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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】タガトース及びガラクトースシロップ
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/30 20160101AFI20240329BHJP
   A23L 2/60 20060101ALI20240329BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
A23L29/30
A23L2/60
A23L2/00 C
A23L2/00 G
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021518116
(86)(22)【出願日】2019-10-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 EP2019077459
(87)【国際公開番号】W WO2020074635
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】102018000009407
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】520026607
【氏名又は名称】イナルコ エス.アール.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】チポッレッティ ジョヴァンニ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァニョーリ ルアナ
(72)【発明者】
【氏名】チニ ヤコポ
(72)【発明者】
【氏名】ビアジョリーニ シルヴィア
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/006606(WO,A1)
【文献】特表2008-520743(JP,A)
【文献】国際公開第2011/150556(WO,A1)
【文献】特開2017-051107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む組成物であって、
タガトース 40~50%
ガラクトース 30~40%
オリゴ糖(GLT) 7~10%
グリセロール 4~10%
他の糖類 2~8%
ラクトース 1%以下
ラクツロース 1%以下
タガトース/ガラクトース比が1.0~1.6に等しく、前記%は乾燥組成物に対する重量によるものであり、前記組成物は、58~62°ブリックスの検糖分析濃度のシロップの形態である組成物。
【請求項2】
前記タガトース/ガラクトース比が1.1~1.5に等しい請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
59~61°ブリックスの検糖分析濃度を有する請求項1又は請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
3.0~3.5のpHを有する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
以下の
タガトース 43~47%
ガラクトース 30~36%
オリゴ糖(GLT) 7~10%
グリセロール 8~10%
他の糖類 2~5%
ラクトース 1%以下
ラクツロース 1%以下
を含むか又はこれらからなる請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のシロップの調製方法であって、
i. ラクトースをラクターゼ酵素による酵素加水分解に供して、グルコース及びガラクトースを含む混合物を得る工程と、
ii. 前記グルコース及びガラクトースを含む混合物を、少なくとも1種の食品用酵母と接触させて、脱グルコース化を行い、脱グルコース化混合物を得る工程と、
iii. 前記脱グルコース化混合物をアルカリエピマー化に供して、前記ガラクトースのタガトースへのエピマー化を行い、エピマー化混合物を得る工程と、
iv. 前記エピマー化混合物を、少なくとも1種のイオン交換樹脂脂と接触させて脱イオン化を行い、脱イオン化混合物を得る工程と、
v. 任意に、前記脱イオン化混合物をナノ濾過に供して、ナノ濾過済み混合物を得る工程と、
vi. 任意に、前記脱イオン化混合物、又は任意に前記ナノ濾過済み混合物を、逆浸透に供して、浸透圧残余分を得る工程と、
vii. 前記脱イオン化混合物、又は任意に前記ナノ濾過済み混合物、又は任意に前記浸透圧残余分を、セラミック限外濾過に供して、限外濾過済み混合物を得る工程と、
viii. 前記限外濾過済み混合物を58~62°ブリックスまでの濃縮に供して、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のシロップを得る工程と
