(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】ストレスおよび/または疼痛レベルを決定するための装置、システム、該システムの作動方法、該システムの作動方法を実行するコンピュータ可読コードを有するコンピュータ可読媒体
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20240329BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
A61B5/16 110
A61B5/02 310A
A61B5/02 310V
(21)【出願番号】P 2020560820
(86)(22)【出願日】2019-05-01
(86)【国際出願番号】 EP2019061155
(87)【国際公開番号】W WO2019211335
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-04-27
(32)【優先日】2018-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ミュールステフ ジェンス
(72)【発明者】
【氏名】アタッラー ルイス ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】セルテイン アライン アンヌ マリエ
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0242955(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0249555(US,A1)
【文献】特表2007-525253(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0008191(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/16-5/18
A61B 5/02-5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定するための装置であって、前記装置はプロセッサを備え、前記プロセッサは、
前記対象の身体の末梢部分から得られる第1のフォトプレチスモグラフィ信号を第1のフォトプレチスモグラフィセンサから取得し、
前記対象の身体の中心部分から得られる第2のフォトプレチスモグラフィ信号を第2のフォトプレチスモグラフィセンサから取得し、
前記第1のフォトプレチスモグラフィ信号の第1の振幅および前記第2のフォトプレチスモグラフィ信号の対応する第2の振幅を特定し、
血圧に対して正規化された前記第1の振幅を取得するために、前記第1の振幅と前記第2の振幅との比を求めることによって、前記第1の振幅を前記対応する第2の振幅で正規化し、
前記正規化された前記第1の振幅の変動に基づいて、前記第1のフォトプレチスモグラフィ信号から前記対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定
するように構成され、
前記中心部分は、前記末梢部分と異なり、か
つ前記末梢部分と比較して、
前記対象の脳への血液量をより正確に測定することができる前記対象の首より上の領域である、装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記正規化された前記第1の振幅の変動に基づいて、前記取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の複数の領域が前記対象の前記ストレスおよび/または疼痛レベルの増加を示すか否かを決定することによって、前記対象の前記ストレスおよび/または疼痛レベルを決定する、請求項
1に記載の装置。
【請求項3】
対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定するためのシステムであって、前記システムは、
請求項1
または2に記載の装置と、
前記第1及び第2のフォトプレチスモグラフィセンサと、を備え、
使用時、前記第1のフォトプレチスモグラフィセンサは前記対象の前記身体の前記末梢部分上に配置され、前記第2のフォトプレチスモグラフィセンサは前記対象の前記身体の前記中心部分上に配置される、システム。
【請求項4】
対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定するためのシステムの作動方法であって、
前記システムのプロセッサが、前記対象の身体の末梢部分から得られる第1のフォトプレチスモグラフィ信号を第1のフォトプレチスモグラフィセンサからするステップと、
前記プロセッサが、前記対象の身体の中心部分から得られる第2のフォトプレチスモグラフィ信号を第2のフォトプレチスモグラフィセンサから取得するステップと、
前記プロセッサが、前記第1のフォトプレチスモグラフィ信号の第1の振幅および前記第2のフォトプレチスモグラフィ信号の対応する第2の振幅を特定するステップと、
前記プロセッサが、血圧に対して正規化された前記第1の振幅を取得するために、前記第1の振幅と前記第2の振幅との比を求めることによって、前記第1の振幅を前記対応する第2の振幅で正規化するステップと、
前記プロセッサが、前記正規化された前記第1の振幅の変動に基づいて、前記第1のフォトプレチスモグラフィ信号から前記対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定するステップと、を含み、
前記中心部分は、前記末梢部分と異なり、か
つ前記末梢部分と比較して、
前記対象の脳への血液量をより正確に測定することができる前記対象の首より上の領域である、システムの作動方法。
【請求項5】
コンピュータ可読コードを有し、適切なコンピュータのプロセッサによって前記コンピュータ可読コードが実行されると、前記プロセッサは請求項
4に記載のシステムの作動方法を実行する、コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、覚醒患者の疼痛およびストレスモニタリングはアナログな尺度で可視化されており、患者自身が疼痛および/またはストレスのレベルを示す。しかし、疼痛および/またはストレスを感じることに患者が注意を向ける必要があることから、この推定にはバイアスがかかる可能性があり、したがって評価結果は信頼性に欠けるおそれがある。患者の注意を必要としない、疼痛および/またはストレスレベルを反映する客観的な手段を用いることによって、疼痛およびストレスモニタリングの信頼性が高められる。例えば、客観的な手段は、侵害受容に対する身体反応を推定することを含み得る。これらの客観的な手段はとりわけ鎮静状態の患者にとって、特に、どのようにして鎮痛薬を適切に投与するかを臨床医に指し示す必要がある場合に重要である。疼痛および/またはストレスを定量化するためのいくつかの技術が存在しており、これらは侵害受容に対するバイタルサインの反応に基づいている。
【0003】
そのような技術の一例は、心電図(ECG)信号およびフォトプレチスモグラフィ(PPG)信号を使用して、ストレスおよび/または疼痛を示すとされる、心臓から手への脈波伝播時間(PTT)を決定する。この技術の目的は、ストレスおよび/または疼痛として解釈されるPTTの減少をモニタリングして、PTTを増加させるために鎮痛薬を投与することである。疼痛モニタリングのための技術の別の例では、PPG信号およびガルバニック皮膚反応(GSR)信号から特徴が抽出され、疼痛を評価するために使用される単一の指標に変換される。疼痛モニタリングのための別の技術の例は、ウェーブレット変換を使用して、ECGからの心拍変動信号に対して時間-周波数分析を実行することを含む。この解析の出力を用いて、疼痛に起因する呼吸性洞性不整脈(RSA)の変化が観察される。麻酔中によく使用される他の技術は、意識のある患者のための疼痛の指標として、血圧(BP)および血圧変化(例えば、動脈ラインにより侵襲的に、またはカフを利用する血圧測定装置により非侵襲的に測定される)を使用する。
【0004】
その単純さおよび使用の容易さのために疼痛および/またはストレスインジケータとして広く使用される別の技術は、患者の身体の末梢部分から得られるフォトプレチスモグラフィ(PPG)信号の振幅を、患者における疼痛および/またはストレスのインジケータとして使用することを含む。この技術では、痛み刺激および/またはストレス刺激(例えば、切開)中にはフォトプレチスモグラフィ信号の振幅が減少すると予想され、一方、患者がよりリラックスした状態のときにはフォトプレチスモグラフィ信号が増加すると予想される。痛み刺激および/またはストレス刺激の最中にフォトプレチスモグラフィ信号の振幅が減少すると予想される理由は、そのような刺激を受けると、重要な身体機能を中央化するために、自律神経系が血管のまわりの平滑筋を収縮させるからである。
【0005】
これは血管収縮として知られている。しかし、この技術は痛みおよび/またはストレスを伴うイベントを指し示すための技術として一般的になったが、依然として正確さおよび信頼性に欠ける。
【0006】
特に、痛み刺激および/またはストレス刺激は血管収縮によってのみ特徴付けられるわけではなく、血圧増加にも関連付けられる。
【0007】
したがって、患者の血圧反応も、患者の身体の末梢部分から得られるフォトプレチスモグラフィ信号の振幅に影響を及ぼし得る。
【0008】
痛み刺激および/またはストレス刺激は、血管収縮による患者の身体の末梢部分から得られるフォトプレチスモグラフィ信号の振幅の減少を引き起こすが、血圧(例えば、収縮期血圧(SBP)、脈圧(PP)、平均血圧(MBP)、または拡張期血圧(DBP))の増加は、患者の身体の末梢部分から得られるフォトプレチスモグラフィ信号の振幅の増加をもたらし得る。前述のように、フォトプレチスモグラフィ信号の振幅増加は、よりリラックスした状態の患者として識別される。したがって、結果として、患者が実際にはより疼痛および/またはストレスを受けている可能性があるという事実にもかかわらず、患者がリラックスしていると識別される可能性がある。
【0009】
このように、既存技術に係る、痛みおよび/またはストレスを伴うイベントの指標としての末梢で測定されるフォトプレチスモグラフィ信号の振幅は、現在は特異度を欠いており、そのため、血圧効果がフォトプレチスモグラフィ信号を支配する場合、患者にとって適切な治療について誤った結論が下されることを避けることができない。
【発明の概要】
【0010】
