(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】ポリオレフィン積層微多孔膜
(51)【国際特許分類】
C08J 9/00 20060101AFI20240329BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20240329BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20240329BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240329BHJP
C08G 81/02 20060101ALI20240329BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20240329BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20240329BHJP
【FI】
C08J9/00 A CES
C08J3/24 A
B32B5/18
B32B27/32 Z
C08G81/02
H01M50/417
H01M50/449
(21)【出願番号】P 2020071805
(22)【出願日】2020-04-13
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2019077411
(32)【優先日】2019-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真生
(72)【発明者】
【氏名】張 シュン
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-111095(JP,A)
【文献】特開2017-203145(JP,A)
【文献】特開2009-054462(JP,A)
【文献】特開平09-216964(JP,A)
【文献】特開2008-111134(JP,A)
【文献】特開2013-199545(JP,A)
【文献】特開2006-092848(JP,A)
【文献】特開2009-193755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
C08J 3/00-3/28
C08J 99/00
B32B 1/00-43/00
C08G 81/02
H01M 50/409
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層構造を有し、かつ前記積層構造のうちの少なくとも1層にポリオレフィンを含む蓄電デバイス用微多孔膜であって、
前記ポリオレフィンが、1種又は2種以上の官能基を有し、
蓄電デバイスへの収納後に、(1)前記官能基同士が縮合反応するか、(2)前記官能基が前記蓄電デバイス内部の化学物質と反応するか、又は(3)前記官能基が他の種類の官能基と反応して、架橋構造が形成され、かつ
前記積層構造のうち少なくとも1層がポリプロピレンを含み、前記ポリプロピレンを含む層を単層として広角X線散乱で測定した際の機械方向(MD)に対する幅方向(TD)の配向割合の比MD/TDが、1.3以上を満たすことを特徴とする蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項2】
前記架橋構造は、(1)前記官能基同士が縮合反応することにより形成される、請求項1に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項3】
前記架橋構造は、(2)前記官能基が前記蓄電デバイス内部の化学物質と反応することにより形成される、請求項1に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項4】
前記化学物質が、前記蓄電デバイスに含まれる電解質、電解液、電極活物質、添加剤又はそれらの分解物のいずれかである、請求項1又は3に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項5】
前記架橋構造は、(3)前記官能基が他の種類の官能基と反応することにより形成される、請求項1に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項6】
前記ポリオレフィンを含む少なくとも1層は、下記式(I):
R
E’X=E’
Z/E’
Z0 (I)
{式中、E’
Zは、前記蓄電デバイス用微多孔膜の前記(1)~(3)の少なくとも1つの反応が前記蓄電デバイス内で進行した後に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率
の最大値であり、かつ
E’
Z0は、前記蓄電デバイス用微多孔膜が前記蓄電デバイスに組み込まれる前に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率
の最大値であり、そしてE’
Z又はE’
Z0である貯蔵弾性率の測定条件は、下記構成(i)~(iv)で規定される。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・雰囲気:窒素
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:5μm~50μmの範囲(サンプルの膜厚によらず1枚で測定を実施する)
・測定温度範囲:-50~300℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.5N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:25mm
・Auto strain adjustment:Enabled(範囲:振幅値0.05~25%、正弦波荷重0.02~5N)
で行なった。
(ii)静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指し、かつ正弦波荷重とは、静的引張荷重を中心とした振動応力を指す。
(iii)正弦波引張モードとは、固定振幅0.2%で周期運動を行いながら振動応力を測定することを指し、その際に、静的引張荷重と正弦波荷重の差が20%以内となるようにギャップ間距離及び静的引張荷重を変動して振動応力を測定した。なお、正弦波荷重が0.02N以下になった場合、正弦波荷重が5N以内かつ振幅値の増加量が25%以内になるように振幅値を増幅させて振動応力を測定した。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値の関係、及び下記式:
σ
*=σ
0・Exp[i(ωt+δ)]、
ε
*=ε
0・Exp(iωt)、
σ
*=E
*・ε
*
E
*=E’+iE’’
(式中、σ
*:振動応力、ε
*:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E
*:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差)
から貯蔵弾性率を算出する。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(R
E’x)が、1.2倍~20倍である、請求項1~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項7】
積層構造を有し、かつ前記積層構造のうちの少なくとも1層にポリオレフィンを含む蓄電デバイス用微多孔膜であって、
前記ポリオレフィンは、非晶部が架橋された非晶部架橋構造を有し、かつ
前記積層構造のうち少なくとも1層がポリプロピレンを含み、前記ポリプロピレンを含む層を単層として広角X線散乱で測定した際の機械方向(MD)に対する幅方向(TD)の配向割合の比MD/TDが1.3以上を満たすことを特徴とする蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項8】
前記非晶部が、選択的に架橋された、請求項7に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項9】
前記ポリオレフィンを含む少なくとも1層は、下記式(II):
R
E’mix=E’/E’
0 (II)
{式中、E’は、前記蓄電デバイス用微多孔膜が前記非晶部架橋構造を有するときに160℃~300℃で測定された貯蔵弾性率
の平均値であり、かつ
E’
0は、非晶部架橋構造を有しない蓄電デバイス用微多孔膜の160℃~300℃で測定された貯蔵弾性率
の平均値であり、そしてE’又はE’
0である貯蔵弾性率の測定条件は、下記構成(i)~(iv)で規定される。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・雰囲気:窒素
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:5μm~50μmの範囲(サンプルの膜厚によらず1枚で測定を実施する)
・測定温度範囲:-50~300℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.5N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:25mm
・Auto strain adjustment:Enabled(範囲:振幅値0.05~25%、正弦波荷重0.02~5N)
で行なった。
(ii)静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指し、かつ正弦波荷重とは、静的引張荷重を中心とした振動応力を指す。
(iii)正弦波引張モードとは、固定振幅0.2%で周期運動を行いながら振動応力を測定することを指し、その際に、静的引張荷重と正弦波荷重の差が20%以内となるようにギャップ間距離及び静的引張荷重を変動して振動応力を測定した。なお、正弦波荷重が0.02N以下になった場合、正弦波荷重が5N以内かつ振幅値の増加量が25%以内になるように振幅値を増幅させて振動応力を測定した。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値の関係、及び下記式:
σ
*=σ
0・Exp[i(ωt+δ)]、
ε
*=ε
0・Exp(iωt)、
σ
*=E
*・ε
*
E
*=E’+iE’’
