(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】睡眠改善用組成物及び概日リズム改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/353 20060101AFI20240329BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20240329BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20240329BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240329BHJP
【FI】
A61K31/353
A61K31/352
A61P25/20
A23L33/105
(21)【出願番号】P 2021567130
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2020044981
(87)【国際公開番号】W WO2021131569
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2019234802
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】有江 秀行
(72)【発明者】
【氏名】小南 優
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0209307(US,A1)
【文献】特開2019-094357(JP,A)
【文献】国際公開第2008/136382(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを有効成分として含
み、イソキサントフモール及び8-プレニルナリンゲニンの総含有量が0.1~70重量%である睡眠改善用組成物。
【請求項2】
概日リズムを改善することにより睡眠を改善する請求項1に記載の睡眠改善用組成物。
【請求項3】
時計遺伝子の発現調節により概日リズムを改善する請求項1又は2に記載の睡眠改善用組成物。
【請求項4】
時計遺伝子の発現調節が、時計遺伝子の発現リズムの振幅の増幅である請求項3に記載の睡眠改善用組成物。
【請求項5】
時計遺伝子が、Bmal1遺伝子である請求項3又は4に記載の睡眠改善用組成物。
【請求項6】
メラトニン受容体のアゴニスト作用により概日リズムを改善する請求項1~5のいずれか一項に記載の睡眠改善用組成物。
【請求項7】
イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを有効成分として含む概日リズム改善用組成物。
【請求項8】
イソキサントフモール及び8-プレニルナリンゲニンの総含有量が0.1~70重量%である請求項7に記載の概日リズム改善用組成物。
【請求項9】
時計遺伝子の発現調節により概日リズムを改善する請求項7
又は8に記載の概日リズム改善用組成物。
【請求項10】
時計遺伝子の発現調節が、時計遺伝子の発現リズムの振幅の増幅である請求項
9に記載の概日リズム改善用組成物。
【請求項11】
時計遺伝子が、Bmal1遺伝子である請求項
9又は10に記載の概日リズム改善用組成物。
【請求項12】
メラトニン受容体のアゴニスト作用により概日リズムを改善する請求項7~1
1のいずれか一項に記載の概日リズム改善用組成物。
【請求項13】
夜間の排尿頻度の低減又は改善のために使用される請求項7~1
2のいずれか一項に記載の概日リズム改善用組成物。
【請求項14】
経口用組成物である請求項1~1
3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
飲食品である請求項1~1
4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを投与する概日リズムを改善する方法
(但し、ヒトに対する医療行為を除く)。
【請求項17】
概日リズムを改善するための、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンの使用
(但し、ヒトに対する医療行為を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠改善用組成物及び概日リズム改善用組成物に関する。また、本発明は、睡眠を改善する方法及び概日リズムを改善する方法に関する。また、本発明は、睡眠を改善するため、又は、概日リズムを改善するためのイソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンの使用等に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠は、人生の約3分の1を占める重要な生理活動である。近年、様々な原因により睡眠の質に不満を感じる人が増加している。睡眠の質の低下には、入眠潜時の延長(寝つきが悪くなる)、早朝覚醒(朝早くに目が覚めてしまう)、中途覚醒(夜中に何度も目が覚める)、熟眠不全(よく眠った感じがしない、眠りが浅かったような感じがする)といった症状がある。このような睡眠の質の低下は、若い人にも見られるが、高齢になるほど頻度が高くなる傾向がある。
【0003】
睡眠の質の低下が生じる原因の一つに、視床下部の視交叉上核(suprachiasmatic nucleus:SCN)において制御されている概日リズム(サーカディアンリズム)の乱れがある。概日リズムは、約24時間の周期で変動する生物活動や生理現象である。概日リズムを有する生物活動や生理現象には、睡眠、覚醒、血圧、体温などがある。
【0004】
概日リズムは、時計遺伝子と呼ばれる複数の遺伝子群が24時間周期で発現量を変化させることによって生じる。ヒトの概日リズムは24時間より長い周期を持っているが、SCNの時計遺伝子が、この周期を外界の24時間の環境変化に同調させる働きをしている。時計遺伝子発現のリズム性を定義する指標として、周期長(1周期の長さ。およそ24時間)、位相(発現のピーク時間)、振幅(発現量の変動幅)がある。時計遺伝子は昼夜の遺伝子発現量の変化すなわち振幅が大きく、これが24時間周期で繰り返されることで、その個体の昼夜のメリハリのある行動様式が達成される。
【0005】
近年の超高齢化社会においては、高齢者における睡眠の断片化や早朝覚醒などの睡眠の質の低下の問題を含め、昼夜の行動のメリハリが消失するといった行動様式の平坦化が問題となっている。これらの問題にも概日リズムが関与していると考えられている。老齢動物を用いた実験において、睡眠の質の低下など、行動レベルでの概日リズムの変調が生じることが観察されている。そして、細胞レベルでも、時計発振機構の制御が加齢に伴って破綻することが示されており、特に老化細胞において概日リズムの振幅の平坦化が認められることが報告されている。
【0006】
概日リズムは、加齢などの内的要因によって変化するが、外的な要因によっても変化する。例えばヒトは、様々な理由により、通常とは異なる時間帯に行動することを求められることがある。例えば、航空機により短時間に長距離を移動する場合には、出発地と到着地で時差を経験し、いわゆる時差ぼけを引き起こすことが多い。平日の起床時間と休日の起床時間の差によっても時差ぼけは生じうる(社会的時差ぼけ)。時差ぼけ状態では、概日リズムが新規の時間帯に徐々に調整されるまで、睡眠覚醒リズム等の種々のリズムが乱れる。その結果、一時的な体調不良に陥ることがある。また、例えば日勤、夕勤及び夜勤等をシフトして仕事をする交替制勤務者では、一時的又は慢性的な概日リズムの乱れに起因する体調不良を起こす場合がある。交替制勤務者に多く見られる症状は、睡眠障害であり、これにより全身倦怠感、疲労感を感じやすくなる。
【0007】
メラトニン(N-アセチル-5-メトキシトリプタミン)は、多くの受容体に作用するインドールであり、脊椎動物では松果体で合成され、夜間に血中濃度が最も高くなる。メラトニンはSCNに作用し、概日リズムを生み出す時計遺伝子の発現を調節する(非特許文献1及び2)。内因性メラトニンの分泌は加齢ともに低下することが報告されている(非特許文献3)。外因性のメラトニン投与により、睡眠の質に対する有効性が報告され(非特許文献4)、睡眠の質低下の予防又は治療への応用が期待されている。メラトニン受容体アゴニストもメラトニン同様の効果があることが報告されている(非特許文献5)。
【0008】
従って、概日リズムを改善することのできる物質、例えば、時計遺伝子の発現リズムの振幅を増幅することのできる物質、メラトニン受容体のアゴニスト作用を示す物質等は、睡眠改善等に有用である。これまでに睡眠改善剤として、概日リズムを調節する物質が多数報告されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】S. M. Reppert, et al., Nature 418, 935-941 (2002)
【文献】R. J. Reiter, et al., Physiology (Bethesda) 29, 325-333 (2014)
【文献】K. Mishima, et al., J Clin Endocrinol Metab 86, 129-134 (2001)
【文献】M. E. Attenburrow, et al., Psychopharmacology (Berl) 126, 179-181 (1996).
