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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】炎症性サイトカイン産生抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/20 20060101AFI20240329BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240329BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240329BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20240329BHJP
【FI】
A61K35/20
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P29/00
A61P1/04
A61P3/10
A61P25/24
A61P3/04
A61P31/04
A61P9/10
A61P17/00
A61P25/28
A61P25/18
A61P25/16
A61P43/00 111
A61P37/06
A23L33/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020541267
(86)(22)【出願日】2019-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2019034784
(87)【国際公開番号】W WO2020050318
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2018166062
(32)【優先日】2018-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515135918
【氏名又は名称】再生ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】乾 利夫
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/194914(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/039356(WO,A1)
【文献】特表2013-507134(JP,A)
【文献】特開2014-101305(JP,A)
【文献】特開2011-173798(JP,A)
【文献】特開2004-196707(JP,A)
【文献】J Dairy Sci., 2014, Vol.97 No.2, p.694-703 (http://dx.doi.org/10.3168/jbs.2013-7492)
【文献】上原祈念生命科学財団研究報告集, 2011, Vol.25, p.1-7
【文献】調理科学, 1986, Vol.19 No.2, p.8-12 (ISSN : 0910-5360)
【文献】Int Dayry J., 2017, Vol.67, p.61-72 (http://dxdoi.org/j.dairy.j.2016.10.001)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/20
A61P 19/02
A61P 29/00
A61P 1/04
A61P 3/10
A61P 25/24
A61P 3/04
A61P 31/04
A61P 9/10
A61P 17/00
A61P 25/28
A61P 25/18
A61P 25/16
A61P 43/00
A61P 37/06
A23L 33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳清タンパク質のβ-ガラクトシダーゼによる処理物を有効成分とすることを特徴とする炎症性サイトカイン産生抑制剤であって、
前記炎症性サイトカインがインターロイキン-1β(IL-1β)、または腫瘍壊死因子(TNF-α)である、
炎症性サイトカイン産生抑制剤。
【請求項2】
ホエイ酵素処理物として0.02μg~40mg/kg/用量の範囲のタンパク質を含むことを特徴とする請求項に記載の炎症性サイトカイン産生抑制剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の炎症性サイトカイン産生抑制剤を含有する、炎症性サイトカインの産生を抑制するための医薬品又は飲食品。
