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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】培養装置および培養対象の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240329BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12N1/00 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020136057
(22)【出願日】2020-08-11
(65)【公開番号】P2022032368
(43)【公開日】2022-02-25
【審査請求日】2023-07-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520425855
【氏名又は名称】株式会社BrainGild
(74)【代理人】
【識別番号】100128886
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 裕弘
(72)【発明者】
【氏名】岩越 万里
(72)【発明者】
【氏名】都筑 幹夫
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-131195(JP,A)
【文献】特開平07-227269(JP,A)
【文献】特開昭51-115987(JP,A)
【文献】特開2012-175964(JP,A)
【文献】特開2007-159582(JP,A)
【文献】特開平05-337361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に対して傾斜して設けられた板状部材であり培養液が流下する流下体と、
前記流下体の上端側に向けて培養液を供給する供給体と、
前記流下体の内部から当該流下体の外部に向かう光を出射する光源と、
を有し、
前記流下体は、当該流下体の上面に形成され、培養液の流下方向と交差する方向に延びる溝が培養液の流下方向に複数並べて形成され、
前記流下体の前記溝の端部に設けられ、当該溝の端部から培養液が落下することを抑制するが設けられる、
培養装置。
【請求項2】
前記溝は、前記流下体の内部からの光を当該溝の底部から出射する
請求項1記載の培養装置。
【請求項3】
前記溝の底部は、湾曲面により形成されている
請求項1または2記載の培養装置。
【請求項4】
前記光源は、前記流下体において前記溝同士に挟まれる領域に向けて光を照射する
請求項1乃至3のいずれか1項記載の培養装置。
【請求項5】
前記板状部材である前記流下体が複数設けられ、当該流下体の各々が互いに沿う向きに傾斜して配置される
請求項4記載の培養装置。
【請求項6】
上下方向に延びる円柱状の部材であり外周を培養液が流下する流下体と、
前記流下体の上端側に向けて培養液を供給する供給体と、
前記流下体の内部から当該流下体の外部に向かう光を出射する光源と、
を有し、
前記流下体は、当該流下体の外周に形成され、培養液の流下方向と交差する方向に延びる溝が培養液の流下方向に複数並べて形成される、
培養装置。
【請求項7】
上下方向に対して傾斜して設けられた板状部材であり流下体の表面を培養液が流下するステップと、
前記流下体の上端側に向けて培養液を供給するステップと、
前記流下体の内部から当該流下体の外部に向かう光を出射するステップと
を有し、
前記流下体は、当該流下体の上面に形成され、培養液の流下方向と交差する方向に延びる溝が培養液の流下方向に複数並べて形成され、
前記流下体の前記溝の端部に設けられ、当該溝の端部から培養液が落下することを抑制するが設けられる、
培養対象の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養装置および培養対象の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策として、温暖化ガスの排出を可及的に抑える取り組み等が各国の産業界に強く求められている。クロレラ等の微細藻類や光合成細菌などの微生物は、炭酸ガスを排出しないでエネルギー生産が可能な資源その他の産業上利用可能な資源として非常に有望視されており、商業レベルでの活用及び効率的な製造に期待が寄せられている。
【0003】
