(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】撓み噛合い式歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
F16H1/32 B
(21)【出願番号】P 2019232465
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2022-05-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】田中 史人
(72)【発明者】
【氏名】堤 豪
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-183990(JP,A)
【文献】特開2018-138810(JP,A)
【文献】実開昭53-062548(JP,U)
【文献】特開2009-162311(JP,A)
【文献】特開2003-214450(JP,A)
【文献】特開2011-112214(JP,A)
【文献】特開2014-074451(JP,A)
【文献】特開2016-217360(JP,A)
【文献】特開2017-158377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
起振体を有する起振体軸と、前記起振体軸を支持する第1軸受及び第2軸受と、前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、前記外歯歯車と噛合う内歯歯車と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、
前記第1軸受および前記第2軸受が軸方向に移動可能なプラスの隙間を調整するためのシムを有し、
前記シムは、本撓み噛合い式歯車装置の構成部材のうち、連結部材により互いに連結される部材間に配置され
、
本撓み噛合い式歯車装置は、前記シムがない場合に、前記第1軸受および前記第2軸受が軸方向に移動可能な隙間がマイナスとなるように構成され、前記シムが配置されることにより、前記第1軸受および前記第2軸受が軸方向に移動可能な隙間がプラスとなる、
撓み噛合い式歯車装置。
【請求項2】
前記シムは、前記第1軸受および前記第2軸受の間の軸受間距離を調整するためのものである、
請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項3】
前記連結部材は、前記内歯歯車と、前記第1軸受を支持する第1軸受ハウジングとを連結する、
請求項1又は請求項2に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項4】
前記シムは、リング状に形成され、複数の連結部材に対応する位置に孔を有する、
請求項1から
請求項3の何れか一項に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撓み噛合い式歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、撓み変形する外歯歯車を備えた撓み噛合い式歯車装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。外歯歯車は、起振体軸受を介して起振体軸が内嵌され、起振体軸が内側で回転することで撓み変形する。起振体軸は、玉軸受などの軸受を介して軸受ハウジングに支持される。
【0003】
このような撓み噛合い式歯車装置においては、起振体軸を支持する軸受が適正な軸支持状態となるように、当該軸受が軸方向に移動可能な隙間(遊び)を調整する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、軸受の軸方向の遊びを好適に調整することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る撓み噛合い式歯車装置は、起振体を有する起振体軸と、前記起振体軸を支持する第1軸受及び第2軸受と、前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、前記外歯歯車と噛合う内歯歯車と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、
前記第1軸受および前記第2軸受が軸方向に移動可能なプラスの隙間を調整するためのシムを有し、
前記シムは、本撓み噛合い式歯車装置の構成部材のうち、連結部材により互いに連結される部材間に配置され、
