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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】光学ガラス、プリフォーム及び光学素子
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/19 20060101AFI20240329BHJP
   C03C 3/21 20060101ALI20240329BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C03C3/19
C03C3/21
G02B1/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022136711
(22)【出願日】2022-08-30
(62)【分割の表示】P 2018071701の分割
【原出願日】2018-04-03
(65)【公開番号】P2022171696
(43)【公開日】2022-11-11
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 菜那
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-144064(JP,A)
【文献】特開2018-002520(JP,A)
【文献】特開2014-159343(JP,A)
【文献】特開2010-083701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
G02B 1/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
25成分 20.0~40.0%、
Nb25成分 25.0~53.0%、
TiO2成分 10.08~15.0%
を含有し、
WO3成分が0~3.0%未満であり、
Rn2O成分(式中、RnはNa、K、Liからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)が10.128%以上40.0%以下であり、
質量比(B23+Li2O)/(Na2O+K2O)が0.296以上0.55以下であり、
質量比BaO/(Na2O+K2O)が0~3.0未満であり、
1.65以上1.95以下の屈折率(n d )を有し、15以上22.63以下のアッベ数(ν d )を有し、
部分分散比(θg,F)がアッベ数(νd)との間で、
(-0.008×νd+0.800)≦(θg,F)≦(-0.008×νd+0.845)の関係を満たし、
相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+3.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)の範囲内にある光学ガラス。
【請求項2】
質量和(Nb25+TiO2+WO3)が60.0%以下であることを特徴とする請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
100~300℃における平均線熱膨張係数αが80(10-7-1)以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項6】
請求項に記載の光学素子を備える光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、プリフォーム及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車載カメラ等の車載用光学機器に組み込まれる光学素子や、プロジェクタ、コピー機、レーザプリンタ及び放送用機材等のような多くの熱を発生する光学機器に組み込まれる光学素子では、より高温の環境での使用が増えている。このような高温の環境では、光学系を構成する光学素子の使用時の温度が大きく変動し易く、その温度が100℃以上に達する場合も多い。このとき、温度変動による光学系の結像特性等への悪影響が無視出来ないほど大きくなるため、温度変動によっても結像特性等に影響が生じ難い光学系を構成することが求められている。
【0003】
温度変動による結像特性等への影響が生じ難い光学系を構成するにあたっては、温度が上昇したときに屈折率が低くなり、相対屈折率の温度係数がマイナスとなるガラスから構成される光学素子と、温度が上昇したときに屈折率が高くなり、相対屈折率の温度係数がプラスとなるガラスから構成される光学素子を併用することが、温度変化による結像特性等への影響を補正できる点で好ましい。
【0004】
また、デジタルカメラやビデオカメラ等の光学系は、その大小はあるが、収差と呼ばれるにじみを含んでいる。この収差は単色収差と色収差に分類されるが、特に色収差は、光学系に使用されるレンズの材料特性に強く依存している。
【0005】
一般に色収差は、低分散の凸レンズと高分散の凹レンズとを組み合わせて補正されるが、この組み合わせでは赤色領域と緑色領域の収差の補正しかできず、青色領域の収差が残る。この除去しきれない青色領域の収差を二次スペクトルと呼ぶ。二次スペクトルを補正するには、青色領域のg線(435.835nm)の動向を加味した光学設計を行う必要がある。このとき、光学設計で着目される光学特性の指標として、部分分散比(θg,F)が用いられている。上述の低分散のレンズと高分散のレンズとを組み合わせた光学系では、低分散側のレンズに部分分散比(θg,F)の大きい光学材料を用い、高分散側のレンズに部分分散比(θg,F)の小さい光学材料を用いることで、二次スペクトルが良好に補正される。
【0006】
部分分散比(θg,F)は、下式(1)により示される。
θg,F=(n-n)/(n-n)・・・・・・(1)
【0007】
光学ガラスには、短波長域の部分分散性を表す部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν)との間に、およそ直線的な関係がある。この関係を表す直線は、部分分散比(θg,F)を縦軸に、アッベ数(ν)を横軸に採用した直交座標上で、NSL7とPBM2の部分分散比及びアッベ数をプロットした2点を結ぶ直線で表され、ノーマルラインと呼ばれている(図1参照)。ノーマルラインの基準となるノーマルガラスは光学ガラスメーカー毎によっても異なるが、各社ともほぼ同等の傾きと切片で定義している(NSL7とPBM2は株式会社オハラ社製の光学ガラスであり、PBM2のアッベ数(ν)は36.3、部分分散比(θg,F)は0.5828、NSL7のアッベ数(ν)は60.5、部分分散比(θg,F)は0.5436である。)。
【0008】
近年、光学設計におけるニーズにより、屈折率が1.65~1.95であり、かつ15以上35以下のアッベ数(ν)を有するガラスにおいては、部分分散比(θg,F)のバリエーションを増加することで、光学設計の自由度を高めることが望まれている。