クロレラ等の微細藻類をエネルギー資源その他の産業上の利用に供するためには、できるだけ低いコストで生産することが要求されるが、水中で微細藻類を大量培養する場合、大規模なプールやタンクを必要とする。したがって、用地の取得または設備の大規模化による費用増大等の問題がある。
【0004】
かかる課題に対して、単位面積当たりの生産量の向上を図るために、鉛直方向に並べた担体に培養液を流下させ、その担体において微細藻類を増殖させ、流下した培養液中から微細藻類を回収する培養システムが提案されている(例えば、特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-175964号公報
【文献】特開2013-153744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば微生物などの培養対象を培養する担体と、この担体に対して光を照射する照射部とを別々に設ける構成とすると、培養装置の構造が複雑となる。
そこで、本発明は、構造が簡略化された培養装置などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的のもと、本明細書に開示される技術は、培養液が流下する流下体と、前記流下体の内部から当該流下体の外部に向かう光を出射する光源とを有し、前記流下体は、当該流下体の表面に設けられ、培養液の流下方向と交差する方向に延びる溝を有する培養装置である。
ここで、前記溝は、前記流下体の内部からの光を当該溝の底部から出射するとよい。
また、前記溝の底部は、湾曲面により形成されているとよい。
また、前記溝は、培養液の流下方向に複数並べて形成されるとよい。
また、前記流下体は、上下方向に対して傾斜して設けられた板状部材であり、前記溝は、前記流下体の上面に形成されるとよい。
また、前記板状部材である前記流下体が複数設けられ、当該流下体の各々が互いに沿う向きに傾斜して配置されるとよい。
また、前記流下体は、上下方向に延びる円柱状の部材であり、当該円柱状の部材が複数設けられるとよい。
【0008】
他の観点から捉えると、本明細書に開示される技術は、流下体の表面を培養液が流下するステップと、前記流下体の内部から当該流下体の外部に向かう光を出射するステップとを有し、前記流下体は、当該流下体の表面に設けられ、培養液の流下方向と交差する方向に延びる溝を有する培養対象の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本明細書に開示される技術によれば、本発明は、構造が簡略化された培養装置などを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態に係る培養システムを示す概略構成図である。
図2】培養部の概略構成図である。
図3】導光体が案内する発光体の照射光を説明する図である。
図4】導光体によって案内される培養液の流れを示す図である。
図5】培養システムにおける微生物の製造方法を説明するフローチャートである。
図6】(a)および(b)は本実施の形態の他の変形例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の微生物培養システムの一実施形態について図面を参照して説明する。
<培養システム1>
図1は、本実施の形態に係る培養システム1を示す概略構成図である。
まず、図1を参照して、本実施の形態が適用される培養システム1の概略構成を説明する。
【0012】
図1に示すように、培養装置の一例である培養システム1は、微生物を培養する培養部10と、培養部10から微生物とともに培養液を回収し貯留するタンク30と、タンク30に貯留された培養液を循環させる駆動源であるポンプ50と、微生物を含む培養液を流す流路70と、各構成部材を制御する制御ユニット90とを有する。なお、培養部10の詳細構成については後述する。
【0013】
タンク30は、培養液を貯留する容器である。また、タンク30は、培養液からろ過により微生物を分離することで微生物を回収する。なお、タンク30において微生物が分離された培養液、すなわちろ液は、廃棄されてもよいし、ポンプ50などを介して再び微生物の培養に利用してもよい。
【0014】
流路70は、培養部10から排出される培養液をタンク30に流す流出流路71と、タンク30からポンプ50に培養液を流すポンプ流路73と、ポンプ50から培養部10に向けて培養液をそれぞれ流す第1供給流路75および第2供給流路77と、タンク30から培養液を取り出す取り出し流路79とを有する。
【0015】