【請求項4】
経口投与或いは経口的摂取の形態にある請求項に記載の医薬品又は飲食品。
【請求項5】
ホエイ(乳清)をβ-ガラクトシダーゼと接触させることにより、ホエイ中のタンパク質のβ-1,6-グリコシド結合を切断させることからなる、炎症性サイトカイン産生抑制作用を有するホエイ酵素処理物の調製方法であって、
前記炎症性サイトカインがインターロイキン-1β(IL-1β)、または腫瘍壊死因子(TNF-α)である、調製方法。
【請求項6】
β-ガラクトシダーゼが、大腸菌(Eschericia coli)またはウシ肝臓(bovine liver)由来のβ-ガラクトシダーゼである請求項に記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性サイトカイン産生抑制剤に関し、より詳細には、ホエイ(乳清)を酵素処理してなる酵素処理ホエイを有効成分とすることを特徴とする炎症性サイトカイン産生抑制剤、及び炎症性サイトカイン産生抑制飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症性サイトカインとは、リンパ球やマクロファージなどから産生され、細菌やウイルス感染、腫瘍、組織損傷に伴う炎症反応に関与する物質である。例えば、インターロイキン-1β(IL-1β)、インターロイキン-6(IL-6)、腫瘍壊死因子(TNF-α)などの炎症性サイトカインは、病原菌の侵入に対して免疫機能を賦活化させるなど、本来的には合目的的な機能を有しているが、何らかの原因により過剰に産生され続けるとリウマチ性関節炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、2型糖尿病、肥満症(特にインスリン抵抗性)など様々な炎症性の疾病を引き起こすことが知られている。
更には、神経炎症の観点から、うつ病などを引き起こすことが知られている。
【0003】
すなわち、炎症は、生体内に異物が侵入したときや有害刺激が作用したときに生じる生体防御反応であり、炎症反応は、アテローム性動脈硬化症、神経疾患、癌などの原因となり得ることが知られている。
そのために、このような病態において、IL-1β、TNF-αなどのこれら炎症性サイトカインの産生を抑制する薬剤の開発が検討されており、例えば、イブプロフェンやインドメタシン等の既存の抗炎症剤のほか、これまでに種々の化学物質等が提案されている(例えば、特許文献1~3)。しかしながら、これらの疾病は慢性的な経過をたどることが多く、治療は長期化することから、副作用がなく安全な化合物が特に求められている現状下では、いまだ有効なものは登場してきていない。
かかる観点から、有機化合物に限らず、安全性の確保を主体として、果実の果汁及び/又は抽出物、或いは鉄結合性の糖タンパク質であるラクトフェリンを有効成分とする炎症性サイトカイン産生抑制剤の提案(特許文献4、5)などもなされている。
【0004】
ところで、チーズの生産過程で固形物と分離されたホエイ(Whey:乳清)は、その大半は廃棄されているが、高タンパク・低脂肪で乳成分由来カルシウムなどの無機栄養分やビタミンB群をはじめ各種ビタミン類など栄養価が高く、消化が速くタンパク質合成・インスリン分泌を促進する点などから、優れた食品であるとの認識が高まってきており、最近になってホエイ(乳清)の有効利用が種々提案されてきている。
本発明者らも、このホエイ(乳清)の有効利用を検討してきたなかで、ホエイ中に含まれる乳清タンパク質(グリコプロテイン)についてその糖鎖を特定の酵素で処理して切断してなる酵素処理物、すなわち、酵素処理ホエイ(注:ホエイの特定酵素による処理物)に、優れた炎症性サイトカインの産生を抑制する作用があることを新規に見出し、本発明を完成させるに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-174850号公報
【文献】特開2014-101329号公報
【文献】特開2009-013106号公報
【文献】特開2005-089304号公報
【文献】特開2006-069995号公報
