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  • 特許-ダイラタント組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】ダイラタント組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20240329BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20240329BHJP
   C08K 5/55 20060101ALI20240329BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240329BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20240329BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20240329BHJP
   F16F 9/30 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K5/053
C08K5/55
F16F15/02 Q
F16F15/023 Z
F16F7/00 E
F16F9/30
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020060518
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021155685
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】306026980
【氏名又は名称】株式会社タイカ
(72)【発明者】
【氏名】浅見 和典
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-207161(JP,A)
【文献】特開平08-303510(JP,A)
【文献】特開昭61-089281(JP,A)
【文献】特開平01-098686(JP,A)
【文献】特表2009-529084(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0366655(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00- 83/16
C08K 3/00- 13/08
F16F 7/00- 15/36
CAplus/Registry(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基末端ポリシロキサンとホウ素化合物を主成分とするダイラタント組成物であって、
前記水酸基末端ポリシロキサン100重量部に対してグリセリン1~40重量部を含み、前記ホウ素化合物はホウ酸誘導体であり、前記ホウ酸誘導体の配合割合は前記水酸基末端ポリシロキサン100重量部に対して2~70重量部であり、前記ホウ酸誘導体はホウ酸トリアルキルであることを特徴とするダイラタント組成物。
【請求項2】
前記ダイラタント組成物は、150℃で1時間加熱したときの加熱前後の10Hzの複素弾性率の変化量の割合が、加熱前の10Hzの複素弾性率に対して10%以下であることを特徴とする請求項に記載のダイラタント組成物。
【請求項3】
ケーシングと、前記ケーシング内に充填されたダイラタント材とからなる緩衝部材であって、前記ダイラタント材は請求項1または請求項2に記載のダイラタント組成物の架橋物であることを特徴とする緩衝部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイラタント組成物に関し、より詳細には水酸基末端ポリシロキサンとホウ素化合物を主成分とする耐熱性に優れたダイラタント組成物及び該ダイラタント組成物を用いた緩衝部材に関する。
【背景技術】
【0002】
せん断速度の増大とともに粘度が大きく変化するダイラタント流体は、緩衝部材への応用が進んでおり、各種の材料が提案されている。そのうちシリコーン系ダイラタント材料としては、ホウ素架橋オルガノポリシロキサンが知られており、エネルギー吸収材としての用途が見出されている。例えば、特許文献1には、ジオルガノポリシロキサンと、末端にアルコキシ基を有するオルガノポリシロキサンと、ホウ酸又は酸化ホウ素と、流動パラフィンとを配合してなるシリコーンパテ組成物が提案されている。
【0003】
このシリコーンパテ組成物をはじめとするダイラタント性を有するホウ素架橋オルガノポリシロキサン組成物は、せん断応力を受けていない状態では流動して形状を保てない場合があるため、緩衝部材として使用される場合には、例えばケーシングに充填封止されたり、基材に含侵させたりして組み込まれている。基材にダイラタント材料を含侵させて組み込んだ形態の具体例として、特許文献2にはダイラタントホウ素架橋オルガノポリシロキサンのエマルジョンから製造されたコーティング剤を含浸させた布地が提案されている。
