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特許7462622ポリアミド及び/又はアミドワックスを含む水性分散体で、少なくとも1つのベースコートを後添加することによる、マルチコート塗装システムの生成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】ポリアミド及び/又はアミドワックスを含む水性分散体で、少なくとも1つのベースコートを後添加することによる、マルチコート塗装システムの生成方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20240329BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20240329BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240329BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240329BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240329BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240329BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20240329BHJP
   C09D 133/08 20060101ALI20240329BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20240329BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B05D1/36 B
B05D1/36 Z
B05D3/12 Z
B05D7/24 302E
B05D7/24 303E
C09D5/00 D
C09D5/02
C09D7/63
C09D7/65
C09D133/08
C09D167/00
C09D175/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021520215
(86)(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 EP2019076387
(87)【国際公開番号】W WO2020074297
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-09-28
(31)【優先権主張番号】18200046.3
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】アイアーホフ,ディルク
(72)【発明者】
【氏名】シュヴァルツ,イェルク
(72)【発明者】
【氏名】ヘルヴィヒ,ジルケ
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-531085(JP,A)
【文献】特表2015-504471(JP,A)
【文献】国際公開第2017/099180(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/140380(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/172476(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00- 7/26
B32B 1/00- 43/00
C09D 1/00- 10/00
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(S)上にマルチコート塗装システム(M)を製造する方法であって、前記方法は、
(1)組成物(Z1)を前記基材(S)に塗布し、続いて前記組成物(Z1)を硬化させることにより、前記基材(S)上に硬化した第1コート(S1)を任意に生成することと、
(2)前記第1コート(S1)に水性ベースコート材料(bL2a)を直接塗布することにより、又は前記第1コート(S1)に2つ以上の水性ベースコート材料(bL2-x)を直接連続塗布することにより、前記第1コート(S1)上に直接ベースコート(BL2a)又は2つ以上の直接連続のベースコート(BL2-x)を生成することと、
(3)前記ベースコート(BL2a)上又は最上部の前記ベースコート(BL2-z)上にクリアコート材料(kL)を直接塗布することにより、前記ベースコート(BL2a)上又は前記最上部のベースコート(BL2-z)上に直接クリアコート(K)を生成することと、
(4)前記ベースコート(BL2a)と前記クリアコート(K)、又は前記ベースコート(BL2-x)と前記クリアコート(K)を共同で硬化させることと、
を含み、
前記少なくとも1つのベースコート材料(bL2a)又は前記ベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つは、塗布の直前に、
- 15~60mgKOH/gの酸価を有する少なくとも1つのポリアミド(PA)を含む水性分散体(D1)、又は
- 少なくとも1つのポリアミド(PA)と少なくとも1つのアミドワックス(AW)を含む水性分散体(D2
のいずれかと混合され、
前記水性分散体(D1)が、前記水性分散体(D1)の総質量に基づいて、21~25質量%の固形分を有し、そして、
前記水性分散体(D2)が、前記水性分散体(D2)の総質量に基づいて、10~15質量%の固形分を有する、方法。
【請求項2】
前記基材(S)は、金属基材、プラスチック、及びそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1コート(S1)に水性ベースコート材料(BL2-a)を直接塗布し、前記第1ベースコート(BL2-a)にさらなる水性ベースコート材料(bL2-z)を直接続いて塗布することにより、硬化した前記第1コート(S1)上に2つの直接連続したベースコート(BL2-a)及び(BL2-z)を生成する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ベースコート材料(bL2a)又は前記ベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つが一成分コーティング組成物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ベースコート材料(bL2a)又は前記ベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つが、ヒドロキシ官能性ポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリレート、及びこれらのポリマーのコポリマーの群から選択される少なくとも1つのポリマーをバインダーとして含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ベースコート材料(bL2a)又は前記ベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つが、少なくとも1つの色及び/又は効果顔料を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ベースコート材料(bL2a)又は前記ベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つが、架橋剤として少なくとも1つのメラミン樹脂を含んでいる、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記水性分散体(D1)及び(D2)中の少なくとも1つのポリアミド(PA)が、
- 2~34個の炭素原子を有するジアミンと
- 前記ジアミンに基づいて、4~36個の炭素原子を有するジカルボン酸、又は4~36個の炭素原子を有するジカルボン酸と2~22個の炭素原子を有するモノカルボン酸の混合物のモル過剰量と、
の反応生成物である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記分散体(D1)及び(D2)中の少なくとも1つのポリアミド(PA)は、塩基によって80%~100%の範囲で中和される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記水性分散体(D1)中の前記少なくとも1つのポリアミド(PA)が、20~50mgKOH/gの酸価を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記水性分散体(D2)中の前記少なくとも1つのアミドワックス(AW)は、
- 2~22個の炭素原子を有するモノカルボン酸、及び
- 2~12個の炭素原子を有するジアミン、及び/又は2~22の炭素原子を有するモノアミン、
の反応生成物である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記水性分散体(D2)は、95:5から40:60の前記ポリアミド(PA)と前記アミドワックス(AW)の質量比を有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記水性分散体(D1)又は(D2)は、前記第1コート(S1)に直接塗布される前記ベースコート材料(bL2a)に添加される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
共同硬化(4)は、100~250℃の温度で、5~60分の時間で行われる、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベースコート又は第1コートでコーティングされた基材上に複数の直接連続するベースコートを生成し、前記1つのベースコートの上に又は前記複数のベースコートの最上部に直接クリアコートを生成し、その後、前記1つのベースコート又は前記複数のベースコート及び前記クリアコートを共同で硬化させることによって、マルチコート塗装システムを生成する方法に関する。ベースコート材料の少なくとも1つは、塗布前に、15から60mgKOH/gの酸価を有するポリアミド(PA)を含む水性分散体(D1)、又はポリアミド(PA)とアミドワックス(AW)を含む水性分散体(D2)のいずれかと直接混合されている。
【背景技術】
【0002】
基材上のマルチコート塗装システム、例えば、自動車産業分野におけるマルチコート塗装システムが知られている。概念的には、このようなマルチコート塗装システムは、一般に、基材から出発して、第1のコート、具体的にはエレクトロコートと、エレクトロコートに直接塗布され、一般にプライマーサーフェーサーコートと呼ばれるコートと、色及び/又は効果顔料を含み、一般にベースコートと呼ばれる少なくとも1つのコートと、及び、クリアコートとを含む。
【0003】
上述のコートの基本的な組成物及び機能、及び、これらのコーティングの構造に必要なコーティング組成物、即ち、エレクトロコート材料と、プライマーサーフェーサーと、色及び/又は効果顔料を含みベースコート材料として知られるコーティング組成物と、及び、クリアコート材料とは知られている。例えば、電気泳動的に塗布されたエレクトロコートは、基本的に腐食から基材を保護する機能を果たす。プライマーサーフェーサーコートは、主に、例えば石のチッピングなどの機械的曝露に対して保護し、また、基材の凹凸を平らにするように機能する。ベースコートと呼ばれる次のコートは、主に、色などの審美的品質及び/又はフロップ性などの効果を生成することに対応し、一方、続くクリアコートは、特に耐スクラッチ性、及びまた、マルチコート塗装システムの部分の光沢の用に供する。
【0004】
先行技術において、これらのマルチコート塗装システムは、最初に、第1コート、より具体的にはカソード性エレクトロコート材料を、例えば自動車の車体である基材上に電気泳動的に塗布又は堆積させることによって生成される。基材は、エレクトロコート材料が堆積される前に、様々な前処理を受けてもよい:例えば、リン酸塩コート、より具体的にはリン酸亜鉛コートのような既知の化成コートが適用されてよい。エレクトロコート材料を堆積させる操作は、一般に、対応するエレクトロコートタンク内で行われる。塗布に続いて、コーティングされた基材は、タンクから取り出され、任意にリンス及びフラッシング及び/又は中間乾燥され、最後に、塗布されたエレクトロコート材料が硬化される。ここでの目標は、約15から25マイクロメートルのコート厚さである。プライマーサーフェーサーが次いで、硬化したエレクトロコートに直接塗布され、任意にフラッシング及び/又は中間乾燥され、その後硬化される。硬化したプライマーサーフェーサーコートが上記で特定した機能を果たせるようにするためには、例えば、25から45マイクロメートルのコート厚さが目標である。次に、硬化したプライマーサーフェーサーコートの直上に、色及び/又は効果顔料を含むベースコートが塗布され、これは任意にフラッシング及び/又は中間乾燥され、そして、クリアコート材料が、別個の硬化を行わずに、このようにして生成されたベースコートに直接塗布される。ベースコートとクリアコートは、任意に同様にフラッシング及び/又は事前に中間乾燥され、その後、共同に硬化される(ウェット・オン・ウェット法)。硬化したベースコートは、原則として、例えば10から20マイクロメートルの比較的薄い膜厚を有しているのに対して、硬化したクリアコートの膜厚の目標は、記載した技術的な塗布特性を達成するために、例えば、30から60マイクロメートルである。プライマーサーフェーサー、ベースコート、及びクリアコート材料の塗布は、当業者に知られている、例えば空気圧及び/又は静電スプレー塗布の塗布技術を用いて行うことができる。プライマーサーフェーサー及びベースコート材料は、今日では、単に環境上の理由から、ますます水性コーティング材料の形態で使用されている。
【0005】
この種のマルチコート塗装システム及びその生成方法は、例えば、DE19948004 A1の17頁37行目から19頁22行目まで、又はその他DE10043405C1の第3カラム段落[0018]、及び、第6カラム段落[0039]から第8カラム段落[0050]に関連して、第8カラム段落[0052]から第9カラム段落[0057]に記載されている。
【0006】
このようにして生成されたマルチコート塗装システムは、一般に、技術的な塗布の特性や審美的プロファイルの点で自動車産業によって課される要求を満たすことができるが、今日の自動車メーカーの焦点は、環境的及び経済的な要因から、比較的複雑な生成工程の簡素化により重きを置くようになっている。
【0007】
したがって、硬化したエレクトロコートに直接塗布されるコーティング組成物(すなわち、上述の標準的な方法においてプライマーサーフェーサーと呼ばれるコーティング組成物)を別工程を要することなく硬化させ、同時に、可能であれば、このコーティング組成物から生成されるコーティング膜の膜厚を薄くしようとするアプローチが存在する。当技術分野では、それゆえに個別に硬化されないこのコーティング膜は、しばしばベースコート(もはやプライマーサーフェーサーコートではない)と呼ばれ、又は、その上に塗布された第2ベースコート膜と区別するために、第1ベースコート膜と呼ばれる。場合によっては、完全にこのコーティング膜なしに行う試みもされている(その場合は、単にいわゆるベースコート膜がエレクトロコート膜上に直接生成され、別個の硬化工程なしで、その上にクリアコート材料が塗布され;換言すれば、最終的に、別個の硬化工程も同様に省略される)。別個の硬化工程と追加の最終硬化工程の代わりに、したがって、意図するところは、エレクトロコート膜に塗布されたすべてのコーティング膜の塗布に続いて、単に1つの最終硬化工程を有することにある。
【0008】
エレクトロコートに直接塗布されたコーティング組成物の別個の硬化工程を回避することは、環境的及び経済的側面から非常に有利である。その理由は、エネルギーを節約し、もちろん、生成工程全体を大幅に少ない厳密さで作業を進めることができるからである。
【0009】
別個の硬化工程の代わりに、エレクトロコート上に直接生成されるコーティングが、既知のように通常は高い硬化温度及び/又は長い硬化時間を必要とする硬化を実行されることなく、単に室温でフラッシングされ及び/又は高温で中間乾燥に曝されることは有利である。
【0010】
しかし、1つの問題は、この生成方式では、今日必要な技術的な塗布の特性及び審美的特性を得ることができない場合が多いということである。
【0011】
例えば、例として第2ベースコート材料及びクリアコート材料などの更なるコーティング組成物を塗布する前の、例えば第1ベースコートなどのエレクトロコートに直接塗布されるコーティングの別個の硬化がない結果として、空気、溶剤及び/又は水分の不要な混入物が存在する可能性があり、それは、全体の塗装システムの表面の下に気泡の形で現れる可能性があり、最終的な硬化の間に開裂する可能性がある。この結果として塗装システムに形成される穴は、ピンホールやポップとも呼ばれ、有害な外観をもたらす。第1ベースコート、第2ベースコート、及びクリアコートの全体的な構造の結果として発生する有機溶剤及び/又は水の量、及びまた、塗布方法によって導入される空気の量が、最終硬化工程内に欠陥を生じることなくマルチコート塗装システムから抜け出ることができる全量に対して多すぎる。
【0012】
第1コート(プライマーサーフェーサー又は第1ベースコート)に直接塗布されたベースコートが、コーティング操作の終了後に第1層からスランプすることがさらに起こり得る。当業者には滑りとしても知られるこのスランプ結果は、特に以下の場合に発生する。
- 第1ベースコートの膜厚が厚い、又は
- 第2ベースコートが、例えば、高吐出量及び/又は低回転速度で、湿式で塗布される、又は
- 第1と第2ベースコートの塗布間のフラッシュオフ時間が小さい、又は
- 第1と第2ベースコートの極性の違いが大きい、又は
- 第1ベースコート材料の安定性が、経年劣化、保管、剪断の結果により、低下している。
【0013】
通常は比較的薄いベースコート(そのため空気、有機溶剤及び/又は水の含有量が比較的少ない)を生成する前に、プライマーサーフェーサーコートが別個に焼成される上述したような従来の生成方法の場合、この問題の解決は、当然のことながらはるかに要求が少ない。
【0014】
しかし、ピンホール、ポップ、スランプに関して記載された問題は、標準的な操作でプライマーサーフェーサーとして特定されるコーティング組成物の使用が完全に放棄されているマルチコート塗装システム、換言すれば、したがって、硬化した第1コートにベースコート材料のみが直接塗布されるマルチコート塗装システムの生成においても頻繁に発生する。その理由は、生成されるマルチコート塗装システムの用途や使用によるが、標準的な操作においてプライマーサーフェーサーコートと呼ばれるコーティングが完全にない場合、ベースコートの厚さが、所望の特性を得るための標準的なシステムのそれよりも、一般的に大きいことである。この場合も同様に、したがって、最終的な硬化工程で硬化されなければならないコーティング膜の全体的な膜厚は、標準的な操作の場合よりも実質的に厚い。
【0015】
