(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】耐腐食接着性ゾル‐ゲル
(51)【国際特許分類】
C08G 79/00 20060101AFI20240329BHJP
C08L 85/00 20060101ALI20240329BHJP
C08K 5/46 20060101ALI20240329BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20240329BHJP
C09D 185/00 20060101ALI20240329BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240329BHJP
【FI】
C08G79/00
C08L85/00
C08K5/46
C08K5/09
C09D185/00
C09D7/63
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022094877
(22)【出願日】2022-06-13
(62)【分割の表示】P 2018007872の分割
【原出願日】2018-01-22
【審査請求日】2022-07-12
(32)【優先日】2017-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】シュッテ, ウェイニー エム.
(72)【発明者】
【氏名】キンレン, パトリック ジェイ.
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-121331(JP,A)
【文献】特表2008-508370(JP,A)
【文献】特開昭58-180564(JP,A)
【文献】特表2016-521294(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0024432(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08K
C23C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゾル‐ゲルであって、
化学式(II)又は(III)
によって表されるチアジアゾール
を含む腐食抑制剤、及び
以下の化学式(I)
によって表されるヒドロキシオルガノシランであって、式中、Rは、C
1‐20アルキル、シクロアルキル、エーテル、又はアリールである、ヒドロキシオルガノシランと、
金属アルコキシドと、
酸安定剤であって、酸安定剤と金属アルコキシドのモル比が4:1以上であり、前記ゾル‐ゲルが、3から4のpHを有する、酸安定剤と
のうちの2以上の反応生成物を含む、ゾル‐ゲル。
【請求項2】
ヒドロキシオルガノシランが、
である、請求項1に記載のゾル
‐ゲル。
【請求項3】
酸安定剤が、酢酸であり、
金属アルコキシドが、ジルコニウム(IV)テトラメトキシド、ジルコニウム(IV)テトラエトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐プロポキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐イソプロポキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐ブトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐イソブトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐ペントキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐イソペントキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐ヘキソキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐イソヘキソキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐ヘプトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐イソヘプトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐オクトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐イソオクトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐非オキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐イソ非オキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐デシルオキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐イソデシルオキシド、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載のゾル‐ゲル。
【請求項4】
ゾル‐ゲル中の金属アルコキシド、ヒドロキシオルガノシラン、及び酸安定剤の総量の重量分率が少なくとも15wt%である、請求項1に記載のゾル‐ゲル。
【請求項5】
ゾル‐ゲル中の腐食抑制剤の重量分率が、少なくとも1wt%である、請求項4に記載のゾル‐ゲル。
【請求項6】
ゾル‐ゲル中の腐食抑制剤の重量分率が、3wt%から20wt%である、請求項5に記載のゾル‐ゲル。
【請求項7】
金属基板、及び
金属基板上に配置された請求項1に記載のゾル‐ゲル
を含むゾル‐ゲルコーティング系を含む、ビークル構成要素。
【請求項8】
ゾル‐ゲル上に配置された第2の層をさらに含み、第2の層が、任意選択的にエポキシコーティング又はウレタンコーティングである、請求項7に記載のビークル構成要素。
【請求項9】
補助電力ユニット、航空機のノーズ、燃料タンク、テイルコーン、パネル、2つ以上のパネルの間のコーティングされた重ね継手、翼-胴体のアセンブリ、構造的航空機複合材、胴体本体の継手、翼リブ-外板の継手、及び内部構成要素からなる群から選択される、請求項7に記載のビークル構成要素。
【請求項10】
金属基板が、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、鉄、鉄合金、鋼、チタニウム、チタニウム合金、銅、銅合金、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項7に記載のビークル構成要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の態様は、概して、航空宇宙用途用の耐腐食性ゾル‐ゲル膜に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の表面は、通常、アルミニウム又はチタニウムといった金属から作られる。腐食を防止したり又は減少させたりするために、プライマーを金属の表面にコーティングすることができる。しかしながら、プライマーは金属の表面に適切に接着しないので、金属の表面とプライマーとの間に接着剤コーティングが塗布され、金属とプライマーとの間の接着が促進される。
【0003】
接着性ゾル‐ゲル膜は、金属とプライマーとの間の界面に配置されてもよい。航空機の表面が長時間の使用に曝されると、ゾル‐ゲル膜内に細孔が形成される場合がある。細孔は時間が経つと水を溜め込み、金属の表面の腐食が促進される。典型的なゾル‐ゲル膜は、本質的に耐食特性を有しない。さらに、細孔内に水が存在することにより、細孔内で浸透圧が増大し、「ブリスター(blister)」として知られる視覚的に目立つ航空機表面の欠陥が生じる。
【0004】
航空機の金属表面の腐食保護には、典型的に、六価クロムを有するプライマーが信頼を得てきた。しかしながら、六価クロムは、発癌物質であり、環境に対して有毒である。したがって、プライマー及び前処理において六価クロムの使用を止めるように働きかける規制圧力がある。さらに、腐食抑制剤が、ゾル‐ゲル膜に添加された(又はゾル‐ゲル膜の形成段階で入れられた)こともあったが、これらの抑制剤は、ゾル‐ゲル膜内に存在すると、ゾル‐ゲル膜の接着能力及び腐食抑制剤の耐食能力の両方を低下させることが発見された。
【0005】
したがって、当該分野では、改善された、耐食性の接着性ゾル‐ゲル膜が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