【0009】
ここで、相対屈折率の温度係数や部分分散比に着目して開発されたガラスとしては、例えば特許文献1に代表されるようなガラス組成物が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-106611号公報
【文献】特開2011-144066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載されたガラスは、相対屈折率の温度係数を小さくすることを目的とするものである。しかし、特許文献1に記載されたガラスは、平均線熱膨張係数が小さい。
【0012】
特許文献2に記載されたガラスは、高屈折率をもたらす成分(TiO成分、WO成分など)を多く含んだガラスであり、部分分散比を大きくすることを目的とするものである。また、特許文献2に記載されたガラスは、Nb成分の含有量が多く、また、アルカリ金属(RnO成分)の合計量が少ないため、相対屈折率の温度係数の絶対値が高い。
【0013】
従って、屈折率が1.65~1.95であり、かつ15以上35以下のアッベ数(ν)を有するガラスにおいて、部分分散比が(-0.008×ν+0.800)≦(θg,F)≦(-0.008×ν+0.845)の関係を満たすことで、部分分散比(θg,F)のバリエーションが増加し、光学設計の自由度を高めることができる。
【0014】
同時に、光学設計を行う際、低屈折率低分散硝材と高屈折率高分散硝材を接合することがあり、接合時に組み合わせる硝材の平均線熱膨張係数の差が小さくなると接合が良好となる。特に、フッ素を含有する低屈折率低分散硝材は平均線熱膨張係数が大きいことが知られているが、高屈折率高分散硝材で平均線熱膨張係数が大きい硝材はほぼ存在しておらず、平均線熱膨張係数が大きい硝材が求められている。
従って、温度変化による結像特性への影響の補正に寄与できる観点から、相対屈折率の温度係数がマイナスとなるガラスや、相対屈折率の温度係数の絶対値の小さなガラスもまた望まれている。
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、高屈折率高分散の領域において、相対屈折率の温度係数が小さい値をとり、温度変化による結像特性への影響の補正に寄与できる光学ガラスと、かつ低屈折率低分散硝材との接合に適した平均線熱膨張係数をもち、部分分散比に特徴をもつ光学ガラスを用いたプリフォーム及び光学素子を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、質量%で、P成分及びNb成分を所定量含有し、質量比(B+LiO)/(NaO+KO)を0~0.55以下、質量比BaO/(NaO+KO)を0~3.0未満とすることで、相対屈折率の温度係数が低く、部分分散比が(-0.008×ν+0.800)≦(θg,F)≦(-0.008×ν+0.845)の関係を満たす光学ガラスが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0017】
(1) 質量%で、
成分 20.0~40.0%、
Nb成分 25.0~53.0%、
質量比(B+LiO)/(NaO+KO)が0~0.55以下、
質量比BaO/(NaO+KO)が0~3.0未満であり、
部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で、
(-0.008×ν+0.800)≦(θg,F)≦(-0.008×ν+0.845)の関係を満たし、
相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+3.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)の範囲内にある光学ガラス。
【0018】
(2) 質量和(Nb+TiO+WO)が30.0~60.0%であることを特徴とする(1)記載の光学ガラス。
【0019】
(3) 100~300℃における平均線熱膨張係数αが80(10-7-1)以上であることを特徴とする(1)又は(2)記載の光学ガラス。
【0020】
(4) 1.65以上1.95以下の屈折率(n)を有し、15以上35以下のアッベ数(ν)を有する(1)から(3)記載の光学ガラス。
【0021】
(5) (1)から(4)のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム。
【0022】
(6) (1)から(4)のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【0023】
(7) (6)に記載の光学素子を備える光学機器。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、所定の部分分散比を有し、かつ相対屈折率の温度係数が小さい光学ガラスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】部分分散比(θg,F)が縦軸でアッベ数(νd)が横軸の直交座標に表されるノーマルラインを示す図である。
図2】本願の実施例についての部分分散比(θg,F)とアッベ数(νd)の関係を示す図である。
図3】本願の実施例についての屈折率(n)とアッベ数(ν)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の光学ガラスは、質量%で、P成分を20.0~40.0%、Nb成分を25.0~53.0%、質量比(B+LiO)/(NaO+KO)が0~0.55以下、質量比BaO/(NaO+KO)が0~3.0未満であり、部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で、(-0.008×ν+0.800)≦(θg,F)≦(-0.008×ν+0.845)の関係を満たし、相対屈折率(589.29nm)の温度係数(40~60℃)が+3.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)の範囲内にある。
特に、質量比(B+LiO)/(NaO+KO)を0~0.55以下、質量比BaO/(NaO+KO)を0~3.0未満とすることで、部分分散比(θg,F)を所定の範囲に保ったまま、相対屈折率の温度係数を低減させることができる。
【0027】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所について、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0028】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有量は、特に断りがない場合、全て酸化物換算組成の全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」は、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が熔融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量数を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0029】