上記の方法でマルチコート塗装システムを構築する場合、他の関連する特性も同様に、必ずしも満足に達成されるとは限らない。例えば、コーティング組成物が使用される部分の効果的なレベリングによって影響される高品位な全体的な外観の達成が課題となる。ここで、コーティング組成物のレオロジー特性は、記載されている操作レジームに合わせてカスタマイズされる必要がある。同様のコメントは、ランに対する適切な安定性の保持に関連しても適用される。さらなる困難さが、適切な安定性を得ることにある。
【0016】
したがって、第1コートに直接塗布されるコーティング組成物について、上述したような別個の硬化工程を不要とし、それにもかかわらず、優れた技術的な塗布特性、より具体的には審美的特性を有する生成マルチコート塗装システムでマルチコート塗装システムを生成する方法を有することは有利であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】DE19948004 A1
【文献】DE10043405 C1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明が解決しようとする課題は、したがって、基材上にマルチコート塗装システムを生成する方法を見出すことであり、そこでは、第1コートに直接塗布されたコーティング組成物は別個に硬化されず、代わりに、このコーティング組成物はその後さらに塗布されたコーティング膜と共同の硬化工程で硬化される。この方法が単純化されているにもかかわらず、結果として得られるマルチコート塗装システムは、優れた技術的な塗布特性、特に審美性と安定性が示すはずである。さらに、このようにして、要望や個々の使用領域に応じて、第1コートとクリアコートの間に配置された1つ又は2つ以上のコーティング膜が、可変のコート厚さを有することができ、かつ、比較的厚いコート厚さでもピンホールやスランプの問題は特に発生しないマルチコート塗装システムを提供することが可能なはずである。
【0019】
さらに、マルチコート塗装システムの生成中に、第1コートとクリアコートの間に配置される1つ又は複数のコートの組成を単に適合させるだけで、マルチコート塗装システムの生成中に生じる垂れ抵抗性の問題を取り除き、かつ、このようにして、各色調のための異なるベースコート組成物の在庫を回避又は削減することが可能なはずである。しかし、組成物の適応は、高剪断粘度又は低剪断粘度に大きな変化をもたらさないようにすべきであり、そのような変化は、外観、ラン特性、及び色調に悪影響を及ぼすことになる可能性があるからである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
特定された問題点は、基材(S)上にマルチコート塗装システム(M)を生成するための新規な方法によって解決できることが見出され、該方法は、
(1)任意に、組成物(Z1)を基材(S)に塗布し、続いて組成物(Z1)を硬化させることにより、基材(S)上に硬化した第1コート(S1)を生成すること、
(2)水性ベースコート材料(bL2a)を第1コート(S1)に直接塗布することにより、又は、2つ以上の水性ベースコート材料(bL2-x)を第1コート(S1)に直接に連続塗布することにより、第1コート(S1)上に直接ベースコート(BL2a)又は2つ以上の直接連続塗布された水性ベースコート(BL2-x)を生成すること、
(3)クリアコート材料(kL)をベースコート(BL2a)上又は最上部のベースコート(BL2-z)上に直接塗布して、ベースコート(BL2a)上又は最上部のベースコート(BL2-z)上にクリアコート(K)を直接生成すること、
(4)ベースコート(BL2a)とクリアコート(K)又はベースコート(BL2-x)とクリアコート(K)を共同で硬化させること、
を含み、該少なくとも1つのベースコート材料(bL2a)又はベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つは、塗布の直前に、
- 15~60mgKOH/gの酸価を有する少なくとも1つのポリアミド(PA)を含む少なくとも1つの水性分散体(D1)と、
- 少なくとも1つのポリアミド(PA)と少なくとも1つのアミドワックス(AW)を含む水性分散体(D2)と、
混合される。
【0021】
上記で規定された方法は、以下で本発明の方法としても参照され、これに対応して本発明の主題である。本発明の方法の好ましい実施形態は、以下の説明及び従属請求項から明らかである。
【0022】
本発明の方法は、第1コート上に直接生成されたコーティングのための別個の硬化工程なしに、マルチコート塗装システムを生成することができる。理解をより容易にするために、本発明の目的のためのこのコーティングは、ベースコートと呼ばれる。別個の硬化の代わりに、このベースコートは、任意にクリアコートの下のさらなるベースコート、及びクリアコートとともに、共同で硬化される。水性分散体(D1)又は水性分散体(D2)をベースコート材料の塗布の直前に添加すること(以下、後添加ともいう)により、マルチコート仕上げの間に発生する垂れ抵抗性の問題を効果的に除くことができ、このようにして、各色調ごとに異なるベースコート組成物の在庫保持を防止又は減少させることができる。さらに、後添加は、さらに、発生する垂れ抵抗性の問題のために仕様外であり、したがって廃棄されなければならなかったベースコート組成物をさらに使用することも可能にする。したがって、本発明の方法は、採用されるベースコート組成物に関して、改善された環境バランスと効率性を示す。
【0023】
確かに、当業者は、ベースコート組成物のレオロジーを適応させることにより、例えば増粘剤を添加することにより、生じる垂れ抵抗性の問題に対応することを十分に認識している。しかしながら、特定の増粘剤、すなわち水性分散体(D1)又は水性分散体(D2)の添加のみが、コーティングシステムで達成される審美性及び機械的品質に悪影響を及ぼすことなく、垂れ抵抗性の問題を除くことができることは驚くべきことであった。低エネルギー入力にもかかわらず、これらの増粘剤は、ベースコート組成物中に均一に混ぜることができ、したがって、マルチコート塗装システムの生成中で、ベースコート組成物が塗布される前に、必要に応じて、いつでもベースコート組成物に添加することができる。
【0024】
包括的な説明
定義
まず、本発明の文脈で使用されるいくつかの用語について説明する。
【0025】
基材へのコーティング材料の塗布、及び基材上のコーティング膜の生成は、以下のように理解される。対象のコーティング材料は、それから生成されるコーティング膜が基材上に配置されるように塗布されるが、必ずしも基材と直接接触している必要はない。例えば、コーティング膜と基材との間には、他のコートが配置されていてもよい。工程(1)では、例えば、硬化した第1コート(S1)が、金属基材(S)上に生成されるが、基材と第1コート(S1)との間には、後述するように、例えばリン酸亜鉛コートなどの後述する化成コートを設けてもよい。
【0026】
他のコーティング材料(a)によって生成されたコーティング膜(A)へのコーティング材料(b)の塗布、及び他のコーティング膜(A)上へのコーティング膜(B)の生成についても、同じ原理が適用される。コーティング膜(B)は、必ずしもコーティング膜(A)と接触している必要はなく、単にその上に、換言すれば基材から離れたコーティング膜(A)の側に配置されれば良い。
【0027】
これに対して、基材へのコーティング材料の直接の塗布、又は基材上へのコーティング膜の直接の生成は、以下のように理解される。対象のコーティング材料は、それから生成されるコーティング膜が基材上に配置され、基材と直接接触するように塗布される。特に、したがって、コーティング膜と基材との間には、他のコートは存在しない。
【0028】
もちろん、別のコーティング材料(a)によって生成されたコーティング膜(A)へのコーティング材料(b)の直接の塗布、及び、別のコーティング膜(A)上へのコーティング膜(b)の直接の生成にも同じことが適用される。この場合、2つのコーティング膜は、直接接触しており、したがって、互いの上に直接配置される。特に、コーティング膜(A)と(B)の間には、さらなるコートはない。もちろん、コーティング材料の直接連続塗布、及び、直接連続コーティング膜の生成にも、同じ原理が適用される。
【0029】
フラッシング、中間乾燥、及び硬化は、本発明の文脈において、マルチコート塗装システムを生成するための方法に関連して当業者に周知のものと同じ意味的内容を有すると理解される。
【0030】
したがって、「フラッシング」という用語は、原則として、塗料システムの生成の一部として塗布されたコーティング材料から、通常は周囲温度(すなわち室温)、例えば15~35℃で、例えば0.5~30分の持続時間で、有機溶剤及び/又は水を受動的又は能動的に蒸発させる意味として理解される。したがって、フラッシングは、塗布されたコーティング材料中に存在する有機溶剤及び/又は水の蒸発を伴う。塗布直後及びフラッシングの開始時には何れにしてもコーティング材料はまだ流動性であるため、フラッシングの過程で流動し得る。その理由は、スプレー塗布によって塗布された少なくとも1つのコーティング材料は、一般的に液滴の形態で塗布され、均一な厚さではないからである。しかし、それが含有する有機溶剤及び/又は水の結果として、材料は流動性であり、そのため、流動して均質で滑らかなコーティング膜を形成することができる。同時に、有機溶剤及び/又は水の連続する蒸発が起こり、フラッシング段階の後に、塗布されたコーティング材料に比して少ない水及び/又は溶剤を含む比較的滑らかなコーティング膜が結果として得られる。しかし、フラッシング後のコーティング膜は、まだ使用準備が整った状態ではない。それはもはや流動性がないが、例えば、それはまだ柔らかく及び/又は粘着性があり、おそらく部分的にしか乾燥していない。特に、後述するように、コーティング膜はまだ硬化していない。
【0031】
中間乾燥は、したがって、同様に、塗装システムの生成の一部として塗布されるコーティング材料から有機溶剤及び/又は水を、受動的又は能動的に、通常周囲温度と比較して上昇した温度で、例えば、40~90℃の温度で、例えば、1~60分間の持続時間で蒸発させることを意味するものと理解される。中間乾燥の過程においても同様に、したがって、塗布されたコーティング材料は、有機溶剤及び/又は水の画分を失う。特定のコーティング材料に基づいて、一般的な規則では、中間乾燥は、フラッシングと比較して、例えばより高い温度及び/又はより長い時間で進行し、これは、フラッシングと比較して、塗布されたコーティング膜からより大きな有機溶剤及び/又は水の画分が流出することを意味している。しかしながら、中間乾燥を行っても、使用準備が整った状態のコーティング膜は得られない、換言すれば、後述するような硬化したコーティング膜は得られていない。フラッシングと中間乾燥の典型的なシーケンスは、例えば、周囲温度で3分間フラッシングした後、60℃で10分間の中間乾燥させることである。しかし、この2つの概念を互いに決定的に区別する必要はなく、また望ましいものでもない。純粋な理解のために、これらの用語は、後述する硬化の前に、コーティング膜の可変で連続的なコンディショニングが起こり得ることを明確にするために使用される。ここで、コーティング材料、蒸発温度及び蒸発時間に応じて、コーティング材料中に存在する有機溶媒及び/又は水のより大きな画分又はより小さな画分が蒸発し得る。ここで、任意に、コーティング材料中にバインダーとして存在するポリマーの画分が、以下に説明するように、互いに架橋又はインターループを受けることさえ可能である。しかしながら、フラッシングにおいても中間乾燥においても、以下に説明する硬化の場合のような使用準備が整った状態のコーティング膜は得られない。したがって、硬化はフラッシングや中間乾燥とは明確に区切られる。
【0032】
したがって、コーティング膜の硬化とは、そのようなコーティング膜を使用準備が整った状態にすること、すなわち、当該コーティング膜を備えた基材を輸送、保管、使用することができる状態にすることと理解される。硬化したコーティング膜は、したがって、具体的には軟らかさや粘着性がなくなり、その代わりに、後述する硬化の条件にさらに曝されても、硬さや基材への密着性などの特性に大きな変化がない固体コーティング膜に調整される。
【0033】
周知のように、コーティング材料は、バインダー及び架橋剤などの存在する成分に応じて、原則として物理的及び/又は化学的に硬化させることができる。化学的硬化の場合には、熱化学的硬化及び光活性化学的硬化が考慮される。例えば、コーティング材料が熱化学的硬化性である場合、それは自己架橋及び/又は外部架橋であり得る。コーティング材料が自己架橋性及び/又は外部架橋性であるという表示は、本発明の文脈において、このコーティング材料が、バインダーとしてのポリマー、及び任意に互いに対応して架橋することができる架橋剤を含むことを意味する。親メカニズム、さらには使用可能なバインダー及び架橋剤(膜形成成分)については、後述する。
【0034】
本発明の文脈において、「物理的に硬化可能」又は「物理的硬化」という用語は、ポリマー溶液又はポリマー分散体からの溶媒の喪失により、硬化がポリマー鎖のインターループによって達成されることで硬化コーティング膜が形成されることを意味する。この種のコーティング材料は、一般に一成分コーティング材料として配合される。
【0035】
本発明の文脈において、「熱化学的に硬化可能」又は「熱化学的硬化」という用語は、反応性官能基の化学反応によって開始されるコーティング膜の架橋(硬化コーティング膜の形成)を意味し、ここで、この化学反応のエネルギー的活性化は熱エネルギーによって可能である。互いに相補的である異なる官能基は、ここで互いに反応することができ(相補的官能基)、及び/又は硬化コーティング膜の形成は、自己反応性官能基、換言すれば、同種の基と互いに反応する官能基の反応に基づいている。適切な相補的反応性官能基及び自己反応性官能基の例は、例えばドイツ特許出願DE19930665A1、7頁28行目から9頁24行目から知られている。
【0036】
この架橋は、自己架橋及び/又は外部架橋であってよい。相補的な反応性官能基が、例えば、バインダーとして使用される有機ポリマー、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、又はポリ(メタ)アクリレート中に既に存在する場合、自己架橋が起こる。外部架橋は、例えば、特定の官能基、例えばヒドロキシル基を含有する(第1の)有機ポリマーが、例えばポリイソシアネート及び/又はメラミン樹脂のように、それ自体公知の架橋剤と反応する場合に生じる。架橋剤は、次いで、バインダーとして使用される(第1の)有機ポリマーに存在する反応性官能基と相補的な反応性官能基を含む。
【0037】
特に外部架橋の場合には、それ自体公知の一成分系及び多成分系、より具体的には二成分系が考えられる。
【0038】
熱化学的に硬化可能な一成分系では、架橋のための成分、例えばバインダー及び架橋剤としての有機ポリマーは、互いに並んで、換言すれば一成分の中に存在する。このための要件は、架橋されるべき成分が、例えば100℃超の比較的高い温度でのみ互いに反応すること、-つまり硬化反応に入ること-である。そうでなければ、時期尚早な少なくとも比例した熱化学的硬化を防ぐために、架橋のための成分を互いに別々に貯蔵し、基材に適用する直前にのみそれらを互いに混合することが必要となる(二成分システムを比較)。例示的な組み合わせとして、架橋剤として、メラミン樹脂及び/又はブロック化ポリイソシアネートを有するヒドロキシ官能性ポリエステル及び/又はポリウレタンが言及されてよい。
【0039】
熱化学的に硬化可能な二成分系において、架橋される成分、例えばバインダーとしての有機ポリマー及び架橋剤は、少なくとも2つの成分に互いに別々に存在し、それらは塗布の直前まで結合されることはない。この形態は、架橋のための成分が、周囲温度、又は例えば40~90℃のわずかに上昇した温度であっても、互いに反応を受ける場合に選択される。例示的な組み合わせとして、架橋剤として遊離ポリイソシアネートを有するヒドロキシ官能性ポリエステル及び/又はポリウレタン及び/又はポリ(メタ)アクリレートが言及されてよい。
【0040】
バインダーとしての有機ポリマーが自己架橋性官能基と外部架橋性官能基の両方を有し、その後に架橋剤と組み合わせることも可能である。
【0041】
本発明の文脈において、「光活性化学的に硬化可能」又は「光活性化学的硬化」という用語は、活性放射線の適用によって硬化が可能であるという事実を意味し、これは、近赤外(NIR)及びUV放射線、より具体的にはUV放射線などの電磁放射線、及び電子ビームなどの粒子状放射線である。UV放射線による硬化は、慣例的にはラジカル又はカチオン性光開始剤によって開始される。典型的な光活性硬化性官能基は、炭素-炭素二重結合と、一般的にその場合に採用されるラジカル光開始剤である。光活性硬化は、そして、同様に化学的架橋に基づいている。
【0042】
もちろん、化学的に硬化可能であると識別されるコーティング材料の硬化において、物理的な硬化も、換言すればポリマー鎖のインターループも常に存在する。物理的硬化が優勢であってもよい。それにもかかわらず、化学的に硬化可能な膜形成成分の少なくとも一部を含む限り、この種のコーティング材料は、化学的に硬化可能であると識別される。
【0043】
以上のことから、コーティング材料及びそれが含む成分の性質に応じて、硬化は異なるメカニズムによってもたらされ、それは、もちろん、硬化段階で異なる条件、より具体的に異なる硬化温度及び硬化時間を必要とする。
【0044】
純粋に物理的に硬化するコーティング材料の場合、硬化は、好ましくは15~90℃の間で2~48時間の期間にわたって行われる。この場合、硬化は、該当する場合、専らコーティング膜のコンディショニングの継続期間で、フラッシング及び/又は中間乾燥と異なる。さらに、フラッシングと中間乾燥を区別することは実用的ではない。例えば、物理的に硬化可能なコーティング材料を塗布して生成されたコーティング膜は、最初に、15~35℃で0.5~30分間の持続時間でフラッシング又は中間乾燥を受け、次に50℃で5時間の持続時間で硬化させることが可能である。
【0045】
しかしながら、好ましくは、本発明の方法の文脈で使用するためのコーティング材料の少なくともいくつか、換言すれば、エレクトロコート材料、水性ベースコート材料、及びクリアコート材料は、熱化学的に硬化可能であり、特に好ましくは、熱化学的に硬化可能で、かつ外部架橋性である。
【0046】
原則として、そして本発明の文脈において、熱化学的に硬化可能な一成分系の硬化は、好ましくは100~250℃、より好ましくは100~180℃の温度で、5~60分間、より好ましくは10~45分間の持続時間で行われ、これらの条件は、一般的に、コーティング膜を硬化したコーティング膜に変換するための化学的架橋反応に必要だからである。したがって、それは、フラッシング及び/又は中間乾燥段階が、硬化行われるのに先立って、より低い温度及び/又はより短い時間で行われる場合である。このような場合、例えば、フラッシングは、例えば、15~35℃で、0.5~30分の期間行われてよく、及び/又は中間乾燥は、例えば、40~90℃の温度で、例えば、1~60分の期間行われてよい。
【0047】
原理的に、そして本発明の文脈において、熱化学的に硬化可能な二成分系の硬化は、15~90℃の温度、例えば、特に40~90℃の温度で、5~80分、好ましくは10~50分の持続時間で行われる。したがって、それは、硬化が行われるのに先立って、フラッシング及び/又は中間乾燥段階が、より低い温度及び/又はより短い時間で行われる場合である。このような場合、例えば、フラッシングと中間乾燥の概念を区別することはもはや実用的ではない。硬化に先行するフラッシング又は中間乾燥段階は、例えば15~35℃で例えば0.5~30分の持続時間で行われてもよいが、いずれにしても、その後の硬化よりも低い温度及び/又は短い時間で行われる。
