(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】酸化法によるマレイン酸の製造
(51)【国際特許分類】
C07C 51/16 20060101AFI20240329BHJP
C07C 57/145 20060101ALI20240329BHJP
C07D 307/60 20060101ALI20240329BHJP
C25B 3/07 20210101ALI20240329BHJP
C25B 3/23 20210101ALI20240329BHJP
C25B 3/21 20210101ALI20240329BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240329BHJP
【FI】
C07C51/16
C07C57/145
C07D307/60 A
C25B3/07
C25B3/23
C25B3/21
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021534772
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 NL2019050869
(87)【国際公開番号】W WO2020130834
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】PCT/NL2018/050881
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】511095850
【氏名又は名称】ネーデルランドセ・オルガニサティ・フォール・トゥーヘパスト-ナトゥールウェテンスハッペライク・オンデルズーク・テーエヌオー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン・ウルバヌス
(72)【発明者】
【氏名】マーク・クロカット
(72)【発明者】
【氏名】アール・ローレンス・フィンセント・フーテール
(72)【発明者】
【氏名】ローマン・ラツズバイア
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】ロシア国特許出願公開第02455298(RU,A)
【文献】中国特許出願公開第102372685(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104119219(CN,A)
【文献】特表2022-514771(JP,A)
【文献】N. Alonso-Fagundez et al.,RSC Advances,4,pp.54960-54972,doi: 10.1039/c4ra11563e
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
C25B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マレイン酸又はその誘導体の製造方法であって、前記方法は、電解質溶液中における1つ又は複数の中間体へのフラン化合物の電気化学的酸化を含む第1のステップであって、
前記フラン化合物が、式Iの化合物(式I中、R
1は、H、CH
2OH、CO
2H、又はCHOであり、かつ、R
2は、H、OH、C
1~C
6アルキル、又はO(C
1~C
6アルキル)である)、あるいはそのエステル、エーテル、アミド、酸ハロゲン化物、酸無水物、カルボキシイミデート、ニトリル、及び塩である、第1のステップを含み;
【化1】
この第1のステップの後に、マレイン酸又はその誘導体をもたらすための、前記中間体の化学触媒酸化を含む第2のステップが続
き、
前記電解質溶液は、電気化学的酸化の開始時に存在するフラン化合物の量に基づいて、酸化バナジウムを0.01モル%未満含む、製造方法。
【請求項2】
前記の1つ又は複数の中間体が、5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノン及び/又はシス-β-ホルミルアクリル酸を含む、請求項1に記載の方法。
【化2】
【請求項3】
前記の電解質溶液が
、バナジン酸塩、モリブデン酸塩、クロム酸塩、二クロム酸塩、過マンガン酸塩、マンガン酸塩、マンガン塩、タングステン酸塩、ヨウ素酸塩、塩素酸塩、塩化物-塩素カップル、臭素酸塩、臭化物-臭素カップル、ペルオキソ二硫酸塩、オゾン、コバルト塩、及びセリウム塩からなるリストから選択される、メディエーターを
5モル%未満含む、請求項1又2に記載の方法。
【請求項4】
化学触媒酸化が、触媒の存在下で、酸化剤として酸素を使用することによって実施さ
れる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記中間体を有機溶媒で抽
出することをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2のステップが無水マレイン酸を直接もたらす、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【化3】
【請求項7】
前記第1のステップが光電気化学的酸化を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
マレイン酸又はその誘導体の製造方法であって、前記方法は、フラン化合物のマレイン酸への一段階電気化学的酸化を含み、前記電気化学的酸化は、メディエーターを含む電解質溶液中で行われ、前記フラン化合物が、式I
【化4】
(式中、R
1はH、CH
2OH、CO
2H、又はCHOであり、R
2はH、OH、C
1~C
6アルキル、又はO(C
1~C
6アルキル)である)
の化合物、又はそのエステル、エーテル、アミド、酸ハロゲン化物、酸無水物、カルボキシイミデート、ニトリル、及びそれらの塩であり、
前記メディエーターが、バナジン酸塩、酸化バナジウム、モリブデン酸塩、クロム酸塩、二クロム酸塩、過マンガン酸塩、マンガン酸塩、マンガン塩、タングステン酸塩、ヨウ素酸塩、塩素酸塩、塩化物-塩素カップル、臭素酸塩、臭化物-臭素カップル、ペルオキソ二硫酸塩、オゾン、コバルト塩、及びセリウム塩からなるリストから選択され、
任意選択により、マレイン酸をその誘導体へと反応させるステップをさらに含んでもよい、製造方法。
【請求項9】
前記メディエーターは、酸化バナジウム、モリブデン酸ナトリウム、及び/又は二クロム酸カリウム
である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記メディエーターが固定化されている
、請求項8又9に記載の方法。
【請求項11】
前記電解質溶液が水性電解質溶液である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
マレイン酸の誘導体が、無水マレイン酸、フマル酸、コハク酸、コハク酸ニトリル、プトレシン、リンゴ酸、及びこれらの化合物のいずれかの塩、酸無水物、アミド、イミド、又はエステルからなる群から選択される1又は複数である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
電解質溶液が
、塩酸(HCl)、硝酸(HNO
3)、リン酸(H
3PO
4)、硫酸(H
2SO
4)、ホウ酸(H
3BO
3)、フッ化水素酸(HF)、臭化水素酸(HBr)、過塩素酸(HClO
4)、ヨウ化水素酸(HI)からなる群から選択される鉱
酸を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
電気化学的酸化が、4未
満のpHにおいて実施される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
電気化学的酸化が、0.01~5モル/Lの範
