IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェの特許一覧

<>
  • 特許-誘導感知システム及び方法 図1
  • 特許-誘導感知システム及び方法 図2
  • 特許-誘導感知システム及び方法 図3
  • 特許-誘導感知システム及び方法 図4
  • 特許-誘導感知システム及び方法 図5
  • 特許-誘導感知システム及び方法 図6
  • 特許-誘導感知システム及び方法 図7
  • 特許-誘導感知システム及び方法 図8
  • 特許-誘導感知システム及び方法 図9
  • 特許-誘導感知システム及び方法 図10
  • 特許-誘導感知システム及び方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】誘導感知システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0522 20210101AFI20240329BHJP
【FI】
A61B5/0522
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021534238
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(86)【国際出願番号】 EP2019085026
(87)【国際公開番号】W WO2020126878
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】18213488.2
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ピータース ワウテル ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】クレイネン マーク ピーター ポール
(72)【発明者】
【氏名】スターンブリンク ティム パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ドーデマン ゲラルドゥス ヨハネス ニコラース
(72)【発明者】
【氏名】ベゼマー リック
(72)【発明者】
【氏名】フェルノーイ カーリン アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ジジ エルカン フェリット
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/127482(WO,A1)
【文献】特表2015-507945(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0007275(US,A1)
【文献】特表2012-529656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/0522
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体への電磁励起信号の印加に応じて前記身体からの戻りの電磁信号を感知するための誘導感知システムであって、前記誘導感知システムが、
ループアンテナを備える共振器回路と、
前記電磁励起信号を生成するために前記ループアンテナを励起する信号生成手段と、
前記共振器回路の電気的特性の変動を検出することに基づいて前記ループアンテナを使用して前記身体からの戻りの前記電磁信号を感知する信号感知手段とを備え、
前記誘導感知システムが、
受信された前記電磁信号によって前記共振器回路において誘導された追加のインダクタンス成分の実部と虚部との両方を示す測定値を、感知された戻りの前記電磁信号から検出し、
前記身体内の複数の異なる既知の生理学的ソースからの信号に関して、前記生理学的ソースから受信された信号によって共振器回路に加えられた実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分の特有の相対的な大きさを示す情報を記憶するデータセットにアクセスし、
実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分を示す検出された前記測定値を使用して、並びに前記データセットを調べることに基づいて、異なるそれぞれの既知の生理学的ソースに対応する1つ又は複数の個々の信号成分を戻りの前記電磁信号から抽出し、前記抽出が、戻りの前記電磁信号によって前記共振器回路に加えられた検出された前記実数インダクタンス成分及び前記虚数インダクタンス成分の相対的な大きさに基づくものであり、対応する記憶されたベクトルとさらなるベクトルとの内積を取ることを有し、前記さらなるベクトルが、1つ又は複数の感知された戻りの前記電磁信号の実部及び虚部を示す前記測定値を表している、誘導感知システム。
【請求項2】
個々の前記信号成分の前記抽出が、前記実数インダクタンス成分及び前記虚数インダクタンス成分を示す検出された前記測定値に独立成分分析の手順を適用することに基づく、請求項1に記載の誘導感知システム。
【請求項3】
それぞれの生理学的ソースに関する記憶された前記情報が、複素平面内のベクトル又は点の形態を採り、前記ベクトル又は前記点が、それぞれの前記生理学的ソースから受信された信号によって共振器回路に加えられた追加のインダクタンス成分を表す、請求項に記載の誘導感知システム。
【請求項4】
記憶された前記情報によって表される前記特有の相対的な大きさが、感知された前記追加のインダクタンス成分の実部及び虚部を示す検出された前記測定値と所与の生理学的ソースに関する抽出された信号成分との間の乗算のマッピングを提供するために重み付けされる、請求項に記載の誘導感知システム。
【請求項5】
それぞれの生理学的ソースに関する記憶された前記情報が、
前記生理学的ソースに関連する生理学的パラメータと、前記生理学的ソースから受信された信号によって共振器回路に加えられた前記追加のインダクタンス成分の実部を示す測定値との間の比を示す第1のベクトル成分と、
前記生理学的ソースに関連する生理学的パラメータと、前記生理学的ソースから受信された信号によって共振器回路に加えられた前記追加のインダクタンス成分の虚部を示す測定値との間の比を示す第2のベクトル成分とを有するベクトルを含む、請求項又はに記載の誘導感知システム。
【請求項6】
ースラインを削除するために前記内積を実行する前に前記さらなるベクトルの成分に低域通過フィルタが適用され、及び/又は前記内積を実行する前に前記さらなるベクトルに帯域通過フィルタが適用される、請求項からのいずれか一項に記載の誘導感知システム。
【請求項7】
前記信号感知手段が、前記共振器回路のリアクタンスの変化を検出することに基づいて前記追加のインダクタンス成分の実部を示す前記測定値を検出する、及び/又は
前記信号感知手段が、前記ループアンテナの電気抵抗の変化を検出することに基づいて前記追加のインダクタンス成分の虚部を示す前記測定値を検出する、請求項1からのいずれか一項に記載の誘導感知システム。
【請求項8】
前記信号感知手段が、前記共振器回路の電流の周波数の変化を検出することに基づいて前記追加のインダクタンス成分の実部を示す前記測定値を検出する、及び/又は
前記信号感知手段が、前記共振器回路の電流の振幅の変化を検出することに基づいて前記追加のインダクタンス成分の虚部を示す前記測定値を検出する、請求項1からのいずれか一項に記載の誘導感知システム。
【請求項9】
前記信号生成手段が、放射周波数ωを有する励起信号を生成するために前記共振器回路を励起し、
コントローラが、少なくとも1つの制御モードにおいて、第1の周波数から第2の周波数への前記放射周波数の調整を実行して、それによって、異なるそれぞれの前記生理学的ソースから受信された信号によって前記共振器回路に加えられた誘導された前記追加のインダクタンス成分によって前記複素平面内に形成されるそれぞれのベクトルの間の直交性の度合いを高める、請求項からのいずれか一項に記載の誘導感知システム。
【請求項10】
前記誘導感知システムが、前記放射周波数の調整によって異なる前記生理学的ソースに関する誘導された前記追加のインダクタンス成分の実数成分及び虚数成分内の誘導された変化を反映するために、それぞれの前記生理学的ソースに関する記憶された前記情報をさらに更新する、請求項に記載の誘導感知システム。
【請求項11】
前記誘導感知システムが、前記生理学的ソースの各々に関する記憶された前記情報を決定すること又は更新することを有する学習手順を実行する、請求項から10のいずれか一項に記載の誘導感知システム。
【請求項12】
前記学習手順が、感知された戻りの前記電磁信号に対して独立成分分析の手順を実行すること、戻りの前記電磁信号によって前記共振器回路に加えられた前記追加のインダクタンス成分の実部及び虚部を表す信号に対してICAの手順を実行することを有する、請求項11に記載の誘導感知システム。
【請求項13】
前記誘導感知システムが、複数の駆動周波数によって時間多重式に前記ループアンテナを駆動し、前記駆動周波数の各々において前記ループアンテナにおいて戻りの前記電磁信号を感知する、請求項1から12のいずれか一項に記載の誘導感知システム。
【請求項14】
前記誘導感知システムが、抽出された前記1つ又は複数の信号成分を処理し、前記1つ又は複数の信号成分に基づいて1つ又は複数の生理学的パラメータを導出する信号処理手段を備える、請求項1から13のいずれか一項に記載の誘導感知システム。
【請求項15】
身体への電磁励起信号の印加に応じて前記身体から戻りの電磁信号を感知することに基づく誘導感知方法であって、前記誘導感知方法が、
共振器回路を使用して身体に電磁励起信号を印加するステップであって、前記共振器回路がループアンテナを備える、印加するステップと、
前記共振器回路の電気的特性の変動を検出することに基づいて前記ループアンテナを使用して前記身体からの戻りの前記電磁信号を感知するステップと、
受信された前記電磁信号によって前記共振器回路において誘導された追加のインダクタンス成分の実部と虚部との両方を示す測定値を、感知された戻りの前記電磁信号から検出するステップと、
前記身体内の複数の異なる既知の生理学的ソースからの信号に関して、前記生理学的ソースから受信された信号によって共振器回路に加えられた実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分の特有の相対的な大きさを示す情報を記憶するデータセットにアクセスするステップと、
実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分を示す検出された前記測定値の使用に基づいて、並びに前記データセットを調べることに基づいて、異なる既知の生理学的ソースからの1つ又は複数の個々の信号成分を、戻りの前記電磁信号から抽出するステップであって、前記抽出が、戻りの前記電磁信号によって前記共振器回路に加えられた検出された前記実数インダクタンス成分及び前記虚数インダクタンス成分の相対的な大きさに基づくものであり、対応する記憶されたベクトルとさらなるベクトルとの内積を取ることを有し、前記さらなるベクトルが、1つ又は複数の感知された戻りの前記電磁信号の実部及び虚部を示す前記測定値を表している、抽出するステップとを有する、誘導感知方法。
【請求項16】
それぞれの生理学的ソースに関する記憶された前記情報が、複素平面内のベクトル又は点の形態を採り、前記ベクトル又は前記点が、それぞれの前記生理学的ソースから受信された信号によって共振器回路に加えられた追加のインダクタンス成分を表す、請求項15に記載の誘導感知方法。
【請求項17】
前記追加のインダクタンス成分の実部を示す前記測定値を検出するステップが、前記共振器回路の電流の周波数の変化を検出することに基づいて実行される、及び/又は
前記追加のインダクタンス成分の虚部を示す前記測定値を検出するステップが、前記共振器回路の電流の振幅の変化を検出することに基づいて実行される、請求項15又は16に記載の誘導感知方法。
【請求項18】
前記共振器回路が、放射周波数を有する励起信号を生成するように制御され、
前記誘導感知方法が、少なくとも1つの制御モードにおいて、第1の周波数から第2の周波数への前記放射周波数の調整を実行して、それによって、異なるそれぞれの前記生理学的ソースから受信された信号によって、前記共振器回路に加えられた誘導された前記追加のインダクタンス成分によって前記複素平面内に形成されるそれぞれのベクトルの間の直交性の度合いを高めるステップを有する、請求項16に記載の誘導感知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、電磁励起信号の身体への伝播に応じて身体から発せられた電磁信号を感知するための誘導感知システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓、肺、又は動脈などの身体の内部構造の機械的運動及び動力学的変化を測定するニーズが、一般に存在する。例えば、心室の若しくは肺の循環的に変化する内部ボリューム若しくは大きさ、又は動脈の機械的活動、例えば、心臓のサイクルに合わせて変化する動脈のボリュームを測定することが有用である。
【0003】
機械的活動を測定するセンサーは、動態記録(kymographic)センサー(臨床分野においては動態記録バイオメトリックセンサー)と呼ばれることがある。動態記録バイオメトリックセンサーのいくつかの例は、加速度計に基づくバイオセンサー、経胸インピーダンス(transthoracic impedance)バイオセンサー、レーダーに基づくバイオセンサー、静電容量センサー、及び光電式容積脈波記録法(RPG)センサーである。
【0004】
磁気誘導センサーも、機械的活動を感知するためのバイオメトリックセンサーとして使用される可能性を有する。誘導式の感知の動作原理は、ファラデーの法則に基づく。振動する1次磁場が、生成ループアンテナによって生成され、これが、ファラデーの法則により、信号を照射された組織内に渦電流を誘導する。渦電流は、2次磁場を生成する。そのとき、全磁場は、1次磁場及び2次磁場の重ね合わせである。生成アンテナの電気的特性(アンテナ電流)に誘導された変化が、測定されることが可能であり、これらが、2次磁場及びひいては刺激された組織の特性を推定するために使用されることが可能である。
【0005】
誘導式の感知は、心臓及び肺の機械的活動又は人の腕の橈骨動脈などの血管の機械的活動の簡単な非接触式の測定の可能性を提供する。
【0006】
(誘導式センサー及びその他の種類のセンサーを含む)動態記録バイオセンサー全般の非常に大きな欠点は、動態記録バイオセンサーが異なる生理学的ソース又は活動から生じる感知された信号を区別することが現在非常に難しいことである。
【0007】
例えば、単一の複合的な戻りの信号内で、心臓の機械的活動(例えば、心臓の鼓動)に関連する信号の要素と肺の機械的活動(例えば、呼吸)に関連する要素とを識別することが非常に難しい。
【0008】
既知のシステムにおいて、これは、心拍数が呼吸数よりも多いと仮定することによって行われることが多い。このようにして、異なる信号の成分が、周波数に基づいて区別され、分離され得る。
【0009】
しかし、心拍数及び脈拍数の臨床的にあり得る範囲は、重なり合う。例えば、特に大きな呼吸数の周波数は、特に小さな脈拍数の周波数と重なり、その逆もある。したがって、感知された(大きな)呼吸数が、最新式のシステムによって小さな心拍数と誤って解釈されること及びその逆があり得、誤った臨床診断及び介入につながる。
【0010】
例えば、新生児のモニタリングにおいて、無呼吸が、インピーダンスに基づく測定によって検出されないことがよくあり、その理由は、この条件の心収縮の特性が、患者の呼吸数として誤って解釈されるからである。
【0011】
既知のシステムのさらなる関連する問題は、モーションアーチファクト(motion artefact)が脈拍信号又は呼吸信号などの真の生物物理学的信号と区別することがやはり難しいことである。やはり多くの場合、モーションアーチファクトを信号と区別することは、アーチファクトの周波数がバイオメトリック信号の周波数と異なる及び/又はアーチファクトの波形がバイオメトリック信号の波形と(例えば、形状の特性が)異なると仮定することによって実行される。しかし、これらの方法は、信号のアーチファクトの周波数と波形との両方がバイオメトリック信号の周波数及び波形に似ていることが多いので、多くの場合、不十分である。
【0012】
例えば、歩行中の患者の歩調の周波数(step frequency)が脈拍数に近い場合(これはよくあることである)、脈拍の周波数の測定値は、信頼できなくなる。さらに、たとえ周波数が異なる場合であっても、患者の歩調の周波数は、それにもかかわらず、例えば、それら2つの非常に似た波形が原因で脈拍の周波数と解釈される。これは、心拍数の誤った測定をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、異なる生理学的信号を互いにかつ信号のアーチファクトからより高い信頼性で区別することができる誘導式の感知の改善された手法が、必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明が、請求項によって定義される。
【0015】
本発明の態様による例によれば、身体への電磁励起信号の印加に応じて前記身体からの戻りの電磁信号を感知するための誘導感知システムであって、誘導感知システムが、
ループアンテナを備える共振器回路と、
電磁励起信号を生成するためにループアンテナを励起するように適応された信号生成手段と、
