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特許7462303歯科用補綴装置および歯科用補綴装置の作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】歯科用補綴装置および歯科用補綴装置の作製方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/263 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
A61C13/263
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020106326
(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公開番号】P2022001097
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】595148176
【氏名又は名称】学校法人大阪歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(72)【発明者】
【氏名】三野 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】窪木 拓男
(72)【発明者】
【氏名】黒▲崎▼ 陽子
(72)【発明者】
【氏名】山下 敦
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1476698(KR,B1)
【文献】特表2010-521218(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0286440(US,A1)
【文献】特表2006-512179(JP,A)
【文献】特開平04-341257(JP,A)
【文献】登録実用新案第3219924(JP,U)
【文献】特開昭56-045650(JP,A)
【文献】米国特許第01394299(US,A)
【文献】米国特許第05888068(US,A)
【文献】江草宏,ピンテクニックを用いた上顎前歯部コンビネーション型接着ブリッジ症例,日本補綴歯科学会誌,2014年,6巻、1号,pp.71-74,https://doi.org/10.2186/ajps.6.71
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 1/00-13/38
A61C 19/00-19/10
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯牙が欠損した個所に人工歯を設置するための補綴装置であって、
該補綴装置は、
人工歯と、
該人工歯が取り付けられ、歯牙が欠損した個所に隣接する支台歯の舌側面に設置される支台部と、
該支台部を前記支台歯に連結する、第一端部に頭部を有し軸部に雄ネジが形成された連結ピンと、を備えたブリッジを有しており、
前記支台歯には、
唇側面と舌側面との間を連通する、前記連結ピンが挿通されるピン孔が形成されており、
前記支台部には、
前記連結ピンの雄ネジが螺合する雌ネジ孔が形成されており、
前記ピン孔の前記支台歯の唇側面側および舌側面側にはそれぞれ拡径部が形成されており、
該拡径部は、
その内径が両拡径部を繋ぐ連結孔の内径よりも大きくなっており、
前記連結ピンの頭部は、
前記ピン孔の唇側面側の拡径部よりも外径が小さく形成されており、
前記支台部は、
前記支台歯の舌側面と接触するように配置される接触面に前記ピン孔の舌側面の拡径部内に配置される凸部が設けられており、
前記凸部から該支台部の背面まで連通するように前記雌ネジ孔が形成されている
ことを特徴とする歯科用補綴装置。
【請求項2】
歯牙が欠損した個所に人工歯を設置するための補綴装置であって、
該補綴装置は、
人工歯と、
該人工歯が取り付けられ、歯牙が欠損した個所に隣接する支台歯の舌側面に設置される支台部と、
該支台部を前記支台歯に連結する、第一端部に頭部を有し軸部に雄ネジが形成された連結ピンと、を備えたブリッジを有しており、
前記支台歯には、
舌側面に開口を有する、前記連結ピンが挿通されるピン孔が形成されており、
該ピン孔は、
内面に雌ネジが形成されためくら孔であり、
前記支台部には、
該支台部において前記支台歯の舌側面に接触する接触面と該支台部において該接触面の反対側に位置する背面との間を貫通する、前記連結ピンの雄ネジが螺合する雌ネジ孔が形成されており、
前記ピン孔の前記支台歯の舌側面には拡径部が形成されており、
前記支台部は、
前記接触面に前記ピン孔の舌側面の拡径部内に配置される凸部が設けられており、
前記雌ネジ孔は、
前記凸部から該支台部の背面まで連通するように形成されている
ことを特徴とする歯科用補綴装置。
【請求項3】
前記支台部の雌ネジ孔は、
該支台部の背面側に、内径が該雌ネジ孔において雌ネジが形成されている部分の内径よりも大きい拡径部を有しており、
前記連結ピンの頭部は、
前記雌ネジ孔の拡径部よりも外径が小さい
ことを特徴とする請求項2記載の歯科用補綴装置。
【請求項4】
前記支台部は、
歯根側に位置する端縁が前記支台歯の位置にある歯肉との間に隙間が形成される大きさに形成されている
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の歯科用補綴装置。
【請求項5】
前記支台歯のピン孔を形成するためのドリルキットを備えており、
該ドリルキットが、
前記ピン孔の内径よりも外径が小さいドリル部を有するプレドリルと、
前記ピン孔の内径よりも外径が小さく前記プレドリルのドリル部よりも外径が大きいドリル部を有するメインドリルと、
前記ピン孔の内径と同じ外径を有する仕上げリーマーと、と備えている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の歯科用補綴装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の歯科用補綴装置を作製する方法であって
ン孔が形成された支台歯および歯牙が欠損した個所をスキャニングして得られたデータに基づいて3次元モデリングシステムで形成された口腔内3次元モデルを形成し、
該口腔内3次元モデルに基づいて蝋材によって支台歯の舌側面と接触面とが面接触するように蝋材によって支台部の蝋型を形成し、
該蝋型を用いて支台部の鋳型を形成し、
該鋳型を用いて鋳造によって支台部を作製する
ことを特徴とする歯科用補綴装置の作製方法。
【請求項7】
ピン孔にスキャンフラッグが設置された前記支台歯をスキャニングして得られたデータに基づいて、前記スキャンフラッグを含む口腔内3次元モデルを形成し、
該スキャンフラッグのデータに基づいて前記支台部の3次元モデルにおける雌ネジ孔の位置を設定する
ことを特徴とする請求項6記載の歯科用補綴装置の作製方法。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか1項に記載の歯科用補綴装置を作製する方法であって、
ピン孔が形成された支台歯および歯牙が欠損した個所を印象採得した印象材を用いて石膏模型を形成し、
該石膏模型に基づいて蝋材によって支台歯の舌側面と接触面とが面接触するように蝋材によって支台部の蝋型を形成し、
該蝋型を用いて支台部の鋳型を形成し、
該鋳型を用いて鋳造によって支台部を作製する
ことを特徴とする歯科用補綴装置の作製方法。
【請求項9】
支台歯および歯牙が欠損した個所に対応する位置の唇側面側および/または舌側面側に、支台歯および歯牙が欠損した個所が露出した状態となるように切り欠きが設けられたトレーによって前記支台歯のピン孔に印象採得用ピンを挿入した状態で印象採得された印象材を用いて石膏模型を形成する
ことを特徴とする請求項8記載の歯科用補綴装置の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用補綴装置および歯科用補綴装置の作製方法に関する。さらに詳しくは、歯牙を失った個所に人工歯を取り付けるための歯科用補綴装置および歯科用補綴装置の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯牙を失った場合、欠損した部位(歯牙欠損部)に人工歯を設ける際には歯科用補綴装置が使用される。歯科用補綴装置の例として、形態・機能・審美性を回復することができるブリッジはきわめて高い頻度で用いられる。このブリッジは、歯牙を失った箇所と隣接する歯牙(支台歯)に被せて装着されるものであり、支台歯に装着する支台装置と、ポンティックと呼ばれる歯の欠損を補う人工歯と、それらの連結部の3つの部材によって構成される。
【0003】
ブリッジを装着する支台歯のアンダーカットを除去するために、支台歯を截頭錐体状に切削し截頭錐体状に形成された支台歯に被せて装着するブリッジがある。このブリッジ(従来型ブリッジという)は、支台歯の歯質を40-75%を切削する必要があるため、症例によっては支台歯の露髄などの合併症を引き起こす可能性がある。
【0004】
一方、支台歯の切削を抑えることができるブリッジとして、歯科用接着性レジンセメントを使用して支台歯にブリッジを装着する接着ブリッジが開発されている(非特許文献1~8参照)。接着ブリッジは、支台歯の切削をエナメル質内に限局しており、その切削量が一般的なブリッジの1/10~1/20程度と少ない。このため、支台歯の侵襲性が低い治療として選択されている。しかし、接着ブリッジは支台歯の形成量が少ないためにその維持力は従来型ブリッジと比較すると弱く、さらには支台歯の形成や支台装置の設計が煩雑になり、術者はかなりの熟練を要するという問題点がある。
【0005】
また、支台歯の隣接面にチタン合金製のピンを植立させて、そのピンに人工歯をセメント合着するピンブリッジが開発されている(非特許文献9参照)。このピンブリッジでは、支台歯にはピンを取り付けるピンホールだけを形成すればよいので、非常に生体侵襲が少ない処置である。しかし、このピンブリッジは、ピンの維持力、つまり、ブリッジを保持しておく力が低くブリッジが支台歯から脱離するリスクが高いという問題がある。
【0006】
また、歯牙欠損部と隣接する歯を切削しないタイプの歯科用補綴装置も開発されている(例えば特許文献1~3)。これらの歯科用補綴装置は、支台装置に相当する部分を隣接する歯に引っ掛けて固定する方法を採用しているが、隣接する歯に引っ掛けているだけであり維持力が低い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Rochette AL.: Attachment of a splint to enamel of lower anterior teeth. J. Prosthet. Dent., 30, 418-423, 1973.
