(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】CO2還元用電極触媒、CO2還元用電極触媒の製造方法、CO2還元電極、およびCO2還元システム
(51)【国際特許分類】
C25B 11/075 20210101AFI20240329BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20240329BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20240329BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240329BHJP
C01B 32/40 20170101ALI20240329BHJP
C25B 1/02 20060101ALI20240329BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20240329BHJP
C25B 3/26 20210101ALI20240329BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20240329BHJP
【FI】
C25B11/075
B01J31/22 M
B01J37/02 101Z
B01J37/08
C01B32/40
C25B1/02
C25B1/23
C25B3/26
C25B11/065
(21)【出願番号】P 2020036739
(22)【出願日】2020-03-04
【審査請求日】2022-12-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2019年電気化学秋季大会 講演要旨集、https://confit.atlas.jp/guide/event/ecsj2019f/proceedings/list(掲載アドレス)、令和1年8月27日(掲載日) 〔刊行物等〕 2019年電気化学秋季大会(集会名)、令和1年9月6日(開催日)
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】高野 香織
(72)【発明者】
【氏名】松岡 孝司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康司
(72)【発明者】
【氏名】山中 一郎
(72)【発明者】
【氏名】井口 翔之
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-258152(JP,A)
【文献】特表2015-520012(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065258(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103706401(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108465476(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0085635(KR,A)
【文献】Hitoshi Ogihara, et al.,Electrochemical Reduction of CO2 to CO by a Co-N-C Electrocatalyst and PEM Reactor at Ambient Conditions,Chemistry SELECT Communications,2016年,Vol. 1, No. 17,p. 5533-5537,https://doi.org/10.1002/slct.201601082
【文献】Min Wang, et al.,A Hybrid Co Quaterpyridine Complex/Carbon Nanotube Catalytic Material for CO2 Reduction in Water,Angewandte Chemie,2018年,Vol. 57, No. 26,p. 7769-7773,https://doi.org/10.1002/anie.201802792
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 23/75
31/22
37/02
37/08
C01B 32/40
C25B 1/00 - 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を示す多孔質のカーボン担体と、
下記一般式(1):
【化1】
(式中、XはCまたはNであり、R
1~R
5は、それぞれ独立にHまたはアルキル基であり、R
1~R
5のうち少なくとも1つがアルキル基である。但し、XがNである場合、R
