(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 59/00 20060101AFI20240329BHJP
C08K 5/30 20060101ALI20240329BHJP
C08K 5/3445 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C08L59/00
C08K5/30
C08K5/3445
(21)【出願番号】P 2020117707
(22)【出願日】2020-07-08
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】523168917
【氏名又は名称】グローバルポリアセタール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】藤本 邦彦
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-263921(JP,A)
【文献】特開2017-206665(JP,A)
【文献】国際公開第2015/115386(WO,A1)
【文献】特開2006-045331(JP,A)
【文献】特開2010-189463(JP,A)
【文献】特開2005-171158(JP,A)
【文献】特開2007-070574(JP,A)
【文献】特開2017-025257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂100質量部に対して、式(1)で表される化合物および式(2)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種のジヒドラゾン化合物0.02~1質量部と、
式(N)で表される骨格を有する尿素化合物0.
3~0.5質量部とを含む、樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1は、
ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、または、ノニレン基を表す。R
2~R
5は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基を表し、R
2およびR
3のうち少なくとも一方はメチル基またはエチル基を表し、R
4およびR
5のうち少なくとも一方はメチル基またはエチル基を表す。)
【化2】
(式(2)中、R
8は、
ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、または、ノニレン基を表す。R
6およびR
7は、それぞれ独立に、炭素数3~12の脂環式炭化水素基を表す。)
【化3】
【請求項2】
ポリアセタール樹脂100質量部に対して、式(1)で表される化合物および式(2)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種のジヒドラゾン化合物0.02~1質量部と、
エチレン尿素0.1~0.5質量部とを含む、樹脂組成物。
【化4】
(式(1)中、R
1は、
ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、または、ノニレン基を表す。R
2~R
5は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基を表し、R
2およびR
3のうち少なくとも一方はメチル基またはエチル基を表し、R
4およびR
5のうち少なくとも一方はメチル基またはエチル基を表す。)
【化5】
(式(2)中、R
8は、
ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、または、ノニレン基を表す。R
6およびR
7は、それぞれ独立に、炭素数3~12の脂環式炭化水素基を表す。)
【請求項3】
前記ポリアセタール樹脂100質量部に対する、前記
エチレン尿素の含有量が0.4質量部
以下である、請求項
2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記尿素化合物がエチレン尿素および/またはアラントインを含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記尿素化合物がエチレン尿素を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリアセタール樹脂100質量部に対する、前記尿素化合物の含有量が0.4質量部
以下である、請求項1
、4および5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
式(1)において、R
2およびR
4がエチル基であり、R
3およびR
5が水素原子であるか、R
2およびR
4がメチル基であり、R
3およびR
5が水素原子またはメチル基である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリアセタール樹脂100質量部に対する、前記ジヒドラゾン化合物の含有量が0.05~0.4質量部である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および成形品に関する。特に、ポリアセタール樹脂を用いた樹脂組成物および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジニアリングプラスチックスであるポリアセタール樹脂は、優れた機械的性質、摺動特性、摩擦・磨耗特性、耐熱性、成形加工性などを有している。このため、ポリアセタール樹脂を主成分として含む樹脂組成物は、自動車、OA機器などの各種機械部品や電気部品等に広く用いられている。