【文献】Howe DF., Denehy GE.: Anterior fixed partial dentures utilizing the acid-etch technique and a cast metal framework. J Prosthet. Dent., 37, 28-31, 1977.
【文献】Livaditis GJ.: Cast metal resin-bonded retainers for posterior teeth. J. Amer. Dent. Assoc., 101, 926-929, 1980.
【文献】Livaditis GJ., Thompson VP.: Etched castings: an improved retentive mechanism for resin-bonded retainers. J. Prosthet. Dent., 47, 52-58, 1982.
【文献】増原英一:歯科接着性レジンの基礎と応用(上巻). クインテッセンス出版,東京,11-53,1982.
【文献】山下 敦,山見俊明:加工義歯における接着レジンの応用 その1.非貴金属合金の種類と金属非着麺処理が接着力に及ぼす影響について.日補綴誌,26,584-591,1982.
【文献】山下 敦, 山見俊明:加工義歯における接着レジンの応用 その2.Adhesion Bridge(Adhesion Splint)のデザインならびに臨床術式について.補綴誌,26,592-598,1982.
【文献】山下 敦, 山見俊明,石井雅之,山口 威,浦本利生:加工義歯における接着レジンの応用 その3.接着性レジン用ニッケルクロム合金とその接着強さならびに接着耐久性について.日補綴誌,26,1118-1127,1982.
【文献】Sanduaus S.Das mehrfunktionelle Ankersystem. Quintessenz, April, 685-698,1985.
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2014-516754号公報
【文献】特許6475391号公報
【文献】特開2020-28516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来型ブリッジは維持力は高いものの支台歯の切削が大きく侵襲性が高く、接着ブリッジやピンブリッジ、無切削ブリッジは低侵襲性ではあるもののブリッジの維持力が弱いという問題があるため、維持力を高くしつつ低侵襲であるブリッジが求められている。
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、支台歯への固定性が高く低侵襲性で装着できる歯科用補綴装置および歯科用補綴装置の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
<歯科用補綴装置(貫通タイプ)>
第1発明の歯科用補綴装置は、 歯牙が欠損した個所に人工歯を設置するための補綴装置であって、該補綴装置は、人工歯と、該人工歯が取り付けられ、歯牙が欠損した個所に隣接する支台歯の舌側面に設置される支台部と、該支台部を前記支台歯に連結する、第一端部に頭部を有し軸部に雄ネジが形成された連結ピンと、を備えたブリッジを有しており、前記支台歯には、唇側面と舌側面との間を連通する、前記連結ピンが挿通されるピン孔が形成されており、前記支台部には、前記連結ピンの雄ネジが螺合する雌ネジ孔が形成されており、前記ピン孔の前記支台歯の唇側面側および舌側面側にはそれぞれ拡径部が形成されており、該拡径部は、その内径が両拡径部を繋ぐ連結孔の内径よりも大きくなっており、前記連結ピンの頭部は、前記ピン孔の唇側面側の拡径部よりも外径が小さく形成されており、前記支台部は、前記支台歯の舌側面と接触するように配置される接触面に前記ピン孔の舌側面の拡径部内に配置される凸部が設けられており、前記凸部から該支台部の背面まで連通するように前記雌ネジ孔が形成されていることを特徴とする。
<歯科用補綴装置(貫通しないタイプ)>
第2発明の歯科用補綴装置は、歯牙が欠損した個所に人工歯を設置するための補綴装置であって、該補綴装置は、人工歯と、該人工歯が取り付けられ、歯牙が欠損した個所に隣接する支台歯の舌側面に設置される支台部と、該支台部を前記支台歯に連結する、第一端部に頭部を有し軸部に雄ネジが形成された連結ピンと、を備えたブリッジを有しており、前記支台歯には、舌側面に開口を有する、前記連結ピンが挿通されるピン孔が形成されており、該ピン孔は、内面に雌ネジが形成されためくら孔であり、前記支台部には、該支台部において前記支台歯の舌側面に接触する接触面と該支台部において該接触面の反対側に位置する背面との間を貫通する、前記連結ピンの雄ネジが螺合する雌ネジ孔が形成されており、前記ピン孔の前記支台歯の舌側面には拡径部が形成されており、前記支台部は、前記接触面に前記ピン孔の舌側面の拡径部内に配置される凸部が設けられており、前記雌ネジ孔は、前記凸部から該支台部の背面まで連通するように形成されているいることを特徴とする。
第3発明の歯科用補綴装置は、第2発明において、前記支台部の雌ネジ孔は、該支台部の背面側に、内径が該雌ネジ孔において雌ネジが形成されている部分の内径よりも大きい拡径部を有しており、前記連結ピンの頭部は、前記雌ネジ孔の拡径部よりも外径が小さいことを特徴とする。
第4発明の歯科用補綴装置は、第1から第3発明のいずれかにおいて、前記支台部は、歯根側に位置する端縁が前記支台歯の位置にある歯肉との間に隙間が形成される大きさに形成されていることを特徴とする。
第5発明の歯科用補綴装置は、第1から第4発明のいずれかにおいて、前記支台歯のピン孔を形成するためのドリルキットを備えており、該ドリルキットが、前記ピン孔の内径よりも外径が小さいドリル部を有するプレドリルと、前記ピン孔の内径よりも外径が小さく前記プレドリルのドリル部よりも外径が大きいドリル部を有するメインドリルと、前記ピン孔の内径と同じ外径を有する仕上げリーマーと、と備えていることを特徴とする。
<歯科用補綴装置の作製方法>
第6発明の歯科用補綴装置の作製方法は、請求項1から5のいずれか1項に記載の歯科用補綴装置を作製する方法であって、ピン孔が形成された支台歯および歯牙が欠損した個所をスキャニングして得られたデータに基づいて、3次元モデリングシステムで形成された口腔内3次元モデルを形成し、該口腔内3次元モデルに基づいて蝋材によって支台歯の舌側面と接触面とが面接触するように蝋材によって支台部の蝋型を形成し、該蝋型を用いて支台部の鋳型を形成し、該鋳型を用いて鋳造によって支台部を作製することを特徴とする。
第7発明の歯科用補綴装置の作製方法は、第6発明において、ピン孔にスキャンフラッグが設置された前記支台歯をスキャニングして得られたデータに基づいて、前記スキャンフラッグを含む口腔内3次元モデルを形成し、該スキャンフラッグのデータに基づいて前記支台部の3次元モデルにおける雌ネジ孔の位置を設定することを特徴とする。
第8発明の歯科用補綴装置の作製方法は、請求項1から5のいずれか1項に記載の歯科用補綴装置を作製する方法であって、 請求項1から5のいずれか1項に記載の歯科用補綴装置を作製する方法であって、ピン孔が形成された支台歯および歯牙が欠損した個所を印象採得した印象材を用いて石膏模型を形成し、該石膏模型に基づいて蝋材によって支台歯の舌側面と接触面とが面接触するように蝋材によって支台部の蝋型を形成し、該蝋型を用いて支台部の鋳型を形成し、該鋳型を用いて鋳造によって支台部を作製することを特徴とする。
第9発明の歯科用補綴装置の作製方法は、第8発明において、支台歯および歯牙が欠損した個所が露出した状態となるように切り欠きが設けられたトレーによって前記支台歯のピン孔に印象採得用ピンを挿入した状態で印象採得された印象材を用いて石膏模型を形成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
