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特許7462365身体的フレイルの試験方法、身体的フレイルの試験試薬、身体的フレイルの治療薬候補物質のスクリーニング方法、精神的フレイルの試験方法、精神的フレイルの試験試薬、および精神的フレイルの治療薬候補物質のスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】身体的フレイルの試験方法、身体的フレイルの試験試薬、身体的フレイルの治療薬候補物質のスクリーニング方法、精神的フレイルの試験方法、精神的フレイルの試験試薬、および精神的フレイルの治療薬候補物質のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20240329BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20240329BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
C12Q1/26 ZNA
G01N33/15 Z
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2023179993
(22)【出願日】2023-10-19
(62)【分割の表示】P 2023526347の分割
【原出願日】2022-06-24
(65)【公開番号】P2023181272
(43)【公開日】2023-12-21
【審査請求日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2021133689
(32)【優先日】2021-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508189957
【氏名又は名称】株式会社 バイオラジカル研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【弁理士】
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100227019
【弁理士】
【氏名又は名称】安 修央
(72)【発明者】
【氏名】李 昌一
(72)【発明者】
【氏名】小松 知子
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-101181(JP,A)
【文献】特表2009-529498(JP,A)
【文献】特開2020-36881(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0121158(US,A1)
【文献】スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性測定キット,フナコシ株式会社,2020年06月12日,https://www.funakoshi.co.jp/contents/67713
【文献】受田 浩之,酵素スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の活性測定法,Dojin News,株式会社同仁化学研究所,2000年10月02日,No.96,p.1-7
【文献】李昌一 ほか,オーラルフレイル予防のための抗酸化食品の臨床応用への基礎的検討-超高齢者社会対策としての医科・歯科・,歯科薬物療法,2019年03月,Vol.38, No.2,p.154
【文献】VINA, J. et al.,A free radical theory of frailty,Free Radical Biology and Medicine,2018年06月26日,Vol.124,pp.358-363
【文献】ASSAR, M. E. et al.,Frailty as a phenotypic mainfestation of underlying oxidative stress,Free Radical Biology and Medicine,2019年08月15日,Vol.149,pp.72-77
【文献】VINA, J.,The free radical theory of frailty: Mechanisms and opportunities for interventions to promote succes,Free Radical Biology and Medicine,2019年,Vol.134,pp.690-694
【文献】COTO-MONTES, A. et al.,Melatonin as a Petential Agent in the Treatment of Sarcopenia,International Journal of Molecular Sciences,2016年,Vol.16, No.10,pp.1-15
【文献】BERNABEU-WITTEL, M. et al.,Oxidative Stress, Telomere Shortening, and Apoptosis Associated to Sarcopenia and Frailty in Patient,Journal of Clinical Medicine,2020年,Vol.9, No.8, Article number:2669,pp.1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
C12Q 1/26
G01N 33/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の生体試料におけるラジカルの消去能を測定する測定工程を含み、
前記生体試料は、唾液である、身体的フレイルの試験方法。
【請求項2】
前記測定工程において、ラジカルの消去能の測定値を測定する、請求項1に記載の試験方法。
【請求項3】
前記被検者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値を、閾値と比較することにより、前記被検者の身体的フレイルの可能性を試験する試験工程を含み、
前記閾値は、健常者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値、身体的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値、または前記健常者および前記身体的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値から算出された閾値である、請求項2に記載の試験方法。
【請求項4】
前記試験工程において、前記被検者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値が、前記健常者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値よりも高い場合、前記身体的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値と同じ場合、前記身体的フレイル患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値よりも高い場合、および/または、前記健常者および前記身体的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値から算出された閾値より高い場合に、前記被検者は、身体的フレイルであるとする、請求項3に記載の試験方法。
【請求項5】
前記ラジカルの消去能は、脂質ラジカルの消去能である、請求項1から4のいずれか一項に記載の試験方法。
【請求項6】
前記身体的フレイルの試験は、身体的フレイルの検出のための検査方法、身体的フレイルの判定のための検査方法、身体的フレイルのスクリーニングのための検査方法、身体的フレイルの予防効果の判定のための検査方法、身体的フレイルの治療効果の判定のための検査方法、治療薬が奏効する身体的フレイルの患者の判定のための検査方法、個々の身体的フレイルの患者に奏効する治療薬の判定のための検査方法、身体的フレイルの診断のための検査方法のための検査方法、または身体的フレイルの治療のための検査である、請求項1からのいずれか一項に記載の試験方法。
【請求項7】
被検物質から、ラジカルの消去能を低下させる活性化物質を、身体的フレイルの治療薬候補物質として選択する選択工程を含む、身体的フレイルの治療薬候補物質のスクリーニング方法。
【請求項8】
ラジカルの発生系に、前記被検物質を共存させて、ラジカルの消去能を測定する測定工程と、
前記測定工程で得られたラジカルの消去能が、前記被検物質を共存させていないコントロールより低い場合、前記被検物質を、前記治療薬候補物質として選抜する選抜工程とを含む、請求項に記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
前記被検物質が、低分子化合物、ペプチド、タンパク質および核酸からなる群から選択された少なくとも一つである、請求項またはに記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
被検者における身体的フレイルの可能性を検出するための脂質ラジカルの消去能の検出方法であって、
前記被検者の生体試料における脂質ラジカルの消去能を、脂質ラジカルの消去能の測定試薬を用いて検出する検出工程を含み、
前記生体試料は、唾液である、検出方法。
【請求項11】
身体的フレイルの試験方法であって、
前記身体的フレイルは、精神的フレイルであり、
被検者の生体試料におけるラジカルの消去能を測定する第1の測定工程と、
前記被検者の生体試料におけるSOD活性を測定する第2の測定工程とを含み、
前記生体試料は、唾液である身体的フレイルの試験方法。
【請求項12】
前記第1の測定工程において、ラジカルの消去能の測定値を測定し、
前記第2の測定工程において、SODの活性値を測定する、請求項11に記載の試験方法。
【請求項13】
前記被検者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値を、第1の閾値と比較し、前記被検者の生体試料におけるSODの活性値を、第2の閾値と比較することにより、
前記被検者の精神的フレイルの可能性を試験する試験工程を含み、
前記第1の閾値は、健常者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値、身体的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値、または前記健常者および前記身体的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値から算出された閾値であり、
前記第2の閾値は、健常者の生体試料におけるSODの活性値、軽度認知障害(MCI)の患者の生体試料におけるSODの活性値、精神的フレイルの患者の生体試料におけるSODの活性値、または前記健常者および前記MCIの患者もしくは前記精神的フレイルの患者の生体試料におけるSODの活性値から算出された閾値である、請求項12に記載の試験方法。
【請求項14】
前記試験工程において、前記被検者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値が、前記健常者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値よりも高い場合、前記身体的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値と同じ場合、前記身体的フレイル患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値よりも高い場合、および/または、前記身体的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値から算出された第1の閾値よりも高い場合であり、かつ、
前記被検者の生体試料におけるSODの活性値が、前記健常者の生体試料におけるSODの活性値よりも低い場合、前記MCIの患者もしくは精神的フレイルの患者の生体試料におけるSODの活性値と同じ場合、前記MCIの患者もしくは前記精神的フレイルの患者の生体試料におけるSODの活性値よりも低い場合、および/または、前記健常者および前記精神的フレイルの患者またはMCIの患者の生体試料におけるSOD活性の測定値から算出された第2の閾値より低い場合に、前記被検者は、精神的フレイルであるとする、請求項13に記載の試験方法。
【請求項15】
前記ラジカルの消去能は、脂質ラジカルの消去能である、および/または前記SODの活性は、スーパーオキシドの消去活性である、請求項11から14のいずれか一項に記載の試験方法。
【請求項16】
前記精神的フレイルの試験は、精神的フレイルの検出のための検査方法、精神的フレイルの判定のための検査方法、精神的フレイルのスクリーニングのための検査方法、精神的フレイルの予防効果の判定のための検査方法、精神的フレイルの治療効果の判定のための検査方法、治療薬が奏効する精神的フレイルの患者の判定のための検査方法、個々の精神的フレイルの患者に奏効する治療薬の判定のための検査方法、精神的フレイルの診断のための検査方法、または精神的フレイルの治療のための検査である、請求項11から15のいずれか一項に記載の試験方法。
【請求項17】
ラジカルの消去能の測定試薬と
スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性の測定試薬とを含む、
精神的フレイルの試験キット。
【請求項18】
前記ラジカルの消去能の測定試薬は、ラジカルの発生剤およびラジカルの検出剤を含み、および/または
前記スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性の測定試薬は、キサンチン、キサンチンオキシダーゼ、およびスーパーオキシドの検出プローブを含む、請求項17に記載の試験キット。
【請求項19】
前記ラジカルは、脂質ラジカルである、請求項17または18に記載の試験キット。
【請求項20】
請求項11から16のいずれか一項に記載の試験方法に使用する、請求項17から19のいずれか一項に記載の試験キット。
【請求項21】
被検物質から、ラジカルの消去能を低下させ、かつSOD活性を向上させる活性化物質を、精神的フレイルの治療薬候補物質として選択する選択工程を含む、精神的フレイルの治療薬候補物質のスクリーニング方法。
【請求項22】
ラジカルの発生系に、前記被検物質を共存させて、ラジカルの消去能を測定する第1の測定工程と、
スーパーオキシドおよびSODの共存系に、前記被検物質を共存させて、SODの活性を測定する第2の測定工程と、