<必須成分、任意成分について>
成分はガラス形成酸化物として必須の成分である。特に、P成分を20.0%以上含有することで、熔融ガラスの粘性を良好にし、ガラスの安定性を高められる。また、リヒートプレス時の失透性を良好とする。従って、P成分の含有量は、好ましくは20.0%以上、より好ましくは21.0%超、さらに好ましくは22.0%超とする。
他方で、P成分の含有量を40.0%以下にすることで、所望の屈折率及び分散を維持することが出来る。従って、P成分の含有量は、好ましくは40.0%以下、より好ましくは38.0%以下、さらに好ましくは35.0%未満とする。
成分は、原料としてAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、BPO、HPO4、NaHPO、KHPO4、LiPO等を用いることができる。
【0030】
Nb成分は高屈折率高分散成分として必須の成分である。特に、Nb成分を25.0%以上含有することで、高屈折率、高分散を維持しながらガラスの安定性を高めかつ部分分散比を小さくすることができる。従って、Nb成分の含有量は、好ましくは25.0%以上、より好ましくは28.0%超、さらに好ましくは30.0%超とする。
他方で、Nb成分の含有量を53.0%以下にすることで、平均線熱膨張係数が大きく、所望の屈折率及び分散を維持することができる。従って、Nb成分の含有量は、好ましくは53.0%以下、より好ましくは50.0%以下、さらに好ましくは47.0%以下とする。
Nb成分は、原料としてNb等を用いることができる。
【0031】
NaO成分は、0%超含有する場合に、ガラス原料の熔融性を高められ、透過率を良好とし、相対屈折率の温度係数を小さく、かつ部分分散比を大きくできる任意成分である。従って、NaO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%超、さらに好ましくは1.5%超、さらに好ましくは3.0%超、さらに好ましくは4.5%超とする。
他方で、NaO成分の含有量を25.0%以下にすることで、過剰な含有によるガラスの屈折率の低下や、化学的耐久性(耐水性)の低下、失透を低減でき、リヒートプレス時の失透を抑制できる。従って、NaO成分の含有量は、好ましくは25.0%以下、より好ましくは22.0%未満、さらに好ましくは19.0%未満とする。
NaO成分は、原料としてNaCO、NaNO、NaF、NaSiF6、NaHPO、等を用いることができる。
【0032】
O成分は、0%超含有する場合に、平均線熱膨張係数が大きく、透過率を良好とし、相対屈折率の温度係数を小さく、かつ部分分散比を大きくできる任意成分である。従って、KO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1.0%超、さらに好ましくは2.0%超としてもよい。
他方で、KO成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの安定性を維持し、かつ屈折率の低下を抑えられる。従って、KO成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、さらに好ましくは14.0%未満、さらに好ましくは13.0%未満とする。
O成分は、KCO、KNO、KF、KHF、KSiF6、KHPO4、等を用いることができる。
【0033】
BaO成分は、0%超含有する場合に、ガラス原料の熔融性を高められ、ガラスの失透を低減でき、屈折率を高められ、相対屈折率の温度係数を小さく、かつ部分分散比を大きくできる任意成分である。従って、BaO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%超、さらに好ましくは1.0%超とする。
他方で、BaO成分の含有量を20.0%以下にすることで、平均線熱膨張係数が大きく、過剰な含有によるガラスの屈折率の低下や、失透を低減できる。従って、BaO成分の含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは19.0%未満、さらに好ましくは18.0%未満とする。
BaO成分は、原料としてBaCO、Ba(NO、Ba(PO、BaF2、等を用いることができる。
【0034】
TiO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、アッベ数を低くでき、かつ部分分散比を大きくできる成分である。従って、TiO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%超、さらに好ましくは3.0%超としてもよい。
他方で、TiO成分の含有量を15.0%以下にすることで、平均線熱膨張係数が大きく、相対屈折率の温度係数を小さくでき、TiO成分の過剰な含有による失透を低減できる。従って、TiO成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは13.5%未満、さらに好ましくは12.0%未満としてもよい。
TiO成分は、原料としてTiO等を用いることができる。
【0035】
SiO成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスの粘度を良好にすることができるガラス形成酸化物成分である。従って、SiO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%超、さらに好ましくは0.3%超とする。
他方で、SiO成分の含有量を5.0%以下にすることで、リヒートプレス時の失透性の悪化を抑制し、かつ屈折率の低下を抑えられる。従って、SiO成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%未満とする。
SiO成分は、原料としてSiO、KSiF、NaSiF等を用いることができる。
【0036】
WO成分は、0%超含有する場合に、高屈折率をもたらす他の成分によるガラスの着色を低減しながら、屈折率を高め、アッベ数を低くでき、ガラス転移点を低くでき、かつ失透を低減できる任意成分である。
他方で、WO成分の含有量を10.0%以下にすることで、相対屈折率の温度係数を小さくでき、リヒートプレス時の失透を抑えられる。従って、WO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.5%未満としてもよい。
