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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】浸漬型膜分離装置の異常検知方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 65/10 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
B01D65/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020213491
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099626
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【弁理士】
【氏名又は名称】河崎 眞一
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼田 昭宏
(72)【発明者】
【氏名】小松 一登
(72)【発明者】
【氏名】吉田 康之
(72)【発明者】
【氏名】大塚 裕司
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-319405(JP,A)
【文献】特開2002-058969(JP,A)
【文献】特開2005-144291(JP,A)
【文献】特開2007-075754(JP,A)
【文献】特開2014-231059(JP,A)
【文献】特開平09-024251(JP,A)
【文献】特開2005-224678(JP,A)
【文献】特開2018-190245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ過運転とリラクゼーション運転を交互に繰り返す浸漬型膜分離装置の異常検知方法であって、
前記浸漬型膜分離装置の膜間差圧を所定時間ごとに計測して収集するデータ収集工程と、
前記データ収集工程で収集した膜間差圧計測値群に基づく複数種類の異常判定ロジックを並行して実行し、何れかの異常判定ロジックで異常と判定すると浸漬型膜分離装置が異常であると検知する浸漬型膜分離装置の異常検知方法。
【請求項2】
前記異常判定ロジックは、少なくとも前記ろ過運転時の膜間差圧計測値群に基づいて異常を判定するろ過運転異常判定ロジックと、前記リラクゼーション運転時の膜間差圧計測値群に基づいて異常を判定するリラクゼーション運転異常判定ロジックを含む請求項1記載の浸漬型膜分離装置の異常検知方法。
【請求項3】
前記異常判定ロジックは、さらに前記ろ過運転時と前記リラクゼーション運転時の双方の膜間差圧計測値群に基づいて異常を判定するろ過およびリラクゼーション運転異常判定ロジックを含む請求項1または2記載の浸漬型膜分離装置の異常検知方法。
【請求項4】
前記異常判定ロジックは、前記データ収集工程で収集した時系列の膜間差圧計測値のうち、異常を検知する対象期間を含む第1の期間の膜間差圧計測値群を、ろ過運転時の第1膜間差圧計測値群とリラクゼーション運転時の第2膜間差圧計測値群に分離する状態分離工程を含み、前記ろ過運転異常判定ロジックは第1膜間差圧計測値群を判定対象とし、前記リラクゼーション運転異常判定ロジックは第2膜間差圧計測値群を判定対象とする請求項2記載の浸漬型膜分離装置の異常検知方法。
【請求項5】
前記異常判定ロジックは、前記データ収集工程で収集した時系列の膜間差圧計測値のうち、異常を検知する対象期間を含む第1の期間の膜間差圧計測値群を、ろ過運転時の第1膜間差圧計測値群とリラクゼーション運転時の第2膜間差圧計測値群に分離する状態分離工程を含み、前記第1膜間差圧計測値群と前記第2膜間差圧計測値群の重心距離が所定の閾値未満のときに、前記ろ過およびリラクゼーション運転異常判定ロジックを実行する請求項3記載の浸漬型膜分離装置の異常検知方法。
【請求項6】
前記浸漬型膜分離装置には複数種類の異常態様があり、各異常態様に対応するように前記複数の異常判定ロジックが構成されている請求項1から5の何れかに記載の浸漬型膜分離装置の異常検知方法。
【請求項7】
前記複数の異常判定ロジックの何れかで異常と判定すると、該当する異常判定ロジックに対応付けた異常態様を識別可能に表示または報知する請求項6記載の浸漬型膜分離装置の異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろ過運転とリラクゼーション運転を交互に繰り返す浸漬型膜分離装置の異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚水処理などの各種の水処理プラントには、処理槽に浸漬型膜分離装置が配置され、当該浸漬型膜分離装置に組み込まれたろ過膜により処理槽中の被処理水を吸引ろ過することで固液分離した処理水が得られる。
【0003】