囲の、電解質溶液中のフラン化合物の初期濃度で実施される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
化学触媒酸化が、20~150℃の範
囲の温度において実施される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記電気化学的酸化が、酸化
鉛及び/又はホウ素ドープダイヤモンド(BDD)を含む1つ以上の作用電極を用いて実施される、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
マレイン酸又はその誘導体を単離して、単離されたマレイン酸又はその誘導体、及び使用済みの電解質溶液をもたらすステップをさらに
含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
連続反応器システ
ムにおいて実施される連続法である、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
製造方法の開始時に、電解質溶液が
、水、フラン化合物、請求項13に規定する酸、及び任意選択により無機塩のみからなる、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記触媒が、遷移金属、金属塩、金属酸化物、又はリン酸塩を含み、その金属が、コバルト、マンガン、バナジウム、モリブデン、銅、銀、金、パラジウム、白金、及びルテニウムからなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マレイン酸及びその誘導体の化学的製造の分野にある。特に、本発明は、バイオマスから誘導可能な出発物質を使用する、マレイン酸及びその誘導体の持続可能な化学的製造を目的とする。
【背景技術】
【0002】
マレイン酸を製造するための現在の工業的方法は、典型的には、石油化学品、例えば、ブタン又はベンゼンの酸化に基づいている。生産の環境的影響を低減し、マレイン酸へのより持続可能な経路を提供するために、石油化学品をバイオマスに基づく化学物質に置き換えることが望まれている。例えば、Wojcieszakら, Sustainable Chemical Processes, 2015, 3:9, 1-11を参照されたい。たとえば、Journal of Organic Chemistry, 1986, 51(4), 567-569には、バイオマスから誘導可能な化学物質であるフルフラールの過酸化水素による化学酸化が開示されている。そのような化学酸化反応の欠点は、酸化剤として過酸化水素が必要なことであり、なぜなら、過酸化水素は別個の製造プロセスにおいて製造されなければならないからである。そのため、バイオマスから誘導可能な化学物質を使用することの全体的な利点は減少する。あるいは、フルフラールは、英国特許GB253877号明細書、Mil'manら, Elektrokhimiya, 1978, Volume:14, Issue:10, 1555-1558、及びHellstroem:Svensk Kemisk Tidskrift, 1948, Volume 60, 214-220に開示されているように、電気化学的に酸化することができる。しかしながら、マレイン酸を製造するためのこれらの既知の両方の方法の欠点は、フルフラールが出発物質として使用されること、及びそのワンポット酸化プロセスは時間がかかり、通常、許容可能な反応速度を達成するためにメディエーターの存在を必要とすることである。ただし、メディエーターは追加の費用がかかり、かつリサイクルすることがしばしば困難であるため、大規模な方法においては一般的に好ましくない。
【0003】
さらに、フルフラールは比較的不安定であり、このことは、フルフラールは、通常かなりの量の不純物を含んでいることを意味し、それによって、蒸留後に色が急速に変化する(たとえば橙色/茶色へ)。この不安定さは、不純物の濃度がリサイクルによって増大する連続法において特に問題となる。それゆえ、汚染物質が入るリサイクルのループにおいて、さらなる精製(したがってさらなるコスト)が必要となる。さらに、これらの不純物はまた、所望の反応に問題を引き起こす可能性がある。また、不純物はバッチごとに異なる可能性があり、それは予測できない結果をもたらしうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Wojcieszakら, Sustainable Chemical Processes, 2015, 3:9, 1-11
【文献】Journal of Organic Chemistry, 1986, 51(4), 567-569
【文献】Mil'manら, Elektrokhimiya, 1978, Volume:14, Issue:10, 1555-1558
【文献】Hellstroem:Svensk Kemisk Tidskrift, 1948, Volume 60, 214-220
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、これらの欠点のない、又は少なくともそれらの欠点のうち1つ以上のない、マレイン酸を製造するための方法を提供することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、これを、本質的に2つの異なるタイプのプロセスであって、それぞれのプロセスが2-カルボニル置換基を含むフラン化合物(以下、フラン化合物ともいう)を使用するプロセスによって達成できることを発見した。このフラン化合物は、式Iによって表すことができ、式中、R1は、H、CH2OH、CO2H、又はCHOであり、かつ、R2は、H、OH、C1~C6アルキル、又はO(C1~C6アルキル)である。式Iによる化合物のエステル、アミド、酸ハロゲン化物、無水物、カルボキシイミデート、ニトリル、及び塩は、本明細書において、フラン化合物という用語に含まれることが意味される。
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の側面では、マレイン酸又はその誘導体を製造するためのプロセスは、フラン化合物のマレイン酸への一段階(ワンステップ)電気化学的酸化を含み、この電気化学的酸化は、メディエーター(mediator)を含む電解質溶液中で行われる。このプロセスはスキーム1に示され、ここで、前記のフラン化合物は、式I(式中、R1が、H、CO2H、CH2OH、又はCHOであり、かつR2が、H、OH、C1~C6アルキル、又はO(C1~C6アルキル)である)の化合物、あるいはそのエステル、アミド、酸ハロゲン化物、無水物、カルボキシイミデート、ニトリル、及び塩である。
【0010】
【0011】
このプロセスは、任意選択により、マレイン酸をその誘導体へと反応をさせるステップをさらに含んでもよい。
【0012】
本発明者らは、このプロセスが、特に大規模な応用において、メディエーターの存在から特に恩恵を受けることを発見した。適切なメディエーターについては、以下に説明する。メディエーターが存在しない場合、反応速度が低すぎて大きなスケールに適切に適用できない。理論に拘束されることを望まないが、本発明者らは、この低い反応速度の理由は、1つ又は複数の中間体の形成に見出すことができ、その電気化学的酸化は特にゆっくりと進行すると考えている。これらの中間体は、シス-β-ホルミルアクリル酸(本明細書ではホルミル-アクリル酸ともいう)を含み、これは、特定の条件下で、5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンと互変異性平衡にあることができると考えられる。
【0013】
【0014】