【0048】
これは、もちろん、より高い温度で硬化される熱化学的に硬化可能な二成分系を除外するものではない。例えば、以下で後により正確に述べる本発明の方法の工程(4)では、ベースコート膜又は2つ以上のベースコート膜はクリアコート膜と共同で硬化される。例えば一成分系のベースコート材料と二成分系のクリアコート材料などのような、熱化学的に硬化可能な一成分系と二成分系の両方が膜内に存在する場合、共同硬化は、もちろん、一成分系に必要な硬化条件によって導かれる。
【0049】
本発明の文脈で解明されるすべての温度は、コーティングされた基材が配置されている部屋の温度として理解されるべきである。したがって、基材自体が問題の温度を有することが必要であることを意味するものではない。
【0050】
本発明の文脈において特定の特性変数を決定するために採用される測定方法は、実施例の段落から明らかである。明示的に指示されない限り、これらの測定方法は、それぞれの特性変数を決定するために使用される。
【0051】
本発明の文脈において、公式の有効期間を示さずに公式の規格を参照する場合、その参照はもちろん、出願日に有効な規格のバージョンを参照するか、又はその日に有効なバージョンがない場合には、最新の有効なバージョンを参照するものとする。
【0052】
特定の酸価を有する少なくとも1つのポリアミド(PA)を含む水性分散体、又はポリアミド(PA)とアミドワックス(AW)を含む水性分散体は、その材料の塗布の直前に、ベースコート材料と混合される。これは、水性分散体の添加が、マルチコート塗装システムの生成中に、より具体的には、本発明の方法内でベースコート組成物を使用する直前に行われることを意味する。逆に、本発明の文脈において、「塗布の直前」という用語は、ベースコート組成物の調製中に水性分散体を添加すること、又はベースコート組成物の調製直後に水性分散体を添加することのいずれも含まない。
【0053】
本発明の方法
本発明の方法では、マルチコート塗装システムが基材(S)上に構築される。
【0054】
本発明によれば、基材(S)は、金属基材、プラスチック、及びそれらの混合物、より具体的には金属基材から選択されるのが好ましい。
【0055】
考えられる金属基材板(S)は、本質的に、例えば、鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、マグネシウム、及びそれらの合金、さらにまた非常に広範な形態及び組成の鋼を含むか、それらから構成される。好ましい基材は、鉄及び鋼の基材であり、例として、自動車産業部門で使用される典型的な鉄及び鋼の基材が挙げられる。
【0056】
本発明の方法の工程(1)の前に、金属基材(S)は、従来の方法で前処理されてもよく、すなわち、例えば、クリーニングされ、及び/又は公知の化成コーティングが提供されてよい。クリーニングは、機械的に、例えば、ワイピング、サンディング及び/又は研磨の手段によって、及び/又は、化学的に酸洗法によって、酸又はアルカリ浴中での初期エッチングによって、例えば、塩酸又は硫酸によって、達成されてよい。有機溶剤又は水性洗浄剤による洗浄ももちろん可能である。前処理は、同様に、化成コーティング、より具体的にはリン酸化及び/又はクロム酸化、より好ましくはリン酸化による適用によって行われてもよい。いずれにしても、金属基材は、好ましくは化成コーティングされ、より具体的にはリン酸化され、好ましくはリン酸亜鉛コートを有する。
【0057】
適切なプラスチック基材(S)は、原則として、(i)ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスチレン、スチレンコポリマー、ポリエステル、ポリフェニルオキシドなどの極性プラスチック、及びこれらプラスチックの混合物、(ii)PUR-RIM、SMC、BMCなどの反応性プラスチック、及び(iii)PP-EPDMなどの高いゴム含有量を有するポリエチレン及びポリプロピレンタイプのポリオレフィン基材、ならびに表面活性化ポリオレフィン基材、を含むか又はこれらからなる基材である。プラスチックはまた、繊維強化されてよく、より具体的には炭素繊維及び/又は金属繊維を用いてもよい。同様にプラスチック(S)の基材もまた、第1コート(S1)の接着性を向上させるために、本発明の方法の工程(1)の前に、前処理され、より具体的に、洗浄によって前処理されてよい。
【0058】
基材(S)として、さらに、金属画分とプラスチック画分の両方を含むものを使用することも可能である。この種の基材としては、例えば、プラスチック部品を含む車体などが挙げられる。
【0059】
基材の形状は、それ自体は任意であり、すなわち、それらが、例えば、単純な部品であってもよいし、他の複雑な部品、例えば、特に、自動車の車体及びその部品であってもよいことを意味する。
工程(1):
本発明の方法の工程(1)は、任意の工程である。この工程は、特に、基材(S)が金属基材である場合に実施される。一方、本発明の方法においてプラスチック製の基材(S)が使用される場合、本発明により、この工程が行われない場合、換言すれば、この場合、本発明の方法は、直接工程(2)から開始されるのが好ましい。
【0060】
組成物(Z1)は、エレクトロコート材料であってもよく、プライマーコートであってもよい。しかし、本発明によるプライマーコートは、本発明の方法の工程(2)で塗布されるベースコートではない。本発明の方法は、好ましくは、金属基材(S)を用いて実施される。したがって、第1コート(S1)は、より具体的には、硬化エレクトロコート(E1)である。本発明の方法の1つの好ましい実施形態では、したがって、組成物(Z1)は、基材(S)に電気泳動的に塗布されるエレクトロコート材料(ETL1)である。
【0061】
本発明の方法の工程(1)で使用されるエレクトロコート材料(ETL1)は、カソード又はアノードのエレクトロコート材料であってよい。好ましくは、カソード性エレクトロコート材料である。エレクトロコート材料は、当業者に長い間知られている。それらは、金属基材への電気泳動塗布に適していなければならない水性コーティング材料である。それらは、いずれにしてもバインダーとしてアニオン性ポリマー又はカチオン性ポリマーを含む。これらのポリマーは、潜在的にアニオン性である官能基、すなわちアニオン性基、例えばカルボン酸基への変換が可能であることを意味する官能基を含み、又は、潜在的にカチオン性である官能基、すなわちカチオン性基、例えばアミノ基への変換が可能であることを意味する官能基を含む。荷電基への変換は、一般に、対応する中和剤(有機アミン(アニオン性)、ギ酸(カチオン性)などの有機カルボン酸)の使用によって達成され、結果としてアニオン性又はカチオン性ポリマーが生成される。エレクトロコート材料は、一般的に、そして好ましくはさらに典型的な防錆顔料を含む。本発明において好ましいカソード性エレクトロコート材料は、好ましくはバインダーとしてカチオン性ポリマー、より好ましくは芳香族構造単位を有するヒドロキシ官能性ポリエーテルアミンを含む。このようなポリマーは、一般に、対応するビスフェノール系エポキシ樹脂と、例えばモノアルキルアミン、ジアルキルアミン、アルカノールアミン及び/又はジアルキルアミノアルキルアミンなどのアミンとを反応させることにより得られる。これらのポリマーは、より具体的に従来のブロック化されたポリイソシアネートとの組み合わせで使用される。例えば、WO9833835A1、WO9316139A1、WO0102498A1、及びWO2004018580A1に記載されているエレクトロコート材料を参照することができる。
【0062】
したがって、エレクトロコート材料(ETL1)は、好ましくは、いずれにしても熱化学的に硬化可能なコーティング材料であり、より具体的には、外部架橋性である。好ましくは、エレクトロコート材料(ETL1)は、熱化学的に硬化可能な一成分コーティング材料である。エレクトロコート材料(ETL1)は、好ましくは、バインダーとしてのヒドロキシ官能性エポキシ樹脂と、架橋剤としての完全にブロック化されたポリイソシアネートを含む。エポキシ樹脂は、好ましくはカソード性であり、より具体的にはアミノ基を含有する。
【0063】
本発明の方法の工程(1)で行われる、この種のエレクトロコート材料(ETL1)の電気泳動的塗布も知られている。塗布は電気泳動的に進行する。すなわち、まず、コーティング用の金属ワークピースがコーティング材料を含む浸漬浴に浸漬され、金属ワークピースと対電極との間に直流電界が印加される。したがって、ワークピースは電極として機能し、バインダーとして使用されるポリマーが記載の電荷を帯びているため、エレクトロコート材料の不揮発性成分が電界を介して基材に移行し、基材上に堆積してエレクトロコート膜が生成される。例えば、カソード性のエレクトロコート材料の場合、基材がしたがってカソードとして接続され、水の電気分解の結果としてそこに形成された水酸化物イオンがカチオン性バインダーを中和し、基材上に堆積させてエレクトロコート膜を形成する。そのため、本方法は電気泳動堆積による塗布の1つである。
【0064】
エレクトロコート材料(ETL1)の塗布に続いて、コーティングされた基材(S)は、タンクから取り出され、任意に、水性の水性すすぎ溶液ですすがれ、次いで、例えば、任意で、フラッシング及び/又は中間乾燥を受け、最後に、塗布されたエレクトロコート材料が硬化される。
【0065】
塗布されたエレクトロコート材料(ETL1)(又は塗布された、まだ硬化していないエレクトロコート膜)は、例えば15~35℃の温度で、0.5~30分間の持続時間、フラッシングを受け、及び/又は、好ましくは40~90℃の温度で、例えば1~60分間の持続時間、中間乾燥を受ける。
【0066】
基材に塗布されたエレクトロコート材料(ETL1)(又は塗布された、まだ硬化していないエレクトロコート膜)は、好ましくは100~250℃、好ましくは140~220℃の温度で、5~60分間、好ましくは10~45分間の持続時間で硬化され、それにより硬化エレクトロコート(E1)が生成される。
【0067】
上述のフラッシング、中間乾燥、及び硬化条件は、特にエレクトロコート材料(ETL1)が、上述のような熱化学的に硬化可能な一成分コーティング材料を含む好ましい場合に適用される。しかしながら、これは、エレクトロコート材料が他の方法で硬化可能なコーティング材料であること、及び/又は異なるフラッシング、中間乾燥、及び硬化条件の使用を除外するものではない。
【0068】
硬化したエレクトロコートの膜厚は、例えば、10~40マイクロメートル、好ましくは15~25マイクロメートルである。本発明の文脈で報告されるすべての膜厚は、乾燥膜厚として理解されるべきである。したがって、それは、それぞれの場合の硬化した膜の厚さである。したがって、コーティング材料が特定の膜厚で塗布されていると報告されている場合は、コーティング材料が硬化後に記載の膜厚になるように塗布されることを意味する。
【0069】
工程(2):
本発明の方法の工程(2)では、ベースコート膜(BL2a)が生成される(代替1)か、又は2つ以上の直接連続したベースコート膜(BL2-x)が生成される(代替2)。膜は、水性ベースコート材料(bL2a)を硬化コート(S1)に直接塗布することによって、又は2以上のベースコート材料(bL2-x)を硬化コート(S1)に直接連続して塗布することによって生成される。したがって、生成後、工程(2)の代替1によるベースコート膜(BL2a)は、硬化した第1コート(S1)上に直接配置される。
【0070】
本発明の方法の工程(2)で塗布されるコーティング材料及び生成されるコーティング膜に関連する、ベースコート材料及びベースコート膜という用語は、より理解を容易にするために使用される。ベースコート膜(BL2a)及び(BL2-x)は、別個に硬化されるのではなく、代わりに、クリアコート材料と共同で硬化される。そのため、硬化は、導入部で説明した標準的なプロセスで採用されるベースコート材料の硬化に類似して行われる。特に、本発明の方法の工程(2)で使用されるコーティング材料は、標準的なプロセスでサーフェイサーとして識別されるコーティング材料のように、別個に硬化されない。
【0071】
硬化した第1コート(S1)への2つ以上のベースコート(bL2-x)の直接連続塗布は、したがって、第1ベースコート材料がまずコート(S1)に直接塗布され、その後、第2ベースコート材料が第1ベースコート材料の膜に直接塗布されることを意味する。次いで、任意に第3ベースコート材料が第2ベースコート材料の膜に直接塗布される。この手順は、さらなるベースコート材料(すなわち、第4、第5ベースコート材料など)についても同様に繰り返すことができる。この文脈では、以下の指定が適切である。ベースコート材料とベースコート膜は、一般的に(bL2-x)と(BL2-x)と表示されるが、xは、特定の個々のベースコート材料とベースコート膜を指定する場合に、適宜一致する他の文字で置き換えられてもよい。
【0072】
第1ベースコート材料と第1ベースコート膜はa、最上部のベースコート材料と最上部のベースコート膜はzと表示されてよい。したがって、これら2つのベースコート材料とベースコート膜は、いずれの場合にも存在する。それらの間の膜には、b,c,dなどの連続したラベルを付けることができる。
【0073】
第1ベースコート材料(bL2-a)の塗布により、したがって、硬化した第1コート(S1)上にベースコート膜(BL2-a)が直接生成される。少なくとも1つのさらなるベースコート膜(BL2-x)が次いでベースコート膜(BL2-a)の上に直接生成される。2つ以上のさらなるベースコート膜(BL2-x)が生成される場合、それらは直接連続で生成される。例えば、正確に1つのさらなるベースコート膜(BL2-x)が生成されることがあり、この場合、この膜は、最終的に生成されるマルチコート塗装システムのクリアコート膜(K)の直下に配置され、したがって、ベースコート膜(BL2-z)と表示され得る。また、例えば、正確に2つのさらなるベースコート膜(BL2-x)を生成することも可能であり、この場合、ベースコート(BL2-a)上に直接生成される膜は(BL2-b)として指定され、最終的にクリアコート膜(K)の真下に配置された膜は、順番に(BL2-z)として指定されてよい。
【0074】
ベースコート材料(bL2-x)は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、同一のベースコート材料による2つ以上のベースコート膜(BL2-x)と、1つ以上の他のベースコート材料による1つ以上のさらなるベースコート膜(BL2-x)とを生成することも可能である。
【0075】
第1ベースコート膜が第1ベースコート材料を塗布することで生成され、さらなるベースコート膜が同じベースコート材料を塗布することで生成される場合、明らかに両方の膜は同じベースコート材料に基づいている。しかし、塗布は明らかに2段階で行われ、すなわち、問題のベースコート材料は、本発明の方法の意味においては、第1ベースコート材料(bL2-a)とさらなるベースコート材料(bL2-z)に対応する。記載されたシステムはまた、2つの塗布で生成される1コートベースコート膜システムとして呼ばれることが多い。しかし、特に現実の生成ライン(OEM)仕上げでは、仕上げラインの技術的状況は常に、第1塗布と第2塗布との間の一定の時間スパンを規定し、その間、基材、例えば車体は、例えば15~35℃で調整され、それによってフラッシングされるため、このシステムを2コートのベースコートシステムとして特徴付けることが、形式的にはより明確である。したがって、記載された運用体制は、工程(2)の第2代替手段に割り当てられるべきである。
【0076】
ベースコート材料(bL2-x)のためのベースコート膜のシーケンスのいくつかの好ましい変形は、以下のように解明され得る。
【0077】
本発明の文脈では、水性ベースコート材料(bL2-a)を第1コート(S1)に直接塗布し、その後、さらなる水性ベースコート材料(bL2-z)を第1ベースコート(bL2-a)に直接塗布することにより、硬化した第1コート(S1)上に2つの連続したベースコート(bL2-a)及び(bL2-x)を、直接生成することが好ましい。第1ベースコート(bL2-a)は、例えば、硬化した第1コート(S1)上への直接の第1ベースコート材料(bL2-a)の静電スプレー塗布(ESTA)又は空気塗布により、及び、後述するように、フラッシュオフ及び/又は中間乾燥を受けることにより、生成され得る。その後、第1ベースコート材料とは異なる第2ベースコート材料(bL2-z)の直接塗布により、第2ベースコート(bL2-z)が生成される。ここでの第2ベースコート材料はまた、静電スプレー塗布又は空気圧塗布によって塗布されてよく、それによって第1ベースコート膜(BL2-a)上に第2ベースコート膜(BL2-z)を直接生成する。塗布の間及び/又は塗布の後に、フラッシング及び/又は中間乾燥を再度行うことももちろん可能である。この変形例は、好ましくは、以下でより詳細に説明するように、色準備ベースコート膜(BL2-a)が、第1コート(S1)上に直接生成され、次に色及び/又は効果付与ベースコート膜(BL2-z)が、以下でより詳細に説明するように、第1ベースコート膜上に、直接生成される場合に選択される。この場合の第1ベースコート膜(BL2-a)は、色準備ベースコート材料(bL2-a)に基づき、第2ベースコート膜(BL2-z)は、色及び/又は効果付与ベースコート材料(bl2-z)に基づく。同様に、例えば、この第2ベースコート材料を上述のように2段階で塗布し、それによって、第1のベースコート膜(BL2-a)上に直接、同一のベースコート材料に基づく、2つのさらなる直接連続するベースコート膜(BL2-b)及び(BL2-z)を形成することも可能である。
【0078】
同様に、硬化した第1コート(S1)の上に直接、3つのベースコート膜を直接連続生成することも可能であり、これらのベースコート膜は3つの異なるベースコート材料に基づく。例えば、色準備ベースコート膜(BL2-a)、色及び/又は効果付与ベースコート材料(BL2-b)、及び第2の色及び/又は効果付与ベースコート材料(BL2-z)に基づくさらなる膜を生成することができる。個々の塗布の間及び/又はその後、及び/又は3つの塗布のすべての後に、順に、フラッシング及び/又は中間乾燥を行うことが可能である。
【0079】
したがって、本発明の文脈で好ましい実施形態は、本発明の方法の工程(2)の代替2において、2つ又は3つのベースコート膜を生成することを含む。その場合、硬化した第1コート(S1)上に直接生成されるベースコート膜(BL2-a)は、色準備ベースコート材料(BL2-a)に基づくことが好ましい。第2膜及び任意の第3膜は、1つで同一の色及び/又は効果付与ベースコート材料(bL2-b)及び(bL2-z)、又は第1色及び/又は効果付与するベースコート材料(bL2-b)及び異なる第2色及び/又は効果付与ベースコート材料(bL2-z)、に基づくかのいずれかである。
【0080】
工程(2)で使用される水性ベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)は、それぞれ化学的熱的に硬化可能であり、より好ましくは、外部架橋性である。
【0081】
ベースコート材料(bL2-a)及び(bL2-x)は、それぞれ一成分又は二成分のコーティング材料であってよい。しかし、本発明によれば、ベースコート材料(bL2a)又はベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つ、好ましくは全てのベースコート材料(bL2-x)が、一成分コーティング材料である場合が好ましい。これは、ベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)の塗布前に2つの成分を混合する必要がなくなるため、作業負荷が軽減される。