浸漬型膜分離装置は膜分離装置の下方に散気装置が設置され、散気装置により散気された状態でろ過膜を用いて吸引ろ過するろ過運転が実行される。しかし、時間の経過と共にろ過膜に目詰まりや固形成分の堆積が生じ、ろ過効率が低下するため、通常はろ過運転と、散気装置からの散気を維持した状態で吸引ろ過を停止するリラクゼーション運転とを所定時間間隔で繰返し、リラクゼーション運転でもろ過運転時と同様に散気装置からの気泡と被処理水の気液混相の上向流でろ過膜面をクリーニングするように運転管理する管理装置を備えている。
【0004】
そして、管理装置は、ろ過膜の表面(一次側面)側と裏面(二次側面)側の圧力差つまり膜間差圧を計測し、膜間差圧が管理閾値を超えるタイミングまたは急激に増大するタイミングで逆圧洗浄や薬液洗浄が必要であると判断するように構成されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ろ過処理装置におけるろ過部材に対して閉塞の発生を抑制しながら、効果的なタイミングでろ過部材に対して逆圧洗浄を行うことができるろ過部材洗浄システムが提案されている。
【0006】
当該ろ過部材洗浄システムは、一次側から二次側に向かって被処理水を通過させ被処理水のろ過を行うろ過部材と、該ろ過部材により区画される一次側領域及び二次側領域と、を有し、一次側領域から前記二次側領域に向かって被処理水をろ過部材に通過させることにより被処理水のろ過処理を行うろ過処理装置と、一次側領域から二次側領域に向かって被処理水を流通させる被処理水流通手段と、ろ過部材に二次側から一次側に向けて洗浄液を供給する洗浄液供給手段と、一次側領域と二次側領域との圧力差の測定を行う圧力差測定手段と、所定の閾値を設定可能で、設定された該閾値に基づいて洗浄液供給手段の起動の判定を行う判定手段と、判定手段による判定結果に基づいて、洗浄液供給手段の起動の制御を行う制御手段と、を備え、判定手段は、洗浄液供給手段による洗浄液の供給終了後において、前記閾値を、圧力差測定手段により測定された圧力差である測定圧力差値に基づいて算出される洗浄後圧力差値に所定のオフセット値を加えた値に、再設定するように構成されている。
【0007】
ところで、近年、ろ過膜の管理の効率化などの観点で、水処理プラントに設置され、所定時間間隔でろ過運転とリラクゼーション運転の間で運転切替するように膜分離装置を管理する管理装置と、管理装置と通信可能に接続され、各管理装置により所定時間間隔でサンプリングされた各ろ過膜の膜間差圧を集信して管理する遠隔監視装置とを備えた遠隔監視システムが構築されつつある。
【0008】
遠隔監視装置に集信された各膜分離装置の時系列的な膜間差圧に基づいて、膜間差圧のトレンドグラフがモニターに表示され、複数の監視員がトレンドグラフを目視して各膜分離装置の分離膜に異常が生じているか否かを判断するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2011-31145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、監視対象となる膜分離装置の数の増大とともに、監視員の処理負荷が増大し、個別のトレンドグラフを目視して異常であるか正常であるかを判断するために監視員に許容される時間が制限され、正確かつ迅速な判断という観点で困難な状況になりつつあった。
【0011】
そこで、監視員を増員することも考えられるが、多くの監視員が同質の判断を安定的に行なえるように訓練するのは非常に時間がかかり、どうしても個人差により判断結果に揺らぎが生じるという問題があった。設備毎に膜分離装置の運転態様が区々であり、それに応じて表示装置に表示される膜間差圧のトレンドグラフの傾向も区々であるため、短時間で正常であるか異常であるかを適切に判断できるようになるには十分な経験が要求されるためである。
【0012】
また、監視員が不在の夜間や休日には異常が生じていても発見できないという不都合もあった。
【0013】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、監視員の負担を軽減するとともに、監視員が不在であっても、ろ過膜の状態を迅速且つ正確に診断可能な浸漬型膜分離装置の異常検知方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するため、本発明による浸漬型膜分離装置の運転状態の異常検知方法の第一の特徴構成は、ろ過運転とリラクゼーション運転を交互に繰り返す浸漬型膜分離装置の異常検知方法であって、前記浸漬型膜分離装置の膜間差圧を所定時間ごとに計測して収集するデータ収集工程と、前記データ収集工程で収集した膜間差圧計測値群に基づく複数種類の異常判定ロジックを並行して実行し、何れかの異常判定ロジックで異常と判定すると浸漬型膜分離装置が異常であると検知する点にある。
【0015】
