(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】銀めっき塗装体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20240329BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C23C28/00 A
B32B15/08 A
(21)【出願番号】P 2020204082
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】川真田 幸直
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-132915(JP,A)
【文献】特開2014-199319(JP,A)
【文献】特表2011-503355(JP,A)
【文献】特開2019-130697(JP,A)
【文献】特開2019-065338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00-30/00
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に少なくとも銀めっき層及びトップコート層をこの順に有する銀めっき塗装体の製造方法において、基材上に銀めっき層を形成した後に、メルカプト基及びヒドロキシフェニル基を有するトリアゾールまたはテトラゾール化合物を含有する表面処理液で該銀めっき層を処理し、その後トップコート層を形成することを特徴とする銀めっき塗装体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に少なくとも銀めっき層及びトップコート層を有する銀めっき塗装体の製造方法に関する。詳しくは銀めっき層とトップコート層の間の接着力が改善された銀めっき塗装体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属やプラスチック等の基材上に銀めっき層を有する銀めっき塗装体は、銀が金属の中で最も高い反射光沢を有するため、意匠性材料や反射材料等として利用されている。また該塗装体は銀が有する高い導電性を利用して、例えば電磁波シールド材としても有効に利用することが可能である。
【0003】
銀めっき層は薄膜であっても高い反射光沢や高い導電性を示す有用な材料であるが、薄くて柔らかいため力学的強度が弱い。そのような欠点を補うために、様々なハードコート材を利用して表面にトップコート層を設ける方法が知られている。例えば特開2000-129448号公報(特許文献1)には、液状エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の各種樹脂がトップコート層に使用できることが記載されている。しかしながら銀めっき層上にトップコート層を設けても、銀めっき層とトップコート層の接着力が十分に得られないという問題があり、特に、高温高湿環境下や塩水を含む雰囲気中においては、この問題が一層顕著になる。
【0004】
銀めっき層とトップコート層の接着力の問題を解決するために、種々のトップコート層が提案されている。例えば、特開2003-155580号公報(特許文献2)、特開2004-203014号公報等には特定のガラス転移温度を有するアクリルシリコン系塗料を使用することが記載され、特開2008-106081号公報にはトップコート層に特定の紫外線硬化型樹脂を使用することが記載されている。また、特開2012-206326号公報(特許文献3)にはチオール有機酸誘導体を含有するトップコート層が開示されている。しかしこれらの方法においても、銀めっき層とトップコート層の接着力は十分とは言えず、さらなる接着力の向上が望まれていた。
【0005】
銀めっき層とトップコート層の接着力を向上させる別の方法として、トップコート層を塗工する前に銀めっき層に何らかの処理を行う方法も提案されている。特開2003-293146号公報には亜硫酸塩を含有する液で銀めっき層を処理することによって、銀めっき層とトップコート層の密着性が向上する旨の記載があり、特開2004-169157号公報(特許文献4)及び特開2020-33616号公報(特許文献5)にはチオン基またはメルカプト基を有する化合物で銀めっき層を処理する方法が開示されている。しかし、これらの方法によっても銀めっき層とトップコート層の接着力は未だ十分とは言えず、改善が求められていた。
【0006】
一方、特開2000-282033号公報(特許文献6)には金属層の変色を防止する金属表面処理剤が含有するテトラゾール系化合物の一例として5-メルカプト-1-(ヒドロキシフェニル)テトラゾールが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-129448号公報
【文献】特開2003-155580号公報
【文献】特開2012-206326号公報
【文献】特開2004-169157号公報
【文献】特開2020-33616号公報