を備える方法。
【請求項7】
原料が結晶形のラクトース一水和物である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ラクトースの酵素加水分解(i)反応が、5~60℃の温度で、pH4.0~9.0で、前記ラクトース溶液をカラムに再循環させながら、1~48時間の時間をかけて行われ、前記カラムが、クルイベロマイセス・ラクティス、クルイベロマイセス・フラギリス、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ニガー、大腸菌、バチルス・ステアロサーモフィルス、又はバチルス・サーキュランス由来の固定化されたラクターゼ酵素を含む請求項6又は請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記脱グルコース化が、25~40℃の温度で、pH4.0~9.0で、少なくとも4時間の時間をかけて、撹拌下に保つことにより、空気の送入下で行われる請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記エピマー化(iii)が、前記ガラクトース1モルに対して0.1~1.0のモル比の水酸化カルシウムの添加により行われ、前記エピマー化(iii)が、0~30℃の温度で、少なくとも10分の時間をかけて、撹拌下に維持して行われ、最後に、前記エピマー化反応(iii)が、水中の30~50%硫酸を加えて中和され、前記酸で中和した後、懸濁液が遠心分離され、沈殿した硫酸カルシウムと、前記脱グルコース化工程で残留した酵母が分離される請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
機能性食品、医療用食品、スポーツドリンク、フルーツジュース、ヨーグルト、食品サプリメントの調製における、及び製菓製パン業界のベーカリー製品の調製における請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甘味料及びプレバイオティクスの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
タガトースは、フルクトースの異性体であるヘキソースケトン単糖である。タガトースは、加熱すると乳製品に少量含まれる希少な糖である。
【0003】
ショ糖(スクロース)の92%の甘味度を持つにもかかわらず、カロリー摂取量が少なく(38%)、齲蝕原性ではなく、それゆえ、一般的な食卓用の砂糖に代わる甘味料として、製菓製パン業界のベーカリー製品の調製にも使用されている。
【0004】
タガトースは、グリコーゲンのグルコースの転移を担う酵素であるグルコキナーゼの活性を高めることにより食後の血糖値をコントロールしようとするため、抗高血糖作用を有する。タガトースは、腸内で炭水化物の分解に関与するいくつかの酵素を阻害し、炭水化物の吸収を減少させる効果も有する。
【0005】
タガトースの摂取によって引き起こされるグリセミック指数の低下の効果については、研究が行われている(Mark Ensorら、「Effect of Three Low-Doses of D-Tagatose on Glycemic control Over Six Months in Subjects with Mild Type 2 Diabetes Mellitus with Diet and Exercise」、J Endocrinol Diabetes Obes. 2014年10月;2(4):1057)。
【0006】
従って、タガトースは、臨床試験が実施されている2型糖尿病の治療に有用である(ClinicanTrials.gov、NCT00955747、最初の公開日:2009年8月10日)。
【0007】
しかしながら、結晶状のタガトースを甘味料やプレバイオティクスとして食品、スポーツドリンク等に使用することは、他の合成分子や抽出分子と比較して競争力が低いことが多い製品のコスト面から阻まれている。
【0008】
ガラクトースは、グルコースのエピマーである単糖である。ガラクトースは、体内では少量しか生成されず、そのほとんどは、主に、酵素ラクターゼによってグルコースとガラクトースに分解されるラクトース(乳糖)二糖を含有する牛乳や乳製品を摂取することにより食事と共に導入される。
【0009】
ラクトースは、成長期の生物であり利用できる効率的なエネルギー源を持つ必要がある乳児の哺乳(給餌)に最も多く含まれる糖であり、さらには、ラクトースから得られるガラクトースがミエリン形成の過程に関与しているという実験的証拠がある(Ravera S、Bartolucci M、Cazia D、Morelli A、Panfoli I、「Galactose and Hexose 6-Posphate Dehydrogenase Support the Myelin Metabolic Role」、PARIPEX Indian journal of research 2015、4(9) 21-24頁)。