浸漬型膜分離装置に異常が生じる原因は膜詰まり以外に様々な要因があり、其々の異常発生原因を詳細に探索するためには、稼働状態を検知する複数のセンサが必要になり、其々のセンサの出力に基づいて異常を判定するために非常に複雑なアルゴリズムを構築する必要があり、またコストの上昇を来す。しかし、上述の構成によれば、データ収集工程で所定時間ごとに計測して得られる膜間差圧計測値群に対して、複数種類の異常判定ロジックを並行して実行することにより、コストの上昇を来すことなく様々な要因による異常を検知できるようになる。
【0016】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記異常判定ロジックは、少なくとも前記ろ過運転時の膜間差圧計測値群に基づいて異常を判定するろ過運転異常判定ロジックと、前記リラクゼーション運転時の膜間差圧計測値群に基づいて異常を判定するリラクゼーション運転異常判定ロジックを含む点にある。
【0017】
浸漬型膜分離装置は、ろ過運転とリラクゼーション運転を交互に繰り返すため、データ収集工程で得られる膜間差圧計測値群にはろ過運転時とリラクゼーション運転時のみならず、運転の切替わり時のデータも含まれ得る。そのため、ろ過運転時の膜間差圧計測値群に基づいて異常を判定するろ過運転異常判定ロジックと、リラクゼーション運転時の膜間差圧計測値群に基づいて異常を判定するリラクゼーション運転異常判定ロジックに分けて異常判定することにより精度の高い異常検知が可能になる。
【0018】
同第三の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記異常判定ロジックは、さらに前記ろ過運転時と前記リラクゼーション運転時の双方の膜間差圧計測値群に基づいて異常を判定するろ過およびリラクゼーション運転異常判定ロジックを含む点にある。
【0019】
上述の第一の特徴構成によると、膜間差圧計測値群をろ過運転時の膜間差圧計測値群とリラクゼーション運転時の膜間差圧計測値群とに適切に分離できない場合には、却って信頼性が損なわれる虞がある。そのような場合に備えて、ろ過およびリラクゼーション運転異常判定ロジックを備えることで、ろ過運転時とリラクゼーション運転時の双方の膜間差圧計測値群に基づいて適切に異常を判定することができるようになる。
【0020】
同第四の特徴構成は、上述した第二の特徴構成に加えて、前記異常判定ロジックは、前記データ収集工程で収集した時系列の膜間差圧計測値のうち、異常を検知する対象期間を含む第1の期間の膜間差圧計測値群を、ろ過運転時の第1膜間差圧計測値群とリラクゼーション運転時の第2膜間差圧計測値群に分離する状態分離工程を含み、前記ろ過運転異常判定ロジックは第1膜間差圧計測値群を判定対象とし、前記リラクゼーション運転異常判定ロジックは第2膜間差圧計測値群を判定対象とする点にある。
【0021】
所定時間ごとに膜間差圧を計測した膜間差圧計測値の集合である膜間差圧計測値群という一種類の時系列のデータがデータ収集工程で収集され、状態分離工程が実行されることにより、第1の期間つまり異常を検知する対象期間を含む期間の膜間差圧計測値群がろ過運転時に対応する第1膜間差圧計測値群とリラクゼーション運転時に対応する第2膜間差圧計測値群とに分離され、第1膜間差圧計測値群に対してろ過運転異常判定ロジックが適用され、第2膜間差圧計測値群に対してリラクゼーション運転異常判定ロジックが適用されることにより、精度の高い異常検知が可能になる。
【0022】
同第五の特徴構成は、上述した第三の特徴構成に加えて、前記異常判定ロジックは、前記データ収集工程で収集した時系列の膜間差圧計測値のうち、異常を検知する対象期間を含む第1の期間の膜間差圧計測値群を、ろ過運転時の第1膜間差圧計測値群とリラクゼーション運転時の第2膜間差圧計測値群に分離する状態分離工程を含み、前記第1膜間差圧計測値群と前記第2膜間差圧計測値群の重心距離が所定の閾値未満のときに、前記ろ過およびリラクゼーション運転異常判定ロジックを実行する点にある。
【0023】
状態分離工程で分離された第1膜間差圧計測値群と第2膜間差圧計測値群の重心距離が所定の閾値未満であれば、膜間差圧計測値群が明瞭に状態分離されていないため、却って不正確な判定結果となる虞がある。そのような場合に、ろ過およびリラクゼーション運転異常判定ロジックを実行するように切り替えることで、柔軟性を持った異常検知が可能になる。
【0024】
同第六の特徴構成は、上述した第一から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記浸漬型膜分離装置には複数種類の異常態様があり、各異常態様に対応するように前記複数の異常判定ロジックが構成されている点にある。
【0025】
膜間差圧計測値から把握可能な浸漬型膜分離装置の異常態様には、膜詰まりや固形分の堆積以外に、例えばセンサや散気装置を含む電気的な故障や、ポンプ系の異常や、配管系の異常などが存在する。そのような異常が生じると膜間差圧計測値に特有の兆候が見られる。そこで、そのような特有の兆候を検知できる異常判定ロジックを備えることで、各種の異常を適切に判定できるようになる。
【0026】