上述したように、既存技術の限界は、対象の疼痛および/またはストレスレベルの誤った指標をもたらす可能性があることである。したがって、既存技術は不正確で信頼性が低い可能性がある。
【0011】
よって、既存の問題に対処することを目的とする、対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定する改善された手段を得ることは有益であろう。
【0012】
したがって、第1の態様によれば、対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定するための装置が提供される。装置はプロセッサを備え、プロセッサは、対象から得られたフォトプレチスモグラフィ信号をフォトプレチスモグラフィセンサから取得し、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性を特定する。特性は血圧に対して正規化される。
【0013】
プロセッサはまた、正規化された特性に基づいて、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号から対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定するように構成される。
【0014】
一部の実施形態では、特性は、対象の身体の中心部分から得られたフォトプレチスモグラフィ信号をフォトプレチスモグラフィセンサから取得するプロセッサによって血圧に対して正規化され得る。
【0015】
一部の実施形態では、特性は、対象の身体の末梢部分から得られたフォトプレチスモグラフィ信号をフォトプレチスモグラフィセンサから取得し、対象の血圧測定結果を血圧センサから取得し、対象の血圧測定結果で特性を正規化することで血圧に対して正規化された特性を取得するプロセッサによって血圧に対して正規化され得る。
【0016】
一部の実施形態では、プロセッサは、血圧に対して正規化された特性を得るために、対象の血圧測定結果に対する特性の比を決定することによって、対象の血圧測定結果で特性を正規化し得る。
【0017】
一部の実施形態では、血圧測定結果は、収縮期血圧測定結果、拡張期血圧測定結果、平均血圧測定結果、または脈圧測定結果を含み得る。
【0018】
一部の実施形態では、特性は、対象の身体の第1の部分から得られた第1のフォトプレチスモグラフィ信号を第1のフォトプレチスモグラフィセンサから取得し、対象の身体の第2の部分から得られた第2のフォトプレチスモグラフィ信号を第2のフォトプレチスモグラフィセンサから取得し、第1のフォトプレチスモグラフィ信号の第1の特性および第2のフォトプレチスモグラフィ信号の対応する第2の特性を特定し、血圧に対して正規化された特性を得るために、第1の特性を対応する第2の特性で正規化するプロセッサによって血圧に対して正規化され得る。
【0019】
一部の実施形態では、対象の身体の第1の部分は対象の身体の第2の部分と異なっていてもよい。
【0020】
一部の実施形態では、対象の身体の第1の部分および対象の身体の第2の部分の一方は、対象の身体の末梢部分であり、対象の身体の第1の部分および対象の身体の第2の部分の他方は、対象の身体の中心部分であり得る。
【0021】
一部の実施形態では、プロセッサは、血圧に対して正規化された特性を得るために、第2の特性に対する第1の特性の比を決定することによって、第2の特性で第1の特性を正規化するように構成され得る。
【0022】
一部の実施形態では、プロセッサは、対象の脈波伝播時間を求め、血圧に対して正規化された特性を得るために、対象の求められた脈波伝播時間で特性を正規化することによって、血圧に対して特性を正規化し得る。
【0023】
一部の実施形態では、プロセッサは、血圧に対して正規化された特性を得るために、対象の求められた脈波伝播時間に対する特性の比を決定することによって、対象の求められた脈波伝播時間で特性を正規化し得る。
【0024】
一部の実施形態では、プロセッサは、正規化された特性に基づいて、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の1つまたは複数の領域が対象のストレスおよび/または疼痛レベルの上昇を示すか否かを特定することによって、対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定するように構成され得る。
【0025】
一部の実施形態では、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性は、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅を含み得る。
【0026】
第2の態様によれば、対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定するためのシステムが提供される。システムは、上記装置と、フォトプレチスモグラフィセンサとを含む。使用時には、フォトプレチスモグラフィセンサは対象の身体上に配置される。一部の実施形態では、使用時、フォトプレチスモグラフィセンサは対象の身体の中心部分上に配置されてもよい。一部の実施形態では、使用時、フォトプレチスモグラフィセンサは対象の身体の末梢部分上に配置されてもよい。
【0027】
第3の態様によれば、対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定するための方法が提供される。
【0028】
方法は、対象から得られたフォトプレチスモグラフィ信号をフォトプレチスモグラフィセンサから取得するステップと、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性を特定するステップとを含む。特性は血圧に対して正規化される。方法はまた、正規化された特性に基づいて、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号から対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定するステップを含む。
【0029】
第4の態様によれば、コンピュータ可読媒体を備えるコンピュータプログラム製品であって、コンピュータ可読媒体はコンピュータ可読コードを有し、適切なコンピュータまたはプロセッサによってコンピュータ可読コードが実行されると、コンピュータまたはプロセッサは上記方法を実行する、コンピュータプログラム製品が提供される。
【0030】
上記の態様および実施形態によれば、既存技術の限界が対処される。特に、上記の態様および実施形態によれば、ストレスおよび/または疼痛レベルの決定が依拠する取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性は、血圧に対して正規化される。このようにして、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号に対する血圧(脈圧、平均血圧など)の影響が低減され、対象の疼痛および/またはストレス反応をより正確に推測される。
【0031】
ストレスおよび/または疼痛レベルの決定が依拠する取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性の特異度は、対象の疼痛および/またはストレス状態の推測のために上昇する。この特異度の上昇は、対象の疼痛および/またはストレス状態を対象の任意の血圧変化から区別することが可能になることを意味する。
【0032】
したがって、上記の態様および実施形態は、対象のストレスおよび/または疼痛レベルのより正確かつより信頼性の高い決定を提供する。このようにして、対象のストレスおよび/または疼痛状態の誤った解釈が低減され、その結果、より適切な処置およびケアを対象に提供できる。したがって、既存の問題を克服する、対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定する改善された手段が提供される。
【0033】
上記および他の態様が以下に記載される実施形態から明らかになり、また、実施形態を参照しながら説明される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
以下の図面を参照しながら、単なる例として例示的な実施形態を説明する。
【
図1】
図1は、一実施形態に係る装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る方法を示すフローチャートである。
【
図3A-B】
図3A~Bは、既存の技術を使用して取得された信号の図、および本明細書に記載の実施形態に係る装置を使用して取得された信号の図である。
【
図4A-B】
図4A~Bは、既存の技術を使用して取得された信号の図、および本明細書に記載の別の実施形態に係る装置を使用して取得された信号の図である。
【
図5A-B】
図5A~Bは、既存の技術を使用して取得された信号の図、および本明細書に記載の別の実施形態に係る装置を使用して取得された信号の図である。
【
図6】
図6は、本明細書で説明されるいくつかの実施形態に係る装置を使用して取得された信号の図である。
【
図7】
図7は、本明細書で説明されるいくつかの実施形態に係る装置を使用して取得された信号の出力例の図である。
【発明の詳細な説明】
【0035】
上記のように、本明細書では、既存の問題を克服する、対象(例えば、患者または任意の他の対象)のストレスおよび/または疼痛レベルを決定する改善された方式が提供される。本明細書では、対象のストレスレベルは、対象の精神的および/または生理的ストレスレベルを含み得る。非常に強い生理的ストレスの場合、対象はショックに陥る可能性がある。
【0036】
図1は、対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定するための装置100を示す。
図1に示すように、装置100はプロセッサ102を含む。簡単に説明すると、装置100のプロセッサ102は、フォトプレチスモグラフィ(PPG)センサ104から、対象から得られたフォトプレチスモグラフィ(PPG)信号を取得するように構成される。装置100のプロセッサ102はまた、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性(または特徴)を特定するように構成される。特性は血圧に関して正規化される。装置100のプロセッサ102はさらに、正規化された特性に基づいて、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号から対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定するように構成される。