【文献】特開2002-080387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、炎症性サイトカインであるTNF-αやIL-1βの産生を抑制し、これら炎症性サイトカインの過剰産生に起因するリウマチ性関節炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、2型糖尿病などの炎症性疾患に有効な医薬品、及び健康食品等の飲食物としの応用が可能な、炎症性サイトカイン産生抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するための本発明は、基本的態様として、
(1)ホエイ(乳清)をβ-ガラクトシダーゼと接触させてなる酵素処理ホエイを有効成分とすることを特徴とする炎症性サイトカイン産生抑制剤;
(2)酵素処理ホエイが、さらにシアリダーゼと接触させてなる酵素処理ホエイである(1)記載の炎症性サイトカイン産生抑制剤;
(3)炎症性サイトカインとしてインターロイキン-1β(IL-1β)、インターロイキン-6(IL-6)又は腫瘍壊死因子(TNF-α)である(1)または(2)に記載の炎症性サイトカイン産生抑制剤;
(4)ホエイ酵素処理物として、0.02μg~40mg/kg/用量の範囲のタンパク質を含むことを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載の炎症性サイトカイン産生抑制剤;
(5)上記(1)ないし(3)に記載の炎症性サイトカイン産生抑制剤を含有する、医薬品又は飲食品;
(6)経口投与或いは経口的摂取の形態にある上記(5)に記載の医薬品又は飲食品;
(7)ホエイ(乳清)をβ-ガラクトシダーゼと接触させることにより、ホエイ中のタンパク質のβ-1,6-グリコシド結合を切断させることからなる、炎症性サイトカイン産生抑制作用を有する酵素処理ホエイの調製方法;
(8)β-ガラクトシダーゼが、大腸菌(Escherichia coli)またはウシ肝臓(bovine liver)由来のβ-ガラクトシダーゼである(7)に記載の調製方法;
(9)さらにシアリダーゼと接触させてなる(7)または(8)に記載の炎症性サイトカイン産生抑制作用を有する酵素処理ホエイの調製方法;
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、安全性の高い、経口的な投与、或いは経口摂取可能な、炎症性サイトカインの産生抑制剤、及び炎症性サイトカイン産生抑制飲食品が提供される。
本発明が提供する炎症性サイトカインの産生抑制剤は、例えば、インターロイキン-1β(IL-1β)、インターロイキン-6(IL-6)、並びに腫瘍壊死因子(TNF-α)などの炎症性サイトカインの過剰の産生を抑制することから、これらサイトカインの過剰産生に起因するリウマチ性関節炎、潰瘍性大腸炎などの慢性炎症、クローン病、更には、2型糖尿病、うつ病、肥満症、敗血症、アテローム性動脈硬化症、皮膚炎、認知症、総合失調症、パーキンソン病など様々な疾病に対する有効な治療薬となり得るものであり、また、本発明の炎症性サイトカインの産生抑制剤を含有する飲食品を日常的に経口摂取することにより、日々の健康管理を有効に行える利点を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例2におけるリポポリサッカライド(LPS)反応に対する本発明の酵素処理ホエイ(CWP)の作用を検討した試験スケジュールを示した図である。
図2図2は、実施例2におけるLPS投与後の、試験マウスの体重の変化を示した図である。
図3図3は、実施例2における5日間の試験群1(CWP投与群)と対照群1(Saline投与群)の対比における体重変化を示した図である。
図4図4は、実施例2における5日間の試験群1(CWP投与群)と対照群1(Saline投与群)の対比における投与期間中の摂食量の変化を示した図である。
図5図5は、実施例2における試験群1(CWP投与群)と、対照群1(Saline投与群)の対比における投与スケジュールに従った、5日目の投与後24時間における摂食量を示した図である。
図6図6は、実施例2の結果2である、LPS投与後の血中TNF-αの変化を示した図である。
図7図7は、実施例2の結果2である、LPS投与後の血中IL-1βの変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記したように、本発明は、その基本的態様は、ホエイ(Whey:乳清)をβ-ガラクトシダーゼと接触させてなる酵素処理ホエイを有効成分とすることを特徴とする炎症性サイトカイン産生抑制剤である。
