(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】ポリオレフィン樹脂分散体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20240329BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20240329BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C08L23/00
C08K3/28
C08K5/17
(21)【出願番号】P 2019233615
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2018245933
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂下 昌平
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/075446(WO,A1)
【文献】特開2011-134492(JP,A)
【文献】特開2018-190703(JP,A)
【文献】国際公開第2004/095613(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0370382(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0312282(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、H01M
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂(A)が、塩基性化合物(B)とともに、媒体に分散してなるポリオレフィン樹脂分散体であって、
ポリオレフィン樹脂(A)が、
オレフィン単位と、無水マレイン酸単
位0.01~25質量%
と、(メタ)アクリル酸エステル単位とを含有し、
媒体が、
N-メチル-2-ピロリドン(C)と
、20~30℃における比誘電率が15以上である極性有機化合物(D)とを含有し、
極性有機化合物(D)が、アルコール類、ケトン類、ニトリル類、スルホキシド類のうちいずれか1つ以上を含み、
それらの質量比(C/D)が
90/10~
10/90であることを特徴とするポリオレフィン樹脂分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料や接着剤など多くの用途に用いることができるポリオレフィン樹脂分散体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機溶剤中にポリオレフィン系樹脂が溶解もしくは分散されている非水組成物は、溶剤系の塗料、インキ、接着剤用のバインダーとして非常に重要である。
ポリオレフィン系樹脂の分散体としては、ポリプロピレンやポリエチレンを主成分としたものが知られている。このようなポリオレフィン樹脂の有機溶剤分散体の製法として、加熱等の操作によりポリオレフィン樹脂を良溶媒に一度溶解させた後、冷却条件を工夫してポリオレフィン樹脂粒子を析出させる方法(析出法)が提案されている(特許文献1)。
また、特定量の不飽和カルボン酸単位を含有するポリオレフィン樹脂を、特定比率の両親媒性有機溶剤と水に分散する方法も提案されている(特許文献2)。
一方、電池の電極材用のバインダーは、その化学的安定性の観点から、ポリフッ化ビニリデンを有機溶剤に溶解させたものが、従来利用されてきた(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4462691号公報
【文献】特許第5279314号公報
【文献】特開2003-155313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献3に記載されているバインダー樹脂は、有機溶剤に溶解しているため、電極材料を完全に被覆してしまい、電極材料の導電性を低下させるという問題があった。
特許文献1に記載されている方法により、有機溶剤に分散したバインダー樹脂が得られる。しかしこの方法は、樹脂微粒子を析出させる条件が煩雑であり、また、バインダー樹脂としてのポリオレフィン樹脂が、ポリプロピレンを主成分とするものに限定されており、より汎用性の高いポリエチレンには適用できないという問題があった。
特許文献2に記載されている方法は、ポリオレフィン樹脂にカルボン酸成分を含有させて分散化を容易にする方法であり、汎用性が高いポリエチレンに対しても適用可能である。しかしながら、この方法は、分散化における媒体が水を含有していることから、得られる水を含有する分散体は、電極材料、特に禁水性のリチウムを用いる正極材に対して適用することはできなかった。またこの分散体は、低温で保管した時に、粘度が不可逆的に上昇してしまい、製品保管時に保温庫を要するなど、取扱いに不便なものであった。
【0005】