<歯科用補綴装置>
第1発明によれば、連結ピンを支台歯のピン孔に挿通して連結ピンの雄ネジを支台部の雌ネジ孔に螺合すれば、支台歯を連結ピンの頭部と支台部との間に挟んだ状態で、支台部を支台歯に装着することができる。したがって、支台歯にブリッジを強固に装着することができる。しかも、支台歯にはピン孔を形成するだけであり、支台歯の切削を非常に少なくすることができるため、歯への侵襲性を少なくできる。しかも、支台歯の唇側面の審美性を維持できるし、支台部の厚みを薄くしても支台部と連結ピンとの結合を強くできる。
<歯科用補綴装置(貫通しないタイプ)>
第2発明によれば、連結ピンの雄ネジを支台部の雌ネジ孔に螺合しかつ支台歯のピン孔の雌ネジに螺合すれば、支台歯と支台部とを連結ピンによって連結した状態で、支台部を支台歯に装着することができる。したがって、支台歯にブリッジを強固に装着することができる。しかも、支台歯にはピン孔を形成するだけであり、支台歯の切削を非常に少なくすることができるため、歯への侵襲性を少なくできる。しかも、支台歯の唇側面の審美性を維持できる。しかも、支台部の厚みを薄くしても支台部と連結ピンとの結合を強くできる。
第3発明によれば、ブリッジを装着した人の違和感を抑制することができる
第4発明によれば、ブリッジを装着した状態でも、支台部と支台歯の位置にある歯肉との間の清掃性を良くすることができるので、二次う蝕を防止することができる。
第5発明によれば、専用のドリルキットを使用して支台歯にピン孔を形成するので、術者の技能に左右されることなく簡単に支台歯を形成することが可能である。
<歯科用補綴装置の作製方法>
第6発明によれば、支台部を精度よく形成することができる。また、印象材料による口腔内での印象採得や口腔内模型の作製が不要になるので、ブリッジの支台部を迅速に作製することができる。しかも、印象材料による口腔内での印象採得作業が無いので、術者だけでなく患者の負担も軽減できる。
第7発明によれば、印象材料による口腔内での印象採得をしなくても、支台部の雌ネジ孔の位置を正確に設計することができる。
第8発明によれば、支台部を精度よく形成することができる。
第9発明によれば、支台部の雌ネジ孔の位置を精度よく印象採得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の歯科用補綴装置1のブリッジ10を装着した口腔内の概略説明図である。
図2図1のII-II線概略断面図であり、(A)はブリッジ10を装着した状態であり、(B)はブリッジ10を外した状態である。
図3】本実施形態の歯科用補綴装置1のブリッジ10を装着する前であって、支台歯TSにピン孔hを形成した状態における口腔内の概略説明図である。
図4】本実施形態の歯科用補綴装置1のドリルキット20の概略説明図である。
図5】本実施形態の歯科用補綴装置1のブリッジ10を作製する作業の概略説明図であって、(A)は第一口腔内模型M1を使用して個人トレーPTを作製している状態の説明図であり、(B)は患者の支台歯TSのピン孔h周囲の印象採得の概略説明図であり、(C)は治療部位の口腔内の形状が転写された印象材MAの概略説明図である。
図6】本実施形態の歯科用補綴装置1のブリッジ10を作製する作業の概略説明図であって、(A)は石膏の硬化後に印象採得用ピンPAを撤去している作業の概略説明図であり、(B)は第一口腔内模型M2の概略説明図であり、(C)は型ピンMPを第一口腔内模型M2の支台歯TSのピン孔hに挿入した状態で型WPを作製している状態の概略説明図である。
図7】本実施形態の歯科用補綴装置1のブリッジ10を作製する作業の概略説明図であって、(A)は型ピンMPと連結部13aの型WPを連結した状態の概略説明図であり、(B)は連結部13aの鋳物の概略説明図であり、(C)は作製されたブリッジ10の概略説明図である。
図8】本実施形態の歯科用補綴装置1のブリッジ10を作製する作業の概略説明図であって、(A)は口腔内スキャナーによるスキャニングで得られたデータの概略説明図であり、(B)は3次元モデルM3に基づいて設計した支台部13の一対の連結部13a,13aおよび人工歯12の本体部の概略説明図であり、(C)は作製されたブリッジ10の3次元モデルの単体概略説明図である。
図9】本実施形態の歯科用補綴装置1のブリッジ10Bを装着した口腔内の概略説明図である。
図10図9のX-X線概略断面図であり、(A)はブリッジ10Bを装着した状態であり、(B)はブリッジ10Bを外した状態である。
図11】本実施形態の歯科用補綴装置1のブリッジ10Bを装着する前であって、支台歯TSにピン孔h2を形成した状態における口腔内の概略説明図である。
図12】本実施形態の歯科用補綴装置1のブリッジ10Bを作製する作業の概略説明図であって、(A)は患者の支台歯TSのピン孔h周囲の印象採得の概略説明図であり、(B)は治療部位の口腔内の形状が転写された印象材MAの概略説明図である。
図13】本実施形態の歯科用補綴装置1のブリッジ10Bを作製する作業の概略説明図であって、(A)は第一口腔内模型M2の概略説明図であり、(B)は型ピンMPを第一口腔内模型M2の支台歯TSのピン孔hに挿入した状態で型WPを作製している状態の概略説明図である。
図14】本実施形態の歯科用補綴装置1のブリッジ10Bを作製する作業の概略説明図であって、(A)は型ピンMPと連結部13aの型WPを連結した状態の概略説明図であり、(B)は連結部13aの鋳物の概略説明図であり、(C)は作製されたブリッジ10の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態の歯科用補綴装置は、歯牙を失った個所に人工歯を取り付けるための歯科用補綴装置であって、歯牙を失った個所に隣接する歯の切削を少なくしつつ維持力を高くできるようにしたことに特徴を有している。
【0015】
<歯科用補綴装置1>
図1および図2に示すように、本実施形態の歯科用補綴装置1は、歯牙が欠損した個所に設置されるブリッジ10を備えている。このブリッジ10は、歯牙が欠損した個所に配置される人工歯12(ポンティックと呼ばれる)と、この人工歯が取り付けられる支台部13と、支台部13を歯牙が欠損した個所と隣接する歯TS(支台歯TS)に連結する連結ピン14と、を有している。
【0016】
<支台歯TS>
まず、ブリッジ10を説明する前に、ブリッジ10が装着される支台歯TSを説明する。図3に示すように、支台歯TSは、上述したように歯牙が欠損した個所に隣接する歯であり、ブリッジ10の支台部13が連結される歯である(図1参照)。
【0017】
図2および図3に示すように、支台歯TSには、ブリッジ10の連結ピン14が挿通されるピン孔hが形成されている。このピン孔hは、支台歯TSの唇側面s1から舌側面s2を貫通する貫通孔であり、エナメル質Eおよび象牙質Iを貫通し歯髄Pに近接しない位置に形成される。図2および図3に示すように、ピン孔hの唇側面s1側には、ザグリ加工によって形成されたヘッドシンクhsが設けられている。一方、ピン孔hの舌側面s2側には、凹面上の凹み部hdが形成されている。この凹み部hdのほぼ中心部に、ヘッドシンクhsと凹み部hdとを連通する連結孔hcが位置している。つまり、支台歯TSに形成されるピン孔hは、連結ピン14の軸部14aの軸径とほぼ同じ径の連結孔hcと、連結孔hcよりも径が大きいヘッドシンクhsおよび凹み部hdによって形成されている。なお、ヘッドシンクhsは、その内径が連結ピン14の頭部14hの軸径よりも大きくなるように形成される。このヘッドシンクhsおよび凹み部hdが、特許請求の範囲にいうピン孔の拡径部に相当する。
【0018】
なお、上述したようなピン孔hが形成される支台歯TSは、歯牙が欠損した個所に面する歯でなくてもよく、歯牙が欠損した個所と面する歯から1~数本離れた位置の歯を支台歯TSとしてもよい。
