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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】逆止弁
(51)【国際特許分類】
   A61M 39/24 20060101AFI20240329BHJP
   F16K 15/14 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
A61M39/24
F16K15/14 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020059401
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021156406
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000153030
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・エム・エス
(73)【特許権者】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100189289
【弁理士】
【氏名又は名称】北尾 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】林 裕馬
(72)【発明者】
【氏名】北詰 哲也
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-056902(JP,A)
【文献】特開2017-026108(JP,A)
【文献】特表2002-528687(JP,A)
【文献】特開2003-074724(JP,A)
【文献】特開2003-028328(JP,A)
【文献】特開2010-012277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 39/24
F16K 15/00-15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向への流体の流れを許し該一方向とは反対方向への前記流体の逆流を禁止する逆止弁において、
前記一方向に沿った前記流体の流入路が形成された第1の筐体と、
前記一方向に沿った前記流体の流出路が形成された第2の筐体であって、前記第1の筐体と嵌合して該第1の筐体との間に、前記流入路および前記流出路の双方に連通する中空部を形成する第2の筐体と、
前記一方向を横切る平面内に広がる膜状部と、該膜状部の中央部から前記平面に垂直な前記膜状部の厚さ方向に突き出した第1突起部と、を有する弾性体からなり、前記中空部内に配置されて前記流入路の閉鎖・開放を行う弁体と、を備え、
前記第1の筐体は、前記中空部に開口する前記流入路の開口部の周囲に、前記流入路の閉鎖時において前記弁体の前記膜状部に当接する弁座部を有するものであり、
前記第2の筐体は、前記中空部に開口する前記流出路の開口部の周囲に、前記流入路の開放時において前記弁体の前記第1突起部に当接して前記弁体を支持する弁体支持部を有するとともに、該流出路にそれぞれ接続し該流出路の前記開口部から外周に向かって延びる複数の溝部を有するものであり、
前記弁体は、前記流入路の開放時には、前記平面内に前記膜状部が広がった自然状態から、前記弁体支持部の周囲の、前記中空部を形成する前記第2の筐体の内壁面へ前記複数の溝部を除き前記膜状部が接触する接触状態まで変形可能なものであり、該接触状態における前記膜状部と、前記中空部を形成する前記第1の筐体の内壁面との間の前記流体の流路の最小断面積Sと、前記複数の溝部が延びる方向に垂直な前記複数の溝部の最大断面積の総和Sとの間にS≧Sの関係が成立するものである逆止弁。
【請求項2】
前記逆止弁の不使用時において、前記第2の筐体は、前記膜状部からは離間しているものである請求項1に記載の逆止弁。
【請求項3】
前記弁体は、前記第1突起部が突き出した面とは反対側の面に前記第1突起部とは反対方向に突き出した、前記第1突起部と同一形状の第2突起部をさらに有する弾性体からなり、前記厚さ方向について面対称な形状を有するものである請求項1又は2に記載の逆止弁。
【請求項4】
前記複数の溝部のそれぞれは、前記開口部から離れるほど幅が広がるものである請求項1~3のいずれかに記載の逆止弁。
【請求項5】