本撓み噛合い式歯車装置は、前記シムがない場合に、前記第1軸受および前記第2軸受が軸方向に移動可能な隙間がマイナスとなるように構成され、前記シムが配置されることにより、前記第1軸受および前記第2軸受が軸方向に移動可能な隙間がプラスとなるように構成した。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、軸受の軸方向の遊びを好適に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置を示す断面図である。
【
図4】従来の撓み噛合い式歯車装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
例えば
図4に示すように、一方の軸受の外輪と軸受ハウジングとの間に、調整用のシムを配置する場合がある。しかしながら、軸受の外輪と軸受ハウジングとは運転中に相対回転する場合がある。その場合、これらの間に配置されたシムは、外輪からのスラスト力を受けつつ両側から摺擦されて、変形・損傷してしまう。その結果、変形したシムに外輪が拘束されて軸受の回転が阻害されたり、軸受がシムの摩耗粉を噛み込んだりするおそれがあった。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
[撓み噛合い式歯車装置の構成]
図1は、本発明に係る撓み噛合い式歯車装置1を示す断面図である。
この図に示すように、撓み噛合い式歯車装置1は、筒型の撓み噛合い式歯車装置であり、起振体軸10、外歯歯車11、第1内歯歯車31G及び第2内歯歯車32G、起振体軸受12、ケーシング33、第1軸受ハウジング34、第2軸受ハウジング35を備える。
【0011】
起振体軸10は、回転軸O1を中心に回転する中空筒状の軸であり、回転軸O1に垂直な断面の外形が非円形(例えば楕円状)の起振体10Aと、起振体10Aの軸方向の両側に設けられた軸部10B、10Cとを有する。楕円状は、幾何学的に厳密な楕円に限定されるものではなく、略楕円を含む。軸部10B、10Cは、回転軸O1に垂直な断面の外形が円形の軸である。
なお、以下の説明では、回転軸O1に沿った方向を「軸方向」、回転軸O1に垂直な方向を「径方向」、回転軸O1を中心とする回転方向を「周方向」という。また、軸方向のうち、外部の被駆動部材Eと連結されて減速された運動を当該被駆動部材Eに出力する側(図中の左側)を「出力側」といい、出力側とは反対側(図中の右側)を「反出力側」という。
【0012】
外歯歯車11は、可撓性を有するとともに回転軸O1を中心とする円筒状の部材であり、外周に歯が設けられている。
【0013】
第1内歯歯車31Gと第2内歯歯車32Gは、回転軸O1を中心として起振体軸10の周囲で回転を行う。これら第1内歯歯車31Gと第2内歯歯車32Gは、軸方向に並んで設けられ、外歯歯車11と噛合している。具体的には、第1内歯歯車31G及び第2内歯歯車32Gの一方が、外歯歯車11の軸方向の中央より片側の歯部に噛合し、他方が、外歯歯車11の軸方向の中央よりもう一方の片側の歯部に噛合する。
このうち、第1内歯歯車31Gは、第1内歯歯車部材31の内周部の該当箇所に内歯が設けられて構成される。一方、第2内歯歯車32Gは、第2内歯歯車部材32の内周部の該当箇所に内歯が設けられて構成される。
【0014】
起振体軸受12は、例えばコロ軸受であり、起振体10Aと外歯歯車11との間に配置される。起振体10Aと外歯歯車11とは、起振体軸受12を介して相対回転可能となっている。
起振体軸受12は、外歯歯車11の内側に嵌入される外輪12aと、複数の転動体(コロ)12bと、複数の転動体12bを保持する保持器12cとを有する。
複数の転動体12bは、第1内歯歯車31Gの径方向内方に配置され、周方向に並ぶ第1群の転動体12bと、第2内歯歯車32Gの径方向内方に配置され、周方向に並ぶ第2群の転動体12bとを有する。これらの転動体12bは、起振体10Aの外周面と外輪12aの内周面とを転走面として転動する。外輪12aは、複数の転動体12bの配列に対応して同形状のものが軸方向に二つ並んで設けられている。なお、起振体軸受12は、起振体10Aとは別体の内輪を有してもよい。
【0015】
起振体軸受12及び外歯歯車11の軸方向の両側には、これらに当接して、これらの軸方向の移動を規制する規制部材としてのスペーサリング41、42が設けられている。
【0016】
ケーシング33は、第1内歯歯車部材31と連結され、第2内歯歯車32Gの外径側を覆う。ケーシング33は、内周部に形成された主軸受38(例えばクロスローラ軸受)の外輪部を有しており、当該主軸受38を介して第2内歯歯車部材32を回転自在に支持している。
ケーシング33及び第1内歯歯車部材31には、軸方向に一続きに延びる連結用孔33h、31hが設けられている。撓み噛合い式歯車装置1が外部の相手装置(被駆動装置)と接続される際、ケーシング33と第1内歯歯車部材31は連結用孔33h、31hを介して相手装置(被駆動部材Eとは異なる固定部材)に共締めにより連結される。連結用孔33h、31hは、周方向の複数の箇所に設けられている。