一態様では、ゾル‐ゲルは、ヒドロキシオルガノシラン、金属アルコキシド、酸安定剤、及び腐食抑制剤の反応生成物である。ヒドロキシオルガノシランは、以下の化学式(I)、
によって表され、ここで、Rは、アルキル、シクロアルキル、エーテル、又はアリールから選択される。酸安定剤は、酸安定剤と金属アルコキシドのモル比が1:1以上であり、ゾル‐ゲルは、約3から約4のpHを有する。
【0007】
少なくとも1つの態様では、ゾル‐ゲルを形成する方法は、金属アルコキシド及び酸安定剤を混合して、第1の混合物を形成することと、第1の混合物にヒドロキシオルガノシランを混合して、第2の混合物を形成することとを含む。ヒドロキシオルガノシランは、以下の化学式(I)、
によって表され、ここで、Rは、アルキル、シクロアルキル、エーテル、及びアリールを含む群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本開示の上述の特徴を詳細に理解することができるように、上記で簡単に要約されている本開示のより具体的な説明が、態様を参照することによって得られる。一部の態様は添付の図面に示されている。しかしながら、添付図面は、本開示の典型的な態様のみを示しており、それゆえ、本開示の範囲を限定するとみなすべきではなく、本開示は、その他の等しく有効な態様を認め得ることに留意されたい。
【0009】
【
図1】基板上に配置された腐食抑制ゾル‐ゲルの側面図である。
【
図2】ゾル‐ゲルを形成する方法のフロー図である。
【
図3】Al2024上のAC‐131(3%)及び高強度ゾル‐ゲル(6%、15%、及び30%)のFT‐IRスペクトル及びTafel分極走査である。
【
図4】336時間のASTM B117試験の後、バインダー濃度が増大している、CRBでコーティングされたAl2024パネルの画像である。
【
図5】氷酢酸及びテトラプロポキシジルコニウムのゾル‐ゲル溶液の透過率(%)を示すグラフである。
【
図6】2:1のモル比の氷酢酸及びテトラプロポキシジルコニウムのゾル‐ゲル溶液の、500nmでの吸収度の変化を示すグラフである。
【
図7】500時間の酸性塩水噴霧試験の後、IC‐1000及びエポキシ非クロムプライマーが全くない状態で、CRB又はコントロール高強度ゾル‐ゲルがコーティングされたAl2024パネルの画像である。
【
図8】濃縮されたゾル‐ゲルのpHに対する腐食抑制剤の添加の効果を示すグラフである。
【
図9】500時間の酸性塩水噴霧試験の後、低pHのCRB又はコントロールAC‐131(IC‐1000が全くない状態)及びエポキシ非クロムプライマーがコーティングされたAl2024パネルの画像である。
【
図10】GTMS及びヒドロキシオルガノシラン(1)のラマンスペクトルである。
【
図11】グリシドキシトリメトキシシラン対ヒドロキシオルガノシランの様々な組成の密度及び固形分%を示すグラフである。
【
図12】ヒドロキシオルガノシラン対グリシドキシトリメトキシシランを使用して組成されたゾル‐ゲルのTafelプロットである。
【
図13】ヒドロキシオルガノシラン(1)及びGTMSで組成されたゾル‐ゲルのSEM画像である。
【
図14】500時間の酸性塩水噴霧試験の後、ヒドロキシオルガノシラン(1)(H)及びGTMS(G)及びエポキシ非クロムプライマーを使用して組成された低pHの高強度CRB又はコントロールゾル‐ゲル(IC‐1000が全くない状態)がコーティングされたAl2024パネルの画像である。
【
図15】CRB又はコントロールゾル‐ゲル及びエポキシ非クロムプライマーでコーティングされたAl2024パネルの中間部分の断面のSEM画像である。
【0010】
理解しやすくするため、各図面に共通する同一の要素を指定する際に、可能であれば、同一の参照番号が使用されている。図面は、縮尺どおりに描かれているわけではないが、明瞭性のために簡略化され得る。一態様の要素及び特徴を、有利には、さらに詳述することなく、他の態様に組み込んでもよいと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の態様は、概して、航空宇宙用途用の耐腐食性ゾル‐ゲルに関する。本開示のゾル‐ゲルは、ヒドロキシオルガノシラン、金属アルコキシド、酸安定剤、及び腐食抑制剤を含む(又はこれらの反応生成物である)。ヒドロキシオルガノシランは、ゾル‐ゲル内の水の吸収が防止されるか又は減少するので、金属表面上のゾル‐ゲル/プライマーコーティングの細孔及び水ぶくれを防止するか又は減少させ、ゾル‐ゲル膜の腐食抑制能力をもたらすことが発見された。さらに、酸安定剤と金属アルコキシドのモル比は、約1:1以上(約2:1以上など)であり、ゾル‐ゲルのpHは約3から約4となり、これにより、(1)ゾル‐ゲル形成、(2)腐食抑制剤を添加した後のゾル‐ゲル膜の接着能力、又は(3)腐食抑制剤の耐食能力が妨げられることはない。本開示のゾル‐ゲルは、固有の腐食抑制能力を有し、六価クロムを有する(ゾル‐ゲル上に配置された)プライマーは任意に過ぎない。
【0012】
本開示のゾル‐ゲルを形成する方法は、金属アルコキシド及び酸安定剤(酢酸等)を混合して、その後、約1分間から約1時間(約30分間等)かけて撹拌することを含む。次にヒドロキシオルガノシランが混合物に添加され、約1分間から約1時間(約30分間等)かけて撹拌される。腐食抑制剤が混合物に添加される。混合物は、金属基板上に堆積され得る。堆積された混合物を、周囲温度で硬化してもよく、又は、加熱して、硬化/ゾル‐ゲル形成の速度を上げることができる。
【0013】
ゾル‐ゲル:用語「ゾル‐ゲル」、すなわち、溶液の収縮‐ゲル化は、可溶性の金属種(通常、金属アルコキシド又は金属塩)が加水分解され、金属水酸化物が形成される一連の反応のことを指している。可溶性の金属種は、通常、接着構造内の樹脂に対応するように適合された有機配位子を含む。可溶性の金属種は、異種加水分解及び異種縮合を経て、異種間金属結合(例えば、Si-O-Zr)が形成される。有機酸が存在しない場合、金属アルコキシドが水に添加されると、例えば、Zr(OH)2の白ゴウコウが迅速に形成される。Zr(OH)2は水に対して可溶性ではないので、ゾル‐ゲル形成が妨げられる。酸化が金属アルコキシドに添加されることにより、水性系が可能となる。反応条件に応じて、金属ポリマーは、濃縮されてコロイド粒子となるか、又は、成長してネットワークゲルが形成される。ポリマーマトリクス内の有機対無機の比率が制御されて、特定用途のための性能が最大化される。
【0014】
ヒドロキシオルガノシラン:本開示のゾル‐ゲルの形成に有用なヒドロキシオルガノシランは、ゾル‐ゲルの細孔及び水ぶくれの減少をもたらす。従来のゾル‐ゲルに用いられたエポキシ含有化合物(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GTMS)とは異なり、以下でより詳細に説明されるように、ヒドロキシオルガノシランは、腐食抑制剤に対して実質的に無反応である。本開示のヒドロキシオルガノシランは、以下の化学式(I)、
によって表され、ここで、Rは、アルキル、シクロアルキル、エーテル、又はアリールから選択される。アルキルは、直鎖又は分岐のC
1‐20アルキルを含む。C
1‐20アルキルは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、及びイコサニルを含む。エーテルは、ポリエチレングリコールエーテル、ポリプロピレングリコールエーテル、C
1‐20アルキルエーテル、アリールエーテル、及びシクロアルキルエーテルを含む。少なくとも一態様では、エーテルは、
から選択され、nは正の整数である。少なくとも一態様では、nは正の整数であり、エーテルの数平均分子量(Mn)は、約300から約500、例えば、約375から約450、例えば、約400から約425である。
【0015】
少なくとも一態様では、ヒドロキシオルガノシランは化合物1:
によって表される。
【0016】