【文献】日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)136,51~60(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、睡眠改善用組成物、特に、概日リズムを改善して睡眠の質を改善することができる睡眠改善用組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、概日リズム改善用組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、睡眠を改善する方法を提供することを目的とする。本発明はさらに、概日リズムを改善する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究した結果、イソキサントフモール及び8-プレニルナリンゲニンが概日リズムを改善する作用を有し、睡眠の質の改善などに有用であることを見出した。
【0013】
すなわち、これに限定されるものではないが、本発明は以下の睡眠改善用組成物、概日リズム改善用組成物、睡眠を改善する方法、概日リズムを改善する方法などに関する。
〔1〕イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを有効成分として含む睡眠改善用組成物。
〔2〕概日リズムを改善することにより睡眠を改善する上記〔1〕に記載の睡眠改善用組成物。
〔3〕時計遺伝子の発現調節により概日リズムを改善する上記〔1〕又は〔2〕に記載の睡眠改善用組成物。
〔4〕時計遺伝子の発現調節が、時計遺伝子の発現リズムの振幅の増幅である上記〔3〕に記載の睡眠改善用組成物。
〔5〕時計遺伝子が、Bmal1遺伝子である上記〔3〕又は〔4〕に記載の睡眠改善用組成物。
〔6〕メラトニン受容体のアゴニスト作用により概日リズムを改善する上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の睡眠改善用組成物。
〔7〕イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを有効成分として含む概日リズム改善用組成物。
〔8〕時計遺伝子の発現調節により概日リズムを改善する上記〔7〕に記載の概日リズム改善用組成物。
〔9〕時計遺伝子の発現調節が、時計遺伝子の発現リズムの振幅の増幅である上記〔8〕に記載の概日リズム改善用組成物。
〔10〕時計遺伝子が、Bmal1遺伝子である上記〔8〕又は〔9〕に記載の概日リズム改善用組成物。
〔11〕メラトニン受容体のアゴニスト作用により概日リズムを改善する上記〔7〕~〔10〕のいずれかに記載の概日リズム改善用組成物。
〔12〕夜間の排尿頻度の低減又は改善のために使用される上記〔7〕~〔11〕のいずれかに記載の概日リズム改善用組成物。
〔13〕経口用組成物である上記〔1〕~〔12〕のいずれかに記載の組成物。
〔14〕飲食品である上記〔1〕~〔13〕のいずれかに記載の組成物。
〔15〕イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを投与する睡眠を改善する方法。
〔16〕イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを投与する概日リズムを改善する方法。
〔17〕睡眠を改善するための、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンの使用。
〔18〕概日リズムを改善するための、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンの使用。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、睡眠改善用組成物を提供することができる。本発明の睡眠改善用組成物は、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを有効成分として含むことにより、概日リズムを改善して睡眠の質を改善することができる。また、本発明によれば、概日リズム改善用組成物を提供することができる。また、本発明によれば、睡眠を改善する方法を提供することができる。本発明によれば、概日リズムを改善する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、ヒトI型メラトニン(MT1)受容体に対するイソキサントフモールの用量反応性を示すグラフである。
【
図2】
図2は、ヒトII型メラトニン(MT2)受容体に対するイソキサントフモールの用量反応性を示すグラフである。
【
図3】
図3は、Bmal1遺伝子の発現リズムの振幅に対するイソキサントフモール及び8-プレニルナリンゲニンの影響を示すグラフである。
【
図4】
図4は、時差環境負荷を行ったマウスにイソキサントフモールを投与した際の、1日の総活動量に占める暗期での活動量(暗期活動量)の比率(%)を示すグラフである。
【
図5】
図5は、時差環境負荷を行ったラットに、イソキサントフモール又はメラトニンを投与した際の、暗期開始0~4時間のノンレム睡眠時間総量を示すグラフである。
【
図6】
図6は、時計遺伝子の発現リズムのモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の睡眠改善用組成物は、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを有効成分として含む。
イソキサントフモールは、ポリフェノールの一種である。イソキサントフモールは、アサ科の植物であるホップ(学名:Humulus lupulus)に含まれるポリフェノールであるキサントフモールが異性化した化合物である。8-プレニルナリンゲニンは、ホップ等に含まれるポリフェノールである。
【0017】
本発明において、睡眠改善とは、睡眠の質を改善することを指す。本発明の睡眠改善用組成物は、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを有効成分として含有することにより、睡眠の質を改善することができる。
【0018】
本発明における睡眠の質の改善として、入眠潜時(覚醒状態から眠りに入るまでの時間)を短縮すること、中途覚醒の回数及び時間を減少させること、熟眠時間を増加させること、夢みを改善すること、早期(早朝)覚醒を改善すること等が挙げられる。睡眠の質を改善することにより、起床時の眠気を改善すること、起床時の疲労を改善すること等が可能となる。睡眠の質は、例えば、主観評価の他、入眠潜時、中途覚醒の回数及び時間、睡眠時間に全体に対する非速眼球運動睡眠(ノンレム(NREM)睡眠)の割合等を指標として評価することができる。ノンレム睡眠時間や入眠潜時を評価する手法としては、ヒトの場合、例えば、脳波計等による非侵襲的な測定方法が挙げられる。
【0019】
イソキサントフモール及び8-プレニルナリンゲニンは、概日リズムを改善する作用を有する。概日リズムを改善することにより、睡眠と覚醒のリズム(睡眠覚醒リズム)を整えて睡眠を改善することができる。また、概日リズムを改善することにより、例えば、時差ぼけ(例えば、短時間に長距離を移動することによって生じる時差ぼけ、平日と休日の就寝及び/又は起床リズムのズレ等によって生じる社会的時差ぼけ)の改善、交代勤務等による生活リズムの変調の改善等の効果が得られる。時差ぼけの改善、生活リズムの変調の改善等によっても、睡眠を改善することができる。イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンは、概日リズムを改善して睡眠を改善することができる。一態様において、本発明の睡眠改善用組成物は、概日リズムを改善することにより睡眠を改善するために使用され得る。
