(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】摩擦ライニング
(51)【国際特許分類】
F16D 69/02 20060101AFI20240329BHJP
F16D 13/62 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
F16D69/02 F
F16D13/62 A
(21)【出願番号】P 2022074977
(22)【出願日】2022-04-28
(62)【分割の表示】P 2020049271の分割
【原出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】10 2019 107 915.2
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511198863
【氏名又は名称】テーエムデー フリクション サービシス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー、ドクトル ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】ヴェークマン、エンリケ
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-059125(JP,A)
【文献】特開2007-314598(JP,A)
【文献】特開2007-107068(JP,A)
【文献】特開2001-011431(JP,A)
【文献】特開2008-179806(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102250534(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108728041(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00
C09K 3/14
C22C 1/04-1/05
C22C 5/00-25/00
C22C 27/00-28/00
C22C 30/00-30/06
C22C 33/02
C22C 35/00-45/10
F16D 49/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄含有摩擦相手部材における錆の発生を阻止するための、亜鉛フリー摩擦ライニングであって、
前記亜鉛フリー摩擦ライニングは、アルミニウムと以下の金属:Mg、Ti、Si、Ba、Sr、Ca、Be、Zr、Cr、Fe、Sn、Biの1つ以上を有するアルミニウム合金からなる防錆剤を含むこと、
前記防錆剤を含む亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物は、Zn金属含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位とAlZn5含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位との間の酸化還元電位を有すること
を特徴とする、亜鉛フリー摩擦ライニング。
【請求項2】
亜鉛フリー摩擦ライニングの鉄含有摩擦相手部材における錆の発生を阻止するための方法であって、
アルミニウムと以下の金属:Mg、Ti、Si、Ba、Sr、Ca、Be、Zr、Cr、Fe、Sn、Biの1つ以上を有するアルミニウム合金からなる防錆剤が前記亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物に添加されること、
前記防錆剤が添加された亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物は、Zn金属含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位とAlZn5含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位との間の酸化還元電位を有すること
を特徴とする、方法。
【請求項3】
鉄含有摩擦相手部材における錆の発生を阻止するための亜鉛フリー摩擦ライニングを製造する方法であって、
混合工程の際に、前記亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物と、アルミニウムと以下の金属:Mg、Ti、Si、Ba、Sr、Ca、Be、Zr、Cr、Fe、Sn、Biの1つ以上を有するアルミニウム合金からなる防錆剤が一緒に混合されること、
