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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】掻き寄せブレード及び沈殿処理装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/06 20060101AFI20240329BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B01D21/06 A
B01D21/01 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020035338
(22)【出願日】2020-03-02
(65)【公開番号】P2021137699
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】渡部 博文
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】実開昭53-059769(JP,U)
【文献】特開2002-085909(JP,A)
【文献】特開昭48-102355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00 - 21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水中の固液を分離する沈殿処理装置の底部に沈殿した沈殿物を掻き寄せる掻き寄せブレードであって、
前記被処理水に対して耐腐食性を有する、硬質ゴム、熱可塑性樹脂、またはプラスチック材料のうちの少なくとも一つの第一の材質からなる第一層と、
前記第一層の表面に、前記第一の材質よりも耐摩耗性を有する第二の材質からなる第二層と、を備え、
前記第二層は、前記掻き寄せブレードの下方部をブレードの下端面を回り込んで前記第一層の表面に重ねて設けられて覆うことを特徴とする、掻き寄せブレード。
【請求項2】
前記第一層と前記第二層が全体的に重なることを特徴とする、請求項1に記載の掻き寄せブレード。
【請求項3】
第二の材質は、軟質ゴムであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の掻き寄せブレード。
【請求項4】
前記第一層及び/又は前記第二層は、ゴムライニングにより形成されることを特徴とする、請求項1に記載の掻き寄せブレードを製造する方法。
【請求項5】
無機物からなる固体成分に対する耐摩耗性があることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の掻き寄せブレード。
【請求項6】
被処理水中の固液を分離する沈殿処理装置であって、
被処理水中の固形物を沈殿させる沈殿槽と、
前記沈殿槽に設けられ、前記沈殿槽の底部に沈殿した沈殿物を掻き寄せる掻き寄せブレードと、を備え、
前記掻き寄せブレードは、前記被処理水に対して耐腐食性を有する硬質ゴム、熱可塑性樹脂、またはプラスチック材料のうちの少なくとも一つの第一の材質からなる第一層と、前記第一層の表面に、前記第一の材質よりも耐摩耗性を有する第二の材質からなる第二層と、を備え、
前記第二層は、前記掻き寄せブレードの下方部をブレードの下端面を回り込んで前記第一層の表面に重ねて設けられて覆うことを特徴とする、沈殿処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掻き寄せブレード及び沈殿処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、排水などの被処理水を処理する手段の一つとして、被処理水中の固形物などの不純物を除去する固液分離処理が行われている。