【0004】
また、ケーシングにダイラタント材を充填・封止した形態として、特許文献3には、オルガノポリシロキサンとホウ酸混合物とを混合して得られるバウンシングパテと称するシリコーンパテ組成物に有弾性微小中空球体を混入した応力緩衝素材を、二枚のフィルムの間に挟み込んで封入した構造の緩衝部が形成された保護具が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-001227号公報
【文献】特許5536754号公報
【文献】特開平4-117974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述のようなダイラタント組成物は、ケーシングに充填封止する形態及び含侵する形態の何れの方法においても、加工条件として高温下に晒される場合がある。特に上述のようなホウ素架橋オルガノポリシロキサンからなるダイラタント組成物は、高温に晒されるとダイラタント性が低下する場合があるため耐熱性の向上が望まれていた。
【0007】
従って、本発明は従来技術の上述した問題点を解消するものであり、その目的は、耐熱性に優れたホウ素架橋オルガノポリシロキサン系のダイラタント組成物を提供することにある。
【0008】
また、本発明の第2の目的は、耐熱性に優れたホウ素架橋オルガノポリシロキサン系のダイラタント組成物を適用した緩衝部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のダイラタント組成物は、水酸基末端ポリシロキサンとホウ素化合物を主成分とするダイラタント組成物であって、水酸基末端ポリシロキサン100重量部に対してグリセリン1~40重量部を含み、ホウ素化合物はホウ酸誘導体であり、ホウ酸誘導体の配合割合は水酸基末端ポリシロキサン100重量部に対して2~70重量部で構成されている。
【0010】
水酸基末端ポリシロキサンとホウ素化合物とが架橋反応することによってダイラタント性が発現し、ホウ素化合物として熱分解しにくいホウ酸誘導体を使用し、水酸基末端ポリシロキサン100重量部に対してグリセリンが1~40重量部、ホウ酸誘導体が2~70重量部の配合割合の構成とすることで、耐熱性に優れたダイラタント組成物を得ることができる。
【0011】
また、本発明のダイラタント組成物におけるホウ酸誘導体は、ホウ酸トリアルキルであることが好ましい。ホウ酸トリアルキルは液状であるため、水酸基末端ポリシロキサンへの分散が容易であり、水酸基末端ポリシロキサンとの架橋反応性に優れるため、ダイラタント性がより安定したダイラタント組成物を得ることができる。
【0012】
また、本発明のダイラタント組成物は、150℃で1時間加熱したときの加熱前後の10Hzにおける複素弾性率の変化量の割合が加熱前の10Hzにおける複素弾性率に対して10%以下であることも好ましい。これにより、高温環境下で使用される物品へ幅広く適用できる。また、高温条件下で加工してもダイラタント性が低下しないため、加工前のダイラタント性能を維持した状態で加工品を得ることができる。
【0013】
また、本発明の緩衝部材は、ケーシングと、該ケーシング内に充填されたダイラタント材とからなる緩衝部材であって、このダイラタント材は上記のいずれか一項に記載のダイラタント組成物の架橋物である。これにより、ダイラタント組成物はケーシングに封止されているので、衝撃が加わらない状態でも形状が保たれ、衝撃が加わった際にはダイラタント性によって複素弾性率が大きくなって衝撃を緩衝することができる。そして、ダイラタント組成物が耐熱性に優れるため、高温条件で加熱する工程を経てもダイラタント性能が低下しないので、ダイラタント組成物の性能がそのまま反映された緩衝性能を有する。また、高温環境下で使用してもダイラタント性能に基づく緩衝特性が低下し難い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐熱性に優れるホウ素架橋オルガノポリシロキサン系のダイラタント組成物を提供することができる。また、本発明のダイラタント組成物の架橋物がケーシングに充填された構造とすることによって、高温環境下で使用してもダイラタント性に基づく緩衝特性が低下しにくい緩衝部材を提供することができる。また、加熱加工においてもダイラタント特性が低下し難いため、ダイラタント組成物の性能を維持した状態で加工品としての緩衝部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の緩衝部材の構造を模式的に表した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るダイラタント組成物は、水酸基末端ポリシロキサンとホウ素化合物を主成分とするダイラタント組成物であって、水酸基末端ポリシロキサン100重量部に対してグリセリン1~40重量部を含み、ホウ素化合物はホウ酸誘導体であり、ホウ酸誘導体の配合割合は水酸基末端ポリシロキサン100重量部に対して2~70重量部で構成されていることを特徴とする。以下項目毎に説明する。
