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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】圧力センサ
(51)【国際特許分類】
   G01L 9/00 20060101AFI20240329BHJP
   G01L 13/06 20060101ALI20240329BHJP
   H01L 29/84 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
G01L9/00 305A
G01L13/06 C
H01L29/84 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020111322
(22)【出願日】2020-06-29
(65)【公開番号】P2022010640
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】595136911
【氏名又は名称】株式会社山本電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】安保 充
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/049769(WO,A1)
【文献】特開昭59-145940(JP,A)
【文献】特開2020-085628(JP,A)
【文献】特開2010-043871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 7/00-23/32
H01L 29/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1絶縁層と、
前記第1絶縁層上に接合された導電層と、
前記導電層上に接合された第2絶縁層と、
前記第1絶縁層の前記導電層に対向する面上の一部に配置される第1電極部と、
前記第2絶縁層の前記導電層に対向する面上の一部に配置される第2電極部と、を備え、
前記導電層は、前記第1絶縁層との間に第1空間を形成するとともに、前記第2絶縁層との間に第2空間を形成するように他の部分に比べて厚みの小さい板状で円形のダイヤフラム部を含み、
前記ダイヤフラム部の前記第1絶縁層に面する第1表面および前記第2絶縁層に面する第2表面には、それぞれ複数の凹部が形成されており、
前記複数の凹部は、前記第1表面および前記第2表面のそれぞれにおいて、前記ダイヤフラム部の中心を中心とする1又は複数の仮想円の円周上に、前記第1表面および前記第2表面において交互に、周方向に等間隔で配置されており、
前記第1表面および前記第2表面は、凹部の数、形状および配置において同一である、
圧力センサ。
【請求項2】
前記仮想円の円周上に配置された凹部は、前記仮想円の円周の周方向に延在する弧状溝であって、周方向の長さが前記円周の1/n(但し、nは8以上64以下の偶数)である、請求項1に記載の圧力センサ。
【請求項3】
前記凹部は、径方向の断面が矩形である、請求項1または請求項2に記載の圧力センサ。
【請求項4】
前記凹部の深さは、前記ダイヤフラム部の厚みの1/10以上である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の圧力センサ。
【請求項5】
前記仮想円は、複数の仮想円である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の圧力センサ。
【請求項6】
前記複数の仮想円は、径方向に等間隔に配置されている、請求項5に記載の圧力センサ。
【請求項7】
静電容量型微差圧センサである、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の圧力センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧力センサとして、電極間の静電容量の変化により圧力を検出する静電容量型圧力センサが知られている。
【0003】
静電容量型圧力センサは、一対の絶縁物の間にダイヤフラムが挟み込まれた構造を有する。ダイヤフラムと一方の絶縁物との間およびダイヤフラムと他方の絶縁物との間には、それぞれ空隙が形成される。また、各絶縁物におけるダイヤフラムとの対向面には電極が配置される。このような静電容量型圧力センサとして、ダイヤフラムの一方側を既知の一定圧力が維持されるように構成し、それを基準圧として他方側の圧力を検出する絶対圧検出タイプと、ダイヤフラムの両側の圧力差を検出する差圧検出タイプとがある。いずれのタイプも、ダイヤフラムの両側の圧力差から生じるダイヤフラムの微小な変位を静電容量の変化に変換して、圧力を検出するものである。静電容量は、ダイヤフラムと電極との空隙の大きさに反比例する。
