(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】車輪径算出システム、車輪径算出方法、情報処理装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01B 21/12 20060101AFI20240329BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20240329BHJP
B61K 9/12 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
G01B21/12
B60L3/00 B
B61K9/12
(21)【出願番号】P 2020103461
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125645
【氏名又は名称】是枝 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100145609
【氏名又は名称】楠屋 宏行
(74)【代理人】
【識別番号】100149490
【氏名又は名称】羽柴 拓司
(72)【発明者】
【氏名】中岡 輝久
(72)【発明者】
【氏名】三津江 雅之
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-174772(JP,A)
【文献】特開平04-031712(JP,A)
【文献】特開平08-065803(JP,A)
【文献】特開昭57-120806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/00-21/32
B60L 3/00
B61K 9/12
G01C 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車輪の回転に応じたパルス信号を発生するパルス発生器と、
前記鉄道車両が少なくとも2つの駅の駅間を走行して得られた前記パルス信号及び前記車輪の仮の車輪径に基づいて、当該駅間の仮の駅間距離を算出する距離算出部と、
前記仮の駅間距離及び基準駅間距離の比率を算出する比率算出部と、
前記仮の車輪径を前記比率に応じて補正することで、前記車輪の車輪径を算出する車輪径算出部と、
を備え
、
前記距離算出部は、3以上の駅の駅間について複数の前記仮の駅間距離を算出し、
前記比率算出部は、複数の前記仮の駅間距離にそれぞれ対応する複数の前記比率を算出し、
前記比率算出部は、複数の前記比率に基づいて代表の比率を決定し、
前記車輪径算出部は、前記仮の車輪径を前記代表の比率に応じて補正する、
車輪径算出システム。
【請求項2】
鉄道車両の車輪の回転に応じたパルス信号を発生するパルス発生器と、
前記鉄道車両が少なくとも2つの駅の駅間を走行して得られた前記パルス信号及び前記車輪の仮の車輪径に基づいて、当該駅間の仮の駅間距離を算出する距離算出部と、
前記仮の駅間距離及び基準駅間距離の比率を算出する比率算出部と、
前記仮の車輪径を前記比率に応じて補正することで、前記車輪の車輪径を算出する車輪径算出部と、
を備え
、
前記距離算出部は、3以上の駅の駅間について複数の前記仮の駅間距離を算出し、
前記比率算出部は、複数の前記仮の駅間距離にそれぞれ対応する複数の前記比率を算出し、
前記距離算出部は、前記パルス信号及び前記仮の車輪径に基づいて発車から停車までの仮の走行距離を算出するとともに、駅間と駅間距離とを互いに関連付けたデータベースを参照して前記仮の走行距離に対応する駅間を特定することで、前記仮の駅間距離を算出し、
前記距離算出部は、前記仮の走行距離の出現パターンを、前記データベースで駅間に関連付けられた距離の出現パターンと比較することで、前記仮の走行距離に対応する駅間を特定する、
車輪径算出システム。
【請求項3】
鉄道車両の車輪の回転に応じたパルス信号を発生するパルス発生器と、
前記鉄道車両が少なくとも2つの駅の駅間を走行して得られた前記パルス信号及び前記車輪の仮の車輪径に基づいて、当該駅間の仮の駅間距離を算出する距離算出部と、
前記仮の駅間距離及び基準駅間距離の比率を算出する比率算出部と、
前記仮の車輪径を前記比率に応じて補正することで、前記車輪の車輪径を算出する車輪径算出部と、
を備え
、
前記距離算出部は、3以上の駅の駅間について複数の前記仮の駅間距離を算出し、