また、支台歯TSとなる歯の本数もとくに限定されない。通常は、歯牙が欠損した個所に面する歯2本であるが、支台歯TSを1本としてもよいし、支台歯TSを3本以上としてもよい。また、支台歯TSの全てにピン孔hを形成しなくてもよく、一部の支台歯TSは接着性レジンセメント等の接着材だけでブリッジ10の支台部13と連結されていてもよい。
【0019】
<人工歯12>
図1に示すように、人工歯12は、ブリッジ10を装着したときに、歯牙が欠損した個所に配置されるものである。この人工歯12の形状はとくに限定されず、ブリッジ10を装着した状態で物を噛んだりしたときに、装着した人が違和感が無いように形成されていることが望ましい。また、審美性を高める上では、欠損した個所に存在していた歯牙と近似した形状に形成されていることが望ましい。つまり、ブリッジ10を支台歯TSに装着したときに、元の歯が存在していたときと似た歯並びになるように人工歯12が形成されていることが望ましい。
【0020】
この人工歯12は、本体部の表面にポーセレン等の歯科用陶材の層が形成されたものである。本体部の素材はとくに限定されない。生体に悪影響を及ぼさず、人工歯12が一定の強度を有するように形成できる素材であればよい。例えば、人工歯12の本体部の材質としては、コバルト・クロム・モリブデン合金や金合金、チタン合金といった金属を採用することができる。
【0021】
<連結ピン14>
図2に示すように、連結ピン14は、軸部14aと、頭部14hと、を有している。この連結ピン14を形成する素材はとくに限定されない。生体に悪影響を及ぼさず、一定の強度を有するように形成できる素材であればよい。例えば、コバルト・クロム・モリブデン合金や金合金、チタン合金といった金属を採用することができる。
【0022】
連結ピン14の軸部14aは、上述した支台歯TSのピン孔hの連結孔hcの内径よりも外径が小さいものである。軸部14aの軸径は、例えば、ピン孔hの連結孔hcの内径が0.75~1.00mm程度であれば、0.70~0.95mm程度に形成されている。この軸部14aは、その軸長は支台歯TSの厚さよりも長くなっている。軸部14aの軸長は、例えば、3~7mm程度に形成されている。この軸部14aの先端(第二端部、図2では左端部)には、後述する支台部13のネジ孔13hと螺合する雄ネジsが形成されている。なお、雄ネジsがは、軸部14aの第二端部だけでなく軸部14aの全体に形成されていてもよい。
【0023】
連結ピン14の頭部14hは、軸部14aの基端(第一端部、図2では右端部)に設けられている。この頭部14hは、その外径が上述した支台歯TSのピン孔hの連結孔hcの内径よりも大きくピン孔hのヘッドシンクhsの内径よりも小さくなるように形成されている。頭部14hは、例えば、その外径が1.0~1.4mm程度に形成されている。
【0024】
また、頭部14hは、その厚み(軸部14sの軸方向の長さ)がヘッドシンクhsの深さよりも短くなるように形成されている。頭部14hは、例えば、その厚みが0.1~0.3mm程度に形成されている。また、頭部14hの端面には、ドライバー等が係合できる溝、例えば、十字状の溝などが形成されている。したがって、ドライバー等の先端を頭部14hの端面の溝に係合させれば、連結ピン14をその中心軸周りに回転させることができる。
【0025】
なお、頭部14hの厚み(軸部14sの軸方向の長さ)は必ずしもヘッドシンクhsの深さよりも短くなくてもよい。この場合、ブリッジ10を装着したときに、頭部14hが支台歯TSの唇側面s1よりも突出した状態となる。そのときは、頭部14hを削ったり、頭部14hの表面をコンポジットレジン等を使用して被覆するようにすればよい。
【0026】
<支台部13>
支台部13は、人工歯12が固定される部材であり、支台歯TSに固定される一対の連結部13a,13aを有している。この支台部13では、人工歯12は一対の連結部13a,13aの間に配置され、人工歯12の本体部が一対の連結部13a,13aに連結されることによって、人工歯12が支台部13に連結される。
【0027】
図2に示すように、一対の連結部13a,13aは、支台歯TSの舌側面s2に取り付けられるものである。この一対の連結部13a,13aの第一面f、つまり、支台歯TSに接触する面f(接触面f)は、取り付けられる支台歯TSの舌側面s2と面接触する形状に形成されている。各連結部13aは、支台歯TSのピン孔hの位置では、ピン孔hの凹み部hd内に挿入される凸部PSが形成されている。この凸部PSは、その表面がピン孔hの凹み部hdの内面と面接触するように形成されている。したがって、ブリッジ10を支台歯TSに装着したときに、一対の連結部13a,13aの接触面fが対応する支台歯TSの舌側面s2に密着した状態となる。
【0028】
各連結部13aには、その接触面fと背面との間を貫通するネジ孔13hが設けられている。このネジ孔13hは、連結ピン14の先端の雄ネジsを螺合することができるように形成されている。このネジ孔13hは、ブリッジ10を支台歯TSに装着したときに、その中心軸が支台歯TSのピン孔hと同軸となるように形成されている。したがって、連結ピン14を支台歯TSの唇側面s1からピン孔hに挿通すれば、連結ピン14の雄ネジsを連結部13aのネジ孔13hと螺合することができる。
【0029】
この支台部13を形成する素材はとくに限定されない。生体に悪影響を及ぼさず、支台部13が一定の強度を有するように形成できる素材であればよい。例えば、支台部13の材質としては、コバルト・クロム・モリブデン合金や金合金、チタン合金といった金属を採用することができる。
【0030】
なお、支台歯TSとなる歯が1本の場合には、連結部13aは一つだけ使用され、連結部13aの一方の端部に人工歯12の本体部が連結される。
【0031】
また、人工歯12の本体部と一対の連結部13a,13aとを連結する方法はとくに限定されない。例えば、生体に悪影響を及ぼさない素材によって形成されたロウ合金(例えばニッケルやコバルト、銀、金等のロウ合金)によって両者を連結することができる。
【0032】
また、連結部13aと人工歯12の本体部とを一体に形成してもよい。しかし、連結部13aと人工歯12の本体部を別々に形成すれば、連結部13aおよび人工歯12の本体部の形状を調整しやすいという利点がある。
【0033】
また、上記例では、一対の連結部13a,13aが分離されている場合を説明したが、一対の連結部13a,13aは連結されていてもよい。
【0034】
また、一対の連結部13a,13aは、支台歯TSに取り付けた状態において、一対の連結部13a,13aにおける歯根側に位置する端縁と支台歯TSの位置にある歯肉との間に隙間ができる大きさに形成されていることが望ましい(図1(C)参照)。かかる大きさとすれば、ブリッジ10を装着した状態でも、一対の連結部13a,13aと支台歯TSの位置にある歯肉との間の清掃を良くすることができるので、二次う蝕(ブリッジ10と支台歯TSとの間に生じるう蝕)を防止することができる。
【0035】
<ブリッジ10の装着>
上述したブリッジ10を装着する作業を説明する。
ブリッジ10を装着する支台歯TSに、上述したようなヘッドシンクhsや凹み部hdを有するピン孔hを形成する。なお、通常、ピン孔hは、ブリッジ10の支台部13を作製するために、予め支台歯TSに形成されている。
【0036】
まず、ブリッジ10の支台部13の接触面fが、所定の支台歯TSの舌側面s2に密着するように配置する。このとき、凸部PSはその表面がピン孔hの凹み部hdの内面と面接触するように配置される(図2(A)参照)。すると、連結部13aのネジ孔13hと支台歯TSのピン孔hとがほぼ同軸になるように配設される。
【0037】
