(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】通信装置、制御方法、及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 28/16 20090101AFI20240329BHJP
H04W 16/28 20090101ALI20240329BHJP
H04W 84/12 20090101ALI20240329BHJP
【FI】
H04W28/16
H04W16/28
H04W84/12
(21)【出願番号】P 2019215597
(22)【出願日】2019-11-28
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 亮
【審査官】中元 淳二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/037048(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0188565(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0213249(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109714092(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B7/24-7/26
H04W4/00-99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1,4
IEEE
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手装置とIEEE802.11規格シリーズに準拠する無線フレームを用いて通信する通信装置であって、
他の通信装置と前記相手装置との間の距離に関連する情報に基づいて、前記通信装置と前記相手装置との間の通信と前記他の通信装置の通信との間の干渉の影響を低減するように動作する協調通信を実行するか否かを判定する判定手段と、
前記協調通信を行うと判定された場合
であって、前記他の通信装置との間でネゴシエーションによって前記通信装置が前記協調通信を行わせるためのトリガフレームを前記他の通信装置へ送信する
役割となることが決定された場合に、前記他の通信装置へ前記トリガフレームを送信することにより、通信を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする通信装置。
【請求項2】
前記距離に関連する情報は、前記相手装置と前記他の通信装置との間の信号の受信強度の情報を含むことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記距離に関連する情報は、前記通信装置と前記他の通信装置との間の信号の受信強度の情報を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記距離に関連する情報は、前記相手装置と前記他の通信装置との間のチャネル状態情報を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項5】
前記距離に関連する情報は、前記相手装置と前記他の通信装置とのそれぞれにおける測位結果の情報を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記協調通信を実行すると判定された場合に、前記他の通信装置に、前記相手装置への干渉を低減するためのnull steeringを実行させる制御を行うことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記協調通信を実行すると判定された場合に、前記他の通信装置の通信相手装置への干渉を低減するためのnull steeringを実行する制御を行うことを特徴とする請求項6に記載の通信装置。
【請求項8】
前記通信装置および前記他の通信装置は、IEEE802.11規格シリーズに準拠したアクセスポイントであることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項9】
相手装置とIEEE802.11規格シリーズに準拠する無線フレームを用いて通信する通信装置によって実行される制御方法であって、
他の通信装置と前記相手装置との間の距離に関連する情報に基づいて、前記通信装置と前記相手装置との間の通信と前記他の通信装置の通信との間の干渉の影響を低減するように動作する協調通信を実行するか否かを判定することと、
前記協調通信を行うと判定された場合
であって、前記他の通信装置との間でネゴシエーションによって前記通信装置が前記協調通信を行わせるためのトリガフレームを前記他の通信装置へ送信する
役割となることが決定された場合に、前記他の通信装置へ前記トリガフレームを送信することにより、通信を制御することと、