閉環形態(すなわち、5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノン)は電気化学的に酸化できないか、又は非常にゆっくりとしか酸化できず、そのため、この酸化が妨げられるとの仮定がなされる。反応の好ましいpHにおいて、平衡はほぼ完全にフラノン側にあるため、遅い反応が起こる。許容可能な反応速度を達成するために、メディエーター(mediator)が存在することが好ましい。
【0015】
しかしながら、メディエーターの存在は、特に大きなスケールでは好ましくない。典型的なメディエーターは費用がかかり、大きなスケールのプロセスは、プロセスを経済的に実現可能にするために、メディエーターのリサイクル又は固定化が必要になる。このため、メディエーターの固定化が好ましく、特に一段階での電気化学的酸化を含むプロセスのためにはメディエーターの固定化が好ましい。最も好ましくは、メディエーターは、作用電極のすぐ近くに又は作用電極に固定化されている(電極のさらなる詳細については、以下を参照されたい)。それにもかかわらず、固定化の欠点はおそらくメディエーターの浸出であり、かつ、固定化は、利用可能なメディエーターの量を制限するという事実であり(支持体の表面積が制限されるため)、これもまた大きなスケールにおいて速度を制限する。
【0016】
電極に固定化された適切なメディエーターの例には、作用電極にメディエーターをドープすることが含まれる(下記参照)。本発明者らは、驚くべきことに、バナジウムをドープした電極がこのプロセスを実施するのに特に適していることを発見した。したがって、バナジウムドープ電極は、本発明の別の側面である。この実施形態では、電解質溶液のpHは、バナジウムの浸出を制限するために、3~7、さらには5~6の範囲であることが好ましい。しかしながら、このアプローチの欠点は、塩の代わりに遊離酸(CO2H)が得られるように、マレイン酸を調製するプロセスがより低いpH(すなわち、典型的には5未満)で実施されることが好ましいことである。加えて、メディエーターの使用及び固定化はなおも費用がかかり、煩雑であり、したがって不利である。
【0017】
本発明による一段階の電気化学的酸化の残りの欠点及び課題を考慮すると、2ステップ(二段階)のアプローチを含む本発明の別の態様が好ましい。本発明のこの特定の側面は、電解質溶液中でフラン化合物を1つ又は複数の中間体へと電気化学的酸化することを含む第1のステップと、それに続いて前記中間体をマレイン酸又はその誘導体、例えば無水マレイン酸へと化学触媒酸化することを含む第2のステップを含むプロセスに関する。本発明との関連において、化学触媒酸化は、非電気化学的酸化と考えることができる。本発明に適切に使用することができる非電気化学的酸化のその他の例には、光化学的酸化及び光電気化学的酸化が含まれる。
【0018】
2段階アプローチを使用するプロセス(ここでは2段階プロセスともいう)をスキーム2に示す。
【0019】
【0020】
この場合でも、このプロセスは、任意選択により、マレイン酸をその誘導体へと反応させる工程をさらに含んでもよい。上述したように、前記1つ又は複数の中間体は、典型的には、5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノン及び/又はシス-β-ホルミルアクリル酸を含む。
【0021】
【0022】
2段階プロセスの利点は、メディエーターを必要としないことである。したがって、電解質溶液は、好ましくは、本質的にメディエーターを含まない。
【0023】
本発明者らは、驚くべきことに、電気化学的酸化とは対照的に、ホルミル-アクリル酸の化学触媒的酸化は比較的容易に進行することを発見した。アルデヒドをカルボン酸に酸化するための典型的な従来の条件を使用することができる。この点で適切な酸化剤は、塩素酸塩、過マンガン酸塩、過酸化水素などであることができる。しかしながら、これらの方法は、そのプロセスにおいて望ましくない塩の生成を伴う可能性がある。しかしながら、本発明者らは、驚くべきことに、5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノン及び/又はシス-β-ホルミルアクリル酸が、酸素ともいわれる分子状酸素(O2)によってマレイン酸又はその誘導体に酸化されうることを発見した。したがって、化学触媒酸化は、触媒の存在下で、酸化剤として酸素を使用することによって実施することができる。この点で適切な酸化触媒は、以下でさらに詳述するように、活性炭上に担持されたパラジウム、銅、及び/又は白金などの遷移金属を含む。
【0024】
したがって、本発明の特定の実施形態において、本方法は、5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノン及び/又はシス-β-ホルミルアクリル酸を、触媒の存在下で、分子状酸素(O2)と接触させることによる、5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノン及び/又はシス-β-ホルミルアクリル酸をマレイン酸又はその誘導体へと酸化する工程を含み、その工程を本明細書ではO2を用いる第2のステップという。
【0025】
本発明者らは、いくつかの金属、特に遷移金属が、O2を用いる第2のステップにおいて、酸化反応を適切に触媒することができることを発見している。特に良好な結果が、銅、金、パラジウム、白金、及びルテニウム、特に金で得られた。
【0026】
触媒は、好ましくは、固体支持体(固体担体)をさらに含む。固体支持体は、当技術分野で知られている支持体(担体)であることができ、一般に、それが酸化反応に有害でない限り、任意の支持体が適切でありうる。典型的には、固体支持体は、O2用いる第2のステップにおいて不活性である。本発明に適していることを発見している支持体の例には、活性炭、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、及び二酸化チタンが含まれる。固体支持体としての二酸化チタン、特に金と組み合わせた二酸化チタンは、マレイン酸の収率に関して特に良好な結果をもたらした。
【0027】
本発明のO2を用いる第2のステップは、一般に、気相ではなく液相中で実施される。化合物をガス状に維持するために必要とされる高温におけるフラン化合物及びHFOの不安定性のために、気相反応条件は本発明に十分には適していない。したがって、HFO及び/又はホルミルアクリル酸は、O2と接触させられたときに液体であるか、又は溶媒に溶解していることが好ましい。適切な溶媒には、有機溶媒及び水性溶媒の両方が含まれる。以下に詳述する理由によって、水非混和性有機溶媒及び酸性水性溶媒が特に好ましい。水、硫酸水溶液、酢酸、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)、ジクロロメタン、ヘプタン、アセトニトリル、アセトン、ニトロメタン、及びトルエン、好ましくは2-MeTHF、トルエン、及びMTBE中で、HFO及び/又はホルミルアクリル酸の良好な転化が得られた。
【0028】
O2を用いる第2のステップを実施できる溶媒は、形成される生成物に影響を与える可能性がある。例えば、有機溶媒中で、無水マレイン酸は、マレイン酸のその場での脱水反応によって、又はHFOが触媒によって直接酸化されるときに形成されうる。その一方、水性溶媒中では、マレイン酸自体は通常、酸性条件下で形成され、マレイン酸の塩は塩基性条件下で形成されうる。特定の反応条件下で、マレイン酸はまた、少なくとも部分的に、フマル酸に異性化する可能性がある。O2を用いる第2のステップが実施される反応条件も、通常、形成される生成物に影響を及ぼす。
【0029】
酸化プロセスは、わずかに高くした温度及び圧力を含む中程度の反応条件下で、転化に関して最良の結果を与えることを発見した。したがって、O2を用いる第2のステップは、少なくとも5バール、好ましくは少なくとも10バールの圧力下で実施されることが好ましい。O2を用いる第2のステップを実施するための好ましい温度範囲は、20~200℃、より好ましくは50~150℃、最も好ましくは60~100℃である。これらの条件は、連続反応、例えば、チューブリアクター中で実施されることを可能にし、それが好ましい。したがって、反応器は、触媒を含む固定触媒床を含むことができる。