前記比率算出部は、複数の前記仮の駅間距離にそれぞれ対応する複数の前記比率を算出し、
前記距離算出部は、時点毎に前記鉄道車両が前記3以上の駅の駅間を走行して得られた前記パルス信号に基づいて算出される時点毎の複数の前記仮の駅間距離から、前記3以上の駅の駅間のそれぞれについて時系列の仮の駅間距離を選出する、
車輪径算出システム。
【請求項4】
鉄道車両の車輪の回転に応じたパルス信号を発生するパルス発生器と、
前記鉄道車両が少なくとも2つの駅の駅間を走行して得られた前記パルス信号及び前記車輪の仮の車輪径に基づいて、当該駅間の仮の駅間距離を算出する距離算出部と、
前記仮の駅間距離及び基準駅間距離の比率を算出する比率算出部と、
前記仮の車輪径を前記比率に応じて補正することで、前記車輪の車輪径を算出する車輪径算出部と、
を備え
、
前記距離算出部は、前記車輪の車輪径が対応付けられた時点に前記2つの駅間を前記鉄道車両が走行して得られた前記パルス信号及び当該車輪径に基づいて、前記基準駅間距離も算出する、
車輪径算出システム。
【請求項5】
鉄道車両の車輪の回転に応じたパルス信号を発生するパルス発生器と、
前記鉄道車両が少なくとも2つの駅の駅間を走行して得られた前記パルス信号及び前記車輪の仮の車輪径に基づいて、当該駅間の仮の駅間距離を算出する距離算出部と、
前記仮の駅間距離及び基準駅間距離の比率を算出する比率算出部と、
前記仮の車輪径を前記比率に応じて補正することで、前記車輪の車輪径を算出する車輪径算出部と、
を備え
、
前記基準駅間距離は、前記車輪径が既知である第1時点に得られた前記パルス信号に基づき算出され、
前記仮の駅間距離は、前記第1時点よりも後の第2時点に得られた前記パルス信号に基づき算出され、
前記既知の車輪径は、前記仮の車輪径として用いられる、
車輪径算出システム。
【請求項6】
前記車輪径算出部は、前記基準駅間距離に対する前記仮の駅間距離の前記比率の逆数を、前記仮の車輪径に乗じることで、前記車輪の車輪径を算出する、
請求項1
ないし5の何れかに記載の車輪径算出システム。
【請求項7】
前記距離算出部は、3以上の駅の駅間について複数の前記仮の駅間距離を算出し、
前記比率算出部は、複数の前記仮の駅間距離にそれぞれ対応する複数の前記比率を算出する、
請求項
4または
5に記載の車輪径算出システム。
【請求項8】
鉄道車両の車輪の回転に応じて発生されるパルス信号を検出し、
前記鉄道車両が少なくとも2つの駅の駅間を走行して得られた前記パルス信号及び前記車輪の仮の車輪径に基づいて、当該駅間の仮の駅間距離を算出し、
前記仮の駅間距離及び基準駅間距離の比率を算出し、
前記仮の車輪径を前記比率に応じて補正することで、前記車輪の車輪径を算出する、
車輪径算出方法であって、
前記距離の算出は、3以上の駅の駅間について複数の前記仮の駅間距離を算出し、
前記比率の算出は、複数の前記仮の駅間距離にそれぞれ対応する複数の前記比率を算出し、
前記比率の算出は、複数の前記比率に基づいて代表の比率を決定し、
前記車輪径の算出は、前記仮の車輪径を前記代表の比率に応じて補正する、
車輪径算出方法。
【請求項9】
鉄道車両の車輪の回転に応じて発生され、前記鉄道車両が少なくとも2つの駅の駅間を走行して得られたパルス信号及び前記車輪の仮の車輪径に基づいて、当該駅間の仮の駅間距離を算出する距離算出部と、
前記仮の駅間距離及び基準駅間距離の比率を算出する比率算出部と、
前記仮の車輪径を前記比率に応じて補正することで、前記車輪の車輪径を算出する車輪径算出部と、
を備え
、
前記距離算出部は、3以上の駅の駅間について複数の前記仮の駅間距離を算出し、
前記比率算出部は、複数の前記仮の駅間距離にそれぞれ対応する複数の前記比率を算出し、
前記比率算出部は、複数の前記比率に基づいて代表の比率を決定し、
前記車輪径算出部は、前記仮の車輪径を前記代表の比率に応じて補正する、
情報処理装置。
【請求項10】
鉄道車両の車輪の回転に応じて発生され、前記鉄道車両が少なくとも2つの駅の駅間を走行して得られたパルス信号及び前記車輪の仮の車輪径に基づいて、当該駅間の仮の駅間距離を算出すること、
前記仮の駅間距離及び基準駅間距離の比率を算出すること、及び、
前記仮の車輪径を前記比率に応じて補正することで、前記車輪の車輪径を算出すること、
をコンピュータに実行させ
、
前記距離の算出は、3以上の駅の駅間について複数の前記仮の駅間距離を算出し、
