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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】ガラスクロス
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/333 20060101AFI20240329BHJP
   D06M 13/02 20060101ALI20240329BHJP
   D03D 15/267 20210101ALI20240329BHJP
   C03C 25/28 20180101ALI20240329BHJP
   D06M 101/00 20060101ALN20240329BHJP
【FI】
D06M15/333
D06M13/02
D03D15/267
C03C25/28
D06M101:00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019224621
(22)【出願日】2019-12-12
(65)【公開番号】P2021092000
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】305040569
【氏名又は名称】ユニチカグラスファイバー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌広
(72)【発明者】
【氏名】角川 雄二
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-287448(JP,A)
【文献】特開2001-329449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715、
C03C25/00-25/70
D03D15/267
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維により構成されるガラスクロスであって、
前記ガラスクロスを構成するガラス繊維上に、ポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含み、
前記ポリビニルアルコールのけん化度が95モル%以上である、ガラスクロス。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールの平均重合度が500~2000である、請求項1に記載のガラスクロス。
【請求項3】
経糸密度が50~80本/25mm、緯糸密度が25~55本であり、前記経糸密度と前記緯糸密度との比(経糸密度/緯糸密度)が1.5~2.0である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項4】
前記ガラスクロスの強熱減量値が1.5~4.0質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコールと前記パラフィンワックスとの質量比(ポリビニルアルコール/パラフィンワックス)が1.0~6.5である、請求項1~4のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【請求項6】
前記ガラスクロスの経方向の引張強さが60N/25mm以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【請求項7】
前記ガラスクロスの経方向の端部引裂強さが200N/20mm以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載のガラスクロス。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端部引裂強さに優れたガラスクロスに関する。
【背景技術】
【0002】
火災の際、ケーブルを伝った延焼等を防止するため、ガラスクロスを含むシート又はテープ材を、ケーブルの外周を覆うように配置することがある。該シート又はテープ材として、例えば、樹脂シートと、前記樹脂シート上に接着される金属シートと、前記金属シート上に接着されるガラスクロス基布と、を具備し、前記ガラスクロス基布は、ガラスクロスと、前記ガラスクロスと一体化する難燃性ゴムと、前記ガラスクロス基布の一方の面であって、前記金属シート側の一面に配置される目止剤と、を具備することを特徴とする延焼防止シートが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ところで、ガラスクロスの経糸糊剤として、けん化度88±2モル%のポリビニルアルコールと、澱粉と、硫酸アンモニウム系化合物とを含む糊剤が知られている(例えば特許文献2参照。)。このように、ガラスクロスの経糸糊剤に用いるポリビニルアルコールとしては、けん化度90モル%以下のポリビニルアルコールを用いることが技術常識である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-181821号公報