前記第2の筐体の前記内壁面は、前記溝部が形成された部分を除き、前記流出路の前記開口部から離れるに従って前記膜状部が広がる前記平面から遠ざかるような態様で外周に向かうにつれて傾斜したテーパー形状を有するものである請求項1~4のいずれかに記載の逆止弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向への流体の流れを許しその一方向とは反対方向への流体の逆流を禁止する逆止弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、一方向への流体の流れを許しその一方向とは反対方向への流体の逆流を禁止する逆止弁が知られており、様々な用途で使用されている。たとえば、点滴等に用いられる医療用の輸液の逆流防止に用いられる逆止弁はその1つの典型例である。
【0003】
一般に逆止弁には、流体の流路が形成された筐体の内部に、弾性体からなる弁体が設けられている。流体の流れの強さや向きに応じて弁体が移動・変形することで、流体が所定の一方向に流れる際には流体の流路が開放され、この一方向とは反対方向へ流体が流れようとすると流体の流路を閉鎖される。この結果、流体の逆流が禁止される。
【0004】
弁体がこのような逆流防止機能を十分に発揮するためには、弁体の移動・変形の余地を残しつつ弁体の位置ずれを起こさないような筐体内の適当な位置に弁体を正確に組み付けることが必要になる。そこで、従来の逆止弁では、バネやヒンジ等の支持部材を介して弁体を遊動可能な態様で筐体内に組み付ける方法や、弁体に位置決め用の軸部を持たせその軸部を軸方向に移動可能な態様で筐体に組み付ける方法等が採用されてきた。
【0005】
しかしながら、弁体の組み付けがこのように複雑であると、組み付け作業に時間がかかり逆止弁の製造効率が低下する。さらに、複雑な組み付け方が必要となるような複雑な形状の弁体、たとえば上述したような位置決め用の軸部を有する弁体では、組み付け作業時に弁体の一部が破損しやすいといった問題も生じ得る。特に、点滴等に用いられる医療用の輸液の逆流防止に用いられる逆止弁は小型のものが多く、こうした問題は特に深刻である。
【0006】
こうした問題を解決するため、弁体として、ほぼ円柱状の肉厚部と、肉厚部の上面を延長した面上に広がる膜状の肉薄部とで構成されたキノコ形状の弁体を用いることが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1では、弁体は、筐体に設けられた凹部に弁体の肉厚部を挿入するだけで筐体内に弁体が組み込まれ、凹部内での肉厚部の多少の移動と肉薄部の変形とにより、流体の流路の閉鎖・開放が行われる。この結果、特許文献1では、バネやヒンジ等の支持部材や位置決め用の軸部を用いた従来の逆止弁と比べると、弁体の組み付け作業が簡素化されており、小型化に適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-56902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、医療用の輸液を流す際には、まず、輸液を流して逆止弁内を輸液で満たす作業(いわゆるプライミング)を行った後、患者等への輸液の供給を開始するのが通常である。ここで、点滴等の医療用の輸液を流す管は内径が小さくこのため逆止弁の筐体内の流路の内径もきわめて小さいことが多いが、筐体内の流路の内径がきわめて小さいと、プライミングの際に逆止弁内に空気が気泡として残ってしまうことがある。このままの状態で輸液を流し始めると、気泡を含む輸液が患者等へ供給されることとなり、輸液の供給先の臓器(たとえば肺)によっては、輸液中の気泡の存在が患者の容態に重大な結果をもたらすことになりかねない。特に、特許文献1記載のキノコ形状の弁体では、キノコ形状の傘部分に囲い込まれた空気により気泡が残存しやすい。このように小型の逆止弁において気泡の残存を抑えるに当たっては、さらなる工夫が求められる。
【0009】
以上の説明では小型の逆止弁として医療用の輸液の逆流防止に用いられる逆止弁を例にとって説明したが、気泡は、逆止弁を通る流体に共通する一種の不純物であり、さらなる工夫が求められるのは医療用の輸液の逆流防止に用いられる逆止弁に限ったものではない。
【0010】
上記の事情を鑑み、本発明は、気泡の残存を抑えるとともに小型化に適した逆止弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するため、本発明は、以下の逆止弁を提供する。
