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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】水中油型乳化組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/92 20060101AFI20240329BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20240329BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20240329BHJP
   A61K 8/86 20060101ALI20240329BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
A61K8/92
A61K8/06
A61K8/37
A61K8/86
A61Q19/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020058873
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021155371
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】池田 裕政
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-114834(JP,A)
【文献】特開2014-234380(JP,A)
【文献】特開2005-089303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)~(D):
(A)25℃で液状のエステル油および25℃で液状の植物油からなる群から選択される少なくとも1種、
(B)エチレンオキシドの平均付加モル数が20~30であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、
(C)モノイソステアリン酸ソルビタン、およびジイソステアリン酸ソルビタンから選ばれる1種以上、
(D)水
を含み、
前記成分(C)に対する前記成分(B)の含有質量比(B)/(C)が1を超え、20未満であり、
乳化粒子の平均粒子径が300nm以下である、水中油型乳化組成物。
【請求項2】
前記成分(A)の含有量が油剤に対して60質量%以上である、請求項1に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項3】
25℃で液状である、請求項1または2に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項4】
前記成分(A)が分子量400以上のエステル油および植物油からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項5】
前記成分(B)の含有量が、水中油型乳化組成物に対して、2.5質量%を超える、請求項1~4のいずれか1項に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項6】
前記成分(C)の含有量が、水中油型乳化組成物に対して、0.5質量%を超える、請求項1~5のいずれか1項に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の水中油型乳化組成物を含む、化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水中油型乳化組成物は、連続相が水性成分で構成されているため、化粧料として用いられた場合に、(1)軽いなめらかなのび、さっぱりとした使用感が得られる、(2)比較的製造が容易である、(3)温度に対する影響を受けにくい、(4)油の種類、量を変化させることにより、感触や性状を種々変化させ、広がりをもたせることが可能である、といった特徴を有する。
【0003】
水中油型乳化組成物のうち、油剤としてエステル油や植物油が用いられることがある。そして、植物油等を用いた水中油型乳化組成物において、乳化滴の粒子径を小さくする試みもこれまでなされてきた。
【0004】
例えば、特許文献1では、グルタミン酸ポリペプチドなどの粘性物質、およびポリヒドロキシ化合物を含有する界面活性成分を用いて、エマルジョン粒子径を5μm以下とする技術が開示されている。植物油などは極性が高いために、安定な水中油型乳化組成物を得ることが困難であり、上記のような構成とすることで、エマルジョン粒子径を5μm以下の微粒子にすることが可能であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-18696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された技術においても、水中油型乳化組成物の安定性が十分なものとは言えず、改良の余地があった。
