(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】横編機の天バネ装置の設定方法及び設定システム
(51)【国際特許分類】
D04B 15/44 20060101AFI20240329BHJP
D04B 35/00 20060101ALI20240329BHJP
D04B 7/00 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
D04B15/44 101
D04B35/00 101
D04B7/00 102
(21)【出願番号】P 2020068044
(22)【出願日】2020-04-06
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019112504
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】小村 善幸
(72)【発明者】
【氏名】南 正樹
(72)【発明者】
【氏名】上山 晃弘
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0184267(US,A1)
【文献】特表2018-512516(JP,A)
【文献】特開2009-173445(JP,A)
【文献】西独国特許出願公開第02605566(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 15/44
D04B 35/00
D04B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横編機に設けられ、かつ糸に加える張力を電気的に調整自在な調整部材を備える
複数の天バネ装置を設定する方法において、
前記複数の天バネ装置は、一部の天バネ装置のみが糸に加わる張力を測定する張力センサを備え、
各天バネ装置について、天バネ装置から糸のキャリアまでの給糸ルートの要素を記憶すると共に、
給糸ルートの要素毎の補正量を記憶し、
張力センサを備える天バネ装置を用い、所望の張力を糸に加えるための調整部材への入力値を、糸毎に測定する測定ステップと、
測定ステップで用いた天バネ装置を含む給糸ルートでの要素毎の補正量の合計を前記入力値から除くことにより、補正済みの入力値とすると共に、他の給糸ルートでの天バネ装置から糸のキャリアまでの給糸ルートでの要素毎の補正量の合計に応じて、補正済みの入力値をさらに補正することにより調整部材への設定値に変換し、変換した設定値を横編機のコントローラから調整部材に加える設定ステップを実行する、ことを特徴とする、横編機の天バネ装置の設定方法。
【請求項2】
横編機に設けられ、かつ糸に加える張力を電気的に調整自在な調整部材を備える複数の天バネ装置を設定する方法において、
各天バネ装置について、天バネ装置から糸のキャリアまでの給糸ルートの要素を記憶すると共に、
給糸ルートの要素毎の補正量を記憶し、
調整部材と張力センサとを介して引き込み部材へ糸を供給し、調整部材により糸に張力を加え、引き込み部材により糸を引き込むと共に、張力センサにより測定した糸の張力が所望値となる際の調整部材への入力値を測定することにより、所望の張力を糸に加えるための調整部材への入力値を糸毎に測定する、測定ステップと、
天バネ装置から糸のキャリアまでの給糸ルートでの要素毎の補正量の合計に応じて、前記入力値を補正することにより調整部材への設定値に変換し、変換した設定値を横編機のコントローラから調整部材に加える設定ステップを実行する、ことを特徴とする、横編機の天バネ装置の設定方法。
【請求項3】
前記設定ステップでは、天バネ装置から糸を給糸しかつキャリアの上流側に有る給糸先の種類、給糸ルートで糸が通る碍子の数、及び給糸ルートでの糸の曲がり方に応じて、前記入力値を補正することを特徴とする、
請求項1の横編機の天バネ装置の設定方法。
【請求項4】
前記設定ステップでは、天バネ装置から糸を給糸しかつキャリアの上流側に有る給糸先の種類、給糸ルートで糸が通る碍子の数、及び給糸ルートでの糸の曲がり方に応じて、前記入力値を補正することを特徴とする、
請求項2の横編機の天バネ装置の設定方法。
【請求項5】
前記入力値を複数の給糸速度毎に測定し、横編機のコントローラにより、天バネ装置からの糸の給糸速度に応じて、設定値を編成中に補正する速度補正ステップを行うことを特徴とする、
