(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】複合部材
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20240329BHJP
B32B 9/04 20060101ALI20240329BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B9/04
B32B27/20 Z
(21)【出願番号】P 2022538674
(86)(22)【出願日】2021-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2021025157
(87)【国際公開番号】W WO2022019092
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-01-04
(31)【優先権主張番号】P 2020125102
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【氏名又は名称】森 太士
(74)【代理人】
【識別番号】100141449
【氏名又は名称】松本 隆芳
(74)【代理人】
【識別番号】100142446
【氏名又は名称】細川 覚
(72)【発明者】
【氏名】栗副 直樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏希
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 達郎
(72)【発明者】
【氏名】澤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】岩田 晃樹
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/199968(WO,A1)
【文献】特表2018-536261(JP,A)
【文献】特開2014-156052(JP,A)
【文献】特開2020-95254(JP,A)
【文献】特開2008-208247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
C04B 7/00 - 7/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物及び金属酸化水酸化物の少なくとも一方を含有する無機物質を含む無機層と、
前記無機層の表面に設けられ、樹脂と、前記樹脂内に分散され、前記無機層の前記無機物質と直接固着する無機粒子とを含有する樹脂層と、
を備え、
前記無機層の断面における気孔率は20%以下であり、
赤外分光法又はX線回折法で測定した場合に、前記無機層からヒドロキシ基に由来するピークが検出される、複合部材。
【請求項2】
前記無機層の断面における気孔率は10%以下である、請求項1に記載の複合部材。
【請求項3】
前記無機粒子はヒドロキシ基を有する、請求項1又は2に記載の複合部材。
【請求項4】
前記無機粒子と前記無機層に含まれる無機物質とは連続して一体的に結合している、請求項1から3のいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項5】
前記無機粒子は前記無機層の無機物質に含まれる金属元素を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項6】
前記樹脂層に対する前記無機粒子の含有率は10体積%以上70体積%以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項7】
前記無機層に含まれる無機物質は多結晶体である、請求項1から6のいずれか一項に記載の複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックスとプラスチックとを接着剤を介して貼り合わせた複合部材が知られている。しかしながら、セラミックス又はプラスチックに液状接着剤を塗布した後に、所定の圧力を加え、セラミックスとプラスチックとを接着剤を介して貼り合わせても、十分な接合強度を得ることは困難である。
【0003】
そこで、特許文献1では、セラミックスの表面で液状接着剤を固化させて接着剤層を形成し、表面が接着剤層により被覆されているセラミックスに対して溶融樹脂を射出する方法を開示している。この方法により、セラミックスとプラスチックとの間に接着剤層が介在する複合体が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
従来技術では、接着剤として、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリブチレンテレフタレート、酢酸二ブチル及び有機溶剤を主成分とする液状接着剤が使用されている。しかしながら、このような接着剤を使用した場合であっても、接着剤層が劣化した場合には、セラミックスとプラスチックとが剥離するおそれがある。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、接着剤を介さずに無機層と樹脂層とが強固に接合された複合部材を提供することにある。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の態様に係る複合部材は、金属酸化物及び金属酸化水酸化物の少なくとも一方を含有する無機物質を含む無機層を備える。複合部材は、無機層の表面に設けられ、樹脂と、樹脂内に分散され、無機層の無機物質と直接固着する無機粒子とを含有する樹脂層を備える。無機層の断面における気孔率は20%以下であり、赤外分光法又はX線回折法で測定した場合に、無機層からヒドロキシ基に由来するピークが検出される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る複合部材の一例を概略的に示す模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る無機層の一例を概略的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、無機層の無機物質と樹脂層の無機粒子とが直接固着する様子を示す断面図である。
【
図4】
図4は、無機層の無機物質と樹脂層の無機粒子とが連続して一体的に結合している様子を示す断面図である。
【
図5】
図5は、実施例1の試験サンプルを500倍で観察したSEM像である。
【
図6】
図6は、実施例1の試験サンプルを5000倍で観察したSEM像である。
【
図7】
図7は、実施例2の試験サンプルを500倍で観察したSEM像である。
【
図8】
図8は、実施例2の試験サンプルを5000倍で観察したSEM像である。
【
図9】
図9は、比較例1の試験サンプルを500倍で観察したSEM像である。
【
図10】
図10は、比較例1の試験サンプルを5000倍で観察したSEM像である。
【
図11】
図11は、実施例1の試験サンプル1において、位置1の反射電子像を示す図である。
【
図12】
図12は、実施例1の試験サンプル1において、位置1の反射電子像を二値化した画像である。
【
図13】
図13は、実施例1の試験サンプル1において、位置2の反射電子像を示す図である。
【
図14】
