(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】多層合成ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
B32B 25/04 20060101AFI20240329BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240329BHJP
B29C 41/14 20060101ALI20240329BHJP
A41D 19/00 20060101ALI20240329BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B32B25/04
B32B27/30 B
B29C41/14
A41D19/00 P
A61L31/04 110
(21)【出願番号】P 2021533333
(86)(22)【出願日】2019-12-09
(86)【国際出願番号】 MY2019000047
(87)【国際公開番号】W WO2020122704
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】PI2018002449
(32)【優先日】2018-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】MY
(73)【特許権者】
【識別番号】521252173
【氏名又は名称】イネオ-テック エスディーエヌ,ビーエイチディー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】トレエ,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ヘレナー,ピエール
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-501807(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0316107(US,A1)
【文献】国際公開第02/002321(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0091504(US,A1)
【文献】特開2004-098667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 41/00-42/52
A41D 19/00-19/04
A61L 31/00-31/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)スチレンブロックコポリマー(SBC)組成物を含む第1の層であって、前記スチレンブロックコポリマー(SBC)組成物が、100,000g/molを超える数平均分子量(Mn)を有するSBCの1つ又は混合物を含む、前記第1の層と、
(b)1つ又は複数の合成エラストマ
ーを含む第2の層と、
(c)任意選択的に、1つ又は複数のさらなる層と
を含
み、
前記合成エラストマーが、CR及びSBCのブレンド、又はIR及びSBCのブレンド、又はCR及びIRのブレンド、又はCR及びNBRのブレンド、又はCR、NBR及びSBCのブレンドを含む、
多層組成物。
【請求項2】
前記第1の層のSBC組成物が、線状、放射状又は星形のSEBS、SEPS、SEEPS、SBSS、SIS、SBS、SIBS、及びこれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つのSBCを含む、請求項1に記載の多層組成物。
【請求項3】
前記第1の層のSBCが、飽和エラストマー中間ブロックを有するSBCを含む、請求項1又は2に記載の多層組成物。
【請求項4】
前記第1の層のSBC組成物が、1つ又は複数の可塑剤をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の多層組成物。
【請求項5】
前記可塑剤が、SBCの中間ブロック(エラストマーブロック)と相溶性である液状飽和ポリオレフィン又は液状飽和ポリオレフィンの混合物を含む、請求項4に記載の多層組成物。
【請求項6】
前記可塑剤が、ヒマワリ、菜種、若しくはココナッツ油などの1つ若しくは複数の植物油、又は低分子量ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブテン、プロピレン及びエチレンの非晶質ポリオレフィンコポリマー、並びにブチルゴムなどの、ゴム状中間ブロックとの十分な相溶性を有するオリゴマー若しくは他のエラストマーから選択される、請求項4に記載の多層組成物。
【請求項7】
前記第1の層のSBC組成物が、1つ又は複数の強化用樹脂及び/又は充填剤をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の多層組成物。
【請求項8】
前記強化用樹脂が、芳香族樹脂などの、PSブロックと混和する1つ又は複数の低分子量ポリマー、並びにスチレン無水マレイン酸(SMA)樹脂及びアイオノマー樹脂などの、前記PSブロックと混和するブロックを含むコポリマーであり、及び/又は前記強化用充填剤が、強化用シリカ、カーボンブラック充填剤、及び繊維の1つ又は複数である、請求項7に記載の多層組成物。
【請求項9】
前記第1の層のSBC組成物が、従来のゴム添加剤、例えば、顔料、一次及び二次酸化防止剤、充填剤(無機物又は有機物)、加硫及び架橋剤、光開始剤、帯電防止剤、消泡剤、界面活性剤、並びにこれらの組合せをさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の多層組成物。