共振器回路の電気的特性の変動を検出することに基づいてループアンテナを使用して身体からの戻りの前記電磁信号を感知するように適応された信号感知手段とを備え、
誘導感知システムが、
受信された電磁信号によって共振器回路において誘導された追加のインダクタンス成分の実部と虚部との両方を示す測定値を感知された戻りの電磁信号から検出し、
実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分を示す検出された測定値を使用して、異なるそれぞれの生理学的ソースに対応する1つ又は複数の個々の信号成分を戻りの電磁信号から抽出するように適応され、抽出が、戻りの電磁信号によって共振器回路に加えられた検出された前記実数インダクタンス成分及び前記虚数インダクタンス成分の相対的な大きさに基づく、誘導感知システムが提供される。
【0016】
抽出された信号成分は、身体内の異なるそれぞれの既知の生理学的ソースにそれぞれが対応する別々の個々の信号成分である。言い換えると、各信号成分は、異なる生理学的ソースに対応する任意のその他の信号成分と分けられた分離された信号成分である。
【0017】
本発明の実施形態は、身体内の異なる生理学的又は解剖学的ソースから生じる信号が、そのソースからの信号がアンテナに到達するときに感知アンテナにおいて誘導される追加のインダクタンス成分の実部及び虚部の異なる特有の相対的な大きさを呈するという洞察に基づく。
【0018】
提案される手法は、身体から戻ってきて受信された複合的な信号全体によってアンテナループ(又は共振器回路)において誘導された追加のインダクタンス成分の実部と虚部との両方に関連するか又はそれら両方を示す測定値をアンテナの電気的特性の変化から測定することに基づく。
【0019】
一部の実施形態においては、独立成分分析の方法が、異なる生理学的ソースに対応する別々の個々の信号成分を決定し、抽出するために実数成分及び虚数成分を示す検出された測定値を表す信号に適用される。これは、加えられた実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分を示す前記測定値を表す検出された信号が独立成分分析の手順によってリアルタイムで処理され、異なる成分の生理学的信号がこれに基づいて分けられ、抽出されるように「オンライン」で行われる。
【0020】
さらなる1組の実施形態によれば、異なる特定の生理学的信号のソースに関する対応するインダクタンス信号の実部及び虚部(又はそれらに関連する測定値)の既知の特有の相対的な大きさのデータセットが、調べられることが可能であり、これらが、異なる生理学的ソースに対応する信号要素を複合的な信号から抽出するために使用され得る。
【0021】
例えば、追加の実数インダクタンス部分及び虚数インダクタンス部分を示す検出された測定値並びに実数インダクタンス部分及び虚数インダクタンス部分の異なる特有の相対的な大きさに関連する記憶された測定値又は情報は、追加の誘導されたインダクタンス成分に関する複素平面内のベクトルと考えられ得る又は理解され得る。異なる生理学的ソースに関する異なる信号成分の抽出は、記憶された特有のベクトルを実部及び虚部の測定されたベクトルに効果的に射影することによって実現され得る。記憶された特有のベクトルのうちの1つと同じ複素平面内の方向性を有する複合劇な信号の部分のみが、この射影から出力される。そして、この部分が、そのベクトルに対応する生理学的ソースから生じる信号成分に対応する。
【0022】
概して、ループアンテナが身体に近づけられるとき、インダクタンスLは、励起信号の印加の結果として刺激された身体内で誘導された渦電流が原因で生じる追加の反射インダクタンス(reflected inductance)成分Lを獲得する。そして今度は、これらの渦電流が、時間的に変化する2次磁束の生成が原因でループアンテナのインダクタンスに有効に寄与する。これらの渦電流の磁束が、アンテナの1次磁束と組み合わさり、アンテナ内のより大きな誘導逆EMF及びひいてはより大きな測定可能な実効インダクタンスをもたらす。
【0023】
渦電流から生じるインダクタンスの加えられた成分は、本開示においては同義語として「反射インダクタンス」Lと呼ばれる。コイルアンテナの総インダクタンスLは、
=L+L
と表され、ここで、Lは、自由空間内のアンテナの自己インダクタンスであり、Lは、刺激された身体又は媒身体の近接によってもたらされる反射インダクタンスである。
【0024】
反射インダクタンスは、反射インピーダンス(reflected impedance)Zに密接に関連する。関係は、L=Z/iωであり、ωは、電磁励起信号(身体に印加された時間的に変化する場)の放射周波数(radial frequency)である。
【0025】
概して、反射インダクタンスLは、複素数であり、
【数1】
と表されることが可能であり、ここで、L’は、アンテナのリアクタンス性インピーダンスに関連し、
【数2】
は、コイルの抵抗性インピーダンスに関連する。
【0026】
インダクタンスLの反射成分の追加は、アンテナ(又は共振器回路)の特性の離調につながる。特に、コイルアンテナ回路の固有放射周波数とコイルアンテナ回路のダンピングファクタとの両方が、変化する。
【0027】
特に、追加のインダクタンス成分Lの実部は、共振器回路又はアンテナの周波数内に現れる。追加のインダクタンス成分の虚部は、共振器回路の振幅内に現れる。したがって、1組の例において、追加のインダクタンス成分の実部及び虚部は、共振器回路(電流)の周波数及び振幅の変化をそれぞれ測定することに基づいて検出される。しかし、以下で検討されるように、その他の手法も可能である。
【0028】
上記共振器回路は、戻りの電磁信号を測定又は検出する目的でそれらの信号と結合するためのものである。
【0029】
この手法の信号の感知は、したがって、信号の生成と同時に実行される。
【0030】
共振器回路は、ループアンテナと電気的に結合されたキャパシタ構成要素を備える。
【0031】
共振器回路は、電気共振周波数を有する。これは、回路に備えられた設けられたキャパシタ構成要素によって少なくとも部分的に定義される。
【0032】
上述のように、1組の実施形態によれば、個々の信号成分の抽出は、実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分を示す検出された測定値に独立成分分析の手順を適用することに基づく。
【0033】
さらなる1組の実施形態によれば、抽出は、異なる生理学的信号のソースに関する加えられた実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分の既知の相対的な大きさを示す情報のデータセットを調べることに基づく。
【0034】
特に、この1組の実施形態において、システムは、
前記身体内の複数の異なる既知の生理学的ソースからの信号に関して、前記生理学的ソースから受信された信号によって共振器回路に加えられた実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分の特有の相対的な大きさを示す情報を記憶するデータセットにアクセスし、
実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分を示す検出された測定値を使用して、並びに前記データセットを調べることに基づいて、異なるそれぞれの既知の生理学的ソースに対応する1つ又は複数の個々の信号成分を戻りの電磁信号から抽出するように構成される。
【0035】
データセットは、異なる生理学的ソースから生じる信号によって加えられたインダクタンス成分の実部及び虚部の相対的な大きさを示す情報を記憶する。相対的な大きさによって意味されるのは、互いに相対的なことであり、例えば、大きさは、それらの総和又はそれらの2乗の総和が1であるように正規化される。
【0036】
特有の相対的な実部の大きさ及び虚部の大きさを示す記憶された情報は、多くの異なる特有の形態又は表現を取り得る。一部の例において、相対的な大きさは、数値の形態で記憶される。一部の例において、相対的な大きさは、ベクトルの形態で記憶され、例えば、それぞれの相対的な大きさが、1つのベクトル要素又は成分を形成する。
【0037】
一部の例においては、異なる測定値が記憶され、この測定値は、例えば、実数インダクタンス部分及び虚数インダクタンス部分の相対的な大きさを示すか若しくはそのような相対的な大きさに関連するか、又はそのような相対的な大きさに比例する。例えば、一部の例においては、生理学的信号が、実部及び虚部の各々によって割られ、これらの商又は比が、記憶される。一部の例においては、所与の生理学的ソースから受信された信号によって誘導された追加の(複素)インダクタンス成分の複素偏角又は複素位相が、記憶される。基本的に、偏角は、追加のインダクタンス成分の複素平面における方向を示し、その方向から、追加のインダクタンス部分の実部及び虚部の相対的な大きさが、直接得られる。
【0038】
1組の例によれば、それぞれの生理学的ソースに関する記憶された情報は、生理学的ソースから受信された信号によって感知共振器回路に加えられた追加のインダクタンス成分に関する複素平面内のベクトル又は点の形態を取る。
【0039】
ベクトル又は点は、本開示においては特有のベクトル又は点と呼ばれる。ベクトル又は点は、それぞれの生理学的ソースから受信された信号によって共振器回路に加えられた追加のインダクタンス成分を表す。
【0040】
特有のベクトルは、一部の例においては正規化される(つまり、ベクトルは、複素平面内の単位ベクトルである)。
【0041】
ベクトルの代わりに、記憶された情報は、その他の例においては単に、複素平面内のそのようなベクトルの方向の表現の形態を取る。
【0042】
さらなる例において、記憶された情報は、(上述のように)生理学的ソースから受信された信号によって誘導された追加のインダクタンス成分の特有の偏角又は位相の形態を取る。
【0043】
1組の例によれば、記憶された情報によって表される前記特有の相対的な大きさが、感知された追加のインダクタンス成分の実部及び虚部を示す検出された測定値と所与の生理学的ソースに関する抽出された信号成分との間の乗算のマッピング(multiplicative mapping)を提供するために重み付けされる。
【0044】
これは、実部を示す記憶された測定値及び虚部を示す記憶された測定値が、測定された追加のインダクタンス成分の対応する実部又は虚部とそれぞれを乗算することが対応する生理学的ソースから生じる信号成分を表す信号出力を直ちにもたらすように重み付けされることを意味する。
【0045】
1組の例によれば、それぞれの生理学的ソースに関する記憶された前記情報は、
前記生理学的ソースから受信された生理学的信号と前記生理学的信号に関する受信された追加のインダクタンス成分の実部を示す測定値との間の比を示す第1のベクトル成分と、
前記生理学的ソースから受信された生理学的信号と前記生理学的信号に関する受信された追加のインダクタンス成分の虚部を示す測定値との間の比を示す第2のベクトル成分とを有する特有のベクトルを含む。
【0046】
ここで、データセットに記憶される特有の相対的な大きさは、実際の誘導式の信号測定及び抽出プロセスを実行する前に決定される。ソースから受信された生理学的信号は、例えば、測定された生理現象単位の真の生理学的信号を意味する。例えば、肺のボリュームの信号は、リットル単位である。
【0047】
生理学的信号は、測定されている、つまり、共振器回路に加えられた追加のインダクタンス成分によって表される生理学的パラメータ又は量を意味する。したがって、第1のベクトル成分は、生理学的ソースに関連する生理学的パラメータ又は量と前記生理学的ソースから受信された信号によって共振器回路に加えられた追加のインダクタンス成分の実部を示す測定値との間の比を示し、
第2のベクトル成分は、生理学的ソースに関連する生理学的パラメータ又は量と前記生理学的ソースから受信された信号によって共振器回路に加えられた追加のインダクタンス成分の虚部を示す測定値との間の比を示す。
【0048】
第1の及び第2のベクトル成分は、実際の測定された信号を、共振器回路における結果として得られる感知された追加のインダクタンス成分の対応する測定された実数成分及び虚数成分によってそれぞれ割ったものに対応する。
【0049】
したがって、各ベクトルは、関連する生理学的パラメータの測定値の大きさを対応する追加の受信されたインダクタンス成分の実部によって割ったものに基づく要素と、関連する生理学的パラメータの測定値の大きさを対応する追加のインダクタンス成分の虚部によって割ったものに基づく要素とを包含する。
【0050】
相対的な実数インダクタンス部分及び虚数インダクタンス部分に関連する記憶された測定値又は情報が(特有の)ベクトルの形態で記憶されるか又は表される場合、システムは、
それぞれの生理学的ソースに対応する記憶されたベクトルとさらなるベクトルとの内積を取ることに基づいて異なる既知の生理学的ソースから1つ又は複数の信号成分を抽出するように適応され、さらなるベクトルは、(1つ又は複数の)感知された戻りの電磁信号の実部及び虚部を示す前記測定値を表す。さらなるベクトルのベクトル要素は、例えば、共振器回路において誘導された測定された追加のインダクタンス成分Lの実部及び虚部である、つまり、(Re{L},Im{L})である。ベクトル要素は、それぞれ、時間の関数として前記実数成分及び前記虚数成分を表す信号である。
【0051】
任意で、ベースラインを削除するために内積を実行する前に前記さらなるベクトルの成分に低域通過フィルタが適用され、及び/又は内積を実行する前に前記さらなるベクトルに帯域通過フィルタが適用される。帯域通過フィルタは、例えば、高周波数の雑音成分に加えてべースラインを削除する。
【0052】
上記信号感知手段は、共振器回路のリアクタンスの変化を検出することに基づいて追加のインダクタンス成分の実部を示す前記測定値を検出するように適応される。追加のインダクタンス成分Lの実部は、大きさω・Re{L}の修正されたアンテナのリアクタンスにつながる。これが、以下でさらに説明される。
【0053】
追加的に又は代替的に、信号感知手段は、ループアンテナの抵抗の変化を検出することに基づいて追加のインダクタンス成分の虚部を示す前記測定値を検出するように適応される。誘導された追加のインダクタンス成分Lは、大きさ-ω・Im{L}の修正されたアンテナの抵抗につながる。これが、以下でさらに説明される。
【0054】
1つ又は複数の実施形態によれば、信号感知手段は、共振器回路の電流の周波数の変化を判定することに基づいて追加のインダクタンス成分の実部を示す前記測定値を検出するように適応される。上述のように、追加のインダクタンス成分の実部は、共振器回路の電流の修正されたリアクタンスに現れる。この修正されたリアクタンスは、修正された共振器の周波数につながる。これが、以下でさらに説明される。
【0055】
共振器回路の周波数の変化を監視することは、共振器回路において誘導された追加のインダクタンス成分の実部の変化を検出する非常に単純で分かりやすい手段を提供する。したがって、ここで検出される測定値は、周波数である。
【0056】
追加的に又は代替的に、信号感知手段は、アンテナコイル又は共振器回路(電流)の電流の振幅の変化を判定することに基づいて追加のインダクタンス成分の虚部を示す前記測定値を検出するように適応される。
【0057】
上述のように、追加のインダクタンス成分の虚部は、共振器回路の電流の修正された抵抗に現れる。この修正された抵抗は、共振器回路の修正された減衰につながる。そしてさらに、これは、共振器回路の電流の修正された振幅につながる。これが、以下でさらに説明される。
【0058】
共振器回路(電流)の振幅の変化を監視することは、共振器回路において誘導された追加のインダクタンス成分の虚部の変化を検出する非常に単純で分かりやすい手段を提供する。したがって、ここで検出される測定値は、電流の振幅である。
【0059】
上述のように、特定の例において、それぞれの生理学的信号のソースに関する記憶された情報は、追加のインダクタンス成分に関する複素平面内の特有のベクトル又は点の形態を取る。そのような場合の特定の例において、
信号生成手段は、放射周波数ωを有する励起信号を生成するために共振器回路を励起するように適応され、
コントローラは、少なくとも1つの制御モードにおいて、第1の周波数から第2の周波数への前記放射周波数の調整を実行して、それによって、異なる生理学的ソースに関する誘導された追加のインダクタンス成分の前記実数成分及び前記虚数成分によって複素平面内に形成されるベクトルの間の直交性の度合い(例えば、平均の度合い)を高めるように適応される。
【0060】
したがって、周波数の調整は、異なるそれぞれの生理学的ソースから受信された信号によって共振器回路に加えられた誘導された追加のインダクタンス成分によって複素平面内に形成されるそれぞれのベクトルの間の直交性の度合いを高めることになる。
【0061】
この1組の実施形態は、異なる生理学的ソースによって誘導された複素反射インダクタンス成分の複素平面における相対的な方向が励起信号の周波数に応じて変わるという洞察に基づく。したがって、周波数を調整することによって、異なる生理学的ソースに関する(ベクトルとして表される)これらのそれぞれのインダクタンス成分の間の複素平面における相対的な角度(すなわち、偏角)が変わる。このようにして、周波数が、異なる生理学的信号に関する複素平面内のベクトルの間の第1の直交性(例えば、平均の直交性)に関連する第1の周波数から異なる生理学的ソースに関する複素平面内のベクトルの間のより大きな第2の直交性に関連する第2の周波数に変更され得る。
【0062】