(式中、σ
*:振動応力、ε
*:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E
*:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差)
から貯蔵弾性率を算出する。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(R
E’mix)が、1.2倍~20倍である、請求項7又は8に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用微多孔膜などに関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜は、種々の物質の分離又は選択透過分離膜、及び隔離材等として広く用いられており、その用途例としては、精密ろ過膜、燃料電池用、コンデンサー用セパレータ、又は機能材を孔の中に充填させて新たな機能を発現させるための機能膜の母材、蓄電デバイス用セパレータ等が挙げられる。中でも、ポリオレフィン製微多孔膜は、ノート型パーソナルコンピュータ又は携帯電話、デジタルカメラ等に広く使用されているリチウムイオン電池用セパレータとして使用されている。
【0003】
電池安全性を確保するために、セパレータ内に架橋構造を形成することによって、シャットダウン機能の発現と破膜温度の向上との両立を図ることが提案されている(特許文献1~8)。例えば、特許文献1~6には、シラン変性ポリオレフィン含有セパレータと水との接触などにより形成されるシラン架橋構造が記述されている。特許文献7には、紫外線、電子線などの照射によるノルボルネンの開環から形成される架橋構造が記述されている。特許文献8には、セパレータの絶縁層が、架橋構造を有する(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-ブタジエンゴムバインダなどを有することが記述されている。
【0004】
リチウムイオン電池の部材としては、正極、負極材料、電解液及びセパレータが用いられている。これらの部材のうち、セパレータについては、その絶縁材料としての適格から、電気化学反応又は周辺部材に対して不活性であることが求められてきた。リチウムイオン電池の負極材料については、その開発当初から、初充電時の化学反応による固体電解質界面(SEI)形成によって負極表面の電解液の分解を抑制する技術が確立されている(非特許文献1)。また、セパレータにポリオレフィン樹脂を用いたとしても、正極表面では高電圧下において酸化反応が誘起され、セパレータの黒色化、表面劣化などが起こるという事例も報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-216964号公報
【文献】国際公開第97/44839号
【文献】特開平11-144700号公報
【文献】特開平11-172036号公報
【文献】特開2001-176484号公報
【文献】特開2000-319441号公報
【文献】特開2011-071128号公報
【文献】特開2014-056843号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】リチウムイオン二次電池(第2版) 日刊工業新聞社 発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、モバイルデバイス搭載用途又は車載用リチウムイオン二次電池の高出力化と高エネルギー密度化が進んでいるのに対して、電池セルの小型化と長期使用時の安定なサイクル放充電性能が求められている。そのため、電池用セパレータとして使用可能な微多孔膜の製造には、強度及び開孔性が必要とされている。さらに、電池安全性の水準についても、以前より厳格となっており、特許文献1,2にも記載されるように、シャットダウン機能と高温破膜性を有するセパレータ、及びその安定な製造方法が期待されている。これに関連して、シャットダウン温度の水準として150℃より低いほど望ましく、また破膜温度の水準としては高温であるほど望ましい。
【0008】
しかしながら、特許文献1~8に記載される架橋方法は、いずれも微多孔膜のインプロセスで、又は微多孔膜の作製直後のバッチで行われるものである。したがって、特許文献1~8に記載される架橋構造の形成後には、セパレータとして使用するために微多孔膜の塗工加工及びスリットを行わなければならず、その後の電極との積層・捲回工程では内部応力が増加するため、作製された蓄電デバイスが変形することがある。例えば、加温により架橋構造を形成すると、その架橋構造を有するセパレータの内部応力が常温又は室温で増加することがある。また、微多孔膜への紫外線、電子線等の光照射により架橋構造を形成すると、光の照射が不均一になり、架橋構造が不均質になることがある。これは、微多孔膜を構成する樹脂の結晶部周辺が電子線により架橋され易いためであると考えられる。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みて、微多孔膜の強度及び開孔性を損なうことなく、微多孔膜の高温下での耐破膜性を向上させ、そして微多孔膜をセパレータとして含む蓄電デバイスのデバイス特性と安全性を両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は、次の技術的手段により解決される。
[1]
積層構造を有し、かつ前記積層構造のうちの少なくとも1層にポリオレフィンを含む蓄電デバイス用微多孔膜であって、
前記ポリオレフィンが、1種又は2種以上の官能基を有し、
蓄電デバイスへの収納後に、(1)前記官能基同士が縮合反応するか、(2)前記官能基が前記蓄電デバイス内部の化学物質と反応するか、又は(3)前記官能基が他の種類の官能基と反応して、架橋構造が形成され、かつ
前記積層構造のうち少なくとも1層がポリプロピレンを含み、前記ポリプロピレンを含む層を単層として広角X線散乱で測定した際の機械方向(MD)に対する幅方向(TD)の配向割合の比MD/TDが、1.3以上を満たすことを特徴とする蓄電デバイス用微多孔膜。
[2]
前記架橋構造は、(1)前記官能基同士が縮合反応することにより形成される、項目1に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[3]
前記架橋構造は、(2)前記官能基が前記蓄電デバイス内部の化学物質と反応することにより形成される、項目1に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[4]
前記化学物質が、前記蓄電デバイスに含まれる電解質、電解液、電極活物質、添加剤又はそれらの分解物のいずれかである、項目1又は3に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[5]
前記架橋構造は、(3)前記官能基が他の種類の官能基と反応することにより形成される、項目1に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[6]
前記ポリオレフィンを含む少なくとも1層は、下記式(I):
RE’X=E’Z/E’Z0 (I)
{式中、E’Zは、前記蓄電デバイス用微多孔膜の前記(1)~(3)の少なくとも1つの反応が前記蓄電デバイス内で進行した後に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率であり、かつ
E’Z0は、前記蓄電デバイス用微多孔膜が前記蓄電デバイスに組み込まれる前に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率であり、そしてE’Z又はE’Z0である貯蔵弾性率の測定条件は、下記構成(i)~(iv)で規定される。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・雰囲気:窒素
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:5μm~50μmの範囲(サンプルの膜厚によらず1枚で測定を実施する)
・測定温度範囲:-50~300℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.5N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:25mm
・Auto strain adjustment:Enabled(範囲:振幅値0.05~25%、正弦波荷重0.02~5N)
で行なった。
(ii)静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指し、かつ正弦波荷重とは、静的引張荷重を中心とした振動応力を指す。
(iii)正弦波引張モードとは、固定振幅0.2%で周期運動を行いながら振動応力を測定することを指し、その際に、静的引張荷重と正弦波荷重の差が20%以内となるようにギャップ間距離及び静的引張荷重を変動して振動応力を測定した。なお、正弦波荷重が0.02N以下になった場合、正弦波荷重が5N以内かつ振幅値の増加量が25%以内になるように振幅値を増幅させて振動応力を測定した。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値の関係、及び下記式:
σ*=σ0・Exp[i(ωt+δ)]、
ε*=ε0・Exp(iωt)、
σ*=E*・ε*
E*=E’+iE’’
(式中、σ*:振動応力、ε*:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E*:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差)
から貯蔵弾性率を算出する。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’x)が、1.2倍~20倍である、項目1~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[7]
積層構造を有し、かつ前記積層構造のうちの少なくとも1層にポリオレフィンを含む蓄電デバイス用微多孔膜であって、
前記ポリオレフィンは、非晶部が架橋された非晶部架橋構造を有し、かつ