図14は、実施例1の試験サンプル1において、位置2の反射電子像を二値化した画像である。
【
図15】
図15は、実施例1の試験サンプル1において、位置3の反射電子像を示す図である。
【
図16】
図16は、実施例1の試験サンプル1において、位置3の反射電子像を二値化した画像である。
【
図17】
図17は、実施例1の無機層、アルミナ及び水酸化アルミニウムの赤外吸収スペクトルである。
【
図18】
図18は、実施例1の無機層のXRDパターン、及び、アルミナのXRDパターンを示すグラフである。
【
図20】
図20は、実施例1のXRDパターンのフィッティング結果、並びにICSD(無機結晶構造データベース)に登録されたベーマイト、γアルミナ及びαアルミナのXRDパターンを示すグラフである。
【
図21】
図21は、アルミナのXRDパターンのフィッティング結果、並びにICSDに登録されたαアルミナ及びベーマイトのXRDパターンを示すグラフである。
【
図22】
図22は、ベーマイト及び水酸化アルミニウムのTG曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本実施形態に係る複合部材及び複合部材の製造方法について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0010】
[複合部材]
本実施形態の複合部材1は、
図1に示すように、無機層10と、樹脂層20とを備えている。樹脂層20は、無機層10の表面に設けられる。樹脂層20は、無機層10の一方の面のみに設けられてもよく、無機層10の両方の面に設けられてもよい。
【0011】
(無機層10)
本実施形態に係る無機層10は、例えば
図2に示すように、複数の粒子11を含んでいてもよい。無機層10は、無機物質の粒子11同士が互いに結合することにより形成されてもよい。
【0012】
無機層10は、複数の粒子11の各々を結合する結合部12を含んでいてもよい。無機層10は、複数の粒子11が結合部12を介さず、複数の粒子11の各々が直接結合する部分を有していてもよい。結合部12は、複数の粒子11の各々の表面の一部を覆ってもよく、全部を覆ってもよい。
【0013】
無機層10は、無機物質を含む。無機物質は、複数の粒子11及び結合部12の少なくともいずれか一方に含まれていてよい。すなわち、無機物質は、複数の粒子11又は結合部12のいずれか一方に含まれてもよく、複数の粒子11及び結合部12の両方に含まれてもよい。
【0014】
無機層10に含まれる無機物質は、金属酸化物及び金属酸化水酸化物の少なくとも一方を含有する。すなわち、無機物質は、金属酸化物又は金属酸化水酸化物のいずれか一方を含有してもよく、金属酸化物及び金属酸化水酸化物の両方を含有してもよい。金属酸化物は、金属元素に酸素のみが結合した化合物であることが好ましい。
【0015】
金属酸化物及び金属酸化水酸化物の少なくとも一方は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素を含有していることが好ましい。本明細書において、アルカリ土類金属は、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムに加えて、ベリリウム及びマグネシウムを包含する。卑金属は、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、カドミウム、インジウム、すず、水銀、タリウム、鉛、ビスマス及びポロニウムを包含する。半金属は、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン及びテルルを包含する。この中でも、無機物質は、亜鉛、アルミニウム及びマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素を含有していることが好ましい。これらの金属元素を含有する無機物質は、後述するように、加圧加熱法により、無機物質に由来する結合部12を容易に形成することが可能となる。
【0016】
金属酸化物は、例えば酸化亜鉛、酸化マグネシウム、並びに酸化亜鉛と酸化マグネシウムとの複合体からなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでいてもよい。このような金属酸化物によって、耐久性の高い無機層10を得ることができる。
【0017】
金属酸化水酸化物は、例えばアルミニウム酸化水酸化物を含んでいてもよい。アルミニウム酸化水酸化物としては、AlOOHの組成式で示されるベーマイトが挙げられる。ベーマイトは、水に不溶であり、酸及びアルカリにも常温下では、ほとんど反応しないことから化学的安定性が高い。さらに、ベーマイトは、脱水温度が500℃前後と高いことから耐熱性にも優れるという特性を有する。また、ベーマイトは、比重が3.07程度であるため、無機層10がベーマイトを含む場合には、軽量であり、かつ、化学的安定性に優れる無機層10を得ることができる。
【0018】
無機層10に含まれる無機物質がベーマイトである場合、粒子11は、ベーマイト相のみを含む粒子であってもよく、ベーマイトと、ベーマイト以外の酸化アルミニウム又は水酸化アルミニウムとの混合相を含む粒子であってもよい。例えば、粒子11は、ベーマイトを含む相と、ギブサイト(Al(OH)3)を含む相が混合した粒子であってもよい。隣接する粒子11は、アルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一方を介して結合していることが好ましい。すなわち、粒子11は、有機化合物を含む有機バインダーで結合しておらず、アルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物以外の無機物質を含む無機バインダーでも結合していないことが好ましい。なお、隣接する粒子11がアルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一方を介して結合している場合、当該アルミニウムの酸化物及び酸化水酸化物は、結晶質であってもよく、非晶質であってもよい。
【0019】
無機層10がベーマイトを含む場合、ベーマイト相の存在割合が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。ベーマイト相の割合が増加することにより、軽量であり、かつ、化学的安定性及び耐熱性に優れた無機層10を得ることができる。なお、無機層10におけるベーマイト相の割合は、X線回折法により無機層10のX線回折パターンを測定した後、リートベルト解析を行うことにより、求めることができる。
【0020】
無機層10に含まれる無機物質がベーマイトである場合、結合部12がベーマイト相を含んでいてもよい。結合部12がベーマイト相を含む場合、複数の粒子11は、窒化アルミニウムを含んでいてもよい。窒化アルミニウムは、電気抵抗が大きく絶縁耐力も高い特性を有し、さらにセラミックス材料としては非常に高い熱伝導率を示す。複数の粒子11は、有機化合物を含む有機バインダーで結合しておらず、ベーマイト相以外の無機バインダーでも結合していなくてもよい。また、後述するように、無機層10は、無機物質の粉末と水との混合物を加圧しながら加熱することにより形成することができ、反応促進剤なども使用する必要がない。そのため、無機層10は、有機バインダー及び無機バインダー、並びに反応促進剤に由来する不純物が存在しないことから、窒化アルミニウム及びベーマイト本来の特性を保持することが可能となる。