【文献】特許3178504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガラスクロスを使用したシート又はテープによってケーブルの外周を覆うときは、斜めに重ね巻きしていく。その際、テープに剪断力がかかり、そのテープが側端から裂けることがあり、その裂けることを起き難くする、いわゆる端部引裂強さを高めることが求められる。そして、本発明者は、シート又はテープの端部引裂強さを高めるには、ガラスクロス自体の端部引裂強さを高めることが重要であることを知得した。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題を解決し、端部引裂強さに優れたガラスクロスの製造に寄与する技術の提供を主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明者等が検討したところ、ガラスクロス製造における整経糊剤としてけん化度が95モル%以上のポリビニルアルコールとパラフィンワックスとを含むものを用いて製織することにより、上記課題を解決し得ることを突き止めた。
【0008】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1.ガラス繊維により構成されるガラスクロスであって、前記ガラスクロスを構成するガラス繊維上に、ポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含み、前記ポリビニルアルコールのけん化度が95モル%以上である、ガラスクロス。
項2.前記ポリビニルアルコールの平均重合度が500~2000である、項1に記載のガラスクロス。
項3.経糸密度が50~80本/25mm、緯糸密度が25~55本であり、前記経糸密度と前記緯糸密度との比(経糸密度/緯糸密度)が1.5~2.0である、項1又は2に記載のガラスクロス。
項4.前記ガラスクロスの強熱減量値が1.5~4.0質量%である、項1~3のいずれか1項に記載のガラスクロス。
項5.前記ポリビニルアルコールと前記パラフィンワックスとの質量比(ポリビニルアルコール/パラフィンワックス)が1.0~6.5である、項1~4のいずれか1項に記載のガラスクロス。
項6.前記ガラスクロスの経方向の引張強さが60N/25mm以上である、項1~5のいずれか1項に記載のガラスクロス。
項7.前記ガラスクロスの経方向の端部引裂強さが200N/20mm以上である、項1~6のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ガラス繊維により構成されるガラスクロスであって、前記ガラスクロスを構成するガラス繊維上に、ポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含み、前記ポリビニルアルコールのけん化度が95モル%以上であることから、端部引裂強さに優れたガラスクロスの製造に寄与することができる。従って、本発明のガラスクロスは、シート又はテープの基材として好適となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のガラスクロスは、ガラス繊維により構成されるガラスクロスであって、前記ガラスクロスを構成するガラス繊維上に、ポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含み、前記ポリビニルアルコールのけん化度が95モル%以上である。本発明のガラスクロスにおいて、ポリビニルアルコール及びパラフィンワックスは、ガラスクロスを構成する経糸及び緯糸のうち少なくとも一方を構成するガラス繊維上に含まれればよく、経糸を構成するガラス繊維上に含まれることが好ましい。以下、本発明のガラスクロスの構成材料について詳述する。
【0011】
<ポリビニルアルコール>
本発明のガラスクロスは、ガラスクロスを構成するガラス繊維上にけん化度が95モル%以上のポリビニルアルコールを含む。
【0012】