4は存在せず、R
1~R
3およびR
5のうち少なくとも1つがアルキル基である。)
で表される化合物、および
前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、前記一般式(1)中、R
1~R
5のうち1つのアルキル基が主鎖であり、複素芳香環が側鎖であるポリマー、および
下記一般式(2):
【化2】
(式中、R
6~R
13は、それぞれ独立にHまたはアルキル基であり、R
6~R
13のうち少なくとも1つがアルキル基である。)
で表される化合物からなる群より選択され、前記カーボン担体に担持されている窒素含有複素芳香環化合物と、
前記窒素含有複素芳香環化合物の複素芳香環上の窒素原子4つと配位しているコバルトイオンと、
を含み、
全コバルト担持量に対するCo-N
4C結合をもつ錯体部のモル比が0.3以上であるか、または
全コバルト担持量に対して、Co-N
4C結合をもつ錯体部のモル比が0.2以上であり、かつ金属コバルトのモル比が0.5以下であることを特徴とするCO
2還元用電極触媒。
【請求項2】
全コバルト担持量に対して、酸化コバルトのモル比が0.8以下であることを特徴とする請求項1に記載のCO
2還元用電極触媒。
【請求項3】
下記一般式(1):
【化3】
(式中、XはCまたはNであり、R
1~R
5は、それぞれ独立にHまたはアルキル基であり、R
1~R
5のうち少なくとも1つがアルキル基である。但し、XがNである場合、R
4は存在せず、R
1~R
3およびR
5のうち少なくとも1つがアルキル基である。)
で表される化合物、および
前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、前記一般式(1)中、R
1~R
5のうち1つのアルキル基が主鎖であり、複素芳香環が側鎖であるポリマー、および
下記一般式(2):
【化4】
(式中、R
6~R
13は、それぞれ独立にHまたはアルキル基であり、R
6~R
13のうち少なくとも1つがアルキル基である。)
で表される化合物からなる群より選択される窒素含有複素芳香環化合物をコバルトイオンに配位させ、前記コバルトイオンに配位させた前記窒素含有複素芳香環化合物を、導電性を示す多孔質のカーボン担体に吸着させ、焼成することを特徴とする請求項1または2に記載のCO
2還元用電極触媒の製造方法。
【請求項4】
600K~873Kの温度下で前記窒素含有複素芳香環化合物を吸着させた前記カーボン担体を焼成することを特徴とする請求項3に記載のCO
2還元用電極触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のCO
2還元用電極触媒を含むことを特徴とするCO
2還元電極。
【請求項6】
請求項5に記載のCO
2還元電極と、
酸化電極と、
前記CO
2還元電極と前記酸化電極との間に接続された電源と、
を含むことを特徴とするCO
2還元システム。
【請求項7】
CO生成のエネルギー効率が、CO生成速度1mmol/h/cm
2において63%以上であることを特徴とする請求項6に記載のCO
2還元システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO2還元用電極触媒、CO2還元用電極触媒の製造方法、CO2還元電極、およびCO2還元システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球気候変動の主要因とされる二酸化炭素(CO2)の排出量を削減する方法の一つとして、再生可能エネルギー由来の電力を用いてCO2と水を、一酸化炭素(CO)などの還元生成物と酸素へ電気分解し、循環利用する方法が知られている。
【0003】
CO2を電気分解によって還元する電気化学反応装置の還元電極として、金を含み、デンドライト構造を有する多孔質金属層を備えるCO2還元触媒を用いる技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の還元触媒は、CO生成のエネルギー効率に優れているが、原子当たりの効率が低く、また金などの貴金属を用いていることから高価である。本発明者らは、CO2還元用電極触媒について鋭意検討を重ねた結果、CO生成のエネルギー効率に優れており、原子当たりの効率が高く、かつ安価なCO2還元用電極触媒を提供できる技術に想到した。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つはCO生成のエネルギー効率に優れており、原子当たりの効率が高く、かつ安価な新たなCO2還元用電極触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様はCO
2還元用電極触媒である。このCO
2還元用電極触媒は、導電性を示す多孔質のカーボン担体と、
下記一般式(1):
【化1】