前記第1の測定工程で得られたラジカルの消去能が、前記被検物質を共存させていないコントロールより低く、かつ前記第2の測定工程で得られたSODの活性が、前記被検物質を共存させていないコントロールの共存系より高い場合、前記被検物質を、前記治療薬候補物質として選抜する選抜工程とを含む、請求項21に記載のスクリーニング方法。
【請求項23】
前記被検物質が、低分子化合物、ペプチド、タンパク質および核酸からなる群から選択された少なくとも一つである、請求項21または22に記載のスクリーニング方法。
【請求項24】
被検者における精神的フレイルの可能性を検出するための脂質ラジカルの消去能およびスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性の検出方法であって、
前記被検者の生体試料における脂質ラジカルの消去能を、脂質ラジカルの消去能の測定試薬を用いて検出する第1の検出工程と、
前記被検者の生体試料におけるSOD活性を、SOD活性の測定試薬を用いて検出する第2の検出工程とを含
前記脂質ラジカルの消去能の測定試薬として、ラジカル発生剤およびラジカルの検出剤を含む、検出方法。
【請求項25】
前記生体試料は、唾液である、請求項24に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体的フレイルの試験方法、身体的フレイルの試験試薬、身体的フレイルの治療薬候補物質のスクリーニング方法、精神的フレイルの試験方法、精神的フレイルの試験試薬、および精神的フレイルの治療薬候補物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会に伴い、健康な状態と要介護状態の中間的な段階であるフレイルの患者数が増加している。フレイルは、身体的フレイルや精神的フレイル等を含む。身体的フレイルには、筋力の低下によるサルコペニア等が関与している(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】「フレイルの意義」、[online]、日本老年医学会雑誌、[令和3年8月18日検索]、インターネット<https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/review_51_6_497.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サルコペニアは、身体的フレイルの状態で介入することにより、要介護状態への進行速度を抑制することができる。このため、身体的フレイルを検出しうる試験方法が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、身体的フレイルを検出しうる試験方法およびそれに用いる測定試薬の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の身体的フレイルの試験方法(以下、「第1の試験方法」ともいう)は、被検者の生体試料におけるラジカルの消去能を測定する測定工程(以下、「第1の測定工程」という)を含む。
【0007】
本発明の身体的フレイルの試験試薬(以下、「第1の試験試薬」ともいう)は、ラジカルの消去能の測定試薬を含む。
【0008】
本発明の身体的フレイルの治療薬候補物質のスクリーニング方法(以下、「第1のスクリーニング方法」ともいう)は、被検物質から、ラジカルの消去能を低下させる活性化物質を、身体的フレイルの治療薬候補物質として選択する選択工程(以下、「第1の選択工程」ともいう)を含む。
【0009】
本発明の検出方法(以下、「第1の検出方法」ともいう)は、身体的フレイルの疑いがある被検者におけるラジカルの消去能の検出方法であって、
前記被検者の生体試料におけるラジカルの消去能を、ラジカルの消去能の測定試薬を用いて検出する検出工程(以下、「第1の検出工程」ともいう)を含む。
【0010】
本発明の精神的フレイルの試験方法(以下、「第2の試験方法」ともいう)は、被検者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値、およびスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性を測定する測定工程(以下、「第2の測定工程」ともいう)を含む。
【0011】
本発明の精神的フレイルの試験キット(以下、「試験キット」ともいう)は、ラジカルの消去能の測定試薬、およびスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の活性の測定試薬を含む。
【0012】
本発明の精神的フレイルの治療薬候補物質のスクリーニング方法(以下、「第2のスクリーニング方法」ともいう)は、被検物質から、ラジカルの消去能を低下させ、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性を向上させる活性化物質を、精神的フレイルの治療薬候補物質として選択する選択工程(以下、「第2の選択工程」ともいう)を含む。
【0013】
本発明の検出方法(以下、「第2の検出方法」ともいう)は、精神的フレイルの疑いがある被検者におけるラジカルの消去能およびスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性の検出方法であって、
前記被検者の生体試料におけるラジカルの消去能を、ラジカルの消去能の測定試薬を用いて検出する第1の検出工程と、
前記被検者の生体試料におけるSOD活性を、SOD活性の測定試薬を用いて検出する第2の検出工程とを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被検者由来の生体試料を用いることにより、前記被検者が身体的フレイルかを検出しうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例1における各被検者の唾液量を示すグラフである。
図2図2は、実施例1における各年齢層における被検者の唾液量の平均値を示すグラフである。
図3図3は、実施例1における被験者の握力最大値を示すグラフである。図3(A)は、各被検者の握力最大値の結果を示し、図3(B)は、各被検者の握力最大値の平均の結果を示す。
図4図4は、実施例1における各年齢層における被検者の握力最大値および各グループでの握力最大値の平均値を示すグラフである。
図5図5は、実施例1における各唾液サンプルにおけるESRの結果を示し、各被検者のi-STrap値の結果を示すグラフである。
図6図6は、実施例1における各唾液サンプルにおけるESRの結果を示し、各年齢層における被検者のi-STrap値の平均値の結果を示すグラフである。
図7図7は、実施例1における各被検者の握力とラジカルの消去能の相関を示すグラフである。
図8図8は、実施例1における各50歳以下の被検者の握力とラジカルの消去能の相関を示すグラフである。
図9図9は、実施例1における各50歳以上70歳以下の被検者の握力とラジカルの消去能の相関を示すグラフである。
図10図10は、実施例1における各70歳以上の被検者の握力とラジカルの消去能の相関を示すグラフである。
図11図11は、実施例2における各被検者の唾液量を示すグラフである。
図12図12は、実施例2におけるESRスペクトルに14Nおよびβ、γ位のHの内部磁場に由来する12本の吸収線(ピーク)を示す図である。
図13図13は、実施例2における各唾液サンプルにおけるESRの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<定義>
本明細書において、「身体的フレイルの試験」は、例えば、身体的フレイルの検出、身体的フレイルの判定、身体的フレイルのスクリーニング、身体的フレイルの予防効果の判定、身体的フレイルの治療効果の判定、治療薬が奏効する身体的フレイルの患者の判定、個々の身体的フレイルの患者に奏効する治療薬の判定、身体的フレイルの診断のための検査方法、または身体的フレイルの治療のための検査等を意味する。前記「身体的フレイルの判定」は、例えば、身体的フレイルの有無の判定、試験、検出、または診断でもよいし、身体的フレイルの罹患の可能性(危険度)の判定、試験、検出、または診断でもよいし、身体的フレイルの治療後の予後の予測でもよいし、身体的フレイル治療薬の治療効果の判定でもよく、いずれとも読み替え可能である。
【0017】
本明細書において、「精神的フレイルの試験」は、例えば、精神的フレイルの検出、精神的フレイルの判定、精神的フレイルのスクリーニング、精神的フレイルの予防効果の判定、精神的フレイルの治療効果の判定、治療薬が奏効する精神的フレイルの患者の判定、個々の精神的フレイルの患者に奏効する治療薬の判定、精神的フレイルの診断のための検査方法、または精神的フレイルの治療のための検査等を意味する。前記「精神的フレイルの判定」は、例えば、精神的フレイルの有無の判定、試験、検出、または診断でもよいし、精神的フレイルの罹患の可能性(危険度)の判定、試験、検出、または診断でもよいし、精神的フレイルの治療後の予後の予測でもよいし、精神的フレイル治療薬の治療効果の判定でもよく、いずれとも読み替え可能である。
【0018】
本明細書において、「罹患」は、当該疾患にかかっている状態を意味してもよいし、当該疾患を発症することを意味してもよい。
【0019】
本明細書において、「処置」は、治療的処置および/または予防的処置を意味する。本明細書において、「治療」は、疾患、病態、もしくは障害の治療、治癒、防止、抑止、寛解、改善、または、疾患、病態、もしくは障害の進行の停止、抑止、低減、もしくは遅延を意味する。本明細書において、「予防」は、疾患もしくは病態の発症の可能性の低下、または疾患もしくは病態の発症の遅延を意味する。前記「治療」は、例えば、対象疾患を発病する患者に対する治療でもよいし、対象疾患のモデル動物の治療でもよい。
【0020】
本明細書において、「フレイル」(Frailty)は、加齢に伴う様々な機能低下(予備能力の低下)を基盤とし、多様に出現する健康障害に対する脆弱性が増加している状態を意味する。前記フレイルとは、一般的に、身体的問題および/または精神的な問題を含む概念として用いられる。
【0021】
本明細書において、「身体的フレイル」は、前記フレイルに含まれ、加齢に伴う体力および筋力の低下による健康障害を起こしやすい状態を意味する。前記身体的フレイルは、例えば、移動能力、筋力、認知機能、栄養状態、バランス能力、持久力、身体活動性、および社会性等の構成要素について複数項目をあわせて評価することができる。前記身体的フレイルの診断基準は、例えば、CHS基準(Cardiovascular Health Study:CHS index)やFrailty index等を用いて評価してもよい。前記CHS基準を用いて評価する場合、下記表1に示すように、前記身体的フレイルの評価では、被検者における、(1)体重減少、(2)主観的疲労感(低エネルギー状態、易疲労性)、(3)活動性(日常生活活動量)の低下、(4)動作:歩行速度(身体能力)の低下、および(5)筋力(握力)の低下の5項目をフレイルの代表的な徴候とし、身体的フレイルを評価する。前記CHS基準では、前記5項目のうち3項目が当てはまればフレイルと評価し、1~2項目が当てはまる場合はプレ・フレイル(身体的フレイルの前段階)として評価できる。本明細書において、身体的フレイルは、例えば、他の評価方法を組み合わせて評価してもよい。他の評価方法としては、例えば、Frail scale、Edmonton Frail scale(EFS)、Tilburg Frailty Indicator(TFI)等が挙げられる。
【0022】
【表1】
【0023】
本明細書において、「軽度認知障害」は、例えば、国際疾病分類第11版(ICD11)において、ICDコードF06.7(軽症認知障害)に分類される疾患を意味する。前記MCIは、例えば、MoCA-J(Japanese version of MoCA)を用いて評価でき、評点が、25点以下の場合、MCIであると評価できる。本明細書において、MCIは、例えば、他の評価方法を組み合わせて評価してもよい。他の評価方法としては、例えば、Trail Making Test 日本版(TMT-J)、臨床認知症評価尺度(Clinical Dementia Rating:CDR)、Functional Assessment Staging(FAST)、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(Hasegawa’s Dementia Scale-Revised:HDS-R)、ミニメンタルステート検査(Mini-Mental State Examination:MMSE)、DASC-21(地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート(Dementia Assessment Sheet in Community-based Integrated Care System)等があげられる。
【0024】
本明細書において、「精神的フレイル」は、前記身体的フレイルに加えて、認知機能低下の進行に伴い、軽度認知障害が生じた状態を意味する。
【0025】
本明細書において、「ラジカル」は、不対電子を有する原子、分子、またはイオンを意味する。
【0026】
本明細書において、「抗酸化物質」は、活性酸素種を捕捉する物質を意味する。前記活性酸素種は、例えば、前記ラジカル種(ラジカル);一重項酸素()、オゾン(O)、過酸化水素(H)等の非ラジカル種;等があげられる。
【0027】
本明細書において、「ラジカルの消去能」は、被検物質によるラジカルを捕捉する能力を意味する。
【0028】
<身体的フレイルのマーカー>
ある態様において、本明細書は、身体的フレイルの指標となるマーカーを開示する。本開示の身体的フレイルのマーカーは、ラジカルの消去能である。本開示の身体的フレイルのマーカーは、ラジカルの消去能であることが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。
【0029】
本発明者らは、鋭意研究の結果、生体におけるラジカルの消去能、特に、唾液中の抗酸化物質による、ラジカルの消去能が、身体的フレイルの発症と相関を示すことを見出し、本発明を確立するに至った。本開示によれば、ラジカルの消去能を測定することによって、被検者の身体的フレイルの罹患可能性(罹患危険度)等を試験できる。また、本開示において、ラジカルは、身体的フレイルのターゲットとなることから、前記ターゲットを用いたスクリーニングにより、身体的フレイルの治療薬候補物質を得ることもできる。このため、本発明は、臨床分野および生化学分野において極めて有用である。
【0030】
前記ラジカルは、例えば、ヒドロキシラジカル(・OH)、アルコキシラジカル(LO・)、ペルオキシラジカル(LOO・)、ヒドロペルオキシラジカル(HOO・)、一酸化窒素(NO・)、二酸化窒素(NO・)、スーパーオキサイドアニオン(O2-)、脂質ラジカル等があげられる。
