(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16D 25/12 20060101AFI20240329BHJP
F16J 15/16 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
F16D25/12 B
F16J15/16 A
(21)【出願番号】P 2020072262
(22)【出願日】2020-04-14
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100217102
【氏名又は名称】冨永 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】栗山 秀樹
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-140935(JP,A)
【文献】特開2019-203576(JP,A)
【文献】特開平09-303423(JP,A)
【文献】特開2016-120476(JP,A)
【文献】特開平06-033935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/0638
F16D 25/12
F16J 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に配置され、前記ハウジングとともにピストン圧力室を形成する環状のピストンプレートと、
前記ピストンプレートの中心軸に沿って延びる内周面上に配置された弾性部材からなるシート体と、
前記ピストンプレートとともにキャンセラ油圧室を形成し、前記ピストンプレートの中心軸に沿って往復運動する環状のキャンセラープレートと、
前記キャンセラ油圧室内に設けられ、前記ピストンプレートを前記キャンセラープレートから離れるように付勢する付勢部材と、を備え、
前記キャンセラープレートは、外周端面において曲面を有し、
前記キャンセラープレートの外周端部は、その延びる方向が前記ピストンプレート側に傾斜しており、
前記キャンセラープレートの前記外周端面が前記シート体と接触し、前記キャンセラープレートが前記シート体と密封摺動する、密封装置。
【請求項2】
前記シート体の表面は、粗面状である、請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記キャンセラープレートは、金属製である、請求項1または2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記キャンセラープレートの外周端面には、表面コート層が設けられている、請求項1~3のいずれか一項に記載の密封装置。
【請求項5】
前記キャンセラープレートの外周端面の形状は、前記キャンセラープレートの厚さ方向の断面において、円弧状、半楕円形状、または、直線と当該直線の両端に円弧が連なる形状である、請求項1~4のいずれか一項に記載の密封装置。
【請求項6】
自動変速機のクラッチ切替え部に用いられる、請求項1~
5のいずれか一項に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関する。更に詳しくは、自動車等の自動変速機に用いられる密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、自動車等用の自動変速機には、回転トルクの伝達をON・OFFすべくクラッチの断続を切り替えるため、油圧作動式のピストン機構が設けられている。そして、このピストン機構には、ピストン(ピストンプレート)とキャンセラー(キャンセラープレート)が使用されており、ピストンが供給油圧により軸方向に作動し、クラッチ押し面がクラッチ板を締結・解放することで変速を行っている。
【0003】
このキャンセラーは、ピストン-キャンセラー間に油室を設け、Assy高回転時に油室に発生する遠心油圧を相殺させる目的で設置されている。
【0004】
そして、キャンセラーには、油室内の油を密封するためにリップが焼付けられており、このキャンセラーのリップがピストンと摺動しながら油を密封する構造の密封装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この密封装置は、更に小型にするという要望があり、この点において特許文献1に記載の密封装置は、未だ改良の余地があった。
【0007】
ここで、特許文献1に記載の密封装置や
図7に示す従来の密封装置200を更に小型化する場合、単に厚さを薄くしてピストンの摺動幅H(
図7参照)を小さくすると、ピストンプレート11とキャンセラープレート12が摺動した際に、キャンセラープレート12のキャンセラーリップ30がピストンプレート11の内周面25におけるR面(湾曲面)29に接触してしまい、即ち、キャンセラープレート12のキャンセラーリップ30がR面29と干渉してしまい、ピストンプレート11がクラッチ面に締結できない可能性、及びキャンセラーリップ30が破損する可能性がある。なお、キャンセラープレート12のキャンセラーリップ30は、耐圧性を確保するため、その先端がキャンセラープレート12よりもキャンセラ油圧室23側に配置するように設計されている。