【0030】
出発物質であるHFO及び/又はホルミルアクリル酸は、O2を用いる第2のステップにおいて、それより前のプロセスから得られる単離された(すなわち、本質的に純粋な)配合物又は反応混合物で供給され又は提供されることができる。単離された配合物は、本発明の一部ではない先行するプロセス及び単離によって得ることができる。この先行する反応は、任意のタイプの反応プロセスであることができ、例えば、主生成物としてHFO及び/又はホルミルアクリル酸を生成するのに役立つことができ、又はHFO及び/又はホルミルアクリル酸が副生成物としてそのプロセスにおいて生成されうる。本発明の好ましい実施形態において、HFO及び/又はホルミルアクリル酸は、バイオマス起源を有する1つ以上のフラン化合物に由来する。
【0031】
フラン化合物の電気化学的酸化と組み合わせて本発明に従ってO2を用いる第2のステップを実施することが特に有益であることが発見されており、なぜなら、電気化学的酸化の好ましいpHで、HFOとホルミルアクリル酸との間の平衡がほとんど完全にHFOの側にあり、それによりゆっくりした酸化が起こるからである。電気化学的酸化における許容可能な反応速度は、メディエーターを適用することによって達成することができるが、メディエーターの存在は、しかしながら、特に大きなスケールでは好ましくない。典型的なメディエーターは費用がかかり、かつ、大きなスケールのプロセスは、そのプロセスを経済的に実現可能にするために、メディエーターのリサイクル又は固定化を必要とする。本発明によるO2を用いる第2のステップは、HFO及びホルミルアクリル酸の良好な反応を示し、したがって、O2を用いる第2のステップと組み合わせた第1のステップを含む2段階(2工程)のプロセスが全体として好ましい。
【0032】
その2段階プロセスの第1のステップ(工程)の間、全ての出発物質が消費される前にいくらかの量のマレイン酸が形成されうることを理解することができ、なぜなら、第1のステップの条件は、比較的低い速度ではあるが、依然としてこの変換を可能にすることができるからである。
【0033】
化学触媒酸化は、わずかに昇温させた温度で実施されることが好ましい。20~150℃の範囲、好ましくは30~130℃の範囲、より好ましくは50~100℃の範囲の温度が典型的には適切である。これらの条件下では、通常、完全な転化に達するのに数時間(たとえば、1~4時間)の反応時間で十分である。
【0034】
第1のステップを電解質水溶液(これが好ましい、以下を参照)中で実施する場合、第2のステップは、同じ溶液中で、同じ溶液ではあるがpHのシフト後又は有機溶媒で前記の中間体を抽出した後に、実施することができる。後者の実施形態について、前記の有機溶媒中で前記の第2のステップを実施することが好ましい。この実施形態は、有機抽出物が中間乾燥に供されるプロセス、及びそれがさらなる使用の前に乾燥されないプロセスを包含することが理解される。典型的な有機溶媒は、それらが化学触媒酸化において反応しないかぎり適切であり、さもなければこのステップに有害である。使用することができる有機溶媒の例には、ジクロロメタン、トルエン、酢酸エチル、2-メチルテトラヒドロフラン等が含まれる。この特定の実施形態において、無水マレイン酸は、別個のその後の脱水工程なしに、そのプロセスから直接得ることができる。アルコール中で化学触媒酸化を行い、マレイン酸のモノ及び/又はジエステルを直接得ることも可能である。
【0035】
第1及び第2のステップが同じ溶液中で実施される本発明の実施形態においては、このプロセスは、マレイン酸又はその誘導体を単離して、単離されたマレイン酸又はその誘導体、及び使用済みの電解質溶液をもたらす工程をさらに含む。使用済みの電解液溶液は、本プロセスにリサイクルできる。使用済みの電解質溶液は、残留フラン化合物、本プロセスの中間体、マレイン酸、及び形成される他の不純物及び/又はポリマーを含みうる。したがって、リサイクルする前に、使用済みの電解質溶液を精製することが好ましい場合がある(例えば、ポリマー物質を除去するためのナノ濾過)。精製の代替又は精製への追加として、リサイクルされた電解質の一部を抜き出し、新しいものを添加して、電解質の一定の品質を維持することが好ましい場合がある。
【0036】
マレイン酸又はその誘導体の単離は、蒸留などの標準的な単離法を使用して実施することができる。特に好ましい単離の方法は、使用する溶媒に左右されうる。マレイン酸を単離することにより、電解質溶液のpHを元のpH、すなわち酸化開始時のpHに戻すこともできる。そのため、添加剤によるpHの調節は必要ない場合もある。フラン化合物の酸化又はマレイン酸の単離時にいくらかの電解質、酸、溶媒、又は水が失われるか又は消費される場合には、電解質溶液のリサイクル時に、その酸、溶媒、又は水を補充することができる。
【0037】
電解質溶液のリサイクルは、本プロセスが連続プロセスであり、例えば、連続反応器システムで実施される場合に、特に好ましい。したがって、その中で本プロセスが実施される反応器システムは、電解質溶液のためのリサイクルループを含むことができる。電解質溶液をリサイクルすることは、最小限の化学廃棄物の生成及び低減された外部からの投入を、有利にもたらすことができる。
【0038】
高pH(例えば、7より高い)においてアルカリ性溶媒中で上記の第2のステップを実施することで、マレイン酸塩の非常に高い収率が得られる。
【0039】
本発明の両方の側面とも、多くの特徴及び特性を共有している。簡潔さと明確さのために、必ずしも全ての特徴が個々の側面に明示的に起因するとは限らないが、それが論理的に続いて生じるか、又は明示的に示されていない限り、本明細書に記載されている全ての機能を両方の側面に対して使用できることを理解することができる。
【0040】
さらに、第2のステップは、第1のステップとは別に実施することができることが理解されうる。したがって、中間体、特に5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノン及び/又はシス-β-ホルミルアクリル酸の化学的触媒酸化もまた、本発明の一部である。
【0041】
上述したように、2-フロ酸(2-furoic acid)化合物(本明細書ではフロ酸ともいう)は、有利にはフルフラールよりも安定であり、2,5-フランジカルボン酸(FDCA)の生成における副生成物として得ることができ、あるいは、フロ酸への直接酸化によるフルフラールの安定化によって得ることができ、この直接酸化は、一般に、穏やかな条件(たとえば、100℃未満の反応温度)でのクリーンな高収率プロセスである。したがって、2-フロ酸化合物の使用が好ましい。さらに、本発明による化学プロセスにおけるフロ酸の適用もまた有利であり、なぜなら、フロ酸について想定される重要な市場は現在存在しないと考えられるからである。
【0042】
本発明者らは、驚くべきことに、マレイン酸を製造するためのフロ酸の使用、及びフロ酸によるフルフラールの置き換えが、電気化学的酸化反応において特に有利であることを発見した。電気化学反応は、熱化学反応よりも顕著に長い滞留時間を有する傾向がある(電極の表面積の制限、及び電極表面への/電極表面からの物質移動のため、以下を参照されたい)ので、化学物質はしばしば溶液中に非常に長く存在し、そこで分解を受けやすい。したがって、マレイン酸を製造するための電気化学的酸化プロセスは、特に出発物質の安定性の向上による利益がある。したがって、酸化は、電解質溶液、典型的には前記のフロ酸化合物を含む水性電解質溶液中での電気化学的酸化を含むか、又は第1の側面ではその電気化学的酸化のみからなる。したがって、酸化剤、例えば過酸化水素の添加は必要でない場合がある。典型的には、前記のプロセスは、フロ酸化合物を電解質溶液に溶かし、次に電気化学的酸化して、フロ酸又はその誘導体をマレイン酸に変換することを含む。