【請求項10】
前記第1の層のSBC組成物が、腐食防止剤、潤滑剤、化学マーカー、相転移生成物、エネルギー粒子(放射線)減速剤、殺菌力を有する薬剤、芳香剤又は保湿剤、切断を検出するための色素、及びこれらの組合せから選択される機能性添加剤をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の多層組成物。
【請求項11】
前記合成エラストマーが、可塑剤、強化用樹脂及び充填剤、架橋添加剤(加硫又は/及び他の化学架橋剤系)、一次及び二次酸化防止剤、加工樹脂及び化学物
質、又は離型剤から選択される1つ又は複数の添加剤をさらに含む、請求項
1に記載の多層組成物。
【請求項12】
前記第1の層がSBC、例えばSEBSを含み、前記第2の層がSB
C及びIRのブレンドを含み、
前記第2の層におけるSBCとIRとの合計重量の50重量%超がSBCである、請求項1~
11のいずれか一項に記載の多層組成物。
【請求項13】
前記第1の層がSBC組成物、例えばSEBSを含み、前記第2の層がNBR及びCRのブレンドを含み、
前記第2の層におけるNBRとCRとの合計重量の50重量%超がCRである、請求項1~
11のいずれか一項に記載の多層組成物。
【請求項14】
前記CRが、クロロプレン(2-クロロブタジエン-1,3)のホモポリマー、又はクロロプレン及びコモノマ
ーのコポリマーから選択される、請求項1~
11又は
13のいずれか一項に記載の多層組成物。
【請求項15】
前記多層組成物の全厚が、約10ミクロン~約500ミクロンの間、好ましくは約50ミクロン~約350ミクロンの間、より好ましくは約100ミクロン~約300ミクロンの間であり得る、請求項1~
14のいずれか一項に記載の多層組成物。
【請求項16】
前記多層組成物の全厚が、500ミクロン未満、又は400ミクロン未満である、請求項1~
14のいずれか一項に記載の多層組成物。
【請求項17】
前記第1の層の厚さ対前記第2の層の厚さの比率が、約2:1~約20:1の間、好ましくは約3:1~約10:1の間である、請求項1~
16のいずれか一項に記載の多層組成物。
【請求項18】
請求項1~
17のいずれか一項に記載の多層組成物を含む製造物品。
【請求項19】
前記物品が手袋である、請求項
18に記載の製造物品。
【請求項20】
請求項1~
17のいずれか一項に記載の多層組成物を製造するためのプロセスであって、以下のステップ:
(a)1つ又は複数の合成エラストマーの層を型の上に形成するステップと、
(b)続いて、前記1つ又は複数の合成エラストマーの層の上に、SBC組成物を含む層を形成するステップと
を含む、プロセス。
【請求項21】
ステップ(a)の前、ステップ(a)とステップ(b)との間、又はステップ(b)の後のいずれかに、1つ又は複数のさらなるポリマー層が適用される、請求項
20に記載の多層組成物を製造するためのプロセス。
【請求項22】
ステップ(b)の後で、且つ着用を容易にするために仕上げ層が適用される前に、1つ又は複数のさらなるポリマー層が適用される、請求項
21に記載の多層組成物を製造するためのプロセス。
【請求項23】
ステップ(a)又は(b)において適用される層と同様の1つ又は複数のさらなるポリマー層が、ステップ(b)の後に適用される、請求項
21に記載の多層組成物を製造するためのプロセス。
【請求項24】
前記合成エラストマー層が、前記1つ又は複数の合成エラストマーのラテックス分散液から形成される、請求項
20~
23のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項25】
前記SBC組成物を含む層が、前記SBC組成物の溶液から形成される、請求項
20~
24のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項26】
前記多層組成物を形成した後、前記組成物が放射線、例えば、電子ビーム、ガンマ線、UV又はX線に曝露される、請求項
20~
25のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項27】
前記合成エラストマー層と、SBC組成物を含む層との間に、1つ又は複数の中間層を形成するステップをさらに含む、請求項
20~
26のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項28】
前記1つ又は複数の中間層が、前記合成エラストマー及びSBC組成物の混合物を含む、請求項
27に記載のプロセス。
【請求項29】
前記層のラミネーションが、1つ又は複数の接着促進剤によって、又は化学的若しくは物理的処理によって円滑になされる、請求項
27又は
28に記載のプロセス。
【請求項30】
前記多層組成物が手袋である、請求項
20~
29のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本開示は、一般的に、スチレンブロックコポリマー組成物の層と、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム及びポリウレタンなどの1つ又は複数の合成エラストマーの保護層とから形成される多層合成ゴム組成物に関する。多層組成物は、薄壁物品、例えば手袋、特に、医療用又は工業用手袋の製造における用途を見出す。
【背景技術】
【0002】
背景
手袋は、多数の用途、例えば、医学的用途、工業的用途又は家庭的用途において保護具として使用される。これらの用途のそれぞれは、ほんの一部を挙げると、切断、引裂、摩耗又は穿刺抵抗性、伸縮能力、把持能力の増強、柔軟性、物理的及び化学的バリア特性などにわたる、その独自の一連の要件を有する。