支台部13が設置されると、支台歯TSの唇側面s1から連結ピン14をピン孔hに挿入し、連結ピン14の先端の雄ネジsを支台部13のネジ孔13hと螺合させる。そして、頭部14hがヘッドシンクhsの内底面に接触するまで連結ピン14をねじ込めば、支台部13と連結ピン14の頭部14hとの間に支台歯TSを挟んで、支台部13を支台歯TSに固定することができる。
【0038】
その後、連結ピン14の頭部14hがヘッドシンクhs内に完全に入ってしまっていれば、ヘッドシンクhsをコンポジットレジン等で埋める(図2(A)参照)。すると、連結ピン14の頭部14hが見えなくなるし、支台歯TSの唇側面s1の表面のピン孔hも見えない状態とすることができる。したがって、ブリッジ10を装着した歯の審美性を維持することができる。なお、連結ピン14の頭部14hがヘッドシンクhsから突出している場合には、連結ピン14の頭部14hの突出している部分を切削して、支台歯TSの唇側面s1に突起等ができないようにする。
【0039】
また、連結ピン14の先端部が支台部13の背面から突出している場合には、突出している部分を切削して、支台部13の背面に突起等ができないようにする。つまり、支台部13の背面が滑らかな面となるように切削を行う。すると、ブリッジ10を装着した人の違和感を抑制することができる。
【0040】
なお、ブリッジ10の支台部13を支台歯TSの舌側面s2に密着するように配置する際には、両者の間に間に、例えば、接着性レジンセメント等の接着材を塗布することが望ましい。接着性レジンセメント等の接着材を塗布すれば、支台部13と連結ピン14との螺合によるネジ結合だけでなく、接着性レジンセメント等の接着材の接着力もブリッジ10を支台歯TSに固定する力となる。すると、ブリッジ10を支台歯TSに固定しておく維持力を強くできる。
【0041】
とくに、ピン孔h内や連結部13aのネジ孔13h内にも接着性レジンセメント等の接着材が侵入し、ピン孔hと連結ピン14との隙間やネジ孔13hと連結ピン14との隙間を埋めるようになっていれば、ブリッジ10の脱離やう蝕等の問題が生じにくくなる。
【0042】
<ピン孔hについて>
上述した例では、ピン孔hが、連通孔hcに加えて、ヘッドシンクhsや凹み部hdを有している場合を説明した。しかし、ピン孔hは、必ずしもヘッドシンクhsや凹み部hdを有していなくてもよく、連通孔hcだけでピン孔hが形成されていてもよい。しかし、上述したようにヘッドシンクhsを設けていれば、支台歯TSの唇側面s1の審美性を維持できる。また、凹み部hdを設けていれば、連結部13aに凸部PSを設けることができるので、支台部13の連結部13aの厚み(凸部PS以外の部分の厚み)を薄くしても、支台部13の連結部13aと連結ピン14との結合を強くできる。つまり、支台部13の連結部13aの厚みを薄くしても、連結部13aにおいて凹み部hdに配置される凸部PSが設けられている部分は厚さが厚くなる。すると、凸部PSにネジ孔13hを形成すれば、連結ピン14の雄ネジsとネジ孔13hとが結合する長さを長くできるので、支台部13と連結ピン14との結合を強くできる。したがって、ブリッジ10を支台歯TSに固定しておく維持力を強くできる。
【0043】
<ドリルキット20>
上述したように、支台歯TSにはブリッジ10の連結ピン14を挿通するピン孔hが形成されるが、このピン孔hの形成には、専用のドリルキット20を使用することが望ましい。本実施形態の歯科用補綴装置1は、ブリッジ10だけで構成されていてもよいが、このピン孔hを形成するために使用される専用のドリルキット20も本実施形態の歯科用補綴装置1を構成する部材として含んでいてもよい。
【0044】
図4に示すように、ドリルキット20は、プレドリル21と、メインドリル22と、仕上げリーマ23と、を備えており、これらを順次使用することによって、支台歯TSにピン孔hにおける連結孔hcとなる部分を適切に形成することができる。つまり、ヘッドシンクhsや凹み部hdが形成される前の孔(以下ではベース孔という)を形成することができる。
【0045】
プレドリル21は、ベース孔を形成するための下孔を形成するためのドリルであり、最終のピン孔hの連結孔hcの内径よりも少し小さい孔を形成するものである。つまり、プレドリル21のドリル部21dは、その外径が連結孔hcの内径よりも少し小さく形成されている。このプレドリル21は、歯科用のコントラハンドーピースに装着して注水下で低速回転させることで歯牙を切削することができる。
【0046】
メインドリル22は、プレドリル21で形成した下孔を拡大するものである。メインドリル22のドリル部22dの外径は、連結孔hcの内径よりも少し小さいがプレドリル21のドリル部21dの外径より大きくなるように形成されている。このメインドリル22も、歯科用のコントラハンドーピースに装着して注水下で低速回転させることで歯牙を切削することができる。
【0047】
また、仕上げリーマー23は、メインドリル22で拡径された孔をピン孔hの連結孔hcと同じ径の孔に仕上げるものである。つまり、仕上げリーマー23のドリル部23dの外径は、連結孔hcの内径と同じ大きさに形成されている。この仕上げリーマー23は、リーマー用グリップGに取り付けて手動で回転させることで歯牙を切削することができる。
【0048】
上述したドリルキット20によって支台歯TSにベース孔を形成する場合、以下のように切削作業が行われる。
【0049】
まず、支台歯TSのデンタルエックス線画像を撮影し、支台歯TSの歯髄Pの位置を確認する。そして、歯髄Pとの距離が近接しない位置(例えば歯髄Pから2mm程度離れた位置)にピン孔hの位置を決定する。そして、一般的なダイヤモンドポイントバーによって支台歯TSの表面(唇側面s1)に、ベース孔を形成する位置をマーキングする。
【0050】
つぎに、プレドリル21をコントラハンドピースに装着し、唇側面s1のマーキングされている位置から、歯髄Pに近接しないように注水下にて切削を行う。すると、最終のピン孔hの連結孔hcの内径よりも少し小さい下孔が形成される。
【0051】
下孔が形成されると、メインドリル22をコントラハンドピースに装着し、注水下にて、メインドリル22のドリル部22dを下孔に挿入し切削して下孔を拡大する。
【0052】
メインドリル22によって下孔が拡大されると、メインドリル22によって拡大された下孔に仕上げリーマー23のドリル部23dを挿入して、施術者が手動で仕上げリーマー23を回転させる。すると、最終のピン孔hの連結孔hcの内径と同じ内径のベース孔を形成することできる。
【0053】
その後、ベース孔の唇側面s1にヘッドシンクhsを形成し、ベース孔の舌側面s2に凹み部hdを形成すれば、ピン孔hを形成することができる。
【0054】
なお、プレドリル21、メインドリル22および仕上げリーマ23は、いずれもそのドリル部21d~23d(刃が形成されている部分)の長さが支台歯TSの厚さよりも長くなっていればよく、とくに限定されない。例えば、ドリル部21d~23dの長さは、8~15mm程度に形成されていればよい。
【0055】
また、プレドリル21、メインドリル22および仕上げリーマ23のドリル径(ドリル部21d~23dの外径)は、支台歯TSに形成されるピン孔hの連結孔hcに合わせて適切なドリル径に調整される。例えば、プレドリルのドリル径を0.70mmとし、メインドリル22のドリル径を0.78mmとし、仕上げリーマ23のドリル径を0.83mmとすれば、内径が0.83mmのベース孔、つまり、ピン孔hの連結孔hcとなる部分を適切にかつ簡単に形成することができる。
【0056】
また、ヘッドシンクhsは、ベース孔を形成したのち、一般的なエンドミルバーによって形成することができる。エンドミルバー(図示せず)をコントラハンドーピースに装着し注水下で低速回転させて唇側面s1側から切削すれば、ヘッドシンクhsを形成することができる。このエンドミルバーも上述したドリルキット20に含めてもよい。
【0057】