同第七の特徴構成は、上述した第六の特徴構成に加えて、前記複数の異常判定ロジックの何れかで異常と判定すると、該当する異常判定ロジックに対応付けた異常態様を識別可能に表示または報知する点にある。
【0027】
異常判定ロジックに対応付けた異常態様を識別可能に表示または報知することで、監視員は瞬時に発生した異常の態様を把握できるようになる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明した通り、本発明によれば、監視員の負担を軽減するとともに、監視員が不在であっても、ろ過膜の状態を迅速且つ正確に診断可能な浸漬型膜分離装置の異常検知方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明による浸漬型膜分離装置の異常検知方法が適用される遠隔監視システムの説明図
図2】遠隔監視装置の機能ブロックの説明図
図3】(a)から(f)は、データ収集工程で収集した膜間差圧計測値の挙動から窺える浸漬型膜分離装置の様々な状態を示す説明図
図4】異常検知アルゴリズムと対応する膜間差圧計測値の挙動の関係説明図
図5】(a)はデータ収集工程で収集した膜間差圧計測値群の説明図、(b)は状態分離工程で状態分離されたろ過運転時の第1膜間差圧計測値群とリラクゼーション運転時の第2膜間差圧計測値群の説明図
図6】(a)は状態分離工程で状態分離されたろ過運転時の第1膜間差圧計測値群の説明図、(b)は分散状態の演算処理の説明図、(c)は分散状態に基づいて算出された評価値の説明図
図7】浸漬型膜分離装置の異常検知アルゴリズムの一例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明による浸漬型膜分離装置の異常検知方法の実施形態を説明する。
図1には、浸漬型膜分離装置の異常検知方法が適用される遠隔監視システムが示されている。
【0031】
遠隔監視システム100は、水処理プラント1(1A,1B,・・・,1N)に設置された浸漬型膜分離装置2(2A,2B,・・・,2N)(以下、単に「膜分離装置2」とも記す。)を管理する管理装置3(3A,3B,・・・,3N)と、管理装置3(3A,3B,・・・,3N)とインターネットなどを介して通信可能に接続されたサーバである遠隔監視装置4と、遠隔管理装置4と、診断装置10を備えている。なお、診断装置10は、遠隔監視装置4がその機能を備えていてもよく、遠隔管理装置4と同じくインターネットなどを介して通信可能に接続されたものであってもよい。
【0032】
各管理装置3(3A,3B,・・・,3N)は、水処理プラント1(1A,1B,・・・,1N)に設置された単一または複数系列の膜分離装置2(2A,2B,・・・,2N)に対して、例えば9分間のろ過運転と1分間のリラクゼーション運転を1単位として繰返すように運転管理する。
【0033】
ろ過運転時には膜分離装置2の下方に設置した散気装置により散気した状態でろ過膜から処理水を吸引ろ過し、リラクゼーション運転時には散気装置により散気された状態を維持しつつろ過膜からの処理水の吸引ろ過を停止する。リラクゼーション運転時にも膜分離装置2の下方に設置された散気装置からの気泡と被処理水の気液混相の上向流によってろ過膜面がクリーニングされる。
【0034】
各管理装置3は、圧力センサを介して1分間隔で膜間差圧を計測して内部の記憶部に格納するとともに、所定時間間隔でインターネットなどを介して計測した膜間差圧のサンプリングデータを含む運転情報を遠隔監視装置4に送信するように構成されている。後に詳述するが、運転情報には、吸引ポンプの運転状態、透過水の流量、処理槽の水位などと各データの時刻情報が含まれる。
【0035】
遠隔監視装置4は各管理装置3から送信された膜間差圧のサンプリングデータつまり膜間差圧計測値をデータベース4Aに格納するとともに、現場担当者などからのスマートフォンなどの情報端末を用いた閲覧要求に応じて、データベース4Aに格納された膜間差圧のサンプリングデータをトレンドグラフの形で提供するように構成されている。
【0036】
遠隔監視装置4には、データベース4Aに格納した膜間差圧計測値に基づいて各水処理プラント1(1A,1B,・・・,1N)に設置された浸漬型膜分離装置2(2A,2B,・・・,2N)が正常に稼働しているか何らかの異常が発生しているかを検知する異常検知プログラムがインストールされている。
【0037】
つまり、遠隔監視装置4が診断装置10を兼ねており、各管理装置3および遠隔監視装置4によって本発明の浸漬型膜分離装置の異常検知方法が実行される。診断結果はデータベース4Aに格納され、現場担当者などからのスマートフォンなどの情報端末を用いた閲覧要求に応じて閲覧される。なお、浸漬型膜分離装置の異常検知方法を実行する診断装置は、遠隔監視装置4とは別に構成し、遠隔監視装置4とインターネットなどを介して通信可能な汎用のパーソナルコンピュータで構成してもよい。
【0038】