【0003】
特に外科用手袋の場合、手袋は、依然として非常に柔軟且つ皮膚に安全でありながら、高い引裂抵抗性を有することが重要である。
【0004】
これらの要件を満たすために、最も一般的に使用される材料は、天然ゴムラテックス(NR)、ポリクロロプレン(CR)、ポリイソプレン(IR)及びニトリルゴム(NBR)である。
【0005】
これらの材料は、その特性及び性能を調整するために種々の化学物質及び添加剤と共に配合される。例えば、NR又はIRなどのほとんどのエラストマー材料の場合、加硫は、伝統的な化学的架橋メカニズムである。加硫は、1つのポリマー鎖を別のポリマー鎖に連結する硫黄共有結合を形成する。
【0006】
硫黄だけによる加硫は、超高温における長過ぎる反応条件を必要とするので、「促進剤」などの化学添加剤が添加される。促進剤は多くの種類を有することができ、通常、以下の群:チアゾール、カルバメート、グアニジン、チオ尿素及びチウラムに分類される。加硫速度及び性能を最適化するために、異なる群から選択される異なる促進剤の混合物を使用することは、一般的に実施される。
【0007】
しかしながら、硫黄は共有結合を介してポリマーネットワーク内に組み込まれるが、促進剤はそうではない。IRから作られる典型的な手袋配合物は、2%までの促進剤を含むことができる。促進剤分子は水中に難溶性であり、浸出によって手袋から除去することができない。また促進剤分子はゴムとの相溶性が限られているために、時間と共にフィルムの表面に「ブルーム」し得る。
【0008】
手袋が使用されているとき、材料は手の皮膚に直接接触して配置される。これは特に外科的使用に該当し、この場合、手袋は密封状態で長時間着用され得る。それにより、使用中に抽出される種々の残留化学物質がアレルギー反応及び皮膚の問題を引き起こし得るので、材料の安全性及び生体適合性の問題が提起される。手袋に対するこれらの反応の中で最も深刻である、天然ゴム手袋からのラテックスアレルギー(即時1型反応とも呼ばれる)は、IR、CR及びNBRなどの天然ゴムに対する合成代替物の使用によって対処することができる。
【0009】
しかしながら、合成手袋に関する他の重大な問題が残っている:例えば、化学促進剤残留物によって、及びアビエタン関連化合物(ロジン樹脂)などの他の加工添加剤によって引き起こされるアレルギー性接触皮膚炎(IV型反応と呼ばれる)は、現在、医療従事者に対する懸念の高まりを表している。外科用手袋からの化学残留物は、炎症、望まれない血餅及び組織への損傷などの、患者に対する多数の臨床的問題も引き起こし得る。
【0010】
ポリイソプレン合成ゴムは、天然ゴムラテックスと同様のフィット感(feel-fit)のおかげで、市場において広く受け入れられてきている。しかしながら、この材料は、促進剤を含むいくつかの化学物質を組み合わせて製造され、IV型アレルギーの原因である高レベルの残留物を含有する。さらに、フィルムの機械的特性、特に引裂抵抗性は、ポリクロロプレン又はニトリルゴムなどの他の従来の材料よりも低く、手袋は、使用中にNRLよりも容易に、機能しなくなることが報告されている。米国特許第8,673,993号には、放射線架橋ポリイソプレンを製造するための技術が記載されており、これは、他の架橋剤によって従来の促進剤を置き換え、したがってIV型アレルギーを発症するリスクを低減する可能性がある。しかしながら、架橋材料は依然として他の化学物質を含有し、フィルム性能は比較的低いままである。
【0011】
ポリクロロプレン材料は、数十年にわたって市場で使用されている。ポリクロロプレンは、NR又はIRに使用されるものとは異なる範囲の化学物質と共に配合することができ、したがって皮膚耐性に関して優れた代替物を提供し得る。しかしながら、同様のアビエタン誘導体は依然としてその組成物中に存在し、IV型アレルギーに関する懸念が残ったままである。有利に、CRはポリイソプレンよりも強力な機械的性能を提供し、水分散液中で使用される場合、CRは著しく安価でもある。しかしながら材料は、ポリイソプレン又は天然ゴムよりも著しく堅く、外科用手袋市場において広く受け入れられるためには大きな欠点を表す。
【0012】
一般的な促進剤を使用することなく、顕著な機械的性能(引張強さ、穿刺及び摩耗抵抗性)及び低コストの配合物を利用して、ニトリル(NBR)から作られた合成外科用手袋も開発されている。しかしながら、このタイプのカルボキシル(carboxylic)ポリマーの性能は、フィルムバリア及び機械的特性に影響を与え得る水性又は極性溶媒との長期にわたる接触によって部分的に損なわれる。また、材料は極めて堅いので、市場において関心を見出すことができない。
【0013】
これらの一般的なエラストマーに基づくブレンドも、使用における付加的な利益を提供するために開発されている。一例として、ポリクロロプレン又はニトリルのいずれかとブレンドされたポリイソプレンが開発されており(米国特許出願公開第2006/0222688号)、これは、ポリイソプレンの「柔らかさ」と、ポリクロロプレン及びニトリル材料の「機械抵抗」及び比較的「低いコスト」とを組み合わせる。しかしながら、これらのブレンドは依然として、IV型アレルギーを発生し得る化学促進剤を含有する。
【0014】
最後に、ブチルゴム(IIR)、ポリウレタン(PU)、フルオロエラストマー(FKM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)などのような他のエラストマーも使用され得るが、主に工業用に選択される用途を見出すだけである。
【0015】