【0004】
静電容量型圧力センサのダイヤフラムは、その周縁に肉厚部を有し、周縁部において絶縁体と接合される。ダイヤフラムは例えば半導体や金属等の導電性物質からなり、絶縁物はガラス等からなる。(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-189870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
静電容量型圧力センサの検出精度を高めるために、より薄いダイヤフラムを用いることが検討されている。しかしながら、より薄いダイヤフラムを用いる場合、環境温度の変化の影響を受けやすくなり、環境温度の変化によって圧力センサの出力に変動が生じるおそれがあった。
【0007】
本発明は、この状況に鑑み、環境温度やその変化に関わらず、安定に圧力を検出することが可能な静電容量型圧力センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に従った圧力センサは、
第1絶縁層と、
前記第1絶縁層上に接合された導電層と、
前記導電層上に接合された第2絶縁層と、
前記第1絶縁層の前記導電層に対向する面上の一部に配置される第1電極部と、
前記第2絶縁層の前記導電層に対向する面上の一部に配置される第2電極部と、を備え、
前記導電層は、前記第1絶縁層との間に第1空間を形成するとともに、前記第2絶縁層との間に第2空間を形成するように、他の部分に比べて厚みの小さい板状で円形のダイヤフラム部を含み、
前記ダイヤフラム部の前記第1絶縁層に面する第1表面および前記第2絶縁層に面する第2表面には、それぞれ複数の凹部が形成されており、
前記複数の凹部は、前記第1表面および前記第2表面のそれぞれにおいて、前記ダイヤフラム部の中心を中心とする1又は複数の仮想円の円周上に、前記第1表面および前記第2表面において交互に、周方向に等間隔で配置されており、
前記第1表面および前記第2表面は、凹部の数、形状および配置において同一である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、環境温度やその変化に関わらず、安定に圧力を検出することが可能な静電容量型圧力センサが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】圧力センサの構造の一例を示す概略断面図である。
図2A】圧力センサの導電層の構造の一例を示す概略平面図である。
図2B】圧力センサの導電層の構造の一例を示す周方向部分断面図である。
図3】圧力センサの導電層の構造の一例を示す概略平面図である。
図4】圧力センサの導電層の構造の一例を示す概略径方向部分断面斜視図である。
図5A】圧力センサの導電層の構造の一例を示す概略径方向部分断面斜視図である。
図5B】圧力センサの導電層の構造の一例を示す概略径方向部分断面斜視図である。
図6A】圧力センサの導電層の構造の一例を示す概略平面図である。
図6B】圧力センサの導電層の構造の一例を示す周方向部分断面図である。
図7A】圧力センサの導電層の構造の一例を示す概略平面図である。
図7B】圧力センサの導電層の構造の一例を示す周方向部分断面図である。
図8A】圧力センサの導電層の構造の一例を示す概略平面図である。
図8B】圧力センサの導電層の構造の一例を示す概略平面図である。
図9A】圧力センサの導電層の構造の一例を示す概略平面図である。
図9B】圧力センサの導電層の構造の一例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態の概要]
本開示に従った圧力センサは、第1絶縁層と、前記第1絶縁層上に接合された導電層と、前記導電層上に接合された第2絶縁層と、前記第1絶縁層の前記導電層に対向する面上の一部に配置される第1電極部と、前記第2絶縁層の前記導電層に対向する面上の一部に配置される第2電極部と、を備え、前記導電層は、前記第1絶縁層との間に第1空間を形成するとともに、前記第2絶縁層との間に第2空間を形成するように他の部分に比べて厚みの小さい板状で円形のダイヤフラム部を含み、前記ダイヤフラム部の、前記第1絶縁層に面する第1表面および前記第2絶縁層に面する第2表面には、それぞれ複数の凹部が形成されており、前記複数の凹部は、前記第1表面および前記第2表面のそれぞれにおいて、前記ダイヤフラム部の中心を中心とする1又は複数の仮想円の円周上に、前記第1表面および前記第2表面において交互に、周方向に等間隔で配置されており、前記第1表面および前記第2表面は、凹部の数、形状および配置において同一である。
