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特許7462425修飾型導電性複合体の製造方法、修飾型導電性複合体分散液の製造方法、及び導電性フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】修飾型導電性複合体の製造方法、修飾型導電性複合体分散液の製造方法、及び導電性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20240329BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240329BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20240329BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240329BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C08G61/12
C08L101/00
C08L65/00
H01B13/00 Z
H01B13/00 503Z
H01B5/14 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020011923
(22)【出願日】2020-01-28
(65)【公開番号】P2021116384
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-133022(JP,A)
【文献】特開2010-095580(JP,A)
【文献】特開2019-081870(JP,A)
【文献】特開2019-131773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
H01B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、遷移金属イオン及び酸化剤のうち少なくとも前記酸化剤である過硫酸塩と、水系分散媒とを含む調製液に、エポキシ化合物を添加し、前記水系分散媒に対して前記エポキシ化合物の少なくとも一部が溶解しない不均一液相を得て、
前記不均一液相において、前記導電性複合体と前記エポキシ化合物とを反応させ、前記水系分散媒中に析出した修飾型導電性複合体を分取する工程を含み、
前記調製液の総質量に対する前記酸化剤の含有量が、0.01質量%以上10質量%以下である、修飾型導電性複合体の製造方法。
【請求項2】
前記水系分散媒の総質量に対する水の含有量が60質量%以上100質量%以下である、請求項1に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
【請求項3】
前記エポキシ化合物の炭素数が8以上である、請求項1又は2に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
【請求項4】
前記修飾型導電性複合体を分取する方法が、濾過又はデカンテーションである、請求項1~の何れか一項に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
【請求項5】
前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、請求項1~の何れか一項に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
【請求項6】
前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、請求項1~の何れか一項に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1~の何れか一項に記載の製造方法によって修飾型導電性複合体を得て、
前記修飾型導電性複合体と有機溶剤とを混合することを含む、修飾型導電性複合体分散液の製造方法。
【請求項8】
さらにバインダ成分を混合することを含む、請求項に記載の修飾型導電性複合体分散液の製造方法。
【請求項9】
前記バインダ成分が、硬化後にアクリル樹脂を形成する化合物を含む、請求項に記載の修飾型導電性複合体分散液の製造方法。
【請求項10】
前記バインダ成分が、硬化型シリコーンを含む、請求項に記載の修飾型導電性複合体分散液の製造方法。
【請求項11】
前記硬化型シリコーンが、付加硬化型シリコーンである、請求項10に記載の修飾型導電性複合体分散液の製造方法。
【請求項12】
フィルム基材の少なくとも一方の面に、請求項11の何れか一項に記載の製造方法で得た修飾型導電性複合体分散液を塗工し、形成された塗膜を乾燥することを含む、導電性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾型導電性複合体の製造方法、修飾型導電性複合体分散液の製造方法、導電性フィルムの製造方法、及び導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
導電層を形成するための塗料として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)にポリスチレンスルホン酸がドープした導電性複合体を含む導電性高分子含有液を使用することがある。
特許文献1には、ポリスチレンスルホン酸のスルホ基にエポキシ化合物を反応させることにより疎水化した導電性複合体と、硬化性シリコーンとを含む有機溶剤系の導電性離型層形成用塗料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-009052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、塗料の製造方法として、水系分散媒に予め分散された導電性複合体にエポキシ化合物を添加し、反応により疎水化した導電性複合体(修飾型導電性複合体)を水系分散媒中に析出させる方法が開示されている。この際、疎水化の反応を進めるためには2つの条件を満たす必要があった。第一の条件は、水系分散媒に対して等量以上の水溶性有機溶剤を添加し、疎水性のエポキシ化合物と水溶性の導電性複合体とが反応液中で均一に混合されることである。第二の条件は、反応液中にエポキシ基を分解してしまう遷移金属イオン及び酸化剤を含まないことである。
しかし、これらの条件は修飾型導電性複合体の製造効率を低下させる原因となっていた。すなわち、第一の条件では、反応液に占める水溶性有機溶剤の容量が増えるため、反応後の廃液処理が増える問題があった。また、第二の条件では、導電性複合体の合成に使用される遷移金属イオン及び酸化剤が反応液に残留することが許容されず、遷移金属イオン及び酸化剤を反応液から予め除去する必要があった。
【0005】
本発明は、従来よりも製造効率が優れた修飾型導電性複合体の製造方法、修飾型導電性複合体分散液の製造方法、及び導電性フィルムの製造方法、並びに導電性フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、遷移金属イオン及び酸化剤のうち少なくとも一方と、水系分散媒とを含む調製液に、エポキシ化合物を添加し、前記水系分散媒に対して前記エポキシ化合物の少なくとも一部が溶解しない不均一液相を得て、前記不均一液相において、前記導電性複合体と前記エポキシ化合物とを反応させ、前記水系分散媒中に析出した修飾型導電性複合体を分取する工程を含む、修飾型導電性複合体の製造方法。