【0021】
無機物質は、上記金属元素の酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一つを主成分として含有することがより好ましい。すなわち、無機物質は、上記金属元素の酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一つを50mol%以上含有することが好ましく、80mol%以上含有することがより好ましい。また、無機層10も、酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一方を主成分とすることが好ましい。すなわち、無機層10は、酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一方を50mol%以上含有することが好ましく、80mol%以上含有することがより好ましい。
【0022】
無機層10に含まれる無機物質は、多結晶体であることが好ましい。無機層10に含まれる無機物質が多結晶体であることにより、無機物質がアモルファスである場合と比べて、耐久性の高い無機層10を得ることができる。無機物質の粒子11は結晶質の粒子であり、無機層10は多数の粒子11が凝集してなるものであってもよい。なお、無機物質の粒子11は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素を含有する結晶質の粒子であることがより好ましい。また、無機物質の粒子11は、上記金属元素の酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一つを含有する結晶質の粒子であることが好ましい。無機物質の粒子11は、上記金属元素の酸化物及び酸化水酸化物の少なくとも一つを主成分とする結晶質の粒子であることがより好ましい。
【0023】
無機層10に含まれる無機物質は、カルシウム化合物の水和物を含まないことが好ましい。ここでいうカルシウム化合物は、ケイ酸三カルシウム(エーライト、3CaO・SiO2)、ケイ酸二カルシウム(ビーライト、2CaO・SiO2)、カルシウムアルミネート(3CaO・Al2O3)、カルシウムアルミノフェライト(4CaO・Al2O3・Fe2O3)、硫酸カルシウム(CaSO4・2H2O)である。無機層10に含まれる無機物質が上記カルシウム化合物の水和物を含む場合、無機層10の断面における気孔率が20%を超えて、強度が低下する可能性がある。そのため、無機物質は、上記カルシウム化合物の水和物を含まないことが好ましい。また、無機層10に含まれる無機物質は、リン酸セメント、リン酸亜鉛セメント、及びリン酸カルシウムセメントも含まないことが好ましい。無機物質がこれらのセメントを含まないことにより、無機層10の断面における気孔率が低下することから、機械的強度を高めることができる。
【0024】
複数の粒子11の平均粒子径は、特に限定されない。粒子11の平均粒子径は、300nm以上50μm以下であることが好ましく、300nm以上30μm以下であることがより好ましく、300nm以上20μm以下であることがさらに好ましい。無機物質の粒子11の平均粒子径がこの範囲内であることにより、粒子11同士が強固に結合し、無機層10の強度を高めることができる。なお、本明細書において、「平均粒子径」の値としては、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用する。
【0025】
無機物質の粒子11の形状は特に限定されないが、例えば球状とすることができる。また、粒子11は、ウィスカー状(針状)の粒子、又は鱗片状の粒子であってもよい。ウィスカー状粒子又は鱗片状粒子は、球状粒子と比べて他の粒子との接触性が高まり、無機層10の強度が向上しやすい。そのため、粒子11としてこのような形状の粒子を用いることにより、無機層10全体の強度を高めることが可能となる。
【0026】
ここで、無機層10に含まれる無機物質は、実質的に水和物を含まないことが好ましい。本明細書において、「無機物質は、実質的に水和物を含有しない」とは、無機物質に故意に水和物を含有させたものではないことを意味する。そのため、無機物質に水和物が不可避不純物として混入した場合は、「無機物質は、実質的に水和物を含有しない」という条件を満たす。なお、ベーマイトは金属酸化水酸化物であることから、本明細書においては水和物に包含されない。
【0027】
無機層10は、無機物質の粒子群により構成されていることが好ましい。すなわち、無機層10は、無機物質を含む複数の粒子11により構成されており、無機物質の粒子11同士が互いに結合することにより、無機層10が形成されていることが好ましい。この際、粒子11同士は、点接触の状態であってもよく、粒子11の粒子面同士が接触した面接触の状態であってもよい。
【0028】
結合部12は、非晶質の無機化合物を含むことが好ましい。具体的には、結合部12は、非晶質の無機化合物のみを含む部位であってもよく、非晶質の無機化合物と結晶質の無機化合物とが混在してなる部位であってもよい。また、結合部12は、非晶質の無機化合物の内部に結晶質の無機化合物が分散した部位であってもよい。非晶質の無機化合物と結晶質の無機化合物とが混在している場合、非晶質の無機化合物と結晶質の無機化合物とは、同じ化学組成を有していてもよく、互いに異なる化学組成を有していてもよい。
【0029】
無機物質の粒子11及び結合部12は同じ金属元素を含有し、当該金属元素はアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。すなわち、粒子11に含まれる無機物質と、結合部12に含まれる非晶質の無機物質は、少なくとも同じ金属元素を含有していることが好ましい。粒子11に含まれる無機物質と、結合部12に含まれる非晶質の無機物質は化学組成が同じであってもよく、化学組成が異なっていてもよい。具体的には、金属元素が亜鉛である場合、粒子11に含まれる無機物質と結合部12に含まれる非晶質の無機物質は、両方とも酸化亜鉛(ZnO)であってもよい。あるいは、粒子11に含まれる無機物質はZnOであるが、結合部12に含まれる非晶質の無機物質はZnO以外の亜鉛含有酸化物であってもよい。
【0030】
粒子11及び結合部12の両方に含まれる金属酸化物は、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、並びに酸化亜鉛と酸化マグネシウムとの複合体からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。後述するように、これらの金属酸化物を用いることにより、簡易な方法で結合部12を形成することが可能となる。
【0031】
無機層10の断面における気孔率は20%以下である。すなわち、無機層10の断面を観察した場合、単位面積あたりの気孔の割合の平均値が20%以下である。気孔率が20%以下の場合には、気孔を起点として、無機層10にひび割れが発生することが抑制されるため、複合部材1の曲げ強さを高めることが可能となる。なお、無機層10の断面における気孔率は15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。無機層10の断面における気孔率が小さいほど、気孔を起点としたひび割れが抑制されるため、複合部材1の強度を高めることが可能となる。