【0037】
本明細書では、フォトプレチスモグラフィ信号はフォトプレチスモグラムとも呼ばれる。本明細書で言及されるフォトプレチスモグラフィ信号(またはフォトプレチスモグラム)は、対象の皮膚内の血液量の経時的変化の測定結果として定義され、測定結果は皮膚から光学的に取得される。例えば、光を用いて対象の皮膚を照射し、皮膚からの反射光の量の変化が測定されてもよい。対象の皮膚からの反射光の量の変化は血液量の変化を示す。
【0038】
装置100は、1つまたは複数のプロセッサ102を備え得る。1つまたは複数のプロセッサ102は、本明細書に記載される様々な機能を実行するために、ソフトウェアおよび/またはハードウェアを用いて多様に実現される。一部の実施形態では、1つまたは複数のプロセッサ102はそれぞれ、本明細書で説明される方法の個々のステップまたは複数のステップを実行するように構成され得る。特定の実装形態では、1つまたは複数のプロセッサ102は複数のソフトウェアモジュールおよび/またはハードウェアモジュールを含み、これらのモジュールはそれぞれ、または集合的に本明細書に記載の方法の個々のステップまたは複数のステップを実行するように構成される。1つまたは複数のプロセッサ102は、本明細書で説明される様々な機能を実行するように(例えば、ソフトウェアまたはコンピュータプログラムコードを使用して)構成またはプログラムされ得る1つまたは複数のマイクロプロセッサ、1つまたは複数のマルチコアプロセッサ、および/または1つまたは複数のデジタル信号プロセッサ(DSP)、1つまたは複数の処理ユニット、および/または1つまたは複数のコントローラ(1つまたは複数のマイクロコントローラ等)を備え得る。1つまたは複数のプロセッサ102は、一部の機能を実行するための専用ハードウェア(例えば、増幅器、前置増幅器、アナログ-デジタル変換器(ADC)、および/またはデジタル-アナログ変換器(DAC))と、他の機能を実行するための1つまたは複数のプロセッサ(例えば、1つまたは複数のプログラムされたマイクロプロセッサ、DSP、および関連する回路)との組合せとして実装され得る。
【0039】
図1に示されるように、一部の実施形態では、装置100はフォトプレチスモグラフィセンサ104を含み得る。しかし、他の実施形態では、フォトプレチスモグラフィセンサ104が装置100の外部に(すなわち、装置から分かれてまたは装置から遠くに)設けられてもよいことが理解されよう。
【0040】
例えば、一部の実施形態では、フォトプレチスモグラフィセンサ104は別個のエンティティであってもよいし、または別の装置(例えば、デバイス)の一部であってもよい。
【0041】
したがって、対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定するためのシステムがさらに提供され、システムは、本明細書に記載される装置100と、本明細書に記載されるフォトプレチスモグラフィセンサ104とを備える。システムの一部の実施形態では、装置100自体がフォトプレチスモグラフィセンサ104を備える。
【0042】
システムの他の実施形態では、フォトプレチスモグラフィセンサ104は装置100の外部にあってもよい(すなわち、装置がら分かれていてもよいし、または装置から遠くに設けられてもよい)。使用時には、フォトプレチスモグラフィセンサ104は対象の身体上に配置される。フォトプレチスモグラフィセンサ104は、対象からフォトプレチスモグラフィ信号を得るように構成される。
【0043】
フォトプレチスモグラフィセンサ104は、対象からフォトプレチスモグラフィ信号(またはフォトプレチスモグラム)を取得するのに適した任意のセンサまたは任意のセンサの組合せである。
【0044】
フォトプレチスモグラフィセンサ104は任意の種類の光センサであり得る。
【0045】
フォトプレチスモグラフィセンサ104の例は、カメラ、1つまたは複数の(例えば、アレイ状の)光検出器、パルスオキシメータ、または対象からフォトプレチスモグラフィ信号(またはフォトプレチスモグラム)を得るのに適した任意の他のセンサもしくは任意のセンサの組合せを含むが、これらに限定されない。
【0046】
フォトプレチスモグラフィセンサ104は、接触フォトプレチスモグラフィセンサおよび/または非接触フォトプレチスモグラフィセンサを含み得る。非接触フォトプレチスモグラフィセンサは、フォトプレチスモグラフィセンサ104が対象の身体と物理的に接触することがないよう、対象104から離れている(または距離を置く)ように構成された任意のフォトプレチスモグラフィセンサである。
【0047】
接触フォトプレチスモグラフィセンサ104は、対象の身体と物理的に接触するように構成された任意のフォトプレチスモグラフィセンサである。例えば、フォトプレチスモグラフィセンサ104は、対象の身体の一部(例えば、指、手首、および/または対象の身体の任意の他の部分)に(例えば、皮膚に押し当てるようにして)装着されるように構成されてもよい。
【0048】
これらの実施形態の一部では、例えば、対象の身体の一部に巻き付けられるように構成されたバンドがフォトプレチスモグラフィセンサ104を含んでもよく、または、対象の身体の一部に巻き付けられるように構成されたバンドの下にフォトプレチスモグラフィセンサ104が配置されてもよい。
【0049】
一部の実施形態では、フォトプレチスモグラフィセンサ104は、対象の身体の中心部分(または中心部位)からフォトプレチスモグラフィ信号を取得するように構成される。先に述べたように、使用時には、フォトプレチスモグラフィセンサ104が対象の身体上に配置される。
【0050】
したがって、一部の実施形態では、使用時、フォトプレチスモグラフィセンサ104は対象の身体の中心部分(または中心部位)に配置される。対象の身体の中心部分から得られるフォトプレチスモグラフィ信号は、対象の身体の末梢部分と比較して、血圧による影響が少ない。
【0051】
対象の身体の中心部分(または中心部位)は、対象の身体の重要な器官に近い(例えば、所定の距離以下の)対象の身体の任意の位置であり得る。対象の身体の重要な器官の例は限定されるわけではないが、対象の心臓、対象の肺、対象の脳、または対象の任意の他の重要な器官を含む。対象の身体の中心部分の例としては、対象の額、対象の鼻(例えば、対象の鼻翼または対象の鼻中隔)、対象の耳の後ろの身体部分、対象の耳甲介、対象の首、対象の上胸部、または対象の身体の任意の他の中心部分が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0052】
したがって、例えば、一部の実施形態に係る対象の身体の中心部分は、対象の身体の重要な器官から10cm以下(例えば9cm以下、例えば8cm以下、例えば7cm以下、例えば6cm以下、例えば5cm以下、例えば4cm以下、例えば3cm以下、例えば2cm以下、例えば1cm以下、または10cm未満の任意の他の整数または非整数距離以下)の対象の身体の任意の地点である。
【0053】
他の実施形態では、フォトプレチスモグラフィセンサ104は、対象の身体の末梢部分(または末梢部位)からフォトプレチスモグラフィ信号を取得するように構成される。先に述べたように、使用時には、フォトプレチスモグラフィセンサ104は対象の身体上に配置される。したがって、一部の実施形態では、使用時、フォトプレチスモグラフィセンサ104は対象の身体の末梢部分(または末梢部位)に配置される。
【0054】
対象の身体の末梢部分は、対象の身体の重要な器官、例えば前述の複数の器官のうちの任意の器官から遠く離れている(例えば、前記所定距離よりも大きい)対象の身体の任意の位置であり得る。対象の身体の末梢部分(または末梢部位)の例としては対象の指、対象の耳たぶ、対象の足、または対象の身体の任意の他の末梢部分が挙げられ得るが、これらに限定されない。したがって、例えば、一部の実施形態に係る対象の身体の末梢部分は、対象の身体の重要な器官から1cmを超える(例えば2cmを超える、例えば3cmを超える、例えば4cmを超える、例えば5cmを超える、例えば6cmを超える、例えば7cmを超える、例えば8cmを超える、例えば9cmを超える、例えば10cmを超える、または1cmより大きい任意の他の整数もしくは非整数距離を超える)対象の身体の任意の位置であり得る。
【0055】
図1に示すように、一部の実施形態では、装置100は通信インターフェース(または通信回路)106を備える。代わりに、または加えて、通信インターフェース106は装置100の外部にあってもよい(例えば、分離していてもよいし、遠隔にあってもよい)。通信インターフェース106は、装置100または装置100の構成要素が1つまたは複数の他の構成要素、センサ、インターフェース、デバイス、またはメモリ(本明細書で説明されるもののいずれかなど)と通信および/または接続することを可能にするためのものである。例えば、通信インターフェース106は、装置100のプロセッサが前述のフォトプレチスモグラフィセンサ104と通信および/または接続することを可能にするためのものである。通信インターフェース106は、装置100または装置100の構成要素が任意の適切な態様で通信および/または接続することを可能にし得る。
【0056】
例えば、通信インターフェース106は、装置100または装置100の構成要素が無線で、有線接続を介して、または任意の他の通信(またはデータ転送)メカニズムを介して、通信および/または接続することを可能にし得る。
【0057】
一部のワイヤレス実施形態では、例えば、通信インターフェース106は装置100または装置100の構成要素が無線周波数(RF)、Bluetooth、または任意の他のワイヤレス通信技術を使用して、通信および/または接続することを可能にし得る。
【0058】
図1に示すように、一部の実施形態では、装置100はメモリ108を備える。代わりに、または加えて、メモリ108は装置100の外部にあってもよい(例えば、装置から分かれている、または遠くに設けられている)。装置100のプロセッサは、メモリ108と通信および/または接続するように構成してもよい。メモリ108は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、スタティックRAM(SRAM)、ダイナミックRAM(DRAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、プログラマブルROM(PROM)、消去可能PROM(EPROM)、および電気的消去可能PROM(EEPROM)などの揮発性および不揮発性コンピュータメモリを含むキャッシュまたはシステムメモリなどの任意の種類の非一時的機械可読媒体を備える。一部の実施形態では、プロセッサ102によって実行されると、装置100を本明細書に記載される態様で動作させるプログラムコードをメモリ108が記憶し得る。