(式中、XはCまたはNであり、R
1~R
5は、それぞれ独立にHまたはアルキル基であり、R
1~R
5のうち少なくとも1つがアルキル基である。但し、XがNである場合、R
4は存在せず、R
1~R
3およびR
5のうち少なくとも1つがアルキル基である。)
で表される化合物、および
一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、一般式(1)中、R
1~R
5のうち1つのアルキル基が主鎖であり、複素芳香環が側鎖であるポリマー、および
一般式(2):
【化2】
(式中、R
6~R
13は、それぞれ独立にHまたはアルキル基であり、R
6~R
13のうち少なくとも1つがアルキル基である。)
で表される化合物からなる群より選択され、カーボン担体に担持されている窒素含有複素芳香環化合物と、
窒素含有複素芳香環化合物の複素芳香環上の窒素原子4つと配位しているコバルトイオンと、
を含み、
全コバルト担持量に対するCo-N
4C結合をもつ錯体部のモル比が0.3以上であるか、または
全コバルト担持量に対して、Co-N
4C結合をもつ錯体部のモル比が0.2以上であり、かつ金属コバルトのモル比が0.5以下である。
【0008】
本発明の他の態様は上記CO
2還元用電極触媒の製造方法である。この製造方法は、下記一般式(1):
【化3】
(式中、XはCまたはNであり、R
1~R
5は、それぞれ独立にHまたはアルキル基であり、R
1~R
5のうち少なくとも1つがアルキル基である。但し、XがNである場合、R
4は存在せず、R
1~R
3およびR
5のうち少なくとも1つがアルキル基である。)
で表される化合物、および
一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、一般式(1)中、R
1~R
5のうち1つのアルキル基が主鎖であり、複素芳香環が側鎖であるポリマー、および
下記一般式(2):
【化4】
(式中、R
6~R
13は、それぞれ独立にHまたはアルキル基であり、R
6~R
13のうち少なくとも1つがアルキル基である。)
で表される化合物からなる群より選択される窒素含有複素芳香環化合物をコバルトイオンに配位させ、コバルトイオンに配位させた窒素含有複素芳香環化合物を、導電性を示す多孔質のカーボン担体に吸着させ、焼成する。
【0009】
本発明のさらに他の態様はCO2還元電極である。このCO2還元電極は上記CO2還元用電極触媒を含む。
【0010】
本発明のさらに他の態様はCO2還元システムである。このCO2還元システムは、上記CO2還元電極と、酸化電極と、CO2還元電極と酸化電極との間に接続された電源と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、CO生成のファラデー効率に優れており、かつ安価な新たなCO2還元用電極触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態に係るCO
2還元システムを示す模式図である。
【
図2】Co-N
4C結合をもつ錯体部のモル比とCO生成のファラデー効率との関係を示すグラフである。
【
図3】酸化コバルトのモル比とH
2生成のファラデー効率との関係を示すグラフである。
【
図4】金属コバルトのモル比とH
2生成のファラデー効率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0014】
(CO2還元用電極触媒)
実施の形態に係るCO2還元用電極触媒は、導電性を示す多孔質のカーボン担体と、上記一般式(1)で表される化合物、および上記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、一般式(1)中、R1~R5のうち1つのアルキル基が主鎖であり、複素芳香環が側鎖であるポリマー、および上記一般式(2)で表される化合物からなる群より選択され、カーボン担体に担持されている窒素含有複素芳香環化合物と、窒素含有複素芳香環化合物の複素芳香環上の窒素原子4つと配位しているコバルトイオンと、を含み、全コバルト担持量に対するCo-N4C結合をもつ錯体部のモル比が0.3以上であるか、または全コバルト担持量に対して、Co-N4C結合をもつ錯体部のモル比が0.2以上であり、かつ金属コバルトのモル比が0.5以下である。
【0015】
実施の形態に係るCO2還元用電極触媒においては、全コバルト担持量に対するCo-N4C結合をもつ錯体部のモル比が0.3以上であるか、または全コバルト担持量に対して、Co-N4C結合をもつ錯体部のモル比が0.2以上であり、かつ金属コバルトのモル比が0.5以下である。CO2の電解還元において、還元電極側では、目的物質であるCOの他に、副生成物としてH2が生成する可能性がある。実施の形態に係るCO2還元用電極触媒のCo-N4C結合をもつ錯体部は、CO2をCOへ還元する反応の活性点として作用する。Co-N4C結合をもつ錯体部のモル比を0.3以上とするか、またはCo-N4C結合をもつ錯体部のモル比を0.2以上とし、かつ金属コバルトのモル比を0.5以下とすることで、電解還元生成物中のCO割合を増加させることができ、CO生成のエネルギー効率を実用に足るレベルとすることができる。さらに、実施の形態に係るCO2還元用電極触媒は、原子当たりの効率が高く、さらに、金などの貴金属を使用する従来の触媒と比較して安価に製造できる。