従来、ガラスクロスの技術分野において、ポリビニルアルコールを経糸糊剤として含有させる場合、該ポリビニルアルコールとして、例えば特許文献2のような部分けん化型のものを用いることが技術常識である。
【0013】
上記特許文献2においては、ガラスクロスの想定される用途が銅張積層板であるところ、当該用途のガラスクロスは、製織後、プリプレグとする際に用いる樹脂の含浸性を高める目的で、当該樹脂の含浸に先立って、ガラス繊維上に含まれる経糸糊剤等を400℃以上の加熱処理によって除去する所謂ヒートクリーニング処理が行われ、その後、シランカップリング剤等の処理剤を塗布するのが技術常識である。すなわち、特許文献2においては、経糸糊剤の役割としては製織の際の毛羽立ちの低減さえできれば良いので、経糸糊剤として部分けん化型のポリビニルアルコールを用いられているのである。
【0014】
一方、本発明者等は、シートやテープとして用いられるガラスクロスにおいて、銅張積層板用ガラスクロスのようにヒートクリーニング処理をおこなうと、ガラスクロスが熱処理によって強度劣化し、端部引裂強さも低下することを知得した。
【0015】
そこで、本発明者等は、鋭意検討し、ヒートクリーニング処理を行わずに得られるガラスクロスの経糸糊剤として、従来、ヒートクリーニング処理を行い除去される銅張積層板用ガラスクロスの経糸糊剤、として用いられてきたポリビニルアルコールを含むようにし、さらに当該ポリビニルアルコールのけん化度を95モル%以上のものとすることで、初めて端部引裂強さに優れたガラスクロスを得ることができることを知得したのである。
【0016】
本発明のガラスクロスにおいて、ポリビニルアルコールのけん化度としては、97モル%以上が好ましく、98モル%以上がより好ましい。なお、本明細書において、ポリビニルアルコールのけん化度は、JIS K 6726:1994に準じて測定する。
【0017】
本発明のガラスクロスにおいて、ポリビニルアルコールの平均重合度としては、特に制限されないが、例えば、500~2000が挙げられ、1500~2000が好ましく挙げられ、1600~1800がより好ましく挙げられる。なお、上記平均重合度は、JIS K 6726:1994に準じて測定する。
【0018】
本発明のガラスクロスにおいて、ガラスクロス全体の質量に対するポリビニルアルコールの不揮発成分の付着量としては、0.5~2.50が挙げられ、1.0~2.0が好ましく挙げられる。なお、本発明において、「不揮発成分」とは、常圧下、110℃で熱処理して溶媒等を除去し、恒量に達した時の絶乾成分をいう。
【0019】
<パラフィンワックス>
本発明のガラスクロスは、ガラスクロスを構成するガラス繊維上に、前述したポリビニルアルコールに加え、パラフィンワックスを含む。本発明のガラスクロスにおいて、パラフィンワックスは、特に、ガラスクロスに滑り性を与え、端部引裂強さを優れたものとするのに寄与する。
【0020】
本発明において、パラフィンワックスとは、20℃で固体、加熱すると液体となる有機系のワックスのうち、炭素数が16~40、好ましくは20~30の直鎖状のパラフィン系炭化水素を主成分とするワックスをいう。パラフィンワックスの融点としては、50~100℃が挙げられ、50~80℃が好ましく挙げられる。
【0021】
本発明のガラスクロスにおいて、ガラスクロス全体の質量に対するパラフィンワックスの不揮発成分の付着量としては、0.1~1.0質量%が挙げられ、0.3~0.7質量%が好ましく挙げられる。
【0022】
<ガラスクロス>
前述のように、本発明のガラスクロスは、前記ガラスクロスを構成するガラス繊維上に、ポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含む。本発明のガラスクロスは、ポリビニルアルコール及びパラフィンワックスが、ガラスクロスを構成する経糸のガラス繊維上に含まれるものとすることができる。また、本発明のガラスクロスは、ポリビニルアルコール及びパラフィンワックスが、経糸及び緯糸のうち、織密度が大きい方のガラス繊維上に含まれるものとすることができる。また、本発明のガラスクロスは、ポリビニルアルコール及びパラフィンワックスが、該ガラスクロスの経方向及び緯方向のうち、後述する引張強さが大きい方向に連続する糸(すなわち、ガラスクロスの経方向の引張強さが緯方向より大きい場合は経糸)に含まれるものとすることができる。
【0023】
本発明のガラスクロスにおいて、端部引裂強さにより優れるという観点から、ポリビニルアルコールの不揮発成分とパラフィンワックスの不揮発成分との質量比(ポリビニルアルコール/パラフィンワックス)としては0.5~8.0であることが好ましく、1.0~6.5であることがより好ましい。