制御ユニット90は、コンピュータなどにより構成され、培養システム1の構成部材を制御する。例えば、制御ユニット90は、ポンプ50の駆動条件を制御する。
【0016】
培養システム1においては、培養部10で微生物に光が照射されながら、微生物が培養される。また、培養部10から流出する微生物を含む培養液は、タンク30およびポンプ50によって、再び培養部10へと導かれる。ここで、タンク30およびポンプ50から排出される培養液は、第1供給流路75および第2供給流路77に分岐し、第1供給流路75および第2供給流路77のいずれかを介して培養部10へと導かれる。
【0017】
なお、以下の説明においては、図1に示す培養システム1の上下方向を、単に上下方向ということがある。また、培養システム1の幅方向を、単に幅方向ということがある。また、培養システム1における上下方向および幅方向と交差する方向を、単に奥行方向ということがある。
【0018】
<培養対象>
培養システム1において培養可能な培養対象としては、例えば緑藻(クロレラ、クラミドモナス、ヘマトコッカス、ボトリオコッカス、ドナリエラ)、トレボキシア藻(パラクロレラ)、プラシノ藻、シアノバクテリア(スピルリナ、アルスロステラ、シネココッカス、シネコキスティス、ノストック)、ハプト藻(プレウロクリシス)、珪藻(キートケロス)、真眼点藻鋼(ナンノクロロプシス)、およびユーグレナである。また、光合成は行わないが、ラビリンチュラ(オーランチオキトリウム)および、シアノバクテリアのシネコキスティスにおけるリン酸輸送体の遺伝子破壊株も適用可能である。
【0019】
また、培養システム1において培養可能な培養対象としては、上記類種のほか、例えばフォルミディウムやオシラトリア、シュードアナベナ、リムノスリックス、スサビノリ、スイゼンジノリ、ガルディエリア、シアニディウム、シアニディオシゾン、ポルフィラ、グラシラリア、パンドリナ、サヤミドロ、アオサ、アオノリ、シュードココミクサ(シュードコリシスティス)、エミリアニア、イソクリシス、ゲフィロカプサ、パブロバ、タラシオシラ、ニッチア、フィッツリフェラ、シアノバクテリア、灰色藻、紅藻、緑藻、トレボキシア藻、プラシノ藻、珪藻、ハプト藻(円石藻)、真眼点藻、さらに、渦鞭毛藻、褐藻などの藻類全般、および光合成細菌含む。これらの突然変異種、および光合成微生物の突然変異体や遺伝子組換え株も含み得る。
【0020】
付言すると、培養システム1において培養対象とする微生物は、例えば光合成微細藻類を含む光合成微生物である。光合成微生物とは、光合成を行う微生物である。また、光合成においては、光エネルギーを光合成色素が受光して励起され、反応中心クロロフィル(光合成細菌の場合はバクテリアクロロフィル)に伝えられ、水分子を分解して、酸素発生とともに電子を放出することにより一連の酸化還元反応、すなわち電子伝達系が生じる。この電子伝達系が働くことにより、アデノシン三リン酸(ATP)とニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)が作られ、このエネルギーおよび還元力を利用して、二酸化炭素固定反応、いわゆるカルビン=ベンソン回路が働く。その結果、最終的に多糖や脂質、タンパク質などが合成され、細胞が複製される形で増殖する。光合成は、光が直接関与する「明反応」とその後の反応を「暗反応」とする捉え方があるが、カルビン=ベンソン回路の複数の酵素が受光時に還元され活性化される。
【0021】
なお、培養システム1において培養対象となる、光エネルギーを利用して生命活動を行う生物としては、原核生物で酸素発生を行わない光合成細菌、酸素発生を行うシアノバクテリア(ラン藻)、および真核生物などが含まれる。真核生物は、所謂藻類と呼ばれ、シアノバクテリアを細胞内に取り込んだ一次共生生物として、灰色藻、紅藻、緑藻、トレボキシア藻、プラシノ藻などがあり、これらの真核単細胞藻類を細胞内に取り込んで成立した二次共生生物として、珪藻、ハプト藻、ユーグレナ、真眼点藻、渦鞭毛藻、ラフィド藻、クロララクニオン藻などがある。なお、褐藻としては多細胞生物が知られているが、他は単細胞の種を含む。また、培養システム1において培養対象となる、好アルカリ性及びアルカリ耐性の種としては、スピルリナ、アースロスピラ、サーモシネココッカス、ノストック、アナベナ、デスモデスムス、クロレラ・ソロキニアーナを含むクロレラ、及び、アルカリ性での増殖が可能な微細藻類株などが含まれる。
【0022】
<培養液>