【0016】
ここで、CO生成のエネルギー効率をさらに増加させるという観点から、全コバルト担持量に対するCo-N4C結合をもつ錯体部のモル比は、好ましくは0.3以上であり、より好ましくは0.4以上である。また、全コバルト担持量に対して、Co-N4C結合をもつ錯体部のモル比が0.3以上であり、かつ金属コバルトのモル比が0.4以下であるのが好ましく、Co-N4C結合をもつ錯体部のモル比が0.4以上であり、かつ金属コバルトのモル比が0.2以下であるのがより好ましい。
【0017】
また、CO生成のエネルギー効率をさらに増加させるという観点から、CO2還元用電極触媒に含まれる酸化コバルトの全コバルト担持量に対するモル比が0.8以下であるのが好ましい。なお、酸化コバルトは、CO2の電解還元において不活性な物質である。
【0018】
CO2還元用電極触媒を構成するカーボン担体は、導電性を示し、かつ窒素含有複素芳香環化合物を担持できる多孔質のものであれば特に限定されない。カーボン担体の例としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレンなどを挙げることができる。
【0019】
CO2還元用電極触媒を構成する上記一般式(1)で表される化合物は、ピリジン環(X=H)またはピリミジン環(X=N)が自由に分子運動できる構造である。式(1)中、R1~R5は、それぞれ独立にHまたはアルキル基であり、R1~R5のうち少なくとも1つがアルキル基である。但しXがNである場合、R4は存在せず、R1~R3およびR5のうち少なくとも1つがアルキル基である。R1~R5のアルキル基は、式(1)中の複素芳香環(ピリジン環またはピリミジン環)が自由に分子運動できるものであれば、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、その長さは制限されない。
【0020】
CO2還元用電極触媒を構成する、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマーは、一般式(1)中、R1~R5のうち1つのアルキル基が主鎖であり、複素芳香環が側鎖であるポリマーである。なお、上述したように、式(1)においてXがNである場合、R4は存在しない。この場合、当然ながら、ポリマーの主鎖は、R1~R3およびR5のうち1つのアルキル基である。ポリマーの主鎖の構造は、側鎖の複素芳香環が自由に分子運動できるものであれば特に限定されない。ポリマーの代表例としては、ポリ-4-ビニルピリジンなどを挙げることができる。
【0021】
CO2還元用電極触媒を構成する上記一般式(2)で表される窒素含有複素芳香環化合物において、一般式(2)中のR6~R13は、それぞれ独立にHまたはアルキル基である。R1およびR2のアルキル基は、式(2)中のビピリジン環が自由に分子運動できるものであれば、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、その長さは制限されない。実施の形態に係るCO2還元用電極触媒において、式(2)で表される化合物2分子のビピリジン環内の窒素原子合計4つがコバルトイオンに配位する。
【0022】
実施の形態に係るCO2還元用電極触媒においては、配位している窒素原子とコバルトイオンとの間の距離が2.0Å以上3.0Å以下であることが好ましく、2.0Å以上2.5Å以下であることがより好ましく、2.0Å以上2.2Å以下であることがさらにより好ましい。このような距離でコバルトイオンに配位した窒素含有複素芳香環化合物がカーボン担体上に固定されることによって、コバルトのCO2還元活性をより高めることができる。
【0023】
(CO2還元用電極触媒の製造方法)
本実施の形態に係るCO2還元用電極触媒の製造方法は、ピリジル基を側鎖に有するビニルポリマーおよび上記一般式(1)で表される化合物からなる群より選択される窒素含有複素芳香環化合物をコバルトイオンに配位させ、コバルトイオンに配位させた窒素含有複素芳香環化合物を、導電性を示す多孔質のカーボン担体に吸着させ、焼成する。ここで、窒素含有複素芳香環化合物およびカーボン担体は、上述したCO2還元用電極触媒の実施形態におけるものと同じである。
【0024】
