(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】杭引抜工法
(51)【国際特許分類】
E02D 9/02 20060101AFI20240329BHJP
E02D 13/00 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
E02D9/02
E02D13/00 Z
(21)【出願番号】P 2020179383
(22)【出願日】2020-10-27
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】上田 昌弘
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-040175(JP,A)
【文献】特開2001-003363(JP,A)
【文献】特開2020-023788(JP,A)
【文献】特開2011-179210(JP,A)
【文献】特開2017-025534(JP,A)
【文献】特開2009-256999(JP,A)
【文献】特開2014-163213(JP,A)
【文献】特開平10-212724(JP,A)
【文献】特開2001-107355(JP,A)
【文献】特開平03-125712(JP,A)
【文献】特開平08-134897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 9/02
E02D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設杭を引き抜く杭引抜工法であって、
前記既設杭の周囲に位置するように筒状のケーシングを挿入するケーシング挿入工程と、
前記ケーシング内の前記既設杭を引き抜く杭引抜工程と、
攪拌を行うためのオーガを前記ケーシング内に挿入するオーガ挿入工程と、
前記ケーシングの下端部よりも下側において、前記オーガの先端部を前記ケーシングの内径よりも大径となるように拡底させる拡底工程と、
前記オーガで攪拌しつつ前記オーガ及び前記ケーシングを引き抜く機器引抜工程と、を含み、
前記機器引抜工程では、少なくともセメントミルク及び地盤の土を攪拌する、
杭引抜工法。
【請求項2】
前記ケーシング挿入工程では、セメントミルクもしくは水もしくは水とベントナイトの混合液を出力する、
請求項1に記載の杭引抜工法。
【請求項3】
前記オーガ挿入工程では、セメントミルクを出力する、
請求項1又は2に記載の杭引抜工法。
【請求項4】
前記機器引抜工程では、セメントミルクを出力する、
請求項1から3の何れか一項に記載の杭引抜工法。
【請求項5】
前記杭引抜工程の後に、前記既設杭が引き抜かれた箇所を所定の埋戻し材で埋め戻す埋戻工程、を更に含む、
請求項1から4の何れか一項に記載の杭引抜工法。
【請求項6】
前記埋戻し材が土又は泥である場合、
前記機器引抜工程では、前記埋戻し材も攪拌する、
請求項5に記載の杭引抜工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭引抜工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既設杭を引き抜く工法として、輪投げ工法が知られていた。この工法においては、既設杭の周囲に縁切り用のケーシングを挿入することにより、既設杭を地盤から縁切りし、当該ケーシングを撤去した後に、既設杭の引き抜き及び流動化処理土などでの埋戻しを行っていた。
【0003】
よって、この従来の工法においては、例えば、既設杭を引き抜く場合に、地盤中で負圧が発生し、当該地盤のゆるみが発生する可能性があった。また、例えば、流動化処理土を単に埋戻していたのみであったので、十分な埋戻し品質を確保する観点において改善の余地があった。
【0004】
一方、縁切り用のケーシングを残置した状態で既設杭を引き抜く工法が知られたいた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の工法においては、既設杭周辺の地盤のゆるみが発生することを防止することはできても、埋戻し品質を向上させる観点において改善の余地があった。
【0007】