概日リズムの改善には、乱れた概日リズム(概日リズムの異常)を正常に近づけること又は戻すこと、概日リズムの乱れ(異常)を抑制すること等が含まれるが、これに限定されない。
【0020】
イソキサントフモール及び8-プレニルナリンゲニンは、時計遺伝子の発現を調節する作用を有する。時計遺伝子の発現調節により概日リズムを改善することができる。
時計遺伝子の発現調節として、時計遺伝子の発現リズムの振幅の増幅が挙げられる。時計遺伝子の発現リズムとは、時計遺伝子の発現量を経時的に測定した際に観察される周期的な発現量の変動をいう。
図6に、時計遺伝子の発現リズムのモデル図を示す。ここで、時計遺伝子の発現リズムのリズム性の指標として、周期長(1周期の長さ。およそ24時間)、位相(発現のピーク時間で示される発現のピーク位置)、振幅(発現量の変動幅)がある。イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンは、特に、時計遺伝子の発現リズムの振幅を増幅させるために有用である。時計遺伝子の発現リズムの振幅を増幅するとは、時計遺伝子の発現量が最も高いときの発現量と、時計遺伝子の発現量が最も低いときの発現量との差を大きくする、すなわち、時計遺伝子の発現量の変動幅を大きくすることをいう。
時計遺伝子の発現リズムの振幅が減少すると、概日リズムが乱れる。時計遺伝子の発現リズムの振幅を増幅することにより、概日リズムを改善することができる。時計遺伝子の発現リズムの振幅の増幅は、少なくとも1つの時計遺伝子の発現リズムの振幅を増幅させればよい。
【0021】
本発明の睡眠改善用組成物は、時計遺伝子の発現リズムの振幅を増幅することにより、概日リズムを改善して睡眠を改善することができ、このような目的のために使用することができる。
【0022】
時計遺伝子は、概日リズムの調節に働く一群の遺伝子をいう。時計遺伝子には、Bmal遺伝子、Period遺伝子等がある。本発明において、時計遺伝子は、好ましくはBmal遺伝子、より好ましくはBmal1遺伝子である。本発明の睡眠改善用組成物は、Bmal1遺伝子の発現リズムの振幅を増幅することができる。一態様において、本発明の睡眠改善用組成物は、Bmal1遺伝子の発現リズムの振幅を増幅して概日リズムを改善し、睡眠を改善するために使用することができる。
【0023】
イソキサントフモールは、メラトニン受容体、例えば、ヒトI型メラトニン受容体を活性化する作用(アゴニスト作用)を有する。メラトニン受容体を活性化すると、概日リズム改善効果が得られる。メラトニン受容体アゴニストは、睡眠改善作用を有することが知られている。一態様において、本発明の睡眠改善用組成物は、メラトニン受容体のアゴニスト作用により、概日リズムの改善を介して、睡眠を改善するために使用することができる。一態様において、本発明の睡眠改善用組成物は、メラトニン受容体を活性化するために使用することができる。本発明の睡眠改善用組成物は、メラトニン受容体を活性化して概日リズムを改善し、睡眠を改善するために使用することができる。メラトニン受容体は、好ましくはヒトI型メラトニン受容体である。
【0024】
本発明の睡眠改善用組成物は、例えば、睡眠障害の予防又は改善のために使用することができる。睡眠障害には、不眠症、過眠症等の睡眠異常が含まれる。不眠症とは、入眠障害、中途覚醒、早期覚醒及び熟眠障害のいずれかの症状があることをいう。本発明の睡眠改善用組成物は、例えば、概日リズムの乱れに起因する睡眠障害(例えば、時計遺伝子の発現リズムの振幅の減少に起因する睡眠障害)、概日リズム睡眠障害(睡眠相遅延症候群、睡眠相後退症候群等)などの状態又は疾患の予防又は改善のために有効である。概日リズムの乱れに起因する睡眠障害には、加齢に伴う概日リズムの乱れに起因する睡眠障害(例えば、加齢に伴う時計遺伝子の発現リズムの振幅の減少に起因する睡眠障害)等が含まれる。
加齢に伴う概日リズムの乱れは、中高年者における加齢に伴う概日リズムの乱れであってよい。加齢に伴う時計遺伝子の発現リズムの振幅の減少は、中高年者における加齢に伴う時計遺伝子の発現リズムの振幅の減少であってよい。中高年者は、高齢者を含む。本発明において、中高年者は、例えば、40歳以上のヒトであってよい。高齢者は、例えば、60歳以上又は65歳以上のヒトであってよい。
高齢者では概日リズムが乱れる傾向がある。本発明の睡眠改善用組成物は時計遺伝子の発現リズムの振幅を増加させることができるため、例えば、高齢者の睡眠障害を予防又は改善するために使用することができる。
【0025】
本明細書において、状態又は疾患の予防は、発症を防止すること、発症を遅延させること、発症率を低下させること、発症のリスクを軽減すること等を包含する。状態又は疾患の改善は、対象を状態又は疾患から回復させること、状態又は疾患の症状を軽減すること、状態又は疾患の症状を好転させること、状態又は疾患の進行を遅延させること、防止すること等を包含する。回復は、少なくとも部分的に回復させることを含む。
【0026】
イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンは、時計遺伝子の発現を調節する作用、メラトニン受容体のアゴニスト作用を有し、概日リズム改善のための有効成分として使用することができる。イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを有効成分として含む概日リズム改善用組成物も、本発明の一つである。
【0027】
本発明の概日リズム改善用組成物は、概日リズムの改善により予防又は改善し得る状態又は疾患の予防又は改善のために使用することができる。
概日リズムの改善により予防又は改善し得る状態又は疾患として、概日リズムの乱れに起因する状態又は疾患が挙げられる。例えば、夜間の排尿リズムは、概日リズムによって調整されていることが報告されている(例えばNegoro et al., Nature Communications volume 3, Article number: 809 (2012))。概日リズムの乱れは、夜間頻尿の原因になる。夜間頻尿とは、夜間睡眠時に、排尿のために1回以上起きなければならない症状や、「夜間、排尿のために1回以上起きなければならない」という訴えや、これにより困っている状態をいう。概日リズムの乱れに起因する状態又は疾患として、例えば、睡眠障害、夜間頻尿、時差ぼけ、易疲労性、自律神経失調、疲労、全身倦怠、代謝リズムの乱れ、内分泌障害、眠気、食欲不振、体調不良、集中力又は意欲の低下、鬱病、不安神経症、胃腸管の機能障害等が挙げられる。
一態様において、本発明の概日リズム改善用組成物は、睡眠障害、夜間の頻尿、時差ぼけ、易疲労性、自律神経失調、疲労、全身倦怠、代謝リズムの乱れ、内分泌障害、眠気、食欲不振、体調不良、集中力又は意欲の低下、鬱病、不安神経症及び胃腸管の機能障害からなる群より選択される1又は2以上の状態又は疾患の予防又は改善のために使用することができる。
【0028】
