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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】実験動物飼育用ケージ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 1/03 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
A01K1/03 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023574164
(86)(22)【出願日】2023-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2023030726
【審査請求日】2023-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2022136244
(32)【優先日】2022-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】396019974
【氏名又は名称】冨士ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 竜次
(72)【発明者】
【氏名】西山 絵理
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康行
(72)【発明者】
【氏名】坂本 貴樹
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-9126(JP,A)
【文献】特開平10-215720(JP,A)
【文献】特開2009-95261(JP,A)
【文献】特開平7-203797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 1/00 - 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部と側壁部を有し、平面視長方形で上方に開口した実験動物飼育用ケージであって、
前記ケージが、透明な熱可塑性樹脂からなる透明部と、熱可塑性樹脂と充填材を含有し不透明な樹脂組成物からなる不透明部から構成され、
前記底部の上面の少なくともコーナー部が前記不透明部からなるとともに、前記側壁部の少なくとも上半分が前記透明部からなり、
前記透明部と前記不透明部とが接着されてなる、実験動物飼育用ケージ。
【請求項2】
前記底部の上面の全てが前記不透明部からなる請求項1に記載の実験動物飼育用ケージ。
【請求項3】
前記底部の下面の全てが前記透明部からなる請求項1又は2に記載の実験動物飼育用ケージ。
【請求項4】
前記底部の全てが前記不透明部からなる請求項1又は2に記載の実験動物飼育用ケージ。
【請求項5】
前記側壁部が、前記底部のコーナー部から上方に開口端まで延設された不透明部と、4枚の透明部とから構成される請求項4に記載の実験動物飼育用ケージ。
【請求項6】
前記透明な熱可塑性樹脂の3mm厚成形品のヘーズ値が40%以下であり、前記不透明な樹脂組成物の3mm厚成形品のヘーズ値が80%以上である請求項1又は2に記載の実験動物飼育用ケージ。
【請求項7】
前記透明部と前記不透明部の境界が、ケージの底部の上面から5mm以上上の位置かつ該上面と開口端との中間点よりも下の位置にある請求項1又は2に記載の実験動物飼育用ケージ。
【請求項8】
前記透明部及び前記不透明部に含まれる熱可塑性樹脂が、ガラス転移温度が120~230℃の非晶性樹脂である請求項1又は2に記載の実験動物飼育用ケージ。
【請求項9】
前記透明部及び前記不透明部に含まれる熱可塑性樹脂が環状オレフィン重合体である、請求項8に記載の実験動物飼育用ケージ。
【請求項10】
前記不透明部の樹脂組成物が、環状オレフィン重合体及び充填材に加えてさらに熱可塑性軟質共重合体を含む、請求項9に記載の実験動物飼育用ケージ。
【請求項11】
前記不透明部の樹脂組成物に含まれる充填材が、シリコーン樹脂粒子、フッ素樹脂粒子又は劈開性無機粒子である、請求項1又は2に記載の実験動物飼育用ケージ。
【請求項12】
前記不透明部の樹脂組成物が、50~99.9質量%の熱可塑性樹脂と、0.1~50質量%の充填剤を含有する、請求項1又は2に記載の実験動物飼育用ケージ。
【請求項13】
前記透明部と前記不透明部とを、二色成形、インサート成形又は超音波融着によって接着する請求項1又は2に記載の実験動物飼育用ケージの製造方法。
【請求項14】
前記不透明な樹脂組成物からなるシートを熱成形して不透明部を成形してから金型に導入し、引き続き前記透明な熱可塑性樹脂を射出成形して、前記透明部と前記不透明部とをインサート成形によって接着する、請求項13の実験動物飼育用ケージの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケージ表面に付着した糞尿の除去が容易な実験動物飼育用ケージ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マウス、ラット、モルモットなどの実験動物を飼育するためのケージは、通常プラスチックの一体成形品であり、その上部の開口を蓋で覆って使用される。このとき、実験動物の様子をケージの外部から視認できることが重要であることから、ケージの素材は、通常透明熱可塑性樹脂である(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
実験動物を所定期間飼育した後、ケージは洗浄され、必要に応じてオートクレーブなどで滅菌されてから再使用される。透明性と耐熱性が要求されるので、ケージの素材には、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリスルホンなどの耐熱性透明熱可塑性樹脂が用いられる。飼育後のケージの底部には、実験動物の糞尿が付着しているので、これを除去しなければならないが、長期間の飼育中に堆積して乾燥した糞尿を除去するのは容易ではない。