【0010】
ガラクトースの中枢神経系への好影響については、例えばアルツハイマー病等の変性疾患の治療を目的として様々な研究が行われている(「Therapeutic effect of oral galactose treatment in rat model of sporadic Alzheimer’s」Alzheimer’s & Dementia- The Journal of the Alzheimer’s Association disease、2014年7月、第10巻、第4号、補遺、P464頁)。
【0011】
ガラクトース及び抗酸化物質の摂取は、とりわけ発症初期の多発性硬化症の治療にも有用である可能性があるという実験的証拠がある(Isabella Pandolfiら、「Missed evolution of demyelinizing brain during supplementation with natural compounds: A case report」、Medical Research Archives、第4巻、第1号、2016年4月)。
【0012】
ガラクトースを食品サプリメントとして、先天性糖鎖形成障害の治療(ClinicanTrials.gov、NCT02955264、最初の公開日:2016年11月4日)及び2型糖尿病の治療(ClinicanTrials.gov、NCT01776099、最初の公開日:2013年1月25日)に使用するための臨床試験が行われている。
【0013】
ラクトースに対する加水分解活性を有することに加えて、ガラクトース単位を可変的な数でラクトースに付加する合成作用も持つ酵素ラクターゼ(β-ガラクトシダーゼ)の作用により生成されるガラクトオリゴ糖等のオリゴ糖、健康に対する多くの有益な特性が今では知られている。
【0014】
ガラクトオリゴ糖は、腸内の微生物(主にビフィズス菌)の増殖を促進するプロバイオティクス効果を有し、いくつかの研究によると、ガラクトオリゴ糖は、潜在的な病原性微生物の増殖を阻害する可能性があるとされている(Daniele Garridoら、「Utilization of galactooligosaccharides by bifidobacterium longum subsp. Infantis isolates」、Food Microbiol 2013年4月、33(2);262-270)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【文献】Mark Ensorら、「Effect of Three Low-Doses of D-Tagatose on Glycemic control Over Six Months in Subjects with Mild Type 2 Diabetes Mellitus with Diet and Exercise」、J Endocrinol Diabetes Obes. 2014年10月;2(4):1057
【文献】ClinicanTrials.gov、NCT00955747、最初の公開日:2009年8月10日
【文献】Ravera S、Bartolucci M、Cazia D、Morelli A、Panfoli I、「Galactose and Hexose 6-Posphate Dehydrogenase Support the Myelin Metabolic Role」、PARIPEX Indian journal of research 2015、4(9) 21-24頁
【文献】「Therapeutic effect of oral galactose treatment in rat model of sporadic Alzheimer’s」Alzheimer’s & Dementia- The Journal of the Alzheimer’s Association disease、2014年7月、第10巻、第4号、補遺、P464頁
【文献】Isabella Pandolfiら、「Missed evolution of demyelinizing brain during supplementation with natural compounds: A case report」、Medical Research Archives、第4巻、第1号、2016年4月
【文献】ClinicanTrials.gov、NCT02955264、最初の公開日:2016年11月4日
【文献】ClinicanTrials.gov、NCT01776099、最初の公開日:2013年1月25日