請求項1~4の何れかの横編機の天バネ装置の設定方法。
【請求項6】
電気的入力により糸に加える張力を調整するための調整部材を備え、かつ横編機に設けられている
複数の天バネ装置を設定するシステムにおいて、
前記複数の天バネ装置は、一部の天バネ装置のみが糸に加わる張力を測定する張力センサを備え、
前記システムは、
各天バネ装置について、天バネ装置から糸のキャリアまでの給糸ルートの要素を記憶すると共に、
給糸ルートの要素毎の補正量を記憶し、
かつ、張力センサを備える天バネ装置を用い、糸毎に所望の張力を糸に加えるための調整部材への入力値を測定する測定手段
を備え、
入力値の測定で用いた天バネ装置を含む給糸ルートでの、要素毎の補正量の合計を前記入力値から除くことにより、補正済みの入力値とすると共に、
他の給糸ルートでの天バネ装置から糸のキャリアまでの給糸ルートでの要素毎の補正量の合計に応じて、補正済みの入力値をさらに補正することにより調整部材への設定値に変換し、前記設定値を
横編機のコントローラから調整部材に加えるように構成されていることを特徴とする、横編機の天バネ装置の設定システム。
【請求項7】
横編機に設けられ、かつ糸に加える張力を電気的に調整自在な調整部材を備える複数の天バネ装置を設定するシステムにおいて、
前記システムは、
各天バネ装置について、天バネ装置から糸のキャリアまでの給糸ルートの要素を記憶すると共に、
給糸ルートの要素毎の補正量を記憶し、
かつ、調整部材と張力センサとを介して引き込み部材へ糸を供給し、調整部材により糸に張力を加え、引き込み部材により糸を引き込むと共に、張力センサにより測定した糸の張力が所望値となる際の調整部材への入力値を測定することにより、所望の張力を糸に加えるための調整部材への入力値を、糸毎に測定し、
天バネ装置から糸のキャリアまでの給糸ルートでの要素毎の補正量の合計に応じて、前記入力値を補正することにより調整部材への設定値に変換し、変換した設定値を横編機のコントローラから調整部材に加えるように構成されていることを特徴とする、横編機の天バネ装置の設定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、横編機での天バネ装置の設定に関する。
【背景技術】
【0002】
横編機では、針床の上部の架台に天バネ装置(上部のバネ装置)が多数設けられ、糸パッケージからの糸に張力を加え、サイドテンション、積極糸送り装置等に供給し、あるいはキャリアに直接糸を供給する(特許文献1参照)。天バネ装置は1台の横編機に例えば20台程度設けられ、横編機を多数備える編成工場では、天バネ装置はかなりの台数となる。
【0003】
天バネ装置に電気的に制御可能なディスク、ローラ等を設け、糸に張力を加えることが考えられる。例えばディスクで糸を挟み、ディスクから糸に加える圧力を制御すれば、張力を制御できる。ローラをモータで駆動し、ローラに加えるトルクを制御しても、張力を制御できる。しかしながらディスクの圧力、ローラのトルクなどを一定にしても、糸が変われば、加わる張力も変化する。
【0004】
天バネ装置が加えるべき張力は、糸のキャリアまでの給糸経路によって変化する。そして給糸経路は天バネ装置毎に異なる。そこで、多数の天バネ装置に対し、1台ずつ張力を設定することは大変である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の課題は、糸に加える張力を電気的に調整自在な天バネ装置に対し、張力の設定を自動化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、横編機に設けられ、かつ糸に加える張力を電気的に調整自在な調整部材を備える天バネ装置を設定する方法において、
所望の張力を糸に加えるための調整部材への入力値を、糸毎に測定する測定ステップと、
天バネ装置から糸のキャリアまでの給糸ルートの要素に応じて、前記入力値を補正することにより調整部材への設定値に変換し、変換した設定値を横編機のコントローラから調整部材に加える設定ステップを実行する、ことを特徴とする。
【0008】
この発明は、電気的入力により糸に加える張力を調整するための調整部材を備え、かつ横編機に設けられている天バネ装置を設定するシステムにおいて、