【0031】
前記抗酸化物質は、例えば、前記活性酸素種のうちいずれか1つを捕捉してもよいし、2つ以上を捕捉してもよい。前記活性酸素種の捕捉は、例えば、活性酸素種の消去ということもできる。前記ラジカルの捕捉は、例えば、ラジカルの消去ということもできる。前記活性酸素種の捕捉は、例えば、前記抗酸化物質が、前記活性酸素種に水素原子を供与し、前記活性酸素種をより安定な他の分子(例えば、水)に変換することにより、実施されてもよい。前記抗酸化物質は、例えば、活性酸素種、ラジカル種もしくは一重項酸素の捕捉物質、または活性酸素種、ラジカル種もしくは一重項酸素の消去物質ということもできる。また、前記抗酸化物質は、例えば、共存する他の分子の活性酸素種による酸化を抑制または防止できる。
【0032】
前記ラジカルの消去能は、後述の実施例1に準じて、i-STrap法を用いた抗酸化能を評価する方法により、評価できる。具体的には、前記i-STrap法を用いた抗酸化能の評価は、tBuO・(tert-butyloxyl radicals)、およびtBu・(tert-butyl radicals)等のラジカルを、2-diphenylphosphinoyl-2-methyl-3,4-dihydro-2H-pyrrole N-oxide (DPhPMPO)によってスピントラップしたESR(電子スピン共鳴:Electron spin resonance)スピンアダクト(DPhPMPO-OOtBu、DPhPMPO-OtBu、DPhPMPO-tBu)のESRシグナルを基準値に、評価できる。具体例として、抗酸化作用のある唾液が、前記ラジカルと共存すると、ESRシグナルが基準値と比較し減少するため、ラジカルの消去能を評価できる。そこで、前記ラジカル消去能は、(唾液)サンプルを添加していない反応系でのi-STrap値を1(基準値)とし、前記基準値から、(唾液)サンプルを添加した反応系でのi-STrap値(R)との差(1-R)を算出することにより、評価できる。前記抗酸化能の評価方法において、被検物質を用いて得られた測定値との差(1-R)が、例えば、0.1以上、0.15以上、0.2以上、0.21以上、0.22以上、0.23以上、0.24以上、0.25以上、0.26以上、0.27以上、0.28以上、0.29以上、0.30以上、0.31以上、0.32以上、0.33以上、0.34以上、0.35以上、0.36以上、0.37以上、0.38以上、0.39以上、または0.4以上の場合、前記被検物質は、ラジカルの消去能を有すると評価できる。
【0033】
前記ラジカルの消去能は、身体的フレイルのマーカーとして使用でき、サルコペニア、ロコモティブシンドローム、うつ、物忘れ、軽度の認知症、認知症、歩行障害、転倒、および関節拘縮に起因する身体的フレイルのマーカーとして特に好適に使用できる。
【0034】
前記ラジカルの消去能は、脂質ラジカルの消去能が好ましい。前記生体におけるラジカルの消去能は、前記生体が含有する抗酸化物質に起因すると推定される。このため、本明細書において、前記身体的フレイルのマーカーとして、前記ラジカルの消去能に加えて、または代えて前記抗酸化物質を用いてもよい。
【0035】
前記身体的フレイルのマーカーは、例えば、後述のように、身体的フレイルの診断または検出するためのマーカー、身体的フレイルの予後を予測するマーカー、身体的フレイルの治療効果を予測または判定するマーカーとしても使用しうる。
【0036】
<身体的フレイルの試験方法>
別の態様において、本明細書は、身体的フレイルの可能性を試験する方法を開示する。本開示の身体的フレイルの試験方法は、前述のように、被検者の生体試料におけるラジカルの消去能を測定する測定工程を含む。本開示の第1の試験方法は、身体的フレイルのマーカーとして、前記被検者の生体試料におけるラジカルの消去能を測定することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本開示の第1の試験方法は、前記本開示の身体的フレイルのマーカーの説明を援用できる。
【0037】
本開示の第1の試験方法によれば、例えば、身体的フレイルの可能性の試験を実施可能である。前記「身体的フレイルの試験」は、例えば、身体的フレイルの検出、身体的フレイルの判定、身体的フレイルのスクリーニング、身体的フレイルの予防効果の判定、身体的フレイルの治療効果の判定、治療薬が奏効する身体的フレイルの患者の判定、個々の身体的フレイルの患者に奏効する治療薬の判定、身体的フレイルの診断のための検査方法、または身体的フレイルの治療のための検査等を意味する。前記「身体的フレイルの判定」は、例えば、身体的フレイルの有無の判定、試験、検出、または診断でもよいし、身体的フレイルの罹患の可能性(危険度)の判定、試験、検出、または診断でもよいし、身体的フレイルの治療後の予後の予測でもよいし、身体的フレイルの治療薬の治療効果の判定でもよい。
【0038】
前記被検者は、例えば、ヒト、ヒトを除く非ヒト動物等があげられ、前記非ヒト動物は、前述のように、例えば、マウス、ラット、イヌ、サル、ウサギ、ヒツジ、ウマ等の哺乳類;鳥類;魚類;等があげられる。
【0039】
前記生体試料の種類は、特に制限はされず、例えば、生体から分離した、体液、体液由来細胞、器官、組織または細胞等があげられる。前記体液は、例えば、血液;唾液;尿;リンパ液;関節等の滑液;骨髄液、脳脊髄液等の髄液;等があげられる。前記血液の具体例としては、例えば、全血、血清、血漿等があげられる。前記体液由来細胞は、例えば、血液由来細胞があげられ、具体的には、血球、白血球、リンパ球等の血球細胞があげられる。また、前記身体的フレイルのマーカーによれば、例えば、被検者の身体的フレイルを、唾液中のラジカルの消去能によって試験できる。このため、例えば、患者や医師の負担を軽減できることから、前記生体試料は、唾液が好ましい。
【0040】
測定対象であるラジカルの消去能は、例えば、脂質ラジカルの消去能があげられる。前記ラジカルの消去能は、例えば、前記生体試料に対して脂質ラジカルの消去能を測定することにより実施してもよいし、前記生体試料から、抗酸化物質を抽出、粗精製、または精製後に、得られた抗酸化物質に対して脂質ラジカルの消去能を測定することにより実施してもよい。抗酸化物質の脂質ラジカルの消去能の測定方法は、特に制限されず、公知の方法が採用できる。具体例として、前記抗酸化物質の脂質ラジカルの消去能の測定方法は、例えば、tert-ブチルヒドロペルオキシド(tBuOOH)およびヘモグロビンを脂質ラジカル発生剤とし、2‐diphenylphosphinoyl‐2‐methyl‐3,4‐dihydro‐2H‐pyrrole N‐oxide(DPhPMPO)をスピントラップ剤として用いた電子スピン共鳴(Electron spin resonance:ESR)スピントラップ法(i-STrap法);ORAC(Oxygen Radical Absorbance Capacity:活性酸素吸収能力)法、ペルオキシルラジカルに対するトラッピング活性(Total Radical-Trapping Antioxidant Parameter:TRAP)法;等があげられ、過酸化水素、ヒドロキシルラジカル、一重項酸素等の他の活性酸素種の影響を抑制でき、ラジカル、特に、脂質ラジカルを特異的に検出でき、かつ感度がよいことから、i-STrap法が好ましい。前記ラジカルの消去能の測定は、定性的な測定でもよいし、定量的な測定でもよい。前記ラジカルの消去能の測定が、定量的な測定の場合、ラジカルの消去能は、ラジカルの消去能の測定値ということもできる。
【0041】
本開示の第1の試験方法は、例えば、さらに、前記被検者の生体試料(以下、「被検生体試料」ともいう)におけるラジカルの消去能の測定値を、閾値と比較することにより、前記被検者の身体的フレイルの罹患の可能性を試験する試験工程(以下、「第1の試験工程」という)を含む。前記閾値は、特に制限されず、例えば、健常者、身体的フレイルの患者、または前記健常者および前記身体的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値から算出された閾値があげられる。予後の評価の場合、前記閾値は、例えば、同じ被検者の治療前または後(例えば、治療直後)のラジカルの消去能の測定値であってもよい。
【0042】
前記閾値は、例えば、前述のような、健常者および/または身体的フレイルの患者から単離した生体試料(以下、「基準生体試料」ともいう)を用いて得ることができる。また、前記閾値は、例えば、複数の健常者および複数の身体的フレイルの患者から基準生体試料を単離後、ラジカルの消去能を測定し、得られたラジカルの消去能に基づき統計学的に算出してもよい。この場合、前記閾値としては、例えば、診断閾値(カットオフ値)、治療閾値、および予防医学閾値等の臨床診断値を使用できる。また、予後の評価の場合、例えば、同じ被検者から治療後に単離した基準生体試料を用いてもよい。前記閾値は、例えば、前記被検者の被検生体試料と同時に測定してもよいし、予め測定してもよい。後者の場合、例えば、前記被検者の被検生体試料を測定する度に、閾値を得ることが不要となるため、好ましい。前記被検者の被検生体試料と前記基準生体試料は、例えば、同じ条件で採取し、同じ条件でラジカルの消去能の測定を行うことが好ましい。
【0043】
前記第1の試験工程において、被検者の身体的フレイルの罹患可能性の評価方法は、特に制限されず、前記閾値の種類によって適宜決定できる。具体例として、前記被検者の被検生体試料におけるラジカルの消去能の測定値が、前記健常者の基準生体試料におけるラジカルの消去能の測定値と同じ場合(有意差が無い場合)、前記健常者の基準生体試料におけるラジカルの消去能の測定値よりも有意に低い場合、前記身体的フレイルの患者の基準生体試料におけるラジカルの消去能の測定値よりも有意に低い場合、および/または、前記健常者および前記身体的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値から算出された閾値より低い場合に、前記被検者は、身体的フレイルに罹患する可能性(「危険性」または「危険度」ともいう、以下同様)が無いまたは可能性が低いと評価できる。また、前記被検者の被検生体試料におけるラジカルの消去能の測定値が、前記健常者の基準生体試料におけるラジカルの消去能の測定値よりも有意に高い場合、前記身体的フレイルの患者の基準生体試料におけるラジカルの消去能の測定値と同じ場合(有意差がない場合)、前記身体的フレイルの患者の基準生体試料におけるラジカルの消去能の測定値よりも有意に高い場合、および/または、前記健常者および前記身体的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値から算出された閾値より高い場合に、前記被検者は、身体的フレイルに罹患する可能性があるまたは可能性(危険性)が高いと評価できる。また、前記試験工程において、前記被検者の被検生体試料におけるラジカルの消去能の測定値を、前記身体的フレイルの程度ごとの身体的フレイルの患者の基準生体試料におけるラジカルの消去能の測定値と比較することで、身体的フレイルの程度を評価できる。具体的には、前記被検者の被検生体試料が、例えば、身体的フレイルの前記基準生体試料と同程度のラジカルの消去能の測定値の場合(有意差がない場合)、前記被検者は、前記身体的フレイルの程度の可能性があるまたは可能性が高いと評価できる。
【0044】
前記第1の試験工程において、予後の状態を評価する場合、例えば、前述と同様に評価してもよいし、閾値として、同じ被検者の治療後の基準生体試料におけるラジカルの消去能の測定値を使用して評価することもできる。具体例として、前記被検者の被検生体試料におけるラジカルの消去能の測定値が、前記閾値と同じ場合(有意差がない場合)、および/または、前記閾値よりも有意に低い場合、前記被検者は、前記治療後、再発または悪化の可能性がないまたは可能性が低いと評価できる。また、前記被検者の被検生体試料におけるラジカルの消去能の測定値が、前記閾値よりも有意に高い場合、前記被検者は、前記治療後、再発または悪化の可能性があるまたは可能性が高いと評価できる。
【0045】
前記第1の試験工程では、例えば、同じ被検者の生体試料を経時的に採取し、前記生体試料におけるラジカルの消去能の測定値を比較してもよい。これによって、前記試験工程では、例えば、経時的に測定値が低下すれば、罹患の可能性が低くなったまたは治癒してきた等の判断が可能であり、経時的に測定値が増加すれば、罹患の可能性が高くなった等の判断が可能である。
【0046】
本開示の第1の試験方法は、例えば、前記第1の試験工程の結果に基づき、前記被検者に対して治療を行なってもよい。具体的には、本開示の第1の試験方法は、例えば、前記第1の試験工程において、身体的フレイルであるとの試験結果が得られた被検者に、身体的フレイルの治療薬を投与する投与工程を含んでもよい。前記身体的フレイルの治療薬の投与形態、投与時期、投与量、投与間隔等の条件は、前記身体的フレイルの治療薬の種類に応じて適宜設定できる。前記身体的フレイルの治療薬は、後述のスクリーニング方法で得られた治療薬候補物質でもよい。
【0047】
本開示の第1の試験方法では、前記身体的フレイルの指標(マーカー)として、前記ラジカル消去能を用いたが、本開示の第1の試験方法では、前記ラジカルの消去能に代えて、または加えて、前記抗酸化物質を用いてもよい。この場合、前記本開示の試験方法において、「ラジカルの消去能」を「抗酸化物質」に、「ラジカル消去能の測定値」を「抗酸化物質の量」に読み替えてその説明を援用できる。
【0048】
前記被検者は、特に制限されず、例えば、身体的フレイルの患者でもよいし、身体的フレイルか否かが不明な者でもよいし、身体的フレイルの疑いがある者でもよい。前記被検者は、軽度認知障害(MCI)の患者であってもよい。この場合、本開示の試験方法は、精神的フレイルの可能性の試験を実施でき、前記「身体的フレイル」を「精神的フレイル」に読み替えてその説明を援用できる。前記被検者がヒトの場合、前記被検者は、50歳以上70歳未満であることが好ましい。
【0049】
本開示の第1の試験方法では、前記「身体的フレイル」かを評価したが、本開示はこれに限定されず、前記「身体的フレイル」に代えて、「フレイル」かを評価してもよい。この場合、本開示の第1の試験方法において、前記「身体的フレイル」は、「フレイル」に読み替えてその説明を援用できる。
【0050】
以上のように、本開示の第1の試験方法は、例えば、身体的フレイルを診断または検出する方法、身体的フレイルの予後を予測する方法、身体的フレイルの治療の効果を予測または判定する方法として使用できる。このため、本開示の第1の試験方法は、身体的フレイルの治療薬に応答する患者(リスポンダー)の選択、身体的フレイルの治療薬の投与量の調整のためのコンパニオン診断方法としても使用できる。
【0051】
<試験試薬>
