(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/41 20060101AFI20240329BHJP
E04B 1/30 20060101ALI20240329BHJP
E04B 5/32 20060101ALN20240329BHJP
【FI】
E04B1/41 502Z
E04B1/30 H
E04B5/32 D
(21)【出願番号】P 2020114129
(22)【出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】藤井 嵩広
(72)【発明者】
【氏名】大野 正人
(72)【発明者】
【氏名】野澤 裕和
(72)【発明者】
【氏名】大野 敏典
(72)【発明者】
【氏名】豊永 守光
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-4474(JP,A)
【文献】登録実用新案第3029526(JP,U)
【文献】特開平9-105177(JP,A)
【文献】特開2009-102909(JP,A)
【文献】実開昭64-33805(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/38-1/61
E04B 1/30
E04B 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨部材とコンクリート構造部とを接合する接合構造であって、
前記鉄骨部材に突設されて前記コンクリート構造部に埋設されるボルトを備え、
前記ボルトは、その頭部側の端面が前記鉄骨部材に接する姿勢で、前記頭部の外周が前記鉄骨部材に隅肉溶接されている接合構造。
【請求項2】
前記頭部の全周が前記鉄骨部材に隅肉溶接されている請求項1に記載の接合構造。
【請求項3】
前記ボルトにおける雄ネジ側の端部にナットが取り付けられている請求項1又は2に記載の接合構造。
【請求項4】
前記ボルトは、雄ネジ部の谷径が本来使用する頭付きスタッドの軸径と同等である請求項1~3のいずれか一項に記載の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨部材とコンクリート構造部とを接合する接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような接合構造としては、例えば、鉄骨部材の一例である断面H形に形成された鉄骨梁と、コンクリート構造部の一例であるコンクリートスラブとを、鉄骨梁における上フランジの上面に所定ピッチで配置された複数の頭付きスタッドを介して接合することで、鉄骨梁とコンクリートスラブとを強固に一体化させるようにしたものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、鉄骨部材とコンクリート構造部とを頭付きスタッドを介して接合するためには、頭付きスタッドを鉄骨部材にスタッド溶接する必要がある。そして、スタッド溶接を行うには、スタッド溶接の資格を有する溶接技能者やスタッド溶接用の専用機材を手配し、この手配に応じて作業工程を調整する必要があることから、コストの削減や工期の短縮などを図る上において改善の余地がある。
【0005】
又、近年では、作業現場での省力化や工期の短縮などを図るために、現場では、デッキプレートなどの型枠との兼ね合いで施工し難くなることのある鉄骨部材に対する頭付きスタッドの横向き姿勢でのスタッド溶接を、工場にて鉄骨柱や鉄骨梁などの鉄骨部材を製作する段階で行うことが多くなっている。しかしながら、鉄骨部材に対して横向き姿勢でスタッド溶接される頭付きスタッドの数量は少数になり易いのに対し、前述したように、スタッド溶接を行うにはスタッド溶接技能者や専用機材を手配する必要があることから、工場でのスタッド溶接に要する施工単価が高くなる。
【0006】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、鉄骨部材とコンクリート構造部との接合に頭付きスタッドを使用することで生じる不都合を改善しながら、鉄骨部材とコンクリート構造部とを強固に接合できるようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1特徴構成は、鉄骨部材とコンクリート構造部とを接合する接合構造であって、