【文献】Daniele Garridoら、「 Utilization of galactooligosaccharides by bifidobacterium longum subsp. Infantis isolates」、Food Microbiol 2013年4月、33(2);262-270
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、タガトース及びガラクトースをベースにしたシロップ、並びにその調製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、以下を含む組成物であって、
タガトース 40~50%
ガラクトース 30~40%
オリゴ糖(GLT) 7~10%
グリセロール 4~10%
他の糖類 2~8%
ラクトース 1%以下
ラクツロース 1%以下
タガトース/ガラクトース比が1.0~1.6に等しく、上記%は乾燥組成物に対する重量によるものであり、当該組成物は、58~62°ブリックスの検糖分析濃度のシロップの形態である組成物によって上述の課題を解決する。
【0018】
それゆえ、本発明の目的は、タガトース及びガラクトースを主成分とし、少量のグリセロール、オリゴ糖、その他の糖類等の他の二次生成物を伴うシロップである。本発明の組成物は、タガトースの結晶化(これは必然的に結晶化母液中の製品の損失につながる)の経由を回避することを可能にするだけでなく、最終的なコストの利益のために、生産性の向上を伴う生産時間の短縮を可能にする。
【0019】
それゆえ、シロップの形態の当該組成物の利点は明らかであるが、しかしながら、糖入りシロップの問題点の1つは、糖入りシロップが純度や保存条件によっては結晶化しやすいということであるが、当該組成物の場合、驚くべきことに、タガトースとガラクトースの比が1.0~1.6であることで、この結晶化が起こることを防ぐことができ、商業的な観点や製品の使用上、間違いなく有利であるということを強調しておきたい。
【0020】
しかし、本発明の組成物は、タガトースを摂取できるだけでなく、ガラクトース及びガラクトオリゴ糖等の他の物質を食事に取り入れることも可能にし、これらの物質は前述の理由から相乗的に作用することができ、健康にプラスの効果をもたらす。本発明のシロップは、タガトース及びガラクトースの有益な効果により、機能性食品、医療用食品、スポーツドリンク、フルーツジュース、ヨーグルト、食品サプリメントの調製において、及び製菓製パン業界において使用することができる。
【0021】
本発明の目的は、前述のシロップを調製するための方法であって、
i. ラクトースをラクターゼ酵素による酵素加水分解に供して、グルコース及びガラクトースを含む混合物を得る工程と、
ii. 上記グルコース及びガラクトースを含む混合物を、少なくとも1種の食品用酵母と接触させて、脱グルコース化を行い、脱グルコース化混合物を得る工程と、
iii. 上記脱グルコース化混合物をアルカリエピマー化に供して、上記ガラクトースのタガトースへのエピマー化を行い、エピマー化混合物を得る工程と、
iv. 上記エピマー化混合物を、少なくとも1種のイオン交換樹脂脂と接触させて脱イオン化を行い、脱イオン化混合物を得る工程と、
v. 任意に、上記脱イオン化混合物をナノ濾過に供して、ナノ濾過済み混合物を得る工程と、
vi. 任意に、上記脱イオン化混合物、又は任意に上記ナノ濾過済み混合物を、逆浸透に供して、浸透圧残余分を得る工程と、
vii. 上記脱イオン化混合物、又は任意に上記ナノ濾過済み混合物、又は任意に上記浸透圧残余分を、セラミック限外濾過に供して、限外濾過済み混合物を得る工程と、
viii. 上記限外濾過済み混合物を58~62°ブリックスまでの濃縮に供して、上記シロップを得る工程と
を備える方法でもある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る組成物のスルホン酸カラムでのHPLCクロマトグラムの例。
図2】本発明に係る組成物のアミンカラムでのHPLCクロマトグラムの例。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のシロップは、好ましくは1.1~1.5、より好ましくは1.2~1.4に等しいタガトース/ガラクトース比を有する。
【0024】
本発明のシロップは、好ましくは、59~61°ブリックスの検糖分析濃度(糖度)を有する。
【0025】
本発明のシロップは、好ましくは3.0~3.5のpHを有する。
【0026】
好ましくは、本発明の組成物は、
タガトース 43~47%
ガラクトース 30~36%
オリゴ糖(GLT) 7~10%
グリセロール 8~10%
他の糖類 2~5%
ラクトース 1%以下
ラクツロース 1%以下
を含む。
【0027】
本発明の方法によれば、原料は好ましくは結晶形のラクトース一水和物である。あるいは、例えばホエイ(乳清)等の他のラクトースの供給源も使用することができる。
【0028】