【文献】特開2000-282033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、銀めっき層とトップコート層の間の接着力が改善された銀めっき塗装体の製造方法を提供することを課題とし、特に厳しい環境下でも十分な接着力が得られる銀めっき塗装体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記に記載の発明により達成される。
基材上に少なくとも銀めっき層及びトップコート層をこの順に有する銀めっき塗装体の製造方法において、基材上に銀めっき層を形成した後に、メルカプト基及びヒドロキシフェニル基を有するトリアゾールまたはテトラゾール化合物を含有する表面処理液で該銀めっき層を処理し、その後トップコート層を形成することを特徴とする銀めっき塗装体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、銀めっき層とトップコート層の間の接着性を改善し、厳しい環境下でも十分な接着力を有する銀めっき塗装体の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明により得られる銀めっき塗装体は、基材上に少なくとも銀めっき層及びトップコート層をこの順に有する銀めっき塗装体であり、基材上に銀めっき層を形成した後に、メルカプト基及びヒドロキシフェニル基を有するトリアゾールまたはテトラゾール化合物(以後本発明の化合物とも称す)を含有する表面処理液で該銀めっき層を処理する。以下に本発明の化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0013】
【0014】
表面処理液における本発明の化合物の含有量は、0.5~30ミリモル/Lが好ましい。含有量が少なすぎると十分な効果が得られず、一方、多すぎても特に弊害はないが、効果は頭打ちになる。
【0015】
本発明に用いられる表面処理液には、さらに接着性を改善する目的で、アミノ基を有するシランカップリング剤を好ましく含有することができる。アミノ基を有するシランカップリング剤の例としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシランを挙げることができる。
【0016】
上記アミノ基を有するシランカップリング剤の含有量は、10~100ミリモル/Lであることが好ましい。含有量が少なすぎると十分な効果が得られず、一方、多すぎると沈殿を生じやすくなる。
【0017】
本発明に用いられる表面処理液には、酸化防止剤を含有しても良い。酸化防止剤の具体例としては、アスコルビン酸、エルソルビン酸、ヒドロキノン、カテコールレゾルシノール、ヒドロキノンスルホン酸、没食子酸、亜硫酸、重亜硫酸、及びその塩を挙げることができる。
【0018】
本発明に用いられる表面処理液の溶媒は、水、または水と水溶性有機溶剤の混合液であることが好ましい。また、表面処理液のpHに特に制約はないが、含有成分の溶解性や経時安定性などの観点から適宜決定することができ、pHは4~10の範囲であることが好ましい。
【0019】
本発明により得られる銀めっき塗装体は基材上に銀めっき層を有する。銀めっき層を形成させる方法は、蒸着法やスパッタリング法などの乾式めっき、あるいは電解めっきや無電解めっきのような湿式めっきの何れであっても良いが、湿式めっきが好ましく、特に無電解めっきによって銀めっき層を形成させる方法が簡便で好ましい。
【0020】
基材上に無電解めっきによって銀めっき層を形成させる方法においては、基材上にアンダーコート層を設け、その上に銀めっき層を設ける方法が一般的である。このようなアンダーコート層は、銀めっきとの密着性が高いものが好ましい。例えば特開平10-309774号公報、及び特開2002-256455号公報に記載されているアンダーコート層の他、アルキッドポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール等、末端水酸基を持つポリマーまたはオリゴマーと硬化剤としてイソシアナート化合物を混合したウレタン系塗料組成物や、エポキシ樹脂に硬化剤としてアミン化合物を混合したエポキシ系塗料組成物等を塗布して得られたアンダーコート層を用いることができる。これらは、塗装体として要求される特性に基づき適宜選択して利用することができる。
【0021】
アンダーコート層上に無電解銀めっき層を形成させる好ましい方法は、無電解銀めっき層を形成させるアンダーコート層の表面を、塩化スズ(II)を含有する活性処理液で処理してスズ(II)イオンをアンダーコート層の表面に担持させ、この活性処理したアンダーコート層上に銀鏡反応により無電解銀めっき層を形成させる方法を例示することができる。
【0022】
塩化スズ(II)を含有する活性処理液で処理する処理方法としては、アンダーコート層の表面を活性処理液中に浸漬する方法、アンダーコート層の表面に塩化スズ(II)等を含む活性処理液を塗布する方法等がある。塗布方法としては、基材の形状を選ばないスプレー塗布が好適である。更に表面に余分に付着した活性処理液を脱イオン水で洗浄することが好ましい。
【0023】
活性処理液で処理する工程の後には、銀イオンによる活性化処理を行うことが好ましい。銀イオンによる活性化処理は、例えば硝酸銀水溶液での処理を挙げることができる。ここで用いる硝酸銀水溶液の濃度は、1リットル当たり0.1モル以下であることが好ましく、この液を塩化スズ(II)で処理されたアンダーコート層に接触させる。この活性化処理の方法は、上記処理液に塩化スズ(II)で処理されたアンダーコート層を浸漬する方法あるいはスプレー塗布する方法を挙げることができる。