を含むことを特徴とする制御方法。
【請求項10】
コンピュータを、請求項1から8のいずれか1項に記載の通信装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、協調通信を使用可能な無線通信システムにおける通信制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の通信されるデータ量の増加に伴い、無線LAN(Local Area Network)等の通信技術の開発が進められている。無線LANの主要な通信規格として、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.11規格シリーズが知られている。IEEE802.11規格シリーズには、IEEE802.11a/b/g/n/ac/ax等の規格が含まれる。例えば、IEEE802.11ac規格やIEEE802.11ax規格では、MIMO(Multi-Input Multi-Output)を用いた通信の高度化技術が規格化されている。
【0003】
現在、更なる通信性能の向上のために、IEEE802.11axの後継規格として、IEEE802.11beと呼ばれる規格策定のためのTask Groupが発足している。IEEE802.11be規格におけるシステムスループット改善技術として、複数のアクセスポイント(AP)が協調して通信を行うMulti-AP Coordination構成が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2018/0263045号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、IEEE802.11規格に準拠した無線LANにおいて、複数のAPやステーション(STA)が、MIMOによる協調ビームフォーミングを用いて、装置間の干渉を低減しながら通信を行う方式が記載されている。このような方式では、例えば第1のAPの通信相手のSTAとの間の干渉の低減のために、第2のAPが、そのSTAの方向のアンテナ利得がゼロなど非常に小さい値となるように、自装置が有する複数のアンテナから送信される信号を制御することができる。これにより、第2のAPから送信された信号がSTAに十分な電力で到達することを防ぎ、かつ、STAから送信された信号を第2のAPが十分な電力で受信することを防ぐことができる。このようなアンテナ制御のことを、null steeringと呼ぶ。null steeringを用いることにより特定の機器との間の干渉を抑制することができるが、例えば干渉の条件が厳しくない場合にも使用すると、得られる通信速度等の性能が不十分になりうる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、協調通信を使用可能なシステムにおいて、状況に応じて適切な制御を実行する技術を提供する。
【0007】
本発明の一態様による通信装置は、相手装置とIEEE802.11規格シリーズに準拠する無線フレームを用いて通信する通信装置であって、他の通信装置と前記相手装置との間の距離に関連する情報に基づいて、前記通信装置と前記相手装置との間の通信と前記他の通信装置の通信との間の干渉の影響を低減するように動作する協調通信を実行するか否かを判定する判定手段と、前記協調通信を行うと判定された場合であって、前記他の通信装置との間でネゴシエーションによって前記通信装置が前記協調通信を行わせるためのトリガフレームを前記他の通信装置へ送信する役割となることが決定された場合に、前記他の通信装置へ前記トリガフレームを送信することにより、通信を制御する制御手段と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、協調通信を使用可能なシステムにおいて、状況に応じて適切な制御を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】通信装置が実行する処理の流れの例を示す図である。
【
図5】システムで実行される処理の流れの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
(システム構成)
図1に、本実施形態に係る無線通信システムの構成例を示す。この無線通信システムは、一例において、IEEE802.11規格シリーズ(IEEE802.11a/b/g/n/ac/ax/be規格等)に準拠した無線LANのAP102、AP105、STA103、及び、STA106を含む。なお、APは無線LANのアクセスポイントの略称であり、STAは無線LANのステーションの略称である。なお、ここでは、説明を簡単にするために、2台のAPと2台のSTAを示しているが、当然にこれらの通信装置は3台以上存在してもよく、また、1台のみ存在してもよい。
【0012】