異なる生理学的ソースに関する(異なる対応するインダクタンス成分を表す)ベクトルが互いにより直交しているほど、信号抽出又は分離手順はよりうまく働く。 これは、信号抽出プロセスをモーションアーチファクト及び雑音のその他のソースに対してより強くする。したがって、ベクトルの直交を高めることが有益である。
【0063】
言い換えると、印加される励起信号の周波数が、身体内の異なる生理学的ソースに関するアンテナにおける誘導された反射インダクタンスL成分の特有のベクトルをよりうまく直交化するために調整される。これらの特有のL信号のより高い直交性は、異なる生理学的ソースに関する信号成分のより信頼できる及び堅牢な抽出及び分離につながる。したがって、特有のベクトルの間の直交性を最大化するために印加される信号周波数を調整することが有利である。
【0064】
システム、例えば、コントローラは、調整手順を実行しながら、異なる誘導されたインダクタンス成分を表すベクトルの直交性の度合いを監視する。周波数の調整が監視されたベクトルの直交性によって導かれるように、フィードバックループが実装され得る。
【0065】
1つ又は複数の実施形態によれば、誘導感知システムは、生理学的ソースの各々に関する記憶された情報を決定すること又は更新することを有する学習手順を実行するように適応される。学習手順は、特定の患者のために感知システムを使用する前に初期手順、例えば、較正又はセットアップ手順として実行される。一部の例においては、学習手順が実行されるまで、異なる生理学的ソースに関する記憶された情報は存在しない。一部の例において、学習手順は、フィンガープリントベクトルを学習するか又は決定するか又は更新するプロセスを有する。
【0066】
追加的に又は代替的に、1つ又は複数の実施形態によれば、誘導感知システムは、放射周波数の前記調整によって異なる生理学的ソースに関する誘導された追加のインダクタンス成分の実数成分及び虚数成分内の誘導された変化を反映するためにそれぞれの生理学的ソースに関する記憶された前記情報をさらに更新するように適応される。
【0067】
学習手順を実施する異なるやり方が存在する。1つ又は複数の実施形態によれば、システムは、それぞれの抽出された信号成分の信号特性に関連する情報を記録するように適応され、システムは、記録された情報に基づいて生理学的ソースの各々に関する記憶された情報を調整することを有する学習手順を実行するように適応される。
【0068】
例えば、システムは、将来の抽出された信号成分の同じ信号特性を監視し、将来の出力信号成分のそれらの特性の変動を減らす又は一様性を高めるために特有の測定値を調整するように適応される。
【0069】
記録された情報は、例えば、抽出された信号成分の形状特性、又は振幅、周波数組成、ベースライン、若しくは任意のその他の信号特性などのその他の信号特性に関連する。
【0070】
システムが、上の手順を実行するように構成されたコントローラを備えるか、又は、例えば、信号処理手段が、手順を実行する。
【0071】
1つ又は複数の実施形態によれば、学習手順は、アンテナにおいて感知された感知された戻りの信号に対して独立成分分析(ICA)の手順を実行することを有する。学習手順は、例えば、戻りの信号によって共振器回路に加えられたインダクタンスの前記実数成分及び前記虚数成分を表す信号に対してICAの手順を実行することを有する。ICAは、信号処理において既知の方法であるが、誘導感知の分野に応用されてこなかった。方法は、共振器回路のアンテナにおいて(追加のインダクタンス成分の形態で)感知された戻りの信号が異なる生理学的ソースにそれぞれ対応する複数の信号成分から形成された複合的な信号であるという仮定に基づく。ICAは、感知された誘導信号内の基礎をなす生理学的信号成分を決定又は抽出するために適用され得る。
【0072】
好ましい例において、アンテナにおいて感知された追加のインダクタンスの実数成分及び虚数成分は、それぞれ個々の信号と受け取られ、ICAの手順は、それらを形成する成分の生理学的信号を決定するためのこれらの実数インダクタンス信号及び虚数インダクタンス信号に適用される。
【0073】
1つ又は複数の実施形態によれば、システムは、連続的に複数の周波数でアンテナを駆動することを有する多周波数駆動方式を実施するように適応される。その多周波数駆動方式は、複数の異なる周波数を循環する。1つ又は複数の実施形態によれば、誘導感知システムは、複数の駆動周波数によって時間多重式にループアンテナを駆動し、前記駆動周波数の各々においてループアンテナにおいて戻りの電磁信号を感知するように適応される。時間多重化されるとは、アンテナが、異なる周波数の間を連続的に切り替えされることを意味する。
【0074】
この多周波数駆動方式は、それによって、それぞれの別個の周波数に関する1つ又は複数の測定信号を各デューティサイクルにおいて取得することを可能にする。それによって、これは、取得される信号の数を増やす。
【0075】
アンテナは、異なる駆動周波数を、連続的に、一度に1つの周波数ずつ交替又は循環させられ、誘導式センサーの測定が、駆動周波数の各々において信号生成と同時に行われる。
【0076】
実施形態の1つ又は複数の組によれば、誘導感知システムは、抽出された1つ又は複数の信号成分を処理し、(1つ又は複数の)信号成分に基づいて1つ又は複数の生理学的パラメータを導出するように構成された信号処理手段を備える。
【0077】
信号感知手段は、例えば、生理学的パラメータの測定値の決定(つまり、定量化)を容易にするための1つ又は複数のアルゴリズムを用いて予めプログラミングされる。
【0078】
信号処理手段は、一部の例においては、信号感知手段に備えられ、又は機能が、信号感知手段によって容易にされる。
【0079】
その他の例においては、パラメータ測定値導出手順が、別個の設けられたコントローラによって又はシステムの任意のその他の好適な構成要素によって実行される。
【0080】
本発明のさらなる態様による例は、身体への電磁励起信号の印加に応じて前記身体から戻りの電磁信号を感知することに基づく誘導感知方法であって、前記誘導感知方法が、
共振器回路を使用して身体に電磁励起信号を印加させるステップであって、共振器回路がループアンテナ及び電気的に結合されたキャパシタを備える、印加するステップと、
共振器回路の電気的特性の変動を検出することに基づいてループアンテナを使用して身体からの戻りの前記電磁信号を感知するステップと、
受信された電磁信号によって共振器回路において誘導された追加のインダクタンス成分の実部と虚部との両方を示す測定値を感知された戻りの信号から検出するステップと、
実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分を示す検出された測定値の使用に基づいて、異なる既知の生理学的ソースからの1つ又は複数の個々の信号成分を戻りの電磁信号から抽出するステップであって、抽出が、戻りの電磁信号によって共振器回路に加えられた検出された実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分の相対的な大きさに基づく、抽出するステップとを有する、誘導感知方法を提供する。
【0081】
上述のステップの各々に関する実施の選択肢及び詳細は、本発明の装置の態様(つまり、システムの態様)に関して上で与えられた説明及び記述に従って理解され、解釈される。
【0082】
本発明の装置の態様に関して上で説明された例、選択肢、又は実施形態の特徴又は詳細のいずれも、本発明のこの方法の態様に適用されるか、又は組み合わされるか、又は組み込まれる可能性がある。
【0083】
1つ又は複数の実施形態によれば、抽出は、システムに関連して上で検討された独立成分分析の手順の実行に基づく。
【0084】
さらなる1組の実施形態によれば、方法は、データセットの使用に基づく。特に、方法は、
前記身体内の複数の異なる既知の生理学的ソースからの信号に関して、前記生理学的ソースから受信された信号によって共振器回路に加えられた実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分の特有の相対的な大きさを示す情報を記憶するデータセットにアクセスするステップと、
実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分を示す検出された測定値の使用に基づいて、及び前記データセットを調べることに基づいて、異なる既知の生理学的ソースからの1つ又は複数の個々の信号成分を戻りの電磁信号から抽出するステップとを有する。
【0085】
1つ又は複数の実施形態によれば、それぞれの生理学的ソースに関する記憶された情報は、生理学的ソースから受信された信号によって感知共振器回路に加えられた追加のインダクタンス成分に関する複素平面内のベクトル又は点の形態を取る。ベクトル又は点は、本開示においては特有のベクトル又は点と呼ばれる。
【0086】
したがって、それぞれの生理学的ソースに関する記憶された情報は、複素平面内のベクトル又は点の形態を採り、ベクトル又は点は、それぞれの生理学的ソースから受信された信号によって共振器回路に加えられた追加のインダクタンス成分を表す。
【0087】
1つ又は複数の実施形態によれば、追加のインダクタンス成分の実部を示す前記測定値を検出するステップは、共振器回路の電流の周波数の変化を検出することに基づいて実行される。
【0088】
追加的に又は代替的に、1つ又は複数の実施形態によれば、追加のインダクタンス成分の虚部を示す前記測定値を検出するステップは、共振器回路の電流の振幅の変化を検出することに基づいて実行される。
【0089】
1つ又は複数の実施形態によれば、共振器回路は、放射周波数ωを有する励起信号を生成するように制御され、
方法は、少なくとも1つの制御モードにおいて、第1の周波数から第2の周波数への前記放射周波数の調整を実行して、それによって、異なる生理学的ソースに関する誘導された追加のインダクタンス成分の前記実数成分及び前記虚数成分によって形成される複素平面内のベクトルの間の直交性の度合い(例えば、平均の度合い)を高めるステップを有する。
【0090】
言い換えると、周波数の調整は、異なるそれぞれの生理学的ソースから受信された信号によって共振器回路に加えられた誘導された追加のインダクタンス成分によって複素平面内に形成されるそれぞれのベクトルの間の直交性の度合いを高めることになる。
【0091】
本発明のこれらの及びその他の態様は、以降で説明される(1つ又は複数の)実施形態から明らかになり、それらの実施形態を参照して説明される。
【0092】
本発明のより深い理解のために及び本発明がどのようにして実施されるのかをより明瞭に示すために、以降で、単に例として添付の図面が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0093】
図1】身体への励起信号の印加及び身体からの戻りの2次信号の受信を概略的に示す図である。
図2】媒身体の層の境界面の右に及び左に進むベクトルポテンシャル場の成分を示す図である。
図3】感知システムの例示的なセットアップ及び多層媒身体への励起信号の印加を示す図である。
図4】信号のソースの位置の関数としてアンテナにおける誘導された反射インダクタンスの複素位相の変動を示すプロットである。
図5】本発明の1つ又は複数の実施形態による例示的な誘導感知システムをブロック図の形態で示す図である。
図6】異なる生理学的信号のソースから生じる信号成分の抽出のためのワークフローを概略的に示す図である。
図7】独立成分分析の方法を使用して測定された誘導感知信号に基づいて生理学的ソース信号を抽出することを示すグラフである。
図8】2つの異なる例示的な生理学的ソースからの反射インダクタンス信号に関する例示的な特有のベクトルの方向を示す図である。
図9】印加される励起信号の変化する周波数の関数として反射インダクタンス信号に関する特有のベクトルの方向の変動を示す図である。
図10】印加される励起信号の周波数を調整することに基づいて異なる生理学的ソースに関する反射インダクタンス信号に関する直交の観点での特有のベクトルを示す図である。
図11】1つ又は複数の実施形態による例示的な誘導感知方法のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0094】
本発明が、図を参照して説明される。
【0095】
詳細な説明及び特定の例は、装置、システム、及び方法の例示的な実施形態を示すが、説明のみを目的としており、本発明の範囲を限定するように意図されていないことを理解されたい。本発明の装置、システム、及び方法のこれらの及びその他の特徴、態様、及び利点は、以下の説明、添付の請求項、及び添付の図面からより深く理解されるであろう。図は単に概略的であり、正確な縮尺で描かれていないことを理解されたい。図全体を通じて同じ又は同様の部分を示すために同じ参照番号が使用されることも理解されたい。
【0096】
本発明は、身体に電磁励起信号を印加するように適応された誘導感知システムを提供し、システムは、ループアンテナを組み込む共振器回路を備える。システムは、共振器回路の電気的特性の変動に基づいて同じアンテナによって身体から戻りの信号を感知する。システムは、身体内の異なる生理学的ソースから受信された信号を分けるように構成される。これは、受信された電磁信号によってアンテナに加えられた追加のインダクタンス成分の実部と虚部との両方を示す電気的特性を共振器回路において検出することに基づいて実行される。異なる生理学的ソースからの信号を分けることは、特に、戻りの信号によって共振器回路に加えられた前記検出された実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分の相対的な大きさに基づく。
【0097】
1組の実施形態においては、身体内の異なる既知の生理学的ソースからの異なる信号に関して、そのソースから生じる信号によって感知アンテナ回路に加えられた実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分の既知の特有の相対的な大きさのインジケータを記憶する参照データセットが調べられる。このデータセットを調べ、実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分を示す検出された測定値を使用することによって、異なる既知の生理学的ソースからの1つ又は複数の信号成分が、受信された電磁信号から抽出される。
【0098】
その他の実施形態においては、加えられたインダクタンス成分の検出された実数成分及び虚数成分に基づいて受信された複合的な信号から異なる生理学的信号抽出するために、異なる手法が使用される。例えば、1組の実施形態においては、共振器回路に加えられた追加のインダクタンス成分の実部及び虚部を示す感知された測定値を表す信号に独立成分分析の手順が適用され得る。これは、異なる生理学的ソースから生じる、実数インダクタンス信号及び虚数インダクタンス信号に寄与する異なる信号成分が抽出されることを可能にする。これは、以下でさらに詳細に説明される。
【0099】
異なる生理学的ソースに関する加えられた実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分の既知の特有の相対的な大きさを示す情報を記憶するデータセットを調べることに基づくいくつかの例示的な実施形態が、以下で検討される。しかし、これは、可能な実施形態の1つの例示的なグループを示すに過ぎず、データセットの使用は、必須ではない。
【0100】
本発明は、異なる生理学的ソース、例えば、心臓の鼓動、肺膨張の変化、動脈の動きから生じる異なる信号成分を、戻りの信号から分離する問題に対する新規の解決策を提供する。
【0101】
本発明は、異なる生理学的な又は動態記録の発生源からの身体から戻りの電磁信号が、戻りの信号によってアンテナにおいて誘導された対応するインダクタンス成分(反射インダクタンス)の実部及び虚部の相対的な強度の形態の異なる「フィンガープリント」を呈するという洞察に基づく。この洞察は、異なる生理学的ソースからの信号成分を分ける簡単で効率的な手法を提供する。
【0102】
数学的にこれを適用する又は表す1つの単純な手法は、複素平面のベクトルの使用である。身体からの完全な(複合的な)戻りの信号は、2Dベクトルとして表現されることが可能であり、アンテナにおける追加の誘導されたインダクタンスの実部及び虚部(又はアンテナ電流の周波数及び振幅などのそれらに関連する若しくはそれらを示す測定値)がベクトルの成分を構成する。異なる生理学的ソースに関する異なる既知の信号の「フィンガープリント」は、それぞれ、2Dベクトルとして表されることが可能であり、ベクトルの成分は、その生理学的ソースからの信号によって誘導されたインダクタンスの実部及び虚部(又はそれらに関連する若しくはそれらを示す測定値)の相対的な大きさに対応する。例示的な実施形態の詳細な説明が、以下でさらに示される。
【0103】
より広く、身体内の異なる生理学的な又は解剖学的な発生源から生じる信号成分は、異なる複素位相(異なる複素偏角)を有する追加のインダクタンス成分を与えるものと理解され得る。
【0104】
本発明の実施形態の基礎をなす全体的な理論が、以降で説明される。
【0105】
本発明の実施形態は、誘導感知システム及び方法を提供し、したがって、磁気誘導の原理に基づく。磁気誘導の基本原理が、まず簡潔に概説される。
【0106】