前記防錆剤が一緒に混合された亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物は、Zn金属含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位とAlZn5含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位との間の酸化還元電位を有すること
を特徴とする、方法。
【請求項4】
亜鉛フリー摩擦ライニングの鉄含有摩擦相手部材における錆の発生を阻止するための防錆剤であって、
前記防錆剤は、アルミニウムと以下の金属:Mg、Ti、Si、Ba、Sr、Ca、Be、Zr、Cr、Fe、Sn、Biの1つ以上を有するアルミニウム合金からなること、及び、
前記防錆剤は、前記亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物に添加されること、
前記防錆剤が添加された亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物は、Zn金属含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位とAlZn5含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位との間の酸化還元電位を有すること
を特徴とする、防錆剤。
【請求項5】
亜鉛フリー摩擦ライニング及び該亜鉛フリー摩擦ライニングの鉄含有摩擦相手部材における錆の発生を阻止するための方法であって、
アルミニウムと以下の金属:Mg、Ti、Si、Ba、Sr、Ca、Be、Zr、Cr、Fe、Sn、Biの1つ以上を有するアルミニウム合金からなる防錆剤が亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物に添加されること、
前記防錆剤が添加された亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物は、Zn金属含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位とAlZn5含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位との間の酸化還元電位を有すること
を特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の記載)
本出願は、2019年3月27日出願のドイツ特許出願第10 2019 107 915.2号の優先権主張に基づくものであり、同出願の全記載内容は、引用をもって本明細書に組み込み記載されているものとする。
【0002】
本発明は、好ましくはブレーキパッド(ないしブレーキライニング)又はクラッチ(Kupplungen)における使用に適する、摩擦ライニング又は摩擦ライニング混合物ないしこれらのために使用されるアルミニウム合金に関する。更に、本発明はそのような摩擦ライニングの製造方法、並びにそのような摩擦ライニングを有するブレーキ、ブレーキパッド(ないしブレーキライニング)、クラッチ及びクラッチパッド(ないしクラッチライニング)に関する。
【背景技術】
【0003】
一般的な摩擦ライニング混合物は基本的に以下の組成を有する:
・金属(ファイバ及びパウダ、大抵は鉄含有)、
・充填材(フィラ)、
・潤滑剤(固体潤滑物質)、及び
・例えば樹脂、ラバー又は有機ファイバ及び有機充填剤のような有機成分。
【0004】
摩擦ライニングの金属成分は一般的には亜鉛又は亜鉛合金を含むが、これらは主として防食ないし腐食防止(剤)として役立ち、例えば、とりわけブレーキディスク及びブレーキドラムのような鉄含有摩擦相手部材(パートナー)におけるブレーキ及びクラッチの鋼(スチール)及び鋳造部品(鋳物)における、及び、ライニング混合物の鉄含有成分における、錆の発生を阻止することが望まれる。
【0005】
しかしながら、ライニング混合物における亜鉛の使用に対する批判はますます大きくなっているように思われる。亜鉛は重金属に分類され、環境中における亜鉛濃度の増大は健康上及び生態学的観点から可及的に小さく維持されることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】EP 2 778 462 A1
【文献】EP 3 327 099 A1
【文献】EP 0 079 732 A1
【文献】EP 1 097 313 B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以下の分析は、本発明者によるものである。