【0024】
また、本発明のガラスクロスは、ポリビニルアルコールとパラフィンワックスを含むガラス繊維上に、該ポリビニルアルコール及びパラフィンワックスに加え、ポリビニルアルコールとパラフィンワックス以外の他の成分をさらに含むことができる。当該他の成分としては、例えば、ガラス繊維の集束剤としての澱粉、分散剤等が挙げられる。本発明のガラスクロスにおいて、ポリビニルアルコール及びパラフィンワックスの不揮発成分の合計質量に対する、当該他の成分の不揮発成分の質量の比(他の成分/ポリビニルアルコールとパラフィンワックスとの合計量)としては、0.5~2.0が挙げられる。
【0025】
本発明のガラスクロスにおいて、経糸及び緯糸のうち、特定のポリビニルアルコールとパラフィンワックスを含む方に対して、他方の方向の糸(すなわち、特定のポリビニルアルコールとパラフィンワックスが経糸に含まれる場合は緯糸)としては、ガラス繊維により構成されることが好ましい。そして、ガラスクロスの毛羽をより低減させる観点から、当該他方の方向の糸のガラス繊維上に集束剤としての澱粉を含むことが好ましい。また、当該他方の方向の糸は、ポリビニルアルコールを実質的に含有しないものとすることができる。
【0026】
また、本発明のガラスクロスは、端部引裂強さにより優れるという観点から、ガラスクロス全体の強熱減量が1.5~4.0質量%が好ましく、2.0~3.0質量%であることがより好ましく、2.2~2.8質量%であることが特に好ましい。なお、本明細書において、強熱減量は、JIS R 3420:2013 7.3に準じ、測定される。また、本発明のガラスクロスにおいて、ポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含む方向の糸(経糸のガラス繊維上にポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含む場合は経糸)の強熱減量としては、2.5~4.0質量%であることが好ましく、2.7~3.7質量%であることがより好ましい。また、本発明のガラスクロスにおいて、経糸及び緯糸のうち、特定のポリビニルアルコールとパラフィンワックスを含む方に対して、他方の方向の糸(経糸のガラス繊維上にポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含む場合は緯糸)の強熱減量としては、0.8~2.0質量%であることが好ましく、1.1~1.7質量%であることがより好ましい。
【0027】
本発明のガラスクロスを構成するガラス繊維のガラス材料としては、特に制限されず、公知のガラス材料を用いることができる。ガラス材料として、具体的には、無アルカリガラス(Eガラス)、耐酸性の含アルカリガラス(Cガラス)、高強度・高弾性率ガラス(Sガラス、Tガラス等)、耐アルカリ性ガラス(ARガラス)、等が挙げられる。
【0028】
Eガラスの具体例としては、SiOが52~56質量%、Alが12~16質量%、CaO+MgOが20~25質量%、Bが5~10質量%を含むガラス組成物、SiOが52~56質量%、Alが12~16質量%、CaOが15~25質量%、MgOが0~6質量%、Bが5~13質量%、Na及びKが0~1質量%であるガラス組成物が挙げられる。また、高強度・高弾性率ガラスの具体例としては、例えば、SiOの含有量が60.0~66.0質量%、Alの含有量が18.0~26.0質量%、MgOの含有量が8.0~20.0%を含むガラス組成物とすることができる。また、低誘電性を有するガラス材料も使用することができる。当該ガラス材料としては、例えば、周波数1MHzにおける誘電率が5.0未満であるガラス組成物が挙げられ、より具体的には、SiOが50~56質量%、Bが20~30質量%、Alが10~20質量%を含むガラス組成物が挙げられる。なお、本明細書において、「誘電率」とは真空の誘電率との比である比誘電率を指す。また、本明細書において、「周波数1MHzにおける誘電率」は、ASTM D150-87に準拠して、測定温度を20℃に設定して測定される値である。
【0029】
本発明のガラスクロスにおいて、ガラス繊維の形態としては、長繊維とすることが好ましく、長繊維である単繊維が多数集合したマルチフィラメントであるガラス糸とすることがより好ましい。また、長繊維である単繊維が多数集合したマルチフィラメントであるガラス糸としては、長繊維である単繊維を多数撚りまとめて糸状にしたガラスヤーンとすることがより好ましい。