金属アルコキシド:本開示のゾル‐ゲルの形成に有用な金属アルコキシドは、接着的及び機械的強度のためにゾル‐ゲル内で配位された金属原子をもたらす。本開示の金属アルコキシドは、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、ハフニウムアルコキシド、イットリウムアルコキシド、セリウムアルコキシド、ランタンアルコキシド、又はこれらの混合物を含む。金属アルコキシドは、酸化数+4を有する、金属に配位された4つのアルコキシリガンドを有し得る。金属アルコキシドの非限定的例は、ジルコニウム(IV)テトラメトキシド、ジルコニウム(IV)テトラエトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐プロポキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐イソプロポキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐ブトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐イソブトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐ペントキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐イソペントキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐ヘキソキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐イソヘキソキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐ヘプトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐イソヘプトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐オクトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐イソオクトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐非オキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐イソ非オキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐デシルオキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐イソデシルオキシドである。
【0017】
腐食抑制剤:本開示のゾル‐ゲルの形成に有用な腐食抑制剤は、ゾル‐ゲルに隣接して配置された金属基板の耐食性をもたらす。本開示の腐食抑制剤は、1つ又は複数のチオール部分を有する化合物である。金属製の航空機表面は、典型的に、アルミニウムなどの主要構成要素、及び金属間化合物として知られる副次的構成要素を有する合金である。金属間化合物は、腐食しやすい銅金属を含むことが多い。理論に縛られることなく、本開示の腐食抑制剤のチオール部分と、金属表面(アルミニウム合金面など)上の銅含有金属間化合物との相互作用により、金属表面の腐食が防止されると考えられている。より具体的には、本開示の腐食抑制剤のチオール部分と金属間化合物との相互作用により、酸素還元の速度が遅くなり、アルミニウム合金などの金属合金の酸化が減るので、金属間化合物の還元がブロックされる。
【0018】
本開示の腐食抑制剤は、ジスルフィド基及び/又はチオレート基(例えば、金属-硫化物結合)を含み得る有機化合物である。少なくとも1つの態様では、腐食抑制剤は、化学式R1‐‐Sn‐‐X‐‐R2によって表され、式中、R1は有機基であり、nは1以上の整数であり、Xは硫黄又は金属原子であり、R2は有機基である。R1及びR2の片方又は両方が、追加のポリスルフィド基及び/又はチオール基を含み得る。さらに、腐食抑制剤は、化学式‐(R1‐‐Sn‐‐X‐‐R2)q‐を有する高分子であり得、式中、R1は有機基であり、nは正の整数であり、Xは硫黄又は金属原子であり、R2は有機基であり、qは正の整数である。少なくとも1つの態様では、(高分子又は単量体の腐食抑制剤)のR1及びR2は、独立して、H、アルキル、シクロアルキル、アリール、チオール、ポリスルフィド、又はチオンから選択される。R1及びR2は、それぞれ、独立して、アルキル、アミノ、亜リン酸含有、エーテル、アルコキシ、ヒドロキシ、硫黄含有、セレニウム、又はテルリウムから選択された部分で置換され得る。少なくとも1つの態様では、R1及びR2は、それぞれ、1から24の炭素原子及び/又は非水素原子を有する。例えば、R1及びR2基の複素環の例は、アゾール、トリアゾール、チアゾール、ジチアゾール、及び/又はチアジアゾールを含む。
【0019】
腐食抑制剤は、金属‐チオラート錯体内の金属を含み得る。腐食抑制剤は、金属中心、及び金属-硫化物結合で金属中心と結合且つ/又はコーディネートされた1つ又は複数のチオール基(リガンド)を含み得る。チオレートは、硫黄に結合した水素が金属原子と交換されるチオールの誘導体である。チオラートは、一般式M-S--R1を有し、ここで、Mは金属であり、R1は有機基である。R1は、ジスルフィド基を含み得る。金属‐チオラート錯体は、一般式M-(S--R1)nを有し、nは、概して、2から9の整数であり、Mは、金属原子である。金属は、銅、亜鉛、ジルコニウム、アルミニウム、鉄、カドミウム、鉛、水銀、銀、プラチナ、パラジウム、金、及び/又はコバルトである。
【0020】
本開示の腐食抑制剤は、1つ又は複数のチオール部分を有するチアジアゾールを含む。1つ又は複数のチオール部分を有するチアジアゾールの非限定的例は、以下の化学式(II)及び化学式(III)
によって表される1,3,4-チアジアゾール-2,5-ジチオール及びチアジアゾールを含む。
【0021】
化学式(II)のチアジアゾールは、Vanderbilt Chemicals,LLC社(米国コネチカット州、ノーウォーク)から購入することができ、Vanlube(登録商標)829として知られている。化学式(III)のチアジアゾールは、WPC Technologies, Inc.(米国ウィスコンシン州、オーククリーク)から購入することができ、InhibiCor(商標)1000として知られている。
【0022】
少なくとも1つの態様では、ゾル‐ゲル内の(金属アルコキシド+ヒドロキシオルガノシラン+酸安定剤)の重量分率(wt%)は、約0.3wt%から約50wt%、例えば、約1wt%から約45wt%、例えば、約2wt%から約40wt%、例えば、約3wt%から約35wt%、例えば、約4wt%から約25wt%、例えば、約8wt%から約22wt%、例えば、約10wt%、約12wt%、約15wt%である。(金属アルコキシド+ヒドロキシオルガノシラン+酸安定剤)の量がより大きいと、より大きな量の腐食抑制剤がゾル‐ゲル内に存在するようにする。腐食抑制剤の重量分率(wt%)は、約0.1wt%から約50wt%、例えば、約0.2wt%から約40wt%、例えば、約0.5wt%から約35wt%、例えば、約1wt%から約30wt%、例えば、約2wt%から約25wt%、例えば、約3wt%から約20wt%、例えば、約4wt%、約5wt%、約7wt%、約10wt%、約15wt%である。
【0023】
酸安定剤:本開示のゾル‐ゲルの形成に使用される酸安定剤は、ゾル‐ゲルの金属アルコキシド及び腐食抑制剤の安定化、及びゾル‐ゲルのpH低下をもたらす。ゾル‐ゲルのpH値(及びゾル‐ゲルを形成する組成)は、酸安定剤の使用によって制御することができる。本開示の酸安定剤は、有機酸を含む。有機酸は、酢酸(氷酢酸等)又はクエン酸を含む。グリコール、エトキシエタノール、又はH2NCH2CH2OHなどの、さほど酸性ではない酸安定剤も使用することができる。
【0024】
チオ部分を有する腐食抑制剤は、(1)金属アルコキシのアルコキシ部分、及び(2)グリシジルトリメトキシシラン(glycidyl trimethoxy silane:GTMS)のアルコキシ部分及びエポキシ部分と反応する強い傾向があることが発見された。腐食抑制剤は、反応すると、ゾル‐ゲルの1つ又は複数の構成要素と共有結合的に結合し、したがって、金属基板を腐食から保護するためにゾル‐ゲルを通して拡散することはできない。
【0025】
少なくとも一態様では、酸安定剤と金属アルコキシドのモル比は、約1:1から約40:1、例えば、約3:1から約8:1、例えば、約4:1から約6:1、例えば、約4:1から約5:1である。
【0026】
理論に束縛されるものではないが、このような比率の酸安定剤は、金属アルコキシドを加水分解のために安定化させることに貢献するだけではなく、さらに腐食抑制剤のチオール部分をプロトン化し、金属アルコキシドと腐食抑制剤との反応を減少させるか、又は防止すると考えられている。従来のゾル‐ゲルの(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(GTMS)とは異なり、ヒドロキシオルガノシランは、反応対象の腐食抑制剤のためのエポキシ部分をもたないため、本開示の腐食抑制剤の反応は、ゾル‐ゲル内のヒドロキシオルガノシランの使用によって、さらに減少するか、又は防止される。したがって、本開示の腐食抑制剤は、ゾル‐ゲルを通って動き、金属基板表面上で腐食抑制を行うことができる。