前記積層構造のうち少なくとも1層がポリプロピレンを含み、前記ポリプロピレンを含む層を単層として広角X線散乱で測定した際の機械方向(MD)に対する幅方向(TD)の配向割合の比MD/TDが1.3以上を満たすことを特徴とする蓄電デバイス用微多孔膜。
[8]
前記非晶部が、選択的に架橋された、項目7に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[9]
前記ポリオレフィンを含む少なくとも1層は、下記式(II):
RE’mix=E’/E’0 (II)
{式中、E’は、前記蓄電デバイス用微多孔膜が前記非晶部架橋構造を有するときに160℃~300℃で測定された貯蔵弾性率であり、かつ
E’0は、非晶部架橋構造を有しない蓄電デバイス用微多孔膜の160℃~300℃で測定された貯蔵弾性率であり、そしてE’又はE’0である貯蔵弾性率の測定条件は、下記構成(i)~(iv)で規定される。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・雰囲気:窒素
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:5μm~50μmの範囲(サンプルの膜厚によらず1枚で測定を実施する)
・測定温度範囲:-50~300℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.5N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:25mm
・Auto strain adjustment:Enabled(範囲:振幅値0.05~25%、正弦波荷重0.02~5N)
で行なった。
(ii)静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指し、かつ正弦波荷重とは、静的引張荷重を中心とした振動応力を指す。
(iii)正弦波引張モードとは、固定振幅0.2%で周期運動を行いながら振動応力を測定することを指し、その際に、静的引張荷重と正弦波荷重の差が20%以内となるようにギャップ間距離及び静的引張荷重を変動して振動応力を測定した。なお、正弦波荷重が0.02N以下になった場合、正弦波荷重が5N以内かつ振幅値の増加量が25%以内になるように振幅値を増幅させて振動応力を測定した。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値の関係、及び下記式:
σ*=σ0・Exp[i(ωt+δ)]、
ε*=ε0・Exp(iωt)、
σ*=E*・ε*
E*=E’+iE’’
(式中、σ*:振動応力、ε*:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E*:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差)
から貯蔵弾性率を算出する。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’mix)が、1.2倍~20倍である、項目7又は8に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蓄電デバイス用微多孔膜の強度及び開孔性を損なうことなく、高温下での耐破膜性の向上を達成することでき、微多孔膜をセパレータとして備える蓄電デバイスの電池特性と釘刺し試験などでの高い安全性を両立することができる。また、本発明によれば、製膜プロセス中又はその直後に架橋構造を形成しなくてよいため、セパレータの内部応力の増加及び蓄電デバイス作製後の変形を抑制することができ、かつ/又は光照射若しくは加温などの比較的高いエネルギーを用いずにセパレータに架橋構造を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、結晶構造のラメラ(結晶部)、非晶部およびそれらの間の中間層部に分かれた高次構造を有する結晶性高分子を説明するための模式図である。
【
図2】ポリオレフィン分子の結晶成長を説明するための模式図である。
【
図3】
図3は、ポリオレフィン微多孔膜の透過法広角X線散乱(WAXS)測定おいて散乱強度の方位角分布、ピーク、及びガウス関数近似によるピーク分離の一例を説明するための図であり、そして単位「arb.u」は、任意単位(arbitrary unit)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と略記する)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
〔蓄電デバイス用微多孔膜〕
微多孔膜は、単数又は複数の種類のポリオレフィン系樹脂で形成されるか、又はポリオレフィン系樹脂とそれ以外の樹脂とを有する複合樹脂膜であることができ、かつ多数の微細な孔を有する。ポリオレフィン系樹脂を主成分として含む微多孔膜(以下、ポリオレフィン系微多孔膜ともいう)は、膜の質量に対して、ポリオレフィン系樹脂を50質量%以上含む。
【0015】
ポリオレフィン系微多孔膜は、酸化還元劣化耐性及び緻密で均一な多孔質構造の観点から、蓄電デバイスの形成に使用されることが好ましく、蓄電デバイスの構成材料として使用されることがより好ましく、蓄電デバイス用セパレータとして使用されることがさらに好ましく、リチウムイオン電池用セパレータとして使用されることが特に好ましい。本明細書では、蓄電デバイス用セパレータ(以下、「セパレータ」として略記することがある)とは、蓄電デバイスにおいて複数の電極の間に配置され、かつイオン透過性及び必要に応じてシャットダウン特性を有する部材をいう。セパレータは、微多孔膜を含み、所望により、任意の機能層をさらに備えてよい。
【0016】
〔第一の実施形態〕
第一の実施形態に係る微多孔膜は、積層構造を有し、その積層構造を構成する多層のうちの少なくとも1層には、1種又は2種以上の官能基を有するポリオレフィンが含まれ、蓄電デバイスへ収納された後には、(1)ポリオレフィンの官能基同士が縮合反応するか、(2)ポリオレフィンの官能基が蓄電デバイス内部の化学物質と反応するか、又は(3)ポリオレフィンの官能基が他の種類の官能基と反応して、架橋構造が形成される。第一の実施形態では、微多孔膜は、積層構造によって、強度を確保したり、機能を付与したり、様々な用途、多孔化プロセス、又は加工プロセスに適合したりすることができ、さらに上記(1)~(3)のいずれかの反応により形成された架橋構造によって、強度と、150℃以上の高温下での耐破膜性とを向上させることでき、例えばセパレータとして、蓄電デバイスに収納されたときにデバイス特性と安全性を両立する傾向にある。
【0017】
第一の実施形態では、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンに含まれる官能基は、ポリオレフィンの結晶部に取り込まれず、非晶部において架橋されると考えられるので、微多孔膜の蓄電デバイスへの収納後、周囲の環境又は蓄電デバイス内部の化学物質を利用して、架橋構造を形成し、それにより内部応力の増加又は作製された蓄電デバイスの変形を抑制し、安全性に寄与することができる。
他方、微多孔膜の蓄電デバイスへの収納前に架橋反応を行い、巻取り・スリットなどの工程を経た場合には、その工程の際に発生した張力等の応力の影響が残留する。この応力が蓄電デバイス組み立て後に開放された場合には、電極捲回物等のデフォーム又は応力集中による破損の原因となることが考えられるため好ましくない。
【0018】
また、第一の実施形態では、製膜プロセス中又はその直後に架橋構造を形成しなくてよいため、微多孔膜をセパレータとして使用するときに、内部応力の増加及び蓄電デバイス作製後の変形を抑制することができ、かつ/又は架橋構造を形成するための光照射若しくは加温などを用いずに省エネルギーに寄与することができる。
【0019】
さらに、第一の実施形態では、微多孔膜の積層構造を構成する多層のうち、ポリプロピレンを含む少なくとも1つの層は、単層として広角X線散乱で測定した際の機械方向(MD)に対する幅方向(TD)の配向割合の比MD/TDが、1.3以上である。第一の実施形態では、ポリプロピレンを含有する単層の配向割合の比MD/TDが1.3以上であると、積層構造を有する微多孔膜の強度、製膜性、生産性及び開孔性が向上する傾向にあり、ひいては微多孔膜の微多孔性、架橋構造及びイオン透過性を所望のデバイス特性に適合させることができる。配向割合の比MD/TDの下限値は、膜物性とデバイス特性の適合の観点から、好ましくは1.4以上又は1.5以上であり、より好ましくは1.6以上である。配向割合の比MD/TDの上限値は、高ければ高いほどポリオレフィン成形体を開孔し易く、微多孔膜の配向性も良くなり、例えば、製膜プロセス又は積層プロセスに応じて、12.0以下、11.0以下、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.5以下、又は5.0以下であることができる。
【0020】
〔第二の実施形態〕
第二の実施形態に係る微多孔膜は、積層構造を有し、その積層構造を構成する多層のうちの少なくとも1層にはポリオレフィンが含まれており、そのポリオレフィンは、非晶部が架橋された非晶部架橋構造を有する。第二の実施形態に係る微多孔膜は、積層構造によって、強度を確保したり、機能を付与したり、様々な用途、多孔化プロセス、又は加工プロセスに適合したりすることができる。また、第二の実施形態に係る微多孔膜は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンの非晶部架橋構造を有するため、結晶部及びその周辺が架橋し易い従来の架橋型微多孔膜と比べて、シャットダウン機能と、150℃以上の高温下での耐破膜性とを両立しながら内部応力の増加又は作製された蓄電デバイスの変形を抑制することができ、ひいては蓄電デバイスの安全性を確保することができる。同様の観点から、第二の実施形態に係る微多孔膜に含まれるポリオレフィンの非晶部は、好ましくは、選択的に架橋されており、より好ましくは、結晶部よりも有意に架橋されている。
【0021】