【0059】
代替的にまたは追加的に、一部の実施形態では、メモリ108は、本明細書で説明される方法が必要とする情報、または本明細書で説明される方法から得られる情報を記憶するように構成され得る。
【0060】
例えば、一部の実施形態では、メモリ108は、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特定された特性、血圧に対して正規化された特性、対象の決定されたストレスおよび/または疼痛レベル、または本明細書に記載の方法が必要とする、もしくは本明細書に記載の方法から得られる任意の他の情報もしくは任意の情報の組み合わせのうちの任意の1つまたは複数を記憶するように構成されてもよい。一部の実施形態では、装置100のプロセッサ102は、メモリ108を制御して、本明細書で説明される方法が必要とする情報、または本明細書で説明される方法から得られる情報を記憶するように構成され得る。
【0061】
図1に示すように、一部の実施形態では、装置100はユーザインターフェース110を備える。代替的に、または加えて、ユーザインターフェース110は装置100の外部にあってもよい(例えば、分離していてもよいし、遠隔にあってもよい)。装置100のプロセッサ102は、ユーザインターフェース110と通信および/または接続するように構成されてもよい。ユーザインターフェース110は、本明細書で説明される方法が必要とする、または本明細書で説明される方法から得られる情報をレンダリング(例えば、出力、表示、または提供)するように構成され得る。
【0062】
例えば、一部の実施形態では、ユーザインターフェース110は、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特定された特性、血圧に対して正規化された特性、対象の決定されたストレスおよび/または疼痛レベル、または本明細書に記載の方法が必要とする、もしくは本明細書に記載の方法から得られる任意の他の情報もしくは任意の情報の組み合わせのうちの任意の1つまたは複数をレンダリング(例えば、出力、表示、または提供)するように構成されてもよい。代わりにまたは加えて、ユーザインターフェース110はユーザ入力を受け取るように構成されてもよい。例えば、ユーザインターフェース110は、ユーザが手動で情報または命令を入力すること、装置100とインタラクトすること、および/または装置を制御することを可能にしてもよい。したがって、ユーザインターフェース110は、情報のレンダリング(または出力、表示、または提供)を可能にする、および/またはユーザがユーザ入力を提供することを可能にする任意のユーザインタフェースであってもよい。一部の実施形態では、装置100のプロセッサ102は、本明細書で説明される態様で動作するようにユーザインターフェース110を制御するように構成され得る。
【0063】
例えば、ユーザインターフェース110は、1つまたは複数のスイッチ、1つまたは複数のボタン、キーパッド、キーボード、マウス、タッチスクリーンまたはアプリケーション(例えば、タブレット、スマートフォン、または任意の他のスマートデバイスなどのスマートデバイス上のもの)、ディスプレイまたはディスプレイスクリーン、タッチスクリーンなどのグラフィカルユーザインターフェース(GUI)、または任意の他の視覚的コンポーネント、1つまたは複数のスピーカ、1つまたは複数のマイクロフォンまたは任意の他の聴覚的コンポーネント、1つまたは複数の照明(発光ダイオードLED照明など)、触覚(tactileまたはhaptic)フィードバックを提供するためのコンポーネント(振動機能、または任意の他の触覚フィードバックコンポーネントなど)、拡張現実デバイス(拡張現実眼鏡、または任意の他の拡張現実デバイスなど)、スマートデバイス(スマートミラー、タブレット、スマートフォン、スマートウォッチ、または任意の他のスマートデバイスなど)、または任意の他のユーザインターフェースもしくはユーザインターフェースの組合せを備える。一部の実施形態では、情報をレンダリングするように制御されるユーザインタフェースは、ユーザがユーザ入力を提供することを可能にするユーザインタフェースと同じものであってもよい。
【0064】
図1に示すように、一部の実施形態では、装置100は血圧センサ112を含む。代替的に、または加えて、血圧センサ112は装置100の外部にあってもよい(例えば、分離されていもよいし、または遠くにあってもよい)。装置100のプロセッサ102は、血圧センサ112と通信および/または接続するように構成されてもよい。血圧センサ112は、対象の血圧測定値を得るように構成され得る。したがって、血圧センサ112は、対象の血圧測定値を得るのに適した任意のタイプのセンサである。
【0065】
当業者であれば、対象の血圧測定値を得るのに適した様々なセンサを知っているであろう。しかし、血圧センサ112の例はカフを利用する血圧センサまたはカフレス血圧センサを含み得るが、これらに限定されない。カフを利用する血圧センサは対象の身体の一部(例えば、腕、手首、指など)の周りで膨張させられる装着可能なカフを含む。
【0066】
これらの実施形態では、対象の血圧測定値は装着可能なカフの収縮中に取得されてもよい。カフレス血圧センサは、例えば、対象の身体の一部から拍動性血流を抽出することで対象の血圧測定値を得るように構成された光学バイオメトリックセンサを備える。例えば、脈波伝播時間または脈波到達時間(pulse arrival time)が血圧の代用物(surrogate)として使用され、これは、第1のパルスまたは電気信号および第2のパルス信号の検出を含み得る。他の例では、心電図(ECG)、インピーダンスカーディオグラム、心音信号、またはレーダ信号などの信号から血圧測定値が取得され得る。したがって、得られる血圧測定値は、対象の身体から直接得られた血圧測定値、または推定によって対象の身体から間接的に得られた血圧測定値であり得る。血圧測定値を取得する方法の例を示したが、対象の血圧測定値を(直接的または間接的に)取得するのに適した任意の他のセンサ、または任意のセンサの組合せを使用できることを理解されたい。
【0067】
図1には示されていないが、装置100は、装置100に電力を供給するためのバッテリまたは他の電源、または装置100を主電源に接続するための手段を備える。また、装置100は、本明細書に記載されたもの以外の任意の他の構成要素、または任意の構成要素の組み合わせを含んでもよいことが理解されるであろう。
【0068】
図2は、一実施形態に係る、対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定するための(
図1を参照して先に説明したような)装置100の動作方法200を示す。前述のように、装置100はプロセッサ102を含む。
図2に示す方法200は一般に、プロセッサ102によって、またはその制御下で実行され得る。
図2を参照すると、ブロック202において、対象から得られたフォトプレチスモグラフィ(PPG)信号がフォトプレチスモグラフィ(PPG)センサ104から取得される。
【0069】
より具体的には、先に述べたように、対象から得られるフォトプレチスモグラフィ(PPG)信号は、フォトプレチスモグラフィセンサ104から装置100のプロセッサ102によって取得される。
【0070】
図2のブロック204において、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性(または特徴)が特定される。
【0071】
一部の実施形態では、特性は、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅(PPGA)、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅(PPGA)を取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の直流(DC)成分で割ったもの、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の全体的信号範囲、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の信号パワー、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の信号エネルギー、または取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の任意の他の特性を含む。取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅は、例えば、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の二乗平均平方根振幅、または取得されたフォトプレチスモグラフィ信号のピークピーク振幅を含む。
【0072】
一部の実施形態では、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅は、(例えば、心臓周期内、または呼吸相などの他の形式で定められた生理学的期間内の)取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の最大値と、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の最小値との間の差として、または、特定の周波数帯域内の取得されたフォトプレチスモグラフィ信号のエネルギーとして定められてもよい。
【0073】
本明細書に記載される実施形態のいずれにおいても、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性は、血圧に対して正規化される。取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性は様々な方法で血圧に対して正規化することができ、そのいくつかを後述する。
【0074】