【0017】
1.水酸基末端ポリシロキサン
本発明のダイラタント組成物を構成する水酸基末端ポリシロキサンは、ホウ酸誘導体と架橋反応してダイラタント性を発現させるホウ素架橋オルガノポリシロキサンとなる成分である。水酸基末端ポリシロキサンは、本発明の作用効果が得られれば特に限定されないが、例えば、シラノール末端ジメチルポリシロキサン、シラノール末端ポリジフェニルシロキサン、シラノール末端ポリトリフルオロプロピルメチルシロキサン等が用いられ、入手の簡便性やダイラタント応答性の観点からシラノール末端ジメチルポリシロキサンが好適に用いられる。このシラノール末端ポリオルガノシロキサンの市販品としては、例えばXC96-723、YF3800、XF3905、YF3057及びYF3807(何れもモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製品)、DMS-S12、DMS-S14及びDMS-S15(何れもアヅマックス株式会社製品)などを用いることができる。また、ダイラタント性を発現させるための水酸基末端ポリシロキサンとホウ酸誘導体との架橋反応の制御が容易である観点から、水酸基末端ポリシロキサンの重量平均分子量は400~40000のものが好ましく、400~4000のものがより好ましい。
【0018】
2.ホウ酸誘導体
本発明のダイラタント組成物を構成するホウ素化合物はホウ酸誘導体であり、水酸基末端ポリシロキサンと架橋反応してダイラタント性を発現させるホウ素架橋オルガノポリシロキサンとなる成分である。ホウ酸誘導体は、水酸基末端ポリシロキサンと架橋反応するものであれば特に限定されないが、例えば、ホウ酸、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリフェニル等が適用でき、その中でも水酸基末端ポリシロキサンへの分散性耐熱性、架橋反応性の観点からホウ酸トリアルキルが好ましく、水酸基末端ポリシロキサンとの架橋反応速度と耐熱性の観点からホウ酸トリメチルがより好ましい。
【0019】
3.グリセリン
本発明のダイラタント組成物を構成するグリセリンは、水酸基末端ポリシロキサンとホウ素化合物との架橋反応物に作用してダイラタント組成物の耐熱性を向上させるための成分である。グリセリンがどのように作用しているかは不明であるが、グリセリンは、炭素骨格の両末端と中間に水酸基を有しているため、水酸基末端ポリシロキサンに分散しやすく、ホウ酸誘導体の一部と架橋反応することが耐熱性の向上に関与していると推察される。また、グリセリンは熱分解温度が290℃と高く熱分解しにくいので、高温環境下においても上述の作用が維持されるため、ダイラタント組成物の耐熱性を維持させることができる。また、グリセリンは、上述のホウ酸誘導体と反応する作用を利用して、ダイラタント組成物の複素弾性率を高めるための調整剤としても機能させることもできる。
【0020】
本発明のダイラタント組成物を構成する各成分の配合割合は、ホウ酸誘導体は、水酸基末端ポリシロキサン100重量部に対して2~70重量部であり、30~50重量部であることが好ましい。ホウ酸誘導体の配合割合が水酸基末端ポリシロキサン100重量部に対して2重量部未満であるとホウ酸誘導体と未反応の水酸基末端ポリシロキサンが過剰になるため流動性が高く、十分なダイラタント性が得られず、70重量部を超えると水酸基末端ポリシロキサンと未反応のホウ酸誘導体が過剰になるため流動性が高く、十分なダイラタント性が得られない。
【0021】
また、グリセリンの配合割合は、水酸基末端ポリシロキサン100重量部に対して1~40重量部であり、2~15重量部であることが好ましい。グリセリンの配合割合が、水酸基末端ポリシロキサン100重量部に対して1重量部未満であると、ダイラタント組成物の耐熱性が不十分となり、40重量部を超えると水酸基末端ポリシロキサンやホウ酸誘導体との相溶性が低下して、ダイラタント組成物に混在させることが困難となり、均一なダイラタント組成物が得られなくなる。
【0022】
また、本発明のダイラタント組成物には、ダイラタント組成物の低周波数側における複素弾性率を低く調整する目的で、可塑剤を配合させることができる。この可塑剤としては、ダイラタント組成物の低周波数側における複素弾性率を低減させことができる化合物であれば特に限定されないが、一例として、不飽和脂肪酸、長鎖脂肪酸エステル、流動パラフィン、シリコーンオイル等が好適である。
【0023】