【0007】
そこで本発明は、エステル油および/または植物油を油剤として用いた水中油型乳化組成物において、製剤安定性(乳化安定性および経時安定性)の高い水中油型乳化組成物を提供することを目的とする。
【0008】
さらに本発明の他の目的は、化粧料に適用した場合に、皮膚にツヤ感を付与することができる、水中油型乳化組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、次の成分(A)~(D):(A)25℃で液状のエステル油および25℃で液状の植物油からなる群から選択される少なくとも1種、(B)エチレンオキシドの平均付加モル数が20~30であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、(C)モノイソステアリン酸ソルビタン、およびジイソステアリン酸ソルビタンから選ばれる1種以上、(D)水を含み、成分(C)に対する成分(B)の含有質量比(B)/(C)が1を超え、20未満であり、乳化粒子の平均粒子径が300nm以下である、水中油型乳化組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エステル油や植物油を油剤として用いた場合であっても、製造直後、また経時での乳化安定性が高いものとなる。また、水中油型乳化組成物を化粧料として皮膚に塗布した場合に、皮膚にツヤ感を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行う。
【0012】
本発明の一実施形態は、次の成分(A)~(D):(A)25℃で液状のエステル油および25℃で液状の植物油からなる群から選択される少なくとも1種、(B)エチレンオキシドの平均付加モル数が20~30であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、(C)モノイソステアリン酸ソルビタン、およびジイソステアリン酸ソルビタンから選ばれる1種以上、(D)水を含み、成分(C)に対する成分(B)の含有質量比(B)/(C)が1を超え、20未満であり、乳化粒子の平均粒子径が300nm以下である、水中油型乳化組成物である。
【0013】
成分(A)の25℃で液状のエステル油および/または25℃で液状の植物油(以下、単にエステル油等とも称する)を用いて水中油型の乳化を行う場合、上述したように、製剤安定性が不安定なものになりやすい。しかしながら、成分(B)および成分(C)を組み合わせ、乳化粒子の平均粒子径を300nm以下とすることで、初期安定性および経時での安定性を担保することができる。これは、乳化粒子の平均粒子径が300nm以下と十分に小さいために、初期の安定性が担保されるとともに、成分(B)および成分(C)の組み合わせがエステル油等を含む油滴の界面を安定させることができ、経時での安定性が維持されるためであると考えられる。界面活性剤が有するHLBのバランスで水中油型乳化の油剤の乳化安定性が検討されることが多いが、エステル油等の微細乳化においては、界面活性剤のHLBのバランスだけでは乳化の安定性が担保されないことを本発明者らは知見した。そして、活性剤の種類およびその組み合わせまでがエステル油等の微細乳化物の安定性に重要であることを見出したものであり、多種存在する活性剤の中で、成分(B)および成分(C)を組み合わせが極めて重要であることを見出したものである。
【0014】
さらに、乳化粒子の平均粒子径を300nm以下とすることで、化粧料として適用した場合に、肌への浸透性が高まるため、油剤の効果が発揮されやすくなる。また、本実施形態の構成とすることで、肌に塗布した際に、肌にツヤ感を付与することができる。
【0015】
本実施形態の水中油型乳化組成物は、25℃で液状であることが好ましい。液状水中油型乳化組成物の製剤安定性は、粘性を有するものよりも担保することが一般的に困難である。本実施形態であることで、25℃で液状であるにもかかわらず、乳化安定性および経時での安定性が担保される。ここで、本明細書において、25℃で液状とは、25℃で流動性を有する状態であることを意味する。具体的には、25℃において、ブルックフィールド型回転粘度計を用いて測定された粘度が、10000mPa・s以下、好ましくは5000mPa・s以下、さらに好ましくは2000mPa・s以下であることを指す。
【0016】
また、本実施形態の水中油型乳化組成物は、透明~半透明の外観を呈することが好ましい。
【0017】
経時安定性の観点から、水中油型乳化組成物における乳化粒子の平均粒子径は300nm以下であり、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましい。水中油型乳化組成物における乳化粒子の平均粒子径の下限は、小さければ小さいほど製剤安定性に優れるため、特に限定されるものではないが、通常、10nm以上である。このような微細な乳化粒子は、後述するように、例えば、転相温度乳化法によって得ることができる。よって、本発明の好適な形態は、転相温度乳化法によって得られる、水中油型乳化組成物である。