AP102とAP105は、例えば、バックホール100により相互に通信可能に構成されうる。なお、バックホール100は、Ethernet(登録商標)や電話回線等の有線通信回線によって構成されうる。また、バックホール100は、LTE(Long Term Evolution)やWiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)等の無線通信回線によって構成されてもよい。また、AP102とAP105は、別途構成されたバックホール100を介して通信を行わずに、又はこれに加えて、IEEE802.11規格シリーズに準拠した無線通信によって相互に通信してもよい。この場合、AP102とAP105との間で使用される無線チャネルは、AP102やAP105とSTA103やSTA106との間の通信で使用される無線チャネルと同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0013】
AP102は、第1のネットワーク101を構成及び管理し、この第1のネットワーク101に参加するSTA(又は他のAP)との通信を行うことができる。また、AP105は、第2のネットワーク104を構成及び管理し、この第2のネットワーク104に参加するSTAとの通信を行うことができる。AP102及びAP105は、Multi-AP Coordination機能を有する。なお、Multi-AP Coordination機能とは、接続状態のSTAに対して他のAPと協調して通信を行う機能である。例えば、AP102は、AP105と協調してSTA103やSTA106と通信を行うことにより、AP102が単体でこれらのSTAと通信を行う場合と比して、通信の高速化や通信の安定性の向上を図ることができる。なお、通信の安定性は、例えば、信号対雑音比(SNR)が所定のレベルに達しているか否か、干渉電力レベルが所定レベルより低いか否か、遅延やジッタが所定値より少ないか否か、等の指標やこれらの組み合わせやこれらの変動の大きさ等によって評価される。なお、以下では、Multi-AP Coordination機能を協調通信機能と呼ぶ場合がある。
【0014】
協調通信機能は、例えば、null steering方式による通信機能を含む。ここでのnull steering方式では、例えばAP102がSTA103と通信し、AP105がSTA106と並行して通信する場合、AP102は、アンテナ制御により、STA106方向へのアンテナ利得を十分に低く(例えばゼロに)する。また、AP105は、アンテナ制御により、STA103方向へのアンテナ利得を十分に低く(例えばゼロに)する。以下では、このアンテナ利得を所定の方向において十分に低くすることを、所定の方向にヌルを形成すると呼ぶ場合がある。なお、AP102とAP105とが協調してnull steering方式を用いる手法は、Coordinated null steeringと呼ばれる場合がある。また、この手法は、各APから放射されるビームのnull点を適切に設定するようにビームフォーミングを行うことから、Coordinated Beamforming(BF)とも呼ばれうる。さらに、この手法は、Coordinated BF and Nullingと呼ばれることもある。なお、null steeringのためのアンテナ制御は、APが有する複数のアンテナによって送信される無線信号の位相(及び場合によっては振幅)を変動させることによって行われるが、具体的な手法は周知であるため、詳細な説明については省略する。これにより、AP102とSTA103との通信と、AP105とSTA106との通信とが相互に干渉しなくなるようにすることができる。なお、協調通信機能は、例えば、AP102及びAP105がそれぞれ有するアンテナから送信される無線信号を制御することにより、STA103やSTA106における無線信号の受信品質を向上させ、高速な無線通信を提供する機能を含んでもよい。なお、本実施形態では、協調通信機能として、null steeringが用いられるものとし、他の協調通信機能は用いられないものとする。
【0015】
STA103及びSTA106は、例えばAP102やAP105と接続を確立して無線通信を行うように構成される。なお、これらのSTAは、AP102と接続すると共にAP105とも並行して接続を確立し、これらのAPが協調して通信を行う場合にこれらのAPと並行して通信を行うことができる。
【0016】
協調通信機能として、干渉の影響を低減する手法を用いる場合、スループットなどの通信の性能が落ちる場合がある。例えば、APが、null steeringを用いる場合、干渉抑制のためにヌルを形成した結果、通信相手のSTAの方向に対するアンテナ利得が低下することがありうる。このため、本実施形態では、APが、不必要にnull steeringを用いないようにして、システム全体の通信の性能を向上させるようにする。以下では、このような処理を実行する装置の構成例と、処理の流れの例について説明する。
【0017】
(装置の構成)