図2には、遠隔監視装置4の機能ブロックが示されている。遠隔監視装置4は、各水処理プラント1に備えた管理装置3から送られてくる膜間差圧計測値の其々に対して、種類の異なる複数の異常判定を並行して実行する異常判定ロジックA,B,C,・・・,Nと、各異常判定ロジックA,B,C,・・・,Nから出力される異常判定信号が入力されるOR回路と、各異常判定ロジックA,B,C,・・・,Nから出力される正常判定信号が入力されるAND回路を備えている。
【0039】
何れかの異常判定ロジックA,B,C,・・・,Nから異常判定信号が出力されると、OR回路から異常判定信号が出力され、対応する浸漬型膜分離装置が異常であると検知される。また、全ての異常判定ロジックA,B,C,・・・,Nから正常判定信号が出力されると、AND回路から正常判定信号が出力され、対応する浸漬型膜分離装置が正常であると検知される。
【0040】
OR回路から異常判定信号が出力される場合に、対応する浸漬型膜分離装置の膜間差圧計測値を監視員が目視して再判定する再判定処理部を備えている。OR回路から異常判定信号が出力されると、再判定処理部は監視員が所有する端末に異常判定通報を発して、その端末の表示部に対応する膜間差圧計測値を表示させ、監視員による判定結果の入力を促す。
【0041】
遠隔地の監視員が正常判定すると異常判定をキャンセルし、当該監視員も異常判定すると異常検知した旨を現場の管理者が閲覧可能なスマートフォンなどの外部の情報端末に送信するように構成されている。外部の情報端末には、異常判定ロジックに対応付けた異常態様を識別可能に報知され、その情報端末の表示画面には異常判定ロジックに対応付けた異常態様を識別可能に表示される。
【0042】
なお、AND回路から正常判定信号が出力される場合や上述したように監視員が正常判定する場合には、外部の情報端末に送信することはない。判定結果は判定情報記録部に記録される。
【0043】
遠隔監視装置4が設置されたオフィスに監視員が常駐しているような場合には、監視員に対してアラームを発して、遠隔監視装置4に接続された表示装置に対応する膜間差圧計測値を表示させ、監視員による判定結果の入力を促す。
【0044】
なお、再判定処理部は必須ではなく、OR回路の出力を最終判定とすることも可能である。
【0045】
図3(a)から(f)には、膜間差圧計測値の挙動から窺える浸漬型膜分離装置の様々な状態が示されている。なお、膜間差圧計測値は負の値であり、図中において下方の値ほど膜間差圧計測値の絶対値が大きくなる。そこで、以降の説明では、下方にある膜間差圧ほど膜間差圧が高いと表現する。
図3(a)は膜面の目詰まりなどの閉塞に起因して膜間差圧(負圧)が徐々に高くなる異常パターンであり、緊急度は中程度の異常パターンである。
図3(b)は膜面の目詰まりなどに起因して膜間差圧が急激に高くなる異常パターンであり、緊急度が高い異常パターンである。
図3(c)はろ過運転時とリラクゼーション運転時の膜間差圧の振れ幅は一定であるが、処理水槽の水位が変化して膜間差圧が次第に高くなる異常パターンであり、緊急度が高い異常パターンである。
図3(d)は処理水を吸引する配管に空気が入り、リラクゼーション運転時の膜間差圧が非常に低く、大気圧と同程度となる圧抜けという異常パターンであり、緊急度は中程度の異常パターンである。
図3(e)はろ過運転時の膜間差圧が段階的に変化する異常パターンであり、緊急度は低い異常パターンである。通常時はろ過運転時に吸引ポンプを1台稼動させ、透過水量を増加させる必要があるときに、吸引ポンプを2台稼動させる場合にこのようなパターンとなる。
図3(f)は信号線の断線など電装系の異常で突然に膜間差圧が一方に張り付いた状態になる異常パターンで、緊急度は低い異常パターンである。
【0046】
本発明による浸漬型膜分離装置の異常検知方法は、ろ過運転とリラクゼーション運転を交互に繰り返す浸漬型膜分離装置の異常検知方法で、浸漬型膜分離装置2の膜間差圧を所定時間ごとに計測して収集するデータ収集工程と、データ収集工程で収集した膜間差圧計測値群のみに基づく複数種類の異常判定ロジックを並行して実行し、何れかの異常判定ロジックで異常と判定すると浸漬型膜分離装置が異常であると検知するように構成され、上述した複数の異常パターンに対応可能に構成されている。
【0047】
図4には、複数の異常判定ロジックと、各異常判定ロジックで異常検知可能な異常パターンが示されている。
図3(a)に示す異常パターンは、吸引・停止時、つまりろ過運転時とリラクゼーション運転時の双方の膜間差圧計測値群に基づく異常判定ロジックで最も正確に異常判定され、図3(b)および図3(c)に示す異常パターンは、吸引時つまりろ過運転時の異常判定ロジックで最も正確に異常判定され、図3(d)に示す異常パターンは、停止時つまりリラクゼーション運転時の異常判定ロジックで最も正確に異常判定される。
【0048】
さらに、図3(e)に示す異常パターンは、膜間差圧に加えて運転情報に含まれる透過水の流量を参照して異常判定する流量参照異常判定ロジックで最も正確に異常判定され、図3(f)に示す異常パターンは、単純な閾値による異常判定ロジックで異常判定される。