本発明の課題は、これらの問題を解決するものであり、ポリオレフィン樹脂を、その特性を損なうことなく、水を含有しない媒体に分散させた分散体であって、低温時の保存安定性に優れたポリオレフィン樹脂分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、媒体にラクタム化合物と、特定の誘電率を有する極性有機化合物を用いることで、特定量の不飽和カルボン酸単位を有するポリオレフィン樹脂を、水を使わずに安定に分散することができ、しかも、得られる分散体は、低温時においても保存安定性が高くなることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
本発明は、下記を趣旨とするものである。
(1)ポリオレフィン樹脂(A)が、塩基性化合物(B)とともに、媒体に分散してなるポリオレフィン樹脂分散体であって、
ポリオレフィン樹脂(A)が、オレフィン単位と、無水マレイン酸単位0.01~25質量%と、(メタ)アクリル酸エステル単位とを含有し、
媒体が、N-メチル-2-ピロリドン(C)と、20~30℃における比誘電率が15以上である極性有機化合物(D)とを含有し、
極性有機化合物(D)が、アルコール類、ケトン類、ニトリル類、スルホキシド類のうちいずれか1つ以上を含み、
それらの質量比(C/D)が90/10~10/90であることを特徴とするポリオレフィン樹脂分散体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の分散体は、媒体としてラクタム化合物と特定の極性有機化合物を用いることで、水を含んでいないにもかかわらず、ポリオレフィン樹脂が媒体に安定に分散している。本発明の分散体は、簡便な操作で製造することができ、従来のポリプロピレンのみならず、正極材料のバインダーとして好適に使用可能なポリエチレンをも安定に分散化することができる。また、本発明の分散体は、低温時においても粘度の上昇が抑制され、保管時の温度変化による粘度変動が少ないため、温度管理を厳密にすることなく、優れた保存安定性を確保することができる。また、本発明の分散体は、水および各種有機溶剤への混合安定性に優れるため、バインダー、インキ、塗料、接着剤などの用途に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリオレフィン樹脂分散体は、不飽和カルボン酸単位の含有量が0.01~25質量%であるポリオレフィン樹脂(A)が、塩基性化合物(B)とともに、ラクタム化合物(C)と特定の極性有機化合物(D)とを含有する媒体中に分散されたものである。
【0010】
<ポリオレフィン樹脂(A)>
本発明の水性分散体を構成するポリオレフィン樹脂(A)は、不飽和カルボン酸単位を0.01~25質量%含有することが必要である。ポリオレフィン樹脂(A)は、不飽和カルボン酸単位の含有量が0.01質量%未満では、分散化(液状化)が困難になり、反対に25質量%を超えると、耐水性、耐アルカリ性が低下したり、分散体の安定性が低下する場合がある。これらの点から、不飽和カルボン酸単位の含有量は、0.05~22質量%であることが好ましく、0.1~15質量%であることがより好ましく、0.1~10質量%であることがさらに好ましく、1~10質量%であることが最も好ましい。
【0011】
ポリオレフィン樹脂(A)における不飽和カルボン酸単位は、不飽和カルボン酸や、その無水物により導入される。これらの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特に無水マレイン酸が好ましい。また不飽和カルボン酸単位は、ポリオレフィン樹脂(A)中に共重合されていればよい。その形態は限定されず、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0012】
ポリオレフィン樹脂の主成分であるオレフィン単位としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2~6のエチレン系炭化水素を挙げることができる。中でも、樹脂の柔軟性、分散化の容易さの観点から、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテンが好ましく、エチレン、プロピレン、1-ブテンが特に好ましい。また、これらのオレフィン単位は2種類以上を併用してもよい。
【0013】
さらに、ポリオレフィン樹脂(A)には、分散の容易さ、他材料との密着性、耐溶剤性、耐熱性、耐水性、分散性などを調節するために、不飽和カルボン酸単位とオレフィン単位以外に、その他のモノマー単位を有してもよい。その他のモノマー単位の具体例としては、1-オクテン、ノルボルネン類等の炭素数7以上のアルケン類やジエン類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類;(メタ)アクリル酸アミド類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類;ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;ならびにビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、2-ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの混合物を用いることもできる。その他モノマー単位の含有量は、ポリオレフィン樹脂(A)がオレフィン樹脂としての性能を損ねない範囲で適宜決定すればよいが、経済性の観点から、10質量%以下であることが好ましい。
