(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】磁歪式トルクセンサシャフトの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01L 3/10 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
G01L3/10 301D
(21)【出願番号】P 2020103837
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000120249
【氏名又は名称】臼井国際産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】小牧 正博
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-066165(JP,A)
【文献】特開平10-176966(JP,A)
【文献】特開平03-002638(JP,A)
【文献】国際公開第2011/016399(WO,A1)
【文献】特開平10-038710(JP,A)
【文献】特開平03-282338(JP,A)
【文献】特開平02-019734(JP,A)
【文献】特開平01-117338(JP,A)
【文献】特開平01-148930(JP,A)
【文献】特開平03-087623(JP,A)
【文献】特開2008-298534(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101191750(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 3/10,1/12
H10N 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトの表面にトルク検出用の磁歪部を有する磁歪式トルクセンサシャフトの製造方法であって、アモルファス溶射前の粗面加工処理とアモルファス溶射後のシェブロン状パターン成形処理をそれぞれレーザ照射により行い、シェブロン状パターン成形処理後に表面処理工程にて当該シャフトの金属素地露出部を被覆するためのメッキ処理を施すとともに、前記メッキ処理後に磁歪部メッキ除去工程で磁歪部のメッキを除去することを特徴とする磁歪式トルクセンサシャフトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフト(回転軸)の表面にトルク検出用の磁歪部を有するトルクセンサシャフトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁歪部を有するシャフトを用いてトルクを検出するトルクセンサは、一般的な構造を図2に示すように、トルクを受けるシャフト(トルクセンサシャフト)11が軸受16を介してハウジング17に支持されており、そのシャフト11の一部表面において全周(360度)に磁歪部11V・11Wが形成されている。又、ハウジング17の内側で、磁歪部11V・11Wの各外周に近い位置にコイルX・Yが配置されている。磁歪部11V・11Wとしては、シャフト11の周面に磁歪材料が、図示の通り軸方向に対して逆向きに傾斜した螺旋状(いわゆるシェブロン状)の縞模様に形成される(つまり、磁歪特性を有する皮膜や突出部を螺旋状の複数の線として形成される)のが一般的である。ハウジング17には、図示のようにアンプ基板18や信号線用のコネクタ19なども付設される。
即ち、図2に示す一般的なトルクセンサは、シャフト11にトルクが作用すると、磁歪部11V・11Wに引張応力と圧縮応力とがそれぞれ発生し、その結果、相反する磁歪効果によって各磁歪部11V・11Wの透磁率がそれぞれ増加・減少することにより、この透磁率の変化に基づいてコイルX・Yに誘導起電力が発生し、直流変換や両者の差動増幅を行うことにより、トルクの大きさに比例した電圧出力が得られる構造となっている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