ラクトースの酵素加水分解(i)は、様々な由来の市販のラクターゼ酵素を用いて行われる。例えば、好ましくは、クルイベロマイセス・ラクティス(K.Lactis)、クルイベロマイセス・フラギリス(K.Fragilis)、アスペルギルス・オリゼ(ニホンコウジカビ、A.oryzae)、アスペルギルス・ニガー(クロコウジカビ、A.niger)、大腸菌(エシェリキア・コリ、E.coli)、バチルス・ステアロサーモフィルス(B.stearothermophilus)、バチルス・サーキュランス(B.circulans)からのものであり、本発明ではより好ましくはアスペルギルス・オリゼからの酵素が使用される。
【0029】
ラクターゼ酵素は、遊離の状態でも、各種固体担体に固定化した状態でも使用することができ、例えば、好ましくは合成樹脂、アルギン酸ビーズ、合成膜、綿繊維等に固定化したものであり、本発明では好ましくはポリスチレン合成樹脂に固定化した酵素が使用され、より好ましくは国際公開第2014006606号パンフレットに記載されているような固定化酵素が使用される。
【0030】
ラクトースの酵素加水分解(i)反応は、5~60℃、好ましくは52℃の温度で、4.0~9.0、好ましくは5.1~5.5のpHで、ラクトース溶液をカラムに再循環させながら、1~48時間、好ましくは20時間の時間をかけて行われる。
【0031】
本発明によれば、グルコース及びガラクトースに加水分解されるラクトースを含む溶液は、グルコース濃度≦0.25%が得られるまで、食品用酵母、好ましくは凍結乾燥したビール酵母(サッカロマイセス・セレビシエ、S cerevisiae)を添加することにより、脱グルコース化工程(ii)に供される。脱グルコース化は、25~40℃、好ましくは30~37℃、より好ましくは35℃の温度で、4.0~9.0、好ましくは6.0~7.0のpHで、少なくとも4時間の時間をかけて、撹拌下に保つことにより、空気の送入下で行われることが好ましい。
【0032】
脱グルコース化溶液中に存在するガラクトースは、例えば、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は水酸化カルシウム等のアルカリ性物質の添加により、エピマー化(iii)によってタガトースに変換され、より好ましくは本発明によれば水酸化カルシウムが使用される。アルカリ性物質は、ガラクトース1モルに対してアルカリ性物質0.1~1.0、好ましくは0.4~0.8、より好ましくは0.6のモル比で使用されるのが好ましい。エピマー化(iii)は、好ましくは0~30℃、好ましくは5~25℃、より好ましくは10~20℃の温度で、少なくとも10分、好ましくは4時間の時間をかけて、撹拌下に維持して行われる。
【0033】
最後に、エピマー化反応(iii)が、塩酸、リン酸、硫酸からなる群から好ましく選択される酸を加えて中和され、より好ましくは水中の30~50%の硫酸が使用される。酸で中和した後、好ましくは懸濁液は遠心分離され、沈殿した硫酸カルシウムと、脱グルコース化工程で残留した酵母が分離される。
【0034】
中和及び遠心分離の後に得られた溶液は、一対のイオン交換樹脂、好ましくは強カチオン性樹脂(例えばRohm and Haas Amberlite(商標)200 C、Rohm and Haas Amberlite(商標)IR120、Rohm and Haas Amberlite(商標)FPC 23及びDowex(商標) Monosphere(商標) 88等)の後に弱アニオン性樹脂(例えばDow(登録商標) Amberlite(商標) FPA 55、Dowex(商標) Monosphere(商標) 66、Rohm and Haas Amberlite(商標)IRA 96、Purolite(登録商標) A 120S及びPurolite(登録商標) A 109等)を通過させることにより脱イオン化される(iv)。
【0035】
脱イオン化混合物は、任意に、しかし好ましくは、二量体から上のオリゴマー成分を少なくとも部分的に除去するために、次にナノ濾過(v)に供されることができる。このナノ濾過は、好ましくは、例えばDow Filmtec(商標) NF270-4040、Koch Membrane System TFC-SR2又は類似物からなる群から選択されたスパイラル膜上で行われ、透過物が回収され、この透過物は、次いで、任意に、しかし好ましくは、グリセロールを少なくとも部分的に除去するために、例えば好ましくはEs.Dow Filmtec(商標) BW30-4040からなる群から選択された逆浸透膜上で逆浸透処理(vi)に供される。
【0036】
本発明によれば、逆浸透工程(vi)で得られた残余分は、好ましくは300000Daカットオフのセラミック膜で限外濾過(vii)して清澄化され、濃縮(viii)に供される透過物が回収される。好ましくは有機酸を添加してpHを3.0~3.5の値に補正した後、このシロップは、検糖分析濃度60±2°Bxのシロップが得られるまで濃縮される。上記有機酸は、クエン酸、乳酸、酢酸からなる群から選択されるのが好ましい。好ましくは、pHを補正するために使用される有機酸はクエン酸であり、より好ましくは、40~60重量%のクエン酸の水溶液である。