図2は、通信装置(AP及びSTA)のハードウェア構成例を示す。通信装置は、そのハードウェア構成の一例として、記憶部201、制御部202、機能部203、入力部204、出力部205、通信部206、及びアンテナ207を有する。
【0018】
記憶部201は、ROM(読み出し専用メモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)の両方、または、いずれか一方により構成され、後述する各種動作を行うためのプログラムや、無線通信のための通信パラメータ等の各種情報を記憶する。なお、記憶部201として、ROM、RAM等のメモリの他に、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、DVDなどの記憶媒体が用いられてもよい。
【0019】
制御部202は、例えば、CPUやMPU等の1つ以上のプロセッサ、ASIC(特定用途向け集積回路)、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)等により構成される。ここで、CPUはCentral Processing Unitの、MPUは、Micro Processing Unitの頭字語である。制御部202は、記憶部201に記憶されたプログラムを実行することにより装置全体を制御する。なお、制御部202は、記憶部201に記憶されたプログラムとOS(Operating System)との協働により装置全体を制御するようにしてもよい。
【0020】
また、制御部202は、機能部203を制御して、AP機能やSTA機能、撮像や印刷、投影等の所定の処理を実行する。機能部203は、装置が所定の処理を実行するためのハードウェアである。例えば、通信装置がAPの場合、機能部203は、協調通信機能を含んだAP機能を実行するように構成される。また、通信装置がSTAの場合、機能部203は、APとの間で接続を確立して通信を行う。また、例えば、通信装置がカメラである場合、機能部203は撮像部であり、撮像処理を行う。また、例えば、通信装置がプリンタである場合、機能部203は印刷部であり、印刷処理を行う。また、例えば、通信装置がプロジェクタである場合、機能部203は投影部であり、投影処理を行う。機能部203が処理するデータは、記憶部201に記憶されているデータであってもよいし、後述する通信部206を介して他のAPやSTAと通信したデータであってもよい。
【0021】
入力部204は、ユーザからの各種操作の受付を行う。出力部205は、ユーザに対して各種出力を行う。ここで、出力部205による出力とは、例えば、画面上への表示や、スピーカによる音声出力、振動出力等の少なくとも1つを含む。なお、タッチパネルのように入力部204と出力部205の両方を1つのモジュールで実現するようにしてもよい。
【0022】
通信部206は、IEEE802.11規格シリーズに準拠した無線通信の制御や、IP通信の制御を行う。通信部206は、いわゆる無線チップであり、それ自体が1つ以上のプロセッサやメモリを含んでいてもよい。本実施形態では、通信部206は、少なくともIEEE802.11be規格に準拠した処理を実行することができる。また、通信部206はアンテナ207を制御して、無線通信のための無線信号の送受信を行う。通信装置は、通信部206を介して、画像データや文書データ、映像データ等のコンテンツを他の通信装置と通信する。アンテナ207は、例えば、サブGHz帯、2.4GHz帯、5GHz帯、及び6GHz帯の少なくともいずれかを送受信可能なアンテナである。なお、アンテナ207によって対応可能な周波数帯(及びその組み合わせ)については特に限定されない。アンテナ207は、1本のアンテナであってもよいし、MIMO(Multi-Input and Multi-Output)送受信を行うための2本以上のアンテナのセットであってもよい。例えば、アンテナ207は、IEEE802.11be規格の16空間ストリームでのMIMO通信に対応するために、16本のアンテナ素子を含んで構成されうる。
【0023】
図3に、AP(AP102及びAP105)の機能構成例を示す。APは、例えば、無線LAN制御部301、UI制御部302、記憶部303、方式選択部304、Single-AP制御部305、及び、null steering制御部306を有する。なお、これらの機能部は、APの制御部202が、記憶部201に記憶されている各機能部の動作を規定する命令を含んだプログラムを実行することによって実現される。なお、以下に示す機能部の一部または全部が、専用のハードウェアによって実現されてもよい。
【0024】