前記比率の算出は、複数の前記仮の駅間距離にそれぞれ対応する複数の前記比率を算出し、
前記比率の算出は、複数の前記比率に基づいて代表の比率を決定し、
前記車輪径の算出は、前記仮の車輪径を前記代表の比率に応じて補正する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪径算出システム、車輪径算出方法、情報処理装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車軸回転量と車両の車輪径とに基づいて地上子間の走行距離を算出すると共に、地上子の各配置位置を表わす位置情報に応じて地上子間の区間距離を算出し、この区間距離から走行距離を減算して計測誤差を生成し、地上子間を通過する毎に計測誤差を積算して累積誤差を生成し、求めた累積誤差に応じて車両の車輪径値を増減する技術が開示されている。
【0003】
特許文献2には、速度発電機が出力するパルス信号の数を計数し、パルス信号の計数値がP×Nに達すると、車輪がN回回転したと判定し、車輪がN回回転する間に速度計により計測された走行速度の各々に所定時間Tを乗じた値を積算して、走行距離Lを特定し、走行距離Lを車輪の回転数Nと円周率πで除することにより車輪の車輪径を算出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-322593号公報
【文献】特開2018-091683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の技術では、車輪の回転に応じたパルス信号を発生する速度発電機の他に、地上子及びそれと通信する車上子を設置する必要がある。また、上記特許文献2の技術では、速度発電機の他に速度計を設置する必要がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、速度発電機等のパルス発生器以外の速度を計測するための計測機器を設けずとも車輪径を算出することが可能な車輪径算出システム、車輪径算出方法、情報処理装置、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一の態様の車輪径算出システムは、鉄道車両の車輪の回転に応じたパルス信号を発生するパルス発生器と、前記鉄道車両が少なくとも2つの駅の駅間を走行して得られた前記パルス信号及び前記車輪の仮の車輪径に基づいて、当該駅間の仮の駅間距離を算出する距離算出部と、前記仮の駅間距離及び基準駅間距離の比率を算出する比率算出部と、前記仮の車輪径を前記比率に応じて補正することで、前記車輪の車輪径を算出する車輪径算出部とを備える。
【0008】
また、本発明の他の態様の車輪径算出方法は、鉄道車両の車輪の回転に応じて発生されるパルス信号を検出し、前記鉄道車両が少なくとも2つの駅の駅間を走行して得られた前記パルス信号及び前記車輪の仮の車輪径に基づいて、当該駅間の仮の駅間距離を算出し、前記仮の駅間距離及び基準駅間距離の比率を算出し、前記仮の車輪径を前記比率に応じて補正することで、前記車輪の車輪径を算出する。
【0009】
また、本発明の他の態様の情報処理装置は、鉄道車両の車輪の回転に応じて発生され、前記鉄道車両が少なくとも2つの駅の駅間を走行して得られたパルス信号及び前記車輪の仮の車輪径に基づいて、当該駅間の仮の駅間距離を算出する距離算出部と、前記仮の駅間距離及び基準駅間距離の比率を算出する比率算出部と、前記仮の車輪径を前記比率に応じて補正することで、前記車輪の車輪径を算出する車輪径算出部とを備える。
【0010】
また、本発明の他の態様のプログラムは、鉄道車両の車輪の回転に応じて発生され、前記鉄道車両が少なくとも2つの駅の駅間を走行して得られたパルス信号及び前記車輪の仮の車輪径に基づいて、当該駅間の仮の駅間距離を算出すること、前記仮の駅間距離及び基準駅間距離の比率を算出すること、及び、前記仮の車輪径を前記比率に応じて補正することで、前記車輪の車輪径を算出することをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、パルス発生器以外の速度を計測するための計測機器を設けずとも車輪径を算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】車輪径算出システムの構成例を示す図である。
【
図2】パルス収録データベースの内容例を示す図である。
【