また、凹み部hdは、一般的なダイヤモンドポイントバー(例えば、直径2.0mmのラウンドバー)によって形成することができる。一般的なダイヤモンドポイントバーを歯科用のエアタービンハンドピースに装着し注水下で低速回転させて舌側面s2側から切削すれば、凹み部hdを形成することができる。このダイヤモンドポイントバーも上述したドリルキット20に含めてもよい。
【0058】
<ブリッジ10の作製方法>
上述したブリッジ10を作製する方法を説明する。
上述したブリッジ10は、患者の歯における歯牙が欠損している個所と隣接する歯にピン孔hを形成して支台歯TSとした後、その支台歯TSの形状に合うように作製される。
【0059】
具体的には、患者の口腔内における支台歯TSを含む治療部位の印象採得を行う工程(印象採得工程)と、採得された印象に基づく治療部位の石膏模型(作業模型)を作製する工程(石膏模型作製工程)と、作製された石膏模型に基づいてブリッジの型を作製する工程(ブリッジ型作製工程)と、ブリッジ型を使用してブリッジ10を形成する工程(ブリッジ作製工程)と、を実施することによって、ブリッジ10は作製される。これらの工程を順次実施することによって形成されたブリッジ10の支台部13は、一対の連結部13a,13aの接触面fが、各連結部13aが取り付けられる支台歯TSの舌側面s2と面接触する形状に形成される。
【0060】
<印象採得工程>
まず、既製トレーと印象材MA(例えば、アルジネート印象材や寒天印象材、シリコーン印象材等)とを使用して治療部位(歯牙が欠損した個所と支台歯TSを含む部分、ブリッジ10が配置される部分)の印象採得を行う。つまり、既製トレー上に印象材を配置して、この既製トレーを治療部位に被せて圧接し印象材MAを硬化させることによって、治療部位の口腔内の形状を印象材MAに転写する。治療部位の印象採得ができると、印象材MAにおいて口腔内の形状が転写された個所に石膏を流し込んで硬化させ、治療部位の第一口腔内模型M1を形成する。
【0061】
第一口腔内模型M1が形成されると、この第一口腔内模型M1を使用して個人トレーPTを作製する。つまり、既製トレーを使用して治療部位の印象採得をした患者の治療部位の形状に合うように、個人トレーPTを作製する(図5(A))。個人トレーPTは、治療部位の歯や歯茎を覆うことができ、しかも、治療部位の歯や歯茎の形状に近い空間が形成されるように作製される。このとき、個人トレーPTは、治療部位全体を覆うのではなく、唇側の一部が露出した状態となるように作製される。具体的には、図5(A)に示すように、第一口腔内模型M1において、歯牙が欠損した個所とその両側に位置する支台歯TSと対応する歯の唇側面s1が露出した状態となるように、個人トレーPTは作製される。以下では、個人トレーPTにおいて、唇側の一部を露出させる部分を切欠きcという。
【0062】
個人トレーPTが作製されると、個人トレーPTによって治療部位の口腔内の形状の印象採得を再度行う。この印象採得の際には、まず、支台歯TSのピン孔hに唇側面s1から印象採得用ピンPAを挿入し、印象材MA(好ましくはシリコン印象材)を印象採得用ピンPAの周囲に注入する(図5(B))。つまり、支台歯TSの唇側面s1および舌側面s2における印象採得用ピンPAの周囲が印象材MAによって覆われた状態となるように、印象材MAを印象採得用ピンPAの周囲に注入する。なお、印象採得用ピンPAは、個人トレーPTを治療部位に被せたときに個人トレーPTの舌側面と接触しないよう配置される。つまり、先端が支台歯TSの舌側面s2からわずかに突出した状態となるように印象採得用ピンPAを配置する。例えば、印象採得用ピンPAを支台歯TSのピン孔hに挿入する長さを2mm程度にとどめれば、上記状態とすることができる。
【0063】
印象採得用ピンPAが支台歯TSに配置されると、個人トレーPTの空間に印象材MA(好ましくはシリコン印象材)を注入し、治療部位が個人トレーPTの空間内に入るように個人トレーPTを治療部位に被せて圧接する。このとき、個人トレーPTには切欠きcが形成されているので、支台歯TSに印象採得用ピンPAが配置されていても、印象採得用ピンPAが個人トレーPTを治療部位に圧接する邪魔にならない。また、個人トレーPTを被せた状態で、切欠きc部分から歯牙が欠損した個所とその両側に位置する支台歯TSが露出した状態とならないように、つまり、歯牙が欠損した個所とその両側に位置する支台歯TSを覆うように、切欠きc部分には印象材MAが配置される。このとき、切欠きc部分に配置する印象材MAは、個人トレーPTの空間に配置された印象材MAとの間に隙間などができないように配置される。その状態で印象材MAを硬化させれば、治療部位の口腔内の形状を個人トレーPTの印象材MAに転写することができる(図5(C))。なお、個人トレーPTを治療部位から取り外す際には、まず、印象採得用ピンPAを抜き取ってから、個人トレーPTを治療部位から取り外す。
【0064】
<石膏模型作製工程>
個人トレーPTの印象材MAには、治療部位の口腔内の形状が転写された空間が形成されているので(図5(C)のSA)、その空間SAに石膏を流し込んで硬化させる。このとき、石膏を流し込む前に、個人トレーPTを治療部位から取り外す際に抜き取られた印象採得用ピンPAを印象材MAに差し込んでおく(図5(C)参照)。つまり、印象採得用ピンPAが差し込まれた状態で印象材MAの空間に石膏を流し込んで石膏を硬化させる。石膏が硬化すれば印象採得用ピンPAを抜き取る(図6(A))。そして、印象材MAから硬化した石膏を取り外せば、治療部位の口腔内の形状に形成された第二口腔内模型M2が作製される。この第二口腔内模型M2では、第一口腔内模型M1と異なり、支台歯TSのピン孔hが形成された型になる(図6(B))。つまり、第二口腔内模型M2は、実際にブリッジ10が装着される部分の形状を再現した型(作業模型)になる。
【0065】
<ブリッジ型作製工程>
第二口腔内模型M2が形成されると、ブリッジ型が作製される。このブリッジ型は、ブリッジ10の支台部13を作製する元となる型である。
まず、第二口腔内模型M2の支台歯TSのピン孔hに型ピンMPを差し込む。このとき、型ピンMPは、支台歯TSのピン孔hの唇側面s1および舌側面s2の両側から突出した状態となるように設置される。なお、型ピンMPの素材はとくに限定されないが、希塩酸や希硝酸等によって溶解する素材を使用することができる。例えば、型ピンMPの素材としては、ニッケル鋼等を採用することができる。
【0066】
支台歯TSに型ピンMPが配置されると、第二口腔内模型M2の支台歯TSの舌側面s2に型WP(蝋型、レジンパターン)を作製する(図6(C)、図7(A)参照)。この型WPは、ブリッジ10の支台部13の一対の連結部13a,13aを作製する元となる型であり、公知のワックスや鋳造用即時重合レジン等の蝋材によって作製される。作製された型WPは、型ピンMPが装着されたままで、耐熱性のある石膏の鋳型材の中に埋め込まれ、鋳型材が固まった後、鋳型材とともに電気炉等によって加熱される。すると、鋳型材は硬化するが型WPは焼却されるので、鋳型材の中には、型WPの形状の空間が形成される。つまり、鋳型材によってブリッジ10の支台部13の一対の連結部13a,13aの鋳型が形成される。なお、型ピンMPは焼却されないので、型ピンMPが鋳型に残った状態になる。
【0067】
なお、支台部13の一対の連結部13a,13aが分離されている場合には、支台部13の鋳型は、各連結部13aについてそれぞれ形成される。一方、一対の連結部13a,13aが連結されている場合には、一対の連結部13a,13aは一体で形成される。
【0068】
人工歯12の本体部の型も、上述した支台部13と同様の方法で作製できる。つまり、第二口腔内模型M2を使用して人工歯12の本体部の型を公知のワックス等によって形成し、鋳型材とともに電気炉等によって加熱すれば、鋳型材によって人工歯12の本体部の鋳型が形成される。
【0069】
<ブリッジ作製工程>