無線LAN制御部301は、例えばIEEE802.11規格シリーズに準拠した、他の装置(例えば他のAPやSTA)との間で無線信号の送受信を行うための回路及びそれらを制御するプログラムを含んで構成される。無線LAN制御部301は、IEEE802.11規格シリーズにおいて規定されている手順によりフレームを生成して送信し、また、他の装置から無線フレームを受信して情報を抽出する等の通信制御を実行する。UI制御部302は、例えば、APのユーザ(不図示)によるAPに対する操作を受け付けるためのタッチパネル又はボタン等の、ユーザインタフェース(UI)に関するハードウェア及びそれらを制御するプログラムを含んで構成される。なお、UI制御部302は、例えば、画像等の表示、又は音声出力等の、情報をユーザに提示するための機能をも有する。記憶部303は、APが実行するプログラムや各種データを保存する機能を含んで構成される。
【0025】
方式選択部304は、周辺のAPが存在するか否か、周辺のAPの能力、周辺のAPとSTAとの接続状態、周辺のAPと自装置の通信相手装置との距離に対応する値等に基づいて、協調通信機能を使用するか否かの選択を行う。方式選択部304は、例えば、協調通信機能であるnull steering方式と、非協調通信機能であるSingle-AP方式とのいずれを用いるかを決定する。なお、この方式選択方法については後述する。Single-AP制御部305は、方式選択部304によってSingle-AP方式が選択された場合に、協調通信機能を用いずに、すなわち、他のAPと連携せずに、単独でSTAと接続する通信制御を実行する。Single-AP制御部305は、例えば、干渉を考慮せずに、通信相手のSTAの方向に対するアンテナ利得が十分に大きくなるようにAPが有する複数のアンテナを制御しうる。これにより、協調通信が行われない場合の通信の性能を向上させることができる。null steering制御部306は、方式選択部304によってnull steering方式が選択された場合に、他のAPと協調して、干渉を低減するような制御を実行して通信を行う。例えば、null steering制御部306は、他のAPの通信相手のSTAに干渉を与えうる状況では、そのSTAの方向へヌルを形成するようにアンテナを制御し、かつ、この他のAPの通信と並行して通信を行うように協調通信制御を行う。なお、null steering制御部306は、例えば、他のAPの通信が、自装置の通信相手のSTAに干渉し得る場合は、この他のAPにnull steeringを実行させるように、協調通信制御を実行する。
【0026】
なお、STAは、IEEE802.11規格シリーズに準拠した無線LANの一般的なステーションとして機能する通信装置であるため、ここではその機能についての説明を省略する。
【0027】
(処理の流れ)
続いて、
図4を用いて、AP(AP102及びAP105)が、Single-AP方式とnull steering方式とのいずれを使用するかを決定する処理の流れの例について説明する。本処理は、例えば、APの制御部202が、記憶部201に記憶されているプログラムを実行することによって実現される。なお、APは、例えば電源オン時等のネットワークを構成する際や、ネットワークを運用中の任意のタイミングにおいて、この選択処理を実行することができる。
【0028】
本処理において、APは、まず、周辺に存在するAPを探索する(S401)。APは、例えば、無線機能によって、他のAPから送信されたBeaconを受信することにより、又は、有線回線を通じて他のAPからブロードキャスト/マルチキャストされた信号を受信することにより、周辺に存在するAPを探索する。なお、APは、自装置の存在を周辺の他のAPに通知するために、無線でBeaconを送信し、又は、有線で信号をブロードキャスト/マルチキャストしうる。また、APは、特定の他のAPに対して問い合わせフレームを送信して、そのフレームへの応答を受信することにより、その特定の他のAPが周辺に存在することを特定してもよい。本実施形態では、AP102とAP105は、互いに、周辺のAPとして認識するものとする。
【0029】
APは、周辺のAPを検出した場合(S401でYES)、その周辺のAPが協調通信機能を有しているか否かを判定する(S402)。この判定は、例えば、APが周辺のAPから無線で受信したBeaconや問い合わせ信号への応答信号、又は有線で受信した信号に含まれる、協調通信機能をサポートしているか否かを示す能力情報に基づいて行われうる。また、周辺のAPが準拠している規格のバージョンの情報等の他の情報に基づいて、この判定が行われてもよい。APは、周辺に協調通信機能を有するAPが存在しない場合(S401でNO、S402でNO)は、他のAPとの間での協調通信制御を行わず、単独で通信相手のSTAとの通信を行うSingle-AP方式を、使用する方式として選択する(S405)。
【0030】