【0018】
乳化粒子の平均粒子径は、実施例によって測定された値を採用する。
【0019】
(成分(A):25℃で液状のエステル油および/または25℃で液状の植物油)
成分(A)の25℃で液状のエステル油および/または25℃で液状の植物油は、屈折率が高く、化粧料として皮膚に塗布すると、肌にツヤ感を与えることができる。また、肌にしっとりした感触を付与することができる。
【0020】
エステル油としては、直鎖または分岐鎖の脂肪酸と、直鎖または分岐鎖の1価または多価アルコールからなるエステルが挙げられる。25℃で液状のエステル油としては、水酸基を有していないことが好ましい。25℃で液状のエステル油としては、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、ジイソステアリン酸グリセリル、ジイソステアリン酸ジグリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトライソステアリン酸ジグリセリル、デカイソステアリン酸ポリグリセリル、イソノナン酸イソトリデシル、テトラ2-エチルヘキサン酸ペンタエリトリット、テトライソステアリン酸ペンタエリトリット、2-エチルヘキサン酸セチル、オレイン酸オクチルドデシル、トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリル、ジカプリン酸プロピレングリコール、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸イソセチル、ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、コハク酸ジ2-エチルヘキシル、パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、サリチル酸エチルヘキシル等が挙げられる。
【0021】
25℃で液状のエステル油(以下、単にエステル油とする場合は、25℃で液状のエステル油を指す)としては、エステルを構成する脂肪酸が分岐または二重結合を有していることが好ましい。エステルを構成する脂肪酸が分岐または二重結合を有しているエステル油は、肌の細胞間脂質を揺るがせることができ、油剤の皮膚への浸透性がよく、後肌のやわらかさといった油剤の効果が得られやすい。一方で、これらの油剤は、油剤の乳化滴の界面の構造を不安定にしやすく、乳化安定性が不安定になりやすい。しかしながら、本実施形態では、これらの油剤を用いた場合であっても、成分(B)および成分(C)を組み合わせることで、微細な乳化滴が安定して形成される。エステルを構成する脂肪酸が分岐または二重結合を有している、25℃で液状のエステル油としては、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、ジイソステアリン酸グリセリル、ジイソステアリン酸ジグリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトライソステアリン酸ジグリセリル、デカイソステアリン酸ポリグリセリル、イソノナン酸イソトリデシル、テトラ2-エチルヘキサン酸ペンタエリトリット、テトライソステアリン酸ペンタエリトリット、2-エチルヘキサン酸セチルなどが挙げられる。
【0022】
さらに、エステル油の分子量は400以上であることが好ましい。分子量が400以上であるエステル油は、化粧料として皮膚に塗布した場合に、ツヤ感を一層付与することができるという効果があるが、油剤の乳化滴の界面の構造を不安定にしやすく、乳化安定性が不安定になりやすい。しかしながら、本実施形態では、分子量が比較的大きい油剤を用いた場合であっても、成分(B)および成分(C)を組み合わせることで、微細な乳化滴が安定して形成される。エステル油の分子量は、500以上であることがより好ましく、600以上であることがさらにより好ましい。なお、エステル油の分子量の上限は、特に限定されるものではないが、通常1500以下である。
【0023】
成分(A)としては植物油を用いてもよい。植物油は、エステル油から構成されることが好ましい。植物油は高い屈折率が比較的高く、皮膚に塗布すると、ツヤ感を付与しやすいが、植物油は通常、複数の脂肪酸エステル油の混合物であり、分子量分布が不均一である。このため、微細乳化を行い難く、また、経時安定性も担保しにくい。しかしながら、本実施形態では、植物油を用いた場合であっても、成分(B)および成分(C)を組み合わせることで、微細な乳化滴が安定して形成される。
【0024】
25℃で液状の植物油としては、オリーブ油、マカデミアナッツ油、メドウフォーム油、ホホバ油、アボカド油、ヒマシ油、紅花油、ヒマワリ油、キャノーラ油、キョウニン油、米胚芽油、米糠油などが挙げられる。