図3】駅間距離データベースの内容例を示す図である。
【
図9】車輪径算出システムの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、実施形態に係る車輪径算出システム100の構成例を示すブロック図である。車輪径算出システム100は、情報処理装置10及び速度発電機3を備えている。本実施形態では、情報処理装置10は、鉄道車両TRに搭載される車上装置として構成されている。
【0015】
速度発電機3は、パルス発生器の一例であり、鉄道車両TRの車輪WHの回転に応じたパルス信号を発生する。具体的には、速度発電機3は、車輪WHの回転速度に比例した周波数のパルス信号を発生する。速度発電機3に限らず、ロータリエンコーダが用いられてもよい。
【0016】
情報処理装置10は、CPU、RAM、ROM、不揮発性メモリ、及び入出力インターフェース等を含むコンピュータである。情報処理装置10のCPUは、ROM又は不揮発性メモリからRAMにロードされたプログラムに従って情報処理を実行する。
【0017】
プログラムは、例えば光ディスク又はメモリカード等の情報記憶媒体を介して供給されてもよいし、例えばインターネット又はLAN等の通信ネットワークを介して供給されてもよい。
【0018】
情報処理装置10は、距離算出部11、比率算出部12、車輪径算出部13、パルス収録DB(データベース)21、駅間距離DB(データベース)22、及び車輪径記憶部23を備えている。
【0019】
距離算出部11、比率算出部12、及び車輪径算出部13は、情報処理装置10のCPUがプログラムに従って情報処理を実行することによって実現される。パルス収録DB21、駅間距離DB22、及び車輪径記憶部23は、情報処理装置10の不揮発性メモリに設けられる。
【0020】
パルス収録DB21は、鉄道車両TRが走行するときに速度発電機3から得られるパルス信号に係るデータ(以下、パルス収録データという)を収録するデータベースである。パルス収録データは、パルス信号が発生した時間と数の関係を表すデータを含んでいる。
【0021】
図2は、パルス収録DB21の内容例を模式的に示す図である。横軸は時間を表し、縦軸はパルス数を表す。パルス収録データには、鉄道車両TRが発車してから停車するまでの走行を表す略台形の形状が繰り返し出現する。この略台形の形状は、鉄道車両TRが2つの駅の駅間を走行して得られるパルス信号に基づく。
【0022】
ここで、駅とは、鉄道車両が停車する停車場であり、旅客が乗降する場所だけでなく、貨物を積み降ろしする場所も含む。駅間とは、2つの駅の間の区間である。駅間距離は、2つの駅の間の距離である。
【0023】
鉄道車両TRの走行距離及び走行速度は、パルス収録データに基づいて算出される。走行距離Lは下記数式1で表され、走行速度Vは下記数式2で表される。Dは車輪径であり、Pは車輪1回転当たりのパルス数であり、Nは総パルス数であり、fはパルス周波数である。
【0024】
総パルス数Nは、鉄道車両TRが発車してから停車するまでに得られるパルス信号の総数であり、
図2に示す略台形の形状の面積に相当する。パルス周波数fは、単位時間に得られるパルス信号の数であり、
図2示す略台形の形状の辺に相当する。
【0025】
【0026】
【0027】
ところで、走行時やブレーキ制動による車輪踏面の摩耗によって、車輪径は経時的に減少するため、以下に説明するように、車輪削正時等に測定された車輪径の値を走行距離又は走行速度の算出に使用し続けると、誤差が大きくなるおそれがある。
【0028】
図3は、車輪径に同じ値を使用し続けた場合に算出される同一駅間の駅間距離の推移例を示す図である。横軸は日単位の時間を表し、縦軸は駅間距離を表す。なお、駅間距離の値は定期的に階段状に非連続な増加を示すが、この非連続な増加は車輪削正によるものである。
【0029】
同図を見ると、2つの車輪削正時の間の期間において、駅間距離の値が緩やかに増加していることが分かる。この緩やかな増加は、走行時の摩耗によって車輪径が減少し、同じ距離を走行しても車輪の回転数が増加し、見かけ上の走行距離が大きくなるためである。
【0030】
また、同図を見ると、駅間距離の値が日毎に変動する場合があることが分かる。これは同一の駅間を走行した場合であっても、駅での停車位置や分岐によって進入する番線が日毎に異なる場合があり、それに伴い走行距離が変化するからである。
【0031】