【0027】
さらに、チオ部分は、ゾル‐ゲル全体のpHを上昇させる塩基であるので、腐食抑制剤の高pHにより、ゾル‐ゲル形成が防止されることが発見された(例えば、化合物(III)の腐食抑制剤のpHは6である)。しかしながら、ゾル‐ゲルがあまりにも酸性であると、金属基板を劣化させる場合がある。少なくとも1つの態様では、本開示のゾル‐ゲルのpHは、約3から約4である。約3未満のpHは、例えば、アルミニウムを劣化させる傾向があり、4を上回るpHは、ゾル‐ゲル形成を妨げる。
【0028】
腐食抑制剤のような本開示のゾル‐ゲル成分は、他のゾル‐ゲル成分を含有する混合物に添加される前に、1つ又は複数の溶剤内で溶解し得る。例えば、腐食抑制剤は、概して、水及び水性溶剤における溶解性が限られている。腐食抑制剤は、不溶性粉体、不溶性物質(例えば、凝集物、固形物、及び/又は液体)、疎水性化合物、重油、及び/又はグリースであってもよい。したがって、腐食抑制剤は、相溶性溶剤内で溶解してもよく、相溶性溶剤及び/又は溶剤の中で懸濁、乳化、且つ/又は分散してもよい。本開示のゾル‐ゲル成分を溶解、懸濁、乳化、且つ/又は分散させるのに適切な溶剤は、水性、極性有機性、及び/又は非極性有機性であってもよい。水性である且つ/又は水性成分を含むゾル‐ゲルについては、他のゾル‐ゲル成分と組み合わせる前に、腐食抑制剤を溶かすのに極性有機溶剤が有利であり得る。極性有機溶剤は、水の中での溶解性が乏しい。追加的又は代替的に、ゾル‐ゲル成分と組み合わせする前、腐食抑制剤を溶解、懸濁、乳化、且つ/又は分散してもよい。ゾル‐ゲル成分を溶解、懸濁、乳化、且つ/又は分散する溶剤の例としては、水、アルコール(例えば、エタノール又はプロパノール)、エーテル(例えば、ジメチルエーテル又はジプロピレングリコールジメチルエーテル)、グリコールエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、N‐メチル‐2‐ピロリジノン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びこれらの混合物が含まれる。ゾル‐ゲル成分を含有する混合物を硬化(例えば、加熱)すると、溶剤の一部又はすべてをゾル‐ゲル/混合物から取り除くことができる。
【0029】
ゾル‐ゲル系
図1は、基板上に配置された腐食抑制ゾル‐ゲルの側面図である。
図1で示すように、腐食抑制ゾル‐ゲル系100は、金属基板104上に配置されたゾル‐ゲル102を含む。ゾル‐ゲル102は、金属基板104の腐食保護をもたらす腐食抑制特性を有する。ゾル‐ゲル102は、金属基板104と第2の層106との間の接着を促進する。第2の層106は、密封剤又は塗料であってもよい。
【0030】
金属基板104は、任意の適切な材料であってもよく、且つ/又は、ゾル‐ゲル102が上に配置されていることにより益を得る任意の適切な構造を含み得る。金属基板104は、環境に露出される装置(例えば、航空機、船舶、宇宙船、陸上車、装備、及び/又は環境により劣化しやすい別の装置)の1つ又は複数の構成要素(構造的又は機械的構成要素)を画定し得る。金属基板104は、より大きな構造体、例えば、ビークル構成要素の一部であり得る。ビークル構成要素は、ビークルの任意の適切な構成要素、例えば、航空機、自動車なとのパネル又は継手のような構造的構成要素である。ビークル構成要素の例としては、補助電力ユニット(APU)、航空機のノーズ、燃料タンク、テイルコーン、パネル、2つ以上のパネルの間のコーティングされた重ね継手、翼から胴体のアセンブリ、構造的航空機複合材、胴体本体の継手、翼リブから外板の継手、及び/又は他の内部構成要素を含む。金属基板104は、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、鉄、鉄合金、鋼、チタン、チタン合金、銅、銅合金、又はこれらの混合物から作製され得る。金属基板104は、裸の基板であり得、金属基板104とゾル‐ゲル102との間にメッキ、化成コーティング、及び/又は腐食保護がない。追加的に又は代替的に、金属基板104は、表面酸化を含み得る。したがって、ゾル‐ゲル102は、金属基板104及び/又は金属基板104の表面上の表面酸化層に直接接合され得る。
【0031】
第2の層106は、ゾル‐ゲル102の第1の表面108に対向するゾル‐ゲル102の第2の表面110の上に配置される。少なくとも1つの態様では、ゾル‐ゲル102は、金属基板104の厚さより少ない厚さを有する。少なくとも1つの態様では、ゾル‐ゲル102は、約1μm(ミクロン)から約500nm、例えば、約5μmから約100nm、例えば、約10μmから約100nmの厚さを有する。より薄いコーティングは欠陥がより少ない(無欠陥となり得る)かもしれないが、より厚さのあるコーティングは、下層の金属基板104に、摩耗、電気、及び/又は熱に対する保護をより多く設けることができる。
【0032】
少なくとも1つの態様では、第2の層106は、ゾル‐ゲル102に結合且つ/又は接着するように構成された有機材料(例えば、有機化学品組成物)を含む。第2の層106は、塗料、保護膜、ポリマーコーティング(例えば、エポキシコーティング、及び/又はウレタンコーティング)、ポリマー材料、複合材料(例えば、充填複合材及び/又は樹脂強化複合材)、積層材料、又はこれらの混合物を含む。少なくとも1つの態様では、第2の層106は、ポリマー、樹脂、熱硬化性ポリマー、熱可塑性ポリマー、エポキシ、ラッカ、ポリウレタン、ポリエステル、又はこれらの組み合わせを含む。第2の層106は、追加的に、顔料、バインダー、界面活性剤、希釈剤、溶剤、微粒子(例えば、無機充填材)、繊維(例えば、炭素、アラミド、及び/又はガラス繊維)、又はそれらの組み合わせを含み得る。
【0033】
ゾル‐ゲルを作製する方法
本開示のゾル‐ゲルを形成する方法は、金属アルコキシド、酢酸、及び水を混合して、その後、約1分間から約1時間(例えば、約30分間)かけて撹拌することを含む。次にヒドロキシオルガノシランが混合物に添加され、約1分間から約1時間(例えば、約30分間)かけて撹拌される。腐食抑制剤が混合物に添加される。混合物は、金属基板上に堆積され得る。堆積された混合物を、周囲温度で硬化してもよく、又は、加熱して、硬化/ゾル‐ゲル形成の速度を上げることができる。
【0034】
図2は、ゾル‐ゲル102を形成する方法200のフロー図である。
図2で示すように、ゾル‐ゲル102は、1つ又は複数のゾル‐ゲル成分を混合することにより形成することができる。ゾル‐ゲル成分は、ヒドロキシオルガノシラン、金属アルコキシド、酸安定剤、及び腐食抑制剤のうちの2つ以上を含む。混合された成分を硬化208することにより、ゾル‐ゲル102が形成される。
【0035】
概して、混合202は、ゾル溶剤成分を組み合わせること(例えば、分散、乳化、懸濁、且つ/又は溶解)によって、且つ、任意選択的にゾル溶剤成分を撹拌することによって、行われる。さらに、混合202は、概して、ゾル‐ゲルを形成するように反応し得る活性ゾル溶剤を供給するのに十分な量及び/又は比率で、ゾル溶剤成分を混合することを含む。
【0036】
混合202は、ゾル‐ゲル成分を混合して、混合物(例えば、溶剤、混合物、乳剤、懸濁液、及び/又はコロイド)を形成することを含む。少なくとも1つの態様では、混合202は、すべてのゾル‐ゲル成分を共に、同時に混合することを含む。代替的に、混合202は、任意の2つの成分(例えば、金属アルコキシド及び酸安定剤)を混合して、第1の混合物を形成し、次に、残りの成分と第1の混合物とを混合して、第2の混合物を形成することを含む。
【0037】
混合202は、他のゾル‐ゲル成分のうちの1つ又は複数と混合する前に、溶剤において腐食抑制剤を溶解、懸濁、乳化、且つ/又は分散することを含み得る。ゾル‐ゲル成分を溶解、懸濁、乳化、且つ/又は分散する溶剤の例としては、水、アルコール(例えば、エタノール又はプロパノール)、エーテル(例えば、ジメチルエーテル又はジプロピレングリコールジメチルエーテル)、グリコールエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、N‐メチル‐2‐ピロリジノン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びこれらの混合物が含まれる。追加的に又は代替的に、混合202は、腐食抑制剤を、固形物、凝集物、及び/又は粉末として、他のゾル‐ゲル成分のうちの1つ又は複数と混合することを含み得る。この場合、例えば、混合202は、固形物、粉末、及び/又は粘性液を混合することを含み、混合202は、高せん断ミキサー(例えば、ペイントシェーカー、自転‐公転ミキサー、又は撹拌器)を用いて混合することを含み得る。高せん断ミキサーは、固形物を破壊且つ/又は微細に分散させ、実質的に均一な混合物を形成するのに有益であり得る。例えば、高せん断ミキサーは、ゾル溶剤内に固形物を溶解、懸濁、乳化、分散、均質化、解凝集(deagglomerate)、且つ/又は分解することができる。