さらに、第二の実施形態では、微多孔膜の積層構造を構成する多層のうち、ポリプロピレンを含む少なくとも1つの層は、単層として広角X線散乱で測定した際の機械方向(MD)に対する幅方向(TD)の配向割合の比MD/TDが、1.3以上である。第二の実施形態では、ポリプロピレンを含有する単層の配向割合の比MD/TDが1.3以上であると、積層構造を有する微多孔膜の強度、製膜性、生産性及び開孔性が向上する傾向にあり、ひいては微多孔膜の微多孔性、架橋構造及びイオン透過性を所望のデバイス特性に適合させることができる。配向割合の比MD/TDの下限値は、膜物性とデバイス特性の適合の観点から、好ましくは1.4以上又は1.5以上であり、より好ましくは1.6以上である。配向割合の比MD/TDの上限値は、高ければ高いほどポリオレフィン成形体を開孔し易く、微多孔膜の配向性も良くなり、例えば、製膜プロセス又は積層プロセスに応じて、12.0以下、11.0以下、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.5以下、又は5.0以下であることができる。
なお、第一及び第二の実施形態では、広角X線散乱で測定される単層は、ポリプロピレンのみから成るか、又はポリプロピレンに加えて、ポリプロピレン以外の成分、例えば、ポリプロピレンを除くポリオレフィン、ポリオレフィン以外の樹脂又は添加剤などを含有してよい。
【0022】
〔架橋反応機構〕
第一及び第二の実施形態では、架橋反応機構・架橋構造について明らかではないが、本発明者らは下記(ア)~(エ)のように考える。
【0023】
(ア)ポリオレフィン系微多孔膜における結晶構造
ポリエチレン等に代表されるポリオレフィン樹脂は、
図1に示すように、一般に結晶性高分子であり、結晶構造のラメラ(結晶部)、非晶部およびそれらの間の中間層部に分かれた高次構造を有する。結晶部、及び結晶部と非晶部の間の中間層部においては、高分子鎖の運動性は低く、切り分けができないが、固体粘弾性測定では0℃~120℃領域に緩和現象が観測できる。他方、非晶部は、高分子鎖の運動性が非常に高く、固体粘弾性測定では-150℃~-100℃領域に観測される。この点が、後述されるラジカルの緩和又はラジカルの移動反応、架橋反応等に関係する。
【0024】
また、結晶を構成するポリオレフィン分子は、単一ではなく、
図2に例示されるように、複数の高分子鎖が小さなラメラを形成した後、ラメラが集合化し、結晶となる。このような現象は、直接的に観測することが難しく、近年、シミュレーションにより、学術的に研究が進められ、明らかになってきた。なお、本明細書では、結晶とは、X線構造解析により計測される最小結晶の単位であり、結晶子サイズとして算出できる単位である。このように、結晶部(ラメラ内部)といえども、結晶中にも一部拘束されずに、運動性がやや高い部分が存在すると予測される。
【0025】
(イ)電子線による架橋反応機構
次に、高分子への電子線架橋(以下、EB架橋という)の反応機構は、以下のとおりである。
(i)数十kGyから数百kGyの電子線の照射、
(ii)反応対象物(高分子)への電子線の透過と二次電子発生、
(iii)二次電子による高分子鎖中の水素の引き抜き反応とラジカル発生、
(iv)ラジカルによる隣接水素の引き抜きと活性点の移動、
(v)ラジカル同士の再結合による架橋反応またはポリエン形成。
ここで、結晶部に発生したラジカルについては、運動が乏しいため、長期間に亘り存在し、かつ不純物等が結晶内へ進入できないため、反応・消光の確率が低い。このようなラジカル種は、Stable Radicalと呼ばれており、数ヶ月という長い期間で残存し、ESR測定によって寿命が明らかになる。結果として、結晶内における架橋反応は乏しいと考えられる。しかしながら、結晶内部に僅かに存在する、拘束されていない分子鎖又は周辺の結晶-非晶中間層部では、発生したラジカルは、やや長い寿命を有する。このようなラジカル種は、Persistent Radicalと呼ばれており、運動性のある環境下では、高い確率で分子鎖間の架橋反応が進行すると考えられる。一方、非結晶部は運動性が非常に高いため、発生したラジカル種は寿命が短く、分子鎖間の架橋反応だけではなく、一本の分子鎖内のポリエン反応も高確率で進行すると考えられる。
以上の様に、結晶レベルのミクロな視野においては、EB架橋による架橋反応は結晶内部又はその周辺が局在していると推測できる。
【0026】
(ウ)化学反応による架橋反応機構
前述のように、ポリオレフィン樹脂には結晶部と非晶部が存在する。しかし、前述の官能基は、立体障害のため結晶内部には存在せず、非晶部に局在する。このことは、一般的に知られており、ポリエチレン鎖状に僅かに含まれるメチル基のようなユニットは結晶中に取り込まれることはあるが、エチル基より嵩高いグラフトは取り込まれることはない(「基礎高分子化学」東京化学同人 発行)。このため、電子線架橋と異なる反応による架橋点は、非晶部のみに局在する。
【0027】
(エ)架橋構造の違いと効果との関係
微多孔膜中に架橋構造を形成するためには、ポリオレフィン樹脂中の官能基と蓄電デバイス中に含まれる化学物質との組み合わせを用いるか、又は蓄電デバイス中に含まれる化学物質を、触媒として用いることが好ましい。蓄電デバイス内部の化学反応による架橋反応では、使用原料又は触媒等に応じて、反応生成物のモルフォロジーが相違する。本発明に至るまでの研究では、架橋構造の解明及び構造変化に伴うに微多孔膜の物性変化を明らかにするために、以下の実験により現象解明に至った。
【0028】
EB架橋または化学架橋(前)未実施の膜と、化学架橋膜とについて、ヒューズ/メルトダウン特性試験により、両者の結晶融解時の挙動を調べた。その結果、EB架橋処理した膜は、ヒューズ温度が著しく高くなり、メルトダウン温度は200℃以上まで上昇する。他方、化学架橋膜は、架橋処理前後において、ヒューズ温度は変化が見られず、メルトダウン温度は200℃以上まで上昇したことが確認された。したがって、結晶融解によって発生するヒューズ特性において、EB架橋膜は、結晶部周辺が架橋したため、融解温度の上昇、融解速度の低下が原因であったと考えられる。他方、化学架橋膜は、結晶部に架橋構造がないため、ヒューズ特性へ変化を及ぼさないと断定した。また、200℃前後の高温領域では、両者とも結晶融解後、架橋構造を有するため、樹脂物全体がゲル状態で安定化でき、良いメルトダウン特性を得られる。
【0029】
【0030】
第一の実施形態では、(1)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンの官能基同士の縮合反応は、例えば、ポリオレフィンに含まれる2つ以上の官能基Aの共有結合を介した反応であることができる。また、(3)ポリオレフィンの官能基と他の種類の官能基との反応は、例えば、ポリオレフィンに含まれる官能基Aと官能基Bの共有結合を介した反応であることができる。
【0031】
第一の実施形態では、(2)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンの官能基と蓄電デバイス内部の化学物質との反応において、例えば、ポリオレフィンに含まれる官能基Aは、蓄電デバイスに含まれる電解質、電解液、電極活物質、添加剤又はそれらの分解物のいずれかと共有結合又は配位結合を形成することができる。また、反応(2)によれば、セパレータ内部だけでなく、セパレータと電極の間又はセパレータと固体電解質界面(SEI)の間にも架橋構造を形成して、蓄電デバイスの複数の部材間の強度を向上させることができる。
【0032】
第一及び第二の実施形態に係る微多孔膜は、非晶部架橋構造の形成、シャットダウン機能と高温耐破膜性の両立などの観点から、下記式(I):
RE’X=E’Z/E’z0 (I)
{式中、E’Zは、微多孔膜の架橋反応が蓄電デバイス内で進行した後に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率であり、かつ
E’z0は、微多孔膜が蓄電デバイスに組み込まれる前に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率である}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’x)、及び/又は下記式(III):
RE’’X=E’’Z/E’’Z0 (III)
{式中、E’’Zは、微多孔膜の架橋反応が蓄電デバイス内で進行した後に、160℃~300℃の温度領域で測定された損失弾性率であり、かつ
E’’Z0は、微多孔膜が蓄電デバイスに組み込まれる前に、160℃~300℃の温度領域で測定された損失弾性率である}
により定義される混合損失弾性率比(RE’’x)が、好ましくは1.2倍~20倍、より好ましくは2.0倍~18倍、さらに好ましくは3.5倍~16.5倍である。なお、E’Z及びE’z0とE’’Z及びE’’z0とは、それぞれ160℃~300℃を最も広い温度領域としたときに、測定装置の設定温度範囲内で測定された貯蔵弾性率又は損失弾性率の平均値である。また、第一及び第二の実施形態に係る微多孔膜は、積層構造を有する積層膜であるため、積層膜から剥離されたポリオレフィン系微多孔膜のみの貯蔵弾性率E’Z及びE’z0と損失弾性率E’’Z及びE’’z0を測定するものとする。E’Z、E’z0、E’’Z又はE’’z0である弾性率の測定条件は、実施例に記載される。
【0033】
第一及び第二の実施形態に係る微多孔膜は、非晶部架橋構造の形成、シャットダウン機能と高温耐破膜性の両立などの観点から、下記式(II):
RE’mix=E’/E’0 (II)
{式中、E’は、非晶部架橋構造を有する微多孔膜の160℃~300℃で測定された貯蔵弾性率であり、かつ
E’0は、非晶部架橋構造を有しない微多孔膜の160℃~300℃で測定された貯蔵弾性率である}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’mix)、及び/又は下記式(IV):
RE’’mix=E’’/E’’0 (IV)
{式中、E’’は、非晶部架橋構造を有する微多孔膜の160℃~300℃で測定された損失弾性率であり、かつ
E’’0は、非晶部架橋構造を有しない微多孔膜の160℃~300℃で測定された損失弾性率である}
により定義される混合損失弾性率比(RE’’mix)が、好ましくは1.2倍~20倍、より好ましくは2.0倍~18倍、さらに好ましくは4.0倍~17倍である。なお、E’及びE’0とE’’及びE’’0は、それぞれ160℃~300℃を最も広い温度領域としたときに、測定装置の設定温度範囲内で測定された貯蔵弾性率又は損失弾性率の平均値である。また、第一及び第二の実施形態に係る微多孔膜は、積層構造を有する積層膜であるため、積層膜から剥離されたポリオレフィン系微多孔膜のみの貯蔵弾性率E’及びE’0と損失弾性率E’’及びE’’0を測定するものとする。E’、E’0、E’’又はE’’0である弾性率の測定条件は、実施例に記載される。