ブリッジ10の支台部13の一対の連結部13a,13aの鋳型が形成されると、鋳型の空間中に溶かした金属、つまり、溶融したブリッジ10の支台部13の材料を流し込む。すると、型WPと同じ形状の部分を有するブリッジ10の支台部13の一対の連結部13a,13aの鋳物が鋳造される(図7(B)参照)。なお、この鋳物は型ピンMPも含まれたものとなる。その後、鋳物における不要な金属部分を切断して鋳物の形を整える。また、鋳物に含まれる型ピンMPの素材に希塩酸等によって溶解する素材を使用していれば、鋳物を希塩酸に浸漬したりすることによって型ピンMPは溶解する。すると、鋳造したブリッジ10の支台部13の一対の連結部13a,13aには、連結ピン14を挿入するための孔が形成される。この孔に連結ピン14と螺合する雌ネジを形成すれば、ブリッジ10の支台部13の一対の連結部13a,13aが形成される。
【0070】
人工歯12の本体部も、人工歯12の本体部の鋳型に人工歯12の本体部の材料を流し込めば、人工歯12の本体部が形成される。
【0071】
ブリッジ10の支台部13の一対の連結部13a,13aおよび人工歯12の本体部が形成されると、まず、一対の連結部13a,13aを第二口腔内模型M2の支台歯TSに設置する。このとき、接触面fが支台歯TSの舌側面s2に密着するように、型ピンMPによって一対の連結部13a,13aを支台歯TSに固定する。
【0072】
第二口腔内模型M2に一対の連結部13a,13aが設置されると、人工歯12の本体部を一対の連結部13a,13a間に配置して、人工歯12の本体部と一対の連結部13a,13aとを連結する。例えば、両者の隙間にロウ合金を流し込む等の方法で人工歯12の本体部と一対の連結部13a,13aとを連結する。そして、人工歯12の本体部の表面に陶材を築盛・焼成するなどしてセラミックスの層を形成し、一対の連結部13a,13aの表面等を滑らかにする仕上げ等を行えば、ブリッジ10が完成する(図7(C)参照)。
【0073】
<ブリッジ10の他の作製方法>
上述したような方法で口腔内模型を作製してからブリッジ10の型を作製すれば、その型を利用して鋳物としてブリッジ10を作製することができる。一方、口腔内模型をデジタルデータとして作成し、そのデジタルデータで形成される口腔内模型を用いてブリッジ10の型を設計するようにしてもよい。この場合、口腔内で印象材料による印象採得をする作業や、口腔内模型の作製が不要になるので、ブリッジ10の作製時間も短縮できるし、患者や術者の負担も軽減できるという利点が得られる。
【0074】
この場合、まず、口腔内スキャナーを用いて口腔内のスキャニングを行うことで、口腔内の治療部位の印象採得が行われる。この口腔内スキャナーによる治療部位のスキャニングによって得られたデータ(図8(A)参照)を3次元モデルを形成できるシステム(例えば、3次元CAD(Computer Aided Design)/CAM(Computer Aided Manufacturing)システムに取り込む。すると、3次元モデリングシステムでは、口腔内スキャナーからのデータに基づいて治療部位の3次元構造体(3次元モデルM3)を作製することができる(図8(B))。例えば、口腔内スキャナー(3shape製TRIOS3等)を使用して得られた口腔内のスキャニングデータを3次元CADシステム(Darmstadt製Exocad等)に供給すれば、図8(B)に示すような治療部位の3次元モデルを形成することができる。なお、口腔内のスキャニングを実施する際には、支台歯TSのピン孔hにはスキャンフラッグSFを挿入しておく(図8(A)参照)。このとき、スキャンフラッグSFは、その軸方向と支台歯TSのピン孔hの軸方向が一致し、ある程度の長さが支台歯TSの舌側面s2から突出した状態になるように配置する。
【0075】
3次元モデリングシステムにおいてスキャンフラッグSFを含む治療部位の3次元モデルが形成されると、その3次元CADシステムによってブリッジ10の支台部13の一対の連結部13a,13aおよび人工歯12の本体部を設計する(図8(B)、(C))。このとき、連結ピン14と螺合する連結部13aのネジ孔13hの位置は、スキャンフラッグSFの3次元的位置関係を元に設計される。つまり、スキャンフラッグSFにおいて支台歯TSの舌側面s2から突出している部分にネジ孔13hが配置されるように、支台部13の一対の連結部13a,13aは設計される。
【0076】
そして、ブリッジ10の支台部13の一対の連結部13a,13aおよび人工歯12の本体部が設計されると、その設計データを3Dプリンターに供給する。すると、支台部13の一対の連結部13a,13aおよび人工歯12の本体部の樹脂パターン、つまり、これらの樹脂型を作製することができる。
【0077】
樹脂型が作製されれば、上述した方法(印象材による印象採得に基づいて印象口腔内模型を作製してからブリッジ10を作製する方法)と同様の方法でブリッジ10を作製することができる。つまり、樹脂型を使用して支台部13の一対の連結部13a,13aおよび人工歯12の本体部の鋳型を形成し、これらの鋳物を鋳造する。そして、鋳造された鋳物を加工すれば、支台部13の一対の連結部13a,13aおよび人工歯12の本体部、つまり、ブリッジ10を作製することができる。
【0078】
<ブリッジ10の他の実施形態>
上述した例では、ブリッジ10は、支台歯TSに唇側面s1と舌側面s2との間を貫通するピン孔hを形成し、そのピン孔hを貫通する連結ピン14によって、支台部13を支台歯TSに固定する構造とした。つまり、支台部13と連結ピン14の頭部14hとの間に支台歯TSを挟んで、ブリッジ10を支台歯TSに固定する構造とした。
【0079】
一方、連結ピン14に支台歯TSを貫通させずに、ブリッジ10を支台歯TSに固定する構造としてもよい。かかる構造とすれば、支台歯TSの唇側面s2にはピン孔hやヘッドシンクhsが形成されないので、唇側面s2の切削が行われない。つまり、支台歯TSの唇側面s2は、ブリッジ10を支台歯TSに固定する前の状態のままに維持できるので、唇側面s2の審美性を担保することができる。
【0080】
かかるブリッジ10(以下ではブリッジ10Bという)の構造、装着方法およびその作製方法について以下に説明する。
【0081】
なお、以下の説明では、上述したブリッジ10(支台部13と連結ピン14の頭部14hとの間に支台歯TSを挟んで支台歯TSに固定する構造のブリッジ10、以下単にブリッジ10という)と実質的に同じ構造、装着方法および作製方法については、適宜説明を割愛する。
【0082】
<ブリッジ10B>
図9に示すように、ブリッジ10Bは実質的にブリッジ10と同じ構造を有している。ブリッジ10Bでは、支台部13Bの一対の連結部13a,13aの背面側からネジ孔13hに連結ピン14Bが挿通される。このため、支台部13Bの一対の連結部13a,13aには、ネジ孔13hの背面側に、連結ピン14Bの頭部14hが収容されるヘッドシンク13hsが形成されている(図10参照)。このヘッドシンク13hsは、実質的に、ブリッジ10が取り付けられる支台歯TSのヘッドシンクhsと同等の構造および機能を有している。
【0083】
また、ブリッジ10と異なり、連結ピン14Bは軸部14a全体に雄ネジsが形成されている。この連結ピン14Bの軸部14aの長さはとくに限定されない。連結ピン14Bの頭部14hがヘッドシンク13hsの内底面に接触した状態で、軸部14aの先端が後述するピン孔h2の内底面に接触しない程度の長さに形成されている。つまり、軸部14aは、その長さがピン孔h2の長さよりも短くなるように形成されている。
【0084】
<ピン孔h2>