前記鉄骨部材に突設されて前記コンクリート構造部に埋設されるボルトを備え、
前記ボルトは、その頭部側の端面が前記鉄骨部材に接する姿勢で、前記頭部の外周が前記鉄骨部材に隅肉溶接されている点にある。
【0008】
本発明によると、頭付きスタッドの代替としてボルトを鉄骨部材に備えることから、頭付きスタッドを使用することなく、又は、頭付きスタッドの使用数量を削減しながら、鉄骨部材とコンクリート構造部とを強固に接合して一体化させることができる。
そして、鉄骨部材に対するボルト頭部の隅肉溶接は、鉄骨柱や鉄骨梁などの鉄骨部材を製作するために工場や現場で作業している溶接工が、鉄骨部材の製作に使用する一般的な溶接機を利用することで容易に行うことができる。これにより、全ての頭付きスタッドをボルトに代替する場合には、頭付きスタッドを鉄骨部材にスタッド溶接するために必要なスタッド溶接技能者や専用機材の手配が不要になる。又、鉄骨部材にスタッド溶接される頭付きスタッドとして、現場ではデッキプレートなどの型枠との兼ね合いで施工し難くなることのある鉄骨部材に対する横向き姿勢の頭付きスタッドが含まれている場合には、ボルトを横向き姿勢の頭付きスタッドに代替すれば、スタッド溶接技能者や専用機材を手配することなく、工場での鉄骨部材の製作工程における適切なタイミングで合理的に必要数量のボルトを横向き姿勢で鉄骨部材に溶接することができる。よって、スタッド溶接工数の削減によるコストの削減や工期の短縮などを図ることができる。
しかも、例えばボルトの頭部を鉄骨部材に隅肉溶接する場合には、鉄骨部材の溶接対象面を上側にすれば、ボルトの頭部を溶接対象面に乗せた安定状態でボルトを自立させることができる。これにより、鉄骨部材の溶接対象面に対するボルト頭部の隅肉溶接が行い易くなる。
又、ボルトの頭部が鉄骨部材に溶接されることにより、雄ネジ部が鉄骨部材に溶接される場合よりも溶接長を長くすることができる。これにより、適正な溶接強度の確保が行い易くなる。
その結果、鉄骨部材とコンクリート構造部との接合に頭付きスタッドを使用することや使用する頭付きスタッドの数量が多くなることによるコストの高騰や工期の長期化などを改善しながら、鉄骨部材とコンクリート構造部とを強固に接合して一体化させることができる。
【0009】
本発明の第2特徴構成は、
前記頭部の全周が前記鉄骨部材に隅肉溶接されている点にある。
【0010】
本発明によると、各ボルト頭部の外周が鉄骨部材に断続して隅肉溶接される場合に比較して溶接長を長くすることができる。これにより、適正な溶接強度の確保が更に行い易くなる。
【0011】
本発明の第3特徴構成は、
前記ボルトにおける雄ネジ側の端部にナットが取り付けられている点にある。
【0012】
本発明によると、各ナットが頭付きスタッドの頭部に相当して、各ボルトとともにコンクリート構造部に埋設されることから、頭付きスタッドを使用した場合と同様に、鉄骨部材とコンクリート構造部とを強固に接合して一体化させることができる。
【0013】
本発明の第4特徴構成は、
前記ボルトは、雄ネジ部の谷径が本来使用する頭付きスタッドの軸径と同等である点にある。
【0014】
本発明によると、雄ネジ部のねじ切りによる断面欠損を考慮して、雄ネジ部の断面積を本来使用する頭付きスタッドの断面積と等価にすることができる。
その結果、適切なタイミングで鉄骨部材に容易に溶接することができるボルトを使用しながら、鉄骨部材とコンクリート構造部とを強固に接合して一体化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】鉄骨梁と床スラブとの接合構造を示す垂直断面図
【
図2】鉄骨梁のウェブにボルトの頭部が溶接された状態を示す要部の垂直断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態の一例として、本発明を、鉄骨部材の一例である鉄骨梁とコンクリート構造部の一例である床スラブとの接合構造に適用した実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、鉄骨部材は、鉄骨梁に限らずSC梁や構真柱などであってもよい。コンクリート構造部は、床スラブに限らず屋根スラブや構真台柱やコンクリート壁などであってもよい。