【0037】
本発明は、以下の実施形態例を考慮すると、よりよく理解することができる。
【実施例
【0038】
実験の部
HPLC方法:
恒温セル付き屈折率検出器を備えたPerkin Elmer(パーキンエルマー) 200シリーズクロマトグラフ。
【0039】
スルホン酸カラムでの分析:プレカラム付きのTransgenomic ICE-SEP ION 300カラム。温度45℃、流量0.4ml/分、溶離液 硫酸0.015N。
【0040】
アミンカラムでの分析:Thermo Scientific(商標) Hypersil(商標) APS-2。温度40℃、流量1.1ml/分、移動相=アセトニトリル+リン酸二水素ナトリウム二水和物1.45g/L。
【0041】
例1:工業的規模でのラクトースの酵素加水分解及び脱グルコース化溶液の入手
a)合成樹脂に固定化された酵素の調製
恒温装置を備えた10mの鋼鉄製ジャケット付き反応器に、750リットルのPurolite A 120 S樹脂を投入した。この樹脂を、毎回750リットルの量の飲料水で3回洗浄した。480リットルのpH5の100mM酢酸ナトリウム溶液及び55Kgの50%グルタルアルデヒド溶液を加えた。この全体を25℃で30時間撹拌した後、上記樹脂を毎回1000リットルの量の飲料水で3回洗浄した。pH5の100mM酢酸ナトリウム溶液2000リットル、及びアスペルギルス・オリゼ由来のラクターゼ酵素30kgを加えた。この全体を25℃で65時間撹拌し続けた。この時間が経過した後、この樹脂を毎回2000リットルの量の飲料水で3回洗浄した。
【0042】
b)ラクトースの酵素加水分解:
撹拌装置及び恒温ジャケットを備えた10mの鋼鉄製反応器の中で、2000kgの結晶形のラクトース一水和物を8000リットルの飲料水に溶解させた。反応器の内部温度を53℃にし、38%の硫酸を加えてpHを5.39にした。
【0043】
上記ラクトース溶液を、600リットルの樹脂(例1aで上述したようにラクターゼ酵素を固定化したもの)を含むカラムに、2400リットル/時間の流量で20時間再循環させた。
【0044】
スルホン酸カラムでの分析結果:
【表1】
【0045】
この時間が経過した後、グルコース及びガラクトースを含む溶液を、撹拌装置及び空気送入システムを備えた20mの鋼鉄製のジャケット付き反応器に移す。温度を35℃にして、凍結乾燥したビール酵母12kgと消泡剤(Silifood 1600)100mlを上記溶液に加えた。
【0046】
全体を35±2℃で空気を送り込みながら10時間撹拌した。この時間が経過した後、9リットルの30%水酸化ナトリウムを加えてpHを6.8に戻した。pH補正の終了時に、凍結乾燥したビール酵母10kgを反応器に導入し、空気を吹き込みながらさらに10時間撹拌して発酵させた。この時間が経過した後、15リットルの30%水酸化ナトリウムを加えてpHを6.6に調整し、10kgの凍結乾燥したビール酵母を導入した。さらに15時間経過した後、得られた脱グルコース化溶液を約5℃まで冷却した。
【0047】
スルホン酸カラムでの分析結果:
【表2】
【0048】
例2:例1の脱グルコース化溶液から出発する、ガラクトースモル数に対して50%モルの水酸化カルシウムを用いた40℃での実験室規模のエピマー化
例1に従って調製した脱グルコース化ガラクトース溶液250gを、恒温に保たれ撹拌棒を備えた1リットルのガラス製反応器に導入し、4.16gの水酸化カルシウム(消石灰)を加えて、全体を40℃の温度で撹拌下に維持した。
【0049】
120分、240分、360分後にスルホン酸カラムでのHPLC分析のためにサンプルを採取した。
【0050】
結果を下記表に示す。
【表3】
【0051】
例3:例1の脱グルコース溶液から出発する、ガラクトースモル数に対して60%モルの水酸化カルシウムを用いた40℃での実験室規模のエピマー化
例1に従って調製した脱グルコース化ガラクトース溶液250gを、恒温に保たれ撹拌棒を備えた1リットルのガラス反応器に導入し、5.0gの水酸化カルシウム(消石灰)を加えて、全体を40℃の温度で撹拌下に維持した。
【0052】
120分、240分、360分後にスルホン酸カラムでのHPLC分析のためにサンプルを採取した。
【0053】
結果を下記表に示す。
【表4】
【0054】
例4:例1の脱グルコース化溶液から出発する、ガラクトースモル数に対して50%モルの水酸化カルシウムを用いた30℃での実験室規模のエピマー化
例1に従って調製した脱グルコース化ガラクトース溶液250gを、恒温に保たれ撹拌棒を備えた1リットルのガラス反応器に導入し、4.16gの水酸化カルシウム(消石灰)を加えて、全体を30℃の温度で撹拌下に維持した。