【0043】
本発明の特定の実施形態は、フロ酸の電気化学的酸化を行う前に、フルフラールをフロ酸へ化学触媒酸化することを含む。
【0044】
フロ酸化合物とは、2-フロ酸に基づいており、フロ酸と同じ酸化状態を有し、それはマレイン酸へと酸化することができる任意の化合物を意味する。適切なフロ酸化合物の例には、2-フロ酸、フロ酸エステル、フロ酸アミド、フロニトリル、フロ酸の無水物、フロ酸のカルボキシイミデート、フロ酸ハロゲン化物、及びフロ酸の塩が含まれる。特に水へのその良好な溶解度により(15℃において水に約37.1g/L、50℃において水に約100g/L)、2-フロ酸をフロ酸化合物として使用することが好ましい。
【0045】
マレイン酸は、本発明による酸化プロセスによって直接、特にそのプロセスが水性環境中で実施される場合に得ることができることが発見された。これは、無水マレイン酸が最初に得られ、それに続く加水分解ステップでのみマレイン酸に変換することができる、ベンゼン及びブタンに基づく従来の酸化プロセスとは対照的である。しかしながら、マレイン酸と同様に、無水マレイン酸も産業上利用可能な化学物質であり、したがって、本プロセスが、無水マレイン酸などのマレイン酸誘導体の調製を含むことが好ましい可能性がある。したがって、本プロセスは、任意選択により、マレイン酸をその誘導体、例えば無水マレイン酸にさらに反応させる工程を含んでいてもよい。本プロセスが少なくとも部分的に有機溶媒中で、好ましくは無水条件下で実施される場合、無水マレイン酸は、別個のその後の脱水工程なしに、本プロセスから直接得ることができる。
【0046】
化学触媒酸化による無水マレイン酸の直接形成は、スキーム3に示すとおりであり、本発明の特に好ましい実施形態である。
【0047】
【0048】
マレイン酸をさらに反応させる工程で得ることができるマレイン酸の誘導体は、フマル酸、コハク酸、及びそれらの塩、エステル、無水物、アミド、又はイミドを含むことができる。そのように(すなわち、フラン化合物の予めの酸化なしに)無水マレイン酸、フマル酸、コハク酸、又はそれらの塩、エステル、もしくは無水物をもたらすためのこの任意のさらなる反応工程は、当技術分野で公知である。例えば、無水マレイン酸、フマル酸、及びコハク酸は、それぞれ、脱水反応、異性化反応、及び部分水素化反応によってマレイン酸から得ることができる。フマル酸は現在、マレイン酸の接触異性化によって(主に)工業規模で生産されている。コハク酸もマレイン酸の部分還元によって工業的に生産されているが、これはいくつかの公知の経路のうちの1つである。
【0049】
上述したとおり、本発明者らはさらに驚くべきことに、フラン化合物のマレイン酸への電気化学的酸化が、特定の条件下で5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンと互変異性平衡にあることができる中間体としてのシス-β-ホルミルアクリル酸(本明細書ではホルミルアクリル酸ともいう)を介して進行しうることを発見した。したがって、本発明の別の側面は、フラン化合物からのシス-β-ホルミルアクリル酸及び/又は5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンの調製である。本発明に従って電気化学的酸化で調製されたシス-β-ホルミルアクリル酸及び/又は5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンは、単離することができ、あるいはマレイン酸又はその誘導体へとさらに反応させることができる。このさらなる反応はまた、電気化学的に、特に本明細書に記載のプロセス及びパラメータに従って電気化学的に実施することができる。あるいは、上述したように、シス-β-ホルミルアクリル酸及び/又は5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンは、酸素に基づく熱化学的酸化タイプの条件などの化学触媒酸化、バイオテクノロジーによるプロセス、又は光酸化によって、マレイン酸及び/又は無水マレイン酸へとさらに酸化することができる。これは、フラン化合物のマレイン酸への電気化学的酸化が、シス-β-ホルミルアクリル酸及び/又は5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンのマレイン酸への変換において律速である場合、及びメディエーターの使用が好ましくない大きなスケールのプロセスにとって特に好ましい。
【0050】
本発明による電気化学的酸化は、酸化鉛、例えば、酸化鉛が任意選択により場合によっては金属、例えばPb、活性炭などの多孔質グラファイト、カーボンナノチューブ(CNT)、網状ガラス状炭素(RVC)、又はカーボンフェルト、又はホウ素ドープダイヤモンド(BDD)上に担持されていてもよいPbO2を含む1つ以上の作用電極(ここでは、アノード電極、アノード、又は簡単に電極ともいう)を使用して実施することが好ましい。電極の活性は、(電極又は電解質に)ドーパント又は吸着原子を添加することによって向上させることができる。たとえば、電解質へのFe2+又はFe3+などの金属イオンの添加は、PbO2の安定性を向上させることができる。原則として、任意の電極構造を用いることができ、それには2D及び3D構造が含まれるが、1つ又は複数の、多孔質電極、融合電極、メッシュ電極、ナノ構造電極、多孔質カーボン/グラファイト電極上に担持された金属又は金属酸化物粒子を含む1つ以上の電極、あるいはそれらの組み合わせが好ましい。そのような電極は、より高い転化率をもたらす。特定の実施形態では、作用電極は、代替的又は追加的に、混合金属酸化物(MMO)、寸法安定性アノード(dimensionally stable anode, DSA)、ステンレス鋼、真ちゅう炭素ベースの黒鉛電極、Pt、Au、Ag、Cu、Ir、Ru、Pd、Ni、Co、Zn、Cd、In、Sn、Ti、Fe、及びそれらの合金又は酸化物のうちの1つ以上を含んでいてもよい。
【0051】
対極(カソード電極又はカソードともいう)は、Au、Pt、Pd、Ir、Ru、Ni、Co、ステンレス鋼、Cu、炭素、Pb、Ti、又はそれらの合金からなる群から選択される1つ以上の物質を含むことができる。有利なことには、本発明のプロセスはまた、電気化学的還元、例えば水から水素の製造、酸素の水への還元、又はフルフラールのフルフリルアルコールへの変換をカソードにおいて同時に可能にするための、対にした電気化学合成を含んでいてもよい。
【0052】
特定の実施形態では、作用電極はメディエーターでドープされている(下記を参照されたい)。本発明者らは、驚くべきことに、バナジウムをドープした電極がこのプロセスを実施するために特に適していることを発見した。したがって、バナジウムドープ電極は、本発明の別の側面である。この実施形態では、電解質溶液のpHは、バナジウムの浸出を制限するために3~7の範囲であり、さらには4~5であることが好ましい。
【0053】
フラン化合物の酸化は、電極において直接行うことができる。これは、酸化剤又は電極からの電子が、反応において、フラン化合物又は化学中間体に直接移動することを意味する。それに代えて、電極から電子を受け取りかつ一時的に保持し、次にその電子をフラン化合物(又は反応における化学中間体)に移動させるメディエーターを使用することによって実施することができる。メディエーターの存在は電極での酸化を排除しないかもしれないが、これが存在する場合には、酸化は、通常、主にメディエーターを介して進行する。好ましくは、メディエーターは、バナジン酸塩、酸化バナジウム(例えば、V2O5、VO2)、モリブデン酸塩(MoO4