結論として、手袋産業、特に外科用手袋産業において使用される従来のゴム及びゴムブレンドはどれも、促進剤がなければ、外科的用途に必要とされる非常に柔らかい感触を提供しながら適切な機械抵抗を伴って配合することができない。
【0016】
スチレンブロックコポリマー(SBC)は、このより清浄でより柔らかい代替物を提供することができる。SBCは熱可塑性エラストマーとして分類され、ゴムの機械的特性及び熱可塑性樹脂の加工特性を有する。これらの特性はその分子構造に起因する:SBCは、通常は2つのハードポリスチレン末端ブロックと、1つのソフトエラストマー(ポリブタジエン、ポリイソプレン-水素化又は非水素化)中間ブロックとの少なくとも3つのブロックからなる。より一般的なSBCは、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)及びスチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-[エチレン-(エチレン-プロピレン)]-スチレン(SEEPS、ポリイソプレン/ブタジエンの水素化によって得られる)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)などの線状トリブロックコポリマーを含むが、他の構築物(例えば、4つ以上のブロックで構成されるコポリマー)及び他の構造(星形又は放射状)及びポリマーの官能基化も可能である。スチレンを含有するアームの一部のみを有する星形ポリマーなど、SBCの種々の構築物を予測することができる。有意に、飽和エラストマー中間ブロックを有するSBCは機械的特性の増強を提供し、酸化的分解に対してより抵抗性がある。
【0017】
例えば、外科用手袋における使用に適したSBCの組成物は欧州特許第0488021号に記載されており、2つ以上のスチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(S-EB-S)ブロックコポリマーの組合せが開示される。また欧州特許第1472315号にも記載されており、1つのS-EB-Sブロックコポリマーと、1つのスチレン-エチレンプロピレン-スチレン-エチレンプロピレン(S-EP-S-EP)ブロックコポリマーとの組合せが開示される。これらの組成物は全て、化学促進剤をどれも含まず、上記の従来のゴムのどれよりも柔らかいように配合され得る。これらの2つの欧州特許には、医療用手袋に使用される従来のゴムと比較して酸化的分解に対する改善された抵抗性を有する手袋を提供するために、飽和中間ブロックを有するSBCの使用が記載される。
【0018】
別の利点として、SBCは、浸漬に利用され得る許容できる粘度を有する溶液を形成することができるので、これらのポリマーは溶媒キャスティングにおいて使用することができる。溶媒キャスティングは多用途の技術であり、ラテックスから出発する従来の「水分散液」製造技術と比べて、いくつかの明白な利点を提供する。この技術は、乾燥フィルム内に留まる界面活性剤及び樹脂などの任意の加工添加剤を必要としないので、溶媒からキャスティングされるフィルムは、極めて高い品質要求を達成し得る。例えば、アビエタン誘導体(皮膚感作物質であり得る)は、より良好なフィルム形成特性を提供するために、水系(ラテックス)技術において一般に使用される。
【0019】
結果的に、SBCの溶媒キャスティングから製造される手袋は、水和、すなわち水の吸収に対する優れたバリア性能を示し、したがって、改善された電気絶縁性能が達成され得る。
【0020】
しかしながら、特に外科用手袋において使用するためには、SBCは2つの主要な短所を有し、現在その市場潜在性は限られている。
【0021】
第1の短所は、架橋のタイプに関連する。化学的架橋ではなくポリスチレンの物理的架橋のみでネットワークが作られるので、特定の有機溶媒と接触されたとき、及び/又は約80~90℃のポリスチレンのガラス転移温度よりも高い温度にさらされたときに、ガラス状ポリスチレンドメインは軟化し、その凝集性を失う。例えば、SBCで作られた外科用手袋は、有機溶媒と直接接触して置かれると破壊される。医療分野ではいくつかの有機溶媒及び「攻撃的な」化学物質が使用されることがあり、その例は、関節形成術で使用される未硬化骨セメント中に存在するメチルメタクリレートモノマー(MMA)、及びコロジオンなどの一部の調製物において溶媒として使用されるジエチルエーテルである。これらの溶媒に対するSBCの耐薬品性が弱いことは、外科的用途の手袋に対するこの群のエラストマーの主要な制限である。
【0022】
第2の短所は、これらの材料の限られた機械的特性、特に引張、摩耗及び引裂抵抗性に関連する。それはポリマーの性質、特に、水分散液中で使用される他の合成ポリマーと比較してその比較的低い分子量と、相当量の可塑剤の存在とに関連すると考えられる。したがって、SBCの一部の固有の機械的特性、例えば、摩耗を受けたときの材料の抵抗性などは他の合成ゴムよりも劣る可能性があり、これは、早期の手袋の破損を生じ得る。
【0023】
種々の添加剤を使用して、SBCの引張及び引裂抵抗性などの機械的性能を一定の限界まで改善することができる。このような添加剤は、相分離の形態及びサイズを変更することができる。典型的な添加剤は、例えば、芳香族樹脂などのPSブロックと混和する低分子量ポリマー、及びスチレン無水マレイン酸樹脂(SMA)樹脂などのPSブロックとの混和性ブロックを含むコポリマーである。また他の添加剤を使用して、フィルムの凝集性を変更し、SBC組成物の粘着を生じることもできるが、手袋用途の関心は限られている。
【0024】