【0055】
120分、280分、350分後にスルホン酸カラムでのHPLC分析のためにサンプルを採取した。
【0056】
結果を下記表に示す。
【表5】
【0057】
例5:例1の脱グルコース化溶液から出発する、ガラクトースモル数に対して60%モルの水酸化カルシウムを用いた30℃での実験室規模のエピマー化
例1に従って調製した脱グルコース化ガラクトース溶液250gを、恒温に保たれ撹拌棒を備えた1リットルのガラス反応器に導入し、5.0gの水酸化カルシウム(消石灰)を加えて、全体を30℃の温度で撹拌下に維持した。
【0058】
120分、280分、350分後にスルホン酸カラムでのHPLC分析のためにサンプルを採取した。
【0059】
結果を下記表に示す。
【表6】
【0060】
例6:例1の脱グルコース化溶液から出発する、ガラクトースモル数に対して50%モルの水酸化カルシウムを用いた25℃で実験室規模のエピマー化
例1に従って調製した脱グルコース化ガラクトース溶液250gを、恒温に保たれ撹拌棒を備えた1リットルのガラス反応器に導入し、4.16gの水酸化カルシウム(消石灰)を加えて、全体を25℃の温度で撹拌下に維持した。
【0061】
120分、280分、350分、470分、590分、710分、790分後にスルホン酸カラムでのHPLC分析のためにサンプルを採取した。
【0062】
結果を下記表に示す。
【表7】
【0063】
例7:例1の脱グルコース溶液から出発する、ガラクトースモルに対して60%モルの水酸化カルシウムを用いた25℃での実験室規模のエピマー化
例1に従って調製した脱グルコース化ガラクトース溶液250gを、恒温に保たれ撹拌棒を備えた1リットルのガラス反応器に導入し、5.0gの水酸化カルシウム(消石灰)を加えて、全体を25℃の温度で撹拌下に維持した。
【0064】
120分後、280分後、350分後、470分後、590分後、710分、790分後にスルホン酸カラムでのHPLC分析のためにサンプルを採取した。
【0065】
結果を下記表に示す。
【表8】
【0066】
例8:例1の脱グルコース化溶液から出発する、工業的規模でのタガトース/ガラクトースシロップの入手
アルカリ性エピマー化:
例1に従って調製した脱グルコース化ガラクトース溶液9100kgを、撹拌装置及び恒温ジャケットを備えた10mの鋼鉄製反応器に導入した。水酸化カルシウム192.4Kgを飲料水の30%懸濁液として添加した(水酸化カルシウムの量は、ガラクトースに対するモル比が60%になるようにした)。添加後、撹拌しながら4時間、温度を15±5℃に保った。この時間が経過した後、温度を45℃以下に保ちながら、590リットルの38%硫酸を添加して、懸濁液のpHを2.5にした。その後、温度を25℃に下げ、350rpmで25分間の遠心分離を8回行い、沈殿した硫酸カルシウムを分離した。
【0067】
スルホン酸カラムでの分析結果:
【表9】
【0068】
イオン交換樹脂での脱イオン化:
前の遠心分離工程で得られた溶液を、一対のイオン交換樹脂(4000リットルの強カチオン性樹脂Amberlite(商標) FPC 23及び4000リットルの弱アニオン性樹脂Amberlite(商標) FPA 55)上で、2000リットル/時間の流量で脱イオン化し、樹脂からの溶出物を糖濃度≧0.5°Bx、導電率≦50μs/cmまで回収した。
【0069】
ナノ濾過:
上記脱イオン化溶液を、次に12枚の膜(DOW(登録商標) FILMTECH(商標) NF 270 40/40)で構成されたシステムを用いた、約30barの圧力でのナノ濾過工程に供した。
【0070】
逆浸透:
上記ナノ濾過の透過物を、12枚の膜(DOW(登録商標) FILMTECH(商標) BW30-400)で構成されたシステムを用いた、約10barの圧力での逆浸透工程に供し、残余分を糖濃度10°Bxまで濃縮した。
【0071】
セラミック限外濾過:
濃縮された溶液を、300000Daのc.o.セラミック膜を用いる、2000リットル/時間の透過流量及び9000リットル/時間の残余分再循環量での接線流限外濾過(タンジェンシャル限外濾過)工程により清澄化した。残余分を約300リットルまで濃縮し、毎回150リットルの飲料水で3回洗浄した。
【0072】
濃縮:
前の限外濾過工程からの清澄な透過物を、撹拌装置、恒温ジャケット、冷却器を備えた5000リットルの鋼鉄製反応器に移した。
【0073】
1.6リットルの50%クエン酸水溶液を加えてpHを3.0にし、この溶液を真空下で約50℃の温度で60°Bxの検糖分析濃度になるまで濃縮した。
【0074】
結果:
上記プロセスの最後に得られたシロップを、スルホン酸カラム及びアミンカラムの両方で分析した。アミンカラムはラクトース含有量の測定のためであった(図1及び図2のHPLCトレースも参照)。結果を下記表に示す。
【0075】
【表10】
図1
図2