培養システム1において用いられる培養液は、微細藻類を周知の方法により培養して、微生物の濃度を高めることが可能な培地の希釈液であれば、特に制限されない。培地としては、例えばCHU培地、JM培地、MDM培地などの一般的な無機培地を用いることができる。さらに、培地としては、ガンボーグB5培地、BG11培地、HSM培地の各種培地の希釈液が好ましい。無機培地には、窒素源としてCa(NO・4HOやKNO、NHClが、その他の主要な栄養成分としてKHPOやMgSO・7HO、FeSO・7HOなどが含まれる。また、培地には、微細藻類の生育に影響を与えない抗生物質などを添加してもよい。培地のpHは4~10が好ましい。また、各種産業において排出される廃水などを利用してもよい。
【0023】
なお、培養液に炭酸水素ナトリウムを含ませることにより、微細藻類の生育に適した二酸化炭素濃度に調整することができる。さらに説明をすると、培養液に炭酸水素ナトリウムを含ませることにより、培養システム1のように、ガスボンベ(不図示)に圧縮して収容された炭酸ガスを導光体110に向けて供給するガス供給ユニット(不図示)を設けない構成とすることができる。付言すると、図示の培養システム1とは異なり、ガス供給ユニット(不図示)を設ける構成であってもよい。
【0024】
<培養部10>
図2は、培養部10の概略構成図である。
次に、図1および図2を参照しながら、培養部10の概略構成を説明する。
図1に示すように、培養部10は、水平方向あるいは上下方向に対して傾斜して設けられ培養液を流下させるとともに光を照射する発光板11と、発光板11の下方に設けられ発光板11から流下する培養液を幅方向に流す流れ板15とを有する。図示の例の培養部10においては、発光板11が予め定められた間隔(距離G1)で複数(3つ)配置されている。
【0025】
図2に示すように、発光板11は、板面から光を発する板状部材である。発光板11は、培養液に向かう光を案内する導光体110と、導光体110に対して光を照射する発光体130と、導光体110を流れる培養液を案内する壁体150とを有する。
【0026】
導光体110は、平面視略長方形状の板状部材である。この導光体110は、所謂導光板として形成されている。具体的には、導光体110は、発光体130から照射された光を拡散させ、光を板面から均一に射出するように加工が施されている。また、導光体110は、発光体130が照射する光が内部を透過可能な材質により形成されている。この導光体110は、例えばアクリルなどの樹脂により形成される。また、導光体110は、レーザー加工やシルク印刷など周知の技術によって、板面に対して表面加工が施されることで形成される。なお、導光体110の構造は、図示の構造に限定されるものではない。例えば導光体110の板面に、表面拡散シートや反射シートなどの光を案内する板状部材などを設けてもよい。
【0027】
ここで、導光体110は、上下方向上側を向く板面である上面111と、上下方向下側を向く板面である下面112とを有する。また導光体110は、上端113と、第1側端114と、下端115と、第2側端116とを有する。この導光体110は、支持構造(不図示)などにより支持され、水平方向に対して傾斜して設けられている(図示の角度α参照)。さらに説明をすると、導光体110は、上端113よりも下端115が下方となるように配置されている。
【0028】
流下体の一例である導光体110は、上面111に複数の培養溝117を有する。なお、図示の導光体110は、下面112に培養溝117を有しない。言い替えると、導光体110の上面111は、下面112よりも表面の凹凸が大きくなるように形成されている。また、図示の培養溝117の各々は、奥行き方向に沿って設けられている。培養溝117の底部118は、湾曲面により構成されている。さらに説明をすると、培養溝117は、断面略U字状の溝である。図示の例の培養溝117は、上面111に予め定めた間隔で複数(10本)設けられている。なお、培養溝117は、溝の一例である。
【0029】
発光体130は、導光体110の第2側端116に沿って設けられる略直方体状の支持体131と、支持体131によって支持され第2側端116から導光体110内部に向けて光を照射するLED(Light Emitting Diode)133を有する。付言すると、光源であるLED133は、出射する光が導光体110の内部に向かい、かつ導光体110の板面に沿う向きに設けられている。図示の例におけるLED133は、第2側端116に沿って予め定められた間隔で複数(11個)設けられている。さらに説明をすると、LED133の各々は、導光体110において培養溝117が設けられていない領域、導光体110において培養溝117同士に挟まれる領域と対向する位置に設けられている。