本発明の実施形態は、誘導結合の原理に基づいて動作し、それによって、コイル又は電線が、時間的に変化する磁場に晒されることが原因でその両端に電位差を誘導する。本発明の実施形態は、この原理を使用して、身体の近くに配置されたコイル又はループアンテナのインダクタンスの変化を感知することによって身体の領域内に生成された電磁信号の強度を測定し、これらの変化は、アンテナ又は共振器回路の変化する共振特性に基づいて検出される。
【0107】
いずれの導電体も、自己インダクタンスの性質を呈する。自己インダクタンスは、導体中に流されている電流の変化が導体中の起電力の誘導をもたらす導電体の性質である。レンツの法則によれば、誘導起電力は、その起電力を誘導している電流の変化に抗するような向きである。したがって、誘導起電力は、通常、「逆EMF」と呼ばれる。自己インダクタンスは、電流の変化の結果として誘導される磁束(アンペールの法則)が原因で生じるものと理解され得る。そのとき、この磁束が、導体自体と相互に影響し合って逆EMFを誘導する(ファラデーの電磁誘導の法則及びレンツの法則)。
【0108】
回路の自己インダクタンスLと、電圧v(t)と、電流I(t)との間の関係は、
【数3】
と表され得る。
【0109】
ファラデーの電磁誘導の法則を使用してv(t)をdΦB/dt(ここで、ΦBは磁束である)と表し、(Lが時不変であると仮定して)時間に関して積分することによって、N巻きのコイルに関する自由空間(free space)自己インダクタンスLは、
L=NΦ/I (4)
と表され得る。
【0110】
本発明の実施形態は、電磁信号(波)によって身体を刺激又は励起し、それらの励起信号に応じて身体から発せられた信号を感知するための(好ましい実施形態においては一巻きループのみを備える)アンテナを備える共振器を使用する。
【0111】
コイルは、身体に印加するための励起信号を生成するために交流電流によって駆動される。これらは、場合によっては媒体中に伝播される伝播電磁信号であり、又は信号は、媒体に印加される、つまり、ループアンテナのソースを目標の媒体に近づけることによって印加される非伝播電磁場からなることが可能である。交流電流は、交流磁場強度(alternating field strength)の磁場を生成する。
【0112】
コイルが身体に近づけられるとき、インダクタンスLは、励起信号の印加の結果として刺激された身体内で誘導された渦電流が原因で生じる追加の反射インダクタンス成分Lを獲得する。
【0113】
これが、図1に概略的に示されており、図1は、例として、電磁信号22を胸部に印加するために対象者の胸部16の近くで交流電流によって駆動されるループアンテナ12を示す。
【0114】
結果として、渦電流18が、胸部内で誘導される。
【0115】
そして今度は、これらの渦電流が、ループアンテナ12のインダクタンスに有効に寄与する。これは、それらの渦電流自体が一時アンテナ12によって生成される周波数と等しい周波数の時間的に変化する磁束24の生成をもたらすからである。これらの渦電流の磁束が、アンテナの1次磁束と組み合わさり、アンテナ内の修正された誘導逆EMF及びひいてはより大きな測定可能な実効インダクタンスをもたらす。
【0116】
渦電流から生じるインダクタンスの追加の成分は、「反射インダクタンス」Lと呼ばれる。コイルアンテナ12の総インダクタンスLは、
=L+L (5)
と表され、ここで、Lは、自由空間内のコイルアンテナ12の自己インダクタンスであり、Lは、近傍の身体の存在によってもたらされる反射インダクタンスである。
【0117】
反射インダクタンスは、
【数4】
と定義されることが可能であり、ここで、Aは、電磁ベクトルポテンシャルの反射部分(つまり、刺激された媒体内の渦電流18によって生成される部分)であり、Iは、コイル電流である。反射インダクタンスは、反射インピーダンスZに密接に関連する。関係は、L=Z/iωであり、ここで、ωは、電磁励起信号22(身体に印加された時間的に変化する場)の放射周波数である。
【0118】
上の積分の式は、Bが「反射」磁場であるとして関係
∇×A=B (7)
を適用し、それからストークスの定理を適用して、N=巻き数であるとして式(6)を
【数5】
と表現し直すことによって理解され得る。これは、上の式(4)に概略を示されたインダクタンスに関する単純化された式の形態に対応することが分かる。
【0119】
反射インダクタンス成分の大きさは、身体から発せられて戻ってくる「反射」電磁信号の強度のインジケーションを与える。
【0120】
概して、反射インダクタンスLは、複素数であり、
【数6】
と表されることが可能であり、ここで、L’は、コイルアンテナのリアクタンス性インピーダンスに関連し、
【数7】
は、コイルの抵抗性インピーダンスに関連する。
【0121】
複素数Lは、もちろん、極形式
【数8】
で表されることも可能であり、ここで、φは、(概して
【数9】
によって与えられる)複素数Lの偏角又は位相である。
【0122】
インダクタンスLの反射成分の追加は、共振器回路の電気的特性の離調につながる。特に、共振器回路の固有放射周波数と共振器回路のダンピングファクタとの両方が、変化する。電気的特性のこの離調を測定することによって、反射インダクタンスLの実部及び虚部が、検出され得る。
【0123】
特に、反射インダクタンスの追加の結果としてのコイルの特性の離調は、以下のように表され得る。
【数10】
【数11】
ここで、
【数12】
は、自由空間におけるコイル回路の減衰されていない固有放射周波数であり、ω0,tは、媒体又は身体の存在下でのコイル回路の減衰されていない固有放射周波数であり(下付き文字tは「total(総合計)」を表す)、
【数13】
は、自由空間におけるダンピングファクタであり、ζは、媒体の存在下での(総)ダンピングファクタであり、L’は、式(9)において定義された反射インダクタンスの実部であり、
【数14】
は、式(9)において定義された反射インダクタンスの虚部である。
【0124】
離調された固有放射周波数は、反射インダクタンスの実部L’にのみ依存することが分かる。離調されたダンピングファクタは、反射インダクタンスの虚部
【数15】
にも依存する。
【0125】
簡単にするために、幾何学的に正規化された量を使用することが好ましいことがあり得る。したがって、「特有の」自己インダクタンス
【数16】
及び特有の反射インダクタンス
【数17】
が、以下のように定義される。
【数18】
【数19】
ここで、l=コイルの一巻きの外周の長さであり、N=コイルの巻き数であり、Lは、自由空間の自己インダクタンス(実数)であり、Lは、反射インダクタンス(複素数)であり、Lは、上の式(6)と同様に定義される。幾何学的に正規化された量を使用することの利点は、
【数20】
が、システムのサイズ及びアンテナコイルの巻き数と無関係であるという事実にある。
【0126】
これらの特有の量を使用して、反射インダクタンスの追加の結果としてのコイルの特性の離調は、以下のように表され得る。
【数21】
【数22】
ここで、
【数23】
は、自由空間におけるコイル回路の減衰されていない固有放射周波数であり、ω0,tは、媒体又は身体の存在下でのコイル回路の減衰されていない固有放射周波数であり(下付き文字tは「total(総合計)」を表す)、
【数24】
は、自由空間におけるダンピングファクタであり、ζは、媒体の存在下での(総)ダンピングファクタであり、
【数25】
は、式(9)において定義された特有の反射インダクタンスの実部であり、
【数26】
は、式(9)において定義された特有の反射インダクタンスの虚部である。
【0127】
以上、本発明の実施形態の完治システムが依拠する磁気誘導の基本原理が概説された。
【0128】
上述のように、本発明は、反射信号が生じた身体内の部位に応じて追加の反射インダクタンス成分Lの実部及び虚部の相対的な大きさが変わるという洞察に基づく。これを表現する別の仕方は、Lの複素位相又は偏角が対応する反射信号成分が生じる身体内の部位に応じて変わるということである。この原理は、異なる解剖学的部位からの信号成分が特定されることを可能にする。
【0129】
この物理的な洞察の背後にある理論が、以降でより詳細に説明される。これは、身体内の異なる部位から生じる反射インダクタンス信号Lの位相又は偏角の変動を示す空間マッピングがどのようにして構築され得るかを示すことによってなされる。
【0130】
特に、(nH/mを単位とする)特有の反射インダクタンス
【数27】
の発生元の空間マッピングM(r’,z’)にどのようにして到達したらよいかが示され、合計の特有の反射インダクタンスは、
【数28】
によって与えられる。
【0131】
定義された積分は、(刺激された身体内の)深さ座標z’及び(刺激された身体内の)横動径座標(transverse radial coordinate)r’上で行われる。空間マッピング関数M(r’,z’)は、身体中の感知された反射インダクタンスのソースの空間マッピングを表す。
【0132】
まず、基本の誘導感知の式が、設定される。これは、マクスウェルの方程式から導出されることが可能であり、円筒座標(r,z,φ)を使用して表される。z軸の周りの円対称性(circular symmetry)が、仮定される。さらに、(モデリングされる「反射」又は2次場のソースと考えられるべき)身体内の誘導された渦電流は、放射平面(radial plane)に完全に閉じ込められると考えられ、方位角方向(つまり、z軸の周りの円周方向)に回る。したがって、式は、完全に方位角方向の電流密度源(current density source)Jsrc,φによって誘導される完全に方位角方向のベクトルポテンシャルAφ(r,z)を記述する。
【数29】
ここで、
【数30】
は、空間的に変化する総波数の2乗であり、ε(r,z)は、媒体の誘電率であり、σ(r,z)は、媒体の導電率であり、μは、真空透磁率であり、ωは、渦電流の放射周波数である。空間に依存するε(r,z)及びσ(r,z)のおかげで、誘導感知の式(17)は、同質でない媒体を考慮に入れ、したがって、層状の媒体に限定されない。生体組織を感知する目的で、媒体の透磁率μは、μ≒μと近似される。
【0133】
概して、媒体を含む問題に関するマクスウェルの方程式の解は、ソース項(source term)自体が第1の問題の誘導される電流及び誘導される電荷のすべてを含む等価な自由空間の問題の解と同一になる。これは、誘導感知の式(17)の自由空間のグリーン関数及び合計の方位角方向の電流密度を使用する解の構築を可能にする。
φ(r,z)=∫∫dr’dz’G(r,z;r’,z’)Jφ(r’,z’) (18)
ここで、Jφ(r’,z’)は、ソースと誘導される電流との両方を含む合計の方位角方向の電流密度であり、G(r,z;r’,z’)は、
【数31】
によって暗黙的に定義される自由空間のグリーン関数であり、ここで、
【数32】
である。自由空間のグリーン関数の解は、zにおけるフーリエ変換、rにおけるその後のハンケル変換、及び複素平面における周回積分(contour integration)を使用するzにおけるその後の逆フーリエ変換が
【数33】
を生じることによって得られ、ここで、J(ξr’)は、1次の第1種ベッセル関数であり、
【数34】
は、(第4象限において選択される)自由空間における縦方向の複素波数であり、ξは、横方向の波数(半径r’方向の波数)である。
【0134】
式(18)の合計の電流密度Jφは、アンテナループのソース電流及び調べられる身体内の渦電流を線形和の形で含み、つまり、
φ(r,z)=Jsrc,φ(r,z)+Jeddy,φ(r,z) (21)
である。
【0135】
これは、式(18)のソースベクトルポテンシャルからの反射ベクトルポテンシャル(探し求められている量)の簡単な分離を可能にして、それにより、
φ,refl(r,z)=∫∫dr’dz’G(r,z;r’,z’)Jeddy,φ(r’,z’) (22)
となる。
【0136】
上述されたように、反射インダクタンス自体の代わりに、アンテナループの長さ及び巻き数によって正規化された反射インダクタンスを意味する「特有の」反射インダクタンス
【数35】
(上の式(14)参照)を考えることが、便利である。一巻きのループを用いるアンテナ(つまり、式(14)においてN=1)を考えると、特有の反射インダクタンスは、ループの電線における反射ベクトルポテンシャルAφ,refl(r=a,z=-h)から、式(14)と式(6)との組合せを使用して、
【数36】
として導出され、ここで、Iは、ループ電流であり、aは、ループの半径であり、hは、ループと調べられる媒体との間の距離である(調べられる媒体の表面がz=0にあり、媒体がz>0の領域に広がると仮定する)。
【0137】
式(22)と式(23)とを組み合わせることは、特有の反射インダクタンス信号の(探し求められている)空間マッピングを記述する式を、調べられる身体内の反射信号のソースの位置(r,z)の関数としてもたらす。
【数37】
ここで、自由空間のグリーン関数Gは、式(20)によって与えられる。
【0138】
式(24)の右辺は、上で導入された空間マッピングの式(16b)、つまり、
【数38】
の右辺に対応する。したがって、空間マッピング関数M(r’,z’)は、次のように表され得る。
【数39】
【0139】
この空間マッピングMは、刺激された身体内の特有の反射インダクタンス
【数40】
の発生元の空間的分布である。
【0140】
式(24)(及び式(18))は、調べられる身体内の位置(r’,z’)から生じる戻りの(反射)電磁信号によって共振器回路内に誘導されたインダクタンスの追加の成分(反射インダクタンス成分)の予測される大きさを記述する(方位角方向φについて円対称性が仮定される)。
【0141】
したがって、身体からの戻りの(反射)電磁信号の定量化として理解される特有の反射インダクタンス
【数41】
が、ループ電流に正規化された渦電流
【数42】
上の「ループ感度カーネル(loop-sensitivity-kernel)」G(a,-h;r’,z’)の畳み込みとして表されることが式(24)から分かる。
【0142】
ループ感度カーネルGは、刺激された身体内の位置(r’,z’)の関数であり、共振器回路において感知される特有の反射インダクタンスに対する、ループ電流に正規化された位置(r’,z’)における渦電流の影響を効果的に定量化する。これは、上の式(24)に数学的な形態で表されている。したがって、正規化された渦電流とのループ感度カーネルの単純な乗算が、式(24b)に示されるように、刺激された身体内の反射インダクタンスの発生源の空間マッピングM(r’,z’)を与える。空間マッピングM(r’,z’)は、身体内の特有の反射インダクタンス
【数43】
の発生源の空間的分布として直ちに解釈され得る。
【0143】
(式(24)に示されるように)位置の関数として反射インダクタンスを定量的にモデル化又はマッピングするためには、誘導された渦電流Jeddy,φ(r,z)を計算することが必要である。渦電流は、伝導電流(conduction current)と分極電流(polarization current)との両方を含み、つまり、
eddy,φ(r,z)=(-iωσ(r,z)+ωεχ(r,z))Aφ(r,z) (25)
であり、ここで、
【数44】
は、電気感受率であり、εは、媒体の誘電率であり、σ(r,z)は、媒体の導電率であり、ωは、渦電流の放射周波数である。
【0144】
ここで、特有の反射インダクタンスのソースの空間マッピングM(r’,z’)が、式(25)と式(24b)とを組み合わせることにより見つけられ、
【数45】
を生じる。
【0145】
マッピング関数M(r’,z’)は、3つの因子からなる。因子
【数46】
は、ループ電流に正規化されたベクトルポテンシャルである。真ん中の因子[...]と乗算されたこの最後の因子は、ループ電流に正規化された渦電流の密度をもたらす。それから、ループ感度カーネルG(a,-h;r’,z’)を乗算されたこれらの2つの因子は、空間マッピングM(r’,z’)をもたらす。そして、特有の反射インダクタンス
【数47】
が、(上の式(16b)に示されるように)単純にr’及びz’に関して積分することによって得られる。
【0146】
空間マッピングM(r’,z’)は、調べられる身体内の反射インダクタンスのソースの位置(r’,z’)にそれぞれ違ったように依存する実数成分及び虚数成分を有することが上の式(25b)から直ちに分かる。したがって、所与の
【数48】
成分に関するM(r’,z’)の実数成分及び虚数成分の相対的な大きさは、その成分を生じる身体内の渦電流のソースの位置に依存する。特有の反射インダクタンス
【数49】
が上の式(16b)によってM(r’,z’)に直接依存するので、所与の渦電流のソースに関する
【数50】
の実数成分及び虚数成分の相対的な大きさは、身体内のそのソースの位置に依存することが直ぐに分かる。
【0147】
この関係は、身体内の異なる生理学的ソースから生じる戻りの信号成分が
【数51】
の実数成分及び虚数成分のそれらの異なる特有の相対的な大きさに基づいて区別されることを可能にする。
【0148】
式(25b)によって示されるように、M(r’,z’)の最終的な定量化された解は、Aφ(r,z)(式(17))の解自体を必要とする。Aφ(r,z)の解は、少なくとも2つの異なるやり方で決定される。
【0149】
第1のやり方は、より包括的であり、通常の摂動的な手法に従う。式(25)と、式(21)と、式(18)とを組み合わせることによって、式(17)の解が、摂動級数(perturbation series)として決定され得る。
φ(r,z)=∫∫dr’dz’G(r,z;r’,z’)Jsrc,φ(r’,z’) (26)
+∫∫dr’’dz’’∫∫dr’dz’G(r,z;r’’,z’’)V(r’’,z’’)G(r’’,z’’;r’,z’)Jsrc,φ(r’,z’)
+...