また、ケーシング33及び第1内歯歯車部材31は、連結用孔33h、31hとは周方向の位置が異なる別のボルト孔33j、31jを有しており、このボルト孔33j、31jに挿通・螺合されたボルト51(連結部材)により互いに連結されている。つまり、ボルト51は、撓み噛合い式歯車装置1が被駆動部材Eに取り付けられる前の状態において、当該撓み噛合い式歯車装置1に装着されている。
【0017】
第1軸受ハウジング34は、第1内歯歯車部材31と連結され、外歯歯車11と第1内歯歯車31Gとの噛合い箇所を軸方向の反出力側から覆う。第1軸受ハウジング34は、起振体軸10の軸部10Bとの間に配置された第1軸受36(例えば玉軸受)を支持している。つまり、第1軸受ハウジング34は、第1軸受36を介して起振体軸10を回転自在に支持している。
第1軸受ハウジング34及び第1内歯歯車部材31は、周方向の複数の箇所に設けられたボルト孔34k、31kを有しており、このボルト孔34k、31kに挿通・螺合されたボルト52(連結部材)により互いに連結されている。つまり、ボルト52は、撓み噛合い式歯車装置1が被駆動部材Eに取り付けられる前の状態において、当該撓み噛合い式歯車装置1に装着されている。
また、第1軸受ハウジング34と第1内歯歯車部材31の間には、後述するシム60が配置されている。
【0018】
第2軸受ハウジング35は、第2内歯歯車部材32と連結され、外歯歯車11と第2内歯歯車32Gとの噛合い箇所を軸方向の出力側から覆う。第2軸受ハウジング35は、起振体軸10の軸部10Cとの間に配置された第2軸受37(例えば玉軸受)を支持している。つまり、第2軸受ハウジング35は、第2軸受37を介して起振体軸10を回転自在に支持している。
第2軸受ハウジング35及び第2内歯歯車部材32には、出力側の端部に軸方向に一続きに延びるボルト連結用孔35h、32hが設けられている。撓み噛合い式歯車装置1が外部の相手装置と接続される際、第2軸受ハウジング35と第2内歯歯車部材32はボルト連結用孔35h、32hを介して相手装置の被駆動部材Eに共締めにより連結される。ボルト連結用孔35h、32hは、周方向の複数の箇所に設けられている。
また、第2軸受ハウジング35及び第2内歯歯車部材32は、ボルト連結用孔35h、32hとは周方向の位置が異なる別のボルト孔35j、32jを有しており、このボルト孔35j、32jに挿通・螺合されたボルト53(連結部材)により互いに連結されている。つまり、ボルト53は、撓み噛合い式歯車装置1が被駆動部材Eに取り付けられる前の状態において、当該撓み噛合い式歯車装置1に装着されている。
【0019】
さらに、撓み噛合い式歯車装置1は、シール用のオイルシール43,44,45及びOリング46,47,48を備える。
オイルシール43は、軸方向の反出力側の端部で、起振体軸10の軸部10Bと第1軸受ハウジング34との間に配置され、反出力側への潤滑剤の流出を抑制する。オイルシール44は、軸方向の出力側の端部で、起振体軸10の軸部10Cと第2軸受ハウジング35との間に配置され、出力側への潤滑剤の流出を抑制する。オイルシール45は、ケーシング33と第2内歯歯車部材32との間に配置され、この部分からの潤滑剤の流出を抑制する。
Oリング46,47,48は、第1内歯歯車部材31と第1軸受ハウジング34との間、第1内歯歯車部材31とケーシング33との間、第2内歯歯車部材32と第2軸受ハウジング35との間にそれぞれ設けられ、これらの間で潤滑剤が移動することを抑制する。
【0020】
[調整シム]
第1軸受ハウジング34と第1内歯歯車部材31の間には、第1軸受36および第2軸受37が軸方向に移動可能な隙間(の大きさ)を調整するためのシム60が配置されている。第1軸受ハウジング34と第1内歯歯車部材31は、軸方向に当接して互いの軸方向位置を規定する当接面34f、31fを有しており、当該当接面34f、31fがシム60を介して当接している。
シム60は、例えばステンレス鋼や冷間圧延鋼などで構成され、当接面34f、31fに対応してリング状に形成されている。また、当接面34f、31fには第1内歯歯車部材31と第1軸受ハウジング34を連結する複数のボルト52が挿通されており、シム60は複数のボルト52に対応する周方向位置に当該ボルト52を逃げるための孔60aを有している。したがって、シム60は、第1内歯歯車部材31と第1軸受ハウジング34の間に配置されたボルト52により、これら第1内歯歯車部材31及び第1軸受ハウジング34に対して相対移動しないように固定される。
【0021】
シム60は、上述したように、第1軸受36および第2軸受37が軸方向に移動可能な隙間(以下、「軸方向の遊び」ということもある)を調整する。より詳しくは、