ここで使用するホエイ(乳清)とは、一般的にチーズの製造過程において生じる固形物が分離されたときに生じる副産物として大量に作られる淡黄緑色の液体であるが、本発明にあってはこれに限定されず、ホエイ(乳清)として流通しているものも使用することができる。
また、チーズ製造の原料となる乳は、ウシ由来の牛乳のみならず、他の哺乳類としてのヒツジ、ヤギ、ラクダ等の乳から得られるホエイ(乳清)であってもよい。
この場合のウシにあっても、ホルスタイン種、黒毛和種、水牛などのウシの種類にかかわらず、いずれの種のものをも使用することができる。
なお、以下本明細書においては、ホエイ(乳清)について、単に「ホエイ」として表記する。
【0011】
本発明が提供する炎症性サイトカイン産生抑制剤としての酵素処理ホエイは、上記したホエイをβ-ガラクトシダーゼと接触させてなる酵素処理ホエイである。
この場合に使用するβ-ガラクトシダーゼは、特に制限はなく、周知のいずれの種類のものも使用することができる。そのようなものとしては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)由来のもの、ウシ肝臓(bovine liver)由来のものなどを挙げることができるが、なかでも大腸菌(Escherichia coli)由来のβ-ガラクトシダーゼを用いるのが良い。
そのようなβ-ガラクトシダーゼとして市販されている、例えば、富士フイルム和光純薬(株)のカタログNo.072-04141(Escherichia coli由来)、オリエンタル酵母工業(株)製のβ-ガラクトシダーゼ(Escherichia coli由来)、SIGMA-ALDRICH社のG1875(bovine liver由来)などを挙げることができる。
【0012】
本発明が提供する炎症性サイトカイン産生抑制剤である酵素処理ホエイは、ホエイをかかるβ-ガラクトシダーゼにより、ホエイ中のタンパク質のβ-1,6-グリコシド結合を切断させること、すなわち糖質を切断することにより、所望のタンパク質含有量の処理物を生成し、炎症性サイトカイン産生抑制作用を発揮するものであり、後記する実施例からも判明するように、かかる酵素処理をしないホエイ自体、すなわち、酵素未処理ホエイには、炎症性サイトカイン産生抑制作用は認められなかった。
【0013】
本発明にあっては、上記したβ-ガラクトシダーゼによる処理に加えて、更に糖脂質糖鎖末端からα-グリコシド結合シアル酸残基を脱離する糖分解酵素であるシアリダーゼと処理することもできる。
そのようなシアリダーゼとしては、特に限定なく、周知のいずれの種類のものも使用することができ、例えば、ウェルシュ菌(Clostridium perfringenes)由来のもの、レンサ球菌(Streptococcus 6646K)由来のもの、コレラ菌(Vibrio cholerae)由来のもの、アースロバクター・ウレアファシエンス(Arthrobacter ureafaciens)由来のものなどを挙げることができる。
市販されているものとしては、例えば、SIGMA-ALDRICH社の製品番号(Sigma Prod. Nos.)N2876、N2133、N2904、N3001、N5631、生化学バイオビジネス社のコード番号(Code Number)120052、BioLabs社のカタログ番号(Catalog #)P0720L、P0720Sなどがあげられる。
【0014】
本発明におけるホエイとβ-ガラクトシダーゼ、若しくは、β-ガラクトシダーゼとシアリダーゼとの接触処理(酵素処理)は、それぞれ、十分な量の酵素を用いて十分な時間接触させることにより、それ以上実質的に酵素反応が進行しない程度まで行うことによる処理が好ましい。
このような目的には、酵素の種類にもよるが、例えば、β-ガラクトシダーゼとして富士フイルム和光純薬(株)のカタログNo.072-04141を用いる場合、ホエイ100μLに対して、酵素を65mU程度使用すれば十分である。また、例えば、シアリダーゼとしてSIGMA-ALDRICH社の製品番号(N2876)を用いる場合、ホエイ100μLに対して、酵素を65mU程度使用すれば十分である。この場合の酵素処理の時間としては、3時間程度行えば十分である。
【0015】
酵素処理は、任意の容器中で、これら酵素を、ホエイに添加して実施することができるが、所望により、ホエイ中の総タンパク質濃度を調整するために、この分野で通常用いられる緩衝液を加えて行うのがよい。そのような緩衝液としては、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(SPB)、リンゲル液などを挙げることができる。