【0032】
本明細書において、気孔率は次のように求めることができる。まず、無機層10の断面を観察し、気孔と気孔以外とを判別する。そして、単位面積と当該単位面積中の気孔の面積とを測定し、単位面積あたりの気孔の割合を求める。このような単位面積あたりの気孔の割合を複数箇所で求めた後、単位面積あたりの気孔の割合の平均値を、気孔率とする。なお、無機層10の断面を観察する際には、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることができる。また、単位面積と当該単位面積中の気孔の面積は、顕微鏡で観察した画像を二値化することにより測定してもよい。
【0033】
無機層10の内部に存在する気孔の大きさは特に限定されないが、可能な限り小さい方が好ましい。気孔の大きさが小さいことにより、気孔を起点としたひび割れが抑制されるため、無機層10の強度を高め、無機層10の機械加工性を向上させることが可能となる。なお、無機層10の気孔の大きさは、5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。無機層10の内部に存在する気孔の大きさは、上述の気孔率と同様に、無機層10の断面を顕微鏡で観察することにより、求めることができる。
【0034】
複合部材1では、赤外分光法又はX線回折法で測定した場合に、無機層10からヒドロキシ基に由来するピークが検出される。具体的には、上記ピークのピーク面積がバックグラウンドレベルよりも大きい場合に、無機層10から上記ピークが検出されると判断することができる。ピーク面積は、無機層10を構成する材料の種類にもよるが、後述する実施例で実施する方法によって算出することができる。赤外分光法で測定する場合、ピーク面積は、2cm-1以上であってもよく、3cm-1以上であってもよい。X線回折法で測定する場合、ピーク面積は、1000°(2θ)・cps以上であってもよく、2000(2θ)・cps以上であってもよく、4000°(2θ)・cps以上であってもよい。
【0035】
無機層10を高温で加熱するとヒドロキシ基が脱離してしまうため、無機層10に上記のようなピークが検出されるには、無機層10を低温で加熱する必要がある。無機層10は、後述するように、原料を50~300℃のような低温で加熱しながら加圧することにより得ることができるため、ヒドロキシ基に由来するピークが検出される。また、無機層10は、低温で加熱しながら加圧することにより得ることができるため、例えば、無機層10に耐熱性の低い部材を添加することができる。無機層10には、例えば、樹脂粒子及び色素のような有機物を添加することができる。
【0036】
無機層10の厚みt1は特に限定されないが、例えば50μm以上とすることができる。本実施形態の複合部材1は、後述するように、加圧加熱法により形成している。そのため、厚みの大きな無機層10を容易に得ることができる。なお、無機層10の厚みt1は1mm以上とすることができ、1cm以上とすることもできる。無機層10の厚みt1の上限は特に限定されないが、例えば50cmとすることができる。
【0037】
(樹脂層20)
樹脂層20は、
図1に示すように、樹脂21と、無機粒子22とを含有する。無機粒子22は、樹脂21内に分散される。したがって、樹脂21は、無機粒子22の表面の少なくとも一部を覆う。樹脂21は、無機粒子22の表面の一部のみを覆っていてもよく、無機粒子22の全表面を覆っていてもよい。
【0038】
無機粒子22は、
図3に示すように、無機層10の無機物質と直接固着する。無機粒子22が無機層10の無機物質と直接固着することにより、無機層10と樹脂層20との接着力が向上するため、無機層10と樹脂層20とが剥離するのを抑制することができる。なお、本実施形態でいう固着とは、無機粒子22と無機層10とが接しており、無機粒子22が無機層10と樹脂層20との接着力向上に貢献していることを意味する。したがって、本実施形態でいう固着とは、無機粒子22と無機層10とが接しているが、無機粒子22と無機層10に含まれる無機物質とが連続して一体的に結合していないものも包含される。
【0039】
なお、
図4に示すように、無機粒子22と無機層10に含まれる無機物質とは、連続して一体的に結合していることが好ましい。無機粒子22と無機層10に含まれる無機物質とがこのように結合することにより、無機層10と樹脂層20とが無機物質及び無機粒子22を介して強固に結合する。そのため、無機層10と樹脂層20との接着力が向上するため、無機層10と樹脂層20との剥離をさらに抑制することができる。
【0040】
樹脂21は、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリアクリレート、エチレン-酢酸ビニル共重合体、オレフィン系樹脂、ポリビニルブチラール、ポリエチレンテレフタレート及びポリイミドからなる群より選択される少なくとも1つの樹脂が含まれることが好ましい。熱硬化性樹脂は、例えば、ポリアクリレート、エポキシ樹脂、ポリウレタン及びポリイミドからなる群より選択される少なくとも1つの樹脂が含まれることが好ましい。
【0041】
無機粒子22は、例えば無機物質を含んでいる。無機粒子22に含まれる無機物質は、金属酸化物及び金属酸化水酸化物の少なくとも一方を含んでいてもよい。すなわち、無機物質は、金属酸化物又は金属酸化水酸化物のいずれか一方を含んでいてもよく、金属酸化物及び金属酸化水酸化物の両方を含んでいてもよい。金属酸化物は、金属元素に酸素のみが結合した化合物であることが好ましい。金属酸化物及び金属酸化水酸化物の少なくとも一方は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素を含有していることが好ましい。
【0042】
無機粒子22は、無機層10の無機物質に含まれる金属元素を含むことが好ましい。無機層10に含まれる無機物質と、樹脂層20に含まれる無機粒子22とが同種の金属元素を含むことにより、無機層10の無機物質と無機粒子22との反応性が高くなる。そのため、無機層10の無機物質と無機粒子22との結合が強くなり、無機層10と樹脂層20との密着性をより向上させることができる。無機層10の無機物質と、無機粒子22に含まれる無機物質とは、化学組成が同じであってもよく、異なっていてもよい。具体的には、金属元素が亜鉛である場合、無機層10の無機物質と無機粒子22に含まれる無機物質は、両方とも酸化亜鉛(ZnO)であってもよい。あるいは、無機層10の無機物質はZnOであるが、無機粒子22に含まれる無機物質はZnO以外の亜鉛含有酸化物であってもよい。
【0043】
無機粒子22はヒドロキシ基を有することが好ましい。無機粒子22は、例えば、シリカ及びアルミナなどの酸化物、水酸化アルミニウムなどのような水酸化物を含んでいてもよい。無機粒子22がヒドロキシ基を有することにより、無機粒子22と無機層10の無機物質とが、水素結合によって強固に結合する。そのため、無機層10と樹脂層20との密着性をさらに向上させることができる。なお、無機粒子22がヒドロキシ基を有するか否かは、上述のように、赤外分光法又はX線回折法で測定することができる。
【0044】