【0025】
植物油としては、植物油を構成する脂肪酸エステルの脂肪酸が、二重結合を有しており、炭素数12~22の不飽和脂肪酸を脂肪酸中70モル%以上含むことが好ましい。当該植物油を用いることで、油剤の皮膚への浸透性がよく、肌にふっくらとしたハリを付与するという点で好ましい。当該植物油としては、オリーブ油、マカデミアナッツ油、メドウフォーム油、ホホバ油であることが好ましく、オリーブ油、マカデミアナッツ油であることがより好ましい。
【0026】
成分(A)としては、屈折率が1.40以上であることが好ましい。成分(A)の屈折率が1.40以上であることで、皮膚に塗布した場合に、適度なツヤ感が得られる。
【0027】
好適な実施形態としては、化粧料のツヤ感向上が一層付与できることから、成分(A)が分子量400以上のエステル油および植物油からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0028】
成分(A)は1種単独で用いてもよいし、併用してもよい。例えば、25℃で液状のエステル油を1種単独で用いてもよいし、併用してもよいし、25℃で液状の植物油を1種単独で用いてもよいし、併用してもよいし、25℃で液状のエステル油および25℃で液状の植物油を併用してもよい。
【0029】
本発明の水中油型乳化組成物においては、成分(A)を油剤中に60質量%以上高配合しても、安定性に優れた水中油型乳化組成物を得ることができる。そして、油剤中に高濃度のエステル油等を配合できるため、例えば、化粧水などの基礎化粧料に用いた場合に、ツヤ感を付与するという官能幅の拡大が期待できる。また、本実施形態の系においては、乳化安定性の観点からも、成分(A)を油剤中に60質量%以上とすることが好ましい。ゆえに、成分(A)の油剤中の含有量は、好ましい順に60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上である。なお、成分(A)の油剤中の含有量の上限は100質量%である。
【0030】
成分(A)以外の油剤としては、イソドデカン、イソヘキサデカン、軽質イソパラフィン、流動パラフィン、スクワラン、スクワレン、α-オレフィンオリゴマー、ポリブテン、流動イソパラフィン、重質流動イソパラフィン、ポリイソブチレン、水添ポリイソブテン等の炭化水素油;オレイン酸、イソステアリン酸等の脂肪酸類;オレイルアルコール、2-オクチルドデカノール、2-デシルテトラデカノール、イソステアリルアルコール、2-ヘキシルデカノール等の高級アルコール類;ジメチルポリシロキサン(ジメチコン)、メチルトリメチコン、メチルフェニルポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサンシロキサン、テトラメチルテトラハイドロジェンシクロテトラシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、テトラメチルテトラトリフロロプロピルシクロテトラシロキサン、ペンタメチルペンタトリフロロプロピルシクロペンタシロキサン、ポリエーテル変性メチルポリシロキサン、オレイル変性メチルポリシロキサン、ポリビニルピロリドン変性メチルポリシロキサン等のシリコーン油類;パーフルオロポリエーテル、パーフルオロデカン、パーフルオロオクタン等のフッ素系油剤類;酢酸ラノリン、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラノリンアルコール等のラノリン誘導体類;香料等の25℃で液状の液状油;カカオ脂、シアバター、ヒマシ油、硬化ヒマシ油、硬化ヤシ油、ワセリン、モノステアリン酸硬化ヒマシ油、モノヒドロキシステアリン酸硬化ヒマシ油、ヒドロキシステアリル酸コレステリル、ジペンタエリトリット脂肪酸エステル、N-ラウロイル-L-グルタミン酸-ジ(オクチルドデシル/コレステリル/ベヘニル)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸-ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)、マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル、ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/ベヘニル)等のペースト状の油剤;パラフィンワックス、セレシンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ステアリン酸、ベヘン酸、パルミチン酸セチル、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、トリベヘン酸グリセリル、コレステロール、フィトステロール、ステアリル変性ポリシロキサン、硬化油、ワセリン、パーム油等の25℃で固形の固形状の油剤が挙げられる。