一方、APは、周辺のAPが協調通信機能を有すると判定した場合(S402でYES)、続いて、自装置の通信相手であるSTAと、その協調通信機能を有する周辺のAPとの距離が十分に離れているかを判定する(S403)。そして、APは、通信相手のSTAと周辺のAPとの距離が離れていないと判定した場合(S403でNO)、null steering方式を、使用する方式として選択する(S404)。一方、APは、通信相手のSTAと周辺のAPとの距離が離れていると判定した場合(S403でYES)、Single-AP方式を、使用する方式として選択する(S405)。すなわち、通信相手のSTAと周辺のAPとの距離が十分に離れている状況では、その周辺のAPから通信相手のSTAへの干渉が無線信号の送信時に考慮されなくとも、電波の距離減衰によって干渉の影響が十分に抑制される。このため、この場合には、周辺のAPと連携する必要がないため、Single-AP方式が選択される。一方、通信相手のSTAと周辺のAPとの距離が一定程度に近い場合、干渉の影響が無視できないことが想定される。このため、その干渉の影響を低減するためにnull steering方式が選択される。この場合、APは、他のAPにnull steeringを実行させ、自装置の通信相手装置への与干渉を低減させる。また、APは、他のAPからの要求に基づいて、又は、他のAPの通信相手装置との距離等に基づいて、自装置においてもnull steeringを実行してもよい。
【0031】
通信相手のSTAと周辺のAPとの距離が離れているか否かの判定は、例えば、通信相手のSTAが周辺のAPのビーコンを受信する際のRSSI(受信信号強度インジケータ)に基づいて行われる。例えば、STAが、周辺のAPのビーコンの受信強度を測定し、RSSIの値をAPへ通知する。そして、APは、その通知されたRSSIが所定値以上である場合には、通信相手のSTAと周辺のAPとの距離が十分に近いと判定し、RSSIが所定値を下回る場合には、通信相手のSTAと周辺のAPとの距離が離れていると判定しうる。
【0032】
また、これ以外にも、APは、自装置の通信相手装置と他のAPとの間の距離に関連する各種情報に基づいて、null steeringを含んだ協調通信を行うか否かを決定しうる。例えば、APは、通信相手のSTAが周辺のAPの近傍に存在することを想定して、自装置と周辺のAPとの距離が離れているか否かによって、通信相手のSTAと周辺のAPとの距離が離れているかを判定してもよい。すなわち、APは、自装置と周辺のAPとの距離が離れている場合、通信相手のSTAと周辺のAPとの間の距離も離れている可能性が高いと推定する。また、APは、自装置と周辺のAPとの距離が離れていない場合、通信相手のSTAと周辺のAPとの間の距離も離れていない可能性が高いと推定しうる。このため、APは、周辺のAPから送信されたビーコンの受信強度を測定する。そして、APは、この受信強度が所定値を下回る場合に、自装置と周辺のAPとの距離が離れており、したがって、通信相手のSTAと周辺のAPとの距離も離れていると判定する。また、APは、周辺のAPからのビーコンの受信強度が所定値以上である場合に、自装置と周辺のAPとの距離が近く、したがって、通信相手のSTAと周辺のAPとの距離も近いと判定する。
【0033】
また、APは、通信相手のSTAと周辺のAPとが通信している場合、通信相手のSTAと周辺のAPとの通信に関するチャネル状態情報(CSI)を用いて、上述の判定を行ってもよい。例えば、APは、CSIに含まれるSNRの値が所定値を下回っている場合、通信相手のSTAと周辺のAPとの距離が離れている可能性が高いと推定する。また、APは、CSIに含まれるSNRの値が所定値以上の場合、通信相手のSTAと周辺のAPとの距離が近い可能性が高いと推定する。この場合、APは、周辺のAPや通信相手のSTAからCSIの情報を取得して、この判定を行いうる。CSIの情報は、例えば、APが、周辺のAPと通信相手のSTAとの少なくとも何れかに対して要求信号を送信することにより、取得されうる。また、S401においてAPが周辺のAPを発見する際に受信した信号に、その周辺のAPと通信中(接続中)のSTAとの間のCSI情報が含まれてもよい。
【0034】
また、通信相手のSTAと周辺のAPとがそれぞれGPS(Global Positioning Satellite)等の測位機能を有する場合、APは、その測位結果に基づいて、通信相手のSTAと周辺のAPとが離れているかを判定してもよい。この場合、APは、例えば通信相手のSTA及び周辺のAPから測位結果の情報をそれぞれ取得して、この判定を行いうる。なお、例えば周辺のAPが通信相手のSTAと通信中(接続中)の場合に、APは、周辺のAPから、その周辺のAPの測位結果のみならず通信相手のSTAの測位結果の情報を取得するようにしてもよい。なお、通信相手のSTAと周辺のAPとの距離が所定距離以上であるか否かがS403において判定されうるが、ここでの所定距離は、例えば、使用される周波数帯によって決定されうる。すなわち、距離減衰は使用される周波数によって異なることが想定されるため、使用される周波数帯に応じて適切に判定基準となる所定距離が決定されてもよい。
【0035】
なお、例えば上述のような距離に関連する情報が複数種類組み合わされた情報に基づいて、S403の判定が行われてもよい。
【0036】
続いて、