【0038】
概して、混合202は、2つ以上のゾル‐ゲル成分を混合して、混合物を形成することを含む。ゾル‐ゲル成分を希釈して、自己縮合反応(self-condensation reactions)を制御することができ、それにより、混合したゾル溶剤のポットライフを延長することができる。混合202は、混合することを含み得、混合物内の腐食抑制剤の重量分率(wt%)は、約0.1wt%から約50wt%、例えば、約0.2wt%から約40wt%、例えば、約0.5wt%から約35wt%、例えば、約1wt%から約30wt%、例えば、約2wt%から約25wt%、例えば、約3wt%から約20wt%、例えば、約4wt%、約5wt%、約7wt%、約10wt%、約15wt%である。混合202は、混合することを含み得、混合物内の(金属アルコキシド+ヒドロキシオルガノシラン+酸安定剤)は、約0.3wt%から約50wt%、例えば、約1wt%から約45wt%、例えば、約2wt%から約40wt%、例えば、約3wt%から約35wt%、例えば、約4wt%から約25wt%、例えば、約8wt%から約22wt%、例えば、約10wt%、約12wt%、約15wt%である。
【0039】
少なくとも一態様では、酸安定剤と金属アルコキシドのモル比は、約1:1から約40:1、例えば、約3:1から約8:1、例えば、約4:1から約6:1、例えば、約4:1から約5:1である。
【0040】
ゾル‐ゲル成分の混合物を、一定の時間、例えば、約1分から約60分、例えば、約5分から約30分、例えば、約10分から約20分にわたってインキュベート204することができる。さらに、ポットライフは、混合からゾル‐ゲル形成までの期間(例えば、混合物が使用するにはあまりにも粘着性となってしまうまで)である。ポットライフは、約1時間から約24時間、例えば、約2時間から約8時間、例えば、約4時間であり得る。インキュベーション204は、周囲条件(例えば、室温)及び/又は高温で実行され得る。適切なインキュベーション温度は、約10℃から約100℃、例えば、約20℃から約70℃、例えば、約30℃から約50℃、例えば、約40℃を含み得る。
【0041】
少なくとも一態様では、方法200は、金属基板104をゾル‐ゲル成分を含む混合物でコーティング206することと、混合物をインキュベート204することとを含む。インキュベーション204は、ゾル‐ゲル成分を含む混合物を混合した後、ゾル‐ゲル成分を含む混合物を30分間以上室温に置くようにすることを含む。コーティング206は、ゾル‐ゲル成分を含む混合物を金属基板104上に噴射、浸漬、ブラッシング、且つ/又はワイピングすることにより、金属基板104を、ゾル‐ゲル成分を含む混合物で湿らすことを含み得る。例えば、噴射の適切な形は、スプレーガン、高容積、低圧スプレーガン、及び/又はハンドポンプスプレーを用いて噴射することを含む。ゾル‐ゲル成分を含む混合物は、数分間(例えば、1から30分間、1から10分間、又は3から10分間)にわたって、湿った金属基板104から排出されることが可能となり、必要であれば、過剰且つ未排出の混合物は、金属基板104から拭い去れるか、且つ/又は、圧縮空気によって金属基板104から軽く吹き飛ばされ得る。
【0042】
少なくとも一態様では、コーティング206は、金属基板をゾル‐ゲル成分を含む混合物で湿らす前に、金属基板104を洗浄且つ/又は前処理することを含む。概して、泥、表面酸化物、及び/又は腐食生成物を実質的に含まない清浄な裸の金属基板の方がゾル‐ゲル102は接着且つ/又は接合しやすい。洗浄は、脱脂、アルカリ洗浄、化学エッチング、化学的脱酸素化、及び/又は機械的脱酸素化(例えば、研磨及び/又は摩擦)を含み得る。コーティング206は、通常、下塗りで金属基板104をコーティングすること、又は、金属基板104上に化学処理コーティングを形成することを含まない。その代り、ほとんどの態様では、コーティング206は、典型的に、(裸の)金属基板104を直接コーティングすることを含む。
【0043】
少なくとも1つの態様では、本開示の方法は、ゾル‐ゲル成分を含む混合物を硬化することを含む。
図2に示すように、硬化208は、金属基板104上に配置されたゾル‐ゲル成分を含む混合物を乾燥させることを含み得、室温及び/又は高温で、周囲条件の下で行われ得る。少なくとも一態様では、硬化温度は、約10℃から約150℃、例えば、約20℃から約100℃、例えば、約30℃から約70℃、例えば、約40℃から約50℃である。硬化208は、一定の時間、例えば、約1分間から約48時間、例えば、約5分間から約24時間、例えば、約10分間から約8時間、例えば、約30分間から約4時間、例えば、約1時間にわたって行われ得る。
【0044】
コーティング206及び/又は硬化208の後、ゾル‐ゲルは、外部環境への曝露及び/又は第2の層106の適用に適切である。
図2に示すように、硬化208が完全に終わる前に、有機材料の第2の層106の堆積210を行うことができる。例えば、第2の層106の堆積210は、硬化208と少なくとも部分的に同時に行われる。堆積210は、ゾル‐ゲル102を有機材料で塗布、噴射、浸漬、接触、接着、及び/又は接合して、第2の層106を形成することを含み得る。第2の層は、塗料、繊維強化プラスチック、又は他の適切な有機材料を含む。
【0045】
実施例
実験用: 材料: Inhibicor 1000 (IC‐1000)をウェインピグメントコーポレーションから入手した。3% AC-131キットを3Mから入手した。3% AC-131は、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、マグネシウム、及びチタニウム合金で使用するための非クロム化成コーティングである。本明細書で使用されるように、(TPOZ GTMS/ヒドロキシオルガノシラン)の組み合わせは、「バインダー」と呼ばれることがある。AC-131は、酢酸及びジルコニウムテトラ-n-プロポキシド(TPOZ)の水性混合溶媒であるPart Aを有し、GTMSであるPart Bを有する。2つの成分は、共に混合される(Part A + Part B)。混合物内のケイ素とジルコニウムのモル比は、2.77:1である。Part A内の酢酸とTPOZのモル比は、0.45:1である。
【0046】
シグマアルドリッチ、UCT chemicals、及び/又はアクロスオーガニクスから氷酢酸(GAA)及びグリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GTMS)。シグマアルドリッチからジルコニウムテトラ-n-プロポキシド(TPOZ;70%はn-プロパノール内)が得られた。Antarox BL-204(予混合、水中で10%wt)は、直鎖アルコールEO/PO湿潤剤であり、Solvay Chemicalsから入手した。エポキシ非クロムプライマーをHentzen Coatings, Inc.から入手した。
【0047】
「高強度」ゾル‐ゲルとして本明細書で言及されているゾル‐ゲルは、体積分率(体積%)が3を越える(TPOZ+GTMS/ヒドロキシオルガノシラン)を有するゾル‐ゲルである。さらに、「CRB」として言及される「腐食抑制ゾル‐ゲル」は、腐食抑制剤を有するゾル‐ゲルである。さらに、ゾル‐ゲルの「低pH」は、本明細書では、Part A混合物の酢酸とTPOZのモル比が0.45:1を越えることと考えられている。
【0048】
方法:ゾル‐ゲル(試料)でコーティングされたパネルの腐食は、電気化学方法を用いてモニタリングすることができる。分極走査が、現在の応答を記録しながら、特定の電位範囲を通して電位を変化させて実行される。パネル上のコーティングが衰え始める際の陽極分極走査の間、電位の継続的変化により、記録された電流が急激に変化する。電流の急激な変化をもたらす、コーティングが衰える電位は、ブレークポイント電位(breakpoint potential)と呼ばれる。より多孔性のコーティングは、(多孔性のより低いコーティングより)迅速に衰えるので、より迅速にブレークポイント電位に達するようになる。より多孔性のコーティングは、(多孔性のより低いコーティングよりも)湿気の潜入が多いので、より迅速に衰える。多孔性のより低いコーティングは、湿気の潜入に対して耐性があり、ブレークポイント電位に達するまでより長い時間かかる。