亜鉛を使用しないブレーキ装置の防食については、従来技術において既に非常に多くの方策が提案されている。
【0008】
EP 2 778 462 A1(特許文献1)はブレーキのガルバニック接触(galvanische Kontaktierung)を記載しており、この場合、印加電圧は腐食が生じないよう選択される。
【0009】
EP 3 327 099 A1(特許文献2)はアルカリ性のpH値を有する摩擦ライニングを提案しており、このpH値によって酸化反応が抑制されるものとされている。
【0010】
EP 0 079 732 A1(特許文献3)には、摩擦材料が金属によってコーティングされることによって、ブレーキ及びクラッチのスチール及び鋳造部品内及びそれらの表面における錆の発生を回避することが記載されている。この金属はスチールに対し相対的により卑金属性の表面を形成し、亜鉛合金、アルミニウム合金又はマグネシウム合金からなる。この方法は、そのように処理(ないし加工)された乗物の輸送中における錆を妨げるが、専らそのような(輸送中の)錆のみを妨げる。なぜなら、この薄い保護膜はブレーキ又はクラッチを数回操作するだけで早くも再び除去されるからである。
【0011】
EP 1 097 313 B1(特許文献4)は、摩擦ライニングの防食(剤)としてのアルミニウム・亜鉛合金の使用を提示している。
【0012】
しかしながら、このような合金の使用は種々の欠点を伴っている。例えば、多くの摩擦ライニング混合物においてAlZn5を添加すると、ライニング表面にフォーム(Schaum)及び酸化アルミニウムフレーク(Aluminiumoxidflocken)が形成され得る。更に、摩擦ライニングはAlZn5濃度に依存して膨張し得ることが確認できた。最後に、AlZn5の製造は比較的複雑であり、その亜鉛含有のために環境負荷として分類されるが、このこともまた、相応の廃棄物処理に対し影響を及ぼす。
【0013】
それゆえ、本発明の課題は、亜鉛、亜鉛化合物又は亜鉛合金の使用を完全に(又は実質的に完全に)ないしは少なくとも可及的に殆ど不要にすることができる(亜鉛フリーの)摩擦ライニングないし摩擦ライニング混合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の視点により、鉄含有摩擦相手部材における錆の発生を阻止するための、亜鉛フリー摩擦ライニングが提供される。前記亜鉛フリー摩擦ライニングは、アルミニウムと以下の金属:Mg、Ti、Si、Ba、Sr、Ca、Be、Zr、Cr、Fe、Sn、Biの1つ以上を有するアルミニウム合金からなる防錆剤を含むことを特徴とする(形態1)。
本発明の第2の視点により、本発明の亜鉛フリー摩擦ライニングを有するブレーキ又はクラッチが提供される(形態8)。
本発明の第3の視点により、亜鉛フリー摩擦ライニングの鉄含有摩擦相手部材における錆の発生を阻止するための方法が提供される。該方法は、
アルミニウムと以下の金属:Mg、Ti、Si、Ba、Sr、Ca、Be、Zr、Cr、Fe、Sn、Biの1つ以上を有するアルミニウム合金からなる防錆剤が前記亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物に添加されることを特徴とする(形態9)。
本発明の第4の視点により、鉄含有摩擦相手部材における錆の発生を阻止するための亜鉛フリー摩擦ライニングを製造する方法が提供される。該方法は、
混合工程の際に、前記亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物と、アルミニウムと以下の金属:Mg、Ti、Si、Ba、Sr、Ca、Be、Zr、Cr、Fe、Sn、Biの1つ以上を有するアルミニウム合金からなる防錆剤が一緒に混合されることを特徴とする(形態16)。
本発明の第5の視点により、亜鉛フリー摩擦ライニングの鉄含有摩擦相手部材における錆の発生を阻止するための防錆剤が提供される。
前記防錆剤は、アルミニウムと以下の金属:Mg、Ti、Si、Ba、Sr、Ca、Be、Zr、Cr、Fe、Sn、Biの1つ以上を有するアルミニウム合金からなること、及び、
前記防錆剤は、前記亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物に添加されることを特徴とする(形態23)。
本発明の第6の視点により、亜鉛フリー摩擦ライニング及び該亜鉛フリー摩擦ライニングの鉄含有摩擦相手部材における錆の発生を阻止するための方法が提供される。該方法は、アルミニウムと以下の金属:Mg、Ti、Si、Ba、Sr、Ca、Be、Zr、Cr、Fe、Sn、Biの1つ以上を有するアルミニウム合金からなる防錆剤が亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物に添加されることを特徴とする(形態29)。