【0004】
特許文献2には、ノルボルネン系単量体の開環重合体またはその水素添加物からなる成形材料を成形してなる動物容器が記載されている。このような環状オレフィン重合体を用いることによって、透明で、耐薬品性、耐衝撃性に優れ、しかも動物の排泄物の易洗浄性に優れた動物容器を提供することができるとされている。しかしながら、環状オレフィン重合体を用いても、なお容器表面に付着した糞尿の除去は容易ではなかった。
【0005】
また、ケージの形状に沿うように、使い捨ての薄い透明プラスチック製カバーをケージ内部に設けて実験動物を飼育し、飼育の都度当該カバーを廃棄する方法も提案されている。しかしながら、プラスチック廃棄物が増加してしまうし、内部の視認性が低下することが避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-29619号公報
【文献】特開平11-9126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、視認性に優れ、なおかつケージ表面に付着した糞尿の除去が容易な実験動物飼育用ケージを提供することを目的とする。また、そのような実験動物飼育用ケージの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、底部と側壁部を有し、平面視長方形で上方に開口した実験動物飼育用ケージであって、
前記ケージが、透明な熱可塑性樹脂からなる透明部と、熱可塑性樹脂と充填材を含有し不透明な樹脂組成物からなる不透明部から構成され、
前記底部の上面の少なくともコーナー部が前記不透明部からなるとともに、前記側壁部の少なくとも上半分が前記透明部からなり、
前記透明部と前記不透明部とが接着されてなる、実験動物飼育用ケージを提供することによって解決される。
【0009】
このとき、前記底部の上面の全てが前記不透明部からなることが好ましい。前記底部の下面の全てが前記透明部からなっていてもよい。前記底部の全てが前記不透明部からなっていてもよい。また、前記側壁部が、前記底部のコーナー部から上方に開口端まで延設された不透明部と、4枚の透明部とから構成されていてもよい。
【0010】
またこのとき、前記透明な熱可塑性樹脂の3mm厚成形品のヘーズ値が40%以下であり、前記不透明な樹脂組成物の3mm厚成形品のヘーズ値が80%以上であることが好ましい。前記透明部と前記不透明部の境界が、ケージの底部の上面から5mm以上上の位置かつ該上面と開口端との中間点よりも下の位置にあることも好ましい。
【0011】
またこのとき、前記透明部及び前記不透明部に含まれる熱可塑性樹脂が、ガラス転移温度が120~200℃の非晶性樹脂であることが好ましい。そして、前記透明部及び前記不透明部に含まれる熱可塑性樹脂が環状オレフィン重合体であることがより好ましい。前記不透明部の樹脂組成物が、環状オレフィン重合体及び充填材に加えてさらに熱可塑性軟質共重合体を含むことがさらに好ましい。
【0012】
またこのとき、前記不透明部の樹脂組成物に含まれる充填材が、シリコーン樹脂粒子、フッ素樹脂粒子又は劈開性無機粒子であることが好ましい。また、前記不透明部の樹脂組成物が、50~99.9質量%の熱可塑性樹脂と、0.1~50質量%の充填剤を含有することも好ましい。
【0013】
また上記課題は、前記透明部と前記不透明部とを、二色成形、インサート成形又は超音波融着によって接着する、前記実験動物飼育用ケージの製造方法を提供することによっても解決される。このとき、前記不透明な樹脂組成物からなるシートを熱成形して不透明部を成形してから金型に導入し、引き続き前記透明な熱可塑性樹脂を射出成形して、前記透明部と前記不透明部とをインサート成形によって接着することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実験動物飼育用ケージは、視認性に優れ、なおかつケージ表面に付着した糞尿の除去が容易である。また、本発明の製造方法によれば、そのような実験動物飼育用ケージを簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施態様1の実験動物飼育用ケージの斜視図及び平面図である。
図2図1の平面図中のA-A断面図とその一部拡大図である。
図3】実施態様1における不透明部の斜視図である。
図4】実施態様1において、超音波融着するための不透明部を表側から見た斜視図と、裏側から見た斜視図と、その一部の拡大図である。
図5】実施態様2の実験動物飼育用ケージの斜視図及び平面図である。
図6図5の平面図中のA-A断面図とその一部拡大図である。
図7】実施態様3の実験動物飼育用ケージの斜視図及び平面図である。
図8図7の平面図中のA-A断面図とその一部拡大図である。
図9】実施態様3における不透明部の斜視図である。
図10】実施態様4の実験動物飼育用ケージの斜視図及び平面図である。
図11図10の平面図中のA-A断面図とその一部拡大図である。
図12】実施態様4における不透明部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、底部と側壁部を有し、平面視長方形で上方に開口した実験動物飼育用ケージであって、
前記ケージが、透明な熱可塑性樹脂からなる透明部と、熱可塑性樹脂と充填材を含有し不透明な樹脂組成物からなる不透明部から構成され、
前記底部の上面の少なくともコーナー部が前記不透明部からなるとともに、前記側壁部の少なくとも上半分が前記透明部からなり、
前記透明部と前記不透明部とが接着されてなる、実験動物飼育用ケージである。
【0017】
