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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】人工弁尖器具
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/24 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
A61F2/24
【請求項の数】 66
(21)【出願番号】P 2020534161
(86)(22)【出願日】2018-07-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-12
(86)【国際出願番号】 US2018043566
(87)【国際公開番号】W WO2019045910
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】62/552,595
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/582,519
(32)【優先日】2017-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520072187
【氏名又は名称】ハーフ ムーン メディカル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】マクレーン マット
(72)【発明者】
【氏名】ギフォード ハンソン エス ザ サード
(72)【発明者】
【氏名】ファン ジェイムズ アイ
(72)【発明者】
【氏名】サットン ダグラス
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-535384(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0065418(US,A1)
【文献】特表2014-510563(JP,A)
【文献】国際公開第2017/096157(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0262233(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0119981(US,A1)
【文献】国際公開第2017/079279(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/04-2/07
A61F 2/82-2/945
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓弁修復器具であって、
配備形態では長円形又は円形の形状を有するよう構成された拡張可能なメッシュを備えた心房固定部材を有し、前記心房固定部材は、中央ルーメンを備えていると共に、生まれつきの心臓弁の弁輪の心房壁上流に接触するように構成され、
前記心臓弁修復器具は、前記心房固定部材の一部分から延びるバッフルをさらに有し、前記バッフルは、前記生まれつきの心臓弁の1つ又は2つ以上の生まれつきの尖の少なくとも一部分と接合するよう構成されている無外傷性の表面を備えた前方部分と、前記生まれつきの心臓弁の別の生まれつきの尖の少なくとも部分的に係合して該一部分を変位させるよう構成された後方部分とを有し、前記バッフルは、前記変位した生まれつきの尖の閉鎖位置に近づくよう前記心房固定部材から前記中央ルーメン中に半径方向内方に延びており、
前記心臓弁修復器具は、前記心房固定部材の周りに周方向に設けられた複数の第1の縫合糸ループをさらに有し、各第1の縫合糸ループは、ルーメンを有し、
前記心臓弁修復器具は、前記第1の縫合糸ループによって形成された前記ルーメンを介して前記心房固定部材の周りに周方向に設けられた第2の縫合糸をさらに有し、
前記心房固定部材の直径は、前記第2の縫合糸を締めることによって調節される、修復器具。
【請求項2】
前記バッフルは、中空内容積部を有するバスケットの状態に構成されたストラットを含み、前記バッフルは、機能的に欠陥のある生まれつきの尖の少なくとも第1の部分に係合して該第1の部分を拘束する一方で、前記機能的に欠陥のある生まれつきの尖の第2の部分を可動状態なままにしておくよう構成された拘束部分をさらに含み、前記バッフルは、前記機能的に欠陥のある尖に関する閉鎖位置に近づくよう前記中央ルーメン中に半径方向内方に延びている、請求項1記載の修復器具。
【請求項3】
前記心房固定部材又は前記バッフルの複数部分に設けられた複数の摩擦要素をさらに有する、請求項1記載の修復器具。
【請求項4】
前記心房固定部材の内側と外側は、前記複数の摩擦要素のいずれも含まない、請求項3記載の修復器具。
【請求項5】
前記バッフルは、中空内部を包囲したバスケットを有する、請求項1記載の修復器具。
【請求項6】
前記バッフルは、複数の前方ストラットと複数の後方ストラットを有し、隙間が前記前方ストラット及び前記後方ストラットの隣り合うストラット相互間に介在して設けられている、請求項1記載の修復器具。
【請求項7】
前記バッフルを覆う又は少なくとも部分的に包囲したファブリック、ポリマー、及び/又は、生体適合性フォームを有し、
前記バスケットは、前記ファブリックによって覆われていない口を有する、請求項1記載の修復器具。
【請求項8】
前記バッフルを覆う又は少なくとも部分的に包囲したファブリック、ポリマー、及び/又は、生体適合性フォームを有し、
前記バスケットは、前記ファブリックによって覆われた口を有する、請求項1記載の修復器具。
【請求項9】
前記バッフルは、生体適合性フォームから成る、請求項1記載の修復器具。
【請求項10】
前記バッフルの前記前方部分は、凸形状を有する、請求項1記載の修復器具。
【請求項11】
前記バッフルの前記後方部分は、3つのスカラップを有する生まれつきの僧帽弁尖の中央スカラップに係合する一方で、残りの前記2つのスカラップを可動状態のままにするよう寸法決めされるとともに形作られている、請求項1記載の修復器具。
【請求項12】
心臓弁修復器具であって、
配備形態では長円形又は円形の形状を有するよう構成された拡張可能なメッシュを備えた心房固定部材を有し、前記心房固定部材は、中央ルーメンを備えていると共に、生まれつきの心臓弁の弁輪の心房壁上流に接触するように構成され、
前記心臓弁修復器具は、前記心房固定部材の一部分から延びるバッフルをさらに有し、前記バッフルは、前記生まれつきの心臓弁の1つ又は2つ以上の生まれつきの尖の少なくとも一部分と接合するよう構成されている無外傷性の表面を備えた前方部分と、前記生まれつきの心臓弁の別の生まれつきの尖の少なくとも部分的に係合して該一部分を変位させるよう構成された後方部分とを有し、前記バッフルは、前記変位した生まれつきの尖の閉鎖位置に近づくよう前記心房固定部材から前記中央ルーメン中に半径方向内方に延びており、
前記心臓弁修復器具は、前記バッフルの周りに設けられた複数の第1の縫合糸ループをさらに有し、各第1の縫合糸ループは、ルーメンを有し、
前記心臓弁修復器具は、第2の縫合糸ループによって形成された前記ルーメンを介して前記バッフルの周りに周方向に設けられた第2の縫合糸をさらに有し、
前記バッフルの直径は、前記第2の縫合糸を締めることによって調節される、修復器具。
【請求項13】
前記バッフルに設けられた第3の縫合糸と、
前記第3の縫合糸を引くことにより、前記バッフルが変位する、請求項12記載の修復器具。
【請求項14】
前記心房固定部材に取り付けられるとともに前記心房固定部材を少なくとも部分的に跨いだファブリックの少なくとも1つのファブリックセグメントをさらに有し、前記ファブリック被覆は、組織内方成長を容易にする、請求項1記載の修復器具。
【請求項15】
前記心房固定部材の遠位端部から垂下したファブリックの少なくとも1つのファブリックセグメントをさらに有する、請求項1記載の修復器具。
【請求項16】
前記少なくとも1つのファブリックセグメントに取り付けられるとともに前記ファブリックセグメントを付勢して該ファブリックセグメントを前記中央ルーメンから遠ざける付勢部材をさらに有する、請求項15記載の修復器具。
【請求項17】
前記心房固定部材は、少なくとも2つの列をなすセルから成る、請求項1記載の修復器具。
【請求項18】
前記心房固定部材は、シェブロンの列をさらに有し、
前記シェブロンのうちの少なくとも2つは、貫通穴を有し、
前記修復器具は、さらに、前記貫通穴に通された縫合糸を有し、
前記縫合糸を締めることにより、前記心房固定部材の直径が調節される、請求項12記載の修復器具。
【請求項19】
前記心房固定部材は、切頭円錐形の形状を有する、請求項1記載の修復器具。
【請求項20】
前記心房固定部材は、前記心房壁とのみ接触するよう構成されている、請求項19記載の修復器具。
【請求項21】
外力によって拘束されていない前記心房固定部材のサイズは、心拡張期の際、生まれつきの心房のサイズよりも大きい、請求項20記載の修復器具。
【請求項22】
前記修復器具は、前記心房固定部材及び前記バッフルにおいてのみ前記生まれつきの心臓弁に対して固定されている、請求項21記載の修復器具。
【請求項23】
前記心房固定部材は、前方側部及び後方側部を有し、前記心房固定部材の前記前方側部の近位端部は、前記心房固定部材の前記後方側部の近位端部から垂直にオフセットしている、請求項1記載の修復器具。
【請求項24】
前記心房固定部材は、非対称の形状を有し、前方側部の長さは、前記心房固定部材の前記前方側部が前記心房固定部材の前記後方側部よりも垂直方向に高いように前記心房固定部材の後方側部の長さよりも長い、請求項1記載の修復器具。
【請求項25】
前記心房固定部材の後方側部は、前記心房固定部材の前方側部よりも硬い、請求項1記載の修復器具。
【請求項26】
前記心房固定部材は、複数のセルを形成している複数の相互連結ストラットを有し、前記心房固定部材の前記後方側部の前記ストラットは、前記心房固定部材の前記前方側部の前記ストラットよりも厚い、広いかつ/あるいは隣り合うストラット相互間の隙間が狭い、請求項25記載の修復器具。
【請求項27】
心臓弁修復器具であって、
中央ルーメンを備えた心房固定部材であって、この心房固定部材が、生まれつきの心臓弁の弁輪の心房壁上流に接触するように構成された前記心房固定部材と、
前記心房固定部材に取り付けられたバッフルと、を有し、前記バッフルは、前記生まれつきの心臓弁の少なくとも1つの生まれつきの尖と接合するよう構成された人工接合面を構成する滑らかな無外傷性の表面を備えた前方部分と、機能的に欠陥のある尖の少なくとも一部分に係合して該一部分を変位させるよう構成された後方部分とを有し、前記バッフルは、前記機能的に欠陥のある尖の閉鎖位置に近づくよう前記中央ルーメン中に半径方向内方に延びており、
前記心臓弁修復器具は、前記心房固定部材の周りに周方向に設けられた複数の縫合糸ループをさらに有し、各縫合糸ループは、ルーメンを有し、
前記心臓弁修復器具は、前記縫合糸ループによって形成された前記ルーメンを介して前記心房固定部材の周りに周方向に設けられた縫合糸をさらに有し、
前記心房固定部材の直径は、前記縫合糸を締めることによって調節される、心臓弁修復器具。
【請求項28】
前記バッフルを少なくとも部分的に包囲したファブリック被覆をさらに有する、請求項27記載の修復器具。
【請求項29】
前記バッフルは、生体適合性フォームから成る、請求項27記載の修復器具。
【請求項30】
前記心房固定器具及び前記バッフルの後方部分上に設けられた複数の摩擦要素をさらに有し、前記バッフルは、前記心房固定部材に対して少なくとも実質的に固定された向きのままである、請求項27記載の修復器具。
【請求項31】
前記バッフルは、中空内部を包囲したバスケットを有する、請求項27記載の修復器具。
【請求項32】
前記バッフルは、複数の前方ストラット及び複数の後方ストラットを有し、前記前方ストラット及び前記後方ストラットの隣り合うストラット相互間には隙間が介在して設けられている、請求項31記載の修復器具。
【請求項33】
前記バスケットは、口を有し、前記バスケットは、ファブリックによって覆われ、前記バスケットの前記口は、前記ファブリックによって覆われていない、請求項31記載の修復器具。
【請求項34】
前記バッフルの前記前方部分は、凸状の形状を有する、請求項27記載の修復器具。
【請求項35】
前記生まれつきの心臓弁は、僧帽弁であり、前記バッフルの前記後方部分は、3つのスカラップを備えた前記僧帽弁の前尖又は前記僧帽弁の後尖のうちの中央スカラップに係合して該中央スカラップを変位させる一方で、残りの前記2つのスカラップを可動状態のままにしておくよう寸法決めされるとともに形作られている、請求項27記載の修復器具。
【請求項36】
前記バッフルの前記後方部分は、生まれつきの尖全体に係合して該尖を変位させるよう寸法決めされるとともに形作られている、請求項27記載の修復器具。
【請求項37】
前記心房固定部材は、第1の平面内で延びる半円形リングを有し、前記バッフルは、前記第1の平面と平行でありかつ該第1の平面から垂直にオフセットした第2の平面で延びている、請求項27記載の修復器具。
【請求項38】
前記バッフルの前記前方部分は、生体適合性フォームから成る、請求項27記載の修復器具。
【請求項39】
前記心房固定部材は、前外側交連と後内側交連との間で前記弁輪の周辺を囲むよう寸法決めされた半円形リングを有する、請求項27記載の修復器具。
【請求項40】
心臓弁修復器具であって、
中央ルーメンを備えた心房固定部材を有し、この心房固定部材は、生まれつきの心臓弁の弁輪の心房壁上流に接触するように構成され、
三角アンカーシステム及び後方フックの群から選択された少なくとも1つの固定機構体を有し、
前記三角アンカーシステムは、前記心房固定部材に取り付けられるとともに前記バッフルから遠ざかって延びる第1の三角延長部、部分リングの第2の端部に取り付けられるとともに前記バッフルから遠ざかって延びる第2の三角延長部、ならびにアンカーと前記第1及び前記第2の三角延長部の終端部に取り付けられた無外傷性先端部とのうちの一方を含み、
前記後方フックは、前記心房固定部材の後方部分に取り付けられ、前記後方フックは、遠位側に延びる第1の部分及び後方の方向に湾曲した第2の部分を有し、前記後方フックは、心臓の心室中に延びて、生まれつきの心臓弁輪の心室側に係合するよう構成され、
前記心房固定部材に取り付けられたバッフルを有し、前記バッフルは、前記生まれつきの心臓弁の1つ又は2つ以上の生まれつきの尖のための人工接合面を構成する滑らかな無外傷性の表面を備えた前方部分、及び前記生まれつきの心臓弁の機能的に欠陥のある尖の少なくとも一部分に係合して該一部分を変位させるよう構成された後方部分を有し、前記バッフルは、前記中央ルーメン中に延びるとともに前記機能的に欠陥のある尖のための閉鎖位置に近づくようになっており、
前記心臓弁修復器具は、前記心房固定部材の周りに周方向に設けられた複数の縫合糸ループをさらに有し、各縫合糸ループは、ルーメンを有し、
前記心臓弁修復器具は、前記縫合糸ループによって形成された前記ルーメンを介して前記心房固定部材の周りに周方向に設けられた縫合糸をさらに有し、
前記心房固定部材の直径は、前記縫合糸を締めることによって調節される、心臓弁修復器具。
【請求項41】
前記バッフルを少なくとも部分的に包囲したファブリック被覆をさらに有する、請求項40記載の修復器具。
【請求項42】
前記バッフルは、生体適合性フォームから成る、請求項40記載の修復器具。
【請求項43】
前記心房固定部材及び前記バッフルの後方部分に設けられた複数の摩擦要素をさらに有する、請求項40記載の修復器具。
【請求項44】
前記バッフルは、中空内部を包囲したバスケットを有する、請求項40記載の修復器具。
【請求項45】
前記バッフルは、複数の前方ストラット及び複数の後方ストラットを有し、前記前方ストラット及び前記後方ストラットの隣り合うストラット相互間には隙間が介在して設けられている、請求項44記載の修復器具。
【請求項46】
前記バスケットは、口を有し、前記バスケットは、ファブリックによって覆われ、前記バスケットの前記口は、覆われていない、請求項44記載の修復器具。
【請求項47】
前記バッフルの前記前方部分は、凸状の形状を有する、請求項40記載の修復器具。
【請求項48】
前記生まれつきの心臓弁は、僧帽弁であり、前記バッフルの前記後方部分は、3つのスカラップを備えた前記僧帽弁の前尖又は前記僧帽弁の後尖のうちの中央スカラップに係合して該中央スカラップを変位させる一方で、残りの前記2つのスカラップを可動状態のままにしておくよう寸法決めされるとともに形作られている、請求項40記載の修復器具。