【0030】
本発明のガラスクロスにおいて、ガラス繊維(単繊維)の直径としては、3~9μmが好ましく、4~6μmがより好ましい。また、ガラス糸とする場合、ガラス糸中の単繊維の本数としては、30~400本が好ましく、50~150本がより好ましく、80~120本がさらに好ましい。また、ガラス糸の番手としては、2~25texが好ましく、3~12texがより好ましく、4~7texがさらに好ましい。
【0031】
本発明のガラスクロスの織組織としては、例えば、平織、朱子織、ななこ織、綾織等が挙げられ、中でも平織が好ましい。
【0032】
本発明のガラスクロスにおいて、織密度としては特に制限されないが、例えば、10~150本/25mmが挙げられる。中でも、シート又はテープとする際に、端部引裂強さにより優れつつ、樹脂含浸性をより高める観点から、経糸及び緯糸のうち、ポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含む方の糸の密度が50~80本/25mm、ポリビニルアルコール又はパラフィンワックスを含まない方の密度が25~55本であり、前記一方の密度と前記他方の密度との比(高い方の密度/低い方の密度)が1.5~2.0であることが好ましい。
【0033】
本発明のガラスクロスにおいて、厚さとしては特に制限されないが、10~80μmが好ましく、25~50μmが好ましく、30~40μmがより好ましい。なお、本明細書において、ガラスクロスの厚さは、JIS R 3420 2013 7.10.1A法に従い、測定、算出する。また、本発明のガラスクロスにおいて、質量としては特に制限されないが、10~50g/mが好ましく、15~30g/mがより好ましく、20~25g/mがより好ましい。なお、本明細書において、ガラスクロスの質量は、JIS R 3420 2013 7.2に従い、測定、算出する。
【0034】
本発明のガラスクロスの経糸及び緯糸のうち、ポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含む糸が連続する方向(経糸のガラス繊維上にポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含む場合は経方向)、経方向及び緯方向のうち強い方、又は、経方向及び緯方向のうち、織密度が大きい方向、の引張強さとしては、端部引き裂き強さに優れるという観点から、60N/25mm以上が好ましく、100N/25mm以上がより好ましく、200N/25mmがさらに好ましい。特許文献2においては、ガラスクロスの想定される用途が銅張積層板であるところ、当該用途のガラスクロスは、製織後、プリプレグとする際に用いる樹脂の含浸性を高める目的で、当該樹脂の含浸に先立って、ガラス繊維上に含まれる経糸糊剤等を400℃以上の加熱処理によって除去する所謂ヒートクリーニング処理が行われる。この場合、ガラスクロスはヒートクリーニング処理により強度劣化してしまう。本発明のガラスクロスにおいては、ガラスクロスを構成するガラス繊維上に、けん化度が95モル%であるポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含むものとし、ヒートクリーニング処理をすることなくガラスクロスとすることにより上記引張強度を満足するガラスクロスを製造することができ、これにより、端部引裂強さにより優れたものとすることができる。上記引張強さの上限値としては特に制限されないが、例えば、350N/25mm以下が挙げられ、300N/25mm以下が挙げられる。なお、本明細書において、引張強さは、JIS R 3420:2013 7.4.2に準じ、定速伸長型引張試験機(インテスコ株式会社製)を用い、試験片長さを250mm、試験片の幅(両端部から糸をほぐす前の幅)を40mm、つかみ間隔を100mm、試験片の幅(両端部から糸をほぐした後の幅)を25mm、定速引張速度を50mm/minとし、ガラスクロスの経糸方向について、それぞれ5回測定し、その平均値を経方向の引張強さ(N/25mm)とする。
【0035】