本発明の実験動物飼育用ケージは、透明部と不透明部とから構成されることが最大の特徴である。透明部を有することによって外部からの視認性に優れているとともに、不透明部を有することによって糞尿の除去が容易となる。これらを適切に組み合わせることによって、視認性に優れ、なおかつ付着した糞尿の除去が容易となる。以下、まずは透明部と不透明部の材料について説明する。
【0018】
透明部は、透明な熱可塑性樹脂からなる。本発明の実験動物飼育用ケージの側壁部の少なくとも上半分が当該透明部からなることによって、ケージ内部の実験動物の様子を外部から容易に視認することができる。良好な視認性を得るという観点からは、透明部に用いられる透明な熱可塑性樹脂の3mm厚成形品のヘーズ値が40%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。
【0019】
優れた透明性と寸法精度を得るためには、当該熱可塑性樹脂が非晶性樹脂であることが好ましい。そして、当該非晶性樹脂のガラス転移温度(Tg)が120~230℃であることが好ましい。ガラス転移温度が120℃以上であることによって、オートクレーブなどでの滅菌操作に耐えることができる。ガラス転移温度は、より好適には130℃以上であり、さらに好適には135℃以上である。一方、ガラス転移温度が230℃以下であることによって、成形時の流動性が良好になり、容易に溶融成形することができる。ガラス転移温度は、より好適には200℃以下であり、さらに好適には180℃以下である。ガラス転移温度は、DSC法(昇温速度10℃/分)によって測定される。具体的な非晶性熱可塑性樹脂としては、環状オレフィン重合体、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリアリレートなどが例示される。
【0020】
これらの非晶性熱可塑性樹脂のなかでも、環状オレフィン重合体が好ましい。環状オレフィン重合体は、脂肪族環状骨格を有するオレフィン単量体のみを重合してなるものであっても構わないし、脂肪族環状骨格を有するオレフィン単量体と他の共重合可能な単量体との共重合体であってもよい。他の単量体の共重合量は、通常、50質量%未満であり、好適には40質量%未満であり、より好適には30質量%未満である。環状オレフィン重合体は、重合体の主鎖又は側鎖に飽和炭化水素環構造を有する重合体であり、透明な非晶性の重合体である。ポリオレフィンであることから吸水性が低く、オートクレーブ処理などによって高温の水または水蒸気に接触しても変形したり劣化したりしにくく透明性や強度が維持される。しかも、揮発性の有機化合物を発生しにくく、動物愛護の観点からも好ましい。
【0021】
環状オレフィン重合体として具体的には、ノルボルネン環を有するモノマーとα-オレフィンとの付加重合体が挙げられ、三井化学株式会社から商標名「アペル」の名称で、ポリプラスチックス株式会社から商標名「トパス」の名称で、それぞれ販売されている。また、ノルボルネン環を有するモノマーの開環重合体及びその水素添加物も挙げられ、日本ゼオン株式会社から商標名「ゼオネックス」及び「ゼオノア」の名称で販売されている。前記いずれの環状オレフィン重合体も、市販品を容易に入手することが可能である。ここで用いられるノルボルネン環を有する環状オレフィンモノマーの化学構造は、下記式[I]で示されるとおりである。
【0022】
【化1】
【0023】
(上記式[I]中、nは0又は1であり、mは0又は正の整数であり、qは0又は1であり、R1~R18並びにRa及びRbは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭化水素基であり、R15~R18は互いに結合して単環又は多環を形成していてもよく、かつ該単環又は多環が二重結合を有していてもよく、またR15とR16とで、又はR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。)
【0024】
ノルボルネン環を有するモノマーとして好適なものとしては、ノルボルネン(n=0、m=0、R~R10、R15~R18がいずれも水素原子)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(n=0、m=1、R~R18がいずれも水素原子)などが例示される。
【0025】
ノルボルネン環を有するモノマーとα-オレフィンとの付加重合体としては、エチレン-環状オレフィンランダム共重合体が好ましい。そのエチレン含有率は5~50質量%であることが、耐熱性や剛性などの点から好ましい。エチレン含有率はより好適には10質量%以上であり、さらに好適には15質量%以上である。また、エチレン含有率はより好適には40質量%以下であり、さらに好適には30質量%以下である。
【0026】
ポリカーボネートとしては、ビスフェノールA型のポリカーボネートが好ましく用いられ、透明性、耐衝撃性に優れる。ただし、ポリカーボネートは硬度が低いので、傷がつきやすい。また、ポリカーボネートに対してオートクレーブ処理を繰り返すと強度が低下するおそれもある。ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリアリレートなどは、ガラス転移点が高いため耐熱性に優れ、しかも高強度であるが、溶融成形時の流動性が悪く、溶融成形が困難になる場合がある。
【0027】
また、結晶性樹脂であっても、透明性が良好な場合には、本発明のケージの透明部として用いることができる場合がある。例えば、ポリメチルペンテンは、結晶性樹脂でありながら透明性が良好である。ただし、結晶性樹脂の場合にはオートクレーブ殺菌時にさらなる結晶化に伴って変形を生じることがあり、蓋との嵌合不良が発生するおそれがある。透明性を有する結晶性樹脂を用いる場合の好適な融点は、通常180~300℃である。
【0028】