【0012】
静電容量型圧力センサはダイヤフラムが一対の絶縁層に挟まれた構造であり、ダイヤフラムの周縁が絶縁層に接合されている。ダイヤフラムの材質としてはシリコンや金属などが用いられ、絶縁層の材質としてはガラス等が一般的である。シリコンとガラスとを接合するためには陽極接合が用いられることが多く、陽極接合時には400℃程度の高温となる。一方で、ガラスの線膨張係数は、シリコンの線膨張係数よりも若干低くなるように調整される。このため、高温下で接合されたシリコン(ダイヤフラム)とガラス(絶縁層)が常温に戻ると、ダイヤフラムがガラスによって外向きに引っ張られて、ダイヤフラムには常に張力が加わる状態となる。
【0013】
他方、圧力センサの感度を向上させることを目的として、微小な圧力変化でもダイヤフラムが変位するように、より薄いダイヤフラムを用いることが検討されている。しかしながら、ダイヤフラムが薄いほど張力の変化にも敏感になる。このため、環境温度が変化してダイヤフラムの張力が変動すると、ダイヤフラムの動きやすさも変動し、結果として圧力センサの出力が変化してしまうおそれが判明した。
【0014】
そこで、本発明者らは、環境温度に変動が生じても圧力センサの出力が安定するよう、環境温度の変化に起因するダイヤフラムの張力変化を小さくすることに着想した。発明者らは当初、ダイヤフラムに複数の同心円環状の溝を設けることによって、ダイヤフラムにかかる応力を分散することを検討したが、その効果は必ずしも十分ではなかった。そこで発明者らはさらに検討を重ね、円環状の溝を設けることに代えて、同一周上で円環を分割し、円周を分割した弧状溝をダイヤフラムの表と裏とに交互に配置することに想到した。そして、このような形態のダイヤフラムは表裏が同一形状となり、ダイヤフラムの表裏において均等に応力が分散されることを見出した。この帰結において、発明者らは、このようなダイヤフラムは環境温度の変化による張力変化に対する安定性が高く、環境温度やその変化に関わらず安定に圧力を検出することが可能な静電容量型圧力センサが得られることを見出した。
【0015】
本発明の圧力センサは、導電層のダイヤフラム部の表裏両面にそれぞれ複数の凹部が形成されている。複数の凹部は、表面のそれぞれにおいて、ダイヤフラム部の中心を中心とする1又は複数の仮想円の円周上に、表裏に交互に、周方向に等間隔で配置されている。表面および裏面の凹部は、その数、形状および配置において同一である。つまり、ダイヤフラム部はその表裏の形状が同一であり、表裏の区別がない。この構成によれば、フォトリソグラフィによって凹部を作成する場合、表面と裏面とに同一のマスクを用いることができる点でも有利である。
【0016】
また、仮想円の円周上に配置された凹部は、仮想円の円周の周方向に延在する弧状溝であって、周方向の長さが前記円周の1/n(但し、nは8以上64以下の偶数)であってよい。この構成によれば、表裏両面の凹部によって全体としては円環状に凹部が連続し、応力分散の効果にさらに優れる。
【0017】
また、凹部は径方向の断面が矩形であってよい。矩形の凹部はドライエッチングによって形成することができ、公知の技術を利用して精度の高い凹部を安定して形成することができる。
【0018】
また、凹部の深さは、前記ダイヤフラム部の厚みの1/10以上9/10未満とすることができ、1/4以上3/4未満であればより好ましい。静電容量型圧力センサにおいては、目的とする圧力測定レンジによってさまざまな厚みのダイヤフラムが用いられるところ、凹部の深さをダイヤフラム部の厚みの1/10以上9/10未満とすることによって、応力分散の効果に加えて、ダイヤフラムの加工工程における合理性と圧力センサの品質の安定性も得ることができる。
【0019】
また、ダイヤフラム部における仮想円は、複数の仮想円であってもよい。複数の仮想円を設定し、それぞれの仮想円において、円周を分割した弧状の凹部を表裏に交互に配置することによって、より優れた応力分散の効果が得られる。
【0020】
ダイヤフラム部おける仮想円が複数の仮想円である場合、仮想円は径方向に等間隔に配置されてもよい。仮想円を径方向に等間隔に配置することによって、より優れた応力分散の効果が得られる。
【0021】