[1] 一方向への流体の流れを許し該一方向とは反対方向への前記流体の逆流を禁止する逆止弁において、前記一方向に沿った前記流体の流入路が形成された第1の筐体と、前記一方向に沿った前記流体の流出路が形成された第2の筐体であって、前記第1の筐体と嵌合して該第1の筐体との間に、前記流入路および前記流出路の双方に連通する中空部を形成する第2の筐体と、前記一方向を横切る平面内に広がる膜状部と、該膜状部の中央部から前記平面に垂直な前記膜状部の厚さ方向に突き出した第1突起部と、を有する弾性体からなり、前記中空部内に配置されて前記流入路の閉鎖・開放を行う弁体と、を備え、前記第1の筐体は、前記中空部に開口する前記流入路の開口部の周囲に、前記流入路の閉鎖時において前記弁体の前記膜状部に当接する弁座部を有するものであり、前記第2の筐体は、前記中空部に開口する前記流出路の開口部の周囲に、前記流入路の開放時において前記弁体の前記第1突起部に当接して前記弁体を支持する弁体支持部を有するとともに、該流出路にそれぞれ接続し該流出路の前記開口部から外周に向かって延びる複数の溝部を有するものであり、前記弁体は、前記流入路の開放時には、前記平面内に前記膜状部が広がった自然状態から、前記弁体支持部の周囲の、前記中空部を形成する前記第2の筐体の内壁面へ前記複数の溝部を除き前記膜状部が接触する接触状態まで変形可能なものであり、該接触状態における前記膜状部と、前記中空部を形成する前記第1の筐体の内壁面との間の前記流体の流路の最小断面積Sと、前記複数の溝部が延びる方向に垂直な前記複数の溝部の最大断面積の総和Sとの間にS≧Sの関係が成立するものである逆止弁。
【0012】
[2] 前記逆止弁の不使用時において、前記第2の筐体は、前記膜状部からは離間しているものである[1]に記載の逆止弁。
【0013】
[3] 前記弁体は、前記第1突起部が突き出した面とは反対側の面に前記第1突起部とは反対方向に突き出した、前記第1突起部と同一形状の第2突起部をさらに有する弾性体からなり、前記厚さ方向について面対称な形状を有するものである[1]又は[2]に記載の逆止弁。
【0014】
[4] 前記複数の溝部のそれぞれは、前記開口部から離れるほど幅が広がるものである[1]~[3]のいずれかに記載の逆止弁。
【0015】
[5] 前記第2の筐体の前記内壁面は、前記溝部が形成された部分を除き、前記流出路の前記開口部から離れるに従って前記膜状部が広がる前記平面から遠ざかるような態様で外周に向かうにつれて傾斜したテーパー形状を有するものである[1]~[4]のいずれかに記載の逆止弁。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、弁体の第1突起部を、中空部内の流入路の開口部の周囲の弁体支持部に配置するだけで逆止弁の筐体内に弁体を組み付けることができ、弁体の組み付け作業が簡素化されている。このため、本発明は、逆止弁の小型化に適している。
【0017】
さらに本発明では、第2の筐体の内壁面への接触状態における膜状部と、第1の筐体の内壁面との間の流体の流路の最小断面積Sと、複数の溝部が延びる方向に垂直な複数の溝部の最大断面積の総和Sとの間にS≧Sの関係が成立する。一般に、逆止弁内の気泡は、流入してくる流体から見たときの弁体の裏(うら)側の流路が弁体の表(おもて)側の流路に比べて広すぎるときに残存しやすい。これは、大雑把に言えば、弁体の裏(うら)側の流路が広すぎるため、弁体の表(おもて)側の流路を流れる流体の流量では、裏(うら)側の空気をすべて押し出すには不十分であることによるものである。本発明では、上述のS≧Sの関係が成立することで、弁体の表(おもて)側の流路を流れる流体の流量では、弁体の裏(うら)側の空気をすべて押し出すには不十分ということはなく、このためプライミング時に気泡が残存しにくい。特に、自然状態の膜状部は一平面内に広がっているため、特許文献1のように弁体の裏(うら)側に空気が囲い込まれるといったこともなく、この点でも気泡が残存しにくい。
【0018】
以上より、本発明では、気泡の残存を抑えるとともに小型化に適した逆止弁が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の逆止弁の一実施形態である逆止弁の模式的な断面図である。
図2図1の状態から第2の筐体だけを取り出して、流出路の開口部の側から図1の矢印方向に見下ろしたときの模式的な外観図である。
図3】順方向に流体が流れ込んできたときの弁体の状態の一例を表した模式図である。
図4】逆流方向に流体が流れ込んできたときの弁体の状態の一例を表した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0021】