別の態様において、本明細書は、身体的フレイルの可能性を試験可能な試験試薬を開示する。本開示の試験試薬は、前述のように、ラジカルの消去能の測定試薬を含む。本開示の試験試薬は、ラジカルの消去能の測定試薬を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本開示の試験試薬によれば、前記本発明の試験方法を簡便に実施できる。本開示の試験試薬は、前記本開示の身体的フレイルのマーカーおよび試験方法の説明を援用できる。
【0052】
前記ラジカルの消去能の測定試薬は、例えば、前記ラジカルの消去能の測定方法に応じて、適宜決定できる。具体例として、前記ラジカルの消去能をi-STrap法等のESR法により測定する場合、前記ラジカルの消去能の測定試薬は、ラジカル発生剤およびラジカルの検出剤があげられる。前記ラジカルの発生剤は、脂質ラジカルの発生剤を含んでもよいし、前記ラジカルの検出剤は、脂質ラジカルの検出剤を含んでもよい。前記ラジカルの発生剤は、例えば、tert-ブチルヒドロペルオキシド(tBuOOH)およびヘモグロビンの組合せ等があげられる。前記ラジカルの検出剤は、例えば、2-diphenylphosphinoyl-2-methyl-3,4-dihydro-2H-pyrrole N-oxide(DPhPMPO)、N-tert-Buthyl-α-Phenylnitrone(PBN)、α-(4-Pyridyl-1-Oxide)-N-tert-Butylnitrone(4-POBN)、3,3,5,5-Tetramethyl-1-Pyrroline-N-Oxide(M4PO)、3,5-Dibromo-4-Nitrosobenzenesulfonic Acid, Sodium Salt(DBNBS)、3,5-Dibromo-4-Nitrosobenzenesulfonic Acid-d2, Sodium Salt(DBNBS-d2)等があげられる。
【0053】
本開示の試験試薬は、前述のように、前記本開示の第1の試験方法を簡便に実施できる。このため、本開示の試験試薬は、前記本開示の第1の試験方法に用いることが好ましい。
【0054】
本開示は、例えば、身体的フレイルの可能性を試験するための、ラジカルの消去能の測定試薬の使用ということもできる。
【0055】
各試薬は、例えば、混合されて配置されてもよいし、その一部または全部が別個に配置されてもよい。後者の場合、本開示の試験試薬は、試験キットということもできる。
【0056】
本開示の試験試薬は、例えば、その他の構成を含んでもよい。前記その他の構成は、例えば、生体試料の前処理試薬、使用説明書等があげられる。
【0057】
本開示の試験試薬は、前記ラジカルの消去能の測定試薬に代えて、抗酸化物質の測定試薬を含んでもよい。前記抗酸化物質の測定試薬は、例えば、前記抗酸化物質の種類に応じて、適宜決定できる。前記抗酸化物質がタンパク質の場合、前記試験試薬は、例えば、前記抗酸化物質のタンパク質の測定試薬でもよいし、前記抗酸化物質のタンパク質をコードするmRNAの測定試薬でもよい。前記抗酸化物質のタンパク質の測定試薬としては、例えば、抗酸化物質に対する抗体等を使用できる。前記抗酸化物質が核酸の場合、前記抗酸化物質のタンパク質をコードするmRNAの測定試薬は、例えば、逆転写酵素、dNTP、ポリメラーゼ、プライマー等があげられる。前記抗酸化物質の量の測定試薬は、例えば、ORAC法においては、標準物質として高純度トロロックス標準品等があげられる。
【0058】
<身体的フレイルの診断方法および診断試薬>
別の態様において、本明細書は、身体的フレイルの可能性を診断する方法および診断試薬を開示する。本開示の身体的フレイルの診断方法は、被検者の生体試料におけるラジカルの消去能を測定する工程を含む。また、本開示の身体的フレイルの診断試薬は、ラジカルの消去能の測定試薬を含む。なお、本開示は、前記本開示の試験方法および試験試薬の説明を援用できる。
【0059】
<第1のスクリーニング方法>
別の態様において、本明細書は、身体的フレイルの治療薬候補物質をスクリーニングする方法を開示する。本開示の身体的フレイルの治療薬候補物質のスクリーニング方法は、前述のように、被検物質から、ラジカルの消去能を低下させる活性化物質を、身体的フレイルの治療薬候補物質として選択する選択工程を含む。本開示は、身体的フレイルの治療薬候補物質のターゲットがラジカルの消去能であることが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本開示の第1のスクリーニング方法は、前記本開示の身体的フレイルのマーカー、第1の試験方法および試験試薬の説明を援用できる。
【0060】
前記被検物質は、例えば、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、核酸等があげられる。前記低分子化合物は、例えば、公知の低分子化合物のライブラリ等があげられる。前記ペプチドは、例えば、直鎖、分枝、または環状のペプチドであり、ペプチドを構成する各アミノ酸は、天然アミノ酸、修飾アミノ酸、人工アミノ酸、またはこれらの組合せである。前記タンパク質は、天然のタンパク質または人工のタンパク質のいずれでもよい。前記タンパク質は、例えば、抗体、成長因子、増殖因子、またはこれらの改変体等があげられる。
【0061】
前記第1の選択工程は、例えば、ラジカルの発生系に、前記被検物質を共存させて、ラジカルの消去能を測定する測定工程と、前記測定工程で得られたラジカルの消去能が、前記被検物質を共存させていないコントロールの共存系より低い場合、前記被検物質を、前記治療薬候補物質として選抜する選抜工程とを含む。前記測定工程において、前記ラジカルの消去能の測定は、例えば、前述のラジカルの消去能の測定方法の説明を援用できる。前記ラジカルの発生系は、例えば、身体的フレイルの患者由来の細胞を含む。
【0062】
<検出方法>
別の態様において、本明細書は、身体的フレイルの疑いがある被検者における身体的フレイルの可能性を検出するために使用可能なラジカル消去能の検出方法を開示する。本開示の検出方法は、身体的フレイルの疑いがある被検者におけるラジカルの消去能の検出方法であって、前記被検者の生体試料におけるラジカルの消去能を、ラジカルの消去能の測定試薬を用いて検出する検出工程を含む。本開示の第1の検出方法は、前記被検者の生体試料におけるラジカルの消去能を検出することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本開示の検出方法は、前記身体的フレイルのマーカー、第1の試験方法および試験試薬の説明を援用できる。
【0063】
前記身体的フレイルの疑いがある被検者は、例えば、被検者本人が主観的に疑いを抱く者であってもよいし、医師等の診察の結果、身体的フレイルの疑いがある、または身体的フレイルの罹患可能性があると判断したものでもよい。前記被検者本人が主観的に疑いを抱く者は、例えば、何らかの自覚症状がある者、予防検診の受診を希望する者等があげられる。
【0064】
<精神的フレイルのマーカーセット>
別の態様において、本明細書は、精神的フレイルの指標となるマーカーセット(以下、「マーカー」という。)を開示する。本開示の精神的フレイルのマーカーは、ラジカルの消去能およびスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)である。本開示の精神的フレイルのマーカーは、ラジカルの消去能およびSODであることが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。
【0065】
本発明者らは、鋭意研究の結果、生体におけるSODの活性、特に、唾液中のSODの活性が、軽度認知障害(MCI)の発症と相関を示すことを見出した。前述のように、本発明者らは、生体におけるラジカルの消去能が、身体的フレイルの発症と相関を示すことを見出した。前記精神的フレイルは、一般的に、身体的フレイルに加えてMCIを発症することにより生じると考えられている。このため、本開示によれば、SODの活性と、前記ラジカル消去能とを測定することによって、被検者の精神的フレイルの罹患可能性(罹患危険度)等を試験できる。また、本開示において、SODの活性およびラジカルの消去能は、精神的フレイルのターゲットとなることから、前記ターゲットを用いたスクリーニングにより、精神的フレイルの治療薬候補物質を得ることもできる。
【0066】
各種動物由来のSODは、例えば、既存のデータベースに登録されている情報を参照できる。具体例として、ヒト由来SODは、cDNAとして、例えば、NCBIアクセッション番号NM_000454.5で登録されている下記の塩基配列(配列番号1)の塩基配列からなるポリヌクレオチド、タンパク質として、例えば、NCBIアクセッション番号NP_000445.1で登録されている下記のアミノ酸配列(配列番号2)があげられる。配列番号1の塩基配列は、配列番号2のアミノ酸配列をコードする配列である。
【0067】
ヒトSOD cDNA(配列番号1)
5'-GCGTCGTAGTCTCCTGCAGCGTCTGGGGTTTCCGTTGCAGTCCTCGGAACCAGGACCTCGGCGTGGCCTAGCGAGTTATGGCGACGAAGGCCGTGTGCGTGCTGAAGGGCGACGGCCCAGTGCAGGGCATCATCAATTTCGAGCAGAAGGAAAGTAATGGACCAGTGAAGGTGTGGGGAAGCATTAAAGGACTGACTGAAGGCCTGCATGGATTCCATGTTCATGAGTTTGGAGATAATACAGCAGGCTGTACCAGTGCAGGTCCTCACTTTAATCCTCTATCCAGAAAACACGGTGGGCCAAAGGATGAAGAGAGGCATGTTGGAGACTTGGGCAATGTGACTGCTGACAAAGATGGTGTGGCCGATGTGTCTATTGAAGATTCTGTGATCTCACTCTCAGGAGACCATTGCATCATTGGCCGCACACTGGTGGTCCATGAAAAAGCAGATGACTTGGGCAAAGGTGGAAATGAAGAAAGTACAAAGACAGGAAACGCTGGAAGTCGTTTGGCTTGTGGTGTAATTGGGATCGCCCAATAAACATTCCCTTGGATGTAGTCTGAGGCCCCTTAACTCATCTGTTATCCTGCTAGCTGTAGAAATGTATCCTGATAAACATTAAACACTGTAATCTTAAAAGTGTAATTGTGTGACTTTTTCAGAGTTGCTTTAAAGTACCTGTAGTGAGAAACTGATTTATGATCACTTGGAAGATTTGTATAGTTTTATAAAACTCAGTTAAAATGTCTGTTTCAATGACCTGTATTTTGCCAGACTTAAATCACAGATGGGTATTAAACTTGTCAGAATTTCTTTGTCATTCAAGCCTGTGAATAAAAACCCTGTATGGCACTTATTATGAGGCTATTAAAAGAATCCAAATTCAAACTAAA-3'
【0068】
ヒトSODタンパク質(配列番号2)
MATKAVCVLKGDGPVQGIINFEQKESNGPVKVWGSIKGLTEGLHGFHVHEFGDNTAGCTSAGPHFNPLSRKHGGPKDEERHVGDLGNVTADKDGVADVSIEDSVISLSGDHCIIGRTLVVHEKADDLGKGGNEESTKTGNAGSRLACGVIGIAQ
【0069】
前記SODの活性は、前記ラジカル消去能と組合せることにより、精神的フレイルのマーカーとして使用でき、酸化ストレスによる血管疾患に起因する精神的レイルのマーカーとして特に好適に使用できる。前記ストレスによる血管疾患は、例えば、循環器系疾患、呼吸器系疾患、脳神経系疾患、消化器系疾患、血液系疾患、内分泌系疾患、泌尿器系疾患、皮膚疾患、支持組織系疾患、眼科疾患、腫瘍、医原性疾患、環境汚染性疾患、および歯科疾患等があげられる。前記脳神経疾患は、脳血管障害である脳梗塞、脳浮腫、脳出血;神経変性疾患である認知症、およびうつ病、自律神経障害(Reilly 現象);等を含んでもよい。前記循環器系疾患は、筋梗塞、不整脈、動脈硬化、血管攣縮、および虚血再灌流障害等を含んでもよい。
【0070】
前記精神的フレイルのマーカーは、例えば、後述のように、精神的フレイルの診断または検出するためのマーカー、精神的フレイルの予後を予測するマーカー、精神的フレイルの治療効果を予測または判定するマーカーとしても使用しうる。
【0071】
<精神的フレイルの試験方法>
別の態様において、本明細書は、精神的フレイルの可能性を試験する方法を開示する。本開示の精神的フレイルの試験方法は、前述のように、被検者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値、およびSODの活性を測定する測定工程を含む。本開示の第2の試験方法は、精神的フレイルのマーカーとして、前記被検者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値、およびSODの活性を測定することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本開示の第2の試験方法は、前記身体的フレイルのマーカー、前記精神的フレイルのマーカー、および第1の試験方法の説明を援用できる。
【0072】
本開示の第2の試験方法によれば、例えば、精神的フレイルの可能性の試験を実施可能である。前記「精神的フレイルの試験」は、例えば、精神的フレイルの検出、精神的フレイルの判定、精神的フレイルのスクリーニング、精神的フレイルの予防効果の判定、精神的フレイルの治療効果の判定、治療薬が奏効する精神的フレイルの患者の判定、個々の精神的フレイルの患者に奏効する治療薬の判定、精神的フレイルの診断のための検査方法、または精神的フレイルの治療のための検査等を意味する。前記「精神的フレイルの判定」は、例えば、精神的フレイルの有無の判定、試験、検出、または診断でもよいし、精神的フレイルの罹患の可能性(危険度)の判定、試験、検出、または診断でもよいし、精神的フレイルの治療後の予後の予測でもよいし、精神的フレイルの治療薬の治療効果の判定でもよい。
【0073】
本開示の精神的フレイルのマーカーによれば、例えば、被検者の精神的フレイルを、唾液中のラジカルの消去能、およびSODの活性によって試験できる。このため、前記生体試料は、例えば、患者や医師の負担を軽減できることから、唾液が好ましい。
【0074】