窒素含有複素芳香環化合物のコバルトイオンへの配位させる方法は特に限定されないが、例えば、窒素含有複素芳香環化合物とコバルト塩とを溶媒に分散させることによって行うことができる。また、窒素含有複素芳香環化合物およびコバルト塩のそれぞれを溶媒に分散させ、2つの分散液を混合することによって、窒素含有複素芳香環化合物のコバルト錯体溶液を形成してもよい。
【0025】
コバルトイオンに配位させた窒素含有複素芳香環化合物のカーボン担体へ吸着方法は特に限定されないが、例えば、得られたコバルト錯体溶液にカーボン担体を添加し、混合することによって行うことができる。吸着後、例えば蒸発乾固によって溶液を除去して、コバルト錯体が担持されたカーボン担体を得ることができる。
【0026】
本実施の形態に係る製造方法においては、得られたコバルト錯体が担持されたカーボン担体を焼成する。焼成温度は、600K~873Kであることが好ましく、600K~800Kであることがより好ましく、650K~750Kであることがさらにより好ましい。焼成温度をこのような範囲内とすることによって、コバルトのCO2還元活性をさらに高めることができる。焼成は1回でもよいが、コバルト錯体をカーボン担体により適切に固定するという観点から、温度を変更して2回以上行ってもよい。焼成時間は特に限定されず、例えば1時間~10時間の間で適宜設定することができる。
【0027】
焼成によって形成された触媒は、酸性水溶液を用いて洗浄することが好ましい。触媒の形成の際に、副生成物として酸化コバルトや金属コバルトがカーボン担体上に生成される可能性がある。コバルト量当たりのCO生成速度を向上させるためには、これらの副生成物の中でも特に酸化コバルトを除去し、全コバルト担持量に対する酸化コバルトのモル比を0.8以下とすることが望ましい。したがって、酸性水溶液は、触媒の活性に影響を与えることなく、酸化コバルトを除去できるものであれば特に限定されない。このような酸性水溶液の例としては、希硝酸、希硫酸、希塩酸などを挙げることができる。また、副生成物の金属コバルトは、焼成温度を上述した温度範囲に制御することによって、その生成を抑制することができる。
【0028】
(CO2還元電極)
実施の形態に係るCO2還元電極は、上記の実施の形態に係るCO2還元用電極触媒を含む。このCO2還元極は、上記CO2還元用電極触媒を用いていることから、CO2還元システムの還元電極として用いた際に、CO生成のエネルギー効率が高く、原子当たりの効率が高い。また、このCO2還元電極は安価に製造することができる。
【0029】
CO2還元電極の形状は特に限定されず、例えば、板状、メッシュ状、ワイヤ状、粒子状、多孔質状、薄膜状、島状などの様々な形状を挙げることができる。例えば、CO2還元電極は、上記CO2還元用電極触媒を基材表面に配置することによって形成することができる。CO2還元用電極触媒を配置する基材の例としては、カーボンペーパーなどを挙げることができる。また、例えば、CO2還元電極は、上記CO2還元用電極触媒そのものを成形することによって形成することができる。
【0030】
(CO
2還元システム)
図1は、実施の形態に係るCO
2還元システムを示す模式図である。CO
2還元システム10は、還元電極12と、酸化電極14と、還元電極12と酸化電極14との間を接続する電源16と、還元電極12を収容し、CO
2還元反応を行う還元反応部18と、酸化電極14を収容し、H
2O酸化反応を行う酸化反応部20と、還元電極12と酸化電極14との間に配置されたイオン交換膜22と、を含む。後述するように、CO
2還元システム10は、上記の実施形態に係るCO
2還元用電極触媒が還元電極12に用いられていることから、CO生成のエネルギー効率が高く、原子当たりの効率が高く、安価に製造することができる。
【0031】
還元電極12は、CO2を還元して炭素化合物を生成する電極である。酸化電極14は、水を酸化して、酸素や水素イオンを生成する電極である。還元電極12で還元反応を生じさせるために、還元電極12は電源16の負極端子に接続されている。酸化電極14で酸化反応を生じさせるために、酸化電極14は電源16の正極端子に接続されている。
【0032】
還元電極12には、上記の実施形態に係るCO2還元電極が用いられている。酸化電極14は、水を酸化して酸素や水素イオンを生成することが可能な材料であれば特に限定されず、公知の材料から構成することができる。そのような材料の例としては、イリジウム、白金、パラジウム、ニッケルなどの金属、それらの金属を含む合金や金属間化合物、酸化イリジウム、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ルテニウムなどの二元系金属酸化物、Ni-Co-O、Ni-Fe-O、La-Co-O、Ni-La-O、Sr-Fe-Oなどの三元系金属酸化物、Pb-Ru-Ir-O、La-Sr-Co-Oなどの四元系金属酸化物、Ru錯体やFe錯体などの金属錯体を挙げることができる。酸化電極14には、板状、メッシュ状、ワイヤ状、粒子状、多孔質状、薄膜状、島状等の各種形状を適用することができる。酸化電極14は、これらの材料を基材上に積層した複合電極であってもよい。