図1は、本発明の逆止弁の一実施形態である逆止弁1の模式的な断面図である。
【0022】
図1に示す逆止弁1は、一方向(図では矢印方向)への流体の流れを許しその一方向とは反対方向への流体の逆流を禁止する逆止弁である。以下では、流れることが許される上記の一方向のことを順方向と呼び、流れることが禁止される上記の反対方向のことを逆流方向と呼ぶことがある。図の逆止弁1は、点滴等の医療用の輸液のように、流量はそれほど多くはないが内径の小さい管を通って流れる流体の逆流防止に用いられる逆止弁であり、様々な逆止弁の中でも比較的小型の部類に属する逆止弁である。なお、図1では、逆止弁1内に流体が存在しない不使用状態の逆止弁1が示されている。
【0023】
逆止弁1は、第1の筐体21と第2の筐体22とからなる筐体2を備えている。第1の筐体21には、順方向(図中の矢印方向)に沿った流体の流入路23が形成されており、第2の筐体22には、順方向(図中の矢印方向)に沿った流体の流出路24が形成されている。また、第1の筐体21には凸部26が形成されており、第2の筐体22には凹部28が形成されている。第1の筐体21の凸部26が第2の筐体22の凹部28に嵌り込むことにより、第1の筐体21と第2の筐体22とは互いに嵌合する。この嵌合により、第1の筐体21と第2の筐体22との間に、流入路23および流出路24の双方に連通する中空部2aが形成される。ここで、逆止弁1は、流入路23および流出路24が鉛直方向を向くように鉛直方向に沿って第2の筐体22の上に第1の筐体21が重なって嵌合した状態で使用される。
【0024】
また、逆止弁1は、膜状部31と第1突起部30Bとを有する弾性体からなり、中空部2a内に配置されて流入路23の閉鎖・開放を行う弁体3を備えている。膜状部31は、順方向(図中の矢印方向)を横切る平面内に広がっており、このように膜状部31が一平面内に広がった状態が、流体の影響を受けていない膜状部31の自然状態での形状である。膜状部31の自然状態での形状は特に限定されないが、たとえば、円盤形状であってもよい。一方、第1突起部30Bは、膜状部31の中央部から上述の平面に垂直な膜状部31の厚さ方向(図の上下方向)に突き出している。第1突起部30Bの形状は特に限定されないが、先細り形状であることが好ましい。
【0025】
第1の筐体21は、中空部2aに開口する流入路23の開口部23aの周囲に弁座部25を有している。弁座部25は、中空部2aを形成する第1の筐体21の内壁の一部であり、弁体3による流入路23の閉鎖時に弁体3の膜状部31が当接する箇所である。弁座部25は、図の水平方向に広がった面を持つ第1弁座部251と、流入路23の開口部23aに向かって傾斜した面を持つ第2弁座部252とで構成されている。
【0026】
第2の筐体22は、中空部2aに開口する流出路24の開口部24aの周囲に弁体支持部27を有している。弁体支持部27は、中空部2aを形成する第2の筐体22の内壁の一部であり、流出路24の開口部24aに向かって傾斜しつつ延びている。弁体支持部27は、弁体3による流入路23の開放時、および、中空部2aに流体が存在しない逆止弁1の不使用時において、弁体3の第1突起部30Bに当接して弁体3を支持する箇所である。言い換えれば、第1突起部30Bが流出路24の開口部24aから流出路24内に挿入されて開口部24a周囲の弁体支持部27に引っ掛かることで、弁体3の位置が安定化し、逆止弁が多少斜めに傾いても弁体3はこの位置に維持される。
【0027】
図1の逆止弁1では、このように弁体3の第1突起部30Bを、中空部2a内の流出路24の開口部24aの周囲の弁体支持部27に配置するだけで逆止弁1の筐体2内に弁体3を組み付けることができ、弁体の組み付け作業が簡素化されている。このため、図1の逆止弁1は、小型化に適した逆止弁となっている。
【0028】
図2は、図1の状態から第2の筐体22だけを取り出して、流出路24の開口部24aの側から図1の矢印方向に見下ろしたときの模式的な外観図である。
【0029】