本発明の概日リズム改善用組成物は、睡眠改善のため、例えば睡眠障害の予防又は改善のために使用してもよく、これ以外の概日リズムの乱れに起因する状態又は疾患の予防又は改善のために使用してもよい。また、夜間頻尿について、メラトニンアゴニストであるラメルテオンの使用により夜間頻尿が改善されたことが報告されている(Shimizu et al., Lower Urinary Tract Symptoms (2013)5,69-74)。本発明の概日リズム改善用組成物は、メラトニン受容体のアゴニスト作用を有し、概日リズムを改善することができることから夜間頻尿の予防又は改善のため、例えば、夜間の排尿頻度の低減又は改善のために好ましく使用することができる。
【0029】
本発明の概日リズム改善用組成物は、時計遺伝子の発現調節により概日リズムを調節することができる。本発明の概日リズム改善用組成物は、例えば、時計遺伝子の発現リズムの振幅の増幅により概日リズムを調節することができる。また、本発明の概日リズム改善用組成物は、メラトニン受容体のアゴニスト作用により概日リズムを調節することができ、このような目的のために使用することができる。一態様において、本発明の概日リズム改善用組成物は、時計遺伝子の発現調節(例えば、時計遺伝子の発現リズムの振幅の増幅)及びメラトニン受容体のアゴニスト作用により概日リズムを改善するために使用することができる。時計遺伝子、その好ましい態様等は、上記と同じであり、好ましくはBmal遺伝子、より好ましくはBmal1遺伝子である。
【0030】
本発明の睡眠改善用組成物及び概日リズム改善用組成物を、以下ではまとめて本発明の組成物ともいう。
本発明の組成物に使用されるイソキサントフモールは、その製造方法等に何ら制限されない。イソキサントフモールは、例えば、ホップ抽出物から加熱等のプロセスを経て調製することができる。ホップ抽出物を加熱することにより、該抽出物中にイソキサントフモールを生成させることができる。ホップ抽出物は、通常、ホップの毬花を溶媒で抽出し、必要に応じて精製に係るプロセスを介して調製され、公知のホップ抽出物の調製方法により得ることができる。抽出方法として、例えば、ビール醸造に用いられるホップ抽出物の調製法として用いられる、エタノール溶媒による抽出法が挙げられる。ホップ抽出物は市販されており、市販のホップ抽出物を使用することもできる。イソキサントフモールを生成させるためのホップ抽出物の加熱は、80~140℃(より好ましくは85~100℃)で15分~5時間(より好ましくは20分~3時間)行うことが好ましい。イソキサントフモールを調製するためのホップ抽出物の精製は、公知の方法で実施される。精製方法として、例えば、HPLCや吸着カラム等の使用や、溶解度の変化を利用した析出などの方法が挙げられる。また、イソキサントフモールは、キサントフモールを加熱することによって製造することもできる。この際の加熱温度は、好ましくは80~140℃(より好ましくは85~100℃)で15分~5時間(より好ましくは20分~3時間)を採用することができる。異性化処理により得られたイソキサントフモールは、必要に応じて、公知の方法(例えば、ろ過、減圧濃縮、凍結乾燥等)により濃縮したり、精製したりすることができる。イソキサントフモールは、市販品を使用することもできる。
【0031】
本発明の組成物に使用される8-プレニルナリンゲニンは、その製造方法等に何ら制限されない。8-プレニルナリンゲニンは、例えば、ホップ抽出物から公知の方法で精製して調製することができる。8-プレニルナリンゲニンは、市販品を使用することもできる。
本発明においては、本発明の効果を奏することになる限り、精製されたイソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを使用してもよく、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを豊富に含む植物由来原料等を本発明の組成物に含有させてもよい。
【0032】
本発明の組成物は、イソキサントフモール及び8-プレニルナリンゲニン、又は、イソキサントフモールを有効成分として含むことが好ましく、イソキサントフモールを有効成分として含むことがより好ましい。一態様において、本発明の組成物は、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンのみを有効成分として含むものであってよい。一態様において、本発明の組成物は、イソキサントフモールのみを有効成分として含むものであってよい。
【0033】
イソキサントフモール及び8-プレニルナリンゲニンは、天然物や飲食品に含まれ、食経験がある化合物である。このため安全性の観点から、これらの化合物は、例えば毎日摂取することにも問題が少ないと考えられる。従って本発明によれば、安全性が高い成分を有効成分として含む睡眠改善用組成物及び概日リズム改善用組成物を提供することができる。また、例えばイソキサントフモールは、例えば100℃の高温条件でも安定であることが報告されている。食品衛生法においては清涼飲料水等の規格基準として殺菌条件が定められているが、例えばpH4.0以上のもの(pH4.6以上で、かつ、水分活性が0.94を超えるものを除く)においては85℃において30分間の加熱が必要である。このような殺菌工程においても、イソキサントフモールは安定的に飲料中に含まれるため、飲料に配合しやすいという利点もある。
本発明の一態様によれば、睡眠改善作用や概日リズム改善作用を示し、熱に安定であり、健康の維持、増進に資する種々の機能性食品、機能性飲料等を提供することが可能となる。
またイソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンは、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により公知の方法で定量することが可能である。イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンは、簡便に定量分析が可能であり、有効成分の定量分析及び規格化が必要となる機能性表示食品等の有効成分として使用しやすいという利点もある。
【0034】
本発明の組成物は、治療的用途(医療用途)又は非治療的用途(非医療用途)のいずれにも適用することができる。非治療的とは、医療行為、すなわち人間の手術、治療又は診断を含まない概念である。
本発明の組成物は、飲食品、化粧料、医薬品、医薬部外品、飼料等の形態とすることができる。本発明の組成物は、それ自体が睡眠改善ため又は概日リズム改善のために用いられる飲食品、化粧料、医薬品、医薬部外品、飼料等であってもよく、これらに配合して使用される素材又は製剤等であってもよい。
本発明の睡眠改善用組成物及び概日リズム改善用組成物は、一例として、剤の形態で提供することができるが、本形態に限定されるものではない。当該剤をそのまま組成物として、又は、当該剤を含む組成物として提供することもできる。一態様において、本発明の睡眠改善用組成物は、睡眠改善剤ということもできる。一態様において、本発明の概日リズム改善用組成物は、概日リズム改善剤ということもできる。
本発明の組成物は、経口用組成物、非経口用組成物のいずれであってもよいが、好ましくは経口用組成物である。経口用組成物としては、飲食品、経口用の医薬品、医薬部外品、飼料が挙げられ、好ましくは飲食品又は経口用医薬品であり、より好ましくは飲食品である。非経口用組成物として、化粧料、非経口用医薬品、非経口用医薬部外品が挙げられる。