ここで、
【数52】
は、級数の局所摂動である。この解は、任意の円対称な幾何学的配置に当てはまるので包括的である。しかし、この解は、概して、最終結果を得るための計算負荷が比較的高い。
【0150】
φ(r,z)の解を決定する第2のやり方が、以降で説明される。この手法は、より計算効率が良いが、層状の媒体(つまり、密度がそれぞれの個々の層内で同質であると仮定される、異なる密度の媒体からそれぞれが構成される複数の積み上げられた層を含む媒体)にのみ適用され得る。第1のステップは、解を右に進む(+)部分及び左に進む(-)部分に分解することである。
【数53】
【0151】
それぞれの個々の均質な層において、右に進む部分及び左に進む部分は、均質な誘導感知の式(17)の(r,z)が分離された形態にさらに分解される。これらの形態は、半径(又は横)r方向の実波数ξによってパラメータ表示され、
【数54】
【数55】
をもたらし、ここで、J(ξr)は、1次の第1種ベッセル関数であり、
【数56】
は、第4象限において選択される縦方向の波数(z方向の波数)である。
【0152】
振幅の外形
【数57】
が、ハンケル変換によって一意に決定され得る。
【数58】
【数59】
【0153】
振幅の外形
【数60】
は、次のように(r,z)が分離された形態で表される。
【数61】
ここで、
【数62】
は、図2に示されるように層の境界面上の右に進む場及び左に進む場のハンケル変換された振幅の外形であり、
【数63】
は、層番号xにおける縦方向の波数であり、Z、Z、...Zは、層番号1、2、...nのz方向の深さに対応する。
【0154】
複数の積み重ねられた層並びに層の境界面上の対応する右に進む場及び左に進む場が、図2に示される。x軸は、z方向の距離に対応し、Z、Z、...、Zは、層1、2、...nのz方向の深さに対応する。
【0155】
入ってくる振幅の外形は、式(18)及び(20)から、ソース電流密度
src,φ(r,z)=Iδ(r-a)δ(z+h) (33)
を使用して決定され、ここで、Iは、アンテナ電流であり、aは、アンテナループの半径であり、hは、アンテナループと調べられる媒体との間の距離である(調べられる媒体の表面がz=0にあり、媒体がz>0の領域に広がると仮定する)。これは、
【数64】
をもたらす。
【0156】
式(34)から知られる
【数65】
によって上の式(32)及び図2のすべてのその他の係数を表すために、連続したAφ(r,z)及び連続した
【数66】
を用いて(例えば、多層媒体内の光波をモデル化することに関して当技術分野でよく既知の)転送行列理論(transfer matrix theory)を使用することが可能である。
【0157】
これらの式は非常に長いので、簡潔にするために、完全な一式の式は、目下の目的のために省略される。しかし、層状の媒体に関してうまく働き、式(26)の第1の摂動的な手法よりも計算効率の良い、Aφ(r,z)を計算する第2のやり方が存在することが分かる。これは、式(34)を使用し、転送行列理論を適用して式(32)の合計のハンケル変換されたベクトルポテンシャル
【数67】
を計算することに基づく。実空間内のベクトルポテンシャルAφ(r’,z’)も、式(31)及び式(27)によって定義された逆ハンケル変換によって計算され、それによって、特有の反射インダクタンス
【数68】
の空間マッピングM(r’,z’)が下のようにより明示的に表されることを(式(25b)によって)可能にする。
【数69】
ここで、
【数70】
は、ループ電流に正規化された、式(32)から計算された合計のハンケル変換されたベクトルポテンシャルである。
【0158】
上で検討されたように、M(r’,z’)の実数成分及び虚数成分の相対的な大きさ(並びにその複素偏角又は位相)が、調べられる身体内のL信号のソースの位置(r’,z’)に依存することが分かる。したがって、同じことが、M(r’,z’)に直接依存する反射インダクタンス自体にも当てはまる。よって、所与の生理学的信号のソースに関する
【数71】
の実数成分及び虚数成分の相対的な大きさは、調べられる身体内のソースの位置に依存する。
【0159】
φ(r,z)及びひいてはJeddy,φ(r,z)(式25)に関する導出された解を使用して、調べられる身体内の信号の発生位置の関数として信号に関するアンテナ12における誘導された反射インダクタンス成分Lの予測される振幅及び位相の空間マッピングを導出することが可能である。
【0160】
例示的な空間マッピングが、図3に示される構成を有する例示的なシステムに関して導出された。半径dの一巻きのループを有する例示的なアンテナ12が、調べられている身体からの離間距離hにモデル化された。調べられる身体は、異なる媒体の導電率σ及び誘電率εの3つの層42、44、46を含むものとしてモデル化される。層42は、深さ10mmの脂肪層としてモデル化され、層44は、深さ10mmの骨の多孔質層としてモデル化され、さらなる層は、膨張した肺を表す。アンテナの高さhは、5mmにモデル化され、アンテナの直径は、50mmにモデル化された。生成された電磁励起信号の周波数fは、f=200MHzとしてモデル化された。cが光の速さであり、ω=2πfであるとして対応する正規化された放射周波数ω^=ω/2πcは、およそω^=0.1である。
【0161】
図4は、図3の構成に関する(式(24)に表された)特有の反射インダクタンス
【数72】
の位相及び振幅を、媒体内の深さ(z方向)及び半径方向の位置(r方向)の関数として示す等高線図を示す。左側のプロットは、(複素数)
【数73】
の位相(偏角)を示す。右側のプロットは、
【数74】
の大きさを示す。x軸は、媒体内のz方向の深さに対応する(単位:mm)。y軸は、(r方向に沿った)半径方向の位置に対応する(単位:mm)。
【0162】
予測される特有の反射インダクタンス
【数75】
の位相は、媒体内の深さzと半径方向の位置rとの両方の関数として変化することが分かる。上述のように、特有の反射インダクタンス
【数76】
への言及は、単に便利なためであり、
【数77】
は、
【数78】
によって正規化されていない反射インダクタンスLに関連付けられ、ここで、lは、アンテナループの巻きの長さであり、Nは、アンテナの巻き数である。したがって、位相は、Lに関して媒体内の位置の関数としてやはり変わることが分かる。
【0163】
上で概説された理論及び図3のプロットは、反射インダクタンスL(又は特有の反射インダクタンス)の複素偏角又は位相が身体内の戻りの電磁信号のソースの位置に応じて変わり、したがって、検出される反射インダクタンスの実部及び虚部の相対的な大きさも身体内の戻りの電磁信号のソースの位置に応じて変わる(式10参照)ことを示す。
【0164】
よって、検出される反射インダクタンスの実部及び虚部の相対的な大きさは、異なる生理学的ソースからの戻りの信号を区別し、分けるために使用され得ることになる。本発明の実施形態は、この原理に基づく。
【0165】
1つ又は複数の実施形態による1つの例示的な誘導感知システム8が、図3に概略的な形態で示されている。この例示的なシステムが、以降で概説される。
【0166】
誘導感知システム8は、身体への電磁励起信号の印加に応じて前記身体からの戻りの電磁信号を感知するためのものである。
【0167】
システムは、ループアンテナ12及び電気的に結合されたキャパシタ13を備える共振器回路10を備える。キャパシタ13の静電容量は、(強制(forcing)又は減衰がない場合の)共振器回路の固有共振周波数を少なくとも部分的に定義する。アンテナ12が励起されるとき、アンテナ12は、定義された共振周波数で自然に共振する傾向があり、同じ周波数の電磁信号を生成する。したがって、キャパシタの静電容量を選択することは、生成される電磁信号の周波数の少なくとも部分的なチューニングを可能にする。
【0168】
システム8は、電磁励起信号を生成するためにループアンテナを励起するように適応された信号生成手段14をさらに備える。信号生成手段は、例えば、放射周波数ωでアンテナを駆動する、つまり、周波数ωの交流電流によってアンテナを駆動するためのドライバ手段を備える。駆動手段は、例えば、発振器であるか又は発振器を備える。
【0169】
信号生成手段は、放射周波数ωの励起信号が必要とされる場合、放射周波数ωの電流によってアンテナ及び共振器回路を駆動する。
【0170】
共振器を励起することによって、共振電流が、ループアンテナを通ってキャパシタに流れ込んだり流れ出たりするように誘導される。アンテナを通して交流電流を駆動することによって、それによって、振動する電磁信号(波)の生成が刺激される。
【0171】
励起信号を生成するために、それに応じて身体から受信される電磁信号を感知するために使用されるのと同じアンテナが使用される。
【0172】
誤解を避けるために記すと、「電磁励起信号」は、単に、感知システムによって感知され得る、身体から外に返る電磁信号の放出をさらに刺激するために身体内の渦電流の生成を喚起する又は刺激する目的で身体に印加するための電磁信号を意味する。
【0173】
概して、「電磁信号」によって意味されるのは、電磁放射線の放出又は近傍電磁場の振動又は電磁振動及び/又は電磁波である。
【0174】
システム8は、共振器回路10の電気的特性の変動を検出することに基づいてループアンテナ12を使用して身体からの前記戻りの信号を感知するように適応された信号感知手段(「シグナルセンス(Signal Sense)」)20をさらに備える。信号感知手段は、共振器回路10の電流の電気的特性を検出又は監視するための信号処理又は分析手段を備える。
【0175】
例えば、信号感知手段20は、少なくとも、共振器回路の電流の周波数及び共振器回路の電流の振幅を監視するように適応される。電流のこれらの性質は、身体から返され、アンテナにおいて検出された反射電磁信号の強度に応じて変わる。これらの性質の変化は、受信された戻りの電磁信号によって共振器回路において誘導された追加のインダクタンス成分(反射インダクタンスL)の実部及び虚部の大きさをそれぞれ示す。
【0176】
これらの信号の特性の感知は、励起信号を生成するためのアンテナの励起と同時に(つまり、一緒に)実行される。したがって、信号の送信と感知とが、一緒に実行される。
【0177】
図5においては、信号生成手段14を介して共振器回路10に接続された信号感知手段20が示される。しかし、これは必須ではなく、信号感知手段及び信号処理手段は、独立して共振器に接続される可能性がある。
【0178】
システム8は、上記構成要素を使用して一連のステップを実行するように適応される。システムは、これらのステップを実行する又は容易にするように適応されたコントローラ又はマイクロプロセッサ(「MPU」)56を備える。例示的なマイクロプロセッサ56が、説明のために図5の例示的なシステムに示される。しかし、専用のコントローラ又はマイクロプロセッサは、必須ではない。その他の例においては、信号感知手段20及び/又は信号生成手段14などのシステムのその他の構成要素のうちの1つ又は複数が、ステップを実行されるように適応される。
【0179】
システム8は、以下のステップを実行するように、つまり、
受信された電磁信号によって共振器回路10において誘導された追加のインダクタンス成分の実部と虚部との両方を示す測定値を感知された戻りの信号から検出することと、
実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分を示す検出された測定値を使用して、異なるそれぞれの生理学的ソースに対応する1つ又は複数の個々の信号成分を戻りの電磁信号から抽出することであって、抽出が、戻りの信号によって共振器回路10に加えられた前記検出された実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分の相対的な大きさに基づく、抽出することとを行うように適応される。
【0180】
一部の実施形態において、システムは、前記身体内の複数の異なる既知の生理学的ソースからの信号に関して、前記生理学的ソースから受信された信号によって共振器回路に加えられた実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分の特有の相対的な大きさを示す情報を記憶するデータセットにアクセスし、
実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分を示す検出された測定値を使用して、並びに前記データセットを調べることに基づいて、異なるそれぞれの既知の生理学的ソースに対応する1つ又は複数の個々の信号成分を戻りの電磁信号から抽出するように適応される。
【0181】
その他の実施形態においては、異なる生理学的信号を分けるための異なる手段、例えば、独立成分分析の方法が使用される。
【0182】
上述の追加のインダクタンス成分は、簡潔にするために、反射インダクタンスLと呼ばれ、上で詳細に検討された反射インダクタンスに対応する。複素数L
【数79】
と表されることが可能であり、L’が実部であり、
【数80】
が虚部である。
【0183】
追加のインダクタンス成分の実部及び虚部を示す感知された測定値は、さまざまな形態を取る。しかし、有利な1組の例において、実部を示す感知された測定値は、共振器回路10の電流の周波数の感知された変化である。Lの虚部を示す感知された測定値は、共振器回路の電流の振幅の感知された変化である。
【0184】
下の表1は、アンテナにおける反射インダクタンスの実部及び虚部の変化に応じて変わる又は変動するさまざまな電気的特性を示す。したがって、それぞれが、反射インダクタンスLの実部及び虚部のうちの1つを示す潜在的な測定値を与える。異なる特性が、システム8の異なる構成要素において測定され得る。
【0185】
【表1】
【0186】
したがって、ループアンテナのリアクタンス及び抵抗の変化をそれぞれ示す任意の測定値が、反射インダクタンスの実部及び虚部を示す測定値として使用される。便利な直接的な測定値は、共振器回路の周波数及び減衰の変化の測定値である。
【0187】
共振器回路の減衰の変化は、共振器回路の電流の振幅の変化につながる。したがって、Lの虚部は、共振器回路の電流の振幅の変化を測定することによって測定され得る。Lの虚部は、共振器回路の電圧の振幅の変化を測定することによって測定される可能性もあり、電流の振幅Iと電圧の振幅Vとの間の関係は、I=2πCVによって与えられ、ここで、Cは、共振器回路の総静電容量である。
【0188】
そして今度は、これらが、例えば、共振器回路の又は信号生成手段(例えば、上述の例による発振器)を含む回路全体の電流の周波数及び振幅の変化を感知することによって感知され得る。
【0189】
上述のように、実施形態の少なくとも1つのグループによれば、システムは、異なる既知の生理学的ソースから生じる信号に関してアンテナにおいて検出された反射インダクタンス成分Lの実部及び虚部の特有の相対的な大きさを示す情報を記憶するデータセットを調べるように適応される。
【0190】
データセットは、ローカルに、例えば、システムによってさらに備えられたメモリに記憶されるか、又はデータセットは、外部に、例えば、システム8の遠隔に、例えば、リモートコンピュータ若しくはサーバ若しくはデータストアに記憶される。システムは、そのようなリモートコンピュータ又はデータストアと通信して、それによって、そこに記憶された情報にアクセスするように適応される。
【0191】
データセットは、例えば、データベース若しくはテーブルの形態又はデータ構造の任意のその他の形態を取る。
【0192】
有利な1組の例によれば、それぞれの生理学的ソースに関して記憶された指示情報は、内容が反射インダクタンスLの実部及び虚部の前記特有の相対的な大きさを示すベクトル要素を有するベクトルの形態を取る。
【0193】
したがって、異なる生理学的ソースXに関するこれらの記憶された特有のベクトルは、
【数81】
の形態を採り、ここで、PX,re及びPX,imは、生理学的ソースXから生じる信号によって誘導されると予測される反射インダクタンス信号の実数成分及び虚数成分の相対的な大きさを示す。
【0194】
これらのベクトルは、それらがそれぞれの生理学的ソースのインダクタンス信号のフィンガープリントを示すので「フィンガープリントベクトル」と呼ばれる。
【0195】
異なる生理学的ソースの例は、非限定的な例として、「呼吸」、「鼓動」、「動き」、又は「半径方向の動脈血管の直径」を含む。ソースは、「話す」又は「食べる」などのより一層特定的なソースを含む。
【0196】
特有のフィンガープリントベクトルは、前もって決定され、データベースに静的に記憶されるか、又はシステムの使用中に動的に更新される。後者の選択肢が、以降の部分でより詳細に説明される。
【0197】