図2に示すように、第2の筐体22は、中空部2aに開口する流出路24の開口部24aの周囲に複数の溝部29を有している(なお、図1において点線で示されている溝部29も合わせて参照)。複数の溝部29は、流出路24にそれぞれ接続し、流出路24の開口部24aから外周に向かって延びている。ここで、流出路24は、互いに連通する第1流出路241と第2流出路242とで構成されており、第1流出路241は、開口部24aを介して中空部2aと連通し、第2流出路242は、逆止弁1からの流体の流出先となる不図示の管と連通する。図に示すように、第1流出路241の孔径は、第2流出路242の孔径よりも小さくなっており、上述の複数の溝部29は、より正確に言えば、第1流出路241にそれぞれ接続し、第1流出路241の開口部24aから外周に向かって延びている。ここで、溝部29の長さは、弁体3の中央部から弁体3の周縁部までの最大距離(たとえば膜状部31が円盤形状の場合はその円盤形状の半径)よりも長い。このため、膜状部31の第1面31A上を膜状部31の周縁部に向かって流れてきた流体は、膜状部31の周縁部を迂回して溝部29に流れ込めるようになっている。
【0030】
ここで、弁体3は、流入路23の開放時には、上述の平面内に膜状部31が広がった自然状態(図1参照)から、弁体支持部27の周囲の、中空部2aを形成する第2の筐体22の内壁面22aへ、複数の溝部29を除き膜状部31が接触する接触状態(後述の図3参照)まで変形可能である。この接触状態における膜状部31と、中空部2aを形成する第1の筐体21の内壁面との間の流体の流路の最小断面積Sと、複数の溝部29が延びる方向に垂直な複数の溝部29の最大断面積の総和Sとの間には、S≧Sの関係が成立する。ここで、わかりやすく言えば、膜状部31と第1の筐体21の内壁面との間の流路とは、膜状部31の周縁部を迂回する前の、膜状部31の周縁部に向かって流れる流体の流路であり、一方、複数の溝部29は、膜状部31の周縁部を迂回した後の流体の流路である。
【0031】
なお、最小断面積Sは、流体の種類や流体の流量・流速等によらず逆止弁1の構成要素の形状のみで決定される量である。たとえば、以下のようにして求めることができる。まず、図1に示す自然状態(図1参照)膜状部31に外圧をかけて第2の筐体22の内壁面(ただし複数の溝部29を除く)へ膜状部31を接触させる。次に、この状態で、膜状部31と第1の筐体21の内壁面との間の、膜状部31の中央部から周縁部に向かう半径方向の流路に垂直な環状の流路断面積の最小値を求める。この最小値が上述の最小断面積Sである。なお、このように、流体の種類や流体の流量・流速によらずに逆止弁1の構成要素の形状のみで決定される点については、複数の溝部29の最大断面積の総和Sも同様である。
【0032】
一般に、逆止弁内を流体で満たす作業(いわゆるプライミング)の際に問題となる逆止弁内の気泡は、流入してくる流体から見たときの弁体の裏(うら)側の流路が弁体の表(おもて)側の流路に比べて広すぎるときに残存しやすい。これは、大雑把に言えば、弁体の裏(うら)側の流路が広すぎるため、弁体の表(おもて)側の流路を流れる流体の流量では、裏(うら)側の空気をすべて押し出すには不十分であることによるものである。
【0033】
図1および後述の図3に示す逆止弁1では、上述のS≧Sの関係が成立することで、弁体の表(おもて)側の流路を流れる流体の流量では、弁体の裏(うら)側の空気をすべて押し出すには不十分ということはなく、このためプライミング時に気泡が残存しにくい。特に、自然状態の膜状部31は一平面内に広がっているため、特許文献1のように弁体の裏(うら)側に空気が囲い込まれるといったこともなく、この点でも気泡が残存しにくい。
【0034】
以上より、逆止弁1は、上述したように小型化に適していることに加え、気泡の残存も抑えることができる逆止弁となっている。
【0035】
ここで、図1に示すように、逆止弁1の不使用時において、第2の筐体22が膜状部31からは離間していることが好ましい。
【0036】
このように第2の筐体22が膜状部31からは離間していることで、特許文献1のように弁体の裏(うら)側に空気が囲い込まれるといったことが、より一層起こりにくくなり、気泡の残存をさらに抑えることができる。
【0037】
また、逆止弁1では、図2に示すように、複数の溝部29のそれぞれは、流出路24の開口部24a(第1流出路241の開口部24a)から離れるほど幅が広がるものであることが好ましい。
【0038】
このような形態によれば、逆止弁1が小型であって流出路24の開口部24aがきわめて小さい場合であっても、複数の溝部29を介して流体を効率よく流出路24の開口部24aに流し込むことができる。
【0039】
このような形態では、複数の溝部29では、開口部24aから遠い箇所の方が断面積の総和が大きく、この点を反映して、図2および図3では、開口部24aから最も遠い箇所において、上述した、複数の溝部29の最大断面積の総和Sが示されている。
【0040】