【0024】
銀鏡反応による無電解銀めっき層の形成は、硝酸銀及びアンモニアを含むアンモニア性硝酸銀水溶液と、還元剤及び強アルカリ成分を含む還元剤水溶液の2液を、上記活性化処理を施したアンダーコート層表面上で混合されるように塗布する。これにより酸化還元反応が生じることで金属銀が析出し、銀被膜が形成され、無電解銀めっき層となる。
【0025】
前記還元剤水溶液としては、グルコース、グリオキサール等のアルデヒド化合物を含有する水溶液、硫酸ヒドラジン、炭酸ヒドラジンまたはヒドラジン水和物等のヒドラジン化合物を含有する水溶液を挙げることができる。
【0026】
前記アンモニア性硝酸銀水溶液は、良好な銀を生成させるためにいくつかの添加剤を含有することもできる。例えば、モノエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、1-アミノ-2-プロパノール、2-アミノ-1-プロパノール、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアミノアルコール化合物、グリシン、アラニン、グリシンナトリウム等のアミノ酸またはその塩等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0027】
前記アンモニア性硝酸銀水溶液と還元剤水溶液の2液を、無電解銀めっき層を形成させる表面上で混合されるように塗布する方法としては、2種の水溶液を予め混合し、この混合液をスプレーガン等を用いてアンダーコート層表面に吹き付ける方法、スプレーガンのヘッド内で2種の水溶液を混合して直ちに吐出する構造を有する同芯スプレーガンを用いて吹き付ける方法、2種の水溶液を2つのスプレーノズルを持つ双頭スプレーガンから各々吐出させ吹き付ける方法、2種の水溶液を2つの別々のスプレーガンを用いて、同時に吹き付ける方法等がある。これらは状況に応じて任意に選ぶことができる。
【0028】
続いて、脱イオン水を用いて無電解銀めっき層の表面を水洗し、その表面上に残留する銀鏡反応後の水溶液等を取り除くことが好ましい。その後、引き続いて本発明の表面処理を行うことが好ましい。処理終了後は、銀表面を脱イオン水で洗浄し、乾燥させることが好ましい。
【0029】
上記のようにして形成された金属銀は傷つきやすいため、本発明においては、更に銀めっき層の表面にトップコート層を設ける。かかるトップコート層としては熱あるいは光硬化型樹脂からなる塗料を塗設して形成することが好ましい。
【0030】
本発明のトップコート層を形成するための塗料(以下トップコート層用塗料と称す)としては、一般的な熱硬化型樹脂を含有する塗料を用いることができる。熱硬化型樹脂としては、例えば特開2000-129448号公報、特開2003-155580号公報、及び特開2006-111857号公報等に記載されるエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂、アクリルシリコン樹脂及びウレタン樹脂等を挙げることができる。これらの中でも透明性が高く塗布が容易であることから、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、及びアクリルシリコン樹脂を含有する塗料が好適に使用される。
【0031】
ウレタン樹脂を含有するトップコート層用塗料としては、アルキッドポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール等のポリオール樹脂と硬化剤としてポリイソシアネート化合物を混合する2液硬化型ウレタン系塗料が好ましい。アクリルシリコン樹脂を含有する塗料としては、アクリル樹脂と硬化剤としてアルコキシシラン化合物(シリコン系硬化剤)とを混合するアクリルシリコン系塗料が好ましい。
【0032】
一般に市販されている熱硬化型樹脂を含有する塗料としては、例えば株式会社オリジン製のオリジツーク(登録商標)#100(アクリルシリコン系塗料)、大橋化学工業株式会社製のネオポリナール(登録商標)No.800S(アクリルシリコン系塗料)、オーマック(登録商標)No.100(E)クリアFV(アクリルシリコン系塗料)、ポリナール(登録商標)800(アクリルウレタン系塗料)またはネオハード(登録商標)クリアH(アクリルメラミン系塗料)等が好適に使用される。
【0033】
本発明に用いられる熱硬化型のトップコート層用塗料は、上記した塗料組成物を有機溶剤に溶解あるいは希釈することで得られる。かかる有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、T-SOL(登録商標)100FLUID(商品名、JXTGエネルギー株式会社製)等の炭化水素類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類、ブチルセロソルブ、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブアセテート等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、イソ酪酸イソブチル等のエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類が挙げられるがこれに限定されるものではない。これらの有機溶剤は塗料組成物の溶解性によって、また乾燥時間や温度、あるいは塗布面の面質改善等の観点から適宜選択され、単独でも2種以上を混合して使用しても良い。