このような固液分離処理としては、被処理水中の固形物を沈殿させる沈殿槽を備え、この沈殿槽の底部に沈殿した沈殿物を掻き寄せる掻き寄せブレードを備える沈殿処理装置を用いた処理が挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、被処理水を沈降分離処理するための沈殿槽に、被処理水を供給するフィードウェルと、フィードウェルの下端に対峙して水の流れ方向を変更するプレートが水平に設けられており、プレート上の堆積物を落下させる手段として回転レーキを設けるとともに、沈殿槽底部に沈殿槽の底面に沿って回転する掻き寄せブレード(集泥用レーキ)を備えた沈殿処理装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-69189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、特許文献1に記載されるような沈殿処理装置においては、底部に沈殿した沈殿物等の固形物を掻き寄せるために十分な強度が必要であることから、装置を構成する部材としては金属材料が広く用いられている。また、部材と被処理水との接触時間が長いこと等から、金属材料には耐腐食性を付与することが行われている。例えば、沈殿処理装置の部材として用いる金属材料に対し、耐腐食性を付与するための塗装を施したものなどが用いられている。
【0006】
一方、部材に対する塗装による耐腐食性の付与は、耐腐食性の効果として十分ではない場合があるとともに、時間の経過とともに塗装が剥がれるため、定期的な補修が必要である。このため、メンテナンスに係る作業コストが大きいという問題がある。また、被処理水中の固形物等により部材表面の摩耗が生じ、塗装が剥がれることがある。このため、沈殿処理装置を構成する部材のうち、特に沈殿物を掻き寄せる掻き寄せブレードは、耐腐食性に加え、耐摩耗性を必要とするが、特許文献1には部材の材質について特に記載されておらず、また、部材に対する耐腐食性及び耐摩耗性の付与の必要性や、その具体的な対策について何ら示されていない。
【0007】
本発明の課題は、被処理水中の固液を分離する沈殿処理を行うに当たり、耐腐食性及び耐摩耗性に優れ、メンテナンスが容易となる掻き寄せブレード及び沈殿処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、沈殿処理装置の底部に沈殿した沈殿物を掻き寄せる掻き寄せブレードにおいて、被処理水に対する耐腐食性を有する材質からなる層と耐摩耗性を有する材質からなる層とを重ねて設けることで、掻き寄せブレード及びこの掻き寄せブレードを備える沈殿処理装置が、耐腐食性及び耐摩耗性に優れ、メンテナンスが容易になることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の掻き寄せブレード及び凝集沈殿処理装置である。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の掻き寄せブレードは、被処理水中の固液を分離する沈殿処理装置の底部に沈殿した沈殿物を掻き寄せる掻き寄せブレードであって、被処理水に対して耐腐食性を有する材質からなる第一層と、第一層の表面に、耐腐食性を有する材質よりも耐摩耗性を有する材質からなる第二層とを備えることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の掻き寄せブレードによれば、耐腐食性に加え、耐摩耗性を付与することができる。また、従来の塗装処理を行ったものに比べ、補修に係るメンテナンス作業を大幅に減らすことが可能となる。
【0011】
また、本発明の掻き寄せブレードの一実施態様としては、第一層は、硬質ゴムからなる層を含むという特徴を有する。
この特徴によれば、無機物・有機物を問わず、広範囲の化学物質に対して耐腐食性を発揮することが可能となる。また、材質として加工が容易であり、比較的安価なものを入手することが容易であることから、メンテナンス作業に係るコストを低減させることが可能となる。
【0012】
また、本発明の掻き寄せブレードの一実施態様としては、第二層は、軟質ゴムからなるという特徴を有する。
この特徴によれば、弾性を有する材質を用いることで、被処理水中の固形物等との接触による摩耗を抑制することが可能となる。また、材質として加工が容易であり、比較的安価なものを入手することが容易であることから、メンテナンス作業に係るコストを低減させることが可能となる。
【0013】
また、本発明の掻き寄せブレードの一実施態様としては、第一層及び/又は第二層は、ゴムライニングにより形成されるという特徴を有する。