本発明の第7の視点により、鉄含有摩擦相手部材における錆の発生を阻止するための、亜鉛フリー摩擦ライニングが提供される。
前記亜鉛フリー摩擦ライニングは、アルミニウムと以下の金属:Mg、Ti、Si、Ba、Sr、Ca、Be、Zr、Cr、Fe、Sn、Biの1つ以上を有するアルミニウム合金からなる防錆剤を含むこと、
前記防錆剤を含む亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物は、Zn金属含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位とAlZn5含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位との間の酸化還元電位を有することを特徴とする(形態30)。
本発明の第8の視点により、亜鉛フリー摩擦ライニングの鉄含有摩擦相手部材における錆の発生を阻止するための方法が提供される。該方法は、
アルミニウムと以下の金属:Mg、Ti、Si、Ba、Sr、Ca、Be、Zr、Cr、Fe、Sn、Biの1つ以上を有するアルミニウム合金からなる防錆剤が前記亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物に添加されること、
前記防錆剤が添加された亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物は、Zn金属含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位とAlZn5含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位との間の酸化還元電位を有することを特徴とする(形態31)。
本発明の第9の視点により、鉄含有摩擦相手部材における錆の発生を阻止するための亜鉛フリー摩擦ライニングを製造する方法が提供される。該方法は、
混合工程の際に、前記亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物と、アルミニウムと以下の金属:Mg、Ti、Si、Ba、Sr、Ca、Be、Zr、Cr、Fe、Sn、Biの1つ以上を有するアルミニウム合金からなる防錆剤が一緒に混合されること、
前記防錆剤が一緒に混合された亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物は、Zn金属含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位とAlZn5含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位との間の酸化還元電位を有することを特徴とする(形態32)。
本発明の第10の視点により、亜鉛フリー摩擦ライニングの鉄含有摩擦相手部材における錆の発生を阻止するための防錆剤が提供される。
前記防錆剤は、アルミニウムと以下の金属:Mg、Ti、Si、Ba、Sr、Ca、Be、Zr、Cr、Fe、Sn、Biの1つ以上を有するアルミニウム合金からなること、及び、
前記防錆剤は、前記亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物に添加されること、
前記防錆剤が添加された亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物は、Zn金属含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位とAlZn5含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位との間の酸化還元電位を有することを特徴とする(形態33)。
本発明の第11の視点により、亜鉛フリー摩擦ライニング及び該亜鉛フリー摩擦ライニングの鉄含有摩擦相手部材における錆の発生を阻止するための方法が提供される。該方法は、
アルミニウムと以下の金属:Mg、Ti、Si、Ba、Sr、Ca、Be、Zr、Cr、Fe、Sn、Biの1つ以上を有するアルミニウム合金からなる防錆剤が亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物に添加されること、