糸毎に、所望の張力を糸に加えるための調整部材への入力値を測定する測定手段と、横編機のコントローラとを備え、横編機のコントローラは、天バネ装置から糸のキャリアまでの給糸ルートの要素に応じ、前記入力値を補正することにより調整部材への設定値に変換し、前記設定値を調整部材に加えるように構成されていることを特徴とする。
【0009】
この発明では、電気的に糸に加える張力を調整自在な天バネ装置に対し、用いる糸を変更した際に、張力の設定を自動化に変更できる。この発明は、天バネ装置が多数ある場合に特に効率的である。なお種類が同じ糸は同じ糸としても良いが、温度・湿度・製造ロットなどにより、同じ種類の糸でも性質が異なることがある。このような場合、温度、湿度、製造ロットなどが変化すると、調整部材への入力値を再測定することが好ましい。
【0010】
好ましくは、設定ステップでは、天バネ装置から糸を給糸しかつキャリアの上流側に有る給糸先の種類、給糸ルートで糸が通る碍子(糸ガイド)の数、及び給糸ルートでの糸の曲がり方、などの給糸ルートの要素に応じ、前記入力値を補正する。天バネ装置が加えるべき張力は給糸ルートにより変化する。しかし上記のようにすると、入力値を給糸ルートの要素に応じて補正し、設定値に変換できる。
【0011】
好ましくは、前記入力値を複数の給糸速度毎に測定し、横編機のコントローラにより、天バネ装置からの糸の給糸速度に応じ、設定値を編成中に補正する速度補正ステップを行う。このようにすると、給糸速度に応じ適切な張力を加えることができるので、編成する編地の乱寸を防止できる。
【0012】
好ましくは、測定ステップでは、調整部材と張力センサとを介して引き込み部材へ糸を供給し、調整部材により糸に張力を加え、引き込み部材により糸を引き込むと共に、張力センサにより測定した糸の張力が所望値となる際の調整部材への入力値を測定する。ここで専用測定器としてこのような構成のものを用いれば、横編機を用いずに入力値を測定できるので、測定の間、編機を休止させる必要がない。このためより効率的に編地を編成できる。専用測定器を用いず、天バネ装置とサイドテンション、積極糸送り装置などの間に張力センサを設け、横編機のキャリアの下流側に引き込み部材を設けて測定すれば、横編機上で実際に編成せずに調整部材への入力値を測定できる。
【0013】
実施例では給糸ルートの要素毎の補正量を求めて加算するが、給糸ルート全体に対する補正値を測定しても良い。このような補正も、給糸ルートの要素に応じた補正である。例えば糸の引き込み速度と天バネ装置の出口付近での張力を一定にし、給糸ルート毎に調整部材への所要の入力値を測定し、基準となる天バネ装置での入力値との差を給糸ルート毎の補正値として記憶する。糸が変わっても、給糸ルート毎の補正値は例えば変更せずに使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】実施例における、天バネ装置の入力値のテーブルを模式的に示す図
【
図4】実施例における、横編機での天バネ装置の設定を模式的に示す図
【
図5】実施例での、天バネ装置の設定アルゴリズムを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0016】
図1~
図5に実施例を示す。
図1は天バネ装置2の例を示し、4は一対のダイで、糸10を挟み圧力を加える。6は駆動部で、ダイ4を駆動することにより圧力を調整し、7は駆動部への電気的入力を入力するためのポートである。ダイ4~ポート7の全体を調整部材8と呼ぶ。ダイ4の代わりに、糸10をローラに接触させて制動し、ローラの制動トルクを調整しても良く、張力調整の機構は任意である。また11は糸をガイドする碍子である。なお天バネ装置2に張力センサ12を設けると、
図2に示す調整部材への入力値の測定に用いることができる。ただし全ての天バネ装置2に張力センサ12を設けると本発明の意味がなく、張力センサを設ける場合、一部の天バネ装置2のみに設ける。天バネ装置2を使って横編機20上で測定する場合、測定に用いた給糸ルートの各要素に対応する補正量を除いた後に、天バネ装置20毎の給糸ルートの要素に応じた補正を行う。
【0017】