以下では、流入路23の閉鎖・開放を行う弁体3の動作について説明する。
【0041】
図3は、順方向に流体が流れ込んできたときの弁体3の状態の一例を表した模式図である。
【0042】
逆止弁1内に流体が存在しない不使用状態では、図1に示すように、弁体3(より正確には第1突起部30B)は弁体支持部27に支持されているとともに、膜状部31が弁座部25(より正確には第1弁座部251)に当接しており流入路23は閉鎖されている。この状態において、図3の矢印で示す順方向に流入路23を進んできた流体は、流入路23の開口部23aを通って中空部2aに到達し、流入路23の開口部23aの直下の弁体3の中央部に向かって流れる。
【0043】
ここで、図1および図3に示すように弁体3が、第1突起部30Bが突き出した面とは反対側の面に第1突起部30Bとは反対方向に突き出した、第1突起部30Bと同一形状の第2突起部30Aをさらに有する弾性体からなり、図1に示すように、図1の膜状部31の厚さ方向について面対称な形状を有することが好ましい。
【0044】
このような形態によれば、弁体3の中央部に向かって流れて来た流体は、流入路23の開口部23a側に向かって突き出した第2突起部30Aの存在により、弁体3の膜状部31の第1面31Aに沿って膜状部31の周縁部に向かうように分散される。分散された流体は、膜状部31の周縁部を回り込んで(すなわち迂回して)溝部29に入り第1流出路241の開口部24aに向かって溝部29内を流れる。このように第2突起部30Aの存在により膜状部31の周縁部に向かうように流体が分散されるため、弁体3の中央部付近で弁体3にぶつかった流体が乱流を起こして流体が流れにくくなることが抑制されている。この結果、逆止弁1では、弁体3を迂回する前後における流体の圧力損失が低減する。
【0045】
一般に、医療用の輸液の逆流防止に用いられる小型の逆止弁ではその筐体内の弁体もきわめて小さい。このため、たとえば、特許文献1記載の、膜状の傘部分(特許文献1では「肉薄部」と呼ばれている)と短い円柱状の軸部分(特許文献1では「肉厚部」と呼ばれている)からなるキノコ形状の弁体を採用したとしても、傘部分の両面のうち軸部分が存在する裏側と、軸部分が存在しない表側とを識別するのはそれほど簡単ではない。上記の形態では、弁体3が、中央部の2つの突起部30A,30Bを含め厚さ方向について面対称となっているため、第1の筐体21と第2の筐体22が嵌合してなる筐体2内に弁体3を組み付ける際に、弁体3の表(おもて)側と裏(うら)側とを識別する必要がない。このため、逆止弁1は、弁体の組み付け作業が簡素化されて小型化に適した逆止弁となっている。
【0046】
また、図1に示すように、第2の筐体22の内壁面22aが、溝部29が形成された部分を除き、流出路24の開口部24aから離れるに従って膜状部31が広がる平面(図1の膜状部31に沿った平面)から遠ざかるような態様で外周に向かうにつれて傾斜したテーパー形状を有するものであることが好ましい。
【0047】
このような形態によれば、第2の筐体22の内壁面22aと膜状部31との間の空間が、第2の筐体22の内壁面22aが上記のようなテーパー形状を有していない場合に比べて狭くなる。すなわち、容易に図3のように膜状部31が第2の筐体22の内壁面22aと接触するようになる。この結果、第2の筐体22の内壁面22aと膜状部31との間に気泡が残存しにくくなる。
【0048】
図3の説明を続ける。
【0049】
図3では、流入路23の開口部23aから流入して来た流体の流れが強く、この流れに押されて弁体3の膜状部31が図1の状態から大きく変形し、膜状部31の第2面31Bが弁体支持部27周囲の第2の筐体22の内壁面22aに接触している様子が示されている。図3では、このような接触状態の膜状部31と、中空部2aを形成する第1の筐体21の内壁面との間の流体の流路の上述の最小断面積Sを与える断面(正確に言えば、環状の断面の幅)が第1弁座部251付近に示されている。また、図3では、複数の溝部29が延びる方向に垂直な複数の溝部29の上述の最大断面積の総和Sを与える断面(正確に言えば図の上下方向に沿った断面の高さ)も合わせて示されている(なお、図2の最大断面積の総和Sを与える断面の幅も合わせて参照)。
【0050】