【0049】
Tafel分析、分極抵抗、及び電気化学インピーダンス分光法(EIS)のデータがGamry600ポテンシオスタット(Gamry 600 potentiostat)上に収集され、同等の回路適合がGamryアナリスト(Gamry analyst)上で実行され、耐食性のメカニズムが研究された。Tafel分析及び分極抵抗を行う前に、開路電位(OCP)走査が、各パネルに対して1時間行われた。ここで電気化学分析に使用されたTafel及び分極抵抗分析では、コーティングされた金属パネルが作用電極として、Pt線が補助電極として、飽和カロメル電極(SCE)が基準電極として用いられ、そして、pH5酢酸緩衝液(又は5wt%NaCl PBS水性緩衝液)がセル内の溶剤として用いられた。
【0050】
ASTM B117中性塩水噴霧(NSS)及びASTM G85酸性塩水噴霧又はSO2塩水噴霧試験が、コーティングされたパネルの腐食促進試験に用いられた。ラマン分光及びFT-IRのデータがNicolet FT-IR 上で収集された。UV-vis吸収及び透過率(%)がCary5000上で記録された。コーティングの重量は、洗浄されたパネルの重さを量り、ゾル‐ゲルでコーティングされたパネルを一晩乾かした後にパネルの重量を再度量ることにより、計算された。ゾル‐ゲルコーティングの走査型電子顕微鏡(SEM)画像は、Oxford x-Maxエネルギー分散分光法(EDS)検出器を用いて、FEI Helios NanoLab 600上で収集された。FTIR分析については、予め作製された組成物を1×1cmのAlパネルにスピンキャストすることにより、試料が調製された。
3wt%AC-131及び高強度AC-131組成物内の膜形成成分の乾燥重量(表3)を計算するため、表2に従って容積5mLの溶剤が組成され、真空オーブン内で4から5時間かけて100℃で乾燥させられた。
【0051】
IC-1000について安全データシート(SDS)で報告された比重(SG)は、2.15であった。AC-131混合物内の抑制剤の顔料容積濃度(PVC)は、式(1)を用いて計算された。
【0052】
AC-131を用いた低pH高強度CRB組成物:
低pH組成物については、GAA:TPOZの容積比は、2:1であった。高強度組成物は、バインダー濃度>3%のことを指す。表1は、CRB組成物の「Part A」の調製に用いられた氷酢酸(GAA)及びジルコニウム‐n‐プロポキシド(TPOZ)の容積を記載する。測定された容積のGAA及びTPOZは、10分間かえて勢いよく混合され、次にAC-131キットからPart Aに添加された。
【0053】
予め混合されたPart A溶剤(表1)は、次にAC-131キットから測定された容積(表2)のPart B溶剤に添加され、湿潤剤Antarox BL‐204及び混合物が混合され、その後、30分間の誘導期が続いた。
【0054】
【0055】
【0056】
抑制剤が、予め混合された高強度AC-131溶剤に添加された。ガラス瓶内の溶剤の容積の半分以下に等しいホウケイ酸ガラスビーズ(2mm)が、混合物に添加された。次にコーティングされた混合物が最大20分間にわたってペイントシェーカーの中で混合された。ガラスビーズは、ペイントフィルターを用いて取り除かれ、コーティングは、洗浄されたAl 2024パネルに吹き付けられた。
【0057】
シグマアルドリッチのAC-131の第1級Part B成分であるGTMSは、Sure Seal(登録商標)で保護されて湿気の潜入が抑制され、GTMSと(「G」と指定)と呼ばれた。GTMSは、水の添加により加水分解することができ、それによりヒドロキシオルガノシラン(1)(「H」と指定)が形成される。
【0058】
結果及び考察
高強度ゾル‐ゲル
3MのAC-131(3%バインダー)は、GAA:TPOZのモル比が0.45:1である。高強度(HS)ゾル‐ゲル(6%、15%、及び30%バインダー)の組成は、バインダーがより多くの抑制剤を「保持」できるかを判断するために検証された。
【0059】
図3は、Al2024上のAC‐131(3%)及び高強度ゾル‐ゲル(6%、15%、及び30%)のFT‐IRスペクトル(左側)及びTafel分極走査(右側)である。
図3で示すように、ゾル‐ゲルのバインダー濃度の増大と共にAl2024の不動態化が増大する。
図3に示すTafel分極走査では、バインダー濃度の増大により、結果的にAl2024パネルの腐食電流が10μmから1nm未満に減少した。さらに、
図3のFT‐IRスペクトルで示されているように、バインダー濃度の増大により、結果的に1010cm
-1でのSi‐O‐Si振動帯から強度が増した。IC-1000の同じPVCのローディングに関して、
図4で示すように、バインダー濃度の増加により、裸のAl2024パネルの耐食性が改善されたことが示された。(
図4は、336時間のASTM B117試験の後、バインダー濃度が増大している、CRBでコーティングされたAl2024パネルの画像である。)
【0060】
低pH高強度ゾル‐ゲル
バインダー濃度の増大は、pH、コーティングの重量、及びゾル‐ゲルコーティングの密度に影響を及ぼした(表3)。3体積%のAC-131及び高強度AC-131組成物内の膜形成成分の乾燥重量(表3)を計算するため、表2に従って容積5mLの溶剤が組成され、真空オーブン内で4から5時間かけて100°Cで乾燥させられた。
【0061】
【0062】
ゾル‐ゲル形成工程は、水中でのTPOZの加水分解によって開始する。TPOZは、水の中で迅速に加水分解し、不溶性の白ゴウコウZr(OH)2が形成される。GAAの添加により、Zr‐酢酸錯体(Zr-acetic acid complex)がゆっくりと形成されることになり、Zr(OH)2の形成が遅くなり、水性系が可能となる。TPOZの酸接触加水分解は、ゾル‐ゲル形成の間の縮合に対して、加水分解反応を好む。
【0063】
4モルのGAAが、1モルのTPOZを安定化させる。ゾル‐ゲル溶剤のpart Aを調製する際、混合物の混濁度(cloudiness)(Zr(OH)
2の形成に関連する混濁度)が、Zr‐酢酸錯体形成の程度の指標であった。溶剤の混濁度を測定するため、500nmでの吸収度が記録され、コントロール(水)と比較された。
図5は、氷酢酸及びテトラプロポキシジルコニウム(tetrapropoxy zirconium)のゾル‐ゲル溶液の透過率(%)を示すグラフである。
図5で示すように、24時間後、モル過剰量のGAAを有するすべての混合物がなくなった。
図6は、2:1のモル比の氷酢酸及びテトラプロポキシジルコニウムのゾル‐ゲル溶液の、500nmでの吸収度の変化(黒丸)を示すグラフである。
図6では、高強度ゾル‐ゲルのpart Aを調製する際に、水の中でTPOZをGAAと混合した後、2~3日のうちは溶剤が最小限の吸収でほとんどクリアであったことが示されている。混合物のpH(白丸)も時間の関数として記録された。
【0064】
しかしながら、
図7で示すように、より高いバインダー濃度及びより多量のIC-1000ローディングでは、500時間にわたるASTM G85試験の後、フィールドにおいて水ぶくれが観察された。(
図7は、500時間の酸性塩水噴霧試験の後、IC‐1000及びエポキシ非クロムプライマーが全くない状態で、CRB又はコントロール高強度ゾル‐ゲルがコーティングされたAl2024パネルの画像である。)
図8は、濃縮されたゾル‐ゲルのpHに対する腐食抑制剤の添加の効果を示すグラフである。
図8で示すように、IC‐1000の添加が、コーティングのpHに影響を与え、それが、塩噴霧チャンバ内でのコーティングの性能に影響を与えた。IC‐1000は、ワークアップ中にpHが最大6.3まで中和され、
図8に示されるように、IC‐1000の添加は、高強度ゾル‐ゲルのpHに影響を与えた。この効果に対抗するために、より低いpH組成のCRBが酸性塩水噴霧チャンバの中で試験された。
図9は、500時間の酸性塩水噴霧試験の後、低pHのCRB又はコントロールAC‐131(IC‐1000が全くない状態)及びエポキシ非クロムプライマーがコーティングされたAl2024パネルの画像である。
図9で示すように、(
図7に比べて)コーティングの耐食性に改善が見られたが、フィールドにおいて小さな水ぶくれが依然として見られた。
【0065】
ヒドロキシオルガノシラン対GTMS