なお、酵素処理の温度は、酵素が活性を示す温度であれば特に限定はないが、通常酵素が高い活性を示す37℃付近の温度である。
【0016】
酵素処理は、加熱(熱処理)により、酵素を失活させることにより終了する。かかる熱処理は、酵素を失活させることができる限り特に限定されないが、例えば、60℃付近の温度で、約10分間加熱することにより、実施することができる。
【0017】
なお、本発明における酵素処理は、一般的に知られている固相に固定した酵素(固定化酵素)を用いて行うこともできることはいうまでもない。
【0018】
かくして、調製された酵素処理ホエイは、そのまま使用することができる以外、溶媒を留去して濃縮液として、或いは乾燥物として使用することができる。
乾燥にあたっては、減圧乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等の通常の乾燥手段を採用することができるが、なかでも凍結乾燥により乾燥物とするのが好ましい。
かくして、ホエイ酵素処理物として、所望のタンパク質含量を示す、酵素処理ホエイを得ることができる。
【0019】
本発明が提供する酵素処理ホエイは、IL-1β、IL-6、TNF-α等の炎症性サイトカインの産生抑制に対して優れた作用を示し、炎症性サイトカインの産生抑制剤として有益なものである。
本発明の炎症性サイトカインの産生抑制剤の投与は、投与目的、疾患の種類、症状によって異なり、特に限定されるものではないが、剤型は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、液剤等にして直接投与したり、食品や飲水に混ぜて投与したりすることができ、経口的に投与することが望ましい。
また、これらの剤型は、従来から知られている通常の方法で製造することができ、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてデキストリン、乳糖、コーンスターチ、乳化剤、防腐剤、賦形剤、増量剤、甘味剤、香味剤、着色剤等の添加剤を配合することも可能である。
この場合の炎症性サイトカイン産生抑制剤としては、ホエイ酵素処理物として、0.02μg~40mg/kg/用量の範囲のタンパク質を含む用量で投与することができる。
【0020】
一方、本発明の炎症性サイトカイン産生抑制剤は、飲食品として使用することもでき、そのような飲食品としては、清涼飲料水、ジュース等の非アルコール飲料、アルコール飲料、ヨーグルト等の発酵飲料、錠菓(タブレット菓子)や飴等の固形菓子、ガムやグミ菓子糖のチュアブル菓子、並びに、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、蛋白等を含有する栄養補助食品等の形態を挙げることができる。
かかる飲食品には、機能的に特定保健用食品(いわゆる、「トクホ」)、栄養機能食品、及び機能性表示食品等が含まれる。
【0021】
これらの剤及び飲食品は、炎症性サイトカインの産生抑制能を有するので、炎症性サイトカインの過剰産生により引き起こされるさまざまな病態の予防、治療、改善、再発防止に非常に有益なものとなり得るものである。
そのような対象疾患としては、サイトカインの過剰産生に起因するリウマチ性関節炎、潰瘍性大腸炎などの慢性炎症、クローン病、更には、2型糖尿病、敗血症、うつ病、肥満症、敗血症、アテローム性動脈硬化症、皮膚炎、認知症、総合失調症、パーキンソン病など様々な疾病を挙げることができる。
【0022】
本発明の炎症性サイトカイン産生抑制剤については、その炎症性サイトカイン産生抑制能を発揮させるための投与量としては、投与目的、疾患の種類、症状によって異なり、特に限定されないが、酵素処理ホエイとして、一日当たり1~5,000mg、好ましくは5~1,000mg、さらに好ましくは、10~200mg摂取できるよう配合量等を調整すれば良い。
すなわち、ホエイ酵素処理物として、0.02μg~40mg/kg/用量の範囲のタンパク質を含む用量で摂取することが好ましい。
なお、本発明の酵素処理ホエイは、日常的に摂食することが可能であるホエイの酵素処理により得られるものであり、安全性が高いものであり、本発明において使用される量では毒性は問題にならない。
【実施例
【0023】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0024】