図2は、調整部材への入力値の測定を示す。糸パッケージ16等の糸源から、糸10を調整部材9と張力センサ12を介して引き込み部材14へ供給する。調整部材9は例えば天バネ装置2の調整部材8と同じものか、あるいはその高精度バージョンなど調整部材8と同種のものである。12は張力センサで、糸10に加わる張力を測定する。引き込み部材14では、例えば一対のローラにより糸を挟み、ローラを駆動して糸を引き込む。調整部材9、張力センサ12、及び引き込み部材14が、専用の測定手段の例である。また天バネ装置2(
図1)に張力センサ12を追加したものが、横編機の天バネ装置兼用の測定手段の例である。引き込み部材14で糸を引き込む速度毎に、張力センサ12で測定した張力が所望値となるための調整部材9への入力値を測定手段9bにより測定し、図示しないメモリに記憶する。この結果、
図3に示すテーブル26のデータが得られる。テーブルは糸10の引き込み速度毎にあり、各引き込み速度に対し、所望の張力毎の入力値が好ましくは複数記載されている。また好ましくは、
図1の駆動部8にも、ポート7への入力値を測定し記憶する測定手段を設ける。なお糸の引き込み速度毎にテーブル26を設けるのではなく、糸10を微速で引き込みながら、所望の張力が得られる際の調整部材9への入力値を測定しても良い。
【0018】
図4は、実施例での横編機20での天バネ装置2の設定を示す。30は例えば一対の針床、32は針床30の針を操作するキャリッジである。34は針床30の上部の架台で、天バネ装置2と図示しない糸パッケージを支持する。針床30の両側方に、例えば積極糸送り装置40とサイドテンション42があり、天バネ装置2は糸パッケージから糸を引き出し、張力を加え、積極糸送り装置40あるいはサイドテンション42に給糸する。そして積極糸送り装置40及びサイドテンション42から糸をキャリア44へ給糸し、キャリア44から針床30の針に給糸する。給糸ルートには図示しない碍子が配置されて糸の向きを変え、碍子で糸に摩擦が加わる。
【0019】
横編機20はコントローラ22を備え、24はコントローラ22の本体、25はキャリッジ32のコントローラ、26~28はテーブルである。テーブル26は
図3のデータを記憶し、使用する糸毎にテーブル26を設ける。テーブル27は、天バネ装置2毎に、キャリア44までの給糸ルートの要素を記憶する。なお給糸ルートの要素のデータは、編成データから生成しても、ユーザがコントローラ22から入力しても良い。
【0020】
テーブル28は、給糸ルートの要素毎の補正量を記憶し、例えば給糸ルートの碍子毎の張力の加算量、キャリア44と天バネ装置2の中間にある給糸先の種類による補正量、給糸ルートの途中での糸の曲げ角に応じた補正量などを記憶する。
【0021】
キャリアの上流側にある給糸先として、
図4では積極糸送り装置40とサイドテンション42を示す。積極糸送り装置40は一対のローラの間から糸を送り出し、ローラの回転数を制御することにより、所要長の糸を送り出す。サイドテンション42は、糸に張力を加えると共に糸のバッファともなる。そして積極糸送り装置40とサイドテンション42とでは、天バネ装置2側から加えるべき糸の張力の適正値が異なる。積極糸送り装置40もサイドテンション42も用いず、天バネ装置2から糸10を直接キャリア44に給糸しても良い。この場合、直接給糸に伴う補正量を、テーブル28に記憶する。
【0022】
図示を省略するが、天バネ装置2とキャリア44の間には碍子が複数あり、碍子で糸は曲げられる。碍子があると糸に摩擦力が働くので、碍子毎の張力の加算量をテーブル28に記憶する。また碍子で糸が曲げられると張力が上昇する。碍子での糸の曲げ角の範囲を180°~90°と考え、糸の曲げ角に応じた張力の加算量(例えば9段階で、90°に近づくにつれて10°毎に0.4g増)を記憶する。なお太い糸は、碍子などでの張力ロスが増すので、糸の太さに応じた補正量(例えば、太さが0.2mm未満、0.2mm以上0.8mm以下、0.8mm超の3段階に補正)を記憶することが好ましい。
【0023】
キャリッジ速度、押し編成か引き編成かの種類、消費ループ長などの編成情報に基づき、本体24は天バネ装置2から糸を給糸する速度を算出する。本体24は、使用中の天バネ装置2毎に、以下の処理を行う。テーブル27から給糸ルート内の要素を読み出し、給糸先が積極糸送り装置40かサイドテンション42かに応じ、テーブル28を参照し基本となる張力を求める。またテーブル28を参照し、各要素毎の張力への補正量を求めて加算し、基本となる張力を求める。次いで給糸速度に応じたテーブル26を参照し、所望の張力に対する天バネ装置2の設定値を読み出し、天バネ装置2の調整部材8を設定する。