無機粒子22の平均粒子径は、特に限定されない。無機粒子22の平均粒子径は、300nm以上50μm以下であることが好ましく、300nm以上30μm以下であることがより好ましく、300nm以上20μm以下であることがさらに好ましい。無機粒子22の平均粒子径がこの範囲内であることにより、樹脂層20の機械的強度を大きく損ねることなく、無機層10と樹脂層20との接着強度を高めることができる。
【0045】
無機粒子22の各々の形状は特に限定されないが、例えば球状とすることができる。また、無機粒子22の各々は、ウィスカー状(針状)の粒子、又は鱗片状の粒子であってもよい。
【0046】
樹脂層20に対する無機粒子22の含有率は、10体積%以上70体積%以下であることが好ましい。無機粒子22の含有率が10体積%以上である場合、無機層10に含まれる無機物質と、樹脂層20に含まれる無機粒子22との固着面積が大きくなることから、無機層10と樹脂層20との密着性が高くなる。また、無機粒子22の含有率が70体積%以下である場合、樹脂層20中の樹脂21の割合が多くなり、樹脂21の特性を維持した複合部材1を形成することができる。無機粒子22の含有率は、15体積%以上であることがより好ましく、20体積%以上であることがさらに好ましい。また、無機粒子22の含有率は、50体積%以下であることがより好ましく、30体積%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
樹脂層20の厚みt2は特に限定されないが、例えば50μm以上とすることができる。なお、複合部材1の厚みt2は1mm以上とすることができ、1cm以上とすることもできる。複合部材1の厚みt2の上限は特に限定されないが、例えば50cmとすることができる。
【0048】
複合部材1の形状は特に限定されないが、例えば板状又は膜状とすることができる。また、複合部材1の厚みt3は特に限定されないが、例えば50μm以上とすることができる。本実施形態の複合部材1は、後述するように、加圧加熱法により形成している。そのため、厚みの大きな複合部材1を容易に得ることができる。なお、複合部材1の厚みt3は1mm以上とすることができ、1cm以上とすることもできる。複合部材1の厚みt3の上限は特に限定されないが、例えば50cmとすることができる。
【0049】
このように、本実施形態の複合部材1は、金属酸化物及び金属酸化水酸化物の少なくとも一方を含有する無機物質を含む無機層10を備える。複合部材1は、無機層10の表面に設けられ、樹脂21と、樹脂21内に分散され、無機層10の無機物質と直接固着する無機粒子22とを含有する樹脂層20を備える。無機層10の断面における気孔率は20%以下であり、赤外分光法又はX線回折法で測定した場合に、無機層10からヒドロキシ基に由来するピークが検出される。
【0050】
本実施形態に係る複合部材1は、樹脂層20の無機粒子22が無機層10の無機物質と直接固着する。そのため、複合部材1は、接着剤を介さずに無機層10と樹脂層20とが強固に接合される。また、無機層10の断面における気孔率が20%以下であり、気孔を起点として、無機層10にひび割れが発生することが抑制されるため、複合部材1の曲げ強さを高めることが可能となる。さらに、無機層10は、後述するように、低温で加熱しながら加圧することにより得ることができるため、例えば、無機層10に耐熱性の低い部材を添加することができる。
【0051】
[複合部材の製造方法]
次に、本実施形態に係る複合部材1の製造方法について説明する。
【0052】
まず、無機層10に含まれる無機物質がベーマイトである複合部材1の製造方法について説明する。無機物質がベーマイトである複合部材1は、水硬性アルミナと、水を含む溶媒とを混合した後、加圧して加熱することにより製造することができる。水硬性アルミナは、水酸化アルミニウムを加熱処理して得られる酸化物であり、ρアルミナを含んでいる。このような水硬性アルミナは、水和反応によって結合及び硬化する性質を有する。そのため、加圧加熱法を用いることにより、水硬性アルミナの水和反応が進行して水硬性アルミナ同士が互いに結合しつつ、ベーマイトに結晶構造が変化することにより、無機層10を形成することができる。
【0053】
具体的には、まず、水硬性アルミナの粉末と、水を含む溶媒とを混合して混合物を調製する。水を含む溶媒は、純水又はイオン交換水であることが好ましい。水を含む溶媒は、水以外に、酸性物質又はアルカリ性物質が含まれていてもよい。また、水を含む溶媒は水が主成分であればよく、例えば有機溶媒(例えばアルコールなど)が含まれていてもよい。
【0054】
水硬性アルミナに対する溶媒の添加量は、水硬性アルミナの水和反応が十分に進行する量であることが好ましい。溶媒の添加量は、水硬性アルミナに対して20~200質量%が好ましく、50~150質量%がより好ましい。
【0055】
次いで、金型の内部に、樹脂と無機粒子とを含有する樹脂層を配置する。そして、水硬性アルミナと水を含む溶媒とを混合してなる混合物が樹脂層の表面に配置されるように、金型の内部に上記混合物を充填する。当該混合物を金型に充填した後、必要に応じて金型を加熱してもよい。そして、金型の内部に配置された樹脂層及び混合物に圧力を加えることにより、金型の内部が高圧状態となる。この際、水硬性アルミナが高充填化し、水硬性アルミナの粒子同士が互いに結合することで、高密度化する。具体的には、水硬性アルミナに水を加えることにより、水硬性アルミナが水和反応し、水硬性アルミナ粒子の表面に、ベーマイトと水酸化アルミニウムが生成する。そして、金型内部で当該混合物を加熱しながら加圧することにより、生成したベーマイトと水酸化アルミニウムが隣接する水硬性アルミナ粒子の間を相互に拡散して、水硬性アルミナ粒子同士が徐々に結合する。その後、加熱により脱水反応が進行することで、水酸化アルミニウムからベーマイトに結晶構造が変化する。なお、このような水硬性アルミナの水和反応、水硬性アルミナ粒子間の相互拡散、及び脱水反応は、ほぼ同時に進行すると推測される。また、上記混合物と樹脂層とを加熱しながら加圧することにより、混合物に由来する無機物質が樹脂層の無機粒子と直接固着する。例えば、水硬性アルミナ粒子が樹脂層の無機粒子と直接固着する。
【0056】
そして、金型の内部から成形体を取り出すことにより、無機層10と樹脂層20とを備える複合部材1を得ることができる。
【0057】
なお、水硬性アルミナと水を含む溶媒とを混合してなる混合物の加熱加圧条件は、水硬性アルミナと当該溶媒との反応が進行するような条件であれば特に限定されない。例えば、水硬性アルミナと水を含む溶媒とを混合してなる混合物を、50~300℃に加熱しつつ、10~600MPaの圧力で加圧することが好ましい。なお、水硬性アルミナと水を含む溶媒とを混合してなる混合物を加熱する際の温度は、80~250℃であることがより好ましく、100~200℃であることがさらに好ましい。樹脂層に含まれる樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、熱可塑性樹脂の融点以下の温度で加熱することが好ましい。また、水硬性アルミナと水を含む溶媒とを混合してなる混合物を加圧する際の圧力は、50~600MPaであることがより好ましく、200~600MPaであることがさらに好ましい。
【0058】