[2] 前記水系分散媒の総質量に対する水の含有量が60質量%以上100質量%以下である、[1]に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
[3] 前記エポキシ化合物の炭素数が8以上である、[1]又は[2]に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
[4] 前記調製液の総質量に対する前記酸化剤の含有量が、0.01質量%以上10質量%以下である、[1]~[3]の何れか一項に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
[5] 前記修飾型導電性複合体を分取する方法が、濾過又はデカンテーションである、[1]~[4]の何れか一項に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
[6] 前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、[1]~[5]の何れか一項に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
[7] 前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、[1]~[6]の何れか一項に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
[8] [1]~[7]の何れか一項に記載の製造方法によって修飾型導電性複合体を得て、前記修飾型導電性複合体と有機溶剤とを混合することを含む、修飾型導電性複合体分散液の製造方法。
[9] さらにバインダ成分を混合することを含む、[8]に記載の修飾型導電性複合体分散液の製造方法。
[10] 前記バインダ成分が、硬化後にアクリル樹脂を形成する化合物を含む、[9]に記載の修飾型導電性複合体分散液の製造方法。
[11] 前記バインダ成分が、硬化型シリコーンを含む、[9]に記載の修飾型導電性複合体分散液の製造方法。
[12] 前記硬化型シリコーンが、付加硬化型シリコーンである、[11]に記載の修飾型導電性複合体分散液の製造方法。
[13] フィルム基材の少なくとも一方の面に、[8]~[12]の何れか一項に記載の製造方法で得た修飾型導電性複合体分散液を塗工し、形成された塗膜を乾燥することを含む、導電性フィルムの製造方法。
[14] フィルム基材の少なくとも一方の面に、[8]~[12]の何れか一項に記載の製造方法で得た修飾型導電性複合体分散液の硬化層からなる導電層を備えた、導電性フィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明の修飾型導電性複合体の製造方法にあっては、反応液を不均一液相として、水相に導電性複合体が含まれ、有機相にエポキシ化合物が含まれる。つまり、エポキシ化合物を水相に溶解させるための水溶性有機溶剤を必要とせず、上述の第一の条件を満たす必要がない。また、導電性複合体とともに水相に含まれる遷移金属イオン及び酸化剤のうち少なくとも一方は、水相と有機相が接する界面において、導電性複合体とエポキシ化合物との反応を容易に進める。このため、導電性複合体の合成に使用された遷移金属イオン及び酸化剤を水相から予め除去する必要がなく、その遷移金属イオン及び酸化剤のうち少なくとも一方をエポキシ化合物の反応にも利用することができる。よって、上述の第二の条件を満たす必要がない。
このように、本発明の修飾型導電性複合体の製造方法は従来必要であった2つの条件を満たす必要がなく、非常に製造効率が優れている。また、その製造方法を利用した本発明に係る修飾型導電性複合体分散液の製造方法、導電性フィルムの製造方法も当然に製造効率が優れている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
≪修飾型導電性複合体の製造方法≫
本発明の第一態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、遷移金属イオン及び酸化剤のうち少なくとも一方と、水系分散媒とを含む調製液にエポキシ化合物を添加し、前記水系分散媒に対して前記エポキシ化合物の少なくとも一部が溶解しない不均一液相を得て、前記不均一液相において、前記導電性複合体と前記エポキシ化合物とを反応させ、前記水系分散媒中に析出した修飾型導電性複合体を分取する工程を含む、修飾型導電性複合体の製造方法である。
【0009】
[調製液]
本態様で用いる調製液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、遷移金属イオン及び酸化剤のうち少なくとも一方と、水系分散媒とを含有する。この調製液は、液中の導電性複合体が分散状態にある範囲で、また、前記不均一液相の形成を妨げない範囲で、有機溶剤を含んでいても構わない。調製液には遷移金属イオンのカウンターアニオンが含まれていても構わない。
【0010】
前記ポリアニオンはπ共役系導電性高分子にドープし、導電性を有する導電性複合体を形成している。前記ポリアニオンにおいては、一部のアニオン基のみがπ共役系導電性高分子にドープしており、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有する。余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体は水に対する分散性を有する。
【0011】
本態様で用いる調製液に含まれる導電性複合体は分散状態にある。分散状態と析出状態の区別は、簡便には目視で行うことができる。分散状態の分散液の透明性は高く、分散液中に固体の浮遊物は見当たらない。一方、析出状態の液の透明性は低く、液中に固体の浮遊物が観察される。通常、分散状態の導電性複合体は容易には沈殿せず、例えば12時間静置したとしても、沈殿は生じ難い。一方、析出状態の液中の浮遊物は、沈降し易く、例えば12時間程度静置することにより、沈殿を生じ易い。
【0012】
本態様で用いる調製液を、保留粒子径7μmのフィルターに通すと、分散状態の導電性複合体は分散媒とともにフィルターを通過する。一方、析出状態の導電性複合体は上記フィルターに捕捉され得る。
ここで、ろ紙の保留粒子径は目の粗さの目安であり、JIS P 3801〔ろ紙(化学分析用)〕で規定された硫酸バリウムなどを自然ろ過したときの漏えい粒子径により求められる。
【0013】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0014】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
これらのπ共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0015】
(ポリアニオン)
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。ポリアニオンは、単一のモノマーが重合した単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。質量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0016】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子を充分に含有させることができるので、充分な導電性を確保できる。
【0017】
<調製液の製造方法>