図2に戻ると、ブロック206において、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の正規化された特性に基づいて、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号から、対象のストレスおよび/または疼痛レベルが決定される。一部の実施形態では、プロセッサ102は、正規化された特性に基づいて、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の1つまたは複数の領域(または部分)が対象のストレスおよび/または疼痛レベルの上昇を示すか否かを特定することによって、対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定するように構成され得る。
【0075】
例えば、特性が取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅である実施形態では、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の正規化された振幅の減少を含む取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の領域(または部分)は、対象のストレスおよび/または疼痛レベルの上昇を示し得る。同様に、例えば、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の正規化された振幅の増加を含む取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の領域(または部分)は、対象のストレスおよび/または疼痛レベルの低下を示し得る。
【0076】
一部の実施形態では、所定の閾値を上回る取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の正規化された振幅は、対象がリラックスした状態にあることを示し、一方、所定の閾値を下回る取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の正規化された振幅は、対象がストレスおよび/または痛みを伴うイベントを経験していることを示し得る。一般に、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の正規化された振幅が大きいと、対象のストレスおよび/または疼痛レベルが低い可能性があり(例えば、対象はよりリラックスした状態にある)、一方、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の正規化された振幅が小さいと、対象のストレスおよび/または疼痛レベルが高い可能性がある。したがって、一部の実施形態によれば、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の正規化された振幅が小さいほど、対象のストレスおよび/または疼痛レベルは高くなる。
【0077】
一部の実施形態では、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の正規化された特性をメモリ(例えば、上記メモリ)に記憶された参照データと比較することによって、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号から対象のストレスおよび/または疼痛レベルが決定される。記憶された参照データは、例えば、訓練データを含む。訓練データは、一人または複数人の他の対象から(例えば、集団から)学習されたデータであり得る。ストレス刺激および/または疼痛刺激が既知であって、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の対応する特性を記録することで、ストレス刺激および/または疼痛刺激に対するストレスおよび/または疼痛反応をさらに知ることができる。
【0078】
したがって、一部の実施形態では、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の正規化された特性を、対応するストレスおよび/または疼痛レベルと共に記憶されているフォトプレチスモグラフィ信号の参照特性と比較することによって、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号から対象の疼痛および/またはストレスレベルが決定される。
【0079】
例えば、一部の実施形態では、対象の疼痛および/またはストレスレベルは、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の正規化された特性に最も近い(例えば、差が最小である、または最も類似している)参照特性に対応する記憶された疼痛および/またはストレスレベルとして決定される。
【0080】
代替的にまたは追加的に、一部の実施形態では、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の正規化された特性を、対象の明確に定義された(well-definedな)参照フェーズ内の対象の取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性と比較することによって、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号から対象のストレスおよび/または疼痛レベルが決定される。このように、一部の実施形態によれば、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の正規化された特性をベースラインと比較することができ、その結果、対象が(例えば、ストレス刺激および/または疼痛刺激によって)ストレスを受けていること、および/または痛みを受けていることを正規化された特性が反映しているとき、それを特定できる。これらの実施形態によれば、正規化された特性のベースラインからの差の程度は、対象のストレスおよび/または疼痛レベルを示す。
【0081】
対象の明確に定義された参照フェーズは、対象がリラックスした状態にあると検出される任意のフェーズであり、例えば、対象が睡眠中または特定の睡眠フェーズにあると検出されるフェーズ、対象が手術前のリラックス状態にあると検出されるフェーズ(例えば、最初の切開前、または対象への麻酔の投与後であって、痛みを伴う処置が始まる前など、痛みおよび/またはストレスを伴う状況が始まる前)、対象が静止していると検出されるフェーズ、対象が自身がリラックス状態にあると(例えば、先に述べたようなユーザインターフェース110を介して)示すフェーズ、または任意の他の明確に定義された対象の参照フェーズであり得る。対象は例えば、1つまたは複数のカメラ(例えば、1つまたは複数のカメラから取得された画像が対象がリラックス状態にあることを示すとき)、および/または1つまたは複数のバイタルサインセンサ(例えば、1つまたは複数のバイタルサインセンサが低心拍数または低血圧を検出するとき)を使用して、対象がリラックス状態にあることが検出される。ここで、一部の実施形態によれば、ウェアラブルデバイスが1つまたは複数のバイタルサインセンサを含んでもよい。
図2のブロック204で特定された取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性は前述のようにして正規化されるので、
図2のブロック206で決定される対象のストレスおよび/または疼痛レベルはより正確で信頼性の高いものになる。なぜなら、血圧(脈圧、平均血圧など)の影響を低減する、または少なくとも、疼痛および/またはストレス反応から区別できるからである。先に述べたように、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性は様々な方法で血圧に対して正規化することができ、そのいくつかを以下に説明する。
【0082】
フォトプレチスモグラフィセンサ104が、対象の身体の中心部分からフォトプレチスモグラフィ信号を得るように構成される実施形態では、装置100のプロセッサ102は、フォトプレチスモグラフィセンサ104から、対象の身体の中心部分から得られたフォトプレチスモグラフィ信号を取得するように構成され得る。これらの実施形態では、例えば、対象の身体の中心部分から取得されたフォトプレチスモグラフィ信号を取得するように構成された装置100のプロセッサ102によって、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性が血圧に対して正規化され得る。
【0083】
取得されたフォトプレチスモグラフィ信号をこのようにして血圧に対して正規化できるのは、対象の身体の中心部分が対象の身体の末梢部分と比較して血圧の変化にあまり影響されないからである。
【0084】
図3Aは既存の技術を用いて取得された信号の図であり、
図3Bは上記のような実施形態に係る装置を用いて取得された同じ信号の図である。より具体的には、
図3A(a)、(b)および(c)はそれぞれ、既存技術を使用して取得されたフォトプレチスモグラフィ(PPG)信号、脈拍数(PR)、および脈圧(PP)の図である。既存技術は、対象の身体の末梢部分(この図示された例では指)から信号を取得することを含む技術である。
【0085】
図3B(a)、(b)、および(c)はそれぞれ、前述の実施形態に係る装置100を使用して取得されたフォトプレチスモグラフィ(PPG)信号、脈拍数(PR)、および脈圧(PP)の図であり、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性が血圧に対して正規化されている。
【0086】
より詳細には、
図3Bの図示される例示的実施形態では、対象の身体の中心部分から取得されたフォトプレチスモグラフィ信号を取得する装置100のプロセッサ102によって、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性が血圧に対して正規化されている。
図3Aおよび
図3Bに示す例では、対象のストレスおよび/または疼痛レベルの決定が依拠する取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性は、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅である。
【0087】
図3Aおよび
図3Bに示す例では、信号は患者の腹部手術中に取得された。対象に対して行われた第1の切開が
図3Aにおいて矢印300によって示されており、