次に、無機層10に含まれる無機物質がベーマイトである複合部材1の別の製造方法について説明する。無機物質がベーマイトである複合部材1は、窒化アルミニウム粉末と、水を含む溶媒とを混合した後、加圧して加熱することにより製造することができる。
【0059】
具体的には、まず、窒化アルミニウムの粉末と水を含む溶媒とを混合して混合物を調製する。水を含む溶媒は、純水又はイオン交換水であることが好ましい。水を含む溶媒は、水以外に、酸性物質又はアルカリ性物質が含まれていてもよい。また、水を含む溶媒は水が主成分であればよく、例えば有機溶媒(例えばアルコールなど)が含まれていてもよい。さらに、水を含む溶媒は、アンモニアが含まれていてもよい。
【0060】
窒化アルミニウムに対する溶媒の添加量は、後述する窒化アルミニウムの加水分解反応が進行して、窒化アルミニウムの表面に水酸化アルミニウムが生成する量であることが好ましい。溶媒の添加量は、窒化アルミニウムに対して5~100質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましい。
【0061】
次いで、金型の内部に、樹脂と無機粒子とを含有する樹脂層を配置する。そして、窒化アルミニウムと水を含む溶媒とを混合してなる混合物が樹脂層の表面に配置されるように、金型の内部に上記混合物を充填する。当該混合物を金型に充填した後、必要に応じて金型を加熱する。そして、金型の内部に配置された樹脂層及び混合物に圧力を加えることにより、金型の内部が高圧状態となる。この際、窒化アルミニウムが高充填化し、窒化アルミニウムの粒子同士が互いに結合することで、高密度化する。具体的には、混合物を加熱しながら加圧することにより、窒化アルミニウムと水分とが反応して窒化アルミニウムの表面に水酸化アルミニウムが生成される。生成した水酸化アルミニウムは、隣接する窒化アルミニウムの間を相互に拡散して、窒化アルミニウム同士が徐々に連結する。その後、加熱により脱水反応が進行することで、水酸化アルミニウムからベーマイトに結晶構造が変化する。その結果、隣接する窒化アルミニウム粒子は、ベーマイトを含むベーマイト相を介して結合する。また、上記混合物と樹脂層とを加熱しながら加圧することにより、混合物に由来する無機物質が樹脂層の無機粒子と直接固着する。
【0062】
そして、金型の内部から成形体を取り出すことにより、無機層10と樹脂層20とを備える複合部材1を得ることができる。
【0063】
なお、窒化アルミニウムと水を含む溶媒とを混合してなる混合物の加熱加圧条件は、窒化アルミニウムと当該溶媒との反応及び水酸化アルミニウムの脱水反応が進行するような条件であれば特に限定されない。例えば、上記混合物を50~300℃に加熱しつつ、10~600MPaの圧力で加圧することが好ましい。樹脂層に含まれる樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、熱可塑性樹脂の融点以下の温度で加熱することが好ましい。なお、上記混合物を加熱する際の温度は、80~250℃であることがより好ましく、100~200℃であることがさらに好ましい。また、上記混合物を加圧する際の圧力は、50~600MPaであることがより好ましく、200~600MPaであることがさらに好ましい。
【0064】
次に、無機層10に含まれる無機物質が金属酸化物である複合部材1の製造方法について説明する。無機物質の粉末に溶媒を添加する。溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、無機物質の粉末を加圧及び加熱した際に、無機物質の一部を溶解することが可能なものを用いることができる。また、溶媒としては、無機物質と反応して、当該無機物質とは異なる無機物質を生成することが可能なものを用いることができる。このような溶媒としては、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、水、アルコール、ケトン及びエステルからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。酸性水溶液としては、pH1~3の水溶液を用いることができる。アルカリ性水溶液としては、pH10~14の水溶液を用いることができる。酸性水溶液としては、有機酸の水溶液を用いることが好ましい。また、アルコールとしては、炭素数が1~12のアルコールを用いることが好ましい。
【0065】
次いで、金型の内部に、樹脂と無機粒子とを含有する樹脂層を配置する。そして、無機物質と溶媒とを含む混合物が樹脂層の表面に配置されるように、金型の内部に上記混合物を充填する。当該混合物を金型に充填した後、必要に応じて金型を加熱してもよい。そして、金型の内部に配置された樹脂層及び混合物に圧力を加えることにより、金型の内部が高圧状態となる。この際、混合物中の無機物質が緻密化すると同時に、無機物質の粒子同士が互いに結合する。また、上記混合物と樹脂層とを加熱しながら加圧することにより、混合物に由来する無機物質が樹脂層の無機粒子と直接固着する。
【0066】
ここで、溶媒として、無機物質の一部を溶解するものを用いた場合、高圧状態では、無機物質に含まれる無機化合物が溶媒に溶解する。溶解した無機化合物は、無機物質の間の空隙に浸入する。そして、この状態で混合物中の溶媒を除去することにより、無機物質の間に、無機物質に由来する結合部12が形成される。また、溶媒として、無機物質と反応して、当該無機物質とは異なる無機物質を生成するものを用いた場合、高圧状態では、無機物質を構成する無機化合物が溶媒と反応する。そして、反応により生成した他の無機物質が、無機物質の間の空隙に充填され、他の無機物質に由来する結合部12が形成される。
【0067】
無機物質と溶媒とを含む混合物の加熱加圧条件は、溶媒として、無機物質の一部を溶解するものを用いた場合、無機物質の表面の溶解が進行するような条件であれば特に限定されない。また、当該混合物の加熱加圧条件は、溶媒として、無機物質と反応して、当該無機物質とは異なる無機物質を生成するものを用いた場合、無機物質と溶媒との反応が進行するような条件であれば特に限定されない。例えば、無機物質と溶媒とを含む混合物を、50~300℃に加熱した後、10~600MPaの圧力で加圧することが好ましい。なお、無機物質と溶媒とを含む混合物を加熱する際の温度は、80~250℃であることがより好ましく、100~200℃であることがさらに好ましい。樹脂層に含まれる樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、熱可塑性樹脂の融点以下の温度で加熱することが好ましい。また、無機物質と溶媒とを含む混合物を加圧する際の圧力は、50~400MPaであることがより好ましく、50~200MPaであることがさらに好ましい。
【0068】
そして、金型の内部から成形体を取り出すことにより、無機層10と樹脂層20とを備える複合部材1を得ることができる。
【0069】
ここで、セラミックスを含む無機部材の製造方法としては、焼結法が知られている。焼結法は、無機物質を含む固体粉末の集合体を融点よりも低い温度で加熱することにより、焼結体を得る方法である。ただし、焼結法では、例えば1000℃以上に固体粉末を加熱する。そのため、焼結法を用いて耐熱性の低い有機物を含む無機層10を得ようとしても、高温での加熱により有機物が炭化してしまう。しかしながら、本実施形態の複合部材1の製造方法では、300℃以下という低温で加熱するため、有機物の炭化が起こり難い。
【0070】