図5を用いて、本実施形態に係る無線通信システムにおいて実行される処理の流れの例について説明する。なお、以下の例では、AP102及びAP105は、それぞれ、STA103及びSTA106と接続中/通信中であり、各APは、それぞれ、各STAとの間のCSIを取得し、そのCSIに基づいて、使用する方式を決定するものとする。
【0037】
まず、AP102は、STA103及びSTA106との間でチャネル状態を確認し(S501、S503)、AP105も、STA103及びSTA106との間でチャネル状態を確認する(S502、S504)。例えば、AP102やAP105は、データを含まないNull Data Packet(NDP)を送信し、STA103及びSTA106は、これらのAPからのNDPにより、チャネル状態を測定する。そして、STA103及びSTA106は、測定結果に基づいて、NDPの送信元のAPへCSIをフィードバックする。その後、AP102及びAP105は、それぞれが取得したCSIを交換して共有する(S505)。AP102及びAP105は、この情報交換によって、APから複数STAへのDownLink MultiUser(DL MU)動作を並行して行うこともできる。また、CSIの取得において、STAからAPへ信号を送信した場合のチャネルの状態について確認されてもよい。この情報は、複数STAからAPへのUpLink MultiUser(UL MU)動作を行う場合に使用されうる。ここでは、AP102とAP105は、null steering方式を選択したものとする。なお、S501~S505の処理は、例えば、定期的に実行される。
【0038】
次に、AP102は、AP105に対して、null steering Trigger Frame(TF)を送信する。このTFは、次の送信動作のタイミングを特定するためのものである。ここで、AP102とAP105とのいずれがこのTFを送信する役割となるかは、ネゴシエーションによって決定されてもよく、このネゴシエーションは例えばS505のCSIの共有の際に行われうる。
【0039】
AP102及びAP105は、TFの送受信のタイミングからSIFS(Short Inter Frame Space)時間だけ経過した後、又は他の既定時間だけ経過した後に、データフレームを送信する。ここでは、AP102は、STA106の方向へヌルを向けるようにnull steeringを行いながら、STA103へデータフレームを送信する(S507)。また、AP105は、STA103の方向へヌルを向けるようにnull steeringを行いながら、STA106へデータフレームを送信する(S508)。これにより、AP102とSTA103との通信と、AP105とSTA106との通信が相互に干渉することなく、並行して行われることとなる。なお、AP102とSTA106との間のCSIにおけるSNRが十分に小さく、AP105とSTA103との間のCSIにおけるSNRが大きい場合、AP105のみがnull steeringを実行してもよい。同様に、AP102とSTA106との間のCSIにおけるSNRが十分に大きく、AP105とSTA103との間のCSIにおけるSNRが小さい場合、AP102のみがnull steeringを実行してもよい。すなわち、これらの場合、通信相手でないSTAとの間のSNRが十分に小さく、null steeringが行われなくても干渉が小さいと考えられる場合は、APは、null steeringを用いなくてもよい。これによれば、与干渉が十分に抑えられる環境において、null steeringを用いないことにより、null steeringを用いることによるスループットの低下を抑制することができる。
【0040】
なお、AP102は、TFをAP105へ送信し(S509)、STA103の方向へヌルを向けるようにnull steeringを行いながら、STA106へデータフレームを送信してもよい(S510)。また、AP105は、STA106の方向へヌルを向けるようにnull steeringを行いながら、STA103へデータフレームを送信しうる(S511)。
【0041】
このnull steering方式によれば、干渉を抑えながら通信を行うことができる。しかしながら、APと、他のAPの通信相手のSTAとの間の距離が大きい場合、この他のAPとこのSTAとの干渉は十分に電力が低いことが想定される。このため、本実施形態では、与干渉側のAPと被干渉側のSTAとの距離が大きいときには、周囲の他のAPと協調せずにSTAとの通信を実行する。すなわち、周辺のAPと協調してその周辺のAPに干渉抑制制御させる必要がない場合には、協調通信を行わずに、単独でSTAと通信を行う。これにより、干渉が起きにくい環境では通信の効率が低下しうる干渉の軽減を試みず、通信の効率を向上させることができる。また、与干渉側のAPと被干渉側のSTAとの距離が小さいときには、周囲の他のAPと協調して、干渉抑制制御を実行させて、通信の効率の低下を許容して、干渉を低減しながら通信する。このようにして、本実施形態によれば、通信装置間の距離を考慮して、効率的な通信を行うことが可能となる。