【0082】
ベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)は、それぞれ、少なくとも1つのバインダー、好ましくは異なるバインダーの混合物を含む。本発明の文脈において、バインダーは、ポリアクリレート、特にアニオン性ポリアクリレート、ポリウレタン、ポリエステル、及び前記ポリマーのコポリマー、例えばポリウレタンポリアクリレートからなる群から選択されることが好ましい。
【0083】
アニオン性ポリアクリレートの水性分散体(wD-PAC)が、オレフィン性不飽和モノマーの3つの混合物(A)、(B)及び(C)の逐次ラジカル乳化重合によって得られる場合、この文脈において特に好ましく、ここで、
- 混合物(A)は、少なくとも50質量%のビニル芳香族モノマーを含み、混合物(A)から調製されたポリマーは10~65℃のガラス転移温度を有し、
- 混合物(B)は、少なくとも1つの多価不飽和モノマーを含み、混合物(B)から調製されたポリマーは-35~15℃のガラス転移温度を有し、及び
- 混合物(C)は、少なくとも1つのアニオン性モノマーを含み、混合物(C)から調製されたポリマーは-50~15℃のガラス転移温度を有し、
ならびに
i. まず混合物(A)が重合され、
ii. 次いで、i.の下で調製されたポリマーの存在下で、混合物(B)が重合され、
そして
iii. その後、ii.の下で調製されたポリマーの存在下で、混合物(C)が重合される。
【0084】
分散体(wD-PAC)は、好ましくは、正確に上記のような1つのポリマーを含む。ポリマーの調製は、オレフィン性不飽和モノマーの3つの混合物(A)、(B)及び(C)の逐次ラジカル乳化重合を包含する。時間的には、この段階は、次々に直接的に行われてよい。ある段階終了後の対応する反応溶液を一定時間保存し、及び/又は別の反応容器に移し、その後にのみ、次の段階を行うことも同様に可能である。特定の多段ポリマーの調製は、好ましくは、モノマー混合物(A)、(B)、及び(C)の重合の他に、さらなる重合工程を含まない。
【0085】
ラジカル乳化重合の場合、オレフィン性不飽和モノマーは、少なくとも1つの水溶性開始剤を使用し、少なくとも1つの乳化剤の存在下で、水性媒体中で重合される。対応する水溶性開始剤が知られている。少なくとも1つの水溶性開始剤は、好ましくは、カリウム、ナトリウム、又は過硫酸アンモニウム、過酸化水素、tert-ブチルヒドロペルオキシド、2,2’-アゾビス(2-アミドイソプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチラミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、及び例えば過酸化水素及び過硫酸ナトリウムなどの前述の開始剤の混合物からなる一群から選択される。さらなる適切な開始剤及び遷移金属触媒が、例えば、公開明細書WO2017/088988A1に開示されている。開始剤は、それぞれの重合段階で使用されるモノマーの総質量に基づいて、好ましくは0.05~20質量%、より好ましくは0.05~10、より好ましくは0.1~5質量%の量で使用される。
【0086】
乳化重合は、連続媒体として水を含み、ミセルの形態で少なくとも1つの乳化剤を含む反応媒体内で行われる。重合は、水中の水溶性開始剤の分解によって開始される。成長したポリマー鎖が乳化剤ミセルに入り、その後、さらなる重合がミセル内で行われる。少なくとも1つの乳化剤は、各重合段階で使用されるモノマー総質量に基づいて、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%、非常に好ましくは0.1~3質量%の量で使用される。乳化剤も原理的には公知である。両性イオン性乳化剤を含む非イオン性、又はイオン性乳化剤、及び任意に上記の乳化剤の混合物が、例えば公開明細書WO2017/088988A1に記載されているように、使用され得る。
【0087】
乳化重合は、0~160℃、好ましくは15~95℃、より好ましくは60~95℃の温度で有効に行われる。ここでは、酸素の不存在下、好ましくは不活性ガス雰囲気下で操作することが好ましい。重合は、一般的には大気圧下で行われるが、より低圧やより高圧の適用も可能である。特に、水、使用するモノマー及び/又は有機溶媒の大気圧下での沸点以上の重合温度を採用する場合は、より高い圧力を選択するのが通常である。特定のポリマーの調製における個々の重合段階は、例えば、「飢餓供給(starved feed)」重合(「スターブフィード(starve feed)」又は「スターブフェド(starve fed)」重合としても知られる)と呼ばれるものとして実施されてよい。本発明の意味において飢餓供給重合は、反応溶液(反応混合物とも呼ばれる)中の遊離オレフィン性不飽和モノマーの量が、反応期間を通して最小限に抑えられる乳化重合である。これは、オレフィン性不飽和モノマーの定量添加が、前記反応期間にわたって、反応溶液中の遊離モノマーの画分が、それぞれの重合段階で使用されるモノマーの総質量に基づいて、6.0質量%、好ましくは5.0質量%、より好ましくは4.0質量%、特に好ましくは3.5質量%を超えないように行なわれることを意味する。
【0088】
ここでの反応溶液中のモノマーの濃度は、例えば、公開明細書WO2017/088988A1に記載されているように、ガスクロマトグラフィーによって決定することができる。遊離モノマーの画分は、開始剤の量、開始剤の添加速度、モノマーの添加速度の相互作用、及びモノマーの選択によって制御することができる。定量速度の低下だけでなく、初期量の増加、及び開始剤の添加の尚早な開始は、遊離モノマーの濃度を上記の限界以下に維持する目的に役立つ。
【0089】
本発明の目的のために、重合段階ii.及びiii.が、飢餓状態条件下で実施されることが好ましい。これは、これら2つの重合段階内での新しい粒子核の形成が効果的に最小化されるという利点を有する。その代わりに、段階i.の後に存在する粒子(したがって、以下でシードとも呼ばれる)は、モノマー混合物B(したがって、以下でコアとも呼ばれる)の重合によって、段階ii.でさらに成長させられ得る。同様に、段階ii.の後に存在する粒子(以下、シード及びコアを含むポリマーとも呼ばれる)は、段階iii.で、モノマー混合物C(したがって、以下でシェルとも呼ばれる)の重合によって、さらに成長させられることができ、その結果、最終的には、シード、コア、及びシェルを含む粒子を含むポリマーを得ることができる。段階i.もまた、もちろん、飢餓状態条件の下で実施することができる。
【0090】
混合物(A)、(B)、及び(C)は、オレフィン性不飽和モノマーの混合物であり、ここで、混合物(A)、(B)、及び(C)は互いに異なる。したがって、それらはそれぞれ、異なるモノマー及び/又は少なくとも1つの定義されたモノマーの異なる比を含む。
【0091】
混合物(A)は、少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも55質量%のビニル芳香族化合物を含む。そのような好ましいモノマーの1つは、スチレンである。ビニル芳香族化合物に加えて、モノマー混合物(A)は、ヘテロ原子を含む官能基を有するモノマーを含有しない。特に好ましくは、モノマー混合物(A)は、アルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸の少なくとも1つのモノ不飽和エステルと、ビニル基を含有する少なくとも1つのモノオレフィン性不飽和モノマーであって、ビニル基上に配置されたラジカル、該ラジカルは芳香族性、又は混合飽和脂肪族-芳香族であり、この場合、ラジカルの脂肪族画分はアルキル基である、少なくとも1つのモノオレフィン性不飽和モノマーを含む。
【0092】
混合物(A)中に存在するモノマーは、それらから調製されたポリマーが10~65℃、好ましくは30~50℃のガラス転移温度を有するように選択される。測定で予想されるガラス転移温度の有用な推定のために、既知のFox式を採用することができる。Fox式が、ホモポリマー及びその質量部のガラス転移温度に基づいて、分子量を取り入れることなく、良好な近似値を示すため、合成における当業者へのガイドとして使用することができ、いくつかの目標指向の実験を介して所望のガラス転移温度を設定することを可能にする。
【0093】
モノマー混合物(A)の乳化重合により段階i.で調製されたポリマーは、好ましくは20~125nmの粒子径を有する(粒子径の測定については、方法の説明の項目3を参照のこと)。
【0094】
混合物(B)は、少なくとも1つのポリオレフィン性不飽和モノマー、好ましくは少なくとも1つのジオレフィン性不飽和モノマーを含む。そのような好ましいモノマーの1つは、1,6-ヘキサンジオールジアクリレートである。好ましくは、モノマー混合物(B)は、同様に、ヘテロ原子を含む官能基を有するモノマーを含まない。特に好ましくは、モノマー混合物(B)は、少なくとも1つのポリオレフィン性不飽和モノマーと同様に、少なくとも以下のさらなるモノマーを含む。第1に、アルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸の少なくとも1つのモノ不飽和エステル、及び第2に、ビニル基を含有する少なくとも1つのモノオレフィン性不飽和モノマーであって、ビニル基上に配置されたラジカル、該ラジカルは芳香族性、又は混合飽和脂肪族-芳香族ラジカルであり、この場合、該ラジカルの脂肪族画分はアルキル基である、少なくとも1つのモノオレフィン性不飽和モノマーを含む。
【0095】
多価不飽和モノマーの画分は、好ましくは、モノマー混合物(B)中のモノマーの総モル量に基づいて、0.05~3モル%である。
【0096】
混合物(B)に存在するモノマーは、そこから調製されたポリマーが-35~15℃、好ましくは-25~+7℃のガラス転移温度を有するように選択される。
【0097】
段階ii.の後に得られるポリマーは、好ましくは80~280nm、より好ましくは120~250nmの粒子径を有する。
【0098】
混合物(C)に存在するモノマーは、それから調製されるポリマーが-50~15℃、好ましくは-20~+12℃のガラス転移温度を有するように選択される。
【0099】
この混合物(C)のオレフィン性不飽和モノマーは、好ましくは、得られるポリマーが、シード、コア、及びシェルを含み、10~25の酸価を有するように選択される。したがって、この混合物(C)は、好ましくは、少なくとも1つのα-β不飽和カルボン酸、特に好ましくは(メタ)アクリル酸を含む。
【0100】
混合物(C)のオレフィン性不飽和モノマーは、さらに好ましくは、得られるポリマーが、シード、コア、及びシェルを含み、0~30、好ましくは10~25のOH数を有するように選択される。前述の酸価及びOH数はすべて、全体的に採用されるモノマー混合物に基づいて計算される値である。
【0101】
特に好ましくは、モノマー混合物(C)は、少なくとも1つのα-β不飽和カルボン酸と、水酸基で置換されたアルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸の少なくとも1つのモノ不飽和エステルと、アルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸の少なくとも1つのモノ不飽和エステルとを含む。
【0102】
特に好ましくは、モノマー混合物(A)もモノマー混合物(B)又は(C)のいずれも、少なくとも1つの重合性二重結合を有するポリウレタンポリマーを含まない。
【0103】
その調製後、ポリマーは100~500nm、好ましくは125~400nm、非常に好ましくは130~300nmの粒子径を有し、及びまた-20~-5℃のガラス転移温度Tを有する。
【0104】
モノマー混合物の画分は、好ましくは、以下のように互いに調和している。それぞれの場合において、混合物(A)、(B)及び(C)の個々の量の合計に基づいて、混合物(A)の画分は0.1~10質量%であり、混合物(B)の画分は60~80質量%であり、混合物(C)の画分は10~30質量%である。
【0105】
本発明の文脈で水性分散体(wD-PAC)で特に好んで使用されるアニオン性ポリアクリレートは、以下のように反応させて調製することができる。
- ビニル芳香族モノマー50~85質量%、及びアルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステル15~50質量%の混合物(A)、
- ポリオレフィン性不飽和モノマー1~4質量%、アルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステル60~80質量%、及びビニル芳香族モノマー16~39質量%の混合物(B)、及び
- α-β不飽和カルボン酸8~15質量%、水酸基で置換されたアルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステル10~20質量%、及びアルキルラジカルを有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステルを65~82質量%の混合物(C)、
ここで、
i. まず混合物(A)が重合され、
ii. 次いで、i.の下で調製されたポリマーの存在下で混合物(B)が重合され、
そして
iii. その後、ii.の下で調製されたポリマーの存在下で混合物(C)が重合される。
【0106】
上記の質量%の数値は、それぞれ、混合物(A)又は(B)又は(C)の総質量に基づく。
【0107】
水性分散体(wD-PAC)は、好ましくは5.0~9.0、より好ましくは7.0~8.5、非常に好ましくは7.5~8.5のpHを有する。pHは、例えば以下でさらに特定されるような塩基の使用によって、調製自体の間一定に保たれてもよく、あるいはポリマーが調製された後に意図的に設定されてもよい。記載される段階i.~iii.は、好ましくは、pHの設定のために知られている酸又は塩基を添加することなく実施され、pHは、有機、窒素含有塩基、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸塩、及びまた前記物質の混合物の添加によって、ポリマーの調製後にのみ設定される。
【0108】
水性分散体(wD-PAC)の固形分含有量は、好ましくは15%~40%、より好ましくは20%~30%である。
【0109】
水性分散体(wD-PAC)は、好ましくは、分散体の総質量に基づいて、それぞれの場合において、55~75質量%、特に好ましくは60~70質量%の水の画分を含む。分散体(wD-PAC)の固形分と分散体(wD-PAC)中の水の画分のパーセンテージの合計が少なくとも80質量%、好ましくは少なくとも90質量%であることがさらに好ましい。順に好ましくは80~99質量%の範囲、特に90~97.5質量%である。この数値において、従来単位「%」しか有しない固形分含有量が「質量%」で報告されている。固形分含有量も最終的には質量百分率の数値で示すため、この表現形式は正当化される。例えば、分散体の固形分含有量が25%であり、水の含有量が70質量%の場合、固形分含有量と水の量の上記で定義されたパーセンテージの合計は95質量%になる。
【0110】
分散体(wD-PAC)は、したがって、非常に大きな部分が水と特定のポリマーで構成されており、具体的に有機溶剤のような環境に負荷のかかる成分は、わずかな割合でしか存在しないか、全く存在しない。
【0111】
水性ベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)の総質量に基づく1つ以上の分散体(wD-PAC)の画分は、好ましくは5~60質量%、より好ましくは10~50質量%、非常に好ましくは20~45質量%である。
【0112】
水性ベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)の総質量に基づく分散体(wD-PAC)に由来するポリマーの画分は、好ましくは1~24質量%、より好ましくは2.5~20.0質量%、非常に好ましくは3~18.0質量%である。
【0113】
ベースコート材料中での本発明の使用のための分散体(wD-PAC)に由来するポリマーの画分の決定又は特定は、ベースコート材料中で使用される分散体(wD-PAC)の固形分(不揮発性画分又は固形分画分とも呼ばれる)の決定を介して行われてもよい。
【0114】
特定の比例範囲にある好ましい分散体(wD-PAC)を含むベースコート材料への可能な粒子化の場合は、以下が適用される。好ましい群に属さない分散体(wD-PAC)は、もちろん、ベースコート材料中にまだ存在し得る。その場合、該特定の比例範囲は、好ましい群の分散物(wD-PAC)にのみ適用される。それにもかかわらず、好ましい群からの分散物と好ましい群の一部ではない分散物からなる分散物の総比率(wD-PAC)は、同様に特定の比例範囲に従うことが好ましい。
【0115】
したがって、10から50質量%の比例範囲及び好ましい分散体の群(wD-PAC)に制限されている場合、この比例範囲は、明らかに最初は、分散体の好ましい群(wD-PAC)にのみ適用される。しかし、その場合には、好ましい群からの分散物及び好ましい群の一部でない分散物からなる、最初に包含された全分散物の合計存在量が、同様に10から50質量%で存在することが好ましい。したがって、好ましい群の分散物(wD-PAC)を35質量%使用する場合、好ましくない群の分散物は15質量%以下で使用され得る。
【0116】
本発明の目的のための既述した原理は、ベースコート材料のすべての既述の成分及びそれらの比例範囲、例えば、以下後述する顔料、又はメラミン樹脂などの後述の架橋剤に対して有効である。
【0117】
水性ベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)、特にすべてのベースコート材料(bL2-x)は、好ましくはそれぞれ、分散体(wD-PAC)中に存在するアニオン性ポリアクリレートとは異なるバインダーとして少なくとも1つのポリマー、より具体的には、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリレート及び/又は前述したポリマーのコポリマーからなる群から選択される少なくとも1つのポリマー、より具体的には、ポリエステル及び/又はポリウレタンポリアクリレートをさらに含む。好ましいポリエステルは、例えば、DE4009858A1、第6コラム第53行目から第7コラム第61行目、及び第10コラム第24行目から第13コラム第3行目、又はWO2014/033135A2、2頁24行目から7頁10行目、及び28頁13行目から29頁13行目に記載されている。好ましいポリウレタン-ポリアクリレートコポリマー(アクリル化ポリウレタン)及びその調製は、例えば、WO91/15528A1、3頁21行目から20頁33行目、及びDE4437535A1、2頁27行目から6頁22行目に記載されている。バインダーとして記載されたポリマーは、好ましくはヒドロキシ官能性であり、特に好ましくは15~200mgKOH/g、より好ましくは20~150mgKOH/gの範囲のOH数を有する。ベースコート材料は、より好ましくは、少なくとも1つのヒドロキシ官能性ポリウレタン-ポリアクリレートコポリマー、さらに好ましくは、少なくとも1つのヒドロキシ官能性ポリウレタン-ポリアクリレートコポリマー及び少なくとも1つのヒドロキシ官能性ポリエステルを含む。