前記防錆剤が添加された亜鉛フリー摩擦ライニングの摩擦ライニング混合物は、Zn金属含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位とAlZn5含有摩擦ライニング混合物の酸化還元電位との間の酸化還元電位を有することを特徴とする(形態34)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、以下の形態が可能である。
(形態1)上記本発明の第1の視点参照。
(形態2)形態1の亜鉛フリー摩擦ライニングにおいて、
前記アルミニウム合金は式AlxZyの合金であること、但し、ZはMg及び/又はTi及び/又はSiであり、x及びyは夫々10~90質量%の範囲を意味することが好ましい。
(形態3)形態1又は2の亜鉛フリー摩擦ライニングにおいて、
前記アルミニウム合金は二元系Al-Mg合金又はAl-Ti合金であることが好ましい。
(形態4)形態2の亜鉛フリー摩擦ライニングにおいて、
前記アルミニウム合金はMg及び/又はTi及び/又はSiを含む三元系又は四元系合金であり、前記yは前記Zの成分の割合の総和であることが好ましい。
(形態5)形態1~3の何れかの亜鉛フリー摩擦ライニングにおいて、
前記アルミニウム合金はAlTi10又はAlMg50であることが好ましい。
(形態6)形態1~5の何れかの亜鉛フリー摩擦ライニングにおいて、
前記アルミニウム合金は、前記亜鉛フリー摩擦ライニング中に、粒子の形で一様に分散されていることが好ましい。
(形態7)形態6の亜鉛フリー摩擦ライニングにおいて、
前記粒子は100~700μmの粒径を有することが好ましい。
(形態8)上記本発明の第2の視点参照。
(形態9)上記本発明の第3の視点参照。
(形態10)形態9の方法において、
前記アルミニウム合金は式AlxZyの合金であること、但し、ZはMg及び/又はTi及び/又はSiであり、x及びyは夫々10~90質量%の範囲を意味することが好ましい。
(形態11)形態9又は10の方法において、
前記アルミニウム合金は二元系Al-Mg合金又はAl-Ti合金であることが好ましい。
(形態12)形態10の方法において、
前記アルミニウム合金はMg及び/又はTi及び/又はSiを含む三元系又は四元系合金であり、前記yは前記Zの成分の割合の総和であることが好ましい。
(形態13)形態9~11の何れかの方法において、
前記アルミニウム合金はAlTi10又はAlMg50であることが好ましい。
(形態14)形態9~13の何れかの方法において、
前記アルミニウム合金は、前記亜鉛フリー摩擦ライニング中において粒子の形で一様に分散されていることが好ましい。
(形態15)形態14に記載の方法において、
前記粒子は100~700μmの粒径を有することが好ましい。
(形態16)上記本発明の第4の視点参照。
(形態17)形態16の方法において、
前記アルミニウム合金は式AlxZyの合金であること、但し、ZはMg及び/又はTi及び/又はSiであり、x及びyは夫々10~90質量%の範囲を意味することが好ましい。
(形態18)形態16又は17の方法において、
前記アルミニウム合金は二元系Al-Mg合金又はAl-Ti合金であることが好ましい。
(形態19)形態17の方法において、
前記アルミニウム合金はMg及び/又はTi及び/又はSiを含む三元系又は四元系合金であり、前記yは前記Zの成分の割合の総和であることが好ましい。
(形態20)形態16~18の何れかの方法において、
前記アルミニウム合金はAlTi10又はAlMg50であることが好ましい。
(形態21)形態16~20の何れかの方法において、
前記アルミニウム合金は、前記亜鉛フリー摩擦ライニング中において粒子の形で一様に分散されていることが好ましい。
(形態22)形態21の方法において、
前記粒子は100~700μmの粒径を有することが好ましい。
(形態23)上記本発明の第5の視点参照。
(形態24)形態23の防錆剤において、
前記アルミニウム合金は式AlxZyの合金であること、但し、ZはMg及び/又はTi及び/又はSiであり、x及びyは夫々10~90質量%の範囲を意味することが好ましい。
(形態25)形態23又は24の防錆剤において、
前記アルミニウム合金は二元系Al-Mg合金又はAl-Ti合金であることが好ましい。
(形態26)形態24の防錆剤において、
前記アルミニウム合金はMg及び/又はTi及び/又はSiを含む三元系又は四元系合金であり、前記yは前記Zの成分の割合の総和であることが好ましい。
(形態27)形態23~25の何れかの防錆剤において、
前記アルミニウム合金はAlTi10又はAlMg50であることが好ましい。
(形態28)形態23~27の何れかの防錆剤において、
前記アルミニウム合金は、100~700μmの粒径を有する粒子であることが好ましい。
(形態29)上記本発明の第6の視点参照。
(形態30)上記本発明の第7の視点参照。