図2に示すように、シム60は、起振体軸10を支持するハウジング側における第1軸受36と第2軸受37との間の軸受間距離L1を調整する。
ハウジング側の軸受間距離L1は、第1軸受36の外輪36aと軸方向に当接して第1軸受36の反出力側の軸方向位置を規定する第1軸受ハウジング34の段付き部34sから、第2軸受37の外輪37aと軸方向に当接して第2軸受37の出力側の軸方向位置を規定する第2軸受ハウジング35の段付き部35sまでの距離である。
【0022】
本実施形態では、設計時において、シム60が無い場合(第1軸受ハウジング34と第1内歯歯車部材31の当接面34f、31fが直接当接する場合)に、軸方向の遊びがマイナスとなるように、各部寸法が設計される。そして、組立時には、軸方向の遊びが所定の大きさ(例えば0.05mm)となるように、各部の軸方向距離を計測しつつ、シム60の厚さtを決定する。
これにより、第1軸受36及び第2軸受37が軸方向に移動可能な隙間の大きさ(軸方向の遊び)を適切に設定でき、第1軸受36及び第2軸受37を好適な軸支持状態とすることができる。
【0023】
なお、シム60の位置は、第1軸受ハウジング34と第1内歯歯車部材31の間に限定されない。第1軸受36および第2軸受37が軸方向に移動可能な隙間の大きさ(軸方向の遊び)を調整できればよく、シム60は、撓み噛合い式歯車装置1の構成部材のうち、ボルト(連結部材)により互いに連結される部材間に配置されていればよい。
例えば、
図3(a)に示すように、シム60がケーシング33と第1内歯歯車部材31の間に配置されてもよい。具体的には、ケーシング33と第1内歯歯車部材31のうち、軸方向に当接して互いの軸方向位置を規定する当接面33e、31eを、シム60を介して当接させてもよい。この場合、シム60の孔60aは、ケーシング33と第1内歯歯車部材31を連結するボルト51(
図1参照)に加え、連結用孔33h、31hに挿通されて撓み噛合い式歯車装置1と相手装置を連結する図示しない連結部材も逃げられるように、これらのボルト51及び連結部材に対応する位置に設けられる。
あるいは、
図3(b)に示すように、シム60が第2軸受ハウジング35と第2内歯歯車部材32の間に配置されてもよい。具体的には、第2軸受ハウジング35と第2内歯歯車部材32のうち、軸方向に当接して互いの軸方向位置を規定する当接面35e、32eを、シム60を介して当接させてもよい。この場合、シム60の孔60aは、第2軸受ハウジング35と第2内歯歯車部材32を連結するボルト53(
図1参照)に加え、ボルト連結用孔35h、32hに挿通されて撓み噛合い式歯車装置1と相手装置の被駆動部材Eを連結する図示しない連結部材も逃げられるように、これらのボルト53及び連結部材に対応する位置に設けられる。
ただし、
図3(a)、(b)の例では、シム60を第1軸受ハウジング34と第1内歯歯車部材31の間に配置する場合と異なり、シム60が撓み噛合い式歯車装置1に装着されて当該撓み噛合い式歯車装置1が組み立てられた後に、相手装置と連結するための連結部材がシム60を挟む両部材に連結される。そのため、例えば相手装置(被駆動部材E)と連結する連結部材が過大な締付トルクで締結されるなどしてシム60が変形する可能性がある。この点、シム60を第1軸受ハウジング34と第1内歯歯車部材31の間に配置する場合には、シム60を変形させない適正な締付トルクでボルト52を締結した状態が保持されるので、このようなシム60の変形のおそれがない。
【0024】
[撓み噛合い式歯車装置の減速動作]
続いて、撓み噛合い式歯車装置1の減速動作について説明する。
モータ等の駆動源により起振体軸10の回転駆動が行われると、起振体10Aの運動が外歯歯車11に伝わる。このとき、外歯歯車11は、起振体10Aの外周面に沿った形状に規制され、軸方向から見て、長軸部分と短軸部分とを有する楕円形状に撓んでいる。さらに、外歯歯車11は、固定された第1内歯歯車31Gと長軸部分で噛合っている。このため、外歯歯車11は起振体10Aと同じ回転速度で回転することはなく、外歯歯車11の内側で起振体10Aが相対的に回転する。そして、この相対的な回転に伴って、外歯歯車11は長軸位置と短軸位置とが周方向に移動するように撓み変形する。この変形の周期は、起振体軸10の回転周期に比例する。
【0025】
外歯歯車11が撓み変形する際、その長軸位置が移動することで、外歯歯車11と第1内歯歯車31Gとの噛合う位置が回転方向に変化する。ここで、例えば、外歯歯車11の歯数が100で、第1内歯歯車31Gの歯数が102だとすると、噛合う位置が一周するごとに、外歯歯車11と第1内歯歯車31Gとの噛合う歯がずれていき、これにより外歯歯車11が回転(自転)する。上記の歯数であれば、起振体軸10の回転運動は減速比100:2で減速されて外歯歯車11に伝達される。