【0118】
バインダーとしてのさらなるポリマーの割合は大きく変化してもよく、それぞれの場合、ベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)の総質量に基づいて、好ましくは1.0~25.0質量%、より好ましくは3.0~20.0質量%、非常に好ましくは5.0~15.0質量%の範囲にある。
【0119】
本発明による使用するためのベースコート材料(b2La)及び(bL2-x)、より好ましくはすべてのベースコート材料(bL2-x)は、好ましくはそれぞれ少なくとも1つの顔料を含む。ここで、色及び/又は光学効果を付与する従来の顔料が参照される。
【0120】
このような色顔料及び効果顔料は、当業者に公知であり、例えば、Roempp-Lexikon Lacke und Druckfarben,Georg Thieme Verlag,Stuttgart,New York,1998,176頁及び451頁に記載されている。「着色顔料」及び「色顔料」という用語は、「光学効果顔料」及び「効果顔料」という用語と同様に置き換え可能である。
【0121】
好ましい効果顔料は、例えば、層状アルミニウム顔料などの小板状金属効果顔料、ゴールドブロンズ、酸化ブロンズ及び/又は酸化鉄-アルミニウム顔料、パールエッセンスなどの真珠光沢顔料、塩基性炭酸鉛、オキシ塩化ビスマス及び/又は金属酸化物-マイカ顔料及び/又は層状グラファイトなどの他の効果顔料、層状酸化鉄、PVD膜を含む多層効果顔料及び/又は液晶ポリマー顔料である。特に好ましいのは、層状金属効果顔料であり、より具体的には、層状アルミニウム顔料である。
【0122】
典型的な色顔料は、特に、二酸化チタン、亜鉛白、硫化亜鉛、又はリトポンなどの白色顔料などの無機着色顔料;カーボンブラック、鉄マンガンブラック、又はスピネルブラックブラック顔料などの黒色顔料;酸化クロム、酸化クロム水和物グリーン、コバルトグリーン又はウルトラマリングリーン、コバルトブルー、ウルトラマリンブルー又はマンガンブルー、ウルトラマリンバイオレット又はコバルトバイオレット及びマンガンバイオレット、赤色酸化鉄、スルホセレン化カドミウム、モリブデートレッド又はウルトラマリンレッドなどの有彩顔料;褐色酸化鉄、ミックスブラウン、スピネル相及びコランダム相又はクロムオレンジ;又は黄色酸化鉄、ニッケルチタンイエロー、クロムチタンイエロー、硫化カドミウム、硫化カドミウム亜鉛、クロムイエロー又はバナジン酸ビスマスを含む。
【0123】
顔料の画分は、それぞれの場合において水性ベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)の総質量に基づいて、好ましくは1.0~40.0質量%、好ましくは2.0~35.0質量%、より好ましくは5.0~30.0質量%の範囲にある。
【0124】
ベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)、より具体的にすべてのベースコート材料(bL2-x)は、それぞれの場合に、それ自体公知の少なくとも1つの典型的な架橋剤をさらに含んでいてもよい。ベースコート材料が架橋剤を含む場合、前記架橋剤は、好ましくは少なくとも1つのアミノプラスト樹脂及び/又は少なくとも1つのブロック化ポリイソシアネート、好ましくはアミノプラスト樹脂を含む。アミノプラスト樹脂の中でも、特にメラミン樹脂が好ましい。したがって、本発明の文脈において、ベースコート材料(bL2a)又はベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つ、好ましくは全てのベースコート材料(bL2-x)が、架橋剤として少なくとも1つのメラミン樹脂を含んでいることが好ましい。
【0125】
ベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)が架橋剤を含む場合、これらの架橋剤、より具体的にはアミノプラスト樹脂及び/又はブロック化ポリイソシアネート、非常に好ましくはアミノプラスト樹脂、及び、これらのうち好ましくはメラミン樹脂の割合は、それぞれの場合に、ベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)の総質量に基づいて、好ましくは0.5~20.0質量%、より好ましくは1.0~15.0質量%、非常に好ましくは1.5~10.0質量%の範囲である。
【0126】
ベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)、より具体的にはすべてのベースコート材料(bL2-x)は、さらに、それぞれが少なくとも1つの増粘剤を含んでいてもよい。適切な増粘剤は、リチウムアルミニウムマグネシウムケイ酸塩のようなフィロケイ酸塩からなる群からの無機増粘剤である。同様に、ベースコート材料は、好ましくは、少なくとも1つの有機増粘剤、例えば(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリレートコポリマー増粘剤又はポリウレタン増粘剤を含み得る。ここで使用されるのは、例えば公知の会合性ポリウレタン増粘剤のような従来の有機会合性増粘剤であってもよい。会合性増粘剤は、公知のように、鎖末端又は側鎖に強い疎水性基を有し、及び/又はその親水性鎖がその内部に疎水性ブロック又は濃度を含む水溶性ポリマーと称される。その結果、これらのポリマーは、界面活性剤の性質を有し、水相中でミセルを形成することができる。界面活性剤と同様に、親水性領域は水相中に残る一方、疎水性領域は、ポリマー分散体の粒子内に入り、顔料及び/又は充填剤のような他の固体粒子の表面に吸着し、及び/又は水相中にミセルを形成する。最終的には、沈降挙動を増加させることなく、増粘効果が得られる。
【0127】
記載された増粘剤は市販されている。増粘剤の割合は、それぞれの場合においてベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)の総質量に基づいて、好ましくは0.1~5.0質量%、より好ましくは0.2~3.0質量%、非常に好ましくは0.3~2.0質量%の範囲にある。
【0128】
さらに、ベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)、より具体的にはすべてのベースコート材料(bL2-x)は、さらにそれぞれ少なくとも1つのアジュバントを含んでよい。そのようなアジュバントの例としては、残渣なしに又は実質的に残渣なしに熱分解可能な塩、物理的に熱的に及び/又は活性エネルギー線で硬化可能であり、かつバインダーとして既に述べたポリマーとは異なるポリマー、さらなる架橋剤、有機溶剤、反応性希釈剤、透明顔料、充填剤、分子分散溶解性染料、ナノ粒子、光安定剤、抗酸化剤、脱気剤、乳化剤、スリップ添加剤、重合阻害剤、ラジカル重合開始剤、接着促進剤、流量調整剤、膜形成補助剤、垂れ制御剤(SCA)、難燃剤、腐食防止剤、ワックス、乾燥剤、殺生剤、及びつや消し剤などである。このようなアジュバントは、慣用的で公知の量で使用される。
【0129】
ベースコート材料(bL2a)と(bL2-x)の固形分含有量は、それぞれのケースの要件に応じて変化する。固形分含有量は、主に、塗布、特にスプレー塗布に必要とされる粘度によって導かれる。特に有利には、本発明の使用のためのベースコート材料が、比較的高い固形分含有量に対してにもかかわらず、適切な塗布を可能にする粘度を有することができることである。
【0130】
ベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)の固形分含有量は、それぞれの場合、好ましくは少なくとも16.5%、より好ましくは少なくとも18.0%、さらに好ましくは少なくとも20.0%である。
【0131】
記載された条件の下で、換言すれば、記載された固形分含有量で、好ましいベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)は、それぞれ、23℃で1000/1秒の剪断荷重下、40~150mPa・s、より具体的には70~120mPa・sの粘度を有する(測定方法についてのさらなる詳細は、実施例の項を参照のこと)。本発明の目的では、記載の剪断荷重下でのこの範囲内の粘度を、噴霧粘度(作用粘度)と呼ぶ。周知のように、コーティング材料は、噴霧粘度に調整され、これは、その時に存在する条件(高剪断荷重)下で、効果的な塗布ができるように、特に高すぎない粘度を有することを意味する。つまり、スプレー法による塗料の塗布を可能にするために、及びコーティングされる基材上に完全で均一なコーティング膜を形成できるようにするためには、噴霧粘度の設定が重要であることを意味する。
【0132】
本発明の使用のためのベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)は、いずれの場合も水性である。ベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)の水の画分は、それぞれの場合において、ベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)の総質量に基づいて、好ましくは35~70質量%、より好ましくは45~65質量%である。
【0133】
さらに好ましくは、ベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)の固形分含有量と、ベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)の水の画分のパーセンテージの合計が、少なくとも70質量%、好ましくは少なくとも75質量%である。これらの数値の中で、75~95質量%、特に80~90質量%の範囲が好ましい。これは、特に、好ましいベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)が、ベースコート材料の固形分に関して、特に有機溶剤のような原理的に環境に負荷を与える成分を、低い割合でしか含まないことを意味する。ベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)の固形分含有量に対するベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)の揮発性有機画分(質量%)(上記の表現と類似で、ここでは質量%)の比は、好ましくは0.05から0.7、より好ましくは0.15から0.6である。本発明の文脈において、揮発性有機画分は、ベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)の水画分の一部でも固形分の一部でもない画分と考えられる。
【0134】
ベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)の別の利点は、それらが、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、及びN-エチル-2-ピロリドンなどの、環境に優しくなく健康を害する有機溶剤を使用せずに調製できることである。したがって、ベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)は、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、及びN-エチル-2-ピロリドンからなる群から選択される有機溶剤を、好ましくは10質量%未満、より好ましくは5質量%未満、さらに好ましくは2.5質量%未満含有する。ベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)は、好ましくは、これらの有機溶剤を完全に含まない。
【0135】
ベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)は、ベースコート材料の製造のために慣例的で知られている混合アセンブリ及び混合技術を用いて製造することができる。
【0136】
上で前述した本発明の方法の工程(2)の好ましい代替2では、第1ベースコート材料(bL2-a)が最初に塗布され、それは色準備ベースコート材料と呼ばれることもある。したがって、それは、その後に続く少なくとも1つの色及び/又は効果のベースコート膜のための基礎として機能し、これは、色及び/又は効果を付与するという機能を最適に果たすことができる膜である。
【0137】
1つの特定の実施形態では、色準備ベースコート材料(bL2-a)は、有彩顔料及び効果顔料を実質的に含まない。より具体的に、好ましくはこの種のベースコート材料は、それぞれの場合に、水性ベースコート材料(bL2-a)の総質量に基づいて、2質量%未満、好ましくは1質量%未満の有彩顔料及び効果顔料を含有する。この実施形態では、色準備ベースコート材料(bL2-a)は、好ましくは黒色顔料及び/又は白色顔料、特に好ましくはこれらの顔料の両方を含む。それは、それぞれの場合にベースコート材料(bL2-a)の総質量に基づいて、好ましくは5~30質量%、好ましくは10~25質量%の白色顔料、及び0.01~1.00質量%、好ましくは0.1~0.5質量%の黒色顔料を含む。結果として得られる白色、黒色、より具体的には、白色顔料と黒色顔料の比率によって異なる明度段階で調整することができる灰色は、その後に続くベースコート膜システムのための個々に適応可能な基礎を呈し、後続のベースコートシステムによって付与される色及び/又は効果が最適に表現されることを可能にする。顔料は当業者に知られており、上で前述したとおりである。ここで好ましい白色顔料は二酸化チタンであり、好ましい黒色顔料はカーボンブラックである。しかしながら、既に説明したように、このベースコート材料(bL2-a)は、もちろん、有彩顔料及び/又は効果顔料を含んでいてもよい。この変形は、特に、結果として得られるマルチコート塗装システムが、例えば非常に深い赤や黄色のような高い有彩色の色相を有するものである場合に適切である。適切な有彩色相の顔料が色準備ベースコート材料に添加される場合、さらなる改善された着色が達成され得る。
【0138】
本実施形態における第2ベースコート膜又は第2及び第3ベースコート膜のための色及び/又は効果のベースコート材料(bL2-b)及び(bL2-z)は、システム全体の最終的に所望される色に応じて適合される。白色、黒色又は灰色が所望の場合は、少なくとも1つのさらなるベースコート材料(bL2-b)又は(bL2-z)は、対応する顔料を含み、顔料組成に関しては、最終的には色準備ベースコート材料に類似する。有彩及び/又は効果塗装システム、例えば有彩色のソリッドカラー塗装システム又は金属効果塗装システムが所望の場合は、対応する有彩及び/又は効果顔料は、ベースコート材料(bL2-b)又は(bL2-z)の総質量に基づいて、例えば、1~15質量%、好ましくは3~10質量%の量で使用される。有彩顔料は色顔料の群に属し、後者はまた、黒色顔料又は白色顔料のような無彩顔料を包含する。この種のベースコート材料は、もちろん、明度適応の目的のために、黒色顔料及び/又は白色顔料も含むことができる。
【0139】
ベースコート(BL2a)及び(BL2-x)は、本発明の方法の工程(2)では硬化されない、これは、それらが好ましくは1分間より長い期間、100℃を超える温度にさらされず、特に好ましくは、100℃を超える温度に全くさらされないことを意味する。これは、以下に後述する本発明の方法の工程(4)から、直接的かつ明確に明らかである。ベースコートが工程(4)までは硬化されないため、それらは、工程(2)で、既に硬化されず、なぜなら、その場合、工程(4)での硬化はもはや不可能になるからである。ベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)は、工程(4)で行われた硬化後にベースコート(BL2a)及び個々のベースコート(BL2-x)がそれぞれ、例えば、5~50マイクロメートル、好ましくは6~40マイクロメートル、特に好ましくは7~35マイクロメートルの膜厚を有するように、塗布される。工程(2)の代替1の場合、15~50マイクロメートル、好ましくは20~45マイクロメートルのより厚い膜厚を有するベースコート(BL2a)が好ましくは生成される。工程(2)の代替2の場合、個々のベースコート(BL2-x)は、システム全体と比較してより薄い膜を有する傾向があり、1つのベースコート(BL2a)の大きさの桁内にある膜厚を有する。2つのベースコートの場合、例えば、第1ベースコート(BL2-a)は、好ましくは5~35マイクロメートル、より好ましくは10~30マイクロメートルの膜厚を有し、第2ベースコート(BL2-z)は、好ましくは5~35マイクロメートル、より好ましくは10~30マイクロメートルの膜厚を有し、全体の膜厚は50マイクロメートルを超えない。
【0140】
ベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)を塗布する前に、本発明にしたがって、少なくとも1つの水性分散体と混合される。本発明の方法の第1代替A1によれば、水性分散体(D1)は、分散体(D1)の固形分含有量に基づいて、15~60mgKOH/gの酸価を有するポリアミド(PA)を含む。第2代替A2は、少なくとも1つのポリアミド(PA)及び少なくとも1つのアミドワックス(AW)を含む水性分散体(D2)を使用する。この場合、水性分散体(D1)又は(D2)がベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)と均一に混合されることができることが特に好ましく、なぜなら、これのみが、達成されるタレ抵抗性が十分であり、したがって、スランプが防止されることを確実にするからである。本発明による均一な混合は、水性分散体(D1)又は(D2)をベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)に添加した後に、及びさらに層流混合を行った後に、巨視的スケールで一相混合物が得られることを意味する。
【0141】
本発明の文脈において、特定のポリアミド(PA)が水性分散体(D1)又は(D2)中に存在すると有利であることが証明された。有利に本発明によれば、以下で特定されるポリアミド(PA)が、分散体(D1)及び分散体(D2)の両方に存在する。したがって、本発明の好ましい実施形態では、水性分散体(D1)及び(D2)は、少なくとも1つのポリアミド(PA)を含み、該少なくとも1つのポリアミド(PA)は、以下のものの反応生成物である。
- 2~34個の炭素原子を有するジアミンと
- ジアミンに基づいて、4~36個の炭素原子、好ましくは6~36個の炭素原子を有するジカルボン酸、又は4~36個の炭素原子、好ましくは6~36個の炭素原子を有するジカルボン酸と、2~22個の炭素原子、好ましくは12~18個の炭素原子を有するモノカルボン酸との混合物のモル過剰量。
【0142】
2~34個の炭素原子を有する適切なジアミンは、例えば、エチレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,11-ウンデカメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ダイマージアミン、及びそれらの混合物の群から選択される。ポリアミド(PA)の調製に使用するために特に好ましいのは、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ダイマージアミンである。ダイマージアミンは、34個以下の炭素原子を有する二量体脂肪酸とアンモニアと反応させ、得られたニトリル基を水素化してアミン基を形成することにより得られる。