このようなトルクセンサシャフトの製造方法として特許文献1には、より品質の優れたトルクセンサシャフトを円滑に量産することが可能な当該シャフトの製造方法が提案されている。具体的には、前記シャフトの表面に形成される磁歪部11V・11Wが金属ガラス(アモルファス合金)の皮膜の場合、当該皮膜は、火炎を急速冷却する方式の溶射によってシャフトの表面に形成していた。そのアモルファス溶射皮膜成形の主な工程は、溶射前の粗面加工処理工程(ショットブラスト)、アモルファス溶射工程、マスキング工程(マスキングシート貼り付け)、アモルファス皮膜のシェブロン状パターン成形(ショットブラスト)、マスキングシート剥がし工程(ショットブラスト)からなり、各工程の処理を経て前記縞模様の磁歪部を得ている。
【0004】
また、特許文献2には、シャフトの表面に磁歪部を溶射により形成する前に、シャフトに所定のめっきを施し、このめっきされたシャフトに溶射する範囲のめっきをショットブラストにて剥離(溶射後のシェブロン状パターン成形を含む)してアモルファス溶射皮膜の磁歪部を形成するトルクセンサシャフトの製造方法が開示されている。具体的には、シャフト(回転軸)の外周にめっきを施すめっき処理工程と、磁歪部を形成する位置のめっきをショットブラストにて除去する粗面加工処理工程と、シャフトを予熱する予熱工程と、磁歪特性を有する材料をシャフトに溶射して磁歪部を形成するアモルファス溶射工程と、シャフトが所定の温度まで上昇したら、当該シャフトを所定の温度まで冷却する冷却工程と、シャフト表面の磁歪部に、スリットを形成する位置以外を覆うマスキング工程と、磁歪部にショットブラストによりスリットを形成するシェブロン状パターン成形工程と、マスキングシートを除去するマスキング除去工程と、からなっている。
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1、2に記載されている従来のトルクセンサシャフトの製造方法には、以下に記載する問題点がある。
即ち、特許文献1に記載のトルクセンサシャフトの製造方法は、前記したように溶射前の粗面加工処理(ショットブラスト)、アモルファス溶射、マスキング(シート貼り付け)、アモルファス皮膜のシェブロン状パターン成形(ショットブラスト)、マスキングシート剥がし工程等からなる工程を経て前記縞模様の磁歪部を得ているため、アモルファス皮膜のシェブロン状パターン成形工程では、シェブロン状パターン成形後にシャフト金属素地が露出した部分が生じ、その露出部分が腐食され易い環境にさらされることになり耐食性が損なわれるという問題がある。また、特許文献2に記載のトルクセンサシャフトの製造方法は、シャフト(回転軸)の表面に磁歪部を溶射により形成する前に、当該シャフトにメッキ等の表面処理を施すことにより錆の発生を防止して耐食性を維持し、安定した出力感度を有するトルクセンサシャフトを得る方法を提案したものであるが、この方法においても、磁歪部にショットブラストによりスリットを形成するシェブロン状パターン成形工程において、シェブロン状パターン成形後にシャフト金属素地が露出した部分が生じ、腐食環境下の場合には磁歪皮膜の部分が腐食され易い環境にさらされることになり耐食性が損なわれるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-217898号公報
【文献】特開2019-211352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記した従来技術の問題点を解消すべくなされたもので、アモルファス皮膜のシェブロン状パターン成形工程において、シェブロン状パターン成形後にシャフトの金属素地が露出した部分が生じ、その露出部分が腐食され易い環境にさらされることになり耐食性が損なわれるという問題を解決し、耐食性に優れ、かつ、安定した出力特性が得られる高品質の磁歪式トルクセンサシャフトの製造方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、シェブロン状パターン成形後に、メッキによる表面処理を施すことにより上記課題を解消できることを見出した。
即ち、本発明のトルクセンサシャフトの製造方法は、シャフトの表面にトルク検出用の磁歪部を有する磁歪式トルクセンサシャフトの製造方法であって、アモルファス溶射前の粗面加工処理とアモルファス溶射後のシェブロン状パターン成形処理をそれぞれレーザ照射により行い、シェブロン状パターン成形処理後に表面処理工程にて当該シャフトの金属素地露出部を被覆するためのメッキ処理を施すとともに、前記メッキ処理後に磁歪部メッキ除去工程で磁歪部のメッキを除去することを特徴とするものである。