【0035】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない限り、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンに加えて、任意の添加剤、任意の成分を含有することができる。これらの添加剤及び成分は、組成物の形態等に応じて選択することができ、一般的に飲食品、化粧料、医薬品、医薬部外品、飼料等に使用可能なものが使用できる。本発明の組成物を、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等とする場合、その製造方法は特に限定されず、一般的な方法により製造することができる。
【0036】
例えば本発明の組成物を飲食品とする場合、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンに、飲食品に使用可能な成分(例えば、食品素材、必要に応じて使用される食品添加物等)を配合して、種々の飲食品とすることができる。飲食品は特に限定されず、例えば、一般的な飲食品、健康食品、健康飲料、機能性表示食品、特定保健用食品、健康補助食品、病者用飲食品等が挙げられる。上記健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、健康補助食品等は、例えば、細粒剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、チュアブル剤、ドライシロップ剤、シロップ剤、液剤、飲料、流動食等の各種製剤形態として使用することができる。
【0037】
本発明の組成物の好ましい形態の一例として、飲料が挙げられる。イソキサントフモールは熱に安定であることから、一態様において、イソキサントフモールを含む本発明の組成物は、飲料に適している。
飲料は、ノンアルコール飲料、アルコール飲料のいずれであってもよい。ノンアルコール飲料として、例えば、茶系飲料、コーヒー飲料、ノンアルコールビールテイスト飲料、炭酸飲料、機能性飲料、果実・野菜系飲料、乳性飲料、豆乳飲料、フレーバーウォーター等が挙げられる。
【0038】
本発明の組成物が飲料である場合、茶系飲料、コーヒー飲料、アルコール飲料、ノンアルコールビールテイスト飲料、炭酸飲料、機能性飲料、果実・野菜系飲料、乳性飲料、豆乳飲料又はフレーバーウォーターであることが好ましい。
本発明の組成物が茶系飲料である場合、紅茶飲料又は無糖茶飲料であることが好ましい。無糖茶飲料として、緑茶飲料、ウーロン茶飲料、麦茶飲料、玄米茶飲料、ハト麦茶飲料、無糖の紅茶飲料等が挙げられる。
本発明の組成物がコーヒー飲料である場合、容器詰コーヒー又はリキッドコーヒーであることが好ましい。
【0039】
アルコール飲料としては、ビール、ビール系飲料、ビール及びビール系飲料以外のアルコール飲料が挙げられる。
本発明の組成物がビール系飲料である場合、発泡酒又は第三のビールであることが好ましい。
本発明の組成物がビール及びビール系飲料以外のアルコール飲料である場合、焼酎、チューハイ、リキュール、カクテル、スピリッツ、ウイスキーであることが好ましい。
【0040】
本明細書における「ノンアルコールビールテイスト飲料」とは、ビール様の風味をもつ炭酸飲料を意味し、通常非発酵のノンアルコールタイプのものであり、これはアルコールを実質的に含まない。ここで、ノンアルコールビールテイスト飲料は、検出できない程度の極く微量のアルコールを含有する飲料を除くものではない。
【0041】
本発明の組成物が炭酸飲料である場合、コーラフレーバー飲料、透明炭酸飲料、ジンジャエール、果汁系炭酸飲料、乳類入炭酸飲料又は無糖炭酸飲料であることが好ましい。
本発明の組成物が機能性飲料である場合、スポーツドリンク、エナジードリンク、健康サポート飲料又はパウチゼリー飲料であることが好ましい。
【0042】
本発明の組成物が果実・野菜系飲料である場合、100%果実飲料、果実入飲料、低果汁入清涼飲料、果粒含有果実飲料又は果肉飲料であることが好ましい。
本発明の組成物が乳性飲料である場合、牛乳、ドリンクヨーグルト、乳酸菌飲料又は乳類入清涼飲料であることが好ましい。
本発明の組成物が豆乳飲料である場合、豆乳又は大豆飲料であることが好ましい。
【0043】
飲料の形態は特に限定されず、容器詰飲料とすることができる。容器詰飲料の容器は特に限定されず、いずれの形態及び材質の容器を用いてもよく、例えば、アルミ缶、スチール缶等の金属製容器;ペットボトル等の樹脂製容器;紙パック等の紙容器;ガラス瓶等のガラス製容器;樽等の木製容器等の通常用いられる容器のいずれも用いることができる。このような容器に飲料を充填及び密閉することにより、容器詰飲料が得られる。
【0044】
本発明の組成物を医薬品又は医薬部外品とする場合、例えば、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンに、薬理学的に許容される担体、必要に応じて添加される添加剤等を配合して、各種剤形の医薬品又は医薬部外品とすることができる。そのような担体、添加剤等は、医薬品又は医薬部外品に使用可能な、薬理学的に許容されるものであればよく、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、着色剤等の1又は2以上が挙げられる。医薬品又は医薬部外品の投与(摂取)形態としては、経口又は非経口(経皮、経粘膜、経腸、注射等)投与の形態が挙げられる。本発明の組成物を医薬品又は医薬部外品とする場合、経口用医薬品又は経口用医薬部外品とすることが好ましい。経口投与のための剤形としては、例えば、液剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、糖衣錠、カプセル剤、懸濁液、乳剤、チュアブル剤等が挙げられる。非経口投与のための剤形としては、例えば、注射剤、点滴剤、軟膏剤、ローション剤、貼付剤、坐剤、経鼻剤、経肺剤(吸入剤)等が挙げられる。医薬品は、非ヒト動物用医薬であってもよい。
【0045】
本発明の組成物を飼料とする場合には、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを飼料に配合すればよい。飼料には飼料添加剤も含まれる。飼料としては、例えば、牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料;ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料;犬、猫、小鳥等に用いるペットフードなどが挙げられる。
【0046】
本発明の組成物に含まれるイソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンの含有量は特に限定されず、その形態等に応じて設定することができる。
本発明の組成物中のイソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンの含有量は、イソキサントフモール及び8-プレニルナリンゲニンの総含有量として、例えば、0.01重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましく、また、99重量%以下が好ましく、70重量%以下がより好ましい。上限及び下限は、いずれの組み合わせによる範囲としてもよい。一態様において、イソキサントフモール及び8-プレニルナリンゲニンの総含有量は、本発明の組成物中に0.01~99重量%が好ましく、0.01~70重量%がより好ましく、0.1~70重量%がさらに好ましい。上記総含有量は、組成物がイソキサントフモール及び8-プレニルナリンゲニンのいずれか一方だけを含む場合は、イソキサントフモール又は8-プレニルナリンゲニンの含有量である。