【0033】
還元反応部18には、還元電極12によって還元するCO2が供給される。還元するCO2は気体であっても、CO2を含む溶液の形態であってもよい。溶液の形態である場合、CO2の吸収率が高い溶液を用いるのが好ましい。そのような溶液の例としては、LiHCO3、NaHCO3、KHCO3、CsHCO3、Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、Cs2CO3などの水溶液を挙げることができる。また、メタノール、エタノール、アセトンなどのアルコール類の溶媒を用いてCO2を含む溶液としてもよい。CO2を含む溶液は、CO2の還元電位を上昇させ、イオン伝導性が高く、CO2を吸収するCO2吸収剤を含む溶液であることが望ましい。そのような溶液の例として、イミダゾリウムイオンやピリジニウムイオンなどの陽イオンと、BF4
-やPF6
-などの陰イオンとの塩から構成され、幅広い温度範囲で液体状態であるイオン液体またはその水溶液を挙げることができる。その他の溶液としては、エタノールアミン、イミダゾール、ピリジンなどのアミン溶液またはその水溶液を挙げることができる。なお、アミンは、一級アミン、二級アミン、三級アミンのいずれであってもよい。
【0034】
酸化反応部20には、酸化電極14によって酸化するH2Oが供給される。酸化するH2Oとして、純水を用いることができる。純水の代わりに、任意の電解質を含む水溶液を用いてもよく、H2Oの酸化反応を促進する水溶液を用いることが好ましい。そのような水溶液の例としては、硫酸、硝酸、過塩素酸、塩酸が挙げられる。
【0035】
イオン交換膜22は、還元電極12と酸化電極14との間でイオンを移動させることができる材料から構成されていればよく、材料の種類は特に限定されない。イオン交換膜の例としては、ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)などのカチオン交換膜、ネオセプタ(登録商標)、セレミオン(登録商標)などのアニオン交換膜を挙げることができる。
【0036】
次に、CO2還元システム10の動作につい説明する。電源16から酸化電極14に電位を印加すると、酸化電極14付近でH2Oの酸化反応が生じて、酸素(O2)と水素イオン(H+)とが生成される。酸化電極14側で生成されたH+はイオン交換膜22を介して還元電極12に到達する。電源26から還元電極12に供給される電子(e-)と還元電極12に移動したH+とによって、CO2の還元反応が生じる。CO2の還元反応によって、COが生成される。CO2還元システム10において、CO生成のエネルギー効率が、CO生成速度1mmol/h/cm2において63%以上であるのが好ましい。ここで、CO生成のエネルギー効率は、CO生成とO2発生の理論電位である1.33Vを、還元電極と酸化電極との間に印加した電圧で割ることによって求められる。
【0037】
なお、
図1に示すCO
2還元システムの構成は一例に過ぎず、上記実施形態に係るCO
2還元電極を用いてCO
2の還元反応を行うことが可能なシステムであれば様々な変形が可能である。例えば、
図1に示すCO
2還元システムは、還元電極12と酸化電極14との間に、イオン交換膜22が還元電極12と酸化電極14とに接するように配置されているが、還元電極12および酸化電極14がイオン交換膜から離れていてもよい。また、例えば、還元電極12および酸化電極14が電解液と接するように、電解液を流通させる電解液流路を備えていてもよい。これら以外にも種々の変形が可能である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例は本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0039】
(実施例1)
実施例1のCO2還元側電極を、下記の手順により調製した。
【0040】
(Co-N4C配位錯体の調製)
硝酸コバルト6水和物(試薬特級、富士フイルム和光純薬株式会社製)をエタノール(試薬特級、富士フイルム和光純薬株式会社製)に溶解させ、コバルトが40mMとなるようにコバルト溶液を調製した。ポリ(4-ビニルピリジン)80mg(重量平均分子量60000,シグマアルドリッチ製)をエタノール(試薬特級、富士フイルム和光純薬株式会社製)に溶解させ全量を50mLとし、20分攪拌してポリマーを十分に分散した。次いで、コバルト溶液1.7mLを混合し15分攪拌した。ここで得られる錯体をコバルト錯体と表記する。
【0041】
(コバルト錯体の導電性多孔性材料への担持)
ケッチェンブラック担体107.6mg(ECP,LION社製)を上記溶液に混合したあと、ホットプレートで攪拌しながら343Kで加熱、蒸発乾固した。得られた粉体をホットプレート上343Kで16時間乾燥した。これをコバルト触媒前駆体と表記する。