本発明のガラスクロスは、ガラス繊維により構成されるガラスクロスであって、前記ガラスクロスを構成するガラス繊維上に、ポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含み、前記ポリビニルアルコールのけん化度が95モル%であることから、端部引裂強さに優れたものとすることができる。本発明のガラスクロスが備える、経糸及び緯糸のうち、ポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含む糸が連続する方向(経糸のガラス繊維上にポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含む場合は経方向)、経方向及び緯方向のうち強い方、又は、経方向及び緯方向のうち、織密度が大きい方向の端部引裂強さとしては、端部引き裂き強さに優れるという観点から、200N/20mm以上が好ましく、250N/20mm以上であることがより好ましい。当該端部引裂強さとする方法としては、ガラスクロスの経糸のガラス繊維上に、ポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含むものとし、前記ポリビニルアルコールのけん化度を95モル%とすることの他、前述したヒートクリーニング処理をおこなわないこと、経糸、緯糸のガラス繊維の単繊維径、単繊維本数、ガラス糸番手、織密度等を調整することが挙げられる。上記端部引裂強さの上限値としては特に制限されないが、例えば、400N/20mm以下が挙げられる。
【0036】
なお、本明細書において、上記端部引裂強さはJIS C 2323-2:2015 8端部引裂強さ 8.2A法に準じ以下のように測定、算出される。端部引裂強さの測定は、定速伸長型引張試験機(インテスコ株式会社製)を用いる。試験片は、ガラスクロスの長さを250mm、幅(両端部から糸をほぐす前の幅)を20mmとし、幅20mmのマスキングテープ(品名:No.720みどり、日東電工株式会社)と張り合わせて測定サンプルとする。該サンプルを、定速伸長型引張試験機上部のチャッキングに取り付けたあぶみ型端部引裂器具(V型切れ込みが入った鋼板の厚さは1.30mmとする。)にくぐらせて取り付け、その下部を定速伸長型引張試験機下部のチャッキングに固定し、測定する。それぞれ5回測定し、その平均値を経方向の端部引裂強さ(N/20mm)とする。つかみ間隔は100mm、定速引張速度は200mm/minとする。
【0037】
<ガラスクロスの製造方法>
本発明のガラスクロスの製造方法としては特に制限されないが、例えば、経糸にけん化度が95モル%であるポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含むガラスクロスの製造方法であって、ヒートクリーニング処理をおこなわない、ガラスクロスの製造方法が挙げられる。
【0038】
より具体的に説明すると、まず、ガラス糸である経糸を準備する。経糸としては、ガラス繊維上に澱粉等の集束剤成分が含まれているものとすることができる。また、経糸糊剤として、けん化度が95モル%であるポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含む経糸糊剤を準備する。当該経糸糊剤の処方としては、例えば、ポリビニルアルコールが不揮発成分で3.0~4.5質量%、パラフィンワックスが不揮発成分で0.5~2.5質量%となるように、ポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを純水に混合したものが挙げられる。
【0039】
そして、上記経糸を用いて整経し、上記準備した経糸糊剤を用いて糊付けをおこなう。次いで、必要に応じてビーミングをおこない、整経ビームとする。当該整経ビームを織機にセットし、緯糸を打ち込み、その後ヒートクリーニング処理をおこなわずに、ガラスクロスとする。織機としては、エアージェット織機、レピア織機、ウォータージェット織機等、公知のものが使用できるが、エアージェット織機が好ましい。
【0040】
<シート又はテープ>
本発明のガラスクロスは樹脂を含浸して、シート又はテープとして使用することができる。すなわち、本発明のシート又はテープは、前述した本発明のガラスクロスと、該ガラスクロスに含浸した状態で含まれる樹脂とを含む。
【0041】
ガラスクロスに含浸した状態で含まれる樹脂の成分としては、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアミド系樹脂が挙げられる。
【0042】
<実施例1>
(経糸及び緯糸の準備)
ガラスクロスの経糸及び緯糸として、ユニチカグラスファイバー株式会社製D900 1/0 1Z(ガラス材料:SiOが52~56質量%、Alが12~16質量%、CaOが15~25質量%、MgOが0~6質量%、Bが5~13質量%、Na及びKが0~1質量%であるガラス組成物、単繊維径5μm、単繊維本数100本、番手5.6tex、強熱減量0.95質量%、集束剤主成分:澱粉)を準備した。
