制御装置7は、光シャッタ4の開閉タイミングから一定のディレイ時間を置いて駆動電流21の電流レベルを変化させてもよいし、段階的に、駆動電流21の電流レベルを変化させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本開示のレーザ発振器は、良好な発振特性を有するため、安定的かつ精密なレーザ加工の用途に適用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 外部共振ミラー
2 レーザダイオード
21 電流
22 LD電源
23 電流指令信号
24 ウェーブロッキング波長
25 利得カーブ
26 高温時の利得カーブ
3 温度計測素子
31 温度測定データ
32 LD発熱量
33 LD温度
4 光シャッタ
41 光シャッタ駆動信号
42 光シャッタドライバ
43 開閉指令信号
5 レーザ光
51 光出力
52 利得カーブシフト時の光出力
6 回折格子
7 制御装置
8 出力モニタユニット
81 出力測定データ
200a キャビティ
206 FAC光学系
208 変換光学系
214 回折格子
216 出力カプラ
250 レーザエレメント
252 レーザ入力モジュール
311 レーザ発振器ヘッド
312 Nd:YAGロッド
313 励起用LD
314 内部AOQ-SW素子
315 全反射鏡
316 出力鏡
317 Qスイッチパルス幅設定回路
318 LD電流制御回路
319 LDドライバ
320 RF振幅制御回路
321 RFドライバ
351 出射パルス信号
352 Qスイッチパルス幅設定信号
353 LD電流制御信号
354 RF電力の変調制御信号
355 RF電力
356 LD駆動電流
357 発振器出力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7