【請求項49】
前記バッフルの前記後方部分は、前記機能的に欠陥のある尖全体に係合するよう寸法決めされるとともに形作られている、請求項40記載の修復器具。
【請求項50】
前記心房固定部材は、前外側交連と後内側交連との間で前記心臓弁輪の周辺を囲むよう寸法決めされた半円形リングを有する、請求項40記載の修復器具。
【請求項51】
心臓弁修復器具であって、
中央ルーメンを備えた心房固定部材であって、この心房固定部材が、生まれつきの心臓弁の弁輪の心房壁上流に接触するように構成された前記心房固定部材と、
前記心房固定部材に取り付けられたバッフルと、を有し、前記バッフルは、1つ又は2つ以上の生まれつきの尖に係合するよう形作られた接合面を構成する滑らかな無外傷性の表面を備えた半径方向内方部分、及び機能的に欠陥のある尖の少なくとも一部分に係合して該一部分を変位させるよう構成された半径方向外方部分を有し、前記バッフルは、前記中央ルーメン中に延びるとともに前記機能的に欠陥のある尖のための閉鎖位置に近づくようになっており、
前記心臓弁修復器具は、前記心房固定部材の周りに周方向に設けられた複数の縫合糸ループをさらに有し、各縫合糸ループは、ルーメンを有し、
前記心臓弁修復器具は、前記縫合糸ループによって形成された前記ルーメンを介して前記心房固定部材の周りに周方向に設けられた縫合糸をさらに有し、
前記心房固定部材の直径は、前記縫合糸を締めることによって調節される、心臓弁修復器具。
【請求項52】
前記バッフルを少なくとも部分的に包囲したファブリック被覆をさらに有する、請求項51記載の心臓弁修復器具。
【請求項53】
前記バッフルは、生体適合性フォームから成る、請求項51記載の心臓弁修復器具。
【請求項54】
前記心房固定器具及び前記バッフルの半径方向外方部分上に設けられた複数の摩擦係合要素をさらに有する、請求項51記載の心臓弁修復器具。
【請求項55】
前記バッフルは、中空内部を包囲したバスケットを有する、請求項51記載の心臓弁修復器具。
【請求項56】
前記バッフルは、複数の前方ストラット及び複数の後方ストラットを有し、前記前方ストラット及び前記後方ストラットの隣り合うストラット相互間には隙間が介在して設けられている、請求項55記載の心臓弁修復器具。
【請求項57】
前記バッフルは、中空内部を包囲するバスケットを備えており、前記バスケットは、口を有し、前記バスケットは、ファブリックによって覆われ、前記バスケットの前記口は、覆われていない、請求項51記載の心臓弁修復器具。
【請求項58】
前記バッフルの前記半径方向内方部分は、凸状の形状を有する、請求項51記載の心臓弁修復器具。
【請求項59】
前記バッフルの前記半径方向外方部分は、3つのスカラップを備えた僧帽弁前尖又は僧帽弁後尖のうちの中央スカラップに係合して該中央スカラップを変位させる一方で、残りの前記2つのスカラップを可動状態のままにしておくよう寸法決めされるとともに形作られている、請求項51記載の心臓弁修復器具。
【請求項60】
前記心房固定部材は、第1及び第2の端部を備えた部分的に円形の切頭円錐形部材と、
前記心房固定部材の前記第1の端部と前記第2の端部との間に延びるブレースとを有する、請求項51記載の心臓弁修復器具。
【請求項61】
三角アンカー及び後方フックの群から選択された少なくとも1つの固定機構体をさらに有し、前記三角アンカーは、前記心房固定部材の前記第1の端部に取り付けられるとともに前記バッフルから遠ざかって延びる第1の三角延長部、前記心房固定部材の前記第2の端部に取り付けられるとともに前記バッフルから遠ざかって延びる第2の三角延長部、ならびにアンカーと前記第1及び前記第2の三角延長部の終端部に取り付けられた無外傷性先端部とのうちの一方を含む、請求項51記載の心臓弁修復器具。
【請求項62】
前尖及び後尖を備えた僧帽弁を修復するための心臓弁修復器具であって、
潰れ形態及び拡張形態を有するよう構成された心房固定部材を有し、前記心房固定部材は、拡張可能なリング状のメッシュを有し、前記心房固定部材は、生まれつきの弁輪の上流側で前記心房壁の組織に接触するよう構成され、
前記心房固定部材から半径方向内方に延びるバッフルを有し、前記バッフルは、前記後尖を心室壁に向かって変位させて前記後尖を開き位置に拘束するよう構成された外側部分、前記外側部分の半径方向内方に接合面を備えた内側部分を有し、前記内側部分は、前記接合面が前記前尖の閉鎖位置の少なくとも近くに位置決めされるような距離だけ前記外側部分から間隔を置いて位置しており、
前記心臓弁修復器具は、前記心房固定部材の周りに周方向に設けられた複数の縫合糸ループをさらに有し、各縫合糸ループは、ルーメンを有し、
前記心臓弁修復器具は、前記縫合糸ループによって形成された前記ルーメンを介して前記心房固定部材の周りに周方向に設けられた縫合糸をさらに有し、
前記心房固定部材の直径は、前記縫合糸を締めることによって調節される、心臓弁修復器具。
【請求項63】
前記心房固定部材は、前記生まれつきの弁輪の上方で心房壁組織にのみ接触するよう構成されている、請求項62記載の心臓弁修復器具。
【請求項64】
前記バッフルの表面上に設けられた生体適合性被覆をさらに有する、請求項62記載の心臓弁修復器具。
【請求項65】
前記バッフルは、前記心房固定部材から下流側の方向に延びる後方ストラット及び前記後方ストラットの下流側端部から内方かつ上方に突き出た前方ストラットを有し、前記心臓弁修復器具は、前記後方及び前記前方ストラットに取り付けられた被覆をさらに有する、請求項62記載の心臓弁修復器具。
【請求項66】
前記心房固定部材は、複数のストラットを有し、前記心臓弁修復器具は、前記心房固定部材の前記ストラットに取り付けられた被覆をさらに有する、請求項62記載の心臓弁修復器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、一般に、逆流性又は閉鎖不全の心臓弁を修復するためのインプラント及びかかるインプラントを植え込む方法に関する。本技術は、特に、逆流性僧帽弁を修復するのに有用である。
【0002】
〔関連出願の参照〕
本願は、2017年8月31日に出願された米国特許仮出願第62/552,595号及び2017年11月7日に出願された米国特許仮出願第62/582,519号の権益及び優先権主張出願であり、これら米国特許仮出願を参照により引用し、これらの記載内容全体を本明細書の一部とする。
【背景技術】
【0003】
僧帽弁の適正な機能発揮に悪影響を及ぼす病態としては、例えば、僧帽弁逆流症、僧帽弁逸脱及び僧帽弁狭窄が挙げられる。僧帽弁逆流症は、僧帽弁の両尖がピーク収縮圧力で互いに接合してくっつくことがなく、その結果、左心室から左心房への血液の異常な漏れが生じる心臓の疾患である。僧帽弁尖の適正な閉鎖に悪影響を及ぼす場合のある多くの構造的要因が存在する。例えば、心臓疾患を患っている多くの患者は、心筋の拡張を生じており、その結果、僧帽弁輪が拡大している。僧帽弁輪の拡大により、弁尖が心収縮中に接合することが困難になる。腱索、乳頭筋を僧帽弁尖の下側に繋ぐ腱の伸展又は裂離もまた、僧帽弁輪の適正な閉鎖に悪影響を及ぼす場合がある。例えば、腱索の断裂により、弁尖が弁尖に加わる不適当な張力に起因して左心房中に逸脱する場合がある。異常な逆流もまた、乳頭筋の機能発揮が、例えば虚血に起因して損なわれた場合にも起こることがある。左心室が心収縮期中に収縮すると、罹患した乳頭筋は、適正な閉鎖を行うほど十分には収縮しない。
【0004】
僧帽弁の逸脱、又は僧帽弁尖が異常に上方に膨らんで左心房中に入ると、それにより、僧帽弁の不規則な挙動が生じ、また、僧帽弁の逆流症が結果として生じる場合がある。僧帽弁の健常な機能発揮もまた、僧帽弁狭窄又は僧帽弁口が狭くなることによって悪影響を受ける場合があり、それにより心拡張の際に左心室の充満インピーダンスが生じる。
【0005】
典型的には、僧帽弁逆流症の治療では、左心房中に逆流する血液の量を減少させるために利尿薬及び/又は血管拡張薬の投与が必要であった。他の手技としては、僧帽弁の修復か置換かのいずれかのために外科的方式(開放方式及び血管内方式)が行われた。例えば、典型的な修復方式では、拡張した弁輪の複数部分のシンチング(締め)又は切除が行われた。
【0006】
弁輪のシンチングは、一般に弁輪又は周りの組織に固定されている環状又は周囲環状リングの植え込みによって達成されていた。他の修復手技としては、また、相互の部分付着部中への弁尖の縫合又はクリップ法が行われた。
【0007】
別法として、より侵襲的な手技としては、機械的な弁又は生物学的組織を僧帽弁に代えて心臓中に植え込む弁それ自体まるごとの置換が行われた。これら侵襲的な手技は、従来、ラージオープン型開胸術(large open thoracotomies)により行われ、かくして、非常に有痛性であり、相当高い罹病率を呈し、そして長い回復期間を必要とする。
【0008】
しかしながら、多くの修復及び置換手技では、器具の耐久性又は弁形成リング又は置換弁の不適切な寸法の結果として、患者にとって追加の問題が生じる場合がある。さらに、補修手技の多くは、下手に又は不正確に配置された縫合糸が手技の成功に悪影響を及ぼす場合のある心臓外科医の技量に大きく依存している。
【0009】
僧帽弁輪は、その不規則な予測不能な形状に加えて、周りの組織からの相当な半径方向支持量を欠いている。僧帽弁は、外壁だけが筋組織によって結びつけられている。僧帽弁の内壁は、僧帽弁輪を大動脈流出路の下方部分から隔てる薄い血管壁によって結びつけられている。その結果、僧帽弁輪における相当大きな半径方向力により、大動脈路の下方部分の潰れが生じ、潜在的に致命的な結果をもたらす。
【0010】
左心室の腱索はまた、僧帽弁修復器具を配備する際に障害物となる場合がある。左心室内の迷路のような腱索は、配備カテーテルをナビゲートして位置決めするのを僧帽弁の修復において極めて困難にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
現行の手技と関連した問題点が存在すると仮定して、機能障害の心臓弁を治療するための簡単で効果的なかつ侵襲性の低い器具及び方法が要望され続けている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
心臓弁修復器具が開示され、この心臓弁修復器具は、配備形態では長円形又は円形の形状を有するよう構成された拡張可能なメッシュを備えた心房固定部材を有し、心房固定部材は、中央ルーメンを備え、心臓弁修復器具は、心房固定部材の一部分から延びるバッフルをさらに有し、バッフルは、生まれつきの心臓弁の1つ又は2つ以上の生まれつきの尖の少なくとも一部分と接合するよう構成されている滑らかな無外傷性の表面を備えた前方部分と、生まれつきの心臓弁の別の生まれつきの尖の少なくとも部分的に係合してその一部分を変位させるよう構成された後方部分とを有し、バッフルは、変位した生まれつきの尖の閉鎖位置に近づくよう心房固定部材から中央ルーメン中に半径方向内方に延びている。
【0013】
上述の器具では、バッフルは、中空内容積部を有するバスケットの状態に構成されたストラットを含み、バッフルは、心房固定部材の一部分から延び、バッフルは、1つ又は2つ以上の生まれつきの尖の少なくとも一部分のための接合面を構成する滑らかな無外傷性の表面を備え、バッフルは、機能的に欠陥のある生まれつきの尖の少なくとも第1の部分に係合してこの第1の部分を拘束する一方で、機能的に欠陥のある生まれつきの尖の第2の部分を可動状態なままにしておくよう構成された拘束部分をさらに含み、バッフルは、機能的に欠陥のある尖に関する閉鎖位置に近づくよう中央ルーメン中に半径方向内方に延びている。
【0014】
心房固定部材又はバッフルの複数部分に設けられた複数の摩擦要素をさらに有することを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。
【0015】
心房固定部材の内側と外側は、どの摩擦要素をも含まないことを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。
【0016】
バッフルは、複数の前方ストラットと複数の後方ストラットを有し、隙間が前方ストラット及び後方ストラットの隣り合うストラット相互間に介在して設けられていることを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。
【0017】
バッフルを少なくとも部分的に包囲したファブリック被覆を有し、バスケットは、ファブリックによって覆われていない口を有することを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。
【0018】
バッフルを少なくとも部分的に包囲したファブリック被覆を有し、バスケットは、ファブリックによって覆われた口を有することを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。
【0019】
バッフルは、生体適合性フォームから成ることを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。
【0020】
バッフルの前方部分は、凸形状を有することを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。
【0021】
バッフルの後方部分は、3つのスカラップを有する生まれつきの僧帽弁尖の中央スカラップに係合する一方で、残りの2つのスカラップを可動状態のままにするよう寸法決めされるとともに形作られていることを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。
【0022】
心房固定部材の周りに周方向に設けられた第1の組をなす複数の縫合糸ループをさらに有し、第1の組をなす縫合糸ループのうちの各縫合糸ループは、ルーメンを有し、縫合糸ループのルーメン内に設けられるとともに隣り合う縫合糸ループを相互に連結した第1の縫合糸を有し、心房固定部材の直径は、第1の縫合糸を締めることによって調節されることを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。
【0023】
バッフルの周りに円周方向に設けられた第2の組をなす複数の縫合糸ループをさらに有し、第2の組をなす縫合糸ループのうちの各縫合糸ループは、ルーメンを有し、縫合糸ループのルーメン内に設けられるとともに隣り合う縫合糸ループを相互に連結した第2の縫合糸を有し、バッフルの直径は、第2の縫合糸を締めることによって調節されることを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。
【0024】
バッフルに設けられた第3の縫合糸ループと、第3の縫合糸ループのルーメン内に設けられた第3の縫合糸とをさらに有し、第3の縫合糸を引くことにより、バッフルが変位することを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。
【0025】
心房固定部材に取り付けられるとともに心房固定部材を少なくとも部分的に跨いだファブリックの少なくとも1つのファブリックセグメントをさらに有し、ファブリック被覆は、組織内方成長を容易にすることを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。
【0026】
心房固定部材の遠位端部から垂下したファブリックの少なくとも1つのファブリックセグメントをさらに有することを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。この器具は、少なくとも1つのファブリックセグメントに取り付けられるとともにファブリックセグメントを付勢してこのファブリックセグメントを中央ルーメンから遠ざける付勢部材をさらに有するのが良い。
【0027】
心房固定部材に取り付けられたファブリックのセグメントをさらに有し、ファブリック被覆は、組織内方成長を容易にすることを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。
【0028】
心房固定部材は、少なくとも2つの列をなすセルから成ることを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。
【0029】
心房固定部材は、シェブロンの列をさらに有し、シェブロンのうちの少なくとも2つは、貫通穴を有し、心房固定部材は、貫通穴に通された縫合糸を有し、縫合糸を締めることにより、心房固定部材の直径が調節されることを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。
【0030】