【0014】
ポリオレフィン樹脂(A)の好ましい例として、エチレン-無水マレイン酸共重合体、プロピレン-無水マレイン酸共重合体、ブテン-無水マレイン酸共重合体、ペンテン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-ブテン-無水マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、プロピレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。中でも、分散の容易さと各種材料への密着性の観点から、エチレン-無水マレイン酸共重合体、プロピレン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体がより好ましく、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体が最も好ましい。各成分の共重合形態は限定されず、ランダム共重合、ブロック共重合等が挙げられる。中でも、重合のし易さの点から、ランダム共重合されていることが好ましい。
【0015】
なお、ポリオレフィン樹脂(A)を構成する不飽和カルボン酸単位が無水マレイン酸単位等の不飽和カルボン酸無水物単位である場合は、樹脂の乾燥状態では隣接カルボキシル基が脱水環化した酸無水物構造を形成しているが、特に塩基性化合物を含有する媒体中では、その一部、または全部が開環して、カルボン酸、あるいはその塩の構造を取りやすくなる。
【0016】
ポリオレフィン樹脂(A)の分子量は、特に限定されないが、分子量の目安となる190℃、20.2N(2160g)荷重におけるメルトフローレートが0.01~10000g/10分であることが好ましく、0.5~1000g/10分であることがより好ましく、1~500g/10分であることがさらに好ましく、1~300g/10分であることが最も好ましい。ポリオレフィン樹脂(A)は、メルトフローレートが0.01g/10分未満では、分散化が困難になり、一方、ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが10000g/10分を超えると、得られる塗膜は、もろくなり、機械的強度が低下する。
【0017】
ポリオレフィン樹脂(A)の合成法は、特に限定されず、一般的には、ポリオレフィン樹脂を構成するモノマーを、ラジカル発生剤の存在下において、高圧ラジカル共重合したのち、不飽和カルボン酸単位をグラフト共重合(グラフト変性)して合成される。
【0018】
本発明の分散体中に分散しているポリオレフィン樹脂(A)粒子の数平均粒子径は、0.001~10μmであることが好ましく、0.005~8μmであることがより好ましく、0.005~5μmであることがさらに好ましく、0.01~3μmであることが最も好ましい。分散体は、ポリオレフィン樹脂(A)粒子の数平均粒子径が0.001~10μmであると、保存安定性が高められる。ポリオレフィン樹脂(A)粒子の数平均粒子径が0.001μmを下回る分散体は、保存安定性、特に低温下での保存安定性が低下することがあり、一方、ポリオレフィン樹脂(A)粒子の数平均粒子径が10μmを超える分散体は、厚みが均一な塗膜が得られにくくなる。
【0019】
本発明の分散体におけるポリオレフィン樹脂(A)の含有率は、成膜条件、目的とする樹脂塗膜の厚さや性能等により適宜選択でき、特に限定されないが、分散体の粘性を適度に保ち、かつ良好な塗膜形成能を発現させる点で、1~60質量%であることが好ましく、3~50質量%であることがより好ましく、5~40質量%であることがさらに好ましく、7~35質量%であることが特に好ましい。
【0020】
<塩基性化合物(B)>
本発明の分散体は、塩基性化合物(B)を含有することが必要である。塩基性化合物(B)は、塗膜形成時の揮発の面から、また塗膜の耐水性、耐アルカリ性などの面から、アンモニアまたは沸点が300℃以下の有機アミン化合物であることが好ましい。沸点が300℃を超える有機アミン化合物は、樹脂塗膜から乾燥によって飛散させることが困難になり、このため塗膜は、耐水性、耐アルカリ性などが低下する場合がある。
【0021】
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3-メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン等を挙げることができる。
【0022】
分散体における塩基性化合物(B)の含有量は、ポリオレフィン樹脂(A)中のカルボキシル基に対して、0.6~3.0当量であることが好ましく、0.8~2.5当量であることがより好ましく、1.0~2.0当量であることがさらに好ましい。塩基性化合物(B)は、含有量が0.6当量未満では、効果が認められないことがあり、塩基性化合物(B)の含有量が3.0当量を超えると、分散体は粘度が高くなる場合がある。
【0023】
<媒体>
本発明において、上述の特定組成のポリオレフィン樹脂(A)を、媒体中に安定に分散させるために、媒体が、ラクタム化合物(C)と、ラクタム化合物(C)を除く20~30℃における比誘電率が15以上の極性有機化合物(D)とを含有することが必要である。