前述の圧力センサは、静電容量型微差圧センサであってよい。本発明の静電容量型微差圧センサは、上述の構成によって、環境温度やその変化に関わらず、高い精度で安定して微差圧を検出することができる。
【0022】
[発明の実施の具体例]
以下、図面に基づいて本開示の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0023】
[圧力センサの構造]
図1を参照して、圧力センサ1は、第1絶縁層10と、導電層50と、第2絶縁層20と、第1電極部11と、第2電極部21と、を備える。第1絶縁層10および第2絶縁層20は、平板状の形状を有する。導電層50は、ダイヤフラム部51と、ダイヤフラム部51の周縁に形成された支持部52とを備える。支持部52は、ダイヤフラム部51よりも厚みが大きい。ダイヤフラム部51は円板状の形状を有する。ダイヤフラム部51の外周を取り囲むように支持部52が配置される。ダイヤフラム部51には、複数の凹部80が形成されている。
【0024】
第1絶縁層10および第2絶縁層20は平行平板状のガラス基板である。導電層50は例えば、不純物が導入されることにより導電性が付与されたシリコンからなる。
【0025】
第1電極部11は、第1絶縁層10の主面12上の一部に形成される。第1電極部11は、第1絶縁層の表面、第1検圧空間Sを挟んでダイヤフラム部51に対向する主面12上の一部に形成される。第1電極部11の一方の端部は、第1検圧空間Sに対応する第1絶縁層10の面上の領域に位置する。第1電極部11は、第1絶縁層11において、第1検圧孔Hに対応する部分を経て、第1絶縁層10の他方の表面13まで延在している。
【0026】
第2電極部21は、第2絶縁層20の主面22上の一部に形成される。第2電極部21は、第2絶縁層の表面、第2検圧空間Sを挟んで、ダイヤフラム部51に対向する主面22上の一部から、第2検圧孔Hに対応する部分を経て、第2絶縁層20の他方表面23まで延在している。第2電極部21の一方の端部は、第2検圧空間Sに対応する第2絶縁層20の主面22に位置する。第2電極部21の他方の端部は、第2絶縁層20の導電層50とは反対の表面23上に位置する。
【0027】
導電層50は、第1絶縁層10と第2絶縁層20との間に挟み込まれて接合されている。具体的に、導電層50の支持部52において、導電層50は、第1絶縁層10の一方の主面12、および、第2絶縁層20の一方の主面22に接合されている。導電層50は、第1絶縁層10の一方の主面12および第2絶縁層20の一方の主面22に対して直接接合されている。
【0028】
第1絶縁層10および第2絶縁層20と導電層50とがそれぞれガラスおよびシリコンである場合、例えば陽極接合によって接合が行われる。ガラスとシリコンとの線膨張率の違いおよび接合時の温度(400℃程度)と常温との差に起因して、常温下において、導電層50は第1絶縁層10および第2絶縁層20とに引っ張られ、外向きに張力Tが生じる状態となっている。
【0029】
導電層50のダイヤフラム部51には、複数の凹部80が形成されている。凹部80は、ダイヤフラム部51の第1表面71および第2表面72に設けられている。凹部80は、ダイヤフラム部51の中心を中心とする複数の仮想円(図1においては5つの仮想円)の円周上に設けられている。図1には凹部の径方向の断面が現れており、径方向の断面は矩形である。
【0030】
圧力センサ1は、第1電極部11、第2電極部21、導電層50にそれぞれ引き出し電極線(図示なし)が取り付けられており、第1流体側Pおよび第2流体側Pの静電容量の差を検出することによって、第1流体側Pと第2流体側Pの差圧を測定する。
【0031】
導電層50において、凹部80がその円周上に配置される仮想円は1つであっても(すなわち、1重の仮想円)、複数であってもよい(すなわち、複数の同心仮想円)。仮想円が複数である場合、その数は本発明の効果を奏する限り限定されないが、例えば2~20の仮想円を設けることができる。図2Aは、仮想円が1つである場合の導電層50を模式的に示す平面図である。理解容易のために、図2Aにおいては、第1表面71に形成された凹部を実線で、第2表面72に形成された凹部を破線でそれぞれ示している。図2Aを参照して、導電層50には、ダイヤフラム部51の中心cを中心とする仮想円の円周上に、ダイヤフラム部51の第1表面71および第2表面72において周方向に交互に、等間隔で配置された凹部801~808が形成されている。凹部801、803、805、807は第1表面71に形成されており、凹部802、804、806、808は第2表面72に形成されている。凹部801~808のそれぞれは、仮想円の円周の周方向に延在する弧状の凹部である。凹部801~808のそれぞれの周方向の長さは、仮想円の円周の1/8である。