【0031】
また、乳化安定性を考慮すると、炭化水素油の含有量は極力少ないほうが好ましく、例えば、炭化水素油の含有量は、水中油型乳化組成物中、0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、含まない(0質量%である)ことが好ましい。
【0032】
水中油型乳化組成物中の成分(A)の配合量は、ツヤ感付与といった感触調整の観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%を超えることがより好ましい。また、油剤は感触調整の観点からできるだけ多く配合することが希求されるが、乳化安定性の観点から、多く配合することが難しいところ、本実施形態によれば、成分(A)が3質量%を超える、油剤が多い領域でも、乳化安定性が維持される。このような観点から、水中油型乳化組成物中の成分(A)の配合量は、3質量%を超えることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましい。また、水中油型乳化組成物中の成分(A)の配合量は、乳化安定性の観点から、20質量%未満であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
(成分(B):エチレンオキシドの平均付加モル数が20~30であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油)
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、水素添加ヒマシ油に酸化エチレンを付加させたものである。エチレンオキシドの平均付加モル数が20~30であり、より好ましくは、エチレンオキシドの平均付加モル数が20である。
【0034】
成分(B)の含有量は、成分(A)および成分(C)との配合量のバランスによって適宜設定されるが、好ましくは、乳化安定性の観点から、水中油型乳化組成物中、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、経時安定性の観点から、2.5質量%を超えることがさらにより好ましい。また、成分(B)を多量配合すると使用感に影響するという観点から、水中油型乳化組成物中、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0035】
(成分(C):モノイソステアリン酸ソルビタン、およびジイソステアリン酸ソルビタンから選ばれる1種以上)
モノイソステアリン酸ソルビタンおよび/またはジイソステアリン酸ソルビタンは、ソルビトールとイソステアリン酸とのエステルである。
【0036】
モノイソステアリン酸ソルビタン、ジイソステアリン酸ソルビタンは、両者を組み合わせて用いてもよい。例えば、化粧品の成分表示名称「セスキイソステアリン酸ソルビタン」は、モノイソステアリン酸ソルビタンおよびジイソステアリン酸ソルビタンの混合物であり、よって、成分(C)としてセスキイソステアリン酸ソルビタンを用いてもよい。
【0037】
成分(C)の含有量としては、特に限定されるものではないが、水中油型乳化組成物において0.1質量%以上であることが好ましく、経時での安定性が一層担保されることから、0.5質量%を超えることが好ましい。また、成分(C)の含有量としては、特に限定されるものではないが、水中油型乳化組成物において、乳化安定性および経時安定性に影響することから、3質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
成分(C)に対する成分(B)の含有量比((B)/(C))は、1を超え、20未満である(1<(B)/(C)(含有質量比)<20)。(B)/(C)がこの範囲にあることで、水中油型乳化組成物の乳化安定性が担保される。(B)/(C)は、2以上10以下であることが好ましい。
【0039】
なお、本願の水中油型乳化組成物においては、本願の効果を抑制しない限り、他の界面活性剤を含んでもよいが、乳化性や経時安定性を考慮すると、実質的には他の界面活性剤を含まないことが好ましい。他の界面活性剤を含まないとは、不純物程度の含有は許容するものであり、例えば、他の界面活性剤の含有量は、水中油型乳化組成物に対して0.01質量%以下であることが好ましく、0.005質量%以下であることがより好ましく、0.001質量%以下であることがさらにより好ましく、0質量%であることが特に好ましい。
【0040】
また、成分(A)に対する成分(B)および成分(C)の合計量の質量比((B)+(C))/(A)は、乳化安定性の観点から、0.1以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。また、((B)+(C))/(A)は、ツヤ感といった油剤の化粧効果が好適に発揮されやすいことから、20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましい。