心房固定部材は、切頭円錐形の形状を有することを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。心房固定部材は、心房壁とのみ係合するよう構成されているのが良い。外力によって拘束されていない心房固定部材のサイズは、心拡張期の際、心房のサイズよりも大きい。修復器具は、心房固定部材及びバッフルにおいてのみ生まれつきの心臓弁に対して固定されるのが良い。
【0031】
心房固定部材の前方側部の近位端部は、心房固定部材の後方側部の近位端部から垂直にオフセットしていることを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。
【0032】
心房固定部材は、非対称の形状を有し、前方側部の長さは、心房固定部材の前方側部が心房固定部材の後方側部よりも垂直方向に高いように心房固定部材の後方側部の長さよりも長いことを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。
【0033】
心房固定部材の後方側部は、心房固定部材の前方側部よりも硬いことを特徴とする上記のうちいずれか一の器具。心房固定部材は、複数のセルを形成している複数の相互連結ストラットを有するのが良く、心房固定部材の後方側部のストラットは、心房固定部材の前方側部のストラットよりも厚い、広いかつ/あるいは隣り合うストラット相互間の隙間が狭いかの少なくとも1つである。
【0034】
また、心房壁を備えた心房、心室壁を備えた心室、開き位置及び閉鎖位置を有する少なくとも2つの尖を備えた心臓弁を有する心臓内の逆流性の心臓弁を修復する方法が開示され、心臓弁は、心房と心室との間の境界部のところに配置され、心臓は、心臓弁を包囲した弁輪を有し、本方法は、人工弁尖器具を用意するステップを含み、人工弁尖器具は、ステント状材料で作られた心房固定部材を有し、心房固定部材は、心房と心室を流体結合するよう構成された中央ルーメンを備え、心房固定部材は、前方部分、後方部分、近位端部、遠位端部、内側部、及び外側部を有し、人工弁尖器具は、心房固定部材の後方部分の遠位端部から垂下したバッフルをさらに有し、バッフルの前方部分は、2つ又は3つ以上の尖のうちの1つのための新たな人工接合面として作用する滑らかな無外傷性の表面を備え、バッフルの後方部分は、2つ又は3つ以上の尖のうちの別の1つの少なくとも一部分に係合してその一部分を動かなくするよう構成され、バッフルは、中央ルーメン内に突き出て、動かなくされている尖の閉鎖位置に近づき、本方法は、人工弁尖器具を心房内に植え込んで、心房固定部材の前方部分、内側部分及び外側部分が弁輪から間隔を置いて離れて位置するようにするステップと、バッフルを少なくとも2つの尖のうちの一方に当接するよう位置決めするステップとをさらに含む。
【0035】
上記方法では、人工弁尖器具の心房固定部材は、アイレットを備えた少なくとも2つの縫合糸ループ、アイレットに通された縫合糸ストランドを有し、縫合糸ストランドを締めると、心房固定部材が潰れ、人工弁尖器具を植え込むステップは、縫合糸ストランドを締めて心房固定部材を潰すステップと、心房固定部材が心房内で潰れた状態で人工弁尖器具を配置するステップと、人工弁尖器具を弛めて心房固定部材が拡張して心房壁に接触するようにするステップとを含む。
【0036】
上記方法では、人工弁尖器具は、心房固定部材及びバッフルによってのみ心臓弁に対して固定されるのが良い。
【0037】
また、心臓弁修復器具が開示され、この心臓弁修復器具は、中央ルーメンを備えた心房固定部材と、心房固定部材に取り付けられたバッフルとを有し、バッフルは、生まれつきの心臓弁の少なくとも1つの生まれつきの尖と接合するよう構成された人工接合面を構成する滑らかな無外傷性の表面を備えた前方部分と、機能的に欠陥のある尖の一部分に係合してその一部分を拘束するよう構成された後方部分とを有し、バッフルは、機能的に欠陥のある尖の閉鎖位置に近づくよう中央ルーメン中に半径方向内方に延びている。本器具は、バッフルを少なくとも部分的に包囲したファブリック被覆をさらに有するのが良い。バッフルは、生体適合性フォームから成るのが良い。本器具は、半円形リング及びバッフルの後方部分上に設けられた複数の摩擦要素をさらに有するのが良い。バッフルは、中空内部を備えたバスケットを形成するのが良い。バッフルは、複数の前方ストラット及び複数の後方ストラットを有するのが良く、前方ストラット及び後方ストラットの隣り合うストラット相互間には隙間が介在して設けられている。バスケットは、口を有するのが良く、バスケットは、ファブリックによって覆われ、バスケットの口は、覆われていない。バッフルの前方部分は、凸状の形状を有するのが良い。バッフルの後方部分は、3つのスカラップを備えた僧帽弁前尖又は僧帽弁後尖のうちの中央スカラップに係合する一方で、残りの2つのスカラップを可動状態のままにしておくよう寸法決めされるとともに形作られている。変形例として、バッフルの後方部分は、弁尖全体に係合するよう寸法決めされるとともに形作られている。心房固定部材は、第1の平面内で延びる半円形リングを有するのが良く、バッフルは、第1の平面と平行でありかつこの第1の平面から垂直にオフセットした第2の平面で延びている。バッフルの前方部分は、生体適合性フォームから成る。心房固定部材は、前外側交連と後内側交連との間で弁輪の周辺を囲むよう寸法決めされた半円形リングを有するのが良い。
【0038】
また、心臓弁修復器具が開示され、本器具は、中央ルーメンを備えた心房固定部材と、三角アンカーシステム及び後方フックを有する少なくとも1つの固定機構体とを有し、三角アンカーシステムは、部分リングの第1の端部に取り付けられるとともにバッフルから遠ざかって延びる第1の三角延長部、部分リングの第2の端部に取り付けられるとともにバッフルから遠ざかって延びる第2の三角延長部、ならびにアンカーと第1及び第2の三角延長部の終端部に取り付けられた無外傷性先端部とのうちの一方を含み、後方フックは、心房固定部材の後方部分に取り付けられ、後方フックは、遠位側に延びる第1の部分及び後方の方向に湾曲した第2の部分を有し、後方フックは、心室中に延びて、生まれつきの心臓弁輪の心室側に係合するよう構成され、本器具は、部分リングに取り付けられたバッフルをさらに有し、バッフルは、1つ又は2つ以上の生まれつきの尖のための人工接合面を構成する滑らかな無外傷性の表面を備えた前方部分、及び機能的に欠陥のある尖の少なくとも一部分に係合してその一部分を変位させるよう構成された後方部分を有し、バッフルは、中央ルーメン中に延びるとともに変位済みの尖のための閉鎖位置に近づく。
【0039】
バッフルを少なくとも部分的に包囲したファブリック被覆をさらに有することを特徴とする上記器具。バッフルは、生体適合性フォームから成ることを特徴とする上記器具。心房固定部材及びバッフルの後方部分に設けられた複数の摩擦要素をさらに有することを特徴とする上記器具。上記器具のうちの任意のものに関し、バッフルは、中空内部を備えたバスケットであるのが良い。バッフルは、複数の前方ストラット及び複数の後方ストラットを有するのが良く、前方ストラット及び後方ストラットの隣り合うストラット相互間には隙間が介在して設けられている。バスケットは、口を有し、バスケットは、ファブリックによって覆われ、バスケットの口は、覆われていない。
【0040】
上記器具のうちの任意のものに関し、バッフルの前方部分は、凸状の形状を有するのが良い。バッフルの後方部分は、3つのスカラップを備えた僧帽弁前尖又は僧帽弁後尖のうちの中央スカラップに係合してこの中央スカラップを動かなくする一方で、残りの2つのスカラップを可動状態のままにしておくよう寸法決めされるとともに形作られている。バッフルの後方部分は、弁尖全体に係合するよう寸法決めされるとともに形作られている。心房固定部材は、前外側交連と後内側交連との間で心臓弁輪の周辺を囲むよう寸法決めされた半円形リングを有する。
【0041】
心臓弁修復器具が開示され、本器具は、中央ルーメンを備えた心房固定部材と、心房固定部材に取り付けられたバッフルとを有し、バッフルは、1つ又は2つ以上の生まれつきの尖に係合するよう形作られた人工接合面を構成する滑らかな無外傷性の表面を備えた前方部分、及び機能的に欠陥のある尖の少なくとも一部分に係合してその一部分を変位させるよう構成された後方部分を有し、バッフルは、中央ルーメン中に延びるとともに機能的に欠陥のある尖のための閉鎖位置に近づく。
【0042】
上述の器具は、バッフルを少なくとも部分的に包囲したファブリック被覆をさらに有する。バッフルは、生体適合性フォームから成る。本器具は、心房固定器具及びバッフルの後方部分上に設けられた複数の摩擦係合要素をさらに有する。バッフルは、中空内部を備えたバスケットであるのが良い。バッフルは、複数の前方ストラット及び複数の後方ストラットを有し、前方ストラット及び後方ストラットの隣り合うストラット相互間には隙間が介在して設けられている。バスケットは、口を有し、バスケットは、ファブリックによって覆われ、バスケットの口は、覆われていない。
【0043】
バッフルの前方部分は、凸状の形状を有することを特徴とする上述の器具。バッフルの後方部分は、3つのスカラップを備えた僧帽弁前尖又は僧帽弁後尖のうちの中央スカラップに係合してこの中央スカラップを変位させる一方で、残りの2つのスカラップを可動状態のままにしておくよう寸法決めされるとともに形作られている。心房固定部材は、第1及び第2の端部を備えた部分的に円形の切頭円錐形部材と、心房固定部材の第1の端部と第2の端部との間に延びるブレースとを有する。
【0044】
上述の器具のうちの任意のものは、群(三角アンカー及び後方フック)から選択された少なくとも1つの固定機構体をさらに有し、三角アンカーは、心房固定部材の第1の端部に取り付けられるとともにバッフルから遠ざかって延びる第1の三角延長部、心房固定部材の第2の端部に取り付けられるとともにバッフルから遠ざかって延びる第2の三角延長部、ならびにアンカーと第1及び第2の三角延長部の終端部に取り付けられた無外傷性先端部とのうちの一方を含む。
【0045】
また、前尖及び後尖を備えた僧帽弁を修復するための心臓弁修復器具が開示され、本器具は、潰れ形態及び拡張形態を有するよう構成された心房固定部材を有し、心房固定部材は、拡張可能なリング状のメッシュを有し、心房固定部材は、生まれつきの弁輪の上流側で心房壁の組織に接触するよう構成され、本器具は、心房固定部材から半径方向内方に延びるバッフルをさらに有し、バッフルは、後尖を心室壁に向かって変位させて後尖を開き位置に拘束するよう構成された外側部分、外側部分の半径方向内方に接合面を備えた内側部分を有し、内側部分は、接合面が前尖の閉鎖位置の少なくとも近くに位置決めされるような距離だけ外側部分から間隔を置いて位置している。心房固定部材は、生まれつきの弁輪の上方で心房壁組織にのみ接触するよう構成されるのが良い。心臓弁修復器具は、バッフルの表面上に設けられた生体適合性被覆をさらに有するのが良い。バッフルは、心房固定部材から下流側の方向に延びる後方ストラット及び後方ストラットの下流側端部から内方かつ上方に突き出た前方ストラットを有し、心臓弁修復器具は、後方及び前方ストラットに取り付けられた被覆をさらに有する。心房固定部材は、複数のストラットを有するのが良く、心臓弁修復器具は、心房固定部材のストラットに取り付けられた被覆をさらに有する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】僧帽弁の略図である。
図2A】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図2B】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図2C】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図2D-1】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図2D-2】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図2E-1】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図2E-2】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図2F-1】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図2F-2】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図2F-3】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図2G-1】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図2G-2】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図2G-3】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図2G-4】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図2H-1】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図2H-2】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図2I】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図3A】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図3B】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図3C】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図3D】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図3E】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図4A】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図4B】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図5A】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図5B】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図6A】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図6B】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図7A】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図7B】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図7C】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図8A】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
図8B】本技術の実施形態に係る人工弁尖器具の図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
僧帽弁を含む(しかしながらこれには限定されない)逆流性の又は機能不全の心臓弁に取り組むための種々の実施形態が開示される。人工弁尖器具の幾つかの実施例を開示するが、これら実施例は全て、少なくとも1つの弁尖の少なくとも一部分を変位させ、そして残りの弁尖のための無外傷性人工接合面を提供する共通のテーマを共有している。人工接合面は、これが開き位置と閉じ位置との間でずれることがないという点で生まれつきの尖のようには動かない。これとは異なり、人工接合面を、部分的に又は完全に変位した生まれつきの尖の閉鎖位置を定位置に固定することができ、又はかかる人工接合面は、真似又はこれに近づく限定された運動を有する。弁修復器具の幾つかの実施形態を、本技術の有用性が僧帽弁に限定されず、他の心臓弁に使用できるという理解の下で、僧帽弁を参照して本明細書において説明する。
【0048】