任意の従来のエラストマーのように、化学物質及び熱抵抗性をさらに改善するために、不飽和SBCを化学的に架橋させることもできる。例えば、SIS及びSBSは、硫黄及び促進剤などの従来の加硫系と共に配合することができる。UV下のポリチオールの存在下でのSBSのチオール-エン反応など、加硫に対する他の架橋機序も文献に記載されている(Decker et al., Journal of Applied Polymer Science, vol. 77, 1902-1912, 2000)。電子ビーム下でトリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTM)などのアクリレートを用いる、SEBSなどの飽和SBCの架橋も記載されている(Zurawski et al., Polymer Engineering and Science, 1983, vol. 23, 9)。
【0025】
これらの架橋機序は、架橋剤が高分子ネットワーク内に組み込まれる(促進剤には当てはまらない)ので、従来の加硫と比べて「より清浄である」点において有利である。
【0026】
しかしながら、SBCに対するさらなる化学的架橋の任意の形態は構造を変化させ、特性に影響を与え得る。特に、柔軟性を低下させるであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
したがって、SBCを含め、上記の材料は全ていくつかの制限を有し、特に外科的又は工業的用途のために、使用中に耐久性のあるバリア特性、増強された柔軟性及び良好な生体適合性を示すエラストマー物品が必要とされている。
【0028】
任意の以前の刊行物(又はそれから得られる情報)又は既知である任意の事項に対する本明細書中での言及は、以前の刊行物(又はそれから得られる情報)又は既知の事項が、本明細書が関連する試みの技術分野における共通の一般知識の一部を形成することの認容若しくは承認又は任意の形態の示唆ではなく、そうであると考えられてはならない。
【課題を解決するための手段】
【0029】
概要
本開示は、少なくとも2つの層を含む、新しい種類の多層合成ゴム組成物に関する。多層組成物は、手袋などの薄壁物品の製造において特定の用途を見出す。
【0030】
一態様において、本開示は、
(a)スチレンブロックコポリマー(SBC)組成物を含む第1の層と、
(b)1つ又は複数の合成エラストマー、及び任意選択的に、1つ又は複数のスチレンブロックコポリマー(SBC)を含む第2の層と
を含む、多層組成物を提供する。
【0031】
任意選択的に、多層組成物は、1つ又は複数のさらなる層を含む。
【0032】
第1の層
いくつかの実施形態において、第1の層のSBCの組成物は、線状、放射状又は星形のSEBS、SEPS、SEEPS、SBSS(スチレン-ブタジエン-スチレン-スチレンブロックコポリマー)、SIS、SBS、SIBS、及びこれらの混合物を含むがこれらに限定されない、いわゆるスチレンブロックコポリマー(SBC)からなる群から選択される少なくとも1つのSBCを含む。スチレンを含有するアームの一部のみを有する星形ポリマーなど、SBCの種々の官能基化及び構築物が予測される。
【0033】
好ましくは、SBCは、100,000g/molを超える数平均分子量(Mn)を有するSBCの1つ又は混合物から構成される。
【0034】
別の好ましい実施形態では、SBC組成物は、酸化的分解に対する改善された抵抗性を提供する飽和中間ブロックを有するポリマーを含む。
【0035】
いくつかの実施形態において、第1の層のSBC組成物は、1つ又は複数の可塑剤を含み得る。可塑剤は、SBCの伸縮性及び柔軟性の増強を助ける分子又は分子のブレンドである。可塑剤は、優先的に、SBCの中間ブロック(エラストマーブロック)と相溶性である1つ又は複数の液状飽和ポリオレフィンである。
【0036】
好ましい可塑剤は鉱油であるが、可塑剤は「グリーンケミストリー」から供給されてもよく、例えば、ヒマワリ油、菜種油、又はココナッツ油などの植物油である。また可塑剤は、ゴム状中間ブロックとの十分な相溶性を有するオリゴマー又は他のエラストマーであってもよい。例としては、低分子量ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブテン、プロピレン及びエチレンの非晶質ポリオレフィンコポリマー、ブチルゴム、並びにゴム状ブロックとの十分な相溶性を有することが知られている他のポリマーが挙げられる。
【0037】
いくつかの実施形態において、第1の層のSBC組成物は、1つ又は複数の強化用樹脂を含む。強化用樹脂は、SBCの機械的性能(引張及び引裂抵抗性)を改善することができる成分から選択される。このような成分は、通常、芳香族樹脂などの、PSブロックと混和する低分子量ポリマー、並びにスチレン無水マレイン酸(SMA)樹脂及びアイオノマー樹脂などの、PSブロックと混和するブロックを含むコポリマーである。機械的特性の強化は、強化用シリカ、カーボンブラック充填剤、及び繊維などの強化用充填剤によって提供することもできる。
【0038】
いくつかの実施形態において、第1の層のSBC組成物は、完成材料の要求される物理的態様及び機械的性能を提供するために、例えば、顔料、一次及び二次酸化防止剤、充填剤(無機物又は有機物)、加硫及び架橋剤、光開始剤、帯電防止剤、消泡剤、界面活性剤、並びに他の加工剤及び樹脂などであるがこれらに限定されない、他の従来のゴム添加剤を含む。
【0039】
いくつかの実施形態において、多層組成物は、手袋に所望される最終特性を調整するように選択され得る機能性添加剤も含み得る。これらの機能性添加剤は、特に、腐食防止剤、潤滑剤、化学マーカー、相転移生成物、エネルギー粒子(放射線)減速剤、殺菌力を有する薬剤、芳香剤又は保湿剤、切断を検出するための色素、及びこれらの組合せから選択され得る。