【0024】
ラクタム化合物(C)の具体例としては、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」と略称する)、N-ビニル-2-ピロリドンなどが挙げられる。中でも、取り扱い性、価格などの理由から、NMPが最も好ましい。
【0025】
ラクタム化合物(C)を除く20~30℃における比誘電率が15以上の極性有機化合物(D)の例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、スルホランなどのスルホン類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、フルフラールなどのアルデヒド類、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミドなどのアミド類、炭酸プロピレンなどのカーボネート類などが挙げられる。中でも、安全性や分散体の安定性の観点からアルコール類、ケトン類、スルホキシド類が好ましい。
上記の、20~30℃における比誘電率が15以上とは、比誘電率15以上になる温度が20~30℃の範囲に含まれるということを意味する。また、極性有機化合物(D)は2種類以上を併用してもよい。
【0026】
なお、ラクタム化合物(C)のうち、例えば、N-メチル-2-ピロリドンは、20~30℃における比誘電率が32.2(25℃)であり、極性有機化合物(D)が規定する比誘電率(15以上)を満足する。本発明においては、極性有機化合物(D)を、ラクタム化合物(C)を除くものに限定し、媒体として、ラクタム化合物(C)と極性有機化合物(D)とを組合わせて用いる。
また、本発明の分散体において、極性有機化合物(D)に代えて、水(20℃における比誘電率が80.4)を用いると、分散体は、低温保管時に、増粘・ゲル化することがある。
【0027】
上記比誘電率は、JIS C 2138に記載の方法によって測定することができる。また、各化合物の比誘電率は、「化学便覧 基礎編 改訂5版」(日本化学会編)などを参照することもできる。
【0028】
本発明の分散体は、分散体の安定性、分散体の用途、粘度、沸点、安全性、経済性などを勘案して、ラクタム化合物(C)や極性有機化合物(D)以外の有機溶媒(E)を含有してもよい。しかし、その有機溶媒(E)の種類と量は、極性有機化合物(D)との混合物における比誘電率が15以上になるものであることが必要である。混合物の比誘電率は、それぞれの成分の比誘電率に質量割合をかけたものの和で算出される。また、有機溶媒(E)の沸点は300℃以下であることが好ましい。
有機溶媒(E)としては、例えば、トルエン、酢酸エチル等を挙げることができる。
【0029】
ラクタム化合物(C)と極性有機化合物(D)の質量比(C/D)は、99/1~1/99であることが必要であり、97/3~3/97であることが好ましく、95/5~5/95であることがより好ましく、90/10~10/90であることがさらに好ましい。ラクタム化合物(C)の割合が99質量%を超えると、ポリオレフィン樹脂(A)を安定に分散させることが困難になり、一方、極性有機化合物(D)の割合が99質量%を超えると、他材料と混合した時の混合安定性が低下する。なお、分散体が、上記有機溶媒(E)を含む場合は、質量比(C/D)における(D)の質量を、(D)と(E)の質量の和(D+E)に代えて、質量比(C/(D+E))を適用する。
【0030】
本発明の分散体は、水の含有量が0.5質量%未満であることが好ましく、0.4質量%未満であることがより好ましく、0.3質量%未満であることがさらに好ましく、0.2質量%以下であることが特に好ましい。本発明の分散体は、水の含有量が0.5質量%以上であると、非水溶性の有機溶媒との混合性や保存安定性が低下したり、禁水性の材料と副反応を起こす場合がある。
分散体の水分量は、JIS K 0113に記載の電量滴定法によって測定することができる。市販の測定器を用いて測定してもよい。
【0031】
<添加剤>
本発明の分散体は、不揮発性分散化助剤を含有してもよい。不揮発性分散化助剤は、塗膜形成後にもポリオレフィン樹脂中に残存し、塗膜を可塑化することにより、ポリオレフィン樹脂の特性、例えば、耐水性や、基材との密着性などを低下させることがある。しかしながら、耐水性などの性能を必要としない用途や、ポリオレフィン樹脂の安定性をさらに向上させたい場合などにおいては、分散体は、不揮発性分散化助剤を、ポリオレフィン樹脂に対して、0.01~20質量%程度含有しても差し支えない。
【0032】
ここで、「分散化助剤」とは、分散体の製造において、分散化促進や分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物のことであり、「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは、常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
【0033】
不揮発性分散化助剤としては、乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。
【0034】