【0034】
第一及び第二の実施形態に係る微多孔膜の構成要素について以下に説明する。
【0035】
〔積層構造〕
微多孔膜は、積層体の形態で形成されることができる。積層体は、構成原料、構造、組成などについて同種の複数の層から成るか、又は互いに異なる複数の層から成ることができ、積層体の総厚又はハンドリング性の観点から、好ましくは2層以上10層以下、より好ましくは2層以上7層以下、さらに好ましくは2層又は3層から形成される。
【0036】
モノマー構成単位の50モル%以上がエチレンである樹脂の単層をポリエチレン(PE)層として表し、かつモノマー構成単位の50モル%以上がプロピレンである樹脂の単層をポリプロピレン(PP)層として表した場合には、2層から成る積層構造は、裏面と表面を区別することなく、以下の:
PE層/PE層
PP層/PP層
PE層/PP層
のいずれかであることが好ましく、強度及び高温下での耐破膜性を向上させるという観点から、PE層/PP層がより好ましい。ここでは表示「/」が界面を表す。
【0037】
3層から成る積層構造は、裏面と表面を区別することなく、以下の:
PP層/PE層/PP層
PE層/PP層/PE層
PE層/PE層/PP層
PP層/PP層/PE層
のいずれかであることが好ましく、強度及び高温下での耐破膜性を向上させるという観点から、PP層/PE層/PP層、PE層/PP層/PE層、及びPE層/PE層/PP層がより好ましい。ここでは表示「/」が界面を表す。
【0038】
微多孔膜の積層構造は、ポリオレフィン含有層を少なくとも1つ含む限り、他の層、例えば、ポリオレフィン以外の樹脂層(例えば、アクリル樹脂などの層)、非樹脂層(例えば、無機塗工層など)などを含んでよい。積層構造において、上記で説明された架橋反応機構を有するポリオレフィン含有層と比MD/TDが1.3以上であるポリプロピレン含有層とは、同じでよく、又は相違してよい。
【0039】
〔ポリオレフィン〕
微多孔膜を構成するポリオレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、エチレン若しくはプロピレンのホモ重合体、又はエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及びノルボルネンから成る群より選ばれる少なくとも2つのモノマーから形成される共重合体などが挙げられる。この中でも、湿式又は乾式での多孔化が容易であるという観点から、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリプロピレン、ポリブテン、又はそれらの組み合わせが好ましい。一般に、UHMWPEの重量平均分子量は、1,000,000以上であることが知られている。なお、ポリオレフィンは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0040】
また、ポリオレフィンの重量平均分子量(Mw)は、微多孔膜の熱収縮性及び蓄電デバイスの安全性の観点から、好ましくは10,000~2,000,000であり、より好ましくは20,000~1,500,000であり、さらに好ましくは30,000~1,500,000である。
【0041】
〔ポリエチレン〕
微多孔膜の強度、イオン透過性、耐酸化還元劣化及び緻密で均一な多孔質構造などの観点から、積層構造のうちの少なくとも1つの層は、ポリエチレンを含むことが好ましく、ホモポリエチレンを含むことがより好ましい。
【0042】
微多孔膜の強度、製膜性、生産性及び開孔性の観点から、ポリエチレンのメルトフローレイト(MFR)は、温度190℃及び質量2.16kgの条件下で測定されたときに、好ましくは1.0g/10分未満、より好ましくは0.70g/10分以下、さらに好ましくは0.20g/10分~0.50g/10分である。同様の観点から、ポリエチレンの重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値である分散度(Mw/Mn)は、好ましくは11以下、より好ましくは7~10である。同様の観点から、ポリエチレンの密度は、好ましくは0.91g/cm3以上0.97g/cm3以下、より好ましくは0.92g/cm3以上0.97g/cm3未満である。
【0043】
〔ポリプロピレン〕
微多孔膜の強度、イオン透過性、耐酸化還元劣化及び緻密で均一な多孔質構造などの観点から、積層構造のうちの少なくとも1つの層は、ポリプロピレンを含むことが好ましく、ホモポリプロピレンを含むことがより好ましい。
【0044】
微多孔膜の強度、製膜性、生産性及び開孔性の観点から、ポリプロピレンのMFRは、温度230℃及び質量2.16kgの条件下で測定されたときに、好ましくは2.5g/10分以下、より好ましくは0.25g/10分~1.4g/10分である。同様の観点から、ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値である分散度(Mw/Mn)は、好ましくは10以下、より好ましくは5.2~9.0である。同様の観点から、ポリプロピレンの密度は、好ましくは0.89g/cm3以上、より好ましくは、0.90g/cm3以上かつ0.96g/cm3以下、又は0.90g/cm3以上かつ0.93g/cm3以下である。
【0045】
〔1種又は2種以上の官能基を有するポリオレフィン〕
微多孔膜は、架橋構造の形成、耐酸化還元劣化及び緻密で均一な多孔質構造の観点から、1種又は2種以上の官能基を有するポリオレフィンとして、官能基変性ポリオレフィン、又は官能基を有する単量体を共重合されたポリオレフィンを含むことが好ましい。なお、本明細書では、官能基変性ポリオレフィンとは、ポリオレフィンの製造後に官能基を結合させた物をいう。官能基は、ポリオレフィン骨格に結合するか、又はコモノマーに導入可能なものであり、好ましくは、ポリオレフィン非晶部の選択的な架橋に関与するものであり、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシ基、カルボニル基、重合性不飽和炭化水素基、イソシアネート基、エポキシ基、シラノール基、ヒドラジド基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、アセトアセチル基、アジリジン基、エステル基、活性エステル基、カーボネート基、アジド基、鎖状又は環状ヘテロ原子含有炭化水素基、アミノ基、スルフヒドリル基、金属キレート基、及びハロゲン含有基から成る群から選択される少なくとも1つであることができる。
【0046】
上記で説明された1種又は2種以上の官能基を有するポリオレフィンの含有割合は、1つのポリオレフィン含有層を構成するポリオレフィンの全質量を基準として、好ましくは5質量%~20質量%である。
【0047】
上記で説明された1種又は2種以上の官能基をポリエチレンに組み込む場合には、1種又は2種以上の官能基を有するポリエチレンの含有割合は、1つのポリオレフィン含有層を構成するポリオレフィンの全質量を基準として、好ましくは5質量%~20質量%である。
【0048】
上記で説明された1種又は2種以上の官能基をポリプロピレンに組み込む場合には、1種又は2種以上の官能基を有するポリプロピレンの含有割合は、1つのポリオレフィン含有層を構成するポリオレフィンの全質量を基準として、好ましくは5質量%~20質量%であり、強度と架橋性のバランスの観点からは、1つのポリプロピレン含有層を構成するポリプロピレンの全質量を基準として、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは4~25質量%、さらに好ましくは5~20質量%である。
【0049】
〔架橋反応〕
微多孔膜の架橋構造は、セパレータとして使用されたときのシャットダウン機能と高温耐破膜性の両立及び耐蓄電デバイスの安全性に寄与し、好ましくはポリオレフィンの非晶部に形成される。架橋構造は、例えば、共有結合、水素結合又は配位結合のいずれかを介した反応により形成されることができる。中でも、共有結合を介した反応は、(I)複数の同一官能基の縮合反応であることが好ましい。
【0050】
反応(I)
微多孔膜の第一官能基をAとして、反応(I)の模式的スキーム及び具体例を以下に示す。
【化1】
{式中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基又はヘテロアルキル基である。}
【0051】
反応(I)のための官能基Aがシラノール基である場合には、微多孔膜に含まれるポリオレフィンは、シラングラフト変性されていることが好ましい。シラングラフト変性ポリオレフィンは、主鎖がポリオレフィンであり、その主鎖にアルコキシシリルをグラフトとして有する構造で構成されている。なお、前記アルコキシシリルに置換したアルコキシドは、例えば、メトキシド、エトキシド、ブトキシドなどが挙げられる。例えば、上記式中、Rは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチルなどであることができる。また、主鎖とグラフト間は共有結合で繋いでおり、アルキル、エーテル、グリコール又はエステルなどの構造が挙げられる。本実施形態に係る微多孔膜の製造プロセスを考慮すると、シラングラフト変性ポリオレフィンは、架橋処理工程の前の段階では、炭素に対するケイ素の割合(Si/C)が、0.2~1.8%であることが好ましく、0.5~1.7%であることがより好ましい。
【0052】
上記スキームにおいて、理論に拘束されることを望まないが、アルコキシシラングラフト部は蓄電デバイス内に含まれるわずかな水分(電極、セパレータ、電解液などの部材に含まれる水分)で、シラノールへ変換され、架橋反応し、シロキサン結合へ変化すると推定される。また、電解質又は電解液が電極と接触すると、シラン架橋反応に触媒作用を及ぼす物質が、電解液中又は電極表面に生成し、それらが電解液に溶け込み、シラン変性グラフト部が存在するポリオレフィン中の非晶部へ均一に膨潤、拡散され、セパレータとして使用される微多孔膜の架橋反応を均一に促進することが考えられる。シラン架橋反応に触媒作用を及ぼす物質は、酸溶液又は膜の形態でよく、電解質がヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を含む場合には、LiPF6と水分が反応し、発生したフッ化水素(HF)、又はHFに由来するフッ素含有有機物であることができる。HFは、例えば、蓄電デバイスの充放電サイクルに応じて、蓄電デバイスに含まれる電解質、電解液、電極活物質、添加剤又はそれらの分解物若しくは吸水物のいずれかに由来することができる。