しかしながら、ポリアセタール樹脂は、その主原料にホルムアルデヒドを使用するため、加工成形時等における熱履歴によって僅かながら熱分解反応を起こし、極めて微量ながらもホルムアルデヒドを発生させる。ここで、ホルムアルデヒドは、シックハウス症候群等を引き起こす可能性があるとされているため、ホルムアルデヒドの発生が十分に抑制された樹脂組成物が求められている。さらに、成形におけるホルムアルデヒドの発生は金型表面でパラホルムアルデヒドを生成させ、金型汚染(モールドデポジット)の原因ともなる。そして、このようなホルムアルデヒドの発生や金型汚染を抑制することが検討されており、例えば、特許文献1~3が例示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/115386号
【文献】特開2007-070574号公報
【文献】特開2005-171158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のとおり、ポリアセタール樹脂におけるホルムアルデヒドの発生や金型汚染の抑制は検討されているが、本発明者が検討したところ、成形時に成形機内にポリアセタール樹脂が長い時間滞留した場合に、ホルムアルデヒドの発生が顕著になってしまう場合があることが分かった。すなわち、成形時のポリアセタール樹脂の滞留時間が短い場合には、ホルムアルデヒドの発生が抑制できても、滞留時間が長くなった場合に、ホルムアルデヒドの発生を抑制できない場合があることが分かった。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、成形時に成形機内における滞留時間が長くても、ホルムアルデヒドの発生を抑制でき、かつ、金型汚染を抑制できる、樹脂組成物および成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、ポリアセタール樹脂とジヒドラゾン化合物に加え、尿素化合物を配合することにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリアセタール樹脂100質量部に対して、式(1)で表される化合物および式(2)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種のジヒドラゾン化合物0.02~1質量部と、尿素化合物0.02~0.5質量部とを含む、樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1は、炭素数4~20の脂肪族炭化水素基、炭素数6~10の脂環式炭化水素基または炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。R
2~R
5は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基を表し、R
2およびR
3のうち少なくとも一方はメチル基またはエチル基を表し、R
4およびR
5のうち少なくとも一方はメチル基またはエチル基を表す。)
【化2】
(式(2)中、R
8は、炭素数4~20の脂肪族炭化水素基、炭素数6~10の脂環式炭化水素基または炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。R
6およびR
7は、それぞれ独立に、炭素数3~12の脂環式炭化水素基を表す。)
<2>前記尿素化合物が式(N)で表される骨格を有する化合物を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
【化3】
<3>前記尿素化合物がエチレン尿素および/またはアラントインを含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<4>前記尿素化合物がエチレン尿素を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<5>式(1)において、R
1が炭素数6~12の脂肪族炭化水素基であり、式(2)において、R
8が炭素数6~12の脂肪族炭化水素基である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>式(1)において、R
2およびR
4がエチル基であり、R
3およびR
5が水素原子であるか、R
2およびR
4がメチル基であり、R
3およびR
5が水素原子またはメチル基である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記ポリアセタール樹脂100質量部に対する、前記ジヒドラゾン化合物の含有量が0.05~0.4質量部である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<8>前記ポリアセタール樹脂100質量部に対する、前記尿素化合物の含有量が0.05~0.4質量部である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9><1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、成形時に成形機内における滞留時間が長くても、ホルムアルデヒドの発生を抑制でき、かつ、金型汚染を抑制できる、樹脂組成物および成形品を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さない基(原子団)と共に置換基を有する基(原子団)をも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。本明細書では、置換および無置換を記していない表記は、無置換の方が好ましい。