【0040】
SBC組成物は、優先的に、溶媒中の溶液を用いる浸漬によって加工される(溶媒キャスティングフィルム)。或いは、SBCの水分散液(ラテックス)を使用することもできる。
【0041】
第2の層
いくつかの実施形態において、第2の層の合成エラストマーは、ポリクロロプレン(CR)、ポリイソプレン(IR)、ニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、ポリウレタン(PUR)、及びこれらの組合せからなる群から選択される。
【0042】
エラストマー又はエラストマーのブレンドは、任意選択的に、SBC組成物の1つ又はブレンドと任意の比率でブレンドされ得る。SBCを含まない合成エラストマーのブレンドも企図される。
【0043】
上記エラストマーの乾燥物及びラテックス分散液の両方が現在市場で入手可能であることを考慮すれば、エラストマーは、適切な溶媒中に溶解させてから、フィルムを溶媒キャスティングすることにより「乾燥ゴム」から出発して、或いは水分散液(ラテックス)から出発して利用され得る。
【0044】
エラストマー組成物は、要求される物理的及び機械的仕様を有する薄膜を提供するために利用される従来の添加剤の全てを含有し得る。
【0045】
これらの添加剤には、可塑剤、強化用樹脂及び充填剤、架橋添加剤(加硫又は/及び他の化学架橋剤系)、一次及び二次酸化防止剤、加工樹脂及び化学物質(界面活性剤、水酸化ナトリウムなど)、並びに離型剤などが含まれるが、これらに限定されない。
【0046】
種々の合成エラストマーの任意の比率の組合せが使用されてもよい。
【0047】
本開示の好ましい実施形態では、合成エラストマーは、CR及びSBCのブレンド、又はIR及びSBCのブレンド、又はCR及びIRのブレンド、又はCR及びNBRのブレンド、又はCR、NBR及びSBCのブレンドを含む。
【0048】
別の好ましい実施形態では、合成CRは汎用ポリクロロプレン(この場合、重合中の移動剤としてn-ドデシルメルカプタン又はキサントゲンジスルフィドが使用され得る)、或いは硫黄変性グレードから選択される。低速結晶化グレードが好ましく、クロロプレン(2-クロロブタジエン-1,3)のホモポリマー、又はクロロプレン及びコモノマー(例えば、2,3-ジクロロ-1,3ブタジエン)のコポリマーから選択され得る。
【0049】
別の好ましい実施形態では、合成NBRは、カルボキシル化ニトリルブタジエンゴムのラテックス分散液から選択される。このコポリマーは、25~39%のアクリロニトリル及び3~12%のメタクリル酸の重量比を有する。
【0050】
別の好ましい実施形態では、IIRは、非ハロゲン化ブチルとは対照的に、広範なハロブチル(ブロモ又はクロロ)から選択される。
【0051】
驚くことに、独特の多層組成物は、従来技術に記載される単独でのエラストマー又はブレンドと比べて特に有利な特性を示す。構造及び材料組成物の組合せは、手袋用途においてこれまで記載されていない有利な性能及び利益を提供する。驚くことに、多層組成物はより少ない架橋添加剤を必要とするので、これらは、全体的により清浄でありながら、高い柔軟性と優れた機械的特性とを兼ね備える。
【0052】
この点について、多層組成物の柔軟性は、特にCR、NBR、PUR及びSBRと比較して著しく増強させることができ、「清浄度」も、特に純粋なIRエラストマーと比較して同様である。
【0053】
多層組成物は、同じ組成物又は異なる組成物とのいくつかの層の重ね合わせによって製造され得る。
【0054】
いくつかの実施形態において、多層組成物の全厚は、約10ミクロン~約500ミクロンの間、好ましくは約50ミクロン~約350ミクロンの間、より好ましくは約100ミクロン~約300ミクロンの間であり得る。
【0055】
いくつかの実施形態において、多層組成物の全厚は、500ミクロン未満、又は400ミクロン未満である。
【0056】
いくつかの実施形態において、第1の層の厚さ対第2の層の厚さの比率は、約2:1~約20:1の間、好ましくは約3:1~約10:1の間である。
【0057】
いくつかの実施形態において、多層組成物は、SBC、例えばSEBSを含む第1の層と、SBC(SIS)及びIRのブレンドを含む第2の層とを含み、ここで、SIS対IRの重量比は50%よりも大きい。
【0058】
いくつかの実施形態において、多層組成物は、SBC組成物、例えばSEBSを含む第1の層と、NBR及びCRのブレンドを含む第2の層とを含み、ここで、CR対NBRの重量比は50%よりも大きい。
【0059】
多層組成物は、医療用又は工業用手袋用途などの種々の応用分野において有利な性能を見出すことができる。
【0060】
別の態様では、本開示は、本明細書に開示される多層組成物のいずれか1つを含む、手袋などの製造物品を提供する。
【0061】
好ましくは、手袋は、異なる組成物を有する層を含む。
【0062】
有利に、多層組成物は、例えば、水分散液(ラテックス)又はポリマー溶液(溶媒キャストフィルム)を用いて、異なるフィルム形成プロセスによって製造されたフィルムを積層する可能性を提供する。
【0063】
別の態様では、本開示は、本明細書に開示される実施形態のいずれか1つに従う多層組成物を製造するためのプロセスを提供し、前記プロセスは、以下のステップ:
(a)1つ又は複数の合成エラストマーの層を型の上に形成するステップと、
(b)続いて、1つ又は複数の合成エラストマーの層の上に、SBC組成物を含む層を形成するステップと
を含む。
【0064】
任意選択的に、ステップ(a)の前、ステップ(a)とステップ(b)との間、又はステップ(b)の後のいずれかに、1つ又は複数のさらなる層が適用され得る。