【0053】
(その他の含有物)
微多孔膜は、所望により、ポリオレフィンに加えて、脱水縮合触媒、ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等の公知の添加剤を含んでよい。
【0054】
〔微多孔膜の特性〕
第一及び第二の実施形態に係る蓄電デバイス用微多孔膜が積層構造を有するため、以下の特性値については、積層膜から微多孔膜以外の層を取り外してから測定される場合と、積層膜の状態で測定される場合とがある。
【0055】
微多孔膜の気孔率は、単層膜の状態で測定されたときに、好ましくは20%以上であり、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは39%以上又は42%以上である。微多孔膜の気孔率が20%以上であることにより、リチウムイオン蓄電デバイスのセパレータとして使用されるとき、リチウムイオンの急速な移動に対する追従性がより向上する傾向にある。他方、微多孔膜の気孔率は、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは50%以下である。微多孔膜の気孔率が90%以下であることにより、膜強度がより向上し、自己放電がより抑制される傾向にある。
【0056】
積層構造を有する微多孔膜の透気抵抗度は、積層膜の状態で測定されたときに、膜の体積100ml当たり、好ましくは1秒以上であり、より好ましくは50秒以上であり、さらに好ましくは75秒以上、よりさらに好ましくは、100秒以上又は125秒以上である。微多孔膜の透気抵抗度が1秒以上であることにより、膜厚と気孔率と平均孔径のバランスがより向上する傾向にある。また、積層構造を有する微多孔膜の透気抵抗度は、積層膜の状態で測定されたときに、好ましくは450秒以下であり、より好ましくは、441秒以下、又は422秒以下である。微多孔膜の透気抵抗度が450秒以下であることにより、イオン透過性がより向上する傾向にある。
【0057】
積層構造を有する微多孔膜の引張強度は、積層膜の状態で測定されたときに、上記で説明された配向割合の比MD/TDと関連して、MD(機械方向)について、好ましくは900kg/cm2~3000kg/cm2、より好ましくは1000kg/cm2~2500kg/cm2、さらに好ましくは1210kg/cm2~2050kg/cm2であり、TD(MDと直交する方向、膜幅方向)について、好ましくは100kg/cm2~500kg/cm2、より好ましくは110kg/cm2~250kg/cm2、さらに好ましくは120kg/cm2~200kg/cm2である。
【0058】
積層構造を有する微多孔膜の総厚は、好ましくは1.0μm以上であり、より好ましくは2.0μm以上であり、さらに好ましくは3.0μm以上、4.0μm以上、又は5.5μm以上である。微多孔膜の総厚が1.0μm以上であることにより、膜強度がより向上する傾向にある。また、積層構造を有する微多孔膜の総厚は、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは、50μm以下、25μm以下、20μm以下、又は15μm以下である。微多孔膜の総厚が500μm以下であることにより、イオン透過性がより向上する傾向にある。微多孔膜をリチウムイオン二次電池用セパレータとして使用する場合、積層構造を有する微多孔膜の総厚は、好ましくは1.0μm~25μm、より好ましくは3.0μm~22μm、さらに好ましくは12μm~15μmである。
【0059】
積層構造を有する微多孔膜の突刺強度は、積層膜の状態で測定されたときに、耐破膜性及びデバイス安全性とのバランスを取るという観点から、好ましくは200gf~500gf、より好ましくは205gf~450gf、さらに好ましくは211gf~425gfである。
【0060】
[積層構造を有する微多孔膜の製造方法]
積層構造を有する微多孔膜の製造方法は、例えば、以下の工程:
(ア)ポリオレフィン樹脂組成物の形成工程;
(イ)ポリオレフィン含有層を含む積層体の形成工程;
(ウ)ポリオレフィン成形体の開孔化工程;及び
(エ)開孔化物の熱処理工程;
を含むことができる。
【0061】
工程(ア)において、ポリオレフィン樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂と、その他の材料とを用いて、単軸又は2軸押出機の溶融混練法によって製造されることができる。混練工程において混錬される材料は、その後に行われる開孔化工程(ウ)に応じて、決定されることができる。これは、開孔化工程(ウ)が、既知の乾式法及び/又は湿式法によって行われることができるからである。
【0062】
工程(イ)において、例えば、複数のポリオレフィン含有層の積層体、ポリオレフィン含有層と他の樹脂層との積層体、ポリオレフィン含有層と非樹脂層(例えば、無機塗工層など)との積層体などが形成される。積層方法としては、例えば、複数の樹脂成形体(例えば、樹脂フィルムなど)の結着、複数の樹脂フィルムの貼り合せ、複数の樹脂組成物の共押出などが挙げられる。工程(イ)と(ウ)は、それらの順序は入れ替えることが可能であるか、又は同時に行われることができる。開孔化工程(ウ)を後述される乾式法により行う場合には、本実施形態に係る積層構造を有する微多孔膜の生産性又はハンドリング性の観点から、工程(イ)において積層体を形成してから、工程(ウ)において積層体を開孔させることが好ましい。
【0063】
ポリオレフィン成形体、例えば、フィルム、シート、積層体などは、開孔化工程(ウ)において開孔させられることができる。ポリオレフィン成形体の開孔化法は、既知の乾式法及び/又は湿式法によって行われることができる。
【0064】
乾式法としては、無機粒子などの非相溶性粒子とポリオレフィンを含む未延伸シートを延伸及び抽出に供することにより異種素材界面を剥離させて孔を形成する方法、ラメラ開孔法、β晶開孔法等がある。
【0065】
ラメラ開孔法は、樹脂の溶融押出によるシート化時に溶融結晶化条件を制御することにより結晶ラメラ構造を有する未延伸シートを得て、得られた未延伸シートを延伸することによりラメラ界面を開裂させて孔を形成する方法である。ラメラ開孔法において、例えば、ダイ押出法を使用することができる。ダイ押出法では、例えば、ポリプロピレン樹脂組成物の溶融混練物をTダイから主としてMDに押し出すことにより高結晶性MD配向原反を得ることができる。
【0066】
β晶開孔法は、ポリプロピレン(PP)の溶融押出時に比較的結晶密度の低いβ晶を有する未延伸シートを作製し、作製された未延伸シートを延伸することにより比較的結晶密度の高いα晶に結晶転移させ、両者の結晶密度差により孔を形成する方法である。β晶核剤としては、例えば、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミドなどを使用することができ、好ましくは、β晶核剤と酸化防止剤を併用する。
【0067】
湿式法としては、混錬機を用いて、ポリオレフィンと、所望により他の樹脂と、可塑剤又は無機材とを混錬してシート状に成形し、必要に応じて延伸した後、シートから孔形成材を抽出する方法、ポリオレフィン樹脂組成物の溶解後、ポリオレフィンに対する貧溶媒に浸漬させてポリオレフィンを凝固させると同時に溶剤を除去する方法等を使用することができる。
【0068】
可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、沸点以下の温度でポリオレフィンと均一な溶液を形成し得る有機化合物が挙げられる。より具体的には、デカリン、キシレン、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、デシルアルコール、ノニルアルコール、ジフェニルエーテル、n-デカン、n-ドデカン、パラフィン油等が挙げられる。これらの中でも、パラフィン油、ジオクチルフタレートが好ましい。可塑剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0069】
乾式法と湿式法のいずれを使用するとしても、蓄電デバイスに収納されるときまで微多孔膜の架橋性を維持するという観点から、微多孔膜の製造方法は、潜在的架橋性ポリオレフィンを、架橋剤、その他の反応性化合物、その他の化合物の官能基、架橋促進触媒などと接触させる工程を含まないことが好ましい。また、ポリオレフィン樹脂組成物は、微多孔膜の架橋性を維持する限り、添加剤としては、例えば、フッ素系流動改質材、ワックス類、結晶核材、酸化防止剤、脂肪族カルボン酸金属塩等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等を含むことができる。
【0070】
開孔化物の熱処理工程(エ)は、微多孔膜の収縮を抑制するために、延伸工程後又は孔形成後に熱固定を目的として行われることができる。熱処理としては、物性の調整を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の延伸率で行う延伸操作、及び/又は、延伸応力低減を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の緩和率で行う緩和操作が挙げられる。延伸操作を行った後に緩和操作を行ってもよい。これらの熱処理は、テンター又はロール延伸機を用いて行うことができる。
【0071】
〔蓄電デバイス、及び蓄電デバイス用セパレータ〕
第一及び第二の実施形態に係る微多孔膜は、蓄電デバイスにおいて使用されることができる。一般に、蓄電デバイスは、外装体と、正極と、負極と、正負極間に配置されたセパレータと、電解液とを備える。これらの実施形態に係る微多孔膜が、デバイス外装体に収納されると、微多孔膜の製造プロセス中に形成された官能基変性ポリオレフィン又は官能基グラフト共重合ポリオレフィンと、電解液又は添加剤に含まれる化学物質とが反応し、架橋構造が形成されるため、作製された蓄電デバイスには架橋構造がある。微多孔膜は、蓄電デバイスに収納されるときまで微多孔膜の架橋性を維持し、その後に蓄電デバイスの安全性を向上させるという観点から、セパレータとして正負極間に配置されることが好ましい。微多孔膜がセパレータとして蓄電デバイスに収納されると、架橋構造が形成されるため、従来の蓄電デバイスの製造プロセスに適合しながら、デバイス製造後に架橋反応を起こして蓄電デバイスの安全性を向上させることができる。