【0030】
壁体150は、第1側端114に沿って設けられる第1壁部材151と、第2側端116に沿って設けられる第2壁部材153とを有する。第1壁部材151および第2壁部材153は、導光体110の上面111を流れる培養液を案内する。さらに説明をすると、第1壁部材151および第2壁部材153は、第1側端114および第2側端116から培養液が落下することを抑制し、導光体110の上面111を流れる培養液を下端115に向けて案内する。
【0031】
<発光体130の照射光>
図3は、導光体110が案内する発光体130の照射光を説明する図である。具体的には、図3(a)は導光体110および発光体130の配置を示す図であり、図3(b)は導光体110が案内する光の向きを示す図である。
次に、図3を参照しながら、導光体110が案内する発光体130の照射光を説明する。
【0032】
まず、図3(a)に示すように、発光体130のLED133から照射された光は、導光体110の内部を板面に沿って進む(図中L1参照)。そして、図3(b)に示すように、導光体110の内部を進んだ光は、上面111から外部に向けて出射する(図中L3参照)。
ここで、上述のように上面111はレーザー加工などが施されているため、上面111全体から光が射出する。
【0033】
また、導光体110の内部を進んだ光は、培養溝117の内部に向けても出射する(図中矢印L5参照)。さらに説明をすると、図示の例における培養溝117の底部118は、湾曲面により構成されている。このことにともない培養溝117内においては、周方向から光が集まる。さらに説明をすると、培養溝117内においては、培養溝117内の空間を挟みこむ向きに光が照射される。
【0034】
<培養液の流れ>
図4は、導光体110によって案内される培養液の流れを示す図である。
次に、図1乃至図4を参照しながら、導光体110によって案内される培養液の流れを説明する。
【0035】
まず、導光体110に対して第1供給流路75(図1参照)を介して培養液が供給されると、培養液は傾斜して設けられた導光体110を流下する。さらに説明をすると、培養液は、第1供給流路75から導光体110の上端113(図2参照)に供給され、第1壁部材151および第2壁部材153に案内されながら、培養液が流れ下端115に到達する。そして、培養液は、流れ板15(図1参照)を流れ、流出流路71を介してタンク30へと導かれる。
【0036】
ここで、図4に示すように、培養液は導光体110の上面111に沿って流下する(図中矢印C11参照)。すなわち、本実施の形態においては、微生物を含む培養液が、導光体110が発光する領域(発光領域)である上面111を流れる。微生物を含む培養液が発光領域を流れることにより、発光領域から微生物までの距離が短くなる。さらに説明をすると、本実施の形態においては、発光領域と微生物とを接触させることも可能である。
【0037】
また、本実施の形態においては、培養溝117が設けられている。この培養溝117の存在により上面111を流下する培養液の速度が抑制され、培養液が上面111上を通過する時間が増加する。このことにもない、培養液に含まれる微生物が受ける光量が増加し、微生物がより増殖しやすくなる。
【0038】
ここで、培養液が培養溝117の内部へと流れ込むと、培養液は培養溝117の底部118に沿って流れる(図中矢印C13参照)。このことにより、培養溝117が形成されていない場合と比較して、培養液が流下する速度が低下する。また、培養溝117が形成されていない場合と比較して、培養液がより攪拌される。また、培養溝117が形成されていない場合と比較して、培養液および微生物がより雰囲気と接触しやすくなる。また、上述のように培養溝117内部の空間においては、周方向からLED133の光が集まることから、微生物が受ける光の光量が増加する。これらのことにより、微生物の培養がより促進される。
【0039】
付言すると、図示の例においては、矢印C13に示すように、湾曲をした底部118に沿って流れる培養液の一部は、上端113(図2参照)側に向けて流れる。このことにより培養液が培養溝117の内部に滞在する時間がより長くなる。
【0040】
また、培養溝117を互いに沿う向きに複数設けることにより、例えば微生物を収穫する際に、培養溝117内に留まる培養液を流出させる作業が容易となる。具体的には、作業者が、スクレーパーなどを用いて培養溝117内から培養液をかき出す作業が容易となる。
【0041】
<微生物の製造方法>