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられる。ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物や、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられる。両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0035】
保護コロイド作用を有する化合物、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニル2-ピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、アクリル酸-無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン-無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸単位の含有量が26質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
【0036】
本発明の分散体は、耐水性、耐溶剤性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために、架橋剤を、分散体中のポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して0.01~100質量部、好ましくは0.1~60質量部含有することができる。分散体は、架橋剤の含有量が0.01質量部未満の場合は、塗膜性能の向上の程度が小さく、架橋剤の含有量が100質量部を超える場合は、加工性等の性能が低下してしまう。
架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができる。例えば、イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。また、これらの架橋剤を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
さらに、本発明の分散体に、必要に応じて無機粒子、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、紫外線吸収剤等の各種薬剤を添加することで、本発明の分散体を、コーティング剤や塗料として使用することができる。この際、乾燥条件の調整のために一般に使用されている高沸点溶剤を添加することもできる。また、分散体の安定性を損なわない範囲で上記以外の有機もしくは無機の化合物を分散体に添加することも可能である。
【0038】
<製造方法>
次に、本発明のポリオレフィン樹脂分散体の製造方法について説明する。
本発明のポリオレフィン樹脂分散体を得るための製造方法は特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン樹脂(A)と、塩基性化合物(B)と、ラクタム化合物(C)および極性有機化合物(D)を含有する媒体とを、一括仕込みした後、好ましくは密閉可能な容器中で、加熱、撹拌する方法を採用することができる。この方法においては、媒体が極性有機化合物(D)を含有することが非常に重要であり、媒体が極性有機化合物(D)を含有することにより、水を含有しなくても、ポリオレフィン樹脂(A)を良好に分散体とすることができる。
また、本発明の分散体を製造する方法として、ポリオレフィン樹脂(A)を塩基性化合物(B)、ラクタム化合物(C)を含有する樹脂溶液を作製した後、さらに極性有機化合物(D)を加え、ポリオレフィン樹脂(A)粒子を析出させる方法(析出法)も採用することができる。
【0039】
原料を加熱、撹拌するための容器は、液体を投入できる槽を備え、槽内に投入された上記原料を適度に撹拌できるものであればよい。そのような装置としては、固/液撹拌装置や乳化機として広く当業者に知られている装置を使用することができる。中でも、0.1MPa以上の加圧が可能な装置を使用することが好ましい。撹拌の方法、撹拌の回転速度は、特に限定されないが、樹脂が媒体中で浮遊状態となる程度の低速の撹拌でも十分分散化が達成されるため、高速撹拌(例えば1000rpm以上)は必須ではない。このため、簡便な装置によっても分散体の製造が可能である。
【0040】
この装置の槽内に上記原料を投入し、槽内の温度を60~200℃、好ましくは80~200℃、さらに好ましくは100~180℃に保ちつつ、好ましくは5~120分間撹拌を続けることにより、ポリオレフィン樹脂(A)を十分に分散化させ、その後、好ましくは撹拌下で40℃以下に冷却することにより、分散体を得ることができる。このとき、槽内の温度が60℃未満である場合は、ポリオレフィン樹脂(A)の分散化が困難になる。反対に槽内の温度が200℃を超える場合は、ポリオレフィン樹脂(A)の分子量が低下するおそれがある。
槽内の加熱方法としては槽外部からの加熱が好ましく、例えば、オイルや水を用いて槽を加熱する、あるいはヒーターを槽に取り付けて加熱を行うことができる。槽内の冷却方法としては、例えば、室温で自然放冷する方法や、0~40℃のオイルまたは水を使用して冷却する方法を挙げることができる。析出法で必要とされるような、冷却速度の調整や、室温以下まで冷却する煩雑な工程は通常、不要である。