なお、図3では、膜状部31の第2面31Bが弁体支持部27周囲の第2の筐体22の内壁面22aに接触するほど流体の流れが強い状況が示されているが、流体の流れが弱いときには、これほどの変形を起こさないこともある。たとえば、流体の流れに押されて膜状部31の周縁部が図の下方向に多少下がるような変形が生じるものの、第2面31Bが第2の筐体22の内壁面22aに接触することなく内壁面22aから離間したままになっていることもある。この場合、流体は、溝部29を流れるだけでなく、離間した膜状部31と第2の筐体22の内壁面22aとの間も流れて第1流出路241の開口部24aに向かう。
【0051】
なお、仮に、このような膜状部31が離間した状態でプライミングを行う場合には、離間した膜状部31と、中空部2aを形成する第1の筐体21の内壁面との間の流体の流路の断面積S’と、離間した膜状部31と第2の筐体22の内壁面22aとの間の断面積SC’と、複数の溝部29の上述の最大断面積の総和Sとの間に、S’≧S+SC’の関係が成り立っていれば、気泡は残存しにくくなる。その定性的な理由は、上述したのとほぼ同じである。ただし、実際上は、プライミング時には流体の流量が大きくて流体の流れが強いことが多く、上述したようにS≧Sの関係が成立しさえすれば、プライミング時における気泡の残存は十分に抑えられる。
【0052】
膜状部31の第2面31Bと第2の筐体22の内壁面22aとの接触状態が上記のいずれであっても、第1流出路241の開口部24aに向かって流れて来た流体は、第1流出路241および第2流出路242をこの順番に通過する。そして、逆止弁1からの流体の流出先となる上述の不図示の管に流れ込む。
【0053】
次に、逆流方向に流体が流れ込んできたときの弁体3の状態について説明する。
【0054】
図4は、逆流方向に流体が流れ込んできたときの弁体3の状態の一例を表した模式図である。
【0055】
図4の点線矢印で示す逆流方向に流出路24(第2流出路242および第1流出路241)を進んできた流体は、流出路24の開口部24a(第1流出路241の開口部24a)の直上に位置する(図1参照)弁体3の中央部にぶつかる。図4では、このような流体の流れに押されて弁体3が弁体支持部27から離間して弁座部25のうちの第1弁座部251に膜状部31の周縁部が当接している様子が示されている。
【0056】
このように弁体3が弁座部25に当接することで流入路23が閉鎖され、流入路23を通って流体が流出すること、すなわち、流体の逆流が禁止される。
【0057】
なお、図4では、弁体3の膜状部31が当接するのが弁座部25のうちの第1弁座部251のみであるような、流体の流れがそれほど強くない状況が示されているが、流体の流れが強いときには、弁体3がもっと大きく変形することもある。たとえば、膜状部31が流体の流れに押されて大きく湾曲し、膜状部31の周縁部が第1弁座部251に当接することに加え、膜状部31の他の部分が第2弁座部252に当接し、膜状部31の第1面31Aが全体的に弁座部25に貼りつく事態も起こり得る。
【0058】
逆に、図4の状況よりも、流体の流れがもっと弱く、弁体3を弁体支持部27から離間させるには至らない状況もあり得る。この場合、弁体3は、弁体支持部27に支持された自然状態のままで膜状部31の周縁部が第1弁座部251に当接し、流体の逆流が禁止される。
【0059】
以上が、流入路23の閉鎖・開放を行う弁体3の動作についての説明である。
【0060】
以上の本実施形態の説明では、逆止弁としては比較的小型の部類に属する逆止弁1について説明したが、本発明は、中型あるいは大型の部類に属する逆止弁に適用されてもよい。こうした中型あるいは大型の部類に属する逆止弁に適用した場合であっても、上述したのと同じ理由で、プライミング時における気泡の残存を十分に抑えることができる。なお、中型あるいは大型の部類に属する逆止弁では弁体の表裏が識別しやすいので、比較的小型の部類に属する逆止弁に比べ、面対称な弁体による組み付け作業の簡素化という効果はそれほど大きくはない。しかしながら、弁体の構成がきわめて単純であることから、中型あるいは大型の部類に属する場合においても組み付け作業が多少軽減される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、気泡の残存を抑えるとともに小型化に適した逆止弁の実現に有用である。
【符号の説明】
【0062】
1:逆止弁、2:筐体、2a:中空部、3:弁体、21:第1の筐体、22:第2の筐体、22a:内壁面、23:流入路、23a:開口部、24:流出路、24a:開口部、25:弁座部、26:凸部、27:弁体支持部、28:凹部、29:溝部、30A:第2突起部、30B:第1突起部、31A:第1面、31B:第2面、241:第1流出路、242:第2流出路、251:第1弁座部、252:第2弁座部。
図1
図2
図3
図4