IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クボタの特許一覧

<>
  • 特許-自動走行可能な農作業車 図1
  • 特許-自動走行可能な農作業車 図2
  • 特許-自動走行可能な農作業車 図3
  • 特許-自動走行可能な農作業車 図4
  • 特許-自動走行可能な農作業車 図5
  • 特許-自動走行可能な農作業車 図6
  • 特許-自動走行可能な農作業車 図7
  • 特許-自動走行可能な農作業車 図8
  • 特許-自動走行可能な農作業車 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】自動走行可能な農作業車
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
A01B69/00 303M
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020003695
(22)【出願日】2020-01-14
(65)【公開番号】P2021108597
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大久保 樹
(72)【発明者】
【氏名】久保田 祐樹
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-071426(JP,A)
【文献】実開平07-039307(JP,U)
【文献】特開2019-106983(JP,A)
【文献】特開平07-059407(JP,A)
【文献】特開2017-123829(JP,A)
【文献】特開2019-146505(JP,A)
【文献】国際公開第2015/119263(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
境界物によって境界付けられた圃場面を走行する自動走行可能な農作業車であって、
機体位置を算出する機体位置算出部と、
前記境界物との接触を避けるために設定された境界線と前記機体位置とに基づいて、前
記境界線を越える走行を禁止する越境防止制御部と、
越境許可指令により機体が前記境界線を越えた状態を許可する越境許可部と、
走行制御状態に基づいて前記越境許可指令を前記越境許可部に出力する越境許可指令部と、を備え、
前記越境許可指令は、前記境界線を前記境界物側に拡張する拡張指令であり、前記越境許可部は、前記拡張指令に基づいて前記境界線を前記境界物側に拡張する農作業車。
【請求項2】
境界物によって境界付けられた圃場面を走行する自動走行可能な農作業車であって、
機体位置を算出する機体位置算出部と、
前記境界物との接触を避けるために設定された境界線と前記機体位置とに基づいて、前
記境界線を越える走行を禁止する越境防止制御部と、
越境許可指令により機体が前記境界線を越えた状態を許可する越境許可部と、
走行制御状態に基づいて前記越境許可指令を前記越境許可部に出力する越境許可指令部と、を備え、
前記越境許可指令は、前記境界線を無効にする無効化指令であり、前記越境許可部は、前記無効化指令に基づいて前記境界線を無効にする農作業車。
【請求項3】
境界物によって境界付けられた圃場面を走行する自動走行可能な農作業車であって、
機体位置を算出する機体位置算出部と、
前記境界物との接触を避けるために設定された境界線と前記機体位置とに基づいて、前記境界線を越える走行を禁止する越境防止制御部と、
越境許可指令により機体が前記境界線を越えた状態を許可する越境許可部と、
走行制御状態に基づいて前記越境許可指令を前記越境許可部に出力する越境許可指令部と、を備え、
前記走行制御状態には、前記境界物に向かう直進走行において前記機体位置から前記境界線までの距離が所定距離に達する直進接近状態が含まれ、前記直進接近状態が検知された場合、前記越境許可指令が出力される農作業車。
【請求項4】
境界物によって境界付けられた圃場面を走行する自動走行可能な農作業車であって、
機体位置を算出する機体位置算出部と、
前記境界物との接触を避けるために設定された境界線と前記機体位置とに基づいて、前記境界線を越える走行を禁止する越境防止制御部と、
越境許可指令により機体が前記境界線を越えた状態を許可する越境許可部と、
走行制御状態に基づいて前記越境許可指令を前記越境許可部に出力する越境許可指令部と、を備え、
前記走行制御状態には、リモコン操作によって前記境界物に向かって接近するリモコン接近走行状態が含まれ、前記リモコン接近走行状態が検知された場合、前記越境許可指令が出力される農作業車。
【請求項5】
境界物によって境界付けられた圃場面を走行する自動走行可能な農作業車であって、
機体位置を算出する機体位置算出部と、
前記境界物との接触を避けるために設定された境界線と前記機体位置とに基づいて、前記境界線を越える走行を禁止する越境防止制御部と、
越境許可指令により機体が前記境界線を越えた状態を許可する越境許可部と、
走行制御状態に基づいて前記越境許可指令を前記越境許可部に出力する越境許可指令部と、を備え、
前記走行制御状態には、手動走行操作具によって前記境界物に向かって接近する手動接近走行状態が含まれ、前記手動接近走行状態が検知された場合、前記越境許可指令が出力される農作業車。
【請求項6】
境界物によって境界付けられた圃場面を走行する自動走行可能な農作業車であって、
機体位置を算出する機体位置算出部と、
前記境界物との接触を避けるために設定された境界線と前記機体位置とに基づいて、前記境界線を越える走行を禁止する越境防止制御部と、
越境許可指令により機体が前記境界線を越えた状態を許可する越境許可部と、