【0049】
単純な閾値による異常判定ロジックとは、膜間差圧計測値が予め設定された閾値を超えるか否かに基づいて異常判定するロジックで、基本的にはノイズの影響排除するため、膜間差圧計測値が予め設定された閾値を所定時間継続して超えた場合に異常と診断する異常判定ロジックである。図3(f)の例では、膜間差圧計測値が閾値を超えて負に大きな値を示す場合に異常と判定される。
【0050】
流量参照異常判定ロジックとは、膜間差圧に加えて運転情報に含まれる透過水の流量を判定の対象に含めるロジックである。透過水量を増加させる必要があるときに、吸引ポンプを2台稼動させる場合に図3(e)に示すようなパターンとなる。膜間差圧が大きな値となる時間ΔTの間の透過水量を参照して、透過水量が同様に時間ΔTの間に多くなる傾向が確認できれば正常判定され、透過水量が時間ΔTの前後で変化しない場合や、逆に少なくなる場合に異常判定される。
【0051】
異常判定ロジックのうち、吸引時(ろ過運転時)の異常判定ロジック、停止時(リラクゼーション運転時)の異常判定ロジック、および吸引・停止時(ろ過運転時およびリラクゼーション運転時)の異常判定ロジックについて詳述する。これらの異常判定ロジックは、データ収集工程と、ノイズ除去工程と、異常判定工程とを含み、選択的に状態分離工程を含む。
【0052】
データ収集工程は、各浸漬型膜分離装置2の膜間差圧を所定時間ごとに計測して収集する工程である。各管理装置3により圧力センサを介して1分間隔でサンプリングされた膜間差圧が収集され、内部の記憶部に記憶される。記憶された膜間差圧は他のデータと共に例えば半日に1回程度の所定時期にインターネットを介して遠隔監視装置4に送信され、遠隔監視装置4に備えたデータベース4Aに格納される。
【0053】
膜間差圧以外の運転情報として、吸引ポンプの運転状態、透過水の流量、処理槽の水位などが含まれ、運転情報には、水処理プラント1を固有に識別するIDコード、膜分離装置を固有に識別するためのIDコード、各膜間のサンプリング時刻、などが含まれる。水処理プラント1に複数系統の膜分離装置2が設置されている場合には、各系統の膜分離装置2に対するIDコードが付加される。なお、データ収集工程は、上述した全ての異常判定ロジックに共通する工程である。
【0054】
図5(a)には1分間隔でサンプリングされた複数の膜間差圧計測値、つまり膜間差圧計測値群が例示されている。同図には時系列でサンプリングされ、プロットされた膜間差圧計測値を直線で接続した状態が示されており、ろ過運転時とリラクゼーション運転時の双方の膜間差圧計測値が混在し、また圧力センサの信号線に混入したノイズ信号が重畳されている。
【0055】
状態分離工程は、データ収集工程で収集した時系列の膜間差圧計測値のうち、異常を検知する対象期間を含む第1の期間P1の膜間差圧計測値群を、ろ過運転時の第1膜間差圧計測値群とリラクゼーション運転時の第2膜間差圧計測値群に分離する工程である。
【0056】
状態分離工程は、教師なし機械学習に基づく非階層的クラスター分析を実行することにより第1膜間差圧計測値群と第2膜間差圧計測値群の二つのクラスターに分離するように構成されている。非階層的クラスター分析としてk平均法を好適に用いることができる。
【0057】
k平均法では、先ず、二つのクラスターの仮重心位置を初期設定し、膜間差圧計測値と仮重心とのユークリッド距離に基づいて近いものを各仮重心位置に属するクラスターとして分離し、同一クラスターに含まれる膜間差圧計測値から新たな重心を算出し、次に新たな重心と膜間差圧計測値とのユークリッド距離を算出し、膜間差圧計測値を距離の近い側の重心のクラスターに分離する処理を、収束するまで繰り返すことで第1膜間差圧計測値群と第2膜間差圧計測値群に分離される。
【0058】
図5(b)は、図5(a)の膜間差圧計測値群をk平均法を用いて、ろ過運転時の第1膜間差圧計測値群とリラクゼーション運転時の第2膜間差圧計測値群に分離した結果を示している。濃度の濃い部分が第2膜間差圧計測値群を示し、濃度の薄い部分が第1膜間差圧計測値群を示している。第1膜間差圧計測値群および第2膜間差圧計測値群の其々には塊から離散した孤立点が散見される。当該孤立点がノイズとなる。ノイズには、圧力センサの信号線に混入したノイズ信号や、ろ過運転からリラクゼーション運転への遷移時やリラクゼーション運転からろ過運転への遷移時に検出される膜間差圧が含まれる。
【0059】
ノイズ除去工程は、第1の期間P1より短い第2の期間P2における第1膜間差圧計測値群および/または第2膜間差圧計測値群からノイズデータを除去する工程で、詳述すると第1膜間差圧計測値群および第2膜間差圧計測値群の其々に対して上下所定範囲から逸脱するデータを除去する工程である。
【0060】
例えば、第1膜間差圧計測値群および/または第2膜間差圧計測値群のデータ数に対して値が高い上位95%以上のデータおよび値が低い下位5%の数のデータがノイズとして除去される。また、例えば膜間差圧計測値がとり得る範囲の5%から95%の範囲から逸脱するデータをノイズとして除去することも可能である。なお、この範囲は特に5%から95%の範囲に限定するものではなく適宜設定すればよい。