(形態31)上記本発明の第8の視点参照。
(形態32)上記本発明の第9の視点参照。
(形態33)上記本発明の第10の視点参照。
(形態34)上記本発明の第11の視点参照。
【0016】
本発明に応じ、亜鉛の使用は放棄(不要に)され、亜鉛代替物として、例えばAlZn5又は他の亜鉛合金よりも相対的に反応性(活性)は小さいが、それにも拘らず十分な防食性を呈する合金が使用される。例えばAlZn5のような亜鉛合金の使用に伴う問題は、まずもって、この物質の大きな化学反応性に起因することが(本発明者によって)見出された。
【0017】
従って、本発明による摩擦ライニング混合物は、Zn・金属含有摩擦ライニング混合物ないしこれから製造された摩擦ライニングの反応性とAlZn5含有摩擦ライニング混合物ないしこれから製造された摩擦ライニングの反応性(但しこれらはその他の点では同じ組成の摩擦ライニング混合物ないし摩擦ライニングである)との間の反応性を有することが好ましい。
【0018】
(質的及び量的組成に関し)その他の点では通常のないし一般的な摩擦ライニングにおける防食(剤)としてのZnフリー合金の適性を決定するために、種々の合金を、亜鉛又は亜鉛合金を含まない通常の摩擦ライニング混合物に一緒に混合し、次いで、これをプレスして摩擦ライニング又は被検体を作製する。この場合、参照(対照)混合物としては、対応するZnパウダ含有及びAlZn5含有摩擦ライニングが使用される。
【0019】
本発明の枠内において行われる試験は、
1.室温で14日間5質量%NaCl溶液中での摩擦ライニング又は被検体の貯蔵、
2.ボルタメトリ試験(Voltametrietest):DIN38404-6による酸化還元電位(Redoxpotential/Redox-Spannung)Eoの決定(測定)、
3.ガルバノメトリ試験(Galvanometrietest):電流(電荷)密度(elektrische Ladungsdichte)の決定(測定)、
が好ましい。
【0020】
これらの試験は、当業者には既知であり、例えばDIN規格(DIN-Norm)50918金属の腐食に記載されている。
【0021】
第1の試験の評価は、光学的に(視覚的に)、質量分析的に(gravimetrisch)及び被検体の寸法測定によって行われる。この場合、被検体に錆形成が検出可能であるか否かが(光学的ないし視覚的に)検査され、更に、NaCl溶液についての色決定も行われる。ボルタメトリ試験では、本発明による摩擦ライニングが少なくとも、Zn含有参照(対照)混合物の酸化還元電位とAlZn5含有参照(対照)混合物の酸化還元電位との間のマイナスの酸化還元電位(Eo)を有するか否かが確認される。電流密度の測定(ガルバノメトリ試験)では、Zn含有混合物の値と少なくとも丁度同じ大きさの値が達成される(得られる)ことが望まれる。上記の各試験においては、参照混合物のZn金属又はZn合金の割合は、本発明による混合物中のZn不含有合金の割合に相当する(これらの割合は夫々完成した摩擦ライニングについての質量%で表される)。
【0022】
マグネシウム(Mg)又はチタン(Ti)を含むAl合金は、上記の課題の解決策として格別に好適であることが(本発明によって)判明した。例えばケイ素(Si)のような他の合金相手成分も原理的には適する。本合金は二元系、三元系又は四元系合金系であることが可能であるが、これらのうち、二元系アルミニウム合金が格別に好ましい。AlxZy(但しZはMg及びTi、xは10~90質量%、yは10~90質量%であることが好ましい)のタイプのこれらの二元系合金系は、電極ないし酸化還元電位(=反応性)、形状安定性及び電流密度(Ladungsdichte)に関し格別に好適であることが(本発明によって)判明した。ここでは、とりわけ、AlTi10及びAlMg50のような合金を挙示することができる。
【0023】
本発明による合金は、以下の金属:Mg、Ti、Si、Ba、Sr、Ca、Be、Zr、Cr、Fe、Sn、Biの1つ以上と、アルミニウムとを含む。本発明による摩擦ライニング混合物は、上記の成分の金属混合物のパウダを含むこともできる。合金の製造は、これらの成分を溶融・均質化して微分散系にすることによって行われる。そのような合金の多くは市場で入手可能である。
【0024】
摩擦ライニング混合物ないし完成摩擦ライニングにおける本発明による合金の割合は好ましくは0.5~15質量%であり得る。これらの合金は、従来技術に応じZn又はZn合金が使用される通常の摩擦ライニングのすべてにおいて使用可能である。従って、摩擦ライニングのその他の成分をここに記載した合金に適合化することは不要である。有利なことに、従来技術の混合物において、Zn又はZn合金成分のみが本発明による合金によって代替される(Zn等の代わりに本発明の合金が使用される)。代替は、一般的に、摩擦ライニングにおける夫々の質量割合に関し、1:1又はこれから僅かにずれた割合で行われる。