さらに、本実施形態の製造方法では、無機物質の粉末を、加熱しながら加圧していることから、無機物質が凝集して緻密な無機層10となる。その結果、無機層10内部の気孔が少なくなることから、高い強度を有する複合部材1を得ることができる。
【0071】
このように、本実施形態に係る複合部材1の製造方法は、水硬性アルミナと水を含む溶媒とを混合して混合物を得る工程と、当該混合物を樹脂層の表面に配置した状態で樹脂層と当該混合物とを加圧及び加熱する工程とを有する。そして、混合物の加熱加圧条件は、50~300℃の温度で、10~600MPaの圧力とすることが好ましい。この製造方法では、低温条件下で複合部材1を成形することから、得られる無機層10はベーマイト相を主体とする。そのため、軽量であり、かつ、化学的安定性に優れた複合部材1を簡易な方法で得ることができる。
【0072】
また、別の実施形態に係る複合部材1の製造方法は、窒化アルミニウム粒子と、水を含む溶媒とを混合して混合物を得る工程と、当該混合物を樹脂層の表面に配置した状態で樹脂層と当該混合物とを加圧及び加熱する工程と、を有する。そして、混合物の加熱加圧条件は、50~300℃の温度で、10~600MPaの圧力とすることが好ましい。本実施形態の製造方法は加熱温度が低温であることから、得られる無機層10では、ベーマイト相を介して窒化アルミニウムが結合している。そのため、機械的強度及び化学的安定性に優れた複合部材1を簡易な方法で得ることが可能となる。
【0073】
また、別の実施形態に係る複合部材1の製造方法は、無機物質を溶解する溶媒又は無機物質と反応する溶媒と、無機物質の粉末とを混合して混合物を得る工程を有する。当該方法は、当該混合物を樹脂層の表面に配置した状態で樹脂層と当該混合物とを加圧及び加熱する工程を有する。そして、混合物の加熱加圧条件は、50~300℃の温度で、10~600MPaの圧力とすることが好ましい。本実施形態の製造方法では、このような低温条件下で複合部材1を成形することから、物理的又は化学的特性の熱による変化を抑制することができる。そのため、様々な用途に適用可能な複合部材1を得ることができる。
【0074】
[複合部材を備える部材]
次に、複合部材1を備える部材について説明する。複合部材1は、上述のように、厚みの大きな板状とすることができ、さらに緻密であるため安定性にも優れている。また、複合部材1は、機械的強度が高く、一般的なセラミックス部材と同様に切断することができると共に、表面加工することもできる。そのため、複合部材1は、建築部材として好適に用いることができる。建築部材としては特に限定されないが、例えば、外壁材(サイディング)、屋根材などを挙げることができる。また、建築部材としては、道路用材料、外溝用材料も挙げることができる。
【0075】
複合部材1は、電子機器向けの部材としても好適に用いることができる。電子機器向けの部材としては、例えば構造材、耐熱部材、絶縁部材、放熱部材、断熱部材、封止材、回路基板、光学部材などを挙げることができる。
【実施例】
【0076】
以下、本実施形態を実施例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
まず、無機物質として、住友化学株式会社製の水硬性アルミナBK-112を準備した。当該水硬性アルミナは、中心粒径が16μmである。水硬性アルミナは、ベーマイトとギブサイト(水酸化アルミニウム)との混合物である。なお、水硬性アルミナにはρアルミナも含まれている。そして、水硬性アルミナに対して80質量%となるようにイオン交換水を秤量した後、水硬性アルミナとイオン交換水とを、メノウ製の乳鉢と乳棒を用いて混合することにより、混合物を得た。
【0078】
また、樹脂と無機粒子とを含有する厚さ2mmの樹脂板を準備した。無機粒子は、樹脂板に対して33質量部となるように樹脂に混練した。樹脂板には、樹脂として熱可塑性アクリル樹脂を用い、無機粒子として住友化学株式会社製の水硬性アルミナBK-112を用いた。熱可塑性アクリル樹脂は、三菱ガス化学株式会社製のMMA75質量%と旭化学工業株式会社製のPMMA25wt%とを混合し、化薬アクゾ株式会社製のトリゴノックス121-50Eを重合開始剤として0.3質量%添加して熱硬化した。熱硬化条件は70℃で1.5時間、80℃で0.5時間及び120℃で1時間、この順番で加熱した。
【0079】
次に、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10)の内部に、樹脂板を配置した。そして、得られた混合物が樹脂板の表面に配置されるように、金型の内部に上記のようにして得られた混合物を充填した。そして、金型の内部に配置された樹脂板及び混合物を、400MPa、80℃、10分の条件で加熱及び加圧することにより、無機層と樹脂層とを備える複合部材を試験サンプルとして得た。
【0080】
(実施例2)
樹脂板に用いる無機粒子をシリカ粒子(フミテック株式会社製の溶融シリカF207C)に変更した以外は、実施例1と同様にして複合部材を試験サンプルとして得た。
【0081】
(比較例1)
樹脂板に無機粒子を混練しない以外は、実施例1と同様にして複合部材を試験サンプルとして得た。
【0082】
[評価]
(スコッチテープ試験)
円柱状の試験サンプルの樹脂層を固定し、無機層の表面に日東電工株式会社のテープ(品番No.29)を気泡が入らないように貼り付け、無機層からテープを勢いよく剥離し、無機層と樹脂層との接着性を評価した。スコッチテープ試験の結果を表1に示す。
【0083】
【0084】
表1に示すように、スコッチテープ試験の結果、実施例1及び実施例2の試験サンプルは無機層と樹脂層が剥離しなかったが、比較例1の試験サンプルは剥離が発生した。この結果から、樹脂層に無機粒子を添加することで、無機層と樹脂層との接着性が向上することが分かる。
【0085】
(断面観察)
円柱状の試験サンプルを割断した断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。観察面には金のスパッタリングを施した。
図5は実施例1の試験サンプルを500倍で観察したSEM像である。
図6は実施例1の試験サンプルを5000倍で観察したSEM像である。
図7は実施例2の試験サンプルを500倍で観察したSEM像である。
図8は実施例2の試験サンプルを5000倍で観察したSEM像である。
図9は比較例1の試験サンプルを500倍で観察したSEM像である。
図10は比較例1の試験サンプルを5000倍で観察したSEM像である。
【0086】
実施例1のSEM像では、
図6の枠内に示されるように、樹脂層20に含まれる無機粒子22と、無機層10に含まれる粒子11とが連続して一体的に結合していた。実施例2のSEM像では、
図8の枠内に示されるように、樹脂層20に含まれる無機粒子22と、無機層10に含まれる粒子11が、連続して一体的には結合していないが、直接固着していた。比較例1のSEM像では、
図10の枠内に示されるように、樹脂層20と無機層10との間に空隙が観察された。
【0087】
スコッチテープ試験と断面観察の結果から、樹脂層20に無機粒子22が含まれている場合、無機粒子22が無機層10に含まれる無機物質と直接固着するために、樹脂層20と無機層10との接着性が向上したと考えられる。
【0088】
(気孔率測定)