WO成分は、原料としてWO等を用いることができる。
【0037】
ZnO成分は、0%超含有する場合に、原料の熔解性を高め、熔解したガラスからの脱泡を促進し、また、ガラスの安定性を高められる任意成分である。また、ガラス転移点を低くでき、かつ化学的耐久性を改善できる成分でもある。
他方で、ZnO成分の含有量を7.0%未満にすることで、相対屈折率の温度係数を小さくでき、リヒートプレス時の失透性の悪化を低減できる。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは7.0%未満、より好ましくは6.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは4.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満としてもよい。特に、後述するRnO成分を多く含有する場合には、リヒートプレス時の失透性の悪化を抑制するため、ZnO成分は含有しなくてもよい。
ZnO成分は、原料としてZnO、ZnF等を用いることができる。
【0038】
ZrO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められ、かつ部分分散比を小さく出来る任意成分である。
他方で、ZrO成分の含有量を5.0%以下にすることで、相対屈折率の温度係数を小さくでき、ZrO成分の過剰な含有による失透を低減できる。従って、ZrO成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%未満、さらに好ましくは0.5%未満としてもよい。また、ZrO成分は含有しなくてもよい。
ZrO成分は、原料としてZrO、ZrF等を用いることができる。
【0039】
MgO成分、CaO成分及びSrO成分は、それぞれ0%超含有する場合に、ガラスの屈折率や熔融性、耐失透性を調整できる任意成分である。
他方で、MgO成分、CaO成分及びSrO成分の含有量をそれぞれ7.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えることができ、かつこれらの成分の過剰な含有による失透を低減できる。従って、MgO成分、CaO成分及びSrO成分の含有量は、それぞれ好ましくは7.0%以下、より好ましくは6.0%以下、さらに好ましくは5.0%未満とする。
【0040】
LiO成分は、ガラスの熔融性を改善でき、ガラス転移点を低くでき、かつ部分分散比を小さくする任意成分である。
他方で、LiO成分の含有量を低減させることで、ガラスの屈折率を低下し難くし、かつガラスの失透及びリヒートプレス時の失透を低減できる。従って、LiO成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.0%未満、さらに好ましくは3.5%以下としてもよい。
LiO成分は、原料としてLiCO及び、LiNO、LiF、LiPO等を用いることができる。
【0041】
Sb成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスを脱泡できる任意成分である。
他方で、Sb成分の含有量を1.0%以下にすることで、可視光領域の短波長領域における透過率の低下や、ガラスのソラリゼーション、内部品質の低下を抑えられる。従って、Sb成分の含有量は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%未満、より好ましくは0.2%未満、より好ましくは0.1%未満、さらに好ましくは0.05%としてもよい。
Sb成分は、原料としてSb、Sb、NaSb・5HO等を用いることができる。
【0042】
成分は、0%超含有する場合に、ガラスの熔融性を高めることができるガラス形成酸化物として任意に用いられる成分である。
他方で、B成分の含有量を5.0%以下にすることで、B成分の揮発によりガラスが不安定になるのを抑制でき、かつ化学的耐久性の悪化を抑えられ、リヒートプレス時の失透性の悪化を低減できる。従って、B成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.5%未満、より好ましくは0.5%未満、さらに好ましくは0.3%未満とする。
また、B成分を含有しない場合は、B成分の揮発が生じないため、ガラスの安定化及びリヒートプレス時の失透性の悪化を抑制することがより顕著に現れる。よって、B成分は含有しなくてもよい。
【0043】
Al成分及びGa成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスの耐失透性を向上できる任意成分である。
他方で、Al成分又はGa成分の含有量をそれぞれ5.0%以下にすることで、ガラスの液相温度を下げて耐失透性を高められる。従って、Al成分及びGa成分の含有量は、それぞれ好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満としてもよい。
Al成分は、原料としてAl、Al(OH)、AlF等を用いることができ、Ga成分は原料としてGa等を用いることができる。
【0044】
RnO成分(式中、RnはNa、K、Liからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)は、5.0%以上が好ましい。これにより、相対屈折率の温度係数が小さく、かつ部分分散比の大きいガラスを得易くできる。従って、RnO成分の含有量の和(質量和)は、好ましくは5.0%以上、より好ましくは6.5%超、より好ましくは7.0%超、より好ましくは9.0%超とする。
他方で、この合計含有量を40.0%以下にすることで、化学的耐久性の悪化及び過剰な含有によるガラスの屈折率の低下を抑えられる。従って、RnO成分の含有量の和(質量和)は、好ましくは40.0%以下、より好ましくは38.0%未満、より好ましくは36.0%未満、さらに好ましくは33.0%を未満とする。
【0045】
NaO成分とKO成分の合計含有量に対するBO成分とLiO成分の比率は、0超とする場合に、部分分散比が小さいまま、リヒートプレス時の耐失透性の良好なガラスを取得できる。従って、質量比(B+LiO)/(NaO+KO)は、好ましくは0超、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.10以上とする。
一方で、質量比(B+LiO)/(NaO+KO)は、相対屈折率の温度係数が小さく、安定したガラスを取得することができるため、0.55以下が好ましい。従って、質量比(B+LiO)/(NaO+KO)は好ましくは0.55以下、より好ましくは0.48未満、さらに好ましくは0.45未満とする。
【0046】