そこで、本実施形態では、以下に説明する手法によって正確な車輪径を推定している。
【0032】
図1の説明に戻る。距離算出部11は、パルス収録DB21に記憶されたパルス収録データ、駅間距離DB22に記憶された駅間距離、及び車輪径記憶部23に記憶された車輪径初期値に基づいて、鉄道車両TRが走行した駅間の駅間距離を算出する。
図4に示すように、駅間距離DB22では、駅間とその駅間距離とが互いに関連付けられている。
【0033】
具体的には、距離算出部11は、鉄道車両TRが発車してから停車するまでに得られたパルスの総数に基づいて走行距離を算出するとともに、駅間距離DB22を参照して走行距離に対応する駅間を特定することで、駅間距離を算出する。すなわち、距離算出部11により算出される駅間距離は、駅間が特定された走行距離である。
【0034】
駅間距離の算出に用いられる車輪径初期値は、車輪削正時等に測定された測定値である。上述したように実際の車輪径は走行時の摩耗によって経時的に減少するため、駅間距離の算出に用いられる車輪径初期値は「仮の車輪径」であり、車輪径初期値を用いて算出される駅間距離は「仮の駅間距離」である。
【0035】
比率算出部12は、距離算出部11により算出された仮の駅間距離と基準駅間距離との比率を算出する。具体的には、比率算出部12は、仮の駅間距離を基準駅間距離で正規化することで、基準駅間距離に対する仮の駅間距離の変化率を算出する。駅間距離の変化率は、車輪径の変化率に相当する。
【0036】
基準駅間距離は、車輪径初期値が対応付けられた時点に得られたパルス収録データ及び車輪径初期値に基づいて算出される駅間距離である。具体的には、基準駅間距離は、車輪径初期値が測定された直後等の、車輪径が既知である時点に得られたパルス収録データに基づいて算出される。
【0037】
これに限らず、基準駅間距離には、駅間距離DB22で駅間と関連付けて記憶された駅間距離が用いられてもよい(
図4参照)。
【0038】
車輪径算出部13は、車輪径初期値を、比率算出部12により算出された変化率に応じて補正することで、車輪径を算出する。具体的には、車輪径算出部13は、基準駅間距離に対する仮の駅間距離の変化率の逆数を、車輪径初期値に乗じることによって、車輪径を算出する。
【0039】
車輪径算出部13により算出された車輪径は、車輪径記憶部23に記憶され、例えば走行距離又は走行速度等をリアルタイムに計算するために用いられる。また、車輪径算出部13により算出された車輪径は、新たな車輪径初期値として次回の車輪径の補正に用いられてもよい。
【0040】
図5は、車輪径算出システム100において実現される、実施形態に係る車輪径算出方法の手順例を示す図である。情報処理装置10は、同図に示す情報処理をプログラムに従って実行することにより、距離算出部11、比率算出部12、及び車輪径算出部13として機能する。
【0041】
まず、情報処理装置10は、パルス収録DB21(
図2参照)からパルス収録データを取得する(S11)。パルス収録DB21は、時点毎(例えば日毎)に生成されたパルス収録データを記憶している。各パルス収録データは、鉄道車両TRが3以上の駅の駅間を走行して得られたパルス信号の時間と数の関係を表している。このため、各パルス収録データは、鉄道車両TRが発車してから停車するまでの走行を表す複数の部分データ(
図2に示す略台形の形状に相当)を含んでいる。
【0042】
次に、情報処理装置10は、パルス収録DB21から取得したパルス収録データと、車輪径記憶部23に記憶された車輪径初期値とに基づいて、鉄道車両TRの仮の走行距離を算出する(S12:距離算出部11としての処理)。具体的には、情報処理装置10は、各パルス収録データに含まれる複数の部分データにそれぞれ対応する複数の仮の走行距離を算出する。
【0043】
次に、情報処理装置10は、駅間距離DB22を参照して、仮の走行距離に対応する駅間をパターンマッチングにより特定する(S13:距離算出部11としての処理)。具体的には、情報処理装置10は、S12で算出された仮の走行距離の出現パターンと、駅間距離DB22に記憶された駅間距離の出現パターンとを比較し、最も類似度が高い駅間と駅間距離の組み合わせを探し出す。これにより、仮の走行距離に対応する駅間が特定される。
【0044】