pHの関数としてのゾル‐ゲルの形成の運動の違いを理解しようと試みて、ゾル‐ゲルのラマンスペクトルが検証された。
図10は、GTMS及びヒドロキシオルガノシラン(1)のラマンスペクトルである。
図10に示すように、ヒドロキシオルガノシラン(1)のラマンスペクトルは、(GTMSのラマンスペクトルとは異なり)最大2900cm
-1での広範な‐OCH
3伸張ピーク、(さらにGTMSのラマンスペクトルとは異なり)1254CM
-1でのエポキシピーク、及びSiO
3伸張からの最大637cm
-1での尖ったピークがないことを示す。
【0066】
図11は、グリシドキシトリメトキシシラン対ヒドロキシオルガノシランの様々な組成の密度及び固形分%、特に、ヒドロキシオルガノシラン(1)対GTMSの様々な組成の密度及び固形分%を示すグラフである。各セットでは、AC-131及び高強度ゾル‐ゲルと共にヒドロキシオルガノシラン(1)の組成は、GTMSとの同じ組成に比べて、より高い密度(棒グラフ)を有した。密度とは異なり、各組成からの固形分%(線グラフ)ははっきりとした傾向はなかった。
【0067】
図12は、ヒドロキシオルガノシラン対グリシドキシトリメトキシシラン(glycidoxy trimethoxysilane)を使用して組成されたゾル‐ゲルのTafelプロットである。ゾル‐ゲルでコーティングされたAlパネルの陽極掃引(anodic sweep)(
図12)の間、電流は、安定して増大し、最大0Vで臨界電流又はIcritとして規定された最大値に達した。この時点で、コーティングの欠陥が生じるまで電流の増大は最小限に抑えられる。電位を陽極掃引する間、腐食の始まりは電流の増大により示される。
図10から見ると、ヒドロキシオルガノシラン(1)を用いたゾル‐ゲル形成が1.25Vで衰え始めたのに比べて、GTMSを用いたゾル‐ゲル形成は0.75Vで衰え始めた。さらに、ヒドロキシオルガノシラン(1)に比べて、GTMSでは、ゾル‐ゲル形成の腐食電位及びIcritにおいて微妙な陽極シフトがあった。
【0068】
図13は、ヒドロキシオルガノシラン(1)(ゾル‐ゲル(H))及びGTMS(ゾル‐ゲル(G))で組成されたゾル‐ゲルのSEM画像である。GTMSで組成されたゾル‐ゲルのSEM画像は、外観が軟質の多孔質構造を示したが、それに比べて、ヒドロキシオルガノシラン(1)で組成されたゾル‐ゲルは、多孔性が低く、剛性が高かった。
【0069】
ヒドロキシオルガノシランのゾル‐ゲルとGTMSのゾル‐ゲルの多孔性は、式(2)を用いて計算された。
式中、Pは総コーティング多孔率であり、Rpsは基板の分極抵抗であり、Rpはコーティングされたパネルの分極抵抗であり、△Ecorrは基板とコーティングされたパネルとの自由腐食電位(free corrosion potential )間の電位の差であり、βaは基板の陽極ターフェル勾配(anodic Tafel slope)である。分極抵抗は、分極抵抗曲線からが計算され、腐食電位及び陽極ターフェル勾配は、コーティングのTafelプロットから計算された。ヒドロキシオルガノシランのゾル‐ゲルの多孔性が18%と算出されたのに比べて、GTMSゾル‐ゲルの多孔性は26%と算出された。
【0070】
図14は、500時間の酸性塩水噴霧試験の後、ヒドロキシオルガノシラン(1)(H)及びGTMS(G)及びエポキシ非クロムプライマーを使用して組成された低pHの高強度CRB又はコントロールゾル‐ゲル(IC‐1000が全くない状態)がコーティングされたAl2024パネルの画像である。
図14に示すように、ヒドロキシオルガノシラン(1)を有するCRB組成は、GTMSを有する組成に比べて、水ぶくれの減少を示した。
【0071】
さらに、コントロールゾル‐ゲルと比較して、CRBの厚さも研究された。
図15は、CRB又はコントロールゾル‐ゲル及びエポキシ非クロムプライマーでコーティングされたAl2024パネルの中間部分の断面のSEM画像である。
図15に示すように、AC-131の厚さは最大0,3μmであり、6PVCのIC‐1000のCRB組成を有する低pH6%ゾル‐ゲルは、最大0,6μmであり、6PVCのIC‐1000のCRB組成を有する低pH15%ゾル‐ゲルは、最大3μmであった。
【0072】
本開示の様々な態様の説明は、例示を目的として提示されているものであり、網羅的な説明であること、又は開示された態様に限定されることを意図していない。当業者には、記載の態様の範囲及び精神から逸脱することなく、多数の修正例及び変更例が明らかになろう。本明細書で使用された用語は、態様の原理、市場で見られる技術に対する実用的適用又は技術的改善を最もよく説明するため、或いは、他の当業者が本明細書で開示された態様を理解することを可能にするために選択されている。
【0073】
定義
用語「アルキル」は、1から約20の炭素原子を含有する、置換されるか又は置換されない、直鎖又は分岐の非環状アルキル基を含む。少なくとも一態様では、アルキルは、C1-10アルキル、C1-7アルキル、又はC1-5アルキルである。アルキルの例には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、及びこれらの構造異性体が含まれる。
【0074】
用語「シクロアルキル」は、1から約20の炭素原子を含有する、置換されるか又は置換されない、環状アルキル基を含む。
【0075】
用語「アリール」は、各環に最大6個の炭素原子の任意の単環式、二環式、又は三環式炭素環を指し、少なくとも1つの環は、芳香族であるか、又は、5から14個の炭素原子の芳香族環系であり、この芳香族環系は、5‐又は6‐員のシクロアルキル基と融着した炭素環式芳香族基を含む。アリール基の例には、限定しないが、フェニル、ナフチル、アントラセニル、又はピレニルが含まれる。
【0076】
用語「アルコキシ」は、RO--であり、Rは、本明細書で定義されたアルキルである。アルキルオキシ、アルコキシル、及びアルコキシという用語は、交換可能に使用されてもよい。アルコキシの例には、限定しないが、メトキシル、エトキシル、プロポキシル、ブトキシル、ペントキシル、ヘキシルオキシル(hexyloxyl)、ヘプチルオキシル(heptyloxyl)、オクチルオキシル(octyloxyl)、ノニルオキシル(nonyloxyl)、デシルオキシル(decyloxyl)、及びこれらの構造異性体が含まれる。
【0077】
用語「ヘテロシクリル(heterocyclyl)」は、各環に最大10個の原子を有する任意の単環式、二環式、又は三環式環を指し、少なくとも1つの環は、芳香族であり、N、O、及びSから選択された、環内の1から4のヘテロ原子を含む。ヘテロシクリルの非限定的な例には、ピリジル、チェニル、フラニル、ピリミジル、イミダゾリル、ピラニル、ピラゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、イソチアゾリル(isothiazolyl)、オキサゾリル、イソオキサゾイル(isoxazoyl)、ピロリル、ピリダジニル、ピラジニル、キノリニル、イソキノリニル、ベンゾフラニル、ジベンゾフラニル(dibenzofuranyl)、ジベンゾチオフェニル(dibenzothiophenyl)、ベンゾチエニル、インドリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾオキサゾリル(benzooxazolyl)、ベンゾイミダゾリル、イソインドリル(isoindolyl)、ベンゾトリアゾリル、プリニル(purinyl)、チアナフテニル(thianaphthenyl)、及びピラジニルが含まれる。ヘテロシクリルの付着は、芳香族環を介して、或いは、非芳香族環又はへトロ原子を含まない環を通して、起こり得る。
【0078】
用語「ヒドロキシ」及び「ヒドロキシル」は、それぞれ-Hのことを指す。
【0079】
本開示の化合物には、化合物の互変異性型、幾何異性型、又は立体異性型が含まれる。さらに、化合物のエステル、オキシム、オニウム、水和物、溶媒和化合物、及びN-オキシド体も本開示に含まれる。本開示はこのような化合物全てを考慮しており、それには、本開示に含まれる、シス及びトランス幾何異性体(Z‐及びE‐幾何異性体)、R‐及びS‐鏡像異性体、ジアステレオマー、d‐異性体、l‐異性体、アトロプ異性体、エピマー、配座異性体、回転異性体、異性体の混合体、これらのラセミ体が含まれる。
【0080】
さらなる態様が以下の条項に従って説明される。
【0081】
条項1 ゾル‐ゲルであって、
以下の化学式(I)
によって表されるヒドロキシオルガノシランであって、式中、Rは、C
1‐20アルキル、シクロアルキル、エーテル、又はアリールである、ヒドロキシオルガノシランと、