【0042】
なお、本実施形態では、APが、自装置の通信相手装置のSTAと他のAPとの距離に基づいて、この他のAPにnull steeringを行わせる協調通信を実行するか否かを決定した。また、他のAPの観点では、APは、この他のAPの通信相手装置のSTAと自装置との距離に基づいて、このAPによって、自装置がnull steeringを行う形式でこの他のAPと協調通信を実行するか否かが決定されうる。なお、APは、他のAPの通信相手装置のSTAと自装置との距離に基づいて、自装置がnull steeringを実行するかを決定してもよい。第1のAPが第2のAPにnull steeringを実行させる場合、例えばS505のチャネル状態の共有の際に、第1のAPから第2のAPに指示が送信されうる。また、同様に、第2のAPが第1のAPにnull steeringを実行させる場合、例えばS505のチャネル状態の共有の際に、第2のAPから第1のAPに指示が送信されうる。これにより、必要な場合にのみ、null steeringが実行されるようになり、通信の効率を向上させることができる。また、例えば、TFを送信するAPが、TFを受信するAPに対して、そのTFにおいてnull steeringの使用を指示し、TFを送信するAPは、自装置がnull steeringを使用するかを独自に決定してもよい。すなわち、APは、他のAPと協調通信する際に、他のAPに対して所定の処理(例えばnull steering)を実行させながら、自装置については他のAPからの指示を受けずに通信してもよい。
【0043】
なお、上述の例では、IEEE802.11規格シリーズに準拠したAPが他のAPと協調して信号を送信する例を示しているが、これに限られない。例えば、APは、複数のSTAが並行して信号を送信する際に、上述の処理と同様にして、他のAPとの間で協調して受信制御を行ってもよい。例えば、APは、自装置の通信相手のSTAと他のAPとの間の距離が近い場合に、他のAPがそのSTA方向へヌルを向けた受信アンテナ制御を実行するようにしうる。この場合、例えば、APは、他のAPの通信相手のSTAと自装置の通信相手のSTAとが並行して信号を送信するようにし、その際に、他のAPが受信アンテナ制御を行うように協調動作を行う。また、STA間での協調通信が行われる場合も、上述のような制御が実行されてもよい。さらに、無線LANに限らず、複数の通信装置がそれぞれの通信相手装置と通信する際に、通信装置は、他の通信装置との協調通信を実行するか否かを、自装置の通信相手装置と他の通信装置との距離に基づいて決定しうる。これにより、通信装置と通信相手装置との間の通信と、他の通信装置による通信とが、干渉の影響が十分に小さい状態で、かつ、協調制御が必要ない場合に不必要に協調制御を実行することによる通信の効率の低下を防ぐことができる。
【0044】
また、上述の実施形態では、送信アンテナ制御を用いる場合について説明したがこれに限られない。例えば、APは、所定のコーディング(例えばDirty Paper Coding(DPC)やそれに類するコーディング)を行うことにより、自装置の通信と他のAPの通信との間の干渉を防ぐようにしてもよい。例えば、APは、他のAPがどのようなデータを送信するかを特定して、他のAPから送信される信号が通信相手装置によってどのような波形で受信されるかを事前に予測し、自装置から送信すべき信号からその波形成分を差し引いた信号を送信しうる。これによれば、通信相手装置において、APから受信した波形が他のAPからの干渉波と加算され、APが送信すべき信号が再生された波形を受信することができる。この手法では、APが、他のAPから、送信予定のデータの情報とAPの通信相手のSTAと他のAPとの間のチャネル推定値とを事前に入手して信号の送信タイミングを相互に調整する協調動作により、干渉の影響を抑制することができる。一方、APの通信相手のSTAと他のAPとの間の距離が遠く離れている環境では、チャネル推定値等の誤差が大きくなることが想定され、そのような環境で上述の手法を用いると却って通信の性能が劣化してしまう。このため、このような干渉の影響を低減するように動作する協調通信を行うか否かが、APの通信相手と他のAPとの距離に関連する情報に基づいて決定されうる。これによれば、干渉の影響が十分に強くなく干渉波形が雑音に埋没するような環境において、相対的に大きな誤差を含んだ干渉波形を事前に減算することを防ぎ、通信性能の劣化を防ぐことが可能となる。
【0045】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0046】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0047】
201:記憶部、202:制御部、206:通信部、207:アンテナ、301:無線LAN制御部、304:方式決定部、305:Single-AP制御部、306:null steering制御部