本発明に必要な透明性を阻害しない範囲内であれば、透明部が添加剤を含んでいてもよい。例えば、他の樹脂、着色剤、紫外線吸収剤、可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、抗菌剤などの各種の添加剤を少量含んでいても構わない。
【0029】
一方、不透明部は、熱可塑性樹脂と充填材を含有する不透明な樹脂組成物からなる。したがって、不透明部の樹脂組成物では、熱可塑性樹脂のマトリックス中に充填材の粒子が分散している。充填剤を含むことによって付着した糞尿を容易に除去することができる。当該不透明な樹脂組成物の3mm厚成形品のヘーズ値は、通常80%以上であり、85%以上であってもよく、90%以上であってもよい。不透明部がこのような高いヘーズ値を有する場合には、不透明部越しに中の実験動物の様子を観察することが困難であるが、本発明のケージでは、観察の必要な位置には透明部が配置されているので、実験動物の観察が可能である。
【0030】
不透明部に含まれる熱可塑性樹脂としては、前記透明な熱可塑性樹脂と同様のものを用いることができる。透明部と不透明部の接着性を良好にするためには、透明部に含まれる熱可塑性樹脂と不透明部に含まれる熱可塑性樹脂を同種の樹脂にすることが好ましい。すなわち、透明部を構成する熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂に対して充填剤を配合して不透明部を構成することが好ましい。それによって、接着剤を用いることなく両者を強固に接着することができる。接着剤を用いて透明部と不透明部を接着するのであれば、透明部に含まれる熱可塑性樹脂と不透明部に含まれる熱可塑性樹脂とが異なる種類のものであっても構わないが、オートクレーブ滅菌の際の熱膨張などを考慮すれば、接着剤を用いずに融着させることが好ましい。
【0031】
不透明部に用いられる熱可塑性樹脂として好適なものとして、環状オレフィン重合体を挙げることができる。環状オレフィン重合体は吸水率が低いので、オートクレーブ滅菌時の変形が少なく、容易に乾燥することができる。また、環状オレフィン重合体に充填剤を配合することによって、糞尿を容易に除去することができる。
【0032】
そして、不透明部の樹脂組成物が、環状オレフィン重合体及び充填材に加えてさらに熱可塑性軟質共重合体を含むことが好ましい。軟質共重合体を含むことによって、耐衝撃性が向上する。軟質共重合体を含んでも、ベースポリマーは環状オレフィン重合体なので、透明部の環状オレフィン重合体と良好に接着する。ここで、環状オレフィン重合体と熱可塑性軟質共重合体を含む樹脂組成物としては、環状オレフィン重合体100質量部、軟質共重合体1~50質量部、ラジカル開始剤0.001~1質量部、及び多官能化合物0~1質量部を溶融混練してなる樹脂組成物であることが好ましい。このような樹脂組成物については、国際公開第2006/025294号に開示されている。またこのような樹脂組成物は、例えば、冨士ベークライト株式会社から商標名「e-mateX」の名称で販売されているので、それに充填剤を配合すればよい。
【0033】
前記熱可塑性軟質共重合体は、オレフィン、ジエン及び芳香族ビニル炭化水素からなる群から選択される少なくとも2種以上の単量体を重合してなるものであり、そのガラス転移温度が0℃以下である。具体的には、エチレンと炭素数が3~20のα-オレフィンとを共重合してなる非晶性又は低結晶性の熱可塑性軟質共重合体が例示され、好適にはエチレン-プロピレン共重合体である。熱可塑性軟質共重合体のガラス転移温度は、好適には-10℃以下であり、より好適には-20℃以下である。また通常、ガラス転移温度は-100℃以上である。X線回析法により測定した結晶化度は、好適には0~30%であり、より好適には0~25%である。
【0034】
前記ラジカル開始剤は、溶融混練時の加熱によって熱分解してラジカルを発生するものであればよく、その種類は特に限定されない。過酸化物、アゾ化合物、レドックス開始剤などが挙げられる。なかでも、有機過酸化物が好適に採用される。ラジカル開始剤は、溶融混練時に適度な速度で分解することが好ましく、その1分間半減期温度は30~250℃であることが好適である。1分間半減期温度は、より好適には50℃以上であり、200℃以下である。
【0035】
前記多官能化合物は、ラジカル重合性の官能基を分子内に2個以上有する化合物である。当該多官能化合物としては、たとえばジビニルベンゼン、アクリル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、トリアリールイソシアヌレート、ジアリールフタレート、エチレンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどが例示される。
【0036】
不透明部において、熱可塑性樹脂に配合される充填材は特に限定されるものではないが、シリコーン樹脂粒子、フッ素樹脂粒子又は劈開性無機粒子が好適なものとして例示される。
【0037】
シリコーン樹脂粒子としては、ポリジメチルシロキサンを主成分とする樹脂の粒子が好ましく用いられる。具体的には50質量%以上のポリジメチルシロキサンを含む粒子が好適である。マトリックスを構成する熱可塑性樹脂との親和性の観点からは、当該粒子がケイ素原子を含まない他の重合体成分を含むことが好ましい。例えば、アクリレート重合体とポリジメチルシロキサンとが複合化された共重合体の粒子などが好適である。当該粒子における他の重合体成分の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。このとき、ポリジメチルシロキサンの含有量は50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。また、他の重合体成分の含有量は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。このとき、ポリジメチルシロキサンの含有量は95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