NaO成分とKO成分の合計含有量に対するBaO成分の比率は、0超とする場合に、所望の分散を維持しながら、透過率の良好なガラスを得ることができる。従って、質量比BaO/(NaO+KO)は、好ましくは0超、より好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.05以上とする。
一方で、質量比BaO/(NaO+KO)は、平均線熱膨張係数を過度に大きくしすぎず、相対屈折率の温度係数を小さくすることができるため、3.00未満が好ましい。従って、質量比BaO/(NaO+KO)は、好ましくは3.00未満、より好ましくは2.80未満、さらに好ましくは2.50未満とする。
【0047】
NaO成分とKO成分とLiO成分とBaO成分の合計含有量に対するZnO成分の比率は、0超とする場合に、ガラスの熔融性を高められ、安定したガラスを取得でき、かつアッベ数の調整ができる。従って、質量比(ZnO/NaO+KO+LiO+BaO)は好ましくは0超、より好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.05以上とする。
一方で、質量比(ZnO/NaO+KO+LiO+BaO)は相対屈折率の温度係数を小さくし、かつリヒートプレス時の失透性の悪化を低減するため、0.30未満が好ましい。従って、質量比(ZnO/NaO+KO+LiO+BaO)は好ましくは0.30未満、より好ましくは0.25未満、さらに好ましくは0.15未満とする。
特に、相対屈折率の温度係数を維持しながら安定したガラスを取得するには0とするのが望ましい。
【0048】
MgO成分とSrO成分とBaO成分とCaO成分とZnO成分の合計含有量に対するCaO成分の比率は0超とする場合に、相対屈折率の温度係数を小さくしたまま、部分分散比の小さいガラスを取得できる。従って、質量比(CaO/MgO+SrO+BaO+CaO+ZnO)は好ましくは0超、より好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.05以上とする。
一方で、質量比(CaO/MgO+SrO+BaO+CaO+ZnO)は0.60以下であることが好ましい。これにより所望の屈折率、分散を有しかつ部分分散比が小さくなる。従って、質量比(CaO/MgO+SrO+BaO+CaO+ZnO)は好ましくは0.60以下、より好ましくは0.55以下、さらに好ましくは0.50以下とする。
【0049】
LiO成分とNaO成分に対するBaO成分の比率は0超とする場合に、相対屈折率の温度係数を小さいまま、部分分散比の大きいガラスを得ることができる。従って、質量比(BaO/LiO+NaO)は好ましくは0超、より好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.05以上とする。
一方で、質量比(BaO/LiO+NaO)は2.00以下が好ましい。これにより、ガラスが安定し、リヒートプレス時の失透性を抑制することが出来る。従って、質量比(BaO/LiO+NaO)は好ましくは2.00以下、より好ましくは1.90以下、さらに好ましくは1.80以下とする。
【0050】
NaO成分とKO成分とLiO成分とBaO成分の合計含有量は、6.0%以上が好ましい。これにより、ガラスの熔融性を高められ、相対屈折率の温度係数を小さくし、平均線熱膨張係数を大きくすることができる。従って、質量和(NaO+KO+LiO+BaO)は、好ましくは6.0%以上、より好ましくは8.0%以上、さらに好ましくは10.0%以上、さらに好ましくは20.0%超とする。
一方で、質量和(NaO+KO+LiO+BaO)は、40.0%以下とすることで、過剰な部分分散比の上昇を抑制でき、かつリヒートプレス時の失透性の悪化を低減することができる。従って、質量和(NaO+KO+LiO+BaO)は、好ましくは40.0%以下、より好ましくは38.0%以下、さらに好ましくは35.0%以下とする。
【0051】
Nb成分とTiO成分とWO成分の合計含有量は、30.0%以上が好ましい。これにより、高屈折率を維持しながらも、相対屈折率の温度係数を小さくすることができる。従って、質量和(Nb+TiO+WO)は、好ましくは30.0%以上、より好ましくは33.0%以上、さらに好ましくは35.0%以上とする。
一方で、質量和(Nb+TiO+WO)は、60.0%以下とすることで、液相温度を下げ、安定したガラスを得ることができる。従って、質量和(Nb+TiO+WO)は、好ましくは60.0%以下、より好ましくは55.0%以下、さらに好ましくは49.5%以下とする。
【0052】
Nb成分とTiO成分の合計含有量に対するWO成分とBi成分の合計含有量の質量比は、0超とする場合に、平均線熱膨張係数を維持しながらも、相対屈折率の温度係数を小さくすることができる。
一方で、質量比(WO+Bi)/(Nb+TiO)は0.030以下とすることで透過率の悪化を抑えられ、リヒートプレス時の失透の悪化を抑えることが出来る。従って、質量比(WO+Bi)/(Nb+TiO)は好ましくは0.030以下、より好ましくは0.028以下、さらに好ましくは0.025以下とする。
【0053】
成分とB成分の合計含有量に対するB成分の質量比は、0.10以下とすることで、ガラスが安定し、所望の屈折率および分散を取得することができる。特に、質量比(B/P+B)を0とすることで、B成分の起因によるガラス熔解中の揮発によるガラスの安定性悪化を防ぎ、かつリヒートプレス失透性の悪化を抑制できる。
【0054】
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)は、含有量の和(質量和)が0%を超える場合に、平均線熱膨張係数を大きくし、相対屈折率の温度係数を小さくすることができる成分である。従って、RO成分の和は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%以上、より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは1.3%以上とする。
他方で、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)は、20.0%以下とすることで、部分分散比の上昇を抑えられ、且つ過剰な含有による失透を低減できる。従って、好ましくは20.0%以下、より好ましくは19.0%以下、さらに好ましくは18.0%以下とする。
【0055】
La成分、Gd成分、Y成分及びYb成分は、少なくともいずれかを0%超含有することで、屈折率を高め、かつ部分分散比を小さくできる任意成分である。
特に、La成分、Gd成分、Y成分及びYb成分のそれぞれの含有量を10.0%以下にすることで、アッベ数の上昇を抑えられ、失透を低減でき、且つ着色を低減できる。従って、La成分、Gd成分、Y成分及びYb成分のそれぞれの含有量は、好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは9.0%以下、さらに好ましくは8.0%未満とする。