【0034】
トップコート層用塗料の塗布方法としては従来公知の塗布方法によればよく、例えばグラビヤロール方式、リバースロール方式、ディップロール方式、バーコーター方式、ナイフコーター方式、エアースプレー方式、エアレススプレー方式、ディップ方式等を挙げることができる。この中でも、複雑な表面形状にも塗布できるエアースプレー方式が特に好ましい方式である。
【0035】
熱硬化型のトップコート層用塗料は塗布後に乾燥し、架橋させることでトップコート層を形成する。常温で自然乾燥させることもできるが、加熱して架橋反応を促進させる方が好ましい。加熱温度は高い方が架橋反応を促進させることができるので好ましいが、温度が高すぎると基材が変形する恐れがあるので基材が変形しない温度の範囲で加熱する必要がある。通常は60~160℃で20~120分程度の加熱を行う。
【0036】
本発明のトップコート層用塗料には、紫外線硬化型樹脂と光重合開始剤とを含有する紫外線硬化型塗料を用いることもできる。好ましく用いられる紫外線硬化型樹脂としては、エチレン性不飽和基を有するモノマー及びオリゴマー化合物である。具体的には、アミド系モノマー、(メタ)アクリレートモノマー、ウレタンアクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート及びエポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。アミド系モノマーとしては、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン等のアミド化合物がある。(メタ)アクリレートモノマーとしては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、フェノールのアルキレンオキサイド付加物のアクリレート類、グリコールの(メタ)アクリレート類、ポリオール及びそのアルキレンオキサイドの(メタ)アクリル酸エステル化物、イソシアヌール酸EO変成ジまたはトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ポリオールと有機ポリイソシアネート反応物に対して、さらにヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを反応させた反応物等が挙げられる。ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ポリエステルポリオールと(メタ)アクリル酸との脱水縮合物が挙げられる。エポキシ(メタ)アクリレートは、エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸を付加反応させたもので、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ(メタ)アクリレート、フェノールあるいはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテルのジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加反応体等が挙げられる。
【0037】
光重合開始剤としては、ベンゾイン類、アセトフェノン類、アントラキノン類、チオキサントン類、ケタール類、ベンゾフェノン類、及びキサントン類等が挙げられる。これらの光重合開始剤は単独で使用することも、安息香酸系、アミン系等の光重合開始促進剤と組み合わせて使用することもできる。上記光重合開始剤の含有量は紫外線硬化型樹脂に対して0.01~20質量%が好ましく、0.5~7質量%が特に好ましい。
【0038】
上記トップコート層用塗料を硬化させるためには、塗装後に紫外線を照射すれば良い。紫外線を照射する手段としては、例えばキセノンランプ、ハロゲンランプ、タングステンランプ、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、中圧水銀灯、低圧水銀灯等のランプ光源が挙げられる。
【0039】
熱硬化型塗料から形成されるトップコート層の厚さは10~25μmの範囲が好ましく、紫外線硬化型塗料から形成されるトップコート層の厚さは3~10μmの範囲が好ましい。該層が薄すぎると銀めっき層を保護する役割としての機能が得られず、均一な塗装膜が形成されない。逆に厚すぎても、周辺部分が局所的にさらに厚塗りになりやすく、均一な塗装膜を得ることが難しい。また、トップコート層が厚すぎると、層を通過する光路が長くなり光のロスが増加するため銀めっき層の反射率を低下させ好ましくない。
【0040】