【0008】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、式(1)で表される化合物および式(2)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種のジヒドラゾン化合物0.02~1質量部と、尿素化合物0.02~0.5質量部とを含むことを特徴とする。このような構成とすることにより、成形時に成形機内における滞留時間が長くても、ホルムアルデヒドの発生を抑制でき、かつ、金型汚染を抑制できる。実際の製品の製造現場では、成形機のトラブル、成形の条件を変更した場合、大きい成形機を使用して小さい成形品を成形する場合など、滞留時間が長くなる場合がある。本実施形態の樹脂組成物は、滞留時間が長くなっても、ホルムアルデヒドの発生を効果的に抑制できるため、有益である。
【化4】
(式(1)中、R
1は、炭素数4~20の脂肪族炭化水素基、炭素数6~10の脂環式炭化水素基または炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。R
2~R
5は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基を表し、R
2およびR
3のうち少なくとも一方はメチル基またはエチル基を表し、R
4およびR
5のうち少なくとも一方はメチル基またはエチル基を表す。)
【化5】
(式(2)中、R
8は、炭素数4~20の脂肪族炭化水素基、炭素数6~10の脂環式炭化水素基または炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。R
6およびR
7は、それぞれ独立に、炭素数3~12の脂環式炭化水素基を表す。)
【0009】
<ポリアセタール樹脂>
本実施形態の樹脂組成物はポリアセタール樹脂を含む。
ポリアセタール樹脂は、その種類等、特に限定されるものではなく、2価のオキシメチレン基のみを構成単位として含むホモポリマーであっても、2価のオキシメチレン基と炭素数が2以上の2価のオキシアルキレン基とを構成単位として含むコポリマーであってもよい。
炭素数が2以上のオキシアルキレン基としては、例えばオキシエチレン基、オキシプロピレン基、および、オキシブチレン基などが挙げられる。
【0010】
ポリアセタール樹脂においては、オキシメチレン基および炭素数2以上のオキシアルキレン基の総モル数に占める炭素数2以上のオキシアルキレン基の割合は特に限定されるものではなく、例えば、0.5~10モル%であればよい。オキシアルキレン基中の炭素数は2以上であればよいが、好ましくは6以下であり、より好ましくは4以下である。
【0011】
上記ポリアセタール樹脂を製造するためには通常、主原料としてトリオキサンが用いられる。また、ポリアセタール樹脂中に炭素数2~6のオキシアルキレン基を導入するには、例えば環状ホルマールや環状エーテルを用いることができる。環状ホルマールの具体例としては、1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、1,3-ジオキセパン、1,3-ジオキソカン、1,3,5-トリオキセパンおよび1,3,6-トリオキソカン等が挙げられる。環状エーテルの具体例としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシドおよびブチレンオキシド等が挙げられる。ポリアセタール樹脂中にオキシエチレン基を導入するには、例えば1,3-ジオキソランを用いればよく、オキシプロピレン基を導入するには、1,3-ジオキサンを用いればよく、オキシブチレン基を導入するには、1,3-ジオキセパンを導入すればよい。
【0012】
なお、ポリアセタール樹脂においては、ヘミホルマール末端基量、ホルミル末端基量、熱や酸、塩基に対して不安定な末端基量が少ない方がよい。ここで、ヘミホルマール末端基とは、-OCH2OHで表されるものであり、ホルミル末端基とは-CHOで表されるものである。
【0013】
上記ポリアセタール樹脂のMI(メルトインデックス)値は、特に制限されるものではないが、通常0.01~150g/10分であり、中でも0.1~100g/10分であることが好ましく、1~70g/10minであることがより好ましい。この場合、ポリアセタール樹脂のMI値が上記範囲を外れる場合に比べて、射出成形機で成形する場合の樹脂組成物の成形性がより良好となる。なお、ポリアセタール樹脂のMI値は、ASTM-D1238に基づいて、190℃、荷重2.16kgの条件下にて測定されたMI値をいう。
【0014】
本実施形態の樹脂組成物におけるポリアセタール樹脂の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが一層好ましく、98質量%以上であることがより一層好ましい。また、ポリアセタール樹脂の含有量の上限は、ジヒドラゾン化合物および尿素化合物以外の成分がすべてポリアセタール樹脂となる量である。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0015】