【0047】
本発明の睡眠改善用組成物は、対象の睡眠を改善するために使用される。本発明の概日リズム改善用組成物は、対象の概日リズムを改善するために使用される。
本発明の組成物は、経口で摂取(経口投与)されることが好ましい。本発明の組成物の投与量(摂取量ということもできる)は特に限定されない。本発明の組成物の投与量は、睡眠改善効果、概日リズム改善効果が得られるような量であればよく、投与形態、投与方法、対象の体重等に応じて適宜設定すればよい。
【0048】
一態様において、本発明の組成物をヒト(成人)を対象に経口で摂取させる又は投与する場合、その投与量は、イソキサントフモール及び8-プレニルナリンゲニンの総投与量として、1日当たり体重60kgあたり、好ましくは0.01mg以上、より好ましくは0.1mg以上、また、好ましくは250mg以下、より好ましくは200mg以下である。一態様において、本発明の組成物の投与量は、イソキサントフモール及び8-プレニルナリンゲニンの総投与量として、ヒト(成人)であれば、1日当たり体重60kgで、好ましくは0.01~250mg、より好ましくは0.1~200mgである。上記量を、1日1回以上、例えば、1日1回又は数回(例えば2~3回)に分けて、摂取させる又は投与することが好ましい。上記総投与量は、イソキサントフモール及び8-プレニルナリンゲニンのいずれか一方だけを摂取又は投与する場合は、イソキサントフモール又は8-プレニルナリンゲニンの投与量である。
一態様においては、上記量のイソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを、ヒトに経口で摂取させる又は投与することが好ましく、上記量のイソキサントフモールを、ヒトに経口で摂取させる又は投与することがより好ましい。一態様において、本発明の組成物は、ヒトに、体重60kgあたり、1日あたり上記量のイソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを経口で摂取させる又は投与するために使用することができる。
【0049】
本発明の組成物は、継続して摂取又は投与されるものであることが好ましい。イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを継続的に摂取又は投与することによって、上記の効果が高まることが期待される。一態様において、本発明の組成物は、好ましくは3日以上、より好ましくは1週間以上、さらに好ましくは4週間以上、特に好ましくは8週間以上継続して摂取又は投与されることが好ましい。
【0050】
本発明の組成物を摂取させる又は投与する対象(投与対象ということもできる)は、特に限定されない。好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
【0051】
一態様において、本発明の睡眠改善用組成物の投与対象として、睡眠の質の改善を必要とする又は希望する対象が挙げられる。睡眠改善用組成物の投与対象として、例えば、睡眠の質が低下しているヒト(好ましくは、概日リズムの乱れにより睡眠の質が低下しているヒト)、より質のよい睡眠を必要とする又は希望する健常者などが挙げられる。一態様において、投与対象として、睡眠障害を有する対象が挙げられる。
【0052】
本発明の概日リズム改善用組成物の投与対象として、概日リズムの改善を必要とする又は希望する対象、概日リズムの乱れに起因する状態又は疾患の予防又は改善を必要とする又は希望する対象、中高年者、特に高齢者や、勤務時間がシフトする交代勤務者等が挙げられる。
【0053】
一態様において、本発明の組成物の投与対象として、中高年者が挙げられる。中でも、高齢者が好ましい。中高年者、特に高齢者は、概日リズムが乱れやすいためである。一態様において、本発明の組成物は、中高年者(好ましくは高齢者)用の睡眠改善用組成物、中高年者(好ましくは高齢者)用の概日リズム改善用組成物として使用することができる。
本発明の組成物は、睡眠改善、概日リズム改善により予防が期待できる状態又は疾患の予防等を目的として、健常者に対して使用することもできる。
【0054】
本発明の睡眠改善用組成物には、睡眠改善により発揮される機能の表示が付されていてもよい。本発明の睡眠改善用組成物には、例えば、「体内リズムを改善し、睡眠の質の向上」、「寝つきの改善」、「熟眠感の改善」、「就寝・起床リズムを整える」、「より良い目覚めをサポートする」、「起床時の眠気を軽減」、「起床時の疲労感の軽減」、「日中の眠気の改善」、「日中の作業効率の改善」、「疲労感の回復」等の1又は2以上の機能の表示が付されていてもよい。具体的な例として、「加齢に伴い変化した体内リズムを改善し、睡眠の質の向上や、日中の眠気の改善、疲労感の軽減、作業効率の向上に役立ちます。」等の表示を付すこともできる。
【0055】
本発明の概日リズム改善用組成物には、概日リズム改善により発揮される機能の表示が付されていてもよい。本発明の概日リズム改善用組成物には、例えば、「体内リズムを改善」、「健康的な生活リズムをサポート」、「生活リズムの乱れを整える」、「加齢による生活リズムの乱れを整える」、「体内リズムを改善し、夜間頻尿を軽減」、「夜間にトイレに行く回数を減らす」、「夜間のトイレの不安を軽減する」、「尿の不快感を軽減」の1又は2以上の機能の表示が付されていてもよい。具体的な例として、「加齢に伴い変化した体内リズムを改善し、健康的な生活リズムをサポートします。」、「加齢に伴い変化した体内リズムを改善し、尿の不快感を軽減します。」等の表示を付すこともできる。概日リズム改善用組成物は、概日リズム改善により発揮される機能の表示として、睡眠改善により発揮される機能の表示、例えば、「体内リズムを改善し、睡眠の質の向上」、「寝つきの改善」、「熟眠感の改善」、「就寝・起床リズムを整える」、「より良い目覚めをサポートする」、「起床時の眠気を軽減」、「起床時の疲労感の軽減」、「日中の眠気の改善」、「日中の作業効率の改善」及び「疲労感の回復」の1又は2以上の機能の表示が付されていてもよい。具体的な例として、概日リズム改善効果に基づいて、「加齢に伴い変化した体内リズムを改善し、睡眠の質の向上や、日中の眠気の改善、疲労感の軽減、作業効率の向上に役立ちます。」等の表示を付すこともできる。
本発明の一態様において、本発明の組成物は、上記の表示が付された飲食品であることが好ましい。また上記の表示は、上記の機能を得るために用いる旨の表示であってもよい。当該表示は、組成物自体に付されてもよいし、組成物の容器又は包装に付されていてもよい。
【0056】
イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンは、対象の睡眠を改善するためや、対象の概日リズムを改善するために使用することができる。本発明は、以下の方法及び使用も包含する。
イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを投与する睡眠を改善する方法。
イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを投与する概日リズムを改善する方法。
睡眠を改善するための、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンの使用。