【0032】
図2Bを参照して、凹部801、802、803、804の周方向の断面(図2AにおけるA-A断面)においては、凹部801、803では第1表面71に凹部が形成され、凹部802、804では第2表面72に凹部が形成されている。凹部801~804のそれぞれの深さは、ダイヤフラム部の厚みdの約1/2である。図2の実施形態では、凹部の深さはダイヤフラム部の厚みの約1/2であるが、凹部の深さは特に制限されない。例えばダイヤフラム部51の厚みdの1/10以上、1/2以下とすることができる。凹部の深さを、ダイヤフラム部の厚みの1/10以上とすることによって、応力分散の効果に優れるものとなる。凹部の深さをダイヤフラム部の厚みの1/2以下とすることによって、ダイヤフラムの強度を確保することができる。また、ダイヤフラム部に形成される複数の凹部の深さはすべて同じでも一部異なっていてもよいが、応力を均等に分散する観点からは、ダイヤフラム部に形成される複数の凹部の深さはすべて同じであることが好ましい。
【0033】
図2の実施形態では仮想円の円周を8分割し、凹部のそれぞれの長さを1/8周としているが、分割は偶数であればよく、8分割から64分割程度までの任意の数とすることができる。円周を偶数に分割し、第1表面と第2表面に同数の凹部を配置することによって、ダイヤフラム部51に生じる応力を、表面と裏面とで均等に分散できる。
【0034】
同心円環状の溝を形成したダイヤフラムに対して、本開示のダイヤフラムは、同一周上で円周を偶数に分割し、ダイヤフラムの表面および裏面に分割した溝を交互に配置する。すなわち、ダイヤフラムの両面において同一の数、形状、配置の凹部を形成することを特徴とする。この構成によって、本開示のダイヤフラムは、同心円環状の溝が表裏に形成されたダイヤフラムよりも、さらに両面の等価性が高く、優れた応力分散の効果を得ることができる。このため、環境温度の変化によってダイヤフラムにかかる張力が変化した場合であっても、ダイヤフラムの表裏に均等に設けられた凹部において均等に確実に応力が分散され、環境温度の変化の影響を受けにくくなる。
【0035】
図3は本開示の別の実施形態の導電層50を示す。図3を参照して、凹部80は、複数の仮想同心円の円周上に配置されている。理解容易のために、図3においては第1表面71に形成された凹部を実線で、第2表面72に形成された凹部を破線でそれぞれ示している(以下の図面でも同様に、実線および破線を用いて凹部を示す)。図3の例では、ダイヤフラム部51の中心cを中心とする10の仮想円が規定され、それぞれの仮想円の円周が8分割されている。仮想円はダイヤフラム部51の径方向に等間隔に配置されている。また、凹部80の径方向の幅は、すべての凹部において同一とされている。
【0036】
図4は本開示の別の実施形態の導電層50の径方向部分断面斜視図である。図4を参照して、ダイヤフラム部51には、第1表面71および第2表面72に複数の凹部が形成されている。凹部91a、91bはともに第1表面71上に形成され、かつ、同一の仮想円の円周上に配置されている。凹部91a、91bの周方向の長さおよび深さは同一である。凹部91aと91bとの間には、第2表面において、凹部91aおよび91bと同一の長さおよび深さの凹部(不図示)が形成されている。また、凹部92a、92bは同一の仮想円の円周上に設けられており、凹部92aは第2表面72に、凹部92bは第1表面71にそれぞれ形成されている。
【0037】
図5は本開示の別の実施形態の導電層50の径方向部分断面斜視図である。図5A,Bを参照して、導電層50のダイヤフラム部51には、第1表面71および第2表面72に複数の凹部が形成されている。ダイヤフラム部51には複数の仮想円y1~y7が規定され、仮想円y1~y7は径方向に互いに等間隔である。仮想円y1~y7のそれぞれの円周上に、円周を分割した弧状の凹部が等間隔に形成されている。図5Bは、図5Aの導電層50を、ダイヤフラム部51の中心を中心として、ダイヤフラム部の周方向(図5A,Bの矢印cdが示す方向)に約10°回転させたときの断面(図5AにおけるB-B断面)を示す。
【0038】