【0061】
異常判定工程は、ノイズ除去工程でノイズを除去した第1の期間P1より短い第2の期間P2の第1膜間差圧計測値群および/または第2膜間差圧計測値群から分散状態を算出し、当該分散状態に基づいて浸漬型膜分離装置が異常であるか否かを判定する工程である。
【0062】
ろ過運転時の第1膜間差圧計測値群であるクラスターと、リラクゼーション運転時の第2膜間差圧計測値群であるクラスターに分離されることにより、ろ過運転時に焦点を当てた異常診断、リラクゼーション運転時に焦点を当てた異常診断が行なえるようになる。
【0063】
すなわち、第1膜間差圧計測値群に対する異常判定工程で吸引時(ろ過運転時)の異常判定ロジックが実行され、第2膜間差圧計測値群に対する異常判定工程で停止時(リラクゼーション運転時)の異常判定ロジックが実行される。
【0064】
図6(a)には状態分離工程で分離されたろ過運転時の第1膜間差圧計測値群が例示され、図6(b)にはノイズ除去工程を実行するとともに、分散状態を算出する第2の期間P2が破線または実線の四角形で示されている。第1膜間差圧計測値群の中で破線または実線の四角形の時間幅に含まれる膜間差圧計測値群に対してノイズ除去工程が行なわれたうえで分散状態が算出される。なお、破線の四角形は過去に実行された第2の期間P2を示し、実線の四角形は現在実行中の第2の期間P2を示している。
【0065】
本実施形態では、第1の期間P1が24時間(1日)に設定され、第2の期間P2が1時間に設定されているが、このような値に限るものではない。さらに、第2の期間P2を所定時間毎(例えば1分毎)に時系列的にシフトさせた各期間でノイズ除去工程が行なわれるとともに分散状態が算出される。例えば第2の期間P2を1分単位で時系列的にシフトさせた各期間で分散状態を算出する場合、1時間で60の分散状態が算出されることになる。なお、第2の期間P2の各期間のノイズ除去工程に用いる膜間差圧計測値群は、ノイズ除去する前の元データが対象となる。
【0066】
図6(c)に示すように、異常判定のために用いる分散状態として、第2の期間P2の膜間差圧計測値群に対する分散または標準偏差を変数とする所定の評価関数の出力値、即ち評価値を採用することが好ましく、当該出力値が予め設けた閾値Ref(異常判定閾値)を超えると運転状態が異常であると判定する。
【0067】
評価関数は特に限定されるものではなく、分散または標準偏差を変数とする一次関数などを適宜用いることができる。本実施形態では、分散または標準偏差に所定の係数を乗じる一次関数が採用されている。係数が1の場合には分散または標準偏差が評価値となる。
【0068】
図6(b)によれば、膜間差圧計測値のばらつきが次第に大きくなる領域Rで、評価値が異常判定閾値を超えている、つまり異常が発生していると判定される。第2の期間P2において何らかの原因で安定性が損なわれると、第2の期間P2の差圧計測値群の分散または標準偏差が大きくなることに着目するものである。
【0069】
図6(b)の破線矢印で示すように、状態分離工程から異常判定工程に到る一連の工程を第3の期間P3の経過毎に繰り返し実行するように構成することが好ましい。この場合、第1の期間P1は第2の期間P2と第3の期間P3を加算した期間より長い期間に設定している。
【0070】
異常を検知する対象期間を含む第1の期間P1に、第1の期間P1より短い第3の期間P3の経過毎に状態分離工程から異常判定工程が繰り返されるので、第3の期間P3より長く設定された第1の期間P1の第1膜間差圧計測値群を利用した状態分離工程により状態分離の精度を確保しつつ、第3の期間P3を監視員による監視のタイミングに合わせるなど所定の期間に設定することで、診断の対象となる浸漬型膜分離装置の数が増えた場合でも、診断装置10の計算負荷を分散させることができる。この例では第3の期間P3は6時間に設定されている。したがって、6時間ごとに状態分離工程から異常判定工程に到る一連の工程が繰り返される。
【0071】
さらに、第2膜間差圧計測値群に対しても停止時(リラクゼーション運転時)の異常判定ロジックとして、上述と同様の処理が行なわれる。その結果、ろ過運転時とリラクゼーション運転時の其々について適切に異常判定が行われる。
【0072】
状態分離工程で、第1膜間差圧計測値群と第2膜間差圧計測値群の二つのクラスターに分離した結果、其々のクラスターの重心の距離が予め設定した所定の閾値未満である場合に、二つのクラスターに適切に分離されていない虞があると判断して、其々のクラスターに加えて、状態分離工程前の膜間差圧計測値群に対しても、上述したノイズ除去工程と、異常判定工程を実行する。
【0073】