【0043】
(経糸糊剤)
経糸糊剤として、下記処方の糊剤を準備した。
ポリビニルアルコール(けん化度98モル%、平均重合度1700、純分95質量%):19.02質量部
パラフィンワックス(グレード140F 融点61℃):12.68質量部、
糊濃度5質量%
【0044】
(整経・糊付け工程)
上記経糸及び経糸糊剤を用いて整経、糊付けをおこなった。経糸の強熱減量は2.9質量%であった。また、経糸における、ポリビニルアルコールの不揮発成分とパラフィンワックスの不揮発成分との質量比(ポリビニルアルコール/パラフィンワックス)は1.5であった。
【0045】
上記糊付けをおこなった糊付けビームを用いて、経糸密度が65本/25mmとなるようにビーミングをおこない、エアージェット織機に当該ビーミングした経糸をセットし、前述した緯糸を用いて平織組織で製織をおこない、本発明のガラスクロスを得た。すなわち、ヒートクリーニング処理はおこなわなかった。当該ガラスクロスの経糸密度は65本/25mm、緯糸密度は37本/25mm、厚さは35μm、質量は22.7g/m、ガラスクロス全体の強熱減量は2.4質量%、経方向の引張強さは264N/25mmであった。
【0046】
<実施例2>
(経糸及び緯糸の準備)
ガラスクロスの経糸及び緯糸として、実施例1で準備したものを準備した。
【0047】
(経糸糊剤)
経糸糊剤として、下記処方の糊剤を準備した。
ポリビニルアルコール(けん化度98モル%、平均重合度1700、純分95質量%):19.02質量部
パラフィンワックス(グレード140F 融点61℃):3.2質量部
糊濃度5質量%
【0048】
(整経・糊付け工程)
上記経糸及び経糸糊剤を用いて整経、糊付けをおこなった。経糸の強熱減量は3.5質量%であった。また、経糸における、ポリビニルアルコールの不揮発成分とパラフィンワックスの不揮発成分との質量比(ポリビニルアルコール/パラフィンワックス)は5.9であった。
【0049】
上記糊付けをおこなった糊付けビームを用いて、経糸密度が65本/25mmとなるようにビーミングをおこない、エアージェット織機に当該ビーミングした経糸をセットし、前述した緯糸を用いて平織組織で製織をおこない、本発明のガラスクロスを得た。すなわち、ヒートクリーニング処理はおこなわなかった。当該ガラスクロスの経糸密度は65本/25mm、緯糸密度は37本/25mm、厚さは38μm、質量は23.4g/m、ガラスクロス全体の強熱減量は2.8質量%、経方向の引張強さは259N/25mmであった。
【0050】
<比較例1>
(経糸及び緯糸の準備)
ガラスクロスの経糸及び緯糸として、実施例1で準備したものを準備した。
【0051】
(経糸糊剤)
経糸糊剤として、下記処方の糊剤を準備した。
ポリビニルアルコール(けん化度87モル%、平均重合度1800、純分95質量%):19.02質量部
パラフィンワックス(グレード140F 融点61℃):12.68質量部
糊濃度5質量%
【0052】
(整経・糊付け工程)
上記経糸及び経糸糊剤を用いて整経、糊付けをおこなった。経糸の強熱減量は2.4質量%であった。また、経糸における、ポリビニルアルコールの不揮発成分とパラフィンワックスの不揮発成分との質量比(ポリビニルアルコール/パラフィンワックス)は1.5であった。
【0053】
上記糊付けをおこなった糊付けビームを用いて、経糸密度が65本/25mmとなるようにビーミングをおこない、エアージェット織機に当該ビーミングした経糸をセットし、前述した緯糸を用いて平織組織で製織をおこない、比較例のガラスクロスを得た。すなわち、ヒートクリーニング処理はおこなわなかった。当該ガラスクロスの経糸密度は65本/25mm、緯糸密度は37本/25mm、厚さは37μm、質量は23.3g/m、ガラスクロス全体の強熱減量は2.2質量%、経方向の引張強さは276N/25mmであった。
【0054】
1.ガラスクロスの端部引裂強さ
前述した方法にて評価した。
2.ガラスクロスの引張強さ
前述した方法にて評価した。
【0055】
各実施例、比較例のガラスクロスの物性及び評価について表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1及び2のガラスクロスは、ガラス繊維により構成されるガラスクロスであって、前記ガラスクロスを構成するガラス繊維上に、ポリビニルアルコール及びパラフィンワックスを含み、前記ポリビニルアルコールのけん化度が95モル%以上であることから、ポリビニルアルコールのけん化度が87モル%の比較例1に比して端部引裂強さに優れたものであった。