最初にフィンガープリントベクトルを導出することは、実験的に行われるか、又は例えばモデリングに基づいて行われる。実験的な導出は、異なる可能なベクトルを試し、生理学的信号に対応する信号成分の抽出を正確にもたらすそれぞれの生理学的ソースに関するベクトルに反復的に近づく反復的なサンプリングプロセスに基づく。
【0198】
最も単純な場合、特有のフィンガープリントベクトル
【数82】
は、生理学的ソースXから生じる信号によるアンテナにおける予測される誘導された反射インダクタンスLr_Xを表す複素平面の正規化されたベクトルの形態を取る。この場合、
【数83】
【数84】
である。
【0199】
この例において、特有のベクトル
【数85】
は、単に、実数成分及び虚数成分の相対的な大きさを表す。その特有のベクトルは、実質的に複素平面内の予測される複素数Lの方向を表すものと理解される。
【0200】
システム8は、記憶された情報(つまり、この例においては特有のベクトル)を使用して異なる既知の生理学的ソースからの1つ又は複数の信号成分を感知された電磁信号から抽出するようにさらに適応される。
【0201】
完全な複合的な戻りの信号は、アンテナにおいて感知された追加のインダクタンス成分(反射インダクタンス)の実部及び虚部によってやはりベクトルの形態で表される。したがって、感知された信号
【数86】
は、
【数87】
の形態を採り、ここで、検出された追加のインダクタンス成分Lは、
【数88】
によって与えられる。
【0202】
そのとき、特定の生理学的ソースXからの信号成分A(t)の抽出は、感知された信号
【数89】
をそのソースに関する記憶された特有のベクトル
【数90】
に射影するステップを有する。数学的に、これは、感知された信号
【数91】
の、所与の生理学的ソースに関する特有のベクトル
【数92】
との単純な内積を実行することによって実現される。
【数93】
【0203】
これは、
【数94】
によって表される関連するLの実部及び虚部を有する、特定の生理学的ソースXから受信された電磁信号にのみ対応するインダクタンス信号の成分A(t)をもたらす。
【0204】
この射影は、データセットに記憶された特有のベクトルを有する生理学的ソースの任意の1つ又は複数に関して行われ得る。
【0205】
任意で、式(39)の射影は、
【数95】
のベースラインを、例えば、式(39)の内積を取る前に
【数96】
に高域通過フィルタを適用することによって最初に取り除くことにより改善される。
【数97】
ここで、
【数98】
は、
【数99】
のゆっくりと変動するベースラインである。
【数100】
は、単に、
【数101】
の低域通過フィルタリングされたバージョンであることに留意されたい。好ましくは、このフィルタの3dBポイント(3-dB point)は、関連する生理学的変化が前処理された信号
【数102】
に引き続き存在することを保証するのに十分なだけ低くあるべきである。
【0206】
任意で、式(39)の射影は、内積を取る前に帯域通過フィルタを適用することによってさらに改善され得る。
【数103】
ここで、
【数104】
は、
【数105】
の高域通過フィルタリングされたバージョンである。好ましくは、このフィルタの3dBポイントは、関連する生理学的情報が前処理された信号
【数106】
に引き続き存在することを保証するのに十分なだけ高くあるべきである。
【0207】
実施形態の1つ又は複数の組によれば、システム8は、抽出された信号成分のうちの1つ又は複数が対応する生理学的パラメータ又は現象を定量化するための手段を備える。例えば、肺から生じる抽出されたL信号成分は、肺のボリュームの生理学的パラメータに対応する。システムは、対応する信号成分を対応する生理現象、例えば、肺のボリュームを表す信号に変換又は変形又はマッピングするためのアルゴリズム又は演算子又は関数を備える。
【0208】
場合によっては、これは、例えば、導出された(生の)信号成分に適用される単純な乗数を含む。さらなる場合、これは、生の導出された信号成分を物理現象又はパラメータを表す信号へと処理又は変換するより複雑な関数又は演算子を含む。
【0209】
生理学的信号へのこの変換又はマッピングを実行するためのアルゴリズム、演算子、及び/又は関数は、ローカル又は遠隔に予め記憶され、システム8によってアクセスされる。
【0210】
一部の例において、真の生理学的信号へのマッピングは、特有の(フィンガープリント)ベクトル
【数107】
に組み込まれる。例えば、上の式(36)及び(37)に表された形態のベクトル成分を有する単純な正規化されたLベクトルを使用する代わりに、1つ又は複数の例によれば、
【数108】
ベクトルの成分が、真の生理学的パラメータ又は現象X自体の大きさを対応する反射インダクタンスの実部及び虚部によって割ることによって与えられる。
【0211】
例えば、生理現象Xが肺のボリュームの変動である場合、対応するフィンガープリントベクトル成分PX,re及びPX,imは、リットル/ヘンリーを単位とする。そのとき、これは、フィンガープリントベクトルと感知されたLベクトル(単位はヘンリー)との間で内積が取られるときに、結果として得られる出力信号が、単にリットル(つまり、真の生理学的パラメータの単位)を単位とすることを意味する。
【0212】
異なる信号成分を抽出する際にシステム8によって実行される処理ステップの図式的表現が、図6に示される。図6は、ループアンテナ12及び結合された信号処理手段14を示す。例として、対象者の身体の胸部の領域に送信される生成された励起信号が、示される。
【0213】
身体からの戻りの電磁信号が、同じアンテナにおいて受信される。追加のインダクタンス成分Lが、受信された電磁信号が原因で共振器回路において誘導される。
【0214】
の実部及び虚部が、検出され、決定され、これらが、2つの独立した信号として出力される。
【0215】
上述のように、1組の例によれば、Lの実部は、(アンテナ12及び結合されたキャパシタを備える)共振器回路の周波数又は信号生成手段(例えば、自励発振器(free running oscillator))の周波数を測定することによって測定される。これは、共振器の放射周波数が関係
【数109】
によって反射インダクタンスの実部に依存するからである。ここで、Lは、自由空間における特有の自己インダクタンスであり、ω0,0は、自由空間における共振器の放射周波数である。
【0216】
その他の例において、Lの実部は、異なるやり方で測定され、共振器回路及び/又は発振器の周波数は、制御回路によって固定されたまま保たれ、Lの実部は、制御回路への周波数フィードバック信号を介して測定される。多くの場合、そのような回路は、周波数ロックループ(frequency-locked-loop)回路として知られる。
【0217】
例えば、制御回路は、共振器回路の周波数を決まった周波数に維持するために実装される。このために、回路の周波数が、継続的に繰り返し測定され、この周波数が、(フィードバック信号として)可変静電容量キャパシタ構成要素にフィードバックされる。この可変キャパシタは、いかなる感知された周波数の変化も補償し、周波数を定義された値に維持するために、測定された周波数に応じて共振器回路の静電容量を調整する。
【0218】
そして、可変キャパシタへの周波数フィードバック信号は、それが共振器(及び発振器)回路の固有周波数の変化を表す情報を含むのでLの実部を決定するために使用される。
【0219】
これらのような周波数ロックループ回路は、放出周波数が固定されたまま保たれ、例えば、法的に禁じられた電磁帯域に移ることができないので、例えば、規制遵守を可能にするための利点を有する。
【0220】
さらに上述のように、Lの虚部は、1組の例によれば、共振器の減衰を測定することによって測定される。共振器の減衰は、例において、信号生成手段(この例においては発振器14)の振幅を測定することによって測定される。共振器の減衰は、キャパシタ上の共振器回路の電圧の振幅(当技術分野においては「タンクスイング(tank swing)」と呼ばれることが多い)又は共振器回路の電流の振幅を測定することによっても測定される。
【0221】
これは、発振器14の振幅が、大きさ
=-ωIm[L] (41)
を有する共振器回路における追加の誘導された抵抗成分Rrが原因で反射インダクタンスの虚部に少なくとも部分的に依存するからであり、ここで、ωは、共振器回路の電流の角周波数である。この追加の抵抗成分が、発振器14の振幅の減少を引き起こし、振幅は、抵抗が大きくなるにつれて小さくなる。
【0222】
特定の例によれば、共振器の減衰は、Lの実部を測定するための上で検討された固定周波数フィードバック回路と同様の原理で動作する固定電流及び電圧振幅制御ループ回路を使用することによって測定される。
【0223】
特に、共振器回路は、共振器回路の利得又は減衰を制御する(設定する)ための利得コントローラ又は減衰コントローラに結合される。動作中、共振器回路の電流又は電圧の振幅が監視され、これがフィードバック信号によって利得コントローラにフィードバックされる。利得又は減衰コントローラは、電流又は電圧の振幅のいずれの感知された変化も補償し、電流の振幅又は電圧の振幅を定義された決まったレベルに維持するために、戻りのフィードバック信号に基づいて共振器回路の利得又は減衰を調整するように適応される。この定義されたレベルは、好ましい例によれば調整可能である(例えば、ユーザが調整可能である)。
【0224】
そして、利得又は減衰コントローラにフィードバックされた電流又は電圧振幅フィードバック信号は、それが共振器回路の瞬間的な電流又は電圧の振幅を表す情報を含むので、Lの虚部を測定するために使用される。
【0225】
利得は、共振器回路(若しくは発振器回路)のテール電流(tail-current)又は利得回路のコレクタ電圧(すなわち、Vcc)を制御することに基づいて制御される。共振器回路の減衰は、共振器回路の可変抵抗器構成要素に基づいて調整される。
【0226】
この場合もまた、フィードバックループを使用することの利点は、規制の基準、例えば、回路が特定の定義された電圧又は電流の振幅の制限ないで動作するための要件により容易に準拠することを可能にすることである。
【0227】
異なる生理学的発生源からの信号が、上で概説された手順及び手法のいずれかに基づいてシステム8によって抽出される。
【0228】
検討されたように、1つの手法は、ベクトル表現を使用することであり、システムは、それぞれのソースから生じる信号に関する実数L成分及び虚数L成分の特有の相対的な大きさを表す異なる生理学的ソースに関する記憶された特有の(又はフィンガープリント)ベクトル
【数110】
にアクセスする。
【0229】
1組の例によれば、異なる生理学的ソースに関するフィンガープリントベクトル
【数111】
は、例えば、ローカルのメモリに、リモートコンピュータ若しくはサーバに遠隔で予め記憶される。
【0230】
一部の例において、システムは、データセットに記憶されたフィンガープリントベクトルが存在する生理学的ソースのすべてに関する信号成分を抽出する、つまり、システムは、データセットに記憶されたフィンガープリントベクトルのすべてをシステム8によって感知された複合的なL信号に適用する。
【0231】
その他の例によれば、システムは、ユーザインターフェースを含み、システムは、データセットに記憶されたフィンガープリントベクトルが存在する生理学的ソースのうちの1つ又は複数の組のユーザによる選択を可能にするように適応される。
【0232】
1つ又は複数の例によれば、システムは、1つ又は複数の患者のデモグラフィックパラメータ(例えば、体重、年齢、慎重)を示すユーザ入力を受信するように適応され、システムは、入力された患者のパラメータから、信号成分を導出する1つ又は複数の関連する生理学的ソースを決定するように適応される。そして、決定された生理学的ソースに対応する関連するフィンガープリントベクトルが、データセットから取り出され、対応する信号成分を抽出するためにシステム8によって使用される。
【0233】
場合によっては、2つ以上のベクトルが、所与の生理学的ソースに関してデータセットに記憶されるか、又は記憶されるベクトルのうちの1つ又は複数が、調整される患者に応じて決まるパラメータを含む。ユーザインターフェースは、これらの患者のパラメータのうちの1つ又は複数を示すユーザ入力を受け取るために使用され、これらは、ベクトルをチューニング若しくは調整するか、又は所与の筋書きで適用する最も関連性が高いフィンガープリントベクトルを選択するために使用される。この選択肢は、特定の患者のデモグラフィックパラメータがフィンガープリントベクトルに関する最適な設定に影響を与えると予測される(例えば、脂肪層の厚さがフィンガープリントベクトルの複素平面における方向に影響を与える)という認識に基づく。
【0234】
1つ又は複数の例によれば、システム8は、導出された信号成分をシステムのユーザに伝達するためのディスプレイ又はその他の感覚出力デバイスを備える。
【0235】
上述のように、システムは、抽出された信号成分をさらに処理して、それらの抽出された信号成分から、抽出された信号成分が対応する真の生理現象又はパラメータに関する対応する信号を導出するための手段を含む。例は、例えば、呼吸数信号、脈拍数信号、血管の直径、血圧、又は任意のその他の生理学的パラメータ若しくは測定値若しくは信号を含む。抽出されたパラメータ又は測定信号は、任意で、ディスプレイ出力を使用して表示される。
【0236】
1つ又は複数の例によれば、システム8は、所与の患者に関する既に抽出された信号成分の特性又は特徴に基づいて記憶されたフィンガープリントベクトル
【数112】
を調整又は改善するための学習手順を実行するようにさらに適応される。例えば、異なる患者は、それらの患者の身体に関連する異なる形状を有し、これらの異なる形状は、記憶された特有のフィンガープリントベクトルの単一の組があらゆる個々の患者に必ずしも最適に合わせられないことを意味する。
【0237】
例えば、各患者は、いくらか異なる内側の及び外側の体形(例えば、脂肪層の厚さ、筋肉の量、心臓の位置、肺膨張の量、呼吸の働き)を有する。
【0238】
したがって、システム8は、目の前の特定の患者に応じた(例えば、自動的な及び動的な)フィンガープリントベクトルの最初の学習及び/又は更新を可能にする学習アルゴリズムを用いて構成される。最適なフィンガープリントベクトルが、この手順によって特定の患者に関して特定される。これは、異なるフィンガープリントベクトルを試すように適応された学習又は調整アルゴリズムの適用を含み、これは、対応する抽出された信号成分が特定の対象の生理学的発生源(例えば、鼓動)から生じる尤度(likelihood)の出力スコアをもたらす。
【0239】
フィンガープリントベクトル動的に学習又は更新するための好ましい方法は、独立成分分析(ICA)と呼ばれるカテゴリのさまざまな既知の方法のうちの1つを適用することである。このカテゴリの方法は、誘導式の感知のコンテキストで使用されてこなかった。これらの方法が最適なフィンガープリントベクトルを動的に特定するのに極めて効果的であることが、発明者らによって発見された。
【0240】
本質的に、ICAアルゴリズムは、共振器回路における検出された信号(次元n>1、つまり、同時に検出された複数の信号)が次元m≦nの(基礎をなす、しかし、知られておらず、決定されるべき)ソース信号の線形混合又は結合であると仮定する。これをさらに説明するために、2つのソース信号a(t)及びa(t)並びに2つの検出された信号s(t)及びs(t)が存在する例が、以降、考察される。これら2つは、
【数113】
又は行列表記
【数114】
によって関連付けられ、ここで、重みベクトル行列
【数115】
は、a(t)及びa(t)が検出された信号s(t)及びs(t)にどのようにマッピング又は変換されるかを記述する。独立成分分析は、信号s(t)及びs(t)の測定に基づいて知られていない基礎をなすソースa(t)及びa(t)が得られるように行列
【数116】
を検出された信号
【数117】
に基づいて決定することに関連する。
【0241】
特に、重み行列の逆行列
【数118】
を導出することが最も有益になり得、それは、これが、知られていないソース
【数119】
を検出された信号
【数120】
に基づいてどのように構築すべきかをより直接的に示す、つまり、
【数121】
であるからである。したがって、独立成分分析は、基礎をなすソース信号
【数122】
を計算するために検出された信号
【数123】
に基づいて行列
【数124】
を得るために使用される。
【0242】
このICAの手法は、本発明の実施形態のためのフィンガープリントベクトルの決定に直接適用され得る。特に、式(39)の形態と式(44)の形態との間には直接的な対応が存在する。検出された信号s(t)及びs(t)は、例えば、誘導式センサーの測定された周波数及び振幅(又は反射インダクタンスの実部及び虚部のそれぞれ、若しくはループアンテナのリアクタンス及び抵抗のそれぞれ--異なる選択肢に関しては上の表1参照)によって与えられることが可能であり、再構築される基礎をなすソース、ソースa(t)及びa(t)は、アンテナによって捕捉される異なる生理学的信号のソース、例えば、呼吸及び鼓動(又は呼吸及び動き、又は鼓動及び動き)である。