2-)、クロム酸塩(CrO4
2-)、二クロム酸塩(Cr2O7
2-)、過マンガン酸塩(MnO4
-)、マンガン酸塩(MnO4
2-)、マンガン塩(Mn2+)、タングステン酸塩(WO4
2-)、ヨウ素酸塩(IO3
-)塩素酸塩(ClO-)、塩化物-塩素カップル(Cl-/Cl2)、臭素酸塩(BrO-)、臭化物-臭素カップル(Br-/Br2)、ペルオキソ二硫酸塩(S2O8
2-)、オゾン(O3)、コバルト塩(Co2+/Co3+)、セリウム塩(Ce3+/Ce4+)などのうちの1つ以上を含む。最も好ましくは、メディエーターは、酸化バナジウム、モリブデン酸ナトリウム、及び/又は二クロム酸カリウムを含む。
【0054】
驚くべきことに、本発明者らは、メディエーターが存在しなくても、酸化反応が満足に進行することを発見した。コスト、安全性の問題(メディエーターはしばしば非常に毒性であり/発がん性がある)、増大するプロセスの複雑さ(メディエーターの再捕獲/リサイクル)、及びプロセスの環境への影響の理由から、本プロセスはメディエーターなしで実施されることが好ましい場合がある。したがって、電解質溶液は、好ましくは、電気化学的酸化のあいだ、メディエーターを本質的に含まない。本発明との関連で、本質的に含まないとは、電気化学的酸化反応の開始時に存在するフラン化合物出発物質の量に基づいて、好ましくは5モル%未満、好ましくは1モル%未満、より好ましくは0.01モル%未満を意味する。 最も好ましくは、電解質溶液は、痕跡量以下のメディエーターしか含まない。「電気化学的酸化反応の開始時」とは、最初の量のフラン化合物が酸化される直前の瞬間を意味する。
【0055】
酸化、特に電気化学的酸化は、特定のpH範囲において特によく進行する。具体的に好ましいpH範囲は、とりわけ、使用する電極又は酸化剤に左右されるが、フラン化合物のpKa値もまた、好ましいpH範囲を部分的に決定しうる。特に、フラン化合物が2-フロ酸を含む場合、電気化学的酸化は、好ましくは少なくとも部分的に、7未満、より好ましくは4未満、さらにより好ましくは3未満、最も好ましくは2にほぼ等しいか2未満pHにおいて実施される。
【0056】
フラン化合物のマレイン酸への転化により、電解質溶液のpHは、反応開始時のpH値より低くなる可能性がある。したがって、酸化を実施できる最適値より高いpH値において電気化学的酸化を開始し、フラン化合物の転化中に、pH値が最適pH値まで低下するか、又は上で定義した好ましいpH値まで低下することが可能である。したがって、好ましいpH値は、電気化学的酸化の継続時間の少なくとも一部について規定されており(上記参照:「少なくとも部分的に・・・のpHで実施される」)、必ずしも電気化学的酸化の継続時間全体について規定されてはいない。
【0057】
全ての反応のあいだ最適なpHを維持するために、プロセス中に外部ソースによってpHを調整することができる(たとえば、適切な酸又は塩基の添加)。さらに、それはまた、pHを維持するための緩衝液の存在下でも実施しうる。さらに、適切な溶媒又は適切な電解質溶液を使用することにより、所望のpH範囲を設定することができる。したがって、溶媒又は電解質溶液はそれが存在する場合には、有機酸及び/又は無機酸などの酸を含むことが好ましい。無機酸が好ましく、なぜなら、有機酸と比較して、無機酸は電気化学的酸化反応においてより不活性であり、したがって好ましい。より好ましくは、無機酸は、塩酸(HCl)、硝酸(HNO3)、リン酸(H3PO4)、硫酸(H2SO4)、ホウ酸(H3BO3)、フッ化水素酸(HF)、臭化水素酸(HBr)、過塩素酸(HClO4)、ヨウ化水素酸(HI)からなる群から選択される。最も好ましくは、電解質溶液は硫酸を含む。特定の実施形態において、酸は、混合物に添加され得る樹脂(Amberlyst(商標)又はNafion(商標)など)中に組み込むことによって少なくとも部分的に固定化されることができ、及び/又は、酸は、1つ以上の電極の中に構造的に組み込まれることができる。特定の実施形態においては、電解質は、電解質のイオン伝導率を高めるために、無機塩と組み合わせて酸を含むことが好ましい場合がある。例えば、電解質のpHが1であることが望まれる場合、酸の濃度は、良好な導電度をもたらすのに十分ではない可能性があり、その目的のために塩を追加することが好ましい場合がある。
【0058】
電解質溶液は、水性又は非水性でありうる。適切な非水性電解質溶液は、アセトン、スルホラン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、アセトニトリル(MeCN)、ジクロロメタン(DCM)、プロピレンカーボネート、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、及びイオン性液体(例えば、[C4mim]+とアニオンHSO4
-、CF3CO2
-、H2PO4
-、Cl-、NO3
-、BF4
-、OTf-、PF6
-)からなる群から選択される1つ以上の溶媒を含む。特に、溶媒がイオン液体ではない実施形態では、非水性電解質溶液が電解質として無機塩又は有機塩を含むことが好ましい。
【0059】
中間体又はマレイン酸へのフラン化合物の転化速度を高めるために、電気化学的酸化を10~100℃の範囲、より好ましくは15~70℃の範囲の温度において実施することが好ましい場合がある。特に電気化学的酸化については、昇温させた温度(すなわち、室温より高い温度)において酸化を行うことは一般的ではない。しかし、本プロセスについては、昇温した温度、特に約35~60℃の温度が、上昇した転化率及び収率並びにより良好な溶解度(すなわち、濃度がいくらか上昇しうる)をもたらすことがわかっている。
【0060】
反応溶媒中の高濃度の出発物質は、通常、化学レドックス反応において高い転化速度を達成するのに有利であるが、これは電気化学的酸化反応の場合にはあまり当てはまらない可能性があり、なぜなら、律速段階は、通常、電極における電子密度によって主に決まり、溶液中の反応原料の濃度によってはあまり決まらないからである。言い換えれば、アクセス可能な電極の表面積及び電流が主に転化速度に影響を与える。反応溶媒中の高濃度の出発物質は、通常、化学レドックス反応において高い転化速度を達成するために有利であるが、これは、電気化学的酸化反応の場合にはあまり当てはまらない可能性がある。一般に、そのようなプロセスでは、濃度を上げると、電極の性質、電極の表面積、反応する分子、電極上への吸着特性などによって決定される動的電流の値まで電流が増大する。そうすると、反応は速く進まなくなる。反応は、電極における形成された生成物の新しい反応原料による交換によって制限されるようになる。言い換えれば、アクセス可能な電極の表面積、電流、及び物質移動が、通常、転化速度に大きく影響する。したがって、より高い濃度は必ずしも増大した反応速度をもたらすとは限らず、長い反応時間をもたらすだけかもしれず、それが次に反応原料、中間体、又は生成物の分解しかもたらさない可能性がある。これは、連続フロー反応には特に望ましくなく、フロー反応では、そのように完全な転化には到達しない可能性がある。したがって、プロセスが電気化学的酸化を含む実施形態では、電気化学的酸化は、電解質溶液中のフラン化合物の濃度が0.01~5モル/Lの範囲、好ましくは0.1モル/L~3.5モル/L、より好ましくは0.3モル/L~2モル/Lの範囲で実施することが好ましい。この範囲は、特に良好な転化速度及び収率をもたらした。濃度は時間とともに低下しうるので、本明細書においては濃度とは、フラン化合物の初期濃度、すなわち反応の開始時の濃度を意味する。
【0061】