La成分、Gd成分、Y成分及びYb成分は、原料としてLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)、Y、YF、Gd、GdF、Yb等を用いることができる。
【0056】
GeO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められ、かつ耐失透性を向上できる任意成分である。
しかしながら、GeOは原料価格が高く、その含有量が多いと生産コストが高くなる。従って、GeO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、より好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満としてもよい。
GeO成分は、原料としてGeO等を用いることができる。
【0057】
Bi成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高められ、アッベ数を低くでき、かつガラス転移点を下げられる任意成分である。
他方で、Bi成分の含有量を5.0%以下にすることで、ガラスの液相温度を下げて耐失透性を高められる。従って、Bi成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満としてもよい。特に、良好な透過率のガラスを取得するという観点では含有しないことが好ましい。
Bi成分は、原料としてBi等を用いることができる。
【0058】
TeO成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高められ、かつガラス転移点を下げられる任意成分である。
他方で、TeOは白金製の坩堝や、熔融ガラスと接する部分が白金で形成されている熔融槽でガラス原料を熔融する際、白金と合金化しうる問題がある。従って、TeO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、より好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満としてもよい。
TeO成分は、原料としてTeO等を用いることができる。
【0059】
SnO成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスの酸化を低減して清澄し、かつガラスの可視光透過率を高められる任意成分である。
他方で、SnO成分の含有量を3.0%以下にすることで、熔融ガラスの還元によるガラスの着色や、ガラスの失透を低減できる。また、SnO成分と熔解設備(特にPt等の貴金属)の合金化が低減されるため、熔解設備の長寿命化を図ることができる。従って、SnO成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%未満、さらに好ましくは0.5%未満、さらに好ましくは0.1%未満としてもよい。
SnO成分は、原料としてSnO、SnO、SnF、SnF等を用いることができる。
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb成分やSnO成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0060】
F成分は、0%超含有する場合に、ガラスのアッベ数を高め、ガラス転移点を低くし、かつ耐失透性を向上できる任意成分である。
しかし、F成分の含有量、すなわち上述した各金属元素の1種又は2種以上の酸化物の一部又は全部と置換した弗化物のFとしての合計量が10.0%を超えると、F成分の揮発量が多くなるため、安定した光学恒数が得られ難くなり、均質なガラスが得られ難くなる。また、アッベ数が必要以上に上昇する。
従って、F成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、より好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満としてもよい。
F成分は、原料として例えばZrF、AlF、NaF、CaF等を用いることで、ガラス内に含有することができる。
【0061】
本発明の光学ガラスは、上述のRnO成分のうち2種以上の成分を含有することが好ましい。これにより、相対屈折率の温度係数を小さくする。特に、RnO成分として、NaO成分とKO成分を含む2種以上の成分を含有することが、平均線熱膨張係数が大きく、透過率を良好とし、相対屈折率の温度係数を小さくできる点で好ましい。
【0062】
Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)は、5.0%以下が好ましい。
これにより、耐失透性に優れ、かつ透過率の良好なガラスを取得出来る。従って、Ln成分の含有量の和(質量和)は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.5%以下、さらに好ましくは2.0%未満とする。
【0063】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0064】
他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0065】
また、PbO等の鉛化合物及びAs等の砒素化合物は、環境負荷が高い成分であるため、実質的に含有しないこと、すなわち、不可避な混入を除いて一切含有しないことが望ましい。
【0066】
さらに、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeの各成分は、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0067】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記各成分の原料として、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を、各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝に投入し、ガラス原料の熔解難易度に応じて電気炉で1000~1300℃の温度範囲で1~10時間熔解させて攪拌均質化した後、適当な温度に下げてから金型に鋳込み、徐冷することにより作製される。
【0068】
<物性>
本発明の光学ガラスは、高屈折率及び低アッベ数(高分散)を有することが好ましい。
特に、本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.65以上、より好ましくは1.67以上、より好ましくは1.69以上、さらに好ましくは1.70以上とする。この屈折率(n)は、好ましくは1.95以下、より好ましくは1.90以下、さらに好ましくは1.88以下としてもよい。