走行制御状態に基づいて前記越境許可指令を前記越境許可部に出力する越境許可指令部と、を備え、
前記圃場面は、前記境界線に沿った外周領域と前記外周領域の内側に位置する内部領域とに分けられ、
周回しながら前記外周領域に対する作業を行う周回作業走行モードと、直進走行とUターン走行とを繰り返しながら前記内部領域に対する作業を行う内部作業走行モードとが用意され、
前記内部作業走行モードでの直進走行が前記外周領域にまで続行して前記内部作業走行モードが中断された場合、前記越境許可部よる前記境界線の拡張または前記境界線の無効化が実行される農作業車。
【請求項7】
前記越境許可部よる前記境界線の拡張または前記境界線の無効化は、中断された前記内部作業走行モードが再実行されると解消される請求項に記載の農作業車。
【請求項8】
前記境界線の位置及び前記機体位置は、衛星測位を用いて算出される請求項1からのいずれか一項に記載の農作業車。
【請求項9】
前記境界線は前記境界物から所定距離だけ圃場内側にオフセットされている請求項1からのいずれか一項に記載の農作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、境界物によって境界付けられた圃場面を走行する自動走行可能な農作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1による農作業車は、圃場の境界線の地図位置を示す境界線データを管理する境界線データ管理部と、衛星航法を用いて自車位置を算出する自車位置算出部と、自車位置から機体の走行方位を算出する走行方位算出部と、走行方位での機体から境界線までの縦離間距離を離間距離として算出する離間距離算出部と、前記離間距離に応じて車速を管理する車速管理部とを備える。このような作業車では、車速管理部が、算出された離間距離に応じて車速を管理しているので、作業車が境界線に達する前に、減速や停車を行うことで、農作業車が、境界線を形成している畦などと接触することを回避できる。
【0003】
特許文献2による農作業車は、人為操舵または自動操舵によって圃場の内部領域の直進走行と畦際領域でのUターンとを繰り返しながら走行する走行機体と、圃場に対して作業を行う圃場作業装置と、衛星測位によって算出された自車位置に基づいて走行機体が畦際領域に到達したことを検知する畦際検知モジュールとを備えている。この農作業車では、自車位置と作業を行う直進走行の終点(畦際領域への進入点)の位置とを常に比較することで、車両が畦際領域への進入する手前及び車両が畦際領域への進入した後での車両減速、警告の報知、車両の停止などが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-106983号公報
【文献】特開2017-123829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
農作業車は、圃場に対する作業の途中で、農用資材の補給、収穫物の排出、燃料補給などのために、畔などの境界物に機体を寄せ付けるように走行する必要がある。特許文献1や特許文献2による農作業車では、畦際領域に設定された境界線に接近すると、自動停止が行われるので、補給等のために畔に接近するには、そのような境界接近防止制御を解除する必要がある。その際に、そのような境界接近防止制御の解除を忘れると、機体の不意の停止に業者が慌てるという事態が生じる。特に、田植機での苗補給や薬剤散布機での薬剤補給は頻繁に行われるので、境界接近防止制御の解除は煩わしい操作となる。
このような実情から、本発明の目的は、圃場作業中での機体の境界物への寄せ付けがスムーズに行われる農作業車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による自動走行可能な農作業車は、境界物によって境界付けられた圃場面を走行し、機体位置を算出する機体位置算出部と、前記境界物との接触を避けるために設定された境界線と前記機体位置とに基づいて前記境界線を越える走行を禁止する越境防止制御部と、越境許可指令により機体が前記境界線を越えた状態を許可する越境許可部と、
走行制御状態に基づいて前記越境許可指令を前記越境許可部に出力する越境許可指令部とを備える。
【0007】
この構成によれば、走行制御状態に基づいて越境許可指令部から出力される越境許可指令によって、境界線を越える走行が、越境防止制御部によって禁止されずに可能となる。これによって、農作業車は、停車することなしに、畔や農道などの境界物に接近することができる。圃場に対する作業の途中で、農用資材の補給、収穫物の排出、燃料補給などのために、畔や農道などの圃場の境界物に機体を接近させるような走行制御状態が検知されると、機体が境界線を越える状態を許可する越境許可指令が出力されるので、この接近走行はスムーズに行われる。なお、本願発明において用いられている直進走行なる語句は、直線走行のみを意味するわけではなく、大きな曲率半径でもって湾曲する湾曲走行なども含まれる。
【0008】
設定されている境界線を越える走行が可能となる方法として、境界線を拡張すること、あるいは境界線そのものを無効にすることが提案される。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記越境許可指令は、前記境界線を前記境界物側に拡張する拡張指令または前記境界線を無効にする無効化指令であり、前記越境許可部は、前記拡張指令に基づいて前記境界線を前記境界物側に拡張するとともに前記無効化指令に基づいて前記境界線を無効にする。制御的には、境界線を無限大に拡張することは境界線の無効化と同義となる。したがって、以下の本願明細書の記載では、境界線の拡張には、境界線の無効化が含まれている。越境許可指令に基づいて、境界線の拡張が行われるか、あるいは境界線の無効化が行われるかは、予め選択できるようにしてもよいし、どちらか一方だけを採用してもよい。あるいは、走行制御状態に応じて、選択されるように構成してもよい。
