(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】金属箔の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 1/40 20060101AFI20240329BHJP
B21B 3/00 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B21B1/40
B21B3/00 K
(21)【出願番号】P 2020028398
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】519030936
【氏名又は名称】リカザイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180415
【氏名又は名称】荒井 滋人
(72)【発明者】
【氏名】飯田 彰一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 進
(72)【発明者】
【氏名】中澤 昭弘
(72)【発明者】
【氏名】西 雅也
(72)【発明者】
【氏名】有賀 成一
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-265876(JP,A)
【文献】特開平11-226608(JP,A)
【文献】特開平03-230814(JP,A)
【文献】特開平02-055619(JP,A)
【文献】特開平08-010845(JP,A)
【文献】特開昭49-095858(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110624980(CN,A)
【文献】米国特許第04226111(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/40
B21B 3/00
B21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料からなる素材を圧延して表面にしわ又は凹凸が発生している表面非平滑シートを形成する圧延工程と、
前記表面非平滑シートを形成する前記金属材料よりも熱膨張率の高い高熱膨張率金属体と前記表面非平滑シートを形成する前記金属材料よりも熱膨張率の低い低熱膨張率金属体との間に前記表面非平滑シートを挟み込んで被処理体を形成する挟み工程と、
前記被処理体を加熱して前記表面非平滑シートの表面に発生しているしわ又は凹凸を除去する表面処理工程とを備え
、
前記挟み工程にて、前記高熱膨張率金属体は円筒又は円柱形状であり、前記高熱膨張率金属体に前記表面非平滑シートを巻き付け、さらにその外側から前記低熱膨張率金属体を巻き付けることを特徴とする金属箔の製造方法。
【請求項2】
前記挟み工程にて、前記高熱膨張率金属体及び前記低熱膨張率金属体は前記表面非平滑シートよりも厚みが大きい平板形状であることを特徴とする請求項1に記載の金属箔の製造方法。
【請求項3】
前記金属材料はチタンニッケルであり、前記高熱膨張率金属体はステンレスであり、前記低熱膨張率金属体はチタンであり、
前記表面処理工程にて、前記被処理体の加熱は100℃以上700℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の金属箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、しわや凹凸等が発生することのない金属箔の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属箔は、その厚さが非常に薄いため、しわの発生が問題となっている。金属箔を何らかの対象物に貼り付けた際にしわが発生しないようにするため、金属箔に多数の細孔を設ける技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、金属箔は製造直後にもしわが発生してしまうことがあり、まずはこの段階でしわの発生を抑制することが肝心である。従来は金属材料からなる素材を圧延ローラ等により圧延し、薄くすることで金属箔を製造していた。圧延ローラから出てきた金属箔は、表面にしわや凹凸ができてしまっていた。
【0005】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、圧延後に発生したしわ等をなくして平滑な表面を有する金属箔を得ることができる金属箔の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明では、金属材料からなる素材を圧延して表面にしわ又は凹凸が発生している表面非平滑シートを形成する圧延工程と、前記表面非平滑シートを形成する前記金属材料よりも熱膨張率の高い高熱膨張率金属体と前記表面非平滑シートを形成する前記金属材料よりも熱膨張率の低い低熱膨張率金属体との間に前記表面非平滑シートを挟み込んで被処理体を形成する挟み工程と、前記被処理体を加熱して前記表面非平滑シートの表面に発生しているしわ又は凹凸を除去する表面処理工程とを備えたことを特徴とする金属箔の製造方法を提供する。
【0007】
好ましくは、前記挟み工程にて、前記高熱膨張率金属体は円筒又は円柱形状であり、前記高熱膨張率金属体に前記表面非平滑シートを巻き付け、さらにその外側から前記低熱膨張率金属体を巻き付ける。
【0008】
好ましくは、前記挟み工程にて、前記高熱膨張率金属体及び前記低熱膨張率金属体は前記表面非平滑シートよりも厚みが大きい平板形状である。
【0009】
好ましくは、前記金属材料はチタンニッケルであり、前記高熱膨張率金属体はステンレスであり、前記低熱膨張率金属体はチタンであり、前記表面処理工程にて、前記被処理体の加熱は100℃以上700℃以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表面処理工程にて加熱された被処理体は、この被処理体を構成する表面非平滑シートに対して一方向側から熱膨張率の高い高熱膨張率金属体にて押圧されることになり、他方側の低熱膨張率金属体からは表面非平滑シートよりも熱膨張率が低いため押圧されない。すなわち表面非平滑シートは一方向からのみ押圧されるので、発生しているしわ又は凹凸が効率よく延ばされて除去される。
【0011】