図3Bでは矢印306によって示されいるる。最初の切開は、対象にとって痛みおよび/またはストレスを伴うイベントと考えられる。これは、例えば、
図3A(b)において302で示された領域の開始時および
図3B(b)において308で示された領域の開始時における脈拍数の強い増加によって示される。
【0088】
図3A(a)において302で示された斜線領域および
図3B(a)において308で示された斜線領域内に示されるように、第1の切開の間および直後に、測定されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅の予想された減少が観察される。切開の結果、重要な身体機能を中央化するために自律神経系が血管周囲の平滑筋を収縮させるので、振幅の減少が予想される。このプロセスに基づけば、測定されたフォトプレチスモグラフィ信号のより大きな振幅はより弛緩した患者を示し、一方、測定されたフォトプレチスモグラフィ信号のより小さな振幅は、対象がストレスおよび/または疼痛を伴うイベントを経験していることを示す。したがって、既存技術および上記実施形態に係る装置の両方に関して、測定されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅はこの領域302、308において正しく反応しており、第1の切開に起因する対象の初期疼痛および/またはストレス反応を指し示している。
【0089】
しかし、
図3A(a)の304で示された領域内に図示されるように、後に、
図3A(c)に図示される強い脈圧(PP)反応が、既存技術を用いて取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅減少を圧倒する。この結果、
図3A(a)の304で示された領域内に見られるように、既存技術を使用して取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅は増加する。この振幅の増加は矢印305で示されている。
【0090】
既存技術によれば、矢印305で示される振幅増加は対象の疼痛および/またはストレスレベルの減少(すなわち、対象がより少ない疼痛および/またはストレスを経験している)として臨床的に解釈されるが、これは正しくない。
【0091】
したがって、
図3A(a)に示すように、既存技術に係る対象の身体の末梢部分から測定されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅は、血圧変化に関連する疼痛および/またはストレスを伴うイベントの信頼できない誤った指標である。
【0092】
対照的に、
図3B(a)の308および310で示された領域内に示されるように、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性が、対象の身体の中心部分からフォトプレチスモグラフィ信号を取得する上述の実施形態に係る装置100のプロセッサ102によって血圧に対して正規化される場合、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅に対する脈圧(PP)の影響は、低減されるか、または排除されることさえある。したがって、
図3B(a)の308で示された領域から、対象は実際には、
図3A(a)の302で示された領域によって示されるよりも長い期間にわたって実際に痛みおよび/またはストレスを受けていることが分かる。したがって、
図3B(a)に示すように、上述の実施形態に係る血圧に対して正規化されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅は、血圧変化に関連する疼痛および/またはストレスを伴うイベントに対するより信頼性が高く、より正確な指標である。
【0093】
特性を血圧に対して正規化することが可能な方法の上記実施形態の代わりに、またはそれに加えて、フォトプレチスモグラフィセンサ104が対象の身体の末梢部分からフォトプレチスモグラフィ信号を取得するように構成された一部の実施形態では、装置100のプロセッサ102は、フォトプレチスモグラフィセンサ104から、対象の身体の末梢部分から取得されたフォトプレチスモグラフィ信号を取得するように構成され得る。これらの実施形態では、対象の血圧測定値で特性を正規化して、血圧に対して正規化された特性を得るように構成された装置100のプロセッサ102によって、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性が血圧に対して正規化され得る。
【0094】
装置100のプロセッサ102は、血圧センサ112から対象の血圧測定値を取得するように構成される。前述のように、装置100が血圧センサ112を備えてもよく、または、血圧センサ112は装置100の外部にあってもよい(すなわち、分離していてもよいし、遠隔にあってもよい)。
【0095】
取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性を正規化するために使用される対象の取得された血圧測定値は、例えば、収縮期血圧(SBP)測定値、拡張期血圧(DBP)測定値、平均血圧(MBP)測定値、または脈圧(PP)測定値のうちの任意の1つまたは複数を含む。一部の実施形態では、プロセッサ102は、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性と、対象の血圧測定値との比を決定することによって、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性を対象の血圧測定値で正規化することで、血圧に対して正規化された特性を得るように構成され得る。
【0096】
本実施形態に従い求められる、対象の血圧測定値に対する取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性の比Rは、以下のように表される。
【数1】
ここで、PPGは対象の取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性であり(例えば、PPGA、またはPPGAを取得されたフォトプレチスモグラフィ信号のDC成分で除算したもの)、BPは対象の取得されたまたは推定された血圧測定値(例えば、SBP、DBP、MBP、またはPP)である。
【0097】
一部の実施形態では、対象の血圧測定値に対する取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性の求められた比は、訓練データと比較される。例えば、一部の実施形態では、対象の血圧測定値に対する取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性の求められた比は、一人以上の他の対象から(例えば、母集団から)取得されたフォトプレチスモグラフィ信号および血圧測定値から決定された参照比値と比較される。代替的にまたは追加的に、一部の実施形態では、対象の血圧測定値に対する取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性の求められた比は、当該対象の明確に定義された参照フェーズにおける対象の血圧測定値に対する取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性の比と比較される。
【0098】
対象の明確に定義された参照フェーズは、例えば、時間tOである。一部の実施形態によれば、対象が明確に定義された参照フェーズにある時間tOは、対象がそのようなフェーズにあるか否かを示す刺激を検出することによって特定され得る。先に述べたように、明確に定義された参照フェーズは、対象がリラックス状態にあると検出される任意のフェーズとされる。一部の実施形態では、対象の明確な参照フェーズにおける対象の血圧測定値に対する取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性の比に対する、対象の血圧測定値に対する取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性の比の比較R
Nは、以下のように表される。
【数2】
ここで、
【数3】
は、対象の取得された血圧測定値(例えば、SBP、DBP、MBP、またはPP)に対する対象の取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性の求められた比であり、
【数4】
は、対象の明確に定義された参照フェーズにおける時刻t
0での対象の取得された血圧測定値(例えば、SBP、DBP、MBP、またはPP)に対する対象の取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性の比である。
【0099】
図4Aは、既存技術を用いて取得された信号の図であり、
図4Bは、上記のような実施形態に係る装置を用いて取得された同じ信号の図である。より具体的には、
図4A(a)、(b)および(c)はそれぞれ、既存技術を使用して取得されたフォトプレチスモグラフィ(PPG)信号、脈拍数(PR)、および脈圧(PP)の図である。既存技術は、
図3Aを参照して先に説明したものである。したがって、
図3Aの説明はここでは繰り返さないが、
図4Aにも適用されることが理解されるであろう。
【0100】
図4B(a)、(b)、および(c)はそれぞれ、前述の実施形態に係る装置100を使用して取得されたフォトプレチスモグラフィ(PPG)信号、脈拍数(PR)、および脈圧(PP)の図であり、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性が血圧に対して正規化されている。
【0101】
より詳細には、
図4Bに図示される例示的実施形態では、装置100のプロセッサ102が、対象の血圧測定値に対する取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性の比Rを決定することによって、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性が血圧に対して正規化される。
図4Aおよび
図4Bに示す例では、対象のストレスおよび/または疼痛レベルの決定が依拠する取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性は、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅である。