【0041】
なお、この後、必要に応じてさらにジェット粉砕処理を行ってもよい。ここでいうジェット粉砕処理とは、ポリオレフィン樹脂分散体のような流体を、高圧下でノズルやスリットのような細孔より噴出させ、樹脂粒子同士を衝突させたり、樹脂粒子と衝突板等とを衝突させたりすることで、機械的なエネルギーによって樹脂粒子をさらに細粒化することを意味する。そのための装置の具体例としては、A.P.V.GAULIN社製のホモジナイザー、みずほ工業社製のマイクロフルイタイザーM-110E/H等が挙げられる。
【0042】
上記のようにして、本発明の分散体は、ポリオレフィン樹脂(A)が媒体中に分散されて、均一な液状に調製される。ここで、均一な液状であるとは、外観上、分散体中に、沈殿、相分離、皮張りといった、固形分濃度が局部的に他の部分と相違する部分が、見いだされない状態にあることをいう。
【0043】
また、得られた分散体中に未分散の樹脂が残存した場合でも、製造工程中でフィルター等のろ過を行ってこうした樹脂を除去すれば、以降の工程で分散体として使用することが可能である。
【0044】
本発明によれば、ポリオレフィン樹脂(A)の分散化は、条件によってやや低下する場合もあるが、概ねきわめて良好である。すなわち、樹脂はほとんど残存することなく、分散化が良好に達成される。
【0045】
<使用例>
本発明の分散体は、混合安定性に優れ、また、分散体を構成するポリオレフィン樹脂(A)は、様々な基材との接着性、結着性に優れているので、接着剤、塗料用バインダー、電極用バインダーとして好適に使用できる。
【0046】
接着剤として使用できる基材としては、金属、ガラス、プラスチック、紙等が挙げられ、その形状は限定されない。
【0047】
本発明の分散体は、顔料あるいは染料、また必要に応じて顔料分散剤などを含有することで、塗料として使用することができる。さらには、本発明の分散体は、市販の塗料(水性、油性を問わず)に添加することもでき、それによって、塗料にダイレクトラミネート適性を付与することができる。
【0048】
電極用バインダーとしては、二次電池用電極バインダーやキャパシタ用電極バインダーなどが挙げられる。
本発明の分散体を電極用バインダーとして用いる際には、他のポリマーとして、水溶性ポリマーを含有することが好ましい。水溶性ポリマーの具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、アクリル酸またはアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸またはマレイン酸もしくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体、変性ポリビニルアルコール、変性ポリアクリル酸などが例示される。中でも、電極用バインダーの安定性の観点から、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体が好ましい。これらの水溶性ポリマーは、集電体、活物質および導電材料の各材料間の濡れ性を向上させるとともに、いわゆる増粘剤としての役割を担う。これによって、活物質と導電材、さらにこれらと金属集電体との接着性が向上し、得られる電池はサイクル特性に優れたものとなる。
【0049】
本発明の分散体に、電極用活物質と、必要に応じて導電材とを含有させることにより、二次電池電極用ペーストを調製することができる。正極用活物質としては、リチウムイオンを可逆的に放出、吸蔵でき、電子伝導度が高い材料が好ましく、例えば、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル-マンガン-コバルト酸リチウム(いわゆる三元系材料)などの遷移金属酸化物が挙げられるが、これらに限定されない。負極用活物質としては、例えばグラファイトなどの炭素材が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
本発明の分散体を用いて二次電池電極用ペーストを製造する条件や方法は、特に限定されず、本発明の分散体と、電極用活物質と、導電材とを常温もしくは適当に制御された温度で混合した後、機械的分散処理、超音波分散処理する方法等が挙げられる。その場合の混合順序については特に限定されない。
【0051】
本発明の分散体を用いることにより、少量の添加で優れた接着性を示し、良好な電解液に対する耐性、優れた安定性を有する二次電池電極用バインダーを提供することができる。また、この二次電池電極用バインダーを用いることにより、特にサイクル特性に優れた二次電池電極および二次電池を提供することができる。
【0052】
<使用方法>
次に、本発明の分散体の使用方法について説明する。
本発明の分散体は、塗膜形成能に優れているので、公知の成膜方法、例えば、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により、各種基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥または乾燥と焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な樹脂塗膜を、各種基材表面に密着させて形成することができる。