<ジヒドラゾン化合物>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、式(1)で表される化合物および式(2)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種のジヒドラゾン化合物0.02~1質量部を含む。ジヒドラゾン化合物を含むことにより、金型汚染を抑制しつつ、ホルムアルデヒドの発生を効果的に抑制することができる。
【化6】
(式(1)中、R
1は、炭素数4~20の脂肪族炭化水素基、炭素数6~10の脂環式炭化水素基または炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。R
2~R
5は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基を表し、R
2およびR
3のうち少なくとも一方はメチル基またはエチル基を表し、R
4およびR
5のうち少なくとも一方はメチル基またはエチル基を表す。)
【化7】
(式(2)中、R
8は、炭素数4~20の脂肪族炭化水素基、炭素数6~10の脂環式炭化水素基または炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。R
6およびR
7は、それぞれ独立に、炭素数3~12の脂環式炭化水素基を表す。)
【0016】
式(1)中、R1は、炭素数4~20の脂肪族炭化水素基、炭素数6~10の脂環式炭化水素基または炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表し、炭素数4~20の脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
【0017】
上記脂肪族炭化水素基は、飽和または不飽和であってもよく、直鎖状または分岐状であってもよく、直鎖状のアルキレン基であることがより好ましい。
脂肪族炭化水素基の具体例としては、例えばブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基、ノナデシレン基およびイコシレン基などのアルキレン基などが挙げられる。
上記脂肪族炭化水素基は炭素数6~12の脂肪族炭化水素基(好ましくは炭素数6~12の直鎖のアルキル基)であることが好ましい。この場合、ジヒドラゾン化合物とホルムアルデヒドとの反応性がより高くなり、ホルムアルデヒドの発生がより効果的に抑制される。また、成形加工時の金型の汚染をより十分に抑制できる。
【0018】
上記脂環式炭化水素基は、飽和または不飽和であってもよい。
脂環式炭化水素基としては、炭素数6~10のシクロアルキレン基などが挙げられる。シクロアルキレン基としては、例えばシクロへキシルレン基などが挙げられる。
【0019】
芳香族炭化水素基としては、例えばフェニレン基およびナフチレン基などのアリーレン基が挙げられる。
芳香族炭化水素基の炭素原子の少なくとも一部に置換基が結合していてもよい。この置換基としては、例えばハロゲン基、ニトロ基、炭素数1~20のアルキル基などが挙げられる。
【0020】
式(1)において、R2~R5は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基を表し、R2およびR3のうち少なくとも一方はメチル基またはエチル基を表し、R4およびR5のうち少なくとも一方はメチル基またはエチル基を表す。
式(1)において、R2およびR4がエチル基であり、R3およびR5が水素原子であるか、R2およびR4がメチル基であり、R3およびR5が水素原子またはメチル基であることが好ましく、R2~R5のいずれもメチル基であることがより好ましい。この場合、ジヒドラゾン化合物とホルムアルデヒドとの反応性がより高くなり、ホルムアルデヒドの発生がより効果的に抑制される。また、成形加工時の金型の汚染をより十分に抑制できる。
【0021】
式(1)で表されるジヒドラゾン化合物の具体例としては、例えば1,12-ビス[2-(1-メチルエチリデン)ヒドラジノ]]-1,12-ドデカンジオン、1,12-ビス(2-エチリデンヒドラジノ)-1,12-ドデカンジオン、1,12-ビス(2-プロピリデンヒドラジノ)-1,12-ドデカンジオン、1,12-ビス[2-(1-メチルプロピリデン)ヒドラジノ]-1,12-ドデカンジオン、1,12-ビス[2-(1-エチルプロピリデン)ヒドラジノ]-1,12-ドデカンジオン、1,10-ビス[2-(1-メチルエチリデン)ヒドラジノ]]-1,10-デカンジオン、1,10-ビス(2-プロピリデンヒドラジノ)-1,10-デカンジオン、1,10-ビス(2-プロピリデンヒドラジノ)-1,10-デカンジオン、1,10-ビス[2-(1-メチルプロピリデン)ヒドラジノ]-1,10-デカンジオン、1,10-ビス[2-(1-エチルプロピリデン)ヒドラジノ]-1,10-デカンジオン、1,6-ビス[2-(1-メチルエチリデン)ヒドラジノ]-1,6-ヘキサンジオン、1,6-ビス(2-エチリデンヒドラジノ)-1,6-ヘキサンジオン、1,6-ビス(2-プロピリデンヒドラジノ)-1,6-ヘキサンジオン、1,6-ビス[2-(1-メチルプロピリデン)ヒドラジノ]-1,6-ヘキサンジオン、1,6-ビス[2-(1-エチルプロピリデン)ヒドラジノ]-1,6-ヘキサンジオン、1,3-ビス[2-(1-メチルエチリデン)ヒドラジノカルボニル]ベンゼンなどが挙げられる。
【0022】