本発明は上記事実に鑑みなされたもので、既設杭周辺の地盤のゆるみが発生することを防止し、且つ、埋戻し品質を向上させることが可能となる杭引抜工法を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に記載の杭引抜工法は、既設杭を引き抜く杭引抜工法であって、前記既設杭の周囲に位置するように筒状のケーシングを挿入するケーシング挿入工程と、前記ケーシング内の前記既設杭を引き抜く杭引抜工程と、攪拌を行うためのオーガを前記ケーシング内に挿入するオーガ挿入工程と、前記ケーシングの下端部よりも下側において、前記オーガの先端部を前記ケーシングの内径よりも大径となるように拡底させる拡底工程と、前記オーガで攪拌しつつ前記オーガ及び前記ケーシングを引き抜く機器引抜工程と、を含み、前記機器引抜工程では、少なくともセメントミルク及び地盤の土を攪拌する。
【0009】
請求項2に記載の杭引抜工法は、請求項1に記載の杭引抜工法において、前記ケーシング挿入工程では、セメントミルクもしくは水もしくは水とベントナイトの混合液を出力する。
【0010】
請求項3に記載の杭引抜工法は、請求項1又は2に記載の杭引抜工法において、前記オーガ挿入工程では、セメントミルクを出力する。
【0011】
請求項4に記載の杭引抜工法は、請求項1から3の何れか一項に記載の杭引抜工法において、前記機器引抜工程では、セメントミルクを出力する。
【0012】
請求項5に記載の杭引抜工法は、請求項1から4の何れか一項に記載の杭引抜工法において、前記杭引抜工程の後に、前記既設杭が引き抜かれた箇所を所定の埋戻し材で埋め戻す埋戻工程、を更に含む。
【0013】
請求項6に記載の杭引抜工法は、請求項5に記載の杭引抜工法において、前記埋戻し材が土又は泥である場合、前記機器引抜工程では、前記埋戻し材も攪拌する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の杭引抜工法によれば、ケーシング内の既設杭を引き抜くことにより、例えば、地盤での負圧の発生を防止し、既設杭周辺の地盤のゆるみが発生することを防止することが可能となる。また、機器引抜工程では少なくともセメントミルク及び地盤の土を攪拌することにより、例えば、埋戻し品質を向上させることが可能となる。また、拡底工程を含むことにより、例えば、ケーシングの周辺領域まで攪拌することが可能となる。
【0015】
請求項2に記載の杭引抜工法によれば、ケーシング挿入工程では、セメントミルクもしくは水もしくは水とベントナイトの混合液を出力することにより、例えば、スムーズにケーシングを挿入することができる。
【0016】
請求項3に記載の杭引抜工法によれば、オーガ挿入工程ではセメントミルクを出力することにより、例えば、地盤における必要な箇所にセメントミルクをいきわたらせることが可能となる。
【0017】
請求項4に記載の杭引抜工法によれば、機器引抜工程ではセメントミルクを出力することにより、例えば、地盤における必要な箇所にセメントミルクをいきわたらせることが可能となる。
【0018】
請求項5に記載の杭引抜工法によれば、所定の埋戻し材で埋め戻す埋戻工程を含むことにより、例えば、埋戻し品質を確実に向上させることが可能となる。
【0019】
請求項6に記載の杭引抜工法によれば、埋戻し材も攪拌することにより、例えば、埋戻し品質を確実に向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る杭引抜工法の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
〔I〕実施の形態の具体的内容
(杭引抜工法)
図1~
図5は、杭引抜工法を説明するための図である。この各図においては、図面上下方向が鉛直方向に対応していることとし、
図1(a)の既設杭100を引き抜く場合を例示して説明する。既設杭100は、例えば、既存建物を支持するための杭であり、地盤(つまり地中)に埋められている。また、以下に示す各工程においては、例えば、工事用の各種重機を用いて実行することになるが、各図では重機1と総称して図示されている。また、重機1の詳細構造は不図示とし、当該重機1を用いることについては、適宜省略して説明する。