【0025】
摩擦(ライニング)材料混合物中の鉄ないし鋼(スチール)に対し相対的により卑金属性の(が大きい)金属は鋼ないし鉄製の摩擦相手部材(パートナー)の錆(発生)を阻止する。摩擦ライニングのアルミニウム合金成分は犠牲陽極を形成するため、摩擦ライニングにおける摩擦相手部材の錆、とりわけその腐食を高信頼性で阻止することができる。この場合、有利なことに、犠牲陽極は摩擦ライニングの摩耗によって常に再生(回復)されることができる。
【0026】
腐食阻害性(防食性)粒子は、摩擦ライニングの横断面にわたって一様に分散されることによって(その程度に応じて)、その効力ないし効果を発揮する。このことは、好ましくはパウダの形で添加される本発明による合金では、格別に好都合な態様で成功する(実現される)。
【0027】
本発明による合金は、パウダの形で摩擦ライニングに配される場合、更なる一利点を達成することができる。パウダの形での添加は、所定の周囲条件下で生じる、ブレーキやクラッチの摩擦ライニング(の表面)への鉄及び鋼部材(ないし成分)の付着(接触)を抑制し、従って、いわゆる「接触腐食(Haftkorrosion)」を抑制する。
【0028】
本発明による合金は、粒子の形で摩擦(ライニング)材料混合物に配されることが好ましい。潤滑物質(潤滑剤)として、硫化スズを凡そ0.5~10質量%、好ましくは凡そ2~8質量%の質量割合で含有することができる。
【0029】
摩擦ライニングの製造のために、好ましくはストランド(ないし棒材:Strang)又はブロックの形で存在するアルミニウム合金を、まず、液状化(溶融)し、次いで、噴霧(スプレー:verduesen)することにより、実質的に球状の粒子を製造する。次いで、これらの粒子を通常の摩擦材料混合物と混合し、既知の(製造)温度及び圧力でプレスして摩擦ライニングにする。
【0030】
尤も、例えば回転ディスクのエッジを介したスプレー又は遠心放射(Schleudern)によって、合金の溶融物(ないし溶湯:Schmelze)から直接的にパウダ状の粒子を形成することもできる。本発明による合金の粒径は100μm~700μmの範囲であることが好ましい。また、例えばAl/Mg合金のような更なる金属を含むアルミニウム合金も粒子の形で市場で入手可能である。
【0031】
本発明による摩擦ライニングは、その充填材として、金属酸化物、金属ケイ酸塩及び/又は金属硫酸塩を個別に又は他の充填剤と組み合わせて含むことができる。繊維状(ファイバ状)物質はアラミド繊維及び/又は他の有機又は無機繊維からなることが好ましい。金属としては、アルミニウム合金の他には、例えば、スチールウール(ファイバ)及び/又は銅ウール(ファイバ)を含むことができる。
【0032】
潤滑物質としては、硫化スズを0.5~10質量%の、好ましくは2~8質量%の質量割合で使用することが好ましい。硫化スズは例えばパウダ(粉末)として摩擦ライニング混合物に添加されることができる。
【0033】
本発明による合金は原理的に任意の摩擦ライニング混合物において使用可能である。本発明による摩擦ライニングの製造は、伝統的な及び従来技術から既知の方法に応じて、即ちすべての出発成分を混合し、そのようにして得られた摩擦ライニング混合物を圧力及び温度を上昇してプレスすることによって、行われる。その際、防食剤(防食手段)として役立つAl合金は典型的な使用例ではパウダとしてその他の(残りの)混合物成分と一緒にミキサに配され、かくして、混合工程の際に、合金粒子は摩擦(ライニング)材料内において一様に(均一に)分散される。このことは、更に、相応のブレーキパッド(ブレーキライニング)の使用時の摩擦プロセスによって、摩擦ライニングの表面に常に新しい防食材料が現れることを意味する。このため、摩擦ライニングの使用サイクル中、その表面には常に一様ないし一定の条件(状態)が保持される。
【実施例】
【0034】
本発明による摩擦材料混合物は例えば以下のような組成を有することができる:
原材料 質量%
スチールウール 15~25
銅及び/又は銅合金 3~20
アルミニウム・Mg/Ti・合金 0.5~15
酸化アルミニウム 0.5~2
雲母パウダ 5~8
重晶石 5~15
酸化鉄 5~15
硫化スズ 2~8
グラファイト 2~6
コークスパウダ 10~20
アラミド繊維 1~2
樹脂充填材パウダ 2~6
結合剤樹脂 3~7
【0035】