僧帽弁の関係で、本技術の実施形態は、尖のうちの一方の一部分を変位させ、そして少なくとも部分的に変位させる一方で、他方の生まれつきの尖のための無外傷性接合面を提供するために使用されるのが良い。本技術の実施形態は、変位中の完全に閉じられた生まれつきの尖とほぼ同一の領域を閉塞するインプラントにより、生まれつきの尖を変位させる。新規な接合面は、生まれつきの尖の閉鎖位置を真似、又はこれに近づく。生まれつきの僧帽弁を示す図1を参照すると、僧帽弁の前尖及び後尖は各々、3つの明確に定められたスカラップ(A1~A3及びP1~P3)を有する。本明細書において開示する実施形態のうちの幾つかは、尖スカラップのうちの1つ又は2つのみを変位させて動かないようにすることができる一方で、残りの尖スカラップは無傷かつ可動状態のままにしておくが、他の実施形態は、尖全体(すなわち、3つ全てのスカラップ)を変位させて動かないようにすることができる一方で、対向した尖を無傷かつ可動状態のままにしておく。説明を単純にするため、本技術の幾つかの観点を僧帽弁の後尖を変位させて動かなくする一方で、前尖のための無外傷性接合面を提供することによって説明する。しかしながら、本技術は、前尖を変位させて動かなくする一方で、後尖のための無外傷性接合面を提供するためにも使用できる。
【0049】
依然として図1を参照すると、僧帽弁は、前尖及び後尖を有する。前尖は、半円形の形状を有していて、環状周囲の2/5に着いている。前尖の動きは、左心室の流入(心拡張)と流出(心収縮)との間の境界を定める。僧帽弁の後尖は、三日月の形をしていて、環状周囲のほぼ3/5に着いている。後尖は、代表的には、尖をP1(前方又は外側スカラップ)、P2(中間スカラップ)、及びP3(後方又は内側スカラップ)として特定される3つの個々のスカラップに分割する2つの明確に定められた凹みを有する。前尖の3つの対応したセグメントは、A1(前方セグメント)、A2(中間セグメント)、及びA3(後方セグメント)である。尖凹みは、後方凹みが心拡張中に開くのを助ける。
【0050】
僧帽弁は、前外側及び後内側交連を有し、これら交連は、前尖と後尖が弁輪中でこれらが一緒になる明確に区分された領域を定める。これら交連は、明確に規定された尖セグメントとして存在することができるが、多くの場合、この領域は、2つの解剖学的ランドマーク、すなわち、(a)対応の乳頭筋の軸線、及び(b)特定のファン状形態を有する交連腱索を用いて識別できる微細な構造である。弁状組織の数ミリメートルは、交連の自由縁を弁輪から隔てる。
【0051】
僧帽弁は、左心房を左心室に流体結合する房室弁である。僧帽弁輪は、左心室と左心房との解剖学的接合部を定める。尖の固定端部は、弁輪に着いている。僧帽弁輪の前方部分は、線維性三角に取り付けられていて、一般に、後方弁輪よりも展開されている。右線維性三角は、大動脈弁輪及び膜性中隔の僧帽、三尖、非冠状弁尖相互間の高密度接合領域である。左線維性三角は、大動脈の左線維性境界部と僧帽弁の接合部の両方に位置している。
【0052】
僧帽弁輪は、後尖の挿入部位のところではそれほど十分には展開されておらず、と言うのは、このセグメントは、どの線維状構造にも取り付けられておらず、しかもこの領域における線維状スケルトンが不連続だからである。弁輪の後方部分の周囲は、増大し、それにより左心房又は左心室拡張と関連して僧帽逆流症が生じる場合がある。僧帽弁輪は、鞍形であり、心収縮中、交連領域は、心房をより平たくするよう心房の方向に動き、他方、環状収縮はまた、この周囲を狭窄する。両方のプロセスは、尖接合を助け、そしてこれら両方のプロセスは、例えば環状拡張及び石灰化のようなプロセスによって悪影響を受ける場合がある。僧帽弁輪は、大動脈弁、冠状静脈洞、及び回旋動脈を含む幾つかの重要な解剖学的構造によって包囲されている。
【0053】
図2A図2Eは、本発明に係る弁修復器具を示している。弁修復器具は、心房固定部材102及び心房固定部材102から下流側の方向に垂下したバッフル114を備えた人工弁尖器具100であるのが良い。心房固定部材102は、バッフル114を生まれつきの弁解剖学的構造に対して所望の場所に位置決めするとともに保持するのを助けるよう構成されているのが良く、バッフル114は、弁の生まれつきの尖の少なくとも一部分を変位させて心房固定部材102によって提供される位置で生まれつきの弁の他の尖のうちの1つ又は2つ以上の少なくとも一部分のための人工接合面を作るよう構成されている。例えば、バッフル114は、機能的に欠陥のある生まれつきの尖、例えば退化し、裂離し、はためき又は違ったやり方で最早心収縮中に効果的に閉じることのない後尖を変位させるよう構成されているのが良い。もはや効果的に接合していない2つの生まれつきの尖相互間で逆流が起こるよう拡張弁輪を備えた弁では、バッフル114は、既存の尖の寸法を超えて伸びて他の尖との効果的な接合を再び確立することができる。
【0054】
心房固定部材102は、メッシュ、例えば組物又はステント状構造体で形成されるのが良く、かかる構造体としては、協働して複数のセルを構成する複数の相互連結ワイヤ又はストラット104が挙げられる。心房固定部材102は、左心房の壁に係合させることによってバッフル114を定位置に保持するのを助け、この心房固定部材は、全体として切頭円錐形の形をしているのが良い。心房固定部材102の各セルは、開口部又は貫通穴106を構成する。心房固定部材102の非拘束形状は、全体として円形又は長円形の形をしているのが良い。心房固定部材102は、この心房固定部材102がバッフル114の位置を安定化するよう少なくともしきい量の半径方向力で左心房壁に接触するよう任意の数の貫通穴106又は任意の形状もしくは寸法を有するのが良い。半径方向力は、ストラットの形状及び寸法(厚さ、幅、及びストラット相互間の間隔)及び貫通穴106の形状及び寸法を変化させることによって調節できる。例えば、幅の広いかつ/あるいは厚手のストラット104は、耐圧縮(耐圧壊性)を増大させることができ、他方、大きな開口部又は貫通穴106及び/又は薄手のストラット104は、圧縮(圧壊)抵抗を減少させる。これらの概念について以下にさらに詳細に説明する。図2Aでは、開口部106は、全体としてダイヤモンドの形をしている。
【0055】
心房固定部材102は、任意の生体適合性材料、例えばステンレス鋼、ニッケル‐チタン合金、又はポリマーで作られるのが良い。心房固定部材102は、弾性自己拡張性材料又はバルーン拡張型材料であるのが良い。現時点において好ましい実施形態によれば、心房固定部材102は、超弾性ニッケル‐チタン合金、例えば、自己拡張性であるニチノール(Nitinol (登録商標))で形成される。
【0056】
人工弁尖器具100は、心房から心室への血流の方向に垂直軸線VA及びこの垂直軸線に直交した水平軸線HAを有する。人工弁尖器具100は、近位側P及び遠位側Dを有する人工弁尖器具は、心房に向いた近位又は先導端及び心室に向いた遠位又は後続端を有する。
【0057】
心房固定部材102は、ルーメン102Lを包囲し又は違ったやり方で画定し、このルーメンは、拡張されると、左心房の一部分を跨ぐ。心房固定部材102は、オプションとしての生体適合性被覆108によって全体的に又は部分的に覆われるのが良い。生体適合性被覆108は、器具100の長期間固定を助けることができる封止及び/又は組織内方成長を容易にすることができる。心房固定部材102のオプションとしての生体適合性被覆108は、開口部又は窓の有無を問わず連続していても良く、あるいは、生体適合性被覆108は、別々の区分を備えた不連続であっても良く、その結果、心房固定部材102の隙間又は覆われていない部分は、覆われた部分相互間に介在して位置するようになる。生体適合性被覆108は、ポリマー又はバイオマテリアル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、シリコーン、ウレタン、心膜など)で形成されたファブリックであるのが良い。被覆108は、任意の従来手段によって心房固定部材102に取り付けられるのが良く、かかる従来手段としては、縫合糸、接着剤、焼結などが挙げられる。被覆108は、心房固定部材102の内面、すなわち、ルーメン102Lに向いた心房固定部材の表面に縫いつけられるのが良い。変形例として、被覆108は、心房固定部材102の外面、すなわち、ルーメン102Lから遠ざかる方向に向いた側部に取り付けられ、この側部は使用にあたり、心房壁に向いた側部である。
【0058】
心房固定部材102は、左心房内への人工弁尖器具100の十分な固定を無外傷的にもたらすとともに、この器具の運搬、位置決め、及び回収を可能にするよう構成されるとともに形作られている。図2A図2Cに示された実施形態では、心房固定部材102の最も上側の列をなすストラットは、複数の逆V字形構造体又はクラウン箇所(例えばシェブロン102V)を形成する。シェブロン102Vのうちの1つ又は2つ以上は、各々、逆V字形クラウン箇所の頂点のところにアイレット110を有するのが良い。アイレット110は、人工弁尖器具100を運搬カテーテル(図示せず)に送り、配向させ、そして回収し、又は人工弁尖器具100を運搬カテーテルから送り出し、配向させ、そして回収するために用いられる縫合糸ストランド(図示せず)を受け入れるよう寸法決めされている。シェブロン102Vは、全体として垂直に(垂直軸線VAに平行に)延びても良く、あるいは、心房壁へのどのような外傷をも最小限に抑えるようルーメン102Lに向かって角度をなしていても良く、これに対し、心房固定部材102の残部は、切頭円錐形状を有するよう外方に(例えば、ルーメン102Lから遠ざかって)広がる。シェブロン102Vは、ルーメン102Lに向かって角度をなしていても良い。
【0059】
図2A図2Eに示された人工弁尖器具100は、この器具を定位置に保持するよう心房固定を利用する。心房固定部材102の非拘束サイズは、人工弁尖器具100がその所望の位置のままであるようにするよう心拡張の際に心房のサイズに対して幾分大きめであるのが良い。心房固定部材102は、僧帽弁輪の上方に位置するよう構成され、その結果、この心房固定部材は、僧帽弁の他の尖の機能に悪影響を及ぼすことがないようになっている。心房固定部材102は、複数の摩擦係合部分又はクリート112を有するのが良く、これら摩擦係合部分又はクリートは、心房壁の組織中に穿刺することなく、組織に摩擦係合し、すなわち、組織中にテント状に入り込むようになっている。しかしながら、クリート112は、心房壁中に穿刺するよう構成された尖った先端又は刺部を有するのが良い。クリート112は、ストラット104と一体形成されても良く、又は違ったやり方でストラット104に取り付けられるのが良い。クリート112は、(a)アイレット110に向かって(すなわち、血流の方向とは反対側に、例えば、上方に、近位側に、心房の頂部に向かって、又は僧帽弁用途において心室から遠ざかって)延びても良く、(b)心房の壁中に外向きに直接延びても良く、かつ/あるいは(c)アイレット110から遠ざかって下方に(血流の方向に、下方に、遠位側に、心室に向かって、又は僧帽弁用途において心房から遠ざかって)延びても良く、あるいはクリートは、多数の方向に延びても良い。クリート112は、心房固定部材102の周囲全体に沿ってぐるりと設けられても良く、あるいは、クリート112は、心房固定部材102の複数部分にのみ設けられても良い。例えば、クリート112は、心房固定部材102の外側セグメント上ではなく、心房固定部材102の前方及び後方セグメント上に設けられるのが良い。人工弁尖器具100は、クリート112を用いた心房固定を利用しても良くかつ/あるいは人工弁尖器具100を定位置に保持するよう心房に対して大きめのサイズの心房固定部材102を利用するのが良い。心房固定部材102は、弁輪よりも僅かに上方に(例えば、1~10mm)位置するよう構成され、その結果、バッフル114を除き、人工弁尖器具100は、弁輪に取り付けられないようになっている。
【0060】
バッフル114は、心房固定部材102の後方部分から遠位側に(例えば、血流の方向に)延びている。バッフル114は、前尖のための人工接合面を提供し、このバッフルは、損傷を受け又は違ったやり方で前尖と十分に接合しない生まれつきの尖を変位させる。これについては図2D‐1を参照されたい。バッフル114は、これらの機能を提供する一方で、他の尖との接合を促進し、又は違ったやり方で可能にするとともにバッフル周りの血流を促進するよう形作られるのが良い。バッフル114は、例えば、涙滴形状を有し、これが上方に延びるにつれて球状接合面から左心房の後方壁に向かってテーパしている。(これについては、例えば、図3Eを参照されたい)。
【0061】
バッフル114は、これが同一の金属フレームから作られるように心房固定部材102と一体であるのが良い。バッフル114は、変形例として、別の要素から作られて、例えばバッフル114又は心房固定部材102に設けられたストラットによって心房固定部材102の一部分に連結されても良い。
【0062】
幾つかの実施形態では、バッフル114は、心房固定部材102に取り付けられた生体適合性フォームで作られるのが良い。バッフル114は、変形例として、他の尖、例えば心房固定部材102に取り付けられたインフレート可能なブラダ(又は袋)を有するバッフル114との密封を促進するために調節可能な形状を有しても良い。
【0063】
バッフル114はまた、人工弁尖器具100の固定に寄与することができる。バッフル114の後方部分は、後尖及び/又は弁輪と係合するよう構成された摩擦要素、例えばクリート112を有するのが良い。バッフル114の後方部分はまた、弁輪、心室壁、及び心房壁の幾何学的形状に係合するよう形作られるのが良い。例えば、バッフル114の後方部分は、弁輪に係合し、それにより心房又は心室方向への移動を阻止するよう心房端部から心室端部まで凹状の形状を有するのが良い。
【0064】
図2A図2Cを参照すると、バッフル114は、中空内部を包囲し又は取り囲んだバスケット状の形状を有するのが良い。バスケット形バッフル114は、橋渡し部分120(図2E‐2)によって後方ストラット118(図2A及び図2C)に連結された前方ストラット116(図2B及び図2C)を有するのが良い。被覆108のために用いられたのと同一の材料であるのが良い生体適合性被覆122が弁の隣り合う尖との流体密シールをもたらすようバッフル114に取り付けられている。前方ストラット116は、例えば単一の管状メッシュから橋渡し部分120及び後方ストラット118に連結されるのが良く又はこれらと一体に形成されるのが良い。この実施形態では、バッフル114は、弁輪を横切って心室中に延びる人工弁尖器具100の唯一の部分である。これについては、図2Dを参照されたい。
【0065】
バッフル114は、後方壁及び隣接の尖との接合を容易にするとともに、弁の適正な閉鎖を保証し、血流を最適化して乱流及び/又は凝血塊の形成を阻止するよう種々の形状をとることができる。バッフル114はまた、心周期全体を通じて、しかも配備及び回収を容易にするために、バッフル114の安定性を最適化するよう構成されているのが良い。多くの実施形態では、前方ストラット116は、ルーメン102L中に突き出、この前方ストラットは、前尖ALのための無外傷性接合面を提供するよう構成された凸状の形状を有する。(これについては例えば図2Eを参照されたい)。
【0066】
前方ストラット116は、後方ストラット118のまたがる幅とは独立しているのが良い(垂直軸線VAに直行している)を跨いでいる。前方ストラット116の跨がる幅は、近位端部116Aのところの幅が図2Cに示されているように遠位端部116Bのところの幅に等しいようにこれらの長さに沿って一様であるのが良い。しかしながら、幾つかの実施形態では、近位端部116Aのところで前方ストラット116の跨がる幅は、ウイング状部分を形成する遠位端部116Bのところの幅よりも僅かに長く、それにより封止及び接合を容易にすることができる。前方ストラット116は、前尖のための無外傷性接合面をもたらすようになっている。したがって、前方ストラット116は、好ましくは、クリート112を全く備えない。加うるに、前方ストラット116の幅及び/又はストラット相互間の間隔は、前尖のための無外傷性接合構造体の実現を保証するよう調節可能であるのが良い。換言すると、前方ストラット116は、ストラット104及び/又はストラット118よりも広く又はより密な間隔を置いて位置するのが良い。
【0067】