【0041】
(成分(D):水)
本実施形態は水中油型乳化組成物であり、水を含むものである。水は、分散媒体として用いられるものであり、特に限定されないが、例えば精製水、蒸留水、イオン交換水、水道水、温泉水、海洋深層水等があげられる。
【0042】
成分(D)の含有量としては、特に限定されるものではないが、水中油型乳化組成物において50~95質量%が好ましい。
【0043】
本発明の水中油型乳化組成物には、上記した必須成分の他に、他の添加剤を添加してもよい。他の添加剤としては、例えば、水溶性高分子、低級アルコール、多価アルコール、アミノ酸、防腐剤、キレート剤、美容成分等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有することができる。
【0044】
本実施形態の水中油型乳化組成物は、高いツヤ感の付与といった効果を奏することから、化粧料用水中油型乳化組成物であることが好ましい。
【0045】
また、本実施形態の水中油型乳化組成物は、最終形態の化粧料としてそのまま用いてもよいし、当該水中油型乳化組成物を他の成分として混合して化粧料としてもよい。すなわち、第二実施形態は、第一実施形態の水中油型乳化組成物を含む、化粧料である。第二実施形態の化粧料は、水中油型乳化組成物の効果である、高いツヤ感の付与、乳化、経時安定性の向上といった効果が発揮されやすい。また、化粧料としても水中油型であることが好ましい。水中油型乳化化粧料としては、例えば、第一実施形態の水中油型乳化組成物に水性添加剤を添加して水中油型乳化化粧料とする形態(第一実施形態の水中油型乳化組成物および水性添加剤を含む、化粧料)、第一実施形態の水中油型乳化組成物に他の水中油型乳化組成物を添加して水中油型乳化化粧料とする形態などが挙げられる。
【0046】
化粧料としては、例えば、化粧水、乳液、クリーム、美容液、マッサージ化粧料、パック化粧料、ハンドクリーム、ボディローション、ボディクリーム、メイクアップ化粧料、化粧用下地化粧料、目元用クリーム、日焼け止め、ヘアクリーム、ヘアワックス等の化粧料を例示することができる。中でも、化粧水、乳液、クリーム、美容液、マッサージ化粧料、パック化粧料、ハンドクリーム、ボディローション、ボディクリーム等のスキンケア化粧料が好ましい。その使用方法は、手や指、コットンで使用する方法、不織布等に含浸させて使用する方法等が挙げられる。また、化粧料の性状としては、液状、ゲル状、乳液状、クリーム状、半固形状、固形状のものが挙げられる。
【0047】
化粧料中、水中油型乳化組成物の含有量は、例えば、10~100質量%である。
【0048】
化粧料に添加される他の成分(特に水性添加剤)としては、水、水溶性高分子、防腐剤、酸化防止剤、アルコール類、美容成分等が挙げられる。
【0049】
水溶性高分子としては、カラギーナン、キサンタンガム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、アルキル変性カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン、(アクリル酸Na/アクリロイルジメチルタウリンNa)共重合体、(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマーなどが挙げられる。
【0050】
なお、化粧料においては、上記水中油型乳化組成物を構成する成分(A)、成分(B)、成分(C)は、乳化組成物に含まれる以外は含まなくてもよい。この場合、上記水中油型乳化組成物の欄に記載した、各成分の好適な質量比(成分(C)に対する成分(B)の質量比((B)/(C))、成分(A)に対する成分(B)および成分(C)の合計量の質量比(((B)+(C))/(A))は、化粧料においても同様である。
【0051】
(製造方法)
本実施形態の水中油型乳化組成物の製造方法は、公知の乳化方法であれば特に限定されることなく製造可能である。具体的には、分散乳化法、転相乳化法、転相温度乳化法等が挙げられる。乳化滴の小さいエマルジョンが得られることから、転相温度乳化法で製造することが好ましい。転相温度乳化法においては、転相温度(PIT)(乳化剤(類)の親水性と親油性特性が平衡に達する温度)を超えた温度で乳化が行われることで、転相温度を通過する際に、界面張力が低下し、強力な機械力をかけることなく、微細乳化が可能となる。油剤量をある程度多くすると、転相温度は上昇し、乳化滴の粒子径が増大しやすくなる。本実施形態では、成分(B)および成分(C)の組み合わせが乳化助剤として、エステル油等の転相温度を低下させ、またエステル油等を含む乳化滴の界面張力を低下させることに寄与し、微細で安定なエマルションが得られるものと考えられる。より具体的に、好ましい製造方法を例示するならば、成分(A)、(B)、(C)、さらに場合によっては、その他の油性成分を加熱混合した後で、転相温度以上に加熱し、加熱した成分(D)を添加混合することで、乳化を行って、冷却を行う製造方法が挙げられる。このようにして得られた水中油型乳化組成物に、各種水性添加剤を添加、混合して化粧料としてもよい。