【0009】
上述したような、境界線の拡張(無効化)のトリガーとなる走行制御状態として、いくつかの状態が挙げられる。圃場における通常の作業走行では、自動走行であっても、あるいは手動走行であっても、境界線に近づく前に機体の方向転換(旋回走行)が行われる。これに対して、農作業車が農用資材の補給などの目的のために畔や農道などの圃場の境界物に接近する場合、農作業車は境界線に近づき、さらに直進走行する。このような走行制御状態は境界線の拡張のトリガーとして利用することができる。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記走行制御状態には、前記境界物に向かう直進走行において前記機体位置から前記境界線までの距離が所定距離に達する直進接近状態が含まれ、前記直進接近状態が検知された場合、前記越境許可指令が出力される。
【0010】
自動走行可能な農作業車には、自動走行の開始や停止、微小走行などの操作が可能なリモコンが備えられているものがある。リモコンは、人為的に操作されるので、リモコンを用いた走行は、操作者による安全確認が前提となる。このことから、リモコン操作に基づく走行制御状態は、境界線の拡張のトリガーとして利用することができる。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記走行制御状態には、リモコン操作によって前記境界物に向かって接近するリモコン接近走行状態が含まれ、前記リモコン接近走行状態が検知された場合、前記越境許可指令が出力される。
【0011】
農用資材の補給などの目的のために、作業者が手動操作によって、農作業車を畔や農道などに接近させることも可能である。この場合、作業者は、手動走行操作具を用いて、例えば微小走行を繰り返しながら畔や農道などに農作業車を接近させる。このことから、手動走行操作具によって畔や農道などに農作業車を接近させる走行制御状態は、境界線の拡張のトリガーとして利用することができる。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記走行制御状態には、手動走行操作具によって前記境界物に向かって接近する手動接近走行状態が含まれ、前記手動接近走行状態が検知された場合、前記越境許可指令が出力される。
【0012】
農作業車による圃場における多くの農作業では、作業対象となる圃場面は、外周領域とこの外周領域の内側に位置する内部領域とに分けられ、内部領域の作業は、直進走行と方向転換のための旋回走行(主にUターン走行)とを繰り返しながら行われる。その際、旋回走行は、外周領域で行われる。外周領域の作業は、畔や農道などの境界物に沿った周回走行で行われる。コンバインなどの収穫作業を行う農作業車では、先に外周領域の作業走行が行われ、その後に内部領域の作業走行が行われる。田植機や施肥機や薬剤散布機などは、先に内部領域の作業走行が行われ、その後に外周領域の作業走行が行われる。内部領域の作業走行の途中で、農用資材の補給や収穫物の排出などが行われる場合には、農作業車は外周領域での旋回走行を行わずに、そのまま直進走行を続行して、畔や農道などに接近する。このことから、このような内部領域の直進走行が外周領域まで続行される走行制御状態は、境界線の拡張のトリガーとして利用することができる。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記圃場面は、前記境界線に沿った外周領域と前記外周領域の内側に位置する内部領域とに分けられ、周回しながら前記外周領域に対する作業を行う周回作業走行モードと、直進走行とUターン走行とを繰り返しながら前記内部領域に対する作業を行う内部作業走行モードとが用意され、前記内部作業走行モードでの直進走行が前記外周領域にまで続行して前記内部作業走行モードが中断された場合、前記越境許可部よる前記境界線の拡張が実行される。
【0013】
内部作業走行モードでの作業走行を中断し、畔や農道などに接近して、農用資材の補給や収穫物の排出などが行われた後は、再び内部領域に戻って、内部作業走行モードでの作業走行が再開される。内部作業走行モードでの作業走行が再開されると、拡張された境界線は元に戻す必要がある。この境界線の復帰も自動制御されると好都合である。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記越境許可部よる前記境界線の拡張は、中断された前記内部作業走行モードが再実行されると解消される。
【0014】
境界線と機体位置と基づいて境界物との干渉を避ける制御が行われるので、境界線の算出及び機体位置は、同じ方式でかつ正確かつ迅速に算出されることが好ましい。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記境界線の位置及び前記機体位置は、衛星測位を用いて算出される。その際、境界線の算出は、境界物に近接して農作業車を走行させた際に衛星測位によって得られる走行軌跡から算出することができる。その際、不測のスリップや操舵のふらつきなどが生じても、農作業車が畔などの境界物と接触しないように安全距離を付加して、つまり、圃場内側にオフセットして、最終的な境界線の位置が決定されると好都合である。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記境界線は前記境界物から所定距離だけ圃場内側にオフセットされている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】農作業車の一例である田植機の側面図である。