後方ストラット118は、全体として垂直軸線VAに平行であっても良く、あるいは、これら後方ストラットは、心室壁に合う幾分弧状の形状を有しても良い。他の実施形態では、後方ストラット118は、互いに平行なストラットと比較して心室壁及び乳頭筋との接触を減少させためにルーメン102Lに向かって角度をなして延びていても良い。後方ストラット118は、心室壁との接触を減少させ又は増大させるために、垂直軸線VAに対して0°~70°の範囲にある角度アルファ(図3Bに示されている)又は垂直軸線VAに対して90°~180°の範囲にある角度ベータをなして延びていても良い。後方ストラット118と垂直壁との接触を減少させることによって、人工弁尖器具100は、生まれつきの弁輪に対してより一定した位置のままでいることができる。これは、人工弁尖器具100とこれに対向した生まれつきの尖との一貫した接合を提供することが見込まれる。変形例として、凹状の形状(後方壁の心房部分と心室部分とのなす180°未満の角度ベータ)を提供することにより、この器具を弁輪上に適切に位置決めするとともに心房又は心室方向における器具の移動を阻止するのを助けることが容易になる。
【0068】
後方ストラット118は、人工弁尖器具100の固定を助けるクリート112(図2B)を有するのが良い。クリート112は、例えば、後尖PLに当接するとともにこれに係合する。幾つかの実施形態では、クリート112はまた、後方弁輪又は心室壁と係合することができる。バッフル114の心室側端部のところのクリート112は、薄い後尖組織に係合するよう短いのが良く、これに対し、バッフル114の環状端部のところのクリートは、環状組織に係合するよう長いのが良い。
【0069】
後方ストラット118のまたがる幅Wは、3つ全てのスカラップP1,P2,P3を含む後尖の全幅(例えば、25~55mm)を跨ぐよう構成されているのが良い。しかしながら、現時点において好ましい実施形態によれば、後方ストラット118の跨がる幅は、後尖PLの全幅よりも小さい。具体的に説明すると、後方ストラット118は、中間スカラップP2の幅(例えば、20~35mm)よりも幅が幾分広いよう校正されており、その結果、ストラット118は、中間スカラップP2のみを変位させるとともに少なくともこれを部分的に動かなくし、又はスカラップP1,P3の一部にのみ係合するようになっている。これにより、スカラップP1,P3又はスカラプP1,P3の少なくとも一部分は、少なくとも幾分無傷状態のままであり、その結果、これらスカラップは、動くことができかつバッフル114及び/又は後尖のセグメントA1,A3と接合することができるようになっている(これについては、図2D‐2に示されたスカラップP1,P3の破線を参照されたい)。その結果、バッフル114が中間スカラップP2よりも幅が僅かに広い場合、バッフル114は、スカラップP2の全てに係合し、例え人工器具100が僧帽弁と僅かに回転的に位置合わせ不良である場合であってもスカラップP1,P3と接合する。
【0070】
この実施形態では、前方ストラット116と後方ストラット118は、中空内容積部及びアイレット110に向いた(近位側、心房方向)開口部又は口126(図2C)を備えたバスケット又はポケット124(図2C)を協働して構成している。(これについては、図2D‐2もまた参照されたい)。開口部126は別として、バスケット124は、全ての側が被覆122によって封止されている。上述したように、心房固定部材102のファブリック被覆108は、完全のオプションであり、さらに、これが流体密シールの提供とは対称的に組織内方成長又は保護のために用いられるので不連続であるのが良い。これとは対称的に、バッフル114のファブリック被覆122は、心室壁及び弁の他の尖との流体密シールを提供するようになっている。バスケット124の形状は、バスケット124の中空内部を通る血液の循環を促進するとともに淀んだ血液の堆積を阻止し、それにより血栓の形成を阻止するよう構成されている。加うるに、ファブリック被覆122は、好ましくは、前尖が被覆122に当接したときに前尖に対する外傷があってもこれを最小限に抑えるよう滑らかである。
【0071】
被覆122は、任意の従来手段によって前方及び後方ストラット116,118に取り付けられるのが良く、かかる手段としては、縫合糸、接着剤、焼結などが挙げられる。被覆122は、前尖のための無外傷性接合面を提供するとともに心収縮中における逆行方向への血液の漏れを阻止するようになっている。被覆122は、上述した被覆108に用いられているのと同一の材料で形成されるのが良い。
【0072】
ポケット124はまた、口126がアイレット110から遠ざかって心室に向かって下方(遠位側に)向くよう逆さまにされるのが良い。さらにまた、バスケット124の口又は開口部126は、被覆122で封止されるのが良く、それによりポケット124の内容積部が完全に包囲される。これは、非乱流状態の血液流を保証するとともに血栓の形成を阻止する上で有利であると言える。
【0073】
人工弁尖器具100は、バッフル114が弁輪と接触状態にあり又は弁輪の平面を横切る器具の部分だけであるように僧帽弁の心房内に植え込まれる。(これについては、図2Dを参照されたい)。バッフル114は、これが心室中に延びているときに弁輪に偶発的に接触する場合がある。幾つかの実施形態では、弁輪に係合するために後方ストラット118にはクリート112が設けられているが、人工弁尖器具100は、他の点においては、弁輪には固着されない。特に、特定の用途では、心房固定部材102の下縁部は、弁輪よりも1~10mm、1~8mm、1~6mm、1~4mm、3~9mm、3~6mm、2mm、3mm、4mm、5mm、6mm、7mm、8mm、又は9mm上のところに植え込まれ、その結果、心房固定部材102は、前尖が通常の生理学的条件下においては自由に開閉することができるよう心房の壁にのみ接触するようになっている。心房固定部材102は、心房固定部材102の前方セグメントが弁輪の前方部分よりも10~30mm、10~20mm、10~15mm、15~30mm、15~25mm、15~20mm、20~30mm、10~25mm、25~30mm、10mm、15mm、20mm、25mm、又は30mm上のところに位置し、又は左心房のふたに当たって位置決めされるよう角度がつけられる場合がある。その結果、バッフル114は、左心室中に延びる人工器具100の唯一の部分である。(これについては、図2Dを参照されたい)。
【0074】
幾つかの実施形態では、人工弁尖器具100は、(a)心房固定部材102が心房壁に圧接すること及び心房壁とのクリート112の摩擦係合によって、及び(b)前尖PL及び弁輪へのバッフル114及びバッフル114の任意のクリート112の係合によって定位置に保持される。(これについては、例えば図2D‐1を参照されたい。)したがって、心房固定部材102は、クリート112を付勢してこれを心房壁に係合させる上で有利である。例えば、心房固定部材102の非拘束サイズは、心房の心拡張サイズに対してサイズが僅かに大きめであるのが良く、心房固定部材102は、クリート112を付勢してこれを心房壁に摩擦係合させる(ルーメン102Lから遠ざかって)力を及ぼすよう構成された超弾性材料、例えばニチノール(Nitinol (登録商標))で形成されるのが良い。心房固定部材102がバルーン拡張型材料、例えばステンレス鋼で作られている場合、心房固定部材102は、クリート112が心房拡張中ならびに心房収縮中に心房壁に係合するように拡張される。
【0075】
心房固定部材102は、非対称形状を有するのが良く、心房固定部材102の前方部分の近位縁が心房固定部材102の後方部分の近位縁に対して垂直に変位している。加うるに、心房固定部材102の前方部分の高さは、心房固定部材102の後方部分よりも高い又は短いのが良い。
【0076】
心房固定部材102の剛性は、非一様であるのが良く、心房固定部材102の別の部分は、他の部分よりも剛性が高い。例えば、心房固定部材102の前方部分は、心房固定部材102の後方部分よりも可撓性が高いのが良く、又はこれとは逆の関係であっても良い。これを達成する多くの方法が存在する。例えば、心房固定部材102の一部分の剛性は、心房固定部材102の1つの部分が別の部分よりも剛性が高くなるように、ストラットを短くし、厚くし、又は広幅にすることによって、あるいは隣り合うストラット相互間の間隔を短くすることによって調節できる。
【0077】
バッフル114の形状を現場で変更し又は違ったやり方で制御して前尖とバッフルの接合ならびにバッフルによる前尖の封止を保証することが望ましい場合がある。これを達成する多くの方法が存在する。
【0078】
インフレート可能ブラダを含むバッフル
図2E‐1~図2F‐3は、バッフル114の寸法及び/又は形状を現場で(体内で)調節する手法を示している。図2E‐1及び図2E‐2は、バッフル114の中空内部124中に挿入されたブラダ115を示している。ブラダ115は、生理食塩水、血液、ゲル又はポリマーでインフレーションルーメン117を介して現場で選択的にインフレートされるのが良く、インフレーションルーメン117は、体の外部に延びている。ブラダ115のインフレーションにより、バッフルの形状が変えられる。特に、ブラダ115のインフレーションは、バッフル114がルーメン102L中に突き出る量を調節する。前方ストラット116は、前方ストラット116が軸線VA‐VAに向かって内方に優先的に変形する一方で、後方ストラット118が変形しないかあるいは前方ストラット116が内方に変形する程度よりも小さい程度まで外方に変形するかのいずれかであるようにするために後方ストラット118よりも剛性が低いよう構成されているのが良い。ブラダ115をインフレートさせることにより、前方ストラットが撓んでルーメン102L中に入るとともに前方(対向した)尖がバッフル114の無外傷性表面と接合するために移動しなければならない距離が減少する。前方ストラット116は、ブラダが前方ストラット116を可塑的に(永続的に)再成型することができるようにするためにステンレス鋼などで作られることが有用な場合がある。
【0079】
図2F‐1~図2F‐3は、1つ又は2つ以上のブラダ115(例えば、ブラダ115A~115Cが示されているので図2F‐1で識別される)をバッフル114の前方に向いた部分上に設けることによって人工接合面の寸法を調節するための別の手法を示している。第1のブラダ115Aが前方ストラット116の中央部分上に設けられるのが良く、このブラダは、前尖の中央ローブA1と一致するよう寸法決めされるのが良い。変形例として、第1のブラダ115Aは、このブラダが全部で3つのローブA1,A2,A3と一致するようバッフル114の全幅にわたるよう寸法決めされても良い。この場合、第1のブラダ115Aは、無外傷性接合面としての役目を果たす。ブラダをインフレートさせることにより、第1のブラダ115Aがルーメン102L中に延びる量が変えられ、それによりバッフルと前尖との間の間隔が減少する。
【0080】
図2F‐3は、前方ストラット116に設けられたブラダ115A,115B,115Cが前尖のスカラップA1,A2,A3と一致するよう構成された器具250を示している。ブラダ115A~115Cの各々は、バッフル114の形状をさらに制御するために別個独立にインフレート可能である。その結果、器具250は、前尖のスカラップA1,A2,A3に対して又は特定の前尖の独特の特徴に対して器具250の回転変位を許容するよう現場で付形可能である。
【0081】
調節機構体を備えたバッフル
シャフト119を作動させることにより、バッフルと心房固定部材との近位側(心房側)連結の場所が調節され、それにより、バッフル114がルーメン102L中に延びる量が調節される。バッフルの寸法形状を調節するための別の手法は、作動的にバッフル114に連結されるとともに体の外部からシャフト119によって作動される1つ又は2つ以上の調節機構体117、例えばウォーム駆動装置117A(図2H)又はラチェット117B(図2G‐1~図2G‐3)を提供することにある。図2G‐1~図2G‐3は、ラチェット117Bを備えたバッフル114の形状がシャフト119を押すことによってどのように調節されるかを示している。例えば、シャフト119をラチェット117B中に挿入すると、シャフト119により、バッフル114は、さらに湾曲する。その結果、シャフト119を作動させることにより、バッフルと心房固定部材との近位側(心房側)連結の場所が調節され、それによりバッフル114がルーメン102L中に延びる量が調節される。縫合糸又はケーブル(図示せず)がラチェットのロック解除を容易にするためにラチェット解除装置に作動的に連結されている。バッフル114の側部は、バッフル114の膨張又は収縮を可能にするよう膨張可能な材料122、例えばPTFE又はウレタンで覆われるのが良い。
【0082】
図2Hは、バッフル114の形状を変えるためのウォーム駆動装置117Aから成る調節機構体を備えた人工弁尖器具の一実施形態を示している。作用を説明すると、遠位端部のところに係合要素を備えたシャフト119をウォーム駆動装置117Aに係合させる。シャフト119を回転させ、それによりウォーム駆動装置117Aが短縮する。ウォーム駆動装置117Aの短縮により、バッフル114が曲がり、その結果、バッフル114は、人工弁尖器具のルーメン中にさらに延びる。その結果、ウォーム駆動装置117Aは、バッフル114を調節して生まれつきの弁尖との所望の接合量を提供することができる。
【0083】
スカート又はヘムを備えた人工弁尖器具
図2Iは、上記において示した後方人工弁尖器具100の僅かな変形例である後方人工弁尖器具200を示している。同一の参照符号は、同一又はほぼ同一の特徴を示している。人工器具200は、心房固定部材の遠位端部から血流の方向に(例えば、遠位側に又は弁輪に向かって)垂下し又は延びた環状ヘム202を有している。環状ヘム202は、被覆204及び被覆204を付勢してこれをルーメン102Lから遠ざけ、すなわち心房壁に向かって付勢する構造的補強材206を有する。構造的補強材206は、被覆204によって人工器具200に連結されても良く、もしそうでない場合は、人工器具200に取り付けられない。被覆204は、被覆108,122と一体成型されても良く又はこれと一体に連結されても良く、あるいは、被覆204は、心房固定部材102に取り付けられても良い。被覆204は、組織内方成長を促進するよう構成されており、この被覆は、被覆108と同種の材料又はこれとは異なる材料で形勢可能である。構造的補強材206は、被覆204に対して環状(半径方向)支持体となるに過ぎないようになっており、この構造的補強材は、被覆の垂直方向運動、すなわち垂直軸線VAに平行な運動を拘束することがないよう特別に構成されている。より具体的に言えば、構造的補強材206は、被覆204を付勢してこれをルーメン102Lから遠ざける(心房壁中に付勢する)。使用にあたり、人工弁尖器具200を左心房内に植え込んでヘム102が僧帽弁輪よりも僅かに(0~10mm)上に位置するようにする。
【0084】
シェブロンなしの人工弁尖器具
図3A図3Eは、後方人工弁尖器具100の変形例である人工弁尖器具250を示している。同一の参照符号は、同一又はほぼ同一の特徴を示している。人工弁尖器具250は、人工器具100を運搬して位置決めするためのシェブロン102V(図2A及び図2B)を備えていない。シェブロン102V及びアイレット110に代えて、人工弁尖器具250は、バッフル114の周囲を少なくとも部分的に跨ぐ第1の組をなす縫合糸ループ252及び心房固定部材102の周囲を少なくとも部分的に跨ぐ第2の組をなす縫合糸ループ254を有するのが良い。第1及び第2の組をなす縫合糸ループ252,254は、2つ又は3つ以上の縫合糸ループを含む。図示の実施形態では、第2の組をなす縫合糸ループ254は、心房固定部材102の遠位端部の近くに設けられるが、ループ254は、所望に応じて心房固定部材102上の任意の場所に位置決め可能である。第3の組をなすループが所望ならば心房固定部材102上に設けられても良く、この第3の組をなすループは、縫合糸ループ252,254とは別個独立に締められるのが良い。縫合糸ループ252,254は、フィラメント(縫合糸)252S,254Sなどを受け入れるよう構成されており、かかるフィラメント(縫合糸)などは、縫合糸を締め付けることによって心房固定部材102及び/又はバッフル114を選択的に潰すために使用できる。バッフル114及び心房固定部材102を互いに別個独立に潰すことができる。心房固定部材102及びバッフル114を潰すことにより、人工弁尖器具250の再位置決め及び/又は再外装ならびに取り外しを容易にする。
【0085】
1つ又は2つ以上の追加の縫合糸ループ256がバッフル114上に設けられるのが良く、かかる追加の縫合糸ループは、フィラメント(縫合糸)256Sを受け入れるよう構成されている。縫合糸ループ256は、オプションであり、かかる縫合糸ループは、再位置決め又は取り外すためにバッフル114を圧縮するために使用可能である。縫合糸ループ256はまた、人工弁尖器具250を人工器具250の再位置決め及び/又は再外装のために弁輪から離脱させる別の方法として縫合糸256Sを引くことによって人工弁尖器具250を裏返すために使用可能である。図示の実施形態では、第3の縫合糸ループ256は、バッフル114の前方側に、すなわちルーメン102Lに向いた側に設けられている。