フッ素樹脂粒子としては、ポリテトラフルオロエチレンの粒子が好適に用いられる。当該ポリテトラフルオロエチレンは、50質量%未満の他の共重合可能な単量体を含んでいても構わない。
【0039】
劈開性無機粒子は、小さい力によって結晶面に沿って容易に層状に剥離することの可能な結晶性の無機粒子である。結晶構造の中に原子同士の結合力の小さい面(劈開面)を含んでおり、小さいせん断力によって、当該劈開面に沿って容易に剥離して滑って薄片を生じる。このような結晶性の無機粒子は、その滑りやすさによって固体潤滑剤として広く用いられている。劈開性無機粒子として具体的には、層状ケイ酸塩粒子、二硫化モリブデン粒子、窒化ホウ素粒子、グラファイト粒子などが例示される。このうち、層状ケイ酸塩粒子は、ケイ酸塩化合物を主成分とする多層構造の粒子であり、タルク、マイカなどを例示することができる。
【0040】
熱可塑性樹脂に配合される充填材の平均粒径は、0.5~100μmであることが好ましい。平均粒径が小さすぎると、成形品表面の凹凸が小さくなりすぎ、成形品表面に付着した糞尿を除去しにくくなる場合がある。平均粒径は、より好適には1μm以上であり、さらに好適には1.5μm以上である。一方、平均粒径が大きすぎると、成形品表面の凹凸が大きくなりすぎ、やはり成形品表面に付着した糞尿を除去しにくくなる場合がある。平均粒径は、より好適には70μm以下であり、さらに好適には50μm以下である。
【0041】
不透明部の樹脂組成物が、50~99.9質量%の熱可塑性樹脂と、0.1~50質量%の充填剤を含有することが好ましい。充填剤の含有量が0.1質量%以上であることによって、成形品表面の摩擦係数を効果的に低減することができる。充填剤の含有量は、より好適には1質量%以上であり、さらに好適には2質量%以上である。このとき、熱可塑性樹脂の含有量は、より好適には99質量%以下であり、さらに好適には98質量%以下である。また、充填剤の含有量が50質量%以下であることによって、溶融成形性が良好になる。充填剤の含有量はより好適には40質量%以下である。このとき、熱可塑性樹脂の含有量は、より好適には60質量%以上である。
【0042】
不透明部の表面の動摩擦係数は、0.3以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.16以下であることがさらに好ましい。不透明部の動摩擦係数が小さいことによって、成形品の表面に付着した糞尿を容易に除去することができる。
【0043】
また、不透明部の表面において、充填材が露出していることが好ましく、それによって糞尿を除去しやすくなる。不透明部の表面の表面粗さ(Ra)は、0.08~1μmであることが好ましい。Raがこの範囲に含まれることによって、成形品表面に付着した糞尿を除去しやすくなる。Raはより好適には0.1μm以上である。一方Raは、より好適には0.5μm以下であり、さらに好適には0.3μm以下である。なお、一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には、当該二次粒子の粒径が上記範囲を満足すればよい。
【0044】
以下、本発明の実験動物飼育用ケージの具体的な実施態様について、図面を用いて説明する。
【0045】
[実施態様1]
図1は、実施態様1の実験動物飼育用ケージ1の斜視図及び平面図である。そして、図1の平面図中のA-A断面図とその一部拡大図を図2に示す。
【0046】
実験動物飼育用ケージ1は、底部2と側壁部3を有し、平面視長方形で上方に開口したものである。開口端4における長辺が353mmで、短辺が235mmで、ケージ1の高さが160mmである。開口端4に接触するようにプラスチック製または金属メッシュ製の蓋(図示せず)が被せられて、ケージ1内で実験動物が飼育される。図1では、側壁部3の大部分と底部の下面2bの全てが透明部5で構成されていて、底部の上面2aの全てが不透明部6で構成されている。側壁部3の大部分が透明部5で構成されることによって、外部から容易に実験動物の様子を観察することができる。また、底部の上面2aの全てが不透明部6で構成されていることによって、付着した糞尿を容易に除去することができる。
【0047】
通常の実験動物の飼育環境では、ケージ1の底には、紙、パルプ、木材などを細断した床敷が敷かれているので、側壁部3の下部や底部2からのケージ1内部の視認性は問題とならないことが多い。したがって、実施態様1の構成では底部2の視認性を喪失させて不透明とする代わりに、糞尿を除去しやすい素材を用いた。一方で、側壁部3の大部分は透明部5で構成されていて、実験動物の状況を外部から視認するのに問題はない。本発明の実験動物飼育用ケージ1では、糞尿除去の容易な素材と、透明性の良好な素材を、それぞれ適切な場所に配置した構成として、外部からの視認性と糞尿除去性の両立が可能となった。
【0048】
実施態様1では、底部2を2層構造にしてあり、その上面2aの全てが不透明部6で構成され、その下面2bの全てが透明部5で構成される。不透明部6は側壁部3において底部の上面2aから高さ20mmの位置まで形成されている。マウスやラットなどの実験動物が排泄する場所は、主として底部の上面2aであるが、コーナー部7など決まった場所で排泄することが多いために、結果として排泄物が堆積しやすく、側壁部3であってもその下の方には糞尿が付着するので、その部分の糞尿を容易に除去できることが重要である。本発明のケージ1において、透明部5と不透明部6の境界8が、ケージ1の底部の上面2aから5mm以上上の位置かつ上面2aと開口端4との中間点よりも下の位置にあることが好ましい。境界8が上面2aから5mm以上上の位置にあることによって、側壁部3に付着した糞尿を容易に除去することができる。より好適には、境界8が上面2aから10mm以上上の位置にある。一方、境界8が上面2aと開口端4との中間点よりも下の位置にあることによって、内部の視認性が良好となる。境界8から上面2aまでの距離は、より好適には50mm以下であり、さらに好適には30mm以下である。ここで、境界8は、側壁部3における、不透明部6の上端のことをいう。境界8は、床敷を敷く際の厚みの目安となる点からも有用であり、この点は他の実施態様でも同様である。