加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間は、被コーティング物である基材の特性や、分散体が含有する架橋剤の種類、配合量等により、適宜選択されるが、経済性を考慮した場合、加熱温度は、50~250℃であることが好ましく、90~230℃であることがより好ましく、100~200℃であることが特に好ましい。加熱時間は、1秒~120分であることが好ましく、10秒~60分であることがより好ましく、15秒~30分であることが特に好ましい。なお、分散体が架橋剤を含有する場合は、ポリオレフィン樹脂(A)中のカルボキシル基と架橋剤との反応あるいは架橋剤の自己反応を十分進行させるために、加熱温度および時間は架橋剤の種類によって適宜選定することが望ましい。
【0053】
本発明の分散体を用いて形成される樹脂塗膜の厚さは、その用途によって適宜選択されるが、0.01~300μmであることが好ましく、0.01~20μmであることがより好ましく、0.01~100μmであることがさらに好ましい。樹脂塗膜の厚さが上記範囲となるように成膜すれば、均一性に優れた樹脂塗膜が得られる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例・比較例における各種の特性は、以下の方法によって測定または評価した。
【0055】
(1)ポリオレフィン樹脂の組成
オルトジクロロベンゼン(d4)中、120℃にて1H-NMR、13C-NMR分析(バリアン社製の分析装置、300MHz)を行い、求めた。13C-NMR分析では、定量性を考慮したゲート付きデカップリング法を用いて測定した。
また、不飽和カルボン酸単位の含有量は、ポリオレフィン樹脂の酸価をJIS K5407に準じて測定し、その値から、次式によって求めた。
含有量(質量%)=(グラフトした不飽和カルボン酸の質量)/(原料ポリオレフィン樹脂の質量)×100
【0056】
(2)ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート
JIS K6730記載の方法(190℃、20.2N(2160g)荷重)で測定した。
【0057】
(3)ポリオレフィン樹脂の融点
DSC(Perkin Elmer社製、DSC-7)を用いて、昇温速度10℃/分で測定した。
【0058】
(4)ポリオレフィン樹脂分散体の固形分濃度
ポリオレフィン分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、その質量からポリオレフィン樹脂固形分濃度を求めた。
【0059】
(5)ポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)を用い、数平均粒子径を求めた。粒子径算出に用いる樹脂の屈折率は1.50とした。
【0060】
(6)粘度、粘度の経時変化率、低温時の保存安定性
BROOKFIELD ENGINEERING LABORATORIES,INC.製の、B型粘度計 BROOKFIELD DIAL VISCOMETER Model LVT(スピンドル18番)を用いて、温度25℃にて粘度を測定した(粘度A)。
また、温度25℃にて1日静置した後の粘度(粘度B)も温度25℃にて測定し、粘度A、Bより下記式により、粘度の経時変化率(25℃)を算出した。
粘度の経時変化率(25℃)={(粘度B/粘度A)-1}×100(%)
同様に、温度10℃にて粘度Cを測定した。さらに温度10℃にて1日静置した後の粘度(粘度D)も温度10℃にて測定し、粘度C、Dより下記式により、粘度の経時変化率(10℃)を算出した。
粘度の経時変化率(10℃)={(粘度D/粘度C)-1}×100(%)
上記「粘度の経時変化率(25℃)」と「粘度の経時変化率(10℃)」とから、下記式により、粘度の経時変化率の差を算出し、以下の基準で、低温時の保存安定性を評価した。実用上、低温時の保存安定性は、△以上の評価であることが必要である。
粘度の経時変化率の差={粘度の経時変化率(10℃)}-{粘度の経時変化率(25℃)}
◎:粘度の経時変化率の差が10%未満
○:粘度の経時変化率の差が10%以上、100%未満
△:粘度の経時変化率の差が100%以上
×:10℃保管後に分散体の流動性が失われた(ゲル化した)
【0061】
(7)コート斑
ポリオレフィン樹脂分散体を、樹脂固形分が5%になるまでトルエンで希釈した。この希釈体を、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ社製、S-38)に厚みが1μmになるようにコートし、120℃で10分乾燥させた。
その後、得られた塗膜を10cm×10cmに切り出し、100cm2あたりの、円形状のはじき・干渉縞の発生個数を目視で確認し、以下の基準でコート斑を評価した。実用上、△以上の評価であることが好ましい。
◎:発生個数が0個
○:発生個数が1~2個
△:発生個数が3~5個
×:発生個数が6個以上
【0062】
(8)正極電極の初期充放電効率
正極活物質として、ニッケル-マンガン-コバルト酸リチウムが94質量部、導電材としてアセチレンブラックが4質量部、バインダーとして本発明のポリオレフィン樹脂分散体のポリオレフィン樹脂(A)が2質量部になるように混合し、また、電極ペーストの固形分濃度が50質量%になるようにNMPを配合し、十分に混練することにより二次電池電極用ペーストを得た。