【0017】
図1には、所定間隔を置いて平行に配置された複数の鉄骨梁1のうち、高さ位置が異なる状態で隣接して配置された一対の鉄骨梁1A,1Bが示されている。
図1に示すように、各鉄骨梁1は、それらにわたって敷設された床スラブ2を支持している。各鉄骨梁1には、上下のフランジ1a,1bとそれらにわたるウェブ1cとを有するH形鋼が採用されている。なお、各鉄骨梁1は、H形鋼に限らずI形鋼や溝形鋼などであってもよい。
【0018】
図1に示すように、床スラブ2には、各鉄骨梁1の上フランジ1aに沿って水平方向に延びる平坦部2Aと、一対の鉄骨梁1A,1Bのうちの上位の鉄骨梁1Aの梁成に沿って上下方向に延びる段差部2Bとが備えられている。段差部2Bは、一対の鉄骨梁1A,1Bの高低差に応じた段差を有している。なお、床スラブ2は、段差のない平坦に形成されたものであってもよい。
【0019】
各鉄骨梁1には、床スラブ2の平坦部2Aに埋設される複数の頭付きスタッド3が備えられている。これにより、各鉄骨梁1と床スラブ2の平坦部2Aとの接合を強固にすることができる。各頭付きスタッド3は、各鉄骨梁1の上フランジ1aに、鉄骨梁1の材軸方向(長手方向)に所定間隔を置いた配置で、上フランジ1aの上面から上方に延びる縦向き姿勢で備えられている。各頭付きスタッド3は、スタッド溶接技能者がスタッド溶接ガンなどのスタッド溶接用の専用機材を使用して、鉄骨梁1の上フランジ1aにスタッド溶接することにより、上フランジ1aの上面に縦向き姿勢で備えられている。
【0020】
図1~2に示すように、前述した一対の鉄骨梁1A,1Bのうちの上位の鉄骨梁1A(以下、単に鉄骨梁1Aと称する)には、複数の頭付きスタッド3に加えて、床スラブ2の段差部2Bに埋設される複数のボルト4が備えられている。これにより、鉄骨梁1Aと床スラブ2の段差部2Bとの接合を強固にすることができる。各ボルト4は、鉄骨梁1Aのウェブ1cに、鉄骨梁1Aの材軸方向(長手方向)に所定間隔を置いた配置で、ウェブ1cから横外方に延びる横向き姿勢で備えられている。各ボルト4は、それらの頭部4A側の端面が鉄骨梁1Aのウェブ1cに接する姿勢で、各頭部4Aの全周が鉄骨梁1Aのウェブ1cに隅肉溶接されている。つまり、鉄骨梁1Aのウェブ1cには、頭付きスタッド3に代替して、複数のボルト4が、床スラブ2の段差部2Bとの接合を強固にする接合部材として横向き姿勢で備えられている。
【0021】
各頭付きスタッド3には、それらが溶接される鉄骨梁1の上フランジ1aの板厚に適した軸径を有するものが採用されている。各ボルト4には、それらの雄ネジ部4Bの谷径が本来使用する頭付きスタッド3の軸径と同等になる中ボルトが採用されている。各ボルト4における雄ネジ側の端部には、各ボルト4とともに床スラブ2の段差部2Bに埋設されるナット5が螺合されている。
【0022】
つまり、本実施形態においては、床スラブ2の平坦部2Aに埋設される複数の頭付きスタッド3が各鉄骨梁1の上フランジ1aに備えられ、かつ、床スラブ2の段差部2Bに埋設される複数のボルト4が鉄骨梁1Aのウェブ1cに備えられている。これにより、鉄骨梁1Aのウェブ1cには複数の頭付きスタッド3を備えることなく、段差部2Bを有する床スラブ2を、その段差部2Bを含めて各鉄骨梁1に強固に接合して一体化させることができる。
【0023】
又、本実施形態においては、各ボルト4における頭部4Aの全周が鉄骨梁1Aのウェブ1cに隅肉溶接されることで、各ボルト4が鉄骨梁1Aのウェブ1cに横向き姿勢で備えられている。そして、このような溶接作業は、工場や現場に備えられた一般的な溶接機を使用して鉄骨柱や鉄骨梁1の加工などを行う溶接工によって容易に行うことができる。
【0024】