【0023】
(杭引抜工法‐杭頭出し工程)
まず、杭頭出し工程を実行する。例えば、
図1(b)に示すように、重機1を用いて地盤を掘削して、既設杭100の上端部を露出させる。
【0024】
(杭引抜工法‐スタンドパイプ建込み工程)
次に、スタンドパイプ建込み工程を実行する。例えば、
図1(c)に示すように、重機1を用いて、円筒状のスタンドパイプ2を建て込む。この場合、既設杭100の上端部が、スタンドパイプ2の中空部内に設けられた状態となる。
【0025】
(杭引抜工法‐ケーシング準備工程)
次に、ケーシング準備工程を実行する。例えば、
図2(a)に示すように、縁切ケーシング3を重機1に設ける。縁切ケーシング3とは、既設杭100と地盤とを縁切りするための、円筒状の器具である。
【0026】
(杭引抜工法‐ケーシング挿入工程)
次に、ケーシング挿入工程を実行する。例えば、
図2(b)に示すように、縁切ケーシング3の先端部31(下端部)から水を出力して地盤を柔らかくしつつ、当該縁切ケーシング3を地盤に回転挿入する。なお、ここでは、先端部31から、水のみを出力してもよいし、水とベントにとの混合液を出力してもよいし、あるいは、セメントミルクを出力してもよい。
【0027】
この場合、既設杭100が縁切ケーシング3の中空部に配設されるように挿入することにより、
図2(c)に示すように、既設杭100の周辺に縁切ケーシング3が位置することになる。
【0028】
(杭引抜工法‐杭引抜工程)
次に、杭引抜工程を実行する。例えば、
図3(a)に示すように、重機1を用いて既設杭100を引き抜く。なお、ここでは、不図示であるが、輪投用のケーシングを用いて引き抜いてもよい。
【0029】
この場合、既設杭100の周囲に縁切ケーシング3が設けられたままとなっているので、地盤での負圧(既設杭100の引き抜きに起因する地盤での既設杭100が設けられて位置に向かう圧力)の発生が防止できるために、既設杭100周辺の地盤のゆるみ発生を防止できる。
【0030】
また、この場合、縁切ケーシング3の中空部において、既設杭100の体積分だけ地盤の泥(地盤の土と前述の出力された水が混合した泥)が落下して
図3(a)の下側部分51に堆積することになる。
【0031】
(杭引抜工法‐埋戻工程)
次に、埋戻工程を実行する。例えば、
図3(b)に示すように、縁切ケーシング3の中空部における上側部分52(つまり、既設杭100が引き抜かれた箇所)を、所定の埋戻し材で埋め戻す。この場合、上側部分52に所定の埋戻し材が設けられることになる。
【0032】
所定の埋戻し材としては、例えば、流動化処理土、土、又は泥(水と土を混合したもの)を用いることができる。「流動化処理土」とは、例えば、所定の生産施設で生成された埋め戻し材料であり、また、少なくともセメント及び土が混合されたもの等を含むものであり、また、攪拌を行うことなく硬化した場合に所定の埋戻し品質を確保可能なものである。
【0033】
(杭引抜工法‐オーガ挿入工程)
次に、オーガ挿入工程を実行する。例えば、
図3(c)に示すように、オーガ4を縁切ケーシング3内に挿入することにより、
図4(a)に示すように、オーガ4の先端部41が縁切ケーシング3の先端部31よりも下側に設けられる。オーガ4とは、全体としては長尺上のスパイラルオーガであり、回転して攪拌する部分である先端部41を有するものである。なお、この先端部41は、径を拡大又は縮小可能となっている。
【0034】
なお、ここでは、オーガ4の先端部41付近からセメントミルクを出力しつつ挿入してもよい。
【0035】
(杭引抜工法‐拡底工程)
次に、拡底工程を実行する。「拡底」とは、例えば、オーガ4の先端部の径を拡大させることである。例えば、
図4(b)に示すように、縁切ケーシング3の先端部31よりも下側において、オーガ4の先端部41を、少なくとも縁切ケーシング3の内径よりも大径となるように拡底させる。詳細には、オーガ4の先端部41を縁切ケーシング3の外径よりも大径となるように拡底させる。
【0036】
(杭引抜工法‐機器引抜工程)
次に、機器引抜工程を実行する。例えば、
図4(c)に示すように、オーガ4の先端部41を回転させて攪拌しつつ、当該オーガ4及び縁切ケーシング3を引き抜く。この場合、