この特徴によれば、掻き寄せブレードを構成する部材に対する第一層及び第二層の接着強度及び加工精度を高めることができ、第一層及び第二層として用いる材質の耐腐食性及び耐摩耗性を十分に発揮させることが可能となる。また、第一層及び第二層の接着強度及び加工精度が高まることで、補修などのメンテナンス作業の頻度を大幅に削減することが可能となる。
【0014】
また、本発明の掻き寄せブレードの一実施態様としては、被処理水は、無機物からなる固体成分を含むという特徴を有する。
一般的に、被処理水中の固形物としては、有機物よりも無機物からなるもののほうが硬いことが知られている。このため、一般的な掻き寄せブレードと無機物からなる固体成分とが接触する際、他の固形物よりも摩耗による劣化の進行が速いという問題があった。一方、この特徴によれば、部材の耐摩耗性を特に必要とする被処理水に対しても、適切な処理を行うことが可能となるとともに、頻繁にメンテナンス作業を実施する必要がなく、メンテナンス作業に係るコストを低減させることが可能となる。
【0015】
また、上記課題を解決するための本発明の沈殿処理装置は、被処理水中の固液を分離する沈殿処理装置であって、被処理水中の固形物を沈殿させる沈殿槽と、沈殿槽に設けられ、沈殿槽の底部に沈殿した沈殿物を掻き寄せる掻き寄せブレードと、を備え、掻き寄せブレードは、被処理水に対して耐腐食性を有する材質からなる第一層と、第一層の表面に、耐腐食性を有する材質よりも耐摩耗性を有する材質からなる第二層と、を備えることを特徴とするものである。
本発明の沈殿処理装置によれば、沈殿物を掻き寄せる掻き寄せブレードに対し、耐腐食性に加え、耐摩耗性を付与することができる。また、従来の塗装処理を行ったものに比べ、掻き寄せブレードの補修に係るメンテナンス作業を大幅に減らすことが可能となる。これにより、沈殿処理装置を安定して運転することが可能となるとともに、維持管理に係るコストを低減させることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被処理水中の固液を分離する沈殿処理を行うに当たり、耐腐食性及び耐摩耗性に優れ、メンテナンスが容易となる掻き寄せブレード及び沈殿処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施態様の沈殿処理装置を示す概略説明図である。
図2】本発明の実施態様の沈殿処理装置における掻き寄せ部の構造を示す概略説明図(斜視図)である。
図3】本発明の実施態様の掻き寄せブレードの構造を示す概略説明図(断面図)である。
図4】本発明の実施態様の掻き寄せブレードの構造に係る別の態様を示す概略説明図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る掻き寄せブレード及び沈殿処理装置の実施態様を詳細に説明する。なお、実施態様に記載する掻き寄せブレード及び沈殿処理装置の構造については、本発明に係る掻き寄せブレード及び沈殿処理装置を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0019】
本実施態様に係る沈殿処理装置は、固形物を含む被処理水を、処理水と固形物(沈殿物)に分離する固液分離処理に利用されるものである。また、本実施態様に係る固液分離処理における処理水と固形物の分離手段は、特に限定されない。例えば、被処理水に薬品を添加して化学反応させ、被処理水中から結晶を析出させる反応晶析によって、処理水と固形物に分離するものや、被処理水に凝集剤を添加して被処理水中の固形物を凝集させ、処理水と凝集した固形物に分離するものが挙げられる。また、反応晶析と凝集処理の組み合わせによるものなどが挙げられる。なお、以下の実施態様においては、被処理水に凝集剤を添加して、固形物を凝集沈殿させて分離する固液分離処理について主に説明するが、これに限定されるものではない。
【0020】
本実施態様における処理対象である被処理水は、分離対象である固形物を含むものであればよく、発生源や固形物の種類は特に限定されない。また、本実施態様における被処理水は、薬品等の添加により固形物が析出するものも含まれる。被処理水としては、例えば、工場排水や生活排水のほか、河川水や他の水処理設備からの一次処理水などが挙げられる。
【0021】