また、高熱膨張率金属体を円筒又は円柱形状とし、表面非平滑シート及び低熱膨張率金属体をこれに巻き付けることで、さらに均一に表面非平滑シートを押圧することができ、発生しているしわ又は凹凸を効率よく除去することができる。
【0012】
また、高熱膨張率金属体及び低熱膨張率金属体を表面非平滑シートよりも厚みが大きい平板形状とすることで、挟み工程での挟む操作が行いやすくなり、取り扱い性が向上する。
【0013】
また、金属材料をチタンニッケル、高熱膨張率金属体をステンレス、低熱膨張率金属体をチタンとし、表面処理工程での加熱温度を100℃以上700℃以下とすることで、十分に熱膨張率の違いを利用して表面非平滑シートを押圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る金属箔の製造方法フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すように、本発明に係る金属箔の製造方法は、まず圧延工程が行われる(ステップS1)。この圧延工程は、金属材料からなる素材を圧延して表面にしわ又は凹凸が発生している表面非平滑シートを形成する工程である。これは通常行われている金属シートの製造であり、圧延ローラ等により素材を押圧することで転圧しながら素材を薄くしていく。ここで得られた金属シートは、表面にしわや凹凸があるようなものであり、表面は平滑ではない。つまり、見栄えとしてはあまりよくないものである。
【0016】
次に、挟み工程が行われる(ステップS2)。この挟み工程は、表面非平滑シートを形成する金属材料よりも熱膨張率の高い高熱膨張率金属体と表面非平滑シートを形成する金属材料よりも熱膨張率の低い低熱膨張率金属体との間に表面非平滑シートを挟み込んで被処理体を形成する工程である。すなわち、素材よりも熱膨張率の高い高熱膨張率金属体を用意し、さらに素材よりも熱膨張率の低い低熱膨張率金属体を用意する。そしてこれらの間に圧延工程にて得られた表面非平滑シートを挟み込む。この表面非平滑シートが高熱膨張率金属体と低熱膨張率金属体との間に挟まれた状態のものが被処理体となる。
【0017】
次に、表面処理工程が行われる(ステップS3)。この表面処理工程は、被処理体を加熱して表面非平滑シートの表面に発生しているしわ又は凹凸を除去する工程である。具体的には、被処理体を加熱炉等に入れ込んで加熱をする。このとき、被処理体が加熱されることで、この被処理体を構成する表面非平滑シートに対して一方向側から熱膨張率の高い高熱膨張率金属体にて表面非平滑シートは押圧されることになる。低熱膨張率金属体は表面非平滑シートよりも熱膨張率が低いため、他方側の低熱膨張率金属体からは表面非平滑シートは押圧されない。したがって表面非平滑シートは一方向からのみ押圧されるので、発生しているしわ又は凹凸が効率よく延ばされて除去される。両面側から押圧されると、互いの押圧部分が異なる部分が生じ、さらにしわ等が発生してしまうからである。ただし、ただ一方向のみから表面非平滑シートを押圧するのではなく、他方側から抑えとして低熱膨張率金属体は作用し、表面非平滑シートに対して平滑な表面を形成することに寄与している。このように表面非平滑シートは表面のしわ又は凹凸が除去されて金属箔となる。
【0018】
図2に示すように、挟み工程にて使用する高熱膨張率金属体1は円筒又は円柱形状である(図では円筒形状)。挟み工程ではさらに圧延工程で得られた表面非平滑シート2及び低熱膨張率金属体3を用意する。この場合の低熱膨張率金属体3は平面非平滑シート2と厚さも同様程度のシート形状である。ただし、低熱膨張率金属体3の長さは表面非平滑シート2よりも長い。そして、
図3に示すように、高熱膨張率金属体1に圧延工程にて得られた表面非平滑シート2が巻き付けられる。さらにその外側から低熱膨張率金属体3が巻き付けられる。このとき、低熱膨張率金属体3は表面非平滑シート2よりも長いので、表面非平滑シート2の全体は確実に覆われる。表面非平滑シート2及び低熱膨張率金属体3は、例えば図示しないクリップ等で高熱膨張率金属体1に固定される。このようにして高熱膨張率金属体1、表面非平滑シート2、低熱膨張率金属体3が一体となったものが被処理体4となる。このような状態の被処理体4を次なる表面処理工程で加熱すると、さらに均一に表面非平滑シート2を押圧することができ、発生しているしわ又は凹凸を効率よく除去することができる。
【0019】
図4に示すように、別の被処理体4を形成する方法として、挟み工程にて使用する高熱膨張率金属体1及び低熱膨張率金属体3を表面非平滑シート2よりも厚みが大きい平板形状としてもよい。また、この場合、高熱膨張率金属体1及び低熱膨張率金属体3は表面非平滑シート2よりも表面積が大きい。これにより、確実に表面非平滑シート2の全体を覆って挟むことができる。また、高熱膨張率金属体1及び低熱膨張率金属体3を平板形状とすることで、挟み工程での挟む操作が行いやすくなり、取り扱い性が向上する。
図5に示すように、このようにして形成された被処理体4は略直方体形状となるので、その後の表面処理工程で加熱炉等に入れ込んで配置する際もスペース的に効率がよい。
【0020】
上述したように、高熱膨張率金属体1は表面非平滑シート2よりも熱膨張率が高い金属であれば何でもよいし、低熱膨張率金属体3は表面非平滑シート2よりも熱膨張率が低い金属であれば何でもよいが、好適には、表面非平滑シート2を形成する金属材料はチタンニッケルであり、高熱膨張率金属体1を形成する金属はステンレスであり、低熱膨張率金属体3を形成する金属はチタンである。これらの金属の熱膨張率は、100℃にて、チタンニッケルは10%、ステンレスは16.3%、チタンは8.4%である。このような熱膨張率の差であれば、金属箔として見栄えよく、表面が鏡面状になることを確認している。また、これらの金属を用いた際に、表面処理工程での被処理体4の加熱は100℃以上700℃以下である。100℃での熱膨張率の差は上述したように十分にあるため、100℃であっても表面非平滑シート2のしわ等の除去ができるからであり、700℃以上であると金属の形状に影響が出てしまうからである。すなわち、この温度の範囲であれば、十分にこれらの熱膨張率の違いを利用して表面非平滑シート2を押圧することができる。
【符号の説明】
【0021】
1:高熱膨張率金属体、2:表面非平滑シート、3:低熱膨張率金属体、4:被処理体