測定対象であるSODの活性は、例えば、SODのスーパーオキシド(O ・-)の消去能(消去活性)があげられる。前記SODの活性は、例えば、前記生体試料に対してSODのO ・-の消去能を測定することにより実施してもよいし、前記生体試料から、SODを抽出、粗精製、または精製後に、得られたSODに対してSODのO ・-の消去能を測定することにより実施してもよい。SODのO ・-の消去能の測定方法は、特に制限されず、公知の方法が採用できる。具体例として、前記SODのO ・-の消去能の測定方法は、例えば、キサンチンおよびキサンチンオキシダーゼをO ・-発生剤とし、スピントラップ剤を用いた電子スピン共鳴(Electron spin resonance:ESR)スピントラップ法;ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)、2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロライド(XTT)等のテトラゾリウム塩(発色剤)を用いた吸光光度法;ウミホタルルシフェリン類縁体(MCLA)、ルシゲニン等の化学発光プローブを用いた化学発光法;チトクロームCの還元を利用する方法;テトラニトロメタン(TNM)の還元を利用する方法;エピネフリン(アドレンリン)の酸化(連鎖反応)を利用する方法;乳酸脱水素酵素-NADHの酸化(連鎖反応)を利用する方法;ラクトペルオキシダーゼ・スーパーオキシド複合体生成による測定方法;等があげられ、過酸化水素、ヒドロキシルラジカル、一重項酸素等の他の活性酸素種の影響を抑制でき、O ・-を特異的に検出でき、かつ感度がよいことから、ESRスピントラップ法が好ましい。前記SODの活性の測定は、定性的な測定でもよいし、定量的な測定でもよい。前記SODの活性の測定が、定量的な測定の場合、SODの活性は、SODの活性の測定値ということもできる。
【0075】
本開示の第2の試験方法は、例えば、さらに、前記被検者の生体試料(以下、「被検生体試料」ともいう)におけるラジカルの消去能の測定値を第1の閾値と比較し、前記被検生体試料のSODの活性値を、第2の閾値と比較することにより、前記被検者の精神的フレイルの罹患の可能性を試験する試験工程を含む。
【0076】
前記第1の閾値は、特に制限されず、例えば、健常者、身体的フレイルの患者、または前記健常者および前記身体的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値から算出された閾値があげられる。予後の評価の場合、前記第1の閾値は、例えば、同じ被検者の治療前または後(例えば、治療直後)のラジカルの消去能の測定値であってもよい。
【0077】
前記第1の閾値は、例えば、前述のような、健常者および身体的フレイルの患者、もしくは精神的フレイルの患者から単離した生体試料(以下、「基準生体試料」ともいう)を用いて、得ることができる。具体的には、前記第1の閾値は、例えば、複数の健常者および複数の身体的フレイルの患者または複数の精神的フレイルの患者から基準生体試料を単離後、ラジカルの消去能を測定し、得られたラジカルの消去能に基づき統計学的に算出してもよい。この場合、前記第1の閾値としては、例えば、診断閾値(カットオフ値)、治療閾値、および予防医学閾値等の臨床診断値を使用できる。また、予後の評価の場合、例えば、同じ被検者から治療後に単離した基準生体試料を用いてもよい。前記第1の閾値は、例えば、前記被検者の被検生体試料と同時に測定してもよいし、予め測定してもよい。後者の場合、例えば、前記被検者の被検生体試料を測定する度に、第1の閾値を得ることが不要となるため、好ましい。前記被検者の被検生体試料と前記基準生体試料は、例えば、同じ条件で採取し、同じ条件でラジカルの消去能の測定を行うことが好ましい。
【0078】
前記第2の閾値は、特に制限されず、例えば、健常者、軽度認知障害(MCI)の患者、精神的フレイルの患者、または前記健常者および前記MCIの患者もしくは前記精神的フレイルの患者の生体試料におけるSODの活性の測定値から算出された閾値があげられる。予後の評価の場合、前記第2の閾値は、例えば、同じ被検者の治療前または後(例えば、治療直後)のSODの活性の閾値であってもよい。
【0079】
前記第2の閾値は、例えば、前述のような、健常者および軽度認知障害(MCI)の患者または精神的フレイルの患者から単離した生体試料(以下、「基準生体試料」ともいう)を用いて、得ることができる。具体的には、前記第2の閾値は、例えば、複数の健常者および複数のMCIの患者または複数の精神的フレイルの患者から基準生体試料を単離後、SODの活性を測定し、得られたSODの活性に基づき、統計学的に算出してもよい。この場合、前記第2の閾値としては、例えば、診断閾値(カットオフ値)、治療閾値、および予防医学閾値等の臨床診断値を使用できる。また、予後の評価の場合、例えば、同じ被検者から治療後に単離した基準生体試料を用いてもよい。前記第2の閾値は、例えば、前記被検者の被検生体試料と同時に測定してもよいし、予め測定してもよい。後者の場合、例えば、前記被検者の被検生体試料を測定する度に、第2の閾値を得ることが不要となるため、好ましい。前記被検者の被検生体試料と前記基準生体試料は、例えば、同じ条件で採取し、同じ条件でSODの活性の測定を行うことが好ましい。
【0080】
前記第2の試験工程において、被検者の精神的フレイルの罹患可能性の評価方法は、特に制限されず、前記閾値の種類によって適宜決定できる。具体例として、前記試験工程では、前記被検者の生体試料が、下記(1)~(4)の条件の組合せを満たすか否かにより評価してもよい。下記条件(1)および(2)は、前記被検者が身体的フレイルか否かを評価する評価基準である。また、下記条件(3)および(4)は、前記被検者がMCIであるか否かを評価する評価基準である。このため、以下の例において、前記第2の試験工程では、下記条件(1)または(2)と、下記条件(3)または(4)とを組合せて評価することにより、前記被検者が精神的フレイルか否かを評価できる。
【0081】
条件(1):
前記被検者の被検生体試料におけるラジカルの消去能の測定値が、前記健常者の基準生体試料におけるラジカルの消去能の測定値よりも(有意に)高い場合、前記身体的フレイルの患者の基準生体試料におけるラジカルの消去能の測定値と同じ場合(有意差がない場合)、前記身体的フレイルの患者の基準生体試料におけるラジカルの消去能の測定値よりも(有意に)高い場合、および/または、前記健常者および前記身体的フレイルの患者または前記精神的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値から算出された第1の閾値より高い場合;
条件(2):
前記被検者の被検生体試料におけるラジカルの消去能の測定値が、前記健常者の基準生体試料におけるラジカルの消去能の測定値よりも(有意に)低い場合、前記健常者の基準生体試料におけるラジカルの消去能の測定値と同じ場合(有意差がない場合)、前記身体的フレイルの患者の基準生体試料におけるラジカルの消去能の測定値よりも(有意に)低い場合、および/または、前記健常者および前記身体的フレイルの患者または前記精神的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値から算出された第1の閾値より低い場合;
条件(3):
前記被検者の被検生体試料におけるSODの活性値が、前記健常者の基準生体試料におけるSODの活性値よりも(有意に)高い場合、前記健常者の基準生体試料におけるSODの活性値と同じ場合(有意差がない場合)、前記MCIの患者または前記精神的フレイルの患者の基準生体試料におけるSODの活性値よりも(有意に)高い場合、および/または、前記健常者および前記MCIの患者または前記精神的フレイルの患者の生体試料におけるSODの活性値から算出された第2の閾値より高い場合;
条件(4):
前記被検者の被検生体試料におけるSODの活性値が、前記健常者の基準生体試料におけるSODの活性値よりも(有意に)低い場合、前記MCIの患者または前記精神的フレイルの患者の基準生体試料におけるSODの活性値と同じ場合(有意差がない場合)、前記MCIの患者または前記精神的フレイルの患者の基準生体試料におけるSODの活性値よりも(有意に)低い場合、および/または、前記健常者および前記MCIの患者または前記精神的フレイルの患者の生体試料におけるSOD活性の測定値から算出された第2の閾値より低い場合。
【0082】
前記第2の試験方法は、例えば、前記第2の試験工程において、前記被検者の生体試料が、前記条件(1)および(4)を満たす場合、前記被検者は、精神的フレイルに罹患する可能性があるまたは可能性(危険性)が高いと評価できる。前記第2の試験工程では、前記被検者の生体試料が前記条件(1)および(4)を満たす場合、さらに、前記被検者は、身体的フレイルに罹患する可能性があるまたは可能性(危険性)が高い、および/または、MCIに罹患する可能性があるまたは可能性(危険性)が高いと評価してもよい。
【0083】
前記第2の試験方法は、例えば、前記第2の試験工程において、前記被検者の生体試料が、条件(1)および(3)を満たす場合、前記被検者は、精神的フレイルに罹患する可能性がないまたは可能性(危険性)が低いと評価できる。前記第2の試験工程では、前記被検者の生体試料が前記条件(1)および(3)を満たす場合、さらに、前記被検者は、身体的フレイルに罹患する可能性が高い、および/または、MCIに罹患する可能性がないまたは可能性(危険性)が低いと評価してもよい。
【0084】
前記第2の試験方法は、例えば、前記第2の試験工程において、前記被検者の生体試料が、条件(2)かつ条件(4)を満たす場合、前記被検者は、精神的フレイルに罹患する可能性がないまたは可能性(危険性)が低いと評価できる。前記第2の試験工程では、前記被検者の生体試料が前記条件(2)および(4)を満たす場合、さらに、前記被検者は、身体的フレイルに罹患する可能性が無いまたは可能性(危険性)が低い、および/または、MCIに罹患する可能性があるまたは可能性(危険性)が高いと評価してもよい。
【0085】
前記第2の試験方法は、例えば、前記第2の試験工程において、前記被検者の生体試料が、条件(2)かつ条件(3)を満たす場合、前記被検者は、精神的フレイルに罹患する可能性がないまたは可能性(危険性)が低いと評価できる。前記第2の試験工程では、前記被検者の生体試料が前記条件(2)および(3)を満たす場合、さらに、前記被検者は、身体的フレイルに罹患する可能性が無いまたは可能性(危険性)が低い、および/または、MCIに罹患する可能性がないまたは可能性(危険性)が低いと評価してもよい。
【0086】
前記第2の試験工程において、前記被検者の被検生体試料におけるラジカル消去能の測定値およびSODの活性値を、前記精神的フレイルの程度ごとの精神的フレイルの患者の基準生体試料におけるラジカル消去能の測定値およびSODの活性値と比較することで、精神的フレイルの程度を評価してもよい。具体的には、前記被検者の被検生体試料が、例えば、特定の程度の精神的フレイルの患者の前記基準生体試料と同程度のラジカル消去能の測定値およびSODの活性値の場合(有意差がない場合)、前記被検者は、前記特定の程度の精神的フレイルの可能性があると評価できる。
【0087】
前記第2の試験工程において、予後の状態を評価する場合、例えば、前述と同様に評価判断してもよいし、前記第1の閾値および前記第2の閾値として、同じ被検者の治療後の基準生体試料におけるラジカル消去能およびSODの活性値を使用して評価することもできる。具体例として、前記被検者の被検生体試料におけるラジカル消去能およびSODの活性値が、前記第1の閾値および前記第2の閾値と同じ場合(有意差がない場合)、および/または、前記第1の閾値よりも(有意に)高く、かつ前記第2の閾値よりも(有意に)低い場合、前記被検者は、前記治療後、再発または悪化の可能性があると評価できる。また、前記被検者の被検生体試料におけるラジカル消去能の測定値および/またはSODの活性値が、前記第1の閾値よりも(有意に)低く、かつ/または前記第2の閾値よりも(有意に)高い場合、前記被検者は、前記治療後、再発の可能性が無いもしくは可能性が低いと評価できる。
【0088】
前記第2の試験工程では、例えば、同じ被検者の生体試料を経時的に採取し、前記生体試料におけるラジカル消去能およびSODの活性値を比較してもよい。これによって、前記第2の試験工程では、例えば、経時的に、前記ラジカル消去能の測定値が増加し、かつ前記SODの活性値が低下すれば、罹患の可能性が高くなった等の判断が可能であり、経時的に、前記ラジカル消去能の測定値が低下し、かつ/または前記SODの活性値が増加すれば、罹患の可能性が低くなったまたは治癒してきた等の判断が可能である。
【0089】
本開示の第2の試験方法は、例えば、前記第2の試験工程の結果に基づき、前記被検者に対して治療を行なってもよい。具体的には、本開示の第2の試験方法は、例えば、前記第2の試験工程において、精神的フレイルであるとの試験結果が得られた被検者に、精神的フレイルの治療薬を投与する投与工程を含んでもよい。前記精神的フレイルの治療薬の投与形態、投与時期、投与量、投与間隔等の条件は、前記精神的フレイルの治療薬の種類に応じて適宜設定できる。前記精神的フレイルの治療薬は、後述の本開示のスクリーニング方法で得られた治療薬候補物質でもよい。
【0090】
以上のように、本開示の第2の試験方法は、例えば、精神的フレイルを診断または検出する方法、精神的フレイルの予後を予測する方法、精神的フレイルの治療の効果を予測または判定する方法として使用できる。このため、本開示の第2の試験方法は、精神的フレイルの治療薬に応答する患者(リスポンダー)の選択、精神的フレイルの治療薬の投与量の調整のためのコンパニオン診断方法としても使用できる。
【0091】
<試験キット>
別の態様において、本明細書は、精神的フレイルの可能性を試験する試験キットを開示する。本開示の試験キットは、前述のように、ラジカルの消去能の測定試薬とスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の活性の測定試薬とを含む。本開示の試験キットは、ラジカルの消去能の測定試薬とSODの活性の測定試薬を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本開示の試験キットによれば、前記本開示の試験方法を簡便に実施できる。本開示の試験キットは、前記本開示の精神的フレイルのマーカーおよび第2の試験方法の説明を援用できる。
【0092】