【0008】
そこで、ピストンプレート11の摺動幅Hを確保するため、ピストンプレート11の内周面25におけるR面29の曲率半径を小さくすることが考えられる。しかしながら、この場合には、油圧印加時にピストンプレート11の内周面25のR面29に発生する応力が大きくなる傾向があり、油から受ける高圧に耐えるための耐圧性能が低下する傾向がある。
【0009】
また、従来の密封装置200のようにキャンセラープレート12にキャンセラーリップ30を有すると、キャンセラープレート12の装着時にキャンセラーリップ30のめくれが生じてしまいキャンセラープレート12の装着に手間がかかる傾向があった。
【0010】
このようなことから、耐圧性能を維持しつつ(即ち、ピストンプレートの内周面のR面の曲率半径を小さくすることなく)、遠心油圧を相殺することができ、キャンセラープレートの装着に手間が掛からず、更に小型な密封装置の開発が望まれていた。
【0011】
本発明は、このような従来技術に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、耐圧性能を維持しつつ、遠心油圧を相殺することができ、キャンセラープレートの装着に手間が掛からず、更に小型な密封装置の開発を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、以下に示す、密封装置が提供される。
【0013】
[1] ハウジング内に配置され、前記ハウジングとともにピストン圧力室を形成する環状のピストンプレートと、
前記ピストンプレートの中心軸に沿って延びる内周面上に配置された弾性部材からなるシート体と、
前記ピストンプレートとともにキャンセラ油圧室を形成し、前記ピストンプレートの中心軸に沿って往復運動する環状のキャンセラープレートと、
前記キャンセラ油圧室内に設けられ、前記ピストンプレートを前記キャンセラープレートから離れるように付勢する付勢部材と、を備え、
前記キャンセラープレートは、外周端面において曲面を有し、
前記キャンセラープレートの外周端部は、その延びる方向が前記ピストンプレート側に傾斜しており、
前記キャンセラープレートの前記外周端面が前記シート体と接触し、前記キャンセラープレートが前記シート体と密封摺動する、密封装置。
【0014】
[2] 前記シート体の表面は、粗面状である、前記[1]に記載の密封装置。
【0015】
[3] 前記キャンセラープレートは、金属製である、前記[1]または[2]に記載の密封装置。
【0016】
[4] 前記キャンセラープレートの外周端面には、表面コート層が設けられている、前記[1]~[3]のいずれかに記載の密封装置。
【0017】
[5] 前記キャンセラープレートの外周端面の形状は、前記キャンセラープレートの厚さ方向の断面において、円弧状、半楕円形状、または、直線と当該直線の両端に円弧が連なる形状である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の密封装置。
【0019】
[6] 自動変速機のクラッチ切替え部に用いられる、前記[1]~[5]のいずれかに記載の密封装置。
【0020】
本発明の密封装置は、耐圧性能を維持しつつ、遠心油圧を相殺することができ、キャンセラープレートの装着に手間が掛からず、更に小型であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の密封装置の一の実施形態を模式的に示す平面図である。
【
図2】
図1におけるA-A断面を矢印の方向に見た状態を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明の密封装置の一の実施形態におけるキャンセラープレートの外周端部を拡大して模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明の密封装置の他の実施形態における
図2に対応する状態を模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明の密封装置の更に他の実施形態におけるキャンセラープレートの外周端部を拡大して模式的に示す断面図である。
【
図6】本発明の密封装置の更に他の実施形態におけるキャンセラープレートの外周端部を拡大して模式的に示す断面図である。
【
図7】従来の密封装置について
図2に対応する状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0023】
(1)密封装置:
本発明の密封装置の一の実施形態は、
図1、
図2に示す密封装置100である。この密封装置100は、ハウジング20内に配置され、ハウジング20とともにピストン圧力室21を形成する環状のピストンプレート11と、このピストンプレート11の中心軸に沿って延びる内周面25上に配置された弾性部材からなるシート体10を有している。そして、密封装置100は、ピストンプレート11とともにキャンセラ油圧室23を形成し、ピストンプレート11の中心軸に沿って往復運動する環状のキャンセラープレート12を有している。更に、密封装置100は、キャンセラ油圧室23内に設けられ、ピストンプレート11をキャンセラープレート12から離れるように付勢する付勢部材15を有している。そして、密封装置100におけるキャンセラープレート12は、外周端面27において曲面を有し、キャンセラープレート12の外周端面27がシート体10と接触し、キャンセラープレート12がシート体10と密封摺動するものである。なお、