図5は、培養システム1における微生物の製造方法を説明するフローチャートである。
上記のような培養システム1において実行される微生物を培養する方法は、微生物の製造方法として捉えることができる。以下、図5を参照しながら、培養システム1において実行される微生物の製造方法を説明する。
【0042】
まず、培養部10においては、発光体130から導光体110を流下する培養液に光が照射される(S501)。このことにともない、培養液内に含まれる微生物が培養される。そして、培養部10から流出する培養液および微生物は、タンク30において貯留される(S502)。
【0043】
次に、制御ユニット90によって、微生物を収穫するタイミングであるかが判断される(S503)。微生物を収穫するタイミングである場合(S503でYES)、タンク30において培養液から微生物がろ過され微生物が収穫される(S504)。一方、微生物を収穫するタイミングでない場合(S503でNO)、循環ポンプ50によって微生物および培養液が培養部10へ送られることで、微生物および培養液が循環する(S505)。
【0044】
<変形例>
上記の説明においては、導光体110の上面111に培養溝117が設けられことを説明したが、導光体110の上面111を流下する培養液の速度が抑制される構造であれば、培養溝117の形状は特に限定されない。例えば、培養溝117の形状が断面略V字状、断面略長方形状、あるいは断面略5角形などの多角形状であってもよい。また、導光体110が、培養溝117に替えて、あるいは培養溝117とともに上面111に突起を有する構成でもよい。また、導光体110の上面111に凹部または突起を複数設ける形状でもよい。また、導光体110の上面111の一部または全部に、棒状部材などの別部材を設けることで、凹凸が形成される構成であってもよい。また、導光体110の上面111が、階段状となるように段差を設けた構成であってもよい。
【0045】
また、上記の説明においては、LED133を導光体110の第2側端116に沿って設けることを説明したが、導光体110の上面111から光を出力することができる構成であれば、これに限定されない。例えば、導光体110の下面112全体にLED133が配置され、LED133の光が導光体110を厚み方向に通過し、上面111から出射する構成であってもよい。
【0046】
また、上記の説明においては、タンク30に収容された培養液から微生物をろ過することで、微生物を回収することを説明したが、これに限定されない。例えば、培養された微生物は、導光体110の上面111に付着することがある。そこで、循環ポンプ50による培養液の循環を停止させた後、作業者などがスクレーパーなどを用いて導光体110の上面111から微生物を剥がし落とすことによって、微生物を回収してもよい。
【0047】
また、上記図1においては、発光板11が予め定められた間隔(距離G1)で複数設けられることを説明した。この発光板11は例えば50個以上など多数設けてもよい。発光板11の個数を増加することで、微生物をより多く培養することが可能となる。また、間隔(距離G1)を小さくすることにより、培養部10の寸法を抑制し得る。間隔(距離G1)は、例えば発光板11の板厚の5倍以下、好ましくは3倍以下であるとよい。なお、発光板11を並べる向きは、特に限定されない。例えば、上記図1の例とは異なり、上下方向に発光板11を並べる構成であってもよい。
【0048】
また、発光板11を水平方向に傾斜して設けることを説明したが、発光板11の角度は特に限定されない。例えば、発光板11を水平方向と直交する向き、すなわち上下方向に沿って設ける構成であってもよい。
【0049】
また、上記培養システム1は、ガスボンベ(不図示)に圧縮して収容された炭酸ガスを導光体110に向けて供給するガス供給ユニット(不図示)を有する構成であってもよい。このガス供給ユニットにより、微生物の光合成を促進することが可能となる。
【0050】
図6(a)および(b)は本実施の形態の他の変形例を説明する図である。
次に図6(a)および(b)を参照しながら、本実施の形態の他の変形例について説明をする。なお、以下の説明において、上記の実施の形態と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略することがある。
【0051】
まず、上記の説明においては、導光体110として、板状の部材を用いることを説明したが、導光体110の内部を光が透過可能であるとともに、外面に溝などの凹凸を形成することが可能であれば、形状は特に限定されない。