トップコート層用塗料には意匠性を向上させるために顔料、染料等の色材を添加しても良い。顔料としては、例えばカーボンブラック、キナクリドン、ナフトールレッド、シアニンブルー、シアニングリーン、ハンザイエロー等の有機顔料、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マイカ、弁柄、複合金属酸化物等の無機顔料を挙げることができ、これらの顔料から選ばれる1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。顔料の分散方法は、特に限定はされず、通常の方法、例えば、ダイノーミル、ペイントシェーカー、サンドミル、ボールミル、ニーダー、ロール、ディゾルバー、ホモジナイザー、超音波振動、攪拌子等により顔料粉を直接分散させる方法等が用いられる。その際、分散剤、分散助剤、増粘剤、カップリング剤等の使用が可能である。顔料の添加量は、顔料の種類により隠蔽性が異なるので特に限定はされないが、通常は、塗料の全固形分量に対して0.1~5質量%である。
【0041】
染料としては、例えばアゾ系、アントラキノン系、インジコイド系、硫化物系、トリフェニルメタン系、キサンテン系、アリザリン系、アクリジン系、キノンイミン系、チアゾール系、メチン系、ニトロ系、ニトロソ系等の染料を挙げることができ、これらの染料から選ばれる1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。染料の添加量は、染料の種類により隠蔽性が異なるので特に限定はされないが、通常は、トップコート層用塗料の全固形分量に対して0.1~5質量%である。
【0042】
トップコート層には、更に添加剤としてレベリング剤、マット剤、金属粉、ガラス粉、抗菌剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤等を含有していてもよい。
【0043】
本発明により得られる銀めっき塗装体が有する基材としては、各種のプラスチック類、金属類、ガラス類、ゴム類等が用いられる。プラスチック類としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等のポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、及びこれらを複合化した樹脂、またナイロン繊維、パルプ繊維等の有機繊維で強化した繊維強化プラスチック(FRP)等が挙げられるが特に限定されるものではない。金属としては、鉄、アルミ、ステンレススチール、銅、真鍮等が挙げられるが特に限定されるものではない。ガラスも無機ガラスまたはプラスチックガラス等、特に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、この記述により本発明が限定されるものではない。なお、以下の記述の中における単位として%は、特に記載がない限り質量基準である。
【0045】
(実施例1)
アクリルポリオール樹脂(大橋化学工業株式会社製ミラーシャインアンダーコートクリアD-1)にポリイソシアネート化合物(大橋化学工業株式会社製ミラーシャインアンダーコート用硬化剤N)とシンナー(メチルエチルケトンとブチルセロソルブを質量比1:1の割合で混合)をそれぞれ質量比10:2:10の割合で混合した。さらにこの塗料組成物に、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランを2%、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシランを2%添加してアンダーコート塗料組成物を得た。表面をイソプロパノールで洗浄乾燥したABS樹脂板に、この塗料組成物をスプレー塗布した後、80℃で1時間加熱乾燥して厚さ20μmのアンダーコート層を形成した。
【0046】
0.1モルの塩酸及び0.1モルの塩化スズ(II)を水に加えて1000gの銀鏡活性処理液とし、上記アンダーコート層にスプレーガンで吹き付けて活性処理を行い、その後、脱イオン水にて洗浄した。引き続き、0.05モルの硝酸銀を水に溶解して1000gとし、この液をスプレーガンで吹き付けて銀イオンによる活性化処理を行い、その後、脱イオン水にて洗浄した。
【0047】
銀鏡めっき液は、次のようにして調製した。脱イオン水に硝酸銀20gを溶解して1000gとした硝酸銀水溶液と、これとは別に、脱イオン水に濃度28%アンモニア水溶液を100g、モノエタノールアミンを5g溶解して1000gとしたアンモニア水溶液を調液した。使用前に、これらの硝酸銀水溶液とアンモニア水溶液を1対1で混合してアンモニア性硝酸銀水溶液とした。次に、脱イオン水に硫酸ヒドラジンを10g、モノエタノールアミンを5g、及び水酸化ナトリウムを10g溶解して1000gとした還元剤水溶液を調液した。このようにして得られたアンモニア性硝酸銀水溶液と還元剤水溶液を、双頭スプレーガンを使用して上記活性化処理をしたABS樹脂板に同時に吹き付けて銀めっき層を形成させ、脱イオン水にて洗浄した。
【0048】
引き続いて、下記の表面処理液を銀膜層に25℃で10秒間スプレーガンで吹き付け、10秒間静置した後、脱イオン水にて洗浄し、表面の水を十分取り除いた後に45℃で30分間乾燥させ、銀めっきサンプルとした。銀の表面処理液は下記表面処理液(1)~(10)を使用した。また比較として表面処理液での処理を行わないサンプルも作成した。