前記ラジカルの消去能の測定試薬は、例えば、前記ラジカルの消去能の測定方法に応じて、適宜決定できる。具体例として、前記ラジカルの消去能をi-STrap法等のESR法により測定する場合、前記ラジカルの消去能の測定試薬は、ラジカル発生剤およびラジカルの検出剤があげられる。前記ラジカルの発生剤は、脂質ラジカルの発生剤を含んでもよいし、前記ラジカルの検出剤は、脂質ラジカルの検出剤を含んでもよい。前記ラジカルの発生剤は、例えば、tBuOOHおよびヘモグロビンの組合せ等があげられる。前記ラジカルの発生剤は、例えば、tert-ブチルヒドロペルオキシド(tBuOOH)およびヘモグロビンの組合せ等があげられる。前記ラジカルの検出剤は、例えば、2-diphenylphosphinoyl-2-methyl-3,4-dihydro-2H-pyrrole N-oxide(DPhPMPO)、N-tert-Buthyl-α-Phenylnitrone(PBN)、α-(4-Pyridyl-1-Oxide)-N-tert-Butylnitrone (4-P O B N)、3,3,5,5-Tetramethyl-1-Pyrroline-N-Oxide(M4PO)、3,5-Dibromo-4-Nitrosobenzenesulfonic Acid, Sodium Salt(DBNBS)、3,5-Dibromo-4-Nitrosobenzenesulfonic Acid-d2, Sodium Salt(DBNBS-d2)等があげられる。前記SODの活性の測定試薬は、例えば、前記SODの活性の測定方法に応じて、適宜決定できる。具体例として、前記SODの活性をESR法により測定する場合、前記SODの活性の測定試薬は、スーパーオキシド(O ・-)発生剤およびスピントラップ剤があげられる。前記O ・-発生剤は、例えば、キサンチンおよびキサンチンオキシダーゼの組合せ等があげられる。前記スピントラップ剤は、例えば、5,5-dimethyl-1-pyrroline-N-oxide(DMPO)、5-(diethoxyphophoryl)-5-methyl-1-pyrroline-N-oxide(DEPMPO)、5-(2,2-dimethyl-1,3-propoxycyclophosphoryl)-5-methyl-1-pyrroline N-oxide(CYPMPO)等があげられる。
【0093】
本開示の試験キットは、前述のように、前記本開示の第2の試験方法を簡便に実施できる。このため、本開示の試験キットは、前記本開示の第2の試験方法に用いることが好ましい。
【0094】
本開示は、例えば、精神的フレイルの可能性を試験するための、ラジカルの消去能の測定試薬およびSOD活性の測定試薬の使用ということもできる。
【0095】
本開示において、試薬キットは、例えば、混合されて配置されてもよいし、その一部または全部が別個に配置されてもよい。前記試薬キットが混合されて配置されている場合、前記試験キットは、例えば、精神的フレイルの試験試薬ということもできる。
【0096】
本開示の試験キットは、例えば、その他の構成を含んでもよい。前記その他の構成は、例えば、生体試料の前処理試薬、使用説明書等があげられる。
【0097】
本開示の試験キットは、前記ラジカルの消去能の測定試薬に代えて、抗酸化物質の測定試薬を含んでもよい。前記抗酸化物質の測定試薬は、例えば、抗酸化物質のタンパク質の測定試薬でもよいし、抗酸化物質のタンパク質をコードするmRNAの測定試薬でもよい。前記抗酸化物質のタンパク質の測定試薬としては、例えば、抗酸化物質に対する抗体等を使用できる。前記抗酸化物質のタンパク質をコードするmRNAの測定試薬は、例えば、逆転写酵素、dNTP、ポリメラーゼ、プライマー等があげられる。また、前記SODの活性の測定試薬に代えて、SODの測定試薬を含んでもよい。前記SODの測定試薬は、例えば、SODタンパク質の測定試薬でもよいし、SODタンパク質をコードするmRNAの測定試薬でもよい。前記SODタンパク質の測定試薬としては、例えば、SODに対する抗体等を使用できる。前記抗酸化物質が核酸の場合、前記SODタンパク質をコードするmRNAの測定試薬は、例えば、逆転写酵素、dNTP、ポリメラーゼ、プライマー等があげられる。
【0098】
<精神的フレイルの診断方法および診断試薬>
別の態様において、本明細書は、精神的フレイルの可能性を診断する方法および診断試薬を開示する。本開示の精神的フレイルの診断方法は、被検者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値、およびSODの活性を測定する工程を含むことを特徴とする。また、本開示の精神的フレイルの診断試薬は、ラジカルの消去能の測定試薬とスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の活性の測定試薬を含むことを特徴とする。なお、本開示は、前記本開示の第1の試験方法、第2の試験方法、試験試薬、および試験キットの説明を援用できる。
【0099】
<第2のスクリーニング方法>
別の態様において、本明細書は、精神的フレイルの治療薬候補物質をスクリーニングする方法を開示する。本開示の精神的フレイルの治療薬候補物質のスクリーニング方法は、前述のように、被検物質から、ラジカルの消去能を低下させ、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の活性を向上させる活性化物質を、精神的フレイルの治療薬候補物質として選択する選択工程を含む。本開示は、精神的フレイルの治療薬候補物質のターゲットが、ラジカルの消去能、およびSODの活性であることが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本開示の第2のスクリーニング方法は、前記本開示の精神的フレイルのマーカー、第2の試験方法、および試験キットの説明を援用できる。
【0100】
前記被検物質は、例えば、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、核酸等があげられる。前記低分子化合物は、例えば、公知の低分子化合物のライブラリ等があげられる。前記ペプチドは、例えば、直鎖、分枝、または環状のペプチドであり、ペプチドを構成する各アミノ酸は、天然アミノ酸、修飾アミノ酸、人工アミノ酸、またはこれらの組合せである。前記タンパク質は、天然のタンパク質または人工のタンパク質のいずれでもよい。前記タンパク質は、例えば、抗体、成長因子、増殖因子、またはこれらの改変体等があげられる。前記核酸は、例えば、SODの発現抑制物質があげられ、具体例として、SOD遺伝子からのmRNAの転写を抑制する物質、転写されたmRNAを切断する物質およびmRNAからのタンパク質の翻訳を抑制する物質等があげられる。前記核酸は、例えば、siRNA等のRNA干渉剤、アンチセンス、リボザイム等があげられる。
【0101】
前記第2の選択工程は、例えば、ラジカルの発生系に、前記被検物質を共存させて、ラジカルの消去能を測定する第1の測定工程と、スーパーオキシドおよびSODの共存系に、前記被検物質を共存させて、SODの活性を測定する第2の測定工程とを含む。前記第2の選択工程は、例えば、前記第1の測定工程で得られたラジカルの消去能が、前記被検物質を共存させていないコントロールの共存系より低く、かつ前記第2の測定工程で得られたSODの活性が、前記被検物質を共存させていないコントロールの共存系より高い場合、前記被検物質を、前記治療薬候補物質として選抜する選抜工程とを含む。前記第1の測定工程において、前記ラジカルの消去能の測定は、例えば、前述のラジカルの消去能の測定方法の説明を援用できる。前記第2の測定工程において、前記SODの活性の測定は、例えば、前述のSODの活性値の測定方法の説明を援用できる。前記ラジカルの発生系および前記スーパーオキシドおよびSODの共存系は、例えば、前記試験キットを用いて調製できる。前記ラジカルの発生系は、例えば、身体的フレイルの患者由来の細胞を含む。
【0102】
<検出方法>
別の態様において、本明細書は、精神的フレイルの疑いがある被検者における精神的フレイルの可能性を検出するために使用可能なラジカルの消去能およびSODの活性の検出方法を開示する。本開示の検出方法は、精神的フレイルの疑いがある被検者におけるラジカルの消去能およびスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の活性の検出方法であって、前記被検者の生体試料におけるラジカルの消去能を、ラジカルの消去能の測定試薬を用いて検出する第1の検出工程と、前記被検者の生体試料におけるSODの活性を、SODの活性の測定試薬を用いて検出する第2の検出工程とを含む。本開示の検出方法は、前記被検者の生体試料におけるラジカルの消去能およびSODの活性を検出することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本開示の第2の検出方法は、前記本開示の精神的フレイルのマーカー、第2の試験方法、試験試薬、および試験キットの説明を援用できる。
【0103】
前記精神的フレイルの疑いがある被検者は、例えば、被検者本人が主観的に疑いを抱く者であってもよいし、医師等の診察の結果、精神的フレイルの疑いがある、または精神的フレイルの罹患可能性があると判断したものでもよい。前記被検者本人が主観的に疑いを抱く者は、例えば、何らかの自覚症状がある者、予防検診の受診を希望する者等があげられる。
【実施例
【0104】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により制限されない。市販の試薬は、特に示さない限り、それらのプロトコールに基づいて使用した。
【0105】
[実施例1]
本発明を用いて、唾液のラジカルの消去能の解析を行った。
【0106】
(1)被検者
被検者は、3グループに分けた。具体的には、(1)50歳未満(n=18)、(2)50歳以上70歳未満(n=32)、(3)70歳以上(n=32)のグループに分けた。ラジカルの消去能と身体的フレイルとが相関するのかを検討した。
【0107】
(2)唾液の採取
唾液の採取は、市販の唾液採取用チューブ(サリキッズ(登録商標)、ザルスタット株式会社製)を用いて、以下のようにして行った。まず、各被検者に、サリキッズ(登録商標)に付属のコットンロールを5分間口腔内に含ませ、コットンロールに被検者の唾液を十分吸収させた。その後、唾液を含んだコットンロールをサリキッズ(登録商標)のサスペンドインサート内に挿入し、キャップをした後に、3000×g、3分間の条件で遠心分離した。分離後、チューブ内の上清画分を、各被検者の唾液サンプルとし、-40℃で保管した。なお、唾液の採取にあたり、各被検者に対し、採取1時間前から飲食、薬の経口服用、歯みがき、および専門的口腔清掃(Professional Mechanical Tooth Cleaning:PMTC)を禁止した。採取した唾液について、唾液量を測定した。この結果を図1および図2に示す。
【0108】
(3)唾液量
図1および図2に、各被検者の唾液量を示す。図1は、各被検者の唾液量の結果を示す。図1において、縦軸は、被検者の唾液量を示し、横軸は、被検者の年齢を示す。図2は、各年齢層における被検者の唾液量の平均値を示すグラフである。図2において、縦軸は、各年齢層の唾液量を示し、横軸は、被検者の年齢層を示す。図1に示すように、前記被検者の年齢と唾液量との相関係数は、-0.34288であり、前記唾液量と前記年齢との間には、負の相関があることがわかった。図2に示すように、唾液量の平均値は、50歳未満のグループに比べ、50歳以上70歳未満のグループでは減少した。また、唾液量の平均値は、50歳未満のグループと50歳以上70歳未満のグループと比べ、70歳以上のグループではさらに減少した。
【0109】
(4)握力
身体的フレイルには、身体能力の低下が見られる。ラジカルの消去能と身体的フレイルとが相関するのかを検討するために、前記被検者の身体能力を測定した。具体的には、前記被検者の握力の最大値を測定した。握力の測定には、握力計を使用し、立位の状態で左右の手について、それぞれ、2回測定(2回測定が困難な場合、1回)した。これらの結果を図3および図4に示す。
【0110】
図3および図4は、各被検者の握力を示すグラフである。図3において、(A)は、各被検者の握力最大値の結果を示し、(B)は、各被検者の握力最大値の平均の結果を示す。図3(A)および(B)において、縦軸は、各被検者の握力を示し、横軸は、各被検者の年齢を示す。図4は、各年齢層における被検者の握力最大値および各グループでの握力最大値の平均値を示すグラフである。図4において、縦軸は、各年齢層の握力を示し、横軸は、被検者の年齢層を示す。図3に示すように、相関係数は、握力の最大値が-0.47048であり、右手の最大値の平均が-0.47936であり、左手の最大値の平均が、-0.48541であり、両手の最大値の平均が-0.4885であった。これら結果から、前記被検者の握力と年齢との間には、負の相関があることがわかった。つぎに、図4に示すように、各グループでの握力最大値および握力最大値の平均値は、50歳未満のグループに比べ、50歳以上70歳未満のグループでは減少した。また、各グループでの握力最大値および握力最大値の平均値は、50歳未満のグループと50歳以上70歳未満のグループと比べ、70歳以上のグループではさらに減少した。サルコペニアに至る際には、まず、身体的機能の低下による身体的フレイルが生じる。前記身体的フレイルの状態で、さらに筋肉量の減少等をともなうとサルコペニアとなる。このため、今回の被検者群では、50歳以上70歳未満の集団が、身体的フレイルが生じている集団であり、70歳以上の集団が、筋肉量の減少によりサルコペニアが生じている集団であると推定された。
【0111】
(5)唾液のラジカルの消去能の測定
各唾液サンプルのラジカルの消去能は、2‐diphenylphosphinoyl‐2‐methyl‐3,4‐dihydro‐2H‐pyrrole N‐oxide(DPhPMPO)をスピントラップ剤として用いた電子スピン共鳴(Electron spin resonance; ESR)スピントラップ法であるi-STrap(株式会社同仁化学研究所)により測定した。前記i-Strapは、下記参考文献1に準じて実施した。具体的には、DPhPMPO溶液(最終濃度10mmol/l)、80μlの生理食塩水、および20μlのヘモグロビンを混合し、混合液を得た。実施例1(2)で採取した100μlの唾液を前記混合液に添加後、得られた反応液を、撹拌装置(VORTEX-GENIE2 Mixer、エムエス機器社製)を用いて混合した。前記混合後、20μlのtBuOOH(最終濃度10mmol/l)を添加し、フェントン反応により、膜脂質ラジカルtert-butyl、tert-butyloxyl、およびtert-butylperoxylラジカルを生成させ、室温(約25℃、以下、同様)で30分間インキュベートした。つぎに、体積比2:1で混合されたクロロホルム/メタノール溶液(和光純薬工業社)を1ml添加し、得られた混合液を前記攪拌装置を用いて、10分間室温で攪拌した。そして、前記撹拌後の混合液から、クロロホルム/メタノール有機溶媒を用いて、スピン付加体を抽出した。前記抽出で得られた試料(160μl)は、室温に戻し、石英フラットセル(Cat.No:RST-LC09F、フラッシュポイント社)に導入後、XバンドESR分光法を用いて、唾液サンプルのラジカルの消去能を測定した。ESRの測定条件は、後述する。
参考文献1: Sun, Lue, et al. "Dose-dependent decrease in anti-oxidant capacity of whole blood after irradiation: A novel potential marker for biodosimetry." Scientific reports 8.1 (2018): 1-8.