【実施例
【0052】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。また、特記しない限り、各操作は、室温(20~25℃)で行われる。実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いる場合があるが、特に断りがない限り、「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0053】
実施例1~17及び比較例1~10:水中油型乳化組成物(化粧水)
下記表1に示す処方の水中油型乳化組成物を調製し、平均粒子径、ツヤ感、乳化安定性、経時安定性について下記の方法により評価した。その結果も併せて表1に示す。
【0054】
【表1-1】
【0055】
【表1-2】
【0056】
(製法)
成分(1)~(18)を約80℃に加熱し、均一に混合した。
【0057】
B.Aに約80℃に加熱した成分(19)を添加し、乳化後、冷却して、水中油型乳化組成物(化粧水)を得た。
【0058】
なお、得られた水中油型乳化組成物は、いずれも25℃で液状であった。
【0059】
(評価方法1:平均粒子径)
平均粒子径については、プラスチックキュベットUVette 220-1600 nm(Eppendorf社製)に各試料を充填し、リアルタイムナノ粒子径測定装置DelsaMax CORE(ベックマン・コールター株式会社製)にて平均粒子径を測定した。
【0060】
(評価方法2:ツヤ感)
ツヤ感については、化粧品評価専門パネル20名による使用テストを行い、各試料1.5gを顔全体になじませた後、パネル各人が直後のツヤ感に関して下記絶対評価にて5段階に評価し評点をつけ、各試料のパネル全員の評点合計からその平均値を算出し、下記4段階判定基準により判定した。〇以上であれば、実用上許容できる。
【0061】
絶対評価基準
(評点):(評価)
5:非常に感じる
4:やや感じる
3:普通
2:あまり感じない
1:感じない
4段階判定基準
(判定):(評点の平均点)
◎ :4点以上 :非常に良好
○ :3点以上4点未満:良好
△ :2点以上3点未満:やや不良
× :1点以上2点未満:不良。
【0062】
(評価方法3:乳化安定性)
初期安定性については、各試料を調製直後の乳化安定性を、下記3段階評価基準により評価した。
【0063】
3段階判定基準
(判定):(判定基準)
◎ :油浮きは見られず均一である
△ :わずかに油浮きが見られる
× :油の分離が見られる。
【0064】
(評価方法4:経時安定性)
経時安定性については50℃または5℃の恒温槽に1ヶ月間保管し、排液の有無またはゲル化の観点より、調製直後の試料と比較して、下記4段階評価基準により評価した。
【0065】
4段階判定基準
(判定):(判定基準)
◎ :変化なし
○ :ごく僅かに変化がある
△ :やや変化がある
× :かなり変化がある。
【0066】
表1の結果から明らかな如く、本発明の実施例1~17の水中油型乳化組成物は、比較例1~10の水中油型乳化組成物に比べ、直後に高いツヤ感があり、乳化安定性にも優れたものであった。
【0067】
これに対して、(B)/(C)が1以下、もしくは20以上である比較例1及び2では、乳化安定性および経時安定性の点で満足のいくものが得られなかった。そして、成分(B)のPEG-20水添ヒマシ油のエチレンオキシドの平均付加モル数が異なる活性剤やその他の高い可溶化能を有する親水性界面活性剤を用いた比較例3~6においても比較例1と同様に粒子径が大きく、乳化安定性および経時安定性の点で満足のいくものが得られなかった。また、成分(C)のモノイソステアリン酸ソルビタン及びジイソステアリン酸ソルビタンとは異なる高い可溶化能を有する親油性界面活性剤を用いた比較例7においても、粒子径が大きく、乳化安定性および経時安定性の点で満足のいくものが得られなかった。更に、成分(A)のエステル油とは異なる炭化水素油やシリコーン油を用いた比較例8~10において、粒子径、乳化安定性および経時安定性に加えて、ツヤ感においても満足のいくものが得られなかった。
【0068】
実施例18:化粧水
(成分) (%)
(1)マカデミアナッツ油(成分(A)) 2
(2)PEG-20水添ヒマシ油(成分(B)) *4 5
(3)イソステアリン酸ソルビタン(成分(C)) *5 0.5
(4)アスタキサンチン 0.002
(5)イソプロピルメチルフェノール 0.01
(6)ビタミンE 0.03
(7)精製水(成分(D)) 58.238
(8)グリセリン 5
(9)ジプロピレングリコール 5
(10)1,3-ブチレングリコール 5
(11)精製水 5