図2】自動走行による苗植付作業の流れを示すフローチャートである。
図3】障害物検出器の配置を示す模式図である。
図4】走行経路が設定される圃場の領域分割を示す説明図である。
図5】外周領域に設定される周回走行経路と田植機の走行とを説明する説明図である。
図6】内部領域に設定される往復走行経路と田植機の走行とを説明する説明図である。
図7】田植機の制御系を示す機能ブロック図である。
図8】走行制御状態に基づく境界線拡張を説明するための説明図である。
図9】リモコンの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による農作業車の実施形態として、乗用型の田植機を取り上げて、以下に説明される。この田植機は、境界物によって境界付けられた圃場面を自動走行することができる。なお、本明細書では、特に断りがない限り、「前」は機体前後方向(走行方向)に関して前方を意味し、「後」は機体前後方向(走行方向)に関して後方を意味する。また、左右方向または横方向は、機体前後方向に直交する機体横断方向(機体幅方向)を意味する。「上」または「下」は、機体の鉛直方向(垂直方向)での位置関係であり、地上高さにおける関係を示す。
【0017】
図1は、田植機の側面図である。田植機は、乗用型で四輪駆動形式の走行機体(以下、機体1と称する)を備えている。機体1は、機体1の後部に昇降揺動可能に連結された平行四連リンク形式のリンク機構11、リンク機構11を揺動駆動する油圧式の昇降シリンダ11a、リンク機構11の後端部にローリング可能に連結される苗植付装置3(農用資材投与装置の一例)、及び、機体1の後端部から苗植付装置3にわたって架設されている施肥装置4などを備えている。
【0018】
機体1は、走行のための機構として車輪12、エンジン13、及び油圧式の無段変速装置14を備えている。車輪12は、操舵可能な左右の前輪12Aと、操舵不能な左右の後輪12Bとを有する。エンジン13及び無段変速装置14は、機体1の前部に搭載されている。エンジン13からの動力は、無段変速装置14などを介して前輪12A、後輪12Bなどに供給される。
【0019】
苗植付装置3は、一例として8条植え形式に構成されている。苗植付装置3は、苗載せ台31、8条分の植付機構32などを備えている。なお、この苗植付装置3は、図示されていない各条クラッチの制御により、2条植え、4条植え、6条植えなどの形式に変更可能である。
【0020】
苗載せ台31は、8条分のマット状苗を載置する台座である。苗載せ台31は、マット状苗の左右幅に対応する一定ストロークで左右方向に往復移動し、縦送り機構33は、苗載せ台31が左右のストローク端に達するごとに、苗載せ台31上の各マット状苗を苗載せ台31の下端に向けて所定ピッチで縦送りする。8個の植付機構32は、ロータリ式で、植え付け条間に対応する一定間隔で左右方向に配置されている。そして、各植付機構32は、機体1からの動力により、苗載せ台31に載置された各マット状苗の下端から一株分の苗を切り取って、整地後の泥土部に植え付ける。
【0021】
苗植付装置3には、植付機構32による苗取り量を調節する苗取り量調節機能が備えられている。植付機構32は、苗載せ台31の下端を摺動案内するガイドレールに形成された苗取り出し口を通過して一株分の苗を取り出して植え付ける。苗載せ台31及び苗載せ台31の下端を摺動案内するガイドレールを上下に位置変更することにより苗取り量を調節する。
【0022】
図1に示すように、施肥装置4は、横長のホッパ41、繰出機構42、電動式のブロワ43、複数の施肥ホース44、及び、条毎に備えられた作溝器45を備えている。ホッパ41は、粒状または粉状の肥料を貯留する。繰出機構42は、エンジン13から伝達される動力で作動し、ホッパ41から2条分の肥料を所定量ずつ繰り出す。この施肥装置4は、繰出機構42による肥料の繰出し量を変更する繰出し量調節機能を有する。
【0023】
ブロワ43は、機体1に搭載されたバッテリ(図示せず)からの電力で作動し、各繰出機構42により繰り出された肥料を圃場の泥面に向けて搬送する搬送風を発生させる。施肥装置4は、ブロワ43などの断続操作により、ホッパ41に貯留した肥料を所定量ずつ圃場に供給する作動状態と、供給を停止する非作動状態とに切り換えることができる。
【0024】
各施肥ホース44は、搬送風で搬送される肥料を各作溝器45に案内する。各作溝器45は、各整地フロート15に配備されている。そして、各作溝器45は、各整地フロート15と共に昇降し、各整地フロート15が接地する作業走行時に、水田の泥土部に施肥溝を形成して肥料を施肥溝内に案内する。
【0025】
機体1は、その後部側に運転部20を備えている。運転部20には、手動走行操作具として、前輪操舵用のステアリングホイール21、無段変速装置14の変速操作を行うことで車速を調整する主変速レバー22、副変速装置の変速操作を可能にする副変速レバー23、苗植付装置3の昇降操作と作動状態の切り換えなどを可能にする作業操作レバー25などが備えられている。さらに運転席16の前方には、汎用端末9が設けられている。汎用端末9は、各種の情報を表示してオペレータに報知する報知デバイスや各種の情報の入力を受け付けるタッチパネルを備えている。ステアリングホイール21の周辺には、運転者による運転モード切替操作具24が設けられている。さらに、運転部20の前方に、予備苗を収容する予備苗フレーム17が設けられている。
【0026】