【0065】
好ましい実施形態では、合成エラストマー層は、1つ又は複数の合成エラストマーのラテックス分散液から形成される。別の好ましい実施形態では、SBC組成物を含む層は、SBC組成物の溶液から形成される。
【0066】
プロセスは、1つ又は複数の合成エラストマー又はSBC組成物の分散液又は溶液中に型を順次浸漬することによって実施され得る。
【0067】
手袋製造の場合、型から完成手袋を除去した後、手袋が使用されるとき、合成エラストマー層は手袋の外側を表すことが認識されるであろう。
【0068】
2つの層において組成物の選択から任意の不適合性が生じ得る場合、任意選択的に他の接着促進剤を添加して、合成エラストマー層及びSBC層の組成物の両方の混合物であり得る1つ又は複数の中間層は、層のラミネーションを円滑にするために使用され得る。
【0069】
層の間の接着は、化学的処理又は物理的処理によっても達成され得る。化学的処理は、グラフト化又は化学攻撃のいずれかを意味すると理解され、物理的処理は、イオン、電子(コロナ又はプラズマ処理)又は光子(紫外線処理)によるフィルムの表面の照射を意味すると理解される。
【0070】
また手袋は容易に着用される必要もあり、したがって手袋の内側は、当該技術分野において既知の手段、例えば、繊維状粒子(フロックライニング付き手袋(flock lined gloves))、織布(支持手袋(supported gloves))、遊離した粉末を伴わない着用、例えば、ポリマーコーティング若しくは表面修飾(塩素化)又は粉末潤滑剤の使用などに従って修飾され得る。
【0071】
物品、例えば手袋、特に乾燥物品は、続いて、放射線、例えば、電子ビーム、ガンマ線、UV又はX線に曝露され得る。
【0072】
本開示のさらなる特徴及び利点は、以下の図面及び詳細な説明を参照することによって理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図面の簡単な説明
【
図1】本開示の一実施形態に従って手袋を製造するためのプロセスを概説するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0074】
実施形態の詳細な説明
以下は、当業者が本開示を実施するのを助けるために提供される本開示の詳細な説明である。当業者は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、本明細書に記載される実施形態に修正及び変化を行うことができる。
【0075】
本明細書に記載されるものと類似又は等価の任意の方法及び材料も本開示の実施又は試験において使用可能であるが、好ましい方法及び材料がここで記載される。
【0076】
また、本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、他に規定されない限り、複数の指示対象を含むことも注意すべきである。したがって、例えば、「SBC」への言及は2つ以上のSBCも含み得る、などである。
【0077】
本明細書を通して、「含む(comprises)」若しくは「含む(comprising)」という用語又はその文法的な変化形の使用は、記述される特徴、整数、ステップ又は成分の存在を特定すると考えられるが、具体的に言及されていない1つ又は複数の他の特徴、整数、ステップ、成分又はその群の存在又は付加を排除しないものとする。
【0078】
具体的に記述されない限り、又は文脈から明らかでない限り、本明細書で使用される場合、「約」という用語は、当該技術分野における通常の許容範囲内、例えば平均の2つの標準偏差内であると理解される。「約」は、記述される値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、又は0.01%以内であると理解することができる。文脈から他に明白でない限り、本明細書及び特許請求の範囲において本明細書で提供される全ての数値は、「約」という用語により修飾することができる。
【0079】
本明細書で提供される任意の方法又はプロセスは、本明細書で提供される他の方法又はプロセスのいずれかの1つ又は複数と結合させることができる。
【0080】
本明細書で提供される範囲は、その範囲内の値の全てに対する省略表現であると理解される。例えば、1~50の範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、又は50からなる群からの任意の数、数の組合せ、又は部分範囲を含むと理解される。
【0081】
本開示の例示的な実施形態についてこれから詳細に言及されるであろう。本開示は、例示的な実施形態と共に記載されるが、本開示のそれらの実施形態への限定は意図されないことが理解されるであろう。反対に、添付の特許請求の範囲により定義される本開示の精神及び範囲内に含まれる得る代替物、修飾物、及び等価物を包含することが意図される。
【0082】
医療用手袋用途において、SBC(SEBS)の第1の層と、SBC(SIS、80%)及びIR(20%)のブレンドを含む第2の層とを含む多層組成物は、有利に、SBCによって提供される優れた柔軟性及びデクスタリティ(dexterity)を維持しながら、要求されるレベルの耐薬品性を提供する。
【0083】
工業的用途において、電気絶縁保護の増強のために設計された電気絶縁手袋は、第1の層がSBC組成物、有利にはSEBSを含む多層組成物を含み得る。SBC層は、溶媒キャスティングによって調製され得る。第2の層は、NBR(30%)及びCR(70%)のブレンドを含む。多層材料は、現在市場にある製品に優れたフィット感及びデクスタリティ性能を提供する。NBR及びCRのブレンドは、機械的及び化学的攻撃に対するSBC第1層性能への保護を提供し、第1の層は、電気絶縁保護と、分解性酸化、特にオゾンへの抵抗性とを提供する。