式(2)において、R8は、炭素数4~20の脂肪族炭化水素基、炭素数6~10の脂環式炭化水素基または炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。式(2)において、R8は、式(1)におけるR1と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0023】
R6およびR7はそれぞれ独立に、炭素数3~12の脂環式炭化水素基を表す。
炭素数3~12の脂環式炭化水素基としては、炭素数3~12のシクロアルキル基が好ましく、シクロヘキシル基がより好ましい。
式(2)で表されるジヒドラゾン化合物の具体例としては、例えば1,12-ビス(2-シクロヘキシリデンヒドラジノ)-1,12-ドデカンジオン、1,10-ビス(2-シクロヘキシリデンヒドラジノ)-1,10-デカンジオン、1,6-ビス(2-シクロヘキシリデンヒドラジノ)-1,6-ヘキサンジオンなどが挙げられる。
【0024】
本実施形態の樹脂組成物におけるジヒドラゾン化合物の含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対し、0.02質量部以上であり、0.05質量部以上であることが好ましく、0.07質量部以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、滞留時間が長い場合のホルムアルデヒドの発生をより効果的に抑制できる傾向にある。また、前記ジヒドラゾン化合物の含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対し、1質量部以下であり、0.8質量部以下であることが好ましく、0.4質量部以下であることがより好ましく、0.2質量部以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、金型汚染をより効果的に抑制できる傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、式(1)で表される化合物および式(2)で表される化合物について、いずれか1種または2種以上を含んでいてもよし、それぞれ、1種または2種以上を含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0025】
<尿素化合物>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、尿素化合物0.02~0.5質量部を含む。尿素化合物を含むことにより、金型汚染を抑制しつつ、ポリアセタール樹脂を成形機に長時間滞留させた場合でもホルムアルデヒドの発生を効果的に抑制することができる。
【0026】
本実施形態で用いる尿素化合物は、-(HN)
2C(=O)構造を有する化合物を意味し、その種類等特に定めるものではない。
本実施形態で用いる尿素化合物は、式(N)で表される骨格を有する化合物を含むことが好ましい。このような構造を有する化合物を用いることにより、ポリアセタール樹脂を成形機に長時間滞留させた場合に、より顕著にホルムアルデヒドの発生を抑制することができる。
【化8】
ここで、式(N)で表される骨格を有する化合物とは、式(N)で表される化合物(エチレン尿素)の他、上記式(N)の環状構造を形成している窒素原子および/または炭素原子に結合している水素原子が置換基によって置換されている構造を有する化合物を含む趣旨である。置換基を有する場合、炭素原子に結合している水素原子が置換基によって置換されていることが好ましい。置換基としては、酸素原子(=O)、ウレア基、メチル基が例示される。
【0027】
本実施形態で用いる尿素化合物の分子量は、60以上であることが好ましく、86以上であることがより好ましい。また、上限値は、500以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、200以下であることがさらに好ましい。
尿素化合物としては、尿素、エチレン尿素、アラントイン、ビウレアが例示され、エチレン尿素および/またはアラントインを含むことが好ましく、エチレン尿素を含むことがより好ましい。
【0028】
本実施形態の樹脂組成物における尿素化合物の含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対し、0.02質量部以上であり、0.04質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.08質量部以上であることがさらに好ましく、0.16質量部以上であることが一層好ましく、0.2質量部以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、ホルムアルデヒドの発生、特に、成形機における滞留時間が長い場合のホルムアルデヒドの発生をより効果的に抑制できる傾向にある。本実施形態の樹脂組成物における尿素化合物の含有量は、また、ポリアセタール樹脂100質量部に対し、1質量部以下であり、0.8質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以下であることがより好ましく、0.4質量部以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、金型汚染の抑制効果がより効果的に発揮される。