【0086】
図3Bで最も良く理解されるように、バッフル114の後方ストラット118は、垂直軸線に対して角度アルファをなして延びるのが良い。換言すると、バッフル114は、心室から内方に遠ざかって血流の方向においてルーメン102Lに向かって角度をなしているのが良い。この構成は、図2A図2Eを参照して上述したバッフル114の幾つかの実施形態と比較して、バッフル114の下流側端部を心室壁の半径方向内方に離隔させ、又は少なくとも、心室壁によってバッフル114に及ぼされた力が減少する。これは、人工器具250の運動を減少させることが見込まれる。
【0087】
変形例として、バッフル114の後方側部は、弁輪のための追加のクリアランスを提供するようバッフル114上の生まれつきの弁輪の位置に対応した高さ位置で外側に延びる小さな切欠き又は他の凹み(図示せず)を有するのが良い。変形例として、バッフル114の後方側部は、生まれつきの弁輪に及ぼされた半径方向外向きの力を高めて、後方のやや環状の空間への固着を助けるために心室壁に向かって外方に(ルーメン102Lから遠ざかって)角度をなしていても良い。
【0088】
幾つかの実施形態では、バッフル114は、生体適合性フォームで形成されている。このフォームは、小径のカテーテルを通る運搬を可能にするよう圧縮可能であるのが良くかつ運搬後にその所望の形状を再び取るよう自己拡張型であるのが良い。フォームバッフル114の一部分又は全ては、組織内方成長又は接合面の無外傷性を高めるために、さらに生体適合性材料、例えば発泡ポリテトラフルオロエチレンによって覆われるのが良い。バッフル114は、例えば、涙滴の形状を有するのが良い。(これについては、例えば図3Eを参照されたい)。例えばフォームバッフル114の後方部分上にはストラットが設けられるのが良く、これらストラットは、心房固定部材の後方部分に連結される。バッフル114の後方部分は、後尖及び場合によっては弁輪と係合するよう構成された摩擦要素、例えばクリート112を有するのが良い。
【0089】
部分前方心室固定部材を備えた人工弁尖器具
図4A及び図4Bは、前尖の周囲の一部又は全て(例えば、スカラップA1,A2,A3)にまたがるよう構成された心房固定部材302を有する人工弁尖器具300を示している。心房固定部材302は、ダイヤモンドパターン又は別の適当なパターンをなしたストラット304を有するのが良い。心房固定部材302の各セルは、開口部又は貫通穴306を構成する。新保鬱乎302の非拘束形状は、全体として円形又は長円形の形をしているのが良い。心房固定部材302は、心房固定部材302が人工弁尖器具300の位置を固定するための少なくともしきい量の半径方向力で左心房壁に接触するよう、任意の個数の貫通穴106又は任意の形状もしくは寸法を有することができる。半径方向力は、ストラットの形状及び寸法(例えば、厚さ、幅、及びストラット相互間の間隔)ならびに貫通穴306の形状及び寸法を変化させることによって調節できる。
【0090】
心房固定部材302は、任意の生体適合性材料、例えばステンレス鋼、ニッケル‐チタン合金、又はポリマーで作られるのが良い。心房固定部材302は、弾性自己拡張性材料又はバルーン拡張型材料であるのが良い。現時点において好ましい実施形態によれば、心房固定部材302は、自己拡張性である超弾性ニッケル‐チタン合金、例えば、ニチノール(Nitinol (登録商標))で形成される。
【0091】
人工弁尖器具300は、心房固定部材302に取り付けられ又はこれと一体であるバッフル314をさらに有する。心房固定部材302とバッフル314は、血液を流通させるルーメン302Lを協働して構成する。バッフル314は、前尖のための無外傷性接合面を提供するようルーメン302L中に突き出るよう構成されている。使用にあたり、人工器具300を心房固定部材302が心房内に位置しかつバッフル314が心房から弁輪を横切りそして心室中に延びた状態で植え込む。前尖の全て又は一部をバッフル314によって邪魔にならないように押す。人工器具300の幾つかの実施形態では、ローブP1,P3の少なくとも一部分に接触することなく後尖の中央ローブP2と一致するよう寸法決めされており、したがって、ローブP1,P3は、動かないままでありかつバッフル314に接合することができる。これにより、バッフル314は、上述したバッフル114よりも小型にすることができ、このことは、人工器具300の長期間固定を促進するためにバッフル314に及ぼされる力を減少させることが見込まれる。
【0092】
心房固定部材302及び/又はバッフル314は、オプションとして、組織中に侵入する(穿刺する)ことなく、弁輪、心房壁及び/又は後尖と摩擦係合する(非侵襲的に)ようになった摩擦要素、例えばクリート312を有するのが良い。所望ならば、クリート312は、組織中に穿刺するよう構成された先の尖った端部を有するのが良い。幾つかの実施形態では、クリートは、心房固定部材302の前方部分及びバッフル314の後方部分に設けられる。特定の実施形態では、クリート312は、心房固定部材302かバッフル314かのいずれの外方側部にも設けられない。クリート312は、前方心房壁、後尖及び/又は後方弁輪に係合することができる。人工弁尖器具300は、追加の固着要素、例えばフック、刺部、ねじなどを有するのが良い。
【0093】
幾つかの実施形態では、バッフル314は、生体適合性フォームで形成される。バッフル314の後方部分は、後尖及び場合によっては弁輪に係合するよう構成された摩擦要素、例えばクリート312を有するのが良い。
【0094】
他の実施形態では、バッフル314は、開いた又は閉じられたバスケット型バッフル、例えば図2Bに示されているバッフルであるのが良い。バッフル314は、例えば、図2B及び図2Cを参照して上述したバッフル114とほぼ同じであるのが良く、その結果、前方ストラット316と後方ストラット318(図4B)は、バッフル314の一部分を構成し、これらストラットは、上述した被覆108に用いられたのと同一の材料であるのが良い生体適合性被覆322によって被覆されるのが良い。バッフル314は、僧帽弁用途において前尖のための無外傷性接合面を提供するよう構成されている。上述したように、ストラット316相互間の間隔及びストラット316の幅は、前尖のための無外傷性接合面の提供を保証するよう変更可能である。
【0095】
三角アンカー及び/又は後方フック
図5A及び図5Bは、人工器具300の変形例である別の人工弁尖器具450を示している。人工器具450は、後尖の一部又は全て(スカラップP1,P2,P3)の周囲を後方交連まで跨ぐよう構成された固定リング402(例えば、部分的に円形のリング、部分的に長円形のリングなど)を有する。後尖器具450は、人工器具300の心房固定部材302を1つ又は2つ以上の三角延長部416,416Aで置き換えている。三角延長部416,416Aは、線維三角(図1)まで延びている。前尖に当たるのを回避するため、三角延長部は、垂直に(近位側に―心房に向かってかつ弁輪から遠ざかって)オフセットするのが良くかつ/あるいは弁輪の周辺を囲むよう湾曲するのが良い。人工器具450は、オプションとして、バッフル及び/又はリング402に設けられたクリート412を有するのが良い。図5Aは、三角延長部及び後方フックの両方を備えた人工器具450を示しているが、図示の実施形態は、本発明を限定するものではなく、したがって、これら特徴の各々は、前方心房固定部材及び後方クリートに加えて又はこれらに代えて、人工器具450に別々に組み込み可能である。三角延長部416,416Aは、線維三角に係合するようになっている。三角延長部416は、この延長部の遠位端部のところに設けられていて、線維三角中に穿刺するよう構成されたアンカーを有し、これに対し、三角延長部416Aは、線維三角に侵襲的に係合するようになった無外傷性(湾曲した又は尖っていない)端部を有する。例示のため、図5Aに示された人工弁尖器具は、三角延長部416,416Aをそれぞれ1つ有するが、使用にあたり、人工弁尖器具は、通常、1組の共通三角延長部416又は1組の共通三角延長部416Aを有する。
【0096】
三角延長部416,416Aは、リング402から線維三角まで(水平軸線HAに平行に)延びている。三角延長部416,416Aは、真っ直ぐであっても良く、あるいは湾曲していても良い。前尖の通常の運動を乱すのを最小限に抑えるため、三角延長部416,416Aは、前方弁輪の周辺を囲むよう弧状の形状を有することが望ましい場合がある。追加的に又は代替的に、三角延長部は、前尖を回避するためにリング402から幾分垂直に(近位側に)延びても良い。
【0097】
人工弁尖器具450は、オプションとして、リング402の後方部分に取り付けられた1つ又は2つ以上の後方フック420を有するのが良い。別々に図示していないが、後方フック420は、後尖及び後方弁輪に係合する後方クリート412に代えて又はこれに加えて設けられるのが良い。後方フック420は、全体として垂直の方向に遠位側に延びる全体として真っ直ぐな部分420V及び弁輪、後方心室壁及び/又は後尖の縁部の心室側に無外傷的に係合するよう構成された後方に湾曲している部分420Cを有する。
【0098】
人工弁尖器具450は、ルーメン402L中に突き出ていてかつ前尖のための無外傷性接合面を提供する遠位部分リング402に取り付けられたバッフル414を有する。僧帽弁用途では、人工器具450は、三角延長部416,416Aが弁輪の高さ位置に位置した状態で植え込まれ、その結果、バッフル414は、心室中に延びる。バッフル414は、後尖の全て又は一部を邪魔にならないよう変位させる。幾つかの実施形態によれば、人工器具450は、ローブP1,P3が可動であってかつバッフル414と接合することができるよう後尖の中央ローブP2と一致するよう寸法決めされている。これについては、図6Bを参照されたい。
【0099】
幾つかの実施形態では、バッフル414は、生体適合性フォームで形成される。バッフル414は、例えば、涙滴の形状を有するのが良い。他の実施形態では、バッフル414は、図示のようにかつ図2Bを参照して説明したように中空内容積部を包囲したバスケットの形状を有する。かくして、バスケット型バッフル414は、生体適合性被覆408によって被覆された複数のストラットを有するのが良く、生体適合性被覆408は、上述した被覆108に用いられたのと同一の材料であるのが良い。バッフル414は、逆流性の血流を阻止するとともに前尖のための無外傷性接合面を提供するよう構成されている。
【0100】
後方心房固定部材を備えた人工弁尖器具
図6A及び図6Bは、メッシュ、例えばブレード又はステント状構造体で形成された固定リング部材602を有する人工弁尖器具600を示しており、固定リング部材602は、複数のセルを構成するワイヤ又はストラット604を有し、各セルは、貫通穴又は開口部606を有している。分かりやすくするために、人工弁尖器具600は、僧帽弁用途向けに逆さまにされた状態で示され、かかる下流側端部は、上流側端部の上方に位置している。開口部606の寸法、形状、及び数は、固定を保証するよう半径方向力を最適化するために選択されている。オプションとしての橋渡し要素602B(想像線で示されている)が固定リング部材602の端部を互いに連結するのが良く、その結果、橋渡し要素602Bと固定リング部材602は、協働してルーメン602Lを構成し、このルーメン602Lは、作動の際、心房と心室を流体結合する。リングセグメント602及び橋渡し要素602Bは、生体適合性材料で作られるのが良く、かかる生体適合性材料としては、超弾性自己拡張性材料、例えばニッケル‐チタン合金又はバルーン拡張型材料、例えばステンレス鋼が挙げられる。例えば、リングセグメント602及び橋渡し要素602Bは、ニッケル‐チタン合金で形成される。
【0101】
人工器具600は、心房から心室までの血流の流れ方向である垂直軸線VA及びこの垂直軸線と直交した水平軸線を有する。人工弁尖器具600は、前方側部及び後方側部を有する。
【0102】
リング要素602は、リング602に取り付けられ又はこれと一体に形成された複数のバッフル支持体(ストラット)618(図6B)を有する。人工器具600は、ストラット618に取り付けられたバッフル614をさらに有する。
【0103】
幾つかの実施形態では、バッフル614は、生体適合性フォームで形成される。バッフル614は、例えば、涙滴の形状を有するのが良い。バッフル614の後方部分及び/又はストラット618は、後尖及び場合によっては弁輪と係合するよう構成された複数の摩擦係合部分又はクリート612を有するのが良い。
【0104】
他の実施形態では、バッフル614は、バスケットの形状を有するのが良く(例えば、図3Aに示されたバッフル114のように)、生体適合性被覆608が凸状無外傷性表面を形成するようストラット618に取り付けられており、前尖は、この凸状無外傷性表面に接合することができる。バッフル614は、バッフル614の一部分が後尖の閉鎖位置に近づくようルーメン602L中に突き出ている。バッフルの平滑度、ストラット618の幅、及びストラット618相互間の間隔は、全て、無外傷性接合面の提供に寄与する。
【0105】
生体適合性被覆608は、ポリマー又はバイオマテリアル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、シリコーン、ウレタン、心膜など)で形成されたファブリックであるのが良い。被覆608は、任意の従来手段によってリングセグメント602に取り付けられるのが良く、かかる従来手段としては、縫合糸、接着剤、焼結などが挙げられる。幾つかの実施形態では、被覆608は、ストラット618に縫いつけられるのが良い。
【0106】
人工器具600の最も上流側の端部のところに配置された固定リング602の最も上側の列をなすストラット604は、複数の逆V字形構造体又はクラウン箇所もしくはシェブロン604Vを形成する。シェブロン604Vの幾つか(必ずしも全てではない)は、Vの頂点のところにアイレット610を有する。アイレット610は、人工弁尖器具600を運搬カテーテル(図示せず)に送り出し、差し向け、そして回収したり、人工弁尖器具600を運搬カテーテルから送り出し、差し向け、そして回収したりするために用いられる縫合糸ストランド(図示せず)を受け入れるよう寸法決めされている。シェブロン604Vは、全体として垂直に(垂直軸線VAに平行に)に延びても良く、あるいは、これらシェブロンは、ルーメン602Lに向かって角度をなしていても良い。
【0107】
固定リング602及び橋渡し部分602Bは、心房の壁に摩擦係合するようになった複数の摩擦係合要素又はクリート612を有するのが良い。幾つかの実施形態では、クリート612は、心房壁の組織中に穿刺するよう構成された尖った端部を有するのが良い。固定リング602は、リングの一部が心房内に位置し、一部が心室内に位置した状態で後方僧帽弁輪を跨ぐよう構成されている。橋渡し部分602Bは、前方弁輪の周辺を囲み又は場合によっては後尖との干渉を回避するよう前方交連から後方交連まで延びるよう構成され、かかる橋渡し部分は、心室中には延びてはいない。クリート612は、ストラット604と一体形成されても良く、又はこれに一体に取り付けられても良く、そしてこれらクリートは、上流側にアイレット610に向かって(例えば、近位側に、僧帽弁用途において心室から遠ざかって)かつ/あるいは下流側にアイレット610から遠ざかって(例えば、遠位側に、心室に向かって)延びても良く、あるいは、これらクリートは、両方の方向に向いていても良い。クリート612は、ストラットと一体形成されかつアイレット610に向かって近位側に延びている。
【0108】
後方フックを備えた人工弁尖器具
図7A図7Cは、メッシュ又はステント状材料で形成された固定リングセグメント702を有する人工弁尖器具700を示しており、固定リングセグメント702は、複数のセルを構成する複数のストラット704を有し、各セルは、貫通穴又は開口部706を有している。開口部706の寸法、形状及び数は、大きすぎる力を組織に及ぼすことなく、人工器具700の十分な固定を可能にするよう構成されているのが良い。人工器具700は、橋渡し要素702Bをさらに有するのが良く、橋渡し要素702Bは、この橋渡し要素702Bとリングセグメント702が、作動の際に心房と心室を流体結合するルーメン702Lを協働して構成するようリングセグメント702の端部を互いに連結している。リングセグメント702及び橋渡し要素702Bは、任意の生体適合性材料で形成でき、かかる生体適合性材料としては、超弾性自己拡張性材料、例えばニッケル‐チタン合金又はバルーン拡張型材料、例えばステンレス鋼が挙げられる。例えば、リングセグメント702及び橋渡し要素702Bは、特定の実施形態では、ニッケル‐チタン合金で形成される。リングセグメント702は、リング雪面と702に取り付けられ又はこれと一体に形成された複数のバッフル支持体(ストラット)713を有する。