図6A,Bは本開示の別の実施形態の導電層50の平面図および部分断面図である。図6A,Bを参照して、第1表面71に形成される凹部801、803、805と、第2表面72に形成される凹部802、804、806は、両表面において交互に、周方向に等間隔に形成されている。図6Bは、図6Aにおいて凹部801~806が形成される仮想円の円周方向の断面図である。図6A,Bの例では、隣り合う凹部(例えば、凹部801と凹部802)の間に、凹部の深さaとほぼ同じ長さの間隔bが設けられている。図6A,Bの実施形態では、凹部の深さaと凹部の間隔bがほぼ同じであるが、隣り合う凹部同士はより近接していてもよいし、より離隔していてもよい。隣り合う凹部同士の間に間隙を設ける場合、間隙の長さは、本発明の効果を得られる限り制限されないが、例えば凹部の長さcに対して、凹部の間隙bを1/20~1/2程度とすることができる。
【0039】
図7A,Bは本開示の別の実施形態の導電層50の平面図および部分断面図である。図7A,Bを参照して、第1表面71に形成される凹部801、803、805と、第2表面72に形成される凹部802、804、806は、両表面において交互に、周方向に等間隔に形成されている。図7Bは、図7Aにおいて凹部801~806が形成される仮想円の円周方向の断面図である。図7A,Bの例では、隣り合う凹部(例えば、凹部801と凹部802)の間に、凹部の深さaよりも大きな間隔bが設けられている。また、凹部の長さcに対する凹部の間隔bは約1/2である。凹部の深さaと凹部の間隔bの関係は特に制限されないが、[ダイヤフラムの厚み-凹部の深さa]と間隔bとが等しい、または近いことが好ましい。
【0040】
図8A,B、図9A,Bはそれぞれ、本開示の別の実施形態の導電層50の平面図である。図8Aは導電部50の第1表面71に示された凹部8001、8002を示す。図8Bは、第1表面71の凹部8001、8002に加えて、第2表面72に形成される凹部を点線で示している。図8A,Bにおいて、凹部は10の仮想同心円の円周上に配置されている。それぞれの仮想円は16分割され、凹部のそれぞれ(凹部8001、8002他)の周方向の長さは、円周の1/16である。また、互いに隣接する仮想円において、凹部が周方向に22.5°ずつ回転した形態で配置されている。すなわち、凹部は径方向に互いに斜行して配置されている。凹部が互いに斜行して配置される場合、斜行の程度(分割円同士の回転の程度)は特に制限されないが、たとえば0°より大きく45°未満の範囲で任意に設定されうる。一方、図9A、Bの実施形態は、仮想円の数および配置、ならびに凹部の数および形状は図8A,Bと同様である。しかしながら、図9A,Bの実施形態では、凹部が径方向に整列するように配置されている。
【0041】
[圧力センサの動作]
圧力センサ1の動作について説明する。図1を参照して、圧力センサ1は差圧センサであり、導電部50によって区画された第1流体側Pおよび第2流体側Pの圧力の差を測定する。流体は気体もしくは液体であり、典型的には大気圧未満の気体である。第1流体側P、第2流体側Pの流体は、それぞれ第1検圧孔Hおよび第2検圧孔Hを通じて、第1検圧空間Sおよび第2検圧空間Sに導入される。第1流体側の圧力pと第2流体側の圧力pとが等しい(差圧がゼロである)時、ダイヤフラム部51は湾曲することなく平板状に保持される。第1流体側の圧力pと第2流体側の圧力pとが等しい時には、第1測定空間Sにおける第1電極部11とダイヤフラム部の第1表面71との距離dと、第2測定空間Sにおける第2電極部21とダイヤフラム部の第2表面72との距離dは等しい。すなわち、第1流体側Pおよび第2流体側Pの静電容量は等しい。
【0042】
第1流体側の圧力pと第2流体側の圧力pとが等しく、第1流体側Pと第2流体側Pの差圧がゼロの状態でも、導電部50には張力Tがかかっており、その張力Tを緩和するように凹部80に応力が発生する。ここで、本開示のダイヤフラム部51は、第1表面71および第2表面72に形成された凹部80の数、長さ、配置が相等しいため、第1表面71および第2表面72において均等に応力分散が生じる。この構成によって、環境温度の変化によって張力Tが変化した場合にも、差圧ゼロの状態が安定に維持される。すなわち、本開示のダイヤフラム部51によれば、差圧ゼロの状態における環境温度の変化の影響を緩和することができる。この構成によって、環境温度が変化しても微差圧を安定に正確に検出することができる。
【0043】
第1流体側の圧力pと第2流体側の圧力pに差が生じると、高圧側から低圧側に向かってダイヤフラム部51が変位する。ダイヤフラムの変位によって、第1測定空間Sにおける第1電極部11とダイヤフラム部の第1表面71との距離dと、第2測定空間Sにおける第2電極部21とダイヤフラム部の第2表面72との距離dに差が生じ、この差が静電容量の差として検出される。静電容量の差から、第1流体側の圧力pと第2流体側の圧力pとの差が算出される。
【0044】