図4(b)の下側部分51において、泥(地盤の土と水が混合した泥)とセメントミルク(ケーシング挿入工程、又は、オーガ挿入工程で出力したセメントミルク)が攪拌されることになる。よって、埋戻し品質を確保することが可能となる。
【0037】
なお、オーガ4を引き抜きつつ攪拌する部分としては、少なくとも、先端部41が
図4(b)の下側部分51に対応する部分に設けられている場合に攪拌し、先端部41が
図4(b)の上側部分52に対応する部分に設けられている場合は、任意で攪拌することとしてもよい。
【0038】
例えば、所定の埋戻し材として流動化処理土を用いた場合、攪拌しなくても埋戻し品質を確保できるので、上側部分52では攪拌しないこととしてもよい。また、例えば、所定の埋戻し材として土又は泥を用いた場合、当該土又は泥とセメントミルクとを攪拌して埋戻し品質を確保するために、上側部分52にて攪拌することとしてもよい(つまり、所定の埋戻し材を攪拌してもよい)。
【0039】
このようにして、
図5(a)に示すように、(地盤の土と水が混合した泥)とセメントミルクが混合された下側部分511(
図4(b)の下側部分51に対応する位置の部分)と、所定の埋戻し材にて埋め戻された上側部分521(
図4(b)の上側部分52に対応する位置の部分)が形成されることにより、地盤の埋戻し品質を確保することが可能となる。
【0040】
そして、この後、
図5(b)及び(c)に示すように、スタンドパイプ2を撤去した後に表層を整地することにより、完了する。
【0041】
(本実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、縁切ケーシング3内の既設杭100を引き抜くことにより、例えば、地盤での負圧の発生を防止し、既設杭100周辺の地盤のゆるみが発生することを防止することが可能となる。また、機器引抜工程では少なくともセメントミルク及び地盤の土を攪拌することにより、例えば、埋戻し品質を向上させることが可能となる。また、拡底工程を含むことにより、縁切ケーシング3の周辺領域まで攪拌することが可能となる。
【0042】
〔II〕実施の形態に対する変形例
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。例えば、上述の各工程の内の任意の工程を省略してもよい。
【0043】
例えば、埋戻工程を省略して、杭引抜工程の直後にオーガ挿入工程を実行してもよい。この場合、縁切ケーシング3の中空部の全てが泥及びセメントミルクで満たされるように、セメントミルクの出力量を調整することとする。
【0044】
(機器引抜工程でのセメントミルクの出力)
また、上記実施の形態の機器引抜工程において、オーガ4の先端部41付近からセメントミルクを出力しつつ、攪拌しながらオーガ4及び縁切ケーシング3を引き抜くように構成してもよい。
【0045】
(他の工法)
また、他の工法として第1の工法又は第2の工法を適用して、既設杭100を引き抜いてもよい。
【0046】
(他の工法‐第1の工法)
第1の工法は、流動化処理土を下側から充填する工法である。この工法では、概略的には、縁切ケーシング3を地盤に挿入する場合に、水等を内側に向けて出力して縁切ケーシング3に振動を与えつつ挿入する。そして、既設杭100を引き抜いた後に、トレミー管等を用いて縁切ケーシング3の下側から流動化処理土を埋め戻し、この後に、縁切ケーシング3を引き抜く。なお、この引き抜きの場合に、セメントミルクを出力してもよい(第2の工法も同様である)。
【0047】
(他の工法‐第2の工法)
第2の工法は、オーガ4を挿入しながら攪拌する工法である。この工法では、概略的には、第1の工法と同様にして、縁切ケーシング3を挿入した後に既設杭100を引き抜く。次に、実施の形態の場合と同様にして流動化処理土で埋め戻した後に、オーガ4で攪拌しながら当該オーガ4を挿入する。次に、オーガ4及び縁切ケーシング3を引き抜く。
【符号の説明】
【0048】
1 重機
2 スタンドパイプ
3 縁切ケーシング
4 オーガ
31 先端部
41 先端部
51 下側部分
52 上側部分
100 既設杭
511 下側部分
521 上側部分