【0026】
一方、外歯歯車11は第2内歯歯車32Gとも噛合っているため、起振体軸10の回転によって外歯歯車11と第2内歯歯車32Gとの噛合う位置も回転方向に変化する。ここで、第2内歯歯車32Gの歯数と外歯歯車11の歯数とが同数であるとすると、外歯歯車11と第2内歯歯車32Gとは相対的に回転せず、外歯歯車11の回転運動が減速比1:1で第2内歯歯車32Gへ伝達される。これらによって、起振体軸10の回転運動が減速比100:2で減速されて、第2内歯歯車部材32及び第2軸受ハウジング35へ伝達され、この回転運動が被駆動部材Eに出力される。
【0027】
ここで、撓み噛合い式歯車装置1では、第1軸受36および第2軸受37の軸方向の遊びを調整するシム60が、ボルト52で互いに連結された第1軸受ハウジング34と第1内歯歯車部材31の間に配置されている。そのため、シムが軸受の外輪と軸受ハウジングの間に配置される場合(
図4参照)と異なり、装置動作時にシム60と第1軸受ハウジング34及び第1内歯歯車部材31とが相対回転することがない。これにより、摺擦によるシム60の変形や損傷を抑制し、シム60での調整による第1軸受36及び第2軸受37の好適な軸支持状態を維持できる。
【0028】
[本実施形態の技術的効果]
以上のように、本実施形態によれば、起振体軸10を支持する第1軸受36と第2軸受37の軸方向の遊びを調整するためのシム60が、撓み噛合い式歯車装置1の構成部材のうち、ボルト52により互いに連結される部材間に配置される。
そのため、シムが軸受の外輪と軸受ハウジングの間に配置される場合と異なり、装置動作時にシム60と第1軸受ハウジング34及び第1内歯歯車部材31とが相対回転することがない。これにより、摺擦によるシム60の変形や損傷を抑制し、シム60での調整による第1軸受36及び第2軸受37の好適な軸支持状態を維持できる。
したがって、第1軸受36及び第2軸受37の軸方向の遊びを好適に調整することができる。
【0029】
また、本実施形態によれば、ボルト52(連結部材)は、撓み噛合い式歯車装置1が被駆動部材Eに取り付けられる前の状態において撓み噛合い式歯車装置1に装着されている。
そのため、被駆動部材Eへの取付けに用いられる連結部材によってシム60が共締めされることがなく、被駆動部材Eへの取付け前にシム60を撓み噛合い式歯車装置1内に適正に組み付けておくことができる。
【0030】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られない。
例えば、上記実施形態では、シム60を挟む2つの部材を連結する連結部材がボルトであることとした。しかし、当該連結部材は、2つの部材とシムとが相対移動しないように固定するものであれば、ボルトに限定されない。
【0031】
また、上記実施形態では、相手装置の被駆動部材Eが第2軸受ハウジング35及び第2内歯歯車部材32に連結され、相手装置のうち被駆動部材Eとは異なる固定部材がケーシング33及び第1内歯歯車部材31に連結されることとした。しかし、相手装置の被駆動部材Eがケーシング33及び第1内歯歯車部材31に連結され、相手装置の固定部材が第2軸受ハウジング35及び第2内歯歯車部材32に連結されることとしてもよい。
【0032】
また、上記実施形態では、撓み噛合い式歯車装置1として筒型の噛合い式歯車装置を例に挙げて説明した。しかし、本発明は、筒型以外の撓み噛合い式歯車装置、例えばカップ型やシルクハット型などにも好適に適用できる。
例えば、特開2014-74451号公報に記載のカップ型の場合には、締結ボルト11で連結される円筒状ケーシング2と端板3の間か、または締結ボルト13で連結されるクロスローラベアリング12の外輪12aと円筒状ケーシング2の間にシムを配置すればよい。
その他、上記実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 撓み噛合い式歯車装置
10 起振体軸
10s 段付き部
11 外歯歯車
31 第1内歯歯車部材
31G 第1内歯歯車
31e 当接面
31f 当接面
31j ボルト孔
31k ボルト孔
32 第2内歯歯車部材
32G 第2内歯歯車
32e 当接面
32j ボルト孔
33 ケーシング
33e 当接面
33j ボルト孔
34 第1軸受ハウジング
34f 当接面
34k ボルト孔
34s 段付き部
35 第2軸受ハウジング
35e 当接面
35j ボルト孔
35s 段付き部
36 第1軸受
36a 外輪
36b 内輪
37 第2軸受
37a 外輪
37b 内輪
51 ボルト(連結部材)
52 ボルト(連結部材)
53 ボルト(連結部材)
60 シム
60a 孔
E 被駆動部材
L1 (ハウジング側の)軸受間距離
O1 回転軸