【0143】
二量体脂肪酸(長い間、二量体化脂肪酸又は二量体酸としても知られている)は、一般に、そして特に本発明の文脈では、不飽和脂肪酸のオリゴマー化によって調製される混合物である。それらは、例えば、植物由来の不飽和脂肪酸の触媒的二量化によって調製可能であり、不飽和C12~C22脂肪酸が特に出発物質として使用される。結合は主としてDiels-Alder型に従って進行し、二量体脂肪酸を調製するために使用される脂肪酸中の二重結合の数及び位置に応じて、シクロ脂肪族、直鎖脂肪族、分岐脂肪族、及びカルボキシル基間にC-芳香族炭化水素基を有する主に二量体生成物の混合物中で生じる。反応機構及び/又は任意のその後の水素化に応じて、脂肪族ラジカルは飽和又は不飽和であってもよく、同様に芳香族基の割合は変化してもよい。次いで、カルボキシル基間のラジカルは、例えば24~44個の炭素原子を含む。好ましくは、調製のために、18個の炭素原子を有する脂肪酸を使用し、これは二量体生成物がこのように36個の炭素原子を有することを意味する。好ましくは、二量体脂肪酸のカルボキシル基を連結するラジカルは、不飽和結合を有さず、芳香族炭化水素ラジカルを有さない。
【0144】
反応レジームに応じて、上記の同定されたオリゴマー化は、主に二量体分子を含むが、三量体分子及びモノマー分子及び他の副生成物をも含む混合物を生成する。精製は、典型的には蒸留手段によって行われる。市販の二量体脂肪酸は、一般に、少なくとも80質量%の二量体分子、19質量%までの三量体分子、及び1質量%以下のモノマー分子及び他の副生成物を含む。
【0145】
好ましく用いられる二量体脂肪酸は、二量体脂肪酸分子の少なくとも90質量%、好ましくは少なくとも95質量%、非常に特に好ましくは少なくとも98質量%の範囲からなるものである。
【0146】
本発明の意味では、好ましくは、少なくとも90質量%の二量体分子、5質量%未満の三量体分子、及び5質量%未満のモノマー分子及びその他の副生成物の範囲からなる二量体脂肪酸を使用する。特に好ましくは、95~98質量%の二量体分子、5質量%未満の三量体分子、及び1質量%未満のモノマー分子及びその他の副生成物の範囲からなる二量体脂肪酸を使用する。同様に、特に好ましく使用されるのは、二量体脂肪酸であり、該二量体脂肪酸は、少なくとも98質量%の二量体分子、1.5質量%未満の三量体分子、及び0.5質量%未満のモノマー分子及びその他の副生成物の範囲からなる。二量体脂肪酸中のモノマー分子、二量体分子及び三量体分子の割合、ならびに他の副生成物の割合は、例えばガスクロマトグラフィー(GC)により決定してもよい。この場合、GC分析の前に、二量体脂肪酸は、三フッ化ホウ素法(比較DIN EN ISO 5509)により対応するメチルエステルに変換され、次いでGC分析される。
【0147】
使用する二量体脂肪酸は、市販品として入手することができる。例としては、Oleon社製のRadiacid 0970、Radiacid 0971、Radiacid 0972、Radiacid 0975、Radiacid 0976、及びRadiacid 0977、Croda社製のPripol 1006、Pripol 1009、Pripol 1012及びPripol 1013、BASF社製のEmpol 1008、Empol 1061及びEmpol 1062、ならびにArizona Chemical社製のUnidyme 10及びUnidyme TIなどが挙げられる。
【0148】
4から36個の炭素原子を有する適切なジカルボン酸は、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、イソフタル酸、ダイマー脂肪酸、及びそれらの混合物の群から選択される。ポリアミド(PA)の調製に使用するために特に好ましいのは、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、及びダイマー脂肪酸である。
【0149】
2~22個の炭素原子を有する適切なモノカルボン酸は、好ましくは、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、及びそれらの混合物からなる群から選択される。ポリアミド(PA)の調製に使用するのに特に好ましいのは、カプリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、及びラウリン酸である。
【0150】
特に好ましく使用される水性分散体(D1)及び(D2)において、したがって、少なくとも1つのポリアミド(PA)は、以下の反応生成物である。
- 2~34個の炭素原子を有するジアミン、より具体的には、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、及びダイマージアミン、及び
- ジアミンに基づいて、4~36個の炭素原子、好ましくは6~36個の炭素原子、より具体的には、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸及び二量体脂肪酸を有するジカルボン酸、及び/又は2~22個の炭素原子、好ましくは12~18個の炭素原子、より具体的には、カプリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸及びラウリン酸を有するモノカルボン酸のモル過剰量である。
【0151】
好ましいポリアミド(PA)を含む水性分散体(D1)又は(D2)を添加することにより、水性ベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)のベースコートからのスランプを特に効果的に回避することができる。
【0152】
本発明の第1代替A1によれば、使用されるポリアミド(PA)は、15~60mgKOH/gの酸価を有する。本発明の文脈において特に好ましくは、ポリアミド(PA)は、20~50mgKOH/gの酸価を有する。当業者は、酸価を決定するための方法を知っている。好ましくは、酸価は、DIN EN ISO 2114(日付:2002年6月)にしたがって決定される。ポリアミド(PA)の酸価は、特に反応後に得られるポリアミド(PA)と、少なくとも1つの中和剤とを、好ましくは使用される中和剤の量を介して接触反応させることにより、制御され、調整され得る。驚くべきことに、15mgKOH/g超の酸価を有するポリアミド(PA)を含む水性分散体(D1)の使用のみが、下にあるコートからのベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)のスランプの防止を生じることが明らかになった。酸価が15mgKOH/g未満のポリアミド(PA)を含む水性分散体は、逆に、水性ベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)に均一に混ぜることができず、したがって、スランプの防止にもつながらない。
【0153】
本発明の文脈で好ましい分散体(D1)及び(D2)は、中和されたポリアミド(PA)を含む。したがって、ポリアミド(PA)が、塩基、好ましくはN,N-ジメチルエタノールアミン又はトリエチルアミンで80%~100%の範囲で中和されていると、本発明によれば有利である。
【0154】
特に好ましくは、定義されたポリアミド(PA)の固形分を有する水性分散体(D1)を使用する。第1代替A1の好ましい実施形態では、水性分散体(D1)は、水性分散体(D1)の総質量に基づいて、21~25質量%の固形分を有する。驚くべきことに、上記の固形分含有量を有する水性分散体(D1)の使用のみが、下にあるコートからのベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)のスランプの防止を生じることが明らかになった。逆に、固形分が低い水性分散体は、水性ベースコート材料(bL2a)や(bL2-x)に均一に混ぜることができず、したがって、スランプの防止にもならない。
【0155】
ポリアミド(PA)、特に上記の好ましいポリアミド(PA)を生成するための方法は、当業者に知られている。したがって、ポリアミド(PA)は、ジアミンを過剰のジカルボン酸及び/又はモノカルボン酸と150~200℃の温度で2~10時間反応させることによって得ることができる。必要に応じて、例えばキシレンなどの共沸溶媒を使用してもよい。
【0156】
第2代替A2によれば、水性分散体(D2)は、少なくとも1つのポリアミド(PA)、より具体的には上記の特定のポリアミド(PA)だけでなく、少なくとも1つのアミドワックス(AW)をも含む。有利には、特定のアミドワックス(AW)は、本発明によれば存在する。したがって、本発明よれば、水性分散体(D2)が少なくとも1つのアミドワックス(AW)を含み、該アミドワックス(AW)が、以下のものの反応生成物である場合が好ましい。
- 2~22個の炭素原子、好ましくは12~18個の炭素原子を有するモノカルボン酸、及び
- 2~12個の炭素原子、好ましくは2~8の炭素原子を有するジアミン、及び/又は2~22の炭素原子、好ましくは2~16の炭素原子を有するモノアミン。
【0157】
2~22個の炭素原子を有する適切なモノカルボン酸は、好ましくは、ポリアミド(PA)に関連して上述したモノカルボン酸である。特に好ましくは、12-ヒドロキシステアリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、及びラウリン酸が使用される。
【0158】
2~12個の炭素原子を有する適切なジアミンは、例えば、エチレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、メタ-キシリレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,11-ウンデカメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、及びそれらの混合物の群から選択される。特に適切なジアミンは、メタキシリレンジアミン、エチレンジアミン、及びヘキサメチレンジアミンである。2~22個の炭素原子を有する適切なモノアミンは、エチルアミン、モノエタノールアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン、及びそれらの混合物の群から選択される。使用に特に好ましいのは、セチルアミン及びモノエタノールアミンである。
【0159】
特に好ましく使用される水性分散体(D2)では、したがって、少なくとも1つのアミドワックス(AW)は、以下のものの反応生成物である。
- 2~22個の炭素原子、好ましくは12~18個の炭素原子を有するモノカルボン酸、特に12-ヒドロキシステアリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、及び
- 2~12個の炭素原子、好ましくは2~8個の炭素原子を有するジアミン、特にメタキシリレンジアミン、エチレンジアミン、及びヘキサメチレンジアミン、及び/又は炭素原子数が2~22個の炭素原子、好ましくは2~16個の炭素原子を有するモノアミン、特にセチルアミン及びまたモノエタノールアミン。
【0160】
アミドワックス(AW)、特に上記の好ましいアミドワックス(AW)を調製するための方法は、当業者に知られている。したがって、アミドワックス(AW)は、モノカルボン酸をジアミン及び/又はモノアミンと150~200℃の温度で2~10時間反応させることによって得ることができる。必要に応じて、例えばキシレンなどの共沸溶媒を使用してよい。
【0161】
本発明によれば、好ましくは、さらに、水性分散体(D2)において、ポリアミド(PA)及びアミドワックス(AW)が特定の質量比で使用される。したがって、本発明の好ましい実施形態では、水性分散体(D2)は、ポリアミド(PA)とアミドワックス(AW)との質量比が95:5から40:60、好ましくは80:20から45:55である。上記のポリアミド(PA)とアミドワックス(AW)の質量比を有する水性分散体(D2)を添加することにより、下にあるコートからの水性ベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)のスランプを特に効果的に防止することができる。
【0162】
水性分散体(D1)又は(D2)を生成するために、中和されたポリアミン(PA)又は中和されたポリアミド(PA)とアミドワックス(AW)の混合物を水に分散させる。分散を容易にするために、水は少量の有機溶剤、例えば脂肪族、脂環式及び芳香族炭化水素、ケトン、エステル、アルコール、及びエーテル等を含んでよい。さらに、2~22個の炭素原子を有するモノカルボン酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、及びそれらの混合物が存在していてもよい。さらに、非イオン性界面活性剤、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン-ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン-オキシプロピレンコポリマー、及び硬化ヒマシ油、及び/又は、アニオン性界面活性剤、例えばアルキル脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、リン酸エステルなどが、ポリアミド(PA)、又はポリアミド(PA)とアミドワックス(AW)の混合物の水への分散を容易にするために使用されてよい。
【0163】
ポリアミド(PA)又はポリアミド(PA)とアミドワックス(AW)の混合物の水性分散体(D1)又は(D2)の生成は、有機溶剤中のポリアミド(PA)又はポリアミド(PA)とアミドワックス(AW)の混合物の中和溶液を、水及び任意に界面活性剤の加熱溶液に添加することによって達成され得る。水溶液は、30~80℃の温度を有することが好ましい。さらに、調製された水性分散体(D1)又は(D2)を、70~90℃で20~24時間の期間にわたって加熱することを考慮してもよい。
【0164】
水性分散体(D1)又は(D2)は、ベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)の固形分含有量を基準として、好ましくは、それぞれの場合において、0.05~1.0質量%の総質量で使用される。上記の量を使用することにより、スランプを効果的に防止することができつつ、ベースコート材料の高剪断粘度及び低剪断粘度に悪影響を及ぼすことない。
【0165】
本発明の特に好ましい一実施形態によれば、水性分散体(D1)又は(D2)は、特定のベースコート材料に添加される。したがって、本発明によれば、水性分散体(D1)又は(D2)が、第1コート(S1)に直接塗布されるベースコート材料(bL2a)又は(bL2-a)に添加される場合が、特に有利である。上記で観察されるように、このようにしてプライマーコートが置き換えられるため、このベースコート材料は、より厚い膜厚を有する。厚い膜厚の結果として、このベースコート(BL2a)又は(BL2-a)は、フラッシュオフされた後も依然として多量の残留水分を含んでいる。ウエットクリアコート材料(k)又は更なるベースコート材料(bL2-b)又は(bL2-z)の塗布に続いて、第1ベースコート(BL2a)又は(BL2-a)が部分的に溶解し、基材(S)からスランプする場合がある。水性分散体(D1)又は(D2)を第1ベースコート材料(bL2a)又は(bL2-a)に添加することにより、厚い膜厚であっても、また、更なるコートの湿式塗布時にも、このベースコート材料のスランプを確実に防止する。
【0166】
本発明によれば、水性分散体(D1)又は(D2)は、マルチコート塗装システムの製造中、及び対応するベースコート材料の塗布の直前に、ベースコート材料(BL2a)又は(BL2-x)に直接添加される。しかしながら、分散体(D1)又は(D2)の不必要な添加を避けるために、本発明によれば、マルチコート塗装システムの製造方法中でスランプが発生した後にのみ、この分散体をベースコート材料に添加するのが好ましい。したがって、本発明の特に好ましい一実施形態では、水性分散体(D1)又は(D2)は、ベースコート(BL2)又はベースコート(BL2-x)の少なくとも1つのスランプが確立した後に添加され、水性分散体(D1)又は(D2)は、下のコートからスランプしたそのベースコート材料(bL2a)又はベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つに添加される。マルチコート塗装システムの製造中にベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)を後添加することにより、発生するスランプ効果を確実かつ安価に除去することができつつ、ベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)の粘度、ならびに結果として得られるマルチコート塗装システムの機械的及び光学的特性に悪影響を及ぼすことはない。
【0167】
工程(3):
本発明の方法の工程(3)では、クリアコート膜(K)が、ベースコート膜(BL2a)又は最上部のベースコート膜(BL2-z)上に直接生成される。この生成は、クリアコート材料(k)の対応する塗布によって達成される。
【0168】
クリアコート材料(k)は、この意味で当業者に知られている任意の所望の透明なコーティング材料であってよい。「透明」とは、コーティング材料を用いて形成された膜が不透明に着色されているのではなく、その代わりに、下にあるベースコートシステムの色が見えるような構成を有することを意味する。知られているように、しかしながら、これは、クリアコート材料中への微量の顔料の混入の可能性を除外するものではなく、そのような顔料は、例えば、システム全体の色の深さを支える可能性がある。
【0169】
問題のコーティング材料は、水性又は溶媒含有の透明コーティング材料であり、それは一成分コーティング材料としてだけでなく、二成分コーティング材料又は多成分コーティング材料として配合されてもよい。さらに、同様に適切なのは、粉末スラリー状のクリアコート材料である。溶剤型クリアコート材料が好ましい。
【0170】
使用されるクリアコート材料(k)は、特に、熱化学的硬化性及び/又は光活性化学的硬化性であってもよい。特に、それらは熱化学的に硬化可能であり、かつ外部架橋性である。
【0171】
典型的に、好ましくは、したがって、クリアコート材料は、官能基を有するバインダーとしての少なくとも1つの(第1)ポリマーと、バインダーの官能基に相補的な官能性を有する少なくとも1つの架橋剤とを含む。好ましくは、少なくとも1つのヒドロキシ官能性ポリ(メタ)アクリレートポリマーがバインダーとして使用され、架橋剤として遊離ポリイソシアネートが使用される。
【0172】
適切なクリアコート材料は、例えば、WO2006042585A1、WO2009077182A1、又は他のWO200807490A1に記載されている。
【0173】
クリアコート材料(k)は、液状コーティング材料を塗布するための当業者に知られた方法、例えば、ディッピング、ナイフコーティング、スプレー、ローリングなどの方法で塗布される。好ましくは、例えば、圧縮空気噴霧(空気圧塗布)、静電スプレー塗布(ESTA)などのスプレー塗布方法を採用する。
【0174】