このように、S12で仮の走行距離を算出し、S13で仮の走行距離に対応する駅間を特定することにより、複数の駅間について仮の駅間距離がそれぞれ算出される。なお、S12及びS13では、パルス収録DB21に記憶された時点毎(例えば日毎)のパルス収録データから、時点毎に複数の駅間の仮の駅間距離がそれぞれ算出される。
【0045】
次に、情報処理装置10は、S12及びS13で時点毎に算出された複数の駅間の仮の駅間距離から、同一駅間に関する時系列の駅間距離を選出する(S14:距離算出部11としての処理)。これにより、上記
図3に示したような同一駅間の駅間距離の推移データが、複数の駅間のそれぞれについて生成される。本実施形態では、「時点」を日単位としているが、これに限らず、例えば数時間、数日、又は1週間など、1日よりも短い又は長い単位としてもよい。
【0046】
なお、
図3では、説明のために多数の時点の駅間距離を算出して長期的な推移を示しているが、多数の時点の駅間距離の算出は必須ではない。本実施形態に係る車輪径算出を実現するには、車輪径初期値が測定された直後等の、車輪径が既知である基準時点の駅間距離(基準駅間距離)と、基準時点よりも後の車輪径算出の対象となる対象時点の駅間距離(仮の駅間距離)とがあれば足りる。以下の説明では、グラフの左端を基準時点とする。これに限らず、他の車輪削正時を基準時点としてもよい。
【0047】
次に、情報処理装置10は、それぞれの駅間について駅間距離の変化率を算出する(S15:比率算出部12としての処理)。駅間距離の変化率は、基準駅間距離に対する仮の駅間距離の比率であり、車輪径の変化率に相当する。
図3を用いて説明すると、グラフの横軸の各時点の駅間距離を左端の基準時点の駅間距離で正規化することで、駅間距離の変化率が算出される。
【0048】
図6は、駅間距離の変化率の推移例を示す図である。同図では、1つの駅間の駅間距離の変化率だけでなく、複数の駅間の駅間距離の変化率が1つのグラフにプロットされている。全ての変化率は、グラフの左端の基準時点で1となっている。なお、上述したように駅での停車位置や分岐を伴う番線が日毎に異なるため、それぞれの変化率は日毎に変動している。
【0049】
次に、情報処理装置10は、変化率の代表値を決定する(S16:比率算出部12としての処理)。具体的には、情報処理装置10は、同時点に存在する複数の変化率から例えば中央値、最頻値、又は平均値などの代表値を決定する。
図7は、変化率の代表値の推移例を示す図である。このように変化率の代表値を採ることで、変化率の日毎の変動がフィルタリングされる。
【0050】
次に、情報処理装置10は、変化率の代表値に応じて車輪径初期値を補正することで、車輪径を算出する(S17,S18:車輪径算出部13としての処理)。具体的には、情報処理装置10は、変化率の代表値の逆数を車輪径初期値に乗じることで、車輪径を算出する。
図8は、車輪径算出値の推移例を示す図である。このように、車輪径算出値は、変化率の代表値の逆数に比例して推移する。
【0051】
これに限らず、車輪径初期値の補正は、例えば変化率の増加に応じて補正量を段階的に増加させてもよいし、変化率が増加するほど補正量を非線形的に増加させてもよい。
【0052】
以上に説明した実施形態によれば、車上子又は速度計などの速度を計測するための計測機器を追加で設けずとも、速度発電機3からのパルス信号のみによって車輪径を算出することが可能である。このため、この車輪径の算出手法は、既存の鉄道車両も含めて幅広く適用可能である。
【0053】
また、実施形態では、複数の駅間について駅間距離の変化率を算出し、それらに基づいて代表の変化率を決定している。このため、駅での停車位置や分岐を伴う番線が日毎に異なる等の理由で各変化率が日毎に変動する場合であっても、その影響を抑制することが可能である。
【0054】
また、実施形態では、仮の駅間距離と同様に、車輪径初期値が対応付けられた時点に得られたパルス収録データ及び車輪径初期値に基づいて基準駅間距離も算出している。このため、固定値の基準駅間距離を用いる場合と比べて、車輪径の推定精度をより向上させることが可能である。
【0055】
また、実施形態では、駅間距離DB22を参照することで、パルス収録データ及び車輪径初期値に基づいて算出された走行距離に対応する駅間を容易に特定することが可能である。特に、パターンマッチングを用いることで、算出された走行距離が実際の駅間距離と離れていても、駅間の特定が容易である。
【0056】