図1は、ハウジング20を省略して密封装置100を示している。
【0024】
密封装置100は、従来公知の密封装置が有しているキャンセラーリップ30を設けないもの(キャンセラーリップ30の焼付けを行わないもの)であり、一方で、ピストンプレート11の所定の位置に弾性部材からなるシート体10を設け、更に、このシート体10に密封摺動するキャンセラープレート12の外周端面27について曲面を有する面としたものである。このような構成を採用することによって、耐圧性能を維持しつつ、遠心油圧を相殺することができ、キャンセラープレートの装着に手間が掛からず、従来の密封装置に比べて更に小型なものである。
【0025】
密封装置100は、例えば、自動変速機のクラッチ切替え部に用いられ、クラッチを作動させる油圧アクチュエータなどの密封装置として使用することができる。
【0026】
(1-1)ピストンプレート:
ピストンプレート11は、ハウジング20内に配置され、このハウジング20とともにピストン圧力室21を形成する環状のものである。このピストンプレート11は、従来公知のものを適宜採用することができ、例えば、鋼板などの金属製とすることができ、金属板の打ち抜きプレス成形等によって作製することができる。
【0027】
このピストンプレート11は、具体的には、
図2に示すように、内周鍔部31と、その外周からピストン圧力室21側へ延びる内筒部32と、ピストン圧力室21側の端部から径方向へ展開した受圧盤部33と、この受圧盤部33の外周からピストン圧力室21と反対側へ延びる外筒部34と、この外筒部34の先端に屈曲形成されたクラッチ押圧部35からなるものを挙げることができる。なお、ピストンプレート11は、その中央部に貫通孔11aが形成されている。
【0028】
ピストンプレート11は、その内周鍔部31には、ハウジング20の内周筒部41の表面と摺動可能に密接されたゴム状弾性材料からなる環状の内周シールリップ37が配置されている。更に、ピストンプレート11の受圧盤部33の外周部には、ハウジング20の外周筒部42の表面と摺動可能に密接されたゴム状弾性材料からなる環状の外周シールリップ38が配置されている。なお、ハウジング20の内周筒部41には、ピストン圧力室21に油圧を導入するための油通路41aが形成されている。
【0029】
ピストンプレート11は、外筒部34の根元部分、即ち、受圧盤部33と外筒部34との交差部分の内側表面に曲面(R面29)が形成されている。即ち、ピストンプレート11は、その中央部に凹部が形成されており、この凹部の外周側の角部にR面が形成されている。このR面を設けることによって、ピストン圧力室21内が高圧になった際にもピストンプレート11がその高圧の状態に耐えることができ、破損し難くなる。このR面の曲率半径は、従来公知の範囲とすることができる。
【0030】
(1-2)シート体:
シート体10は、ピストンプレート11の中心軸に沿って延びる内周面25(外筒部34の内側表面)上に配置された弾性部材からなるものである。このシート体10は、ピストンプレート11の内周面25の全体に連続して配置されていることができる。
【0031】
シート体10は、キャンセラープレート12の摺動領域よりも広い範囲で形成することができる。
【0032】
なお、シート体10は、外筒部34の内側表面(即ち、ピストンプレート11の中心軸に沿って延びる内周面25上)のみに設けることに限らず、
図2に示すように、外筒部34とクラッチ押圧部35とが交差するR形状の角部にも連続して形成されていてもよい。このようにすると、キャンセラープレート12をピストンプレート11に装着する際において、キャンセラープレート12がシート体10に接触してシート体10が捲れてしまうことを防止することができる。なお、シート体10は、クラッチ押圧部35上には配置しないことがよい。クラッチ押圧部35の平面部でクラッチ板を押すので、弾性部材からなるシート体10が当該平面部に配置されると、クラッチ板を押す操作に影響を与えるおそれがあるためである。
【0033】
シート体10の表面は、粗面状であること、別言すれば、シート体10の表面には梨地処理がなされていることでもよい。このように粗面状であると、軸方向の摺動抵抗を低減させることができる。
【0034】
シート体10の表面が粗面状である場合、その表面粗さについては特に制限はなく適宜決定することができる。なお、梨地処理は、従来公知の方法を適宜採用することができる。
【0035】
シート体10の材質は、弾性部材からなるものである限り特に制限はなく、具体的には、ゴム、弾性プラスチックなどを挙げることができる。
【0036】
シート体10の厚さは、特に制限はなく、適宜設定することができ、キャンセラープレート12との関係で締め代による変形をして追随できる厚みとすることができる。
【0037】
(1-3)キャンセラープレート:
キャンセラープレート12は、ピストンプレート11とともにキャンセラ油圧室23を形成し、ピストンプレート11の中心軸に沿って往復運動する環状のものである。この往復運動する際に、キャンセラープレート12の外周端面27がシート体10と接触し、キャンセラープレート12がシート体10と密封摺動することになる。