特に本実施態様においては、処理対象である被処理水は、無機物からなる固体成分を含むものとすることが挙げられる。一般に、被処理水中の固形物としては、有機物よりも無機物からなるもののほうが硬いため、無機物からなる固体成分を含む被処理水を沈殿処理する場合、従来の掻き寄せブレード等の部材と無機物からなる固体成分が接触することで摩耗による劣化の進行が速いという問題があった。一方、本実施態様においては、耐腐食性及び耐摩耗性を備える掻き寄せブレードを形成することにより、部材の耐摩耗性を特に必要とする被処理水に対しても、適切な処理を行うことが可能となるとともに、頻繁にメンテナンス作業を実施する必要がなく、メンテナンス作業に係るコストを低減させることが可能となる。
なお、無機物からなる固体成分としては、特に限定されないが、例えば、金属粉(鉄粉など)を含むスラッジのほか、アルカリ金属やアルカリ土類金属を含む結晶状物質(ナトリウム塩やカルシウム塩など)が挙げられる。
【0022】
(沈殿処理装置)
以下、本発明における沈殿処理装置の一実施態様について説明する。
図1は、本発明の実施態様の沈殿処理装置100の構造を示す概略説明図である。
本実施態様に係る沈殿処理装置100は、図1に示すように、沈殿槽1と、沈殿槽1内に設けられ、被処理水Wの固形物を凝集してフロック化するミキシングチャンバ2とを備えている。ここで、ミキシングチャンバ2を通過することにより凝集したフロックFを含む被処理水Wが、ディストリビュータ3を介して沈殿槽1内に吐出され、沈殿槽1の下方にフロックFが沈殿する一方、沈殿槽1の上方には上澄みである清澄層Cが形成され、清澄された処理水W1は、沈殿槽1の上部側に設けた処理水排出部4により排出される。また、沈殿槽1の底部に沈殿したフロックF(沈殿物P)は、沈殿槽1の底部中央から汚泥排出部5を介して排出される。さらに、沈殿処理装置100には、沈殿槽1の底部に沈殿した沈殿物Pを汚泥排出部5側へ掻き寄せる掻き寄せ部6を備えている。
【0023】
以下、各構成について説明する。
【0024】
ミキシングチャンバ2は、沈殿槽1の中央に直立状態で配設された筒状の中空部材であり、その内部に被処理水Wが流入して流れる流路2aが形成されている。また、ミキシングチャンバ2には、ミキシングチャンバ2内に被処理水Wを供給する流入管21が接続されている。流入管21は、ミキシングチャンバ2内に被処理水Wを供給することができるものであればよく、例えば図1に示すように、沈殿槽1に対し水平方向に延びた管を、沈殿槽1の周壁1aを貫通して内部に進入させ、ミキシングチャンバ2と接続されるものが挙げられる。
【0025】
ミキシングチャンバ2内には、流入管21から供給される被処理水Wに対し、被処理水W中の固形物を凝集しフロック化するために、凝集剤を添加するための凝集剤添加手段を備えている。
本実施態様の凝集剤添加手段としては、ミキシングチャンバ2内の流路2aを流れる被処理水Wに対し、ノズル22により凝集剤が添加されるものを図1に例示しているが、これに限定されるものではない。他の例としては、例えば、流入管21の上流に凝集剤添加部を別途設け、この凝集剤添加部より被処理水Wに凝集剤が添加されるものとすることが挙げられる。
【0026】
被処理水Wに混合される凝集剤としては、無機凝集剤及び高分子凝集剤が挙げられる。凝集剤は、無機凝集剤あるいは高分子凝集剤のみを用いるものであってもよく、無機凝集剤と高分子凝集剤を併用するものであってもよい。なお、無機凝集剤及び高分子凝集剤を併用する場合、無機凝集剤、高分子凝集体の順に被処理水Wに添加することが好ましい。これにより、安定したフロック形成が可能となる。
凝集剤の具体例としては、例えば、無機凝集剤としては、硫酸バンドやPAC等のAl系無機凝集剤や、ポリ硫酸鉄等のFe系無機凝集剤が挙げられる。あるいは、NaOH、Ca(OH)等のアルカリ又はHSO、HCl等の酸によるpH調整剤や、Ca、Al、Fe系化合物の添加や、酸化剤・還元剤の添加等により結晶を析出させるものとしてもよい。また、高分子凝集剤としては、ポリアミノアルキルメタクリレート、ポリエチレンイミン、ハロゲン化ポリジアリルアンモニウム、キトサン、尿素-ホルマリン樹脂等のカチオン性高分子凝集剤、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド部分加水分解物、部分スルホメチル化ポリアクリルアミド、ポリ(2-アクリルアミド)-2-メチルプロパン硫酸塩等のアニオン性高分子凝集剤、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド等のノニオン性高分子凝集剤、アクリルアミドとアミノアルキルメタクリレートとアクリル酸ナトリウムの共重合体等の両性高分子凝集剤が挙げられる。