これに限らず、例えば時刻表のような駅と発車又は停車時刻とを互いに関連付けたデータベースを用いて、パルス収録データの発車又は停車時刻から駅間を特定してもよい。また、例えばGPS測位データに基づいて推定される駅と発車又は停車時刻から駅間を特定してもよい。
【0057】
[変形例]
図9は、変形例に係る車輪径算出システム200の構成例を示すブロック図である。上記実施形態と重複する構成については、同番号を付すことで詳細な説明を省略することがある。本変形例では、情報処理装置20は、サーバ装置として構成されている。情報処理装置20は、通信ネットワークを介して鉄道車両TRに搭載された車上装置4と通信可能である。
【0058】
情報処理装置20は、距離算出部11、比率算出部12、車輪径算出部13、駅間距離DB22、及び車輪径記憶部23を備えており、車上装置4のパルス収録DB21からパルス収録データを取得し、車輪径を算出する。算出された車輪径は、通信ネットワークを介して車上装置4に送信されて車輪径記憶部24に記憶され、例えば走行距離又は走行速度等をリアルタイムに計算するために用いられる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が当業者にとって可能であることはもちろんである。
【0060】
[付記]
上記態様において、前記車輪径算出部は、前記基準駅間距離に対する前記仮の駅間距離の前記比率の逆数を、前記仮の車輪径に乗じることで、前記車輪の車輪径を算出してもよい。これによると、車輪径の推定精度を向上させることが可能である。
【0061】
上記態様において、前記距離算出部は、3以上の駅の駅間について複数の前記仮の駅間距離を算出し、前記比率算出部は、複数の前記仮の駅間距離にそれぞれ対応する複数の前記比率を算出してもよい。これによると、複数の比率を利用して車輪径の推定精度を向上させることが可能である。
【0062】
また、前記比率算出部は、複数の前記比率に基づいて代表の比率を決定し、前記車輪径算出部は、前記仮の車輪径を前記代表の比率に応じて補正してもよい。これによると、駅での停車位置や分岐を伴う番線が日毎に異なる等の理由で各比率が日毎に変動する場合であっても、その影響を抑制することが可能である。
【0063】
上記態様において、前記距離算出部は、前記パルス信号及び前記仮の車輪径に基づいて発車から停車までの仮の走行距離を算出するとともに、駅間と駅間距離とを互いに関連付けたデータベースを参照して前記仮の走行距離に対応する駅間を特定することで、前記仮の駅間距離を算出してもよい。これによると、仮の走行距離に対応する駅間を容易に特定することが可能である。
【0064】
また、前記距離算出部は、前記仮の走行距離の出現パターンを、前記データベースで駅間に関連付けられた距離の出現パターンと比較することで、前記仮の走行距離に対応する駅間を特定してもよい。これによると、算出された仮の走行距離がデータベースに記憶された距離と離れていても、駅間の特定が容易である。
【0065】
上記態様において、前記距離算出部は、時点毎に前記鉄道車両が前記3以上の駅の駅間を走行して得られた前記パルス信号に基づいて算出される時点毎の複数の前記仮の駅間距離から、前記3以上の駅の駅間のそれぞれについて時系列の仮の駅間距離を選出してもよい。これによると、駅間毎に仮の駅間距離の推移を得ることが可能である。
【0066】
上記態様において、前記距離算出部は、前記車輪の車輪径が対応付けられた時点に前記2つの駅間を前記鉄道車両が走行して得られた前記パルス信号及び当該車輪径に基づいて、前記基準駅間距離も算出してもよい。これによると、仮の駅間距離と同様に基準駅間距離も算出するので、車輪径の推定精度を向上させることが可能である。
【0067】
また、前記基準駅間距離は、前記車輪径が既知である第1時点に得られた前記パルス信号に基づき算出され、前記仮の駅間距離は、前記第1時点よりも後の第2時点に得られた前記パルス信号に基づき算出され、前記既知の車輪径は、前記仮の車輪径として用いられてもよい。これによると、仮の駅間距離と同様に基準駅間距離も算出するので、車輪径の推定精度を向上させることが可能である。
【符号の説明】
【0068】
10,20 情報処理装置、11 距離算出部、12 比率算出部、13 車輪径算出部、21 パルス収録データベース、22 駅間距離データベース、23 車輪径記憶部、24 車輪径記憶部、3 速度発電機、4 車上装置、100,200 車輪径算出システム、TR 鉄道車両、WH 車輪