好ましい実施形態では、電気化学的酸化は、二層式電気化学セル中で実施され、このセル中では、アノード電解質溶液とカソード電解質溶液が膜(例えば、そのプロセスの具体的特徴に応じて、カチオン交換膜(CEM)又はアニオン交換膜(AEM)などの半透膜)によって分離されている。この実施形態は、本プロセスを大きなスケールで実施するために特に適しており、なぜなら、それは、反応生成物がカソードで還元されることを防ぎ又は少なくとも制限するからであり、さらに、それは、フラン化合物がカソードへと越えていくことを防ぎ又は少なくとも制限するからであって、反応生成物がカソードで還元されてもフラン化合物がカソードへと越えて行ってもどちらの場合も効率が低下するであろう。この実施形態のための好適な膜には、商品名でNafion(商標)、Fumatech(商標)、Neosepta(商標)、及び/又はSelemion(商標)などが含まれる。また、多孔質ダイヤフラム/ガラスフリットも十分でありうる。
【0062】
本発明の好ましい実施形態では、本プロセスは、マレイン酸又はその誘導体を単離して、単離されたマレイン酸又はその誘導体、及び使用済みの電解質溶液をもたらすステップをさらに含む。使用済みの電解液は、本プロセスにリサイクルすることができる。その使用済みの電解質溶液は、残留フラン化合物、本プロセスの中間体、マレイン酸、及び形成されるその他の不純物及び/又はポリマーを含みうる。したがって、リサイクルの前に使用済み電解質溶液を精製することが好ましい場合がある(例えば、ポリマー物質を除去するためのナノ濾過)。精製の代わりに又は精製に加えて、リサイクルされた電解質の一部を抜き取り、新しい物質を追加して、電解質の一定の品質を維持することが好ましい場合がある。
【0063】
マレイン酸又はその誘導体の単離は、標準的な単離技術、例えば蒸留などを使用して実施することができる。特に好ましい単離方法は、使用する溶媒に左右されうる。マレイン酸を単離することにより、電解質溶液のpHを当初のpH、すなわち酸化開始時のpHに戻すこともできる。そのため、添加剤によるpH調整は必要のない場合がある。フラン化合物の酸化又はマレイン酸の単離中に一部の電解質、酸、溶媒、又は水が失われるかあるいは消費される場合、電解質溶液のリサイクル中に、その酸、溶媒、又は水を補充することができる。
【0064】
電解質溶液のリサイクルは、本プロセスが連続プロセスであり、例えば、連続反応器システム中で実施される場合に特に好ましい。その中で本プロセスが実施される反応器システムは、したがって、電解質溶液のリサイクルループを含むことができる。電解質溶液をリサイクルすることは、最小の化学廃棄物の生成と、低減した外部からの投入量を、有利にはもたらしうる。
【0065】
有利なことには、本プロセスはまた、同時におこる電気化学的還元、例えば、水から水素の生産、又はフルフラールのフルフリルアルコールへの変換を、カソードにおいて可能にすることがありうる。それはまた、セルの電圧及びエネルギー消費を低減するために、酸素を水に還元することも可能でありうる。
【0066】
ここでの電気化学的酸化は、化学廃棄物の形成を最小限に抑えるために特に好ましいことが理解されうる。化学廃棄物の形成は、本質的に水、フラン化合物、酸(電解質として)、及び可能な反応中間体、並びにマレイン酸などの生成物からなる電解質溶液を用いて本発明のプロセスを実施することによってさらに抑制することができる。言い換えれば、可能ではあるが、塩類、安定剤、緩衝液、界面活性剤などの添加剤の存在は好ましくなく、電解質溶液は好ましくはそのような添加剤を含まない。電解質溶液中に塩を含まないことの追加の利点は、マレイン酸を、必ずしもその塩としてではなく、遊離酸として直接得ることができることである。マレイン酸を用いた工業用途では、その遊離酸が通常は用いられ、そのため、その塩に代えて遊離マレイン酸を提供することにより、塩を遊離酸へ中間変換する必要性及び対応する塩廃棄物の生成が防止される。
【0067】
本明細書で使用される場合、単数形の文言は、文脈が明らかに他のことを示さない限り、複数形も含むことを意図している。 「及び/又は、および/または」という用語は、関連する列挙された事項の1つ又は複数のありとあらゆる組み合わせを含む。「含む」及び/又は「含んでいる」という用語は、述べられた特徴の存在を指定するが、1つ又は複数の他の特徴の存在又は追加を排除するものではないことが理解されよう。
【0068】
明確化及び簡潔な説明の目的のために、特徴を、同じ又は別個の実施形態の一部として本明細書に記載するが、本発明の範囲は、記載した特徴の全て又はいくつかの組み合わせを有する実施形態を含み得ることが理解される。本発明は、以下の非限定的な例によって説明することができる。
【実施例】
【0069】
<例1: 2-フロ酸メチルのマレイン酸への変換>
Hセルのアノードコンパートメントに、10 mMのフロ酸メチル(メチルフロエート)及び20 mMの五酸化バナジウムを含む100 mLの0.5 M硫酸水溶液を入れた。Hセルのカソードコンパートメントに100 mLの0.5 M硫酸水溶液を入れた。22 cm2のPbO2電極を、標準水素電極(SHE)に対して0.8~2.4 Vのあいだのサイクリックボルタンメトリー(CV)によって活性化した。参照電極及び作用電極を準備し、可逆水素電極(RHE)に対して1.75 Vの電位をセルを横切るように印加した。6時間後の分析は、マレイン酸について約42%の収率であり、残存メチルフロエート及び反応中間体であるホルミル-アクリル酸の両方が存在することを示している。
【0070】
<例2: 2-フロ酸のマレイン酸への変換 - 五酸化バナジウムメディエーター>
Hセルのアノードコンパートメントに、20 mMの2-フロ酸と20 mMの五酸化バナジウムを含む100 mLの0.5 M硫酸水溶液を入れた。Hセルのカソードコンパートメントに100 mlの0.5 M硫酸水溶液を入れた。10 cm2のPbO2電極を、SHEに対して0.5~2.1VのあいだのCVによって活性化した。参照電極及び作用電極を準備し、飽和カロメル電極SCEに対して1.6Vの電位をセルを横切るように印加した。7時間後の分析は、反応中間体であるホルミル-アクリル酸:マレイン酸:2-フロ酸が約15:4:1比で存在していることを示している。
【0071】
<例3: 2-フロ酸のマレイン酸への変換 - 五酸化バナジウムメディエーター及び増大させた濃度>
Hセルのアノードコンパートメントに、50 mMの2-フロ酸と20 mMの五酸化バナジウムを含む100 mLの0.5 M硫酸水溶液を入れた。Hセルのカソードコンパートメントに100 mlの0.5 M硫酸水溶液を入れた。10 cm2のPbO2電極を、SHEに対して0.8~2.1VのあいだのCVによって活性化した。参照電極及び作用電極を準備し、0.2 Aの定電流を流した。15時間後の分析は、反応中間体であるホルミル-アクリル酸:マレイン酸の比が約2:3であることを示している。
【0072】
<例4: 2-フロ酸のマレイン酸への変換 - 五酸化バナジウムメディエーター、増大させた濃度、及び加熱>
Hセルのアノードコンパートメントに、50 mMの2-フロ酸と20 mMの五酸化バナジウムを含む100 mLの0.5M 硫酸水溶液を入れた。Hセルのカソードコンパートメントに100 mlの0.5 M硫酸水溶液を入れた。10 cm2のPbO2電極を、SHEに対して0.8~2.1VのあいだのCVによって活性化した。参照電極及び作用電極を準備し、セルの内容物を35℃に加熱した。次に、0.2 Aの定電流を流した。12時間後の分析は、反応中間体であるホルミル-アクリル酸:マレイン酸が約9:11の比で存在していることを示している。
【0073】
<例5: 2-フロ酸のマレイン酸への変換 - メディエーターなし>
Hセルのアノードコンパートメントに、20 mMの2-フロ酸を含む100 mLの0.5 M硫酸水溶液を入れた。Hセルのカソードコンパートメントに100 mlの0. 5M硫酸水溶液を入れた。 10 cm2のPbO2電極を、SHEに対して0.5~2.1VのあいだのCVによって活性化した。参照電極及び作用電極を準備し、SCEに対して1.84 Vの電位をセルを横切って印加した。19時間後の分析は、反応中間体であるホルミル-アクリル酸:マレイン酸:2-フロ酸が約25:74:1の比で存在することを示している。