【0072】
蓄電デバイスとしては、具体的には、リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ナトリウム二次電池、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウム二次電池、カルシウムイオン二次電池、アルミニウム二次電池、アルミニウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスフロー電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、亜鉛空気電池などが挙げられる。これらの中でも、実用性の観点から、リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、又はリチウムイオンキャパシタが好ましく、リチウム電池又はリチウムイオン二次電池がより好ましい。
【0073】
〔リチウムイオン二次電池〕
リチウムイオン二次電池は、正極として、コバルト酸リチウム、リチウムコバルト複合酸化物等のリチウム遷移金属酸化物、負極として、グラファイト、黒鉛等の炭素材料、そして電解液としてLiPF6等のリチウム塩を含む有機溶媒を使用した蓄電池である。リチウムイオン二次電池の充電・放電の時には、イオン化したリチウムが電極間を往復する。また、電極間の接触を抑制しながら、前記イオン化したリチウムが、電極間の移動を比較的高速に行う必要があるため、電極間にセパレータが配置される。
【実施例】
【0074】
実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、用いた原材料及び微多孔膜の各種特性の評価方法は下記のとおりである。
【0075】
[メルトフローレート(MFR)の測定]
メルトフローレート(MFR)の測定をJIS K 7210に準拠して行って、ポリプロピレン樹脂のMFRを温度230℃及び質量2.16kgの条件下で測定した値として示し、ポリエチレン樹脂のMFRを温度190℃及び質量2.16kgの条件下で測定した値として示した(いずれも単位はg/10分である)。
【0076】
[GPC(ゲルパーミッションクロマトグロフィー)の測定]
アジレント PL-GPC220を用い、標準ポリスチレンを以下の条件で測定して較正曲線を作成した。また、下記各ポリマーについても同様の条件下でクロマトグラフを測定し、作成された較正曲線に基づいて、下記方法により各ポリマーの重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除した値を算出した。
カラム :TSKgel GMHHR-H(20) HT(7.8mmI.D.×30cm) 2本
移動相 :1,2,4-トリクロロベンゼン
検出器 :RI
カラム温度:160℃
試料濃度 :1mg/ml
校正曲線 :ポリスチレン
【0077】
[広角X線散乱の測定]
ポリプロピレン微多孔膜の(110)結晶ピーク面積比(MD/TD)は、透過法広角X線散乱(WAXS)により測定した。WAXS測定は以下の条件で実施した。
装置名:NANOPIX、リガク社
X線波長λ:0.154nm
光学系:ポイントコリメーション
1st slit:0.55mmφ
2nd slit:Open
3rd slit:0.35mmφ
露光時間:900秒
検出器:HyPix-6000(2次元検出器)
カメラ長:85.7mm
試料フィルム1枚に対し、膜法線方向からX線を入射し、透過散乱光を検出した。試料以外からの散乱を極力減らすために、試料からビームストップまでが真空中に設置された真空チャンバーを用いて測定を行った。なお、HyPix-6000は検出器に不感領域が存在するため、検出器を縦方向に移動して2回測定した結果を合わせて不感領域のない2次元データを得た。得られた2次元WAXSパターンに対して透過率補正、及び空セル散乱補正を実施した。次に、円環平均を行うことで散乱データを1次元化し、ポリプロピレンの(110)面由来の結晶ピークの小角側と広角側の裾に相当するブラッグ角θsとθeを決定した。そして、透過率補正、及び空セル散乱補正を実施済みの2次元WAXSパターンに対し、2θs<2θ<2θeの範囲の散乱強度の方位角分布((110)面由来の結晶回折ピーク強度の方位角分布)を計算した。得られた2θs<2θ<2θeの範囲の散乱強度の方位角分布の例を
図3に示す。2θs<2θ<2θeの範囲の散乱強度の方位角分布図には、結晶c軸がMDに配向したc軸配向結晶由来の(110)ピークがTDに、結晶a軸がMDに配向したa軸配向結晶由来の(110)ピークがMD近傍に観測される。c軸配向結晶由来のピークを1つのガウス関数で、a軸配向結晶由来のピークを2つのガウス関数で近似し、ピーク分離を実施した。
図3にその例を示す。ピーク分離にはWaveMetrics社製ソフトウェアIgorPro8ver.8.0.0.10を用いた。こうしたピーク分離により得られたc軸配向結晶(c軸がMDに配向している結晶)由来のピーク面積をS_MD、a軸配向結晶(c軸がTDに近い方向に配向している結晶)由来のピーク面積(2つのガウス関数の面積の和)をS_TDとすると、(110)結晶ピーク面積比(MD/TD)は、S_MD/S_TDで定義される。なお、散乱強度の方位角分布図には、
図3に示したようにc軸配向結晶由来のピークとa軸配向結晶由来のピークが2か所ずつ観測される。そこで、それぞれのピーク面積の平均をS_MD、S_TDとした。
【0078】
[厚み(μm)]
ミツトヨ社製のデジマチックインジケータIDC112を用いて室温23±2℃で多孔性フィルムの厚さを測定した。
[気孔率(%)]
多孔性フィルムから5cm×5cm角のサンプルを切り出し、そのサンプルの体積と質量から下記式を用いて気孔率を算出した。
気孔率(%)=(体積(cm3)-質量(g)/樹脂組成物の密度(g/cm3))/体積(cm3)×100
【0079】
[透気抵抗度(秒/100cc)]
JIS P-8117に準拠したガーレー式透気度計で微多孔膜の透気抵抗度を測定した。
【0080】
[突刺強度]
先端が半径0.5mmの半球状である針を用意し、直径11mmの開口部を有するプレート2つの間に微多孔膜を挟み、針、微多孔膜及びプレートをセットした。株式会社イマダ製MX2-50N(製品名)を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、微多孔膜保持プレートの開口部直径11mm及び突刺速度25mm/分の条件下で突刺試験を行い、針と微多孔膜を接触させ、最大突刺荷重(すなわち、突刺強度(gf))を測定した。
【0081】
[貯蔵弾性率と損失弾性率と転移温度の測定]
動的粘弾性測定装置を用いて架橋前後における微多孔膜の動的粘弾性測定を行い、貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E’’)、及びゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度を算出した。貯蔵弾性率変化比(RE’X)は下記式(I)、混合貯蔵弾性率比(RE’mix)は下記式(II)に従い、損失弾性率比(RE’’X)は下記式(III)に従い、混合損失弾性率比(RE’’mix)は下記式(IV)に従い、それぞれ算出した。なお、測定条件は下記(i)~(iv)のとおりであった。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・雰囲気:窒素
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:5μm~50μmの範囲(サンプルの膜厚によらず1枚で測定を実施する)
・測定温度範囲:-50~300℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.5N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:25mm
・Auto strain adjustment:Enabled(範囲:振幅値0.05~25%、正弦波荷重0.02~5N)
で行なった。
(ii)静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指し、かつ正弦波荷重とは、静的引張荷重を中心とした振動応力を指す。
(iii)正弦波引張モードとは、固定振幅0.2%で周期運動を行いながら振動応力を測定することを指し、その際に、静的引張荷重と正弦波荷重の差が20%以内となるようにギャップ間距離及び静的引張荷重を変動して振動応力を測定した。なお、正弦波荷重が0.02N以下になった場合、正弦波荷重が5N以内かつ振幅値の増加量が25%以内になるように振幅値を増幅させて振動応力を測定した。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値の関係、及び下記式:
σ*=σ0・Exp[i(ωt+δ)]、
ε*=ε0・Exp(iωt)、
σ*=E*・ε*
E*=E’+iE’’
{式中、σ*:振動応力、ε*:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E*:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差}
から貯蔵弾性率及び損失弾性率を算出した。
E’Z及びE’Z0とE’’Z及びE’’Z0は、動的粘弾性測定データ中、160℃~300℃における各貯蔵弾性率又は各損失弾性率の最大値とした。E’及びE’0とE’’及びE’’0は、動的粘弾性測定データ中、160℃~300℃における各貯蔵弾性率又は各損失弾性率の平均値とした。
RE’X=E’Z/E’Z0 (I) セルへの投入の前後の対比
RE’mix=E’/E’0 (II) 非晶部架橋構造の有無の対比
RE’’X=E’’Z/E’’Z0 (III) セルへの投入の前後の対比
RE’’mix=E’’/E’’0 (IV) 非晶部架橋構造の有無の対比
本技術分野では、貯蔵弾性率と損失弾性率は、下記式:
tanδ=E’’/E’
{式中、tanδは、損失正接を表し、E’は、貯蔵弾性率を表し、かつE’’は、損失弾性率を表す。}
に従って互換可能である。