【0112】
唾液中のラジカルの消去能によって消去されなかった、脂質ラジカル(tert-butyl、tert-butyloxyl、およびtert-butylperoxylラジカル)は、反応系に添加したDPhPMPOと反応する。前記反応後、ESRで検出可能な安定ラジカルであるDPhPMPO-tert-butyl、DPhPMPO-tert-butyloxyl、およびDPhPMPO-tert-butylperoxylが生じる。
【0113】
ESRの測定は、電子スピン共鳴装置(Cat.No:JES-TE200、日本電子社製)を、WIN-RAD ESRデータアナライザ(Radical Research、東京、日本)に接続して実施した。ESRの測定条件は、下記のとおりとした。ハイパーファイン結合定数は、マイクロ波周波数カウンターで測定した共振周波数と、電界測定器ES-FC5(日本電子社製)で測定した共振電界とを用いて算出した。検出されたスピンアダクトは、酸化マンガン標準物質のESRスペクトルから定量した。実際に測定した信号強度は、酸化マンガン標準物質のESRスペクトルの信号強度に正規化した相対的な高さで表し、i-STrap値を得た。また、ラジカルの消去能は、唾液サンプルを添加していない反応系でのi-STrap値を1(基準値)とし、前記基準値から、唾液サンプルを添加した反応系でのi-STrap値(R)との差(1-R)として、算出した。また、ラジカルの消去能は、各グループごとに平均値を算出した。これらの結果を図5および図6に示す。
【0114】
(ESRの測定条件)
装置:
電子スピン共鳴装置(JES-TE200、Xバンド分光計、日本電子社製)
測定条件:
マイクロ波周波数9.422GHz
マイクロ波出力:2.00mW
掃引時間:4分
掃引幅:0.3mT
磁場中心:332.0mT
時定数:0.3秒
【0115】
図5および図6は、各唾液サンプルにおけるESRの結果を示すグラフである。図5は、各被検者のラジカルの消去能の結果を示す。図5において、縦軸は、被検者のラジカルの消去能を示し、横軸は、被検者の年齢を示す。図6は、各年齢層における被検者のラジカルの消去能の平均値の結果である。図6において、縦軸は、各年齢層のラジカルの消去能を示し、横軸は、被検者の年齢層を示す。図5に示すように、被検者の年齢およびラジカルの消去能との相関係数は、-0.35168であり、ラジカルの消去能と年齢に負の相関があることがわかった。また、図6に示すように、ラジカルの消去能の平均値は、50歳未満のグループに比べ、50歳以上70歳未満のグループでは上昇した。また、ラジカルの消去能の平均値は、50歳以上70歳未満のグループと比べ、70歳以上のグループでは減少した。このため、身体的フレイルが生じている集団では、唾液中のラジカル消去能が増加していることがわかった。
【0116】
(6)握力と抗酸化能
身体的フレイルが生じている集団において、握力と、ラジカルの消去能とが相関するのかを検討するために、前記被検者の身体能力の結果と前記唾液のラジカルの消去能の結果とから、握力とラジカルの消去能の相関性を検討した。具体的には、前記実施例1(4)における握力の値および前記実施例1(5)における唾液のラジカルの消去能の値を用いて、握力とラジカルの消去能の相関性を検討した。これらの結果を図7に示す。
【0117】
図7は、各被検者の握力とラジカルの消去能の相関を示すグラフである。図7において、(A)は、握力最大値を用いた結果を示し、(B)は、握力最大値の平均値を用いた結果を示す。図7(A)において、縦軸は、被検者のラジカルの消去能を示し、横軸は、被検者の握力最大値を示す。図7(B)において、縦軸は、被検者のラジカルの消去能を示し、横軸は、被検者の握力最大値の平均値を示す。図7(A)に示すように、被検者のラジカルの消去能および握力最大値との相関係数は、0.002802であり、年齢を考慮しない場合、ラジカルの消去能と握力最大値に相関がないことがわかった。図7(B)に示すように、被検者のラジカルの消去能および握力最大値の平均値との相関係数は、-0.005699668であり、年齢を考慮しない場合、ラジカルの消去能と握力最大値の平均値に相関がないことがわかった。
【0118】
つぎに、握力と、ラジカルの消去能との相関が、年齢に依存するのかを検討するために、前記被検者の身体能力の結果と、前記唾液のラジカルの消去能の結果とから、握力とラジカルの消去能の相関を検討した。具体的には、前記実施例1(4)における50歳以下の被検者の握力の値、および前記実施例1(5)における50歳以下の被検者の唾液のラジカルの消去能の値を用いて、握力とラジカルの消去能の相関性を検討した。これらの結果を図8に示す。
【0119】
図8は、50歳以下の各被検者の握力とラジカルの消去能の相関を示すグラフである。図8において、(A)は、握力最大値を用いた結果を示し、(B)は、握力最大値の平均値を用いた結果を示す。図8(A)において、縦軸は、被検者のラジカルの消去能を示し、横軸は、被検者の握力最大値を示す。図8(B)において、縦軸は、被検者のラジカルの消去能を示し、横軸は、被検者の握力最大値の平均値を示す。図8(A)に示すように、被検者のラジカルの消去能および握力最大値との相関係数は、0.093193349であり、50歳以下の被検者において、ラジカルの消去能と握力最大値に相関がないことがわかった。図8(B)に示すように、被検者のラジカルの消去能および握力最大値の平均値との相関係数は、0.103521583であり、50歳以下の被検者において、ラジカルの消去能と握力最大値の平均値に相関がないことがわかった。
【0120】
次に、握力と、ラジカルの消去能との相関が、年齢に依存するのかを検討するために、前記被検者の身体能力の結果と、前記唾液のラジカルの消去能の結果とから、握力とラジカルの消去能の相関を検討した。具体的には、前記実施例1(4)における50歳以上70歳以下の被検者の握力の値、および前記実施例1(5)における50歳以上70歳以下の被検者の唾液のラジカルの消去能の値を用いて、握力とラジカルの消去能の相関性を検討した。これらの結果を図9に示す。
【0121】
図9は、50歳以上70歳以下の各被検者の握力とラジカルの消去能の相関を示すグラフである。図9において、(A)は、握力最大値を用いた結果を示し、(B)は、握力最大値の平均値を用いた結果を示す。図9(A)において、縦軸は、被検者のラジカルの消去能を示し、横軸は、被検者の握力最大値を示す。図9(B)において、縦軸は、被検者のラジカルの消去能を示し、横軸は、被検者の握力最大値の平均値を示す。図9(A)に示すように、被検者のラジカルの消去能および握力最大値との相関係数は、-0.230907942であり、50歳以上70歳以下の被検者において、ラジカルの消去能と握力最大値に負の相関があることがわかった。図9(B)に示すように、被検者のラジカルの消去能および握力最大値の平均値との相関係数は、-0.316011381であり、50歳以上70歳以下の被検者において、ラジカルの消去能と握力最大値の平均値に負の相関があることがわかった。
【0122】
次に、握力と、ラジカルの消去能との相関が、年齢に依存するのかを検討するために、前記被検者の身体能力の結果と、前記唾液のラジカルの消去能の結果とから、握力とラジカルの消去能の相関を検討した。具体的には、実施例1(4)における70歳以上の被検者の握力の値、および実施例1(5)における70歳以上の被検者の唾液のラジカルの消去能の値を用いて、握力とラジカルの消去能の相関性を検討した。これらの結果を図10に示す。
【0123】
図10は、70歳以上の各被検者の握力とラジカルの消去能の相関を示すグラフである。図10において、(A)は、握力最大値を用いた結果を示し、(B)は、握力最大値の平均値を用いた結果を示す。図10(A)において、縦軸は、被検者のラジカルの消去能を示し、横軸は、被検者の握力最大値を示す。図10(B)において、縦軸は、被検者のラジカルの消去能を示し、横軸は、被検者の握力最大値の平均値を示す。図10(A)に示すように、被検者のラジカルの消去能および握力最大値との相関係数は、0.226630158であり、70歳以上の被検者において、ラジカルの消去能と握力最大値に相関があることがわかった。図10(B)に示すように、被検者のラジカルの消去能および握力最大値の平均値との相関係数は、0.241535217であり、70歳以上の被検者において、ラジカルの消去能と握力最大値の平均値に相関があることがわかった。
【0124】
前述のように、50歳以上70歳未満のグループでは、身体的フレイルが生じていると推定される。また、50歳以上70歳未満のグループでは、握力とラジカルの消去能とが相関している。このため、ラジカルの消去能を測定することにより、身体的フレイルの程度を推定することが可能であることがわかった。
【0125】
[実施例2]
MCIモデルとして、ダウン症患者を用い、ダウン症患者由来の唾液において、SOD活性が低下していることを確認した。
【0126】
(1)被検者
ダウン症患者は、早期にMCIを示すといわれている。そこで、ダウン症患者をMCIモデルとして、SOD活性とMCIとが相関するかを検討した。
【0127】
ダウン症患者群(DA、実施例2、n=31、男性22名、女性9名、平均年齢48.9±6.5歳)、および健常者群(NA、コントロール2、n=24、男性7名、女性14名、平均年齢47.1±4.9歳)を被験者とした。各被検者は、文書により同意が得られた者とした。また、被検者の選定にあたり、長期にわたり副腎皮質ホルモン剤または免疫抑制剤を服用している者、過去3カ月以内に抗生物質の服用歴のある者、過去6週間以内に抗真菌薬による治療を受けた者は、除外した。
【0128】
(2)唾液の採取
唾液の採取は、実施例1(2)と同様の方法により採取した。採取した唾液について、唾液量を測定した。この結果を図11に示す。
【0129】
(3)唾液量
図11に、各被検者の唾液量を示す。図11は、各群における被検者の唾液量の平均値を示すグラフであり、縦軸は、各群の唾液量の平均値を示し、横軸は、被検者群を示す。図11に示すように、ダウン症患者群(実施例2)は、健常者群(コントロール2)と比較して、唾液量が有意に減少していた。なお、図中におけるアスタリスクは、p値を示し、**は、p<0.01を意味する。また、統計的解析は、Student-Newman-Keuls法により実施した(以下、同様)。
【0130】
(4)唾液のスーパーオキシド(O ・-)消去能の測定
各唾液サンプルのスーパーオキシド(O ・-)消去能は、5,5-dimethyl-1-pyrroline-N-oxide(DMPO)をスピントラップ剤とした電子スピン共鳴(Electron spin resonance; ESR)スピントラップ法により確認した。O ・-産生系は、キサンチン(Xanthine)/キサンチンオキシダーゼ(Xanthine oxidase:XO)産生系とした。具体的には、440mmol/lのDMPO 20μlと、362μmol/lのキサンチン 20μlとを含む、0.1mol/lのリン酸緩衝生理食塩水(pH7.2)180μl中に、0.1U/mlのキサンチンオキシダーゼ 20μlを添加し、O ・-を生成した。そして、混合物(200μl)をフラットセルに移し、DMPO-OHスピンアダクトを、XバンドESRスピントラップ法を用いて測定し、O ・-の生成を確認した。ESRの測定条件は、後述する。
【0131】
生じたO ・-は、下記式(A)に示すように、反応系に添加したDMPOと反応し、ESRで検出可能な安定ラジカルであるニトロキシド(DMPO-OOH)を生じる。このラジカルは、図12に示すように、ESRスペクトルに14Nおよびβ、γ位のHの内部磁場に由来する12本の吸収線(ピーク)を示す。
【化A】
【0132】
前記反応系に、唾液サンプルを添加した場合、ESRで得られる信号強度が変化する。唾液サンプルのO ・-の消去能の測定は、以下のようにして行った。まず、440mmol/lのDMPO 20μlと、362μmol/lのキサンチン 20μlと、唾液サンプル 20μlとを含む、0.1mol/lのリン酸緩衝生理食塩水(pH7.2)180μlに、0.1U/mlのキサンチンオキシダーゼ 20μlを添加し、O ・-を生成した。そして、得られた混合物(200μl)をフラットセルに移し、DMPO-OHスピンアダクトをXバンドESRスピントラップ法を用いて測定し、唾液サンプルのO ・-の消去能を測定した。
【0133】
ESRの測定は、電子スピン共鳴装置(JES-RE 3X、Xバンド分光計、日本電子社製)を、WIN-RAD ESRデータアナライザ(Radical Research、東京、日本)に接続し、測定条件は、下記のとおりとした。ハイパーファイン結合定数は、マイクロ波周波数カウンターで測定した共振周波数と、電界測定器ES-FC5(日本電子社製)で測定した共振電界を用いて算出した。検出されたスピンアダクトは、酸化マンガン標準物質のESRスペクトルから定量した。実際に測定した信号強度は、酸化マンガン標準物質のESRスペクトルの信号強度に正規化した相対的な高さで表した。また、O ・-の消去能は、各群(実施例2およびコントロール2)ごとの平均値を算出し、唾液サンプルを添加していない反応系を基準(100%)とした相対値として算出した。これらの結果を図13に示す。
【0134】
(ESRの測定条件)
装置:
電子スピン共鳴装置(JES-RE 3X、Xバンド分光計、日本電子社製)
測定条件:
マイクロ波出力:8.00mW
掃引時間:1分
掃引幅:334.8±5mT
磁場変調:100kHz 0.079mT
ゲイン:×400
スイープ時間:1分
時定数:0.03秒
【0135】
図13は、各唾液サンプルにおけるESRの結果を示すグラフである。図13において縦軸は、O ・-消去率の相対値を示し、横軸は、唾液サンプルの種類を示す。図13に示すように、ダウン症患者群(実施例2)は、健常者群(コントロール2)と比較して、有意にO ・-の消去能(SOD活性)が低下していた。
【0136】
以上のことから、ダウン症患者の唾液において、SOD活性が低下していることが分かった。
【0137】
ダウン症は、21番染色体がトリソミーであることから、SODの活性値が上昇するといわれていた。しかしながら、実施例2に示すように、健常者と比較すると、SOD活性が低下していることがわかった。このため、ダウン症患者においては、21番染色体のトリソミーにより、SODの発現量が上昇し、見かけ上のSODの活性値は上昇するものの、実際には、ダウン症患者のSODは、スーパーオキシド(O ・-)消去能が減弱したSODに変性していると推定される。なお、本発明は前記推定に何ら制限されない。
【0138】
また、ダウン症患者は、早期加齢がみられることから、認知症を起こしやすく、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)の症状を呈することが知られている。このため、SOD活性を測定することで、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)の診断にも有用であると考えられる。