図4Bでは、対象に対して行われた最初の切開が矢印406によって示されている。最初の切開は、対象にとってストレスおよび/または痛みを伴うイベントであると考えられる。これは、例えば、
図4A(b)において302で示された領域の開始時および
図4B(b)において408で示された領域の開始時における脈拍数の強い増加によって示される。
【0102】
図4Aの既存技術とは対照的に、
図4B(a)の408で示された領域内に示されるように、上記実施形態に係る装置100のプロセッサ102が、対象の血圧測定値に対する取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性の比を求めることによって取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性が血圧に対して正規化される場合、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅は、より長い期間にわたって低いままである。
図4B(a)では、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号が
図4A(a)ほど脈圧(PP)と強く相関していない。実際には、
図4Bの408で示された領域から、
図4B(c)に示される脈圧(PP)が増加し始めたときでさえも、
図4B(a)に示される取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅が低いままであることが分かる。これは、
図4B(a)において取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅が低いままである理由が、
図4Aの場合ではそのように決定され得るように、低い脈圧(PP)にのみ起因するわけではなく、対象が長期にわたり疼痛および/またはストレス状態にあることにも起因することを示す。
【0103】
したがって、
図4B(a)に示すように、上述の実施形態に係る血圧に対して正規化されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅は、血圧変化に関連する疼痛および/またはストレスを伴うイベントに対するより信頼性が高く、より正確な指標である。
【0104】
特性を血圧に対して正規化することが可能な方法の上記実施形態の代わりに、またはそれに加えて、一部の実施形態では、プロセッサ102は、第1のフォトプレチスモグラフィセンサ104から、対象の身体の第1の部分から取得された第1のフォトプレチスモグラフィ信号を取得するように構成され、さらに、第2のフォトプレチスモグラフィセンサ104から、対象の身体の第2の部分から取得された第2のフォトプレチスモグラフィ信号を取得するように構成され得る。一部の実施形態によれば、第2のフォトプレチスモグラフィセンサ104は第1のフォトプレチスモグラフィセンサ104と同じフォトプレチスモグラフィセンサであり、他の実施形態によれば、第1のフォトプレチスモグラフィセンサ104とは異なるフォトプレチスモグラフィセンサであり得る。一部の実施形態では、対象の身体の第1の部分は対象の身体の第2の部分と異なっていてもよい。例えば、一部の実施形態によれば、対象の身体の第1の部分および対象の身体の第2の部分のうちの一方は、対象の身体の末梢部分(例えば、指または任意の他の末梢部分)であってもよく、対象の身体の第1の部分および対象の身体の第2の部分のうちの他方は、対象の身体の中央部分(例えば、額または任意の他の中央部分)であってもよい。
【0105】
プロセッサ102が第1のフォトプレチスモグラフィ信号および第2のフォトプレチスモグラフィ信号を取得するように構成される実施形態では、プロセッサ102は、第1のフォトプレチスモグラフィ信号の第1の特性および第2のフォトプレチスモグラフィ信号の対応する第2の特性を特定するように構成されてもよい。第2の特性が第1の特性と同じ(または同じタイプの)特性である場合、第2の特性は「対応する」ものである。例えば、第1の特性が取得された第1のフォトプレチスモグラフィ信号の振幅を含む場合、対応する第2の特性は、取得された第2のフォトプレチスモグラフィ信号の振幅を含む。これらの実施形態では、対応する第2の特性で第1の特性を正規化するように構成されたプロセッサ102によって、特性を血圧に対して正規化することで、血圧に対して正規化された特性が取得され得る。例えば、一部の実施形態では、プロセッサ102は、血圧に対して正規化された特性を得るために、第2の特性に対する第1の特性の比を決定することによって、第2の特性で第1の特性を正規化するように構成され得る。
【0106】
本実施形態に係る、血圧Hに対して正規化された特性は、以下のように表される。
【数5】
ここで、PPG
1は(例えば、対象の身体の末梢部分から得られた)第1のフォトプレチスモグラフィ信号の第1の特性であり、PPG
2は、(例えば、対象の身体の中心部分から得られた)第2のフォトプレチスモグラフィ信号の第2の特性である。
【0107】
図5Aは既存の技術を用いて取得された信号の図であり、
図5Bは上記のような実施形態に係る装置を用いて取得された同じ信号の図である。より具体的には、
図5A(a)、(b)および(c)はそれぞれ、既存技術を使用して取得されたフォトプレチスモグラフィ(PPG)信号、脈拍数(PR)、および脈圧(PP)の図である。既存技術は、
図3Aを参照して先に説明したものである。したがって、
図3Aの説明はここでは繰り返さないが、
図5Aにも適用されることが理解されるであろう。
【0108】
図5B(a)、(b)、および(c)はそれぞれ、前述の実施形態に係る装置100を使用して取得されたフォトプレチスモグラフィ(PPG)信号、脈拍数(PR)、および脈圧(PP)の図であり、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性が血圧に対して正規化されている。
【0109】
より詳細には、
図5Bに図示される例示的実施形態では、装置100のプロセッサ102が、対象の身体の中心部分(例えば、額)から取得された第2のフォトプレチスモグラフィ信号の第2の特性に対する、対象の身体の末梢部分(例えば、指)から取得された第1のフォトプレチスモグラフィ信号の第1の特性の比Hを求めることによって、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性が血圧に対して正規化される。
【0110】
図5Aおよび
図5Bに示す例では、対象のストレスおよび/または疼痛レベルの決定が依拠する取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性は、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅である。
図5Bでは、対象に対して行われた最初の切開が矢印506によって示されている。最初の切開は、対象にとってストレスおよび/または痛みを伴うイベントであると考えられる。これは、例えば、
図5A(b)において302で示された領域の開始時および
図5B(b)において508で示された領域の開始時における脈拍数の強い増加によって示される。
【0111】
図5Aの既存技術とは対照的に、
図5B(a)の508で示された領域内に示されるように、対象の身体の中心部分(例えば、額)から取得された第2のフォトプレチスモグラフィ信号の第2の特性に対する対象の身体の末梢部分(例えば、指)から取得された第1のフォトプレチスモグラフィ信号の第1の特性の比を求めることによって、上記実施形態に係る装置100のプロセッサ102によって取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性が血圧に対して正規化される場合、最初の切開に起因する対象の初期疼痛および/またはストレス反応が抑制される。しかし、
図5B(c)の510で示された領域における脈圧の連続的な増加は、
図5B(a)の510で示された領域内の取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅において依然として明確に認められる。したがって、
図5B(a)の508で示された領域から、対象が実際には、痛みおよび/またはストレスレベルの増加ではなく、血圧の増加を経験していることが分かる。
【0112】
したがって、
図5B(a)に示すように、上記実施形態に従って血圧に対して正規化されたフォトプレチスモグラフィ信号の振幅は、痛みおよび/またはストレスを伴うイベントを血圧変化から区別できるので、痛みおよび/またはストレスを伴うイベントのためのより信頼性が高く、より特異的な指標である。
【0113】
対象の身体の第1および第2の部分から取得されたフォトプレチスモグラフィ信号が取得され得ると述べたが、一部の実施形態では、プロセッサ102は、対象の身体の少なくとも1つの他の部分から取得されたフォトプレチスモグラフィ信号を取得するように構成される。これらの実施形態では、さらに、対象の身体の少なくとも1つの他の部分から取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の対応する特性が特定され、血圧に対して正規化された特性を取得するために、対応する第2の特性と共に第1の特性を正規化する際に使用される。
【0114】
特性を血圧に対して正規化することが可能な方法の上記実施形態の代わりに、またはそれに加えて、一部の実施形態では、プロセッサ102は、対象の脈波伝播時間(PTT)を求め、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性を対象の求められた脈波伝播時間で正規化することで、血圧について特性を正規化することによって、血圧に対して正規化された特性を得るように構成され得る。本明細書において、対象の脈波伝播時間は、脈圧波が対象の身体の1つの動脈部位から対象の身体の別の動脈部位まで伝播するのに要する時間として定義される。対象の身体の動脈部位は、脈圧波を検出可能な対象の身体の任意の部位(例えば、拍動性血管(例えば、動脈、細動脈、または任意の他の拍動性血管)を含む対象の身体の任意の部位)であり得る。
【0115】
一部の実施形態では、プロセッサ102は、血圧に対して正規化された特性を得るために、対象の求められた脈波伝播時間に対する特性の比を決定することによって、求められた脈波伝播時間で特性を正規化するように構成され得る。
【0116】
本実施形態に従い求められる、対象の求められた脈波伝播時間に対する特性の比R’は、以下のように表される。