【0052】
例えば、図6(a)に示すように、導光部210が略円柱状の部材により構成されてもよい。この導光部210の外周面211には、培養溝217が環状に構成されている。図示の例においては、軸方向において予め定められた間隔で複数の培養溝217が設けられている。また、導光部210の下端には、導光部210の内部に向けて光を照射するLED230が設けられている。さらに説明をすると、LED230は、導光部210の内部であって、導光部210の軸方向に沿う向き(図示の例においては、上下方向下方から上方)に光を照射するよう設けられている。
【0053】
そして、導光部210の上面213に培養液が供給され、上面213から外周面211および培養溝217に沿って培養液が流下する。また、LED230から照射された光は、導光部210の内部を進みながら、外周面211および培養溝217から出射する。このことにより、外周面211および培養溝217を流下する培養液に含まれる微生物に対して、光が照射される。
【0054】
ここで、導光部210のように、略円柱状の形状とすることにより、例えば導光体110(図1参照)のように板状とする場合よりも、導光部210の周囲に光が向かいやすい。したがって、図6(a)に示すように、複数の導光部210を互いに並べて配置することにより、各々の導光部210が他の導光部210から光を受けることが可能となる。すなわち、他の導光部210からの光によって、微生物を培養することが可能となる。
【0055】
なお、図示の例とは異なり、導光部210の外周面211に、培養溝217と交差する向き、すなわち上下方向に延びる交差溝(不図示)を設ける構成としてもよい。この交差溝により、例えば導光部210の周囲に光がより向かいやすくなる。また、図示の例とは異なり、導光部210の外周面211に、ねじ溝状、すなわちらせん状に培養溝217を設ける構成であってもよい。
【0056】
さて、上記導光体110に替えて、図6(b)に示すような培養液案内機構410を設けてもよい。培養液案内機構410は、上下方向下方から上方に向かう順に配置された複数の槽である第1供給槽413、第2供給槽415、および第3供給槽417と、複数の槽を覆う網体419を有する。なお、以下の説明において、第1供給槽413、第2供給槽415、および第3供給槽417の各々を区別しない場合には、第1供給槽413などということがある。
【0057】
第1供給槽413などは、底部が円形の容器である。第1供給槽413などの外径は、上側に位置するほど小さくなる(外径D1>外径D2>外径D3)。また、第1供給槽413などは、互いに供給管423、425、427によって内部が連続して設けられている。そして、第1供給槽413などには、供給管423、425、427を介して上下方向下方から上方に向けて培養液が供給される(図中矢印C40参照)。
【0058】
また、網体419は、第1供給槽413などによって内側から支持され、略切頭円錐状の形状となる。そして、培養液は、供給管423、425、427から第1供給槽413に供給され(図中矢印C41、C43、C45参照)、第1供給槽413などの各々の外周から溢れた後(図中矢印C51、C53、C55参照)、網体419に沿って流下する。この網体419に沿って流下する培養液に含まれる微生物に対して、太陽光が照射される。
【0059】
図6(b)に示す例においては、網体419に対して照射される光は、太陽光であるが、これに限定されない。網体419の外側に設けられた光源であるLED(不図示)から網体419に光が照射されてもよい。あるいは、網体419の内側に設けられた第1供給槽413などに光源であるLED(不図示)を設け、網体419の内側から光が照射されてもよい。あるいは、太陽光とともに、網体419の外側に設けられたLED(不図示)および網体419の内側に設けられたLED(不図示)の一方または両方から光が照射されてもよい。
【0060】
なお、上記の培養システム1は、水耕栽培にも適用可能である。したがって、培養システム1における培養対象には、葉物野菜など高等細胞が含まれる。
【0061】
さて、上記では種々の実施形態および変形例を説明したが、これらの実施形態や変形例同士を組み合わせて構成してももちろんよい。
また、本開示は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0062】
1…培養システム、10…培養部、11…発光板、110…導光体、117…培養溝、130…発光体、133…LED

図1
図2
図3
図4
図5
図6