ステアリングホイール21は、非図示の操舵機構を介して前輪12Aと連結されており、ステアリングホイール21の回転操作を通じて、前輪12Aの操舵角が調整される。操舵機構には、ステアリングモータM1も連結されており、自動走行時には、操舵信号に基づいてステアリングモータM1が動作することにより、前輪12Aの操舵角が調整される。さらに、主変速レバー22を自動操作するための変速操作用モータM2も備えられており、自動走行時には、変速信号に基づいて変速操作用モータM2が動作することにより、無段変速装置14の変速位置が調整される。
【0027】
予備苗フレーム17の上部には、上方に延びた延長フレーム17aが設けられている。この延長フレーム17aには、外部に田植機の状態を報知する複数のカラーランプが縦方向に並んだ積層灯18と、測位ユニット8が取り付けられている。測位ユニット8は、機体1の位置及び方位(機体方位)を算出するための測位データを出力する。測位ユニット8には、全地球航法衛星システム(GNSS)の衛星からの電波を受信する衛星測位モジュール8Aと、機体1の三軸の傾きや加速度を検出する慣性計測モジュール8Bが含まれている。
【0028】
この田植機による自動走行と手動走行とを組み合わせた苗植付作業における処理手順の一例が図2に示されている。図2の例では、この苗植付作業には、作業前処理#A、マップ作成処理#B、境界線算出処理#C、経路生成処理#D、作業開始点誘導処理#E、内側往復植付処理#G、外周植付処理#Hが含まれている。さらに、内側往復植付処理#Eにおいて、苗補給処理#Fが行われている。苗補給処理#Fは外周植付処理#Gにおいて行われることもある。
【0029】
作業前処理#Aでは、田植機の制御系の各ユニット間の通信チェックや測位ユニット8の通信チェックなどが行われる。さらに、田植機では、リモコン90(図1参照)を用いた遠隔制御や障害物検出器80(図3参照)による障害物検出が行われるので、リモコン90や障害物検出器80の機能チェックも前処理として行われる。図3に示すように、この実施形態での障害物検出器80はソナータイプであり、機体1の前方を検出範囲とする4つのフロントソナー80f、機体1の左右を検出範囲とする2つのサイドソナー80s、機体1の前方を検出範囲とする2つのリアソナー80rからなる。
【0030】
マップ作成処理#Bは、作業対象となっている圃場のマップ、つまり圃場面の外形を測定する処理である。田植機が圃場面を境界付ける畔などの境界物に接近して、この境界物に沿って手動走行(マップ作成ティーチング走行)した時に得られる測位ユニット8からの位置信号に基づいて走行軌跡が算出される。この走行軌跡からから、圃場面の地図情報としての圃場輪郭線、つまり圃場マップが得られる。
【0031】
境界線算出処理#Cでは、図4に示すように、マップ作成処理#Bで算出された走行軌跡から、田植機が圃場の境界物との接触を避けるための限界となる機体1の位置を示す境界線が算出される。田植機の通常の走行において、機体1の位置がこの境界線(越境ラインとも呼ばれる)を越えない限り、田植機が畔などの境界物と接触しない。機体1の位置が境界線に達すると、機体1は強制的に停止する。この田植機は自動走行可能であることから、不測のスリップや操舵のふらつきなどが生じても、田植機が畔などの境界物と接触しないように安全距離を付加して、最終的な境界線の位置が決定される。つまり、境界線は圃場の境界物から所定距離だけ圃場内側にオフセットされている。
【0032】
経路生成処理#Dでは、マップ作成処理#Bで作成された圃場マップ内に設定される自動走行の目標となる走行経路が所定のアルゴリズムによって作成される。自動走行での苗植付作業のために生成された走行経路について以下に説明する。
【0033】
圃場マップによって規定された圃場面は、図4に示すように、外周領域と内部領域とに区分けされる。生成される走行経路は、外周領域に設定される周回走行経路(図5参照)と、内部領域設定される往復走行経路(図6参照)とからなる。田植機は、最初に往復走行経路に沿って内部領域に対する苗植付作業を行い(内部作業走行モードと称する)、その後に、周回走行経路に沿って外周領域に対する苗植付作業を行う(周回作業走行モードと称する)。
【0034】
周回走行経路は、圃場境界物(畔)に平行に延びる周回直線経路と、周回直線経路どうしをつなぐために前進と後進とを取り入れた方向転換経路とからなる。なお、図5において、周回直線経路には符号R1が付与され、方向転換経路には符号R2が付与されている。往復走行経路は、多数の互いに略平行な直進経路と、直進経路どうしをつなぐ旋回経路(Uターン経路)からなる。それぞれの直進経路において、植付開始位置(旋回終了位置でもある)から苗の植え付けが開始され、植付終了位置(旋回開始位置でもある)で苗の植え付けが終了される。なお、図6において、植付開始位置には符号USが付与され植付終了位置には符号UFが付与され、直進経路にはR3が付与され、旋回経路には符号R5が付与されている。図5および図6において、往復走行経路から周回走行経路に移行するための移行経路には符号R4が付与されている。ここでの例では、移行経路は、旋回経路と類似している。さらに、図5および図6には、田植機の作業幅が符号Wで示され、田植機の圃場への出入口が斜線で描かれ、符号GAが付与されている。図6には、出入口から往復走行経路の走行開始位置(図6で符号Sが付与されている)までの開始案内経路(図6で符号R6が付与されている)が示されている。旋回経路、方向転換経路、開始案内経路、移行経路では、田植機は作業を行わずに走行するので、これらの経路は点線で示される。周回直線経路および直進経路では、田植機は作業を行いながら走行するので、これらの経路は実線で示される。
【0035】