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体は、例えば、ポリアニオンの水溶液中でπ共役系導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合させて得ることができる。この化学酸化重合の反応液を本態様の調製液としてそのまま使用することができる。
【0018】
前記化学酸化重合は、公知の触媒及び酸化剤を用いて行うことができる。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。
【0019】
本態様の調製液に含まれる導電性複合体の含有量としては、調製液の総質量に対して、例えば、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下がより好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、エポキシ化合物の添加後の修飾型導電性複合体の析出が容易になる。上記範囲の上限値以下であると、調製液における導電性複合体の分散性が高まるので、調製液の保存中に意図しない凝集を防ぎ、エポキシ化合物の添加後に析出する修飾型導電性複合体の質を均一にすることができる。
【0020】
本態様で用いる調製液には、導電性複合体が分散状態にある範囲で、また、不均一液相の形成が妨げられない範囲で、有機溶剤を含んでいても構わないが、導電性複合体の分散性を高める観点から、有機溶剤の含有量は少ない程好ましい。調製液の総質量に対する有機溶剤の含有量は、例えば、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましく、実質的に含まれないことが特に好ましい。
本態様で用いる調製液が含有してもよい有機溶剤としては、水に対する混和性が高いものが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶剤が挙げられる。
【0021】
[不均一液相]
調製液にエポキシ化合物を添加して不均一液相を得る方法は、調製液とエポキシ化合物とを混合できる方法であればよい。調製液とエポキシ化合物を混合すると、水相と有機相とに分離した不均一液相が形成される。また、不均一液相を攪拌した後、静置することにより、再び水相と有機相とに分離し得る。水相と有機相の分離が不明確であると、水相に含まれる遷移金属イオンや酸化剤が有機相に容易に拡散して、エポキシ化合物が導電性複合体と反応する前に分解する恐れがある。
【0022】
不均一液相における水相と有機相とを明確に分離するために、調製液を構成する水系分散媒の総質量に対する水の含有量は、60質量%以上100質量%以下が好ましく、90質量%以上100質量%がより好ましく、98質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。
【0023】
不均一液相における水相と有機相とを明確に分離するために、エポキシ化合物の疎水性が高いことが好ましいので、エポキシ化合物の炭素数は7以上が好ましく、8以上がより好ましく、10以上がさらに好ましく、12以上が特に好ましい。エポキシ化合物の好適な具体例は後述する。
【0024】
不均一液相における水相と有機相とを明確に分離するために、不均一液相は10℃以上100℃以下であることが好ましく、15℃以上80℃以下であることがより好ましく、20℃以上60℃以下であることがさらに好ましい。
【0025】
不均一液相の水相に遷移金属イオン及び酸化剤のうち少なくとも一方が含まれることにより、不均一液相の水相と有機相の界面において、導電性複合体とエポキシ化合物の反応、すなわち導電性複合体を構成するポリアニオンのドープに関与しない余剰のアニオン基とエポキシ化合物の反応、が容易に進む。
【0026】
不均一液相の反応時の温度は、上述のように水相と有機相とが明確に分離する温度であることが好ましい。
不均一液相における反応終了の目安は、水相に析出した修飾型導電性複合体の量で判断することができ、例えば、1時間以上24時間以下で反応を完了させることができる。
【0027】
不均一液相の水相に含まれる遷移金属イオンの含有量は、水相(前記調製液)の総質量に対して、0.001質量%以上1.0質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上0.1質量%以下がさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると、前記反応をより促進させることができ、上記範囲の上限値以下であると、有機相に対する遷移金属イオンの拡散を低減することができる。
【0028】
不均一液相の水相に含まれる酸化剤の含有量は、水相(前記調製液)の総質量に対して、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると、前記反応をより促進させることができ、上記範囲の上限値以下であると、有機相に対する酸化剤の拡散を低減することができる。
【0029】
[修飾型導電性複合体の析出]
不均一液相の水相に修飾型導電性複合体を析出させる方法は特に制限されない。不均一液相を静置して両相の界面における前記反応の進行を待ち、自然に析出することを待つだけでもよいが、不均一液相を攪拌して界面を増やし、前記反応を促進させることが好ましい。反応により生成された修飾型導電性複合体は、水相に析出した状態で得られる。
【0030】
修飾型導電性複合体を水相に容易に析出させる観点から、不均一液相を構成する水相と有機相の質量比は、水相の質量>有機相の質量が好ましく、水相の質量/有機相の質量=1.5以上100以下が好ましく、2以上50以下がより好ましく、3以上25以下がさらに好ましく、4以上10以下が特に好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、修飾型導電性複合体が水相に容易に析出し、上記範囲の上限値以下であると、水相と有機相の界面の面積が適度となり、反応効率が向上する。
【0031】
不均一液相の有機相に含まれるエポキシ化合物の含有量は、有機相の総質量に対して、80質量%以上100質量%以下が好ましく、90質量%以上100質量%以下がより好ましく、95質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。有機相にはエポキシ化合物の希釈剤としての有機溶媒が含まれてもよいが、反応効率や析出物の収率を高める観点から有機相には有機溶媒は含まれないことが好ましい。
不均一液相の有機相に含まれるエポキシ化合物は、1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0032】
不均一液相における導電性複合体とエポキシ化合物の質量比としては、導電性複合体100質量部に対して、エポキシ化合物が1質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、100質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、200質量部以上3000質量部以下であることがさらに好ましい。エポキシ化合物の添加割合が上記範囲であると、修飾型導電性複合体が容易に形成され、未反応で残るエポキシ化合物の量を低減することができる。
【0033】
[エポキシ化合物の付加]
導電性複合体を構成するポリアニオンの一部のアニオン基にエポキシ化合物が反応して得られた修飾型導電性複合体は、導電性複合体と比べて疎水化されており、有機溶剤に対する分散性が高い。