本実施形態の樹脂組成物は、尿素化合物を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0029】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物には、上記各成分以外の他の成分を含んでいてもよい。具体的には、他の成分として、官能基含有化合物(メラミン化合物等)、無機充填剤、熱安定剤、酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、潤滑剤、結晶核剤、帯電防止剤、抗菌剤、着色剤(顔料、染料)等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合せて用いることができる。
また、本実施形態における樹脂組成物は、無機充填剤を実質的に含まない構成とすることができる。実質的に含まないとは、本実施形態における樹脂組成物の無機充填剤の含有量が1質量%未満であることをいう。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂、式(1)で表される化合物および式(2)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種のジヒドラゾン化合物と、尿素化合物と、必要に応じ配合されるその他の成分の合計が100質量%となるように配合される。また、ポリアセタール樹脂、式(1)で表される化合物および式(2)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種のジヒドラゾン化合物と、尿素化合物の合計量が樹脂組成物の95~100質量%を占めることが好ましく、99~100質量%を占めることがより好ましい。
【0030】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、樹脂組成物の調製法として従来から知られた各種の方法により調製することができる。例えば、(1)樹脂組成物を構成する全成分を混合し、これを押出機に供給して溶融混練し、ペレット状の組成物を得る方法、(2)樹脂組成物を構成する成分の一部を押出機の主フィード口から、残余成分をサイドフィード口から供給して溶融混練し、ペレット状の組成物を得る方法、(3)押出し等により一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを混合して所定の組成に調整する方法、(4)ポリアセタール樹脂のペレットまたは粉砕物に所定量の配合成分を混合するか、ポリアセタール樹脂のペレットまたは粉砕物の表面に所定量の配合成分をコーティングして所定の樹脂組成物を得る方法などが採用できる。
【0031】
<成形品>
本実施形態には、本実施形態の樹脂組成物から形成された成形品も含まれる。本実施形態における成形品は、特定のジヒドラゾン化合物と尿素化合物が配合されていることにより、ホルムアルデヒドの発生が大幅に抑制される。特に、成形機内での滞留時間が長い場合においても、ホルムアルデヒドの発生を効果的に抑制できる。
本実施形態の樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形などの公知の成形方法により成形可能である。
【0032】
本実施形態の樹脂組成物および成形品は、ホルムアルデヒド発生量の低減が強く求められる用途、例えば自動車部品、電気・電子部品、精密機械部品、建材・配管部品、日用品、化粧品用部品、医療用機器部品などに好適に使用できる。
より具体的には、自動車部品としては、インナーハンドル、フェーエルトランクオープナー、シートベルトバックル、アシストラップ、各種スイッチ、ノブ、レバー、クリップなどの内装部品、メーターやコネクターなどの電気系統部品、オーディオ機器やカーナビゲーション機器などの車載電気・電子部品、ウインドウレギュレーターのキャリアープレートに代表される金属と接触する部品、ドアロックアクチェーター部品、ミラー部品、ワイパーモーターシステム部品、燃料系統の部品などの機構部品が例示できる。
【0033】
電気・電子部品としては、金属接点が多数存在する機器の構成部品または部材、例えば、カセットテープレコーダ、CD・DVDプレイヤーなどのオーディオ機器、VTR、8mmビデオカメラ、デジタルビデオカメラなどのビデオ機器、コピー機、ファクシミリ、ワードプロセサー、コンピューターなどのOA機器などの構成部品または部材が例示できる。これらの構成部品または部材の具体例としては、シャーシ、ギヤー、レバー、カム、プーリー、軸受けなどが挙げられる。さらに、少なくとも一部が成形品で構成された光および磁気メディア部品、例えば、音楽用メタルテープカセット、デジタルオーディオテープカセット、8mmビデオテープカセット、デジタルビデオカセット、フロッピーディスクカートリッジ、ミニディスクカートリッジ、DVDディスクカートリッジなどの部品にも適用可能である。
【0034】
さらに、本実施形態の成形品は、照明器具、建具、配管、コック、蛇口、トイレ周辺機器部品などの建材・配管部品、ファスナー類、文具、リップクリーム・口紅容器、洗浄器、浄水器、スプレーノズル、スプレー容器、エアゾール容器、一般的な容器、注射針のホルダーなどの広範な生活関係部品・化粧関係部品・医療用関係部品に好適に使用される。
【0035】
特に自動車分野においては、車内が閉じられた環境下に置かれる場合が多く、また、車内が相当の高温に達する場合もあり、ホルムアルデヒド発生量の少ない本実施形態の樹脂組成物はかかる分野の成形品に特に好適に用いられるものである。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0037】
原料