また、本発明のダイラタント組成物には、さらに無機フィラーを配合させることができる。無機フィラーを配合させることによって、低せん断速度域の複素弾性率を保ったまま高せん断速度域の複素弾性率をさらに高くでき、せん断速度に対するダイラタント性の応答性をより向上させることができる。無機フィラーとしては、ダイラタント組成物の低せん断速度域の複素弾性率を保ったまま高せん断速度域の複素弾性率を高くできるものであれば特に限定されないが、例えばシリカ微粒子、ベーマイト、マグネタイト等を用いることができるこのうち、水酸基末端ポリシロキサンへの分散性等の観点からシリカ微粒子が好ましい。無機フィラーがシリカ微粒子の場合、上述した水酸基末端ポリシロキサンとホウ酸誘導体との架橋反応生成物について、低周波数側における複素弾性率を増大させることなく、高周波数側における複素弾性率を大きく増大させるようにする観点から、平均粒子径は0.1~40μmであることが好ましく、1~30μmであることが特に好ましい。市販されているシリカ微粒子としては、例えば、エクセリカ(登録商標)SE-30、エクセリカSE-40(いずれも株式会社トクヤマ製品)等を用いることができる。なお、シリカ微粒子の平均粒子径は、SEM法による数値であり、具体的には、SEM又はTEM(透過型電子顕微鏡)で一次粒子が視認できる倍率の画像において、ランダムに選択した100個の微粒子の一次粒子画像のそれぞれ輪郭の最長径を測定し、相加平均して得られた数値である。
【0024】
また、本発明のダイラタント組成物は、その他の任意成分として顔料や難燃剤、光安定化剤などを本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。
【0025】
本発明のダイラタント組成物が有する耐熱性の具体的な性能として、150℃で1時間加熱したときの加熱前後の10Hzにおける複素弾性率の変化量の割合が加熱前の10Hzにおける複素弾性率に対して10%以下とすることができる。これにより、高温環境下で使用される物品へ幅広く適用できる。また、無機フィラーがさらに添加されると、低せん断速度域の複素弾性率と高せん断速度域の複素弾性率の変化がより大きく、ダイラタント性のせん断速度に対する応答性がさらに向上する。
【0026】
本発明のダイラタント組成物は、水酸基末端ポリシロキサンに、水酸基末端ポリシロキサン100重量部に対して2~70重量部のホウ酸誘導体と1~40重量部のグリセリンを混合することで製造できる。混合手段は、ケミカルミキサーなどの公知の混合装置や攪拌装置を適用できる。混合時には、必要に応じて加熱や減圧してもよい。
【0027】
次に、本発明の緩衝部材について説明する。本発明の緩衝部材は、本発明のダイラタント組成物を緩衝材として適用したものであり、ケーシングと、このケーシング内に充填されたダイラタント材とからなり、ダイラタント材として本発明のダイラタント組成物の架橋物が適用された構成である。図1に示した例では、ケーシング3は容器部3aと蓋部3bから構成され、容器部3aにダイラタント組成物の架橋物2が充填され、蓋部3bと容器部3aの接面を溶着などで封止された構成となっている。容器部3aの空隙は、複数に分割された構造や、発泡体のセルのような構造としてもよい。また、ダイラタント組成物の架橋物2が無負荷状態での保形性を有する場合には、蓋部3bによる封止をしない構造としてもよい。また、ケーシング3は、せん断速度が小さい衝撃が加わったときにダイラタント組成物の架橋物2が変形できるように柔軟性を有することが好ましく、さらに衝撃力が除かれたときに形状復元できる弾性を有することがより好ましい。このような要件を満たせばケーシング3の素材や構造は特に限定しないが、素材としてはゴムなどの弾性素材が好適である。このような構成とすることによって、衝撃力が小さくダイラタント組成物の架橋物2に印加されるせん断速度が小さい場合には、緩衝部材1は衝撃方向に変形しやすく、衝撃が大きくダイラタント組成物の架橋物2に印加されるせん断速度が大きい場合には、瞬時に複素弾性率が高くなって衝撃エネルギーを吸収するとともに、衝突物の進行を妨げて保護対象物の損傷を防止することができる。
【実施例
【0028】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に特に限定されるものではない。
【0029】
以下の実施例及び比較例におけるダイラタント組成物について、加熱による複素弾性率の変化率によって耐熱性を評価した。加熱による複素弾性率の変化率は、ダイラタント組成物の10Hzにおける複素弾性率を150℃×1時間加熱する前後で測定し、加熱前後の複素弾性率の変化量を加熱前の複素弾性率で除して算出し、変化率が10%以下のものを優良(〇)、10%超~15%のものを良(△)、15%を超えたものを不可(×)とした。なお、複素弾性率の測定は、ダイラタント組成物をφ25mm×2mm厚の円板形状に成形したものを試験体とし、試験体が流動し始める前に、動的粘弾性測定装置(ARES-G2;ティー・エイ・インスツルメント社製品)を用いて、測定温度は25℃にて行った。
【0030】
以下の実施例及び比較例で使用したホウ素化合物は、表1に示した通りである。
【0031】