(12)エタノール 8
(13)フェノキシエタノール 0.2
(14)ナイアシンアミド 3
(15)ベタイン 1
(16)乳酸ナトリウム 1
(17)ポリクオタニウム-51 *6 0.01
(18)シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸ビスエトキシジグリコール *7

(19)アルカリゲネス産生多糖体 *8 0.01
*6 LIPIDURE PMB(BG)(日油社製)
*7 NEOSOLUE-AQULIO(日本精化社製)
*8 アルカシーラン(伯東社製)。
【0069】
(製法)
A.成分(1)~(6)を約80℃に加熱し、均一に混合した。
B.Aに約80℃に加熱した(7)を添加し、乳化後、冷却して、水中油型乳化組成物を得た。当該水中油型乳化組成物は、25℃で液状であり、粒径が300nm以下であり、乳化安定性および経時安定性にも優れたものであった。
C.Bに成分(8)~(19)を混合する。
D.Cを容器に充填して化粧水を得た。
【0070】
以上のようにして得られた化粧水は、皮膚塗布直後に高いツヤ感が発揮され、乳化安定性および経時安定性にも優れたものであった。
【0071】
なお、(B)/(C)(含有質量比)は10、((B)+(C))/(A)(含有質量比)は2.75であった。
【0072】
実施例19:シート状化粧料
(成分) (%)
(1)オリーブ油(成分(A)) 1
(2)PEG-20水添ヒマシ油(成分(B)) *4 2
(3)イソステアリン酸ソルビタン(成分(C)) 0.4
(4)コレステロール 0.01
(5)セラミド3 0.01
(6)ビタミンE 0.01
(7)精製水(成分(D)) 67.08
(8)グリセリン 5
(9)1,3-ブチレングリコール 10
(10)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(11)精製水 3
(12)エタノール 5
(13)アスコルビン酸グルコシド 3
(14)アルブチン 1
(15)乳酸ナトリウム 2
(16)ポリアクリル酸ホスホリルコリングリコール *9 0.01
(17)水酸化ナトリウム 0.13
(18)リン酸一水素ナトリウム 0.1
(19)リン酸二水素ナトリウム 0.1
(20)キサンタンガム 0.05
*9 LIPIDURE HM-600(日油社製)。
【0073】
(製法)
A.成分(1)~(6)を約80℃に加熱し、均一に混合した。
B.Aに約80℃に加熱した(7)を添加し、乳化後、冷却して、水中油型乳化組成物を得た。当該水中油型乳化組成物は、25℃で液状であり、粒径が300nm以下であり、乳化安定性および経時安定性にも優れたものであった。
C.Bに(8)~(20)を混合し、これを不織布に含浸させる。
D.Cをアルミラミネートの袋状容器に密封充填し、シート状化粧料を得た。
【0074】
以上のようにして得られたシート状化粧料を顔面に貼り10分後に剥がし、評価したところ、直後に高いツヤ感があった。
【0075】
なお、(B)/(C)(含有質量比)は5、((B)+(C))/(A)(含有質量比)は2.4であった。
【0076】
実施例20:美容液
(成分) (%)
(1)メドウフォーム油(成分(A)) 3
(2)イソステアリン酸PEG-50水添ヒマシ油(成分(B)) 8
(3)モノイソステアリン酸ソルビタン(成分(C)) 1
(4)水添ポリイソブテン *10 1
(5)香料 0.05
(6)精製水(成分(D)) 68.04
(7)グリセリン 6
(8)ジグリセリン 1
(9)1,3-ブチレングリコール 5
(10)エタノール 6
(11)フェノキシエタノール 0.3
(12)水酸化ナトリウム 0.15
(13)ヒアルロン酸 0.01
(14)加水分解コラーゲン 0.01
(15)エデト二酸ナトリウム 0.02
(16)カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.1
(17)アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.2
(18)カルボキシビニルポリマー 0.12
*10 パールリーム46(日油社製)。
【0077】
(製法)
A.成分(1)~(5)を約80℃に加熱し、均一に混合した。
B.Aに約80℃に加熱した成分(6)を添加し、乳化後、冷却して、水中油型乳化組成物を得た。当該水中油型乳化組成物は、25℃で液状であり、粒径が300nm以下であり、乳化安定性および経時安定性にも優れたものであった。
C.Bで得られた水中油型乳化組成物に成分(7)~(18)を混合した。
D.Cを容器に充填して化粧料(美容液)を得た。
【0078】
以上のようにして得られた美容液は、皮膚塗布直後に高いツヤ感があり、乳化安定性および経時安定性にも優れたものであった。
【0079】
なお、(B)/(C)(含有質量比)は8、((B)+(C))/(A)(含有質量比)は3であった。