【0027】
また、ミキシングチャンバ2内には、被処理水Wと凝集剤を混合し撹拌するための円筒状の回転ミキサ23が配設されている。この回転ミキサ23内に、沈殿槽1に沿った高さ方向に延在するシャフト7が配置されており、シャフト7は上端に取り付けられたモータ等の駆動装置8によって軸心周りに回転可能となっている。ミキシングチャンバ2とシャフト7とは互いに接しておらず、ミキシングチャンバ2内をシャフト7が貫通している。
【0028】
シャフト7の下部には、ミキシングチャンバ2内の被処理水Wを沈殿槽1に供給するためのディストリビュータ3が固定されている。このディストリビュータ3は、ミキシングチャンバ2内に連通した複数本の管が、水平かつ放射状に延びるように設けられている。また、ミキシングチャンバ2内で形成されたフロックFを含む被処理水Wを吐出するための吐出孔3aが、沈殿槽1底部に向けた状態で複数設けられている。
シャフト7が回転駆動することで、シャフト7と共にディストリビュータ3が回転し、ミキシングチャンバ2内のフロックFを含む被処理水Wは、沈殿槽1内に均等に分配供給される。
【0029】
また、シャフト7には、ミキシングチャンバ2及びディストリビュータ3よりもさらに下方側に、掻き寄せ部6が取り付けられている。この掻き寄せ部6により、ディストリビュータ3から供給されて沈殿槽1底部に沈殿したフロックF(沈殿物P)を汚泥排出部5側に掻き寄せることができる。
【0030】
汚泥排出部5は、沈殿槽1の底部に沈殿した沈殿物Pを沈殿処理装置100外に排出することができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。汚泥排出部5としては、例えば、図1に示すように、沈殿槽1の底部に設けられた汚泥引抜用凹部51、汚泥引抜管52、汚泥引抜ポンプ(不図示)などからなるものが挙げられる。また、図1に示すように、汚泥引抜用凹部51内の沈殿物Pを掻き落とすためのスクレーパ53をシャフト7に取り付けるものとすること等が挙げられる。
【0031】
掻き寄せ部6の詳細について、図1及び図2を用いて説明する。
図2は、本実施態様における沈殿処理装置100に係る掻き寄せ部6の近傍を拡大した概略説明図(斜視図)である。なお、図2A及び図2Bは、それぞれ掻き寄せブレード63の形状の一例を示すものである。
【0032】
図1に示すように、掻き寄せ部6は、シャフト7の下方側から外方に向かって略水平方向に延びる旋回シャフト61を有している。旋回シャフト61の本数及び配置については特に限定されないが、複数本の旋回シャフト61を等角度間隔で配置することが挙げられる。これにより、シャフト7の回転により、旋回シャフト61を安定して回転させることが可能となる。
また、図1に示すように、旋回シャフト61には、複数本の支持ロッド62が垂直下方に延びるように取り付けられている。ここで、各旋回シャフト61において隣り合う支持ロッド62の間隔は特に限定されず、適宜設定することが可能である。なお、図1においては、隣り合う支持ロッド62の間隔は一定とするものを示しているが、これに限定されるものではない。
【0033】
また、図1及び図2に示すように、支持ロッド62の下端には掻き寄せブレード63が接合されている。支持ロッド62と掻き寄せブレード63の接合手段は特に限定されないが、例えば、支持ロッド62と掻き寄せブレード63を溶接することや、ボルト及びナット等の係止手段を用いること等が挙げられる。
【0034】
このとき、掻き寄せブレード63の下端部が、沈殿槽1の底面に接した状態となるように、支持ロッド62と掻き寄せブレード63の取り付け位置やサイズなどが適宜設定される。これにより、沈殿槽1の底面に沈殿した沈殿物Pは、掻き寄せブレード63により汚泥排出部5側に掻き寄せられる。
なお、被処理水W中のフロックFの密度が高く、沈殿物Pが濃縮しやすいなど、沈殿物Pの性質によっては、掻き寄せブレード63を、沈殿槽1の底面から離間させて取り付けるものとするとしてもよい。これにより、掻き寄せブレード63による沈殿物Pの掻き寄せ効率を損なうことなく、掻き寄せブレード63と沈殿槽1の底面との間の摩擦を低減させ、掻き寄せブレード63の摩耗による劣化を抑制することが可能となる。