【0243】
上の式は2行のみの行列を示すが、これは、説明のためであるに過ぎず、行列は、3つ以上の生理学的ソース信号、つまり、n個のソース信号a(t)を抽出ために3行以上、つまり、n行を有する。
【0244】
さらに、本発明の実施形態のために適用されるとき、行列
【数125】
の行は、式(39)において上で検討された誘導感知方法のフィンガープリントベクトルに対応する。したがって、式(39)に示されたフィンガープリントベクトル
【数126】
は、行列
【数127】
の行のうちの1つである。1組の測定された信号
【数128】
から抽出されるソース信号の数は、行列
【数129】
の行数である。上で使用された「フィンガープリント」ベクトルという名称を使用して、逆行列
【数130】
は、「フィンガープリント行列」と呼ばれる。
【0245】
したがって、独立成分分析は、行列
【数131】
を導出することに関連する信号処理方法のカテゴリであり、これは、感知された信号に含まれる2つ以上の生理学的信号のソースの、1組の誘導信号からの特定及び/又は抽出に有利に適用され得ることが分かる。したがって、これは、知られていないフィンガープリントベクトルを動的に決定するために本発明の実施形態によって使用される。
【0246】
方法は、目の前の特定の患者に関する異なる生理学的ソースに関連するフィンガープリントベクトル(又はより広く、反射インダクタンスの実数成分及び虚数成分の相対的な大きさ)を学習するために誘導感知システムが実際に使用される前に、初期手順、例えば、最初の学習又は較正手順として適用される。方法は、追加的に又は代替的に、フィンガープリントベクトル(又は相対的な大きさ)を更新するために使用される。
【0247】
独立成分分析の方法は、誘導感知の分野に適用されてこなかった。誘導式センサーに関する50年の研究にもかかわらず、周波数及び減衰が、関連する値が信号の発信源である特定の生理学的ソースを特定するために使用され得る2つの独立した信号と考えられ得ることは認識されていなかったので、それは、自明でない展開である。
【0248】
ICAのよく使われる方法は、例えば、論文[Hyvarinen,A及びOja,E、(2000)、Independent component analysis:algorithms and applications、Neural Networks、13巻、411~430ページ]に記載のFast ICAとして既知の。FastICAは、基礎をなすソース信号
【数132】
のエントロピーに関する効率的な近似を使用し、Fast ICAは、エントロピーを最小化する(非ガウス性を最大化する)ために
【数133】
を最適化するための効果的な反復的方法を有する。
【0249】
本発明の1つ又は複数の実施形態によるフィンガープリントベクトルを検出するためにFastICAを適用した例示的な結果が、図7に示される。フィンガープリントベクトルは、(時間の関数としての)共振器回路の電流の振幅及び周波数の検出された信号にFastICAを適用することに基づいて決定される。特定されたフィンガープリントベクトルは、検出された複合的な(混合された)信号(振幅及び周波数)を(例えば)呼吸及び鼓動によって生成された信号に対応する基礎をなす成分(又はソース)に効果的に分解する。
【0250】
図7においては、検出された信号102、104が、比較的速く呼吸している(毎分約36回の呼吸--気道ボリューム信号100参照)有志の胸骨のところに配置された誘導式センサーから取得された。誘導式センサーの振幅(信号102)と周波数(信号104)との両方が、記録される。鼓動及び呼吸の基礎をなす生理学的信号のソース(それぞれ、信号108及び110)が、(検出された誘導感知信号102、104に適用される)上述のFastICAの方法を使用して決定されたフィンガープリントベクトルに基づいて抽出又は再構築される。
【0251】
したがって、ICAの方法は、振幅と周波数との両方が同時に記録される誘導式センサーにおいて異なる生理学的ソースを分離するのに非常に効果的である。
【0252】
上の例は異なる生理学的ソースに関するフィンガープリントベクトルを検出する観点で説明されているが、それは、異なる生理学的ソースに関する反射インダクタンスの実数成分及び虚数成分の相対的な大きさを検出することにより広く適用可能であると理解され得る。フィンガープリントベクトルの使用は、本出願において検討されるこの広い概念の1つの表現である。
【0253】
より広く、フィンガープリントベクトルに関する学習手順は、異なる生理学的ソースから感知された信号成分を分けるための任意の代替的な方法の一時的な使用に基づく可能性がある。それから、代替的な方法を使用するこれらの分けられた信号は、一部の例によれば、それらの信号の対応する実数L成分及び虚数L成分を決定するために分析され、それから、所与の信号のソースに関するこれらの成分の相対的な大きさが、例えば、更新されたフィンガープリントベクトルの形態でデータセットに記憶される。代替的に、それらは、上のICAの方法と同様にフィンガープリントベクトルの決定につながる。
【0254】
代替的な方法は、信号成分の異なる周波数組成/スペクトル、信号成分の異なる大きさ/振幅、信号成分の異なる品質測定値に基づくなどして異なる生理学的ソースから信号成分を分ける又は区別するための当技術分野において現在既知の任意の方法である。これらの手法に基づいて信号を分けることは、非限定的な例として、ウェーブレット、信号周波数分析、及び/又はシステム品質測定値のいずれかの使用を採用する。ICAは、異なる信号成分又はフィンガープリントベクトルを決定するための1つの例示的な手法であるが、その他の手法が、さらなる例において代替的に使用される。
【0255】
より詳細には、方法は、異なる生理学的発生源を有する感知された信号成分を、それらのソースから生じる信号に関連する特定の事前に既知の特性に基づいて分けるための信号処理の既存の技術の中にある。例えば、呼吸数は、(ほとんどの場合)脈拍数よりも少なく、したがって、アンテナにおける対応する誘導信号は、それに対応して異なる周波数を有する。よって、一部の例において、これらの信号成分は、アンテナにおいて感知された複合的な信号全体の周波数分析に基づいて互いに分けられる。
【0256】
別の既存の方法は、信号成分の波形の形状の分析に基づく。例えば、典型的な呼吸信号は、脈拍数信号と異なる形状を有する。波形に基づく手法は、多くの場合、ウェーブレットを利用する。
【0257】
上で検討されたように、最新の技術で使用されるこれらの方法は、特に、呼吸数が非常に高い又は心拍数が非常に低いときなど、通常異なる信号を互いに近づける特定の病変が存在する場合、判断を誤らせ得るか又は信頼され得ない。フィンガープリントベクトルの使用は、すべての臨床的筋書きでより信頼できる。
【0258】
上述された既知の古典的な信号分離手法を使用する学習手順は、例において、臨床的に簡単であり、信号の分離の際に混乱又は誤りを引き起こされないことが知られている特定の筋書きで実行される。学習手順がフィンガープリントベクトルを更新すると、実数L成分及び虚数L成分の相対的な大きさの使用に基づく本発明の実施形態による方法が、使用される。
【0259】
(学習手順が使用される)簡単な臨床的筋書きは、(非限定的な例として)以下、すなわち、モーションアーチファクトが少ない場合(例えば、動きのない患者)、患者が無呼吸でない場合、心臓の不整脈のない場合、呼吸数と脈拍数と十分に離れている場合、鼓動の波形が異常でない場合、呼吸信号が正常な波形を有する場合のいずれかを含む。
【0260】
古典的な信号分離手法を使用する学習手順の実施が避けられ、その代わりに、本発明の実施形態の改善された手法が使用される簡単でない臨床的筋書きの例は、例えば、以下のうちの1つ又は複数を含む。
- 無呼吸が発現する場合。ここでは、間欠的にまったく呼吸信号がなくなる。特に、例えば、新生児の患者の場合、脈拍数も、無呼吸中に落ち込む可能性がある。呼吸信号がない間、古典的な信号分離手法は、脈拍数を呼吸数と取り違える可能性がある。
- 呼吸の周波数及び鼓動の周波数が似ている場合。この場合、周波数分析手法は、2つの信号を区別することができない可能性がある。
- モーションアーチファクト(例えば、感知中の患者又はアンテナの動き)が存在する場合。これらのモーションアーチファクトは、信頼できる信号分離を妨げる信号内の雑音を引き起こす。
【0261】
特定の例においては、通常の機械学習技術も、フィンガープリントベクトルを改善又は更新するために適用される。例えば、検討された古典的な手法(例えば、周波数又は波形の分析)に基づいて異なる生理学的ソースからの信号成分を分けるように訓練された機械学習アルゴリズムが、使用される。
【0262】
上で概説された例においては、異なる生理学的ソースに関するLの実数成分及び虚数成分の相対的な大きさを示す記憶された情報はベクトル
【数134】
の形態であるが、これは必須ではないことが留意される。その他の例においては、相対的な大きさ自体が、単純に数値的な形態で記憶される。その他の例においては、実数成分及び虚数成分の相対的な大きさに関連するか、又は実数成分及び虚数成分の相対的な大きさから導出されるか、又はそうでなければ実数成分及び虚数成分の相対的な大きさを示すその他の測定値、つまり、Lの実数成分及び虚数成分の相対的な大きさの代用が使用される。
【0263】
一部の例においては、単に、所与の生理学的ソースによってアンテナにおいて誘導されると予測される複素L成分の複素位相又は偏角が、記憶される。
【0264】
有利な1組の実施形態によれば、システム8は、身体内の異なる生理学的ソースに関する特有のベクトル
【数135】
の直交性を高めるために生成される励起信号の周波数を調整するための追加の有利な機能を用いてさらに構成される。この選択肢の基礎をなす理論が、以降で詳細に概説される。
【0265】
上で導出された共振器回路において受信された追加のインダクタンス成分(特有の反射インダクタンス
【数136】
)に関する決定された式から、身体の異なる領域から生じる信号に関する誘導されたインダクタンス成分の偏角又は位相が印加される励起信号の周波数に応じて変わることが導出され得る。したがって、印加される励起信号の周波数を変えることによって、所与の生理学的領域に関する対応する
【数137】
の信号成分の位相又は偏角が変わる。
【0266】
特に、アンテナにおける誘導された
【数138】
信号の位相の(z方向の)深さ依存性は、周波数に大きく依存する。したがって、印加される励起信号の周波数を調整することによって、身体内の異なる部位から生じる反射インダクタンス
【数139】
信号の相対的な位相(つまり、偏角)を調整することが可能である。
【0267】
これは、異なる生理学的ソースからの信号に関する複素平面内の複素
【数140】
信号の相対的な方向が印加される励起信号の周波数を調整することによって変えられ得ることを意味する。これを表現する等価なやり方は、異なる生理学的ソースから生じる信号に関する複素
【数141】
信号の実数成分及び虚数成分の相対的な大きさが印加される励起信号の周波数に応じて変わることである。
【0268】
さらに、印加される励起信号の周波数を調整することは、身体内の異なる組織の種類から生じる信号の相対的な位相又は偏角の結果的な変化に(たとえこれらの組織の種類が身体内のおおよそ同じ部位にあるとしても)やはりつながり得る。
【0269】
これは、概して、身体内の誘導された渦電流の位相が組織の種類の境界で比較的大きく飛ぶか又は比較的大きな不連続を生むという事実から生じる。これは、例えば、損失正接(loss tangent)
【数142】
が生成される信号の相対的な位相に影響を与えることを示す上の式(25)から理解される。低周波数において、すべての組織は、δ=90°を有する。しかし、何らかの組織に依存する臨界周波数
【数143】
において、損失正接は、δ=0°に近づく。あらゆる組織は異なる導電率及び誘電率を有するので、損失正接が異なる値に変化する臨界周波数は、組織に大きく依存する。したがって、周波数を変えることによって、身体内の異なる組織から来る信号の相対的な位相が、チューニングされ得る。
【0270】
所与の生理学的ソースに関するアンテナにおける誘導された反射インダクタンス成分
【数144】
の位相の周波数依存性が、図8及び図9に示される。
【0271】
図8は、身体内の2つの異なる生理学的ソースに関する2つの特有のベクトル
【数145】
の複素平面内の方向の例を概略的に示す。例として、2つのベクトルが、呼吸及び心臓の鼓動に関する信号に対応するものとして示される。x軸は、
【数146】
の実部に対応し、y軸は、
【数147】
の虚部に対応する。
【0272】
各ベクトルの始点は、それぞれの生理学的サイクルのはじめ、つまり、それぞれ呼吸のベクトル及び鼓動のベクトルに関するしぼんだ肺の状態及び収縮した心臓の状態の特有の反射インダクタンスに対応する。終点は、それぞれの生理学的プロセスの終わりに対応する。したがって、各ベクトルの2つの間の差が、それぞれの生理学的プロセスの表現を提供する。
【0273】
各ベクトルの終点から始点を引いたものは、それぞれの場合のフィンガープリントベクトルに対応すると受け取られる。
【0274】
図9は、例示的な患者の異なる肺膨張のレベルに関する異なる特有のLベクトル
【数148】
を示す。各矢印は、印加された電磁励起信号の異なる周波数に対する肺膨張のベクトルを表す。x軸は、反射インダクタンスLの実部に対応し、y軸は、反射インダクタンスLの虚部に対応する。矢印は、肺が膨張するときの反射インダクタンスの変化を表し、つまり、始点が、肺がしぼんでいるときのLであり、終点が、肺が膨張しているときのLである。始点は、異なる周波数に関して変動し、エンドポイントは異なる周波数に関して変動することが分かる。したがって、呼吸プロセスのはじめと終わりとの両方のLの実数成分及び虚数成分の相対的な大きさは、周波数に応じて変わる。
【0275】
複素平面内のLベクトルの方向が、印加される励起信号の選択された周波数に応じて変動することも図から分かる。
【0276】
周波数を調整することによって、対応するLフィンガープリントベクトルの方向が、変更され得る。
【0277】
フィンガープリントベクトルは、始点若しくは終点の一方若しくは他方(の実数成分及び虚数成分の相対的な大きさ)によって与えられるか、又は肺膨張のプロセスの間の実数成分及び虚数成分の変化によって与えられるかのどちらかであると受け取られる。
【0278】
したがって、有利な1組の実施形態によれば、印加される励起信号の周波数が、身体内の異なる生理学的ソースに関するアンテナにおける誘導された反射インダクタンスL成分の特有のベクトル
【数149】
をよりうまく直交化するために調整される。これらの特有のL信号のより高い直交性は、異なる生理学的ソースに関する信号成分のより信頼できる及び堅牢な抽出及び分離につながる。したがって、特有のベクトルの間の直交性を最大化するために印加される信号周波数を調整することが有利である。
【0279】
このプロセスが、図10に概略的に示され、図10は、第1の周波数(「Freq.1」)及び第2の周波数(「Freq.2」)における2つの例示的な特有のフィンガープリントベクトルの相対的な方向を示す。示されるように、第1の周波数において、ベクトルは、互いに第1の相対的な位相差にある。周波数を第2の周波数に調整することによって、ベクトルは、複素平面内で互いに直交するようにされる。
【0280】
この機能を実施するために、システム8は、身体内の異なる生理学的ソースに関する共振器回路10において誘導された複素L成分に対応するベクトルの間の複素平面における直交性の度合いを例えばリアルタイムで検出するように構成された周波数調整アルゴリズムを用いて構成される。
【0281】
フィードバックループが、信号生成手段(例えば、発振器)に実装され、それによって、生成される電磁励起信号の周波数が、直交性を高めるために調整され、周波数の調整は、周波数フィードバック信号によって導かれるか又は情報を与えられる。それによって、アルゴリズムは、異なる生理学的ソースに関する反射インダクタンス信号の特有のベクトルをよりうまく直交化するために発振器の自由空間の周波数を調整する。
【0282】
周波数の調整は、異なる生理学的ソースから感知された信号成分を分けるための代替的な方法の一時的な使用に基づく可能性がある。それから、代替的な方法を使用するこれらの分けられた信号は、それらの信号の対応する実数L成分及び虚数L成分を決定し、したがって、各信号成分に関する対応するフィンガープリントベクトルを決定するために分析され得る。
【0283】