導電部50(ダイヤフラム部51)の厚みによって、圧力センサの測定レンジを選択することができる。特に限定されるものではないが、例えば、10μm~20μm程度の厚みのダイヤフラム部51を用いるとき、0Pa~25Pa程度の差圧を検出することができる。また、例えば、20μm~30μm程度の厚みのダイヤフラム部51を用いるとき、0Pa~100Pa程度の差圧を検出することができる。
【0045】
なお、上記の実施態様は静電容量型微差圧センサにかかるものであるが、別の実施態様として、静電容量型絶対圧センサとすることもできる。
【0046】
[静電容量型圧力センサの製造]
圧力センサ1の製造方法の概要を説明する。図1を参照して、まずガラス基板からなる第1絶縁層10および第2絶縁層20を準備する。より具体的には、硼珪酸ガラスのような耐熱ガラスが準備される。
【0047】
次いで、第1絶縁層10および第2絶縁層20にそれぞれ、第1検圧孔Hおよび第2検圧孔Hが形成される。第1検圧孔Hおよび第2検圧孔Hは、たとえばそれぞれの絶縁層の一方の主面上に検圧孔の形状に対応する開口を有するマスク層を形成した上で、エッチングを実施することにより形成できる。
【0048】
次いで、それぞれの絶縁層に電極部を形成する。具体的には、第1絶縁層および第2絶縁層のそれぞれにおいて、一方の主面、他方の主面および検圧孔を取り囲む壁面上に電極部が形成される。電極部は、たとえば絶縁層の一方の主面、他方の主面および検圧孔上に、電極部の形状に対応する開口を有するマスク層を形成した上で、スパッタリングを実施することにより形成することができる。
【0049】
次いで、不純物が導入されることにより導電性が付与された珪素からなる導電層を準備する。より具体的には、P型不純物であるホウ素が導入されたシリコン基板や、N型不純物であるヒ素が導入されたシリコン基板が準備される。そして、導電層50の第1表面71上にダイヤフラム部51に相当する薄膜部分が形成される。具体的には例えば、レジストコーティングおよびそのパターニングによって、導電層50の第1表面71上の一部にダイヤフラム部51の形状に対応する開口を有するマスク層を形成した上で、ドライエッチングを実施することによって、ダイヤフラム部51に相当する薄膜部分を形成できる。
【0050】
次いで、ダイヤフラム部51に相当する薄膜部分が形成された第1表面71の全体に再度レジストコーティングを実施し、凹部80の形状に対応するレジストパターニングを実施することによって、第1表面71上にマスク層を形成する。次いでドライエッチングを実施することによって、ダイヤフラム部51上に、凹部80を形成できる。
【0051】
ダイヤフラム部51の第2表面72についても同様にして、ダイヤフラム部51に対応する薄膜部分を形成し、さらにレジストコーティング、パターニングおよびドライエッチングを行うことによって、凹部80を形成できる。この時、第1表面71および第2表面72について、同一のマスクを用いてドライエッチングを実施することができる。
【0052】
次いで、導電層50の第1表面71上に第1絶縁層10が接合される。また、導電層50の第2表面72上に第2絶縁層20が接合される。接合の方法は特に制限されないが、陽極接合を用いることが好ましい。また、上述の工程のほか、導電層50の第1表面71の加工に続いて第1絶縁層10を接合し、次いで導電層50の第2表面72の加工を行い、それに続いて第2絶縁層20を接合する工程とすることもできる。
【0053】
さらに、必要に応じて引き出し電極等の部材が組み合わされ、圧力センサ1が製造される。
【0054】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の圧力センサは、低コストで高い検出精度が求められる圧力センサに、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0056】
1 圧力センサ、 10 第1絶縁層、 11 第1電極部、 12、13 主面、 20 第2絶縁層、 21 第2電極部、 22、23 主面、 50 導電層、 51 ダイヤフラム部、 52 支持部、 71 第1表面、 72 第2表面、 80,91a、91b、92a、92b、801~808、8001~8002 凹部、
第1検圧空間、 S 第2検圧空間、 H 第1検圧孔、 H 第2検圧孔、 P 第1流体側、 P 第2流体側、p 第1流体側圧力、 p 第2流体側圧力、 T 張力、 y1~y7 仮想円
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B