前記ポリアニオンのドープに関与しない余剰のアニオン基にエポキシ化合物が付加した置換基の構造は、エポキシ基が開環反応して形成された下記化学式(A1)又は下記化学式(A2)で表される置換基(A)であると考えられる。
【0034】
【化1】
[式(A1)中、R11、R12、R13、及びR14はそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基である。]
【0035】
【化2】
[式(A2)中、mは2以上の整数であり、複数のR15、複数のR16、複数のR17、及び複数のR18はそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基であり、複数のR15は同一でも異なっていてもよく、複数のR16は同一でも異なっていてもよく、複数のR17は同一でも異なっていてもよく、複数のR18は同一でも異なっていてもよい。]
【0036】
式(A1)及び式(A2)において、左端の結合手は、置換基(A)が、アニオン基のプロトンと置換していることを表す。置換されるプロトンを有するアニオン基として、例えば、「-SOH」のように酸素原子に結合した活性なプロトンを有するアニオン基が挙げられる。
【0037】
式(A1)において、R11、R12、R13、及びR14の任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。R11とR13とは結合して置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。例えば、R11とR13とが前記炭化水素基であり、R11の1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基と、R13の1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基とが、前記水素原子が除かれた炭素原子同士で結合して環を形成する場合が挙げられる。
【0038】
本明細書において、「置換基を有していてもよい」とは、水素原子(-H)を1価の基で置換する場合と、メチレン基(-CH-)を2価の基で置換する場合との両方を含む。
置換基としての1価の基としては、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、トリアルコキシシリル基(トリメトキシシリル基等)、等が挙げられる。
置換基としての2価の基としては、酸素原子(-O-)、-C(=O)-、-C(=O)-O-等が挙げられる。ただし、2つの酸素原子同士が隣接する場合を除く。
【0039】
式(A2)において、R15、R16、R17、及びR18の任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。R15とR17とは結合して置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。環を形成する例は、上記と同様である。
【0040】
式(A2)において、mは2以上の整数であり、2~100が好ましく、2~50がより好ましく、2~25がさらに好ましい。mが上記下限値以上であると、修飾型導電性複合体の疎水性が充分に高くなる。mが前記上限値以下であると、疎水性が高くなりすぎたり、導電性が低下したりするのを抑制することができる。
【0041】
前記調製液に添加するエポキシ化合物の分子量は、例えば、50以上1000以下が好ましく、60以上300以下がより好ましく、70以上200以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、上述の好適な置換基(A)を形成することができる。
【0042】
前記エポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ以上有する化合物である。
エポキシ化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
1分子中にエポキシ基を1つ有する単官能エポキシ化合物としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキシド、2,3-ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、1,3-ブタジエンモノオキシド、1,2-エポキシテトラデカン、グリシジルメチルエーテル、1,2-エポキシオクタデカン、1,2-エポキシヘキサデカン、エチルグリシジルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテル、tert-ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシエイコサン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシプロパン、グリシドール、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシ-9-デカン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシブタン、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-トリフルオロブタン、アリルグリシジルエーテル、テトラシアノエチレンオキサイド、グリシジルブチレート、1,2-エポキシシクロオクタン、グリシジルメタクリレート、1,2-エポキシシクロドデカン、1-メチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシシクロペンタデカン、1,2-エポキシシクロペンタン、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-ヘプタデカフルオロブタン、3,4-エポキシテトラヒドロフラン、グリシジルステアレート、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシコハク酸、グリシジルフェニルエーテル、イソホロンオキサイド、α-ピネンオキサイド、2,3-エポキシノルボルネン、ベンジルグリシジルエーテル、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3-[2-(パーフルオロヘキシル)エトキシ]-1,2-エポキシプロパン、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-(3-グリシジルオキシプロピル)トリシロキサン、9,10-エポキシ-1,5-シクロドデカジエン、4-tert-ブチル安息香酸グリシジル、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパン、2-tert-ブチル-2-[2-(4-クロロフェニル)]エチルオキシラン、スチレンオキサイド、グリシジルトリチルエーテル、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-フェニルプロピレンオキサイド、コレステロール-5α,6α-エポキシド、スチルベンオキサイド、p-トルエンスルホン酸グリシジル、3-メチル-3-フェニルグリシド酸エチル、N-プロピル-N-(2,3-エポキシプロピル)ペルフルオロ-n-オクチルスルホンアミド、(2S,3S)-1,2-エポキシ-3-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-4-フェニルブタン、3-ニトロベンゼンスルホン酸(R)-グリシジル、3-ニトロベンゼンスルホン酸-グリシジル、パルテノリド、N-グリシジルフタルイミド、エンドリン、デイルドリン、4-グリシジルオキシカルバゾール、7,7-ジメチルオクタン酸[オキシラニルメチル]、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテル、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0044】