実施例1:酵素処理ホエイの調製
ウシ乳(牛乳)より脱チーズ成分処理した粗脱チーズ成分乳(一般財団法人蔵王酪農センターから入手した乳清)を8,000rpm、4℃で1時間遠心し、沈殿物に注意して、上清を回収した。回収した上清と等量の蒸留水(Mill-Qグレード。以下、特に断りの無い限り同じグレードのものを使用)を加え、ペンシル型モジュールUF膜(フナコシ、AIP-0013D)で透析処理した。この時、濾液が加えた蒸留水と等量に達するまで透析を行い、脱チーズ成分乳(ホエイ:乳清)を得た。
得られた脱チーズ成分乳(ホエイ:乳清)のタンパク質濃度を、波長570nmでの吸光度測定により決定(BSA(bovine serum albumin、SIGMA、A4503)について作成した検量線を使用)した。
【0025】
上記で得た脱チーズ成分乳(ホエイ)を、そのタンパク量が6gとなるように分注し、該脱チーズ成分乳(ホエイ)に、ホルミル樹脂(TOYOPEARL社、Formy-650M)で固定化したβ-ガラクトシダーゼ(オリエンタル酵母工業(株)製、大腸菌由来)を4g/6,000U添加し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベート後、反応液をグラスフィルターで濾過し、ホルミル樹脂を分離した。ホルミル樹脂は蒸留水で洗浄し、繰り返し使用のため保存した。濾液を、ラボディスク(アドバンテック東洋(株)、50CP020AS)でフィルター滅菌した。滅菌した濾液は、凍結乾燥して粉末化し、保存可能な粉末状の酵素処理ホエイとした。
【0026】
実施例2:LPS反応に対する本発明の酵素処理ホエイの作用
<手法>
図1に示した試験スケジュールにより、LPS反応に対する本発明の酵素処理ホエイ(CWP:Cheese Whey Protein)の作用を検討した。
なお、以下の記載(明細書及び図中)において、「CWP」、「Untreated CWP」の表記を使用する場合もあるが、これらはそれぞれ、以下を意味する。
CWP:酵素処理ホエイ
Untreated CWP:酵素未処理ホエイ
【0027】
(1)実験動物
12~15週齢のオスC57BL/6Jマウス(日本チャールス・リバー社)を使用した。
【0028】
(2)試験スケジュール
1日2回(11時と17時)、試験試料を腹腔内(ip)投与するスケジュールで連続5日間投与した。
なお、1日2回の投与時において実験動物の体重測定を行い、投与期間中の摂食量と、5日間投与後24時間の摂食量を測定した。
試験開始後6日目の11時までの投与を行い、6日目の15時に体重測定と採血を行い、血液中のTNF-α及びIL-1βの濃度を、それぞれのELISAキットにより測定した。
なお、Tukey-Kramer検定による統計学的処理により、有意差を検定した。
【0029】
(3)試験試料投与群
試験試料投与群は、以下のとおりとした(nは、用いた動物数である)。
○対照群1 :生理食塩水(Saline)+生理食塩水(Saline)(n=10)
○対照群2 :生理食塩水(Saline)+LPS(n=12)
○試験群1 :CWP+生理食塩水(Saline)(n=5)
○試験群2 :CWP+LPS(n=9)
○比較試験群1:Untreated CWP+生理食塩水(Saline)(n=6)
○比較試験群2:Untreated CWP+LPS(n=6)
【0030】
なお、CWP及びUntreated CWPの投与量は10mg/kgとし、LPSの投与量は0.33mg/kgとした。
【0031】
(4)採血の方法
採血は、眼窩動脈よりチューブにて採血した。なお、チューブには、0.2M EDTAの10μL、及びアプロチニン0.1mgを含む。
【0032】
(5)血漿の分離
4℃で、3,000×gにて4分間遠心し血漿を採取し、アッセイまで-80℃で保存した。
【0033】
(6)血中TNF-α及びIL-1βの測定方法
TNF-αは、マウスQuantike TNF-α ELISA Kit(R&D社)を用い、IL-1βは、マウスQuantike IL-1β ELISA Kit(R&D社)を用い、それぞれのキットの説明書に従って行った。
【0034】
<結果>
結果1:LPS投与後の体重変化について
図2に、LPS投与後の体重の変化を示した。
LPSは、エンドトキシン(内毒素)として、TLR4(Toll-like Receptor 4)を介するシグナル伝達経路により種々の炎症性サイトカインの分泌を促進し、炎症反応を引き起こす。