概日リズムを改善するための、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンの使用。
【0057】
イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを投与(摂取)することにより、概日リズムの改善が可能となる。概日リズムを改善することにより、睡眠の改善等が可能となる。イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンは、例えば、睡眠障害の予防又は改善のために使用することができる。
本発明は、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを投与する概日リズムの乱れに起因する状態又は疾患を予防又は改善する方法も包含する。本発明は、概日リズムの乱れに起因する状態又は疾患を予防又は改善するための、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンの使用も包含する。本発明は、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを投与する夜間頻尿を予防又は改善する方法;イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを投与する夜間の排尿頻度を低減又は改善する方法;夜間頻尿を予防又は改善するため、例えば夜間の排尿頻度を低減又は改善するための、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンの使用も包含する。本発明は、概日リズムを改善することによって夜間頻尿を予防又は改善するための、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンの使用も包含する。
上記方法は、治療的な方法であってもよく、非治療的な方法であってもよい。上記使用は、治療的な使用であってもよく、非治療的な使用であってもよい。
【0058】
上記方法及び使用においては、1日に1回以上、例えば、1日1回~数回(例えば2~3回)、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを対象に投与する(摂取させる)ことが好ましい。上記方法及び使用においては、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを、経口投与することが好ましい。上記の使用は、好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物、より好ましくはヒトにおける使用である。イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンは、好ましくはイソキサントフモールである。
【0059】
上記方法及び使用においては、所望の作用が得られる量(有効量ということもできる)のイソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンを使用すればよい。イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンの好ましい投与量や投与対象等は上述した本発明の組成物と同じである。イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンは、そのまま投与してもよく、これを含む組成物として投与してもよい。例えば、本発明の睡眠改善用組成物又は概日リズム改善用組成物を投与してもよい。
【0060】
本発明は、睡眠改善用組成物を製造するための、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンの使用;概日リズム改善用組成物を製造するための、イソキサントフモール及び/又は8-プレニルナリンゲニンの使用も包含する。睡眠改善用組成物、概日リズム改善用組成物、これらの好ましい態様等は、上記の本発明の組成物と同じである。
なお、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全ては、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、これにより本発明の範囲を限定するものではない。
【0062】
<実施例1>
イソキサントフモールのメラトニン受容体に対する親和性を検討した。検討には、ヒトI型メラトニン(MT1)受容体及びII型メラトニン(MT2)受容体遺伝子を導入したCHO細胞を用いて、メラトニン受容体によって活性化されるGαiタンパク質の作用、すなわち細胞内cAMP量の抑制活性を検出する評価系(細胞内cAMP濃度測定系)を用いた。
【0063】
イソキサントフモールの調製
ホップ抽出物(アサマ化成(株)製)から、以下の方法でイソキサントフモールを精製した。すなわち、順相カラムクロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、分取HPLC精製によりホップ抽出物を原料に、イソキサントフモールを精製し、HPLC分析により純度が95%以上であることを確認した。なおHPLC分析においては、カラムとしてDevelosil C30-UG-5(野村化学(株))を使用し、検出器の紫外線吸収測定波長は280nmとした。得られたイソキサントフモールを、標品(純度95%以上)として実験で使用した。
【0064】
cAMP Hunter(登録商標) eXpress MTNR1A CHO-K1 GPCR Assay及びcAMP Hunter(登録商標) eXpress MTNR1B CHO-K1 GPCR Assay(DiscoverX社)のプロトコルに従い試験を行い、フォルスコリンの存在下でイソキサントフモールを細胞に添加し、37℃で60分間インキュベート後、cAMP量を測定した。この試験系では、細胞の発光量を測定することで、cAMP量を測定することができる。
発光量測定には、化学発光シグナル検出用のPerkinElmer EnVisionTM機器を用いた。cAMP量の抑制活性(Activity)は、次の式で計算した。この活性が高いほど、メラトニン受容体に対する親和性が高いことを示す。抑制活性値から、50%効果濃度(EC50)を算出した。
% Activity=100%×(1-(“mean RLU of test sample”-“mean RLU of MAX control”)/(“mean RLU of vehicle control”-“mean RLU of MAX control”))
mean RLU of test sample:イソキサントフモールを添加した際の発光量(RLU)
mean RLU of MAX control:フォルスコリンを添加した際の発光量(RLU)
mean RLU of vehicle control:溶媒コントロールを添加した際の発光量(RLU)
【0065】
イソキサントフモールのMT1受容体及びMT2受容体に対するEC50を表1に示す。また、
図1に、MT1受容体に対するイソキサントフモールの用量反応性を示す。
図2に、MT2受容体に対するイソキサントフモールの用量反応性を示す。
【0066】
【0067】
以上のことより、イソキサントフモールは特にMT1に対して選択的なアゴニストであることが示唆された。