1分子中にエポキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ化合物としては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,7-オクタジエンジエポキシド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2:3,4-ジエポキシブタン、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジル、トリグリシジルイソシアヌレート(別名:イソシアヌル酸トリグリシジル)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,2:3,4-ジエポキシブタン、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトール系ポリグリシジルエーテル、エチレンオキシドラウリルアルコールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0045】
上記で例示したエポキシ化合物の中でも、不均一液相を形成し易く、界面における反応が進み易いことから、ブチレンオキシド、ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテルが好ましく、ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、炭素数12~16の高級アルコールグリシジルエーテルがより好ましい。
【0046】
[修飾型導電性複合体の分取]
不均一液相の水相、すなわち水系分散媒に析出した修飾型導電性複合体を分取する(回収する)方法は特に制限されず、例えば、濾過、デカンテーション、遠心分離、減圧乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等が挙げられる。
なかでも、不均一液相の水相に含まれる修飾型導電性複合体以外の成分と修飾型導電性複合体とを分離することが容易であることから、濾過又はデカンテーションが好ましい。ここで、濾過とは、不均一液相の水相を通過させたフィルターに、修飾型導電性複合体を捕捉する操作である。また、デカンテーションとは、析出した修飾型導電性複合体を沈殿させ、上澄み液を除去する操作である。
濾過で分取する場合にはフィルターの目詰まりに対処する必要がある。また、フィルター上で修飾型導電性複合体の固形物が濾過圧により圧縮されるので、濾過で分取した修飾型導電性複合体は、デカンテーションで分取した場合よりも固い状態となり易い。デカンテーションで得た修飾型導電性複合体は比較的柔らかいパウダー状態で得られるので、後で分散媒に容易に分散させることができる。
一方、デカンテーションで分取する場合、修飾型導電性複合体が前記水相中で沈殿するまで待つ必要がある。修飾型導電性複合体の製造速度を高める観点からすると、濾過で分取することが好ましい。
【0047】
分取した修飾型導電性複合体は、修飾型導電性複合体を溶解し難い有機溶剤又は水を用いて洗浄することが好ましい。具体的には、例えば、修飾型導電性複合体を捕捉したフィルターに水をかけ流してもよいし、デカンテーション後に容器の底に残った修飾型導電性複合体に水を添加し、攪拌した後、再度デカンテーション等により分取してもよい。
分取した修飾型導電性複合体に付着した水等を乾燥して除去することにより、修飾型導電性複合体の乾燥体を得ることができる。
【0048】
<作用効果>
本発明の修飾型導電性複合体の製造方法によれば、調製液に含ませた導電性複合体100質量部に対して、90~100質量部の導電性複合体を析出物として回収することができる。つまり、本態様の修飾型導電性複合体の製造方法は、90~100質量%という高い収率を示し得る。
本発明の修飾型導電性複合体の製造方法において、不均一液相の水相に遷移金属イオン及び酸化剤のうち少なくとも一方が含まれることにより、水相中の導電性複合体と有機相中のエポキシ化合物が両相の界面で容易に反応させることができる。もしも水相中に遷移金属イオン又は酸化剤が含まれないと、その反応が進行しない場合がある(後述の実施例、比較例参照)。炭素数が多く疎水性が高いエポキシ化合物は、水相中に遷移金属イオン又は酸化剤が含まれないと上記反応は特に進行し難い。逆に言えば、炭素数が多く疎水性が高いエポキシ化合物であっても、水相中に遷移金属イオン及び酸化剤のうち少なくとも一方が含まれることによって、上記反応が容易に起こる。
本発明の修飾型導電性複合体の製造方法によれば、エポキシ化合物を水相に溶解させるための水溶性有機溶剤を使用する必要がない。また、水相にはπ共役系導電性高分子の合成に用いた触媒や酸化剤が残留していてもよく、その触媒や酸化剤をエポキシ化合物の反応に再利用することができるので、π共役系導電性高分子を形成するための酸化重合を行った反応液をそのまま調製液として使用することができる。つまり、イオン交換、ゲル濾過、又は限外濾過等の処理を行って、調製液から酸化剤等を除去する必要がない。
また、不均一液相での反応後、未反応で余った有機相に含まれるエポキシ化合物はそのまま回収して次の不均一液相を形成する材料として使用することもできる。
このように、本発明は、従来の製造方法と比べて、材料の無駄が少なく、製造効率が優れている。
【0049】
≪修飾型導電性複合体分散液の製造方法≫
本発明の第二態様は、第一態様の製造方法によって修飾型導電性複合体を得て、修飾型導電性複合体と有機溶剤とを混合することを含む、修飾型導電性複合体分散液の製造方法である。
第一態様で得た修飾型導電性複合体は有機溶剤に対する分散性が高いので、有機溶剤に容易に分散させることができる。
本態様で用いる修飾型導電性複合体は、第一態様の製造方法により分取した後、乾燥して保存されていてもよいし、保存を経ずに直ちに使用されてもよい。
【0050】
(有機溶剤)
本態様の製造方法で用いる有機溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、窒素原子含有化合物系溶剤等が挙げられる。有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
炭化水素系溶剤としては、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール等が挙げられる。
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
窒素原子含有化合物系溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0051】