【0024】
実施例での設定アルゴリズムを
図5に示す。準備として、給糸ルートの要素毎の補正量を決め、テーブル28に記憶しておく。編物の生産では用いる糸は例えばシーズン毎に変わり、1シーズン内でも新しい種類の糸を多数使用する。そこで1種類の糸に対し、テーブル26に必要なデータを1回取得し、これを各横編機20のテーブル26に移植する。ステップS1で、給糸速度毎に所望の張力を糸に加えるための調整部材への入力値を測定し記憶する。このとき、温度・湿度などにより糸の性質が変化し、好適な入力値が変化することがある。このため、調整部材への入力値を測定する環境と、横編機20の設置環境を揃えることが望ましい。また製造ロットにより糸の性質が変化する可能性があるので、必要であれば製造ロットが変わった際に、テーブル26のデータを再度取得することが好ましい。
【0025】
ステップS2で、天バネ装置2毎の給糸ルートをテーブル27に記憶させる。ステップS1,S2の実行順序は任意である。ステップS3で、テーブル28に記憶した補正量とテーブル27に記憶した給糸ルートを参照し、個別の天バネ装置2の調整部材8への設定値を求める。なお編成中にステップS3を繰り返し実行する必要はなく、給糸速度に応じた変化分を本体24、あるいは図示しないテーブルに記憶し、給糸速度に応じた変化分だけ設定値を変更してもよい。
【0026】
ステップS3での詳細な処理を、ステップS3a~S3dに示す。ステップS3aでは、テーブル27から給糸ルートの要素を読み出す。給糸ルート中の要素には、碍子とそこでの糸の曲げ角、積極糸送り装置かサイドテンションかなどの天バネ装置からの最初の給糸先の種類、及び押し編成か引き編成かの編成の向き、などがある。ステップS3bでは、給糸ルート中の要素毎の補正量をテーブル28から読み出し加算し、合計の補正量とする。ステップS3cでは、糸毎に設けられたテーブル26中の給糸速度に応じたサブテーブルを参照し、所望の張力を与えるための設定値を読み出す。例えば
図3では、テーブル26は給糸速度に応じて3枚のサブテーブルを含んでいる。ここで、読み出した設定値を記憶することが好ましい。ステップS3dで、ステップS3cで読み出した設定値に、ステップS3bで求めた合計の補正量を加算し、天バネ装置への設定値とする。
【0027】
給糸速度は編成中にしばしば変更される。この場合、ステップS3a~S3dを再実行しても良い。しかしステップS3cのみを再度実行し、変更前の給糸速度からの設定値の変化分を求めることが好ましい。そしてこの変化分を変更前の設定値に加算すると、新しい給糸速度に対する設定値が得られる。編成中に、押し編成か引き編成かの編成の向きを変更することがある。この場合、テーブル28から編成の向きの変更に応じた補正量の変化分を求め、これを向きの変更前の設定値に加算し、変更後の設定値とする。
【0028】
実施例では、多数の天バネ装置2に対し、新しい種類の糸を用いる際に、テーブル26のデータを1回取得すればよいので、極めて効率的である。なお全ての天バネ装置2に張力センサ12を設ければ、この発明を実施する必要はない。しかしこのようにすると、多数の張力センサが必要になる。
【0029】
実施例では、上記の他に以下の効果が得られる。
・ 全ての天バネ装置2を、用いる糸毎に一様に設定できる。従って、キャリア44が異なっても、編地の編目サイズを一様にできる。また横編機2が異なっても、編目サイズを一様にできる。
・ 給糸速度のみでなく、編み入れ、端部の編目の編成、押し編成か引き編成かなどに応じ、張力の設定値を補正すれば、より高品位の編地を編成できる。またこれを編成情報に基づくフィードフォワード制御として行うので、フィードバック制御のような遅れが生じることなく、張力を一定に保つことができる。
・ 天バネ装置2の調整部材8への設定値を一様にせずに、キャリア44に応じて変更すれば、編目サイズを積極的に制御することも可能である。
【符号の説明】
【0030】
2 天バネ装置
4 ダイ
6 駆動部
7 入力ポート
8、9 調整部材
11 碍子
10 糸
12 張力センサ
14 引き込み部材
16 糸パッケージ
20 横編機
22 コントローラ
24 本体
25 キャリッジコントローラ
26~28 テーブル
30 針床
32 キャリッジ
34 架台
40 積極糸送り装置
42 サイドテンション
44 キャリア