クリアコート材料(k)又は対応するクリアコート膜(K)は、好ましくは15~35℃で0.5~30分間の持続時間で、塗布後にフラッシング及び/又は中間乾燥を受ける。これらのフラッシング及び中間乾燥条件は、特に、クリアコート材料(k)が熱化学的に硬化可能な二液性コーティング材料を含む好ましい場合に適用される。しかし、これは、クリアコート材料(k)が他の硬化性コーティング材料であること、及び/又は他のフラッシング及び/又は中間乾燥条件が使用されることを除外するものではない。
【0175】
クリアコート材料(k)は、工程(4)で行われる硬化後のクリアコート膜が、例えば15~80μm、好ましくは20~65μm、特に好ましくは25~60μmの膜厚を有するように塗布される。
【0176】
本発明の方法では、もちろん、さらなるコーティング材料、例えばクリアコート材料(k)の塗布後に追加のクリアコート材料を塗布すること、及びこのようにして更なるコーティング膜、例えば更なるクリアコート膜が生成されることを除外するものではない。そのようなさらなるコーティング膜は、次に、以下に説明する段階(4)において同様に硬化される。しかしながら、好ましくは、1つのクリアコート材料(k)のみが塗布され、その後、後述する段階(4)において同様に硬化される。
【0177】
工程(4):
本発明の方法の工程(4)では、ベースコート膜(BL2a)とクリアコート膜(K)、又はベースコート膜(BL2-x)とクリアコート膜(K)の共同硬化がある。
【0178】
共同硬化は、好ましくは100~250℃、より好ましくは100~180℃の温度で、5~60分、より好ましくは10~45分の持続時間で行われる。これらの硬化条件は、特に、ベースコート膜(BL2a)又はベースコート膜(BL2-x)の少なくとも1つ、好ましくはすべてのベースコート膜(BL2-x)が熱化学的に硬化可能な一成分コーティング材料に基づく好ましい場合に適用される。その理由は、上述したように、このような条件は、一般に、この種の一成分コーティング材料の上述したような硬化を達成するために必要だからである。クリアコート材料(k)が、例えば、同様に熱化学的に硬化可能な一成分コーティング材料である場合、対応するクリアコート膜(K)は、当然ながら、同様にこれらの条件で硬化される。クリアコート材料(k)が熱化学的に硬化可能な二成分コーティング材料である好ましい場合も同様であることは明らかである。
【0179】
しかしながら、上記の記載は、ベースコート材料(bL2a)及び(bL2-x)、ならびにクリアコート材料(k)が、他の硬化性コーティング材料であること、及び/又は他の硬化条件が使用されることを除外するものではない。
【0180】
本発明の方法の工程(4)終了後の結果が、本発明のマルチコート塗装システムとなる。
【0181】
本発明の方法は、別個の硬化工程なしに基材上にマルチコート塗装システムを生成することを可能にする。それにもかかわらず、本発明の方法を適用することは、ピンホールに対して優れた安定性を示すマルチコート塗装システムをもたらし、これは、対応するベースコート膜が比較的高い膜厚であっても、審美的品質を損なうことなく組み立てることができることを意味する。さらに、本発明の方法では、スランプの発生を効果的に除外することができつつ、マルチコート塗装システムの機械的又は光学的特性、又は水性分散体と混合されたベースコート材料の粘度に悪影響を及ぼすことはない。
【0182】
本発明は、特に以下の実施形態によって説明される。
【0183】
第1の実施形態によれば、本発明は、基材(S)上にマルチコート塗装システム(M)を製造するための方法に関し、該方法は、
(1)組成物(Z1)を基材(S)に塗布し、続いて前記組成物(Z1)を硬化させることにより、前記基材(S)上に硬化した第1コート(S1)を任意に生成することと、
(2)前記第1コート(S1)に水性ベースコート材料(bL2a)を直接塗布することにより、又は前記第1コート(S1)に2つ以上の水性ベースコート材料(bL2-x)を直接連続塗布することにより、前記第1コート(S1)上に直接ベースコート(BL2a)又は2つ以上の直接連続のベースコート(BL2-x)を生成することと、
(3)前記ベースコート(BL2a)上又は最上部の前記ベースコート(BL2-z)上にクリアコート材料(kL)を直接塗布することにより、前記ベースコート(BL2a)上又は前記最上部のベースコート(BL2z)上に直接クリアコート(K)を生成することと、
(4)前記ベースコート(BL2a)と前記クリアコート(K)、又は前記ベースコート(BL2-x)と前記クリアコート(K)を共同で硬化させることと、
を含み、前記少なくとも1つのベースコート材料(bL2a)又は前記ベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つは、塗布の直前に、
- 15~60mgKOH/gの酸価を有する少なくとも1つのポリアミド(PA)を含む水性分散体(D1)と、
- 少なくとも1つのポリアミド(PA)と少なくとも1つのアミドワックス(AW)を含む水性分散体(D2)と、混合される。
【0184】
第2実施形態によれば、本発明は、基材(S)が金属基材、プラスチック、及びそれらの混合物から選択され、より具体的には金属基材から選択される、実施形態1に記載の方法に関する。
【0185】
第3実施形態によれば、本発明は、組成物(Z1)が、基材(S)に電気泳動的に塗布されるエレクトロコート材料(ETL1)を含む、実施形態1又は2に記載の方法に関する。
【0186】
第4実施形態によれば、本発明は、水性ベースコート材料(BL2-a)を第1コート(S1)に直接塗布し、その後、さらなる水性ベースコート材料(bL2-z)を第1ベースコート(bL2-a)に直接続いて塗布することにより、硬化した第1コート(S1)上に2つの直接連続したベースコート(BL2-a)及び(BL2-z)を生成する、先行する実施形態のいずれかに記載の方法に関する。
【0187】
第5実施形態によれば、本発明は、ベースコート材料(bL2a)又はベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つ、好ましくは全てのベースコート材料(bL2-x)が一成分コーティング材料である、先行する実施形態のいずれかに記載の方法に関する。
【0188】
第6実施形態によれば、本発明は、ベースコート材料(bL2a)又は少なくとも1つのベースコート材料(bL2-x)、好ましくはすべてのベースコート材料(bL2-x)が、ヒドロキシ官能性ポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリレート、及びこれらのポリマーのコポリマーの群から選択される少なくとも1つのポリマーをバインダーとして含む、先行する実施形態のいずれかに記載の方法に関する。
【0189】
第7実施形態によれば、本発明は、ベースコート材料(bL2a)又はベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つ、好ましくはすべてのベースコート材料(bL2-x)が、少なくとも1つの色及び/又は効果顔料を含む、先行する実施形態のいずれかに記載の方法に関する。
【0190】
第8実施形態によれば、本発明は、ベースコート材料(bL2a)又はベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つ、好ましくは全てのベースコート材料(bL2-x)が、架橋剤として少なくとも1つのメラミン樹脂を含んでいる、先行する実施形態のいずれかに記載の方法に関する。
【0191】
第9実施形態によれば、本発明は、水性分散体(D1)及び(D2)中の少なくとも1つのポリアミド(PA)が、
- 2~34個の炭素原子を有するジアミンと
- 前記ジアミンに基づいて、4~36個の炭素原子、好ましくは6~36個の炭素原子を有するジカルボン酸、又は4~36個の炭素原子、好ましくは6~36個の炭素原子を有するジカルボン酸と、2~22個の炭素原子、好ましくは12~18個の炭素原子を有するモノカルボン酸の混合物のモル過剰量、
の反応生成物である、先行する実施形態のいずれかに記載の方法に関する。
【0192】
第10実施形態によれば、本発明は、水性分散体(D1)中のポリアミド(PA)が、20~50mgKOH/gの酸価を有する、先行する実施形態のいずれかに記載の方法に関する。
【0193】
第11実施形態によれば、本発明は、分散体(D1)及び(D2)中のポリアミド(PA)が、塩基、好ましくはN,N-ジメチルエタノールアミン又はトリエチルアミンによって80%~100%の範囲で中和される、先行する実施形態のいずれかに記載の方法に関する。
【0194】
第12実施形態によれば、本発明は、水性分散体(D1)が、該水性分散体(D1)の総質量に基づいて、21~25質量%の固形分を有する、先行する実施形態のいずれかに記載の方法に関する。
【0195】
第13実施形態によれば、本発明は、水性分散体(D2)中の少なくとも1つのアミドワックス(AW)が、
- 2~22個の炭素原子、好ましくは12~18個の炭素原子を有するモノカルボン酸、及び
- 2~12個の炭素原子、好ましくは2~8の炭素原子を有するジアミン、及び/又は2~22の炭素原子、好ましくは2~16の炭素原子を有するモノアミン、
の反応生成物である、先行する実施形態のいずれかに記載の方法に関する。
【0196】
第14実施形態によれば、本発明は、水性分散体(D2)が、95:5から40:60、好ましくは80:20から45:55のポリアミド(PA)とアミドワックス(AW)の質量比を有している、先行する実施形態のいずれかに記載の方法に関する。
【0197】
第15実施形態によれば、本発明は、水性分散体(D1)又は(D2)が、第1コート(S1)に直接塗布されるベースコート材料(bL2a)又は(bL2-a)に添加される、先行する実施形態のいずれかに記載の方法に関する。
【0198】
第16実施形態によれば、本発明は、水性分散体(D1)又は(D2)が、ベースコート材料(bL2a)又は(bL2-x)の固形分含有量を基準として、それぞれの場合において、0.05~1.0質量%の総量で添加される、先行する実施形態のいずれかに記載の方法に関する。
【0199】
第17実施形態によれば、本発明は、水性分散体(D1)又は(D2)が、ベースコート(BL2a)又はベースコート(BL2-x)の少なくとも1つのスランプが確立した後に添加され、水性分散体(D1)又は(D2)が、下のコートからスリップしたベースコート材料(bL2-a)又はベースコート材料(bL2-x)の少なくとも1つに添加される、先行する実施形態のいずれかに記載の方法に関する。
【0200】
第18実施形態によれば、本発明は、共同硬化(4)が、100~250℃の温度で、5~60分の時間で行われる、先行する実施形態のいずれかに記載の方法に関する。
【実施例
【0201】
実施例
方法の説明:
1.固形分(不揮発分)
不揮発分は、DIN EN ISO 3251(日付:2008年6月)に従って決定される。あらかじめ乾燥させたアルミ皿に試料1gを計量し、130℃の乾燥オーブンで60分間乾燥させ、デシケーターで冷却した後、再計量する。なお、使用した試料の総量に対する残渣は不揮発性画分に相当する。不揮発性画分の体積は、必要に応じて、DIN53219(日付:2009年8月)に従って任意で決定することができる。
【0202】
2.ガラス転移温度T
本発明の目的のためのガラス転移温度Tは、DIN51005「熱分析(TA)-用語」及びDIN53765「熱分析-動的走査熱量測定(DSC)」に基づいて実験的に決定される。これは、15mgの試料を試料ボートに計量し、DSC装置に導入することを含む。開始温度まで冷却した後、1回目と2回目の測定が、50ml/分の不活性ガスフラッシング(N)を10K/分の加熱速度で行い、測定の間に再び開始温度まで冷却する。測定は、慣例的に、予想されるガラス転移温度よりも約50℃低い温度からガラス転移温度よりも約50℃高い温度までの範囲で行われる。DIN 53765のセクション8.1に従った本発明の目的のためのガラス転移温度は、比熱容量の変化の半分(0.5デルタc)に達した2回目の測定温度である。この温度はDSCダイアグラム(温度に対する熱流のプロット)から決定される。これは、ガラス転移前後における、外挿されたベースラインの中間線と測定プロットとの交点の温度である。
【0203】
3.粒子径
平均粒子径は、DIN ISO 13321(日付:2004年10月)に従った動的光散乱(光子相関分光法(PCS))によって決定される。ここでの平均粒子径とは、測定された平均粒子径(Z平均)を意味する。測定には、25±1℃のMalvern Nano S90(Malvern Instruments製)を使用する。この装置は、3から3000nmまでのサイズ範囲をカバーし、633nmで4mWのHeNeレーザを備えている。それぞれの試料は、分散媒体として粒子を含まない脱イオン水で希釈され、適切な散乱強度で1mlのポリスチレンセル内で測定される。評価は、Zetasizer分析ソフトウェアバージョン7.11(Malvern Instruments製)の助けによって、デジタル相関器を使用して行われた。測定を5回行い、第2の新たに調製した試料について測定を繰り返し行った。アニオン性ポリアクリレート(wD-PAC)の水性分散体について、平均粒子径とは、測定した平均粒子径の算術的平均値(Z-平均値;数値平均値)を指す。ここで5倍定量の標準偏差は≦4%である。
【0204】
4.1/sにおける低剪断粘度の決定(噴霧粘度調整後)(2Dプロットの記録)
本発明の水性ベースコート材料(又は比較組成物)の低剪断粘度を決定するために、それぞれの材料をそれぞれの噴霧粘度に調整した後、DIN 53019-1に適合し、DIN 53019-2に校正された回転式粘度計を用いて、温度制御された条件下(23.0℃±0.2℃)で調査する。この調査では、試料は、最初に1000s-1の速度で5分間(重荷段階)、次に1s-1の速度で8分間(非重荷段階)剪断した。非重荷段階8分後の粘度レベル(低剪断粘度)を測定データから決定した。
【0205】
5.酸価の決定
酸価はDIN EN ISO 2144(日付:2002年6月)に従って、「方法A」を用いて決定される。酸価は、DIN EN ISO 2114に規定されている条件下で試料1gを中和するのに必要な水酸化カリウムの質量(mg)に対応する。報告された酸価は、ここではDIN規格で示された総酸価に対応している。
【0206】
6.OH価の決定
OH価はDIN 53240-2(日付:2007年11月)に従って決定される。この方法では、過剰の無水酢酸によるアセチル化によってOH基を反応させる。その後、過剰の無水酢酸を水の添加により開裂して酢酸を形成し、全酢酸をエタノールKOHで逆滴定する。OH価は試料1gをアセチル化する際に結合する酢酸の量に相当するKOH量をmg単位で表したものである。
【0207】
7.数平均分子量と質量平均分子量の決定
数平均分子量(M)は、DIN55672 1(日付:2007年8月)に従ってゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により決定される。この方法は、数平均分子量に加えて、本方法は、さらに、質量平均分子量(M)、及び多分散度d(数平均分子量(Mn)に対する質量平均分子量(M)の比)を決定するために使用することができる。テトラヒドロフランが溶離液として使用される。決定は、ポリスチレン標準液に対して行う。カラム材料は、スチレン-ジビニルベンゼンコポリマーで構成される。
【0208】
8.添加剤の混入と得られたベースコート材料の均一性の評価
水性ベースコート材料と添加剤の混合物は、添加剤の混入と均一性についてそれぞれ視覚的に評価される。これらの評価の基準は以下の通りである:
a)混入:定義された撹拌条件の下で添加剤をそれぞれの水性ベースコート材料と、どの程度混合できるかを評価する。重要な要素は、添加によって縞や斑点などが発生するかどうかである。
b)均一性:10分間の撹拌後に均一な混合物が形成される程度、すなわち、水性ベースコート材料と添加剤を組み合わせて、巨視的スケールで一相混合物である混合物を形成することができるかどうか、あるいは、計量中又は成分が共に撹拌された後数分以内であっても、分離の結果として二相以上の相が形成されるかどうかの評価を行う。
【0209】
定性的な評価は、1から4までのスケールで行われる(それぞれ、1=高い混入又は非常に均一、2=容易に混入又は均一、3=不十分な混入又は不均一、4=非常に不十分な混入又は非常に不均一)。
【0210】
混入と均一性をそれぞれ検証するために、市販の1Lブリキ缶(直径:約110mm/高さ:約140mm)に、問題の水性ベースコート材料を3分の2充填した。添加剤の添加に続いて、混合物を、Lenartディスク(直径:65mm)を使用して、通常の実験室用ミキサー(例えば、Vollrath社製、モデルEWTHV0.5)を使用して10分間撹拌する。撹拌操作のための単純化されたレイノルズ数、Re’が、最大1000に達し、実質的に層流混合が存在するが、乱流の結果としての分散作業が発生しないことに留意すべきである。
【0211】
攪拌操作のためのレイノルズ数Reは、当業者には周知であり、次のように定義されている。
【0212】
【数1】
【0213】
式中、
ρ=密度(kg・m-3
d=攪拌ブレードの直径(m)
n=回転速度(s-1)、及び
η=動的粘度(kg・m-1・s-1
【0214】
代表的な水性ベースコート材料の密度は、DIN53217-2:1991-03によって決定された。本発明の方法の工程(2)で使用される全ての水性ベースコート材料について、簡単のために1135kg・m-3の値を仮定する。実際の剪断依存性の動的粘度については、簡単のため、すべての試料について0.1Pa・sの値を仮定し、撹拌操作Re’のための単純化されたレイノルズ数を次のように与える:
【数2】
【0215】
9.ポップ及びランの発生率の評価
DIN EN ISO 28199-1(日付:2010年1月)及びDIN EN ISO 28199-3(日付:2010年1月)に従って、本発明のコーティング組成物(又は比較コーティング組成物)のラン傾向を決定するために、マルチコート塗装システムは、以下の一般的なプロトコルに従って製造される:
標準CEC(BASF Coatings GmbH社製のCathoGuard(登録商標)800)でコーティングされた57cm×20cmの寸法(DIN EN ISO 28199-1,セクション8.1,バージョンA)の孔あき鋼板がDIN EN ISO 28199-1,セクション8.2(バージョンA)と同様に準備される。続いて、DIN EN ISO 28199-1、セクション8.3に従って、水性ベースコート材料の塗布は、回転式アトマイザーを用いて、5μmから40μmの範囲の目標膜厚(乾燥材料の膜厚)を有するウェッジとして、無電圧での単回塗布で行われる。18~23℃で4分間のフラッシュ時間の後、得られた水性ベースコートを、70℃の強制空気オーブン中で10分間乾燥させる。この場合、板はフラッシュされ、垂直な位置で乾燥される。
【0216】
ラン傾向の決定はDIN EN ISO 28199-3、セクション4に従って行われる。ランが孔下端から10mmの長さを超える膜厚同様に、それを超えると孔で最初のラン傾向が視覚的に観察できる膜厚を決定する。
【0217】
10.乾燥膜厚の測定
膜厚は、DIN EN ISO 2808(日付:2007年5月)、方法12Aに従ってElektroPhysik社製のMiniTest(登録商標)3100-4100装置を使用して決定される。
【0218】
11.水性ベースコート材料ウェッジシステムのスランプの決定