なお、混合貯蔵弾性率比(RE’mix)又は混合損失弾性率比(RE’’mix)の測定では、非晶部架橋構造を有しない蓄電デバイス用セパレータとして、ゲル化度が約0%であるシラン非変性ポリオレフィン製微多孔膜を使用した。
【0082】
[引張試験]
MDおよびTD方向の引張強度は、ASTM-882の手順に従い、Instron Model 4201を使用して測定し、破断強度として求めた。
【0083】
[ヒューズ/メルトダウン(F/MD)特性]
a.正極の作製
正極活物質として92.2質量%のリチウムコバルト複合酸化物LiCoO2、導電材としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量%、及びバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2質量%をN-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗布し、130℃で3分間乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、正極の活物質塗布量は250g/m2、活物質嵩密度は3.00g/cm3になるように調整した。
【0084】
b.負極の作製
負極活物質として人造グラファイト96.9質量%、及びバインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%とスチレン-ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量%を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃で3分間乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、負極の活物質塗布量は106g/m2、活物質嵩密度は1.35g/cm3になるように調整した。
【0085】
c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/Lとなるように溶解させて電解質含有電解液を調製した。
【0086】
d.積層及び測定
直径200mmの円形状になるように、アルミニウム箔の裏に導電性銀ペーストで抵抗測定用電線を接着した正極、セパレータ及び負極を切出し、重ね合わせて積層体を得た。得られた積層体に上記c.の電解質含有電解液を加え、全体に染渡した。直径600mmの円形状アルミヒーターで前記積層体を中心部に挟み、油圧ジャッキでアルミヒーターを上下から0.5Mpaに加圧し、測定の準備を完了とする。昇温速度2℃/min.の条件下、アルミヒーターで前記積層体を加熱しながら、電極間の抵抗(Ω)を測定する。セパレータのヒューズともに電極間の抵抗が上昇し、抵抗が初めて1000Ωを超えた時の温度をヒューズ温度(シャットダウン温度)とする。また、さらに加熱を続け、抵抗が1000Ω以下に下がる時の温度をメルトダウン温度(破膜温度)とする。
【0087】
[熱収縮率]
熱収縮率の測定では、架橋後の微多孔膜を5cm角に切り出し、2cm間隔で9か所にマーキングし、用紙で包んだ。マーキングされた試料を130℃で1時間熱処理し、次いで室温まで冷却した後に、MD方向の長さを各3か所で測定し、収縮率を求めた。
【0088】
<シラングラフト変性ポリオレフィンの製法>
シラングラフト変性ポリオレフィンに用いる原料ポリオレフィンは、粘度平均分子量(Mv)が10万以上かつ100万以下で、重量平均分子量(Mw)が3万以上かつ92万以下、数平均分子量(Mn)が1万以上かつ15万以下のポリエチレン又はポリプロピレンである。原料ポリオレフィンを押出機で溶融混練しながら、有機過酸化物(ジ-t-ブチルパーオキサイド)を添加し、ポリマー鎖内でラジカルを発生させた後、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを注液し、付加反応により、アルコキシシリル基を導入し、シラングラフト構造を形成させる。また、同時に系中のラジカル濃度を調整するために、酸化防止剤(ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート])を適量添加し、αオレフィン内の鎖状連鎖反応(ゲル化)を抑制する。得られたシラングラフトポリオレフィン溶融樹脂を水中で冷却し、ペレット加工を行った後、80℃で2日加熱乾燥し、水分又は未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを除く。なお、未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランのペレット中の残留濃度は、約1000ppm~約1500ppmである。
上記の製法により得られたシラングラフト変性ポリオレフィンを以降の実施例及び表2又は3において「シラン変性ポリエチレン(PE)」又は「シラン変性ポリプロピレン(PP)」として示す。
【0089】
[実施例1]
<微多孔膜の作製>
高分子量のポリエチレン樹脂(PE、MFR=0.2、密度=0.96g/cm3)と上記シラン変性ポリエチレンをPE:シラン変性ポリエチレン=80:20(質量%)の質量比率でドライブレンドした後に、2.5インチの押出機で溶融し、Tダイへとギアポンプを使って供給した。ダイの温度は210℃に設定され、かつ溶融したポリマーは、吹込空気によって冷却された後、ロールに巻き取った。
同様にして、ポリプロピレン樹脂(PP、MFR=0.83、密度=0.91g/cm3)を2.5インチの押出機で溶融し、Tダイへとギアポンプを使って供給した。ダイの温度は230℃に設定され、かつ溶融したポリマーは、吹込空気によって冷却された後、ロールに巻き取った。
ロールに巻き取られたPP及びPE前駆体(原反フィルム)は、それぞれ5μmの厚さを有した。次いで、PP及びPE前駆体をPP/PE/PPとなるように結着し、PP/PE/PP3層構造を有する原反フィルムを得た。この3層構造を有する原反フィルムを125℃で20分間アニールした。次いで、アニールされたフィルムは、室温で12%までMD方向に冷間延伸され、次いで115℃で158%までMD方向に熱間延伸され、125℃で113%まで緩和することにより、微多孔膜を形成した。上記延伸開孔の後、微多孔膜の物性測定を行った。微多孔膜のMFRは、PPとPEを延伸した後に剥がし、それぞれの層で測定した。結果を表2に示す。
【0090】
[実施例2~9]
表2に示されるとおりに原料を変更させたこと以外は実施例1と同じ方法に従って微多孔膜を得て、得られた微多孔膜を評価した。
【0091】
[実施例10]
<微多孔膜の作製>
高分子量のポリエチレン樹脂(PE、MFR=0.38、密度=0.96g/cm3)と上記シラン変性ポリエチレンをPE:シラン変性ポリエチレン=80:20(質量%)の質量比率でドライブレンドした後に、2.5インチの押出機で溶融し、さらに、ポリプロピレン樹脂(PP、MFR=0.83、密度=0.91g/cm3)を2.5インチの押出機で溶融し、Tダイへとギアポンプを使って供給した。ダイの温度は230℃に設定され、かつ溶融したポリマーは、PP/PE/PPとなるように押し出し、吹込空気によって冷却された後、ロールに巻き取った。このようにして、15μmの厚さで、3層構造を有するPP/PE/PP前駆体(原反フィルム)を得た。この原反フィルムを125℃で20分間アニールした。次いで、アニールされたフィルムは、室温で12%までMD方向に冷間延伸され、次いで115℃で158%までMD方向に熱間延伸され、125℃で113%まで緩和することにより、微多孔膜を形成した。上記延伸開孔の後、微多孔膜の物性測定を行った。微多孔膜のMFRは、PPとPEを延伸した後に剥がし、それぞれの層で測定した。結果を表2に示す。
【0092】
[実施例11]
PE/PP/PEとなるように押し出したこと以外は実施例10と同じ方法に従って微多孔膜を得て、得られた微多孔膜を評価した。
【0093】
[実施例12]
PE/PE/PPとなるように押し出し、2層構造の原反フィルムを作製したこと以外は実施例10と同じ方法に従って微多孔膜を得て、得られた微多孔膜を評価した。
【0094】
[実施例13]
高分子量のポリエチレン樹脂(PE、MFR=0.38、密度=0.96g/cm3)を2.5インチの押出機で溶融し、Tダイへとギアポンプを使って供給した。ダイの温度は210℃に設定され、かつ溶融したポリマーは、吹込空気によって冷却された後、ロールに巻き取った。
同様にして、ポリプロピレン樹脂(PP、MFR=0.83、密度=0.91g/cm3)と上記シラン変性ポリプロピレンをPP:シラン変性ポリプロピレン=80:20(質量%)の質量比率でドライブレンドした後に、2.5インチの押出機で溶融し、Tダイへとギアポンプを使って供給した。ダイの温度は230℃に設定され、かつ溶融したポリマーは、吹込空気によって冷却された後、ロールに巻き取った。
ロールに巻き取られたPPおよびPE前駆体(原反フィルム)は、それぞれ5μmの厚さを有した。次いで、PP及びPE前駆体をPP/PE/PPとなるように結着し、PP/PE/PP3層構造を有する原反フィルムを得た。この3層構造を有する原反フィルムは125℃で20分間アニールした。次いで、アニールされたフィルムは、室温で12%までMD方向に冷間延伸され、次いで115℃で158%までMD方向に熱間延伸され、125℃で113%まで緩和することにより、微多孔膜を形成した。上記延伸開孔の後、微多孔膜の物性測定を行った。微多孔膜のMFRは、PPとPEを延伸した後に剥がし、それぞれの層で測定した。結果を表3に示す。
【0095】
[実施例14~20]
表3に示されるとおりに原料を変更させたこと以外は実施例13と同じ方法に従って微多孔膜を得て、得られた微多孔膜を評価した。
【0096】
[実施例21]
PE/PP/PEとなるように結着したこと以外は実施例13と同じ方法に従って微多孔膜を得て、得られた微多孔膜を評価した。
【0097】
[比較例1~3]
シラン変性ポリオレフィンを使用せず、表4に示されるとおりに原料を変更したこと以外は実施例1と同じ方法に従って微多孔膜を得て、得られた微多孔膜を評価した。
【0098】
[比較例4]
シラン変性ポリオレフィンを使用せず、表4に示されるとおりに原料を変更したこと以外は実施例10と同じ方法に従って微多孔膜を得て、得られた微多孔膜を評価した。
【0099】
【0100】
【0101】