【0074】
<例6: フルフラールのマレイン酸への変換 - 五酸化バナジウムメディエーター>
Hセルのアノードコンパートメントに、20 mMのフルフラールと20 mMの五酸化バナジウムを含む100 mLの0.5 M硫酸水溶液を入れた。Hセルのカソードコンパートメントに100 mlの0.5 M硫酸水溶液を入れた。10 cm2のPbO2電極を、SHEに対して0.5~2.1 VのあいだのCVによって活性化した。参照電極と作用電極を準備し、SCEに対して1.6 Vの電位をセルを横切って印加した。19時間後の分析は、反応中間体であるホルミル-アクリル酸:マレイン酸が約5:1の比であることを示している。
【0075】
<例7: フルフラールのマレイン酸への変換 - 五酸化バナジウムメディエーター>
Hセルのアノードコンパートメントに、40 mMのフルフラール及び20 mMの五酸化バナジウムを含む100 mLの0.5 M硫酸水溶液を入れた。Hセルのカソードコンパートメントに100 mlの0.5 M硫酸水溶液を入れた。10 cm2のPbO2電極を、SHEに対して0.5~2.1 VのあいだのCVによって活性化した。参照電極及び作用電極を準備し、SCEに対して1.9 Vの電位をセル横切って印加した。12時間後の分析は、マレイン酸が約80%の収率で存在することが示している。
【0076】
<例8: フルフラールの5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンへの変換>
Hセルのアノードコンパートメントに、50 mMのフルフラールを含む100 mLの0.5 M硫酸水溶液を入れた。20℃での変換。Hセルのカソードコンパートメントに100 mlの0.5 M硫酸水溶液を入れた。10 cm2のPbO2電極を、SHEに対して0.5~2.1 VのあいだのCVによって活性化した。参照電極及び作用電極を準備し、SCEに対して1.85 Vの電位をセルを横切って印加した。7時間後の分析は、存在する反応中間体ホルミル-アクリル酸:マレイン酸の約2:1の比を示しており、20時間後には約9:1を示している。生成物の最大総収率(マレイン酸及び5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノン)は約80%である。
【0077】
<例9: フルフラールの5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンへの変換>
Hセルのアノードコンパートメントに、50 mMのフルフラールを含む100 mLの0.5 M硫酸水溶液を入れた。35℃での変換。Hセルのカソードコンパートメントに100 mlの0.5 M硫酸水溶液を入れた。10 cm2のPbO2電極を、SHEに対して0.5~2.1 VのあいだのCVによって活性化した。参照電極及び作用電極を準備し、SCEに対して1.85 Vの電位をセルを横切って印加した。7時間後の分析は、反応中間体ホルミル-アクリル酸:マレイン酸の約1:2の比での存在、及び20時間後に約1:10を示している。生成物の最大総収率(マレイン酸及び5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノン)は約70%である。
【0078】
<例10: フルフラールの5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンへの変換>
Hセルのアノードコンパートメントに、50 mMのフルフラールを含む100 mLの0.5 M硫酸水溶液を入れた。50℃での変換。Hセルのカソードコンパートメントに100 mlの0.5M 硫酸水溶液を入れた。10 cm2のPbO2電極を、SHEに対して0.5~2.1 VのあいだのCVによって活性化した。参照電極及び作用電極を準備し、SCEに対して1.85Vの電位をセルを横切って印加した。7時間後の分析は、反応中間体であるホルミル-アクリル酸:マレイン酸が約1:34の比で存在することを示している。
【0079】
<例11: 電解質からのシス-β-ホルミルアクリル酸/5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノン及びマレイン酸の抽出>
同じ体積の実施例9からの電解質及び有機溶媒(酢酸エチル、ジクロロメタン、トルエン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル)を一緒に激しく混合し、次いで相分離するようにさせておいた。次に、水相及び有機相の両方をHPLCで分析して、各相中のシス-β-ホルミルアクリル酸/5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンとマレイン酸の相対量を決定した。
【0080】
【0081】
酢酸エチルを使用する条件をスケールアップし、有機相を水相から分離し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、次に減圧下(in vacuo)で濃縮して、白色固体生成物(400 mg)を得た。これをNMRで分析して、シス-β-ホルミルアクリル酸/5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノン:マレイン酸が約2.7:1の比であることを確認した。
【0082】
<実施例12: シス-β-ホルミルアクリル酸/5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンのマレイン酸/酸無水物への酸化>
2つの別々の反応器に、実施例11において単離されたシス-β-ホルミルアクリル酸/ 5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノン:マレイン酸混合物(50 mg)、炭素上5%パラジウム(25 mg)、及び溶媒(350 μL - 0.5 M硫酸水溶液、リン酸一カリウム及びリン酸二カリウムのpH7水性緩衝液のいずれか)を入れた。次に、撹拌しながら反応器を70℃に加熱し、その混合物を通して酸素をバブリングした。2時間後、反応物を室温に冷却し、HPLCによって分析した。どちらの場合も、シス-β-ホルミルアクリル酸/5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンがマレイン酸へ変換された。
【0083】
<実施例14: HFOをマレイン酸に酸化するための溶媒>
オートクレーブ(10 ml)に、以下の表1に従って、HFO、溶媒(1 ml)、及び10%Pd/Cを入れた。
反応器を密閉し、次に窒素でフラッシュした。次に、反応器に純粋な酸素を10バールの圧力まで入れた。次に、反応器を85℃に加熱し、15時間撹拌した。周囲温度に冷却した後、圧力を解放し、反応器を窒素でフラッシュした。次に、生成物溶液を濾過して触媒を除去し、次に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分析し、マレイン酸の収率を表1にまとめた。
【0084】
【0085】
<例15: トルエン中でHFOをマレイン酸に酸化するための触媒>
表2に従って、オートクレーブ(10 ml)に、HFO(10.6 mg)、トルエン(1 ml)、及び触媒を入れた。その反応器を密閉し、次に窒素でフラッシュした。次に、反応器に純酸素を10バールの圧力まで入れた。次に、反応器を111℃に加熱し、14時間撹拌した。周囲温度に冷却した後、圧力を解放し、反応器を窒素でフラッシュした。次に、生成物溶液を濾過して触媒を除去し、次にHPLCによって分析し、結果を表2にまとめた。
【0086】