金属アルコキシドと、
酸安定剤であって、酸安定剤と金属アルコキシドのモル比が1:1以上であり、前記ゾル‐ゲルが、約3から約4のpHを有する、酸安定剤と、
腐食抑制剤と
の反応生成物である、ゾル‐ゲル。
【0082】
条項2
酸安定剤と金属アルコキシドのモル比が約2:1以上である、条項1に記載のゾル‐ゲル。
【0083】
条項3
Rが、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、及びイコサニルを含む群から選択されたC1‐20アルキルである、条項1又は2に記載のゾル‐ゲル。
【0084】
条項4
Rが、C1‐10アルキルである、条項1から3のいずれか一項に記載のゾル‐ゲル。
【0085】
条項5
Rが、ポリエチレングリコールエーテル、ポリプロピレングリコールエーテル、C1‐20アルキルエーテル、アリールエーテル、及びシクロアルキルエーテルを含む群から選択されたエーテルである、条項1から4のいずれか一項に記載のゾル‐ゲル。
【0086】
条項6
Rが、
を含む群から選択され、nは正の整数である、条項5に記載のゾル‐ゲル。
【0087】
条項7
前記ヒドロキシオルガノシランが、
である、条項6に記載のゾル‐ゲル。
【0088】
条項8
前記金属アルコキシドが、ジルコニウム(IV)テトラメトキシド、ジルコニウム(IV)テトラエトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐プロポキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐イソプロポキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐ブトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐イソブトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐ペントキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐イソペントキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐ヘキソキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐イソヘキソキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐ヘプトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐イソヘプトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐オクトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐イソオクトキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐非オキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐イソ非オキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐デシルオキシド、ジルコニウム(IV)テトラ‐n‐イソデシルオキシド、及びこれらの混合物を含む群から選択される、条項1から7のいずれか一項に記載のゾル‐ゲル。
【0089】
条項9
前記腐食抑制剤が、化学式R1‐‐Sn‐‐X‐‐R2によって表され、式中、R1は有機基であり、nは正の整数であり、Xは硫黄又は金属原子であり、R2は有機基である、条項1から8のいずれか一項に記載のゾル‐ゲル。
【0090】
条項10
前記腐食抑制剤が、1つ又は複数のチオール部分を有するチアジアゾールである、条項1から9のいずれか一項に記載のゾル‐ゲル。
【0091】
条項11
前記腐食抑制剤が、以下の化学式(II)又は化学式(III)、
によって表される、条項1から10のいずれか一項に記載のゾル‐ゲル。
【0092】
条項12
前記酸安定剤が酢酸である、条項1から11のいずれか一項に記載のゾル‐ゲル。
【0093】
条項13
酸安定剤と金属アルコキシドのモル比が、約4:1から約6:1である、条項12に記載のゾル‐ゲル。
【0094】
条項14
前記ゾル‐ゲル内の金属アルコキシド、ヒドロキシオルガノシラン、及び酸安定剤の総量の重量分率が少なくとも4wt%である、条項1から13のいずれか一項に記載のゾル‐ゲル。
【0095】
条項15
前記重量分率が、少なくとも15wt%である、条項14に記載のゾル‐ゲル。
【0096】
条項16
前記ゾル‐ゲル内の腐食抑制剤の重量分率が少なくとも1wt%である、条項1から15のいずれか一項に記載のゾル‐ゲル。
【0097】
条項17
前記重量分率が、少なくとも10wt%である、条項16に記載のゾル‐ゲル。
【0098】
条項18
ビークル構成要素であって、
ゾル‐ゲルコーティング系であって、
金属基板、及び
前記金属基板上に配置された条項1に記載のゾル‐ゲルを含むゾル‐ゲルコーティング系
を含むビークル構成要素。
【0099】
条項19
前記ゾル‐ゲル上に配置された第2の層をさらに含む、条項18に記載のビークル構成要素。
【0100】
条項20
前記ビークル構成要素が、補助電力ユニット、航空機のノーズ、燃料タンク、テイルコーン、パネル、2つ以上のパネルの間のコーティングされた重ね継手、翼から胴体のアセンブリ、構造的航空機複合材、胴体本体の継手、翼リブから外板の継手、及び内部構成要素を含む群から選択される、条項18又は19に記載のビークル構成要素。
【0101】
条項21
前記金属基板が、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、鉄、鉄合金、鋼、チタニウム、チタニウム合金、銅、銅合金、及びそれらの混合物を含む群から選択される、条項18から20のいずれか一項に記載のビークル構成要素。
【0102】
条項22
前記第2の層が、エポキシコーティング又はウレタンコーティングである、条項18から21のいずれか一項に記載のビークル構成要素。
【0103】
条項23
ゾル‐ゲルを形成する方法であって、
金属アルコキシド及び酸安定剤を混合して、第1の混合物を形成することと、
前記第1の混合物にヒドロキシオルガノシランを混合して、第2の混合物を形成することであって、前記ヒドロキシオルガノシランが、以下の化学式(I)、
によって表され、式中、Rは、C
1‐20アルキル、シクロアルキル、エーテル、又はアリールである、第2の混合物を形成することと
を含む方法。
【0104】
条項24
Rが、C1‐10アルキルである、条項23に記載の方法。
【0105】
条項25
酸安定剤と金属アルコキシドのモル比が、2:1以上であり、前記ゾル‐ゲルが、約3から約4のpHを有する、条項23又は24に記載の方法。
【0106】
条項26
腐食抑制剤を前記第1の混合物又は前記第2の混合物と混合して、第3の混合物を形成することをさらに含む、条項23から25のいずれか一項に記載の方法。
【0107】
条項27
前記第1の混合物、前記第2の混合物、又は前記第3の混合物を金属基板上に堆積することをさらに含む、条項26に記載の方法。
【0108】
条項28
前記第3の混合物を硬化することをさらに含む、条項27に記載の方法。
【0109】
条項29
堆積前に、金属表面を脱脂、アルカリ洗浄、化学エッチング、化学的脱酸素化、及び/又は機械的脱酸素化することにより、前記金属基板を洗浄することをさらに含む、条項27又は28に記載の方法。
【0110】
条項30
第2の層を前記ゾル‐ゲル上に堆積することをさらに含む、条項27から29のいずれか一項に記載の方法。
【0111】
条項31
前記金属アルコキシド及び前記酸安定剤を混合することは、順次、前記金属アルコキシドを金属基板上に堆積し、前記酸安定剤を前記金属基板上に堆積することによって行われる、条項23から30のいずれか一項に記載の方法。
【0112】
好適な態様を説明してきたが、当業者であれば、本発明の概念を逸脱せずに作成し得る代替例、変形例、及び修正例を容易に認識するであろう。したがって、本記載に基づいて、当業者に知られている均等物の全範囲に支持されて、特許請求の範囲を自由に解釈するべきである。実施例は、本発明を説明するものであって、本発明を限定することを意図していない。したがって、本発明を特許請求の範囲で規定し、関連する先行技術を考慮して、必要に応じてのみ特許請求の範囲を限定するべきである。