【0049】
実施態様1のケージ1を製造する方法は特に限定されないが、好適な方法はインサート成形、二色成形及び超音波融着である。以下、それぞれの製造方法について説明する。
【0050】
図3に示されているのは、実施態様1における不透明部6の斜視図であり、底部の上面2aを構成する。厚さ1mm程度の不透明部6は、射出成形によって成形することもできるし、熱成形によって成形することもできる。射出成形によって成形する場合には、二色成形またはインサート成形によってケージ1を成形することができる。
【0051】
まず、二色成形について説明する。この場合、共通型と第1交換型の間に形成されたキャビティーに熱可塑性樹脂と充填材を含有する樹脂組成物を射出して図3に示された不透明部6を成形する。当該不透明部6を共通型に保持したままで第1交換型を第2交換型に交換し、共通型と第2交換型と不透明部6の間に形成されたキャビティーに熱可塑性樹脂を射出して透明部5を成形して不透明部6と一体化させてケージ1を製造する。この場合、底部の下面2b側の中央付近に溶融透明樹脂の流入ゲートを設けることによってウェルドラインの形成されない高強度の成形品を得ることができる。
【0052】
次にインサート成形について説明する。この場合、図3に示された不透明部6を予め成形しておき、それを射出成形機の金型の中に配置してから射出成形してケージ1を製造する。不透明部6の成形は熱成形でも射出成形でも構わないが、金型の製造コストを考慮すれば熱成形が好ましい。熱成形によって得られた不透明部6を金型に導入し、引き続き当該金型内に透明な熱可塑性樹脂を射出成形して、透明部5と不透明部6とをインサート成形によって接着する方法が好ましく採用される。熱成形に際しては、予めシートを押出成形しておき、それを加熱して真空成形や真空圧空成形をすることによって熱成形することができる。インサート成形する際の透明樹脂の流入ゲートの配置は二色成形のときと同様である。
【0053】
図4に示されているのも、実施態様1における不透明部6であり、底部の上面2aを構成する。図4では、不透明部6を表側から見た斜視図と、裏側から見た斜視図と、その一部の拡大図を示す。図4の不透明部6においては、透明部5との接着部分に所定間隔で複数のリブ9が設けられている。別途射出成形によって成形された透明部5を準備し、それと図4の不透明部6とを重ねて、超音波融着によって両者を接着することができる。このとき、超音波振動によって不透明部6に形成されたリブ9を溶かし透明部5と融着させる。
【0054】
[実施態様2]
図5は、実施態様2の実験動物飼育用ケージ1の斜視図及び平面図である。そして図5の平面図中のA-A断面図とその一部拡大図を図6に示す。実験動物飼育用ケージ1の外形、寸法、使用方法は実施態様1と同じである。実施態様2では、側壁部3の大部分が透明部5で構成されていて、底部2の全てが不透明部6で構成されている。底部2が単層構造である点で実施態様1と相違する。
【0055】
実施態様2の場合、透明部5も不透明部6も射出成形によって成形される。成形方法としては二色成形、インサート成形又は超音波融着が採用される。実施態様1では底部の下面2b側の透明部6の厚さが小さいために、透明熱可塑性樹脂を二色成形又はインサート成形で溶融成形する際の流動性が問題となる場合があるが、実施態様2であればそのような問題はない。一方、透明部5を成形する際にウェルドラインが生じやすいので、要求性能に応じて適宜選択される。
【0056】
実施態様2においては、透明部5と不透明部6との境界部分に両者が重なる接着領域10を設けていて、両者の接着性を担保している。超音波融着の場合には、接着領域10において、透明部5又は不透明部6のいずれかにリブ(図示せず)を形成する。実施態様2においては、接着領域10が存在するために、透明部5と不透明部6の境界8の位置については、2つの値を取り得る。上限値については、視認性の観点から設定されたものであるから、不透明部6の存在する最も高い位置にある上側の境界8aに従うものとする。一方、下限値については、糞尿の付着性の観点から設定されたものであるから、ケージの内側の境界の位置にある下側の境界8bに従うものとする。
【0057】
[実施態様3]
図7は、実施態様3の実験動物飼育用ケージ1の斜視図及び平面図である。そして図7の平面図中のA-A断面図とその一部拡大図を図8に示す。実験動物飼育用ケージ1の外形、寸法、使用方法は実施態様1と同じである。図9に不透明部6の斜視図を示す。実施態様3では、底部2の全てが不透明部6で構成されている点で実施態様2と共通するが、コーナー部7に柱状部11を有している点で、実施態様2と相違する。すなわち、側壁部3が、底部2のコーナー部7から上方に開口端4まで延設された不透明部6からなる柱状部11と、4枚の透明部5とから構成される。
【0058】
実施態様3の場合、透明部5も不透明部6も射出成形によって成形される。成形方法としては二色成形、インサート成形又は超音波融着が採用される。実施態様2では透明樹脂を成形する際にウェルドラインが生じやすいが、実施態様3であれば、不透明部6を予め射出成形した後で、透明樹脂を4か所のゲートから射出することによって、ウェルドラインを生じさせずに二色成形又はインサート成形することができる。このとき、透明部5と不透明部6との境界8には両者が重なる接着領域10が設けられていて、両者の接着性を担保している。超音波融着の場合には、接着領域10において、透明部5又は不透明部6のいずれかにリブ(図示せず)を形成する。実施態様3においては、不透明部6において柱状部11を有しているけれども、透明部5と不透明部6の境界8の位置については、実施態様2と同様にして、柱状部11を無視するものとする。