これらの代替的な方法は、周波数が修正されるときにフィンガープリントベクトルの方向がどのように変化しているかを検出するために周波数の調整と併せて使用される。そのとき、すべての受信された信号成分に関する新しい1組のフィンガープリントベクトルの間の直交性の度合いが、それぞれの新しい周波数において決定される。これは、直交性を最大化するために周波数をどのようにしてさらに調整すべきかを知らせるために使用され得る。フィードバックループが、実装され得る。
【0284】
直交性を高めるために周波数を調整することに加えて又はその代替として、1つ又は複数の実施形態によれば、共振器回路のアンテナが、ほぼ同時に複数の周波数で、例えば、ほぼ同時に2つ又は3つの周波数で駆動される(励起される)。これは、例えば、周波数を多重化すること、つまり、1組の2つ以上の周波数の間で次々に周波数を交替させる又は循環させること、例えば、ループを第1の周波数で励起し、それから第2の周波数で励起するなどし、その後、前記第1の周波数に戻ることによって行われ得る。これは、ほぼ同時に複数の異なる励起周波数における誘導式センサーの信号の測定を可能にする。
【0285】
好ましくは、この周波数の切り替えは、高い周波数で、例えば、記録された周波数の各々に関するナイキストサンプル周波数が基礎をなす生理学的ソースの情報の帯域幅よりも大きくなるような十分に高い周波数で実行される。典型的なソース信号の情報の帯域幅は、鼓動及び呼吸に関しては少なくとも約5Hzである。したがって、好ましい実施形態において、周波数洗濯サイクル全体がそれ自体繰り返すべき最小周波数は、およそ10Hzである。
【0286】
したがって、2つ以上の周波数設定の間でアンテナへの駆動信号の周波数を切り替える(例えば、最大でも大体1/10Hz=0.1秒毎に複数の周波数の完全な周波数サイクルを完了する)ことは、ほぼ同時に複数の周波数における誘導式センサーの信号の測定を可能にする。組織の動きを表す信号に関して、情報の帯域幅はより大きい可能性があり、この場合、より高い切り替え周波数が好ましい。複数の異なる周波数設定の間を素早く切り替える方法は、共振器回路又はアンテナの駆動又は励起周波数の時間多重化と呼ばれる。
【0287】
ほぼ同時に複数の周波数における誘導感知信号を記録することは、特に、フィンガープリントベクトル(又はより広く異なる生理学的ソースに関する反射インダクタンスの相対的な実数成分及び虚数成分)を動的に決定又は学習又は更新するための手順のコンテキストで有益である。これは、これらの方法が、基礎をなす生理学的ソースの数が検出される信号の数を超えるときにうまく働かないからである。これは、「動き」、「鼓動」、「呼吸のボリューム」、及び「呼吸努力(breathing effort)」などのソースがすべて同時に存在する可能性があるので、誘導感知に多くの場合当てはまり得る。この例においては、4つの異なるソースが存在し、これは、単一の周波数で動作する誘導式センサーに関して通常記録される2つの信号(例えば、共振器回路の電流の振幅及び周波数)よりも多い。
【0288】
この問題は、上述のようにほぼ同時に複数の周波数における誘導式センサーの受信信号又は示度を測定すること(つまり、周波数を時間多重化すること)によって少なくとも部分的に解決され得る。例として、アンテナの駆動信号が、2つの周波数、例えば、150MHzと250MHzとの間で交替させられるか又は多重化される。(例えば、周波数及び振幅の)2つの誘導信号がデューティサイクル毎に各周波数に関して測定されるようにしてこれが行われる場合、これは、それぞれの多重化のデューティサイクルについて合計4つの独立した検出される測定信号、すなわち、「150MHzにおける共振器の振幅」、「150MHzにおける共振器の周波数」、「250MHzにおける共振器の振幅」、「250MHzにおける共振器の周波数」につながる。これらの各々は、(統計的に)独立した信号であり、したがって、それぞれの追加の信号の収集は、真に追加の情報を追加する。それらの信号の独立性は、誘導の物理的性質から示され、理解されることが可能であり、つまり、異なる周波数が、異なる形状及び/又は位置の身体内に渦電流を誘導し、統計的に独立している戻りの信号につながる。これらの信号が独立しているという事実は、独立したフィンガープリントベクトルの改善された決定を可能にする。
【0289】
例として、誘導式センサーは、2つの多重化された周波数、150MHz及び250MHzを用いて多重化されるようにして動作させられる。上で検討されたように、これは、例えば、4つの検出された信号が測定されることを可能にする。そのとき、FastICAの方法(上の説明参照)が、この1組の4つの信号に適用されて、それによって、異なる生理学的信号のソースに関連する対応する4つのフィンガープリントベクトルを得る。
【0290】
好ましくは、検出される信号の数は、同時にアンテナにおいて受信されている生理学的信号のソースの数に一致する方はそれを超えるべきである。これは、FastICAの方法が、例えば、最も正確に働くことを保証する。したがって、周波数の多重化が使用される場合、各デューティサイクルの多重化される周波数の数は、生理学的信号のソースの数を2で割った数に等しいことが好ましい。
【0291】
ICAが上で検討されているが、信号成分を分けるための代替的な方法は、信号成分の異なる周波数組成/スペクトル、信号成分の異なる大きさ/振幅、信号成分の異なる品質測定値に基づくなどして異なる生理学的ソースから信号成分を分ける又は区別するための当技術分野において現在既知の任意の方法である。これらの手法に基づいて信号を分けることは、非限定的な例として、ウェーブレット、信号周波数分析、及び/又はシステム品質測定値のいずれかの使用を採用する。これらの代替的な方法及び異なる生理学的ソースからの信号のフィンガープリントベクトルを検出するためのそれらの方法の使用が、上で詳細に検討された。
【0292】
データセット内の記憶されたフィンガープリントベクトルは、異なる信号成分の抽出が正確なままであるように、周波数が調整されると同時に(及びしたがって、真の物理的なLベクトルが変わっていくと同時に)更新される。
【0293】
上の周波数調整の特徴を助けるために、1組の例によれば、周波数をチューニング可能な発振器回路を備える信号生成手段14を有するシステム8が、提供される。これは、いくつかの異なるやり方で実施される。
【0294】
1つの手法によれば、共振器へのキャパシタの接続又は切断を容易にするための高Qスイッチをそれぞれ有するキャパシタのバンクが、設けられる。スイッチを制御することによって、共振器の総静電容量がチューニングされ、それによって、励起信号が生成される周波数もチューニングされる。
【0295】
特定の1組の例によれば、システムは、少なくとも1つの制御モードにおいて、信号生成手段(例えば、発振器)の周波数を異なる周波数の間で高速で切り替えるように構成される。この切り替えは、例えば、おおよそ5~150Hzの間の周波数で行われる。このようにして、身体内の異なる生理学的ソースのすべてが、短時間に(例えば、ほぼ同時に)複数の異なる周波数で調べられる。このようにして、L信号成分が、多くの異なる周波数で感知されることが可能であり、より大きなボリュームの情報を提供する。多くの周波数からのフィンガープリントベクトルを組み合わせることによって、信号分離が、より一層信頼性を高められる。
【0296】
前記身体内の複数の異なる既知の生理学的ソースからの信号に関して、前記生理学的ソースから受信された信号によって共振器回路に加えられた実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分の特有の相対的な大きさを示す情報を記憶するデータセットにアクセスすることをともなう実施形態が、上で検討された。しかし、そのようなデータセットの使用は、必須ではない。
【0297】
例として、さらなる1組の実施形態によれば、個々の信号成分の抽出は、実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分を示す検出された測定値に独立成分分析の手順を適用することに基づく。特に、独立成分分析は、異なる生理学的信号成分がICAを使用してリアルタイムで感知された測定信号から抽出されるように、アンテナにおいて感知されている信号に「オンラインで」又はリアルタイムで適用される。この手法において、異なる生理学的ソースに関する記憶された相対的な実数信号成分及び虚数信号成分の参照データセットは、必要とされない。
【0298】
受信された測定信号への独立成分分析(ICA)の手順の適用は、異なる生理学的信号のソースに関するフィンガープリントベクトルの決定に関連して上で既に説明された。しかし、同じICAの手順が、フィンガープリントベクトルを必要とせずに、又は少なくともフィンガープリントベクトルを記憶する必要なしに異なる成分の生理学的信号を決定し、抽出するために、入ってくる信号に対してオンラインで又はリアルタイムで適用される可能性がある。ICAの方法は、単純に、時間の関数として共振器回路に加えられた測定された追加の実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分を表す感知された信号(例えば、s、s)に継続的に適用される。重みベクトル行列Wが、リアルタイムで導出され(上の説明参照)、これが、生理学的信号成分a、a、...などを抽出するために使用される。フィンガープリントベクトルが、リアルタイムで導出され、適用される(しかし、記憶されない)か、又は重みベクトル行列が、フィンガープリントベクトルが明示的に抽出されることなく直接適用される。ICAの手順は既に上で詳細に説明されたので、ここでは再び説明されない。上で検討された同じ手順が、測定された信号に、それらの受信につれてリアルタイムで適用され、成分の生理学的信号が、リアルタイムで導出される。
【0299】
本発明のさらなる態様によれば、誘導感知方法が提供される。例示的な方法が、図11に示される。
【0300】
方法70は、身体への電磁励起信号の伝播に応じて前記身体から戻りの電磁信号を感知することに基づく。
【0301】
方法は、共振器回路を使用して身体に電磁励起信号を伝播させるステップ72であって、共振器回路がループアンテナ及び電気的に結合されたキャパシタを備える、伝播させるステップ72を有する。
【0302】
方法は、共振器回路の電気的特性の変動を検出することに基づいて、ループアンテナを使用して身体からの前記戻りの信号を感知するステップ74をさらに含む。
【0303】
方法は、異なる生理学的ソースからの信号成分を感知された戻りの信号から抽出するための以下のステップ、すなわち、
受信された電磁信号によって共振器回路において誘導された追加のインダクタンス成分の実部と虚部との両方を示す測定値を感知された戻りの信号から検出するステップ76、
実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分を示す検出された測定値の使用に基づいて、異なる既知の生理学的ソースからの1つ又は複数の個々の信号成分を戻りの電磁信号から抽出するステップ80であって、前記抽出が、戻りの信号によって共振器回路に加えられた前記検出された実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分の相対的な大きさに基づく、抽出するステップ80をさらに含む。
【0304】
1組の実施形態によれば、方法は、
前記身体内の複数の異なる既知の生理学的ソースからの信号に関して、前記生理学的ソースから受信された信号によって共振器回路に加えられた実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分の特有の相対的な大きさを示す情報を記憶するデータセットにアクセスするステップ78と、
実数インダクタンス成分及び虚数インダクタンス成分を示す検出された測定値の使用に基づいて、及び前記データセットを調べることに基づいて、異なる既知の生理学的ソースからの1つ又は複数の個々の信号成分を戻りの電磁信号から抽出するステップ80とを含む。
【0305】
本発明の実施形態は、誘導感知システム及び誘導感知方法に関する。
【0306】
誘導式センサーは、特に、バイオメトリック信号が比較的動きに強い(つまり、バイオメトリック信号が患者又は測定センサーの動きによって比較的影響を受けない)ので、患者のモニタリングの分野で非常に価値のあるテクノロジーになる潜在力を有する。有利なことに、可能な応用は、ウェアラブル患者モニタ、動きに強い呼吸測定のための使用、非接触式の患者のモニタリング、及び無作為抽出検査(spot-check)の測定を含む。
【0307】
好ましい実施形態においては、単ループ(一巻き)を有するアンテナが設けられるが、これは必須ではない。一巻きのループは、巻きの間の寄生容量結合が削減されるので、信号強度の面での利点をもたらす。同じ単ループアンテナが、励起信号を生成することと戻りの信号を感知することとの両方のために使用される。戻りの信号は、信号が生成されている(及び戻りの信号がアンテナにおいて受信されている)間に共振器回路の電気的特性の変化を検出することによって信号の生成と同時に感知される。感知と生成との兼用のアンテナは、高品質な感知信号の供給並びに低コスト、低複雑性、及び低電力の利点の提供を可能にする。
【0308】
本発明の実施形態は、身体からの受信された(戻りの)電磁信号によってアンテナ12において誘導された追加のインダクタンス成分(反射インダクタンス)の実部及び虚部を完治することに基づく。これらの部分は、共振器回路の電流の周波数の変化及び信号ジェネレータ(例えば、発振器)の又は共振器回路の電流の振幅の変化を感知することによって検出され得る。
【0309】
本発明の実施形態の広範な潜在的応用が存在する。非限定的な例として、応用は、患者のモニタリング、遠隔測定、無作為抽出検査のモニタリング、ウェアラブルデバイス(例えば、チェストパッチ(chest patch)又は手首に着けるデバイス)への実装、新生児のモニタリング、睡眠のモニタリング、産科のモニタリング、マットレスに基づくセンサーのための使用を含む。
【0310】
上で検討されたように、特定の実施形態は、コントローラを利用する。コントローラは、必要とされるさまざまな機能を実行するために、ソフトウェア及び/又はハードウェアを用いて多くのやり方で実装され得る。プロセッサは、必要とされる機能を実行するためにソフトウェア(例えば、マイクロコード)を使用してプログラミングされる1つ又は複数のマイクロプロセッサを使用するコントローラの一例である。しかし、コントローラは、プロセッサを使用して又はプロセッサを使用せずに実装される可能性があり、一部の機能を実行するための専用ハードウェアとその他の機能を実行するためのプロセッサ(例えば、1つ又は複数のプログラミングされたマイクロプロセッサ及び関連する回路)との組合せとして実装される可能性もある。
【0311】
本開示のさまざまな実施形態において使用されるコントローラ構成要素の例は、通常のマイクロプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)を含むがこれらに限定されない。
【0312】
さまざまな実装においては、プロセッサ又はコントローラが、RAM、PROM、EPROM、及びEEPROMなどの揮発性及び不揮発性コンピュータメモリなどの1つ又は複数のストレージ媒体に関連付けられる。ストレージ媒体は、1つ又は複数のプロセッサ及び/又はコントローラ上で実行されるときに必要とされる機能を実行する1つ又は複数のプログラムを符号化される。さまざまなストレージ媒体は、それらのストレージ媒体上に記憶された1つ又は複数のプログラムがプロセッサ又はコントローラにロードされ得るように、プロセッサ若しくはコントローラ内に固定されるか又は運ぶことが可能である。
【0313】
開示された実施形態への変更が、特許請求される発明を実施する際に、図面、本開示、及び添付の請求項の検討から当業者によって理解され、達成され得る。請求項において、単語「有する」は、その他の要素又はステップを除外せず、単数形は、複数を除外しない。単一のプロセッサ又はその他ユニットが、請求項に記載のいくつかのものの機能を満たす可能性がある。単に特定の方策が互いに異なる従属請求項に記載されているという事実は、これらの方策の組合せが有利に使用され得ないことを示さない。コンピュータプログラムが、その他のハードウェアと一緒に又はその他のハードウェアの一部として供給される光学式ストレージ媒体又はソリッドステート媒体などの好適な媒体上に記憶される/配布される可能性があるが、インターネット又はその他の有線若しくは無線電気通信システムを介するなど、その他の形態で配布される可能性もある。請求項のいずれの参照符号も、範囲を限定するものとみなされるべきでない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11