また、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは15.0以上、より好ましくは18.0以上、さらに好ましくは20.0以上とする。このアッベ数(ν)は、好ましくは35.0以下、より好ましくは34.0以下、さらに好ましくは32.0以下とする。
このような高屈折率を有することで、光学素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。また、このような高分散を有することで、単レンズとして用いたときに光の波長によって焦点を適切にずらすことができる。そのため、例えば低分散(高いアッベ数)を有する光学素子と組み合わせて光学系を構成した場合に、その光学系の全体として収差を低減させて高い結像特性等を図ることができる。
このように、本発明の光学ガラスは、光学設計上有用であり、特に光学系を構成したときに、高い結像特性等を図りながらも、光学系の小型化を図ることができ、光学設計の自由度を広げることができる。
【0069】
ここで、本発明の光学ガラスは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が、(-0.01×ν+1.97)≦n≦(-0.01×ν+2.12)の関係を満たすことが好ましい。本発明で特定される組成のガラスでは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)がこの関係を満たすものであっても、安定的なガラスを得られる。従って、本発明の光学ガラスでは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が、n≧(-0.01×ν+1.97)の関係を満たすことが好ましく、n≧(-0.01×ν+1.98)の関係を満たすことがより好ましく、n≧(-0.01×ν+1.99)の関係を満たすことがさらに好ましい。
他方で、本発明の光学ガラスでは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が、nd≦(-0.01×ν+2.12)の関係を満たすことが好ましく、n≦(-0.01×ν+2.11)の関係を満たすことがより好ましく、n≦(-0.01×ν+2.10)の関係を満たすことがさらに好ましい。
【0070】
本発明の光学ガラスは、相対屈折率の温度係数(dn/dT)が低い値をとる。
より具体的には、本発明の光学ガラスの相対屈折率の温度係数は、好ましくは+3.0×10-6-1、より好ましくは+1.5×10-6-1、さらに好ましくは+1.0×10-6-1を上限値とし、この上限値又はそれよりも低い(マイナス側)の値をとりうる。
他方で、本発明の光学ガラスの相対屈折率の温度係数は、好ましくは-10.0×10-6-1、より好ましくは-9.0×10-6-1、さらに好ましくは-8.0×10-6-1を下限値とし、この下限値又はそれよりも高い(プラス側)の値をとりうる。
このうち、1.65以上の屈折率(n)を有し、かつ15以上35以下のアッベ数(ν)を有するガラスとして、相対屈折率の温度係数の低いガラスは多く存在しておらず、温度変化による結像のずれ等の補正の選択肢を広げられ、その補正をより容易にできる。従って、このような範囲の相対屈折率の温度係数にすることで、温度変化による結像のずれ等の補正に寄与することができる。
本発明の光学ガラスの相対屈折率の温度係数は、光学ガラスと同一温度の空気中における屈折率(589.29nm)の温度係数のことであり、40℃から60℃に温度を変化させた際の、1℃当たりの変化量(℃-1)で表される。
【0071】
本発明の光学ガラスは、所定の部分分散比(θg,F)の関係を満たすことが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、アッベ数(ν)との間で、(-0.008×ν+0.800)≦(θg,F)≦(-0.008×ν+0.845)の関係を満たすことが好ましい。
従って、本発明の光学ガラスでは、部分分散比(θg,F)及びアッベ数(ν)が、θg,F≧(-0.008×ν+0.800)の関係を満たすことが好ましく、θg,F≧(-0.008×ν+0.805)の関係を満たすことがより好ましく、θg,F≧(-0.008×ν+0.810)の関係を満たすことがさらに好ましい。
他方で、本発明の光学ガラスでは、部分分散比(θg,F)及びアッベ数(ν)が、θg,F≦(-0.008×ν+0.845)の関係を満たすことが好ましく、θg,F≦(-0.008×ν+0.840)の関係を満たすことがより好ましく、θg,F≦(-0.008×ν+0.835)の関係を満たすことがさらに好ましい。
これにより、15以上35以下のアッベ数(ν)を有するガラスにおいて部分分散比が(-0.008×ν+0.800)≦(θg,F)≦(-0.008×ν+0.845)を有する光学ガラスが得られるため、光学設計の幅が広がり、光学系の色収差の低減に役立てられる。
【0072】
本発明の光学ガラスは、100~300℃における平均線熱膨張係数αが80(10-7-1)以上であることが好ましい。すなわち、本発明の光学ガラスの100~300℃における平均線熱膨張係数αは、好ましくは80(10-7-1)以上、より好ましくは90(10-7-1)以上、より好ましくは100(10-7-1)以上とする。
一般的に、平均線熱膨張係数αが大きいとガラスを加工する際に割れが生じやすくなるため、平均線熱膨張係数αの値は小さいほうが望ましい。
一方で、相対屈折率の温度係数が低く、かつ平均線熱膨張係数αの値が大きい硝材と組み合わせて接合する観点においては、当該硝材と平均線熱膨張係数αの値が同一又は近似であることが望ましい。
このうち、1.65以上の屈折率(n)を有し、かつ15以上35以下のアッベ数(ν)を有するガラスでは、平均線熱膨張係数αが大きい硝材が少なく、低屈折率低分散硝材と組み合わせて使用する場合に、本発明のように平均線熱膨張係数αが大きい値を有する方が有用である。
【0073】
本発明の光学ガラスは、可視光透過率、特に可視光のうち短波長側の光の透過率が高く、それにより着色が少ないことが好ましい。
特に、本発明の光学ガラスにおける、厚み10mmのサンプルで分光透過率5%を示す最も短い波長(λ)は、好ましくは400nm以下、より好ましくは390nm以下、さらに好ましくは380nm以下とする。
これらにより、ガラスの吸収端が紫外領域の近傍になり、可視光に対するガラスの透明性が高められるため、この光学ガラスを、レンズ等の光を透過させる光学素子に好ましく用いることができる。
【0074】
[プリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えば研磨加工の手段、又は、リヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスに対して研削及び研磨等の機械加工を行ってガラス成形体を作製したり、光学ガラスからモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、研磨加工を行って作製したプリフォームや、公知の浮上成形等により成形されたプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。 なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0075】
このように、本発明の光学ガラスは、様々な光学素子及び光学設計に有用である。その中でも特に、本発明の光学ガラスからプリフォームを形成し、このプリフォームを用いてリヒートプレス成形や精密プレス成形等を行い、レンズやプリズム等の光学素子を作製することが好ましい。これにより、径の大きなプリフォームの形成が可能になるため、光学素子の大型化を図りながらも、光学機器に用いたときに高精細で高精度な結像特性及び投影特性を実現できる。
【0076】
本発明の光学ガラスからなるガラス成形体は、例えばレンズ、プリズム、ミラー等の光学素子の用途に用いることができ、典型的には車載用光学機器やプロジェクタやコピー機等の、高温になり易い機器に用いることができる。
【実施例
【0077】
本発明の実施例(No.1~No.24)及び比較例(No.A)の組成、並びに、これらのガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)、部分分散比(θg,F)、相対屈折率の温度係数(dn/dT)、平均線熱膨張係数α(100~300℃)、透過率(λ)の結果を表1~表4に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0078】
本発明の実施例及び比較例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、表に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス原料の熔解難易度に応じて電気炉で800~1300℃の温度範囲で1~10時間熔解させた後、攪拌均質化してから金型等に鋳込み、徐冷して作製した。
【0079】
実施例及び比較例のガラスの屈折率(n)及びアッベ数(ν)は、ヘリウムランプのd線(587.56nm)に対する測定値で示した。また、アッベ数(ν)は、上記d線の屈折率と、水素ランプのF線(486.13nm)に対する屈折率(n)、C線(656.27nm)に対する屈折率(n)の値を用いて、アッベ数(ν)=[(n-1)/(n-n)]の式から算出した。
また、部分分散比は、C線(波長656.27nm)における屈折率n、F線(波長486.13nm)における屈折率n、g線(波長435.835nm)における屈折率nを測定し、(θg,F)=(n-n)/(n-n)の式により算出した。
【0080】
実施例及び比較例のガラスの相対屈折率の温度係数(dn/dT)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS18-2008「光学ガラスの屈折率の温度係数の測定方法」に記載された方法のうち干渉法により、波長589.29nmの光についての、40~60℃における相対屈折率の温度係数の値を測定した。
【0081】
また、実施例及び比較例のガラスの平均線熱膨張係数α(100~300℃)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS08-2003「光学ガラスの熱膨張の測定方法」に従い、温度と試料の伸びとの関係を測定することで得られる熱膨張曲線より求めた。
【0082】
実施例及び比較例のガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02-2003に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200~800nmの分光透過率を測定し、λ(透過率5%時の波長)を求めた。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
【表4】
【0087】
本発明の実施例の光学ガラスは、P成分及びNb成分を含有し、特に、質量比(B+LiO)/(NaO+KO)が0~0.55を含有し、質量比BaO/(NaO+KO)が0~3.0未満とすることで、部分分散比(θg,F)を所定の範囲に保ったまま、相対屈折率の温度係数を低減させることができる。
【0088】
表に表されるように、実施例の光学ガラスは、いずれも相対屈折率の温度係数が+1.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)の範囲内、より詳細には+3.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)の範囲内にあり、所望の範囲内であった。
一方で、比較例Aのガラスは相対屈折率の温度係数が+3.0×10-6~-10.0×10-6(℃-1)の範囲を満たさなかった。
【0089】
また、実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.65以上であり、所望の範囲内であった。また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が15以上35以下の範囲内にあり、所望の範囲内であった。
【0090】
また、実施例の光学ガラスは、いずれも平均線熱膨張係数(100-300℃)が80(10-7-1)以上であった。
【0091】
また、実施例の光学ガラスは、透過率(λ)が400nm以下であった。
【0092】
また、実施例の光学ガラスは、安定なガラスを形成しており、ガラス作製時において失透が起こり難いものであった。
【0093】
従って、実施例の光学ガラスは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にあり、相対屈折率の温度係数が小さい値をとり、部分分散比が(-0.008×ν+0.800)≦(θg,F)≦(-0.008×ν+0.845)の関係を満たす光学ガラスの関係を満たす光学ガラスであった。このことから、本発明の実施例の光学ガラスは、高温の環境で用いられる車載用光学機器やプロジェクタ等の光学系の小型化に寄与し、温度変化による結像特性のずれ等の補正に寄与することが推察される。
【0094】
さらに、本発明の実施例の光学ガラスを用いて、ガラスブロックを形成し、このガラスブロックに対して研削及び研磨を行い、レンズ及びプリズムの形状に加工した。その結果、安定的に様々なレンズ及びプリズムの形状に加工することができた。
【0095】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。
図1
図2
図3