【0059】
[実施態様4]
図10は、実施態様4の実験動物飼育用ケージ1の斜視図及び平面図である。そして図10の平面図中のA-A断面図とその一部拡大図を図11に示す。実験動物飼育用ケージ1の外形、寸法、使用方法は実施態様1と同じである。図12に4個の不透明部6を示す。実施態様4では、不透明部6が4つに分割されている点で実施態様1と相違する。実験動物が排泄する場所はコーナー部7であることが多いために、その部分を4つの不透明部6としたものである。また、底部の下面2bの全てが透明部5で構成されている。
【0060】
実施態様4の場合、不透明部6の成形方法は、射出成形であってもよいし熱成形であってもよい。いずれの場合であっても二色成形又はインサート成形によって成形することができる。超音波融着させる場合には、透明部5又は不透明部6のいずれかにおいて、両者が重なる部分においてリブ(図示せず)を形成する。実施態様4においては、透明部5が底部2にまで延びて、底部2に透明な部分があるが、透明部5と不透明部6の境界8の位置については、コーナー部7付近の不透明部6の上端とする。
【実施例
【0061】
以下、実施例を用いて本発明で用いられる材料について具体的に評価した。
【0062】
実施例1
下記の環状オレフィン重合体(a)100質量部、エチレン-プロピレンランダム共重合体(b)11質量部、ラジカル開始剤(c)0.022質量部及び多官能化合物(d)0.022質量部を押出機で溶融混練して反応させた後、ペレット化して、変性COCペレットを得た。
【0063】
・環状オレフィン重合体(a)
三井化学株式会社製環状オレフィン共重合体(COC)「アペル APL6015T」。当該COCは、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンの付加共重合体であり、非晶性である。DSC法によるガラス転移温度(昇温速度10℃/分)が145℃であり、MFR(260℃、2.16kg荷重)が10g/10分である。
【0064】
・軟質共重合体(b)
三井化学株式会社製エチレン-プロピレンランダム共重合体「P-0880」。エチレン含有量が80mol%、極限粘度[η]が2.5dl/g、DSC法(昇温速度10℃/分)によるガラス転移温度が-54℃である。MFR(230℃、2.16kg荷重)が0.4g/10分、密度が0.867g/cm、X線回折法により測定した結晶化度が約10%である。
【0065】
・ラジカル開始剤(c)
日本油脂株式会社製「パーヘキシン25B」。2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3を主成分(90%以上)とする。1分間半減期温度は194.3℃である。
【0066】
・多官能化合物(d)
ジビニルベンゼン
【0067】
こうして得られた変性COCペレット95質量部と、日信化学工業株式会社製シリコーン樹脂粉末「シャリーヌ R-170S」5質量部を押出機に投入し、溶融混錬して組成物ペレットを得た。ここで、「シャリーヌ R-170S」は、シリコーンとアクリレートを共重合した樹脂の粉末であり、シリコーンの含有率が70質量%でアクリレートの含有率が30質量%である。平均粒子径30μm(一次粒子径は0.2~0.3μm)の球状粒子を含む粉体である。こうして得られた組成物ペレットを射出成形機に投入して、直径15cm、厚さ3mmの円盤状の試験片を得た。
【0068】
[表面状態の観察]
得られた試験片の表面を、オリンパス株式会社製レーザー顕微鏡「LEXT OLS4100型」で観察して、充填剤の露出状況を以下のように評価した。本試験片では、微細に分散した粒子が試験片表面に露出していて、評価Aであった。
・A:微細に分散した粒子が試験片表面に露出していた。
・B:充填剤粒子が試験片表面に露出していたが、粗大粒子が含まれていた。
【0069】
[表面粗さ]
試験片の表面粗さ(Ra)を、JIS B0633に基づいて、オリンパス株式会社製レーザー顕微鏡「LEXT OLS4100型」を用いて測定したところ、0.13μmであった。
【0070】
[動摩擦係数]
試験片表面の動摩擦係数を、JIS K7125に基づいて、株式会社エー・アンド・デイ製万能試験機「RCT-1325 TENSILON」を用いて測定したところRaは0.107であった。
【0071】
[ヘーズ]
試験片のヘーズを、JIS K7136にしたがって測定した。具体的には、スガ試験機株式会社製ヘーズメーター「HV-V3」を用い、ダブルビーム方式でD65光源を用いて測定した。5サンプルの測定を行い、その平均値を求めたところ、ヘーズは95.1%であった。
【0072】
[糞尿除去試験]
マウスを飼育しているケージから採取した糞尿の乾燥物に対し、水を加えて粘土状にした。粘土状の糞尿を、前記試験片(n=4)の片面上に15~20g塗りつけ、室外に放置して乾燥させた。その後下記の3段階の方法によって糞尿の除去しやすさを評価した。その結果、振り落とし試験がA評価であり、機械的除去試験は行わず、水洗試験がA評価であった。各試験の操作と評価基準は、それぞれ以下に示すとおりである。以上の結果を表1にまとめて示す。
【0073】
(振り落とし試験)
乾燥糞尿の付着した試験片を、手に持って振った。その際の除去しやすさを以下の基準にしたがって評価した。
・A:4サンプルともに剥離した。
・B:3サンプルにおいて剥離した。
・C:2サンプルにおいて剥離した。
・D:剥離したのが1サンプル以下であった。
【0074】
(機械的除去試験)
前記振り落とし試験において、振り落とすことができなかったサンプル(評価B~Dのサンプル)に対して、ゴムヘラを用いて手動で乾燥糞尿を除去した。その際の除去しやすさを以下の基準にしたがって評価した。
・A:小さい力で容易に剥離した。
・B:少し擦ることによって剥離した。