【0009】
本発明のトルクセンサシャフトの製造方法における前記メッキの種類としては、Znを基本とするが、Ni-Pメッキ等も適宜選択して用いることはいうまでもない。なお、表面処理としては、メッキの他、黒染めもある。
【0010】
なお、本発明における基材としては、例えばアルミニウム、銅、炭素鋼およびステンレス鋼等の金属材を用いることができる。
【0011】
本発明において、シャフトの金属素地露出部を被覆するためのメッキ処理をシェブロン状パターン成形工程後に行うこととしたのは、以下に示す理由による。
即ち、特許文献1に記載のトルクセンサシャフトの製造方法は、前記したように溶射前の粗面加工処理(ショットブラスト)、アモルファス溶射、マスキング(シート貼り付け)、アモルファス皮膜のシェブロン状パターン成形(ショットブラスト)、マスキングシート剥がし工程等からなる工程を経て前記縞模様の磁歪部を得ているため、アモルファス皮膜のシェブロン状パターン成形工程では、シェブロン状パターン成形後にシャフト金属素地が露出した部分が生じ、その露出部分が腐食され易い環境にさらされることになり耐食性が損なわれるという問題がある。また、特許文献2に記載のトルクセンサシャフトの製造方法は、シャフト(回転軸)の表面に磁歪部を溶射により形成する前に、当該シャフトにメッキ等の表面処理を施すことにより錆の発生を防止して耐食性を維持し、安定した出力感度を有するトルクセンサシャフトを得る方法を提案したものであるが、この方法においても、磁歪部にショットブラストによりスリットを形成するシェブロン状パターン成形工程において、シェブロン状パターン成形後にシャフト金属素地が露出した部分が生じ、腐食環境下の場合には磁歪皮膜の部分が腐食され易い環境にさらされることになり耐食性が損なわれるという問題がある。
そこで、本発明は前記した従来技術の問題、即ち、シェブロン状パターン成形後にシャフトの金属素地が露出した部分が生じ、その露出部分が腐食され易い環境にさらされることになり耐食性が損なわれるという問題を解決するため、シャフトの金属素地露出部を被覆するためのメッキ処理をシェブロン状パターン成形工程後に行うこととした。なお、前記メッキ処理により磁歪部も表面処理されるので磁歪特性は低下するが、研削(研磨)やブラッシングにより磁歪部のアモルファス皮膜表面のメッキを除去することにより磁歪特性を回復させることができるので特に問題はない。
【0012】
本発明において、アモルファス溶射前の粗面加工処理と、アモルファス溶射後のシェブロン状パターン成形処理を、それぞれ従来のショットブラスト処理に替えて、レーザ照射方式を採用したのは、以下に示す理由による。
即ち、従来のショットブラストでは溶射前の粗面加工処理、具体的には基材表面に対するアモルファス溶射皮膜の形成に必要な密着性(アンカー効果)を向上させるための表面処理に相当の時間を要するのみならず、ショットブラストガンによるショットブラストの照射状態で基材表面の仕上がりにバラツキが生じ、精度よく安定した表面性状が得られにくいのに対し、レーザ照射方式の場合はレーザ出力や移動速度等を調節するだけで基材表面に適度な粗面を短時間で形成することができる上、基材表面の仕上がりも良好で精度よく安定した表面性状が得られるという利点を有するからである。
【0013】
また、アモルファス溶射後のシェブロン状パターン成形処理にレーザ照射方式を採用したのは、ショットブラストを採用する従来方式は、マスキングシートの貼り付け、剥離作業及び剥離後の廃棄シートの処理に多くの手間と時間を要すること、ショット粒は繰り返しの使用により摩耗して所定の粒径より小さくなるとショットブラスト機能が失われて廃棄処理されることとなり、前記シートと同様に廃棄物となり不経済であること、さらにショットブラスト装置やマスキングシート貼り付け装置および剥離装置が必要で設備費が高くつく等の問題点があるのに対し、レーザ照射方式は基材表面に形成されたアモルファス溶射皮膜にレーザ照射することにより、レーザの持つ光エネルギーをアモルファス溶射皮膜が吸収し瞬時に蒸発することとなり基材表面から除去され、所望の皮膜パターンを形成する方式であるから、マスキングシートが不要となることにより、マスキングシート費の削減、ショットブラスト装置やマスキングシート貼り付け装置および剥離装置の不要による設備の簡便化、マスキングシートの貼り付けおよび剥離作業の省略、パターン成形処