【0035】
掻き寄せブレード63の形状としては、沈殿物Pを掻き寄せることができるものであれば特に限定されない。例えば、図2においては、掻き寄せブレード63として、断面L字型の形状を有するもの(図2A)や、沈殿槽1の底面に対して傾斜を有する形状を有するもの(図2B)を示しているが、これに限定されるものではない。
【0036】
掻き寄せブレード63は、旋回シャフト61の中心軸線に対して所定の傾斜角をもって取り付けられる。この傾斜角及び傾斜の向きは、旋回シャフト61の旋回方向によって設定されるものである。より具体的には、旋回シャフト61が旋回したときに、旋回方向前面となる掻き寄せブレード63の面に接した沈殿物Pに対し、沈殿槽1の中心側に向かって押圧力が作用するように、掻き寄せブレード63の傾斜角及び傾斜の向きを設定する。また、掻き寄せブレード63の傾斜角は、旋回速度によって適宜設定されるものである。これにより、沈殿物Pを汚泥排出部5に向けて効率的に掻き寄せることができる。
【0037】
上述したように、本実施態様の沈殿処理装置100による処理対象である被処理水Wは固形物を含むものであれば特に限定されないが、このような被処理水Wは、ハロゲン等の酸化力の強い物質や、酸・アルカリ、各種塩類などを含み、沈殿処理装置100を構成する部材に対する腐食性を示すことがある。特に、掻き寄せブレード63は、ディストリビュータ3から分配供給された被処理水W中に浸漬した状態となる。したがって、掻き寄せブレード63には耐腐食性を付与することが必要となる。
また、掻き寄せブレード63は、沈殿物Pを掻き寄せる際に、沈殿物Pや沈殿槽1の底面との接触が生じる。このとき、掻き寄せブレード63の表面が摩耗により劣化していくことを防ぐため、掻き寄せブレード63には耐摩耗性も併せて付与する必要がある。
【0038】
図3は、本実施態様における掻き寄せブレード63の断面図である。なお、図3は、図2Aで示した掻き寄せブレード63の形状に係る断面図を示すものである。
本実施態様における掻き寄せブレード63は、図3に示すように、被処理水Wに対して耐腐食性を有する材質からなる第一層63aと、第一層63aの表面に、第一層63aの材質よりも耐摩耗性を有する材質からなる第二層63bとを備えている。これにより、掻き寄せブレード63に対し、耐腐食性及び耐摩耗性を付与することが可能となる。特に、耐摩耗性を有する材質からなる第二層63bの面が、沈殿物Pや沈殿槽1の底面と接触するように構成することで、従来の掻き寄せブレードよりも長い期間、耐腐食性を損なうことなく沈殿処理を継続して行うことが可能となる。これにより、掻き寄せブレード63に係るメンテナンス作業を大幅に削減することが可能となる。
【0039】
第一層63aは、被処理水Wに対する耐腐食性を有する材質からなるものであればよく、金属材料、非金属材料のいずれであってもよい。
第一層63aの材質として用いられる金属材料の例としては、例えば、ステンレスなどのように、表面に酸化被膜を形成し耐腐食性を有する金属(合金)材料のほか、鉄や鋼などの金属材料に対し表面処理(めっき、塗装等)を行った材料等が挙げられる。一方、第一層63aの材質として用いられる非金属材料の例としては、例えば、ゴム材料のほか、フッ素樹脂などの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂のようなプラスチック材料等が挙げられる。このような金属材料、非金属材料については、各種溶液に対する耐腐食性が広く検討されるとともに、その検討結果についても開示されている。したがって、既に開示されている各種検討結果に係る情報に基づき、本実施態様における第一層63aの材質を選択するものとしてもよい。
【0040】
ここで、掻き寄せブレード63自体の強度を維持するため、第一層63aは一定の強度を有するように構成されることが好ましい。例えば、耐腐食性を有する第一層63aの材質として金属材料を用いる場合、そのまま第一層63aとして利用することができる。一方、耐腐食性を有する第一層63aの材質として非金属材料を用いる場合、芯材を用い、その表面に非金属材料からなる層を形成し、第一層63aを構成するものとすることが挙げられる。