【0139】
[実施例3]
MCI患者由来の唾液において、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性が低下していることを確認した。
【0140】
文書により同意が得られた健康な被検者22名(21歳~68歳)を対象に、認知機能試験(Japanease version of MoCA:MoCA-J)を行い、認知機能(視空間、遂行機能、命名、記憶、注意、復唱、語想起、抽象概念、遅延再生、および見当識)を測定した。MoCA-Jの結果が25点以下の被検者をMCI患者(実施例3、n=8、平均認知機能22.5)とし、26点以上の被検者を健常者(コントロール3、n=14、平均認知機能27.9)とした。被検者の選定にあたり、長期にわたり副腎皮質ホルモン剤または免疫抑制剤を服用している者、過去3カ月以内に抗生物質の服用歴のある者、過去6週間以内に抗真菌薬による治療を受けた者は、除外した。
【0141】
そして、実施例2の被検者(実施例2およびコントロール3)に代えて、実施例3の被検者(実施例3およびコントロール3)とした以外は実施例1(2)および実施例2と同様にして、唾液の採取およびスーパーオキシド(O ・-)消去能(SOD活性)の測定を行った。前記唾液サンプルは、各被験者からそれぞれ4~6サンプル採取し、複数のサンプルのO ・-消去能を測定、平均値を算出し、前記平均値を各被験者のO ・-消去能とした。
【0142】
これらの結果を下記表2に示す。下記表2に示すように、実施例3の唾液は、コントロール3の唾液と比較して、SOD活性が1/2以下であった。
【0143】
【表2】
【0144】
以上のことから、MCI患者の唾液において、SOD活性が低下していることから、SOD活性が、MCIに対するマーカとして機能することがわかった。
【0145】
以上の結果から、実施例1において、ラジカルの消去能が、身体的フレイルに対するマーカーとして機能することがわかった。実施例2および実施例3において、SOD活性が、MCIに対するマーカとして機能することがわかった。以上のことから、ラジカルの消去能とSOD活性を併用して測定することで、精神的フレイルを評価できることがわかった。
【0146】
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0147】
この出願は、2021年8月18日に出願された日本出願特願2021-133689を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【0148】
<付記>
上記の実施形態および実施例の一部または全部は、以下の付記のように記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
ラジカルである、身体的フレイル検出用マーカー。
(付記2)
ラジカルの消去能である、付記1に記載のマーカー。
(付記3)
唾液中のラジカルである、付記1または2に記載のマーカー。
(付記4)
被検者の生体試料におけるラジカルの消去能を測定する測定工程を含む、身体的フレイルの試験方法。
(付記5)
前記測定工程において、ラジカルの消去能の測定値を測定する、付記4に記載の試験方法。
(付記6)
前記被検者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値を、閾値と比較することにより、前記被検者の身体的フレイルの可能性を試験する試験工程を含み、
前記閾値は、健常者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値、身体的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値、または前記健常者および前記身体的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値から算出された閾値である、付記5に記載の試験方法。
(付記7)
前記試験工程において、前記被検者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値が、前記健常者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値よりも高い場合、前記身体的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値と同じ場合、前記身体的フレイル患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値よりも高い場合、および/または、前記健常者および前記身体的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値から算出された閾値より高い場合に、前記被検者は、身体的フレイルであるとする、付記6に記載の試験方法。
(付記8)
前記ラジカルの消去能は、脂質ラジカルの消去能である、付記4から7のいずれかに記載の試験方法。
(付記9)
前記生体試料は、唾液である、付記4から8のいずれかに記載の試験方法。
(付記10)
前記身体的フレイルの試験は、身体的フレイルの検出、身体的フレイルの判定、身体的フレイルのスクリーニング、身体的フレイルの予防効果の判定、身体的フレイルの治療効果の判定、治療薬が奏効する身体的フレイルの患者の判定、個々の身体的フレイルの患者に奏効する治療薬の判定、身体的フレイルの診断のための検査方法、または身体的フレイルの治療のための検査である、付記4から9のいずれかに記載の試験方法。
(付記11)
前記被検者は、軽度認知障害の患者であり、
前記身体的フレイルは、精神的フレイルである、付記4から10のいずれかに記載の試験方法。
(付記12)
身体的フレイルであるとの試験結果が得られた被検者に、身体的フレイルの治療薬を投与する投与工程を含む、付記4から11のいずれかに記載の試験方法。
(付記13)
ラジカルの消去能の測定試薬を含む、身体的フレイルの試験試薬。
(付記14)
前記測定試薬は、ラジカルの発生剤およびラジカルの検出剤を含む、付記13に記載の試験試薬。
(付記15)
前記ラジカルの発生剤は、脂質ラジカルの発生剤を含み、
前記ラジカルの検出剤は、脂質ラジカルの検出剤を含む、付記14に記載の試験試薬。
(付記16)
付記4から12のいずれかに記載の試験方法に使用する、付記13から15のいずれかに記載の試験試薬。
(付記17)
被検物質から、ラジカルの消去能を低下させる活性化物質を、身体的フレイルの治療薬候補物質として選択する選択工程を含む、身体的フレイルの治療薬候補物質のスクリーニング方法。
(付記18)
ラジカルの発生系に、前記被検物質を共存させて、ラジカルの消去能を測定する測定工程と、
前記測定工程で得られたラジカルの消去能が、前記被検物質を共存させていないコントロールの共存系より低い場合、前記被検物質を、前記治療薬候補物質として選抜する選抜工程とを含む、付記17に記載のスクリーニング方法。
(付記19)
前記被検物質が、低分子化合物、ペプチド、タンパク質および核酸からなる群から選択された少なくとも一つである、付記17または18に記載のスクリーニング方法。
(付記20)
身体的フレイルの疑いがある被検者におけるラジカルの消去能の検出方法であって、
前記被検者の生体試料におけるラジカルの消去能を、ラジカルの消去能の測定試薬を用いて検出する検出工程を含む、検出方法。
(付記21)
前記生体試料は、唾液である、付記20に記載の検出方法。
(付記22)
身体的フレイルの可能性を試験するための、ラジカルの消去能の測定試薬の使用。
(付記23)
被検者の生体試料におけるラジカルの消去能を測定する第1の測定工程と、
前記被検者の生体試料におけるSOD活性を測定する第2の測定工程とを含む、精神的フレイルの試験方法。
(付記24)
前記第1の測定工程において、ラジカルの消去能の測定値を測定し、
前記第2の測定工程において、SODの活性値を測定する、付記23に記載の試験方法。
(付記25)
前記被検者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値を、第1の閾値と比較し、前記被検者の生体試料におけるSODの活性値を、第2の閾値と比較することにより、
前記被検者の精神的フレイルの可能性を試験する試験工程を含み、
前記第1の閾値は、健常者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値、身体的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値、精神的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値、または前記健常者および前記身体的フレイルの患者もしくは前記精神的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値から算出された閾値であり、
前記第2の閾値は、健常者の生体試料におけるSODの活性値、軽度認知障害(MCI)の患者の生体試料におけるSODの活性値、精神的フレイルの患者の生体試料におけるSODの活性値、または前記健常者および前記MCIの患者もしくは前記精神的フレイルの患者の生体試料におけるSODの活性値から算出された閾値である、付記24に記載の試験方法。
(付記26)
前記試験工程において、前記被検者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値が、前記健常者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値よりも高い場合、前記身体的フレイルの患者もしくは前記精神的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値と同じ場合、前記身体的フレイル患者もしくは前記精神的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値よりも高い場合、および/または、前記身体的フレイルの患者もしくは前記精神的フレイルの患者の生体試料におけるラジカルの消去能の測定値から算出された閾値よりも高い場合であり、かつ、
前記被検者の生体試料におけるSODの活性値が、前記健常者の生体試料におけるSODの活性値よりも低い場合、前記MCIの患者もしくは精神的フレイルの患者の生体試料におけるSODの活性値と同じ場合および/または、前記MCIの患者もしくは前記精神的フレイルの患者の生体試料におけるSODの活性値よりも低い場合に、前記被検者は、精神的フレイルであるとする、付記25に記載の試験方法。
(付記27)
前記ラジカルの消去能は、脂質ラジカルの消去能である、および/または前記SODの活性は、スーパーオキシドの消去活性である、付記23から26のいずれかに記載の試験方法。
(付記28)
前記生体試料は、唾液である、付記23から27のいずれかに記載の試験方法。
(付記29)
前記精神的フレイルの試験は、精神的フレイルの検出、精神的フレイルの判定、精神的フレイルのスクリーニング、精神的フレイルの予防効果の判定、精神的フレイルの治療効果の判定、治療薬が奏効する精神的フレイルの患者の判定、個々の精神的フレイルの患者に奏効する治療薬の判定、精神的フレイルの診断のための検査方法、または精神的フレイルの治療のための検査である、付記23から28のいずれかに記載の試験方法。
(付記30)
ラジカルの消去能の測定試薬と
スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性の測定試薬とを含む、
精神的フレイルの試験キット。
(付記31)
前記ラジカルの消去能の測定試薬は、ラジカルの発生剤およびラジカルの検出剤を含み、および/または
前記スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性の測定試薬は、キサンチン、キサンチンオキシダーゼ、およびスーパーオキシドの検出プローブを含む、付記30に記載の試験キット。
(付記32)
前記ラジカルは、脂質ラジカルである、付記30または31に記載の試験キット。
(付記33)
付記23から29のいずれかに記載の試験方法に使用する、付記30から32のいずれかに記載の試験キット。
(付記34)
被検物質から、ラジカルの消去能を低下させ、かつSOD活性を向上させる活性化物質を、精神的フレイルの治療薬候補物質として選択する選択工程を含む、精神的フレイルの治療薬候補物質のスクリーニング方法。
(付記35)
ラジカルの発生系に、前記被検物質を共存させて、ラジカルの消去能を測定する第1の測定工程と、
スーパーオキシドおよびSODの共存系に、前記被検物質を共存させて、SODの活性を測定する第2の測定工程と、
前記第1の測定工程で得られたラジカルの消去能が、前記被検物質を共存させていないコントロールより低く、かつ前記第2の測定工程で得られたSODの活性が、前記被検物質を共存させていないコントロールの共存系より高い場合、前記被検物質を、前記治療薬候補物質として選抜する選抜工程とを含む、付記34に記載のスクリーニング方法。
(付記36)
前記被検物質が、低分子化合物、ペプチド、タンパク質および核酸からなる群から選択された少なくとも一つである、付記34または35に記載のスクリーニング方法。
(付記37)
精神的フレイルの疑いがある被検者におけるラジカルの消去能およびスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性の検出方法であって、
前記被検者の生体試料におけるラジカルの消去能を、ラジカルの消去能の測定試薬を用いて検出する第1の検出工程と、
前記被検者の生体試料におけるSOD活性を、SOD活性の測定試薬を用いて検出する第2の検出工程とを含む、検出方法。
(付記38)
前記生体試料は、唾液である、付記37に記載の検出方法。
(付記39)
精神的フレイルの可能性を試験するための、ラジカルの消去能の測定試薬とSOD活性の測定試薬の使用。
【産業上の利用可能性】
【0149】
以上のように、本発明によれば、ラジカルの消去能を測定することによって、被検者の身体的フレイルの罹患可能性(罹患危険度)等を試験できる。また、本発明において、ラジカルの消去能は、身体的フレイルのターゲットとなることから、前記ターゲットを用いたスクリーニングにより、身体的フレイルの治療薬候補物質を得ることもできる。このため、本発明は、臨床分野および生化学分野において極めて有用である。

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【配列表】
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