水性ベースコート材料ウェッジシステムのスランプを評価するために、ウェッジ形態のマルチコート塗装システムは、以下の一般的なプロトコルに従って製造される:
標準カソード電着塗装(BASF Coatings GmbH社製のCathoGuard(登録商標)500)でコーティングされた寸法20cm×50cmの斜めに打ち抜かれた孔あき鋼板の長辺の一方に、2つの接着剤ストリップ(Tesaband,19mm)を設けており、第1接着剤ストリップは、第1水性ベースコート材料(bL2-a)を塗布した後に除去され;第2接着剤ストリップは、第2水性ベースコート材料(bL2-z)を塗布した後に除去され、コーティング後の膜厚の違いを決定できるようになっている。
【0219】
回転アトマイザーを用いて、第1水性ベースコート材料(bL2-a)は、目標膜厚(乾燥材料の膜厚)5~40μmのウェッジ形態に、1回の塗布で無電解塗布される。室温での4分間のフラッシュオフ時間の後、第2ベースコート材料(bL2-z)は目標膜厚12~15μmの一定層として静電的に塗布される。
【0220】
室温でさらに20分間フラッシュオフした後、市販の二成分クリアコート材料(BASF Coatings GmbH社製のProGloss(登録商標))を乾燥膜厚40~45μmで塗布する。得られたクリアコート膜を、室温で10分間フラッシュオフする。その後、140℃の強制空気オーブンで20分間硬化させる。
【0221】
第1ベースコート(BL2-a)のスランプが存在するところから、第1ベースコート(BL2-a)の膜厚を決定する。
調製実施例
以下の発明例及び比較例は、本発明を明らかにするのに役立つが、制限を課すものとして解釈されるべきではない。
【0222】
表示されている配合成分及びその量については、以下の事項を考慮に入れるべきである。市販品又は他の箇所に記載されている調製プロトコルを参照する場合、参照は、対象成分のために選択されている主要な名称とは無関係に、正確にこの市販品又は正確に参照されているプロトコルで調製された製品を指す。
【0223】
したがって、配合成分が「メラミンホルムアルデヒド樹脂」という主要な名称を有し、この成分に市販品が示されている場合には、メラミンホルムアルデヒド樹脂は正確にはこの市販品の形態で使用される。したがって、(メラミンホルムアルデヒド樹脂の)活性物質の量について結論を導き出す場合には、溶剤など市販品に含まれる他の成分を考慮しなければならない。
【0224】
したがって、配合成分の調製プロトコルを参照し、そのような調製が、例えば、定義された固形分含有量を有するポリマー分散体をもたらす場合には、正確にはこの分散体を使用する。優先的な要因は、選択された主要な名称が「ポリマー分散体」という用語であるか、単に活性物質、例えば「ポリマー」、「ポリエステル」、又は「ポリウレタン変形ポリアクリレート」であるかどうかではない。これは、(ポリマーの)活性物質の量に関する結論を導き出す場合には、考慮しなければならない。
【0225】
1.混合ワニスML1の製造
特許明細書EP1534792-B1、第11カラム1~13行目に従って、81.9質量部の脱イオン水、2.7質量部のRheovis(登録商標)AS 1130(BASF SEから入手可能)、8.9質量部のBG中52%の2,4,7,9-テトラメチル-5-デシンジオール(BASF SEから入手可能)、3.2質量部のDispex Ultra FA 4437(BASF SEから入手可能)、及び3.3質量部の10%のジメチルエタノールアミン水溶液を互いに混合し、得られた混合物をその後均一化する。
【0226】
2.カラーペーストの調製
2.1 白色ペーストP1の調製
白色ペーストP1は、50質量部のチタンルチルR-960-38、11質量部のDE4009858A1実施例D第16カラム37~59行目に従って調製されたポリエステル、16質量部の国際特許出願WO92/15405、15頁23~28行目に従って調製されたバインダー分散体、及び16.5質量部の脱イオン水、3質量部のブチルグリコール、1.5質量部の10%強度のジメチルエタノールアミン水溶液、1.5質量部のPluriol(登録商標)P900(BASF SEから入手可能)から調製される。
【0227】
2.2 白色ペーストP2の調製
白色ペーストP2は、50質量部のチタンルチル2310、6質量部のDE4009858A1実施例D第16カラム37~59行目に従って調製されたポリエステル、24.7質量部の特許出願EP0228003B2、8頁6~18行目に従って調製されたバインダー分散体、10.5質量部の脱イオン水、4質量部のBG中52%の2,4,7,9-テトラメチル-5-デシンジオール(BASF SEから入手可能)、4.1質量部のブチルグリコール、0.4質量部の10%強度のジメチルエタノールアミン水溶液、及び0.3質量部のAcrysolRM-8(The Dow Chemical Companyから入手可能)から調製される。
【0228】
2.3 黒色ペーストP3の調製
黒色ペーストP3は、57質量部のWO92/15405、13頁13行目~15頁13行目に従って調製されたポリウレタン分散体、10質量部のカーボンブラック(CabotCorporationのMonarch(登録商標)1400カーボンブラック)、5質量部のDE4009858A1実施例D第16カラム37~59行目に従って調製されたポリエステル、6.5質量部の10%強度のジメチルエタノールアミン水溶液、2.5質量部の市販のポリエーテル(Pluriol(登録商標)P900、BASF SEから入手可能)、7質量部のブチルジグリコール、及び12質量部の脱イオン水から調製される。
【0229】
2.4 黒ペーストP4の調製
黒色ペーストP4は、58.9質量部のWO92/15405、13頁13行目~15頁13行目に従って調製されたポリウレタン分散体、10.1質量部のカーボンブラック(Orion Engienced Carbonsから入手可能なカラーブラックFW2)、5質量部のDE4009858A1実施例D第16カラム37~59行目に従って調製されたポリエステル、7.8質量部の10%強度のジメチルエタノールアミン水溶液、2.2質量部の市販のポリエーテル(Pluriol(登録商標)P900、BASF SEから入手可能)、7.6質量部のブチルジグリコール、及び8.4質量部の脱イオン水から調製される。
【0230】
2.5 黄色ペーストP5の調製
黄色ペーストP5は、37質量部のBayferrox 3910(Lanxessから入手可能)、49.5質量部のWO91/15528、23頁26行目~25頁24行目に従って調製された水性バインダー分散体、7.5質量部のDisperbyk(登録商標)-184(BYK-Chemie GmbHから入手可能)、及び6質量部の脱イオン水から調製される。
【0231】
2.6 黄色ペーストP6の調製
黄色ペーストP6は、17.3質量部のBASF SEから入手可能なSicotrans yellow L 1916、18.3質量部のDE4009858A1実施例D第16カラム37~59行目に従って調製されたポリエステル、43.6質量部の国際特許出願WO92/15405、15頁23~28行目に従って調製されたバインダー分散体、16.5質量部の脱イオン水、及び4.3質量部のブチルグリコールから調製される。
【0232】
2.7 白色ペーストP7の調製
白色ペーストP7は、30.0質量部のTayca Corp.から入手可能なチタンルチルMT-500HD、62.9質量部の国際特許出願WO92/15405、15頁23~28行目に従って調製されたバインダー分散体、3.8質量部の脱イオン水、2.0質量部のPluriol(登録商標)P900(BASF SEから入手可能)、0.4質量部の10%ジメチルエタノールアミン水溶液、及び0.9質量部のAerosil(登録商標)R972(Evonikから入手可能)から調製される。
【0233】
2.8 シリカペーストP8の調製
シリカペーストP8は、12.0質量部のW.R.Grace&Co.から入手可能なSyloid(登録商標)ED3、30.0質量部のDE4009858A1実施例D第16カラム37~59行目に従って調製されたポリエステル、46.0質量部のブチルグリコール、及び12.0質量部の10%ジメチルエタノールアミン水溶液から調製される。
【0234】
2.9 青色ペーストP9の調製
青色ペーストP9は、33.0質量部のHeucodur(登録商標)Blue 550(Heubach GmbHから入手可能)、52.0質量部のWO91/15528、23頁26行目~25頁24行目に従って調製された水性バインダー分散体、5.7質量部の脱イオン水、3.0質量部のPluriol(登録商標)P900(BASF SEから入手可能)、4.0質量部のDisperbyk(登録商標)184(BYK-Chemie GmbHから入手可能)、2.0質量部の3質量%強度のRheovis(登録商標)AS 1130溶液(Rheovis(登録商標)AS 1130はBASF SEから入手可能)、及び0.3質量部のAgitan 282(Muenzing Chemie GmbHから入手可能)から調製される。
【0235】
2.10 緑色ペーストP10の調製
緑色ペーストP10は、35.6質量部のDaipyroxide Green 9320(Dainichiseika Color&Chemicals Mfg.Co.Ltd.から入手可能)、50.5質量部のWO91/15528、23頁26行目から25頁24行目に従って調製された水性バインダー分散体、6.1質量部の脱イオン水、3.2質量部のPluriol(登録商標)P900(BASF SEから入手可能)、4.3質量部のDisperbyk(登録商標)184(BYK-Chemie GmbHから入手可能)、及び0.3質量部のAgitan 282(Muenzing Chemie GmbHから入手可能)から調製される。
【0236】
3.水性ベースコート材料の調製
特に断りのない限り、それぞれの場合、部の記載は質量部であり、パーセントの記載は質量パーセントである。
【0237】
3.1 水性ベースコート材料WBM A1とWBM A2の調製
表3.1に記載されている成分を、記載されている順序で撹拌して混合し、水性混合物を形成する。次いで、この混合物を10分間撹拌し、脱イオン水及びジメチルエタノールアミンを用いて、回転式粘度計(Anton Paar社製のC-LTD80/QC加熱システムを備えたRheolab QC装置)を使用して23℃で測定した場合に、pHが8.0±0.2、及び噴霧粘度が剪断荷重1291s-1下で100±10mPa・s(WBM A1)又は剪断荷重1000s-1下で85±10mPa・s(WBM A2)になるよう調整する。
【0238】
【表1】
【0239】
3.2 水性ベースコート材料WBM B1の調製
表3.2の「水相」に記載されている成分に、記載されている順序で撹拌して混合し、水性混合物を形成する。次の工程では、「アルミニウム顔料プレミックス」に記載されている成分からプレミックスを調製する。このプレミックスを水性混合物に添加する。プレミックスの添加後、10分間撹拌する。得られた混合物を、続いて、脱イオン水及びジメチルエタノールアミンを用いて、回転式粘度計(Anton Paar社製のC-LTD80/QC加熱システムを備えたRheolab QC装置)を使用して23℃で測定した場合、pHが8、噴霧粘度が剪断荷重1291s-1下で70±10mPa・sになるよう調整する。
【0240】
【表2】
【0241】
3.3 水性ベースコート材料WBM B2とWBM B3の調製
表3.3の「水相」に記載されている成分に、記載されている順序で撹拌して混合し、水性混合物を形成する。次の工程では、それぞれ「アルミニウム顔料プレミックス」及び「マイカ顔料プレミックス」に記載されている成分からプレミックスを調製する。このプレミックスを水性混合物にそれぞれ添加する。プレミックスの添加後、それぞれ10分間撹拌する。得られた混合物を、続いて、脱イオン水及びジメチルエタノールアミンを用いて、回転式粘度計(Anton Paar社製のC-LTD80/QC加熱システムを備えたRheolab QC装置)を使用して23℃で測定した場合、pHが8、噴霧粘度が剪断荷重1000s-1下で85±10mPa・sになるよう調整する。
【0242】
【表3】
【0243】
3.4 水性ベースコート材料WBM A1及びWBM A2の後添加
水性ベースコート材料WBM A1及びWBM A2に、それぞれ表3.4、3.5及び3.6に記載されている添加剤(すなわち、少なくとも1つのポリアミド(PA)及び/又はアミドワックス(AW)を含む水性分散体)を添加し、その後10分間撹拌する。得られた混合物を、脱イオン水を用いて、回転式粘度計(Anton Paar社製のC-LTD80/QC加熱システムを備えたRheolab QC装置)を使用して23℃で測定した場合に、噴霧粘度が剪断荷重1291s-1下で100±10mPa・s(WBM A1a~WBM A1d)又は剪断荷重1000s-1下で85±10mPa・s(WBM A2a~WBM 2j)になるよう調整する。
【0244】
【表4】
【0245】
1)ポリアミド(PA)の水性分散体(D1)、固形分22.5質量%、酸価24mgKOH/g
2)ポリアミド(PA)とアミドワックス(AW)の水性分散体(D2)、固形分15質量%、酸価8.7mgKOH/g
【0246】
【表5】
【0247】
1)ポリアミド(PA)とアミドワックス(AW)の水性分散体(D2)、固形分15質量%、酸価8.7mgKOH/g
2)ポリアミド(PA)とアミドワックス(AW)の水性分散体(D2)、固形分10質量%、酸価7.5mgKOH/g
3)ポリアミド(PA)の水性分散体(D1)、固形分22.5質量%、酸価24mgKOH/g
4)ポリアミド(PA)の水性分散体、固形分20質量%、酸価12.5mgKOH/g
5)ポリアミド(PA)の水性分散体、固形分15質量%、酸価14mgKOH/g
【0248】
【表6】
【0249】
6)ポリアミド(PA)の水性分散体、固形分18質量%、酸価12.5mgKOH/g
7)30質量%強度のRheovis(登録商標)AS 1130水溶液(BASF SE)
8)ブチルグリコール中50質量%強度のRheovis(登録商標)PU1250溶液(BASF SE)
【0250】
4.水性ベースコート材料の特性に及ぼす後添加の影響
4.1 スランプの発生率に関する水性ベースコート材料WBM A1とWBM A1a~WBM A1dの比較
スランプの発生率に関して、水性ベースコート材料WBM A1と、それぞれWBM A1aからWBM A1d(さまざま量の異なる添加剤を含む)と、WBM B1の組み合わせに関する試験を、上記の方法(方法の説明の項目11を参照)に従って定性的に行った。結果を表4.1にまとめる。
【0251】
【表7】
【0252】
上記の方法によるマルチコート塗装システムの場合、試料WBM A1を第1水性ベースコート材料(bL2-a)として、WBM B1を第2水性ベースコート材料(bL2-z)として組み合わせて使用すると、スランプ現象が発生し、最終的なコーティングは許容できないものと指定しなければならない。逆に、第1水性ベースコート材料WBM A1(bL2-a)を、塗布の直前に、水性分散体(D1)(WBM A1a)又は(D2)(WBM A1b~WBM A1d)と混合している場合、第1水性ベースコート膜(BL2-a)は、下にあるコート(S1)からもはやスランプすることはなく、コーティングされた基材(S)は、OEM仕上げの厳密な品質要件を満たしている。したがって、本発明の方法は、結果として得られるマルチコート塗装システムの品質を大幅に改善し、塗料の無駄を回避することを可能にする。
【0253】
4.2 添加剤の混入に関する水性ベースコート材料WBM A2とWBM A2a~WBM A2jの比較
添加剤の混入、低剪断粘度への影響、及びスランプの発生率に関して、水性ベースコート材料WBM A2(添加剤なし)及びWBM A2a~WBM A2j(さまざまな量の異なる添加剤を含む)と、WMB B2又はWBM B3の組み合わせに関する試験を、上述の方法(方法の説明の項目8を参照)に従って行った。
【0254】
【表8】
【0255】
1=非常に混入可能又は非常に均一、2=容易に混入可能又は均一、3=不十分な混入性又は不均一、4=非常に不十分な混入性又は非常に不均一
【0256】
水性分散体(D1)(WBM 2d)又は水性分散体(D2)(WBM 2a~WBM 2c)のいずれかを含む水性ベースコート材料WBM A2a~WBM A2dの場合、WBM A2の後添加は、非常に良好又は良好であることが証明された。それぞれの分散体(D1)又は(D2)は、OEMカスタマーによるその後の材料の添加に対して、最大で達成可能なように、適度なエネルギーの入力で混ぜることができ、非常に均一な混合物をもたらした。逆に、15mgKOH/g未満の酸価を有するポリアミド(PA)の分散体(WBM A2e~WBM A2g)は、混入が著しく困難であっただけでなく、それらの混入は、いくつかの場合には著しい不均一性をもたらした。
【0257】
ASE増粘剤(ASE=アルカリ膨潤性エマルション)Rheovis(登録商標)AS 1130(WBM A2h及びWBM A2i)及び非イオン性ポリウレタン増粘剤Rheovis(登録商標)PU 1250(WBM A2j)の使用も同様に、混入の問題なしに可能であり、非常に均一な混合物が得られた。
【0258】
4.3 低剪断粘度に対する添加剤の効果についての水性ベースコート材料WBM A2とWBM A2a~WBM A2jの比較
Rheovis(登録商標)PU 1250 増粘剤の大きな欠点は、この成分でWBM A2を後添加すると、高剪断粘度(1000s-1での噴霧粘度)の非常に顕著な増加をもたらすことであった。そのため、適切な噴霧粘度に調整するためには多量の水を添加する必要があった(表4.3参照)。その結果、WBM A2jの固形分含有量と低剪断粘度(1s-1)が、WBM A2と比較して著しく低下し、ラン安定性やスランプ特性に悪影響を及ぼした(表4.4参照)。対照的に、水性ベースコート材料WBM A2cの場合、後添加後の噴霧粘度の調整に必要な水の量は大幅に少なく、低剪断粘度にも急激な低下は見られなかった(表4.3及び方法の説明の項目4参照)。
【0259】
【表9】
【0260】
4.4 スランプ発生率に関する水性ベースコート材料WBM A2、WBM A2a~WBM A2jの比較
表4.4にまとめられた実験データは、水性ベースコート材料WBM A2a~WBM A2dをWBM B2又はWBM 3と組み合わせると、それぞれの基準値よりも大幅に優れたラン傾向だけでなく、大幅に改善されたスランプ傾向も示すことを表している。非イオン性ポリウレタン増粘剤Rheovis(登録商標)PU 1250を含有するWBM A2jは、基準値よりも有意な臨界性を示す。ASE増粘剤Rheovis(登録商標)AS 1130(WBM A2h及びWBM A2i)を使用しても、ラン傾向及びスランプ傾向の有意な改善をもたらさなかった。
【0261】
【表10】
【0262】
したがって、試験から水性分散体(D1)又は(D2)を添加することにより、低剪断粘度又は高剪断粘度およびそれゆえサービスの質に悪影響を及ぼすことなく、マルチコートシステムの水性ベースコート材料のランやスランプの傾向を著しく低下させることが可能であることが明らかである。したがって、本発明の方法は、水性ベースコート材料の特性を簡単な方法で、水性ベースコート膜のスランプがもはやないように適合させることを可能にする。したがって、後添加によって、後添加なしではラン及びスランプ特性に関して仕様外であるため、これ以上使用に供することができない水性ベースコート材料を使用してマルチコートシステムを生成することも可能である。