【0041】
本実施態様における掻き寄せブレード63の第一層63aとしては、図3に示すように、金属材料など強度を有する材料を芯材Bとし、その表面に非金属材料からなる層Lを形成したものを用いることがより好ましい。第一層63aの材質として、材料自体が耐腐食性を有する金属材料や、めっきや塗装などの表面処理を行う金属材料を用いる場合、十分な強度が得られる一方、材料のコストが高価になることや、表面処理の剥離など耐腐食性の維持が難しいことが懸念される。他方、芯材Bに非金属材料からなる層Lを形成したものは、掻き寄せブレード63として十分な強度を有し、かつ耐腐食性の高い層を形成することが可能となる。
【0042】
第一層63aとして、芯材Bに非金属材料からなる層Lを形成する手段としては特に限定されない。例えば、芯材Bの表面に非金属材料からなるシートを接着することや、芯材Bに対して非金属材料で形成されたキャップ状の構造体を被せることなどが挙げられる。特に、芯材Bと非金属材料からなる層Lとの接着強度が高く、芯材Bの形状に合わせた加工精度が高いという観点から、ゴムライニングにより第一層63aを形成することが好ましい。
【0043】
ゴムライニングとは、金属などの接着対象面にゴムシートを接着するための施工技術の一つである。
ゴムライニングの一般的な施工手順について、以下、簡単に説明する。まず、接着対象面(芯材表面)の表面に対し、グリッドブラストやサンドブラストなどの粗面化処理を行った後、接着剤を塗布し、ゴムシートを貼り付ける。このとき、貼り付けるゴムシートは、未加硫ゴムからなるものを用いる。その後、加硫処理を行い、未加硫ゴムを加硫ゴムに変化させる。この加硫処理を経ることにより、高い接着強度及び高い加工精度を実現することが可能となる。
【0044】
ゴムライニングは、未加硫ゴムを加硫ゴムに変化させる施工技術であり、主に天然ゴムを対象とした施工技術であることが知られているが、本実施態様においては、加硫処理を伴うゴムライニングにより第一層63aが形成されるものであればよく、対象を天然ゴムに限定するものではない。
【0045】
ここで、ゴムライニングにより第一層63aを形成する場合、第一層63aとしては、硬質ゴムからなる層を含むものとすることが好ましい。硬質ゴムは、生ゴムに多量の硫黄(約20%以上)を添加して加硫することにより得られるゴムであり、JIS規格(JIS K 6253-3)におけるタイプDデュロメータにて硬度65~85の値を示すゴムのことである。また、硬質ゴムは、強度や化学的安定性など、ゴムとしての一般的な性能が良好であることが知られている。したがって、第一層63aとして、硬質ゴムからなる層を用いることで、無機物・有機物を問わず、広範囲の化学物質に対して耐腐食性を発揮することが可能となる。また、硬質ゴムは、材質として加工が容易であり、比較的安価なものを入手することが容易であることから、メンテナンス作業に係るコストを低減させることが可能となる。
【0046】
第二層63bは、耐腐食性を有する第一層63aの材質よりも、耐摩耗性を有する材質からなるものであればよい。このような材質としては、非金属材料が挙げられる。
第二層63bの材質として用いられる非金属材料の例としては、例えば、第一層63aで用いた金属材料又は非金属材料よりも、耐摩耗性を有するゴム材料やプラスチック材料等が挙げられる。より具体的には、このような非金属材料としては、第一層63aの材質よりも弾性を有し、沈殿物P等の固体との接触による衝撃を吸収できる性能を有する材料が挙げられる。
【0047】
また、第一層63aの表面に対し、第二層63bを形成する手段については、特に限定されないが、第一層63aの形成と同様に、ゴムライニングによることが好ましい。これにより、第一層63a及び第二層63bの接着強度を高め、掻き寄せブレード63としての加工精度を高めることが可能となる。
【0048】