【0038】
このようなキャンセラープレート12は、その外周部にキャンセラーリップ30(
図7参照)を設けないこと、及び、その外周端面27を上記のように所定の状態とすること以外は、従来公知のものを適宜採用することができ、例えば、鋼板などの金属製とすることができ、金属板の打ち抜きプレス成形等によって作製することができる。キャンセラープレート12は、その中央部に貫通孔12aが形成されており、外周部には外環部12bを有している。
【0039】
キャンセラープレート12は、外周端面27において曲面を有している。この外周端面27の形状は、曲面を有する限り特に制限はなく、例えば、キャンセラープレート12の厚さ方向の断面における形状が、半円状などの円弧状、半楕円形状、直線と当該直線の両端に円弧が連なる形状(以下、「両端円弧形状」と記す場合がある)(
図3参照)などとなるようにすることができる。上記両端円弧形状の外周端面27を有するキャンセラープレート12は、円盤状であるキャンセラープレート12の角部が面取りされ、この角部に曲面を有するものである。
【0040】
図5は、キャンセラープレート12の厚さ方向の断面における外周端部17を拡大して示しており、キャンセラープレート12の外周端面27が、キャンセラープレート12の厚さ方向の断面において円弧状である例を示している。
図6は、キャンセラープレート12の厚さ方向の断面における外周端部17を拡大して示しており、キャンセラープレート12の外周端面27が、キャンセラープレート12の厚さ方向の断面において半楕円状である例を示している。なお、
図2に示すキャンセラープレート12は、その外周端面27の形状が、キャンセラープレート12の厚さ方向の断面において上記両端円弧形状である例を示し、
図3は、
図2のキャンセラープレート12の外周端部17を拡大して示している。
【0041】
「外周端面」は、キャンセラープレートの厚さ方向に延びる面であり、キャンセラープレートの外環部における厚さが薄くなり始めの位置K(
図3,
図5参照)を両端(上端辺及び下端辺)とする面である。
【0042】
キャンセラープレート12の外周端部17は、
図4に示すように、その延びる方向がピストンプレート11側に傾斜してい
る。このような構成とすると、キャンセラ油圧室23がより高圧になったとしても密封状態が維持されることになる。
【0043】
キャンセラープレート12の外周端部17が傾斜する場合、その傾斜角度は特に制限はなく適宜設定することができる。
【0044】
キャンセラープレート12の外周端面27は、単に金属加工面としてもよいが、外周端面27には、この外周端面27を被覆するように表面コート層が設けられていてもよい。この表面コート層は、外周端面27を低摩擦状態とするものである。表面コート層の材料としては、外周端面27を低摩擦状態とすることができる限り特に制限はなく、従来公知のものを適宜採用することができる。
【0045】
また、表面コート層を設けるのではなく、梨地処理を行ってもよい。
【0046】
キャンセラープレート12の厚さは、特に制限はなく従来公知の厚さとすることができるが、外周端部17の厚さは、キャンセラ油圧室23内の圧力に耐えることができるように設定すればよく、従来の密封装置のキャンセラープレートの外周端部の厚さよりも薄くすることができる。
【0047】
(1-4)付勢部材:
付勢部材15は、キャンセラ油圧室23内に設けられ、ピストンプレート11をキャンセラープレート12から離れるように付勢するものである。この付勢部材15としては、従来公知のものを適宜採用することができ、例えば、スプリングなどを挙げることができる。
【0048】
付勢部材15は、その反発力によってピストンプレート11がピストン圧力室21の容積を縮小させるように移動する。
【0049】
(2)密封装置の使用方法:
本発明の密封装置の使用方法について、密封装置100に基づいて以下に説明する。まず、この密封装置100は、車両の自動変速機のクラッチを作動させる油圧アクチュエータとして車両に配置して使用することができる。そして、この密封装置100は、ピストン圧力室21への自動変速機用潤滑油(ATF(オートマチックトランスミッションフルード))による油圧の印加及びこの油圧の解放によって、ピストンプレート11がその軸方向に変位し、クラッチを接続動作または遮断動作させるものである。
【0050】
より具体的には、油通路41aを介して供給されるATFの油圧でピストン圧力室21が加圧されると、ピストンプレート11が付勢部材15を圧縮しながらキャンセラープレート12側に変位する。その際、ピストンプレート11のクラッチ押圧部35がドライブプレート(不図示)を押圧して、ドライブプレートをドリブンプレート(不図示)と摩擦係合させる。このような状態となることで、クラッチが接続状態となる。
【0051】
そして、このクラッチの接続状態において、ピストン圧力室21の油圧を解放すると、圧縮された付勢部材15の反発力によって、ピストンプレート11は、ピストン圧力室21の容積を縮小させるように変位する。これによって、クラッチ押圧部35がドライブプレートから離れ、ピストンプレート11によるクラッチへの押圧が解除され、クラッチの遮断動作がなされる。