上記有機溶剤のなかでも、プラスチックフィルム基材に対する修飾型導電性複合体分散液の濡れ性が高くなり、また、比較的極性の高いバインダ成分を容易に可溶化できる点では、ケトン系溶剤又はアルコール系溶剤が好ましい。また、ケトン系溶剤のなかでも、修飾型導電性複合体の分散性が良好であることから、メチルエチルケトンが好ましい。また、アルコール系溶剤のなかでも、修飾型導電性複合体の分散性が良好であることから、イソプロパノールが好ましい。
【0052】
有機溶剤の含有割合は、修飾型導電性複合体分散液の総質量に対し、50質量%以上99.5質量%以下が好ましく、70質量%以上99質量%以下がより好ましい。有機溶剤の含有割合が上記範囲内であると、修飾型導電性複合体の分散性を高めることができる。
【0053】
本態様において、修飾型導電性複合体と有機溶剤とを混合する方法は特に制限されず、高圧ホモジナイザーで混合しつつ、分散させる方法が好ましい。
【0054】
本態様の修飾型導電性複合体分散液の総質量に対する、修飾型導電性複合体の含有量としては、例えば、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上1.0質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、修飾型導電性複合体をより安定に分散させることができる。
【0055】
(バインダ成分)
本態様の修飾型導電性複合体分散液は、バインダ成分を含んでいてもよい。バインダ成分は、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオン以外の樹脂又はその前駆体であり、熱可塑性樹脂、又は、導電層(導電膜)形成時に硬化する硬化性のモノマー又はオリゴマーである。熱可塑性樹脂はそのままバインダ樹脂となり、硬化性のモノマー又はオリゴマーは硬化により形成した樹脂がバインダ樹脂となる。
バインダ成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
硬化性のモノマー又はオリゴマーは、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよいし、光硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよい。ここで、オリゴマーは、質量平均分子量が1万未満の重合体のことである。
硬化性のモノマーとしては、例えば、アクリルモノマー(アクリル化合物)、エポキシモノマー、オルガノシロキサン等が挙げられる。硬化性のオリゴマーとしては、例えば、アクリルオリゴマー(アクリル化合物)、エポキシオリゴマー、シリコーンオリゴマー(硬化型シリコーン)等が挙げられる。
バインダ成分としてアクリルモノマー又はアクリルオリゴマーを用いた場合には、加熱又は光照射により容易に硬化させることができる。バインダ成分としてオルガノシロキサン又はシリコーンオリゴマーを用いた場合には、導電層に離型性(非粘着性)を付与することができる。
【0057】
硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、さらに硬化触媒を含むことが好ましい。例えば、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、加熱によりラジカルを発生させる熱重合開始剤を含むことが好ましく、光硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、光照射によりラジカルを発生させる光重合開始剤を含むことが好ましい。また、オルガノシロキサン又はシリコーンオリゴマーを含む場合には、硬化用の白金触媒を含むことが好ましい。
【0058】
バインダ成分由来のバインダ樹脂の具体例としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、メラミン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、シリコーン等が挙げられる。
本態様の修飾型導電性複合体分散液が含有するバインダ樹脂としては、有機溶剤に対する分散性が良好であることから、硬化後にアクリル樹脂を形成する化合物(アクリル化合物)、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、又は付加硬化型シリコーンが好ましい。
【0059】
本態様の修飾型導電性複合体分散液におけるバインダ成分の含有割合は、修飾型導電性複合体100質量部に対して、500質量部以上50000質量部以下であることが好ましく、1000質量部以上20000質量部以下であることがより好ましい。バインダ成分の含有割合が前記下限値以上であれば、本態様の修飾型導電性複合体分散液をフィルム基材に塗工する際の製膜性と膜強度を向上させることができる。バインダ成分の含有割合が前記上限値以下であれば、修飾型導電性複合体の含有割合の低下による導電性の低下を抑制することができる。
【0060】
<その他の添加剤>
本態様の修飾型導電性複合体分散液には、その他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。ただし、添加剤は、前記π共役系導電性高分子、ポリアニオン、有機溶剤、バインダ成分以外のものである。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
本態様の修飾型導電性複合体分散液が上記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、修飾型導電性複合体の固形分100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0061】
<作用効果>
本発明の修飾型導電性複合体分散液の製造方法は、第一態様の製造方法によって修飾型導電性複合体を得るので製造効率が優れている。
【0062】
≪導電性フィルムの製造方法≫
本発明の第三態様の導電性フィルムの製造方法は、第二態様の製造方法で得た修飾型導電性複合体分散液をフィルム基材の少なくとも一方の面に塗工し、形成された塗膜を乾燥することを含む、導電性フィルムの製造方法である。
【0063】
本態様において使用するフィルム基材としては、例えば、プラスチックフィルムが挙げられる。
プラスチックフィルムを構成するフィルム基材用樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらのフィルム基材用樹脂のなかでも、安価で機械的強度に優れる点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
前記フィルム基材用樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
また、フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
また、フィルム基材には、形成する導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0064】
前記フィルム基材の平均厚みとしては、10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
本明細書におけるフィルム基材の厚さは、無作為に選択される10箇所の断面について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0065】
(塗工工程)
修飾型導電性複合体分散液をフィルム基材に塗工する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた塗工方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