したがって、第二層63bの材質としては、第一層63aよりも弾性を有し、かつゴムライニングによる加工が可能であるものとして、軟質ゴムを用いることが好ましい。軟質ゴムは、生ゴムに少量の硫黄(約5%以下)を添加して加硫することにより得られるゴムであり、JIS規格(JIS K 6253-3)におけるタイプAデュロメータにて硬度47~57の値を示すゴムのことである。また、軟質ゴムは、弾性体であるとともに、伸び率が高く、クラックなどのひび割れが生じにくいことが知られている。したがって、第二層63bとして、軟質ゴムを用いることで、被処理水中の固形物等との接触による摩耗を抑制することが可能となる。また、軟質ゴムは、材質として加工が容易であり、比較的安価なものを入手することが容易であることから、メンテナンス作業に係るコストを低減させることが可能となる。
【0049】
本実施態様における掻き寄せブレード63は、図3に示すように、第一層63aと第二層63bが全体的に重なるように構成することが挙げられる。これにより、沈殿物Pと接触する掻き寄せブレード63の表面全てが耐摩耗性を備え、掻き寄せブレード63の劣化を抑制することができる。
【0050】
なお、掻き寄せブレード63の構成としては、図3に示すように、第一層63aと第二層63bが全体的に重なるものに限定されない。
図4は、本実施態様における掻き寄せブレードの他の態様を示す断面図である。
例えば、図4に示すように、第一層63aの下方部にのみ、第二層63bを設ける構成とすることが挙げられる。これにより、第二層63bの形成に係るコストを低減させることができる。また、沈殿槽1の底面に接触する部分に対しては、十分な耐摩耗性を備えることができるため、従来の掻き寄せブレードよりも劣化の進行を抑制することが可能となる。
【0051】
以上のように、本実施態様の掻き寄せブレード及び沈殿処理装置は、掻き寄せブレードに耐腐食性及び耐摩耗性を付与することができる。これにより、金属材料の表面を塗装処理することで耐腐食性を付与していた従来の掻き寄せブレードに比べ、補修の頻度を低減させることができる。また、掻き寄せブレード及び沈殿処理装置に対するメンテナンスに係る作業コストを削減するとともに、安定した運転を可能とし、維持管理に係るコストを低減させることが可能となる。
【0052】
特に、本実施態様における掻き寄せブレード及び沈殿処理装置は、耐腐食性に加えて、耐摩耗性を備えるものであることから、無機物からなる固体成分を含む被処理水のように、部材の耐摩耗性を特に必要とする被処理水の処理に好適に用いることができる。
【0053】
なお、上述した実施態様は掻き寄せブレード及び沈殿処理装置の一例を示すものである。本発明に係る掻き寄せブレード及び沈殿処理装置は、上述した実施態様に限られるものではなく、要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る掻き寄せブレード及び沈殿処理装置を変形してもよい。
【0054】
例えば、本実施態様における沈殿処理装置は、ミキシングチャンバを備える沈殿槽を用いたものに限定されるものではない。他の例としては、例えば、外壁部及び内壁部による二重構造式の凝集沈殿槽を用い、凝集剤を添加した被処理水が上昇するに伴ってフロックが成長するブランケット状のフロック成長ゾーンを形成するスラッジブランケット部と、スラッジブランケット部において発生した余剰スラッジを濃縮する濃縮部とを備えた凝集沈殿槽を有するものなどが挙げられる。このような凝集沈殿槽に対し、本実施態様における掻き寄せブレードを適用することで、耐腐食性及び耐摩耗性を備え、メンテナンス容易な沈殿処理装置とすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の掻き寄せブレード及び沈殿処理装置は、固形物を含有する被処理水の処理に利用することができる。より具体的な例としては、例えば、本発明の掻き寄せブレード及び沈殿処理装置は、被処理水に凝集剤を添加してフロックを形成させる凝集沈殿処理に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0056】
100 沈殿処理装置、1 沈殿槽、1a 周壁、2 ミキシングチャンバ、2a 流路、21 流入管、22 ノズル、23 回転ミキサ、3 ディストリビュータ、3a 吐出孔、4 処理水排出部、5 汚泥排出部、51 汚泥引抜用凹部、52 汚泥引抜管、53 スクレーパ、6 掻き寄せ部、61 旋回シャフト、62 支持ロッド、63 掻き寄せブレード、63a 第一層、63b 第二層、7 シャフト、8 駆動装置、B 芯材、C 清澄層、F フロック、L 非金属材料からなる層、P 沈殿物、W 被処理水、W1 処理水
図1
図2
図3
図4