【0052】
ここで、ピストンプレート11及びキャンセラープレート12は、駆動軸と共に回転しており、ピストン圧力室21内に導入されたATFは遠心力によって外周側へ押し付けられる。したがって、ピストン圧力室21内には、遠心油圧が発生し、この遠心油圧は、付勢部材15によるピストンプレート11の復帰動作を妨げるように作用する。
【0053】
このとき、ピストンプレート11とキャンセラープレート12の間のキャンセラ油圧室23に、油通路(油通路41aとは異なる流路)を介して導入されたATFにも同様に遠心油圧が発生している。そして、キャンセラ油圧室23内の遠心油圧と、ピストン圧力室21内の遠心油圧とは、ほぼ均衡する。そのため、ピストン圧力室21への油圧の印加を解放したときに、ピストン圧力室21内の遠心油圧によるピストンプレート11の復帰動作が妨げられることを回避でき、付勢部材15によるピストンプレート11の復帰動作(即ち、クラッチの切断)が円滑に行われる。
【0054】
キャンセラープレート12は、その外周端面27がピストンプレート11(シート体10とも言える)と接触しており、クラッチの接続動作及び遮断動作によって、その軸方向に変位し、更に、キャンセラ油圧室23内に導入されたATFの密封状態を維持することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
(
参考例1)
図1に示すような円盤状の密封装置を作製した。この密封装置は、ピストンプレートの中心軸に沿って延びる内周面上に配置された弾性部材からなるシート体を有し、キャンセラープレートは、外周端部の角部にR形状の曲面(
図3参照)を有していた。即ち、キャンセラープレートの外周端面は、当該キャンセラープレートの厚さ方向の断面における形状が、
図3に示すような両端円弧形状であった。そして、この密封装置は、キャンセラープレートの外周端面がシート体と接触し、キャンセラープレートがシート体と密封摺動するものであった。
【0057】
この密封装置は、上記のような構成を採用したことによって更なる小型化が達成されていた。また、高い油圧にも耐える構造であった。更に、キャンセラープレートには、リップが形成されていないのでその装着に手間がかからず容易であった。
【0058】
更に、
図3に示すように角部にR形状の曲面を追加することにより、摺動抵抗を低減することができる。また、組付性の向上(具体的には、ピストンプレートにキャンセラープレートを入れるときのゴム剥がれ(シート体が剥がれること)の防止、組付け荷重の低下)にも寄与する。
【0059】
(実施例2)
外周端部の延びる方向がピストンプレート側に傾斜しているキャンセラープレートを有すること以外は、参考例1と同様の密封装置を作製した。この密封装置は、参考例1の密封装置と同様に、更なる小型化が達成されていた。また、特に高い油圧にも耐える構造であった。更に、キャンセラープレートには、リップが形成されていないのでその装着に手間がかからず容易であった。
【0060】
(
参考例3)
キャンセラープレートの厚さ方向の断面において、キャンセラープレートの外周端面の形状が、
図5に示すような円弧状であること以外は、
参考例1と同様の密封装置を作製した。この密封装置は、
参考例1の密封装置と同様に、更なる小型化が達成されていた。また、特に高い油圧にも耐える構造であった。更に、キャンセラープレートには、リップが形成されていないのでその装着に手間がかからず容易であった。
【0061】
更に、
図5に示すように外周端面全体を曲面にすることで、
参考例1の密封装置に比べてキャンセラープレートとシート体とが接する部分の面積が減り、摺動抵抗をより低減させることができる。
【0062】
(
参考例4)
キャンセラープレートの厚さ方向の断面において、キャンセラープレートの外周端面の形状が、
図6に示すような半楕円形状であること以外は、
参考例1と同様の密封装置を作製した。この密封装置は、
参考例1の密封装置と同様に、更なる小型化が達成されていた。また、特に高い油圧にも耐える構造であった。更に、キャンセラープレートには、リップが形成されていないのでその装着に手間がかからず容易であった。
【0063】
更に、
図6に示すように外周端面を半楕円形状にすることによりに、
参考例1に比べてキャンセラープレート(特にその外周端部)の占有する体積が減るため、更なる省ペース化及び軽量化の達成に寄与する。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の密封装置は、例えば自動変速機のクラッチ切替え部に用いられる密封装置として採用することができる。
【符号の説明】
【0065】
10:シート体、11:ピストンプレート、11a,12a:貫通孔、12b:外環部、12:キャンセラープレート、15:付勢部材、17:外周端部、20:ハウジング、21:ピストン圧力室、23:キャンセラ油圧室、25:内周面、27:外周端面、29:R面、30:キャンセラーリップ、31:内周鍔部、32:内筒部、33:受圧盤部、34:外筒部、35:クラッチ押圧部、37:内周シールリップ、38:外周シールリップ、41:内周筒部、41a:油通路、42:外周筒部、100,101,200:密封装置、H:摺動幅。