図10に示すように、ブリッジ10Bが固定される支台歯TSには、舌側面s1に開口を有するピン孔h2が形成される。このピン孔h2は、唇側面s2まで貫通せずに、唇側面s2の少し手前まで形成される。つまり、ピン孔h2はめくら孔として形成される。このピン孔h2の長さ(深さ)や内径はとくに限定されない。連結ピン14Bと支台歯TSとをブリッジ10Bが外れない程度の結合力で結合できる長さや内径に形成されていればよい。例えば、ピン孔h2の長さは、2~5mm程度が好ましい。
【0085】
このピン孔h2の内面には、連結ピン14Bの雄ネジsと螺合する雌ネジが形成されている。そして、舌側面s1の開口部分には、上述したブリッジ10を取り付けるピン孔hの場合と同様に、凹み部hdが形成されている。
【0086】
<ブリッジ10Bの装着>
上述したブリッジ10Bを装着する作業を説明する。
ブリッジ10Bを装着する支台歯TSに、上述したようなピン孔h2を形成する。つまり、支台歯TSを貫通しないピン孔h2を形成する。
【0087】
まず、ブリッジ10Bの支台部13Bの接触面fが、所定の支台歯TSの舌側面s2に密着するように配置する。このとき、凸部PSはその表面がピン孔hの凹み部hdの内面と面接触するように配置される(図10(A)参照)。すると、連結部13aのネジ孔13hと支台歯TSのピン孔hがほぼ同軸になるように配設される。
【0088】
支台部13Bが設置されると、支台部13Bの連結部13aの背面からネジ孔13hに連結ピン14Bの軸部14aの雄ネジsを螺合する。その状態から連結ピン14Bを螺進させれば、連結ピン14Bの軸部14aの雄ネジsをピン孔h2の雌ネジに螺合させることができる。そして、連結ピン14Bの頭部14hがヘッドシンク13hsの内底面に接触するまでねじ込めば、支台部13Bの連結部13aが連結ピン14Bの頭部14hによって支台歯TSに押し付けられる。しかも、連結部13aと支台歯TSがいずれも連結ピン14Bの軸部14aの雄ネジsと螺合した状態になるので、支台部13の連結部13aを支台歯TSにしっかりと固定することができる。
【0089】
その後、連結ピン14Bの頭部14hがヘッドシンク13hs内に完全に入ってしまっていれば、ヘッドシンク13hsをコンポジットレジン等で埋める(図10(A)参照)。そして、支台部13の連結部13aの背面に突起等ができないようにする。つまり、支台部13の連結部13aの背面が滑らかな面となるように切削を行えば、ブリッジ10Bの装着が完了する。
【0090】
かかるブリッジ10Bの場合、支台部13の連結部13aの背面が滑らかな面となっているので、ブリッジ10Bを装着した人の違和感を抑制することができる。
【0091】
しかも、ブリッジ10Bの場合、ピン孔h2が唇側面s1まで貫通していないので、支台歯TSの唇側面s1はブリッジ10Bを装着する前と同じ状態に維持される。つまり、ブリッジ10Bは、人工歯12以外の部分が外部からほとんど見えないので、ブリッジ10Bを装着した歯の審美性を維持することができる。
【0092】
なお、連結ピン14Bの頭部14hがヘッドシンク13hsから突出している場合、言い換れば、連結ピン14Bの頭部14hが支台部13の連結部13aの背面から突出している場合には、連結ピン14Bの頭部14hの突出している部分を切削して、支台部13の連結部13aの背面に突起等ができないようにすればよい。
また、ヘッドシンク13hsは必ずしも設けなくてもよい。この場合には、連結ピン14Bの頭部14hが支台部13の連結部13aの背面に配置されることになる。この場合には、支台部13の連結部13aが支台歯TSに固定された後、連結ピン14Bの頭部14hを切削等によって除去すればよい。連結ピン14Bの頭部14hを除去しても、連結ピン14Bの軸部14aによって連結部13aと支台歯TSとが連結されているので、支台部13の連結部13aを支台歯TSにしっかりと固定することができる。
【0093】
ブリッジ10Bの支台部13Bを支台歯TSの舌側面s2に密着するように配置する際には、両者の間に間に接着性レジンセメント等の接着材を塗布することが望ましい。とくに、ピン孔h2内や連結部13aのネジ孔13h内にも接着性レジンセメント等の接着材が侵入し、ピン孔h2と連結ピン14Bとの隙間やネジ孔13hと連結ピン14Bとの隙間を埋めるようになっていることが望ましい。この場合には、ブリッジ10Bの脱離やう蝕等の問題が生じにくくなる。
【0094】
<ピン孔h2の形成>
ピン孔h2の形成は、上述したブリッジ10を取り付けるピン孔hを形成するドリルキット20を使用することができる。また、ピン孔h2の形成は、ベース孔を形成する位置のマーキングを支台歯TSの舌側面s2に形成すること、ベース孔が支台歯TSを貫通しないようにすること、を除けば、実質的に、上述したブリッジ10を取り付けるピン孔hを形成する作業と同じ方法で行うことができる。
【0095】
なお、ピン孔h2を形成する際に、ドリル21~23が支台歯TSを貫通することを防ぐ上では、ドリルキット20の各ドリル21~23が、その軸に2mm程度の等間隔の目盛りを備えていることが望ましい。また、ドリルキット20による孔形成の際に形成したい長さ以上にドリルが進まないようにする装置(ストッパー)を使用しても、ドリル21~23が支台歯TSを貫通することを防止できる。かかる装置(ストッパー)は、ドリル21~23自体に装着するものであってもよいし、支台歯TSに装着するものであってもよい。
【0096】
<ブリッジ10Bの作製方法>
ブリッジ10Bは、ブリッジ10と異なり、ピン孔h2が舌側面s2と唇側面s1との間を貫通しない孔となっているが、実質的には、ブリッジ10と同様の方法で作製することができる(図12図14参照)。つまり、ピン孔h2が舌側面s2と唇側面s1との間を貫通しない孔となっていることに起因して生じる相違点を除いて、実質的に、ブリッジ10と同様の方法で作製することができる。相違点としは、例えば、ブリッジ10Bの作製では、個人トレーPTによる印象採得を行う際に支台歯TSのピン孔h2に舌側面s2から印象採得用ピンPAを挿入することを挙げることができる(図12参照)。また、石膏模型を作製する際に個人トレーPTの印象材MAの舌側面s2から印象採得用ピンPAを差し込んでおくこと、ブリッジ型の作製の際に第二口腔内模型M2の支台歯TSの舌側面s2のみから型ピンMPが突出した状態となるようにすること(図13参照)等が、ブリッジ10の作製方法とブリッジ10Bの作製方法の相違点になる。
【0097】
また、ブリッジ10Bの作製の際に、口腔内のスキャニングによって口腔内の治療部位の印象採得が行う場合には、スキャンフラッグSFの配置も、ブリッジ10の作製方法とブリッジ10Bの作製方法で異なる。つまり、ブリッジ10Bの作製の際には、スキャンフラッグSFは支台歯TSに舌側面s2から挿入され、支台歯TSのピン孔h2の舌側面s2のみからスキャンフラッグSFが突出した状態とする。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の歯科用補綴装置は、歯牙を失った個所に人工歯を取り付ける装置として適している。
【符号の説明】
【0099】
1 歯科用補綴装置
10 ブリッジ
10B ブリッジ
12 人工歯
12B 人工歯
13 支台部
13B 支台部
13a 連結部
f 接触面
13h 雌ネジ孔
13hs ヘッドシンク
PS 凸部
14 連結ピン
14B 連結ピン
14h 頭部
14a 軸部
s 雄ネジ
20 ドリルキット
21 プレドリル
21d ドリル部
22 メインドリル
22d ドリル部
23 仕上げリーマー
23d ドリル部
TS 支台歯
E エナメル質
I 象牙質
P 歯髄
s1 唇側面
s2 舌側面
h ピン孔
h2 ピン孔
hc 連結孔
hs ヘッドシンク
hd 凹み部
MA 印象材
MP 型ピン
PT 個人トレー
PA 印象採得用ピン
M1 第一口腔内模型
M2 第二口腔内模型
WP 型
SF スキャンフラッグ
SA 空間
G グリップ
c 切欠き

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14