前記分散液のフィルム基材への塗工量は特に制限されないが、良好な導電性を得る観点から、固形分として、0.1g/m以上10.0g/m以下の範囲であることが好ましい。
【0066】
前記塗膜は、フィルム基材の表面の全面に塗工されてもよいし、一部のみに形成されてもよく、フィルム基材上において任意のパターンを形成してもよい。前記パターンとしては、例えば、電極、配線、電気回路等が挙げられる。印刷によって塗工することにより、パターン形成がより容易になる。
【0067】
(乾燥工程)
フィルム基材に形成された塗膜を乾燥する方法としては、例えば、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定され、例えば、50℃以上150℃以下に設定できる。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。上記温度で乾燥する場合の乾燥時間としては、例えば、30秒以上5分以下とすることができる。
【0068】
≪導電性フィルム≫
本発明の第四態様は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、第二態様の製造方法で得た修飾型導電性複合体分散液の硬化層からなる導電層を備えた、導電性フィルムである。本態様の導電性フィルムは、第三態様の製造方法によって製造することができる。
【0069】
本態様により得られる導電性フィルムは、フィルム基材と、前記フィルム基材の少なくとも一方の面に形成された導電層とを備える。導電層は、第一態様の修飾型導電性複合体を含有する。
【0070】
本態様の導電性フィルムが有する導電層の平均厚さとしては、例えば、10nm以上30μm以下であることが好ましく、30nm以上10μm以下であることがより好ましい。導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、充分に高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、フィルム基材に対する導電層の密着性が向上する。
導電層の厚さは、任意に選択される箇所の導電層の断面について、光学顕微鏡又は電子顕微鏡を用いて測定した値である。
導電層は、フィルム基材の表面にパターン状に形成されていてもよいし、フィルム基材の全面に形成されていてもよい。
【0071】
本態様の導電性フィルムの導電層の表面抵抗値は、例えば、1×10Ω/□以上1×10Ω/□以下が好ましく、1×10Ω/□以上1×10Ω/□以下がより好ましく、1×10Ω/□以上1×10Ω/□以下がさらに好ましい。
【実施例
【0072】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の合成
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、限外ろ過法によりポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000ml溶液を除去し、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。上記の限外ろ過操作を3回繰り返した。さらに、得られたろ液に約2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法により約2000mlの溶液を除去した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0073】
(製造例2)導電性高分子の調製液
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合させた。
これにより得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間撹拌して反応させた。
これにより、2.2質量%のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)と、鉄イオン約0.098質量%と、過硫酸アンモニウム約1.3質量%を含む調製液を得た。ここでPEDOT-PSS固形分に対するPSSの含有量は75質量%である。
【0074】
(製造例3)導電性高分子水分散液の合成
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合させた。
これにより得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間撹拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、得られた溶液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を5回繰り返し、1.2質量%のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)の水分散液を得た。PEDOT-PSS固形分に対するPSSの含有量は75質量%である。
ここで得たPEDOT-PSS水分散液には、鉄イオンや過硫酸アンモニウムは実質的に含まれない。
【0075】
(実施例1)
製造例2の調製液100gにエポライトM-1230(共栄社化学社製、C12,13混合高級アルコールグリシジルエーテル)25gを加えた。この際、エポライトM-1230は調製液に溶解せず、不均一液相が形成されたことを確認した。不均一液相を60℃で4時間加熱攪拌した後、室温(25℃)で静置すると、不均一液相の水相に、修飾型導電性複合体が析出していた。水相中の析出物をろ取し、水100gで洗浄して、1.6gの修飾型導電性複合体を得た。得られた修飾型導電性複合体の鉄含有量を蛍光X線にて測定した結果を表1に示す。
次に、修飾型導電性複合体1.6gにイソプロパノールを198.4g添加し、高圧ホモジナイザーで分散し、修飾型導電性複合体分散液を得た。続いて、#8のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ ルミラーT60)上に、上記の修飾型導電性複合体分散液を塗布し、150℃で1分乾燥して導電性フィルムを得た。
【0076】
(実施例2)
製造例2の調製液100gにブチルグリシジルエーテル25gを加えた。この際、ブチルグリシジルエーテルは調製液に溶解せず、不均一液相が形成されたことを確認した。不均一液相を60℃で4時間加熱攪拌した後、室温で静置すると、不均一液相の水相に、修飾型導電性複合体が析出していた。水相中の析出物をろ取し、水100gで洗浄して、1.5gの修飾型導電性複合体を得た。得られた修飾型導電性複合体の鉄含有量を蛍光X線にて測定した結果を表1に示す。
次に、修飾型導電性複合体1.5gにイソプロパノールを198.5g添加し、高圧ホモジナイザーで分散し、修飾型導電性複合体分散液を得た。続いて、#8のバーコーターを用いてPETフィルム上に修飾型導電性複合体分散液を塗布し、150℃で1分乾燥して導電性フィルムを得た。
【0077】
(実施例3)
製造例2の調製液100gに1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン25gを加えた。この際、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサンが調製液に溶解せず、不均一液相が形成されたことを確認した。不均一液相を60℃で4時間加熱攪拌した後、室温で静置すると、不均一液相の水相に、修飾型導電性複合体が析出していた。水相中の析出物をろ取し、水100gで洗浄して、1.5gの修飾型導電性複合体を得た。得られた修飾型導電性複合体の鉄含有量を蛍光X線にて測定した結果を表1に示す。