【表1】
【0032】
[実施例1]
水酸基末端ポリシロキサンであるシラノール末端ジメチルポリオルガノシロキサン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、XC96-723)100重量部に対して、ホウ素化合物としてホウ酸誘導体(ホウ酸トリアルキル)であるホウ酸トリメチル(表1の材料B1)2重量部、グリセリン(TCI社製、Glycerol)1重量部の配合割合で、ケミカルミキサーを用いて減圧下(7Pa)でシラノール末端ジメチルポリオルガノシロキサンとホウ酸トリメチルの反応が完了するまで撹拌混合を行い、実施例1のダイラタント組成物を得た。実施例1のダイラタント組成物について、上述した評価方法に従い、耐熱性を評価した。
【0033】
[実施例2]
実施例1において、グリセリンの配合割合をシラノール末端ジメチルポリオルガノシロキサン100重量部に対して7重量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例2のダイラタント組成物を得た。実施例2のダイラタント組成物について、上記の方法で耐熱性を評価した。
【0034】
[実施例3]
実施例1において、グリセリンの配合割合をシラノール末端ジメチルポリオルガノシロキサン100重量部に対して40重量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例3のダイラタント組成物を得た。実施例3のダイラタント組成物について、上記の方法で耐熱性を評価した。
【0035】
[実施例4]
実施例1において、ホウ酸トリメチルの配合割合をシラノール末端ジメチルポリオルガノシロキサン100重量部に対して40重量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例4のダイラタント組成物を得た。実施例4のダイラタント組成物について、上記の方法で耐熱性を評価した。
【0036】
[実施例5]
実施例1において、シラノール末端ジメチルポリオルガノシロキサン100重量部に対して、グリセリンの配合割合を7重量部とし、ホウ酸トリメチルの配合割合を40重量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例5のダイラタント組成物を得た。実施例5のダイラタント組成物について、上記の方法で耐熱性を評価した。
【0037】
[実施例6]
実施例1において、シラノール末端ジメチルポリオルガノシロキサン100重量部に対して、グリセリンの配合割合を40重量部とし、ホウ酸トリメチルの配合割合を40重量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例6のダイラタント組成物を得た。実施例6のダイラタント組成物について、上記の方法で耐熱性を評価した。
【0038】
[実施例7]
実施例1において、ホウ酸トリメチルの配合割合をシラノール末端ジメチルポリオルガノシロキサン100重量部に対して70重量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例7のダイラタント組成物を得た。実施例7のダイラタント組成物について、上記の方法で耐熱性を評価した。
【0039】
[実施例8]
実施例1において、シラノール末端ジメチルポリオルガノシロキサン100重量部に対して、グリセリンの配合割合を7重量部とし、ホウ酸トリメチルの配合割合を70重量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例8のダイラタント組成物を得た。実施例8のダイラタント組成物について、上記の方法で耐熱性を評価した。
【0040】
[実施例9]
実施例1において、シラノール末端ジメチルポリオルガノシロキサン100重量部に対して、グリセリンの配合割合を40重量部とし、ホウ酸トリメチルの配合割合を70重量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例9のダイラタント組成物を得た。実施例9のダイラタント組成物について、上記の方法で耐熱性を評価した。
【0041】
[実施例10]
実施例5において、ホウ素化合物をホウ酸トリアルキルであるホウ酸トリエチル(表1の材料B2)とした以外は実施例5と同様にして、実施例10のダイラタント組成物を得た。実施例10のダイラタント組成物について、上記の方法で耐熱性を評価した。
【0042】
[実施例11]
実施例5において、ホウ素化合物をホウ酸トリアルキルであるホウ酸トリプロピル(表1の材料B3)とした以外は実施例5と同様にして、実施例11のダイラタント組成物を得た。実施例11のダイラタント組成物について、上記の方法で耐熱性を評価した。
【0043】
[実施例12]
実施例5において、ホウ素化合物をホウ酸誘導体であるホウ酸トリフェニル(表1の材料B4)とした以外は実施例5と同様にして、実施例12のダイラタント組成物を得た。実施例12のダイラタント組成物について、上記の方法で耐熱性を評価した。