【0109】
人工器具700は、ストラット713に取り付けられたバッフル714をさらに有する。幾つかの実施形態では、バッフル714は、生体適合性フォームで形成される。バッフル714は、例えば、涙滴の形状を有するのが良い。バッフル714の後方部分は、後尖及び場合によっては弁輪と係合するよう構成された複数の摩擦係合部分又はクリート712を有するのが良い。他の実施形態では、バッフルは、生体適合性被覆708を備えたバスケット形状(例えば、図3Aのバッフル114)を有するのが良く、生体適合性被覆708は、バッフル714を形成するよう支持体713に取り付けられており、バッフル714は、無外傷性の表面を提供し、前尖がこの無外傷性表面に当接することができる。生体適合性被覆708は、ポリマー又はバイオマテリアル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、シリコーン、ウレタン、心膜など)で形成されたファブリックであるのが良い。被覆708は、任意の従来手段によってリング702に取り付けられるのが良く、かかる従来手段としては、縫合糸、接着剤、焼結などが挙げられる。かくして、使用にあたり、バッフル714は、後尖に取って代わる。
【0110】
リングセグメント702及び橋渡し部分702Bは、心房の壁に摩擦係合するようになった複数の摩擦係合部分又はクリート712を有するのが良い。例えば、クリート712は、心房壁の組織中に穿刺することなく、組織中に「テント状に入り込む」のが良い。リングセグメント702は、リングの一部が心房内に位置し、一部が心室内に位置した状態で後方僧帽弁輪を跨ぐよう構成されている。橋渡し部分702Bは、前方弁輪の周辺を囲むよう構成されていて、心室中には延びていない。クリート712は、ストラット704と一体形成されても良く、又はこれに一体に取り付けられても良く、そしてこれらクリートは、上流側に(例えば、近位側に、心室から遠ざかって)かつ/あるいは下流側に(例えば、遠位側に、心室に向かって)延びても良く、あるいは、これらクリートは、両方の方向に向いていても良い。図示の実施形態では、クリート712は、ストラットと一体形成されかつ近位側に(上方に)延びている。
【0111】
人工弁尖器具700は、オプションとして、リングセグメント702の後方部分に取り付けられた後方フック720を有するのが良い。後方フック720は、弁輪の心室側、後方心室壁、及び/又は後尖の自由縁部に無外傷的に係合するよう構成されている。(これについては、図7Cを参照されたい)。これは、人工弁尖器具700を定位置にさらに固定する一方でまた、生まれつきの後尖を保持することが見込まれる。
【0112】
半円形人工弁尖器具
図8A及び図8Bは、1対の安定化アーム802及び安定化802に取り付けたバッフル804を有する人工弁尖器具800を示している。安定化アーム802は、弧、例えば半円又は半長円形の状態で延び、これら安定化アームは、前外側交連から後外側交連まで後方心房壁に沿って延びるようになっている。安定化アーム802は、心房壁と摩擦係合するよう構成されており、これら安定化アームは、非拘束サイズを有するバルーン拡張型材料、例えばステンレス鋼又は自己拡張型材料、例えばニッケル‐チタン合金(例えば、Nitinol (登録商標))で形成でき、この非拘束サイズは、心拡張ならびに心収縮中、心房壁との係合を保証する。安定化アーム802は、好ましくは、組織に係合するとともに人工器具800の固定を助けるようになった複数のクリート806を有する。安定化アーム802は、オプションとして、組織内方成長を促進するよう生体適合性ファブリック被覆810で被覆されるのが良い。
【0113】
バッフル804は、後尖を変位させて前尖のための無外傷性接合面を提供し、それにより逆流性血流を阻止し又は少なくとも阻害するようになっている。幾つかの実施形態では、バッフル804は、生体適合性フォームで形成される。バッフル804は、例えば、涙滴の形状を有するのが良い。バッフル804の後方部分は、後尖に係合し、場合によっては弁輪に係合するよう構成された複数の摩擦係合部分又はクリート806を有するのが良い。他の実施形態では、バッフル804は、例えば図2Bを参照して説明した中空内部を包囲するバスケットの形状を有するのが良い(図3Aのバッフル114のように)。バッフル804は、安定化アーム802の後方部分から下流側の方向に(例えば、遠位側に)延び、このバッフルは、組織内方成長を容易にするための細孔を備えた生体適合性被覆810により覆われている幾分凸状の構造体を形成する複数のストラット808を有する。バッフル804の後方側部は、後尖の1つ又は2つ以上のローブに摩擦係合するよう構成されている。バッフルの後方部分のクリート806は、被覆810によっては妨害されない。
【0114】
図8Bは、オプションとしてのストラット812が安定化アーム802の別の自由端部を跨いだ状態の人工弁尖器具800を示している。ストラット812は、安定化アームが心房壁と係合状態のままでいるようにするのを助けることができる。安定化アーム802は、前尖交連と後尖交連との間で延びるよう構成されている。
【0115】
使用にあたり、人工弁尖器具800をバッフル804が弁輪をまたぎ、バッフル804の一部が心室中に延びて後尖と係合した状態で植え込む。安定化アーム802は、心房内に位置したままであるのが良く、弁輪の周辺を囲む。
【0116】
人工弁尖器具の配備
本明細書に開示した人工弁尖器具の各々を経中隔、経心房、又は経尖方式により運搬するのが良い。インプラントを例えば3~9mm、4~8mm、5~7mm、3mm、4mm、5mm、6mm、7mm、8mm、又は9mm内径のシースから送り出すのが良く、シースの先端部は、ほぼP2のところに位置決めされる。外装外しを制御することにより、インプラントは、定位置で半径方向に拡張して弁輪に後方側で当接する。
【0117】
実施形態のうちの幾つかは、最終の解除に先立ってカテーテル内での再位置決め及び/又は再外装のために人工器具を潰し、そしてインプラントの完全な回収を可能にするよう制御ワイヤ又は縫合糸を利用する。円周方向締め要素もまた、バッフル支持要素内に収納して配備中における制御された半径方向拡張を容易にするとともに、インプラントの完全な回収に先立って半径方向収縮を助けるのが良い。他の実施形態では、制御ワイヤ及び/又は制御アームは、心房固定部材の前方部分を回収時に心房固定部分の後方P2部分に向かって内方に曲げて心房固定部材の直径全体を減少させるとともに組織からの摩擦要素の離脱を保証するのが良い。
【0118】
本技術にかかるインプラントの幾つかの実施形態は、経中隔的に送り出される。弁輪内での配置に先立って、人工弁尖器具を部分的に前進させて運搬カテーテルから出して心房中に入れ、ここで、人工弁尖器具を生まれつきの弁に対して回転的に整列させて配備のために準備するのが良い。人工弁尖器具を弁輪中に前進させ、そして拡張させ、そして拡張してその非拘束形状を再びとるようにし、それにより弁輪及びやや環状空間を後方に摩擦要素に係合させ、次に半径方向力により左心房の前方表面に係合させる。一実施形態では、構造的リングの後方特徴部は、送り出し及び/又は回収中、半径方向内方にたためるアクティブな(例えば、可動の)ヒンジを有する。
【0119】
幾つかの実施形態では、バッフルは、配備される人工弁尖器具の最初の部分である。これにより、バッフルを生まれつきの弁、特に僧帽弁用途における後尖及び弁輪に対して所望の場所に位置決めすることができる。次に、後方心室フック又はクリートを後尖及び弁輪に係合させる。人工弁尖器具が三角延長部を備えている場合、三角延長部は、カテーテルから配備される人工弁尖器具の次の部分である。構造的リング及び最終的に心房固定部材(設けられている場合)は、左心房中に配備されるべき人工弁尖器具の最後の2つの部分である。
【0120】
本技術的思想は、僧帽弁に加えて他の弁に利用できる。例えば、患者によっては、尖のうちの1つの退化又は大動脈基部の拡張に起因して大動脈弁逆流症を患っている患者が存在する。大動脈弁の修復のための器具の一実施形態は、大動脈弁の非冠状弁尖を変位させるブロッカーを有する。ブロッカーの心室側表面は、閉鎖位置では、非冠状弁尖の心室側表面とほぼ同じように形作られている。この心室側表面は、生まれつきの尖よりも幾分広いのが良く、その結果、これは、大動脈弁の他の尖と接合する。ブロッカーの周辺表面は、非冠状静脈洞の形状に全体として合致するよう形作られるのが良い。大動脈管腔の方へ向いた面は、大動脈弁の1~4cm下流側に(頭方に)接合面から大動脈壁までテーパしているのが良い。ブロッカーは、ステントに連結されるのが良く、ステントは、大動脈基部又は上行大動脈内に配備され、そしてブロッカーを定位置に保持する。左記の実施形態の場合と同様、ブロッカーは、フォーム又は拡張型金属もしくはポリマーフレームワークから作られるのが良く、かかるフォーム又は拡張型金属もしくはポリマーフレームワークは、弁の他の尖のための無外傷性接合面を形成する発泡PTFE、心膜、又は他の生体適合性組織で被覆されるのが良い。大動脈弁の残りの2つの尖は、これらが狭窄されていない場合、広々とした管腔領域を提供すべきであり、したがって、修復済みの弁は、血液がこれを通って流れているときに過度の圧力勾配を呈することはない。
【0121】
代表的な実施例
本技術の実施形態の幾つかの非限定的であるが代表的な実施例が以下の列挙された実施態様項に記載されている。代表的な特徴は、以下の実施態様項に記載されており、これらの実施態様項は、独立形であっても良く又は本明細書の本文及び/又は図面に開示された1つ又は2つ以上の特徴と任意の組み合わせ状態で組み合わされても良い。用語“comprises ”及び“comprising”ならびにこれらの活用形は、原文明細書及び原文特許請求の範囲で用いられた場合、指定された特徴、ステップ、又は整数が含まれることを意味している。これらの用語は、他の特徴、他のステップ、又は他のコンポーネントの存在を排除するものと解されるべきではない。上記実施態様項、又は以下の特許請求の範囲、もしくは添付の図面に開示されていて、特定の形態で表され又は開示した機能を実行するための手段又は開示された結果を達成するための方法又はプロセスによって表された特徴は、適宜、別々に又はかかる特徴の任意の組み合わせ状態で、本発明をその様々な形態で実現するために利用可能である。
〔実施態様項1〕
心臓弁修復器具であって、
配備形態では長円形又は円形の形状を有する拡張可能なメッシュを備えた心房固定部材を有し、上記心房固定部材は、中央ルーメンを備え、
上記心房固定部材の一部分から延びるバッフルを有し、上記バッフルは、生まれつきの心臓弁の1つ又は2つ以上の生まれつきの尖の少なくとも一部分と接合する滑らかな無外傷性の表面を備えた前方部分と、上記生まれつきの心臓弁の別の生まれつきの尖の少なくとも部分的に係合して該一部分を変位させるよう構成された後方部分とを有し、上記バッフルは、上記変位した生まれつきの尖の閉鎖位置に近づくよう上記心房固定部材から上記中央ルーメン中に半径方向内方に延びている、修復器具。
〔実施態様項2〕
上記バッフルは、中空内容積部を有するバスケットを構成するストラットを含み、上記バッフルは、機能的に欠陥のある生まれつきの尖の少なくとも第1の部分に係合して該第1の部分を拘束する一方で、上記機能的に欠陥のある生まれつきの尖の第2の部分を可動状態なままにしておくよう構成された拘束部分をさらに含み、上記バッフルは、上記機能的に欠陥のある尖に関する閉鎖位置に近づくよう上記中央ルーメン中に半径方向内方に延びている、実施態様項1記載の修復器具。
〔実施態様項3〕
上記心房固定部材又は上記バッフルの複数部分に設けられた複数の摩擦要素をさらに有する、実施態様項1又は2記載の修復器具。
〔実施態様項4〕
上記心房固定部材の内側と外側は、どの摩擦要素をも含まない、実施態様項1~3のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項5〕
上記バッフルは、中空内部を包囲したバスケットを有する、実施態様項1~4のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項6〕
上記バッフルは、複数の前方ストラットと複数の後方ストラットを有し、隙間が上記前方ストラット及び上記後方ストラットの隣り合うストラット相互間に介在して設けられている、実施態様項1~5のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項7〕
上記バッフルを少なくとも部分的に包囲したファブリック被覆を有し、
上記バスケットは、上記ファブリックによって覆われていない口を有する、実施態様項1~6のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項8〕
上記バッフルを少なくとも部分的に包囲したファブリック被覆を有し、
上記バスケットは、上記ファブリックによって覆われた口を有する、実施態様項1~6のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項9〕
上記バッフルは、生体適合性フォームから成る、実施態様項1、3、4、7又は8記載の修復器具。
〔実施態様項10〕
上記バッフルの上記前方部分は、凸形状を有する、実施態様項1~9のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項11〕
上記バッフルの上記後方部分は、3つのスカラップを有する生まれつきの僧帽弁尖の中央スカラップに係合する一方で、残りの上記2つのスカラップを可動状態のままにするよう寸法決めされている、実施態様項1~10のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項12〕
上記心房固定部材の周りに周方向に設けられた第1の組をなす複数の縫合糸ループをさらに有し、上記第1の組をなす縫合糸ループのうちの各縫合糸ループは、ルーメンを有し、
上記縫合糸ループの上記ルーメン内に設けられるとともに隣り合う縫合糸ループを相互に連結した第1の縫合糸を有し、
上記心房固定部材の直径は、上記第1の縫合糸を締めることによって調節される、実施態様項1~11のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項13〕
上記バッフルの周りに円周方向に設けられた第2の組をなす複数の縫合糸ループをさらに有し、上記第2の組をなす縫合糸ループのうちの各縫合糸ループは、ルーメンを有し、
上記縫合糸ループの上記ルーメン内に設けられるとともに隣り合う縫合糸ループを相互に連結した第2の縫合糸を有し、
上記バッフルの直径は、上記第2の縫合糸を締めることによって調節される、実施態様項12記載の修復器具。
〔実施態様項14〕
上記バッフルに設けられた第3の縫合糸ループと、
上記第3の縫合糸ループの上記ルーメン内に設けられた第3の縫合糸とをさらに有し、
上記第3の縫合糸を引くことにより、上記バッフルが変位する、実施態様項13記載の修復器具。
〔実施態様項15〕
上記心房固定部材に取り付けられるとともに心房固定部材を少なくとも部分的に跨いだファブリックの少なくとも1つのファブリックセグメントをさらに有し、上記ファブリック被覆は、組織内方成長を容易にする、実施態様項1~14のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項16〕
上記心房固定部材の遠位端部から垂下したファブリックの少なくとも1つのファブリックセグメントをさらに有する、実施態様項1~15のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項17〕
上記少なくとも1つのファブリックセグメントに取り付けられるとともに上記ファブリックセグメントを付勢して該ファブリックセグメントを上記中央ルーメンから遠ざける付勢部材をさらに有する、実施態様項15又は16記載の修復器具。
〔実施態様項18〕
上記心房固定部材は、少なくとも2つの列をなすセルから成る、実施態様項1~17のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項19〕
上記心房固定部材は、シェブロンの列をさらに有し、