しかも、鉄骨梁1Aのウェブ1cに対する各ボルト4の溶接を工場で行うようにすれば、現場で行う場合に生じる虞のある、デッキプレートなどの型枠との兼ね合いで溶接作業が行い難くなる、といった施工効率の低下を回避しながら、工場での鉄骨梁1Aの製作工程における適切なタイミングで必要数量のボルト4を鉄骨梁1Aのウェブ1cに合理的に溶接することができる。そして、鉄骨梁1Aのウェブ1cには、頭付きスタッド3ではなくボルト4を溶接することから、少数施工になり易い工場での鉄骨梁1Aのウェブ1cに対する頭付きスタッド3のスタッド溶接のために、スタッド溶接技能者や専用機材を手配する必要もなくなる。
【0025】
その上、各ボルト4の頭部4Aを鉄骨梁1Aのウェブ1cに溶接する場合には、ウェブ1cの溶接対象面を上側にすれば、ボルト4の頭部4Aを溶接対象面に乗せた安定状態でボルト4を自立させることができる。これにより、ウェブ1cの溶接対象面に対するボルト頭部4Aの溶接が行い易くなる。そして、各ボルト4においては、それらの頭部4Aの全周が鉄骨梁1Aのウェブ1cに隅肉溶接されていることから、各頭部4Aの外周が鉄骨梁1Aのウェブ1cに断続して隅肉溶接される場合に比較して溶接長を長くすることができる。これにより、適正な溶接強度の確保が行い易くなる。
【0026】
更に、各ボルト4における雄ネジ側の端部には、頭付きスタッド3の頭部に相当するナット5が螺合されており、これらのナット5が各ボルト4とともに床スラブ2の段差部2Bに埋設されることから、頭付きスタッド3を使用した場合と同様に、鉄骨梁1Aと床スラブ2の段差部2Bとを強固に接合して一体化させることができる。
【0027】
そして、各ボルト4においては、それらの雄ネジ部4Bの谷径が本来使用する頭付きスタッド3の軸径と同等であることから、雄ネジ部4Bのねじ切りによる断面欠損にかかわらず、雄ネジ部4Bの断面積を本来使用する頭付きスタッド3の断面積と等価にすることができる。
【0028】
その結果、各鉄骨梁1Aと床スラブ2との接合に使用する頭付きスタッド3の数量を削減することによるコストの削減や工期の短縮などを図りながら、各鉄骨梁1Aと床スラブ2とを強固に接合して一体化させることができる。
【0029】
〔別実施形態〕
本発明の別実施形態について説明する。
なお、以下に説明する各別実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、上記の実施形態や他の別実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0030】
(1)上記の実施形態においては、鉄骨部材とコンクリート構造部との接合構造として、鉄骨梁1Aのウェブ1cに備えられる複数の頭付きスタッド3のみがボルト4に代替されたものを例示したが、これに限らず、各鉄骨梁1に備えられる全ての頭付きスタッド3がボルト4に代替されたものであってもよい。
この接合構造においては、頭付きスタッド3を鉄骨梁1にスタッド溶接するために必要なスタッド溶接技能者や専用機材の手配を不要にすることができ、スタッド溶接の廃止によるコストの削減や工期の短縮などを図ることができる。
【0031】
(2)上記の実施形態においては、鉄骨部材とコンクリート構造部との接合構造として、各ボルト4における頭部4Aの全周が鉄骨梁1に隅肉溶接されたものを例示したが、これに限らず、各ボルト4における頭部4Aの外周が鉄骨梁1に断続して隅肉溶接されたものであってもよい。
この接合構造においては、各ボルト4における頭部4Aの全周が鉄骨梁1に隅肉溶接される場合に比較して、各ボルト4の溶接に要する手間の削減による工期の短縮などを図ることができる。
【0032】
(3)上記の実施形態においては、鉄骨部材とコンクリート構造部との接合構造として、各ボルト4における雄ネジ側の端部にナット5が取り付けられたものを例示したが、これに限らず、各ボルト4における雄ネジ側の端部にナット5が取り付けられていないものであってもよい。
【0033】
(4)上記の実施形態においては、鉄骨部材とコンクリート構造部との接合構造として、各ボルト4に中ボルトが採用されたものを例示したが、これに限らず、各ボルト4に高力ボルトが採用されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 鉄骨梁(鉄骨部材)
2 床スラブ(コンクリート構造部)
3 頭付きスタッド
4 ボルト
4A 頭部
4B 雄ネジ部
5 ナット