作業開始点誘導処理#Eでは、マップ作成ティーチング走行を終えて、出入口付近に停止した田植機は、苗植付作業の開始点である走行開始位置までの走行経路である開始案内経路に沿って、自動走行で走行開始位置まで走行する。
【0036】
内側往復植付処理#Fでは、走行モードは内部作業走行モードとなり、図6に示された往復走行経路に沿って自動走行され、内部領域の苗植付作業が行われる。内部領域が大きい場合、この往復走行において、予備苗フレーム17に苗箱を積み込む苗補給処理#Gが行われる。苗補給処理#Gでは、田植機は、直進経路から旋回経路には移行せずに、一旦停止する。その後、リモコン90や手動操作具などを用いて、田植機の前端、つまり予備苗フレーム17を畔に接近させる接近直進走行が行われる。この接近直進走行では、機体1が畔に接触寸前まで接近する。このため、機体1の位置が境界線を突破することで、機体1が非常停止することを避けるため、苗補給処理#Gでは、境界線が拡張される。苗補給の終了後は、田植機は、自動走行で、離脱した直進経路の次に走行する予定の直進経路まで進み、その後は、目標となる直進経路に沿った苗植付作業が再開される。次の直進経路が捕捉され自動走行での苗植付作業が再開されると、一旦拡張された境界線は元に戻される。
【0037】
なお、苗植付作業と同時に施肥作業や薬剤散布作業が行われる場合、内側往復植付処理#Fの実行途中で、肥料補給や薬剤補給も必要となる。そのような補給作業でも、苗補給作業と同様に、手動運転での畔接走行と自動走行での復帰走行が行われる。但し、肥料補給や薬剤補給の際に機体1の後端を畔に寄せる必要がある場合には、機体1は、旋回経路から次の直進経路に入る手前で停止し、畦への接近走行が後進で行われ、補給作業後は、前進で目標となる直進経路に戻る。
【0038】
内側往復植付処理#Fが終了すると、走行モードは周回作業走行モードとなり、図5で示された周回走行経路に沿った苗植付作業である外周植付処理#Hが実行される。この実施形態では、周回走行経路は、最初に走行する内側一周分の内周回走行経路と、その後に走行する外側一周分の外周回走行経路とからなる。基本的には、外周回走行経路の終了位置は圃場の出入口となっているので、外周回走行経路に沿った苗植付作業の後、田植機は、出入口を通じて圃場から出る。内周回走行経路に沿った苗植付作業は自動走行で行われる。外周回走行経路に沿った苗植付作業は、精密な走行が必要とされるので、自動走行であっても、監視者としての運転者が搭乗する有人自動走行が好ましい。
【0039】
図7には、この田植機の制御系の制御ブロック図が示されている。田植機の制御系は、田植機の各種動作を制御する制御装置100と、制御装置100とのデータ交換が可能な汎用端末9とリモコン90とからなる。制御装置100には、測位ユニット8、運転モード切替操作具24、走行センサ群28、作業センサ群29、障害物検出器80からの信号が入力されている。制御装置100からの制御信号が、走行機器群1Aと作業機器群1Bとに出力される。
【0040】
走行機器群1Aには、例えば、ステアリングモータM1や変速操作用モータM2が含まれており、制御装置100からの制御信号に基づいて、ステアリングモータM1が制御されることで操舵角が調節され、変速操作用モータM2が制御されることで車速が調節される。
【0041】
作業機器群1Bには、例えば、苗植付装置3を昇降調整する昇降シリンダ11a、植付機構32による苗取り量を調節する苗取り量調節機器、繰出機構42による肥料の繰出し量を変更する繰出し量調節機器などが含まれている。
【0042】
走行センサ群28には、操舵角、車速、エンジン回転数などの状態及びそれらに対する設定値を検出する各種センサが含まれている。作業センサ群29には、リンク機構11、苗植付装置3、施肥装置4の状態を検出する各種センサが含まれている。
【0043】
制御装置100には、走行制御部6、作業制御部51、機体位置算出部52、走行経路管理部53、運転制御状態検知部55、境界線管理部56、入力信号処理部50a、通信部50bが備えられている。
【0044】
入力信号処理部50aは、田植機に設けられている各種センサ、スイッチ、レバーなどからの信号を処理して、制御装置100に構築されている機能部に転送する。通信部50bは、無線通信機能を有し、外部、例えばリモコン90とのとのデータ通信を行ない、受信データを入力信号処理部50aに転送する。
【0045】
走行制御部6には、自動走行制御部6Aと手動走行制御部6Bと制御管理部6Cとが備えられている。自動走行制御部6Aは、自動走行時の速度制御や操舵制御を行う。走行経路管理部53によって設定された目標となる走行経路と機体位置算出部52によって算出された機体位置とを比較して算出される横偏差及び方位偏差に基づいて、横偏差及び方位偏差が縮小するように、操舵制御が行われる。
【0046】
この田植機では、目標となる走行経路に沿って自動走行する自動走行モード以外に、少なくとも2点によって規定される基準線の方位を維持するように自動で直進走行する直線維持運転モードが備えられている。直線維持運転モードで用いられる基準線として、走行経路管理部53によって管理されている直進走行経路が流用可能である。
【0047】
手動運転モードでは、手動走行制御部6Bが、ステアリングホイール21の操作量に基づいて、ステアリングモータM1を制御する。制御管理部6Cは、運転モード切替操作具24からの信号に基づいて、自動走行モード、直線維持運転モード、手動運転モードのいずれかを選択する。
【0048】
作業制御部51は、自動走行では、前もって与えられているプログラムに基づいて自動的に作業機器群1Bを制御し、手動走行では、運転者の操作に基づいて、作業機器群1Bを制御する。機体位置算出部52は、測位ユニット8から逐次送られてくる衛星測位データに基づいて、機体1の地図座標(機体位置)を算出する。