【0044】
実施例1~6のダイラタント組成物の耐熱性の評価結果を表2に、実施例7~12のダイラタント組成物の耐熱性の評価結果を表3に示した。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
[比較例1]
実施例5において、ホウ素化合物をホウ酸誘導体ではないトリメトキシボロキシン(表1の材料B5)とした以外は実施例5と同様にして、比較例1のダイラタント組成物を得た。比較例1のダイラタント組成物について、上記の方法で耐熱性を評価した。
【0048】
[比較例2]
実施例5において、グリセリンが配合されない(配合割合が0重量部)こと以外は実施例5と同様にして、比較例2のダイラタント組成物を得た。比較例2のダイラタント組成物について、上記の方法で耐熱性を評価した。
【0049】
[比較例3]
実施例5において、シラノール末端ジメチルポリオルガノシロキサン100重量部に対して、グリセリンの配合割合を0.5重量部とした以外は実施例5と同様にして、比較例3のダイラタント組成物を得た。比較例3のダイラタント組成物について、上記の方法で耐熱性を評価した。
【0050】
[比較例4]
実施例5において、シラノール末端ジメチルポリオルガノシロキサン100重量部に対して、グリセリンの配合割合を50重量部とした以外は実施例5と同様にして、比較例4のダイラタント組成物を得た。比較例4のダイラタント組成物について、上記の方法で耐熱性を評価した。
【0051】
[比較例5]
実施例5において、シラノール末端ポリオルガノシロキサン100重量部に対して、ホウ酸トリメチルの配合割合を1重量部とした以外は実施例5と同様にして、比較例5のダイラタント組成物を得た。比較例5のダイラタント組成物について、上記の方法で耐熱性を評価した。
【0052】
[比較例6]
実施例5において、シラノール末端ジメチルポリオルガノシロキサン100重量部に対して、ホウ酸トリメチルの配合割合を80重量部とした以外は実施例5と同様にして、比較例6のダイラタント組成物を得た。比較例6のダイラタント組成物について、上記の方法で耐熱性を評価した。
【0053】
比較例1~6のダイラタント組成物の耐熱性の評価結果を表4に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
実施例1~12の評価結果から、本発明の構成を備えるダイラタント組成物は、高温環境下においても複素弾性率の変化が小さい結果となっており、耐熱性に優れていることがわかった。また、表2と表3には結果として記載していないが、実施例1~11のダイラタント組成物は、ホウ酸誘導体としてホウ酸トリアルキルを適用しているため、粉末状のホウ酸トリフェニルを適用した実施例12のダイラタント組成物に比べて水酸基末端ポリシロキサンへの分散が容易で生産性に優れていることが分かった。
【0056】
一方、比較例1の評価結果から、ホウ酸化合物としてホウ酸誘導体以外を用いたダイラタント組成物は、高温環境下での複素弾性率の変化が大きいことから耐熱性が改善されないことがわかった。また、比較例2及び比較例3の評価結果から、グリセリンを含まない、もしくは配合割合が1重量部未満のダイラタント組成物も、耐熱性が改善されないことがわかった。また、比較例4の評価結果から、グリセリンの配合割合が水酸基末端ポリシロキサン100重量部に対して40重量部を超えたダイラタント組成物は、耐熱性は有するものの、表4の不具合内容の欄に記載の通り、水酸基末端ポリシロキサンやホウ酸誘導体との相溶性が悪くなって均一なダイラタント組成物が得られないことがわかった。また、比較例5の評価結果から、ホウ酸誘導体の配合割合が水酸基末端ポリシロキサン100重量部に対して2重量%未満となると、耐熱性は有するものの、ホウ酸誘導体と未反応の水酸基末端ポリシロキサンの量が過剰になるため流動性が著しく高く、表4の不具合内容の欄に記載の通り、十分なダイラタント性が得られなかった。また、比較例6の評価結果から、ホウ酸誘導体の配合割合が水酸基末端ポリシロキサン100重量部に対して70重量%を超えると、耐熱性は有するものの、水酸基末端ポリシロキサンと未反応のホウ酸誘導体の量が過剰になるため流動性が著しく高く、表4の不具合内容の欄に記載の通り、十分なダイラタント性が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のダイラタント組成物は、高温環境下での継続的な使用や加工においても、ダイラタント性に基づく緩衝特性が低下し難いため、緩衝部材用の材料として好適である。また、本発明のダイラタント組成物を適用した緩衝部材は、特に高温環境下で使用される緩衝部材として有用である。
【符号の説明】
【0058】
1 緩衝部材
2 ダイラタント組成物の架橋物
3 ケーシング
3a 容器部
3b 蓋部
図1