このときの異常判定工程で上述した吸引・停止時(ろ過運転時およびリラクゼーション運転時)の異常判定ロジックも併せて実行され、図3(a)に示す異常パターンに基づく異常と判定された場合には、吸引時(ろ過運転時)の異常判定ロジック、および停止時(リラクゼーション運転時)の異常判定ロジックで出力される判定よりも優先して、吸引・停止時(ろ過運転時およびリラクゼーション運転時)の異常判定ロジックで出力される判定が採用される。
【0074】
なお、其々のクラスターの重心の距離に基づく二つのクラスターへの分割が適切にされていない虞があると判断された場合に、吸引時(ろ過運転時)の異常判定ロジック、および停止時(リラクゼーション運転時)の異常判定ロジックを其々実行しないように構成してもよい。この場合には、吸引・停止時(ろ過運転時およびリラクゼーション運転時)の異常判定ロジックに加えて流量参照異常判定ロジックや単純な閾値による異常判定ロジックも並行して実行される。
【0075】
図7には、吸引時(ろ過運転時)の異常判定ロジック、停止時(リラクゼーション運転時)の異常判定ロジック、吸引・停止時(ろ過運転時およびリラクゼーション運転時)の異常判定ロジックの手順が示されている。
【0076】
先ず、浸漬型膜分離装置の膜間差圧を所定時間ごとに計測して収集するデータ収集工程が実行され(S1)、データ収集工程で収集した時系列の膜間差圧計測値のうち、異常を検知する対象期間を含む第1の期間の膜間差圧計測値群を、ろ過運転時の第1膜間差圧計測値群とリラクゼーション運転時の第2膜間差圧計測値群に分離する状態分離工程が実行される(S2)。
【0077】
第1膜間差圧計測値群と第2膜間差圧計測値群の重心間の距離が算出されて、その値が閾値より大きければ(S3,Y)、適切にクラスター分割されていると判断して、第1膜間差圧計測値群と第2膜間差圧計測値群の其々を異常判定の対象データに設定し(S4)、重心距離が閾値より小さければ(S3,N)、適切にクラスター分割されていない虞があると判断して、第1膜間差圧計測値群と第2膜間差圧計測値群に加えて、クラスター分割する前の膜間差圧計測値群を異常判定の対象データに追加する(S5)。
【0078】
その後に、第1の期間P1より短い第2の期間P2が設定され(S6)、第2の期間P2における第1膜間差圧計測値群および第2膜間差圧計測値群からノイズデータを除去するノイズ除去工程が実行され(S7)、ノイズが除去された第2の期間P2の第1膜間差圧計測値群および第2膜間差圧計測値群に対して分散状態を算出する処理が実行される(S8)。
【0079】
ステップS6からステップS8の各処理を対象期間の全期間で実行すべく、第2の期間P2を所定時間毎に時系列的にシフトさせて繰り返し(S9)、得られた各分散状態に基づいて浸漬型膜分離装置が異常であるか否かを所定の異常判定閾値を基準に正常であるか異常であるかを判定する異常判定工程を実行する(S10,S11,S12,S13)。
【0080】
図7に示したフローチャートでは第1の期間P1の全期間をカバーするように第2の期間P2を所定時間間隔でシフトして、第2の期間P2の何れか一つで評価値が異常判定閾値を超えると異常が発生したと判定する例を示したが、第2の期間P2で評価値が異常判定閾値を超える回数が所定回数に達すると異常が発生したと判定するように構成してもよい。
【0081】
また、図6(b)で破線矢印を用いて説明したように、第1の期間P1より短い第3の期間で上述した異常判定処理を繰り返すように構成してもよい。
【0082】
以上説明したように、本発明による浸漬型膜分離装置の異常検知方法は、浸漬型膜分離装置の膜間差圧を所定時間ごとに計測して収集するデータ収集工程と、データ収集工程で収集した膜間差圧計測値群に基づく複数種類の異常判定ロジックを並行して実行し、何れかの異常判定ロジックで異常と判定すると浸漬型膜分離装置が異常であると検知するように構成されている。
【0083】
浸漬型膜分離装置には複数種類の異常態様があり、各異常態様に対応するように複数の異常判定ロジックが構成されている。そして、複数の異常判定ロジックの何れかで異常と判定すると、該当する異常判定ロジックに対応付けた異常態様を識別可能に表示または報知するように構成されている。
【0084】
上述した説明では5種類の異常判定ロジックについて説明したが、それ以上の数の異常判定ロジックを備えていてもよい。また、5種類の異常判定ロジックの全てを備えていなくてもよく、膜間差圧計測値群に基づく少なくとも複数の異常判定ロジックを備えていればよい。
【0085】
以上の説明は、本発明による浸漬型膜分離装置の異常検知方法の一例であり、各工程の具体的な態様は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計することが可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0086】
100:遠隔監視システム
1(1A,1B,1C):水処理プラント
2:浸漬型膜分離装置
3:管理装置
4:遠隔監視装置(診断装置)
4A:データベース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7