まず、円柱状である実施例1の試験サンプルの断面に、クロスセクションポリッシャー加工(CP加工)を施した。次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、実施例1の試験サンプルの断面について、2000倍の倍率で反射電子像を観察した。実施例1の試験サンプルの断面の3か所(位置1~3)を観察することにより得られた反射電子像を、
図11、
図13及び
図15にそれぞれ示す。
【0089】
次いで、3視野のSEM像についてそれぞれ二値化することにより、気孔部分を明確にした。
図11、
図13及び
図15の反射電子像を二値化した画像を、それぞれ
図12、
図14及び
図16に示す。
図12、
図14及び
図16において、黒色部分が気孔である。そして、二値化した画像から気孔部分の面積割合を算出し、平均値を気孔率とした。
図12より、位置1の気孔部分の面積割合は0.69%であった。
図14より、位置2の気孔部分の面積割合は0.75%であった。
図16より、位置3の気孔部分の面積割合は1.14%であった。そのため、実施例1の試験サンプルの気孔率は、位置1~位置3の気孔部分の面積割合の平均値である0.86%であった。
【0090】
気孔率の測定結果から、実施例1の無機層の気孔率が小さいことが分かった。無機層の気孔率が小さいため、気孔を起点として、無機層にひび割れが発生することが抑制されると考えられる。なお、実施例1の無機層の気孔率についてのみ評価したが、実施例2の無機層も同様の材料及び方法で作製されているため、同様の結果になると予想される。
【0091】
(FT-IR(フーリエ変換赤外分光法))
実施例1の無機層の赤外吸収スペクトルを株式会社島津製作所のIR Tracer-100を用いて測定した。なお、ネガティブコントロールとして、住友化学株式会社製の高純度アルミナAA-3の粉末も同様の方法で測定した。また、ポジティブコントロールとして、KC株式会社製の水酸化アルミニウムKH-108も同様の方法で測定した。赤外吸収スペクトルは、測定モードを透過法、測定領域を400~7500cm
-1(1.33~25μm)、積算回数を30回として測定した。
図17は、実施例1の無機層、アルミナ及び水酸化アルミニウムの赤外吸収スペクトルである。
【0092】
次に、得られた赤外吸収スペクトルから、ヒドロキシ基に由来するピークのピーク面積を算出した。具体的には、以下の数式(1)にしたがって、ピーク面積を算出した。
【0093】
【0094】
上記数式(1)中、S1はピーク面積(cm-1)、ν1は波数2600cm-1、及びν2は波数3800cm-1、A(ν)は波数νにおける吸光度、BG(ν)は波数νにおけるBG(バックグラウンド)線の吸光度、Δνは波数の分解能(cm-1)を表す。なお、上記数式(1)中のニュー・チルダを文章中ではνと記載している。また、BG線は、ピークの両裾におけるバックグラウンド領域の赤外吸収スペクトル同士を結ぶ直線とした。バックグラウンド領域は、2400cm-1以上2600cm-1未満の波数領域と、3800cm-1超4000cm-1以下の波数領域とした。表2は、各赤外吸収スペクトルのピーク面積である。
【0095】
【0096】
図17及び表2の結果から、ピーク面積がバックグラウンドレベルであるアルミナと比較し、実施例1の無機層のピーク面積は3.76cm
-1であり、実施例1の無機層からヒドロキシ基に由来するピークが検出された。なお、実施例1の無機層のピーク面積のみ算出したが、実施例2の無機層も同様の材料及び方法で作製されているため、同様の結果になると予想される。
【0097】
(X線回折測定)
リガク社製MiniFlex粉末X線回折(XRD)装置を用い、実施例1の無機層をアルミナ乳鉢で粉砕した粉末のXRDパターンを測定した。X線源はCuKα(波長λ=1.54056Å)、管電圧は40kV、管電流は15mA、測定範囲は2θ=10°~70°とした。なお、ネガティブコントロールとして、住友化学株式会社製の高純度アルミナAA-3の粉末のXRDパターンも同様の方法で測定した。
図18は、実施例1の無機層のXRDパターン、及び、アルミナのXRDパターンを示すグラフである。また、
図19は、
図18のXRDパターンを拡大したグラフである。
【0098】
次に、得られたXRDパターンから、ベーマイト(AlOOH)のメインピーク(2θ=14.4°)を中心とするピークのピーク面積を算出した。具体的には、以下の数式(2)にしたがって、ピーク面積を算出した。
【0099】
【0100】
上記数式(2)中、S2はピーク面積(cm-1)、2θ1は角度2θ=12°、及び2θ2は角度2θ=16.8°を表す。I(2θ)は角度2θにおける強度(cps)、BG(2θ)は角度2θにおけるBG(バックグラウンド)線の強度(cps)、Δ(2θ)はステップ角度(2θ=0.02°)を表す。また、BG線は、ピークの両裾におけるバックグラウンド領域のXRDパターン同士を結ぶ直線とした。バックグラウンド領域は、11.5°以上12°未満の角度領域と、16.8°超17.3°以下の角度領域とした。表3は、各XRDパターンのピーク面積である。
【0101】
【0102】
図18及び
図19並びに表3の結果から、ピーク面積がバックグラウンドレベルであるアルミナと比較し、実施例1の無機層のピーク面積は8640°(2θ)・cpsであり、実施例1の無機層からヒドロキシ基に由来するピークが検出された。
【0103】
次に、得られたXRDパターンをリートベルト解析して各相の割合を求めた。
図20は、上から順番に、実施例1のXRDパターンのフィッティング結果、並びにICSD(無機結晶構造データベース)に登録されたベーマイト、γアルミナ及びαアルミナのXRDパターンを示すグラフである。
図21は、上から順番に、アルミナのXRDパターンのフィッティング結果、並びにICSDに登録されたαアルミナ及びベーマイトのXRDパターンを示すグラフである。表4は、リートベルト解析して得られた各相の割合である。
【0104】
【0105】
リートベルト解析の結果、ベーマイト相の存在割合がバックグラウンドレベルであるアルミナと比較し、実施例1の無機層は、ベーマイト相が56質量%であり、実施例1の無機層からヒドロキシ基に由来するピークが検出された。なお、実施例1の無機層のみ解析したが、実施例2の無機層も同様の材料及び方法で作製されているため、同様の結果になると予想される。
【0106】
(TG(熱重量測定))
図22は、ベーマイト及び水酸化アルミニウムのTG曲線である。
図22に示すように、ベーマイト又は水酸化アルミニウムを加熱した場合、脱水縮合でヒドロキシ基が脱離してアルミナが生成することによる重量減少が見られる。この結果から、ベーマイト又は水酸化アルミニウムのようなヒドロキシ基を有する無機物質を、焼結法のように、例えば1000℃以上に固体粉末を加熱する場合には、アルミナが生成される。そのため、このような焼結体では、本実施例のようなヒドロキシ基が検出されないと考えられる。
【0107】
特願2020-125102号(出願日:2020年7月22日)の全内容は、ここに援用される。
【0108】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本開示によれば、接着剤を介さずに無機層と樹脂層とが強固に接合された複合部材を提供することができる。
【符号の説明】
【0110】
1 複合部材
10 無機層
20 樹脂層
21 樹脂
22 無機粒子