得られたペーストを、厚さ18μmのアルミ箔の片面に、乾燥後の厚さが約80μmになるようフィルムアプリケーターを用いてコートし、80℃で30分熱風乾燥させたあと、さらに水分を除去するために、120℃で15時間真空乾燥して、アルミ箔上に活物質層を形成して二次電池正極電極を得た。
この正極電極を面積が2cm2の円形になるよう切断し、黒鉛電極と組み合わせるとともに両極の間にセパレータを挟んでコイン型電池を作製し、充放電試験を行った。25℃環境下、0.2C-4.1V定電流定電圧充電後、0.2C-2.5V定電流放電を行い、初期充放電特性の評価を行った。初期充放電効率は下記の基準に基づいて算出した。
初期充放電効率(%)=(0.2C放電容量/0.2C充電容量)×100
実用上、初期充放電効率は、75%以上であることが好ましい。
【0063】
以下の実施例・比較例で使用したポリオレフィン樹脂の組成と物性を表1に示す。
【0064】
【0065】
実施例1
撹拌機とヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器に、ポリオレフィン樹脂(A)としてアルケマ社製HX-8210を100.0g、塩基性化合物(B)としてトリエチルアミン(TEA)を5.0g、ラクタム化合物(C)としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を320.0g、極性有機化合物(D)としてメタノール(比誘電率32.7、25℃)を75.0g、それぞれガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌しながら加熱した。系内温度を120℃に保って、さらに20分間撹拌した。その後、回転速度300rpmのまま撹拌しつつ、空冷して、室温(約25℃)まで冷却した。次いで、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でろ過し、淡褐色の均一なポリオレフィン樹脂分散体を得た。
【0066】
実施例2~5、比較例1~8
仕込み組成を表2に記載のように変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリオレフィン樹脂分散体を得た。
使用した極性有機化合物(D)とその他の有機溶媒(E)の比誘電率は、エチレングリコールが38.7(25℃)、アセトンが20.7(25℃)、アセトニトリルが37.5(20℃)、ジメチルスルホキシド(DMSO)が46.7(25℃)、酢酸エチルが6.0(25℃)トルエンが2.4(25℃)である。
また比較例1においては、ポリオレフィン樹脂として、ポリエチレン(住友化学社製、スミカセンL211)を用いた。
【0067】
実施例6
撹拌機とヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器に、ポリオレフィン樹脂(A)としてアルケマ社製HX-8210を100.0g、塩基性化合物(B)としてトリエチルアミン(TEA)を5.0g、ラクタム化合物(C)としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を320.0g、それぞれガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌しながら加熱した。系内温度を120℃に保って、さらに20分間撹拌した。その後、回転速度300rpmのまま撹拌しつつ、空冷して、60℃まで冷却した。その後、極性有機化合物(D)としてメタノールを75.0g加え、回転速度300rpmのまま撹拌しつつ、室温(25℃)まで空冷した。次いで、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でろ過し、淡褐色の均一なポリオレフィン樹脂分散体を得た。
【0068】
実施例・比較例における仕込み組成、得られた分散体の特性を表2に示す。
【0069】
【0070】
実施例1~6の分散体は、本発明で規定する構成であるため、ポリオレフィン樹脂粒子の数平均粒子径は十分小さく、分散体としての安定性は良好であった。また分散体をコートして得られて塗膜は、コート斑が少なく、正極電極としての電気特性も良好であった。
【0071】
比較例1では、ポリオレフィン樹脂が不飽和カルボン酸単位を含有しないものであったため、ポリオレフィン樹脂の分散化が困難であった。
比較例2~4では、ポリオレフィン樹脂を安定に分散させることができず、多量の樹脂成分の残存が確認された。
比較例5の分散体は、加熱工程を経て常温へ冷却するにつれて流動性が失われていき、各種評価を行うことはできなかった。
比較例6~7の分散体は、流動性に乏しく、各種評価を行うことはできなかった。
比較例8では、ポリオレフィン樹脂が分散したポリオレフィン樹脂分散体が得られたが、分散媒体として水を用いたため、低温時の保存安定性に乏しいものであった。この分散体は、トルエンで希釈すると、樹脂成分が凝集してコートすることができず、また、NMPを配合した分散体をバインダーとした正極電極材は、電極特性が劣るものとなった。