・C:少し擦っても剥離しないサンプルがあった。
【0075】
(水洗試験)
前記振り落とし試験及び機械的除去試験を経たサンプルを試験に供した。試験片の糞尿が付着していた面に水を掛けながらゴム手袋を装着した指先で軽く擦って洗浄を実施した。洗浄後のサンプル表面の糞尿の残存状況について、以下の基準にしたがって評価した。
・A:きれいに除去された。
・B:糞尿の付着が残った。
【0076】
実施例2
実施例1において、シリコーン樹脂粉末の代わりにAGC株式会社製ポリテトラフルオロエチレン粉末「Fluon PTFE G190」を用いた以外は実施例1と同様にして、射出成形して試験片を作成した。ここで、「Fluon PTFE G190」に含まれる粒子の平均粒子径(レーザー回折法)は25μmである。得られた試験片の評価結果を表1にまとめて示す。
【0077】
実施例3
実施例1において、シリコーン樹脂粉末5質量部の代わりに日本タルク株式会社製タルク粉末「ミクロエース SG-95」30質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、射出成形して試験片を作成した。ここで、「ミクロエース SG-95」に含まれる粒子の粒子径(D50:レーザー回折法)は2.1μmである。得られた試験片の評価結果を表1にまとめて示す。
【0078】
実施例4
実施例1において、シリコーン樹脂粉末5質量部の代わりに株式会社レプコ製マイカ粉末「レプコマイカ S-325」30質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、射出成形して試験片を作成した。ここで、「レプコマイカ S-325」に含まれる粒子は、平均粒子径27μm、平均アスペクト比30の金雲母である。得られた試験片の評価結果を表1にまとめて示す。
【0079】
比較例1
実施例1において、シリコーン樹脂粉末を配合せず、変性COCペレットのみを射出成形機に投入した以外は実施例1と同様に射出成形して試験片を作成した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0080】
比較例2
環状オレフィン共重合体(COC)「アペル APL6015T」のペレットを射出成形機に投入した以外は実施例1と同様に射出成形して試験片を作成した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0081】
実施例5
三井化学株式会社製ポリメチルペンテン(TPX)「TPX MX004」70質量部と、日本タルク株式会社製タルク粉末「ミクロエース SG-95」30質量部を押出機に投入し、溶融混錬して組成物ペレットを得た。ここで、「TPX MX004」は、DSC法(昇温速度10℃/分)による融点が228℃であり、MFR(260℃、5kg荷重)が25g/10分である。こうして得られた組成物ペレットを射出成形機に投入して、実施例1と同様に射出成形して試験片を作成した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0082】
実施例6
実施例5において、タルク粉末の代わりに、株式会社レプコ製マイカ粉末「レプコマイカ S-325」を用いた以外は実施例5と同様にして、射出成形して試験片を作成した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0083】
比較例3
ポリメチルペンテン「TPX MX004」のペレットを射出成形機に投入した以外は実施例1と同様に射出成形して試験片を作成した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0084】
実施例7
三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ポリカーボネート(PC)「ユーピロン S-3000R」70質量部と、株式会社レプコ製マイカ粉末「レプコマイカ S-325」30質量部を押出機に投入し、溶融混錬して組成物ペレットを得た。ここで、「ユーピロン S-3000R」は、ビスフェノールA型のポリカーボネートであり、DSC法(昇温速度10℃/分)によるガラス転移温度が145℃の非晶性樹脂であり、MFR(300℃、1.2kg荷重)が15g/10分である。こうして得られた組成物ペレットを射出成形機に投入して、実施例1と同様に射出成形して試験片を作成した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0085】
比較例4
ポリカーボネート「ユーピロン S-3000R」のペレットを射出成形機に投入した以外は実施例1と同様に射出成形して試験片を作成した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0086】
【表1】
【符号の説明】
【0087】
1 実験動物飼育用ケージ
2 底部
2a 底部の上面
2b 底部の下面
3 側壁部
4 開口端
5 透明部
6 不透明部
7 コーナー部
8 境界
8a 上側の境界
8b 下側の境界
9 リブ
10 接着領域
11 柱状部

【要約】
底部2と側壁部3を有し、平面視長方形で上方に開口した実験動物飼育用ケージ1であって;前記ケージ1が、透明な熱可塑性樹脂からなる透明部5と、熱可塑性樹脂と充填材を含有し不透明な樹脂組成物からなる不透明部6から構成され、前記底部2の上面2aの少なくともコーナー部7が前記不透明部6からなるとともに、前記側壁部3の少なくとも上半分が前記透明部5からなり、前記透明部5と前記不透明部6とが接着されてなる、実験動物飼育用ケージ1とする。これにより、視認性に優れ、なおかつ付着した糞尿の除去が容易な実験動物飼育用ケージが提供される。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12