【0042】
(コバルト触媒前駆体の部分焼成)
コバルト触媒前駆体を平底型の石英製反応器に入れ、ヘリウム流通下、昇温速度25K/min、423Kで1時間、次いで673Kで3時間熱処理した。これをコバルト触媒(精製前)と表記する。
【0043】
(コバルト触媒(精製前)の洗浄)
0.1Mの希硝酸中にコバルト触媒(精製前)を加え、300rpmで1時間攪拌したのち、孔径0.1μmの親水性メンブレンフィルターを用いて吸引ろ過し、イオン交換水200mLでpHが6~7になるまで洗浄した。その後20mLの2-プロパノールで3回洗浄した。ろ過物を353Kで1時間減圧乾燥した。これをコバルト触媒(精製後)と表記する。
【0044】
(実施例2)
コバルト触媒前駆体の部分焼成の温度を723Kとした以外は実施例1と同様にして、実施例2のコバルト触媒(精製後)を調製した。
【0045】
(実施例3)
コバルト触媒前駆体の部分焼成の温度を773Kとした以外は実施例1と同様にして、実施例3のコバルト触媒(精製後)を調製した。
【0046】
(実施例4)
コバルト触媒前駆体の部分焼成の温度を673Kとし、コバルト触媒(精製前)の洗浄を行わなかった以外は実施例1と同様にして、実施例4のコバルト触媒(精製後)を調製した。
【0047】
(実施例5)
コバルト触媒前駆体の部分焼成の温度を773Kとし、コバルト触媒(精製前)の洗浄を行わなかった以外は実施例1と同様にして、実施例5のコバルト触媒(精製後)を調製した。
【0048】
(実施例6)
ケッチェンブラック担体の代わりにBP2000(キャボットジャパン株式会社製)を用い、コバルト触媒前駆体の部分焼成の温度を673Kとし、コバルト触媒(精製前)の洗浄を行わなかった以外は実施例1と同様にして、実施例6のコバルト触媒(精製後)を調製した。
【0049】
(実施例7)
ケッチェンブラック担体の代わりにアセチレンブラック担体(デンカ株式会社製)を用い、コバルト触媒前駆体の部分焼成の温度を673Kとし、コバルト触媒(精製前)の洗浄を行わなかった以外は実施例1と同様にして、実施例7のコバルト触媒(精製後)を調製した。
【0050】
(実施例8)
ケッチェンブラックの代わりにアクティブカーボン担体(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用い、コバルト触媒前駆体の部分焼成の温度を673Kとし、コバルト触媒(精製前)の洗浄を行わなかった以外は実施例1と同様にして、実施例8のコバルト触媒(精製後)を調製した。
【0051】
(実施例9)
重量平均分子量が60000であるポリ(4-ビニルピリジン)の代わりに、重量平均分子量が81500であるポリ(4-ビニルピリジン)(シグマアルドリッチ製)を用い、コバルト触媒前駆体の部分焼成の温度を773Kとし、コバルト触媒(精製前)の洗浄を行わなかった以外は実施例1と同様にして、実施例9のコバルト触媒(精製後)を調製した。
【0052】
(参考例1)
コバルト触媒前駆体の部分焼成の温度を973Kとした以外は実施例1と同様にして、参考例1のコバルト触媒(精製後)を調製した。
【0053】
(参考例2)
コバルト触媒前駆体の部分焼成の温度を973Kとし、コバルト触媒(精製前)の洗浄を行わなかった以外は実施例1と同様にして、参考例2のコバルト触媒(精製後)を調製した。
【0054】
(参考例3)
重量平均分子量が60000であるポリ(4-ビニルピリジン)の代わりに、重量平均分子量が15000であるポリ(4-ビニルピリジン)(シグマアルドリッチ製)を用い、コバルト触媒(精製前)の洗浄を行わなかった以外は実施例1と同様にして、参考例3のコバルト触媒(精製後)を調製した。
【0055】
(比較例1)
コバルト触媒(精製前)の洗浄の際に、0.1Mの硝酸の代わりに0.5Mの硝酸を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1のコバルト触媒(精製後)を調製した。
【0056】
(比較例2)
硝酸コバルト6水和物の代わりに硝酸鉄(II)を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例2のコバルト触媒(精製後)を調製した。
【0057】
実施例1~9、参考例1~3、比較例1、2のコバルト触媒(生成後)の全コバルト担持量に対するCo-N4C結合をもつ錯体部のモル比、酸化コバルトのモル比、金属コバルトのモル比を、以下の手順で求めた。粉末試料のコバルトK吸収端X線吸収端近傍スペクトルを測定し、スペクトルを線形結合フィッティングすることによりコバルト種の存在割合を同定した。それぞれのモル比を下記表1に示す。
【0058】
以下の手順によって、実施例1~9、参考例1~3、比較例1、2のコバルト触媒(精製後)を用いた電気化学反応評価セルを作製した。