【実施例】
【0084】
実施例1:SEBSの第1の層を、ラテックスブレンドCR/NBRの第2の層と共に含む多層組成物
本開示の上記の特徴を説明できるように、プロセスフローチャートの簡単な説明は
図1に示される。しかしながら、フローチャート及び開示は本開示の例示的な実施形態を示し、したがって本開示の範囲を限定すると考えられてはならないことに注意すべきである。
【0085】
この実施例では本開示を説明するために、清浄な手袋成形型は、水中に分散された硝酸カルシウム、エトキシル化脂肪アルコールなどの非イオン性湿潤剤、並びに離型剤、例えば、炭酸カルシウム又はステアリン酸塩、ワックス、及びシリコーンの凝固剤混合物中に浸漬され得る。
【0086】
次に、成形型上の凝固剤は乾燥され、ラテックス組成物(合成エラストマー)中に浸漬され得る:この実施例では、ポリクロロプレン(CR)及びカルボキシル化ブタジエンニトリル(NBR)の混合物が使用され、表1に概説されるように配合され得る。
【0087】
【0088】
次に、手袋成形型の表面に形成されたフィルムを熱水中で浸出させ、オーブン内で加熱により架橋させ、浸出させてから、清浄に乾燥させることができ、したがって、表面は次の浸漬のために汚染物を全く含まない。
【0089】
次の浸漬は、可塑化スチレンエチレンブタジエンスチレンブロックコポリマー組成物(このエラストマー及び可塑剤(鉱油)を溶媒中に可溶化することにより得られる)のコーティングを含み得る。浸漬に適した溶液の粘度は、通常、500~2000cpsの範囲内である。
【0090】
コーティング及びそれに続く乾燥の操作は、次の任意の浸漬の前にSEBSの要求される厚さを達成するために繰り返され、次に、残留溶媒のあらゆる痕跡の蒸発を達成するために長時間の乾燥で完了され得る。本実施例では、第1の層対第2の層(SEBS層)の厚さ比は約1:5になる。
【0091】
浸漬コーティングによって適用される潤滑コーティングは、手袋構造を仕上げるであろう。このコーティングは、手袋の着用性を向上させるであろう種々の成分の混合物から配合され得る:通常、アクリレート系コポリマー、ワックス及びシリコーンの混合物である。
【0092】
この実施例において、手袋は、化学的架橋CR/NBRブレンドで作られた外側層からの優れた機械抵抗を兼ね備える以下の独特の利点を提供するであろうことが予測され、これは、付加的に、化学物質、例えば、SEBSを可溶化するであろう芳香族炭化水素溶媒(例えば、トルエン)又は塩化エチレンへの穏やかな曝露に耐えるであろう。
【0093】
この積層手袋は、非常に柔軟性でもあろう。100%の伸びにおける弾性率は柔軟性の良好な指標であり、ブレンドラテックス(CR/NBR)組成物又は純粋なCR若しくはNBR混合物で作られた任意の他の組成物の性能と比較して、手袋は高レベルの柔軟性を示し、したがって使用者のためのデクスタリティを示すことが予想される。
【0094】
溶媒浸漬コーティングによりSEBSから製造された手袋のコアは、CR/NBRブレンドから作られた強力な外側層により保護されながら、積層手袋に独特の特徴を付与し得る。
【0095】
真溶液として浸漬されるSEBSは、最高レベルの不透過性(ピンホールの問題を回避する)も付与する。それは、その飽和性のためにオゾン又はエージング条件からの亀裂を受けにくく、界面活性剤も、水和を促進して抵抗性を損なうであろう物質も含有しない。このような手袋は、有利に、絶縁手袋の分野において関心を見出すであろう。
【0096】
さらに、このような組成物は、伝統的なラテックス浸漬製品のわずか20%である、低下したレベルの促進剤を提供し得る。
【0097】
実施例2:SEBSの第1の層を、ラテックスブレンドIR/SISの第2の層と共に含む多層組成物
この多層材料は、SEBS(実施例1と同じ組成物)の第1の層と、SIS(80%)及びIR(20%)のブレンドを含む第2の層とを含む。薄層は、従来の硫黄架橋系を用いて架橋され得る。
【0098】
本出願を通して引用される全ての参考文献、並びに公開特許及び特許出願の内容は、参照によって本明細書に援用される。当業者は、開示される構造、材料、組成物及び方法の変化形と共に本開示を実施することができ、このような変化形が本開示の範囲内であると見なされることを認識するであろう。
【0099】
当業者は、単なる日常の実験を用いて、本明細書に記載される特定の実施形態及び方法の多数の等価物を認識するであろう、或いは確認することができるであろう。このような等価物は、以下の特許請求の範囲により包含されることが意図される。
【0100】
本明細書に記載される詳細な実施例及び実施形態は、説明のための例として与えられるだけであり、決して本開示を限定すると考えられてはならないことが理解される。それを踏まえて、種々の修正又は変化が当業者に示唆されることになり、これらは本出願の精神及び範囲内に含まれ、添付の特許請求の範囲内に含まれると考えられる。例えば、成分の相対量は、所望の効果を最適化するように変更されることができ、付加的な成分が添加されてもよく、及び/又は記載される成分の1つ又は複数の代わりに類似の成分が使用されてもよい。
【0101】
本開示のシステム、方法、及びプロセスに関連する付加的な有利な特徴及び機能性は、添付の特許請求の範囲から明らかであろう。さらに、当業者は、単なる日常の実験を用いて、本明細書に記載される本開示の特定の実施形態の多数の等価物を認識するであろう、或いは確認することができるであろう。このような等価物は、以下の特許請求の範囲により包含されることが意図される。