【0049】
<表面処理液(1)>
亜硫酸カリウム20ミリモルに脱イオン水を加えて1リットルとした。pHは硫酸で7.5に調整した。
【0050】
<表面処理液(2)>
亜硫酸カリウム20ミリモル及び3-アミノプロピルトリメトキシシラン50ミリモルに脱イオン水を加えて、1リットルとした。pHは硫酸で7.5に調整した。
【0051】
<表面処理液(3)>
亜硫酸カリウム20ミリモル及び本発明の化合物(A-1)5ミリモルに脱イオン水を加えて、1リットルとした。pHは硫酸で7.5に調整した。
【0052】
<表面処理液(4)>
亜硫酸カリウム20ミリモル及び本発明の化合物(A-2)5ミリモルに脱イオン水を加えて、1リットルとした。pHは硫酸で7.5に調整した。
【0053】
<表面処理液(5)>
亜硫酸カリウム20ミリモル及び本発明の化合物(A-3)5ミリモルに脱イオン水を加えて、1リットルとした。pHは硫酸で7.5に調整した。
【0054】
<表面処理液(6)>
亜硫酸カリウム20ミリモル及び本発明の化合物(A-4)5ミリモルに脱イオン水を加えて、1リットルとした。pHは硫酸で7.5に調整した。
【0055】
<表面処理液(7)>
亜硫酸カリウム20ミリモル、3-アミノプロピルトリメトキシシラン50ミリモル及び本発明の化合物(A-1)5ミリモルに脱イオン水を加えて、1リットルとした。pHは硫酸で7.5に調整した。
【0056】
<表面処理液(8)>
亜硫酸カリウム20ミリモル、3-アミノプロピルトリメトキシシラン50ミリモル及び本発明の化合物(A-3)5ミリモルに脱イオン水を加えて、1リットルとした。pHは硫酸で7.5に調整した。
【0057】
<表面処理液(9)>
亜硫酸カリウム20ミリモル、3-アミノプロピルトリメトキシシラン50ミリモル及び本発明の化合物(A-1)1ミリモルに脱イオン水を加えて、1リットルとした。pHは硫酸で7.5に調整した。
【0058】
<表面処理液(10)>
亜硫酸カリウム20ミリモル、3-アミノプロピルトリメトキシシラン50ミリモル及び本発明の化合物(A-1)20ミリモルに脱イオン水を加えて、1リットルとした。pHは硫酸で7.5に調整した。
【0059】
<表面処理液(11)>
亜硫酸カリウム20ミリモル及び下記化合物(B-1)5ミリモルに脱イオン水を加えて、1リットルとした。pHは硫酸で7.5に調整した。
【0060】
<表面処理液(12)>
亜硫酸カリウム20ミリモル及び下記化合物(B-2)5ミリモルに脱イオン水を加えて、1リットルとした。pHは硫酸で7.5に調整した。
【0061】
<表面処理液(13)>
亜硫酸カリウム20ミリモル及び下記化合物(B-3)5ミリモルに脱イオン水を加えて、1リットルとした。pHは硫酸で8.5に調整した。
【0062】
【0063】
作製した銀めっきサンプルに対して、銀めっき層上に以下のようにトップコート層を設けた。アクリルシリコン系トップコート塗料(大橋化学工業株式会社製オーマックNo.100(E)クリアFV)、シリコン系硬化剤(大橋化学工業株式会社製硬化剤W)、シンナー(メチルエチルケトンとブチルセロソルブを1:1の割合で混合)を質量比6:1:6の割合で混合してトップコート層用塗料を得た。このトップコート層用塗料を銀めっき層上にスプレーガンを用いてスプレー塗布した後、80℃で30分加熱乾燥して厚さ20μmのトップコート層を形成させ、銀めっき塗装体のサンプルを作製した。
【0064】
上記銀めっき塗装体のサンプルに対して、以下の条件下で接着性の評価を行った。塗装体のサンプルに対して、トップコート層面からABS基材に達するようにカッターナイフで十字に傷を入れた後、これらのサンプルにスガ試験機株式会社の塩水噴霧試験機(型式STP-90)にて5%食塩水を35℃の環境で40日間噴霧した。塩水噴霧した後のサンプルを水洗、乾燥し、十字に傷を入れた部分の上からセロファンテープを強く貼り付けた後にそのテープを剥離し、トップコート層の剥離状況から次の基準に基づいて判定した。結果を表1に示す。
良 ;トップコート層の剥離が肉眼で確認できない
可 ;トップコート層の剥離の最も広い部分の幅がカット線の中心から1mm未満である
不可;トップコート層の剥離の最も広い部分の幅がカット線の中心から1mm以上である
【0065】
【0066】
(実施例2)
トップコート層を以下に示すものに替えた以外は実施例1と全く同様にして銀めっき塗装体のサンプルを作製した。評価も実施例1と同様に行った。
【0067】
ウレタン系トップコート塗料(大橋化学工業株式会社製ポリナールNo.800HN-INP)、イソシアネート系硬化剤(大橋化学工業株式会社製硬化剤IP60)、シンナー(大橋化学工業株式会社製シンナーNo.6820)を質量比6:1:5の割合で混合してトップコート層用塗料を得た。このトップコート層用塗料を銀めっき層上にスプレーガンを用いてスプレー塗布した後、80℃で30分加熱乾燥して厚さ20μmのトップコート層を形成させ、銀めっき塗装体のサンプルを作製した。
【0068】
実施例2の評価結果を表2に示す。
【0069】
【0070】
表1及び表2の結果から明らかなように、本発明により、銀めっき層とトップコート層の間の接着力が改善された銀めっき塗装体の製造方法を提供することができる。