上記シェブロンのうちの少なくとも2つは、貫通穴を有し、
上記心房固定部材は、上記貫通穴に通された縫合糸を有し、
上記縫合糸を締めることにより、上記心房固定部材の直径が調節される、実施態様項1~18のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項20〕
上記心房固定部材は、切頭円錐形の形状を有する、実施態様項1~19のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項21〕
上記心房固定部材は、上記生まれつきの心臓弁の心房壁とのみ係合する形状を有する、実施態様項1~20のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項22〕
外力によって拘束されていない上記心房固定部材のサイズは、心拡張期の際、生まれつきの心房のサイズよりも大きい、実施態様項1~21のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項23〕
上記修復器具は、上記心房固定部材及び上記バッフルにおいてのみ上記生まれつきの心臓弁に対して固定されている、実施態様項1~22のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項24〕
上記心房固定部材は、前方側部及び後方側部を有し、上記心房固定部材の上記前方側部の近位端部は、上記心房固定部材の上記後方側部の近位端部から垂直にオフセットしている、実施態様項1~23のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項25〕
上記心房固定部材は、非対称の形状を有し、前方側部の長さは、上記心房固定部材の上記前方側部が上記心房固定部材の上記後方側部よりも垂直方向に高いように上記心房固定部材の後方側部の長さよりも長い、実施態様項1~24のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項26〕
上記心房固定部材の後方側部は、上記心房固定部材の前方側部よりも硬い、実施態様項1~25のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項27〕
上記心房固定部材は、複数のセルを形成している複数の相互連結ストラットを有し、上記心房固定部材の上記後方側部の上記ストラットは、上記心房固定部材の上記前方側部の上記ストラットよりも厚い、広いかつ/あるいは隣り合うストラット相互間の隙間が狭いかの少なくとも1つである、実施態様項26記載の修復器具。
〔実施態様項28〕
心房壁を備えた心房、心室壁を備えた心室、開き位置及び閉鎖位置を有する少なくとも2つの尖を備えた心臓弁を有する心臓内の逆流性の心臓弁を修復する方法であって、上記心臓弁は、上記心房と上記心室との間の境界部のところに配置され、上記心臓は、上記心臓弁を包囲した弁輪を有し、上記方法は、
人工弁尖器具を用意するステップを含み、上記人工弁尖器具は、
メッシュ材料で作られた心房固定部材を有し、上記心房固定部材は、上記心房と上記心室を流体結合するよう構成された中央ルーメンを備え、上記心房固定部材は、前方部分、後方部分、近位端部、遠位端部、内側部、及び外側部を有し、
上記心房固定部材に取り付けられたバッフルを有し、上記バッフルの前方部分は、上記少なくとも2つの尖のうちの1つのための人工接合面として作用する滑らかな無外傷性の表面を備え、上記バッフルの後方部分は、上記少なくとも2つの尖のうちの別の1つの少なくとも一部分に係合して該一部分を変位させるよう構成され、上記バッフルは、上記中央ルーメン内に突き出て上記変位した尖の閉鎖位置に近づき、
上記人工弁尖器具を上記心房内に植え込んで、上記心房固定部材が上記弁輪から間隔を置いて離れて位置するようにするステップを含み、
上記バッフルを上記少なくとも2つの尖のうちの一方に当接するよう位置決めするステップを含む、方法。
〔実施態様項29〕
上記人工弁尖器具の上記心房固定部材は、アイレットを備えた少なくとも2つの縫合糸ループ、上記アイレットに通された縫合糸ストランドを有し、上記縫合糸ストランドを締めると、上記心房固定部材が潰れ、
上記人工弁尖器具を植え込むステップは、
上記縫合糸ストランドを締めて上記心房固定部材を潰すステップと、
上記心房固定部材が上記心房内で潰れた状態で上記人工弁尖器具を配置するステップと、
上記人工弁尖器具を弛めて上記心房固定部材が拡張して上記心房壁に接触するようにするステップとを含む、実施態様項28記載の方法。
〔実施態様項30〕
上記人工弁尖器具は、上記心房固定部材及び上記バッフルによってのみ上記心臓弁に対して固定される、実施態様項28又は29記載の方法。
〔実施態様項31〕
心臓弁修復器具であって、
中央ルーメンを備えた心房固定部材と、
上記心房固定部材に取り付けられたバッフルとを有し、上記バッフルは、生まれつきの心臓弁の少なくとも1つの生まれつきの尖と接合する人工接合面を構成する滑らかな無外傷性の表面を備えた前方部分と、機能的に欠陥のある尖の少なくとも一部分に係合して該一部分を変位させる後方部分とを有し、上記バッフルは、上記機能的に欠陥のある尖の閉鎖位置に近づくよう上記中央ルーメン中に半径方向内方に延びている、心臓弁修復器具。
〔実施態様項32〕
上記バッフルを少なくとも部分的に包囲したファブリック被覆をさらに有する、実施態様項31記載の修復器具。
〔実施態様項33〕
上記バッフルは、生体適合性フォームから成る、実施態様項31又は32記載の修復器具。
〔実施態様項34〕
上記心房固定器具及び上記バッフルの後方部分上に設けられた複数の摩擦要素をさらに有し、上記バッフルは、上記心房固定部材に対して少なくとも実質的に固定された向きのままである、実施態様項31~33のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項35〕
上記バッフルは、中空内部を包囲したバスケットを有する、実施態様項31記載の修復器具。
〔実施態様項36〕
上記バッフルは、複数の前方ストラット及び複数の後方ストラットを有し、上記前方ストラット及び上記後方ストラットの隣り合うストラット相互間には隙間が介在して設けられている、実施態様項35記載の修復器具。
〔実施態様項37〕
上記バスケットは、口を有し、上記バスケットは、ファブリックによって覆われ、上記バスケットの上記口は、覆われていない、実施態様項35又は36記載の修復器具。
〔実施態様項38〕
上記バッフルの上記前方部分は、凸状の形状を有する、実施態様項31~37のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項39〕
上記バッフルの上記後方部分は、3つのスカラップを備えた僧帽弁前尖又は僧帽弁後尖のうちの中央スカラップに係合して該中央スカラップを変位させる一方で、残りの上記2つのスカラップを可動状態のままにしておくよう寸法決めされている、実施態様項31~38のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項40〕
上記バッフルの上記後方部分は、生まれつきの尖全体に係合して該尖を変位させるよう寸法決めされている、実施態様項31~39のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項41〕
上記心房固定部材は、第1の平面内で延びる半円形リングを有し、上記バッフルは、上記第1の平面と平行でありかつ該第1の平面から垂直にオフセットした第2の平面で延びている、実施態様項31~40のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項42〕
上記バッフルの上記前方部分は、生体適合性フォームから成る、実施態様項31記載の修復器具。
〔実施態様項43〕
上記心房固定部材は、前外側交連と後内側交連との間で上記弁輪の周辺を囲むよう寸法決めされた半円形リングを有する、実施態様項31~41のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項44〕
心臓弁修復器具であって、
中央ルーメンを備えた心房固定部材を有し、
三角アンカーシステム及び後方フックの群から選択された少なくとも1つの固定機構体を有し、
上記三角アンカーシステムは、上記心房固定部材に取り付けられるとともに上記バッフルから遠ざかって延びる第1の三角延長部、部分リングの第2の端部に取り付けられるとともに上記バッフルから遠ざかって延びる第2の三角延長部、ならびにアンカーと上記第1及び上記第2の三角延長部の終端部に取り付けられた無外傷性先端部とのうちの一方を含み、
上記後方フックは、上記心房固定部材の後方部分に取り付けられ、上記後方フックは、遠位側に延びる第1の部分及び後方の方向に湾曲した第2の部分を有し、上記後方フックは、心臓の心室中に延びて、生まれつきの心臓弁輪の心室側に係合するよう形作られ、
上記心房固定部材に取り付けられたバッフルを有し、上記バッフルは、1つ又は2つ以上の生まれつきの尖のための人工接合面を構成する滑らかな無外傷性の表面を備えた前方部分、及び機能的に欠陥のある尖の少なくとも一部分に係合して該一部分を変位させるよう構成された後方部分を有し、上記バッフルは、上記中央ルーメン中に延びるとともに上記機能的に欠陥のある尖のための閉鎖位置に近づく、心臓弁修復器具。
〔実施態様項45〕
上記バッフルを少なくとも部分的に包囲したファブリック被覆をさらに有する、実施態様項44記載の修復器具。
〔実施態様項46〕
上記バッフルは、生体適合性フォームから成る、実施態様項44又は45記載の修復器具。
〔実施態様項47〕
上記心房固定部材及び上記バッフルの後方部分に設けられた複数の摩擦要素をさらに有する、実施態様項44~46のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項48〕
上記バッフルは、中空内部を包囲したバスケットを有する、実施態様項44記載の修復器具。
〔実施態様項49〕
上記バッフルは、複数の前方ストラット及び複数の後方ストラットを有し、上記前方ストラット及び上記後方ストラットの隣り合うストラット相互間には隙間が介在して設けられている、実施態様項48記載の修復器具。
〔実施態様項50〕
上記バスケットは、口を有し、上記バスケットは、ファブリックによって覆われ、上記バスケットの上記口は、覆われていない、実施態様項48又は49記載の修復器具。
〔実施態様項51〕
上記バッフルの上記前方部分は、凸状の形状を有する、実施態様項44~50のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項52〕
上記バッフルの上記後方部分は、3つのスカラップを備えた僧帽弁前尖又は僧帽弁後尖のうちの中央スカラップに係合して該中央スカラップを変位させる一方で、残りの上記2つのスカラップを可動状態のままにしておくよう寸法決めされるとともに形作られている、実施態様項44~51のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項53〕
上記バッフルの上記後方部分は、上記機能的に欠陥のある尖全体に係合するよう寸法決めされている、実施態様項44~52のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項54〕
上記心房固定部材は、前外側交連と後内側交連との間で上記心臓弁輪の周辺を囲むよう寸法決めされた半円形リングを有する、実施態様項44~53のうちいずれか一に記載の修復器具。
〔実施態様項55〕
心臓弁修復器具であって、
中央ルーメンを備えた心房固定部材と、
上記心房固定部材に取り付けられたバッフルとを有し、上記バッフルは、1つ又は2つ以上の生まれつきの尖に係合する接合面を構成する滑らかな無外傷性の表面を備えた前方部分、及び機能的に欠陥のある尖の少なくとも一部分に係合して該一部分を変位させる後方部分を有し、上記バッフルは、上記中央ルーメン中に延びるとともに上記機能的に欠陥のある尖のための閉鎖位置に近づく、心臓弁修復器具。
〔実施態様項56〕
上記バッフルを少なくとも部分的に包囲したファブリック被覆をさらに有する、実施態様項55記載の心臓弁修復器具。
〔実施態様項57〕
上記バッフルは、生体適合性フォームから成る、実施態様項55又は56記載の心臓弁修復器具。
〔実施態様項58〕
上記心房固定器具及び上記バッフルの後方部分上に設けられた複数の摩擦係合要素をさらに有する、実施態様項55~57のうちいずれか一に記載の心臓弁修復器具。
〔実施態様項59〕
上記バッフルは、中空内部を包囲したバスケットを有する、実施態様項55、56又は58記載の心臓弁修復器具。
〔実施態様項60〕
上記バッフルは、複数の前方ストラット及び複数の後方ストラットを有し、上記前方ストラット及び上記後方ストラットの隣り合うストラット相互間には隙間が介在して設けられている、実施態様項55、56、58又は59記載の心臓弁修復器具。
〔実施態様項61〕
上記バスケットは、口を有し、上記バスケットは、ファブリックによって覆われ、上記バスケットの上記口は、覆われていない、実施態様項55、56、58又は59記載の心臓弁修復器具。
〔実施態様項62〕
上記バッフルの上記前方部分は、凸状の形状を有する、実施態様項55~61のうちいずれか一に記載の心臓弁修復器具。
〔実施態様項63〕
上記バッフルの上記後方部分は、3つのスカラップを備えた僧帽弁前尖又は僧帽弁後尖のうちの中央スカラップに係合して該中央スカラップを変位させる一方で、残りの上記2つのスカラップを可動状態のままにしておくよう寸法決めされている、実施態様項55~62のうちいずれか一に記載の心臓弁修復器具。
〔実施態様項64〕
上記心房固定部材は、第1及び第2の端部を備えた部分的に円形の切頭円錐形部材と、上記心房固定部材の上記第1の端部と上記第2の端部との間に延びるブレースとを有する、実施態様項55~63のうちいずれか一に記載の心臓弁修復器具。
〔実施態様項65〕
三角アンカーシステム及び後方フックの群から選択された少なくとも1つの固定機構体をさらに有し、上記三角アンカーは、上記心房固定部材の上記第1の端部に取り付けられるとともに上記バッフルから遠ざかって延びる第1の三角延長部、上記心房固定部材の上記第2の端部に取り付けられるとともに上記バッフルから遠ざかって延びる第2の三角延長部、ならびにアンカーと上記第1及び上記第2の三角延長部の終端部に取り付けられた無外傷性先端部とのうちの一方を含む、実施態様項55~64のうちいずれか一に記載の心臓弁修復器具。
〔実施態様項66〕
前尖及び後尖を備えた僧帽弁を修復するための心臓弁修復器具であって、
潰れ形態及び拡張形態を有する心房固定部材を有し、上記心房固定部材は、拡張可能なリング状のメッシュを有し、上記心房固定部材は、生まれつきの弁輪の上流側で上記心房壁の組織に接触するよう形作られ、
上記心房固定部材から半径方向内方に延びるバッフルを有し、上記バッフルは、上記後尖を心室壁に向かって変位させて上記後尖を開き位置に拘束するよう形作られた外側部分、上記外側部分の半径方向内方に接合面を備えた内側部分を有し、上記内側部分は、上記接合面が上記前尖の閉鎖位置の少なくとも近くに位置決めされるような距離だけ上記外側部分から間隔を置いて位置している、心臓弁修復器具。
〔実施態様項67〕
上記心房固定部材は、上記生まれつきの弁輪の上方で心房壁組織にのみ接触するよう形作られている、実施態様項66記載の心臓弁修復器具。
〔実施態様項68〕
上記バッフルの表面上に設けられた生体適合性被覆をさらに有する、実施態様項66又は67記載の心臓弁修復器具。
〔実施態様項69〕
上記バッフルは、上記心房固定部材から下流側の方向に延びる後方ストラット及び上記後方ストラットの下流側端部から内方かつ上方に突き出た前方ストラットを有し、上記心臓弁修復器具は、上記後方及び上記前方ストラットに取り付けられた被覆をさらに有する、実施態様項66~68のうちいずれか一に記載の心臓弁修復器具。
〔実施態様項70〕
上記心房固定部材は、複数のストラットを有し、上記心臓弁修復器具は、上記心房固定部材の上記ストラットに取り付けられた被覆をさらに有する、実施態様項66~69のうちいずれか一に記載の心臓弁修復器具。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D-1】
図2D-2】
図2E-1】
図2E-2】
図2F-1】
図2F-2】
図2F-3】
図2G-1】
図2G-2】
図2G-3】
図2G-4】
図2H-1】
図2H-2】
図2I
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B