【0068】
<実施例2>
<培養細胞におけるBmal1遺伝子の発現リズムに対するイソキサントフモール及び8-プレニルナリンゲニンの影響>
細胞株はBmal1-ELucマウスから調製した胚性線維芽細胞を用いた。Bmal1-ELucマウスとは、時計遺伝子Bmalのプロモーターとレポーターであるルシフェラーゼ遺伝子のレポーター配列が導入されているトランスジェニックマウスである。したがって、Bmal1-ELucマウス由来胚性線維芽細胞株では、時計遺伝子の周期的な発現に合わせてルシフェラーゼ遺伝子が発現する。Bmal1-ELucマウス由来胚性線維芽細胞をルシフェラーゼの基質であるルシフェリン含有培地にて培養すると、細胞は周期的に化学発光するため、その発光をモニターすることで、時計遺伝子Bmal1の発現リズムを評価することが可能になる。
【0069】
まず、Bmal1-ELucマウス由来胚性線維芽細胞株約3×10
4個を24ウェルプレートに播種した後、200nMデキサメタゾンで2時間処理することにより、細胞の生体リズムを一旦リセット(同調)した。その後、発光基質ルシフェリンを含む培地へ培地交換し、被験物質であるイソキサントフモール又は8-プレニルナリンゲニンを30μg/mL添加して細胞培養を続けながら、ルミノメーター(LumiCycle、Actimetrics社製)を用いて、リアルタイムでレポーター遺伝子の化学発光を10分毎に1分間測定し、それを5日間継続した。得られた波形から、振幅を算出し、被験物質の影響を評価した。有意差検定は、Dunnett’s testで行った(有意水準:p<0.05 vs無処置群)。その結果を
図3に示す。
【0070】
図3は、Bmal1遺伝子の発現リズムの振幅に対するイソキサントフモール及び8-プレニルナリンゲニンの影響を調べた結果(N=3の平均±標準誤差)を示すグラフである(*:p<0.05 vs無処置群)。無処置は、被験物質を添加しなかった細胞である。イソキサントフモール及び8-プレニルナリンゲニンは、Bmal1遺伝子発現の概日リズムの振幅を大きくすることが確認された。
【0071】
<実施例3>
イソキサントフモールの摂取が、概日リズム同調機能に対する何らかの作用を有するか否かを検討するために、強制時差環境負荷モデルマウスを用いてその有用性を検討した。本動物実験は、動物愛護管理法他関連法令を遵守し、社内動物実験委員会の審査を経て機関の長が承認した計画に基づき実施した。
【0072】
55週齢の雄性C57BL/6Jマウスを使用した。マウスは12時間明暗サイクル下で飼育した。群構成は媒体対照群(4匹)、イソキサントフモール群(4匹)の2群を設定した。媒体対照群は、オリーブオイルを5mL/kg、Day0から経口投与した。イソキサントフモール群には、1日あたり、体重あたりのイソキサントフモール(Hopsteiner社製)の投与量が60mg/kgになるように、オリーブオイルで濃度を調節したイソキサントフモール溶液を5mL/kg、Day0から経口投与した。投与開始2日前からnano tag(運動量計測装置、キッセイコムテック(株)製)による活動量の測定を行い、投与開始日(Day0)に8時間の時差環境負荷(明暗サイクルを8時間前進させる)を行った。投与は、新規明暗サイクルの消灯直前に行った。
【0073】
活動量の測定結果として、投与開始日1日前から投与8日目(Day-1~Day7)の、1日の総活動量に占める暗期での活動量(暗期活動量)の比率(%)(N=4の平均±標準誤差)を
図4に示す。■は媒体対照群、〇はイソキサントフモール群である。
図4では、暗期活動量(%)の各値は、1日の総活動量に占める暗期での活動量の比率(暗期活動量/総活動量)を、投与開始1日前(Day-1)の値(暗期活動量/総活動量)を100%としたときの相対値(%)として示している。
図4のDay0に時差環境負荷すると、一過性に暗期活動量比率が落ち込み、活動期に活動できていない、時差ぼけ状態にあることが分かる。新規明暗サイクルに同調するために要した日数(再同調に要した日数;Day0と比較し暗期活動量(%)が85%以上に回復する日数)を表2に示す。表2に示す結果は、N=4の平均±標準誤差である。有意差検定は、対応のないt検定で行った(有意水準:p<0.05 vs媒体対照群)。表2において、*は有意差があった(p<0.05)ことを示す。イソキサントフモール群では、媒体対照群と比較し、再同調に要した日数が有意に短かった、つまりイソキサントフモールは、新規明暗サイクルでの概日リズムの再同調を促進した。
【0074】
【0075】
以上のことから、例えば、イソキサントフモールは加齢による概日リズムの同調機能の低下を抑制することが示された。
【0076】
<実施例4>
イソキサントフモールの摂取が、睡眠リズムに対する何らかの作用を有するか否かを検討するために、強制時差環境負荷モデルラットを用いてその有用性を検討した。本動物実験は、動物愛護管理法他関連法令を遵守し、社内動物実験委員会の審査を経て機関の長が承認した計画に基づき実施した。
【0077】
8週齢の雄性Sprague Dawley(Crl:CD(SD))ラットを使用した。ラットは12時間明暗サイクル下で飼育した。ラットには麻酔下での手術により、頭蓋骨に脳波測定用の電極を、左頸部の骨格筋内に筋電図用電極を留置した。手術後のラットは充分な回復期間後に試験に供した。群構成は媒体対照群(4匹)、イソキサントフモール群(4匹)及びメラトニン群(4匹)の3群を設定した。イソキサントフモールは、Hopsteiner社製のものを使用した。媒体対照群には、0.5w/v%メチルセルロース400水溶液を5mL/kg、3日間経口投与した。イソキサントフモール群には、1日あたり、体重あたりのイソキサントフモールの投与量が20mg/kgになるように、0.5w/v%メチルセルロース400水溶液で濃度を調節したイソキサントフモール溶液を5mL/kg、3日間経口投与した。メラトニン群には、1日あたり、体重あたりのメラトニンの投与量が10mg/kgになるように、2%のエタノールで濃度を調節したメラトニン溶液を5mL/kg、3日間経口投与した。投与開始日に8時間の時差環境負荷(明暗サイクルを8時間前進させる)を行った。投与は、新規明暗サイクルの消灯直前に行った。脳波の測定は、投与3日後に行った。
【0078】
投与3日後に行った脳波の測定結果から、暗期開始0~4時間のノンレム睡眠時間総量を求めた。有意差検定は、Dunnet法で行った(有意水準:p<0.05、媒体対照群に対して)。
図5に、時差環境負荷を行ったラットに、イソキサントフモール又はメラトニンを投与した際の、暗期開始0~4時間のノンレム睡眠時間総量を示す(*:p<0.05、媒体対照群に対して)。
図5に示す結果は、N=4の平均±標準誤差である。
【0079】
図5から、メラトニン群では、媒体対照群と比較し有意にノンレム睡眠量が低下していた。本試験系は時差環境負荷により睡眠/覚醒のリズムの乱れを脳波レベルで測定することができ、且つ陽性対照であるメラトニンの睡眠/覚醒リズム改善効果を検出することができる系であることが確認された。イソキサントフモール群では、メラトニンと同様に媒体対照群と比較し有意に、暗期開始0~4時間のノンレム睡眠量が低下していた。ラットは暗期が活動期である。本結果は、メラトニンと同様に、イソキサントフモールが本来活動すべき時間に寝てしまう時間を減少させたことを示している。
以上のことから、イソキサントフモールは睡眠/覚醒のリズムの乱れを脳波レベルで改善することが示された。