次に、修飾型導電性複合体1.5gにイソプロパノールを198.5g添加し、高圧ホモジナイザーで分散し、修飾型導電性複合体分散液を得た。続いて、#8のバーコーターを用いてPETフィルム上に修飾型導電性複合体分散液を塗布し、150℃で1分乾燥して導電性フィルムを得た。
【0078】
(実施例4)
製造例2の調製液100gにブチレンオキシド25gを加えた。この際、ブチレンオキシドが調製液に溶解せず、不均一液相が形成されたことを確認した。不均一液相を60℃で4時間加熱攪拌した後、室温で静置すると、不均一液相の水相に、修飾型導電性複合体が析出していた。水相中の析出物をろ取し、水100gで洗浄して、1.4gの修飾型導電性複合体を得た。得られた修飾型導電性複合体の鉄含有量を蛍光X線にて測定した結果を表1に示す。
次に、修飾型導電性複合体1.4gにイソプロパノールを198.6g添加し、高圧ホモジナイザーで分散し、修飾型導電性複合体分散液を得た。続いて、#8のバーコーターを用いてPETフィルム上に修飾型導電性複合体分散液を塗布し、150℃で1分乾燥して導電性フィルムを得た。
【0079】
(実施例5)
実施例1と同様にして、導電性複合体とエポライトM-1230が反応して生成した修飾型導電性複合体1.6gを得た。
得られた修飾型導電性複合体1.6gにメチルエチルケトンを198.4g添加し、高圧ホモジナイザーで分散し、修飾型導電性複合体分散液を得た。次に、#8のバーコーターを用いてPETフィルム上に修飾型導電性複合体分散液を塗布し、150℃で1分乾燥して導電性フィルムを得た。
【0080】
(比較例1)
製造例2の調製液100gにメタノール300gとエポライトM-1230の25gを加えた。この際、エポライトM-1230が調製液に完全に溶解し、均一な混合液になったことを確認した。この混合液を60℃で4時間加熱攪拌した後、室温で静置すると、混合液に濁りが生じていた。次に、混合液中の濁りのろ取を試みたが、すべての成分がろ紙を通過し、析出物として回収できなかったため、以後の実験を中止した。
【0081】
(比較例2)
製造例2の調製液100gにメタノール300gとブチルグリシジルエーテル25gを加えた。この際、ブチルグリシジルエーテルが調製液に完全に溶解し、均一な混合液になったことを確認した。この混合液を60℃で4時間加熱攪拌した後、室温で静置すると、混合液に濁りが生じていた。次に、混合液中の濁りのろ取を試みたが、すべての成分がろ紙を通過し、析出物として回収できなかったため、以後の実験を中止した。
【0082】
(比較例3)
製造例2の調製液100gにメタノール300gと1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン25gを加えた。この際、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサンが調製液に完全に溶解し、均一な混合液になったことを確認した。この混合液を60℃で4時間加熱攪拌した後、室温で静置すると、混合液に濁りが生じていた。次に、混合液中の濁りのろ取を試みたが、全ての成分がろ紙を通過し、析出物として回収できなかったため、以後の実験を中止した。
【0083】
(比較例4)
製造例2の調製液100gにメタノール300gとブチレンオキシド25gを加えた。この際、ブチレンオキシドが調製液に完全に溶解し、均一な混合液になったことを確認した。この混合液を60℃で4時間加熱攪拌した後、室温で静置すると、混合液に濁りが生じていた。次に、混合液中の濁りのろ取を試みたが、全ての成分がろ紙を通過し、析出物として回収できなかったため、以後の実験を中止した。
【0084】
(比較例5)
製造例3のPEDOT-PSS水分散液100gにエポライトM-1230の25gを加えた。この際、エポライトM-1230はPEDOT-PSS水分散液に溶解せず、不均一液相が形成されたことを確認した。不均一液相を60℃で4時間加熱攪拌した後、室温で静置すると、不均一液相の水相中に析出物は見当たらなかった。次に、水相をろ紙に通したところ、すべての成分がろ紙を通過したため、以後の実験を中止した。
【0085】
(実施例6)
実施例1で得た修飾型導電性複合体分散液50gに、アートレジンUN-904M(根上工業社製、ウレタンアクリレート、固形分80%、メチルエチルケトン溶液)10gとペンタエリスリトールトリアクリレート30gとヒドロキシエチルアクリルアミド2.5gとジアセトンアルコール10gとイルガキュア184(BASF社製、光重合開始剤)1.6gを加えて、塗料を得た。次に、#8のバーコーターを用いてPETフィルム上に前記塗料を塗布し、100℃で1分乾燥し、400mJの紫外線を照射して、導電性フィルムを得た。
【0086】
(実施例7)
実施例5で得た修飾型導電性複合体分散液2.7gに、KS-3703T(信越化学工業社製、付加硬化型シリコーン、固形分30%、トルエン溶液)1.5gとトルエン25.5gとメチルエチルケトン60gとCAT-PL-50T(信越化学工業社製、白金触媒)0.3gを加えて、塗料を得た。次に、#8のバーコーターを用いてPETフィルム上に前記塗料を塗布し、150℃で1分乾燥し、導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの表面抵抗値と剥離力を測定した結果を表1に示す。
【0087】
<評価方法>
[表面抵抗値]
各例の導電性フィルムの表面抵抗値は、抵抗率計(三菱ケミカルアナリテック社製ハイレスタ)を用い、印加電圧を10Vとして測定した。その測定結果を表1に記載する。なお、表中の「Ω/□」はオームパースクエアの意味であり、「1.0E+05」は「1.0×10」を表し、他も同様である。表面抵抗値(単位:Ω/□)が小さい程、導電性が高いことを示す。
【0088】
[剥離力]
導電層にシリコーンを含む実施例7の導電性フィルムについて、下記の方法により剥離力を測定した。
導電性フィルムの導電層の表面に幅25mmポリエステル粘着テープ(日東電工社製、No.31B)を貼り付け、その粘着テープの上から1976Paの荷重をかけて25℃で20時間加圧処理した。次に、JIS Z0237に従い、引張試験機を用いて、導電層に貼った上記粘着テープを180°の角度で剥離(剥離速度0.3m/分)して、剥離力(単位:N)を測定した。剥離力が小さい程、離型性が高いことを意味する。
【0089】
【表1】
【0090】
以上の通り、本発明に係る実施例1~4の不均一液相の界面において、水相に含まれる導電性複合体と、水相に溶けずに有機相を形成したエポキシ化合物とが反応し、水相側に修飾型導電性複合体が形成された。
一方、比較例1~4では、調製液の3倍量のアルコール溶剤とともにエポキシ化合物を添加しているので、不均一液相は形成されず、均一な混合液となった。この混合液には、π共役系導電性高分子の酸化重合を行った反応液に由来する鉄イオンと過硫酸アンモニウムが含まれているので、エポキシ化合物のエポキシ基が速やかに分解され、目的の修飾型導電性複合体は得られず、濁りを生じたと考えられる。
また、比較例5では、炭素数12以上のエポキシ化合物とともにアルコール溶剤を添加しなかったので、実施例1~4と同様に不均一液相を形成した。しかし、遷移金属イオン及び過硫酸アンモニウムの何れも水相に含まれていないので、不均一液相の界面において反応が進行しなかった。