図中に示した結果から判明するように、LPS投与により体重の減少が観察されるが、CWP投与群では体重減少が有意に抑制されており、LPSによるサイトカイン産生増加による摂食抑制作用が減弱していることが明らかとなった。
一方、これに対してUntreated CWP投与群では、LPS投与による体重減少の抑制は観察されず、CWPに特異的な炎症性サイトカインの産生抑制作用があることが理解される。
【0035】
図3に、5日間の試験群1(CWP投与群)と対照群1(Saline投与群)の対比における体重変化を示したが、CWP投与群は、対照群1(Saline投与群)と同様の体重変化であり、CWPには毒性が認められるものでないことが理解される。
【0036】
同様に、図4に5日間の試験群1(CWP投与群)と対照群1(Saline投与群)の対比における投与期間中の摂食量の変化を示したが、CWP投与群は、対照群1(Saline投与群)と同様の摂食量であり、この点からも、CWPには毒性が認められるものでないことが理解される。
【0037】
また、図5に、試験群1(CWP投与群)と、対照群1(Saline投与群)の対比における投与スケジュールに従った、5日目の投与後24時間における摂食量を示したが、CWP投与群は、対照群1(Saline投与群)と同様の摂食量を示しており、試験マウスにおいては摂食障害を引き起こす病態がなんら発生していないことが確認された。
【0038】
結果2:LPS投与後の血中TNF-α及びIL-1βの変化について
(1)血中TNF-αの変化
図6にLPS投与後の血中TNF-αの変化を示した。
図中に示した結果から判明するように、LPSの投与により炎症性サイトカインとしてのTNF-αの産生が促進されているが(対照群1および対照群2の対比)、同時に本発明のCWPを投与すると、炎症性サイトカインとしてのTNF-αの産生が有意に抑制されていることが理解される(対照群1、対照群2、試験群1および試験群2での対比)。
これに対してUntreated CWP投与群では、LPS投与による炎症性サイトカインであるTNF-αの産生増加に対する抑制作用は観察されず、本発明のCWP(酵素処理ホエイ)には、特異的な炎症性サイトカインの産生抑制作用があることが理解される。
【0039】
(2)血中IL-1βの変化
図7にLPS投与後の血中IL-1βの変化を示した。
上記したTNF-αと同様に、LPSの投与により炎症性サイトカインとしてのIL-1βの産生が促進されているが(対照群1および対照群2の対比)、同時に本発明のCWPを投与すると、炎症性サイトカインとしてのIL-1βの産生が有意に抑制されていることが理解される(対照群1、対照群2、試験群1および試験群2での対比)。
これに対してUntreated CWP投与群では、LPS投与による炎症性サイトカインであるIL-1βの産生増加に対する抑制作用は観察されず、本発明のCWP(酵素処理ホエイ)に特異的な炎症性サイトカインの産生抑制作用があることが理解される。
【0040】
以上の検討から、本発明が提供する特異的な酵素処理ホエイ(CWP:Cheese Whey Protein)は、酵素処理をしていない酵素未処理ホエイ(Untreated CWP)に比較して、良好に炎症性サイトカイン産生抑制効果が発揮されており、したがって、本発明の酵素処理ホエイに抗炎症作用があることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により、経口的な投与、或いは摂取により安全性の高い炎症性サイトカインの産生抑制剤が提供される。
本発明が提供する炎症性サイトカインの産生抑制剤は、例えば、インターロイキン-1β(IL-1β)、インターロイキン-6(IL-6)、並びに腫瘍壊死因子(TNF-α)などの炎症性サイトカインの過剰の産生を抑制することから、これらサイトカインの過剰産生に起因するリウマチ性関節炎、潰瘍性大腸炎などの慢性炎症、クローン病、更には、2型糖尿病、うつ病、肥満症、敗血症、アテローム性動脈硬化症、皮膚炎、認知症、総合失調症、パーキンソン病など様々な疾病に対する有効な治療薬となり得るものであり、また、日常的に経口摂取することにより、日々の健康管理を有効に行える利点を有するものであり、その産業上の利用性は多大なものである。
図1
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図7