理時間の短縮と廃棄物削減等がはかられ、加工精度および品質の安定性に優れた磁歪式トルクセンサシャフトを低コストで製造することができるという利点を有するためである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の磁歪式トルクセンサシャフトの製造方法によれば、アモルファス溶射前の粗面加工処理とアモルファス溶射後のシェブロン状パターン成形処理にレーザ照射方式を採用したことにより、レーザ出力や移動速度等を調節するだけで基材表面に適度な粗面を短時間で形成することができる上、基材表面の仕上がりも良好で精度よく安定した表面性状が得られる。また、アモルファス溶射後のシェブロン状パターン成形処理に同じくレーザ照射方式を採用したことにより、マスキングシート費の削減、ショットブラスト装置やマスキングシート貼り付け装置および剥離装置の不要による設備の簡便化、マスキングシートの貼り付けおよび剥離作業の省略、後処理時間の短縮等がはかられる上、複雑なパターンの形成も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係るトルクセンサシャフト製造方法の
一実施例を示すフローチャートである。
【
図2】
トルクセンサシャフトの一般的な構造例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示すトルクセンサシャフトの製造方法は、基材(アルミニウム、銅、炭素鋼およびステンレス鋼等の金属材)の表面に施すアモルファス溶射前の粗面加工処理をレーザ照射にて実施する粗面加工処理工程と、前記レーザ照射による粗面加工処理を終えた基材の表面に磁歪特性を有するアモルファス溶射皮膜で磁歪部を形成するアモルファス溶射工程と、前記アモルファス溶射工程で形成したアモルファス溶射皮膜をレーザ照射により基材より除去し所望の皮膜パターンを形成するシェブロン状パターン成形工程と、前記シェブロン状パターン成形工程においてシェブロン状パターン成形後に露出したシャフト金属素地部分を被覆するためのメッキを施すメッキ処理工程と、前記メッキ処理により表面処理された磁歪部のメッキを除去することにより磁歪特性を回復させるための磁歪部メッキ除去工程と、からなっている。
【0017】
即ち、図1に示すトルクセンサシャフトの製造方法は、アモルファス溶射前の粗面加工処理とシェブロン状パターン成形をそれぞれレーザ照射にて実施するとともに、シェブロン状パターン成形工程後に、当該パターン成形工程で生じた金属素地露出部を被覆するためのメッキ処理を施す点を特徴とするものである。ここで、アモルファス溶射前の粗面加工処理にレーザ照射方式を採用するのは、基材表面に対するアモルファス溶射皮膜の形成に必要な密着性(アンカー効果)を向上させることが可能であるのみならず、レーザ出力や移動速度等を調節するだけで基材表面に適度な粗面を短時間で形成することができる上、基材表面の仕上がりも良好で精度よく安定した表面性状が得られるという利点を有するためである。また、シェブロン状パターン成形工程では、前記した通りアモルファス溶射皮膜をレーザ照射により基材より除去し、所望の皮膜パターン(模様)を形成することができるので、マスキングシート費の削減、各種装置の不要による設備の簡便化、マスキングシートの貼り付けおよび剥離作業の省略、パターン成形処理時間の短縮と廃棄物削減等がはかられ、加工精度および品質の安定性に優れた磁歪式トルクセンサシャフトを低コストで製造することができるという利点を有するためである。
【0018】
また、図1に示すトルクセンサシャフトの製造方法は、シェブロン状パターン成形工程後に、当該パターン成形工程で生じた金属素地露出部を被覆するためのメッキ処理を施して、当該シャフトの金属素地露出部をメッキ皮膜にて被覆するので、前記金属素地露出部であった部分の耐食性が維持され、安定した出力感度を有するトルクセンサシャフトを得ることができる。なお、本実施例においても、磁歪部メッキ除去工程で研削(研磨)やブラッシングにより磁歪部のメッキを除去して磁歪特性を回復させる。
【0019】
なお、本発明は、適用範囲としてアモルファス溶射皮膜に限らず、アモルファス以外の他の磁歪材料にも適用可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0020】
11 トルクセンサシャフト
11V・11W 磁歪部