POM:A:トリオキサンと1,3-ジオキソランとを、POM中の1,3-ジオキソランの含有率が4.2質量%(オキシエチレン基量として1.75mol%)となるように共重合して得られたアセタールコポリマーであって、メルトインデックス(ASTM-D1238規格:190℃、2.16kg)が10.5g/10分であるアセタールコポリマー、三菱エンジニアリングプラスチックス社製
ジヒドラゾン化合物B-1:1,6-ビス[2-(1-メチルエチリデン)ヒドラジノ]-1,6-ヘキサンジオン、日本ファインケム社製
【化9】
ジヒドラゾン化合物B-2:1,12-ビス(2-シクロヘキシリデンヒドラジノ)-1,12-ドデカンジオン、日本ファインケム社製
【化10】
ジヒドラゾン化合物B-3:1,12-ビス(2-エチリデンヒドラジノ)-1,12-ドデカンジオン、日本ファインケム社製
【化11】
ジヒドラゾン化合物B-4:1,12-ビス[2-(1-メチルエチリデン)ヒドラジノ]-1,12-ドデカンジオン、日本ファインケム社製
【化12】
ジヒドラゾン化合物B-5:1,3-ビス[2-(1-メチルエチリデン)ヒドラジノカルボニル]ベンゼン、日本ファインケム社製
【化13】
尿素化合物C-1:エチレン尿素、東京化成工業社製
【化14】
尿素化合物C-2:アラントイン、東京化成工業社製
【化15】
尿素化合物C-3:尿素、東京化成工業社製
【0038】
実施例1~21、比較例1~5
ポリアセタール樹脂、ジヒドラゾン化合物および尿素化合物を表1~4に示す配合割合で、川田製作所社製スーパーミキサーを用いて均一に混合したのち、2軸押出機(池貝鉄工社製PCM-30、スクリュー径30mm)を用いて、スクリュー回転数120rpm、シリンダー設定温度190℃の条件下で溶融混練したのち、ストランドに押出し、ペレタイザーにてカットすることで樹脂組成物(ペレット)を製造した。
【0039】
[特性評価]
(1)ホルムアルデヒド発生の抑制効果
ホルムアルデヒド発生の抑制効果については、ホルムアルデヒド発生量を測定し、そのホルムアルデヒド発生量に基づいて評価した。ホルムアルデヒド発生量については以下に示すようにして求めた。
<平板試験片の作製>
実施例1~21および比較例1~5で得られたペレットを用い、住友重機械工業社製、SE-30を用い、温度215℃に昇温したシリンダー内で、1分間加熱した後、金型温度80℃にて、射出成形し、100mm×40mm×2mmの平板試験片を作製した。また、シリンダー内で10分間加熱した以外は同様に行った平板試験片も作製した。
【0040】
<ホルムアルデヒド発生量の測定>
上記平板試験片を23℃、相対湿度50%の雰囲気下に24時間静置した後に、上記平板試験片につき、ドイツ自動車工業組合規格VDA275(自動車室内部品-改訂フラスコ法によるホルムアルデヒド放出量の定量)に記載された方法に準拠して、下記の方法により、ポリアセタール樹脂1g中のホルムアルデヒド発生量(単位:μg/g-POM)を測定した。
(i)ポリエチレン容器中に蒸留水50mLを入れ、上記平板試験片を空中に吊るした状態で蓋を閉め、密閉状態で60℃にて3時間加熱した。
(ii)室温で60分間放置した後、平板試験片を取り出した。
(iii)ポリエチレン容器内の蒸留水中に吸収されたホルムアルデヒド量を、UVスペクトロメーターにより、アセチルアセトン比色法で測定し、このホルムアルデヒド量を平板試験片中のPOMの質量で除した値をホルムアルデヒド発生量とした。
表1~表4において、シリンダー内で、1分間加熱した平板試験片のホルムアルデヒド発生量を「1分後HCHO発生量」、10分間加熱した平板試験片のホルムアルデヒド発生量を「10分後HCHO発生量」として表1~4に示した。
なお、ホルムアルデヒド発生抑制効果に関する合否の基準は下記の通りである。
ホルムアルデヒド発生量が10.0μg/g-POM以下 :合格
ホルムアルデヒド発生量が10.0μg/g-POM超 :不合格
【0041】
(2)金型汚染抑制効果(MD、モールドデポジット)
金型汚染抑制効果については以下のようにして評価した。
まず、住友重機械工業社製ミニマットM8/7A成形機を用い、しずく型金型を用いて、実施例1~21および比較例1~5で得られたペレットを、成形温度200℃、金型温度40℃で2000ショット連続成形した。成形終了後、金型の内壁面の状態を肉眼で観察した。金型汚染抑制効果に関する基準は以下の通りとした。実施例4の評価を「C」としてこれを基準とすることとした。また、5人の専門家が肉眼で観察し、多数決で判断した。
A:金型付着物が全くなく、金型汚染抑制効果は極めて良好
B:金型付着物が殆ど少なく、金型汚染抑制効果は極めて良好
C:金型付着物が少しあるものの、金型汚染抑制効果は良好
D:金型付着物が多く、金型汚染抑制効果は不良
ここで、A~Cについては合格とし、Dについては不合格である。
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
上記結果から明らかなとおり、本発明の樹脂組成物は、シリンダー内での滞留時間が長くても、ホルムアルデヒドの発生を効果的に抑制できた。特に、所定の環状構造を有する尿素化合物を採用することにより、シリンダー内での滞留時間が長くても、ホルムアルデヒドの発生を顕著に抑制できた(実施例1~21、特に、実施例1~20)。
これに対し、尿素化合物を含まない場合(比較例1、2)、ホルムアルデヒドの発生、特に、シリンダー内での滞留時間が長い場合のホルムアルデヒドの発生が著しかった。
また、ジヒドラゾン化合物の含有量が多い場合(比較例3)あるいは尿素化合物の含有量が多い場合(比較例4,5)、金型汚染(MD)が著しかった。