本発明は、かくして、摩擦ライニング及び対応する摩擦ライニング混合物における防食(剤)としての及び/又は亜鉛金属及び/又は亜鉛化合物の代替物としての、本発明によるAl合金の使用に関する。更に、本発明は、これらの(亜鉛フリー)摩擦ライニング及び摩擦ライニング混合物、本発明による組成ないし摩擦ライニングを有するブレーキパッド(ブレーキライニング)及びクラッチ、並びにこれらの製造方法に関する。
【0036】
(付記1)摩擦ライニングに含まれる亜鉛金属、亜鉛合金又は亜鉛化合物の代替物として、アルミニウムと以下の金属:Mg、Ti、Si、Ba、Sr、Ca、Be、Zr、Cr、Fe、Sn、Biの1つ以上を有するアルミニウム合金を使用する、摩擦ライニングの製造方法。
(付記2)アルミニウム合金は式AlxZyの合金である。但し、ZはMg及び/又はTi及び/又はSiであり、x及びyは夫々10~90質量%の範囲を意味する。
(付記3)アルミニウム合金は二元系Al-Mg合金又はAl-Ti合金である。
(付記4)アルミニウム合金はMg及び/又はTi及び/又はSiを含む三元系又は四元系合金である。yはZの成分の割合の総和である。
(付記5)アルミニウム合金はAlTi10又はAlMg50である。
(付記6)アルミニウム合金は粒子の形で存在するか又は使用される。
(付記7)粒子は100~700μmの粒径を有する。
(付記8)摩擦ライニングの亜鉛金属、亜鉛合金又は亜鉛化合物の代替物としての、アルミニウムに加えて以下の金属:Mg、Ti、Si、Ba、Sr、Ca、Be、Zr、Cr、Fe、Sn、Biの1つ以上を有するアルミニウム合金の使用。
(付記9)アルミニウム合金は式AlxZyの合金である。但し、ZはMg及び/又はTi及び/又はSiであり、x及びyは夫々10~90質量%の範囲を意味する。
(付記10)アルミニウム合金は二元系Al-Mg合金又はAl-Ti合金である。
(付記11)アルミニウム合金はMg及び/又はTi及び/又はSiを含む三元系又は四元系合金である。yは成分Zの割合の総和である。
(付記12)アルミニウム合金はAlTi10又はAlMg50である。
(付記13)アルミニウム合金は粒子の形で(摩擦ライニングないし摩擦ライニング混合物に)存在するか又は使用される。
(付記14)粒子は100~700μmの粒径を有する。
(付記15)アルミニウムと以下の金属:Mg、Ti、Si、Ba、Sr、Ca、Be、Zr、Cr、Fe、Sn、Biの1つ以上を有するアルミニウム合金からなる防食剤を含む、亜鉛フリー摩擦ライニング。
(付記16)上記の亜鉛フリー摩擦ライニングにおいて、
前記アルミニウム合金は式AlxZyの合金であること、但し、ZはMg及び/又はTi及び/又はSiであり、x及びyは夫々10~90質量%の範囲を意味する。
(付記17)上記の亜鉛フリー摩擦ライニングにおいて、
前記アルミニウム合金は二元系Al-Mg合金又はAl-Ti合金である。
(付記18)上記の亜鉛フリー摩擦ライニングにおいて、
前記アルミニウム合金はMg及び/又はTi及び/又はSiを含む三元系又は四元系合金であり、前記yは前記Zの成分の割合の総和である。
(付記19)上記の亜鉛フリー摩擦ライニングにおいて、
前記アルミニウム合金はAlTi10又はAlMg50である。
(付記20)上記の亜鉛フリー摩擦ライニングにおいて、
前記アルミニウム合金は粒子の形で存在するか又は使用される。
(付記21)上記の亜鉛フリー摩擦ライニングにおいて、
前記粒子は100~700μmの粒径を有する。
(付記22)上記の亜鉛フリー摩擦ライニングを有するブレーキ又はクラッチ。
【0037】
なお、明細書及び請求の範囲に記載された数値範囲はその両端の値を含むものとする。
【0038】
尚、上記の特許文献の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。
【0039】
また、本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、更にその基本的技術思想に基づいて、実施形態の変更・調整が可能である。また本発明の全開示の枠内において、種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態の各要素等を含む)の多様な組み合わせ、ないし選択または非選択が可能である。即ち本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想に従って当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。特に本書に記載した数値範囲については、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし小範囲が別段の記載のない場合でも具体的に記載されているものと解釈されるべきである。