【数6】
ここで、PPGは対象の取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性であり(例えば、PPGA、またはPPGAを取得されたフォトプレチスモグラフィ信号のDC成分で除算したもの)、PTTは対象の脈波伝播時間である。
【0117】
一部の実施形態では、対象の脈波伝播時間は、対象から取得された心電図信号と、対象の取得されたフォトプレチスモグラフィ信号とを使用して求められる。対象の脈波伝播時間は収縮期動脈血圧と逆相関の関係を有し、したがって、対象の血圧を推定するための間接的な代用物として使用できる。一部の実施形態では、対象の血圧が利用できない場合(例えば、カフも動脈血圧も利用できない)、特性を正規化するために対象の脈波伝播時間が使用される。
【0118】
一部の実施形態では、対象から取得された心電図信号の任意の特徴点(例えば、Rピーク、または任意の他の特徴点)と、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の任意の特徴点(例えば、最大点の一次微分、最大点の二次微分、交差接点、または任意の他の特徴点)との間の時間遅延を測定することによって、対象の脈波伝播時間が決定される。
【0119】
血圧に対して取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性を正規化することが可能な様々な方法を単独で説明してきたが、血圧に対して取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性を正規化することが可能な前記方法のいずれも、他の任意の方法と組み合わせて等しく使用できることを理解されたい。例えば、一部の実施形態では、本明細書に記載の方法のうちの2つ以上を使用して、血圧に対して取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性が正規化される。
【0120】
一部の実施形態では、血圧に対して正規化された特性を有する取得されたフォトプレチスモグラフィ信号がユーザインターフェース110によってレンダリング(例えば、出力、表示、または提供)される。例えば、一部の実施形態では、装置100のプロセッサ102は、血圧に対して正規化された特性を有する取得されたフォトプレチスモグラフィ信号をレンダリング(例えば、出力、表示、または提供)するように、ユーザインターフェース110を制御する。先に述べたように、装置100がユーザインターフェース110を備えてもよく、またはユーザインターフェース110は装置100の外部にあってもよい(すなわち、装置から分離されている、または遠隔にある)。一部の実施形態では、血圧に対して正規化された特性を有する取得されたフォトプレチスモグラフィ信号は、他の情報、例えば、信頼できる特性の領域(例えば、血圧の上昇とは対照的に、疼痛および/またはストレスに起因する特性の領域)、対象の脈拍数(PR)、および対象の脈圧(PP)のうちのいずれか1つまたは複数の表示とともにレンダリングされ得る。このようにして、例えば、改善された臨床的意思決定支援を医療専門家(例えば、医師や麻酔医など)に提供することが可能である。
【0121】
本明細書に記載の方法のうちの2つ以上を使用して、血圧について取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性が正規化される実施形態では、異なる方法で血圧に対して正規化された特性を有する複数のフォトプレチスモグラフィ信号を提供する。
【0122】
したがって、これらの実施形態のうちの一部では、異なる方法で血圧に対して正規化された特性を有する2つ以上のフォトプレチスモグラフィ信号が、例えば同時に、ユーザインターフェース110によってレンダリングされる。
【0123】
図6は、そのような実施形態に係る装置を用いて取得された信号の図である。
【0124】
より具体的には、
図6は、2つの異なる方法で血圧に対して正規化された特性を有する2つのフォトプレチスモグラフィ信号の図である。
図6では、対象に対して行われた最初の切開が矢印606によって示されている。
図6(a)は、対象の血圧測定値に対する、取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性の比Rを決定することによって血圧に対して正規化された特性を有するフォトプレチスモグラフィ信号の図である。
図6(b)は、対象の中心部分から得られた第2のフォトプレチスモグラフィ信号の第2の特性に対する、対象の身体の末梢部分から得られた第1のフォトプレチスモグラフィ信号の第1の特性の比Hを決定することによって血圧に対して正規化された特性を有するフォトプレチスモグラフィ信号の図である。
【0125】
図6に示すように、一部の実施形態では、2つの異なる方法で血圧に対して正規化された特性を有する2つのフォトプレチスモグラフィ信号は、ユーザインターフェース110によって同時にレンダリングされてもよい。一部の実施形態では、
図6(c)および
図6(d)にそれぞれ示されるように、さらに、対象の脈拍数(PR)および対象の脈圧(PP)が、フォトプレチスモグラフィ信号と同時にユーザインターフェース110によってレンダリングされてもよい。このようにして、疼痛および/またはストレス反応と、血圧関連効果とを互いに区別できる。例えば、疼痛および/またはストレス反応および血圧関連効果は、最初の切開606の間に互いに区別され得る。これにより、例えば、対象を手術する際、ユーザインタフェース110(例えば、医師や麻酔医などの医療専門家)のユーザにより良好なガイダンスを提供する。
【0126】
図7は、本明細書で説明されるいくつかの実施形態に係る装置を使用して取得された信号の出力例の図である。より具体的には、
図7は、2つの異なる方法で血圧に対して正規化された特性を有する2つのフォトプレチスモグラフィ信号をユーザインターフェース110によってレンダリングする方法の別の例を示す。
【0127】
図7の横軸は、対象の血圧測定値に対する取得されたフォトプレチスモグラフィ信号の特性の比Rを求めることにより、または対象の身体の中心部分から取得されたフォトプレチスモグラフィ信号を取得することにより血圧に対して正規化された特性を有するフォトプレチスモグラフィ信号のデータを表す。
【0128】
図7の縦軸は、対象の中心部分から得られた第2のフォトプレチスモグラフィ信号の第2の特性に対する、対象の身体の末梢部分から得られた第1のフォトプレチスモグラフィ信号の第1の特性の比Hを決定することによって血圧に対して正規化された特性を有するフォトプレチスモグラフィ信号のデータを表す。したがって、一部の実施形態では、ある方法で血圧に対して正規化された特性を有するフォトプレチスモグラフィ信号のデータを、別の方法で血圧に対して正規化された特性を有するフォトプレチスモグラフィ信号のデータに対してプロットすることによって、フォトプレチスモグラフィ信号がレンダリングされてもよい。このようにしてフォトプレチスモグラフィ信号を視覚化することによって、ユーザインターフェース110のユーザ(例えば、医師、麻酔医などの医療専門家)に、対象の疼痛および/またはストレス反応に関して対象の改善された評価を提供できる。
【0129】
一部の実施形態では、対象の疼痛および/またはストレス反応を血圧イベントから区別することが可能であり得る。例えば、
図7に図示される実施形態では、矢印700は対象が経験する疼痛および/またはストレスの増加を示し、矢印702は血行動態(血圧)イベントが生じている確率の増加を示す。したがって、
図7に示す例示的実施形態では、領域Aは、血行動態(血圧)イベントであって、かつ対象が疼痛および/またはストレスを経験していると解釈され、領域Bは血行動態(血圧)イベントとして解釈され、領域Cは、対象が疼痛および/またはストレスを経験していると解釈され、領域Dは、対象が(参照として使用され得る)リラックス状態にあると解釈される。
【0130】
前述の装置100および方法200に加えて、コンピュータ可読媒体を備えるコンピュータプログラム製品も提供される。コンピュータ可読媒体はコンピュータ可読コードを備える。コンピュータ可読コードは、適切なコンピュータまたはプロセッサによって実行されると、コンピュータまたはプロセッサが本明細書に記載する方法を実行するように構成される。コンピュータ可読媒体は、例えば、コンピュータプログラム製品を保持する任意のエンティティまたはデバイスであってもよい。例えば、コンピュータ可読媒体は、ROM(CD-ROMや半導体ROMなど)や磁気記録媒体(ハードディスクなど)などのデータストレージを含んでもよい。さらに、コンピュータ可読媒体は、電気または光ケーブルを介して、あるいは無線または他の手段によって運ばれ得る電気または光信号などの伝送可能なキャリアであってもよい。コンピュータプログラム製品がそのような信号で具現化される場合、コンピュータ可読媒体は、そのようなケーブルまたは他のデバイスもしくは手段によって構成され得る。
【0131】
あるいは、コンピュータ可読媒体は、コンピュータプログラム製品が組み込まれた集積回路であってもよく、集積回路は、本明細書に記載の方法を実行するように適合されているか、または本明細書に記載の方法の実行に使用される。
【0132】
したがって、対象のストレスおよび/または疼痛レベルを決定するための改善された装置、方法、およびコンピュータプログラム製品が本明細書に提供される。
【0133】
当業者は、図面、開示、および添付の特許請求の範囲に基づき、本明細書に記載の原理および技術を実施するにあたり、開示された実施形態への変更を理解および実施し得る。特許請求の範囲において、「備える」等の用語は他の要素またはステップを排除するものではなく、また、単数形は複数を排除するものではない。単一のプロセッサまたは他のユニットが、特許請求の範囲に列挙されるいくつかのアイテムの機能を果たしてもよい。単に複数の特定の手段が互いに異なる従属請求項に記載されているといって、これらの手段の組み合わせを有利に使用することができないとは限らない。コンピュータプログラムは適切な媒体、例えば、他のハードウェアとともに、またはその一部として供給される光記憶媒体またはソリッドステート媒体などの上に記憶、またはその上で配布され得るが、他の形態で、例えば、インターネットまたは他の有線もしくは無線電気通信システムなどを介して配布されてもよい。特許請求の範囲におけるいかなる参照符号も、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。