【0049】
この実施形態では、汎用端末9に、圃場情報格納部91、圃場マップ作成部92、走行経路生成部93、境界線算出部94、走行軌跡生成部95が備えられている。圃場情報格納部91は、作付け種や圃場の入口(出口)位置や苗補給可能位置など圃場に関する情報が格納されている。圃場マップ作成部92は、図2を用いて説明されたマップ作成処理を行う。走行経路生成部93は、圃場マップ作成部92によって作成された圃場マップに基づいて圃場を外周領域と内部領域とに区分けし、外周領域を走行するための周回走行経路と、内部領域の往復走行経路を生成する。境界線算出部94は、図2を用いて説明された境界線算出処理を行う。圃場マップ作成部92によるマップ作成処理や境界線算出部94による境界線算出処理には、マップ作成ティーチング走行における走行軌跡が必要である。走行軌跡生成部95は、機体位置算出部52によって算出された機体位置に基づいて、機体1の走行軌跡を生成する。
【0050】
走行経路管理部53は、汎用端末9から走行経路生成部93によって生成された走行経路を受け取って管理し、自動走行モードでの機体操舵の目標となる走行経路を順次設定する。
【0051】
運転制御状態検知部55は、制御装置100で取り扱われている制御情報に基づいて、走行制御状態や作業制御状態を検知する。運転制御状態検知部55で検知される走行制御状態には、つぎの状態が含まれている。
(a)直進接近状態:苗補給などのために機体1が内部領域を超えて畔(境界物に一種)に向かう直進走行において、機体1の位置(機体位置)から境界線までの距離が所定距離に達した状態。
(b)リモコン接近走行状態:リモコン90を用いた遠隔制御操作によって機体1が内部領域を超え畔に向かって接近する状態。
(c)手動接近走行状態:手動走行操作具によって機体1が内部領域を超え畔に向かって接近する状態。
(d)外周領域内旋回走行状態:外周領域内で機体1が所定以上の操舵角で方向転換走行(Uターン走行など)を行う状態。
【0052】
境界線管理部56は、境界線算出部94で算出された境界線(境界線データ)を管理するため、境界線記憶部56a、越境防止制御部56b、越境許可部56c、越境許可指令部56dを備えている。境界線記憶部56aは、境界線算出部94から受け取った境界線を格納する。越境防止制御部56bは、機体位置に基づいて機体1が境界線を越えないかどうかを判定し、機体1が境界線を越える走行を禁止する停止指令を走行制御部6に与える。越境許可部56cは、境界線記憶部56aに格納されている境界線を畔側に一時的に拡張する。この境界線の拡張により、機体1は、畔にぎりぎりまで接近することができる。境界線は、田植機が畔などの境界物から安全距離をとって設定されているが、拡張された境界線は、田植機が境界物に接触しないぎりぎりの位置に設定されている。従って、畔との機体1との干渉を避けるため、この接近走行は、低速かつ手動で行われることが条件となっている。
【0053】
越境許可指令部56dは、運転制御状態検知部55によって特定の走行制御状態が検知された場合、越境許可部56cに越境許可指令を与えて、境界線を畔側に拡張させる。この実施形態では、越境許可指令部56dは、運転制御状態検知部55によって上述したリモコン接近走行状態が検知された場合、越境許可部56cに越境許可指令を与える。内部領域の苗植付作業が無人自動走行で行われている途中で、苗補給の必要が生じた場合、監視者は、リモコン90を操作して、内部作業走行モードでの自動走行を一時的に中断し、図8に示すように、機体1を畔に接近させる。図8においても、直進経路にはR3が付与され、旋回経路には符号R5が付与され、植付終了位置(旋回開始位置)には符号UFが付与されている。リモコン操作により、機体1が植付終了位置から外周領域に進入しても旋回せずに、直進した場合、越境許可指令により、境界線が拡張され、機体1は停止することなしに、畔に接近する。苗補給が完了すると、監視者は、リモコン90を操作して、自動走行の復帰を命令する。これにより、機体1は、自動走行により、後進して植付終了位置に戻る。この段階で、中断された内部作業走行モードでの内部領域の往復走行が再開され、境界線の拡張も解消され、境界線の位置は元に戻される。
【0054】
次に、無人自動走行中における苗補給処理の手順を説明する。苗補給処理における田植機の制御は、圃場外にいる監視者のリモコン操作によって行われる。このリモコン90は、図9に示されているように、7つのボタンと2つのインジケータを備えている。第1ボタン90aは、電源ON/OFFボタンである。第2ボタン90bは、単押し操作で機体1を一時停止させ、ファンクションボタン90gとの同時押し操作で自動走行を終了させる。第3ボタン90cは、単押し操作で、機体1を加速させ、ファンクションボタン90gとの同時押し操作で、機体1を微速前進させる。第4ボタン90dは、単押し操作で、機体1を減速させ、ファンクションボタン90gとの同時押し操作で、機体1を微速後進させる。第5ボタン90eは、ファンクションボタン90gとの同時押し操作で、自動走行を開始させる。第6ボタン90fは、ファンクションボタン90gとの同時押し操作で、植付作業を開始させる。第1インジケータ90xは、バッテリ残量を示し、バッテリ残量が少なくなれば、表示色が緑から赤に変化する。第2インジケータ90yは、通信のON/OFFを示す。
【0055】
往復直線走行での苗植付作業中に苗補給の必要となった場合での、リモコン操作を用いた苗補給処理の手順は以下の通りである。