【0059】
(CO2還元側電極作製)
コバルト触媒(精製後)8mg、10重量%ナフィオン分散液(シグマアルドリッチ製)50μL、アセトン400μLを混合し、超音波照射によって攪拌することで触媒インクを得た。これを直径1.6cm、幾何学的表面積2cm2に切り出したカーボンペーパー(GDL-25-BC,SGL GROUP)の撥水層側に数回に分けて均一に塗布した。この電極を15分間減圧乾燥した。
【0060】
(酸化反応側電極作製)
20重量%のIrを担持させたケッチェンブラック粉末8gを10重量%ナフィオン溶液40μLとアセトン400μLと混合し、前項と同様にカーボンペーパーに担持した。
【0061】
(イオン交換膜の前処理)
Nafion(登録商標)117(Du pont社製)を電解セルで必要とするサイズに切り出し、3%H2O2水中で1時間、イオン交換水中で1時間、2N硫酸中で1時間の順で加熱還流を行った。最後にイオン交換水で1時間加熱還流し、得られた膜はイオン交換水中で保管した。
【0062】
(膜・電極接合体作製)
上記の手順で処理したNafion膜を還元側、酸化側の触媒で挟み込み、413K、50MPaで10分間ホットプレスし、膜・電極接合体(MEA)を得た。ホットプレス後、MEAをイオン交換水に5分浸漬した。
【0063】
(電気化学反応評価セル組上)
上記の通り作製したMEAを、孔をあけたテフロン(登録商標)板(厚さ1mm)を金メッシュ(くればぁ社製、99.9%)で包んだ形状の集電体を両側から接触させ、さらに別のテフロン枠でシールすることで陽極室と陰極室を隔離した。
【0064】
得られた電気化学反応評価セルを用いて、以下の手順で電気化学反応を行った。
【0065】
(電気化学反応)
陽極室には純水を、Nafion膜を伸ばした足の部分は0.5M H2SO4に浸漬し、Ag/AgCl参照極を飽和KCl溶液を液絡として介して接続した。陰極室にはCO2ガスを10ml/minで供給した。電気化学測定はポテンシオスタット(HZ-5000、北斗電工社製)を用いた。
【0066】
-0.6V vs SHEの下で、電気化学反応を行った。生成したCO、H
2についての評価を、以下の手順に従って行った。総ファラデー効率FE(FE(CO)+FE(H
2))は100%であった。実施例、参考例、比較例のそれぞれにおけるCO生成速度およびCO生成ファラデー効率を表1に示す。
【表1】
【0067】
(生成物(CO)の評価)
陰極室からの出口ガスをオンラインガスクロマトグラフ(GC-8APT、島津製作所製、検出器:TCD、カラム:MS-5A、検出器温度210度、分析温度90℃)に注入し分析した。得られた濃度をCO2ガス供給速度や電極面積を加味することにより、CO生成速度r(CO)[μmol/h/cm2]を算出した。CO2からCOへの還元が2電子反応であることを考慮し、CO生成速度を以下の式に従ってCO生成電流密度j(CO)に換算した。
j(CO)[mA/cm2] = r(CO)[μmol/h/cm2] x 96485 [C/mol] x 2(反応電子数)x 1/3600 [s/h]
CO生成ファラデー効率は、全電流密度j を用いて以下の通り算出した。
FE(CO)=j(CO)/j × 100
【0068】
(生成物(H2)の評価)
陰極室からの出口ガスをガスタイトシリンジにて分取し、ガスクロマトグラフ(GC-8APT,島津製作所製、検出器:TCD、カラム:Active carbon、検出器温度150度、分析温度100℃)に注入し分析した。得られた濃度をCO2ガス供給速度や電極面積を加味することにより、CO生成速度r(H2)[μmol/h/cm2]を算出した。COの場合と同様にH2生成電流密度j(H2)、H2生成ファラデー効率FE(H2)を算出した。
【0069】
表1に示すように、Co-N4C結合をもつ錯体部のモル比が0.3以上である実施例1~9の触媒を還元電極として用いたセルでは、CO生成のファラデー効率が高かった。また、実施例3および6と、参考例1~3とを比較すると、Co-N4C結合をもつ錯体部のモル比が0.2以上であり、かつ金属コバルトのモル比が0.5以下であれば、CO生成のファラデー効率が実用に足るレベルとなることが示唆された。
【0070】
図2は、Co-N
4C結合をもつ錯体部のモル比とCO生成のファラデー効率との関係を示すグラフである。
図3は、酸化コバルトのモル比とH
2生成のファラデー効率との関係を示すグラフである。
図4は、金属コバルトのモル比とH
2生成のファラデー効率との関係を示すグラフである。
図2に示すように、Co-N
4C結合をもつ錯体部のモル比0.3付近でCO生成のファラデー効率の大きな変化が見られた。また、
図4に示すように、金属コバルトのモル比0.5付近でH
2生成のファラデー効率の大きな変化が見られた。
【符号の説明】
【0071】
10 CO2還元システム
12 還元電極
14 酸化電極
16 電源