(1)内部領域における往復走行では、直進経路終端の植付終了位置で、次の直進経路への旋回走行に入る前に一時停止する。機体1の前部が苗補給を行う畔に向き合う姿勢に達したタイミングが、苗補給処理の開始タイミングである。
(2)まず、操作者がリモコン90のファンクションボタン90gと第3ボタン90cとを同時押し操作することにより、機体1は微速前進して、旋回経路ではなく、直進経路の延長線に沿って畔に向かう。
(3)同時に、越境許可指令部56dから越境許可指令が越境許可部56cに与えられ、境界線が拡張される。
(4)機体1の前端が畔際まで接近すると、操作者はファンクションボタン90gと第3ボタン90cとの押し操作を止めて、機体1を停止させる。
(5)予備苗フレーム17に適当数の苗箱を積み込む(苗補給完了)。
(6)次いで、操作者がリモコン90のファンクションボタン90gと第5ボタン90eとの同時押し操作することにより、苗補給完了後の自動走行が開始される。
(7)この苗補給完了後の自動走行では、機体1は直進経路の延長線に沿って後進し、苗補給処理が開始された直進経路終端の植付終了位置に戻る。
(8)機体1が植付終了位置に戻ると、往復走行経路に基づく自動走行が再開され、旋回経路を目標とする旋回走行が開始される。
(9)同時に、越境許可指令部56dによる越境許可指令が解除され、拡張された境界線が元に位置に戻る。
【0056】
苗補給では、機体1の前部が畔際に接近する必要があったが、薬剤補給などでは、機体1の後部が畔際に接近する必要がある。往復直線走行での苗植付作業中に苗補給の必要となった場合での、リモコン操作を用いた苗補給処理の手順は以下の通りである。
(1)内部領域における往復走行では、旋回走行から直線経路に入る際の直進経路始端の植付開始位置で、機体1は一時停止する。機体1の後部が苗補給を行う畔に向き合う姿勢に達したタイミングが、苗補給処理の開始タイミングである。
(2)まず、操作者がリモコン90のファンクションボタン90gと第4ボタン90dとを同時押し操作することにより、機体1は微速後進して、直進経路の延長線に沿って畔に向かう。
(3)同時に、越境許可指令部56dから越境許可指令が越境許可部56cに与えられ、境界線が拡張される。
(4)機体1の後端が畔際まで接近すると、操作者はファンクションボタン90gと第4ボタン90dとの押し操作を止めて、機体1を停止させる。
(5)薬剤の補給を行う(薬剤補給完了)。
(6)次いで、操作者がリモコン90のファンクションボタン90gと第5ボタン90eとの同時押し操作することにより、薬剤補給完了後の自動走行が開始される。
(7)この薬剤補給完了後の自動走行では、機体1は直進経路の延長線に沿って前進し、薬剤補給処理が開始された直進経路始端の植付開始位置に戻る。
(8)機体1が植付開始位置に戻ると、往復走行経路に基づく自動走行が再開され、苗植付装置3が下降され、直線経路での苗植付作業が開始される。
(9)同時に、越境許可指令部56dによる越境許可指令が解除され、拡張された境界線が元に位置に戻る。
【0057】
上述した苗補給作業時や薬剤補給作業時での機体1の走行制御は、リモコン90を用いて行われたが、有人での自動走行中には、運転席16に座った監視者による手動操作によって行うことができる。その場合には、リモコン90のボタンに代えて、汎用端末9のタッチパネルに表示されたボタンや運転モード切替操作具24などの操作具に割り当てられた操作機能が用いられる。
【0058】
〔別実施の形態〕
(1)上記実施形態では、越境許可指令部56dから越境許可指令が出力されると、越境許可部56cは、予め設定された所定値だけ境界線を拡張する。この所定値は、圃場の状況や天候などの環境条件によって変更されるようにしてもよい。さらに、境界線の拡張は、機体1の周辺領域だけに限定してもよいし、境界線全体が拡張されてもよい。また、最初に述べたように、境界線の拡張の概念を無限大まで広げると、境界線の無効化に通じる。従って、上記実施形態における越境許可指令は、境界線を前記境界物側に拡張する拡張指令または前記境界線を無効にする無効化指令を含むものである。
(2)上記実施形態では、圃場マップ作成部92や走行経路生成部93や境界線算出部94が汎用端末9に構築されていたが、制御装置100に構築されてもよいし、制御装置100との間でデータ交換可能な外部の管理コンピュータに構築されてもよい。
(3)自動走行制御部6Aによる旋回経路での操舵角は、生成された旋回経路に沿うような制御で行ってもよいし、あるいは、所定の旋回経路になるように予め決められた操舵角を用いるような制御で行ってもよい。
(4)上記実施形態では、農作業車として田植機が採用されたが、コンバインやトラクタ、直播機、噴霧(散布)用管理機などの農作業車であってもよい。
【0059】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、自動走行可能な農作業車に適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 :機体
3 :苗植付装置
4 :施肥装置
6 :走行制御部
6A :自動走行制御部
6B :手動走行制御部
6C :制御管理部
8 :測位ユニット
9 :汎用端末
24 :運転モード切替操作具
51 :作業制御部
52 :機体位置算出部
53 :走行経路管理部
54 :走行軌跡生成部
55 :運転制御状態検知部
56 :境界線管理部
56a :境界線記憶部
56b :越境防止制御部
56c :越境許可部
56d :越境許可指令部
80 :障害物検出器
90 :リモコン
92 :圃場マップ作成部
93 :走行経路生成部
94 :境界線算出部
100 :制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9